説明

光透過型電波吸収体

【課題】 電波シールド特性、電波吸収特性、および透過視認性、通気性などに優れ、ETCレーン間の電波シールド壁として使用できる安価で高性能の光透過性電波吸収体を提供すること。
【解決手段】 電波吸収材Kの被覆を施した金属部材Mにより構成され、相対面積が全体の30%以上の開口部Pを有してなることを特徴とする光透過型電波吸収体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光透過型電波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN、ETC(Electronic Toll Collection System)、携帯電話などの無線を用いたデジタル通信の利用が急速に普及し、それに伴い電磁波の干渉問題や情報漏洩などの問題が社会問題となりつつあり、対策技術の一つとして電波吸収体の利用が広がっている。
【0003】
電波吸収体に要求される特性として、電波の吸収性能、広帯域性(広い周波数領域で必要な吸収特性、一般的には20dB以上が維持されることが吸収体の性能の一指針となる)、軽量あるいは薄型、屋外での使用では耐候性、さらに大面積に使用するには安価であることなどである。特に近年、電波吸収体の用途拡大に伴い、多様な環境で使用されることが増えつつあり、電波吸収特性以外の性能、たとえば光透過性、耐風性、通気性、意匠性等、多様な付帯特性が求められつつある。
【0004】
特に、ETCでは、料金所ゲート天井に取り付けられた路上アンテナと、車に取り付けられた車載アンテナとの間の無線通信により車両の確認や料金の課金が行われるが、この場合、路上アンテナから放射される電波が隣接レーンに漏洩した場合、隣接レーンを走行する車両との間に通信が成立してしまい誤動作となる。従って路上アンテナからの電波は所定のレーンのみに到達し、隣接するレーンには漏洩しない様にする必要が生じる。通信エリアを限定し、誤動作を防止するためにはレーン間に電波シールドを設ける必要がある。この電波シールドは電波が隣のレーンに漏洩することを防止すると同時にレーン間でお互いに隣の車両を確認できる光透過性を有することが求められる。料金所ゲートを出て本線上に合流する際の車線変更時に隣接レーンを走行する別の車両が確認できることが安全上必要とされるからである。 このような電波シールドに現在用いられているものとして金網あるいは透明型電波吸収体があるが、電波シールド特性、電波反射抑制性能、視認性を有し、かつ大面積に施工可能な安価な特徴を兼ね備える電波吸収体はまだ充分満足のいくものが提案されていない。
【0005】
現在、電波吸収体として一般的に使用されているものに、焼結フェライトのタイルや樹脂やゴム、あるいは繊維にフェライト粉末、カーボン粉末などの電磁波損失材料を分散、あるいは被着させ板状に形成したものを単層あるいは多層に重ねて形成した平板型吸収体、発泡ポリスチロールなどにカーボンなどを含有させピラミッド形状あるいはウエッジ形状に成形してこれを並べたピラミッド型、ウエッジ型などがあり、要求性能や使用環境によってそれぞれ使い分けられている。平板型吸収体にはさらに、ゴムあるいは樹脂にカーボンあるいはフェライトを含侵、あるいは樹脂繊維にカーボンを被着させこれを重ねて板状に成形した複合シート型吸収体、抵抗皮膜や繊維、導電性塗料を塗布した抵抗皮膜型吸収体、さらにガラスにITOなどの透明導電膜をコーティングした透明電波吸収体等が実用化されている。
【0006】
平板型吸収体は形状が簡単であり薄型にしやすくまた比較的大面積のものが安価に作りやすいことから屋外用途で一般的に使用されているが、広帯域特性をもたせるためには多層構造とする必要があり、層数を増やせば原理的に広帯域化するが各層の設計や品質安定性、特性のマージン設計が難しくなり、またコストアップにもつながる。現実的には5層以下が一般的となっている。
【0007】
一方ピラミッド型、あるいはウエッジ型は、その広帯域特性から各種アンテナ評価や通信機器の性能評価に用いられる電波暗室の吸収体として広く用いられている。このタイプの吸収体では入射した電波の表面反射を抑える目的で、電波に対するインピーダンスを空気のインピーダンスから徐々に変えていくために先頭を尖らせたピラミッドあるいはウエッジ状にし、電磁波が内部に侵入するに従って徐々に電波を減衰させ吸収する構造となっている。広い周波数域に対応でき、高い吸収性能を得ることができるという特徴があるが、構造が大型になってしまうという欠点がある。
【0008】
これらの電波吸収体は、電磁波を吸収する電磁波損失層と、裏面に配置され電波を反射する反射層から構成されており、一般的に用いられている電波吸収層は光学的に不透明であり、また単純な板状であるため通気性などの特性は有していない。また光学的に透明な電波吸収体として提案されているITO薄膜蒸着型の電波吸収体は、電波シールド性能、電波吸収性能、光学透過特性いずれも高い性能を有しているが、製造コストが高く、また通気性などの性能に劣るため耐風性などに問題を有している。
【0009】
一方、光透過性あるいは通気性を具備した電波吸収体としては既に以下のようなものが知られている。
【0010】
先ず、金属線の周囲に磁性損失体を被覆した複合線を複数本並べた構造もの(特許文献1)が提案されている。この特許文献には磁性体粉末を被着した金属線の平行線列、あるいはそれを互いに重ね格子状にした吸収体が例示されており、このようにすることで通気性と光の透過性を持たせることができることが示されている。
【0011】
しかしながら、この電波吸収体は、原理的には金属線に磁性材料を被覆すれば、裸の金属線列、あるいは格子に比べて電波の反射強度が低下しある程度の電波吸収性を示すが、間隔を空けて磁性体被覆金属線列を並べただけでは、電波の反射は低減するものの、開口部を通過する電波の透過強度は逆に増加するため、実効的に入射した電波電力を吸収する構造としてはふさわしくない。しかも、実際の電波反射抑制効果は示されておらず、また線列の間隔や太さ、被覆層に関しても実用上の設計データは何ら示されていない。従って、これは被覆線列のみからなる吸収体であり、実効的な吸収性能やシールド性能が低く、実用上問題があるものと考えられる。
【0012】
また、他の提案として、炭素繊維などの導電性の材料を心材としてこれに粉末状フェライトを接着または塗装した構造のもの、さらにこれを糸状、紐状に作ってから編物状にした構造のもの(特許文献2)もある。また、この特許文献には心材に導電性が無い場合には導体の終端短絡板と組み合わせる必要があることが記載されている。紐状のフェライト吸収材を格子状に構成し通気性を持たせた吸収体を構成することが可能で、紐の太さや間隔を調整して電波吸収特性を変更できるとしている。また、カーボンを糸に含侵させた通気構造の電波吸収層および紐状吸収体を格子状にして成形した吸収層をかさね、終端短絡導体として金網を組み合わせた構造で通気性構造の電波吸収体が構成できることを示している。
【0013】
しかし、この電波吸収体は、実質的には糸または紐に粉末状吸収材料を被着あるいは含侵させてこれを集めて吸収体にしているもので、通気性があるという特徴以外は従来のゴム中にフェライトなどの吸収体を分散させ板状に成形し裏面に終端短絡板を設けた吸収体と構成は同じものとなっている。心材に関しての形状や太さに関して特性の制限や必要性は記載されておらず、また実際の電波吸収特性に関する開示も成されていない。従って、この提案も実効的な吸収性能が得られず、実用には適さないものと考えられる。
【特許文献1】特開昭47-24253号公報
【特許文献2】特開平4-122098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
電波シールド特性、電波吸収特性、および透過視認性、通気性などに優れ、ETCレーン間の電波シールド壁として使用できる安価で高性能の光透過性電波吸収体を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、以下の構成を要旨とするものである。
【0016】
(1)電波吸収材の被覆を施した金属部材により構成され、相対面積が全体の30%以上の開口部を有してなることを特徴とする光透過型電波吸収体(請求項1)。
【0017】
(2)前記金属部材が長尺状を呈し、この金属部材の複数本をお互いの間隔を電波波長以下として平行にあるいは格子状に配列してなることを特徴とする(1)記載の光透過型電波吸収体(請求項2)。
【0018】
(3)前記金属部材が円柱状または中空円筒状を呈するものであることを特徴とする(1)または(2)記載の光透過型電波吸収体(請求項3)。
【0019】
(4)前記電波吸収材の円偏波電波反射強度が同一の直径を有する金属部材に対して0.5dB以上低く構成されていることを特徴とする(3)記載の5.8GHz円偏波用光透過型電波吸収体(請求項4)。
【0020】
(5)ETCレーン間に適用される(1)〜(4)記載の光透過型電波吸収体(請求項5)。
【0021】
(6)前記金属部材がETCレーンに平行に配置されてなることを特徴とする(5)記載の光透過型電波吸収体(請求項6)。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば電波シールド特性、電波吸収特性、および透過視認性、通気性などに優れ、特にETCレーン間の電波シールド壁などとして実用上極めて有利に使用できる安価で高性能の光透過性電波吸収体を提供することができるといった優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明では、可視光の透過率を有し、透過視認性を有する電波吸収体を実現する方法として従来のITOを用いた透明電波吸収体に代わり、基本的には導体である金属部材に電波吸収材を施したものを構成部材として利用すると共に特定の面積を備えた部分的な開口を設けた電波吸収体を提案するものである。以下、本発明の実施態様について図1に示す電波吸収体の模式図により説明する。
【0024】
電波吸収体Eは複数本(図では5本)の長尺を呈した電波吸収構成材Cを平行に配列してこれらを適宜固定手段(図示省略)により固定、一体化して構成されている。この電波吸収構成材Cは円柱状を有する鉄線などの導体である金属部材Mを心材としてこの表面に一定の層厚で電波吸収材Kを被覆して施されたものである。電波吸収材Kは一般的な吸収材であるカーボンやフェライトなどの酸化鉄系材料をゴムなどのバインダを用いて分散させものが使用されるが、電波吸収材として周知の素材はいずれも使用可能である。
【0025】
そして、各電波吸収構成材Cは一定のピッチaを設けて配列されており、これによって電波吸収体Eは部分的に4箇所のその面積が等しい開口部Pが形成される。
【0026】
ここでこの各開口部Pの面積をSP、電波吸収体Eの縦の長さをA、横の長さをB及び各電波吸収構成材Cの間隔をtとした場合、電波吸収体Eが占める全体の面積STに対する開口部Pの合計面積SOの比率で表される相対面積(以下、開口率OPという)は、図のタイプでは次のようになる。
【0027】
開口率OP(%)=SO/ST
=SP×4/A×B
=B×t×4/A×B
=t×4/A
従って、本実施形態の如く定間隔平行列タイプでは、間隔tと電波吸収体Eの縦の長さAを適宜選定することにより開口率OPを容易に調整することができる。そして、間隔tは、ピッチaを一定とすれば、電波吸収構成材Cの径Dと反比例するから、電波吸収体Eの実際の設計に当ってピッチaを固定する場合にはこの電波吸収構成材Cの径Dすなわち金属部材Mの径dと電波吸収材Kの厚みlを調整することにより開口率を所望の範囲に設定することになる。
【0028】
本発明ではこの開口率30%以上とすることが必要不可欠である。このような開口率を有する電波吸収体Eは透過視認性が十分に確保される実質的な光透過率を備え、また適度の通気性を有することになる。また、この開口率をあまり高くすると透過強度が過剰に上がるため60%以下に維持することが好ましい。
【0029】
しかも、このように構成された電波吸収体EはETCレーン間に配設されるシールド体として特に有効である。
【0030】
ETCレーンでは、車両と通信するための路上側アンテナは、所定の通信エリアでのみ通信が成立するように、指向性の高いものとなっているため、通常は隣接レーンの車両と通信することは避けられるが、大型の車両が通過する場合、アンテナからの電波が車両に反射し、隣接レーンにまで漏洩し車載器の無応答レベルを最大10dB程度上回ってしまう。このような反射電波の漏洩を抑制するためには、少なくとも10dB程度のシールド性を有するシールド体が必要になる。単純な金属板、あるいは金網などのシールド体では充分高い電波シールド特性が得られる反面、反射強度が高くETCレーンの通信環境を乱すことから好ましくなく少なくとも5dB以上の反射減衰性能を有することが求められる。
【0031】
しかし、本発明にかかる電波吸収材Kを被覆し、電波反射損失が施されている金属部材で且つ30%以上の開口率を有する電波吸収体EによりETCレーン用のシールド体を構成することにより上記の目的の性能を容易に達成することができる。
【0032】
なお、電波反射損失のない部材で構成した場合、反射強度を下げるように部材の配置、開口を構成した場合には透過強度が増加してしまう。また逆に透過強度を低下させるように部材の配置、形状、開口を構成した場合には反射強度が増加し、両者の両立は難しい。
【0033】
ところで、一定の開口を有し、透過減衰と反射減衰の双方の特性を有する電波吸収シールド体を構成するには、所定の反射減衰特性を有する損失材で表面を被覆した部材を用い、それらの部材の間、あるいは部材内に透過視認性を有する開口部を有し、しかも電波の反射と透過を同時に抑制するように被覆部材でシールド体を構成する必要がある。透過減衰と反射減衰の両特性を同時に得るためには、電波反射損失を示す被覆材で被覆された部材を用い、しかもそれらの部材間で、入射電波が多重反射し実効的に電磁波エネルギーが吸収されるように部材の配置を構成する必要がある。
【0034】
この点に関しても、本発明の電波吸収体Eは前記の通り、金属部材Mに電波吸収材が被覆された複数本の電波吸収構成材Cを一定のピッチaを設けて平行に配列されたものであるため、各電波吸収構成材C間において入射電波が多重反射しやすく、そのため、一回の反射での反射減衰量が極めて小さくても、多重反射により実効的に大きなエネルギー損失が得られ、大きな効果を得ることができる。
【0035】
特に、ETCレーン間の電波吸収シールドを構成する場合、5.8GHzの円偏波に対して、同一の直径を有する金属導体に対して円偏波電波反射強度が0.5dB以上低い電波吸収材Kが被覆された電波吸収構成材Cを用いることで目的の性能を有する電波吸収シールドを構成することができる。
【0036】
各電波吸収構成材Cのピッチaは、開口部Pの実サイズが電波波長に近づいて大きくなっていくと透過強度が増加し電波シールド性が急速に悪化することから、電波波長以下にすることが好ましい。一方、開口率が30%以上とするためには、金属部材Mの径にもよるが、ピッチaはできるだけ大きくとることが有利であり、後述の実施例からも理解できるように具体的には17mm以上にすると良い。
【0037】
例えば、ETC用の5.8GHzに対しては波長が51.7mm、被覆無しの金属部材M列に対して、ピッチaが51.7mm以下で開口率が30%以上を与える径は 51.7×70/30=120mm程度となる。実際には被覆剤の厚み部分だけさらに金属部材Mの許容径は小さくなるので、これを考慮する必要がある。前述した一般的な電波吸収剤Kを金属部材Mを被覆してマイクロ波領域の電波吸収を意図する場合は、その厚みが数mm〜10mm程度とすると良いことから、これを配慮すれば金属部材Mの径は100mm未満とすることが望ましい。
【0038】
なお、開口率を30%以上にできるだけ大きくするためには金属部材Mの径は上記許容値を十分に下回る小さな値にする方がより好ましいといえる。
【0039】
また、ETCレーン間の干渉防護壁に適用する場合、走行方向での隣接レーンの視認性が求められることから、電波吸収体Eの主要部分となる前記金属部材Mをレーンに平行に配置するのが良い。このことにより、隣接レーンの車両走行方向の高角度にわたって充分な視認性を維持することができる。
【0040】
なお、図示の電波吸収体Eの実施形態における金属部材Mは円柱状のものを挙げたが、中空円筒状、角柱状、中空角柱状など長尺状の導体であればいずれも使用できる。但し、この中でも、円柱状、中空円筒状のものが電波吸収特性を効率的に発揮させる点でより好ましい。
【0041】
また、同実施形態では電波吸収体Eが複数本の電波吸収構成部材Cを平行に配列したものだが、これに限らず格子状に配列したものでも良く、電波吸収体Eの開口率が30%以上であれば任意の配列、構造のものが採用できる。
【実施例】
【0042】
電波吸収材料として平均厚み10μmである偏平酸化鉄粉末、あるいはカーボンブラックを用い、CRゴムをバインダーとして被覆棒を形成した。偏平酸化鉄粉は鉄鋼の熱間圧延線材表面に形成される酸化スケールを機械的に除去して得られる粉末を粉砕、篩い分級しサイズを30~75μmにそろえた。 CRポリマーに一般的な加硫剤、加硫促進剤、加工オイル、老化防止剤、偏平酸化鉄粉、あるいはカーボンブラックを混練し、長さ550mm〜1m、心線径φ8mm〜φ20mmの軟鉄心線、あるいはφ40mm~Φ100mm鋼製パイプに一定厚みで被覆し、実験用被覆棒を作製した。 心線径がφ20mm以下に対しては、孔ダイスを用い押し出し塗装と引き続く加硫により被覆を施した。それ以上の径の心線に対しては被覆材を一旦シート状に成形、加硫後心線外周面に巻きつけて接着し実験用被覆棒とした
得られた被覆棒を一定間隔で木製フレームに固定し、電波反射、透過特性を測定した。電波吸収特性の測定はネットワークアナライザとホーンアンテナを用い、TE偏波(電場を被覆棒に平行)、TM偏波(電場を被覆棒に垂直)での複素反射係数、複素透過係数を測定し、以下の式で円偏波反射係数、円偏波透過係数を算出した。 反射係数の測定は試料と同サイズの金属板を基準、また透過係数の測定は測定試料と同サイズの開口に対する透過の状態を基準にした。
【0043】
また、同一径の金属導体線の反射強度は、被覆線表面に厚み50μmのアルミシートを貼り付けて測定した。
【0044】
円偏波右旋入射左旋反射係数=(TE反射係数+TM反射係数)/2
円偏波右旋入射右旋透過係数=(TE透過係数+TM透過係数)/2
円偏波右旋入射左旋反射強度(dB)=10×log(|円偏波右旋入射左旋反射係数|
円偏波右旋入射右旋透過強度(dB)=10×log(|円偏波右旋入射右旋透過係数|
また、単一被覆棒の、同一径を有する金属導体に対する反射減衰量;対金属導体反射減衰量と呼ぶ は以下の式により算出した。
【0045】
単一被覆線の反射強度=|(単一被覆線TE反射係数+単一被覆線TM反射係数)/2|
同一径の金属導体線の反射強度=
|(同一径の金属導体線TE反射係数+同一径の金属導体線TM反射係数)/2|
対金属導体反射減衰量(dB)=
10×log(単一被覆線の反射強度/同一径の金属導体線の反射強度)
実験1
電波吸収材料として平均厚み10μmである偏平酸化鉄粉末をCRゴムに分散した被覆材を心線径Φ8mmに厚み1.92mmで被覆した被覆棒を作製した。偏平酸化鉄粉末の体積率は原料配合から計算で40.0%と推定された。単一棒での5.8GHz円偏波に対する対金属導体反射減衰量は-5.79dBだった。得られた被覆棒を一定ピッチで互いに平行に並べてフェンスを構成し、TE、TM波での反射、透過係数の計測、円偏波での反射、透過強度の算出を行った。結果を図2及び図3に示す。
【0046】
ピッチを17mm以上とすることにより、開口率が30%以上で反射減衰≦-5dB、透過減衰≦-10dBを得ることがわかった。
実験2
実験1と同じ被覆材を用い、数々の被覆径の心線に対し一定厚みの被覆を施し、それぞれで5.8GHz円偏波の反射、透過強度のピッチ依存性を評価した得られた結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1により、実施例1〜12では100mmより小さな径の心線を用い、単一被覆棒の円偏波反射減衰が-0.5dB以上で開口率30%以上、反射減衰が-5dB以下、透過減衰が‐10dB以下を満たしている。比較例13-23では被覆棒の反射減衰が0.5dBより小さいために開口率30%以上で反射減衰と透過減衰の両方を満足することができない。また心線径が100mmを越えている場合、比較例24-25では充分大きな反射減衰と透過減衰が得られるが開口率30%以上が得られない。また比較例26-28では開口率が30%以上であるが-10dB以上の透過減衰が得られない。
実験3
電波吸収材料として平均厚み10μmである偏平酸化鉄粉末をCRゴムに分散した被覆材を数々の被覆径の心線に対し一定厚みの被覆を施し、それぞれで5.8GHz円偏波の反射、透過強度のピッチ依存性を評価した。
【0049】
偏平酸化鉄粉末の体積率は原料配合から計算で23.1%と推定された。得られた被覆棒を一定ピッチで互いに平行に並べてフェンスを構成し、TE、TM波での反射、透過係数の計測、円偏波での反射、透過強度の算出を行った。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例29-40では100mmより小さな径の心線を用い、単一被覆棒の円偏波反射減衰が-0.5dB以上で開口率30%以上、反射減衰が-5dB以下、透過減衰が‐10dB以下を満たしている。
【0052】
一方、比較例41-46では被覆棒の反射減衰が0.5dBより小さいために開口率30%以上で反射減衰と透過減衰の両方を満足することができない。 また心線径が100mmを越えている場合の比較例47-49では開口率が30%以上であるが実質的な開口サイズが大きいために-10dB以上の透過減衰が得られない。
実験4
電波吸収材料としてカーボンブラックをCRゴムに分散した被覆材を数々の被覆径の心線に対し一定厚みの被覆を施し、それぞれで5.8GHz円偏波の反射、透過強度のピッチ依存性を評価した。
カーボンブラックの体積率は原料配合から計算で約19%と推定された。得られた被覆棒を一定ピッチで互いに平行に並べてフェンスを構成し、TE、TM波での反射、透過係数の計測、円偏波での反射、透過強度の算出を行った。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3から、実施例50-58では100mmより小さな径の心線を用い、単一被覆棒の円偏波反射減衰が-0.5dB以上で開口率30%以上、反射減衰が-5dB以下、透過減衰が‐10dB以下を満たしている。一方、比較例59-61では被覆棒の反射減衰は-0.5dBより大きいが実質的な開口サイズが大きいために-10dB以上の透過減衰が得られない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の電波吸収体の実施態様を説明する模式図。
【図2】実施例の実験1における電波吸収体のピッチと反射強度、透過強度の関係を示すグラフである。
【図3】実施例の実験1における電波吸収体の開口率と反射強度、透過強度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
E:電波吸収体 C:電波吸収構成材 K:電波吸収材
P:開口部 a:ピッチ t:間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波吸収材の被覆を施した金属部材により構成され、相対面積が全体の30%以上の開口部を有してなることを特徴とする光透過型電波吸収体。
【請求項2】
前記金属部材が長尺状を呈し、この金属部材の複数本をお互いの間隔を電波波長以下として平行にあるいは格子状に配列してなることを特徴とする請求項1記載の光透過型電波吸収体。
【請求項3】
前記金属部材が円柱状または中空円筒状を呈するものであることを特徴とする請求項1または2記載の光透過型電波吸収体。
【請求項4】
前記電波吸収材の円偏波電波反射強度が同一の直径を有する金属部材に対して0.5dB以上低く構成されていることを特徴とする請求項3記載の5.8GHz円偏波用光透過型電波吸収体。
【請求項5】
ETCレーン間に適用される請求項1〜4記載の光透過型電波吸収体。
【請求項6】
前記金属部材がETCレーンに平行に配置されてなることを特徴とする請求項5記載の光透過型電波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−73773(P2007−73773A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259814(P2005−259814)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月7日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会 2005年総合大会講演論文集」に発表
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】