説明

光電変換素子及び光電気化学電池

【課題】光電変換効率が高く、さらに耐久性に優れた光電変換素子及び光電気化学電池を提供する。
【解決手段】導電性支持体1と、色素を含む半導体微粒子層22で構成された感光体層2と、電荷移動体層3と、対極とからなる光電変換素子10であって、前記半導体微粒子22が2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなり、前記色素が下記一般式(1)で表される化合物である、光電変換素子。Mz(LL1m1(LL2m2(X)m3・(CI)m4一般式(1)[Mzは金属原子を表し、LL1は特定の2座又は3座の配位子であり、LL2は特定の2座又は3座の配位子である。Xは特定の1座若しくは2座の配位子表す。CIは、一般式(1)で表される化合物の電荷を中和させる対イオンを表す。m1は1〜3の整数を表す。m2は0〜2の整数を表す。m3は0〜3の整数を表す。m4は0〜3の整数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換効率が高く、耐久性に優れた光電変換素子及び光電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は各種の光センサー、複写機、光電気化学電池(例えば太陽電池)等に用いられている。この光電変換素子には金属を用いたもの、半導体を用いたもの、有機顔料や色素を用いたもの、あるいはこれらを組み合わせたものなどの様々な方式が実用化されている。中でも、非枯渇性の太陽エネルギーを利用した太陽電池は、燃料が不要であり、無尽蔵なクリーンエネルギーを利用したものとして、その本格的な実用化が大いに期待されている。この中でも、シリコン系太陽電池は古くから研究開発が進められてきた。各国の政策的な配慮もあって普及が進んでいる。しかし、シリコンは無機材料であり、スループット及び分子修飾には自ずと限界がある。
【0003】
そこで色素増感型太陽電池の研究が精力的に行われている。特に、スイスのローザンヌ工科大学のGraetzel等がポーラス酸化チタン薄膜の表面にルテニウム錯体からなる色素を固定した色素増感型太陽電池を開発し、アモルファスシリコン並の変換効率を実現した。これにより、色素増感型太陽電池が一躍世界の研究者から注目を集めるようになった。
【0004】
特許文献1には、この技術を応用し、ルテニウム錯体色素によって増感された半導体微粒子を用いた色素増感光電変換素子が記載されている。また、廉価な有機色素を増感剤として用いた光電変換素子が報告されている。
特許文献2には、特定の構造の色素を用いることにより、太陽光を有効に吸収して光電変換効率を向上させた光増感太陽電池が提案されている。
また、中心部であるコアと外殻部であるシェルとを有する多重構造酸化チタン微粒子のうち、コアとシェルの少なくとも一方にドーパントを含有させることにより、光電変換効率を向上させた光電池が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
本発明者らがこれらの特許文献に記載された色素と半導体微粒子を用いて光電変換素子を作製し、評価したところ、耐久性の点では十分でない場合があることがわかった。光電変換素子には、初期の変換効率が高く、使用後も変換効率の低下が少なく耐久性に優れることが必要とされるため、これらの特許文献記載の光電変換素子では十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5463057号明細書
【特許文献2】特開2009-200028号公報
【特許文献3】特開2004-10403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、光電変換効率が高く、さらに耐久性に優れた光電変換素子及び光電気化学電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、様々な半導体微粒子と色素を用いて光電変換素子を作製し、光電変換効率と耐久性について鋭意検討した。その結果、半導体微粒子として異なるものを混合しただけでは耐久性を大きく向上させることはできず、また半導体微粒子として酸化スズに酸化アルミニウムや酸化マグネシウムをコートしたものを単に用いても、耐久性を向上させることが困難であることを見出した。
そこで本発明者等は半導体微粒子と色素について鋭意検討を行った。その結果、半導体微粒子が2種以上の金属又は金属化合物を有してなり、かつ配位子に特定の置換基を有する金属錯体色素を用いた光電変換素子及び光電気化学電池が、初期の光電変換効率だけでなく、耐久性に優れることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づきなされたものである。
【0008】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
<1>導電性支持体と、色素を含む半導体微粒子層で構成された感光体層と、電荷移動体層と、対極とからなる光電変換素子であって、前記半導体微粒子が2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなり、前記色素が下記一般式(1)で表される化合物である、光電変換素子。

Mz(LL1m1(LL2m2(X)m3・(CI)m4 一般式(1)

[Mzは金属原子を表し、LL1は下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LL2は下記一般式(3)で表される2座又は3座の配位子である。
Xは、アシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子、又はハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド及びチオ尿素からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子を表す。
CIは、一般式(1)で表される化合物の電荷を中和させる対イオンを表す。
m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLL1は同じでも異なっていてもよい。m2は0〜2の整数を表し、m2が2のときLL2は同じでも異なっていてもよい。m3は0〜3の整数を表し、m3が2以上のときXは同じでも異なっていてもよい。m4は0〜3の整数を表し、m4が2以上のときCIは同じでも異なっていてもよい。
【0009】
【化1】

【0010】
一般式(2)において、R101及びR102はそれぞれ独立に、ヘテロ環基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基又はホスホニル基を表す。R103及びR104はそれぞれ独立に置換基を表し、R105及びR106はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基及びヘテロ環基からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる基を表す。
1及びL2はそれぞれ独立に、エテニレン基及び/又はエチニレン基からなる共役鎖を表す。
a1及びa2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、a1が2以上のときR101は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR102は同じでも異なっていてもよい。b1及びb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表す。b1が2以上のときR103は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。b2が2以上のときR104は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。b1及びb2が共に1以上のときR103とR104とが連結して環を形成してもよい。d1及びd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。d3は0又は1を表す。
【0011】
【化2】

【0012】
一般式(3)において、Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に、5又は6員環を形成しうる非金属原子群を表し、cは0又は1を表す。]
<2>前記半導体微粒子における2種以上の金属又は金属化合物が、金属原子、金属のカルコゲニド、金属炭酸塩又は金属硝酸塩である、前記<1>項記載の光電変換素子。
<3>前記金属原子がTi、Sn、Au、Ag、Cu、Al、Zr、Nb、V及びTaからなる群から選ばれた少なくとも1種である、前記<2>項記載の光電変換素子。
<4>前記金属カルコゲニドが硫化カドミウム、セレン化カドミウム又はTi、Sn、Zn、Mg、Al、W、Zr、Hf、Sr、In、Ce、Y、La、V及びTaからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物である、前記<2>又は<3>項記載の光電変換素子。
<5>前記金属炭酸塩が炭酸カルシウム、炭酸カリウム及び炭酸バリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種である、前記<2>〜<4>のいずれか1項記載の光電変換素子。
<6>前記金属硝酸塩が硝酸ランタンである、前記<2>〜<5>のいずれか1項記載の光電変換素子。
<7>前記半導体微粒子が、コア−シェル構造により、前記金属原子、前記金属のカルコゲニド、前記金属炭酸塩及び/又は前記金属硝酸塩を有してなる、前記<2>〜<6>のいずれか1項記載の光電変換素子。
<8>前記半導体微粒子が、前記金属のカルコゲニドをコア部分として有し、前記金属のカルコゲニド又は前記金属炭酸塩をシェル部分として有する、前記<7>項記載の光電変換素子。
<9>前記半導体微粒子が、酸化チタン及び酸化スズからなる群より選ばれる金属のカルコゲニドをコア部分として有し、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン及び酸化チタン/酸化マグネシウムからなる群より選ばれる金属のカルコゲニド又は金属炭酸塩をシェル部分として有する、前記<8>項記載の光電変換素子。
<10>前記半導体微粒子が、金属原子をドープすることにより、2種以上の金属原子を有してなる、前記<1>〜<6>のいずれか1項記載の光電変換素子。
<11>前記半導体微粒子が、前記金属のカルコゲニドに前記金属原子をドープして得られた半導体微粒子である、前記<10>項記載の光電変換素子。
<12>前記半導体微粒子が、酸化チタン及び酸化スズからなる群より選ばれる金属のカルコゲニドに、Nb、V及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子をドープして得られた半導体微粒子である、前記<11>項記載の光電変換素子。
<13>前記半導体微粒子の粒径が、1〜1000nmである、前記<1>〜<12>のいずれか1項記載の光電変換素子。
<14>前記半導体微粒子が、導電性材料からなる添加剤を含む、前記<1>〜<13>のいずれか1項記載の光電変換素子。
<15>前記導電性材料がグラフェンである、前記<14>項記載の光電変換素子。
<16>一般式(1)において、MzがRuであり、m1が1であり、m2が1であり、Xがイソチオシアネート基であり、m3が2である、前記<1>〜<15>のいずれか1項記載の光電変換素子。
<17>一般式(1)において、LL1が一般式(4−1)〜(4−3)のいずれかで表される、前記<1>〜<16>のいずれか1項記載の光電変換素子。
【0013】
【化3】

【0014】
[R101〜R104、a1、a2、b1、b2及びd3は一般式(2)におけるものと同義である。R107は酸性基を表す。a3は0〜3の整数を表す。R108は置換基を表す。b3は0〜3の整数を表す。R121〜R124はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を表す。R125、R126、R127及びR128はそれぞれ独立に置換基を表す。d4及びd5はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。]
<18>前記<1>〜<17>のいずれか1項に記載の光電変換素子を備える、光電気化学電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、変換効率が高く、耐久性に優れた光電変換素子及び光電気化学電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の光電変換素子の一実施態様について模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、導電性支持体と、特定の化合物の色素を含む半導体微粒子層で構成された感光体層と、電荷移動体層と、対極とからなる光電変換素子であって、前記半導体微粒子が2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる光電変換素子及び光電気化学電池が、変換効率が高く、耐久性に優れていることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきなされたものである。
【0018】
本発明の光電変換素子の好ましい実施態様を、図1の模式的断面図を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、光電変換素子10は、導電性支持体1、導電性支持体1上にその順序で配された、感光体層2、電荷移動体層3、及び対極4からなる。上記導電性支持体1と感光体層2とにより受光電極5を構成している。
その感光体層2は半導体微粒子22と増感色素(以下、単に、色素ともいう。)21とを有している。増感色素21はその少なくとも一部において半導体微粒子22に吸着している(増感色素21は吸着平衡状態になっており、一部電荷移動体層3に存在していてもよい。)。電荷移動体層3は、例えば正孔(ホール)を輸送する正孔輸送層として機能する。感光体層2が形成された導電性支持体1は、光電変換素子10において作用電極として機能する。この光電変換素子10を外部回路6で仕事をさせるようにして、光電気化学電池100として作動させることができる。
【0020】
上記受光電極5は、導電性支持体1及び導電性支持体1上に塗設される増感色素21の吸着した半導体微粒子22の感光体層2(半導体膜)よりなる電極である。感光体層2(半導体膜)に入射した光は色素を励起する。励起色素はエネルギーの高い電子を有している。そこでこの電子が増感色素21から半導体微粒子22の伝導帯に渡され、さらに拡散によって導電性支持体1に到達する。このとき増感色素21の分子は酸化体となっている。電極上の電子が外部回路6で仕事をしながら酸化体に戻ることにより、光電気化学電池100として作用する。この際、受光電極5はこの電池の負極として働く。
【0021】
上記感光体層2は、後述の色素が吸着された半導体微粒子22の層からなる多孔質半導体層で構成されている。この色素は一部電解質中に解離したもの等があってもよい。感光体層2は目的に応じて設計され、多層構造からなる。
【0022】
上述したように感光体層2には、特定の色素が吸着した半導体微粒子22を含むことから、受光感度が高く、光電気化学電池100として使用する場合に、高い光電変換効率を得ることができ、さらに高い耐久性を有する。
【0023】
(A)色素
上記感光体層2では、多孔質半導体層が下記一般式(1)で表される少なくとも1種の色素21で増感されている。

Mz(LL1m1(LL2m2(X)m3・CI 一般式(1)

【0024】
(A1)金属原子Mz
Mzは金属原子を表す。Mzは4配位又は6配位が可能な金属が好ましく、Ru、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn又はZnがより好ましく、Ru、Os、Zn又はCuが特に好ましく、Ruが最も好ましい。
【0025】
(A2)配位子LL1
配位子LL1は、一般式(2)で表される2座の配位子である。
配位子LL1の数を表すm1は1〜3の整数である。m1が2以上のとき、配位子LL1は同じでも異なっていてもよい。m1は1であることが好ましい。
【0026】
【化4】

【0027】
一般式(2)において、R101及びR102はそれぞれ独立に、ヘテロ環基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20のヒドロキサム酸基、例えば、−CONHOH、−CONCH3OH等)、ホスホリル基(例えば−OP(O)(OH)2等)又はホスホニル基(例えば−P(O)(OH)2等)を表す。ヘテロ環基は無置換でも、後述の置換基で置換されていてもよい。R101及びR102は、カルボキシル基又はホスホニル基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。R101及びR102はピリジン環上のどの炭素原子に置換してもよい。
【0028】
a1及びa2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表す。a1が2以上のときR101は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR102は同じでも異なっていてもよい。a1は0又は1であるのが好ましく、a2は0〜2の整数であるのが好ましい。また、a1とa2の和は0〜2の整数であるのが好ましい。
【0029】
一般式(2)において、R103及びR104はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数2〜20のヘテロ環基、例えば、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20のアミノ基、例えば、アミノ、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルホンアミド基(好ましくは炭素原子数0〜20のスルホンアミド基、例えば、N,N-ジメチルスルホンアミド、N-フェニルスルホンアミド等)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、シアノ基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はシアノ基である。
【0030】
b1及びb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、0〜2の整数であるのが好ましい。b1が2以上のとき、R103は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。b2が2以上のとき、R104は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。また、b1及びb2がともに1以上のとき、R103とR104が連結して環を形成していてもよい。形成する環としては特に制限はなく、好ましい例としては、ベンゼン環、ピリジン環、チオフェン環、ピロール環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環等が挙げられる。
【0031】
一般式(2)において、R105及びR106はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基及びヘテロ環基からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる基を表す。R105及びR106はそれぞれ独立に、芳香族基(好ましくは炭素原子数6〜30の芳香族基、例えば、フェニル、置換フェニル、ナフチル、置換ナフチル等)、又はヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30のヘテロ環基、例えば、2−チエニル基、2−ピロリル基、2−イミダゾリル基、1−イミダゾリル基、4−ピリジル基、3−インドリル基)が好ましく、1〜3個の電子供与基を有するヘテロ環基がより好ましく、チエニル基がさらに好ましい。該電子供与基はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基(以上好ましい例はR101及びR102の場合と同様)又はヒドロキシル基が好ましく、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基又はヒドロキシル基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。R105とR106は同じであっても異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。
【0032】
一般式(2)において、L1及びL2はそれぞれ独立に、エテニレン基及び/又はエチニレン基からなる共役鎖を表す。エテニレン基が置換基を有する場合、置換基の例としてはR103及びR104の置換基の具体例として示したものが挙げられる。該置換基はアルキル基であるのが好ましく、メチルであるのがより好ましい。L1及びL2はそれぞれ独立に、炭素原子数2〜6個の共役鎖であるのが好ましく、エテニレン、ブタジエニレン、エチニレン、ブタジイニレン、メチルエテニレン又はジメチルエテニレンがより好ましく、エテニレン又はブタジエニレンが特に好ましく、エテニレンが最も好ましい。L1とL2は同じであっても異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。なお、共役鎖が炭素−炭素二重結合を含む場合、各二重結合はトランス体であってもシス体であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0033】
d1及びd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。d1及びd2が0の場合、R105とR106は、直接ベンゼン環に結合する。d1及びd2が1以上の整数の場合、R105とR106は、L1又はL2を介してベンゼン環に結合する。d1及びd2はそれぞれ0又は1が好ましい。
【0034】
d3は0又は1であり、d3が0のときa2は1又は2であるのが好ましく、d3が1のときa2は0又は1であるのが好ましい。
【0035】
配位子LL1がアルキル基、アルケニル基等を含むとき、これらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。また、配位子LL1がアリール基などの芳香族基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、置換されていても無置換でもよい。置換基の例としてはR103及びR104の置換基の具体例として示したものが挙げられる。
【0036】
一般式(1)における配位子LL1は、下記一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるものが好ましい。
【0037】
【化5】

【0038】
上記一般式(4−1)〜(4−3)において、R101〜R104、a1、a2、b1、b2及びd3は一般式(2)におけるものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0039】
一般式(4−2)において、R107は酸性基を表し、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基又はホスホニル基が好ましく、より好ましくはカルボキシル基又はホスホリル基がより好ましく、カルボキシル基がさらに好ましい。
【0040】
一般式(4−2)において、a3は0〜3の整数を表し、好ましくは0〜2の整数を表す。d3が0のときa3は1又は2であるのが好ましく、d3が1のときa3は0又は1であるのが好ましい。a3が2以上のときR107は同じでも異なっていてもよい。
【0041】
一般式(4−2)において、R108は置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基又はアシルアミノ基(以上好ましい例は、一般式(2)における上記R103及びR104の場合と同様)であり、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基又はアシルアミノ基である。
【0042】
一般式(4−2)において、b3は0〜3の整数を表し、好ましくは0〜2の整数を表す。b3が2以上のときR108は同じでも異なっていてもよい。
【0043】
一般式(4−1)及び(4−2)において、R121〜R124はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を表す。R121〜R124の好ましい例は、一般式(2)における上記R103及びR104の好ましい例と同様である。R121〜R124は、アルキル基又はアリール基がより好ましく、アルキル基がさらに好ましい。R121〜R124がアルキル基である場合はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としてはアルコキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基又はカルボンアミド基が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。
121とR122並びにR123とR124はそれぞれ互いに連結して環を形成していてもよい。形成する環としてはピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、又はモルホリン環等が好ましい。
【0044】
一般式(4−1)〜(4−3)において、R125、R126、R127及びR128はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基(以上好ましい例は上記一般式(2)における上記R103及びR104の場合と同様である。)又はヒドロキシル基であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基又はアシルアミノ基であり、特に好ましくはアルキル基、アルキニル基である。
【0045】
一般式(4−1)及び(4−2)において、d4及びd5はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。d4が1以上のときR125は、R121及びR122のどちらか一方又は両方と連結して環を形成していてもよい。形成される環はピペリジン環又はピロリジン環であるのが好ましい。d4が2以上のときR125は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。d5が1以上のときR126は、R123及びR124のどちらか一方又は両方と連結して環を形成していてもよい。形成される環はピペリジン環又はピロリジン環であるのが好ましい。d5が2以上のときR126は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。
【0046】
(A3)配位子LL2
配位子LL2は、一般式(3)で表される2座又は3座の配位子であり、2座配位子であるのが好ましい。
配位子LL2の数を表すm2は0〜2の整数であり、0又は1であるのが好ましく、1がより好ましい。m2が2のとき配位子LL2は同じでも異なっていてもよい。
本発明において、配位子LL2は、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基、ホスホニル基等の酸性基を有することが好ましい。
【0047】
【化6】

【0048】
一般式(3)において、Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に、5員環又は6員環を形成しうる非金属原子群を表す。形成される5員環又は6員環は置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環でもよい。置換基としては、後述の置換基Wを挙げることができる。
【0049】
Za、Zb及びZcには、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び/又はリン原子を有する5員環又は6員環であることが好ましく、5員環又は6員環には水素原子やハロゲン原子を有していてもよい。Za、Zb又はZcは芳香族環であることが好ましい。5員環の場合はイミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環又はトリアゾール環を形成するのが好ましく、6員環の場合はピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環を形成するのが好ましい。なかでもイミダゾール環又はピリジン環がより好ましい。
【0050】
一般式(3)において、cは0又は1を表す。
【0051】
配位子LL2は、下記一般式(5−1)〜(5−8)のいずれかで表されるのが好ましく、一般式(5−1)、(5−2)、(5−4)又は(5−6)のいずれかで表されるのがより好ましく、一般式(5−1)又は(5−2)で表されるのが特に好ましく、一般式(5−1)で表されるのが最も好ましい。
【0052】
【化7】

【0053】
なお、一般式(5−1)〜(5−8)中のR151〜R166は図示の都合上1つの環上に置換したように描写しているが、その環上にあっても、または図示されたものとは異なる環状に置換していてもよい。
【0054】
一般式(5−1)〜(5−8)中、R151〜R158はそれぞれ独立に酸性基を表す。R151〜R158は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20のヒドロキサム酸基、例えば−CONHOH、−CONCH3OH等)、ホスホリル基(例えば−OP(O)(OH)2等)又はホスホニル基(例えば−P(O)(OH)2等)を表す。R151〜R158は、好ましくはカルボキシル基、ホスホリル基又はホスホニル基であり、より好ましくはカルボキシル基又はホスホニル基であり、さらに好ましくはカルボキシル基である。
【0055】
一般式(5−1)〜(5−8)中、R159〜R166はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、スルホンアミド基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子(以上好ましい例は、一般式(2)におけるR103及びR104の場合と同様)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基又はアシルアミノ基である。
【0056】
一般式(5−1)〜(5−8)中、R167〜R171はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族基、芳香族基、炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。好ましくは、脂肪族基、芳香族基であり、より好ましくはカルボキシル基を有する脂肪族基である。
【0057】
一般式(5−1)〜(5−8)中、R151〜R166は環上のどの位置に結合していてもよい。
【0058】
一般式(5−1)〜(5−6)中、e1〜e6はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、好ましくは1〜2の整数を表す。e7及びe8はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、好ましくは0〜3の整数を表し、より好ましくは1〜3の整数を表す。e9〜e12及びe15はそれぞれ独立に0〜6の整数を表し、e13、e14及びe16はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。e9〜e16はそれぞれ独立に0〜3の整数であるのが好ましい。
【0059】
e1〜e8が2以上のとき、R151〜R158はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。e9〜e16が2以上のとき、R159〜R166はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。
【0060】
配位子LL2がアルキル基、アルケニル基等を含むとき、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。また、配位子LL2がアリール基などの芳香族基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、置換されていても無置換でもよい。
【0061】
(A4)配位子X
一般式(1)中、配位子Xは下記に示す1座又は2座の配位子を表す。配位子Xの数を表すm3は0〜3の整数を表し、0〜2の整数が好ましく、1又は2がより好ましい。配位子Xが1座の配位子のとき、m3は2であるのが好ましく、配位子Xが2座配位子のとき、m3は1であるのが好ましい。m3が2以上の整数であるとき、配位子Xは同じでも異なっていてもよく、配位子X同士が連結していてもよい。
【0062】
配位子Xは、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ、サリチル酸、グリシルオキシ、N,N-ジメチルグリシルオキシ、オキザリレン(−OC(O)C(O)O−)等)、アシルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルチオ基、例えば、アセチルチオ、ベンゾイルチオ等)、チオアシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオアシルオキシ基、例えば、チオアセチルオキシ基(CHC(S)O−)等))、チオアシルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオアシルチオ基、例えば、チオアセチルチオ(CH3C(S)S−)、チオベンゾイルチオ(PhC(S)S−)等))、アシルアミノオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノオキシ基、例えば、N-メチルベンゾイルアミノオキシ(PhC(O)N(CH3)O−)、アセチルアミノオキシ(CH3C(O)NHO−)等))、チオカルバメート基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオカルバメート基、例えば、N,N-ジエチルチオカルバメート等)、ジチオカルバメート基(好ましくは炭素原子数1〜20のジチオカルバメート基、例えば、N-フェニルジチオカルバメート、N,N-ジメチルジチオカルバメート、N,N-ジエチルジチオカルバメート、N,N-ジベンジルジチオカルバメート等)、チオカルボネート基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオカルボネート基、例えば、エチルチオカルボネート等)、ジチオカルボネート(好ましくは炭素原子数1〜20のジチオカルボネート、例えば、エチルジチオカルボネート(C25OC(S)S−)等)、トリチオカルボネート基(好ましくは炭素原子数1〜20のトリチオカルボネート基、例えば、エチルトリチオカルボネート(C25SC(S)S−)等)、アシル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシル基、例えば、アセチル、ベンゾイル等)、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキルチオ基、例えばメタンチオ、エチレンジチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜20のアリールチオ基、例えば、ベンゼンチオ、1,2-フェニレンジチオ等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えばメトキシ等)及びアリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、例えばフェノキシ、キノリン-8-ヒドロキシル等)からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子、又はハロゲン原子(好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、カルボニル(…CO)、ジアルキルケトン(好ましくは炭素原子数3〜20のジアルキルケトン、例えばアセトン((CHCO…)等)、1,3-ジケトン(好ましくは炭素原子数3〜20の1,3-ジケトン、例えば、アセチルアセトン(CHC(O…)CH=C(O−)CH3)、トリフルオロアセチルアセトン(CF3C(O…)CH=C(O−)CH3)、ジピバロイルメタン(tC49C(O…)CH=C(O−)t-C49)、ジベンゾイルメタン(PhC(O…)CH=C(O−)Ph)、3-クロロアセチルアセトン(CH3C(O…)CCl=C(O―)CH3)等)、カルボンアミド(好ましくは炭素原子数1〜20のカルボンアミド、例えば、CH3N=C(CH3)O−、−OC(=NH)−C(=NH)O−等)、チオカルボンアミド(好ましくは炭素原子数1〜20のチオカルボンアミド、例えば、CHN=C(CH3)S−等)及びチオ尿素(好ましくは炭素原子数1〜20のチオ尿素、例えば、NH(…)=C(S−)NH、CHN(…)=C(S−)NHCH、(CH32N−C(S…)N(CH32等)からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子を表す。なお、「…」は配位結合を示す。
【0063】
配位子Xは、好ましくはアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる配位子、又はハロゲン原子、カルボニル、1,3-ジケトン及びチオ尿素からなる群から選ばれる配位子であり、より好ましくはアシルオキシ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基又はアリールチオ基からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子、又はハロゲン原子、1,3-ジケトン及びチオ尿素からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子であり、特に好ましくはジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる配位子、又はハロゲン原子及び1,3-ジケトンからなる群から選ばれる配位子であり、最も好ましくは、ジチオカルバメート基、チオシアネート基及びイソチオシアネート基からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子、又は1,3-ジケトンからなる配位子であり、最も好ましくはイソチオシアネート基である。なお配位子Xがアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基等を含む場合、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。またアリール基などの芳香族基、ヘテロ環基、シクロアルキル基等を含む場合、それらは置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。
【0064】
配位子Xが2座配位子のとき、配位子Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる配位子、又は1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド及びチオ尿素からなる群から選ばれる配位子であるのが好ましい。配位子Xが1座配位子のとき、配位子Xはチオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基からなる群から選ばれる配位子、又はハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、チオ尿素からな群から選ばれる配位子であるのが好ましい。
【0065】
(A5)対イオンCI
一般式(1)中のCIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。一般に、色素が陽イオン又は陰イオンであるか、あるいは正味のイオン電荷を有するかどうかは、色素中の金属、配位子及び置換基に依存する。
【0066】
置換基が解離性基を有することなどにより、一般式(1)の色素は解離して負電荷を持ってもよい。この場合、一般式(1)の色素全体の電荷は対イオンCIにより電気的に中性とされる。CIの数であるm4は0〜3の整数である。
【0067】
対イオンCIが正の対イオンの場合、例えば、対イオンCIとしては、無機又は有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等)、アルカリ金属イオン又はプロトンが挙げられる。
【0068】
対イオンCIが負の対イオンの場合、対イオンCIは、無機陰イオンでも有機陰イオンでもよい。例えば、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)、置換アリールスルホン酸イオン(例えばp-トルエンスルホン酸イオン、p-クロロベンゼンスルホン酸イオン等)、アリールジスルホン酸イオン(例えば1,3-ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5-ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6-ナフタレンジスルホン酸イオン等)、アルキル硫酸イオン(例えばメチル硫酸イオン等)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が挙げられる。さらに電荷均衡対イオンとして、イオン性ポリマーあるいは色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよく、金属錯イオン(例えばビスベンゼン-1,2-ジチオラトニッケル(III)等)も使用可能である。
【0069】
(A6)吸着基(結合基)
一般式(1)で表される構造を有する色素は、半導体微粒子の表面に対する適当な酸性基(結合基、interlocking group)を1つ以上有する。この基を色素中に1〜6個有するのがより好ましく、1〜4個有するのが特に好ましい。カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(例えば−CONHOH等)、ホスホリル基(例えば−OP(O)(OH)2等)、ホスホニル基(例えば−P(O)(OH)2等)等の酸性基(解離性のプロトンを有する置換基)を色素中に有することが好ましい。なかでも、カルボキシル基(COOH基)を配位子上に有することが好ましい。本明細書において酸性基とはプロトンを放出する置換基を指す。また、「酸性基を有する」など、「特定の機能性の置換基を有する」というとき、本発明の効果を損ねない範囲で、当該機能性の置換基が母核に直接結合されていることのほか、所定の連結基を介して結合(連結)されたものを含む意味である。
【0070】
本明細書における置換基とは特に記載したものを除き、例えば下記に示す置換基Wを表すことができる。
・ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、
・アルキル基〔直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。それらは、アルキル基(好ましくは炭素数1から30のアルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、t-ブチル、n-オクチル、エイコシル、2-クロロエチル、2-シアノエチル、2-エチルヘキシル)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3から30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4-n-ドデシルシクロヘキシル)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5から30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン-2-イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン-3-イル)、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す。]、
・アルケニル基[直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。それらは、アルケニル基(好ましくは炭素数2から30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3から30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2-シクロペンテン-1-イル、2-シクロヘキセン-1-イル)、ビシクロアルケニル基(置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-1-イル、ビシクロ[2,2,2]オクト-2-エン-4-イル)を包含するものである。]、
・アルキニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基、アリール基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル、p-トリル、ナフチル、m-クロロフェニル、o-ヘキサデカノイルアミノフェニル)、
・芳香族基(例えば、ベンゼン環、フラン環、ピロール環、ピリジン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、、チアゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、ピリミジン環、ピラジン環もしくはこれらが縮環した環)
・ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換もしくは無置換の、芳香族もしくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、更に好ましくは、炭素数3から30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2-フリル、2-チエニル、2-ピリミジニル、2-ベンゾチアゾリル)、
・シアノ基、
・ヒドロキシル基、
・ニトロ基、
・カルボキシル基、
・アルコキシ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t-ブトキシ、n-オクチルオキシ、2-メトキシエトキシ)、
・アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、2-メチルフェノキシ、4-t-ブチルフェノキシ、3-ニトロフェノキシ、2-テトラデカノイルアミノフェノキシ)、
・シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3から20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ、t-ブチルジメチルシリルオキシ)、
・ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基、1-フェニルテトラゾール-5-オキシ、2-テトラヒドロピラニルオキシ)、
・アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p-メトキシフェニルカルボニルオキシ)、
・カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイルオキシ、N,N-ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N-ジ-n-オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)、
・アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t-ブトキシカルボニルオキシ、n-オクチルカルボニルオキシ)、
・アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p-メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p-n-ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)、
・アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)、
・アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5-トリ-n-オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)、
・アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ、例えば、カルバモイルアミノ、N,N-ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N-ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)、
・アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t-ブトキシカルボニルアミノ、n-オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N-メチル-メトキシカルボニルアミノ)、
・アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p-クロロフェノキシカルボニルアミノ、m-n-オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)、
・スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ、N,N-ジメチルアミノスルホニルアミノ、N-n-オクチルアミノスルホニルアミノ)、
・アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5-トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p-メチルフェニルスルホニルアミノ)、
・メルカプト基、
・アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、n-ヘキサデシルチオ)、
・アリールチオ基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールチオ、例えば、フェニルチオ、p-クロロフェニルチオ、m-メトキシフェニルチオ)、
・ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2から30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2-ベンゾチアゾリルチオ、1-フェニルテトラゾール-5-イルチオ)、
・スルファモイル基(好ましくは炭素数0から30の置換もしくは無置換のスルファモイル基、例えば、N-エチルスルファモイル、N-(3-ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N-ジメチルスルファモイル、N-アセチルスルファモイル、N-ベンゾイルスルファモイル、N-(N’-フェニルカルバモイル)スルファモイル)、
・スルホ基、
・アルキル及びアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1から30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6から30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p-メチルフェニルスルフィニル)、
・アルキル及びアリールスルホニル基(好ましくは炭素数1から30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、6から30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p-メチルフェニルスルホニル)、
・アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2から30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、炭素数4から30の置換もしくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基、例えば、アセチル、ピバロイル、2-クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p-n-オクチルオキシフェニルカルボニル、2-ピリジルカルボニル、2-フリルカルボニル)、
・アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7から30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、o-クロロフェノキシカルボニル、m-ニトロフェノキシカルボニル、p-t-ブチルフェノキシカルボニル)、
・アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、n-オクタデシルオキシカルボニル)、
・カルバモイル基(好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のカルバモイル、例えば、カルバモイル、N-メチルカルバモイル、N,N-ジメチルカルバモイル、N,N-ジ-n-オクチルカルバモイル、N-(メチルスルホニル)カルバモイル)、
・アリール及びヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3から30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ、p-クロロフェニルアゾ、5-エチルチオ-1,3,4-チアジアゾール-2-イルアゾ)、
・イミド基(好ましくは、N-スクシンイミド、N-フタルイミド)、
・ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)、
・ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)、
・ホスフィニルオキシ基(好ましくは炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)、
・ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2から30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)、
・シリル基(好ましくは、炭素数3から30の置換もしくは無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)。
また、置換基は更に置換されていても良い。その際、置換基の例としては、上述の置換基を挙げることができる。
【0071】
本発明において、一般式(1)で表される化合物のうち、MzがRuであり、m1が1であり、m2が1であり、Xがイソチオシアネート基であり、m3が2である化合物が好ましい。
【0072】
本発明で用いる一般式(1)で表される構造を有する色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記具体例における色素がプロトン解離性基を有する配位子を含む場合、該配位子は必要に応じて解離しプロトンを放出してもよい。
【0073】
【化8】

【0074】
【化9】

【0075】
【化10】

【0076】
【化11】

【0077】
一般式(1)で表される色素の合成方法は後記実施例に記載の方法を参照することができ、それに基づき常法を適宜適用することにより合成することができる。また、J.Am.Chem.Soc.,1999,vol.121,p.4047、Can.J.Chem.,vol.75,p.318(1997)、Inorg.Chem.,1988,vol.27,p.4007等の文献および文献中に引用された方法を参考にして合成でき、ここに記載された色素及び方法を本明細書に引用する。また、特開2001−291534号公報、国際公開2007/091525号パンフレットに記載の情報を参照することもでき、ここに記載された色素及び方法を本明細書に引用する。
【0078】
一般式(1)で表される色素の溶液における極大吸収波長は、好ましくは300〜1000nmの範囲であり、より好ましくは350〜950nmの範囲であり、特に好ましくは370〜900nmの範囲である。
【0079】
本発明において前記一般式(1)で表される色素の含有量は特に限定されないが、半導体微粒子1gに対して、0.001〜1ミリモルであることが好ましく、0.1〜0.5ミリモルであることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、半導体における増感効果を十分に得ることができ、上記上限値以下とすることで色素の脱着による増感効果の低減を抑制することができる。なお、本発明においては上記一般式(1)で表される色素を2種以上用いてもよい。
【0080】
(B)電荷移動体層
本実施形態の光電変換素子に用いられる電荷移動体層には、電解質組成物からなる層が適用できる。その酸化還元対として、例えばヨウ素とヨウ化物(例えばヨウ化リチウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム等)との組み合わせ、アルキルビオローゲン(例えばメチルビオローゲンクロリド、ヘキシルビオローゲンブロミド、ベンジルビオローゲンテトラフルオロボレート)とその還元体との組み合わせ、ポリヒドロキシベンゼン類(例えばハイドロキノン、ナフトハイドロキノン等)とその酸化体との組み合わせ、2価と3価の鉄錯体(例えば赤血塩と黄血塩)の組み合わせ等が挙げられる。これらのうちヨウ素とヨウ化物との組み合わせが好ましい。
ヨウ素塩のカチオンは5員環又は6員環の含窒素芳香族カチオンであるのが好ましい。特に、一般式(1)により表される化合物がヨウ素塩でない場合は、WO95/18456号、特開平8−259543号、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等のヨウ素塩を併用するのが好ましい。
光電変換素子に使用される電解質組成物中には、ヘテロ環4級塩化合物と共にヨウ素を含有するのが好ましい。ヨウ素の含有量は電解質組成物全体に対して0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。
【0081】
電解質組成物は溶媒を含んでいてもよい。電解質組成物中の溶媒含有量は組成物全体の50質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以下であるのが特に好ましい。
溶媒としては低粘度でイオン移動度が高いか、高誘電率で有効キャリアー濃度を高めることができるか、あるいはその両方であるために優れたイオン伝導性を発現できるものが好ましい。このような溶媒としてカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3-メチル-2-オキサゾリジノン等)、エーテル化合物(ジオキサン、ジエチルエーテル等)、鎖状エーテル類(エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ビスシアノエチルエーテル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルフォラン等)、水、特開2002−110262記載の含水電解液、特開2000−36332号公報、特開2000−243134号公報、及び再公表WO/00−54361号公報記載の電解質溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は二種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
また、電解質溶媒として、室温において液体状態であり、及び/又は室温よりも低い融点を有する電気化学的に不活性な塩を用いても良い。例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート等にイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩などの含窒素ヘテロ環四級塩化合物、又はテトラアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0083】
電解質組成物には、ポリマーやオイルゲル化剤を添加したり、多官能モノマー類の重合やポリマーの架橋反応等の手法によりゲル化(固体化)してもよい。
【0084】
ポリマーを添加することにより電解質組成物をゲル化させる場合、Polymer Electrolyte Reviews-1及び2(J.R.MacCallumとC.A.Vincentの共編、ELSEVIER APPLIED SCIENCE)に記載された化合物等を添加することができる。この場合、ポリアクリロニトリル又はポリフッ化ビニリデンを用いるのが好ましい。
【0085】
オイルゲル化剤を添加することにより電解質組成物をゲル化させる場合は、オイルゲル化剤としてJ.Chem.Soc.Japan,Ind.Chem.Soc.,1943,p.46779、J.Am.Chem.Soc.,1989,vol.111,p.5542、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1993,p.390、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,1996,vol.35,p.1949、Chem.Lett.,1996,p.885、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1997,p.545等に記載された化合物を使用することができ、アミド構造を有する化合物を用いるのが好ましい。
【0086】
多官能モノマー類の重合によって電解質組成物をゲル化する場合は、多官能モノマー類、重合開始剤、電解質及び溶媒から溶液を調製し、キャスト法、塗布法、浸漬法、含浸法等の方法により色素を担持した電極上にゾル状の電解質層を形成し、その後多官能モノマーのラジカル重合によってゲル化させる方法が好ましい。多官能モノマー類はエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物であることが好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が好ましい。
【0087】
ゲル電解質は上記多官能モノマー類の他に単官能モノマーを含む混合物の重合によって形成してもよい。単官能モノマーとしては、アクリル酸又はα−アルキルアクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等)或いはそれらのエステル又はアミド(メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、i-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、3-ペンチルアクリレート、t-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2,2-ジメチルブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、4-メチル-2-プロピルペンチルアクリレート、セチルアクリレート、n-オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、ベンジルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-メトキシエトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2-メチル-2-ニトロプロピルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、t-ペンチルメタクリレート、n-オクタデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-メトキシエトキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、ヘキサフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、エチレングリコールエチルカーボネートメタクリレート、2-イソボルニルメタクリレート、2-ノルボルニルメチルメタクリレート、5-ノルボルネン-2-イルメチルメタクリレート、3-メチル-2-ノルボニルメチルメタクリレート、アクリルアミド、N-i-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル等)、マレイン酸又はフマル酸或いはそれらから誘導されるエステル類(マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル等)、p-スチレンスルホン酸のナトリウム塩、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジエン類(ブタジエン、シクロペンタジエン、イソプレン等)、芳香族ビニル化合物(スチレン、p-クロロスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等)、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸ナトリウム、ビニリデンフルオライド、ビニリデンクロライド、ビニルアルキルエーテル類(メチルビニルエーテル等)、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、N−フェニルマレイミド等が使用可能である。
【0088】
多官能モノマーの配合量は、モノマー全体に対して0.5〜70質量%とすることが好ましく、1.0〜50質量%であるのがより好ましい。上述のモノマーは、大津隆行・木下雅悦共著「高分子合成の実験法」(化学同人)や大津隆行「講座重合反応論1ラジカル重合(I)」(化学同人)に記載された一般的な高分子合成法であるラジカル重合によって重合することができる。本発明で使用するゲル電解質用モノマーは加熱、光又は電子線によって、或いは電気化学的にラジカル重合させることができるが、特に加熱によってラジカル重合させるのが好ましい。この場合、好ましく使用できる重合開始剤は2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオクトエート等の過酸化物系開始剤等である。重合開始剤の好ましい添加量はモノマー総量に対し0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
ゲル電解質に占めるモノマーの重量組成範囲は0.5〜70質量%であるのが好ましい。より好ましくは1.0〜50質量%である。ポリマーの架橋反応により電解質組成物をゲル化させる場合は、組成物に架橋可能な反応性基を有するポリマー及び架橋剤を添加するのが好ましい。好ましい反応性基はピリジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、トリアゾール環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の含窒素複素環であり、好ましい架橋剤は窒素原子が求核攻撃できる官能基を2つ以上有する化合物(求電子剤)であり、例えば2官能以上のハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、スルホン酸エステル、酸無水物、酸クロライド、イソシアネート等である。
【0089】
電解質組成物には、金属ヨウ化物(LiI、NaI、KI、CsI、CaI2等)、金属臭化物(LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等)、4級アンモニウム臭素塩(テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等)、金属錯体(フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩、フェロセン−フェリシニウムイオン等)、イオウ化合物(ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド等)、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノン等を添加してよい。これらは混合して用いてもよい。
【0090】
また、本発明ではJ.Am.Ceram.Soc.,1997,vol.80,No.12,p.3157-3171に記載のt-ブチルピリジンや、2-ピコリン、2,6−ルチジン等の塩基性化合物を添加してもよい。塩基性化合物を添加する場合の好ましい濃度範囲は0.05〜2Mである。電解質としては、正孔導体物質を含む電荷輸送層を用いてもよい。正孔導体物質として、9,9’-スピロビフルオレン誘導体などを用いることができる。
【0091】
(C)導電性支持体
導電性支持体としては、金属のように支持体そのものに導電性があるものか、または表面に導電膜層を有するガラスや高分子材料を使用することができる。導電性支持体は実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましく、80%以上が特に好ましい。導電性支持体としては、ガラスや高分子材料に導電性の金属酸化物を塗設したものを使用することができる。このときの導電性の金属酸化物の塗布量は、ガラスや高分子材料の支持体1m2当たり、0.1〜100gが好ましい。透明導電性支持体を用いる場合、光は支持体側から入射させることが好ましい。好ましく使用される高分子材料の一例として、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等を挙げることができる。導電性支持体上には、表面に光マネージメント機能を施してもよく、例えば、特開2003−123859記載の高屈折膜及び低屈性率の酸化物膜を交互に積層した反射防止膜、特開2002−260746記載のライトガイド機能が上げられる。
この他にも、金属支持体も好ましく使用することができる。その一例としては、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、銅を挙げることができる。これらの金属は合金であってもよい。さらに好ましくは、チタン、アルミニウム、銅が好ましく、特に好ましくは、チタンやアルミニウムである。
【0092】
導電性支持体上には、紫外光を遮断する機能を持たせることが好ましい。例えば、紫外光を可視光に変えることが出来る蛍光材料を透明支持体中または、透明支持体表面に存在させる方法や紫外線吸収剤を用いる方法も挙げられる。
導電性支持体上には、さらに特開平11−250944号公報等に記載の機能を付与してもよい。
【0093】
好ましい導電膜としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、もしくは導電性の金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が挙げられる。
導電膜層の厚さは0.01〜30μmであることが好ましく、0.03〜25μmであることが更に好ましく、特に好ましくは0.05〜20μmである。
導電性支持体は表面抵抗が低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲としては50Ω/cm2以下であり、さらに好ましくは10Ω/cm2以下である。この下限に特に制限はないが、通常0.1Ω/cm2程度である。
【0094】
導電膜の抵抗値はセル面積が大きくなると大きくなる為、集電電極を配置してもよい。支持体と透明導電膜の間にガスバリア膜及び/又はイオン拡散防止膜を配置してもよい。ガスバリア層としては、樹脂膜や無機膜を使用することができる。
また、透明電極と多孔質半導体電極光触媒含有層を設けてもよい。透明導電層は積層構造でも良く、好ましい方法としてたとえば、ITO上にFTOを積層することができる。
【0095】
(D)半導体微粒子
半導体微粒子は2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる。本発明において、金属化合物とは、分子内に金属と金属以外の1種以上の原子とを含む無機化合物をあらわし、たとえば金属のカルコゲニド、金属炭酸塩又は金属硝酸塩が挙げられる。本発明において、2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子とは、予め、2種以上の金属又は金属化合物で処理することにより、微粒子中に2種以上の金属又は金属化合物が局部的に存在しているものをいう。2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子としては、後述のように、2種以上の金属又は金属化合物によりコア−シェル構造を形成しているものや、表面の一部とそれ以外の部分とが異なる金属又は金属化合物で形成されているものをいう。したがって、2種以上の半導体微粒子を単に混合したものは含まれない。2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子に特定の置換基を有する色素を用いることにより、色素の半導体微粒子への吸着を効率よく行うことができ、耐久性の高い光電変換素子を実現することができる。
【0096】
半導体微粒子は、金属原子、金属のカルコゲニド、金属炭酸塩及び/又は金属硝酸塩を有してなることが好ましい。
金属原子は、Ti(チタン)、Sn(スズ)、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)及びTa(タンタル)からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。さらに好ましくは、Ti、Sn、Zr、Nb、V、Taであり、特に好ましくは、Nb、V、Taである。
金属カルコゲニドは、硫化カドミウム、セレン化カドミウム又はTi(チタン)、Sn(スズ)、Zn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Sr(ストロンチウム)、In(インジウム)、Ce(セリウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、V(バナジウム)及びTa(タンタル)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物が好ましい。さらに好ましくは、Ti、Sn、Zn、Mg、Alからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物であり、さらに好ましくは、Ti、Sn、Mg、Alからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物であり、特に好ましくは、Ti、Sn、Alからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物である。
金属炭酸塩は、炭酸カルシウム、炭酸カリウム及び炭酸バリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。さらに好ましくは、炭酸カルシウム、炭酸バリウムであり、特に好ましくは、炭酸カルシウムである。
金属硝酸塩は硝酸ランタンが好ましい。
【0097】
2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有する半導体微粒子は、コア−シェル構造を有することが好ましく、コア−シェル構造により、前記金属原子、金属のカルコゲニド、金属炭酸塩及び/又は金属硝酸塩を有することがより好ましい。本明細書において、「コア−シェル構造」とは、核となるコア部分を覆うようにシェル(殻)部分を有するものをいう。コア部分がすべてシェル部分で覆われている必要はないが、好ましくは、コア部分の表面積の50%以上、さらに好ましくは、80%以上、特に90%がシェル部分で覆われていることが好ましい。コア−シェル構造の半導体微粒子は、励起された色素から注入された電子が、電解液中のI3-へ戻ることを抑制する作用により、開放電圧を向上させる効果を奏することができる。
【0098】
コア−シェル構造を有する半導体微粒子は、シェルとすべき金属原子又は金属化合物の溶液中に、コアとすべき半導体微粒子を加えて、適宜反応させることにより、得ることができる。コアとすべき半導体微粒子は1種でも、2種類以上用いてもよく、シェルとすべき金属原子や金属化合物は1種でも、2種類以上用いることができる。
コア−シェル構造の半導体微粒子として、例えば、酸化チタンをコアとし、炭酸カルシウムをシェルとするコア−シェル構造の半導体微粒子は以下の方法で調製することができるが、この方法及び条件に限定されることはない。まず、12g(0.2mol)の酢酸を58.6g(0.2mol)のチタン酸テトライソプロピルにスターラーで攪拌しながら滴下する。得られた混合物を15分間攪拌し、290mLの蒸留水に添加する。1時間攪拌後、4mlの65%硝酸を加え、40分間かけて78℃まで加熱し、75分間温度を一定に保つ。反応容器をヒーターから外し、370mLの水を加える。得られた液体をチタン製のオートクレーブに移し、250℃で12時間加熱する。その後、2.4mLの65%硝酸を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌してから,酸化チタン量が13〜15%になるまで分散液を濃縮する。濃縮液を遠心分離により分離し上澄みの蒸留水を捨て、蒸留水と同量のエタノールを加える。その後、超音波ホモジナイザーにより攪拌することでコアの酸化チタン分散液を得る。次に、1〜3質量%の酢酸カルシウム水溶液にコアである酸化チタン粒子を添加して30分〜3時間攪拌する。攪拌後、遠心分離により酢酸カルシウム水溶液を除去し、蒸留水で洗浄、遠心分離を行った後、525℃で1時間焼成する方法により、酸化チタンをコアとし、炭酸カルシウムをシェルとするコア−シェル構造の半導体微粒子を得ることができる。
得られた半導体微粒子がコア−シェル構造を有することは、透過電子顕微鏡(TEM)で観察して判断することができる。コア部分とシェル部分の体積比は特に制限されないが、コア:シェルの体積比が、50:50〜98:2が好ましく、70:30〜95:5がより好ましい。この体積比は、TEMで観察して求めることができる。
【0099】
コア−シェル構造半導体微粒子は、コア部分が、金属原子、金属のカルコゲニド又は金属硝酸塩を有してなることが好ましい。さらに好ましくは、コア部分が金属原子、金属のカルコゲニドであり、特に好ましくは、コア部分が金属のカルコゲニドである。シェル部分が金属のカルコゲニド又は金属炭酸塩を有してなることが好ましい。
コア部分として金属原子を用いた場合は、Ti、Nb、Sn、Zn及びLaからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属原子が好ましい。さらに好ましくは、Ti、Sn、Znである。特に好ましくは、Ti、Snである。コア部分として金属カルコゲニドを用いた場合は、Ti、Sn、Zn、Mg及びAlの酸化物から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物であることが好ましい。さらに好ましくは、Tiの酸化物、Snの酸化物、Znの酸化物である。特に好ましくは、Tiの酸化物、Snの酸化物である。コア部分として金属硝酸塩を用いた場合は、硝酸ランタンが好ましい。
シェル部分として、金属カルコゲニドを用いる場合は、Ti、Mg及びAlの酸化物を用いることが好ましい。シェル部分として、金属炭酸塩を用いる場合は、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0100】
半導体微粒子の粒径は、半導体微粒子分散液の粘度を高く保つ目的で、一次粒子の平均粒径が1nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下の微粒子であることがより好ましい。ここで粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置、例えば、MALVERN社製のマスターサイザー(商品名)により測定されたものをいう。粒径分布の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよく、この場合小さい粒子の平均サイズは5nm以下であるのが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、上記の超微粒子に対して平均粒径が50nmを越える大きな粒子を、低含率で添加、又は別層塗布することもできる。この場合、大粒子の含率は、平均粒径が50nm以下の粒子の質量の50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。上記の目的で添加混合する大粒子の平均粒径は、100nm以上が好ましく、250nm以上がより好ましい。
【0101】
半導体微粒子の作製法としては、作花済夫の「ゾル・ゲル法の科学」アグネ承風社(1998年)等に記載のゲル・ゾル法が好ましい。またDegussa社が開発した塩化物を酸水素塩中で高温加水分解により酸化物を作製する方法も好ましい。半導体微粒子が酸化チタンの場合、上記ゾル・ゲル法、ゲル・ゾル法、塩化物の酸水素塩中での高温加水分解法はいずれも好ましいが、さらに清野学の「酸化チタン 物性と応用技術」技報堂出版(1997年)に記載の硫酸法および塩素法を用いることもできる。さらにゾル・ゲル法として、バルべ等のジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティー,第80巻,第12号,3157〜3171頁(1997年)に記載の方法や、バーンサイドらのケミストリー・オブ・マテリアルズ,第10巻,第9号,2419〜2425頁に記載の方法も好ましい。
コア−シェル構造の半導体微粒子を製造するに際し、上記のように、従来の方法で、まず、コア部分となる半導体微粒子を製造することができる。例えば、コアとして酸化チタン(チタニア)を用いる場合、チタニアナノ粒子の製造方法として好ましくは、四塩化チタンの火炎加水分解による方法、四塩化チタンの燃焼法、安定なカルコゲナイド錯体の加水分解、オルトチタン酸の加水分解、可溶部と不溶部から半導体微粒子を形成後可溶部を溶解除去する方法、過酸化物水溶液の水熱合成でコア部分となる半導体微粒子を製造する。その後、前述の方法により、シェルとすべき金属原子又は金属化合物の溶液中に、コアとすべき半導体微粒子を加えて、適宜反応させることにより、得ることができる。
コア部分となるチタニアの結晶構造としては、アナターゼ型、ブルッカイト型、または、ルチル型があげられ、アナターゼ型、ブルッカイト型が好ましい。チタニアナノチューブ・ナノワイヤー・ナノロッドをチタニア微粒子に混合してもよい。
【0102】
本発明に用いる、2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子は、金属原子を半導体微粒子にドープすることにより、2種以上の金属原子を有するようにした半導体微粒子であってもよい。金属原子をドープすることにより、フラットバンド電位が正にシフトし、電荷注入効率が向上する作用により、短絡電流が増加する効果を奏することができる。
ドープされる金属原子は、例えば、Nb、V、Taを挙げることができる。さらに好ましくは、Nb、Vである。例えば、Nbパウダーとtetrabutyl titanateを過酸化水素とアンモニア(v/v=5/1)を含む水溶液中に添加し攪拌する。攪拌後、過剰の過酸化水素とアンモニアを80℃に熱することにより除去する。得られた溶液をテフロン(登録商標)製のオートクレーブに移し、180℃で20時間攪拌する。得られた沈殿物をpH=7の蒸留水で洗浄し、100℃で6時間乾燥させる方法により、金属原子をドープすることができる。
【0103】
半導体微粒子には、金属原子、金属のカルコゲニド、金属炭酸塩及び金属硝酸塩以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、導電性材料が好ましい。導電性材料としては、塗布型の導電性材料を挙げることができる。たとえば、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイトなどのカーボン材料、導電性ポリマーであるπ共役ポリマー、銀ナノワイヤーなどを挙げることができる。これらの材料は、導電性を発現する薄膜を塗布によって形成することが可能となり、安価に製造することができる。この中でも、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブなどのカーボン材料が好ましく、グラフェンがより好ましい。導電性材料を半導体微粒子に加えることにより、光照射により励起された前述の色素をそのままの状態で保持し、色素を基底状態に戻す反応を抑制でき、電池性能、特に光電変換効率を向上させることができる。さらに好ましくは、グラファイトや平面構造を有するグラフェンである。導電性材料などの添加剤は、半導体微粒子のペーストに添加し超音波ホモジナイザーで分散させる方法により、半導体微粒子に加えることができる。導電性材料としては、電気抵抗値が107Ω・cm以下のものが好ましく、さらに好ましくは、105Ω・cm以下である。
半導体微粒子には、このほか、半導体微粒子同士のネッキングを改善する為のバインダーや逆電子移動防止のために表面へ添加剤を用いてもよい。好ましい添加剤の例としては、ITO、SnO粒子、ウイスカー、繊維状グラファイト・カーボンナノチューブ、酸化亜鉛ネッキング結合子、セルロース等の繊維状物質、金属、有機シリコン、ドデシルベンゼンスルホン酸、シラン化合物等の電荷移動結合分子、及び電位傾斜型デンドリマーなどが挙げられる。半導体微粒子上の表面欠陥を除去するなどの目的で、色素吸着前に半導体微粒子を酸塩基又は酸化還元処理しても良い。エッチング、酸化処理、過酸化水素処理、脱水素処理、UV−オゾン、酸素プラズマなどで処理してもよい。
【0104】
本発明で用いる、2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子としては、金属のカルコゲニドをコア部分として有し、金属のカルコゲニド又は金属炭酸塩をシェル部分として有する、コア−シェル構造の半導体微粒子、及び金属のカルコゲニドに金属原子をドープして得られた半導体微粒子が好ましく、酸化チタン(TiO2)及び酸化スズ(SnO2)からなる群より選ばれる金属のカルコゲニドをコア部分として有し、酸化アルミニウム(Al23)、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化チタン(TiO2)及び酸化チタン/酸化マグネシウム(TiO2/MgO)からなる群より選ばれる金属のカルコゲニド又は金属炭酸塩をシェル部分として有する、コア−シェル構造の半導体微粒子、並びに酸化チタン及び酸化スズからなる群より選ばれる金属のカルコゲニドに、Nb、V及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子をドープして得られた半導体微粒子がより好ましい。
【0105】
(E)半導体微粒子分散液の調製と半導体微粒子層の作製
半導体微粒子分散液を前記の導電性支持体に塗布し、適度に加熱することにより、半導体微粒子層を得ることができる。半導体微粒子分散液には、半導体微粒子以外の固形分の含量が、半導体微粒子分散液全体の10質量%以下とすることが好ましい。
半導体微粒子分散液を作製する方法としては、前述のゾル・ゲル法の他に、半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法、微粒子に超音波などを照射して超微粒子に粉砕する方法、あるいはミルや乳鉢などを使って機械的に粉砕しすり潰す方法、等が挙げられる。分散溶媒としては、水及び/又は各種の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、シトロネロール、α−テルピネオールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジクロロメタン、アセトニトリル等が挙げられる。
分散の際、必要に応じて例えばポリエチレングリコール、ブチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのようなポリマー、界面活性剤、酸、またはキレート剤等を分散助剤として少量用いてもよい。しかし、これらの分散助剤は、導電性支持体上へ製膜する工程の前に、ろ過法や分離膜を用いる方法、あるいは遠心分離法などによって大部分を除去しておくことが好ましい。半導体微粒子分散液は、半導体微粒子以外の固形分の含量が分散液全体の10質量%以下とすることができる。この濃度は好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。さらに好ましくは0.5%以下であり、特に好ましくは0.2%である。すなわち、半導体微粒子分散液中に、溶媒と半導体微粒子以外の固形分を半導体微分散液全体の10質量%以下とすることができる。実質的に半導体微粒子と分散溶媒のみからなることが好ましい。
半導体微粒子分散液の粘度が高すぎると分散液が凝集してしまい製膜することができず、逆に半導体微粒子分散液の粘度が低すぎると液が流れてしまい製膜することができないことがある。したがって分散液の粘度は、25℃で10〜300N・s/m2が好ましい。さらに好ましくは、25℃で50〜200N・s/m2である。
【0106】
半導体微粒子分散液の塗布方法としては、アプリケーション系の方法としてローラ法、ディップ法等を使用することができる。またメータリング系の方法としてエアーナイフ法、ブレード法等を使用することができる。またアプリケーション系の方法とメータリング系の方法を同一部分にできるものとして、特公昭58−4589号に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号明細書等に記載のスライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法等が好ましい。また汎用機を使用してスピン法やスプレー法で塗布するのも好ましい。湿式印刷方法としては、凸版、オフセットおよびグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等が好ましい。これらの中から、液粘度やウェット厚さに応じて、好ましい製膜方法を選択する。また半導体微粒子分散液は粘度が高く、粘稠性を有するため、凝集力が強いことがあり、塗布時に支持体とうまく馴染まない場合がある。このような場合に、UVオゾン処理で表面のクリーニングと親水化を行うことにより、塗布した半導体微粒子分散液と導電性支持体表面の結着力が増し、半導体微粒子分散液の塗布が行い易くなる。
半導体微粒子層全体の好ましい厚さは0.1〜100μmである。半導体微粒子層の厚さはさらに1〜30μmが好ましく、2〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の支持体1m2当りの担持量は0.5g〜400gが好ましく、5〜100gがより好ましい。
【0107】
塗布した半導体微粒子の層に対し、半導体微粒子同士の電子的接触の強化と、支持体との密着性の向上のため、また塗布した半導体微粒子分散液を乾燥させるために、加熱処理が施される。この加熱処理により多孔質半導体微粒子層を形成することができる。その他、部材の特性や用途に応じて適宜公知の方法により半導体微粒子層を形成してもよい。例えば、特開2001−291534号公報に開示された記載の材料や調製方法、作製方法を参照することができ、本明細書に引用する。
また、加熱処理に加えて光のエネルギーを用いることもできる。例えば、半導体微粒子として酸化チタンを用いた場合に、紫外光のような半導体微粒子が吸収する光を与えることで表面を活性化してもよいし、レーザー光などで半導体微粒子表面のみを活性化することができる。半導体微粒子に対して該微粒子が吸収する光を照射することで、粒子表面に吸着した不純物が粒子表面の活性化によって分解され、上記の目的のために好ましい状態とすることができる。加熱処理と紫外光を組み合わせる場合は、半導体微粒子に対して該微粒子が吸収する光を照射しながら、加熱が100℃以上250℃以下あるいは好ましくは100℃以上150℃以下で行われることが好ましい。このように、半導体微粒子を光励起することによって、微粒子層内に混入した不純物を光分解により洗浄するとともに、微粒子の間の物理的接合を強めることができる。
【0108】
また、半導体微粒子分散液を前記の導電性支持体に塗布し、加熱や光を照射する以外に他の処理を行ってもよい。好ましい方法として例えば、通電、化学的処理などが挙げられる。
塗布後に圧力をかけても良く、圧力をかける方法としては、特表2003−500857号公報等が挙げられる。光照射の例としては、特開2001−357896号公報等が挙げられる。プラズマ・マイクロ波・通電の例としては、特開2002−353453号公報等が挙げられる。化学的処理としては、例えば特開2001−357896号公報が挙げられる。
【0109】
上述の半導体微粒子を導電性支持体上に塗設する方法は、上述の半導体微粒子分散液を導電性支持体上に塗布する方法のほか、特許第2664194号公報に記載の半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し空気中の水分によって加水分解して半導体微粒子膜を得る方法などの方法を使用することができる。
前駆体として例えば、(NH42TiF6、過酸化チタン、金属アルコキシド・金属錯体・金属有機酸塩等が挙げられる。
また、金属有機酸化物(アルコキシドなど)を共存させたスラリーを塗布し加熱処理、光処理などで半導体膜を形成する方法、無機系前駆体を共存させたスラリー、スラリーのpHと分散させたチタニア粒子の性状を特定した方法が挙げられる。これらスラリーには、少量であればバインダーを添加しても良く、バインダーとしては、セルロース、フッ素ポリマー、架橋ゴム、ポリブチルチタネート、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
半導体微粒子又はその前駆体層の形成に関する技術としては、コロナ放電、プラズマ、UVなどの物理的な方法で親水化する方法、アルカリやポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸などによる化学処理、ポリアニリンなどの接合用中間膜の形成などが挙げられる。
【0110】
半導体微粒子を導電性支持体上に塗設する方法として、上述の(1)湿式法とともに、(2)乾式法、(3)その他の方法を併用しても良い。(2)乾式法として好ましくは、特開2000−231943号公報等が挙げられる。(3)その他の方法として、好ましくは、特開2002−134435号公報等が挙げられる。
【0111】
乾式法としては、蒸着やスパッタリング、エアロゾルデポジション法などが挙げられる。また、電気泳動法・電析法を用いても良い。
また、耐熱基板上でいったん塗膜を作製した後、プラスチック等のフィルムに転写する方法を用いても良い。好ましくは、特開2002−184475号公報記載のEVAを介して転写する方法、特開2003−98977号公報記載の紫外線、水系溶媒で除去可能な無機塩を含む犠牲基盤上に半導体層・導電層を形成後、有機基板に転写後、犠牲基板を除去する方法などが挙げられる。
【0112】
半導体微粒子は多くの色素を吸着することができるように表面積の大きいものが好ましい。例えば半導体微粒子を支持体上に塗設した状態で、その表面積が投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。この上限には特に制限はないが、通常5000倍程度である。好ましい半導体微粒子の構造としては、特開2001−93591号公報等が挙げられる。
【0113】
一般に、半導体微粒子の層の厚みが大きいほど単位面積当たりに担持できる色素の量が増えるため光の吸収効率が高くなるが、発生した電子の拡散距離が増すため電荷再結合によるロスも大きくなる。半導体微粒子層の好ましい厚みは素子の用途によって異なるが、典型的には0.1〜100μmである。光電気化学電池として用いる場合は1〜50μmであることが好ましく、3〜30μmであることがより好ましい。半導体微粒子は、支持体に塗布した後に粒子同士を密着させるために、100〜800℃の温度で10分〜10時間加熱してもよい。支持体としてガラスを用いる場合、製膜温度は400〜600℃が好ましい。
支持体として高分子材料を用いる場合、250℃以下で製膜後加熱することが好ましい。その場合の製膜方法としては、(1)湿式法、(2)乾式法、(3)電気泳動法(電析法を含む)の何れでも良く、好ましくは、(1)湿式法、又は(2)乾式であり、更に好ましくは、(1)湿式法である。
なお、半導体微粒子の支持体1m2当たりの塗布量は0.5〜500g、さらには5〜100gが好ましい。
【0114】
(F)感光体層
上記のように作製された半導体微粒子層に色素を吸着させることにより、感光体層を形成することができる。
半導体微粒子に色素を吸着させるには、溶液と色素よりなる色素吸着用色素溶液の中に、よく乾燥した半導体微粒子を長時間浸漬するのが好ましい。色素吸着用色素溶液に使用される溶液は、色素が溶解できる溶液なら特に制限なく使用することができる。例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、t-ブタノール、アセトニトリル、アセトン、n-ブタノールなどを使用することができる。その中でも、エタノール、トルエンを好ましく使用することができる。
溶液と色素よりなる色素吸着用色素溶液は必要に応じて50℃ないし100℃に加熱してもよい。色素の吸着は半導体微粒子の塗布前に行っても塗布後に行ってもよい。また、半導体微粒子と色素を同時に塗布して吸着させてもよい。未吸着の色素は洗浄によって除去する。塗布膜の焼成を行う場合は色素の吸着は焼成後に行うことが好ましい。焼成後、塗布膜表面に水が吸着する前にすばやく色素を吸着させるのが特に好ましい。光電変換の波長域をできるだけ広くするように、混合する色素が選ばれる。色素を混合する場合は、すべての色素が溶解するようにして、色素吸着用色素溶液とすることが好ましい。
【0115】
色素の使用量は、全体で、支持体1m2当たり0.01〜100ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1〜50ミリモル、特に好ましくは0.1〜10ミリモルである。この場合、色素の使用量は5モル%以上とすることが好ましい。
また、色素の半導体微粒子に対する吸着量は半導体微粒子1gに対して0.001〜1ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5ミリモルである。このような色素量とすることによって、半導体における増感効果が十分に得られる。
【0116】
また、会合など色素同士の相互作用を低減する目的で無色の化合物を共吸着させてもよい。共吸着させる疎水性化合物としてはカルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばコール酸、ピバロイル酸)等が挙げられる。
色素を吸着した後に、アミン類を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としては4-tert-ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。これらは液体の場合はそのまま用いてもよいし有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0117】
(G)対極
対極(対向電極)は、光電気化学電池の正極として働くものである。対向電極は、通常前述の導電性支持体と同義であるが、強度が十分に保たれるような構成では支持体は必ずしも必要でない。ただし、支持体を有する方が密閉性の点で有利である。対向電極の材料としては、白金、カーボン、導電性ポリマー、などがあげられる。好ましい例としては、白金、カーボン、導電性ポリマーが挙げられる。
【0118】
対極の構造としては、集電効果が高い構造が好ましい。好ましい例としては、特開平10−505192号公報などが挙げられる。
受光電極は酸化チタンと酸化スズ(TiO2/SnO2)などの複合電極を用いても良く、チタニアの混合電極として例えば、特開2000−113913号公報等が挙げられる。チタニア以外の混合電極として例えば、特開2001−185243号公報、特開2003−282164号公報等が挙げられる。
【0119】
(H)光電変換素子の構成
光電変換素子の構成として、導電性支持体(電極層)、光電変換層(感光体層及び電荷移動体層)、ホール輸送層、伝導層、対極層を順次に積層することができる。p型半導体として機能するホール輸送材料をホール輸送層としてもちいることができる。好ましいホール輸送層としては、例えば無機系又は有機系のホール輸送材料を用いることができる。無機系ホール輸送材料としては、CuI、CuO,NiO等が挙げられる。また、有機系ホール輸送材料としては、高分子系と低分子系のものが挙げられ、高分子系のものとしては、例えばポリビニルカルバゾール、ポリアミン、有機ポリシラン等が挙げられる。また、低分子系のものとしては、例えばトリフェニルアミン誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体、フェナミン誘導体等が挙げられる。この中でも有機ポリシランは、従来の炭素系高分子と異なり、主鎖のSiに沿って非局化されたσ電子が光伝導に寄与し、高いホール移動度を有するため、好ましい(Phys.Rev.B,1987,vol.35,p.2818)。
【0120】
伝導層は、導電性のよいものであれば特に限定されないが、例えば無機導電性材料、有機導電性材料、導電性ポリマー、分子間電荷移動錯体等が挙げられる。中でもドナー材料とアクセプター材料とから形成された分子間電荷移動錯体が好ましい。この中でも、有機ドナーと有機アクセプターとから形成されたものを好ましく用いることができる。ドナー材料は、分子構造内で電子がリッチなものが好ましい。例えば、有機ドナー材料としては、分子のπ電子系に、置換若しくは無置換アミン基、水酸基、エーテル基、セレン又は硫黄原子を有するものが挙げられ、具体的には、フェニルアミン系、トリフェニルメタン系、カルバゾール系、フェノール系、テトラチアフルバレン系材料が挙げられる。アクセプター材料としては、分子構造内で電子不足なものが好ましい。例えば、有機アクセプター材料としては、フラーレン、分子のπ電子系にニトロ基、シアノ基、カルボキシル基又はハロゲン基等の置換基を有するものが挙げられ、具体的にはPCBM、ベンゾキノン系、ナフトキノン系等のキノン系、フロオレノン系、クロラニル系、ブロマニル系、テトラシアノキノジメタン系、テトラシアノンエチレン系等が挙げられる。
伝導層の厚みは、特に限定されないが、多孔質を完全に埋めることができる程度が好ましい。
【0121】
素子の構成としては、第1電極層、第1感光体層、導電層、第2感光体層、第2電極層を順次積層した構造を有していてもよい。この場合、第1感光体層と第2感光体層に用いる色素は同一または異なっていてもよく、異なっている場合には、吸収スペクトルが異なっていることが好ましい。その他、適宜この種の電気化学素子に適用される構造や部材を適用することができる。
【0122】
受光電極は、入射光の利用率を高めるなどのためにタンデム型にしても良い。好ましいタンデム型の構成例としては、特開2000−90989、特開2002−90989号公報等に記載の例が挙げられる。
受光電極層内部で光散乱、反射を効率的に行う光マネージメント機能を設けてもよい。好ましくは、特開2002−93476号公報に記載のものが挙げられる。
【0123】
導電性支持体と感光体層の間には、電解液と電極が直接接触することによる逆電流を防止する為、短絡防止層を形成することが好ましい。好ましい例としては、特開平06−507999号公報等が挙げられる。
受光電極と対極の接触を防ぐ為に、スペーサーやセパレータを用いることが好ましい。好ましい例としては、特開2001−283941号公報が挙げられる。
【0124】
セル、モジュールの封止法としては、ポリイソブチレン系熱硬化樹脂、ノボラック樹脂、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂、ガラスフリット、アルミナにアルミニウムアルコキシドを用いる方法、低融点ガラスペーストをレーザー溶融する方法などが好ましい。ガラスフリットを用いる場合、粉末ガラスをバインダーとなるアクリル樹脂に混合したものでもよい。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0126】
合成例1(例示色素(X−26)の調製)
下記のスキームの方法に従って例示色素(X−26)を調製した。
【0127】
【化12】

【0128】
(i)化合物(d−1−2)の調製
化合物(d−1−1)25g、Pd2(dba)3 33.8g、トリフェニルホスフィン8.6g、ヨウ化銅2.5g、1−へプチン25.2gをトリエチルアミン70mL及びテトラヒドロフラン(THF)50mLの混合溶液に室温で攪拌し、80℃で4.5時間攪拌した。濃縮後カラムクロマトグラフィーで精製することで化合物(d−1−2)26.4gを得た。
【0129】
(ii)化合物(d−1−4)の調製
化合物(d−1−3)6.7gを窒素雰囲気下、−15℃でテトラヒドロフラン200mLに溶解し、別途調製したLDA(リチウムジイソプロピルアミド)を化合物(d−1−3)の2.5等量を滴下し、75分攪拌した。その後化合物(d−1−2)15gをテトラヒドロフラン30mLに溶解した溶液を滴下し0℃で1時間攪拌し、室温で17時間攪拌した。濃縮後、水150mLを加え、塩化メチレン150mLで分液・抽出し、塩水で有機層を洗浄し、有機層を濃縮した。得られた結晶をメタノールで再結晶し、化合物(d−1−4)18.9gを得た。
【0130】
(iii)化合物(d−1−5)の調製
化合物(d−1−4)13.2g、PPTS(ピリジニウムパラトルエンスルホン酸)1.7gを、トルエン1000mLに加え、窒素雰囲気下で5時間加熱還流を行った。濃縮後、飽和重曹水及び塩化メチレンで分液を行い、有機層を濃縮した。得られた結晶をメタノール及び塩化メチレンで再結晶し、化合物(d−1−5)11.7gを得た。
【0131】
(iv)例示色素(X−26)の調製
化合物(d−1−5)4.0g、化合物(d−1−6)2.2g、をDMF(ジメチルホルムアミド)60mLに加え70℃で4時間攪拌した。その後化合物(d−1−7)2.1gを加え160℃で3.5時間加熱攪拌した。その後チオシアン酸アンモニウム19.0gを加え130℃で5時間攪拌した。濃縮後、水1.3mL加えろかし、ジエチルエーテルで洗った。粗精製物をTBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノール溶液に溶解し、Sephadex LH-20カラムで精製した。主層の分画を回収し濃縮後硝酸0.2Mを添加して、沈殿物をろ過後、水及びジエチルエーテルで洗い、粗精製物600mgを得た。粗精製物をメタノール溶液に溶解し、硝酸1Mを添加して沈殿物をろ過後、水及びジエチルエーテルで洗い、例示色素(X−26)570mg得た。
【0132】
得られた例示色素(X−26)の構造はNMR測定により確認した。
1H−NMR(DMSO−d6、400MHz):δ(ppm)in aromatic regions:9.37(1H,d),9.11(1H,d),9.04(1H,s)、8.89(2H),8.74(1H,s),8.26(1H,d),8.10−7.98(2H),7.85−7.73(2H),7.60(1H,d),7.45−7.33(2H),7.33−7.12(5H,m),6.92(1H,d)
【0133】
得られた例示色素(X−26)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は568nmであった。
【0134】
合成例2(例示色素(X−30)の調製)
下記のスキームの方法に従って化合物(d−2−4)を調製し、化合物(d−1−2)を化合物(d−2−4)に代えた以外は例示色素(X−26)と同様にして例示色素(X−30)を調製した。
【0135】
【化13】

【0136】
得られた例示色素(X−30)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は570nmであった。
【0137】
合成例3(例示色素(X−32)の調製)
下記のスキームの方法に従って化合物(d−3−2)を調製し、化合物(d−1−2)を化合物(d−3−2)に代えた以外は例示色素(X−26)と同様にして例示色素(X−32)を調製した。
【0138】
【化14】

【0139】
得られた例示色素(X−32)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は574nmであった。
【0140】
合成例4(例示色素(X−31)の調製)
下記のスキームの方法に従って化合物(d−4−2)を調製し、化合物(d−1−2)を化合物(d−4−2)に代えた以外は例示色素(X−26)と同様にして例示色素(X−31)を調製した。
【0141】
【化15】

【0142】
得られた例示色素(X−31)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は588nmであった。
【0143】
合成例5(例示色素(X−33)の調製)
下記のスキームの方法に従って化合物(d−5−6)を調製し、化合物(d−1−5)を化合物(d−5−6)に代えた以外は例示色素(X−26)と同様にして、例示色素(X−33)を調製した。
【0144】
【化16】

【0145】
得られた例示色素(X−33)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は570nmであった。
【0146】
合成例6(例示色素(X−34)の調製)
下記のスキームの方法に従って化合物(d−6−3)を調製し、化合物(d−1−5)を化合物(d−6−3)に代えた以外は例示色素(X−26)と同様にして例示色素(X−34)を調製した。
【0147】
【化17】

【0148】
得られた例示色素(X−34)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は571nmであった。
【0149】
合成例7(例示色素(X−35)の調製)
前記例示色素(X−30)の調製において、化合物(d−2−2)の代わりに下記化合物(d−7−1)を用いた以外は同様にして、例示色素(X−35)を調製した。
【0150】
【化18】

【0151】
得られた例示色素(X−35)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は574nmであった。
【0152】
合成例8(例示色素(X−36)の調製)
下記のスキームの方法に従って、以下例示色素(X−26)と同様にして、例示色素(X−36)を調製した。
【0153】
【化19】

【0154】
得られた例示色素(X−36)について、エタノール溶媒で色素の濃度が8.5μmol/Lとなるように調製し、分光吸収測定を行ったところ、吸収極大波長は580nmであった。
【0155】
例示色素(X−22)、例示色素(X−23)、例示色素(X−24)、例示色素(X−25)、例示色素(X−27)、例示色素(X−28)についても同様の方法で調製した。
また、比較色素として、以下の色素(X−19)、(X−20)及び(X−21)を、J.Am.Chem.Soc.,2001,vol.123,p.1613-1624に記載の方法を参考に調製した。
【0156】
【化20】

【0157】
【化21】

【0158】
<色素の評価>
色素(X−19)〜(X−36)の最大吸収波長を測定した。その結果を表1に示す。測定は、分光光度計(U−4100(商品名)、日立ハイテク社製)によって行い、溶液はTHF:エタノール=1:1を用い、濃度が2μMになるように調整した。
【0159】
【表1】

【0160】
<2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子(II)分散液の調製>
半導体微粒子(I)を調製し、それを用いて、2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子(II)を調製した。
1.半導体微粒子(I)の調製
(1)酸化スズ(SnO2
Alfa Aesar社製のPuratronic(商品名)を、精製せずに使用した。この酸化スズの粒径を、レーザー回折式粒度分布測定装置(MALVERN社製のマスターサイザー(商品名))により測定したところ、20〜30nmであった。
(2)酸化チタン(TiO2
Titanium isopropoxide(0.2mol)に室温で酢酸(0.2mol)を滴下して15分間攪拌した。その後、290mLの蒸留水を添加して1時間攪拌した。1時間後、65%のHNO3水溶液を添加して、40分かけて78℃まで加熱し、75分攪拌した。攪拌後、蒸留水を290mL添加して酸化チタンゾル溶液(結晶系:アモルファス)を作製した。この酸化チタンゾル溶液を、オートクレーブを用いて250℃、12時間攪拌することにより酸化チタン粒子分散水溶液を得た。
この水溶液をろ過して、酸化チタンを得た。得られた酸化チタンの結晶系はアナターゼ型であった。この酸化チタンの粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(MALVERN社製のマスターサイザー(商品名))により測定したところ、10〜30nmであった。
【0161】
2.2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなる半導体微粒子(II)の調製
(1)コア−シェル型半導体微粒子の調製
(a)酸化アルミニウム(Al23)をシェル部分とする半導体微粒子(II)の調製
前記半導体微粒子(I)を、2〜150mMのトリメチルアルミニウム水溶液に分散させ、200℃雰囲気で8秒間反応させ、半導体微粒子(II)を得た。得られた半導体微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、酸化スズ又は酸化チタンをコア部分とし、酸化アルミニウムをシェル部分とする、コア−シェル構造である半導体微粒子(II)であることがわかった。コア:シェルの体積比をTEMで観察したところ、90:10〜98:2であった。この半導体微粒子の粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(MALVERN社製のマスターサイザー(商品名))で測定したところ、20〜30nmであった。
【0162】
(b)酸化マグネシウム(MgO)をシェル部分とする半導体微粒子(II)の調製
前記半導体微粒子(I)を、2〜150mMの酢酸マグネシウムが溶解したエタノール溶液(60〜70℃)中に1分間浸漬し、洗浄後、500℃で焼成することにより、半導体微粒子(II)を得た。得られた半導体微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、酸化スズ又は酸化チタンをコア部分とし、酸化マグネシウムをシェル部分とする、コア−シェル構造である半導体微粒子(II)であることがわかった。上記と同様の方法でコア:シェルの体積比をTEMで観察したところ、90:10〜98:2であった。上記と同様の方法で半導体微粒子の粒径を測定したところ、20〜30nmであった。
【0163】
(c)酸化チタン(TiO2)をシェル部分とする半導体微粒子(II)の調製
前記半導体微粒子(I)を、2〜20mMのTiCl4水溶液(70℃)に1時間浸漬し、洗浄後、500℃で焼成することにより、半導体微粒子(II)を得た。得られた半導体微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、酸化スズ又は酸化チタンをコア部分とし、酸化チタンをシェル部分とする、コア−シェル構造である半導体微粒子(II)であることがわかった。上記と同様の方法でコア:シェルの体積比をTEMで観察したところ、90:10〜98:2であった。上記と同様の方法で半導体微粒子の粒径を測定したところ、20〜30nmであった。
【0164】
(d)炭酸カルシウム(CaCO3)をシェル部分とする半導体微粒子(II)の調製
前記半導体微粒子(I)を、1〜3質量%の酢酸カルシウム水溶液に所定時間浸漬して、525℃で焼成することにより、半導体微粒子(II)を得た。得られた半導体微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、酸化スズ又は酸化チタンをコア部分とし、炭酸カルシウムをシェル部分とする、コア−シェル構造である半導体微粒子(II)であることがわかった。上記と同様の方法でコア:シェルの体積比をTEMで観察したところ、90:10〜98:2であった。上記と同様の方法で半導体微粒子の粒径を測定したところ、20〜30nmであった。
【0165】
(e)2種類以上の材料をシェル部分とする半導体微粒子(II)の調製
2種類以上の材料をシェル部分とする半導体微粒子は、前記(a)〜(d)に記載された方法を繰り返し行うことにより調製した。得られた半導体微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、コア部分に対して、使用した2種類以上の材料をシェル部分とする、コア−シェル構造である半導体微粒子(II)であることがわかった。上記と同様の方法でコア:シェルの体積比をTEMで観察したところ、90:10〜98:2であった。上記と同様の方法で半導体微粒子の粒径を測定したところ、20〜40nmであった。
【0166】
(f)導電性材料の添加
導電性材料として、グラフェンを用いた。グラフェンは、フレーク状のクラファイト(平均粒径:4μm、純度99.95%、Qingdao Tianhe Graphite社製(中華人民共和国)のQingdao(商品名)から、以下の方法で調製した。
5gの上記グラファイトと3.75gのNaNO3をフラスコに加え、375mLのH2SO4を加え氷冷下で攪拌した。その後、22.5gのKMnO4を約1時間かけて添加した。氷冷下で2時間攪拌後、混合物を室温で5日間攪拌した。その後、5wt%の硫酸水溶液を700mL加え1時間攪拌し、温度を98℃に維持した。得られた混合物を98℃で更に2時間攪拌した。温度を60℃に下げた後、15mLの過酸化水素水を添加し、室温で2時間攪拌した。不純物イオンを除去するために、得られた混合物は下記の操作を15回行うことにより精製した。
(精製方法)
遠心分離を行い、上澄みを除去する。3wt%H2SO4/0.5wt%H22の混合水溶液を2L加え、強く攪拌しながら30分間超音波処理を行う。その後、3wt%のHCl水溶液2Lで3回洗浄し、蒸留水で1回洗浄する。得られた水溶液をイオン交換樹脂(D301T、Nankai University Chemical Plant)に通すことにより精製する。
上記の方法で精製を行い、蒸留水を除去することによりグラフェンを得た。精製物がグラフェンであることは、X線光電子分光法、走査型電子顕微鏡により確認した。半導体微粒子にグラフェンを添加したものについては、半導体微粒子に対して1質量%配合した。
【0167】
(2)金属ドープ半導体微粒子の調製
Nbをドープした酸化チタンの半導体微粒子を次の方法により作製した。
ニオブ粉末(0.002mol)とTetrabutyl Titanete(0.018mol)をH22/NH3混合溶液(v/v=5/1)に添加して攪拌し前駆体を作製した。前駆体を80℃に加熱して過剰なH22とNH3を除去し、その後、オートクレーブを用いて180℃で20時間加熱した。得られた分散物をpH=7以下の脱イオン水で洗浄して100℃で6時間乾燥させることによりNbがドープされた酸化チタンの半導体微粒子を得た。この半導体微粒子にNbがドープされていることは、XRDまたはSTEMにより、確認した。上記と同様の方法で半導体微粒子の粒径を測定したところ、10〜30nmであった。
【0168】
3.半導体微粒子(II)分散液の調製
前記半導体微粒子(II)をそれぞれ、エチルセルロースを5質量%含むα−テルピネオール溶液に分散させて、半導体微粒子(II)15質量%の分散液を得た。この分散液を、自転/公転併用式のミキシングコンディショナーを使用して均一に分散、混合した。
【0169】
4.その他の半導体微粒子分散液の調製
下記表に示す比較例50〜105においては、下記表に示す2種の微粒子1及び微粒子2を質量比で1:1で混合したものを使用した。なお、下記表に示す微粒子2のうち、「TiO2/MgO」とは、TiO2微粒子を、2〜150mMの酢酸マグネシウムが溶解したエタノール溶液(60〜70℃)中に1分間浸漬し、洗浄後、500℃で焼成して調製した微粒子である。
【0170】
<吸着性評価>
ガラス基板上に、透明導電膜としてフッ素をドープした酸化スズをスパッタリングにより形成した。次に、上記の半導体微粒子分散液を透明導電膜に塗布し、500℃で加熱して半導体微粒子層を形成した。このようにして得られた半導体微粒子層の厚さは10μmであり、半導体微粒子の塗布量は20g/m2であった。
上記のガラス基板上に半導体微粒子層が形成されたものを、下記表に示す色素の10%エタノール溶液に暗所で40℃で3時間浸漬した。色素が吸着されて得られた受光電極を、10%TBAOHメタノール溶液を用いて色素を脱着し、吸収スペクトル測定により各色素の初期吸着量を定量した。吸着量が2.0×10-4mM/cm2未満のものをB、2.0×10-4mM/cm2以上のものをAとした。
【0171】
<光電変換効率評価>
(光電変換素子の作製)
上記の吸着性評価と同様の方法で作製した受光電極を作製した。その後、同じ半導体微粒子分散液をこの受光電極に塗布し、500℃で加熱して絶縁性多孔体を形成した。次に、表2〜9に示す色素の10%エタノール溶液に、上記の絶縁性多孔体が形成されたガラス基板を12時間浸漬した。色素の染着したガラスを4-tert-ブチルピリジンの10%エタノール溶液に30分間浸漬した後、エタノールで洗浄し自然乾燥させた。このようにして得られる感光層の厚さは10μmであり、半導体微粒子の塗布量は20g/m2であった。
その後、半導体微粒子電極を50μm厚の熱可塑性ポリオレフィン樹脂シートを介して白金スパッタFTO基板と対向して配置し、樹脂シート部を熱溶融させて両極板を固定した。
なおあらかじめ白金スパッタ極側に開けておいた電解液の注液口から、電解液を注液し、電極間に満たした。さらに周辺部及び電解液注液口をエポキシ系封止樹脂を用いて本封止し、集電端子部に銀ペーストを塗布して光電変換素子とした。
電解液は、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム(0.5モル/L)、ヨウ素(0.1モル/L)のメトキシプロピオニトリル溶液を用いた。
【0172】
(光電変換効率の測定)
500Wのキセノンランプ(ウシオ製)の光をAM1.5Gフィルター(Oriel社製)およびシャープカットフィルター(KenkoL−42、商品名)を通すことにより紫外線を含まない模擬太陽光を発生させた。この光の強度は89mW/cm2であった。作製した光電変換素子にこの光を照射し、発生した電気を電流電圧測定装置(ケースレー238型、商品名)にて測定した。これにより求められた光電気化学電池の変換効率の初期値を測定した結果を表2〜9に示した。結果は、変換効率が4%以上5%未満のものをE、5%以上6%未満のものをD、6%以上7%未満のものをC、7%以上8%未満のものをB、8%以上9%未満のものをAとして評価し、A、B、Cを合格とした。また、耐久性としては、変換効率の初期値に対し500時間後の変換効率が90%以上のものをA、80%以上90%未満のものをB、80%未満のものをCとして評価し、AとBを合格とした。
【0173】
【表2】

【0174】
【表3】

【0175】
【表4】

【0176】
【表5】

【0177】
【表6】

【0178】
【表7】

【0179】
【表8】

【0180】
【表9】

【0181】
表4及び7からわかるように、比較例1〜21及び26〜46からわかるように、一般式(1)で表される色素を用いない場合、又は半導体微粒子が2種以上の金属又は金属化合物から構成されない場合には、変換効率の初期値が不十分な場合が多く、耐久性がいずれも不合格であった。また、表8及び9からわかるように、半導体微粒子を単に混合したものは、光電変換効率の初期値と耐久性のいずれか一方が不合格であり、ほとんどが、両方とも不合格であった。
これに対して、半導体微粒子が2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなるものを用い、一般式(1)で示される色素を用いた場合は、光電変換効率の初期値と耐久性に優れていることがわかった。
【符号の説明】
【0182】
1 導電性支持体
2 感光体層
21 増感色素
22 半導体微粒子
3 電荷移動体層
4 対極
5 受光電極
6 外部回路
10 光電変換素子
100 光電気化学電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、色素を含む半導体微粒子層で構成された感光体層と、電荷移動体層と、対極とからなる光電変換素子であって、前記半導体微粒子が2種以上の金属又は金属化合物を局部的に有してなり、前記色素が下記一般式(1)で表される化合物である、光電変換素子。

Mz(LL1m1(LL2m2(X)m3・(CI)m4 一般式(1)

[Mzは金属原子を表し、LL1は下記一般式(2)で表される2座の配位子であり、LL2は下記一般式(3)で表される2座又は3座の配位子である。
Xは、アシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子、又はハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド及びチオ尿素からなる群から選ばれる1座若しくは2座の配位子を表す。
CIは、一般式(1)で表される化合物の電荷を中和させる対イオンを表す。
m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLL1は同じでも異なっていてもよい。m2は0〜2の整数を表し、m2が2のときLL2は同じでも異なっていてもよい。m3は0〜3の整数を表し、m3が2以上のときXは同じでも異なっていてもよい。m4は0〜3の整数を表し、m4が2以上のときCIは同じでも異なっていてもよい。
【化1】

一般式(2)において、R101及びR102はそれぞれ独立に、ヘテロ環基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基又はホスホニル基を表す。R103及びR104はそれぞれ独立に置換基を表し、R105及びR106はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基及びヘテロ環基からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる基を表す。
1及びL2はそれぞれ独立に、エテニレン基及び/又はエチニレン基からなる共役鎖を表す。
a1及びa2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、a1が2以上のときR101は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR102は同じでも異なっていてもよい。b1及びb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表す。b1が2以上のときR103は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。b2が2以上のときR104は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。b1及びb2が共に1以上のときR103とR104とが連結して環を形成してもよい。d1及びd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。d3は0又は1を表す。
【化2】

一般式(3)において、Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に、5又は6員環を形成しうる非金属原子群を表し、cは0又は1を表す。]
【請求項2】
前記半導体微粒子における2種以上の金属又は金属化合物が、金属原子、金属のカルコゲニド、金属炭酸塩又は金属硝酸塩である、請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記金属原子がTi、Sn、Au、Ag、Cu、Al、Zr、Nb、V及びTaからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項2記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記金属カルコゲニドが硫化カドミウム、セレン化カドミウム又はTi、Sn、Zn、Mg、Al、W、Zr、Hf、Sr、In、Ce、Y、La、V及びTaからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物である、請求項2又は3記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記金属炭酸塩が炭酸カルシウム、炭酸カリウム及び炭酸バリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項2〜4のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記金属硝酸塩が硝酸ランタンである、請求項2〜5のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記半導体微粒子が、コア−シェル構造により、前記金属原子、前記金属のカルコゲニド、前記金属炭酸塩及び/又は前記金属硝酸塩を有してなる、請求項2〜6のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記半導体微粒子が、前記金属のカルコゲニドをコア部分として有し、前記金属のカルコゲニド又は前記金属炭酸塩をシェル部分として有する、請求項7記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記半導体微粒子が、酸化チタン及び酸化スズからなる群より選ばれる金属のカルコゲニドをコア部分として有し、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン及び酸化チタン/酸化マグネシウムからなる群より選ばれる金属のカルコゲニド又は金属炭酸塩をシェル部分として有する、請求項8記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記半導体微粒子が、金属原子をドープすることにより、2種以上の金属原子を有してなる、請求項1〜6のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項11】
前記半導体微粒子が、前記金属のカルコゲニドに前記金属原子をドープして得られた半導体微粒子である、請求項10記載の光電変換素子。
【請求項12】
前記半導体微粒子が、酸化チタン及び酸化スズからなる群より選ばれる金属のカルコゲニドに、Nb、V及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子をドープして得られた半導体微粒子である、請求項11記載の光電変換素子。
【請求項13】
前記半導体微粒子の粒径が、1〜1000nmである、請求項1〜12のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項14】
前記半導体微粒子が、導電性材料からなる添加剤を含む、請求項1〜13のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項15】
前記導電性材料がグラフェンである、請求項14記載の光電変換素子。
【請求項16】
一般式(1)において、MzがRuであり、m1が1であり、m2が1であり、Xがイソチオシアネート基であり、m3が2である、請求項1〜15のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項17】
一般式(1)において、LL1が一般式(4−1)〜(4−3)のいずれかで表される、請求項1〜16のいずれか1項記載の光電変換素子。
【化3】

[R101〜R104、a1、a2、b1、b2及びd3は一般式(2)におけるものと同義である。R107は酸性基を表す。a3は0〜3の整数を表す。R108は置換基を表す。b3は0〜3の整数を表す。R121〜R124はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を表す。R125、R126、R127及びR128はそれぞれ独立に置換基を表す。d4及びd5はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。]
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の光電変換素子を備える、光電気化学電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−216506(P2012−216506A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52699(P2012−52699)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】