説明

光重合開始剤

【課題】 本発明は、光、特に可視光線に対して充分な活性を有し、且つ、可能な限り不純物を含む可能性の少ない化合物からなる光重合開始剤を提供するものである。
【解決手段】 カンファーキノン等のα−ジケトン、オルトリン酸、メチルリン酸等の非重合性酸性化合物、及び、4−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等の下記一般式(1)で示されるカルボニル基置換芳香族アミンからなる光重合開始剤。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトレジスト材料、印刷製版材料、ホログラム材料、特に歯科用材料に有用な新規な光重合開始剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射によりラジカル又はイオンを発生させ、不飽和重合性化合物を重合硬化させる技術は各分野において重要な役割を果たしている。
【0003】
歯科材料領域においても光重合は重要な技術であり、接着材、コンポジットレジン、シーラント、リベース等に幅広く利用され、通常は、(メタ)アクリレート系の重合性単量体あるいはその混合物に、何らかの光重合開始剤を配合した組成物が用いられている。このような光重合開始剤としては、生体に対しての有害性の少ない可視光線によって励起可能なカンファーキノンに代表されるα−ジケトン類がある。しかし、α−ジケトンのみでは活性が充分ではないため、様々な重合促進材が開発されてきた。例えば、カンファーキノン(あるいはα−ジケトン)と各種芳香族アミン類を組み合わせることにより、高い重合活性を有する重合開始剤となることが開示されている(特許文献1〜6参照)。また、重合性リン酸エステルの脂肪族アミン塩を重合促進剤とする技術が開示されている(特許文献7〜9)。しかし、口腔内等の充分な光照射を行うことが困難である条件下では、これらの重合促進剤の活性もいまだ充分なものとは言えない。
【0004】
一方、重合性リン酸エステルを含む重合硬化性組成物を硬化させる為の光重合開始剤として、カンファーキノンとカルボニル基置換芳香族アミンからなる重合開始剤が用いられている例がある(特許文献10〜16)。しかし、これらの組成物では重合性リン酸エステルと重合開始剤の相互作用による活性向上には何ら言及しておらず、本発明の趣旨とは異なるものである。これら重合性リン酸エステルは接着性の向上などの特定の目的を持って配合されており、非重合性のリン酸化合物ではその目的を達成できない。また、この様な重合性リン酸エステルはその合成上、多種の不純物を含む複雑な組成の混合物になる傾向が強く、さらに、その有する重合性不飽和基のため易反応性であるなど精製も容易ではない。そして、これら不純物は、しばしば硬化体の着色、変色や耐光性低下の原因になったり、また、不純物の中には生体に有害のものもあり、組成物に混入した際に望ましくない影響を与えるものを含む可能性が少なくないなどの問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−110606号公報
【特許文献2】特開昭60−26002号公報
【特許文献3】特開昭60−71602号公報
【特許文献4】特開昭63−31670号公報
【特許文献5】特開平4−17380号公報
【特許文献6】特開平6−256131号公報
【特許文献7】特開昭60−11506号公報
【特許文献8】特開平2−155904号公報
【特許文献9】特開平2−279615号公報
【特許文献10】特開昭60−231606号公報
【特許文献11】特開昭60−231605号公報
【特許文献12】特開平4−273805号公報
【特許文献13】特開平5−255033号公報
【特許文献14】特開平5−132409号公報
【特許文献15】特開平6−256131号公報
【特許文献16】特開平6−336410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、光、特に可視光線に対して充分な活性を有し、且つ、できる限り不純物を含む可能性の少ない化合物からなる光重合開始剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記技術課題を解決すべく鋭意研究を行ってきた。その結果、α−ジケトン、非重合性酸性化合物及びカルボニル基置換芳香族アミンを光重合開始剤として用いることにより、従来になく高活性で、且つ、構成成分はいずれも容易に高純度のものが入手可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、(A)α−ジケトン、(B)非重合性酸性化合物、及び(C)カルボニル基置換芳香族アミンを含んでなる光重合開始剤である。
特に、本発明は、上記(C)カルボニル基置換芳香族アミンとして、下記一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは水素原子、またはアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Xは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、またはアリールアミノ基を表し、nは1〜5の整数を表す)
で示される化合物を用いた上記光重合開始剤を提供する。
【0011】
他の発明は、上記光重合開始剤と(D)ラジカル重合性単量体からなる光重合硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光重合開始剤は、従来からある光重合開始剤に比較し、極めて優れた重合活性を有し、更に、不純物混入の可能性を低減することができるため、硬化体の着色や変色がなく、また、充分な光照射を行うことが困難であると同時に、高い安全性を求められる歯科用光重合硬化性組成物の光重合開始剤に用いた場合に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の(A)α−ジケトンは公知のものを何ら制限なく用いることが可能である。
【0014】
この様なα−ジケトンを具体的に例示すると、カンファーキノン、ベンジル、ビアセチル、シクロブテンジオン、カンファーキノンスルホン酸、o−ベンゾキノン、1,2−シクロヘキサンジオン、1,2−シクロペンタンジオン、2,3−ペンタジオン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジル、アセナフテンキノン、1,2−ナフトキノン、2,3−ナフトキノン、1,2−アントラキノン、2,3−アントラキノン、1,2−フェナントレンキノン、2,3−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等が挙げられる。
【0015】
これらα−ジケトンの中でも、重合活性の高さ、生体への安全性の高さ等からカンファーキノンが最も好適に使用される。
【0016】
上記α−ジケトンは必要に応じて複数の種類を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明の(B)非重合性酸性化合物としては、一般に公知の無機酸、および有機酸を何等制限なく使用することができる。
【0018】
好適な酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酸性リン酸化合物、マレイン酸、クエン酸、およびこれらの酸性エステル、酸性アミド等の誘導体、p−トルエンスルホン酸、酢酸等が挙げられ、これらは、単独であるいは複数を混合して用いてもよい。
【0019】
このうち、歯科用途に用いる場合には、生体為外作用が少なく、取扱が容易である他、本発明の目的である重合活性の高さの理由から酸性リン酸化合物類が好適である。好適な酸性リン酸化合物類としては、オルトリン酸、ポリリン酸、メタリン酸等の縮合リン酸などの無機リン酸類の他に、それらの酸性エステル、酸性アミド等の誘導体が挙げられる。尚、本明細書においては、オルトリン酸のみならず、ポリリン酸、メタリン酸等の縮合リン酸まで含めた無機のリン酸類を単にリン酸と称し、それらの酸性エステル、酸性アミド等の誘導体を有機酸性リン酸誘導体と称することとする。
【0020】
有機酸性リン酸誘導体として、重合性不飽和基を有さないものを用いることにより、光、熱等による重合やその他の不飽和基特有の反応を防止することが可能となり、精製が容易となって、有害な不純物の含有の可能性が少ない光重合開始剤を得ることが可能である。
【0021】
この様な有機酸性リン酸誘導体としては、リン酸と重合性不飽和基を有さないアルコール又はアミンとの、モノエステル、ジエステル、モノアミド、ジアミド等が挙げられる。
【0022】
具体的には、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノラウリル、リン酸ジラウリル、リン酸モノステアリル、リン酸ジステアリル、リン酸モノ(2−エチルヘキシル)、リン酸ジ(2−エチルヘキシル)、リン酸モノイソデシル、リン酸ジイソデシル、リン酸モノフェニル、リン酸ジフェニル、リン酸モノナフチル、リン酸ジナフチル等の酸性リン酸エステル類及び対応する酸性アミド類等が挙げられる。
【0023】
これら酸性リン酸化合物の中でも、高純度のものの入手のし易さを考慮するとオルトリン酸又はポリリン酸の使用が好ましく、重合性単量体との相溶性を考慮すると有機酸性リン酸誘導体の使用が好ましい。
【0024】
上記酸性リン酸化合物は必要に応じて複数の種類を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明で用いる(C)カルボニル基置換芳香族アミンは、芳香環に、置換または非置換のアミノ基が結合し、且つカルボニル基含有基がそのカルボニル基により結合する化合物であれば制限無く使用できる。一般には、下記一般式(1)で表される化合物が使用できる。
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、Rは水素原子、またはアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Xは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、またはアリールアミノ基を表し、nは1〜5の整数を表す)
上記一般式(1)中、Rは水素原子、またはアルキル基を表す。アルキル基の構造は特に制限されるものではないが、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。また、該Rのアルキル基は置換基を有していても良く、この場合、置換基としては、水酸基、ハロゲン原子等が例示される。
【0028】
この様なアルキル基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、クロロメチル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0029】
上記一般式(1)中、Rはアルキル基を表し、その構造は特に制限されるものではないが、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。また、該Rのアルキル基は置換基を有していても良く、この場合、その置換基としては、水酸基、ハロゲン原子等が例示される。具体的には、Rで例示されたアルキル基と同じ基が挙げられる。
【0030】
Xは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、またはアリールアミノ基を表す。アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、およびアリールアミノ基において、その構造は特に制限されるものではないが、好ましくは炭素数1〜10の、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、及び炭素数6〜20の、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基である。また、これらの基は置換基を有していても良く、この場合、その置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、アルキル基、アリル基、アリール基等が挙げられる。
【0031】
この様なアルキル基を具体的に例示すると、上記Rとして例示されたアルキル基に加え、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ベンジル基等が挙げられる。また、アルコキシ基、アルキルアミノ基として、各々上記アルキル基に対応するアルコキシ基、アルキルアミノ基が挙げられる。アリール基を具体的に例示すると、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、トリル基等が挙げられ、アリールオキシ基、アリールアミノ基としては、各々これらアリール基に対応するアリールオキシ基、アリールアミノ基が挙げられる。
【0032】
Xが水素原子である一般式(1)のカルボニル基置換芳香族アミンを具体的に例示すると、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド、3−ジメチルアミノベンズアルデヒド、3−ジエチルアミノベンズアルデヒド等が挙げられ、水酸基であるものとしては、4−ジメチルアミノ安息香酸、3−ジエチルアミノ安息香酸、4−ジエチルアミノ安息香酸等が挙げられる。
【0033】
Xがアルキル基であるカルボニル基置換芳香族アミンを具体的に例示すると、3’−ジメチルアミノアセトフェノン、4’−ジメチルアミノアセトフェノン、4’−ジエチルアミノアセトフェノン、4’-ジメチルアミノプロピオフェノン、4’−ジエチルアミノプロピオフェノン等が挙げられ、アルコキシ基であるものとしては、4−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸プロピルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸ペンチルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸ヘキシルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−ブトキシエチルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸オクチルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸デシルエステル、3−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、3−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、3−ジメチルアミノ安息香酸プロピルエステル、3−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、3−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸メチルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸プロピルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸ブチルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸ペンチルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸ヘキシルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸2−ブトキシエチルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸オクチルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸デシルエステル等が挙げられ、アルキルアミノ安息香酸エチルアミド、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルアミド等が挙げられる。
【0034】
Xがアリール基である一般式(1)のカルボニル基置換芳香族アミンとしては、4−ジメチルアミノベンゾフェノン、3−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジエチルアミノベンゾフェノン、3−ジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が、アリールオキシ基であるものとしては、4−ジメチルアミノ安息香酸フェニルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸ナフチルエステル、4−ジメチルアミノ安息香酸トリルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸フェニルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸ナフチルエステル、4−ジエチルアミノ安息香酸トリルエステル等が、アリールアミノ基であるものとしては、4−ジメチルアミノ安息香酸フェニルアミド、4−ジメチルアミノ安息香酸ナフチルアミド、4−ジメチルアミノ安息香酸トリルアミド、4−ジエチルアミノ安息香酸フェニルアミド、4−ジエチルアミノ安息香酸ナフチルアミド、4−ジエチルアミノ安息香酸トリルアミド等が挙げられる。
【0035】
上記、カルボニル基置換芳香族アミン類の中でも、重合活性の高さからカルボニル基がアミノ基のパラ位にありものの使用が好ましく、Xが炭素数1〜5のアルキル基又はアルコキシ基であるものがより好ましく、さらには、それらの中でも入手、合成の容易さからRとRが同一の基であるものがより好ましい。
【0036】
上記、カルボニル基置換芳香族アミンは必要に応じて複数の種類を混合して用いてもよい。
【0037】
以上説明した本発明の光重合性開始剤において、(A)α−ジケトン、(B)非重合性酸性化合物、及び(C)カルボニル基置換芳香族アミンのそれぞれの配合比率は、特に制限されるものではないが、それぞれの質量比で、(A)α−ジケトン/(B)非重合性酸性化合物/(C)カルボニル基置換芳香族アミンが1/0.1〜5/0.05〜5であるのが好ましく、1/0.3〜3/0.3〜3であるのがより好ましい。
【0038】
本発明の光重合開始剤は、(D)ラジカル重合性単量体中に配合し、当該ラジカル重合性単量体に光を照射して重合、硬化させるためのものである。この様なラジカル重合性単量体は特に制限されず、公知の化合物を用いることが可能であるが、(メタ)アクリレート系単量体が特に好適に用いられる。
【0039】
代表的な(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体を具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の非水溶性単官能性単量体類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,4−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリロニトリル等の水溶性単官能性単量体類、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル]プロパン、2[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]−2[4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル]プロパン、2[4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル]−2[4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル]プロパン、2[4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシシフェニル]−2[4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル]プロパン等の芳香族系二官能性単量体類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジ−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサンメチレンジカルバメート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の脂肪族系二官能性単量体類、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の三ないし五官能性単量体等が挙げられる。
【0040】
これらラジカル重合性単量体は、通常、目的に応じ複数の種類を混合して用いることができる。
【0041】
本発明の光重合開始剤は、(A)α−ジケトン、(B)非重合性酸性化合物、及び(C)カルボニル基置換芳香族アミンの3成分を必須成分とするものであり、いずれが不足しても本発明が目的とする高い重合活性を得ることはできない。例えば、公知の代表的な可視光重合開始剤であり、非重合性酸性化合物を含まない、α−ジケトンとカルボニル基置換芳香族アミンからなる重合開始剤の活性は、本発明の重合開始剤に比較して明らかに劣るものである。
【0042】
本発明のα−ジケトン、非重合性酸性化合物、及びカルボニル基置換芳香族アミンからなる光重合開始剤の、上記ラジカル重合性単量体への配合量は、その効果を発現する範囲であれば特に制限されるものではないが、一般には、ラジカル重合性単量体100重量部に対して、α−ジケトン、非重合性酸性化合物、及びカルボニル基置換芳香族アミンがいずれも0.05〜10重量部であることが好ましく、0.01〜5重量部であることがより好ましく、0.1〜3重量部であるのが最も好ましい。そして、このα−ジケトンの配合量に対して、非重合性酸性化合物及びカルボニル置換芳香族アミンを、それぞれ前記した好適な質量比で配合させるのが特に好ましい。
【0043】
本発明のα−ジケトン、非重合性酸性化合物、及びカルボニル基置換芳香族アミンからなる光重合開始剤を含んでなる光重合硬化性組成物を硬化させるための光の波長及び光源は特に限定されるものではなく、その目的を達成する範囲で適宜選択すればよいが、生体への安全性、光のエネルギー、α−ジケトン類の吸収域、光源の多様さ等と考慮すると、可視光での使用に適している。特に本発明の光重合開始剤を含んでなる光重合硬化性組成物を歯科用として用いる際には、生体への為害性の少ない可視光線の使用が最適である。
【0044】
歯科領域では、コンポジットレジン、接着材、セメント、シーラント、リベース等、様々な光重合硬化性組成物が用いられるが、臨床上では、空間的、時間的及び装置の制約のため充分な光照射を行えない場合も多い。本発明の光重合開始剤をそれらの重合開始剤として用いることにより、不充分な光照射でも、充分な硬化が得られ、且つ、生体に為害性のある不純物の混入を防止することができる。
【0045】
本発明の歯科用光重合硬化性組成物には、上記三成分からなる光重合開始剤及びラジカル重合性単量体以外にも、その目的と必要性に応じて、無機及び/又は有機フィラー、重合禁止剤、水、水溶性及び/又は非水溶性有機溶媒、着色剤、抗菌剤等が配合されることがある。
【0046】
例えば、歯科用組成物をコンポジットレジンとして用いる場合には、芳香族系二官能性単量体類及び脂肪族系二官能性単量体類からなるラジカル重合性単量体100重量部、本発明の光重合開始剤の各成分を0.1〜1重量部加え、シリカ、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、バリウムガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等からなる無機フィラーを50〜500重量部、ジブチルヒドロキシトルエン等の重合禁止剤、及び着色剤を各々0.001〜1重量部配合することが好ましい。
【0047】
また、本発明の歯科用光重合硬化性組成物には必要に応じ、本発明の範囲外の他の光重合開始剤、及び熱重合開始剤を配合することも可能である。
【0048】
本発明の歯科用光重合硬化性組成物を調整する方法及び包装形態は特に制限がなく、その目的と必要性に応じ、公知の方法を適宜選択すればよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した略称、略号、及び各物性の測定方法は以下の通りである。
(1)略称、略号
・オルトリン酸:約15%の水を含有する試薬グレードのリン酸
・ピロリン酸:Hの組成式で表される縮合リン酸
・メチルリン酸、ジメチルリン酸、エチルリン酸、ジエチルリン酸、イソプロピルリン酸、ブチルリン酸及びステアリルリン酸、:各々市販の工業用酸性リン酸エステルを精製したもの。
・p−トルエンスルホン酸:純度99%の試薬グレードの1水和物
・硫酸:純度95%の試薬グレードの硫酸
・DMBE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
・DMBA:4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル
・DMA:4−ジメチルアミノアセトフェノン
・DMB:4−ジメチルアミノベンズアルデヒド
・DMPT:4−ジメチルアミノトルイジン
・DMEM:2−ジメチルアミノエチルメタクリレート
・HEMA:3−ヒドロキシエチルメタクリレート
・D−2.6E:下記化合物の混合物
【0050】
【化3】

【0051】
(但し、m+nの平均は2.6である)
・Bis−GMA:下記化合物
【0052】
【化4】

【0053】
・UDMA:下記化合物
【0054】
【化5】

【0055】
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・EHMA:2−エチルエキシルメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
・BHT:2,6−t−ブチル−4−メチルフェノール
・0.52Si−Zr:平均粒径0.52μmのシリカ−ジルコニア球状フィラー
・0.20Si−Zr:平均粒径0.20μmのシリカ−ジルコニア球状フィラー
・0.08Si−Ti:平均粒径0.08μmのシリカ−チタニア球状フィラー
・3.4Si−Zr:平均粒径3.4μmのシリカ−ジルコニア不定形フィラー
(2)硬化深度測定方法
各実施例及び比較例に記載の重合硬化性組成物を、直径6mm、深さ12mmの円筒状の孔を有する金属製割型に填入し、上下を透明PETフィルムで塞いだ。次いで、孔の片面から可視光線照射器(パワーライト:(株)トクヤマデンタル)にて30秒間光を照射した。照射終了後、直ちに割型から取り出し、未硬化部分をワイパーにて拭き取った。拭き取りは光照射終了後、20秒以内に完了させた。残存した硬化体の長さをマイクロメーターにて測定した。1試験当たり、3つの試験片の長さを測定し、その平均値を硬化深度とした。
(3)ゲル化時間測定方法
各実施例及び比較例に記載の重合硬化性組成物を容量5mlの透明ガラス製サンプル瓶に1g入れ、蓋をした。サンプル瓶の底の部分から可視光線照射器(パワーライト:(株)トクヤマデンタル)を密着させ、光を照射した。一定時間ごとにサンプル瓶を傾けて、内容物の流動性を確認し、流動しなくなった時間をゲル化時間とした。
(4)曲げ強度
幅2mm×高さ2mm×長さ25mmの角柱状の孔を有するポリテトラフルオロエチレン性割型に、各実施例及び比較例に記載の重合硬化性組成物を填入し、透明PETフィルムで覆った。可視光線照射器(パワーライト:(株)トクヤマデンタル)にて割型の両端及び中央部の3ヶ所に各30秒間光照射を行い、試験片を作成した。試験片を試験機(オートグラフ5000D、(株)島津製作所)に装着し、クロスヘッドスピード0.5mm/minで3点曲げ強度を測定した。1試験当たり、5本の曲げ強度を上記方法で測定し、その平均値を重合硬化性組成物の曲げ強度とした。
(5)歯質引っ張り接着強さ
抜去した牛前歯を、注水下、#800の耐水研磨紙で唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔のあいた両面テープを固定し接着面積を規定した。この被着面に、トクソーマックボンド2((株)トクヤマデンタル)付属のプライマーを塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した。次に、各実施例及び比較例に記載の重合硬化性組成物を薄く塗布し、厚さ1.5mm、直径14mmの円柱状のセラミックス(セラエステ、(株)トクヤマデンタル)を被着面が同一円心になるように乗せ、可視光線照射器(パワーライト、(株)トクヤマデンタル)にて30秒間光照射し接着材を硬化させた。
【0056】
上記試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、試験機(オートグラフ5000D、(株)島津製作所)を用いてクロスヘッドスピード2.0mm/minにて引っ張り、歯牙とセラミックスの引っ張り接着強さを測定した。
【0057】
1試験当たり、4本の引っ張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を重合硬化性組成物の接着強度とした。
実施例1
60重量部のHEMAと40重量部のD−2.6Eからなるラジカル重合性単量体100重量部に対し、0.5重量部のカンファーキノン、0.5重量部のオルトリン酸、0.8重量部のDMBEを配合し、遮光下攪拌し均一な液体を得た。この組成物について硬化深度を測定したところ9.6mmであった。
実施例2〜12
実施例1に示す組成のラジカル重合性単量体100重量部に、各々表1に示す組成の光重合開始剤を配合し、それらについて硬化深度を測定した。結果を表1にまとめて示した。
比較例1〜10
実施例1の組成のラジカル重合性単量体100重量部に、各々表1に示す組成の光重合開始剤を配合し、それらについて硬化深度を測定した。結果を表1にまとめて示した。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜12はα−ジケトンとしてカンファーキノンを、カルボニル基置換芳香族アミンとしてDMBEを用い、非重合性酸性化合物を各種変化させた場合の硬化深度を測定した結果である。いずれも、従来の代表的な高活性光重合開始剤を使用した、比較例1に比べ、1.5〜2倍の硬化深度を示しており、本発明の光重合開始剤の活性の高さが明らかである。実施例10〜12は、一般式(1)中のXの種類を変化させた場合の結果を代表しており、一般式(1)で表されるカルボニル基置換芳香族アミンであれば高い活性を得られることが明らかである。
【0060】
一方、比較例2〜7はカルボニル基置換芳香族アミンを含まない場合の結果、比較例8はα−ジケトンと含まない場合の結果であり、硬化深度はいずれも0であった。これらの結果からは、本発明の光重合開始剤を構成する3成分がいずれも必須であることを明らかにしている。比較例9はカルボニル基置換芳香族アミンに替えて、芳香族アミンであるが、芳香環がカルボニル基によって置換されていないアミンを使用した場合の結果であり、比較例10は同じく重合性不飽和基を有する脂肪族アミンを使用した場合の結果である。いずれの場合も、カルボニル基置換芳香族アミンを用いた場合に比べて明らかに劣っていた。
実施例13
36重量部のBis−GMA、24重量部の3G及び40重量部のEHMAからなるラジカル重合性単量体の混合物100重量部に、0.3重量部のカンファーキノン、0.5重量部のオルトリン酸、0.6重量部のDMBEを配合し、遮光下攪拌して光重合硬化性組成物を得た。この組成物について硬化深度を測定したところ10.0mmであった。
実施例14〜21
実施例13の組成のラジカル重合性単量体100重量部に、各々表2に示す組成の光重合開始剤を配合し、それらについて硬化深度を測定した。結果を表2にまとめて示した。
比較例11、12
実施例13の組成のラジカル重合性単量体100重量部に、各々表2に示す組成の非重合性酸性化合物を含まない光重合開始剤を配合し、それらについて硬化深度を測定した。結果を表2にまとめて示した。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例13〜21は、実施例1〜12とは異なるラジカル重合性単量体に、各種の割合で本発明の光重合開始剤を配合し、その硬化深度を測定したものである。この場合にも、いずれも従来の代表的な光重合開始剤組成を用いた、比較例11及び12よりも遥かに優れた硬化深度を示しており、本発明の光重合開始剤の活性の高さが明らかである。
実施例22〜28及び比較例13
25重量部のBis−GMA、17重量部の3G、8重量部のHEMA及び50重量部のMMAからなるラジカル重合性単量体の混合物100重量部に、表3に示される光重合開始剤を配合し、その組成物についてゲル化時間を測定した。結果を表3にまとめて示した。
【0063】
【表3】

【0064】
実施例22〜28はいずれも、α−ジケトンとしてカンファーキノンを、カルボニル基置換芳香族アミンとしてDMAを用い、非重合性酸性化合物の種類を変化させた場合の結果である。いずれの場合にも光重合開始剤の成分に非重合性酸性化合物を含まない場合の結果である比較例13に比べ、半分適度の時間でゲル化しており、本発明の光重合開始剤の活性の高さが明らかである。
実施例28〜31及び比較例14、15
50重量部のHEMAと50重量部のD−2.6Eからなるラジカル重合性単量体の混合物100重量部に、表4に示される光重合開始剤を混合し、その組成物について硬化深度を測定した。結果を表4にまとめて示した。
【0065】
【表4】

【0066】
実施例28〜31は、α−ジケトンとしてベンジルを用い、非重合性酸性化合物とカルボニル基置換芳香族アミンの種類を変化させて硬化深度を測定したものである。いずれの場合にも光重合開始剤の成分に非重合性酸性化合物を含まない場合の結果である比較例14及び15に比較して2倍近い硬化深度を示しており、ここでも本発明の光重合開始剤の活性の高さが明らかとなっている。
実施例32〜34及び比較例16〜18
表5に示した組成比でラジカル重合性単量体、無機フィラー及び光重合開始剤の各構成成分をメノウ乳鉢に入れ、暗所にて充分混錬した。混錬後、真空脱泡して光重合硬化性組成物を得た。この組成物について、曲げ強度及び硬化深度を測定した。結果を表5に示した。
【0067】
【表5】

【0068】
実施例32〜34は、コンポジットレジンとして本発明の歯科用光重合硬化性組成物を調製した場合の例である。いずれの場合にも対応する比較例16〜18に比較して、曲げ強度、硬化深度ともに優れており、本発明の光重合開始剤が、充分な光照射を行うことが困難な場合の歯科用の光重合硬化性組成物として有用であることがわかる。
実施例35〜37及び比較例19
表6に示した組成比でラジカル重合性単量体、無機フィラー及び光重合開始剤の各構成成分をメノウ乳鉢に入れ、暗所にて充分混錬して光硬化性組成物を得た。この組成物について、予め所定の前処理をした歯質とセラミックスとの接着強度を測定した。結果を表6に示した。
【0069】
【表6】

【0070】
実施例35〜37は、レジンセメントとして本発明の歯科用光重合硬化性組成物を調製した場合の例である。エナメル質及び象牙質のいずれの場合にも対応する比較例19及び20に比較して、接着強度が高く、歯科用の光硬化性組成物として有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)α−ジケトン、(B)非重合性酸性化合物、及び(C)カルボニル基置換芳香族アミンを含んでなる光重合開始剤。
【請求項2】
カルボニル基置換芳香族アミンが、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子、またはアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Xは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、またはアリールアミノ基を表し、nは1〜5の整数を表す)
で示される化合物である請求項1記載の光重合開始剤。
【請求項3】
(B)非重合性酸性化合物が、非重合性リン酸化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光重合開始剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の光重合開始剤、および(D)ラジカル重合性単量体を含む光重合硬化性組成物。
【請求項5】
歯科用である請求項4記載の光重合硬化性組成物。

【公開番号】特開2009−51925(P2009−51925A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219459(P2007−219459)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】