説明

光送信装置、光受信装置、及び光通信システム

【課題】複数の発光素子が配列された光源を用いた光通信において、誤り率を向上させることができるようにする。
【解決手段】階層分割部30によって、複数種類の空間周波数成分が対応する複数の階層に分類された複数の送信データに対して、それぞれの階層に分類されたデータ毎に誤り訂正符号化部32によって誤り訂正符号化を行い,それぞれの階層に対応する誤り訂正符号化された送信データを重畳部34によって1つの信号に重畳することで階層的符号化を実現し、これをバイアス部36によってバイアスを加え、駆動信号生成部38によって各発光素子に対する輝度値データに変換することで、それぞれの送信データを前記複数の階層の各々に対応する空間周波数成分に分離されたパターンとみなし、各空間周波数成分が混在したパターンとして前記複数の発光素子を点灯させ,データ伝送を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信装置、光受信装置、及び光通信システムに係り、特に、複数の発光素子の点灯によってデータ通信を行う光送信装置、光受信装置、及び光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、可視光を使った通信方式が知られている(例えば、特許文献1)。特に、複数のLEDを利用した光空間通信では、個々のLEDをそれぞれ変調して情報伝送を行う。受信側では、カメラで取得した個々のLEDの位置、及び輝度情報から復調を行う。
【0003】
このとき、送受信装置間の距離が離れている場合、カメラの受信画像でLEDが重なり合ってしまい、個々のLEDを識別できなくなる。LEDが重なり合い、個々のLEDが識別できない受信画像は、高周波数成分が失われ、低周波数成分が多い画像である。つまり、送受信機間の距離が遠い場合に得られる受信画像は、高周波数成分が劣化しており、低周波数成分が多く残った画像となっている。
【0004】
このような個々のLEDが重なり合った低周波数成分の画像からでも、重要なデータだけは取り出せるようにした方法として、階層的符号化が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許公開2010−28481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者は、階層的符号化を用いた光送信装置、光受信装置、及び光通信システムを既に特許出願している(特許公開2010−28481)。この方法によれば、送受信機間の距離が長い場合には高優先度データのみ、送受信間距離が短い場合には高優先度データに加えて低優先度データも受信できる。しかしながら、上記の階層的符号化は2次元高速ハールウェーブレット変換などの2次元直交変換に基づくため設計の自由度が低く、十分な誤り率が得られないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、誤り率を向上させることができる光送信装置、光受信装置、及び光通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために第1の発明に係る光送信装置は、複数の発光素子が配列された光源と、複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データの少なくとも1つに対し、誤り訂正符号化を行う訂正符号化手段と、前記訂正符号化手段による誤り訂正符号化の後、前記複数の送信データを1つの信号に重畳して重畳送信データを生成する重畳送信データ生成手段と、前記重畳送信データのパターンに基づいて前記複数の発光素子を点灯させる点灯制御手段とを含む構成となっている。
【0009】
第1の発明に係る光送信装置によれば、複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データに対して、それぞれの階層に分類された送信データの少なくとも1つに対し、誤り訂正符号化を行う。次にこれらの階層に分かれた送信データを1つの信号に重畳することで、それぞれの送信データを前記複数の階層の各々に対応する空間周波数成分に分離されたパターンとみなし、階層的符号化を実現する。
【0010】
次に複数の階層に対応する送信データを複数の発光素子からなる発光素子群に割り当て、複数の階層の各々に対応する空間周波数成分に分離されたパターンとみなし、複数の階層に対応する送信データを、各空間周波数成分が混在したパターンとして、複数の発光素子群の輝度値データに変換し、輝度値データに基づいて発光素子を点灯させる。
【0011】
このように、複数種類の空間周波数成分が対応する階層毎に、送信データを独立に生成でき、また複数種類に階層化されたデータは単純な重畳により階層的符号化を実現できるため、従来技術のような高速ハールウェーブレット変換に基づく階層的符号化で問題となった、LED数が4のべき乗で無ければならない、正方配置で無ければならない、などの制約が無くなる。さらに、単純な重畳により階層的符号化を実現するために装置構成が簡単であり、演算量も小さくなる。
【0012】
従って、LED信号機のようにLEDを丸く配置した場合、一時停止の規制標識のようにLEDを逆三角形に配置した場合でも複数種類の空間周波数成分に分かれた階層的符号化が実現できることになり、設計の自由度が向上し、結果として誤り率を向上できる。
【0013】
第2の発明に係る光受信装置は、上記の第1の発明に係る光送信装置の前記複数の発光素子を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像された画像が表わす前記複数の発光素子の輝度値データを、低い空間周波数成分に対応する前記複数の発光素子から成る複数の発光素子群に割り当てられた送信データから順に、復調あるいは復調と誤り訂正復号を行う復号化手段とを含んで構成されている。
【0014】
第2の発明に係る光受信装置によれば、撮像手段によって、上記の第1の発明に係る光送信装置の複数の発光素子を撮像する。復調手段によって、撮像手段によって撮像された画像が表わす複数の発光素子の輝度値データを、低い空間周波数成分に対応する前記複数の発光素子群に割り当てられた送信データから順に復調あるいは復調と誤り訂正復号を行う。低い空間周波数成分の画像は送受信間距離が長くても劣化無く撮像されるため低い空間周波数成分に割り当てられた送信データは誤り無く受信できる。従って、低い周波数成分に割り当てられた送信データから順に復調あるいは復調と誤り訂正復号を行うことで、送受信間距離に応じて各階層に割り当てられたデータの再生ができる。
【0015】
第3の発明に係る光通信システムは、複数の発光素子が配列された光源と、複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データの少なくとも1つに対し、誤り訂正符号化を行う訂正符号化手段と、前記訂正符号化手段による誤り訂正符号化の後、前記複数の送信データを1つの信号に重畳して重畳送信データを生成する重畳送信データ生成手段と、前記重畳送信データのパターンに基づいて前記複数の発光素子を点灯させる点灯制御手段とを含む光送信装置と上記の光送信装置の前記複数の発光素子を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像された画像が表わす前記複数の発光素子の輝度値データを、低い空間周波数成分に対応する前記複数の発光素子から成る複数の発光素子群に割り当てられた送信データから順に、復調あるいは復調と誤り訂正復号を行うことで送信データを再生する光受信装置とを含んで構成されている。
【0016】
このような光通信システムを用いることで、複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データを重畳することで階層的符号化を実現できるため、従来技術のような高速ハールウェーブレット変換に基づく階層的符号化より装置構成が簡単であり、演算量も小さくなる。よって、結果として階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【0017】
第4の発明に係る光送信装置によれば、複数の発光素子が配列された光源と、複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データ毎に、異なる誤り訂正符号化方式によって行う誤り訂正符号化を行う訂正符号化手段と、前記訂正符号化手段による誤り訂正符号化の後、前記複数の送信データを1つの信号に重畳して重畳送信データを生成する重畳送信データ生成手段と、前記重畳送信データのパターンに基づいて前記複数の発光素子を点灯させる点灯制御手段とを含む光送信装置を含む構成となっている。
【0018】
このように、複数の階層に分類された複数の送信データ毎に、異なる誤り訂正符号化を行うことで、各空間周波数成分に適した誤り訂正符号化を行うことができるため、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【0019】
第5の発明に係る光送信装置によれば、複数の発光素子が配列された光源と、複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データ毎に、各々符号化率が異なる誤り訂正符号化方式によって行う誤り訂正符号化を行う訂正符号化手段と、前記訂正符号化手段による誤り訂正符号化の後、前記複数の送信データを1つの信号に重畳して重畳送信データを生成する重畳送信データ生成手段と、前記重畳送信データのパターンに基づいて前記複数の発光素子を点灯させる点灯制御手段とを含む光送信装置を含む構成となっている。
【0020】
このように、複数の階層に分類された複数の送信データ毎に、各々符号化率が異なる誤り訂正符号化を行うことで、各空間周波数成分により適した誤り訂正符号化を行うことができるため、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【0021】
第6の発明に係る光送信装置によれば、複数の発光素子が配列された光源と、複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データ毎に、異なる誤り訂正符号化方式によって行う誤り訂正符号化を行う訂正符号化手段と、前記訂正符号化手段による誤り訂正符号化の後、前記複数の送信データを1つの信号に重畳して重畳送信データを生成する重畳送信データ生成手段と、前記空間周波数成分に対応する輝度値分布に従い重畳送信データと輝度値を対応させることで重畳送信データの変調を行い、前記重畳送信データのパターンに基づいて前記複数の発光素子を点灯させる点灯制御手段と、を含む光送信装置を含む構成となっている。
【0022】
このように、複数の階層に分類された複数の空間周波数成分に対応する輝度値分布に従い、重畳送信データと輝度値を対応させることで、他の空間周波数成分に対応する階層のデータの影響を減少させることができるため、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【0023】
第7の発明に係る光受信装置は、前記撮像手段によって撮像された画像が表わす前記複数の発光素子の輝度値データを、それぞれの階層の空間周波数成分に対応する前記複数の発光素子群に割り当てられた該送信データの領域で平均を取ることで、該空間周波数成分より高い空間周波数成分に割り当てられた送信データの影響を取り除く復調手法を含んで構成されている。
【0024】
このように、復調において、それぞれの階層の空間周波数成分に対応する前記複数の発光素子群に割り当てられた該送信データの領域で平均を取ることで、該空間周波数成分より高い空間周波数成分に割り当てられた送信データの影響を取り除くことができ、各空間周波数成分に対応する階層の送信データについて、他の空間周波数成分の影響を受けずに、誤り訂正を行うことができるため、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【0025】
第8の発明に係る光受信装置は、上記の第7の発明に係る光受信装置で再生した送信データに対し、上記第4の発明に係る光送信装置および第5の発明に係る光送信装置および第6の発明に係る光送信装置と同様に誤り訂正符号化、データ変調を行うことで該階層の複数の発光素子の輝度値データを再生成し、それを撮像された画像が表わす前記複数の発光素子の輝度値データから減算する減算手段を含む構成となっている。
【0026】
こうすることで、複数の階層に対応する空間周波数成分毎に誤り訂正符号化が行われた送信データに対して、低い空間周波数成分に割り当てられた送信データがそれより高い周波数成分に割り当てられた送信データに与える干渉を除去することができるため、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【0027】
第9の発明に係る光受信装置は、上記第8の発明に係る光受信装置において再生した送信データに対し、上記第4の発明に係る光送信装置および第5の発明に係る光送信装置および第6の発明に係る光送信装置と同様に誤り訂正符号化、データ変調を行い、それぞれの発光素子が周りの発光素子へ与える干渉と光通信路の特徴を表すフィルタを通すことで、該階層の複数の発光素子の輝度値データを再生成し、それを発光素子の輝度値データから減算することで該送信データが他の階層のデータに与える影響を取り除く手段を含む構成となっている。
【0028】
こうすることで、複数の階層に対応する空間周波数成分毎に誤り訂正符号化が行われた送信データに対して、低い空間周波数成分に割り当てられた送信データがそれより高い周波数成分に割り当てられた送信データに与える干渉を該送信データに対応する発光素子が周りの発光素子に与える干渉と光通信路特徴を表すフィルタの両者を用いてより正確に表すことができるため、干渉の影響がより軽減できるようになり、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【0029】
第10の発明に係る光受信装置は、上記第8の発明に係る光受信装置および第9の発明に係る光受信装置の一連の手段を繰り返し実行することで受信誤り率特性を改善する手段を含む構成となっている。
【0030】
このように上記第8の発明に係る光受信装置および第9の発明に係る光受信装置の一連の手段を繰り返し行うことで、各空間周波数成分に割り当てられた送信データを精度良く復調し、復号することができるようになるばかりでなく、該データを用いて該データに対応する発光素子が周りの発光素子に与える干渉と光通信路特徴を表すフィルタの両者を用いて該データによる干渉をより正確に表すことができるため、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明の光送信装置、光受信装置、及び光通信システムによれば、各階層の送信データを重畳することで階層的符号化を実現し、また、他の階層の影響を受けないように低い空間周波数成分に割り当てられたデータから順に復調、誤り訂正復号を行うことで各空間周波数成分に対応する階層の送信データについて、他の空間周波数成分の影響を取り除くことができるため、階層的符号化を用いた光通信において、誤り率を向上させることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る光通信システムの光送信装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光通信システムの光受信装置の構成を示す概略図である。
【図3】(a)高優先度データを空間周波数が最も低くなるようにLEDアレイに割り当てたイメージ図、(b)は低優先度データを空間周波数が最も高くなるようにLEDアレイに割り当てたイメージ図、(a’)高優先度データをLEDアレイ全体の1/4のLEDが同じように点滅するようにLEDアレイを割り当てたイメージ図、及び(b’)低優先度データを2×2の4個のLEDに割り当てたイメージ図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る光送信装置の信号生成部の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る光受信装置の画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の本実施の形態に係る高優先度データのBER特性と従来方法(特許公開2010−28481)によるBER特性を比較したグラフ。
【図7】本発明の本実施の形態に係る低優先度データのBER特性と従来方法(特許公開2010−28481)によるBER特性を比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、車両に搭載された車載カメラと、LED信号機との間で、光通信によってデータを送受信する光通信システムに、本発明を適用した場合を例に説明する。
<実施形態>
実施の形態に係る光通信システムは、例えば、LED信号機の複数のLED発光素子を用いて構成され、それらのLEDを高速に点滅させてデータを送信する光送信装置12と、車両に搭載された光受信装置14とを備えている。
【0034】
図1に示すように、光送信装置12は、LED信号機に設けられ、かつ、複数のLEDを二次元配列(例えば、16×16)した発光源としてのLEDアレイ26と送信データ生成装置22で生成された送信データからLEDアレイを駆動するための信号を生成する信号生成部24を備えている。
【0035】
光送信装置12のLEDアレイ26の複数のLEDは、任意の形に並べられている。本実施の形態では、LEDが16×16の正方行列上に配置された256個のLEDから構成される場合について説明する。u行v列の位置に配置されているLEDをLED(u,v)と表わし、u、vは1, 2, . . . ,16である。
【0036】
また、信号生成部24では送信データ生成装置22で送信された送信データを各LEDの輝度値に変換する。各LEDは、点灯および消灯によって輝度を変化させるが、本実施の形態では、その輝度を高速に変化させるため、人間の目では輝度の変化をはっきりと見ることが出来ない。また、並べられたLED全てを用いる必要はなく、一部のLEDのみの輝度を変化させるようにしてもよい。
【0037】
図4に示すように、信号生成部24ではLEDアレイ26を駆動するための信号を生成する。
信号生成部24は階層分離部30、誤り訂正符号化部32、重畳部34、バイアス部36、駆動信号生成部38を備えている。
【0038】
階層分離部30では、データの優先度毎に複数種類の空間周波数成分が対応するようにデータを複数の階層に分離する。
例えば、2種類の階層に分離されたデータを考える。これを高優先度データと低優先度データとする。
【0039】
階層分離部30では、高優先度データを低空間周波数成分に、低優先度データを高空間周波数成分に割り当てる。これは、LEDアレイのどのLEDを用いて高優先度データあるいは低優先度データを伝送するのかを対応づけることになる。
【0040】
図3に高優先度データと低優先度データをLEDアレイに割り当てた場合の一例を示す。図3(a)は高優先度データを空間周波数が最も低くなるようにLEDアレイに割り当てた場合であり、LEDアレイ全体、すなわち全てのLEDが同じように点滅することで高優先度データを伝送する。図3(b)は低優先度データを空間周波数が最も高くなるようにLEDアレイに割り当てた場合であり、256個のLEDがそれぞれ個別に低優先度データを伝送する。こうすることで、高優先度データはLEDアレイのLED全てを用いて伝送するため、通信距離が遠くとも画像として認識できることになる。これは低空間周波数成分に高優先度データを割り当てていることになり、よって、遠距離でも通信ができることになる。一方、低優先度データに対しては高空間周波数成分に割り当てているため、通信距離が遠くなると画像の劣化のため、個々のLEDの識別が困難となり受信できなくなる。図3(a’)は高優先度データをLEDアレイ全体の1/4のLEDが同じように点滅することで高優先度データを伝送する場合であり、図3(b’)は低優先度データを2×2の4個のLEDに割り当てて低優先度データを伝送する場合である。
【0041】
以下、高優先度データは図3(a)、低優先度データは図3(b)のように割り当てるものとして説明する。
誤り訂正符号化部32では、階層分離部30によってデータの優先度毎に複数種類の空間周波数成分が対応するように分類されたデータが入力され、そのデータに対してそれぞれの階層に応じた誤り訂正符号化処理が施されることで、その階層の優先度データが生成される。それぞれの優先度データは重畳部34にて重畳、すなわち各誤り訂正符号化部32で誤り訂正符号化された各優先度信号を加算することで階層的符号化を実現している。そしてバイアス部36でバイアスが与えられ、駆動信号生成部38によりLEDアレイ26を駆動する信号を生成する。
【0042】
重畳部34では、各優先度信号を重畳することで階層的符号化を実現する。
例えば、誤り訂正符号化後の高優先度信号が{−1,+1}の値を取り、誤り訂正符号化後の低優先度信号も同様に{−1,+1}の値を取る場合、重畳された信号は{−2,0,+2}の3値を取る。
【0043】
バイアス部36では、重畳された信号に対し、バイアスを加える。これにより出力は{0,+2,+4}の3値に変換される。
駆動信号生成部38では、バイアスされた信号を用いLEDアレイを駆動するための信号を生成する。例えば、個々のLEDを0〜255の輝度値で制御する場合、バイアス部の出力を対応する輝度値、例えば{0,128,255}に変換する。そして、駆動信号生成部38によって生成された駆動信号に基づいて、LEDアレイ26を点滅させて、送信すべきデータを送信する。
【0044】
光受信装置14は、図2に示すように、車載の光通信用カメラ(2次元イメージセンサ)で構成され、かつ、光送信装置12のLEDアレイ26を高速に連続して撮像する高速カメラ52と、高速カメラ52によって撮像された撮像画像に対して、種々の画像処理を行って、デジタルデータである画像を生成すると共に、生成された画像に基づいて、データ復調を行なう画像処理部54とを備えている。光受信装置14は、画像処理部52の出力データを、受信データとして出力装置56に出力する。
【0045】
正規化部64では輝度値取得部62の出力に対し、正規化を行い、階層信号受信部66へ入力され、それぞれの階層に対応する優先度データが再生される。
ここで、階層信号受信部66は、優先度の高いデータから順にデータ再生を行う。
【0046】
階層信号受信部66は、光通信路等化部72、平均部74、誤り訂正復号部76、しきい値判定部78を含んで構成される。
光通信路等化部72では、正規化部の出力、すなわち光通信路を通ってきた光信号に対して光通信路等化を施し、光信号の歪みを修正する。
【0047】
光通信路等化後の信号は平均部74にて平均をとる。ここで、平均は該優先度データの領域で平均をとる。たとえば、高優先度データを図3(a)のようにLEDアレイの全てのLEDに割り当てている場合、LED(u,v)の全てのLED(256個)で平均をとる。正規化、光通信路等化後の信号が{−1,0,+1}を取るものとすると、高優先度データは全てのLEDで同じ値、すなわち{−1,+1}のいずれかであるのに対し、低優先度データはLED毎に異なることになる。ここで、低優先度データも{−1,+1}のいずれかであるため、これを全てLEDで平均をとると、平均値は概ね0に収束する。これより、低優先度データによる干渉の影響無く高優先度データが再生できる。
【0048】
平均部74の出力は誤り訂正復号部76にて誤りが訂正され、さらにしきい値判定部78によってデータが再生される。以上の処理は優先度の高いデータから順に行う。
次に高優先度データについては、階層信号再生成部67にて、該階層の信号が再生成された後、干渉除去部68によって、正規化部64の出力から該階層信号による干渉成分が除去される。
【0049】
階層信号再生成部67は、誤り訂正符号化部82、光通信路フィルタ部84を含んで構成される。
しきい値判定部78によって再生されたデータは、光送信装置12と同じ誤り訂正符号部82によって誤り訂正符号化され、光通信路フィルタ部84にて該優先度信号が再生される。この信号を用いて干渉除去部68によって該信号が他の階層信号に与える干渉を除去する。ここでは階層信号再生成部67によって再生された信号を正規化部64の出力から減算する単純な操作を行うものとする。
【0050】
例えば、高優先度データと低優先度データの2階層のデータが重畳されて伝送される場合、最初の階層信号受信部66では高優先度データが再生される。
再生された高優先度データをもとに、階層信号再生成部67にて高優先度信号が再生される。正しくデータが再生された場合、この高優先度信号は{−1,+1}のいずれかの値を持つ。
【0051】
これを正規化部64の出力から減算する。先に述べたように正規化部64の出力は{−1,0,+1}の3値をとるが、干渉除去部68において高優先度信号を減算するため、その出力は{−1,+1}の値をもつ信号となる。
【0052】
以上のように高優先度データが与える干渉を取り除いた信号、すなわち干渉除去部68の出力は階層信号受信部66にて低優先度データが再生される。なお、この階層信号受信部66の平均部74においては低優先度データのデータ領域で平均をとる。低優先度データは図3(b)のように、個々のLEDにデータを割り当てているため平均をとる領域は1である。
【0053】
次に、本実施の形態に係る階層的符号化に関する実験結果について説明する。
実験は、従来方法として、特許公開2010−28481の階層的符号化にハールウェーブレット変換を用いた場合と、本実施の形態である重畳により階層的符号化を行った場合とを行った。
【0054】
実験諸元を表1に示す。
【0055】
【表1】

実験においては、通信距離を20m〜70mとし、5mごとに静止環境で測定した。図6は従来方法と本実施の形態に係る階層的符号化による高優先度データのBER特性を示しており、実線は本実施の形態に係る階層的符号化を用いた時のBER特性であり、点線は従来方法を用いた時のBER特性を示している。
【0056】
図6より、本実施の方法の高優先度データは通信距離20m〜70mの区間で誤り訂正符号(ターボ符号)を用いた場合は言うに及ばず、誤り訂正符号を用いない場合でもエラーフリーを達成した。一方、従来方法では、誤り訂正符号(ターボ符号)を用いた場合はエラーフリーとなったが、誤り訂正符号を用いない場合は35mまでしかエラーフリーとならない。
【0057】
従来方法では、階層的符号化を行うためにウェーブレット変換を採用しているため、設計の自由度が低く、結果として、本実施の方法のように低い空間周波数成分を利用することができない。加えて、輝度値が5値を取るため、輝度値が正確に得られないと受信に失敗してしまう。一方、本実施の方法では、従来方法より低い空間周波数成分に高優先度データを割り当てることができ、かつ、輝度値も3値であり、受信時のロバスト性が向上している。以上の理由により、従来方法より誤り率が向上できる。
【0058】
図7に従来方法と本実施の形態に係る階層的符号化による低優先度データのBER特性を示す。図7より誤り訂正符号(ターボ符号)が無い場合は、従来方法および本実施の方法では、ほぼ同じBER特性であり、両者に優位な差は見られない。一方、誤り訂正符号(ターボ符号)の効果は、従来方法および本実施の方法の両者で顕著であり、本実施の方法では、45mまでエラーフリーを達成している。しかし、従来方法では35mまでしかエラーフリーを達成できていない。以上より、本実施の方法は低優先度データに対しても誤り率の向上ができることが分かる。
【0059】
なお、上記の実施の形態では、2つの階層に分類された場合について例を示したが2つ以上の階層に分類する場合でも良い。
また、2つの階層に分類された高優先度データと低優先度データに対して、同じ誤り訂正符号化を行った例を示したが、これに限定されるものでは無く、各優先度毎に異なる誤り訂正符号化、あるいは誤り訂正符号化を行わない場合を含めても良い。
【0060】
また、発光素子として、LEDを用いた場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、発光素子として、レーザーダイオード(LD)を用いても良い。
また、送信データに対して定められた優先度に基づいて、送信データを階層に分類する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、予め階層に分類された送信データが、光送信装置に入力されるようにしてもよい。
【0061】
また、信号生成部24は、階層分離部30により、送信データを3種以上(例えば、3種、4種、5種、6種・・・)に分離し、それらを重畳部34において重畳してもよい。その場合、信号生成部24は、送信データを分離する数に応じた誤り訂正符号部32を備えればよい。
【0062】
また、光受信装置14は、送信データを上記のように3種以上に分離する場合は、図5に示す画像処理部54の構成を、送信データの種類の数と同じ数の階層信号受信部66、階層信号再生成部67、干渉除去部68を持つ構成になるように変えればよい。
【符号の説明】
【0063】
12 光送信装置
14 光受信装置
22 送信データ生成装置
24 信号生成部
26 LEDアレイ
30 階層分離部
32 誤り訂正符号化部
34 重畳部
36 バイアス部
38 駆動信号生成部
52 高速カメラ
54 画像処理部
56 出力装置
62 輝度値取得部
64 正規化部
66 階層信号受信部
67 階層信号再生成部
68 干渉除去部
72 光通信路等化部
74 平均部
76 誤り訂正復号部
78 しきい値判定部
82 誤り訂正符号化部
84 光通信路フィルタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子が配列された光源と、
複数種類の空間周波数成分が対応するように定められた複数の階層に分類された複数の送信データの少なくとも1つに対し、誤り訂正符号化を行う訂正符号化手段と、
前記訂正符号化手段による誤り訂正符号化の後、前記複数の送信データを1つの信号に重畳して重畳送信データを生成する重畳送信データ生成手段と、
前記重畳送信データのパターンに基づいて前記複数の発光素子を点灯させる点灯制御手段と、
を含む光送信装置。
【請求項2】
前記訂正符号化手段は、誤り訂正符号化を行う送信データについては、複数の階層に分類された複数の送信データ毎に、異なる誤り訂正符号化方式によって訂正符号化を行うことを特徴とする請求項1記載の光送信装置。
【請求項3】
前記異なる誤り訂正符号化方式とは、各々符号化率が異なる訂正符号化方式であることを特徴とする請求項2記載の光送信装置。
【請求項4】
前記点灯制御手段は、前記空間周波数成分に対応する輝度値分布に従い重畳送信データと輝度値を対応させることで重畳送信データの変調を行うことを特徴とする請求項1記載の光送信装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項記載の光送信装置の前記複数の発光素子を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段によって撮像された画像が表わす前記複数の発光素子の輝度値データを、低い空間周波数成分に対応する前記複数の発光素子から成る複数の発光素子群に割り当てられた送信データから順に、復調あるいは復調と誤り訂正復号を行うことで送信データを再生する光受信装置。
【請求項6】
前記撮像手段によって撮像された画像が表わす前記複数の発光素子の輝度値データを、それぞれの階層の空間周波数成分に対応する前記複数の発光素子群に割り当てられた該送信データの領域で平均を取ることで、該空間周波数成分より高い空間周波数成分に割り当てられた送信データの影響を取り除く復調手法を含むことを特徴とする請求項5記載の光受信装置。
【請求項7】
再生した送信データに対し、前記光送信装置と同様に誤り訂正符号化、データ変調を行うことで該階層の複数の発光素子の輝度値データを再生成し、それを撮像された画像が表わす前記複数の発光素子の輝度値データから減算する減算手段を含むことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の光受信装置。
【請求項8】
前記減算手段は、再生した送信データに対し、前記光送信装置と同様に誤り訂正符号化、データ変調を行い、それぞれの発光素子が周りの発光素子へ与える干渉と光通信路の特徴を表すフィルタを通すことで、該階層の複数の発光素子の輝度値データを再生成し、それを発光素子の輝度値データから減算することを特徴とする請求項7記載の光受信装置。
【請求項9】
前記減算手段は、その処理を繰り返し実行することを特徴とする請求項7又は請求項8記載の光受信装置。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光送信装置と、請求項5〜9のいずれか1項に記載の光受信装置と、から構成される光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−165302(P2012−165302A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25716(P2011−25716)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】