説明

光重合開始剤組成物およびそれを用いた活性エネルギー線硬化型印刷インキ組成物

【課題】 本発明の課題は、簡便に低照射エネルギー硬化可能な活性エネルギー線硬化型インキ組成物を提供することにある。
【解決手段】 波長365nmにおけるメタノール溶液中の吸光係数が4.5×10[ml/g cm]未満の光重合開始剤(A)を1種類以上、吸光係数が4.5×10[ml/g cm]以上の光重合開始剤(B)を2種類以上含有し、前記した光重合開始剤(A)の含有量が5〜40質量%であり、前記した光重合開始剤(B)の含有量が60〜95質量%であることを特徴とする光重合開始剤組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低照射エネルギー条件下で良好に硬化する紫外線硬化型インキを、簡便に得ることが可能な光重合開始剤を、従来インキに添加することで簡便に得ることが可能な紫外線硬化型印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化型印刷物の製造には、光源として低圧、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の紫外線ランプ(UVランプ)が硬化システムとして広く用いられてきた。
【0003】
一方で近年、環境保全の観点から、より低照射エネルギー条件下で良好に硬化させることが可能な新しい紫外線硬化型インキが注目されている。
【0004】
前述の低照射エネルギー条件とは、照射される紫外線エネルギー量が従来よりも明確に少ない条件全般を指しており、例えば紫外線発光ランプの入力電力を削減する、もしくはランプ使用灯数を削減する、といった既存紫外線ランプを利用する方法に加え、近年注目される紫外線発光ダイオード光源(UV−LED)や低消費電力の紫外線蛍光ランプ、その他特殊紫外線ランプ等を含めた様々な紫外線照射光源が用いられることを前提としている。
【0005】
例えば、前述の紫外線発光ダイオード光源(UV−LED)の例として、ラミネートフィルム併用でUV−LED光源の硬化性を向上させる印刷方法(特許文献1参照)が挙げられ、UV−LED(低照射エネルギー)硬化において有効に作用する開始剤例が挙げられている。
【0006】
低照射エネルギー条件下でも良好な乾燥性を得る為には、従来インキとは異なる成分組成を有する紫外線硬化型インキを別途使用する必要があるが、低照射エネルギー条件下で有効に作用する光重合開始剤は全般に高価であり、また多くの場合、開始剤使用量を増やす必要があることから、従来インキと比較してインキ原材料費が高騰する傾向にあり、従来インキとの統合が困難であった。従って印刷会社においても、更に多種のインキを在庫管理し、また状況に応じて使い分けなければならず、インキの入れ替えや機械洗浄等の作業上の負担が増す要因と成っていた。
【0007】
前述の従来インキとは、既存紫外線ランプにより積算光量およそ40mJ/cm程度以上の紫外線エネルギーを照射されることにより良好に硬化・乾燥するインキ全般を指しており、例えばダイキュアアビリオシリーズ(DICグラフィックス社製)等が挙げられる。同様に低照射エネルギー条件下で良好に硬化・乾燥するインキの例として、紫外線発光ダイオード光源で良好に硬化・乾燥するインキとして、例えばダイキュアアビリオLEDシリーズ(DICグラフィックス社製)等が、紫外線ランプの電力・本数を削減した条件下で良好に硬化・乾燥するインキとして、例えばダイキュアアビリオSEシリーズ(DICグラフィックス社製)等が挙げられる。
【0008】
そこで光重合開始剤を液状化させた添加剤を従来インキに添加することで、低照射エネルギー条件下で良好に硬化する紫外線硬化型インキを簡便に得ることが可能となる。
【0009】
紫外線硬化型インキに有能であり、さらに添加後のミキシングを考慮すると液状の開始剤組成物が好ましい。しかし現存する液状開始剤製品は、波長350〜420nmにおける吸光係数が低い開始剤のみを使用している、もしくは吸光係数の高い開始剤の割合が低い、もしくは添加量に対しての開始剤反応効率が低い等の理由により、従来インキに添加した場合、低照射エネルギー条件下で十分な硬化反応を得ることは困難であった。
【0010】
既存の液状開始剤製品の例として、IRGACURE500(BASF社製)、IRGACURE1800(BASF社製)、IRGACURE1870(BASF社製)、IRGACURE754(BASF社製)、DAROCUR4265(BASF社製)、DAROCUR1173(BASF社製)、DAROCUR EHA(BASF社製)、DAROCUR MBF(BASF社製)、ESACURE KIP100F(Lamberti社製)、ESACURE TZM(Lamberti社製)、GENOPOL AB−1(RAHN社製)、GENOPOL TX−1(RAHN社製)等が挙げられ、いずれもインキ製品に添加することで容易に分散可能であるが、低照射エネルギー条件下では実質有効に硬化を促進することが出来ない。
【0011】
【特許文献1】特開2010−742
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、簡便に低照射エネルギー硬化可能な活性エネルギー線硬化型インキ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、吸光係数の高い開始剤を効果的に液状化させた開始剤混合物を採用することで、上記課題を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、波長365nmにおけるメタノール溶液中の吸光係数が4.5×10[ml/g cm]未満の光重合開始剤(A)を1種類以上、吸光係数が4.5×10[ml/g cm]以上の光重合開始剤(B)を2種類以上含有し、前記した光重合開始剤(A)の含有量が5〜40質量%であり、前記した光重合開始剤(B)の含有量が60〜95質量%であることを特徴とする光重合開始剤組成物を提供する。
【0015】
本発明は、第二に、前記した光重合開始剤組成物を液体状態で添加する工程を有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型印刷インキ組成物を提供する。
【0016】
本発明は、第三に、前記した光重合開始剤組成物を液体状態で添加する工程を有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型印刷インキ組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光重合開始剤組成物により、従来は低照射エネルギー条件下では特別な高感度UVインキを使用する必要があったが、一般インキに添加するだけで簡便に省エネ硬化可能なインキを得ることが可能となる。また従来インキと高感度インキ双方を在庫管理し、状況に応じて使い分ける煩雑さや、入れ替え・洗浄作業が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、吸光係数の高い開始剤を効果的に液状化させた開始剤混合物の製造方法を提供する。
【0019】
ここで述べる吸光係数の低い開始剤とは波長365nmにおけるメタノール溶液中の吸光係数が4.5×10[ml/g cm]未満の光重合開始剤(A)を示しており、吸光係数の高い開始剤とは波長365nmにおけるメタノール溶液中の吸光係数が4.5×10[ml/g cm]以上の光重合開始剤(B)を示している。
【0020】
波長365nmにおける吸光係数の高い開始剤は、一部の例外を除いて一般に低波長吸収の他開始剤と比較して構造的に分子量が大きく、共役が長く成り溶解性が低下する傾向があり、液状化が困難であり、低照射エネルギー条件下で良好な乾燥性を提供し得る液状開始剤が既存製品として存在しなかった大きな要因である。
本発明の光重合開始剤組成物では、複数の重合開始剤を混合することによる凝固点降下作用に加えて、低波長吸収の開始剤を適量混合することで液状化を促進し、従来インキに混合することにより低照射エネルギー条件下で十分に硬化し得る液状の重合開始剤混合物を提供することを特徴としている。
【0021】
吸光係数が4.5×10[ml/g cm]未満の光重合開始剤(A)の例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−ケトン、4−メチルベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2−[2[オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ−]−エチルエステルとオキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステルの混合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−ベンゾイル安息香酸メチル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルエステル、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、等が挙げられる。
この中で汎用性が高く光重合開始剤組成物を良好に液状化させる開始剤として、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−ケトン、4−メチルベンゾフェノン、ベンゾフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルが好ましく、中でも1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンが最も好ましい。
【0022】
吸光係数が4.5×10[ml/g cm]以上の常温下で液状でない光重合開始剤(B)の例としては、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モリフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4,4‘−ジエチルアミノベンゾフェノン、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2−メチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、等が挙げられる。
この中で汎用性が高く低照射エネルギー条件下で良好な乾燥性を示す開始剤として、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モリフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4,4‘−ジエチルアミノベンゾフェノン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドが好ましい。
【0023】
本発明の光重合開始剤組成物は、1種類以上の光重合開始剤(A)および2種類以上の光重合開始剤(B)から構成される。光重合開始剤組成物を容易に液状化させ、かつ保存時の成分析出・結晶化を抑制させる点において1種類以上の光重合開始剤(A)を使用することが好ましく、また光重合開始剤(B)においても、容易に液状化させ、かつ保存時の成分析出を抑制させる点においては2種類以上を用いることが好ましい。また低照射エネルギー条件下において優れたインキ乾燥性を付与する点においても、2種類以上の光重合開始剤(B)を用い、「α−アミノアルキルフェノン系化合物」、「ジアルキルアミノベンゾフェノン系化合物」、「チオキサントン系化合物」、「アシルフォスフィンオキサイド系化合物」等の化合物群から、単一系統の化合物のみを2種以上選択するよりも、異なる系統の開始剤を各々選択し2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0024】
本発明の従来インキに添加される光重合開始剤組成物の、インキ組成物中の含有率は、4〜15質量%の範囲にあることが好ましい。4質量%未満の添加量では低照射エネルギー条件下で良好な乾燥性を得ることが困難であり、また15質量%を超える添加量では、開始剤量が過剰となり、乾燥性の更なる向上が期待出来ない上、インキの着色力(顔料濃度)低下が発生するため好ましくない。
【実施例】
【0025】
次に実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。
【0026】
光重合開始剤組成物の製造方法
(実施例1:光重合開始剤組成物(混合物1)の調整)
表1に示すIRGACURE369(12.0部)、DAROCUR TPO(55.0部)、EAB−SS(18.0部)、IRGACURE184(15.0部)を配合した光重合開始剤組成物(混合物1)を、UV硬化型従来インキであるダイキュアアビリオ プロセス藍(Nタイプ、DICグラフィックス社製)へ8質量%添加し、0.150mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に印刷した後、表1に記載のUVランプ照射条件、UV−LED照射条件にて印刷物を製造した。
UVランプとしてメタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用い、UV−LEDとして発光波長ピークが385nmである紫外線発光ダイオード照射装置(パナソニック電工社製、ANUD8002T01)を用い、積算光量値の測定にはUNIMETER UIT−150−A(ウシオ電機社製)を用いた。
UVランプを用いた標準的な照射条件としては、照射距離11センチ、出力120W/cm、3灯、ラインスピード120m/min.にて紫外線照射を施し、積算光量値は69mJ/cmであった。
UVランプを用いた省エネ照射条件〔1〕(低照射エネルギー条件)としては、照射距離11センチ、出力120W/cm、1灯、ラインスピード120m/min.にて紫外線照射を施し、積算光量値は23mJ/cmであった。
UV−LEDを用いたエネ照射条件〔2〕(低照射エネルギー条件)としては、照射距離1センチ、出力100%、1灯、ラインスピード120m/min.にて紫外線照射を施し、積算光量値は22mJ/cmであった。
【0027】
(実施例2:光重合開始剤組成物(混合物2)の調整)
表1に示すIRGACURE369(10.0部)、DAROCUR TPO(40.0部)、EAB−SS(20.0部)、SPEEDCURE DETX(20.0部)、IRGACURE184(10.0部)を配合した光重合開始剤組成物(混合物2)を、UV硬化型従来インキであるダイキュアアビリオ プロセス藍(Nタイプ、DICグラフィックス社製)へ8質量%添加し、0.150mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に印刷した後、UVランプ照射条件、UV−LED照射条件共に、実施例1と同照射条件にて印刷物を製造した。
【0028】
〔比較例1〕
表1にUV硬化型従来インキであるダイキュアアビリオ プロセス藍(Nタイプ、DICグラフィックス社製)0.150mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に印刷した後、UVランプ照射条件、UV−LED照射条件共に、実施例1と同照射条件にて印刷物を製造した。
【0029】
〔比較例2〕
表1に示すIRGACURE369(6.0部)、DAROCUR TPO(25.0部)、EAB−SS(9.0部)、IRGACURE184(60.0部)を配合した光重合開始剤組成物(混合物3)を、UV硬化型従来インキであるダイキュアアビリオ プロセス藍(Nタイプ、DICグラフィックス社製)へ8質量%添加し、0.150mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に印刷した後、UVランプ照射条件、UV−LED照射条件共に、実施例1と同照射条件にて印刷物を製造した。
【0030】
〔比較例3〕
表1に示すIRGACURE369(15.0部)、DAROCUR TPO(60.0部)、EAB−SS(25.0部)を配合した光重合開始剤組成物(混合物4)を、UV硬化型従来インキであるダイキュアアビリオ プロセス藍(Nタイプ、DICグラフィックス社製)へ8質量%添加し、0.150mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に印刷した後、UVランプ照射条件、UV−LED照射条件共に、実施例1と同照射条件にて印刷物を製造した。
【0031】
〔比較例4〕
表1に示すIRGACURE184(50.0部)、BENZOPHENONE(50.0部)を配合した光重合開始剤組成物(混合物5)を、UV硬化型従来インキであるダイキュアアビリオ プロセス藍(Nタイプ、DICグラフィックス社製)へ8質量%添加し、0.150mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に印刷した後、UVランプ照射条件、UV−LED照射条件共に、実施例1と同照射条件にて印刷物を製造した。尚、混合物5はIRGACURE500の製品名にてBASF社から販売されている液状開始剤混合物と同一組成である。
【0032】
〔比較例5〕
表1に示すDAROCUR1173(50.0部)、DAROCUR TPO(50.0部)を配合した光重合開始剤組成物(混合物6)を、UV硬化型従来インキであるダイキュアアビリオ プロセス藍(Nタイプ、DICグラフィックス社製)へ8質量%添加し、0.150mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に印刷した後、UVランプ照射条件、UV−LED照射条件共に、実施例1と同照射条件にて印刷物を製造した。ダイキュアアビリオ プロセス藍の光重合開始剤としては、IRGACURU907:2−メチル−1〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォソノプロパン−1−オン 3%(BASF社製)、EAB−SS:4,4‘−ジエチルアミノベンゾフェノン 2.5%(大同化成工業社製)を含有する。
尚、混合物6はDAROCUR4265の製品名にてBASF社から販売されている液状開始剤混合物と同一組成である。
【0033】
〔光重合開始剤組成物の評価方法:液状安定性〕
光重合開始剤混合物を室温(25℃)にて1週間保管し、重合開始剤の溶解性低下に伴う析出の状態を目視で確認し、次の3段階で評価した。
3・・・重合開始剤は析出せず、外観が透明である
2・・・濁りが生じているが、沈殿していない
1・・・重合開始剤が沈殿している
【0034】
〔光重合開始剤組成物を添加したインキの評価方法:インキ粘度〕
従来インキ:DICグラフィックス社製ダイキュアアビリオ プロセス藍Nタイプに本発明の光重合開始剤組成物を8質量%添加し、インコメーターTV(タックバリュー)測定で粘度低下の状態を○×で評価した。
○・・・添加後のインキ粘度低下が小さく、インキの印刷適性に及ぼす影響が少ない
×・・・添加後のインキ粘度低下が大きく、インキの印刷適性に及ぼす影響が大きい
【0035】
〔印刷物の評価方法:乾燥性〕
紫外線照射後における印刷物の乾燥性(硬化性)の評価方法としては、爪スクラッチテストによりインキの乾燥状態を確認し、次の5段階で評価した。
5・・・完全に乾燥しており、強い力で擦っても皮膜に傷が発生しない
4・・・ほぼ乾燥しており、強い力で擦ると皮膜に僅かに傷が発生する
3・・・ほぼ乾燥しており、強い力で擦ると皮膜に明確に傷が発生する
2・・・僅かに乾燥しており、弱い力でも皮膜に明確に傷が発生する
1・・・全く乾燥していない
【0036】
【表1】

【0037】
表1中の数値は質量%である。
表1中の光重合開始剤の化学構造、メーカー名を以下に示す。
IRGACURE184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、BASF社製
BENZOPHENONE:ベンゾフェノン、Lambson社製
DAROCUR1173:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−ケトン
IRGACURE369:2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、BASF社製
DAROCUR TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、BASF社製
EAB−SS:4,4‘−ジエチルアミノベンゾフェノン、大同化成工業社製
SPEEDCURE DETX:2,4−ジエチルチオキサントン、Lambson社製
【0038】
実施例1及び2の結果において、光重合開始剤(A)を1種類以上、(B)を2種類以上含有する光重合開始剤組成物の液状安定性は問題無く、従来インキに添加した際の乾燥性は、標準的な照射条件及び省エネ照射条件(低照射エネルギー条件)のいずれにおいても実用上問題無いこと(評価:5)を確認した。
【0039】
光重合開始剤組成物を添加しない場合(比較例1)、光重合開始剤(B)の組成比が低い場合(比較例2)には、省エネ照射条件下ではインキ乾燥性が不良と成ることを確認した。また比較例2においてはインキ粘度が大きく低下してしまうことを確認した。
光重合開始剤(A)が存在しない光重合開始剤組成物(比較例3)に関しては、液状安定性が不良と成ることを確認した。
既存の液状開始剤混合物として販売されている比較例4及び比較例5の光重合開始剤組成物に関しては、省エネ照射条件下ではインキ乾燥性が不良と成ることに加え、インキ粘度が大きく低下してしまうことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の光重合開始剤組成物および紫外線硬化型組成物の製造方法およびそれを用いた紫外線硬化型印刷物は、UV硬化による印刷が求められるグラフィックイメージの印刷に加え、印字図形、コーティング、塗料、プラスチック、電子材料などの分野において、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長365nmにおけるメタノール溶液中の吸光係数が4.5×10[ml/g cm]未満の光重合開始剤(A)を1種類以上、吸光係数が4.5×10[ml/g cm]以上の常温下で液状でない光重合開始剤(B)を2種類以上含有し、前記した光重合開始剤(A)の含有量が5〜40質量%であり、前記した光重合開始剤(B)の含有量が60〜95質量%であることを特徴とする光重合開始剤組成物。
【請求項2】
前記した光重合開始剤(A)が、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−ケトン、4−メチルベンゾフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルから選ばれる1種類以上であり、前記した光重合開始剤(B)が、「α−アミノアルキルフェノン系化合物」、「ジアルキルアミノベンゾフェノン系化合物」、「チオキサントン系化合物」、「アシルフォスフィンオキサイド系化合物」から選ばれる2種類以上である請求項1に記載の光重合開始剤組成物。
【請求項3】
前記した光重合開始剤(A)が、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンであり、前記した光重合開始剤(B)が、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1及び2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モリフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン及び2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンから選ばれる1種類以上と、4,4‘−ジエチルアミノベンゾフェノン及び2,4−ジエチルチオキサントンから選ばれる1種類以上と、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドから構成される請求項1に記載の光重合開始剤組成物。
【請求項4】
前記した請求項1〜3の何れかに記載された光重合開始剤組成物を4〜15質量%含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インキ組成物。
【請求項5】
活性エネルギー線硬化型モノマー及び又はオリゴマーを含有する紫外線活性エネルギー線硬化型組成物に、前記した請求項1〜3の何れかに記載された光重合開始剤組成物を液体状態で添加する工程を有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型印刷インキ組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−36245(P2012−36245A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175331(P2010−175331)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(310000244)DICグラフィックス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】