光電場増強デバイスおよび該デバイスを備えた測定装置
【課題】ラマン散乱光をより高い感度で検出し得る光電場増強デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】表面に微細凹凸構造23を備えてなる透明基板10と、微細凹凸構造23の表面に形成された金属微細凹凸構造層24とを備え、金属微細凹凸構造層24が、隣接凸部間の間隔Wmが隣接凸部間に対応する透明基板10の微細凹凸構造23の隣接凸部間の間隔Wbよりも小さい微細凹凸構造25を有するものとする。
【解決手段】表面に微細凹凸構造23を備えてなる透明基板10と、微細凹凸構造23の表面に形成された金属微細凹凸構造層24とを備え、金属微細凹凸構造層24が、隣接凸部間の間隔Wmが隣接凸部間に対応する透明基板10の微細凹凸構造23の隣接凸部間の間隔Wbよりも小さい微細凹凸構造25を有するものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局在プラズモンを誘起しうる微細な金属凹凸構造を備えた光電場増強デバイスおよび光電場増強デバイスを備えた測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面における局在プラズモン共鳴現象による電場増強効果を利用したセンサデバイスやラマン分光用デバイス等の電場増強デバイスが知られている。ラマン分光法は、物質に単波長光を照射して得られる散乱光を分光して、ラマン散乱光のスペクトル(ラマンスペクトル)を得る方法であり、物質の同定等に利用されている。
【0003】
ラマン分光法には、微弱なラマン散乱光を増強するために、表面増強ラマン(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)と呼ばれる、局在プラズモン共鳴によって増強された光電場を利用したラマン分光法がある(非特許文献1参照)。これは、金属体、特に表面にナノオーダの凹凸を有する金属体に物質を接触させた状態で光を照射すると、局在プラズモン共鳴による光電場増強が生じ、金属体表面に接触された試料のラマン散乱光強度が増強されるという原理を利用するものである。被検体を担持する担体(基板)として、表面に金属凹凸構造を備えた基板を用いることにより表面増強ラマン分光法を実施することができる。
【0004】
表面に金属微細凹凸構造を備えた基板としては、Si基板の表面に凹凸を設け、その凹凸面に金属膜を形成した基板が主に用いられている(特許文献1から3参照)。
【0005】
また、Al基板の表面を陽極酸化して一部を金属酸化物層(Al2O3)とし、陽極酸化の過程で金属酸化物層内部に自然形成され、金属酸化物層の表面において開口した複数の微細孔内に、金属が充填された基板も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−514286号公報
【特許文献2】特許第4347801号公報
【特許文献3】特開2006−145230号公報
【特許文献4】特開2005−172569号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Optics Express Vol.17, No.21 18556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4等に開示されている従来の光電場増強基板は、SiあるいはAlなどの不透明な基板表面に微細凹凸構造を形成し、その微細凹凸構造表面に金属膜を形成した、あるいは、凹部に金属を埋め込んだ構成である。また、特許文献4にはガラス基板のような透明基板を用いる例が挙げられているが、微細凹凸構造自体はシリコンあるいはゲルマニウムなどの不透明な材料から構成されている。
【0009】
従来のラマン分光装置においては、サンプル表面側からラマン散乱光を検出するよう構成されている。しかしながら、細胞などのμmオーダー以上のサンプルを被検体とする場合、サンプル自身がラマン散乱光に対する遮蔽体となり、微弱なラマン光を高いS/Nで受光するのは困難であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラマン散乱光をより高い感度で検出し得る光電場増強デバイスおよび該デバイスを備えた測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該微細凹凸構造の表面に形成された金属微細凹凸構造層とを備え、
該金属微細凹凸構造層が、隣接凸部間の間隔が該隣接凸部間に対応する前記透明基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものであり、
前記金属微細凹凸構造層に照射された光により、該金属微細凹凸構造層の表面に誘起された局在プラズモンの光電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とするものである。
【0012】
また、透明基板の微細凹凸構造に沿ってほぼ均一に金属膜が形成された場合、金属微細凹凸構造層は透明基板の微細凹凸構造と同じ凹凸構造を有するため、金属微細凹凸構造層における隣接凸部間の間隔は、その隣接凸部間に対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔と同等となるため、本発明には、透明基板の微細凹凸構造上に均一な金属膜が形成されているものは含まれない。
【0013】
なお、隣接凸部間の間隔は、断面視において隣接する凸部同士のうち低い方の凸部の頂点から該隣接する凸部間の凹部の最も深い部分までの深さの半分の深さにおける該隣接する凸部間の距離で定義するものとする。断面は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察することができ、凸部同士の間隔はSEM像から得ることができる。
【0014】
また、金属微細凹凸構造層における微細凹凸構造は、必ずしも全ての隣接凸部間が、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さいものである必要はない。すなわち、金属微細凹凸構造層は、部分的に隣接凸部間の間隔が、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔と同一あるいは大きくなる部分を含んでいてもよい。
【0015】
なお、ここで、金属微細凹凸構造層は、局在プラズモンを生じうる微細凹凸構造を有するものである。なお、局在プラズモンを生じうる微細凹凸構造とは、一般に、凹凸構造をなす凸部の基板に垂直な方向の長さおよび水平な方向の長さの少なくとも一方の平均的な大きさが励起光の波長よりも小さい凹凸構造である。
【0016】
本発明の光電場増強デバイスにおいては、前記金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造が、前記透明基板側から照射される光に対し、該金属微細凹凸構造層の該透明基板とは反対の表面に、効率よく増強された光電場を生ぜしめるものであることが好ましい。具体的には、金属微細凹凸構造層を構成する金属を蒸着成膜した場合の厚みが金では400nm以下、銀では90nm以下が好ましい。なお、この蒸着製膜した場合の厚みとは、平板基板上に金属(金あるいは銀)を蒸着した際に400nm以下、あるいは90nm以下となる蒸着量で蒸着したものであることを意味する。
【0017】
金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造は、隣接凸部間の距離が20nm以下である部分を含んでいることが好ましい。
【0018】
なお、隣接凸部間の平均的な距離および凸部の基板に垂直な方向の長さおよび水平な方向の長さの平均的な大きさは、SEMで微細凹凸構造の断面画像を撮影し、画像処理をして2値化し、統計的処理によって求めることができる。
【0019】
本明細書において、透明とは、照射される光、および該光により被検体から生じる光に対し、透過率が50%以上であることをいうものとする。なお、これらの光に対して、透過率は75%以上、さらには90%以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の光電場増強デバイスにおいて、前記金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造は、前記透明基板の微細凹凸構造の表面上に該金属微細凹凸構造層を構成する金属が凝集してなる粒状微細構造からなるものであることが好ましい。
【0021】
ここで、「金属が凝集する」とは、基板の微細凹凸構造上に金属微細凹凸構造層を形成する場合に凸部に金属が集中して塊をなすことを意味し、ここでは、この塊を粒状と称する。
なお、ここで粒状微細構造においては、その凸部(粒状部)のアスペクト比が0.5以上(基板に垂直方向の長さ/基板に水平方向の長さ)であること、すなわち、金属微細凹凸構造層の断面において、凸部の基板に垂直な方向の長さが基板に水平な方向の長さよりも大きいものであることが望ましい。
【0022】
前記金属微細凹凸構造層は、前記光の照射を受けて局在プラズモンを生じる金属からなるものであればよいが、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、プラチナ(Pt)、またはこれらを主成分とする合金からなるものであることが好ましい。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0023】
本発明の光電場増強デバイスにおいて、前記透明基板は、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する該透明基板本体とは異なる物質からなる透明微細凹凸構造層とからなるものとすることができる。
【0024】
特に、前記透明微細凹凸構造層は、金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方、すなわち、金属の水酸化物、金属酸化物の水酸化物またはそれらの両水酸化物により好適に形成することができる。
【0025】
前記透明微細凹凸構造層は、バイヤーライト(Al[OH]3)およびベーマイト(AlOOH)のすくなくとも一方からなるものとすることが特に好ましい。
その他、チタン(Ti)の水酸化物、あるいはTi酸化物の水酸化物などからなるものとすることもできる。
【0026】
前記透明基板が、裏面に反射防止膜として機能する第2の微細凹凸構造を備えてなるものとすることができる。
【0027】
このとき、前記第2の微細凹凸構造は、前記透明基板とは異なる物質により構成された第2の透明微細凹凸構造層からなるものとすることができ、該第2の透明微細凹凸構造層は、金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方、すなわち、金属の水酸化物、金属酸化物の水酸化物またはそれらの両水酸化物により好適に形成することができる。
【0028】
第2の透明微細凹凸構造層は、バイヤーライト(Al[OH]3)またはベーマイト(AlOOH)の少なくとも一方からなるものとすることが特に好ましい。
【0029】
本発明の光電場増強デバイスは、前記透明基板の前記金属微細凹凸構造層上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えた試料セルとすることができる。
【0030】
また、さらには、前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなるフローセル型の試料セルとしてもよい。
【0031】
本発明の測定装置は、本発明の光電場増強デバイスと、
該光電場増強デバイスに対して励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光の照射により生じた光を検出する光検出部とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、微細凹凸構造の表面に形成された金属微細凹凸構造層とを備え、金属微細凹凸構造層が、隣接凸部間の間隔が該隣接凸部間に対応する前記透明基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものであり、光が照射されたときに、金属微細凹凸構造層表面に局在プラズモンを効果的に誘起することができ、この局在プラズモンによる光電場増強効果を生じさせることができる。
【0033】
下地層となる透明基板の微細凹凸構造の対応する隣接凸部間よりも隣接凸部間距離が小さくなっている部分を備えているので、局在プラズモンによる光電場増強効果の向上が見込まれる。
【0034】
特に、隣接凸部間の距離が20nm以下となるような箇所があれば、その領域にはホットスポットと呼ばれる非常に強い光電場増強場を生成することができる。
【0035】
本発明の光電場増強デバイス上に被検体を配置して、該被検体が配置された領域に光が照射されることにより被検体から生じる光は光電場増強効果により増強されたものとなり、高感度に光を検出することが可能となる。
【0036】
本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光(励起光)を照射することができ、また、この光の照射により被検体から生じた光(検出光)についても、金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。被検体の種類、サイズなどに応じて、より感度よく検出することがきるように、励起光の照射、検出光の検出を金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれから行うか自由に選択することができる。すなわち、本発明の光電場増強デバイスを用いれば、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0037】
また、本発明の光電場増強デバイスにおいて、透明基板表面の微細凹凸構造を透明な微細凹凸構造層として、金属水酸化物あるいは金属酸化物の水酸化物により形成するものとすれば、金属蒸着基板を高温の水を反応させるだけの非常に簡単な製造方法で透明な微細凹凸構造を作製することができる。そのため、製造コストを従来のデバイスと比較して格段に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図
【図1B】図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図
【図2】光電場増強基板の作製方法を示す各工程における断面図
【図3A】ベーマイト層表面のSEM画像
【図3B】金属微細凹凸構造層(30nm厚)表面のSEM画像
【図3C】金属微細凹凸構造層(60nm厚)表面のSEM画像
【図3D】金属微細凹凸構造層(150nm厚)表面のSEM画像
【図3E】金属微細凹凸構造層(150nm厚)の断面のSEM画像
【図4A】光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板2を示す斜視図
【図4B】図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図
【図5】ベーマイト層の光反射率の波長依存性を示す図
【図6A】光電場増強デバイスの第3の実施形態に係る光電場増強試料セル3を示す平面図
【図6B】図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図
【図7】光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図8】増強ラマン分光装置の設計変更例を示す概略図
【図9】光電場増強試料セル3を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図10】測定サンプルについて得られたラマンスペクトル分布を示すグラフ
【図11】測定サンプルについて得られたラマン信号強度のAu蒸着膜厚依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の光電場増強デバイスの実施形態について説明する。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0040】
(第1の実施形態)
図1Aは、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図であり、図1Bは、図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図である。
【0041】
図1Aおよび図1Bに示すように、光電場増強基板1は、表面に微細凹凸構造23を備えた透明基板10と、その微細凹凸構造23の表面に形成された金属微細凹凸構造層24とからなり、金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25に照射された光(以下において、励起光とする。)により、局在プラズモン共鳴が誘起され、この局在プラズモン共鳴により金属微細凹凸構造層24の表面に増強された光電場を生じさせるものである。
【0042】
金属微細凹凸構造層24は、隣接凸部間の間隔がその隣接凸部間に対応する透明基板10の微細凹凸構造23の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものである。
【0043】
具体的には、金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25に、図1Bに示すように、凸部25aとそれに隣接する凸部25bとの間隔Wmが、これらの凸部25a、25bに対応する透明基板の微細凹凸構造23の凸部23aと凸部23bとの間隔Wbよりも小さくなっている部分があればよい。ここで、間隔Wmは、隣接する凸部25aと凸部25bのうち低い方の凸部25bの頂点から両凸部25a、25b間の凹部の最も深い部分25cまでの深さDmの半分の深さDm/2の位置での凸部25a、25b間の距離である。また、同様に間隔Wbは、隣接する凸部23aと凸部23bのうち低い方の凸部23bの頂点から両凸部23a、23b間の凹部の最も深い部分23cまでの深さDbの半分の深さDb/2の位置での凸部23a、23b間の距離である。
【0044】
金属微細凹凸構造層24は、透明基板10の微細凹凸構造23に沿って単に金属を膜状に形成した場合よりも凸部24aが丸みを帯び、隣接凸部間の距離が小さくなっている。
【0045】
金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25は、その凹凸の凸部の基板に垂直な方向の長さおよび基板に水平な方向の長さの少なくとも一方が励起光の波長より短いものとなる程度の微細な凹凸構造であり、金属微細凹凸構造層24の表面に局在プラズモンを生じうるものであればよい。
【0046】
金属微細凹凸構造層24の凸部は金属が凝集してなる粒子状であることが望ましい。粒状の凸部は、アスペクト比(基板に垂直方向の長さ/基板に水平方向の長さ)が0.5以上であることが望ましい。
【0047】
なお、金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25の凸部頂点から隣接する凹部の底部までの平均深さが200nm以下、凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の平均ピッチが200nm以下であることが好ましい。
【0048】
さらには、金属微細凹凸構造層24の平均厚みが、透明基板側から照射される光に対し、金属微細凹凸構造層の透明基板とは反対の表面に、効率よく増強された光電場を生ぜしめる厚みであることが好ましい。基板の凹凸構造上に蒸着により金属微細凹凸構造を形成する場合、金では400nm以下、銀では90nm以下の厚みとすることが好ましい。このときの厚みは、厚みの測定値ではなく、平板基板上にその厚みだけ金あるいは銀などの金属を蒸着させるときに要する蒸着量で蒸着しているものであることを意味する。
【0049】
なお、金属微細凹凸構造層における微細凹凸構造の全ての隣接凸部間が、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さいものである必要はない。一方で、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい金属微細凹凸構造層の隣接凸部間が多いほど、光電場増強の効果は顕著なものとなる。
特に、金属微細凹凸構造25の隣接凸部同士が間隔が20nm以下で近接している場合、光の照射によりこの凸部間の隙間においてホットスポットと呼ばれる非常に強い光電場増強場が生成されるため、隣接凸部間の距離が20nm以下の箇所が多数存在することが好ましい。
なお、隣接凸部同士は部分的に接触していてもよい。
【0050】
また、金属微細凹凸構造層24は、その凸部が透明基板10の微細凹凸構造23の表面から粒状に伸びるように形成されてなる粒状の凸部であることが特に好ましい。粒状であれば表面積が大きくなることから、金属表面に付着する被検体数を増加させることができ、検出光の増加に繋がる。
【0051】
金属微細凹凸構造層24を構成する金属は、励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じうる金属であればよいが、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、またはこれらを主成分とする合金である。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0052】
本実施の形態においては、透明基板10はガラス等からなる透明基板本体11と、透明基板10の表面に備えられた微細凹凸構造23を構成する、透明基板本体11とは異なる物質からなる透明微細凹凸構造層22とからなるものとしている。透明微細凹凸構造層22はベーマイト層であることが好ましいが、透明微細凹凸構造層22は、ベーマイト以外に、バイヤーライトからなるものであってもよい。また、他の金属の水酸化物また金属酸化物の水酸化物から構成されていてもよい。
【0053】
また、微細凹凸構造23は透明基板本体と異なる物質により構成されたもののみならず、透明基板本体の表面を加工することにより基板本体と同一の物質により構成されていてもよい。例えば、ガラス基板の表面をリソグラフィー、イオンビームリソグラフィーおよびナノインプリントのいずれかとドライエッチング処理することとにより、表面に微細凹凸構造を形成したものを透明基板として用いてもよい。
【0054】
なお、形成方法が容易であることから、微細凹凸構造23はベーマイト層22により構成することが最も好ましい。
【0055】
ベーマイト層などの金属または金属酸化物の水酸化物からなる透明微細凹凸構造23は、図1Bに示すように、大きさ(頂角の大きさ)や向きはさまざまであるが概ね鋸歯状の断面を有している。この透明微細凹凸構造23は、この上に金属微細凹凸構造層24が形成可能なものであればよいが、平均ピッチおよび深さが概ね励起光の波長以下とする。なおここで、透明微細凹凸構造23において、ピッチは凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の距離であり、深さは凸部頂点から隣接する凹部の底部までの距離である。
【0056】
図2を用いて、本実施形態に係る光電場増強基板1の作製方法について説明する。
【0057】
板状の透明基板本体11を用意し、透明基板本体11をアセトンおよびメタノールで洗浄する。その後、基板本体11の表面にスパッタ法によりアルミニウム20を数十nm程度成膜する。
その後、沸騰させた純水の中に、アルミニウム20付き透明基板本体11を浸水させ、数分(5分程度)後に取り出す。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20は透明化し、微細凹凸構造を構成するベーマイト層22となる。
次に、このベーマイト層22上に金属を蒸着することにより、ベーマイト層22上に金属微細凹凸構造層24が生成される。
以上の処理により光電場増強基板1を作製することができる。
【0058】
なお、図3Aは、透明基板本体(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に25nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えてなる透明基板のベーマイト層表面、および図3Bから図3Dはそれぞれベーマイト層上にAuを30nm、60nm、150nm分蒸着した基板表面をSEM(日立製S4100)にて撮影したSEM画像である。ここで、「Auを30nm、60nm、150nm分蒸着した」とは、平面基板上に蒸着した場合に30nm、60nm、150nmの厚みとなる蒸着量で蒸着したことを意味する。
【0059】
図3A〜図3D中に白く観察されるのが凸部、灰色に観察されるのが凹部である。凹凸のパターンは不規則であるが、全面に一様に形成されており、微細凹凸構造の面内均一性は高い。図3Aに示すベーマイト層表面の写真から、凹凸構造は、多数の峰状の凸部から構成されていることが分かる。なお、このベーマイト層の凹凸構造断面は図1Bに模式的に示しているように鋸歯状である。図3Bに示すように、Au30nm蒸着の場合、ベーマイト層に形成されている凹凸構造の凸部が太くなり凸部間隔が狭くなっている様子が認められる。一方で、図3Bに示す金属微細凹凸構造層の凹微細凹凸構造は、ベーマイト層表面に見られた峰状の凸部構造が概ね維持された凸部を有する凹凸構造となっている。一方、図3C、図3Dに示すように、Au60nm蒸着、150nm蒸着と厚みが厚くなるにつれ、凸部が粒状に観察されるようになり、凸部間の間隔はより近接したものとなると共に、ベーマイト層表面の凹凸構造とは異なる凹凸構造として観察される。
【0060】
図3Eは、ベーマイト層上にAuが150nm分蒸着されてなる金属微細凹凸構造層の断面のSEM画像である。この断面の画像から、凸部がベーマイト側から上方に伸びたアスペクト比がより大きい粒状となっており、金属の微細凹凸構造は粒状の凸部が多数形成されてなる粒状微細構造となっていることがわかる。また粒状の凸部間隔が非常に近接した領域が多数形成されている。なお、粒状の凸部の既述の通り、凸部間隔が概ね20nm以下である箇所に光が照射されると、「ホットスポット」と呼ばれる非常に強い光電場増強場が生成される。また、柱状に形成されることにより表面積が増加する分、金属表面に付着する被検体数が増加し、その分検出光も増加する。このように金属を150nm分程度蒸着することにより、凸部の間隔が20nm以下となる領域を容易に多数形成することができる。
【0061】
(第2の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板について説明する。図4Aは、本実施形態の光電場増強基板2を示す斜視図であり、図4Bは、図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図である。
【0062】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態の光電場増強基板1の裏面側に、第2の透明な微細凹凸構造層28を備えたものである。
【0063】
この第2の透明な微細凹凸構造層28は、透明基板10の表面側に設けられた第1の微細凹凸構造層22と同様であり、ベーマイト層により構成することができる。この裏面側の微細凹凸構造層28は、光が照射された際に反射防止膜として機能する。
【0064】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態光電場増強基板1の作製方法において、透明基板本体11の表面のみならず裏面にもアルミニウムを成膜し、その後、煮沸処理することにより得ることができる。純水中での煮沸処理により表裏のアルミニウムがベーマイトとなり、表裏面に同様の透明な微細凹凸構造層22、28を有するものとすることができる。
【0065】
なお、図5は、透明基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に50nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えた基板に対してベーマイト層表面側から、表面に垂直な方向から光を入射した場合の反射率を示したものである。本例の場合では650nm近傍の波長に対し、0.1%程度の反射率を達成している。最も反射率の低くなる波長は、例えば、最初にスパッタ形成するアルミニウムの厚みを変化させることにより干渉を制御することで調整することができる。
【0066】
(第3の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第3の実施形態係る試料セルについて説明する。図6Aは、第3の実施形態の光電場増強試料セル3を示す平面図、図6Bは、図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図である。
【0067】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、透明基板本体31とその表面に設けられた透明な微細凹凸構造層32と、該微細凹凸構造層32上に設けられた金属微細凹凸構造層34とからなる光電場増強基板30と、その金属微細凹凸構造層34上に液体試料を保持する液体試料保持部材35を備えている。
【0068】
光電場増強基板30は、第1の実施形態の光電場増強基板1とほぼ同様の構成をしている。すなわち、透明な微細凹凸構造層32および金属微細凹凸構造層34は、図1Bに示されている第1の光電場増強デバイス1の透明な微細凹凸構造層22および金属微細凹凸構造層24と同様であり、その構成物質および形成方法も同様である。
【0069】
液体試料保持部材35は、例えば、金属微細凹凸構造層34上に液体試料を保持し、液体試料の流路36aを形成するスペーサ部36と、試料を注入する注入口(流入口)38aおよび流路36aを流下した液体試料を排出する排出口(流出口)38bを備えたガラス板などの透明な上板38とから構成することができる。
【0070】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、光電場増強基板30を第1の実施形態の基板1と同様の方法で作製した後に、スペーサ部36および上板38を接着することにより得ることができる。
【0071】
なお、スペーサ部36と上板38は一体的に成型されてなるものであってもよい。あるいは、スペーサ部36は透明基板本体31と一体的に成型されてなるものであってもよい。
【0072】
上記実施形態においては、流入口および流出口を備えた流路状の試料セル(フローセル)型の光電場増強デバイスについて説明したが、液体を流入出させることができるセルではなく、単に金属微細凹凸構造層上に液体試料を保持するだけの光電場増強試料セルとしてもよい。
【0073】
また、光電場増強基板30の金属微細凹凸構造層34が設けられている領域の裏面には、第2の実施形態の光電場増強基板2と同様に、反射防止膜として機能する第2の透明な微細凹凸構造層を備えるようにしてもよい。
【0074】
上記各実施形態で説明した本発明の光電場増強デバイスは、該デバイスの金属微細凹凸構造層上に被検体を配置し、該被検体の配置箇所に対して励起光を照射し、その励起光の照射により被検体から生じた光を検出する測定方法および装置に好適に用いることができる。例えば、増強ラマン分光法、蛍光検出法などに適応することができ、増強ラマン分光法におけるラマン増強デバイスとして用いることができ、蛍光検出法における蛍光増強デバイスとして用いることができる。また、ラマン散乱光、蛍光のみならず、励起光の照射を受けた被検体から生じるレーリー散乱光、ミー散乱光、あるいは第2高調波などの検出においても、本発明の光電場増強デバイスを用いることにより、局在プラズモン共鳴に伴う増強された光電場により、増強された光を検出することができる。
【0075】
(ラマン分光法およびラマン分光装置)
以下に、上述の本発明の光電場増強基板1を用いた測定方法の例として、ラマン分光法およびラマン分光装置について説明する。
【0076】
図7は、上述の第1の実施形態に係る光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図である。
【0077】
図7に示すように、ラマン分光装置100は、上述の光電場増強基板1と、励起光L1を光電場増強基板1へ照射する励起光照射部140と、被検体Sから発せられ光電場増強基板の作用により増強されたラマン散乱光L2を検出するための光検出部150とを備えている。
【0078】
励起光照射部140は、励起光L1を射出する半導体レーザ141と、この半導体レーザ141から射出された光L1を基板1側へ反射するミラー142と、該ミラー142により反射された励起光L1を透過し、該励起光L1の照射により被検体Sから生じ増強されたラマン散乱光L2を含む基板1側からの光を光検出部150側へ反射するハーフミラー144と、ハーフミラー144を透過した励起光L1を光電場増強基板1の被検体Sが載置された領域に集光するレンズ146とを備えている。
【0079】
光検出部150は、ハーフミラー144により反射されてきた光のうち励起光L1を吸収し、それ以外の光を透過するノッチフィルタ151と、ノイズ光を除去するためのピンホール152を備えたピンホール板153と、被検体Sから発せられ、レンズ146およびノッチフィルタ151を透過した増強ラマン散乱光L2を、ピンホール152へ集光するためのレンズ154と、ピンホール152を通ったラマン散乱光を平行光化するレンズ156と、増強ラマン散乱光を検出する分光器158とを備えている。
【0080】
上述のラマン分光装置100を用いて、被検体Sのラマンスペクトルを測定するラマン分光方法について説明する。
【0081】
光照射部140の半導体レーザ141から励起光L1が射出され、励起光L1はミラー142で基板1側に反射され、ハーフミラー144を透過してレンズ146で集光されて、光電場増強基板1上に照射される。
【0082】
励起光L1の照射により、光電場増強基板1の金属微細凹凸構造層24に局在プラズモン共鳴が誘起され、金属微細凹凸構造層24表面に増強された光電場が生じる。この増強光電場により増強された、被検体Sから発せられたラマン散乱光L2は、レンズ146を透過して、ハーフミラー144で分光器158側に反射される。なお、このとき、光電場増強基板1で反射された励起光L1もハーフミラー144により反射されて分光器158側に反射されるが、励起光L1はノッチフィルタ151でカットされる。一方、励起光とは波長が異なる光はノッチフィルタ151を透過し、レンズ154で集光され、ピンホール152を通り、再度レンズ156により平行光化され、分光器158へ入射する。なお、ラマン分光装置においては、レーリー散乱光(あるいはミー散乱光)などは、その波長が励起光L1と同じであるため、ノッチフィルタ151でカットされ、分光器158へ入射することはない。ラマン散乱光L2は、分光器158に入射してラマンスペクトル測定がなされる。
【0083】
本実施形態のラマン分光装置100は、上記実施形態の光電場増強基板1を用いて構成されたものであり、効果的にラマン増強が行われているのでデータ信頼性が高く、データ再現性が良好な高精度のラマン分光測定を実施できる。光電場増強基板1の表面凹凸構造の面内均一性が高いので、同一試料に対して、光照射箇所を変えて測定を実施しても、再現性のよいデータが得られる。したがって、同一試料に対して、光照射箇所を変えて複数のデータを取り、データの信頼性を上げることも可能である。
【0084】
本実施形態のラマン分光装置100のように、光電場増強基板1の裏面から検出する構成とすることにより、被検体が細胞のような大きなサンプルである場合に、金属微細凹凸構造層と被検体との界面で最も強く生じる増強ラマン散乱光が被検体自身により遮蔽されることなく透明基板の裏面側から検出することができる。なお、本発明者らは、ある程度までの厚みの金属微細凹凸構造層であれば、透明基板の裏面側から増強ラマン散乱光を金属微細凹凸構造層による影響なく検出することができることを確認している(後記実施例参照。)。
【0085】
上述の実施形態のラマン分光装置100は、光電場増強デバイス1の試料保持面(表面)とは逆側(デバイスの裏面)から励起光を入射すると共にラマン散乱光を検出するよう構成されているが、図8に設計変更例のラマン分光装置110を示すように、従来の装置と同様に、金属微細凹凸構造層24の表面側(試料保持面)から励起光L1を入射し、かつラマン散乱光L2を検出するように構成してもよい。
【0086】
さらには、励起光照射部と、光検出部とのいずれか一方を金属微細凹凸構造層24の表面側に配置し、他方を基板1の裏面側に配置する構成としてもよい。
【0087】
このように、本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光を照射することができ、また、この光の照射により試料から生じた光についても、金属微細凹凸構造層の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。そのため、被検体の種類、サイズ等に応じて、励起光の照射、検出光の検出を金属微細凹凸構造層の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも行うことができるので、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0088】
図9は、上述の第3の実施形態の光電場増強デバイス3であるフローセルを備えたラマン分光装置120の概略構成を示す模式図である。
【0089】
図9に示すラマン分光装置120は、光電場増強基板1に代えてフローセル型の光電場増強試料セル3を備えた点で図7に示すラマン分光装置100と異なる。このようなフローセル型の光電場増強デバイスを備えることにより、被検体として液体試料を流下させつつラマン分光を測定することができる。
【0090】
なお、フローセル型のデバイス3の測定においても、金属微細凹凸構造層の表面側から励起光を入射し、金属微細凹凸構造層の表面側からラマン散乱光を検出する構成としてもよい。しかしながら、液体試料を流下させつつラマン散乱光を測定する際には、液体試料のラマン散乱光に対する透過率および吸収率が、液体試料の移動に伴い変動してしまう恐れがあることから、図9に示すように、基板30の裏面側からラマン散乱光を検出する構成とすることが好ましい。
【0091】
既述の通り、本発明の光電場増強デバイスは、プラズモン増強蛍光検出装置に適用することができる。その場合にも、光電場増強デバイスの金属微細凹凸構造層上に被検体を載置し、この被検体側から励起光を照射し、被検体側から増強された蛍光を検出してもよいし、透明基板裏面側から励起光を照射し、該裏面側から蛍光を検出するようにしてもよい。あるいは被検体側から励起光を照射し、透明基板裏面側から蛍光を検出するよう構成してもよい。
【実施例1】
【0092】
以下、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態である光電場増強基板1の具体的な作製例および測定用サンプルを用いてラマン分光測定を行った結果を説明する。
【0093】
「光電場増強基板の作製方法」
透明基板本体11として、ガラス基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)を用いた。
アセトン5分、メタノール5分の超音波洗浄(45kHz)を行った後、ガラス基板11にスパッタ装置(キャノンアネルバ社製)を用いてアルミニウム20を25nm積層した。なお、表面形状測定器(TENCOR社製)を用いて、アルミニウム厚みを測定し、厚みは25nm(±10%)であることを確認した。
【0094】
その後、ウォーターバス(西精機株式会社)の中に純水を用意して、沸騰させた。
沸騰水の中にアルミニウム20付きガラス基板11を浸水させて、5分間経過後に取り出した。この際、アルミニウム20付きガラス基板11を沸騰水に浸水させて1−2分程度でアルミニウムが透明化したことを確認した。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20はベーマイト層22となった。このベーマイト層22の表面を、SEM(日立製S4100)にて観察した結果は既述の図3Aに示した通りである。
【0095】
最後に、ベーマイト層22の表面にAuを30nm分蒸着して金属微細凹凸構造層を形成した(実施例1)。なお、同様にしてベーマイト層の表面にAuを60nm、150nm分それぞれ蒸着したサンプル(実施例2、3)も作製した。各サンプル表面のSEM画像は既述の図3B〜図3Dに示した通りである。
【0096】
(ラマン散乱光の測定)
上記方法で作製した光電場増強基板の各サンプル(実施例1〜3)上にそれぞれ被検体としてエタノールにローダミン6Gを溶かした溶液100μMを滴下し、乾燥させた測定サンプルを用い、ラマン散乱光を測定した。
【0097】
ラマン散乱光は、顕微ラマン分光装置(HR800)を用いて検出した。励起光としては、ピーク波長785nmのレーザ光を用い、倍率20倍で観測した。
【0098】
図10は、Auを60nm蒸着したサンプル(実施例2)を用い、基板の表裏からのラマン散乱光を検出して得られたラマンシフトスペクトル分布を示すグラフである。
基板の表面からの測定とは、金属微細凹凸構造層上の色素表面側から励起光を照射し、該金属微細凹凸構造層上の色素表面側からラマン散乱光を検出したものであり、基板の裏面からの測定とは、金属微細凹凸構造層下の透明微細凹凸構造側から励起光を照射し(基板の裏面から励起光を照射し)、基板の裏面側からラマン散乱光を検出したものである。
【0099】
図10から、ラマンシフト信号は、基板の表裏でほぼ同様箇所に同等の強度で検出できることが明らかになった。従来、ラマン測定において、基板の裏面側からラマン信号を検出した例は皆無であったが、本発明の光電場増強デバイスを用いた上記のラマン測定によれば、基板の裏面側からラマン信号を検出することができることが明らかである。
【0100】
なお、本実施例においては、測定用サンプルにおいて被検体として乾燥して固着させた色素を用いており、被検体の厚みが非常に薄いものであったため、表裏面からの信号強度が同レベルであったが、細胞のような1μmオーダーの厚みを有する試料についてのラマン分光を行う場合などは、増強効果の高い金属微細凹凸構造層と試料との界面近傍における信号を裏面側から検出した方が有利であると考えられる。
【0101】
図11は、実施例1〜3の各サンプルについて基板の表面からのラマン散乱光を検出して取得したラマンシフトスペクトル分布を用い、ホワイトノイズ除去後の1360cm-1のピーク強度をAu蒸着膜厚を横軸としてプロットしたグラフである。
【0102】
図11に示すように、Au蒸着膜厚が厚いほど大きい信号強度が得られた。Auの蒸着膜厚を厚くしていくと、図3B〜図3DのSEM画像から明らかなようにAuが粒状化し、さらには柱状化して金属の微細凹凸構造の表面積が増加すると共に、金属凸部間の距離が小さくなることによりホットスポットが多数発生することから、信号強度が増加するものと考えられる。
【符号の説明】
【0103】
1、2 光電場増強基板(光電場増強デバイス)
3 光電場増強試料セル(光電場増強デバイス)
10 透明基板
11、31 透明基板本体
20 アルミニウム
22、32 透明微細凹凸構造層(ベーマイト層)
23 透明基板の微細凹凸構造
24、34 金属微細凹凸構造層
25 金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造
35 液体試料保持部材
100、110、120 ラマン分光装置
140 励起光照射部
150 光検出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、局在プラズモンを誘起しうる微細な金属凹凸構造を備えた光電場増強デバイスおよび光電場増強デバイスを備えた測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面における局在プラズモン共鳴現象による電場増強効果を利用したセンサデバイスやラマン分光用デバイス等の電場増強デバイスが知られている。ラマン分光法は、物質に単波長光を照射して得られる散乱光を分光して、ラマン散乱光のスペクトル(ラマンスペクトル)を得る方法であり、物質の同定等に利用されている。
【0003】
ラマン分光法には、微弱なラマン散乱光を増強するために、表面増強ラマン(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)と呼ばれる、局在プラズモン共鳴によって増強された光電場を利用したラマン分光法がある(非特許文献1参照)。これは、金属体、特に表面にナノオーダの凹凸を有する金属体に物質を接触させた状態で光を照射すると、局在プラズモン共鳴による光電場増強が生じ、金属体表面に接触された試料のラマン散乱光強度が増強されるという原理を利用するものである。被検体を担持する担体(基板)として、表面に金属凹凸構造を備えた基板を用いることにより表面増強ラマン分光法を実施することができる。
【0004】
表面に金属微細凹凸構造を備えた基板としては、Si基板の表面に凹凸を設け、その凹凸面に金属膜を形成した基板が主に用いられている(特許文献1から3参照)。
【0005】
また、Al基板の表面を陽極酸化して一部を金属酸化物層(Al2O3)とし、陽極酸化の過程で金属酸化物層内部に自然形成され、金属酸化物層の表面において開口した複数の微細孔内に、金属が充填された基板も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−514286号公報
【特許文献2】特許第4347801号公報
【特許文献3】特開2006−145230号公報
【特許文献4】特開2005−172569号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Optics Express Vol.17, No.21 18556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4等に開示されている従来の光電場増強基板は、SiあるいはAlなどの不透明な基板表面に微細凹凸構造を形成し、その微細凹凸構造表面に金属膜を形成した、あるいは、凹部に金属を埋め込んだ構成である。また、特許文献4にはガラス基板のような透明基板を用いる例が挙げられているが、微細凹凸構造自体はシリコンあるいはゲルマニウムなどの不透明な材料から構成されている。
【0009】
従来のラマン分光装置においては、サンプル表面側からラマン散乱光を検出するよう構成されている。しかしながら、細胞などのμmオーダー以上のサンプルを被検体とする場合、サンプル自身がラマン散乱光に対する遮蔽体となり、微弱なラマン光を高いS/Nで受光するのは困難であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラマン散乱光をより高い感度で検出し得る光電場増強デバイスおよび該デバイスを備えた測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該微細凹凸構造の表面に形成された金属微細凹凸構造層とを備え、
該金属微細凹凸構造層が、隣接凸部間の間隔が該隣接凸部間に対応する前記透明基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものであり、
前記金属微細凹凸構造層に照射された光により、該金属微細凹凸構造層の表面に誘起された局在プラズモンの光電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とするものである。
【0012】
また、透明基板の微細凹凸構造に沿ってほぼ均一に金属膜が形成された場合、金属微細凹凸構造層は透明基板の微細凹凸構造と同じ凹凸構造を有するため、金属微細凹凸構造層における隣接凸部間の間隔は、その隣接凸部間に対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔と同等となるため、本発明には、透明基板の微細凹凸構造上に均一な金属膜が形成されているものは含まれない。
【0013】
なお、隣接凸部間の間隔は、断面視において隣接する凸部同士のうち低い方の凸部の頂点から該隣接する凸部間の凹部の最も深い部分までの深さの半分の深さにおける該隣接する凸部間の距離で定義するものとする。断面は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察することができ、凸部同士の間隔はSEM像から得ることができる。
【0014】
また、金属微細凹凸構造層における微細凹凸構造は、必ずしも全ての隣接凸部間が、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さいものである必要はない。すなわち、金属微細凹凸構造層は、部分的に隣接凸部間の間隔が、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔と同一あるいは大きくなる部分を含んでいてもよい。
【0015】
なお、ここで、金属微細凹凸構造層は、局在プラズモンを生じうる微細凹凸構造を有するものである。なお、局在プラズモンを生じうる微細凹凸構造とは、一般に、凹凸構造をなす凸部の基板に垂直な方向の長さおよび水平な方向の長さの少なくとも一方の平均的な大きさが励起光の波長よりも小さい凹凸構造である。
【0016】
本発明の光電場増強デバイスにおいては、前記金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造が、前記透明基板側から照射される光に対し、該金属微細凹凸構造層の該透明基板とは反対の表面に、効率よく増強された光電場を生ぜしめるものであることが好ましい。具体的には、金属微細凹凸構造層を構成する金属を蒸着成膜した場合の厚みが金では400nm以下、銀では90nm以下が好ましい。なお、この蒸着製膜した場合の厚みとは、平板基板上に金属(金あるいは銀)を蒸着した際に400nm以下、あるいは90nm以下となる蒸着量で蒸着したものであることを意味する。
【0017】
金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造は、隣接凸部間の距離が20nm以下である部分を含んでいることが好ましい。
【0018】
なお、隣接凸部間の平均的な距離および凸部の基板に垂直な方向の長さおよび水平な方向の長さの平均的な大きさは、SEMで微細凹凸構造の断面画像を撮影し、画像処理をして2値化し、統計的処理によって求めることができる。
【0019】
本明細書において、透明とは、照射される光、および該光により被検体から生じる光に対し、透過率が50%以上であることをいうものとする。なお、これらの光に対して、透過率は75%以上、さらには90%以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の光電場増強デバイスにおいて、前記金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造は、前記透明基板の微細凹凸構造の表面上に該金属微細凹凸構造層を構成する金属が凝集してなる粒状微細構造からなるものであることが好ましい。
【0021】
ここで、「金属が凝集する」とは、基板の微細凹凸構造上に金属微細凹凸構造層を形成する場合に凸部に金属が集中して塊をなすことを意味し、ここでは、この塊を粒状と称する。
なお、ここで粒状微細構造においては、その凸部(粒状部)のアスペクト比が0.5以上(基板に垂直方向の長さ/基板に水平方向の長さ)であること、すなわち、金属微細凹凸構造層の断面において、凸部の基板に垂直な方向の長さが基板に水平な方向の長さよりも大きいものであることが望ましい。
【0022】
前記金属微細凹凸構造層は、前記光の照射を受けて局在プラズモンを生じる金属からなるものであればよいが、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、プラチナ(Pt)、またはこれらを主成分とする合金からなるものであることが好ましい。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0023】
本発明の光電場増強デバイスにおいて、前記透明基板は、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する該透明基板本体とは異なる物質からなる透明微細凹凸構造層とからなるものとすることができる。
【0024】
特に、前記透明微細凹凸構造層は、金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方、すなわち、金属の水酸化物、金属酸化物の水酸化物またはそれらの両水酸化物により好適に形成することができる。
【0025】
前記透明微細凹凸構造層は、バイヤーライト(Al[OH]3)およびベーマイト(AlOOH)のすくなくとも一方からなるものとすることが特に好ましい。
その他、チタン(Ti)の水酸化物、あるいはTi酸化物の水酸化物などからなるものとすることもできる。
【0026】
前記透明基板が、裏面に反射防止膜として機能する第2の微細凹凸構造を備えてなるものとすることができる。
【0027】
このとき、前記第2の微細凹凸構造は、前記透明基板とは異なる物質により構成された第2の透明微細凹凸構造層からなるものとすることができ、該第2の透明微細凹凸構造層は、金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方、すなわち、金属の水酸化物、金属酸化物の水酸化物またはそれらの両水酸化物により好適に形成することができる。
【0028】
第2の透明微細凹凸構造層は、バイヤーライト(Al[OH]3)またはベーマイト(AlOOH)の少なくとも一方からなるものとすることが特に好ましい。
【0029】
本発明の光電場増強デバイスは、前記透明基板の前記金属微細凹凸構造層上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えた試料セルとすることができる。
【0030】
また、さらには、前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなるフローセル型の試料セルとしてもよい。
【0031】
本発明の測定装置は、本発明の光電場増強デバイスと、
該光電場増強デバイスに対して励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光の照射により生じた光を検出する光検出部とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、微細凹凸構造の表面に形成された金属微細凹凸構造層とを備え、金属微細凹凸構造層が、隣接凸部間の間隔が該隣接凸部間に対応する前記透明基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものであり、光が照射されたときに、金属微細凹凸構造層表面に局在プラズモンを効果的に誘起することができ、この局在プラズモンによる光電場増強効果を生じさせることができる。
【0033】
下地層となる透明基板の微細凹凸構造の対応する隣接凸部間よりも隣接凸部間距離が小さくなっている部分を備えているので、局在プラズモンによる光電場増強効果の向上が見込まれる。
【0034】
特に、隣接凸部間の距離が20nm以下となるような箇所があれば、その領域にはホットスポットと呼ばれる非常に強い光電場増強場を生成することができる。
【0035】
本発明の光電場増強デバイス上に被検体を配置して、該被検体が配置された領域に光が照射されることにより被検体から生じる光は光電場増強効果により増強されたものとなり、高感度に光を検出することが可能となる。
【0036】
本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光(励起光)を照射することができ、また、この光の照射により被検体から生じた光(検出光)についても、金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。被検体の種類、サイズなどに応じて、より感度よく検出することがきるように、励起光の照射、検出光の検出を金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれから行うか自由に選択することができる。すなわち、本発明の光電場増強デバイスを用いれば、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0037】
また、本発明の光電場増強デバイスにおいて、透明基板表面の微細凹凸構造を透明な微細凹凸構造層として、金属水酸化物あるいは金属酸化物の水酸化物により形成するものとすれば、金属蒸着基板を高温の水を反応させるだけの非常に簡単な製造方法で透明な微細凹凸構造を作製することができる。そのため、製造コストを従来のデバイスと比較して格段に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図
【図1B】図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図
【図2】光電場増強基板の作製方法を示す各工程における断面図
【図3A】ベーマイト層表面のSEM画像
【図3B】金属微細凹凸構造層(30nm厚)表面のSEM画像
【図3C】金属微細凹凸構造層(60nm厚)表面のSEM画像
【図3D】金属微細凹凸構造層(150nm厚)表面のSEM画像
【図3E】金属微細凹凸構造層(150nm厚)の断面のSEM画像
【図4A】光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板2を示す斜視図
【図4B】図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図
【図5】ベーマイト層の光反射率の波長依存性を示す図
【図6A】光電場増強デバイスの第3の実施形態に係る光電場増強試料セル3を示す平面図
【図6B】図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図
【図7】光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図8】増強ラマン分光装置の設計変更例を示す概略図
【図9】光電場増強試料セル3を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図10】測定サンプルについて得られたラマンスペクトル分布を示すグラフ
【図11】測定サンプルについて得られたラマン信号強度のAu蒸着膜厚依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の光電場増強デバイスの実施形態について説明する。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0040】
(第1の実施形態)
図1Aは、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図であり、図1Bは、図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図である。
【0041】
図1Aおよび図1Bに示すように、光電場増強基板1は、表面に微細凹凸構造23を備えた透明基板10と、その微細凹凸構造23の表面に形成された金属微細凹凸構造層24とからなり、金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25に照射された光(以下において、励起光とする。)により、局在プラズモン共鳴が誘起され、この局在プラズモン共鳴により金属微細凹凸構造層24の表面に増強された光電場を生じさせるものである。
【0042】
金属微細凹凸構造層24は、隣接凸部間の間隔がその隣接凸部間に対応する透明基板10の微細凹凸構造23の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものである。
【0043】
具体的には、金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25に、図1Bに示すように、凸部25aとそれに隣接する凸部25bとの間隔Wmが、これらの凸部25a、25bに対応する透明基板の微細凹凸構造23の凸部23aと凸部23bとの間隔Wbよりも小さくなっている部分があればよい。ここで、間隔Wmは、隣接する凸部25aと凸部25bのうち低い方の凸部25bの頂点から両凸部25a、25b間の凹部の最も深い部分25cまでの深さDmの半分の深さDm/2の位置での凸部25a、25b間の距離である。また、同様に間隔Wbは、隣接する凸部23aと凸部23bのうち低い方の凸部23bの頂点から両凸部23a、23b間の凹部の最も深い部分23cまでの深さDbの半分の深さDb/2の位置での凸部23a、23b間の距離である。
【0044】
金属微細凹凸構造層24は、透明基板10の微細凹凸構造23に沿って単に金属を膜状に形成した場合よりも凸部24aが丸みを帯び、隣接凸部間の距離が小さくなっている。
【0045】
金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25は、その凹凸の凸部の基板に垂直な方向の長さおよび基板に水平な方向の長さの少なくとも一方が励起光の波長より短いものとなる程度の微細な凹凸構造であり、金属微細凹凸構造層24の表面に局在プラズモンを生じうるものであればよい。
【0046】
金属微細凹凸構造層24の凸部は金属が凝集してなる粒子状であることが望ましい。粒状の凸部は、アスペクト比(基板に垂直方向の長さ/基板に水平方向の長さ)が0.5以上であることが望ましい。
【0047】
なお、金属微細凹凸構造層24の微細凹凸構造25の凸部頂点から隣接する凹部の底部までの平均深さが200nm以下、凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の平均ピッチが200nm以下であることが好ましい。
【0048】
さらには、金属微細凹凸構造層24の平均厚みが、透明基板側から照射される光に対し、金属微細凹凸構造層の透明基板とは反対の表面に、効率よく増強された光電場を生ぜしめる厚みであることが好ましい。基板の凹凸構造上に蒸着により金属微細凹凸構造を形成する場合、金では400nm以下、銀では90nm以下の厚みとすることが好ましい。このときの厚みは、厚みの測定値ではなく、平板基板上にその厚みだけ金あるいは銀などの金属を蒸着させるときに要する蒸着量で蒸着しているものであることを意味する。
【0049】
なお、金属微細凹凸構造層における微細凹凸構造の全ての隣接凸部間が、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さいものである必要はない。一方で、対応する基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい金属微細凹凸構造層の隣接凸部間が多いほど、光電場増強の効果は顕著なものとなる。
特に、金属微細凹凸構造25の隣接凸部同士が間隔が20nm以下で近接している場合、光の照射によりこの凸部間の隙間においてホットスポットと呼ばれる非常に強い光電場増強場が生成されるため、隣接凸部間の距離が20nm以下の箇所が多数存在することが好ましい。
なお、隣接凸部同士は部分的に接触していてもよい。
【0050】
また、金属微細凹凸構造層24は、その凸部が透明基板10の微細凹凸構造23の表面から粒状に伸びるように形成されてなる粒状の凸部であることが特に好ましい。粒状であれば表面積が大きくなることから、金属表面に付着する被検体数を増加させることができ、検出光の増加に繋がる。
【0051】
金属微細凹凸構造層24を構成する金属は、励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じうる金属であればよいが、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、またはこれらを主成分とする合金である。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0052】
本実施の形態においては、透明基板10はガラス等からなる透明基板本体11と、透明基板10の表面に備えられた微細凹凸構造23を構成する、透明基板本体11とは異なる物質からなる透明微細凹凸構造層22とからなるものとしている。透明微細凹凸構造層22はベーマイト層であることが好ましいが、透明微細凹凸構造層22は、ベーマイト以外に、バイヤーライトからなるものであってもよい。また、他の金属の水酸化物また金属酸化物の水酸化物から構成されていてもよい。
【0053】
また、微細凹凸構造23は透明基板本体と異なる物質により構成されたもののみならず、透明基板本体の表面を加工することにより基板本体と同一の物質により構成されていてもよい。例えば、ガラス基板の表面をリソグラフィー、イオンビームリソグラフィーおよびナノインプリントのいずれかとドライエッチング処理することとにより、表面に微細凹凸構造を形成したものを透明基板として用いてもよい。
【0054】
なお、形成方法が容易であることから、微細凹凸構造23はベーマイト層22により構成することが最も好ましい。
【0055】
ベーマイト層などの金属または金属酸化物の水酸化物からなる透明微細凹凸構造23は、図1Bに示すように、大きさ(頂角の大きさ)や向きはさまざまであるが概ね鋸歯状の断面を有している。この透明微細凹凸構造23は、この上に金属微細凹凸構造層24が形成可能なものであればよいが、平均ピッチおよび深さが概ね励起光の波長以下とする。なおここで、透明微細凹凸構造23において、ピッチは凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の距離であり、深さは凸部頂点から隣接する凹部の底部までの距離である。
【0056】
図2を用いて、本実施形態に係る光電場増強基板1の作製方法について説明する。
【0057】
板状の透明基板本体11を用意し、透明基板本体11をアセトンおよびメタノールで洗浄する。その後、基板本体11の表面にスパッタ法によりアルミニウム20を数十nm程度成膜する。
その後、沸騰させた純水の中に、アルミニウム20付き透明基板本体11を浸水させ、数分(5分程度)後に取り出す。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20は透明化し、微細凹凸構造を構成するベーマイト層22となる。
次に、このベーマイト層22上に金属を蒸着することにより、ベーマイト層22上に金属微細凹凸構造層24が生成される。
以上の処理により光電場増強基板1を作製することができる。
【0058】
なお、図3Aは、透明基板本体(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に25nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えてなる透明基板のベーマイト層表面、および図3Bから図3Dはそれぞれベーマイト層上にAuを30nm、60nm、150nm分蒸着した基板表面をSEM(日立製S4100)にて撮影したSEM画像である。ここで、「Auを30nm、60nm、150nm分蒸着した」とは、平面基板上に蒸着した場合に30nm、60nm、150nmの厚みとなる蒸着量で蒸着したことを意味する。
【0059】
図3A〜図3D中に白く観察されるのが凸部、灰色に観察されるのが凹部である。凹凸のパターンは不規則であるが、全面に一様に形成されており、微細凹凸構造の面内均一性は高い。図3Aに示すベーマイト層表面の写真から、凹凸構造は、多数の峰状の凸部から構成されていることが分かる。なお、このベーマイト層の凹凸構造断面は図1Bに模式的に示しているように鋸歯状である。図3Bに示すように、Au30nm蒸着の場合、ベーマイト層に形成されている凹凸構造の凸部が太くなり凸部間隔が狭くなっている様子が認められる。一方で、図3Bに示す金属微細凹凸構造層の凹微細凹凸構造は、ベーマイト層表面に見られた峰状の凸部構造が概ね維持された凸部を有する凹凸構造となっている。一方、図3C、図3Dに示すように、Au60nm蒸着、150nm蒸着と厚みが厚くなるにつれ、凸部が粒状に観察されるようになり、凸部間の間隔はより近接したものとなると共に、ベーマイト層表面の凹凸構造とは異なる凹凸構造として観察される。
【0060】
図3Eは、ベーマイト層上にAuが150nm分蒸着されてなる金属微細凹凸構造層の断面のSEM画像である。この断面の画像から、凸部がベーマイト側から上方に伸びたアスペクト比がより大きい粒状となっており、金属の微細凹凸構造は粒状の凸部が多数形成されてなる粒状微細構造となっていることがわかる。また粒状の凸部間隔が非常に近接した領域が多数形成されている。なお、粒状の凸部の既述の通り、凸部間隔が概ね20nm以下である箇所に光が照射されると、「ホットスポット」と呼ばれる非常に強い光電場増強場が生成される。また、柱状に形成されることにより表面積が増加する分、金属表面に付着する被検体数が増加し、その分検出光も増加する。このように金属を150nm分程度蒸着することにより、凸部の間隔が20nm以下となる領域を容易に多数形成することができる。
【0061】
(第2の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板について説明する。図4Aは、本実施形態の光電場増強基板2を示す斜視図であり、図4Bは、図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図である。
【0062】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態の光電場増強基板1の裏面側に、第2の透明な微細凹凸構造層28を備えたものである。
【0063】
この第2の透明な微細凹凸構造層28は、透明基板10の表面側に設けられた第1の微細凹凸構造層22と同様であり、ベーマイト層により構成することができる。この裏面側の微細凹凸構造層28は、光が照射された際に反射防止膜として機能する。
【0064】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態光電場増強基板1の作製方法において、透明基板本体11の表面のみならず裏面にもアルミニウムを成膜し、その後、煮沸処理することにより得ることができる。純水中での煮沸処理により表裏のアルミニウムがベーマイトとなり、表裏面に同様の透明な微細凹凸構造層22、28を有するものとすることができる。
【0065】
なお、図5は、透明基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に50nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えた基板に対してベーマイト層表面側から、表面に垂直な方向から光を入射した場合の反射率を示したものである。本例の場合では650nm近傍の波長に対し、0.1%程度の反射率を達成している。最も反射率の低くなる波長は、例えば、最初にスパッタ形成するアルミニウムの厚みを変化させることにより干渉を制御することで調整することができる。
【0066】
(第3の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第3の実施形態係る試料セルについて説明する。図6Aは、第3の実施形態の光電場増強試料セル3を示す平面図、図6Bは、図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図である。
【0067】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、透明基板本体31とその表面に設けられた透明な微細凹凸構造層32と、該微細凹凸構造層32上に設けられた金属微細凹凸構造層34とからなる光電場増強基板30と、その金属微細凹凸構造層34上に液体試料を保持する液体試料保持部材35を備えている。
【0068】
光電場増強基板30は、第1の実施形態の光電場増強基板1とほぼ同様の構成をしている。すなわち、透明な微細凹凸構造層32および金属微細凹凸構造層34は、図1Bに示されている第1の光電場増強デバイス1の透明な微細凹凸構造層22および金属微細凹凸構造層24と同様であり、その構成物質および形成方法も同様である。
【0069】
液体試料保持部材35は、例えば、金属微細凹凸構造層34上に液体試料を保持し、液体試料の流路36aを形成するスペーサ部36と、試料を注入する注入口(流入口)38aおよび流路36aを流下した液体試料を排出する排出口(流出口)38bを備えたガラス板などの透明な上板38とから構成することができる。
【0070】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、光電場増強基板30を第1の実施形態の基板1と同様の方法で作製した後に、スペーサ部36および上板38を接着することにより得ることができる。
【0071】
なお、スペーサ部36と上板38は一体的に成型されてなるものであってもよい。あるいは、スペーサ部36は透明基板本体31と一体的に成型されてなるものであってもよい。
【0072】
上記実施形態においては、流入口および流出口を備えた流路状の試料セル(フローセル)型の光電場増強デバイスについて説明したが、液体を流入出させることができるセルではなく、単に金属微細凹凸構造層上に液体試料を保持するだけの光電場増強試料セルとしてもよい。
【0073】
また、光電場増強基板30の金属微細凹凸構造層34が設けられている領域の裏面には、第2の実施形態の光電場増強基板2と同様に、反射防止膜として機能する第2の透明な微細凹凸構造層を備えるようにしてもよい。
【0074】
上記各実施形態で説明した本発明の光電場増強デバイスは、該デバイスの金属微細凹凸構造層上に被検体を配置し、該被検体の配置箇所に対して励起光を照射し、その励起光の照射により被検体から生じた光を検出する測定方法および装置に好適に用いることができる。例えば、増強ラマン分光法、蛍光検出法などに適応することができ、増強ラマン分光法におけるラマン増強デバイスとして用いることができ、蛍光検出法における蛍光増強デバイスとして用いることができる。また、ラマン散乱光、蛍光のみならず、励起光の照射を受けた被検体から生じるレーリー散乱光、ミー散乱光、あるいは第2高調波などの検出においても、本発明の光電場増強デバイスを用いることにより、局在プラズモン共鳴に伴う増強された光電場により、増強された光を検出することができる。
【0075】
(ラマン分光法およびラマン分光装置)
以下に、上述の本発明の光電場増強基板1を用いた測定方法の例として、ラマン分光法およびラマン分光装置について説明する。
【0076】
図7は、上述の第1の実施形態に係る光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図である。
【0077】
図7に示すように、ラマン分光装置100は、上述の光電場増強基板1と、励起光L1を光電場増強基板1へ照射する励起光照射部140と、被検体Sから発せられ光電場増強基板の作用により増強されたラマン散乱光L2を検出するための光検出部150とを備えている。
【0078】
励起光照射部140は、励起光L1を射出する半導体レーザ141と、この半導体レーザ141から射出された光L1を基板1側へ反射するミラー142と、該ミラー142により反射された励起光L1を透過し、該励起光L1の照射により被検体Sから生じ増強されたラマン散乱光L2を含む基板1側からの光を光検出部150側へ反射するハーフミラー144と、ハーフミラー144を透過した励起光L1を光電場増強基板1の被検体Sが載置された領域に集光するレンズ146とを備えている。
【0079】
光検出部150は、ハーフミラー144により反射されてきた光のうち励起光L1を吸収し、それ以外の光を透過するノッチフィルタ151と、ノイズ光を除去するためのピンホール152を備えたピンホール板153と、被検体Sから発せられ、レンズ146およびノッチフィルタ151を透過した増強ラマン散乱光L2を、ピンホール152へ集光するためのレンズ154と、ピンホール152を通ったラマン散乱光を平行光化するレンズ156と、増強ラマン散乱光を検出する分光器158とを備えている。
【0080】
上述のラマン分光装置100を用いて、被検体Sのラマンスペクトルを測定するラマン分光方法について説明する。
【0081】
光照射部140の半導体レーザ141から励起光L1が射出され、励起光L1はミラー142で基板1側に反射され、ハーフミラー144を透過してレンズ146で集光されて、光電場増強基板1上に照射される。
【0082】
励起光L1の照射により、光電場増強基板1の金属微細凹凸構造層24に局在プラズモン共鳴が誘起され、金属微細凹凸構造層24表面に増強された光電場が生じる。この増強光電場により増強された、被検体Sから発せられたラマン散乱光L2は、レンズ146を透過して、ハーフミラー144で分光器158側に反射される。なお、このとき、光電場増強基板1で反射された励起光L1もハーフミラー144により反射されて分光器158側に反射されるが、励起光L1はノッチフィルタ151でカットされる。一方、励起光とは波長が異なる光はノッチフィルタ151を透過し、レンズ154で集光され、ピンホール152を通り、再度レンズ156により平行光化され、分光器158へ入射する。なお、ラマン分光装置においては、レーリー散乱光(あるいはミー散乱光)などは、その波長が励起光L1と同じであるため、ノッチフィルタ151でカットされ、分光器158へ入射することはない。ラマン散乱光L2は、分光器158に入射してラマンスペクトル測定がなされる。
【0083】
本実施形態のラマン分光装置100は、上記実施形態の光電場増強基板1を用いて構成されたものであり、効果的にラマン増強が行われているのでデータ信頼性が高く、データ再現性が良好な高精度のラマン分光測定を実施できる。光電場増強基板1の表面凹凸構造の面内均一性が高いので、同一試料に対して、光照射箇所を変えて測定を実施しても、再現性のよいデータが得られる。したがって、同一試料に対して、光照射箇所を変えて複数のデータを取り、データの信頼性を上げることも可能である。
【0084】
本実施形態のラマン分光装置100のように、光電場増強基板1の裏面から検出する構成とすることにより、被検体が細胞のような大きなサンプルである場合に、金属微細凹凸構造層と被検体との界面で最も強く生じる増強ラマン散乱光が被検体自身により遮蔽されることなく透明基板の裏面側から検出することができる。なお、本発明者らは、ある程度までの厚みの金属微細凹凸構造層であれば、透明基板の裏面側から増強ラマン散乱光を金属微細凹凸構造層による影響なく検出することができることを確認している(後記実施例参照。)。
【0085】
上述の実施形態のラマン分光装置100は、光電場増強デバイス1の試料保持面(表面)とは逆側(デバイスの裏面)から励起光を入射すると共にラマン散乱光を検出するよう構成されているが、図8に設計変更例のラマン分光装置110を示すように、従来の装置と同様に、金属微細凹凸構造層24の表面側(試料保持面)から励起光L1を入射し、かつラマン散乱光L2を検出するように構成してもよい。
【0086】
さらには、励起光照射部と、光検出部とのいずれか一方を金属微細凹凸構造層24の表面側に配置し、他方を基板1の裏面側に配置する構成としてもよい。
【0087】
このように、本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属微細凹凸構造層の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光を照射することができ、また、この光の照射により試料から生じた光についても、金属微細凹凸構造層の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。そのため、被検体の種類、サイズ等に応じて、励起光の照射、検出光の検出を金属微細凹凸構造層の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも行うことができるので、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0088】
図9は、上述の第3の実施形態の光電場増強デバイス3であるフローセルを備えたラマン分光装置120の概略構成を示す模式図である。
【0089】
図9に示すラマン分光装置120は、光電場増強基板1に代えてフローセル型の光電場増強試料セル3を備えた点で図7に示すラマン分光装置100と異なる。このようなフローセル型の光電場増強デバイスを備えることにより、被検体として液体試料を流下させつつラマン分光を測定することができる。
【0090】
なお、フローセル型のデバイス3の測定においても、金属微細凹凸構造層の表面側から励起光を入射し、金属微細凹凸構造層の表面側からラマン散乱光を検出する構成としてもよい。しかしながら、液体試料を流下させつつラマン散乱光を測定する際には、液体試料のラマン散乱光に対する透過率および吸収率が、液体試料の移動に伴い変動してしまう恐れがあることから、図9に示すように、基板30の裏面側からラマン散乱光を検出する構成とすることが好ましい。
【0091】
既述の通り、本発明の光電場増強デバイスは、プラズモン増強蛍光検出装置に適用することができる。その場合にも、光電場増強デバイスの金属微細凹凸構造層上に被検体を載置し、この被検体側から励起光を照射し、被検体側から増強された蛍光を検出してもよいし、透明基板裏面側から励起光を照射し、該裏面側から蛍光を検出するようにしてもよい。あるいは被検体側から励起光を照射し、透明基板裏面側から蛍光を検出するよう構成してもよい。
【実施例1】
【0092】
以下、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態である光電場増強基板1の具体的な作製例および測定用サンプルを用いてラマン分光測定を行った結果を説明する。
【0093】
「光電場増強基板の作製方法」
透明基板本体11として、ガラス基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)を用いた。
アセトン5分、メタノール5分の超音波洗浄(45kHz)を行った後、ガラス基板11にスパッタ装置(キャノンアネルバ社製)を用いてアルミニウム20を25nm積層した。なお、表面形状測定器(TENCOR社製)を用いて、アルミニウム厚みを測定し、厚みは25nm(±10%)であることを確認した。
【0094】
その後、ウォーターバス(西精機株式会社)の中に純水を用意して、沸騰させた。
沸騰水の中にアルミニウム20付きガラス基板11を浸水させて、5分間経過後に取り出した。この際、アルミニウム20付きガラス基板11を沸騰水に浸水させて1−2分程度でアルミニウムが透明化したことを確認した。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20はベーマイト層22となった。このベーマイト層22の表面を、SEM(日立製S4100)にて観察した結果は既述の図3Aに示した通りである。
【0095】
最後に、ベーマイト層22の表面にAuを30nm分蒸着して金属微細凹凸構造層を形成した(実施例1)。なお、同様にしてベーマイト層の表面にAuを60nm、150nm分それぞれ蒸着したサンプル(実施例2、3)も作製した。各サンプル表面のSEM画像は既述の図3B〜図3Dに示した通りである。
【0096】
(ラマン散乱光の測定)
上記方法で作製した光電場増強基板の各サンプル(実施例1〜3)上にそれぞれ被検体としてエタノールにローダミン6Gを溶かした溶液100μMを滴下し、乾燥させた測定サンプルを用い、ラマン散乱光を測定した。
【0097】
ラマン散乱光は、顕微ラマン分光装置(HR800)を用いて検出した。励起光としては、ピーク波長785nmのレーザ光を用い、倍率20倍で観測した。
【0098】
図10は、Auを60nm蒸着したサンプル(実施例2)を用い、基板の表裏からのラマン散乱光を検出して得られたラマンシフトスペクトル分布を示すグラフである。
基板の表面からの測定とは、金属微細凹凸構造層上の色素表面側から励起光を照射し、該金属微細凹凸構造層上の色素表面側からラマン散乱光を検出したものであり、基板の裏面からの測定とは、金属微細凹凸構造層下の透明微細凹凸構造側から励起光を照射し(基板の裏面から励起光を照射し)、基板の裏面側からラマン散乱光を検出したものである。
【0099】
図10から、ラマンシフト信号は、基板の表裏でほぼ同様箇所に同等の強度で検出できることが明らかになった。従来、ラマン測定において、基板の裏面側からラマン信号を検出した例は皆無であったが、本発明の光電場増強デバイスを用いた上記のラマン測定によれば、基板の裏面側からラマン信号を検出することができることが明らかである。
【0100】
なお、本実施例においては、測定用サンプルにおいて被検体として乾燥して固着させた色素を用いており、被検体の厚みが非常に薄いものであったため、表裏面からの信号強度が同レベルであったが、細胞のような1μmオーダーの厚みを有する試料についてのラマン分光を行う場合などは、増強効果の高い金属微細凹凸構造層と試料との界面近傍における信号を裏面側から検出した方が有利であると考えられる。
【0101】
図11は、実施例1〜3の各サンプルについて基板の表面からのラマン散乱光を検出して取得したラマンシフトスペクトル分布を用い、ホワイトノイズ除去後の1360cm-1のピーク強度をAu蒸着膜厚を横軸としてプロットしたグラフである。
【0102】
図11に示すように、Au蒸着膜厚が厚いほど大きい信号強度が得られた。Auの蒸着膜厚を厚くしていくと、図3B〜図3DのSEM画像から明らかなようにAuが粒状化し、さらには柱状化して金属の微細凹凸構造の表面積が増加すると共に、金属凸部間の距離が小さくなることによりホットスポットが多数発生することから、信号強度が増加するものと考えられる。
【符号の説明】
【0103】
1、2 光電場増強基板(光電場増強デバイス)
3 光電場増強試料セル(光電場増強デバイス)
10 透明基板
11、31 透明基板本体
20 アルミニウム
22、32 透明微細凹凸構造層(ベーマイト層)
23 透明基板の微細凹凸構造
24、34 金属微細凹凸構造層
25 金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造
35 液体試料保持部材
100、110、120 ラマン分光装置
140 励起光照射部
150 光検出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該微細凹凸構造の表面に形成された金属微細凹凸構造層とを備え、
該金属微細凹凸構造層が、隣接凸部間の間隔が該隣接凸部間に対応する前記透明基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものであり、
前記金属微細凹凸構造層に照射された光により、該金属微細凹凸構造層の表面に誘起された局在プラズモンの光電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とする光電場増強デバイス。
【請求項2】
前記金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造が、前記透明基板の微細凹凸構造の表面上に該金属微細凹凸構造層を構成する金属が凝集してなる粒状微細構造からなるものであることを特徴とする請求項1記載の光電場増強デバイス。
【請求項3】
前記金属微細構造層を構成する金属が、金、銀、銅、アルミニウムまたはプラチナであることを特徴とする請求項1または2記載の光電場増強デバイス。
【請求項4】
前記透明基板が、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する該透明基板本体とは異なる物質からなる透明微細凹凸構造層とからなるものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項5】
前記透明微細凹凸構造層が、金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方からなることを特徴とする請求項4記載の光電場増強デバイス。
【請求項6】
前記透明微細凹凸構造層が、バイヤーライトおよびベーマイトの少なくとも一方からなることを特徴とする請求項4記載の光電場増強デバイス。
【請求項7】
前記透明基板が、裏面に反射防止膜として機能する第2の微細凹凸構造を備えてなることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項8】
前記第2の微細凹凸構造が、前記透明基板とは異なる物質により構成された第2の透明微細凹凸構造層からなり、該第2の透明微細凹凸構造層が金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方からなることを特徴とする請求項7記載の光電場増強デバイス。
【請求項9】
前記第2の透明微細凹凸構造層がバイヤーライトまたはベーマイトの少なくとも一方からなることを特徴とする請求項8記載の光電場増強デバイス。
【請求項10】
前記透明基板の前記金属微細凹凸構造層上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えたことを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項11】
前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなることを特徴とする請求項10記載の光電場増強デバイス。
【請求項12】
請求項1から11いずれか1項記載の光電場増強デバイスと、
該光電場増強デバイスに対して励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光の照射により生じた光を検出する光検出部とを備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項1】
表面に微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該微細凹凸構造の表面に形成された金属微細凹凸構造層とを備え、
該金属微細凹凸構造層が、隣接凸部間の間隔が該隣接凸部間に対応する前記透明基板の微細凹凸構造の隣接凸部間の間隔よりも小さい微細凹凸構造を有するものであり、
前記金属微細凹凸構造層に照射された光により、該金属微細凹凸構造層の表面に誘起された局在プラズモンの光電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とする光電場増強デバイス。
【請求項2】
前記金属微細凹凸構造層の微細凹凸構造が、前記透明基板の微細凹凸構造の表面上に該金属微細凹凸構造層を構成する金属が凝集してなる粒状微細構造からなるものであることを特徴とする請求項1記載の光電場増強デバイス。
【請求項3】
前記金属微細構造層を構成する金属が、金、銀、銅、アルミニウムまたはプラチナであることを特徴とする請求項1または2記載の光電場増強デバイス。
【請求項4】
前記透明基板が、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する該透明基板本体とは異なる物質からなる透明微細凹凸構造層とからなるものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項5】
前記透明微細凹凸構造層が、金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方からなることを特徴とする請求項4記載の光電場増強デバイス。
【請求項6】
前記透明微細凹凸構造層が、バイヤーライトおよびベーマイトの少なくとも一方からなることを特徴とする請求項4記載の光電場増強デバイス。
【請求項7】
前記透明基板が、裏面に反射防止膜として機能する第2の微細凹凸構造を備えてなることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項8】
前記第2の微細凹凸構造が、前記透明基板とは異なる物質により構成された第2の透明微細凹凸構造層からなり、該第2の透明微細凹凸構造層が金属の水酸化物および金属酸化物の水酸化物の少なくとも一方からなることを特徴とする請求項7記載の光電場増強デバイス。
【請求項9】
前記第2の透明微細凹凸構造層がバイヤーライトまたはベーマイトの少なくとも一方からなることを特徴とする請求項8記載の光電場増強デバイス。
【請求項10】
前記透明基板の前記金属微細凹凸構造層上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えたことを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項11】
前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなることを特徴とする請求項10記載の光電場増強デバイス。
【請求項12】
請求項1から11いずれか1項記載の光電場増強デバイスと、
該光電場増強デバイスに対して励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光の照射により生じた光を検出する光検出部とを備えたことを特徴とする測定装置。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図1B】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【公開番号】特開2012−198090(P2012−198090A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62091(P2011−62091)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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