光記録媒体
【課題】バルク記録層に空孔マークを形成する光記録媒体の記録特性向上。
【解決手段】記録層を、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)によって形成する。例えばポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエチレン等である。或いは、記録層を、樹脂に低分子化合物を添加したものであって、混合後の酸素元素比率が9.1%以上となる材料によって形成する。
【解決手段】記録層を、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)によって形成する。例えばポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエチレン等である。或いは、記録層を、樹脂に低分子化合物を添加したものであって、混合後の酸素元素比率が9.1%以上となる材料によって形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空孔マークにより情報を記録するバルク型光記録媒体に関し、特に記録層材料に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2008−176902号公報
【特許文献2】特開2009−274225号公報
【特許文献3】特開2005−37658号公報
【背景技術】
【0003】
CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc:登録商標)のような光ディスクシステムは、顕微鏡の対物レンズのように非接触でディスクの片面に形成された微少な反射率変化を読み取っている。
よく知られているようにディスク上の光スポットの大きさはおよそλ/NA(λ:照明光の波長、NA:開口数)で与えられ、分解能もこの値に比例する。
【0004】
また、ディスクの深さ方向に複数の記録層を形成する方法や、バルク型(体積型)の記録媒体中に多層状に記録を行って、1枚のディスクの容量を増大する方法が知られている。
特に、光記録媒体の大容量化の有望な方法として、バルク記録材料内に厚み方向に記録層を何十層も形成していく方法があり、上記特許文献1のように空孔をマークとして形成し、情報記録していく方法が提案されている。
バルク型の記録媒体中に記録を行う場合には、屈折率が概ね1.5であるプラスチックに高密度の光を照射し、屈折率が概ね1.0である気体で満たされた空孔をマークとして記録再生を行う。
なお上記特許文献1,2には2光子吸収により記録マークが形成される記録層材料について開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルク型の記録層に空孔(ボイド)マークを形成する記録再生方式においては、ボイドによるマーク列に対して再生レーザ光を照射し、その反射光から得られる信号から再生データを得る。
ところがボイドによるマーク列から再生される信号は、ノイズ成分を含んでいる。ノイズレベルが悪化することで、再生信号品質も悪化する。これは記録再生システムとしての信頼性を低下させることとなる。例えばエラーレートの悪化や、記録不良による容量消費の進行を招くといったことにつながる。
【0006】
そこで本発明は、空孔マークの品質を向上させ、バルク型の記録層に空孔マーク(ボイド)を形成する記録再生方式の信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光記録媒体は、レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料(熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂)によって形成されている光記録媒体である。
また上記有機材料の酸素元素比率は25%以下であるとする。
より具体的には上記有機材料は、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリオキシメチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ジアリルフタレート、ポリアミドイミド、又はポリウレタンのいずれかである。
また、これら酸素元素比率が9.1%以上の有機材料を複数混合して記録層を形成してもよい。
【0008】
また本発明の光記録媒体は、レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、有機材料に低分子化合物を添加したものであって酸素元素比率が9.1%以上となる材料によって形成されている光記録媒体である。
上記材料は、酸素元素比率が9.1%未満の有機材料に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である。
或いは上記材料は、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である。
【0009】
空孔(ボイド)による記録マークからの再生信号におけるノイズは、主成分は記録層を構成する有機材料が熱または光により分解する際に生じるコンタミ(すす)である。すすの少ない綺麗な形状のボイドを形成することでノイズ低減を図ることができる。
そしてすすを取り除くには、記録層構成有機材料を完全燃焼させればよい。このためには記録層内の酸素元素比率を上げ、有機材料のガス化を促進することが有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録層が酸素元素比率9.1%以上の材料で形成されることで、ボイド形成時にすすが残りにくく、きれいな形状のボイドが形成できる。これにより再生信号に現れるノイズを低減し、記録再生システムとしての信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態の光記録媒体の説明図である。
【図2】実施の形態の光記録媒体についてのサーボ制御の説明図である。
【図3】ノイズレベルが大きいボイドと小さいボイドの説明図(写真)である。
【図4】ボイド構造と信号レベルの説明図である。
【図5】酸素元素比率とノイズレベルの関係の説明図である。
【図6】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1未満の有機材料の説明図である。
【図7】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1未満の有機材料の説明図である。
【図8】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1以上の有機材料の説明図である。
【図9】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1以上の有機材料の説明図である。
【図10】実施の形態で用いる熱硬化型樹脂の説明図である。
【図11】実施の形態の樹脂に低分子化合物を添加した場合の説明図である。
【図12】実施の形態で用いる低分子化合物の説明図である。
【図13】実施の形態で用いる低分子化合物の説明図である。
【図14】実施の形態の記録層製造手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。実施の形態の光記録媒体は、バルク層に空孔マークを形成して情報を記録するものである。
<1.実施の形態の光記録媒体の構造>
<2.光記録媒体に対する記録再生>
<3.ボイドとノイズの関係及びバルク層材料としての適性>
<4.樹脂によるバルク層材料>
<5.樹脂+低分子化合物によるバルク層材料>
【0013】
<1.実施の形態の光記録媒体の構造>
図1は、実施の形態のバルク型光記録媒体(光記録媒体1)の断面構造図を示している。
この図1に示す光記録媒体1は、ディスク状の光記録媒体とされ、回転駆動される光記録媒体1に対するレーザ光照射が行われてマーク記録(情報記録)が行われる。また、記録情報の再生としても、回転駆動される光記録媒体1に対してレーザ光を照射して行われる。
【0014】
なお、光記録媒体とは、光の照射により記録情報の再生が行われる記録媒体を指す。
本例の場合、いわゆる空孔(ボイド)を記録マークとして形成する。
ボイド記録方式は、所定の記録材料で構成されたバルク層(記録層)に対して、比較的高パワーでレーザ光照射を行い、上記バルク層内に空孔(ボイド)を記録する手法である。このように形成された空孔部分は、バルク層内における他の部分と屈折率が異なる部分となり、それらの境界部分で光の反射率が高められることになる。従って上記空孔部分は記録マークとして機能し、これによって空孔マークの形成による情報記録が実現される。
バルク層(記録層)は、光反応樹脂によって形成される。
光反応樹脂は、多光子吸収反応により記録マークを形成することが好ましい。多光子吸収反応では、記録用のレーザ光における光強度の大きい焦点近傍の光のみ吸収して光反応を生じる。
光反応樹脂は、光反応に応じた発熱により、光反応樹脂の一部が沸騰又は分解により気化してレーザ光焦点近傍に記録マークとしての気泡を形成する。この部分が空孔マークと成る。
ここで、一般的に1つの光子を吸収して光反応を生じる1光子吸収反応では、記録マーク形成時間は記録レーザ光の光強度にほぼ反比例する。一方、2つの光子を吸収して光反応を生じる2光子吸収反応では、記録マーク形成時間は記録レーザ光の光強度の二乗にほぼ反比例する。記録マーク形成時間が光強度の二乗に反比例することによれば、記録レーザスポットにおいて光強度の極めて高い部分でのみ記録マークを形成することができ、記録密度の向上や記録マーク間の干渉防止などの観点で、小さなサイズの記録マークを形成する場合に有利となる。
【0015】
図1の光記録媒体1は、いわゆるバルク型光記録媒体とされ、図示するように上層側から順にカバー層2、選択反射膜3、中間層4、バルク層5、基板6が形成されている。
ここで、本明細書において「上層側」とは、記録再生装置側からのレーザ光が入射する面を上面としたときの上層側を指す。また「深さ方向」「厚み方向」とは、上記「上層側」の定義に従った図1の上下方向と一致する方向(すなわち再生装置側からのレーザ光の入射方向に平行な方向)を指すものである。
【0016】
光記録媒体1において、カバー層2は、例えばポリカーボネートやアクリルなどの樹脂で構成され、図示するようにその下面側には、記録/再生位置を案内するための案内溝の形成に伴う凹凸の断面形状が与えられている。ディスク平面方向に見れば、案内溝がスパイラル状に形成されている。
上記案内溝としては、連続溝(グルーブ)、又はピット列で形成される。例えば案内溝がグルーブとされる場合は、当該グルーブを周期的に蛇行させて形成することで、該蛇行の周期情報により位置情報(絶対位置情報:例えば回転角度情報や半径位置情報など)の記録を行うことができる。
カバー層2は、このような案内溝(凹凸形状)が形成されたスタンパを用いた射出成形などにより生成される。
【0017】
また、上記案内溝が形成されたカバー層2の下面側には、選択反射膜3が成膜される。
ここで、バルク記録方式では、記録層としてのバルク層5に対してマーク記録を行うための記録光(以下、第1レーザ光とも称する)とは別に、上記のような案内溝に基づきトラッキングやフォーカスのエラー信号を得るためのサーボ光(第2レーザ光とも称する)を別途に照射するものとされている。
このとき、仮に、上記サーボ光がバルク層5に到達してしまうと、当該バルク層5内におけるマーク記録に悪影響を与える虞がある。このため、サーボ光は反射し、記録光は透過するという選択性を有する反射膜が必要とされている。
バルク記録方式では、記録光とサーボ光とはそれぞれ波長の異なるレーザ光を用いるようにされている。これに対応すべく、選択反射膜3としては、サーボ光と同一の波長帯の光は反射し、それ以外の波長による光は透過するという、波長選択性を有する選択反射膜が用いられる。
【0018】
選択反射膜3の下層側には、例えばUV硬化樹脂などの接着材料で構成された中間層4を介して、記録層としてのバルク層5が形成されている。
バルク層5の形成材料(記録材料)については後述する。
【0019】
バルク層5に対しては、バルク層5の深さ方向における予め定められた各位置に対し、逐次レーザ光を合焦させて空孔マーク形成による情報記録が行われる。
従って記録済みとなった記録媒体1において、バルク層5内には、複数のマーク形成層(情報記録層)Lが形成される。図では情報記録層L0〜L(n)として示しているように、多数(n+1個)の情報記録層が形成される。
【0020】
バルク層5の厚みサイズ等は確定的ではないが、例えば青色レーザ光(波長405nm)をNAを0.85の光学系で照射することを考えた場合、ディスク表面(カバー層2の表面)から深さ方向に50μm〜300μmの位置に情報記録層を形成することが適切である。これは球面収差補正を考慮した範囲である。
図1では、ディスク表面から70μm〜260μmの位置に情報記録層を形成する例としている。
当然ながら、深さ方向の位置範囲が同一の条件では、層間隔を狭くするほど、多数の情報記録層を形成することができる。
【0021】
また、各情報記録層においては、カバー層2に形成された案内溝を用いてトラッキングサーボがとられた状態で空孔マークによる記録が行われる。従って情報記録層に形成される空孔マーク列は、ディスク平面方向にみてスパイラル状に形成されることになる。
【0022】
以上のカバー層2からバルク層5までの層構造が、基板6上に構成される。
【0023】
<2.光記録媒体に対する記録再生>
上記の光記録媒体1を対象とした記録/再生時動作について図2を参照して説明する。
光記録媒体1に対しては、記録マークを形成し且つ記録マークから情報再生を行うための第1レーザ光LZ1と共に、これとは波長の異なるサーボ光としての第2レーザ光LZ2を照射する。
これら第1レーザ光LZ1と第2レーザ光LZ2は、記録再生装置における共通の対物レンズを介して光記録媒体1に照射されることになる。
【0024】
ここで図1に示したように光記録媒体1におけるバルク層5には、例えばDVDやブルーレイディスクなどの光ディスクについての多層ディスクとは異なり、記録対象とする各層位置にはピットやグルーブなどによる案内溝を有する反射面が形成されていない。
このため、未だマークの形成されていない記録時においては、第1レーザ光LZ1についてのフォーカスサーボやトラッキングサーボは、第1レーザ光LZ1自身の反射光を用いて行うことはできないことになる。
この点より、光記録媒体1に対する記録時において、第1レーザ光LZ1についてのトラッキングサーボ、フォーカスサーボは、共に、サーボ光としての第2レーザ光LZ2の反射光を用いて行うことになる。
そしてこのため、記録再生装置には第1レーザ光LZ1と第2レーザ光LZ2をそれぞれ独立してフォーカス制御できる機構が設けられる。
【0025】
記録時には、第2レーザ光LZ2を選択反射膜3(案内溝形成面)に合焦させる。その状態で選択反射膜3(案内溝形成面)を基準とした図2のようなオフセットofを与えるように第1レーザ光LZ1のフォーカス制御を行う。
図中では、バルク層5に情報記録層L0〜L(n)を設定するとした場合に対応した各オフセットofの例を示している。即ち情報記録層L0の層位置に対応したオフセットof−L0、情報記録層L1の層位置に対応したオフセットof−L1、・・・情報記録層L(n)の層位置に対応したオフセットof−L(n)が設定される場合を示している。
これらのオフセットofの値を用いて第1レーザ光LZ1についてのフォーカス機構を駆動することで、深さ方向におけるマークの形成位置(記録位置)を、情報記録層L0としての層位置から情報記録層L(n)としての層位置までのうちで適宜選択することができる。
【0026】
また、記録時における第1レーザ光LZ1についてのトラッキングサーボに関しては、上述のように第1レーザ光LZ1と第2レーザ光LZ2とを共通の対物レンズを介して照射するという点を利用して、選択反射膜3からの第2レーザ光LZ2の反射光を用いた対物レンズのトラッキングサーボを行うことで実現する。
【0027】
このようにサーボ制御が行われる状態で、第1レーザ光LZ1が記録データに基づいて変調され、所定の情報記録層位置に照射されることで、ボイドによるマーク列が形成されていくことになる。
【0028】
一方、再生時には、図1に示したようにバルク層5には情報記録層Lが形成された状態となるので、このような情報記録層Lからの第1レーザ光LZ1の反射光を得ることができる。このことから再生時において、第1レーザ光LZ1についてのフォーカスサーボは、第1レーザ光LZ1自身の反射光を利用して行う。
また再生時における第1レーザ光LZ1のトラッキングサーボは、第2レーザ光LZ2の反射光に基づく対物レンズのトラッキングサーボを行うことによって実現する。
【0029】
ここで、再生時においても、選択反射膜3としての案内溝形成面に記録された絶対位置情報の読み出しのために上記案内溝形成面(案内溝)を対象とした第2レーザ光LZ2のフォーカスサーボ・トラッキングサーボが行われる。
すなわち、再生時においても記録時と同様、対物レンズの位置制御は、第2レーザ光LZ2の反射光に基づいて上記案内溝形成面(案内溝)を対象とした第2レーザ光LZ2のフォーカスサーボ・トラッキングサーボが行われることになる。
【0030】
なお、再生時の第1レーザ光LZ1のトラッキングサーボは、空孔マークの記録マーク列に対する第1レーザ光LZ1の反射光に基づいて対物レンズを制御することでトラッキングサーボを行うようにしてよい。
また少なくともシーク後の再生中は、記録マーク列からアドレス情報を読み取ることができる。
このため再生時には第2レーザ光LZ2を使用しないことも考えられる。
【0031】
以上のサーボ制御がなされる状態において、ある情報記録層に第1レーザ光LZ1が照射され、その反射光情報としてボイドによるマーク列の情報が得られる。その反射光情報に基づく信号に対し、所定のデコード処理が行われて、再生データが得られる。
【0032】
<3.ボイドとノイズの関係及びバルク層材料としての適性>
以上のようなバルク層5に対するボイド形成による情報記録においては、高品質なボイドを形成することが、再生時のノイズ低減につながる。
【0033】
空孔(ボイド)による記録マークからの再生信号におけるノイズは、主成分は記録層を構成する有機材料が熱または光により分解する際に生じるコンタミ(すす)である。
図3(a)は、すすの無い綺麗なボイドを、図3(b)は房構造のすすが存在しているボイドを、それぞれ写真画像で示している。図3(a)のボイドはノイズレベルが0dB以下、図3(b)のボイドはノイズレベルが10dB以上となった例である。
【0034】
図4(a)(b)には、すす(房構造)の有無による信号レベルの違いを示している。キャリアレベルはボイドの径にも依存するが、ノイズレベルは、基本的にはボイド径によっては変動しない。
ノイズレベルは、ボイド径が同等でも、房構造(すす)が多くなると高くなることが示されている。
【0035】
このようなことから、すすの少ない綺麗な形状のボイドを形成することで再生信号におけるノイズ低減を図ることができる。
すすを取り除くには、バルク層を構成する有機材料を完全燃焼させればよい。このためにはバルク層内の酸素元素比率を上げ、有機材料のガス化を促進することが有効である。
【0036】
図5(a)に、有機記録材料に含まれる酸素元素比率と信号ノイズの関係を示している。
I〜VIIIは、それぞれ或る有機材料である。そして横軸が酸素元素比率、縦軸がその有機材料でバルク層5を形成した場合の再生信号のノイズレベル(dBmV)である。
ここで、有機材料I〜Vは、
I:ポリカーボネート(PC)
2:非晶ポリアリレート(PAR)
3:ポリエーテルサルフォン(PES)
4:ポリフェニルサルフォン(PPSU)
5:ポリサルフォン(PSU)
である。
酸素元素比率とは、記録層であるバルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率である。記録層を単一の樹脂材料で形成する場合は、その材料の構成元素総数における酸素元素の割合となる。例えば材料Iで示すポリカーボネートについては、図6にも例示しているが、構成元素はC:16、O:3、H:14であるため、酸素元素比率=3/(16+3+14)=9.09%となる。
同様に酸素元素比率を求めると、材料II:非晶ポリアリレート(PAR)は8.889%、材料3:ポリエーテルサルフォン(PES)は0.125、材料4:ポリフェニルサルフォン(PPSU)は8.889%、材料5:ポリサルフォン(PSU)は7.547%となる。
【0037】
この図5(a)は、各有機材料の場合のノイズレベルを示しているが、傾向として破線矢印に示すように、酸素元素比率が高くなるほど、ノイズレベルが低下していることが見て取れる。
つまりバルク層5の材料として、酸素元素比率の高い有機材料を用いることで、ボイド形成時の有機材料のガス化を促進し、図3(a)のような、すすの少ないボイドを形成できることがわかる。
【0038】
では、どの程度の酸素元素比率の有機材料がバルク層5の材料として適切かを検討する。
たとえば、図5における材料I(PC)、II(PAR)をバルク層5に使用した場合において、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc(登録商標))で必要とされる程度のBER(bit error rate)<10-4を得ようとした場合、材料1およびIIのノイズレベルでは困難である。
図5(b)は図5(a)と同じ内容のグラフであるが、BER<10-4を得るための必要条件は、点線で示すノイズレベル−0.75dBmV以下である。そのためには、酸素元素比率としては、9.1%以上が必要となる。
つまり、バルク層5の材料として或る有機材料を単体で用いる場合、酸素元素比率9.1以上のものが好適となる。
【0039】
<4.樹脂によるバルク層材料>
熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂として、バルク層5の材料を例示する。
まず、図6,図7はバルク層5の材料の候補となり得るが、酸素元素比率が9.1%未満の樹脂を例示している。各材料の酸素元素比率は次のとおりである。
・ポリエーテルイミド:8.82%
・ポリカーボネート:9.09%
・非晶ポリアリレート:8.889%
・ポリフェニルサルフォン:8.889%
・ポリサルフォン:7.547%
・ポリスチレン:0.000%
・ポリエーテルエーテルケトン:8.824%
・ポリエーテルケトンケトン:8.571%
・ポリエーテルケトン:8.696%
・ポリビニルビロリドン:5.556%
・ポリフェニレエーテル:5.882%
・メラミン樹脂:0.000%
・ポリエーテルイミド:8.824%
・ポリエーテルニトリル:8.696%
・ポリベンゾイミダゾール:0.000%
・ポリテトラフルオロエチレン:0.000%
・フェノール樹脂:7.143%
・ポリ塩化ビニル:0.000%
・ポリエチレン:0.000%
・ポリプロピレン:0.000%
・ポリアクリロニトリル:0.000%
【0040】
これらの樹脂は、酸素元素比率が9.1%未満であることから、これら樹脂単体、もしくは複数の樹脂を混合したとしても、本実施の形態のバルク層5の材料としては適切ではない。
【0041】
一方、図8,図9には、酸素元素比率が9.1%以上の樹脂を例示している。各材料の酸素元素比率は次のとおりである。
・ポリエーテルサルフォン:0.125%
・ポリイミド:12.20%
・ポリエチレンテレフタレート:18.18%
・ポリエチレンナフタレート:14.29%
・ポリオキシメチレン/ポリアセタール:25.00%
・ポリメタクチル酸メチル:13.33%
・ポリ酢酸ビニル:16.67%
・ジアリルフタレート樹脂:12.50%
・ポリアミドイミド:10.714%
・ポリウレタン:13.333%
【0042】
以上の樹脂は、単体として酸素元素比率が9.1%以上となり、単体でバルク層5の材料として適している。
なお、樹脂単体でみれば、酸素元素比率の上限は25.00%(ポリオキシメチレン)となる。
実施の形態の光記録媒体1は、酸素元素比率9.1%以上の樹脂でバルク層5を形成するものであるが、樹脂単体でバルク層5を構成する場合、材料としての酸素元素比率の上限は、存在しうる材料上、最大酸素含有量のものを上限と考えることができる。従って候補となる樹脂が上掲のものであるとすると、酸素元素比率の上限は25.00%と考えることができる。
ただし後述するが、樹脂に低分子化合物を添加する場合は、酸素元素比率を25.00%以上とすることも可能である。
【0043】
また、樹脂単体でバルク層5を形成するものだけでなく、複数の樹脂を混合してバルク層5の材料としてもよい。
その場合、図8,図9に挙げた酸素元素比率9.1%以上の樹脂を複数用いる場合は、バルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率は9.1%以上という条件を満たすことになる。
【0044】
また、図6,図7に挙げた酸素元素比率9.1%未満の樹脂と、図8,図9に挙げた酸素元素比率9.1%以上の樹脂を組み合わせても、バルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率が9.1%以上となる材料を実現することが可能である。
即ち、単独では酸素元素比率9.1未満の樹脂も、複数種類の樹脂と混合すれば、本実施の形態のバルク層5の材料として使用できることもある。
【0045】
また、熱硬化性樹脂の例としてジアリルフタレート樹脂を上掲したが、エポキシ樹脂として図10に酸素元素比率9.1%以上の熱硬化性樹脂の例を示している。
例えば、HP4032D+MH700G+4EthynylPA(30w%)+TPP−PB(3w%)や、HP4032D(100%)+U−cat18x(1−3%)などは、図に示すように酸素元素比率9.1%以上となり、バルク層5の材料として適している。
HP4032D、MH700G、4EthynylPA、TPP−PBの構造は図示のとおりである。また、U−cat18xとは、「サンアプロ株式会社製特殊アミン塩U−cat18x」である。
【0046】
なお、熱可塑性樹脂を用いる場合、次の利点がある。
・成型性、量産性がよく、様々なプロセスで成型可能である。
・例えばプロセスの一つである射出成型は、タクトタイムが短く、低コスト化が見込まれる。
・後述するように低分子化合物を樹脂に添加する場合、溶剤キャスティング法により成型すると、分散性よく低分子化合物を添加可能である。
【0047】
また熱硬化性樹脂を用いる場合、次の利点がある。
・熱硬化性樹脂はモノマーから熱により重合していくため、硬化剤・温度などを調整することで、母剤樹脂の物性(強度・架橋構造)をコントロールできる。
・プロセス上溶剤を使わないために、低環境負荷が期待できる。
・始めの状態はモノマー(主に液体が多い)なので、後述する低分子化合物を添加する場合の添加・分散性が良い。
【0048】
<5.樹脂+低分子化合物によるバルク層材料>
次に、樹脂に低分子化合物を添加したバルク層5の材料について述べる。
即ちバルク層5が、有機材料に低分子化合物を添加したものであってバルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率が9.1%以上となる材料によって形成される例である。
【0049】
樹脂に低分子化合物を加えることで、酸素元素比率を上げ、これによって再生信号のノイズ低減を実現することもできる。
図11(a)は、材料A,B,Cとして酸素元素比率とノイズレベルを示している。
材料Aは、酸素元素比率8.889%の非晶ポリアリレート単体である。
これに対し、図11(c)のように低分子化合物としてビス(2,4−ジニトロフェニル)酢酸エチルを添加剤として用いる。
図11(b)に示すように材料Bは、非晶ポリアリレートに対してビス(2,4−ジニトロフェニル)酢酸エチルが重量比99:1で添加されたものである。
材料Cは、非晶ポリアリレートに対してビス(2,4−ジニトロフェニル)酢酸エチルが重量比97:3で添加されたものである。
添加量を多くしていくことで、図11(a)のように酸素元素比率が高くなり、それに伴ってノイズレベルが減少する。
【0050】
つまり、単体では酸素元素比率9.1%未満の樹脂を用いても、適切な低分子化合物を適切量添加することで、酸素元素比率9.1%以上とすることができ、ノイズ低減に適したバルク層5を形成できる。
【0051】
さらに図12に例を挙げる。この図12に示す材料D,E,F,Gも、非晶ポリアリレートに対して低分子化合物を添加したものである。
材料Dは、4,4−ジニトロビフェニルを1wT%添加したものである。
材料Eは、2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物を5wT%添加したものである。
材料Fは、3,3−ジニトロベンゾフェノンを3wT%添加したものである。
材料Gは、2,2−ジニトロビフェニルを3wT%添加したものである。
これらの材料D,E,F,Gも酸素元素比率9.1%以上となり、バルク層5の材料として適している。
【0052】
以上のように、樹脂材料に低分子化合物を添加することで、酸素元素比率9.1%以上のバルク層5材料を実現できる。
もちろんベースとなる樹脂材料としては、図8,図9,図10に挙げた酸素元素比率9.1%以上のものを用い、これに低分子化合物を添加してもよい。この場合、酸素元素比率を25%以上とすることもできる。酸素元素比率が高いほど、ノイズレベルとして有利なバルク層5を形成できる。
さらに、図6,図7に挙げたような、酸素元素比率9.1%未満の樹脂をベースとして用いて低分子化合物を添加し、酸素元素比率9.1%以上の材料を実現できることで、使用可能な樹脂の選択性を広げることもできる。
【0053】
添加剤としての低分子化合物についても多様に考えられるが、図13に一例を挙げる。
添加剤としては、酸素元素を含み、かつガス化しやすい成分S,N,C,Oを有する官能基・結合が好ましい。これに当てはまるものとして、図13(a)のケトン・カルボン酸・アルコール・エーテル、図13(b)の過酸化物、図13(c)の酸無水物、図13(d)のニトロ・シアナト・アミノ、図13(e)のスルホなどが考えられる。
【0054】
図14に、樹脂に低分子化合物を添加した材料を用いる場合のバルク層5の製造手順の例を示す。
図14(a)は、溶液製膜法といわれるものである。
まず低分子化合物の添加剤を溶媒へ溶解する(ST1)。これにより低分子添加剤溶液を得る(ST2)。次に樹脂を低分子添加剤溶液へ溶解する(ST3)。これにより樹脂溶液を得る(ST4)。
そして樹脂溶液を基板6上に塗布し(ST5)、加熱乾燥させる(ST6)。乾燥後、基板6上にバルク層5としての記録層が作成される(ST7)。
【0055】
図14(b)は、熱プレス成形の手法である。
まず樹脂と低分子添加剤を熱混合する(ST11)。これにより樹脂と添加剤の混合物を得る(ST12)。そして加熱プレス機で延伸する(ST13)。延伸された混合物が、記録層となるバルク層5として用いられる(ST14)。
【0056】
以上、実施の形態の光記録媒体1としてバルク層5の材料について述べてきたが、本発明の光記録媒体の記録層として用いることができる材料は、上掲した材料に限定されない。
樹脂単体を用いる場合、酸素元素比率9.1%以上の樹脂で記録層を形成する。
複数の樹脂を用いる場合、酸素元素比率9.1%以上の複数の樹脂を混合した材料を用いればよい。又は酸素元素比率9.1%未満の樹脂と酸素元素比率9.1%以上の樹脂を混合し、結果として記録層の酸素元素比率が9.1%以上となるものであってもよい。
樹脂に低分子化合物を添加する場合、ベースとなる樹脂としては酸素元素比率9.1%以上の樹脂であってもよいし、9.1%未満の樹脂であっても良い。低分子化合物の添加により、酸素元素比率9.1%以上となればよい。
これらの条件を満たすように材料が選定されればよい。
【0057】
また本発明の光記録媒体の構造として、図1に示した構造は一例に過ぎない。ボイド形成による記録を行うバルク型光記録媒体の構造例は多様に考えられる。
例えば凹凸パターンを有する案内溝がバルク層5と基板6の間に形成される構造、案内溝が存在しない構造なども想定される。
さらに、ディスク状の光記録媒体ではなく、カード型の光記録媒体など、他の形状の光記録媒体としても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 記録媒体、2 カバー層、3 選択反射膜、4 中間層、5 バルク層、L0〜L(n) 情報記録層、6 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、空孔マークにより情報を記録するバルク型光記録媒体に関し、特に記録層材料に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2008−176902号公報
【特許文献2】特開2009−274225号公報
【特許文献3】特開2005−37658号公報
【背景技術】
【0003】
CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc:登録商標)のような光ディスクシステムは、顕微鏡の対物レンズのように非接触でディスクの片面に形成された微少な反射率変化を読み取っている。
よく知られているようにディスク上の光スポットの大きさはおよそλ/NA(λ:照明光の波長、NA:開口数)で与えられ、分解能もこの値に比例する。
【0004】
また、ディスクの深さ方向に複数の記録層を形成する方法や、バルク型(体積型)の記録媒体中に多層状に記録を行って、1枚のディスクの容量を増大する方法が知られている。
特に、光記録媒体の大容量化の有望な方法として、バルク記録材料内に厚み方向に記録層を何十層も形成していく方法があり、上記特許文献1のように空孔をマークとして形成し、情報記録していく方法が提案されている。
バルク型の記録媒体中に記録を行う場合には、屈折率が概ね1.5であるプラスチックに高密度の光を照射し、屈折率が概ね1.0である気体で満たされた空孔をマークとして記録再生を行う。
なお上記特許文献1,2には2光子吸収により記録マークが形成される記録層材料について開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルク型の記録層に空孔(ボイド)マークを形成する記録再生方式においては、ボイドによるマーク列に対して再生レーザ光を照射し、その反射光から得られる信号から再生データを得る。
ところがボイドによるマーク列から再生される信号は、ノイズ成分を含んでいる。ノイズレベルが悪化することで、再生信号品質も悪化する。これは記録再生システムとしての信頼性を低下させることとなる。例えばエラーレートの悪化や、記録不良による容量消費の進行を招くといったことにつながる。
【0006】
そこで本発明は、空孔マークの品質を向上させ、バルク型の記録層に空孔マーク(ボイド)を形成する記録再生方式の信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光記録媒体は、レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料(熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂)によって形成されている光記録媒体である。
また上記有機材料の酸素元素比率は25%以下であるとする。
より具体的には上記有機材料は、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリオキシメチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ジアリルフタレート、ポリアミドイミド、又はポリウレタンのいずれかである。
また、これら酸素元素比率が9.1%以上の有機材料を複数混合して記録層を形成してもよい。
【0008】
また本発明の光記録媒体は、レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、有機材料に低分子化合物を添加したものであって酸素元素比率が9.1%以上となる材料によって形成されている光記録媒体である。
上記材料は、酸素元素比率が9.1%未満の有機材料に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である。
或いは上記材料は、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である。
【0009】
空孔(ボイド)による記録マークからの再生信号におけるノイズは、主成分は記録層を構成する有機材料が熱または光により分解する際に生じるコンタミ(すす)である。すすの少ない綺麗な形状のボイドを形成することでノイズ低減を図ることができる。
そしてすすを取り除くには、記録層構成有機材料を完全燃焼させればよい。このためには記録層内の酸素元素比率を上げ、有機材料のガス化を促進することが有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録層が酸素元素比率9.1%以上の材料で形成されることで、ボイド形成時にすすが残りにくく、きれいな形状のボイドが形成できる。これにより再生信号に現れるノイズを低減し、記録再生システムとしての信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態の光記録媒体の説明図である。
【図2】実施の形態の光記録媒体についてのサーボ制御の説明図である。
【図3】ノイズレベルが大きいボイドと小さいボイドの説明図(写真)である。
【図4】ボイド構造と信号レベルの説明図である。
【図5】酸素元素比率とノイズレベルの関係の説明図である。
【図6】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1未満の有機材料の説明図である。
【図7】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1未満の有機材料の説明図である。
【図8】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1以上の有機材料の説明図である。
【図9】実施の形態で用いる酸素元素比率9.1以上の有機材料の説明図である。
【図10】実施の形態で用いる熱硬化型樹脂の説明図である。
【図11】実施の形態の樹脂に低分子化合物を添加した場合の説明図である。
【図12】実施の形態で用いる低分子化合物の説明図である。
【図13】実施の形態で用いる低分子化合物の説明図である。
【図14】実施の形態の記録層製造手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。実施の形態の光記録媒体は、バルク層に空孔マークを形成して情報を記録するものである。
<1.実施の形態の光記録媒体の構造>
<2.光記録媒体に対する記録再生>
<3.ボイドとノイズの関係及びバルク層材料としての適性>
<4.樹脂によるバルク層材料>
<5.樹脂+低分子化合物によるバルク層材料>
【0013】
<1.実施の形態の光記録媒体の構造>
図1は、実施の形態のバルク型光記録媒体(光記録媒体1)の断面構造図を示している。
この図1に示す光記録媒体1は、ディスク状の光記録媒体とされ、回転駆動される光記録媒体1に対するレーザ光照射が行われてマーク記録(情報記録)が行われる。また、記録情報の再生としても、回転駆動される光記録媒体1に対してレーザ光を照射して行われる。
【0014】
なお、光記録媒体とは、光の照射により記録情報の再生が行われる記録媒体を指す。
本例の場合、いわゆる空孔(ボイド)を記録マークとして形成する。
ボイド記録方式は、所定の記録材料で構成されたバルク層(記録層)に対して、比較的高パワーでレーザ光照射を行い、上記バルク層内に空孔(ボイド)を記録する手法である。このように形成された空孔部分は、バルク層内における他の部分と屈折率が異なる部分となり、それらの境界部分で光の反射率が高められることになる。従って上記空孔部分は記録マークとして機能し、これによって空孔マークの形成による情報記録が実現される。
バルク層(記録層)は、光反応樹脂によって形成される。
光反応樹脂は、多光子吸収反応により記録マークを形成することが好ましい。多光子吸収反応では、記録用のレーザ光における光強度の大きい焦点近傍の光のみ吸収して光反応を生じる。
光反応樹脂は、光反応に応じた発熱により、光反応樹脂の一部が沸騰又は分解により気化してレーザ光焦点近傍に記録マークとしての気泡を形成する。この部分が空孔マークと成る。
ここで、一般的に1つの光子を吸収して光反応を生じる1光子吸収反応では、記録マーク形成時間は記録レーザ光の光強度にほぼ反比例する。一方、2つの光子を吸収して光反応を生じる2光子吸収反応では、記録マーク形成時間は記録レーザ光の光強度の二乗にほぼ反比例する。記録マーク形成時間が光強度の二乗に反比例することによれば、記録レーザスポットにおいて光強度の極めて高い部分でのみ記録マークを形成することができ、記録密度の向上や記録マーク間の干渉防止などの観点で、小さなサイズの記録マークを形成する場合に有利となる。
【0015】
図1の光記録媒体1は、いわゆるバルク型光記録媒体とされ、図示するように上層側から順にカバー層2、選択反射膜3、中間層4、バルク層5、基板6が形成されている。
ここで、本明細書において「上層側」とは、記録再生装置側からのレーザ光が入射する面を上面としたときの上層側を指す。また「深さ方向」「厚み方向」とは、上記「上層側」の定義に従った図1の上下方向と一致する方向(すなわち再生装置側からのレーザ光の入射方向に平行な方向)を指すものである。
【0016】
光記録媒体1において、カバー層2は、例えばポリカーボネートやアクリルなどの樹脂で構成され、図示するようにその下面側には、記録/再生位置を案内するための案内溝の形成に伴う凹凸の断面形状が与えられている。ディスク平面方向に見れば、案内溝がスパイラル状に形成されている。
上記案内溝としては、連続溝(グルーブ)、又はピット列で形成される。例えば案内溝がグルーブとされる場合は、当該グルーブを周期的に蛇行させて形成することで、該蛇行の周期情報により位置情報(絶対位置情報:例えば回転角度情報や半径位置情報など)の記録を行うことができる。
カバー層2は、このような案内溝(凹凸形状)が形成されたスタンパを用いた射出成形などにより生成される。
【0017】
また、上記案内溝が形成されたカバー層2の下面側には、選択反射膜3が成膜される。
ここで、バルク記録方式では、記録層としてのバルク層5に対してマーク記録を行うための記録光(以下、第1レーザ光とも称する)とは別に、上記のような案内溝に基づきトラッキングやフォーカスのエラー信号を得るためのサーボ光(第2レーザ光とも称する)を別途に照射するものとされている。
このとき、仮に、上記サーボ光がバルク層5に到達してしまうと、当該バルク層5内におけるマーク記録に悪影響を与える虞がある。このため、サーボ光は反射し、記録光は透過するという選択性を有する反射膜が必要とされている。
バルク記録方式では、記録光とサーボ光とはそれぞれ波長の異なるレーザ光を用いるようにされている。これに対応すべく、選択反射膜3としては、サーボ光と同一の波長帯の光は反射し、それ以外の波長による光は透過するという、波長選択性を有する選択反射膜が用いられる。
【0018】
選択反射膜3の下層側には、例えばUV硬化樹脂などの接着材料で構成された中間層4を介して、記録層としてのバルク層5が形成されている。
バルク層5の形成材料(記録材料)については後述する。
【0019】
バルク層5に対しては、バルク層5の深さ方向における予め定められた各位置に対し、逐次レーザ光を合焦させて空孔マーク形成による情報記録が行われる。
従って記録済みとなった記録媒体1において、バルク層5内には、複数のマーク形成層(情報記録層)Lが形成される。図では情報記録層L0〜L(n)として示しているように、多数(n+1個)の情報記録層が形成される。
【0020】
バルク層5の厚みサイズ等は確定的ではないが、例えば青色レーザ光(波長405nm)をNAを0.85の光学系で照射することを考えた場合、ディスク表面(カバー層2の表面)から深さ方向に50μm〜300μmの位置に情報記録層を形成することが適切である。これは球面収差補正を考慮した範囲である。
図1では、ディスク表面から70μm〜260μmの位置に情報記録層を形成する例としている。
当然ながら、深さ方向の位置範囲が同一の条件では、層間隔を狭くするほど、多数の情報記録層を形成することができる。
【0021】
また、各情報記録層においては、カバー層2に形成された案内溝を用いてトラッキングサーボがとられた状態で空孔マークによる記録が行われる。従って情報記録層に形成される空孔マーク列は、ディスク平面方向にみてスパイラル状に形成されることになる。
【0022】
以上のカバー層2からバルク層5までの層構造が、基板6上に構成される。
【0023】
<2.光記録媒体に対する記録再生>
上記の光記録媒体1を対象とした記録/再生時動作について図2を参照して説明する。
光記録媒体1に対しては、記録マークを形成し且つ記録マークから情報再生を行うための第1レーザ光LZ1と共に、これとは波長の異なるサーボ光としての第2レーザ光LZ2を照射する。
これら第1レーザ光LZ1と第2レーザ光LZ2は、記録再生装置における共通の対物レンズを介して光記録媒体1に照射されることになる。
【0024】
ここで図1に示したように光記録媒体1におけるバルク層5には、例えばDVDやブルーレイディスクなどの光ディスクについての多層ディスクとは異なり、記録対象とする各層位置にはピットやグルーブなどによる案内溝を有する反射面が形成されていない。
このため、未だマークの形成されていない記録時においては、第1レーザ光LZ1についてのフォーカスサーボやトラッキングサーボは、第1レーザ光LZ1自身の反射光を用いて行うことはできないことになる。
この点より、光記録媒体1に対する記録時において、第1レーザ光LZ1についてのトラッキングサーボ、フォーカスサーボは、共に、サーボ光としての第2レーザ光LZ2の反射光を用いて行うことになる。
そしてこのため、記録再生装置には第1レーザ光LZ1と第2レーザ光LZ2をそれぞれ独立してフォーカス制御できる機構が設けられる。
【0025】
記録時には、第2レーザ光LZ2を選択反射膜3(案内溝形成面)に合焦させる。その状態で選択反射膜3(案内溝形成面)を基準とした図2のようなオフセットofを与えるように第1レーザ光LZ1のフォーカス制御を行う。
図中では、バルク層5に情報記録層L0〜L(n)を設定するとした場合に対応した各オフセットofの例を示している。即ち情報記録層L0の層位置に対応したオフセットof−L0、情報記録層L1の層位置に対応したオフセットof−L1、・・・情報記録層L(n)の層位置に対応したオフセットof−L(n)が設定される場合を示している。
これらのオフセットofの値を用いて第1レーザ光LZ1についてのフォーカス機構を駆動することで、深さ方向におけるマークの形成位置(記録位置)を、情報記録層L0としての層位置から情報記録層L(n)としての層位置までのうちで適宜選択することができる。
【0026】
また、記録時における第1レーザ光LZ1についてのトラッキングサーボに関しては、上述のように第1レーザ光LZ1と第2レーザ光LZ2とを共通の対物レンズを介して照射するという点を利用して、選択反射膜3からの第2レーザ光LZ2の反射光を用いた対物レンズのトラッキングサーボを行うことで実現する。
【0027】
このようにサーボ制御が行われる状態で、第1レーザ光LZ1が記録データに基づいて変調され、所定の情報記録層位置に照射されることで、ボイドによるマーク列が形成されていくことになる。
【0028】
一方、再生時には、図1に示したようにバルク層5には情報記録層Lが形成された状態となるので、このような情報記録層Lからの第1レーザ光LZ1の反射光を得ることができる。このことから再生時において、第1レーザ光LZ1についてのフォーカスサーボは、第1レーザ光LZ1自身の反射光を利用して行う。
また再生時における第1レーザ光LZ1のトラッキングサーボは、第2レーザ光LZ2の反射光に基づく対物レンズのトラッキングサーボを行うことによって実現する。
【0029】
ここで、再生時においても、選択反射膜3としての案内溝形成面に記録された絶対位置情報の読み出しのために上記案内溝形成面(案内溝)を対象とした第2レーザ光LZ2のフォーカスサーボ・トラッキングサーボが行われる。
すなわち、再生時においても記録時と同様、対物レンズの位置制御は、第2レーザ光LZ2の反射光に基づいて上記案内溝形成面(案内溝)を対象とした第2レーザ光LZ2のフォーカスサーボ・トラッキングサーボが行われることになる。
【0030】
なお、再生時の第1レーザ光LZ1のトラッキングサーボは、空孔マークの記録マーク列に対する第1レーザ光LZ1の反射光に基づいて対物レンズを制御することでトラッキングサーボを行うようにしてよい。
また少なくともシーク後の再生中は、記録マーク列からアドレス情報を読み取ることができる。
このため再生時には第2レーザ光LZ2を使用しないことも考えられる。
【0031】
以上のサーボ制御がなされる状態において、ある情報記録層に第1レーザ光LZ1が照射され、その反射光情報としてボイドによるマーク列の情報が得られる。その反射光情報に基づく信号に対し、所定のデコード処理が行われて、再生データが得られる。
【0032】
<3.ボイドとノイズの関係及びバルク層材料としての適性>
以上のようなバルク層5に対するボイド形成による情報記録においては、高品質なボイドを形成することが、再生時のノイズ低減につながる。
【0033】
空孔(ボイド)による記録マークからの再生信号におけるノイズは、主成分は記録層を構成する有機材料が熱または光により分解する際に生じるコンタミ(すす)である。
図3(a)は、すすの無い綺麗なボイドを、図3(b)は房構造のすすが存在しているボイドを、それぞれ写真画像で示している。図3(a)のボイドはノイズレベルが0dB以下、図3(b)のボイドはノイズレベルが10dB以上となった例である。
【0034】
図4(a)(b)には、すす(房構造)の有無による信号レベルの違いを示している。キャリアレベルはボイドの径にも依存するが、ノイズレベルは、基本的にはボイド径によっては変動しない。
ノイズレベルは、ボイド径が同等でも、房構造(すす)が多くなると高くなることが示されている。
【0035】
このようなことから、すすの少ない綺麗な形状のボイドを形成することで再生信号におけるノイズ低減を図ることができる。
すすを取り除くには、バルク層を構成する有機材料を完全燃焼させればよい。このためにはバルク層内の酸素元素比率を上げ、有機材料のガス化を促進することが有効である。
【0036】
図5(a)に、有機記録材料に含まれる酸素元素比率と信号ノイズの関係を示している。
I〜VIIIは、それぞれ或る有機材料である。そして横軸が酸素元素比率、縦軸がその有機材料でバルク層5を形成した場合の再生信号のノイズレベル(dBmV)である。
ここで、有機材料I〜Vは、
I:ポリカーボネート(PC)
2:非晶ポリアリレート(PAR)
3:ポリエーテルサルフォン(PES)
4:ポリフェニルサルフォン(PPSU)
5:ポリサルフォン(PSU)
である。
酸素元素比率とは、記録層であるバルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率である。記録層を単一の樹脂材料で形成する場合は、その材料の構成元素総数における酸素元素の割合となる。例えば材料Iで示すポリカーボネートについては、図6にも例示しているが、構成元素はC:16、O:3、H:14であるため、酸素元素比率=3/(16+3+14)=9.09%となる。
同様に酸素元素比率を求めると、材料II:非晶ポリアリレート(PAR)は8.889%、材料3:ポリエーテルサルフォン(PES)は0.125、材料4:ポリフェニルサルフォン(PPSU)は8.889%、材料5:ポリサルフォン(PSU)は7.547%となる。
【0037】
この図5(a)は、各有機材料の場合のノイズレベルを示しているが、傾向として破線矢印に示すように、酸素元素比率が高くなるほど、ノイズレベルが低下していることが見て取れる。
つまりバルク層5の材料として、酸素元素比率の高い有機材料を用いることで、ボイド形成時の有機材料のガス化を促進し、図3(a)のような、すすの少ないボイドを形成できることがわかる。
【0038】
では、どの程度の酸素元素比率の有機材料がバルク層5の材料として適切かを検討する。
たとえば、図5における材料I(PC)、II(PAR)をバルク層5に使用した場合において、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc(登録商標))で必要とされる程度のBER(bit error rate)<10-4を得ようとした場合、材料1およびIIのノイズレベルでは困難である。
図5(b)は図5(a)と同じ内容のグラフであるが、BER<10-4を得るための必要条件は、点線で示すノイズレベル−0.75dBmV以下である。そのためには、酸素元素比率としては、9.1%以上が必要となる。
つまり、バルク層5の材料として或る有機材料を単体で用いる場合、酸素元素比率9.1以上のものが好適となる。
【0039】
<4.樹脂によるバルク層材料>
熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂として、バルク層5の材料を例示する。
まず、図6,図7はバルク層5の材料の候補となり得るが、酸素元素比率が9.1%未満の樹脂を例示している。各材料の酸素元素比率は次のとおりである。
・ポリエーテルイミド:8.82%
・ポリカーボネート:9.09%
・非晶ポリアリレート:8.889%
・ポリフェニルサルフォン:8.889%
・ポリサルフォン:7.547%
・ポリスチレン:0.000%
・ポリエーテルエーテルケトン:8.824%
・ポリエーテルケトンケトン:8.571%
・ポリエーテルケトン:8.696%
・ポリビニルビロリドン:5.556%
・ポリフェニレエーテル:5.882%
・メラミン樹脂:0.000%
・ポリエーテルイミド:8.824%
・ポリエーテルニトリル:8.696%
・ポリベンゾイミダゾール:0.000%
・ポリテトラフルオロエチレン:0.000%
・フェノール樹脂:7.143%
・ポリ塩化ビニル:0.000%
・ポリエチレン:0.000%
・ポリプロピレン:0.000%
・ポリアクリロニトリル:0.000%
【0040】
これらの樹脂は、酸素元素比率が9.1%未満であることから、これら樹脂単体、もしくは複数の樹脂を混合したとしても、本実施の形態のバルク層5の材料としては適切ではない。
【0041】
一方、図8,図9には、酸素元素比率が9.1%以上の樹脂を例示している。各材料の酸素元素比率は次のとおりである。
・ポリエーテルサルフォン:0.125%
・ポリイミド:12.20%
・ポリエチレンテレフタレート:18.18%
・ポリエチレンナフタレート:14.29%
・ポリオキシメチレン/ポリアセタール:25.00%
・ポリメタクチル酸メチル:13.33%
・ポリ酢酸ビニル:16.67%
・ジアリルフタレート樹脂:12.50%
・ポリアミドイミド:10.714%
・ポリウレタン:13.333%
【0042】
以上の樹脂は、単体として酸素元素比率が9.1%以上となり、単体でバルク層5の材料として適している。
なお、樹脂単体でみれば、酸素元素比率の上限は25.00%(ポリオキシメチレン)となる。
実施の形態の光記録媒体1は、酸素元素比率9.1%以上の樹脂でバルク層5を形成するものであるが、樹脂単体でバルク層5を構成する場合、材料としての酸素元素比率の上限は、存在しうる材料上、最大酸素含有量のものを上限と考えることができる。従って候補となる樹脂が上掲のものであるとすると、酸素元素比率の上限は25.00%と考えることができる。
ただし後述するが、樹脂に低分子化合物を添加する場合は、酸素元素比率を25.00%以上とすることも可能である。
【0043】
また、樹脂単体でバルク層5を形成するものだけでなく、複数の樹脂を混合してバルク層5の材料としてもよい。
その場合、図8,図9に挙げた酸素元素比率9.1%以上の樹脂を複数用いる場合は、バルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率は9.1%以上という条件を満たすことになる。
【0044】
また、図6,図7に挙げた酸素元素比率9.1%未満の樹脂と、図8,図9に挙げた酸素元素比率9.1%以上の樹脂を組み合わせても、バルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率が9.1%以上となる材料を実現することが可能である。
即ち、単独では酸素元素比率9.1未満の樹脂も、複数種類の樹脂と混合すれば、本実施の形態のバルク層5の材料として使用できることもある。
【0045】
また、熱硬化性樹脂の例としてジアリルフタレート樹脂を上掲したが、エポキシ樹脂として図10に酸素元素比率9.1%以上の熱硬化性樹脂の例を示している。
例えば、HP4032D+MH700G+4EthynylPA(30w%)+TPP−PB(3w%)や、HP4032D(100%)+U−cat18x(1−3%)などは、図に示すように酸素元素比率9.1%以上となり、バルク層5の材料として適している。
HP4032D、MH700G、4EthynylPA、TPP−PBの構造は図示のとおりである。また、U−cat18xとは、「サンアプロ株式会社製特殊アミン塩U−cat18x」である。
【0046】
なお、熱可塑性樹脂を用いる場合、次の利点がある。
・成型性、量産性がよく、様々なプロセスで成型可能である。
・例えばプロセスの一つである射出成型は、タクトタイムが短く、低コスト化が見込まれる。
・後述するように低分子化合物を樹脂に添加する場合、溶剤キャスティング法により成型すると、分散性よく低分子化合物を添加可能である。
【0047】
また熱硬化性樹脂を用いる場合、次の利点がある。
・熱硬化性樹脂はモノマーから熱により重合していくため、硬化剤・温度などを調整することで、母剤樹脂の物性(強度・架橋構造)をコントロールできる。
・プロセス上溶剤を使わないために、低環境負荷が期待できる。
・始めの状態はモノマー(主に液体が多い)なので、後述する低分子化合物を添加する場合の添加・分散性が良い。
【0048】
<5.樹脂+低分子化合物によるバルク層材料>
次に、樹脂に低分子化合物を添加したバルク層5の材料について述べる。
即ちバルク層5が、有機材料に低分子化合物を添加したものであってバルク層5を構成する全元素に対する酸素元素の比率が9.1%以上となる材料によって形成される例である。
【0049】
樹脂に低分子化合物を加えることで、酸素元素比率を上げ、これによって再生信号のノイズ低減を実現することもできる。
図11(a)は、材料A,B,Cとして酸素元素比率とノイズレベルを示している。
材料Aは、酸素元素比率8.889%の非晶ポリアリレート単体である。
これに対し、図11(c)のように低分子化合物としてビス(2,4−ジニトロフェニル)酢酸エチルを添加剤として用いる。
図11(b)に示すように材料Bは、非晶ポリアリレートに対してビス(2,4−ジニトロフェニル)酢酸エチルが重量比99:1で添加されたものである。
材料Cは、非晶ポリアリレートに対してビス(2,4−ジニトロフェニル)酢酸エチルが重量比97:3で添加されたものである。
添加量を多くしていくことで、図11(a)のように酸素元素比率が高くなり、それに伴ってノイズレベルが減少する。
【0050】
つまり、単体では酸素元素比率9.1%未満の樹脂を用いても、適切な低分子化合物を適切量添加することで、酸素元素比率9.1%以上とすることができ、ノイズ低減に適したバルク層5を形成できる。
【0051】
さらに図12に例を挙げる。この図12に示す材料D,E,F,Gも、非晶ポリアリレートに対して低分子化合物を添加したものである。
材料Dは、4,4−ジニトロビフェニルを1wT%添加したものである。
材料Eは、2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物を5wT%添加したものである。
材料Fは、3,3−ジニトロベンゾフェノンを3wT%添加したものである。
材料Gは、2,2−ジニトロビフェニルを3wT%添加したものである。
これらの材料D,E,F,Gも酸素元素比率9.1%以上となり、バルク層5の材料として適している。
【0052】
以上のように、樹脂材料に低分子化合物を添加することで、酸素元素比率9.1%以上のバルク層5材料を実現できる。
もちろんベースとなる樹脂材料としては、図8,図9,図10に挙げた酸素元素比率9.1%以上のものを用い、これに低分子化合物を添加してもよい。この場合、酸素元素比率を25%以上とすることもできる。酸素元素比率が高いほど、ノイズレベルとして有利なバルク層5を形成できる。
さらに、図6,図7に挙げたような、酸素元素比率9.1%未満の樹脂をベースとして用いて低分子化合物を添加し、酸素元素比率9.1%以上の材料を実現できることで、使用可能な樹脂の選択性を広げることもできる。
【0053】
添加剤としての低分子化合物についても多様に考えられるが、図13に一例を挙げる。
添加剤としては、酸素元素を含み、かつガス化しやすい成分S,N,C,Oを有する官能基・結合が好ましい。これに当てはまるものとして、図13(a)のケトン・カルボン酸・アルコール・エーテル、図13(b)の過酸化物、図13(c)の酸無水物、図13(d)のニトロ・シアナト・アミノ、図13(e)のスルホなどが考えられる。
【0054】
図14に、樹脂に低分子化合物を添加した材料を用いる場合のバルク層5の製造手順の例を示す。
図14(a)は、溶液製膜法といわれるものである。
まず低分子化合物の添加剤を溶媒へ溶解する(ST1)。これにより低分子添加剤溶液を得る(ST2)。次に樹脂を低分子添加剤溶液へ溶解する(ST3)。これにより樹脂溶液を得る(ST4)。
そして樹脂溶液を基板6上に塗布し(ST5)、加熱乾燥させる(ST6)。乾燥後、基板6上にバルク層5としての記録層が作成される(ST7)。
【0055】
図14(b)は、熱プレス成形の手法である。
まず樹脂と低分子添加剤を熱混合する(ST11)。これにより樹脂と添加剤の混合物を得る(ST12)。そして加熱プレス機で延伸する(ST13)。延伸された混合物が、記録層となるバルク層5として用いられる(ST14)。
【0056】
以上、実施の形態の光記録媒体1としてバルク層5の材料について述べてきたが、本発明の光記録媒体の記録層として用いることができる材料は、上掲した材料に限定されない。
樹脂単体を用いる場合、酸素元素比率9.1%以上の樹脂で記録層を形成する。
複数の樹脂を用いる場合、酸素元素比率9.1%以上の複数の樹脂を混合した材料を用いればよい。又は酸素元素比率9.1%未満の樹脂と酸素元素比率9.1%以上の樹脂を混合し、結果として記録層の酸素元素比率が9.1%以上となるものであってもよい。
樹脂に低分子化合物を添加する場合、ベースとなる樹脂としては酸素元素比率9.1%以上の樹脂であってもよいし、9.1%未満の樹脂であっても良い。低分子化合物の添加により、酸素元素比率9.1%以上となればよい。
これらの条件を満たすように材料が選定されればよい。
【0057】
また本発明の光記録媒体の構造として、図1に示した構造は一例に過ぎない。ボイド形成による記録を行うバルク型光記録媒体の構造例は多様に考えられる。
例えば凹凸パターンを有する案内溝がバルク層5と基板6の間に形成される構造、案内溝が存在しない構造なども想定される。
さらに、ディスク状の光記録媒体ではなく、カード型の光記録媒体など、他の形状の光記録媒体としても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 記録媒体、2 カバー層、3 選択反射膜、4 中間層、5 バルク層、L0〜L(n) 情報記録層、6 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料によって形成されている光記録媒体。
【請求項2】
上記有機材料は熱可塑性樹脂である請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
上記有機材料は熱硬化性樹脂である請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項4】
上記有機材料の酸素元素比率は25%以下である請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項5】
上記有機材料は、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリオキシメチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ジアリルフタレート、ポリアミドイミド、又はポリウレタンのいずれかである請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項6】
上記記録層は、酸素元素比率が9.1%以上の複数の樹脂を混合した材料によって形成されている請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項7】
レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、樹脂に低分子化合物を添加したものであって酸素元素比率が9.1%以上となる材料によって形成されている光記録媒体。
【請求項8】
上記材料は、酸素元素比率が9.1%未満の樹脂に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である請求項7に記載の光記録媒体。
【請求項9】
上記材料は、酸素元素比率が9.1%以上の樹脂に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である請求項7に記載の光記録媒体。
【請求項1】
レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、酸素元素比率が9.1%以上の有機材料によって形成されている光記録媒体。
【請求項2】
上記有機材料は熱可塑性樹脂である請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
上記有機材料は熱硬化性樹脂である請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項4】
上記有機材料の酸素元素比率は25%以下である請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項5】
上記有機材料は、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリオキシメチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ジアリルフタレート、ポリアミドイミド、又はポリウレタンのいずれかである請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項6】
上記記録層は、酸素元素比率が9.1%以上の複数の樹脂を混合した材料によって形成されている請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項7】
レーザ光照射によって空孔マークが形成されるバルク型の記録層を有するとともに、上記記録層は、樹脂に低分子化合物を添加したものであって酸素元素比率が9.1%以上となる材料によって形成されている光記録媒体。
【請求項8】
上記材料は、酸素元素比率が9.1%未満の樹脂に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である請求項7に記載の光記録媒体。
【請求項9】
上記材料は、酸素元素比率が9.1%以上の樹脂に低分子化合物を添加して、酸素元素比率が9.1%以上とされた材料である請求項7に記載の光記録媒体。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【公開番号】特開2012−18703(P2012−18703A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153553(P2010−153553)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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