説明

光記録媒体およびその製造方法

【課題】有機色素を含む記録層を有する光記録媒体において、優れた記録再生特性を実現することができる光記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】光記録媒体は、有機色素を含む記録層と、記録層に情報信号を記録するための光を透過する光透過層とを備え、記録層と光透過層との間に、高分子材料を含む緩衝層を備える。高分子材料が、ポリブタジエン、ポリイソプレン、およびそれらの共重合体の少なくとも1種である。緩衝層は記録層に隣接して設けられ、緩衝層の硬度が光透過層の硬度に比べて低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体およびその製造方法に関する。詳しくは、有機色素を含む記録層を有する光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CD−R(Compact Disc Recordable)やDVD−R(Digital Versatile Disc Recordable)などの追記型光記録媒体は広く知られている。その記録層としては、無機材料からなる無機記録層、有機材料からなる有機記録層が用いられている。
【0003】
現在、追記型光記録媒体の記録層としては、無機記録層に比して有機記録層が広く採用されている。これは以下の理由による。すなわち、記録層として無機記録層を用いた場合、反射率の自由度が狭くなるためROM(Read only Memory)との互換性が得られないという不都合が生じる。また、記録特性や耐久性を考慮すると、多層膜とせざるを得ず、その製造装置、例えばスパッタ装置への設備投資などが必要となり、光記録媒体のコスト上昇を招くことになる。これに対して、記録層として有機記録層を用いた場合、記録層をスピンコート法により簡単に作製でき、膜構成も有機記録層と反射層とを積層する程度のものであるから、その製造方法は簡単で、製造装置の設備費用も低廉であり、光記録媒体のコストを低減することができる。
【0004】
ところで、近年、大容量の情報を記録できる高密度記録の光記録媒体が望まれている。このような高密度化を実現するための光学的な要素として、光源の波長の短波長化と、対物レンズの開口数(NA:Numerical Aperture)の高開口化(高NA化)とが挙げられる。例えば、次世代光ディスクの規格として商品化されているブルーレイディスク(BD:Blu-ray Disc(登録商標))においては、短波長405nm程度の青紫レーザ光と、NA0.85の対物レンズとにより、25GB程度の大容量が実現されている。
【0005】
そこで、有機記録層を用いた追記型光記録媒体においては、このような短波長の光源に適した有機色素の開発が必要となっている(例えば特許文献1参照)。短波長光に対する光学的な特性を満たす有機色素は色素分子のサイズが小さくなるため、分子設計の自由度が小さくなるものの、スピンコートが可能で、かつ短波長のブルー光源で良好な記録を行うことができるため、現在実用化されつつある。
【0006】
【特許文献1】特開平6−295469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機記録層を備える光記録媒体では、無機材料からなる保護層または紫外線硬化樹脂からなる光透過層を有機記録膜に隣接して設けている。有機記録層の記録モードとしては、短波長405nmの青紫レーザ光などの熱エネルギーによって、屈折率および消光係数を変化させる位相差記録モードと、有機記録層を熱的な蒸発などにより破壊し、反射率変を変化させる破壊記録モードとがある。しかし、有機記録層を備える光記録媒体では、保護層または光透過層の存在によって、上記変化が抑制され、記録特性が低下する問題がある。
【0008】
また、近年、生産性の観点から、高分子シートを基板に貼り合わせるのではなく、スピンコート法により紫外線硬化樹脂を基板上に塗布、硬化して光透過層を形成することが期待されているが、このようにして光透過層を形成すると、上記記録再生特性の低下が特に著しくなり、実用レベル以下に低下することがある。これは、紫外線硬化樹脂を硬化して作製した光透過層は、接着層により高分子シートを基板に貼り合わせて作製した光透過層に比べて硬度が高く、有機記録層の変形モードが抑制されるからである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、有機色素を含む記録層を有する光記録媒体において、優れた記録再生特性を実現することができる光記録媒体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明の第1の発明は、
有機色素を含む記録層と、
記録層に情報信号を記録するための光を透過する光透過層と
を備える光記録媒体であって、
記録層と光透過層との間に、高分子材料を含む緩衝層を備えることを特徴とする光記録媒体である。
【0011】
本発明の第2の発明は、
有機色素を含む記録層を形成する工程と、
記録層に情報信号を記録するための光を透過する光透過層を形成する工程と
を備える光記録媒体の製造方法であって、
記録層の形成工程と光透過層の工程との間に、高分子材料を含む緩衝層を形成する工程を備えることを特徴とする光記録媒体の製造方法である。
【0012】
本発明では、記録層と光透過層との間に、高分子材料を含む緩衝層を備えているので、情報信号の記録時において光透過層による記録層の変形抑制を緩和することができる。したがって、記録層が従来の光記録媒体に比して変形し易くなる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、情報信号の記録時において光透過層による記録層の変形抑制を緩和するので、優れた記録再生特性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
(1)第1の実施形態
(1−1)光記録媒体の構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。この光記録媒体10は、いわゆる追記型光記録媒体であり、基板1上に、反射層2、記録層3、緩衝層4、光透過層5が順次積層された構成を有する。
【0016】
この第1の実施形態に係る光記録媒体10では、光透過層5の側からレーザ光を記録層3に照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。例えば350nm〜500nm、好ましくは400nm〜410nmの範囲の波長を有するレーザ光を、例えば0.84〜0.86の範囲の開口数を有する対物レンズにより集光し、光透過層5の側から記録層3に照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。このような光記録媒体10としては、例えばBD−R(Blu-ray Disc Recordable)が挙げられる。
【0017】
以下、この第1の実施形態に係る光記録媒体10を構成する基板1、反射層2、記録層3、緩衝層4、光透過層5について順次説明する。
【0018】
(基板)
基板1は、中央に開口(以下センターホールと称する)が形成された円環形状を有する。この基板1の一主面は、凹凸面11となっており、この凹凸面11上に記録層3などが成膜される。以下では、凹凸面11のうち凹部をイングルーブGin、凸部をオングルーブGonと称する。
【0019】
このイングルーブGinおよびオングルーブGonの形状としては、例えば、スパイラル状、同心円状などの各種形状が挙げられる。また、イングルーブGinおよび/またはオングルーブGonが、例えばアドレス情報を付加するためにウォブル(蛇行)されている。
【0020】
基板1の径(直径)は、例えば120mmに選ばれる。基板1の厚さは、剛性を考慮して選ばれ、好ましくは0.3mm〜1.3mm、より好ましくは0.6mm〜1.3mm、例えば1.1mmに選ばれる。また、センタホールの径(直径)は、例えば15mmに選ばれる。
【0021】
基板1の材料としては、例えばプラスチック材料、ガラス、紙を用いることができ、コストの観点から、プラスチック材料を用いることが好ましい。プラスチック材料としては、例えばポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂などを用いることができる。
【0022】
(反射層)
反射層2を構成する材料としては、例えば、Al、Ag、Au、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらを主成分とする合金を用いることができる。これらのうち、特にAl系、Ag系、Au系、Si系、Ge系の材料が実用性の面から好ましい。合金としては、例えばAl−Ti、Al−Cr、Al−Cu、Al−Mg−Si、Ag−Pd−Cu、Ag−Pd−Ti、Si−Bなどが好適に用いられる。これらの材料のうちから、光学特性および熱特性を考慮して選択することが好ましい。例えば、短波長領域においても高反射率を有する点を考慮すると、Al系またはAg系材料を用いることが好ましい。また、反射層2の膜厚は、例えば20nm〜100nmの範囲内に選ばれる。
【0023】
(記録層)
記録層3は、有機色素を主成分として含んでおり、この有機色素としては、例えば、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、スチリル系色素、スクアリリウム系色素、アゾ系色素の少なくとも1種を用いることができる。記録層3の膜厚は、例えば20nm〜100nmの範囲内に選ばれる。
【0024】
(緩衝層)
緩衝層4は、記録層3に隣接して設けられ、記録層3の光学的および機械的保護、すなわち耐久性を向上するとともに、記録再生特性の向上、すなわち記録時における記録層3の変形(ふくらみ)や基板1の変形の抑制を緩和する。この緩衝層4は、高分子材料を主成分として含んでいる。この高分子材料としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエン−ポリイソプレン共重合体、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)の少なくとも1種を用いることができる。これらの材料のうち、ポリブタジエン、ポリブタジエン−ポリイソプレン共重合体の少なくとも1種を用いることが好ましい。ポリメチルメタアクリレートを溶解可能であるテトラヒドロフラン(THF)は、記録層3の有機色素は溶解しないものの、ポリカーボネートなどからなる基板1の外周部を溶解・損傷させる傾向があるからである。緩衝層4の膜厚は、例えば100nm〜20μmに選ばれる。また、緩衝層4は、粘着剤により構成してもよいが、耐環境性の観点から、乾燥、硬化した固体状の高分子を用いることが好ましい。緩衝層4を粘着剤により構成すると、粘着剤は濡れた状態にあるため、高温、高湿などの環境下において記録再生特性が劣化するのに対して、乾燥、硬化した固体状の高分子材料により構成すると、高温、高湿などの環境下において記録再生特性の劣化が抑えられるからである。
【0025】
緩衝層4の硬度は、光透過層5の硬度に比べて低くなっている。ここで、硬度は、ロックウェル硬度(JIS K 7202)である。なお、光透過層5の硬度が厚さ方向に変化する場合、緩衝層4の硬度は、光透過層5のうち緩衝層側の面における硬度に比べて低くなっている。例えば、光透過層5が、後述するようにシートと接着層とからなる場合、緩衝層4の硬度は、接着層の硬度より低くなっている。
【0026】
(光透過層)
光透過層5は、例えば、紫外線硬化樹脂などの感光性樹脂を硬化してなる樹脂層からなる。紫外線硬化樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂を用いることができる。光透過層5の厚さは、好ましくは10μm〜177μmの範囲内から選ばれ、例えば100μmに選ばれる。このような薄い光透過層5と、高NA化された対物レンズとを組み合わせることによって、高密度記録を実現することができる。
【0027】
また、光透過層5は、例えば、円環形状を有する光透過性シートと、この光透過性シートを基板1に対して貼り合わせるための接着層とから構成してもよい。接着層は、例えば紫外線硬化樹脂などの感光性樹脂からなる。
【0028】
(1−2)光記録媒体の製造方法
次に、本発明の第1の実施形態に係る光記録媒体の製造方法の一例について説明する。
【0029】
(基板の成形工程)
まず、一主面に凹凸面11が設けられた基板1を成形する。基板1の成形方法としては、例えば射出成形(インジェクション)法、フォトポリマー法(2P法:Photo Polymerization)などを用いることができる。
【0030】
(反射層の成膜工程)
次に、基板1を、例えばAg、Alなどの金属材料を主成分として含むターゲットが備えられた真空チャンバ内に搬送し、真空チャンバ内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバ内にプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、基板1上に反射膜2を成膜する。
この成膜工程における成膜条件の一例を以下に示す。
真空到達度:5.0×10-5Pa
雰囲気:0.1〜0.6Pa
投入電力:1〜3kW
ガス種:Arガス
Arガス流量:10〜40sccm
【0031】
(記録層の成膜工程)
次に、有機色素を溶剤に溶かして塗料を調製する。溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジブロモエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ペンタノール、イソメチルブタノール、ペンチルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタフルオロペンタノール、アリルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラフルオロプロパノール、シクロペンタノール、メチルシクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、乳酸メチルなどのエステル系溶媒、水などが挙げられ、これらは単独で用いても良く、あるいは、複数混合しても良い。次に、例えばスピンコート法により、調製した塗料を基板1上に均一に塗布するとともに溶剤を揮発させることにより、記録層3を形成する。
【0032】
(緩衝層の形成工程)
次に、例えば、高分子材料と溶剤とを混合し、高分子溶液(ポリマー溶液)を調製する。この高分子溶液としては、記録層3の有機色素を溶解することなく塗布可能なものが好ましく、更に、基板1も溶解することなく塗布可能であるものがより好ましい。高分子材料としては、例えば、ポリブタジエン、ポリブタジエン−ポリイソプレン共重合体、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)の少なくとも1種を用いることができる。溶剤としては、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、シクロヘキサンを単独または混合して用いることができ、シクロヘキサノン、シクロヘキサンが好ましい。テトラヒドロフランは、ポリメチルメタアクリレートなどの高分子材料を溶解することが可能であるが、記録層3の有機色素は溶解しないものの、ポリカーボネートなどからなる基板1の外周部を溶解・損傷させる傾向があるからである。次に、例えばスピンコート法により記録層3上に高分子溶液を塗布するとともに、溶剤を揮発させることにより、緩衝層4を形成する。
【0033】
また、緩衝層4の形成方法は上述の例に限定されるものではなく、液状の高分子材料そのものを緩衝層4上に塗布、硬化することにより形成するようにしてもよい。具体的には、まず、比較的分子量の低い液状の高分子と、必要に応じて架橋剤、反応開始剤などとを混合し、液状の高分子材料を調製する。次に、例えばスピンコート法により記録層3上に液状の高分子材料を塗布する。次に、赤外線などの光を照射して液状の高分子を架橋、重合などさせることにより、緩衝層4を形成する。
【0034】
(光透過層の形成工程)
次に、光透過層5を緩衝層4上に形成する。光透過層5の形成方法としては、例えばレジンコート法、シート接着法などを用いることができ、生産性および低廉化の観点からすると、レジンコート法が好ましい。レジンコート法は、紫外線硬化樹脂などの感光性樹脂を緩衝層4上に塗布し、紫外線などの光を感光性樹脂に照射することにより、レジンカバーとしての光透過層5を形成する方法である。シート接着法は、光透過性シートを紫外線硬化樹脂などの接着剤を介して基板1上に貼り合わせることにより、光透過層5を形成する方法である。
以上により、目的とする光記録媒体10を得られる。
【0035】
上述したように、この第1の実施形態によれば、光透過層5と記録層3との間に緩衝層4を設けているので、情報信号の記録時において光透過層5による記録層3の変形抑制を緩和することができる。特に、比較的硬度の高い感光性樹脂により光透過層5を形成した場合に、緩衝層4による変形の緩和の効果が大きい。したがって、優れた記録再生特性を有する光記録媒体10を実現できる。
【0036】
また、従来の光記録媒体では、記録層と光透過層との間に無機保護層を設けることで、光透過層の紫外線硬化樹脂に含まれる反応開始剤と、記録層に含まれる有機色素との相互作用もしくは経時的な変化を抑制するのに対して、この第1の実施形態に係る光記録媒体10では、スピンコート法などで形成可能な緩衝層4を記録層3と光透過層5との間に設けることで、上記保護機能を与えることができる。したがって、この第1の実施形態に係る光記録媒体10では、反射層2を除くすべての層をスピンコート法で形成することも可能であるため、製造工程の簡素化および低廉化が可能となる。
【0037】
(2)第2の実施形態
(2−1)光記録媒体の構成
図2は、本発明の第2の実施形態に係る光記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。この第2の実施形態に係る光記録媒体10は、上述の第1の実施形態において、緩衝層4と光透過層5との間に保護層6をさらに備える。なお、上述の第1の実施形態と同様の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
保護層6は、例えば金属化合物などの無機材料を主成分として含んでいる。この無機材料としては、例えばSi34、ZnS−SiO2、AlN、Al23、SiO2、SiO2−Cr23−ZrO2(SCZ)などの誘電体が挙げられる。
【0039】
(2−2)光記録媒体の製造方法
この第2の実施形態に係る光記録媒体の製造方法は、上述の第1の実施形態において、緩衝層の形成工程と光透過層の形成工程との間に、保護層の形成工程をさらに備える。
以下に保護層の形成工程の一例を示す。
【0040】
記録層3が作製された基板を、例えばZnS−SiO2からなるターゲットが備えられた真空チャンバ内に搬送し、真空チャンバ内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバ内にプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、基板上に保護層6を成膜する。
この成膜工程における成膜条件の一例を以下に示す。
到達真空度:5.0×10-5Pa
雰囲気:0.1〜0.6Pa
投入電力:1〜4kW
ガス種:Arガス
Arガス流量:6sccm
【0041】
この第2の実施形態では、緩衝層4と光透過層5との間に保護層6を備えているので、記録層3および/または緩衝層4と光透過層5とに含まれる材料が反応することを抑制することができる。具体的には、光透過層5が紫外線硬化樹脂などの感光性樹脂を含む場合に、当該感光性樹脂に含まれる反応開始剤と、記録層3および/または緩衝層4に含まれる材料とが反応することを抑制することができる。特に、紫外線硬化樹脂に含まれる反応開始剤の反応性が高い場合に、緩衝層4と光透過層5との間に保護層6を備えることは有効である。
【0042】
(3)第3の実施形態
次に、本発明を貼り合わせ型の光記録媒体に対して適用した例について説明する。
【0043】
(3−1)光記録媒体の構成
図3は、本発明の第3の実施形態に係る光記録媒体の一構成例を示す断面図である。図3に示すように、この光記録媒体20は、光透過層である第1の基板21の一主面上に、緩衝層22、記録層23、反射層24が順次積層され、さらにその上に接着層25を介して第2の基板26が貼り合わされた構成を有する。
【0044】
この光記録媒体20では、第1の基板21の側から記録層23にレーザ光を照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。例えば、405nmまたは650nmの波長を有するレーザ光を、0.65または0.6の開口数を有する対物レンズにより集光し、第1の基板21の側から記録層23に照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。このような光記録媒体20としては、例えばDVD−R、HD DVD−R(Heigh Definition Digital Versatile Disc Recordable)が挙げられる。
【0045】
以下、この第3の実施形態に係る光記録媒体20を構成する第1の基板21、第2の基板26、緩衝層22、記録層23、反射層24、接着層25について順次説明する。
【0046】
第1の基板21、第2の基板26は、中央にセンターホールが形成された円環形状を有している。第1の基板21の一主面は、凹凸面21となっており、この凹凸面11上に記録層23などが成膜される。以下では、凹凸面21のうち凹部をグルーブ21G、凸部をランド21Lと称する。このランド21Lおよびグルーブ21Gの形状としては、例えば、スパイラル状、同心円状などの各種形状が挙げられる。また、ランド21Lおよび/またはグルーブ21Gが、例えばアドレス情報を付加するためにウォブル(蛇行)されている。
【0047】
第1の基板21、第2の基板26の径(直径)は、例えば120mmに選ばれる。第1の基板21、第2の基板26の厚さは、剛性を考慮して選ばれ、例えば0.6mmに選ばれる。センタホールの径(直径)は、例えば15mmに選ばれる。第1の基板21および第2の基板26の材料としては、例えばポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂などのプラスチック材料がコストなどの点で優れているが、ガラスを用いることもできる。
【0048】
緩衝層22、記録層23、反射層24の構成はそれぞれ、上述の第1の実施形態における緩衝層4、記録層3、反射層2と同様である。接着層25は、接着剤を主成分として含んでいる。この接着剤としては、例えば、紫外線硬化型樹脂などの感光性樹脂が挙げられる。
【0049】
(3−2)光記録媒体の製造方法
次に、本発明の第3の実施形態に係る光記録媒体の製造方法について説明する。
まず、一主面に凹凸面11が形成された第1の基板1を成形する。第1の基板1の成形方法としては、例えば射出成形法、フォトポリマー法などを用いることができる。
【0050】
次に、上述の第1の実施形態と同様にして、第1の基板21上に緩衝層22、記録層23、反射層24を順次形成する。次に、例えばスピンコート法により反射層24上に紫外線硬化樹脂などの感光性樹脂を均一に塗布する。その後、第1の基板21の感光性樹脂が塗布された面に、第2の基板26を載置する。そして、感光性樹脂の厚さを適宜調節して、例えば第2の基板26の側から紫外線などの光を照射する。これにより、感光性樹脂が硬化して第1の基板21と第2の基板26とが貼り合わされ、接着層25が形成される。
以上により、目的とする光記録媒体20が得られる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例として、BDの光学系に対応する追記型光記録媒体に対して、本発明を適用した場合を例として説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。BDの光学系とは、開口数0.85の2群対物レンズと、波長405nmの青紫色半導体レーザ光源とを用いたものである。なお、以下の実施例においては、上述の実施形態と対応する部分には同一の符号を付す。
【0052】
(実施例1)
まず、射出成形により、ポリカーボネート樹脂からなる基板1を成形した。この際、イングルーブGin、オングルーブGonからなる凹凸面11を基板1の一主面に形成した。このイングルーブGin、オングルーブGonのピッチ、すなわちトラックピッチは0.32μm(BD仕様)とし、イングルーブGinの深さは45nmとした。
【0053】
次に、スパッタリングにより、膜厚30nmからなるAg膜2を基板1上に成膜した。このスパッタ時のArガス流量は24sccmとし、スパッタパワーは1.0kWとした。成膜装置としては、Unaxis社製のCubeを用い、そのターゲットサイズは、直径φ200mmとした。
【0054】
次に、テトラフェニルテトラベンゾポルフィリンをテトラフルオロプロパノール(TFP)に1質量%溶解し、塗料を調製した。次に、スピンコート法により、調整した塗料を基板上1に塗布し、有機色素膜3を成膜した。この際、C/N(キャリア対ノイズ比)、変調度などの記録特性が最良となる塗膜厚、具体的にはイングルーブ部で塗布厚100μmとなるに有機色素膜3を形成した。
【0055】
次に、ポリブタジエンをシクロヘキサンに溶解した後、溶液特性を改善するためにシクロヘキサノンを混合して、高分子溶液を調製した。この際、ポリブタジエン、シクロヘキサノン、シクロヘキサンの質量比がおよそ5:20:75になるように各材料を配合した。次に、スピンコート法により、基板1を1200rpmで回転しながら、高分子溶液を基板1上に塗布するとともに、高分子溶液に含まれる溶剤を揮発させた。これにより、厚さ5μmを有する緩衝層が得られた。
【0056】
次に、スピンコート法により紫外線硬化樹脂を基板1上に塗布し、紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化した。これにより、厚さ0.1mmの光透過層5が基板1上に形成された。
以上により、目的とする追記型光記録媒体10が得られた。
【0057】
(実施例2)
ポリブタジエンとポリイソプレンとの共重合体をシクロヘキサンに溶解した後、溶液特性を改善するためにシクロヘキサノンを混合して、高分子溶液を調製した。この際、ポリブタジエンとポリイソプレンとの共重合体、シクロヘキサノン、シクロヘキサンの質量比がおよそ1:9:90になるように各材料を配合した。これ以外のことは上述の実施例1と同様にして追記型光記録媒体10を得た。
【0058】
(実施例3)
ポリメチルメタアクリレートをテトラヒドロフランに溶解した後、シクロヘキサノンで希釈し、さらに乾燥特性改善のためにシクロヘキサンを混合して、高分子溶液を調製した。この際、ポリメチルメタアクリレート、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、シクロヘキサンの質量比がおよそ10:30:30:30になるように各材料を調製した。また、ポリメチルメタアクリレートを析出させない滴下速度で混合を行った。次に、この塗料を用いて、緩衝層4を形成する以外のことは実施例1と同様にして、追記型光記録媒体10を得た。
【0059】
(比較例)
緩衝層4の形成を省略する以外のことは実施例1と同様にして追記型光記録媒体10を得た。
【0060】
(記録再生特性の評価)
上述のようにして得られた各追記型光記録媒体10に対する情報信号の記録再生を行い、8T変調度を求めた。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から、ポリブタジエン、ポリブタジエン−ポリイソプレン共重合体からなる緩衝層4を備える実施例1〜2では、緩衝層4を備えていない比較例に比べて、8T変調度を大幅に向上できることが分かる。なお、ポリメチルメタアクリレートからなる緩衝層4を備える実施例3において、8T変調度が低いのは、テトラヒドロフランが有機色素の記録感度を変化させたためと考えられる。
したがって、記録特性向上の観点から、高分子材料からなる緩衝層4を記録層3と光透過層5との間に設けることが好ましい。
【0063】
(外観評価)
上述のようにして得られた各追記型光記録媒体の外観を目視し、その外観を3段階で評価した。その結果を表2に「○」、「△」、「×」の印で示す。なお、「○」、「△」、「×」の印は、以下の評価結果を示す。
「○」:記録層および基板に溶剤による溶解がない。
「△」:記録層に溶剤による溶解はないが、基板の外周部に溶剤による溶解がある。
「×」:基板および記録層に溶剤による溶解がある。
【0064】
【表2】

【0065】
表2から、溶剤としてシクロヘキサノン、シクロヘキサンを用いた実施例1,2では、記録層3および基板1に溶解がないのに対して、溶剤としてテトラヒドロフラン、シクロヘキサン、シクロヘキサンを用いた実施例3では、記録層3に溶解はないものの、基板1の外周部に溶解があることが分かる。
したがって、記録層3および基板1の耐溶剤性の観点から、高分子材料としてポリブタジエン、ポリブタジエン−ポリイソプレン共重合体を用い、その溶剤としてシクロヘキサノン、シクロヘキサンを用いることが好ましい。
【0066】
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0067】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0068】
また、上述の実施形態および実施例では、単層の記録層を有する光記録媒体に対して本発明を適用した例について説明したが、本発明は2層以上の記録層を有する光記録媒体に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る光記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る光記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 基板
2,24 反射層
3、23 記録層
4,22 緩衝層
5 光透過層
6 無機記録層
21 第1の基板
25 接着層
26 第2の基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機色素を含む記録層と、
上記記録層に情報信号を記録するための光を透過する光透過層と
を備える光記録媒体であって、
上記記録層と上記光透過層との間に、高分子材料を含む緩衝層を備えることを特徴とする光記録媒体。
【請求項2】
上記緩衝層は、上記記録層に隣接して設けられていることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項3】
上記高分子材料が、ポリブタジエン、ポリイソプレン、およびそれらの共重合体の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項4】
上記緩衝層の硬度が、上記光透過層の硬度に比べて低いことを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項5】
上記緩衝層は、情報信号の記録時において、上記光透過層による上記記録層の変形抑制を緩和することを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項6】
上記緩衝層と上記光透過層との間に、無機材料を含む保護膜をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項7】
上記光透過層が、感光性樹脂を含んでいることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項8】
有機色素を含む記録層を形成する工程と、
上記記録層に情報信号を記録するための光を透過する光透過層を形成する工程と
を備える光記録媒体の製造方法であって、
上記記録層の形成工程と上記光透過層の工程との間に、高分子材料を含む緩衝層を形成する工程を備えることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【請求項9】
上記光透過層の形成工程では、感光性樹脂を上記緩衝層上に塗布し、該感光性樹脂に対して光を照射することにより、上記光透過層を形成することを特徴とする請求項8記載の光記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−64483(P2009−64483A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229063(P2007−229063)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】