説明

光電変換素子およびそれを用いた色素増感太陽電池

【課題】従来用いられてきた色素と同等以上の性能を有しながら、高い利用効率で多孔性半導体層に吸着させることが可能な色素を用いた光電変換素子を提供する。
【解決手段】本発明は、半導体層に色素が吸着されてなる光電変換層を有する光電変換素子である。当該色素は、MLで表され、Mは中心原子を表し、L、L、LおよびLは配位子を表す。当該色素は、好ましくは、下記の化学式(10)で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体色素を用いた光電変換素子およびそれを用いた色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料に代るエネルギー源として、太陽光を電力に変換できる太陽電池が注目されている。現在、結晶系シリコン基板を用いた太陽電池および薄膜シリコン太陽電池が一部実用化され始めている。しかし、前者はシリコン基板の製造コストが高いという問題があり、後者は多種の半導体製造用ガスや複雑な装置を用いる必要があるために製造コストが高くなるという問題がある。このため、いずれの太陽電池においても光電変換の高効率化による発電出力当たりのコストを低減する努力が続けられているが、上記の問題を解決するには到っていない。
【0003】
新しいタイプの太陽電池として、金属錯体の光誘起電子移動を応用した色素増感太陽電池が提案されている(特許文献1参照)。この色素増感太陽電池は、色素を含む半導体層からなる光電変換層を有する電極、対電極および液体電解質などからなるキャリア輸送層を少なくとも含んでいる。このような色素増感太陽電池に光が照射されると、光電変換層で電子が発生し、発生した電子が外部電気回路を通って対電極に移動し、移動した電子が電解質中のイオンにより運ばれて光電変換層に戻る。このような一連の電子の流れにより、電気エネルギーが取り出される。
【0004】
光電変換層に用いられるTiO層などの半導体層はバンドギャップが大きく、単独では太陽光の紫外光しか利用することができないが、半導体層に含まれる色素の増感作用により、太陽光の可視光を利用した光電変換を実現することができる。
【0005】
このような色素増感太陽電池において、変換効率や耐久性(光、熱など)は色素に大きく依存することが知られている。従来知られている色素として、例えば、下記の化学式(11)で表される「N3」、下記の化学式(12)で表される「N719」と呼ばれる色素などがあり、これらの色素が広く用いられている。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
上記化学式(12)において、TBAはテトラブチルアンモニウムを表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの色素を半導体層に吸着させて光電変換素子の光電変換層を作製する場合、色素溶液を作製し、これに半導体層を浸漬する色素吸着工程を経る。この色素溶液の濃度は、色素により最適な濃度範囲は異なるが、上述の「N3」、「N719」と呼ばれる色素は、0.4mmol/L程度の濃度の色素溶液に調製される。
【0011】
この色素吸着工程では、当然ながら、浸漬中に半導体層以外のこれを支持する基板などにも色素溶液が接触するので、色素溶液から引き揚げたのち、半導体層以外の部分へ付着した色素溶液をふき取りなどにより除去する必要がある。上述の濃度程度の色素溶液を使用した場合、除去された色素溶液中に含まれる色素材料がある程度の量に達するため色素材料の利用効率の低下となり、また作業時間も長くなる。これらは、光電変換素子の製造コストの増加につながるものとなる。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、従来用いられてきた色素と同等以上の性能を有しながら、高い利用効率で半導体層に吸着させることが可能な色素を用いた光電変換素子、およびそれを用いた色素増感太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、半導体層に色素が吸着されてなる光電変換層を有する光電変換素子である。当該色素は、下記の化学式(1)で表される。
【0014】
ML ・・・(1)
上記化学式(1)において、Mは中心金属原子を表し、L、L、LおよびLは配位子を表し、LおよびLの内、少なくとも一つが下記の化学式(2)(以下、化合物(2)ともいう。)で表される。
【0015】
【化3】

【0016】
上記化学式(2)において、Xは窒素原子またはCRを表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜40の炭化水素基を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、または炭素数1〜40の炭化水素基を表し、Rは水素原子、水酸基、または炭素数1〜40のアルコキシ基を表す。
【0017】
上記化学式(1)において、LおよびLの内、少なくとも一つが下記の化学式(3)〜(9)のいずれかで表されることが好ましい。
【0018】
【化4】

【0019】
上記化学式(4)において、R11は炭素数1〜6のアルキル基を表し、前記化学式(9)において、Arは炭素数1〜6のアリール基を表す。
【0020】
上記化学式(1)において、Mは鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスニウム、イリジウムまたは白金を表すことが好ましい。
【0021】
上記化学式(1)において、LおよびLのいずれもが前記化学式(2)で表され、上記化学式(2)において、Rはカルボン酸基を表し、LおよびLのいずれもが上記化学式(3)で表され、Mがルテニウムであることが好ましい。
【0022】
さらに、上記化学式(1)で表される上記色素は、下記の化学式(10)で表されることが好ましい。
【0023】
【化5】

【0024】
また、本発明は、上記発明の光電変換素子を含む第1電極と、第1電極の対となる第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられたキャリア輸送層と、を含む、色素増感太陽電池である。
【0025】
また、本発明は、上記発明の光電変換素子の製造方法であって、上記半導体層を上記色素を含む色素溶液に浸漬させて前記光電変換層を形成する工程を有し、上記色素溶液は、上記色素の濃度が0.01〜0.1mmol/Lである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、光電変換素子およびそれを用いた色素増感太陽電池の製造において、色素により高い性能が付与されつつ、色素の利用効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】化合物EのH−NMR測定の測定結果である。
【図2】化合物FのH−NMR測定の測定結果である。
【図3】化合物GのH−NMR測定の測定結果である。
【図4】化合物GのIR測定の測定結果である。
【図5】化合物GのUV吸収測定の測定結果である。
【図6】本実施形態の色素増感太陽電池の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<1.光電変換素子>
本発明の光電変換素子は、半導体層に色素が吸着されてなる光電変換層を有する光電変換素子である。以下、各構成要素および製造方法について詳細に説明する。
【0029】
(色素)
本発明の光電変換素子の光電変換層の形成に使用する色素は、下記化学式(1)により表わされる金属錯体色素である。
【0030】
ML ・・・(1)
上記化学式(1)において、Mは中心金属原子を表し、L、L、LおよびLは配位子を表し、LおよびLの内、少なくとも一つが下記の化学式(2)で表される。
【0031】
【化6】

【0032】
上記化学式(2)において、Xは窒素原子またはCRを表す。Xは、好ましくは窒素原子である。ここで、Rは、水素原子、水酸基、または炭素数1〜40のアルコキシ基を表す。ここで、Rで表される炭素数1〜40のアルコキシ基としては、容易に合成できる観点から、炭素数1〜12のアルコキシ基であることが好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、アリルオキシ基、ベンジルオキシ基等を挙げることができる。
【0033】
また、上記化学式(2)において、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜40の炭化水素基を表す。炭素数1〜40の炭化水素基の中でも、容易に合成できる観点から、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等を挙げることができる。Rとしては、容易に合成できるという観点から、これらの中でも特に水素原子が好ましい。
【0034】
また、上記化学式(2)において、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、または炭素数1〜40の炭化水素基を表す。炭素数1〜40の炭化水素基としては、容易に合成できる観点から、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル等を挙げることができる。
【0035】
上記化学式(2)で表わされる化合物の製造方法としては、例えば、下記化学式(13)で表わされる化合物(以下、化合物(13)ともいう。)、下記化学式(14)で表わされる化合物(以下、化合物(14)ともいう。)およびアンモニウム塩を反応させて下記式(15)で表わされる化合物(以下、化合物(15)ともいう。)を得る工程(a)と、必要に応じて下記化学式(15)で表わされる化合物と金属アルコキシドとを反応させた後、酸処理して上記化学式(2)で表わされる化合物を得る工程(b)とを含む製造方法を挙げることができる。まず、工程(a)について説明する。
【0036】
【化7】

【0037】
上記化学式(13)中、X、RおよびRは、それぞれ上記化学式(2)におけるX,RおよびRと同義であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜40の炭化水素基、−CON(R、−OR、−PO(OR、または−SO(OR10)であり、R〜R10は、それぞれ独立に炭素数1〜40の炭化水素基である。
【0038】
CHCOR (14)
上記化学式(14)中、Rは、上記化学式(2)のRと同義である。
【0039】
【化8】

【0040】
上記化学式(15)中、X、R、RおよびRは、それぞれ上記式(2)中のX、R、RおよびRと同義であり、Rは、上記式(13)中のRと同義である。
【0041】
アンモニウム塩としては、有機アンモニウム塩または無機アンモニウム塩のいずれでもよく、有機アンモニウム塩としては、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウムなどが挙げられ、無機アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどが挙げられる。
【0042】
上記(12)で表わされる化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルt−ブチルケトンなどが挙げられる。
【0043】
化合物(13)、化合物(14)およびアンモニウム塩の反応において、化合物(13)と化合物(14)とのモル比(化合物(14)/化合物(13))は、通常は1〜5、好ましくは1〜2である。化合物(13)、化合物(14)およびアンモニウム塩の反応において、化合物(13)とアンモニウム塩とのモル比(アンモニウム塩/化合物(13))は、通常1〜20、好ましくは2〜10である。また、このようなモル比で化合物(13)、化合物(14)およびアンモニウム塩を反応させると化合物(2)を収率良く、容易に合成することができる。
【0044】
上記の反応条件は、反応温度は、通常、−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃であり、反応時間は、通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間である。また、該反応は、塩基性化合物の存在下で行うことができる。化合物(13)と塩基性化合物とのモル比(塩基性化合物/化合物(13))は、通常1〜10、好ましくは2〜5である。塩基性化合物としては、金属アルコキシド、アミン化合物を挙げることができ、合成の容易さの観点から、金属アルコキシドであることが好ましい。金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、tert−ブトキシカリウム、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシリチウムなどを挙げることができる。
【0045】
また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素溶媒などが挙げられる。
【0046】
続いて、上記工程(b)について説明する。工程(b)において、化合物(15)と金属アルコキシドを反応させて得られた溶媒のpHを1〜6とすることが好ましく、2〜5とすることがより好ましい。pHを該範囲に調整する方法としては、例えば、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどを、化合物(15)と金属アルコキシドを反応させて得られた溶媒に添加する方法などが挙げられる。また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、メタノール、エタノール、1−ブタノールなどのアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、水などが挙げられる。
【0047】
上記化学式(15)で表わされる化合物において、Rが水素原子、または炭素数1〜40の炭化水素基である場合、化合物(15)はRが水素原子、または炭素数1〜40の炭化水素基である化合物(2)であるので、上記工程(b)は不要である。上記化学式(15)で表わされる化合物において、Rが、−CON(R、−OR、−PO(OR、または−SO(OR10)である場合には、上記工程(b)を行うことにより、それぞれRがカルボン酸基、水酸基、リン酸基、またはスルホン酸基である化合物(2)を得ることができる。また、Rが−ORの場合には、工程(b)は行わなくてもよい。
【0048】
また、上記化学式(13)で表わされる化合物は、下記化学式(16)で表わされる化合物(以下、化合物(16)ともいう。)に二硫化炭素および下記化学式(17)で表わされる化合物(以下、化合物(17)ともいう。)を反応させることで合成することができる。
【0049】
【化9】

【0050】
上記化学式(16)中、XおよびRは、それぞれ上記式(2)のXおよびRと同義であり、Rは、上記式(13)中のRと同義である。
【0051】
Z (17)
上記化学式(17)中、Zはハロゲン原子を示し、Rは、上記化学式(2)中のRと同義である。上記化学式(17)で表わされる化合物としては、ヨウ化メチル、臭化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、ヨウ化プロプル、臭化プロピル、ヨウ化ブチル、臭化ブチルなどが挙げられる。
【0052】
化合物(16)と二硫化炭素および化合物(17)との反応において、化合物(16)と二硫化炭素とのモル比(二硫化炭素/化合物(16))は、通常2〜30、好ましくは5〜20である。化合物(16)と、二硫化炭素および化合物(17)との反応において、化合物(16)と化合物(17)とのモル比(化合物(17)/化合物(16))は、通常、2〜20、好ましくは3〜10である。
【0053】
また、このようなモル比で化合物(16)と、二硫化炭素および化合物(17)とを反応させると化合物(13)を収率良く、容易に合成することができる。上記の反応条件は、反応温度は、通常−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃であり、反応時間は、通常0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間である。また、該反応は、金属アルコキシドの存在下で行うことができる。化合物(16)と金属アルコキシドとのモル比は(金属アルコキシド/化合物(16))は、通常は1〜10、好ましくは2〜5である。また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0054】
さらに、上記式(16)で表わされる化合物は、下記化学式(18)で表わされる化合物(以下、化合物(18)ともいう。)にパラアルデヒドを反応させる方法により構成することができる。該方法は、例えば、J.Org.Chem.,Vol.56,No.8(1991)にしたがって行うことができる。
【0055】
【化10】

【0056】
上記化学式(18)において、XおよびRは、それぞれ上記化学式(2)のXおよびRと同義であり、Rは、上記化学式(13)中のRと同義である。化合物(18)とパラアルデヒドとの反応において、化合物(18)とパラアルデヒドとのモル比(パラアルデヒド/化合物(18))は、通常1〜20、好ましくは2〜10である。また、このようなモル比で化合物(18)とパラアルデヒドとを反応させると化合物(16)を収率よく、容易に合成することができる。
【0057】
上記の反応条件は、反応温度は、通常−30〜120℃、好ましくは−20〜90℃であり、反応時間は、通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間である。また、該反応は、酸、硫酸鉄(II)およびt−ブチルヒドロプルオキシドの存在下で行うことができる。酸としては、硫酸、硝酸などの無機酸やカルボン酸などの有機酸などが挙げられる。カルボン酸としては、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸などが挙げられる。上記反応は、金属アルコキシド存在下で行うことができる。化合物(18)と金属アルコキシドとのモル比(金属アルコキシド/化合物(18))は、通常1〜10、好ましくは2〜5である。また、上記反応は、通常、溶媒中で行われ、溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエン、ベンゼンなどの炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0058】
化学式(1)で表わされる色素は、配位子として有する上記化学式(2)で表わされる化合物が、上記のように−SR基を有するジピリジン誘導体であることにより、ジピリジン誘導体ではあっても−SR基を有していないジピリジン誘導体を配位子とするN719などの色素と比較して、可視光領域の光の吸収が大きい。このため、化学式(1)で表わされる色素は、N3やN719等の従来の色素と同等以上の変換効率が期待できる。
【0059】
さらに、上記化学式(1)において、LおよびLの内、少なくとも一つが下記の化学式(3)〜(9)のいずれかで表されることが好ましい。
【0060】
【化11】

【0061】
上記化学式(4)において、R11は炭素数1〜6のアルキル基を表し、上記化学式(9)において、Arは炭素数6〜12のアリール基を表す。
【0062】
また、上記化学式(1)において、Mは鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスニウム、イリジウムまたは白金であることが好ましく、これらのうち、ルテニウムであることが特に好ましい。
【0063】
さらに、上記化学式(1)において、LおよびLのいずれもが上記化学式(2)で表され、上記化学式(2)においてRがカルボン酸基であり、LとLのいずれもが上記化学式(3)で表されることが好ましい。さらには、上記式(1)で表される金属錯体色素が、下記の化学式(10)で表される金属錯体色素であることが最も好ましい。
【0064】
【化12】

【0065】
上記化学式(10)で表される金属錯体色素(G)は、以下の化学式に示される原料化合物(A)および中間化合物(B)〜(F)を経て合成することができた。
【0066】
【化13】

【0067】
[中間化合物(B)の合成例1−1]
2Lの4つ口フラスコに温度計並びに滴下ロート、ジムロート冷却管を装着したのち、N,N−ジエチルイソニコチンアミド(原料化合物(A)) 52g(292mmol)、パラアルデヒド 195.1g(1476mmol)、アセトニトリル 884gを加え、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却し、攪拌した。そこにトリフルオロ酢酸 33.9g(297mmol)を反応液温度を10℃以下に保ちながら(約20分間)滴下した。次いで、硫酸鉄七水和物 1.3g(16mmol)を加え、更に10分間攪拌、次いで、70%t−ブチルヒドロペルオキシド 73.3g(569mmol)を滴下した。
【0068】
30分間、10℃以下で攪拌後、室温25℃まで昇温、更に、80℃で5時間、加熱攪拌を行なった。反応液を50℃まで冷却した後、50℃で反応液を減圧濃縮した。この濃縮液に、飽和炭酸ナトリウム液をゆっくり加え、反応液を中和した。この液をトルエン200mlで3回抽出、この有機相を集め、蒸留水での水洗作業を行なった。この有機相に対して、無水硫酸ナトリウムを加え、乾燥を行なった後、ろ紙を用いてろ過し、ろ液を減圧留去して、粗生成物60.1gを得た。次いで、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(B)を30.7g(収率47%)得た。
【0069】
[中間化合物(C)の合成例1−2]
2Lの4つ口フラスコに温度計並びに滴下ロート、ジムロート冷却管を装着したのち、上記合成例1−1で合成した化合物(B)30.7g(139mmol)を加えた後、反応容器を窒素置換した後、テトラヒドロフラン614gを加え、室温25℃で攪拌した。次いで、二硫化炭素 37.0g(486mmol)を滴下し、次いで、ヨウ化メチル 154.1g(1085mmol)を滴下した。次いで、この反応溶液を10℃以下に冷却し、t−ブトキシカリウム 109.5g(976mmol)を少量ずつ添加した。この添加の際、反応液の温度は30℃以下に保持した。
【0070】
t−ブトキシカリウム添加終了後、更に30℃で1時間攪拌した。次いで、反応液を、30℃で減圧濃縮した。この濃縮液に、塩化アンモニウム水溶液を加え攪拌した。この液を酢酸エチル200mlで3回抽出、この有機相に、無水硫酸ナトリウムを加え、乾燥を行なった後、ろ紙を用いてろ過し、ろ液を残渣が約130gになるまで減圧留去した。これにn−ヘキサンを加え、結晶化した後、このヘキサン不溶分を吸引ろ過により分離した。得られた結晶性分を真空乾燥し、化合物(C)を28.9g(収率63%)得た。
【0071】
[中間化合物(D)の合成例1−3]
2Lの4つ口フラスコに温度計並びに滴下ロート、ジムロート冷却管を装着したのち、上記合成例1−2で合成した化合物(C)28.9g(89mmol)を加えた後、反応容器を窒素置換した後、テトラヒドロフラン722gを加え、更に、アセトン 9.3g(106mmol)加え、室温25℃で攪拌した。次いで、t−ブトキシカリウム 130.0g(267mmol)を少量ずつ添加、t−ブトキシカリウム添加終了後、更に25℃で1時間攪拌した。次いで、酢酸 867gを加え、更に酢酸アンモニウム 30.9g(400mmol)加え攪拌した。
【0072】
次いで、反応液を、50℃で減圧濃縮した。この濃縮液に、蒸留水200g加え攪拌した後、この液をクロロホルム 200mlで3回抽出、この有機相を集め、蒸留水でpHが中性(pH6〜7程度)になるまで水洗作業(蒸留水1500mlで5回の水洗)を繰り返した。無水硫酸ナトリウムを加え、乾燥を行なった後、ろ紙を用いてろ過し、ろ液を減圧留去し、粗生成物27.7gを得た。次いで、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(D)を11.1g(収率39%)得た。
【0073】
[中間化合物(E)の合成例1−4]
500mLの3つ口フラスコに温度計並びに滴下ロート、ジムロート冷却管を、上記合成例1−3で合成した化合物(D)9.0g(28.5mmol)、1−ブタノール 90gを加えた後、窒素雰囲気下、100℃で加熱攪拌した。次いで、この反応液中に28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液 46.2g(240mmol)を10分間かけ滴下し、更に5分後に蒸留水5.4gを10分間かけ滴下した。次いで、90℃で5時間加熱攪拌した後、反応液を室温25℃まで冷却した。次いで、反応容器に析出した目的物のナトリウム塩結晶を吸引ろ過し、更にこの結晶を酢酸エチルで洗浄し、この塩を真空乾燥した。この時点で目的物のナトリウム塩7.3gを得た。
【0074】
次いで、このナトリウム塩に対して蒸留水73gを加え攪拌、この液に対して、硫酸水素ナトリウム3.6gを蒸留水3.6gに溶解した水溶液を加え、ナトリウム塩溶液をpH4の弱酸性溶液とした。この溶液を氷冷した後、析出した結晶を吸引ろ過で分別し、更に吸引ろ過を行い目的化合物(E)5.0g(収率67%)得た。
【0075】
得られた化合物について、H−NMR測定、IR測定、MS分析を行い、目的の化合物(E)が得られていることを確認した。分析結果は以下の通りであった。図1は、合成例1−4で得られた化合物のH−NMR測定の結果を示す。
【0076】
H-NMR(溶媒:d6-DMSO) 化学シフトσ: 8.85ppm(ピリジン環上5’位水素、1H)、8.79ppm(ピリジン環上3’位水素、1H)、8.05ppm(ピリジン環上3位水素、1H)、7.86ppm(ピリジン環上6’位水素、1H)、7.23ppm(ピリジン環上5位水素、1H)、2.58ppm(CHS−、3H)、2.55ppm(ピリジン環上6位メチル、3H)。
【0077】
IR(KBr錠): 3116cm−1、3085cm−1、2994cm−1、2985cm−1、2923cm−1、1735cm−1、1581cm−1、1544cm−1、1376cm−1、1321cm−1、1290cm−1、1257cm−1
【0078】
DI−MS:m/z=260(M+)
[化合物Fの合成例1−5]
100mLのフラスコに、ジムロート冷却管を装着し、これに、上記合成例1−4で合成した化合物(E)800mg(3.07mmol)、ジクロロ(p−シメン)−ルテニウム(II)ダイマー471mg (0.767mmol)、ジメチルホルムアミド 10gを加え、窒素雰囲気下において、190℃で22時間加熱攪拌を行なった。反応容器を空冷し、反応液を、90℃で減圧濃縮し、目的物の粗生成物を得た。次いで、この粗生成物にエタノール50gを加えた。この作業により析出した成分を吸引ろ過により分取し、更にこの結晶を洗浄し、真空乾燥後、目的化合物(F)577mg(収率68%)を得た。
【0079】
得られた化合物について、H−NMR測定、IR測定を行い、目的の化合物(F)が得られていることを確認した。分析結果は以下の通りであった。図2は、合成例1−5で得られた化合物のH−NMR測定の結果を示す。
【0080】
H-NMR(溶媒:d6-DMSO) 化学シフトσ: 9.50ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.95ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.85ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.46ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.39ppm(ピリジン環上水素、1H)、8.17ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.75ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.68ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.32ppm(ピリジン環上水素、1H)、7.24ppm(ピリジン環上水素、1H)、3.19ppm(CH基、3H)、2.73ppm(CH基、3H)、2.57ppm(CH基、3H)、2.55ppm(CH基、3H)。
【0081】
IR(KBr錠): 2927cm−1、2854cm−1、2059cm−1、1963cm−1、1598cm−1、1550cm−1、1436cm−1、1367cm−1
【0082】
[化合物Gの合成例1−6]
100mLのフラスコに、ジムロート冷却管を装着し、これに、上記合成例1−5で合成した化合物(F)450mg(0.65mmol)、チオシアン酸アンモニウム 494mg(6.5mmol)、ジメチルホルムアミド 10gを加え、窒素雰囲気下において、180℃で8時間加熱攪拌を行なった。反応容器を空冷し、反応液を、90℃で減圧濃縮し、目的物の粗生成物を得た。次いで、この粗生成物をODSカラム(ODS=オクタデシルシリル(Octa Decyl Silyl)(=C1837Si)基で表面が修飾された化学結合型多孔性球状シリカゲルが固定相として充填されているタイプのもの)で精製し、水―アセトニトル溶媒で流出する成分を分取、溶媒留去後、目的化合物(G)204mg(収率65%)を得た。
【0083】
得られた化合物について、H−NMR測定、IR測定、UV吸収測定、MS分析を行い、目的の化合物(G)が得られていることを確認した。分析結果は以下の通りであった。図3は、合成例1−6で得られた化合物のH−NMR測定の結果を示す。図4は、合成例1−6で得られた化合物のIR測定の結果を示す。図5は、合成例1−6で得られた化合物のUV吸収測定の結果を示す。
【0084】
H-NMR(溶媒:d4-MeOH) 化学シフトσ: 9.7ppm〜7.0ppm(ピリジン環上水素)、3.3ppm〜2.5ppm(CHS基、ピリジン環上6位メチル基)。
【0085】
IR(KBr錠): 2923cm−1、2850cm−1、2113cm−1、1978cm−1、1718cm−1、1637cm−1、1617cm−1、1598cm−1、1540cm−1、1436cm−1
【0086】
UV吸収(EtOH 0.1mM溶液)256nm,306nm、513nm
LC−MS:m/z=680(M+ − SCN)
(半導体層)
本発明の光電変換素子の光電変換層に使用する半導体層は、半導体から構成され、その形態は、粒子状、多数の微細孔を有する膜状等、種々の形態のものを用いることができるが、膜状の形態であることが好ましい。半導体層は、好ましくは多孔性半導体層である。半導体層を構成する半導体としては、一般に光電変換材料に使用されるものであれば特に限定されず、例えば酸化チタン、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化亜鉛、酸化錫、リン化インジウム、銅−インジウム硫化物(CuInS)、CuAlOおよびSrCuからなる群から選択される化合物を単独または組み合わせて用いた半導体が挙げられる。その中でも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ニオブが好ましく、光電変換効率、安定性および安全性の点から、酸化チタンが特に好ましい。
【0087】
本発明において、酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの各種の狭義の酸化チタンおよび水酸化チタン、含水酸化チタン等を包含する。アナターゼ型とルチル型の2種類の結晶は、その製法や熱履歴によりいずれの型もとりうるが、アナターゼ型が一般的である。特に、本発明の金属錯体色素の増感に関しては、アナターゼ型の含有率の高いものが好ましくその割合は80%以上が好ましい。
【0088】
半導体層を構成する上記半導体は、安定性、結晶成長の容易さ、製造コスト等の観点から微粒子からなる多結晶焼結体が好ましい。半導体粒子の平均粒径は1〜500nm程度であることが好ましい。また、2種類以上の粒子サイズの同一または異なる半導体を混合して用いてもよい。
【0089】
異なる粒子サイズを有する半導体粒子を混合して用いる場合、平均粒径の比率は10倍以上の差を有していることが好ましい。平均粒径の大きい半導体粒子は入射光を散乱させ光捕捉率を上げる目的で使用することができ、その平均粒径は100〜500nmが好ましく、平均粒径の小さい半導体粒子は色素の吸着点をより多くし吸着量を増加させる目的で平均粒径の大きい半導体粒子と混合することができ、その平均粒径は5〜50nmが好ましい。特に、異なる半導体からなる半導体粒子を混合する場合、色素吸着作用の強い半導体を小粒径にすれば色素吸着量をより増加させるのに効果的である。
【0090】
さらに、半導体層は入射光を太陽電池内部で最大限に利用できるように、少なくとも2層以上の構造であることが好ましく、光の入射側より順に光散乱性の低い層(低散乱層)から光散乱性の高い層(高散乱層)が積層されている構成が好ましい。
【0091】
本発明の光電変換素子において、半導体層は、例えば導電性支持体上に形成される。この半導体層の形成方法としては、特に限定されず、公知の方法が挙げられる。具体的には、(1)スクリーン印刷法、インクジェット法などにより、半導体粒子を含有するペーストを導電性支持体上に塗布した後、焼成して半導体層を成膜する方法、(2)所望の原料ガスを用いたCVD法またはMOCVD法などにより、導電性支持体上に半導体層を成膜する方法、(3)原料固体を用いたPVD法、蒸着法、スパッタリング法などにより、導電性支持体上に半導体層を成膜する方法、(4)ゾル−ゲル法、電気化学的な酸化還元反応を利用した方法などにより、導電性支持体上に半導体層を成膜する方法などが挙げられる。これらの方法の中で、厚膜の半導体層を低コストで成膜できることから、ペーストを用いたスクリーン印刷法が特に好ましい。
【0092】
半導体層の膜厚は、特に限定されるものではないが、光電変換効率の観点から、0.5〜50μm程度が好ましい。また、半導体層の幅も特に限定させるものではないが、1mm〜20mm程度が好ましい。
【0093】
また、光電変換素子の光電変換効率を向上させるためには、上述の色素を半導体層により多く吸着させることが必要である。このため、膜状の半導体層では、比表面積が大きなものが好ましく、10〜200m/g程度が好ましい。なお、本明細書において示す比表面積はBET吸着法により測定した値である。
【0094】
[半導体層の製造例]
半導体材料として酸化チタンを用いて半導体層を形成する方法の一例を、具体的に説明する。まず、チタンイソプロポキシド(キシダ化学株式会社製)125mLを0.1Mの硝酸水溶液(キシダ化学株式会社製)750mLに滴下し加水分解させ、80℃で8時間加熱することにより、ゾル液の作製を行う。その後、チタン製オートクレーブにて230℃で11時間、粒子成長させ、超音波分散を30分間行うことにより、平均一次粒径15nmの酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を作製し、2倍のエタノールを加え、5000rpmにて遠心分離を行うことにより酸化チタン粒子を作製することができる。なお、本明細書における平均粒径は、SEM観察により測定した値である。
【0095】
次いで、得られた酸化チタン粒子を洗浄した後、エチルセルロースとテルピネオールを無水エタノールに溶解させたものを加え、攪拌することにより酸化チタン粒子を分散させる。その後、混合液を真空条件下で加熱してエタノールを蒸発させ、酸化チタンペーストを得る。最終的な組成として、例えば、酸化チタン固体濃度20wt%、エチルセルロース10wt%、テルピネオール64wt%となるように濃度を調製する。
【0096】
半導体粒子を含有する(懸濁させた)ペーストを調製するために用いる溶剤としては、上記以外に、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのグライム系溶剤、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、イソプロピルアルコール/トルエンなどの混合溶剤、水などが挙げられる。
【0097】
次いで、上記の方法により半導体粒子を含有するペーストを導電性支持体上に塗布し、焼成して半導体層を得る。乾燥および焼成は、使用する支持体や半導体粒子の種類により、温度、時間、雰囲気などの条件を適宜調整する必要がある。焼成は、例えば、大気雰囲気下または不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の範囲内で、10秒〜12時間程度で行うことができる。この乾燥および焼成は、単一の温度で1回または温度を変化させて2回以上行うことができる。以上の工程により、導電性支持体上に酸化チタン粒子からなる半導体層を形成することができる。
【0098】
本発明の光電変換素子は、上記半導体層に上記色素が吸着されてなる光電変換層を有する。半導体層に色素を吸着させる方法としては、例えば導電性支持体上に形成された半導体層を、色素を溶解した溶液(色素溶液)に浸漬される工程を有する方法が挙げられる。色素を溶解させる溶剤としては、色素を溶解するものであればよく、具体的には、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類、水などが挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0099】
色素溶液中の色素濃度は、使用する色素および溶剤の種類により適宜調整することができる。本発明に係る色素は、0.01〜0.1mmol/Lの範囲の濃度の色素溶液に調製して用いることが好ましい。この濃度範囲の色素溶液により、光電変換素子の性能として問題ない量の色素を半導体層に吸着させることができる。なお、色素濃度を高濃度にすると、色素が凝集するなどの問題が生じたり、半導体層以外の部分に付着してしまう色素量が多くなってしまうという問題が生じたりする。
【0100】
<2.色素増感太陽電池>
本発明は、導電性支持体上に光電変換層が形成された第1電極と、第1電極の対となる第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられたキャリア輸送層と、を含む、色素増感太陽電池である。第1電極としては、上述の本発明の光電変換素子を用いることができる。
【0101】
(第1電極)
第1電極は、たとえば導電性支持体上に上記の本発明の光電変換素子と同様の光電変換層を形成することによって得ることができる。本発明に用いられる導電性支持体としては、たとえば、絶縁基板の表面に導電層を形成したものを用いることができる。
【0102】
絶縁基板は、太陽電池の受光面となる部分では光透過性が必要となるため、少なくとも光透過性の材料からなり、厚さ0.05〜5mm程度のものが好ましい。絶縁基板を構成する材料としては、例えば、ソーダガラス、溶融石英ガラス、結晶石英ガラスなどのガラス基板、可撓性フィルムなどの耐熱性樹脂板などが挙げられる。
【0103】
可撓性フィルム(以下、「フィルム」という)としては、例えば、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PA)、ポリエーテルイミド(PEI)、フェノキシ樹脂、テフロン(登録商標)等が挙げられる。
【0104】
絶縁基板上に加熱を伴って他の層を形成する場合、例えば、絶縁基板上に250℃程度の加熱を伴って導電層を形成する場合には、上記のフィルム材料の中でも、250℃以上の耐熱性を有するテフロン(登録商標)が特に好ましい。絶縁基板は、完成した太陽電池を他の構造体に取り付けるときに利用することができる。例えば、金属加工部品やねじ等を用いてガラス基板などの支持体の周辺部を介して、太陽電池を他の構造体に容易に取り付けることができる。
【0105】
導電層は、太陽電池の受光面となる場合、光透過性が必要となる。ただし、少なくとも色素に実効的な感度を有する波長の光を実質的に透過させるものであればよく、必ずしもすべての波長領域の光に対して透過性を有する必要はない。導電層の材料としては、インジウム錫複合酸化物(ITO)、酸化錫にフッ素をドープしたもの(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)などが挙げられる。特に、FTOからなる透光性導電層をソーダ石灰フロートガラスからなる透光性の絶縁基板に積層した透光性の導電性支持体は本発明に好適である。
【0106】
導電層を絶縁基板の上に形成する方法は特に限定されず、例えば公知のスパッタ法、スプレー法などが挙げられる。導電層の膜厚は0.02〜5μm程度が好ましく、膜抵抗は低いほどよく、40Ω/sq以下であることが好ましい。
【0107】
さらに、導電層の抵抗を下げるために金属リード線を加えてもよい。金属リード線の材質としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等が好ましい。金属リード線を絶縁基板上に、例えば公知のスパッタ法、蒸着法、スクリーン印刷法等で形成し、金属リード線を含む基板上に導電層を形成することができる。あるいは、絶縁基板上に導電層を形成した後、その上に金属リード線を形成してもよい。ただし、金属リード線を設けることにより入射光量の低下を招くので、金属リード線の太さは0.1〜4mm程度が好ましい。また、この金属リード線が後述するキャリア輸送層により腐食する材料からなる場合は、酸化珪素が含まれるガラス材料などで保護するとよい。
【0108】
(第2電極)
本発明に用いられる第2電極は導電性であれば特に限定されない。第2電極としては、たとえばn型あるいはp型の半導体、金、白金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン、タンタルあるいはタングステンなどの金属、またはSnO、ITO、CuIあるいはZnOなどの透明導電膜などを用いることができる。また、本発明に用いられる第2電極としては、ガラス、プラスチックまたは透明ポリマーシートなどからなる絶縁基板の表面に導電層を形成した電極、すなわち第1電極の導電性支持体と同様のものを用いることができる。また、第2電極の導電層の表面には触媒層を形成してもよい。
【0109】
(キャリア輸送層)
本発明に用いられるキャリア輸送層は、イオンを輸送できる導電性材料で構成され、好適な材料として、例えば、液体電解質、固体電解質、ゲル電解質、溶融塩ゲル電解質が挙げられる。液体電解質は、酸化還元種を含む液状物であればよく、一般の電池や太陽電池などにおいて使用することができるものであれば特に限定されない。具体的には、酸化還元種とこれを溶解可能な溶剤からなるもの、酸化還元種とこれを溶解可能な溶融塩からなるもの、酸化還元種とこれを溶解可能な溶剤と溶融塩からなるものが挙げられる。
【0110】
固体電解質は、電子、ホール、イオンを輸送できる導電性材料で、太陽電池の電解質として用いることができ、流動性がないものであればよい。具体的には、ポリカルバゾールなどのホール輸送材、テトラニトロフロオルレノンなどの電子輸送材、ポリロールなどの導電性ポリマー、液体電解質を高分子化合物により固体化した高分子電解質、ヨウ化銅、チオシアン酸銅などのp型半導体、溶融塩を含む液体電解質を微粒子により固体化した電解質などが挙げられる。
【0111】
ゲル電解質は、通常、電解質とゲル化剤からなる。ゲル化剤としては、例えば、架橋ポリアクリル樹脂誘導体や架橋ポリアクリロニトリル誘導体、ポリアルキレンオキシド誘導体、シリコーン樹脂類、側鎖に含窒素複素環式四級化合物塩構造を有するポリマーなどの高分子ゲル化剤などが挙げられ、これらを好適に用いることができる。溶融塩ゲル電解質は、通常、ゲル電解質材料と常温型溶融塩からなる。常温型溶融塩としては、例えば、ピリジニウム塩類、イミダゾリウム塩類などの含窒素複素環式四級アンモニウム塩化合物類などが挙げられ、これらを好適に用いることができる。
【0112】
酸化還元種としては、例えば、I/I3−系、Br2−/Br3−系、Fe2+/Fe3+系、キノン/ハイドロキノン系等の酸化還元種を含有させたものが挙げられる。具体的には、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI)などの金属ヨウ化物とヨウ素(I)の組み合わせ、テトラエチルアンモニウムアイオダイド(TEAI)、テトラプロピルアンモニウムアイオダイド(TPAI)、テトラブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)、テトラヘキシルアンモニウムアイオダイド(THAI)などのテトラアルキルアンモニウム塩とヨウ素の組み合わせ、および臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化カルシウム(CaBr)などの金属臭化物と臭素の組み合わせが好ましく、これらの中でも、LiIとIの組み合わせが特に好ましい。
【0113】
液体電界質の場合、酸化還元種の溶媒としては、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、アセトニトリルなどのニトリル化合物、エタノールなどのアルコール類、水、非プロトン極性物質などが挙げられる。これらの中でも、カーボネート化合物やニトリル化合物が特に好ましい。これらの溶媒は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0114】
また、液体電解質には添加剤を添加してもよい。ここで、添加剤として、たとえばt-ブチルピリジン(TBP)などの含窒素芳香族化合物、あるいはジメチルプロピルイミダゾールアイオダイド(DMPII)、メチルプロピルイミダゾールアイオダイド(MPII)、エチルメチルイミダゾールアイオダイド(EMII)、エチルイミダゾールアイオダイド(EII)、ヘキシルメチルイミダゾールアイオダイド(HMII)などのイミダゾール塩などを用いることができる。
【0115】
液体電解質中の電解質濃度は、0.001〜1.5mol/Lの範囲が好ましく、0.01〜0.7mol/Lの範囲が特に好ましい。これらのキャリア輸送層は、多孔性絶縁層中に形成されてもよい。
【0116】
(色素増感太陽電池の実施形態)
図6は、本発明の実施形態の色素増感太陽電池の構成を示す概略断面図である。本実施形態の色素増感太陽電池は、絶縁基板100上に透明の導電層102が形成されてなる導電性支持体110、複数の半導体粒子からなる半導体層に色素が吸着されてなる光電変換層104、キャリア輸送層107、触媒層105、第2電極111がこの順で配列されてなる。導電性支持体110と、光電変換層104とから、第1電極112が形成されている。第2電極111は、絶縁基板101と絶縁基板101上に形成された導電層106とからなり、導電層106が触媒層105と接するように配置されている。光電変換層104およびキャリア輸送層107は、導電性支持体110と第2電極111との間の領域に形成されており、この領域は封止部材103により環囲されている。
【0117】
導電性支持体110、光電変換層104、キャリア輸送層107、第2電極111の構成および作製方法については、上述の通りである。触媒層105は、キャリア輸送層107の酸化還元反応を活性化させるものが好ましい。触媒層105を構成する材料としては、例えば、白金(仕事関数:6.35eV)、カーボンブラック、グラファイト、ガラス炭素、アモルファス炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンホイスカー、カーボンナノチューブ、フラーレンなどカーボン(仕事関数4.7ev)が好ましい。
【0118】
触媒層105の形成方法としては、白金を用いる場合、第2電極111の導電層106上にPVC法、蒸着法、スパッタリング法等の公知技術により形成することができる。また、カーボンを用いる場合は、カーボンを溶媒に分散してペースト状にしたものをスクリーン印刷法などの塗布法により導電層106上に塗布して触媒層105を形成することができる。
【0119】
封止部材103は、太陽電池内への水などの浸入を防止する。また、キャリア輸送層107が液体電解質から構成される場合は、液体電解質の蒸発を防止する。さらに、封止部材103は、(1)太陽電池に作用する落下物や応力(衝撃)を吸収する、(2)長期にわたる使用時において絶縁基板100,101に作用するたわみなどを吸収する、などの役割を担う。封止部材103を構成する材料としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソブチレン系樹脂、ホットメルト樹脂、ガラスフリットなどが好ましく、これらは2種類以上を2層以上にして用いることもできる。
【0120】
キャリア輸送層107において、酸化還元性電解質の溶剤としてニトリル系溶剤、カーボネート系溶剤が使用される場合は、封止部材103を構成する材料として、シリコーン樹脂やホットメルト樹脂(例えば、アイオノマー樹脂)、ポリイソブチレン系樹脂、ガラスフリットが特に好ましい。
【0121】
封止部材103は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ガラスフリットを使用する場合には、ディスペンサーを用いることにより、ホットメルト樹脂を使用する場合には、シート状のホットメルト樹脂にパターニングした穴を開けることにより、中空に形成することができる。かかる中空部分は、光電変換層104、キャリア輸送層107が形成される領域となる。
【実施例】
【0122】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0123】
(実施例1)
図6に示す上記実施形態の色素増感太陽電池を作製した。ガラスからなる絶縁基板100上にSnO膜からなる導電層102が成膜された導電性支持体110(日本板硝子社製、商品名:SnO膜付ガラス)の導電層102の所定の位置に、スクリーン印刷機(ニューロング精密工業製LS−150)を用いて、市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製、商品名Ti−Nanoxide T/SP)を塗布し、焼成炉(デンケン社製KDF P−100)を用いて500℃で40分間、空気中で焼成することにより、酸化チタンからなる膜厚8μmの半導体層を形成した。さらにこの上に、スクリーン印刷機を用いて市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製、商品名Ti−Nanoxide D/SP)を塗布し、焼成炉にて500℃で40分間、空気中で焼成し、酸化チタンからなる膜厚12μmの半導体層を形成した。
【0124】
上述のように形成した半導体層を、アセトニトリルとn−ブタノールを体積比1:1で混合した溶剤に、上記化学式(10)の金属錯体色素を0.1mmol/Lの濃度で溶解させて調製した色素溶液に浸漬し、室温で24時間放置することにより半導体層に色素を吸着させ、光電変換層104を作製した。その後、絶縁基板100をエタノールで洗浄し、約35℃で約1分間乾燥させた。
【0125】
第2電極111として、ガラスからなる支持体101上にSnO膜からなる導電層106が成膜されたガラス基板(日本板硝子社製、商品名:SnO膜付ガラス)の導電層106の所定の位置に、蒸着機(アネルバ製 EVD500A)を用いて白金を0.1nm/secの蒸着速度で蒸着して厚さ50nmの触媒層105を形成した。その後、所定の位置に電解液注入口を2か所形成した(図示せず)。
【0126】
光電変換層104の外周に光電変換層104に接触しないように紫外線硬化樹脂(スリーボンド社製 31X−101)をスクリーン印刷機(ニューロング精密工業製LS−150)で封止部材103の形状に塗布し、その上部に蒸着した触媒層106が下面となるように第2電極111を貼り合わせた。そして、紫外線ランプ(セン特殊光源株式会社、HR10001N−4)を用いて紫外線を照射することにより紫外線硬化樹脂を硬化させて封止部材103を形成するとともに、封止部材103を介して光電変換層104を含む第1電極112と、第2電極111とを一体に構成した。
【0127】
その後、第2電極111の電解液注入口より、電解液をキャピラリー効果により注入し、電解液注入口を封止して、色素増感太陽電池を完成させた。具体的には、電解液は、アセトニトリル(Aldrich Chemical Company製)に、濃度0.1mol/LのLiI(Aldrich Chemical Company製)、濃度0.05mol/LのI(Aldrich Chemical Company製)、濃度0.5mol/LのTBP(Aldrich Chemical Company製)、濃度0.6mol/LのDMPII(四国化成製)を溶解させて調製したものを用いた。電解液注入後に、電解液注入口に紫外線硬化樹脂(スリーボンド社製 31X−101)を塗布し、紫外線ランプ(セン特殊光源株式会社、HR10001N−4)を用いて紫外線を照射して硬化させることにより、実施例1の色素増感太陽電池を作製した。
【0128】
実施例1の色素増感太陽電池に、1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)9.4mA/cm、開放電圧(Voc)0.567V、フィルファクター(FF)0.75、変換効率(η)4.0%であった。表1に測定値を示す。
【0129】
(実施例2)
上記化学式(10)で表される金属錯体色素の色素溶液の濃度を0.05mmol/Lとした点以外は、実施例1と同様に実施例2の太陽電池を作製した。1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)9.8mA/cm、開放電圧(Voc)0.572V、フィルファクター(FF)0.75、変換効率(η)4.2%であった。表1に測定値を示す。
【0130】
(実施例3)
上記化学式(10)で表される金属錯体色素の色素溶液の濃度を0.02mmol/Lとした点以外は、実施例1と同様に実施例3の太陽電池を作製した。1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)8.6mA/cm、開放電圧(Voc)0.586V、フィルファクター(FF)0.75、変換効率(η)3.8%であった。表1に測定値を示す。
【0131】
(実施例4)
上記化学式(10)で表される金属錯体色素の色素溶液の濃度を0.01mmol/Lとした点以外は、実施例1と同様に実施例4の太陽電池を作製した。1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)8.6mA/cm、開放電圧(Voc)0.586V、フィルファクター(FF)0.75、変換効率(η)3.8%であった。表1に測定値を示す。
【0132】
(実施例5)
上記化学式(10)で表される金属錯体色素の色素溶液の濃度を0.4mmol/Lとした点以外は、実施例1と同様に実施例5の太陽電池を作製した。1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)5.9mA/cm、開放電圧(Voc)0.513V、フィルファクター(FF)0.706、変換効率(η)2.1%であった。表1に測定値を示す。
【0133】
(実施例6)
上記化学式(10)で表される金属錯体色素の色素溶液の濃度を0.4mmol/Lとした点以外は、実施例1と同様に実施例6の太陽電池を作製した。1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)6.3mA/cm、開放電圧(Voc)0.522V、フィルファクター(FF)0.712、変換効率(η)2.3%であった。表1に測定値を示す。
【0134】
(比較例1)
金属錯体色素として、上記式(10)で表される金属錯体色素に代えて上記式(11)で表される金属錯体色素(N3色素、Dyesol社製)を使用し、色素溶液の濃度を0.05mmol/Lとした点以外は、実施例1と同様に比較例1の太陽電池を作製した。1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)4.1mA/cm、開放電圧(Voc)0.601V、フィルファクター(FF)0.75、変換効率(η)1.8%であった。表1に測定値を示す。
【0135】
(比較例2)
金属錯体色素として、上記式(10)で表される金属錯体色素に代えて上記式(11)で表される金属錯体色素(N3色素、Dyesol社製)を使用し、色素溶液の濃度を40mmol/Lとした点以外は、実施例1と同様に比較例2の太陽電池を作製した。1kW/mの強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、短絡電流、開放電圧、フィルファクターおよび光電変換効率を測定した。その結果、短絡電流(Jsc)10.1mA/cm、開放電圧(Voc)0.566V、フィルファクター(FF)0.72、変換効率(η)4.1%であった。
【0136】
【表1】

【0137】
表1から明らかなように、上記化学式(10)で表される色素を用いた実施例1〜6は、色素溶液濃度が低くても高い変換効率が得られた。一方、上記化学式(11)で表される色素を用いた比較例1,2は、色素溶液濃度が低いと非常に低い変換効率となった。色素溶液濃度がいずれも0.05mmol/Lである、実施例2と比較例1の結果を比較すると同じ濃度でも変換効率に大きな違いが生じていることがわかる。また、化学式(11)の色素を用いた場合には、40mmol/Lの高濃度の色素溶液濃度でないと得られなかった変換効率(比較例2)が、化学式(10)の色素を用いた場合は、0.05〜0.1mmol/Lの色素溶液濃度(実施例1、2)で得られていることがわかる。
【0138】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0139】
100,101 絶縁基板、102,106 導電層、103 封止部材、104 光電変換層、105 触媒層、107 キャリア輸送層、110 導電性支持体、111 第2電極、112 第1電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層に色素が吸着されてなる光電変換層を有し、
前記色素は、下記の化学式(1)で表され、
ML ・・・(1)
前記化学式(1)において、Mは中心金属原子を表し、L、L、LおよびLは配位子を表し、LおよびLの内、少なくとも一つが下記の化学式(2)で表され、
【化1】

前記化学式(2)において、Xは窒素原子またはCRを表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜40の炭化水素基を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、または炭素数1〜40の炭化水素基を表し、Rは水素原子、水酸基、または炭素数1〜40のアルコキシ基を表す、光電変換素子。
【請求項2】
前記化学式(1)において、LおよびLの内、少なくとも一つが下記の化学式(3)〜(9)のいずれかで表され、
【化2】

前記化学式(4)において、R11は炭素数1〜6のアルキル基を表し、前記化学式(9)において、Arは炭素数1〜6のアリール基を表す、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記化学式(1)において、Mは鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスニウム、イリジウムまたは白金を表す、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記化学式(1)において、
およびLのいずれもが前記化学式(2)で表され、前記化学式(2)において、Rはカルボン酸基を表し、
およびLのいずれもが前記化学式(3)で表され、
Mがルテニウムで表す、請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記化学式(1)で表される前記色素は、下記の化学式(10)で表される、
【化3】

請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換素子を含む第1電極と、第1電極の対となる第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられたキャリア輸送層と、を含む、色素増感太陽電池。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法であって、
前記半導体層を前記色素を含む色素溶液に浸漬させて前記光電変換層を形成する工程を有し、
前記色素溶液は、前記色素の濃度が0.01〜0.1mmol/Lである、光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−222231(P2011−222231A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88838(P2010−88838)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】