説明

光電変換素子材料の製造方法及び有機太陽電池の製造方法

【課題】光捕集能に優れ且つ高いエネルギー変換効率を有する光電変換素子材料の製造方法及びこの光電変換素子材料を用いた有機太陽電池並びに該有機太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】まず、ポルフィリン骨格を有する化合物にフラーレン類を結合させることによりポルフィリン-フラーレン連結体を形成し、このポルフィリン-フラーレン連結体と可溶性の単層カーボンナノチューブとが溶解した有機溶媒に貧溶媒を注入することにより、多数の前記ポルフィリン-フラーレン連結体及び単層カーボンナノチューブがクラスター状に連結して成る光電変換素子材料を形成する。次に、前記光電変換素子材料を、電気泳動電着法により、金属酸化物が載置された光透明電極上に堆積させることによって、該金属酸化物上に前記光電変換素子材料が集積化された集積構造体を形成することによって太陽電池が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子材料の製造方法及び有機太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化、環境汚染、エネルギー問題等が深刻さを増す中、環境に優しい電気エネルギー源として太陽電池が注目されている。現在、太陽電池の光起電力素子の半導体素材としては、アモルファスシリコンに代表される無機半導体が広く使用されている。しかし、無機半導体を用いて製造される無機太陽電池はコストが高く、一般家庭に広く普及するには至っていない。コスト高の要因は主として、真空かつ高温下で半導体薄膜を製造するプロセスにある。
これに対して、共役系重合体や有機結晶などの有機半導体や有機色素を用いた有機太陽電池は、その原材料の大量生産が容易であること、及び薄膜化・大面積化が容易であることから、実用化が検討されている。
【0003】
このような有機太陽電池の中で現在実用化に近いと考えられているものとして、色素増感型太陽電池(グレツェルセル)がある(特許文献1)。しかし、グレツェルセルは電解質が溶液であること、耐久性が低いこと等が実用化のネックになっている。
【0004】
そこで、新たにグレツェルセルとは異なるコンセプトから成る、バルクへテロ接合を利用した有機太陽電池が最近脚光を浴びている。ここで、バルクへテロ接合とは、半導体界面(空乏層)が通常のヘテロ接合のように二次元的ではなく、膜の内部において三次元的に広がっている状態を意味する。
【0005】
サリチフチ、ヒーガーらは、p型半導体とn型半導体とみなせる共役系ポリマーとフラーレン誘導体とを混合して得られた薄膜から、バルクへテロ接合を利用した有機太陽電池を作製している(非特許文献1,2)。バルクへテロ接合を利用した有機太陽電池では、通常のへテロ接合に基づく有機太陽電池とは異なり、混合薄膜内部の全領域で空乏層が形成されるため、非常に効率よく電荷分離が起こる。
【0006】
しかし、このような非常に高効率な電荷分離が起こるにもかかわらず、実際のところ、この方式の太陽電池のエネルギー変換効率は無機系のものと比較して非常に低く、数%程度の値しか得られていない。これは、従来のバルクへテロ接合を利用した方式では、電荷の分離が起こっても、すぐに電子とホールが再結合することが原因であると考えられる。このことから、電子とホールが再結合することを防ぎ、更には、電荷分離した電子とホールの輸送が効率的に行われるようにすれば、バルクへテロ接合を利用した有機太陽電池でも高いエネルギー変換効率が得られるようになると推測される。
【0007】
そこで、本発明者は、単層カーボンナノチューブとフラーレン類から成る複合クラスターを形成し、この複合クラスターを用いた光電変換系を構築することにより、電子とホールの再結合を防止し、なおかつ効率的な電荷輸送が可能となることを見出した(非特許文献3)。
【0008】
単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nano tube,SWNT)は高効率な電荷輸送材料として知られており、フラーレン類と共に有機光電変換素子(有機太陽電池、光センサー等)への適用が期待されている。単層カーボンナノチューブは、π−π相互作用により水性溶媒及び有機溶媒のいずれに対しても貧溶性を示すことから、本発明者は、化学修飾により単層カーボンナノチューブを可溶化し、この可溶化単層カーボンナノチューブ(functionalized-SWNT,f-SWNT)をフラーレン類とを混合溶媒中で複合クラスター化して金属スズ電極上に付着させた。得られた修飾電極の膜構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、可溶化単層カーボンナノチューブの側壁にフラーレン分子が密に配列着している様子が明らかになった。このような特徴的な膜構造により、効率的な電荷輸送が可能になり、光電流発生効率の著しい向上が見られたものと考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第94/05045号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「サイエンス(Science)」、1995年、第270巻、pp.1789-1791
【非特許文献2】「アドバンスト・ファンクショナル・マテリアルズ(Advanced Functional Materials)」、2003年、第13巻、第1号、pp.85-88
【非特許文献3】「ケミストリー・ヨーロピアン・ジャーナル(Chemistry - A European Journal)」、2008年、第14巻、pp.4875-4885
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、単層カーボンナノチューブは、優れた電荷輸送能力を有する光電変換素子材料として知られているものの、光捕集能が低いため、有機太陽電池材料として用いるには改善が必要であった。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、光捕集能に優れた、高いエネルギー変換効率を有する光電変換素子材料の製造方法及びこの光電変換素子材料を用いた有機太陽電池並びに該有機太陽電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様である光電変換素子材料の製造方法は、
a) ポルフィリン骨格を有する化合物にフラーレン類を結合させることによりポルフィリン-フラーレン連結体を形成する工程と、
b) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体を有機溶媒に溶解させる工程と、
c) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体が溶解した有機溶媒に貧溶媒を注入することにより、多数の前記ポルフィリン-フラーレン連結体がクラスター状に連結して成る光電変換素子材料を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
又、本発明の第2の態様である光電変換素子材料の製造方法は、
a) ポルフィリン骨格を有する化合物にフラーレン類を結合させることによりポルフィリン-フラーレン連結体を形成する工程と、
b) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体と可溶性の単層カーボンナノチューブとを有機溶媒に溶解させる工程と、
c) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体と可溶性の単層カーボンナノチューブとが溶解した有機溶媒に貧溶媒を注入することにより、前記ポルフィリン-フラーレン連結体と前記単層カーボンナノチューブがクラスター状に連結して成る光電変換素子材料を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第3の態様である有機太陽電池の製造方法は、上記第1の態様又は第2の態様の方法によって製造される光電変換素子材料を、金属酸化物が載置された光透明電極と対向電極との間に介挿することを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の第4の態様である有機太陽電池の製造方法は、上記第1の態様又は第2の態様の方法によって製造される光電変換素子材料を、電気泳動電着法により、金属酸化物が載置された光透明電極上に堆積させることによって、該金属酸化物上に前記光電変換素子材料が集積化された集積構造体を形成することを特徴とする。
【0017】
ポルフィリン骨格を有する化合物(以下、ポルフィリン類ともいう)にフラーレン類を結合させることにより得られるポルフィリン-フラーレン連結体から、クラスター状の光電変換素子材料、及び集積構造体が形成される様子を、図1を用いて説明する。なお、図1の(a)は第1の態様の方法で光電変換素子材料及び有機太陽電池の集積構造体を製造する工程を、(b)は第2の態様の方法で光電変換素子材料及び有機太陽電池の集積構造体を製造する工程を示している。
【0018】
第1及び第2の態様のいずれにおいても、まず、ポルフィリン類の側鎖部とフラーレン類を還元剤等の存在下で反応させ、ポルフィリン類とフラーレン類とを連結することにより、ポルフィリン-フラーレン連結体を形成する。
【0019】
ポルフィリン類としては一般的なポルフィリンを適宜使用することが可能であり、その構造は問わないが、安定性を考慮すると一般式(1)
【化1】

で表されるものを用いるのが好ましい。なお、式中のR1〜R20は、それぞれ同一又は異なる、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基又はアルケニル基又はシクロアルキル基又はアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基等を表すが、特に、R1〜R20として、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はアルケニル基又はシクロアルキル基又はアルコキシ基を用いるのが好ましい。
【0020】
炭素数1〜15のアルキル基又はアルケニル基又はシクロアルキル基は、その水素原子が、ハロゲン基(F,Cl,Br,I)、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基などで置換されていてもよい。また、任意の位置のC-C単結合の間に-O-、-COO-、-CO-を一個又は複数個介在させて、エーテル、エステル、ケトン構造としてもよい。
【0021】
ポルフィリン類の側鎖部R1〜R20のうちフラーレン類が結合する側鎖部は、フレキシブルな構造を有していることが望ましく、特に、炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基又はこれらの誘導体から選択することが望ましい。図2は、ポルフィリン-フラーレン連結体の合成例を示している。図2に示す合成方法により得られるポルフィリン-フラーレン連結体は、ポルフィリン類とフラーレン類との連結部に二重結合や三重結合がないため、フレキシブルな構造となっている。
【0022】
第1の態様では、多数のポルフィリン-フラーレン連結体が溶解した有機溶媒(例えばo-ジクロロベンゼン)溶液に貧溶媒(例えばアセトニトリル)を急速注入することにより、多数のポルフィリン-フラーレン連結体がクラスター状に結合した光電変換素子材料(複合クラスターともいう)を形成する。
【0023】
第2の態様では、多数のポルフィリン-フラーレン連結体及び多数の可溶性単層カーボンナノチューブが溶解した有機溶媒(例えばo-ジクロロベンゼン)溶液に貧溶媒(例えばアセトニトリル)を急速注入することにより、多数のポルフィリン-フラーレン連結体と多数の単層カーボンナノチューブがクラスター状に結合した光電変換素子材料(複合クラスター)を形成する。
【0024】
単層カーボンナノチューブは水性溶媒、有機溶媒のいずれに対しても難溶性であるが、単層カーボンナノチューブを酸処理し、それによって該単層カーボンナノチューブの両端を開放端とし、そられ開放端に炭素数が4以上の長鎖アルキル基を導入することで可溶性となる。図3に可溶性の単層カーボンナノチューブを形成する工程の一例を示す。
【0025】
このようにして形成された光電変換素子材料である複合クラスターを、FTO(フッ素−酸化スズ)電極等の透明電極に載置されたSnO2、TiO2等の透明導電性金属酸化物上に、電気泳動電着法により堆積させることにより、前記複合クラスターが集積化した集積構造体を形成する。この集積構造体では、複合クラスターが凝集してネットワークを形成していると考えられる。特に、ポルフィリン類とフラーレン類がフレキシブルな構造の側鎖部を介して結合されていると、複合クラスターが透明導電性金属酸化物上に集積し易く、規則的なネットワークを構築することができる。
【0026】
ポルフィリン類は優れた電子供与体であると同時に良好な光捕集分子である。このため、集積構造体では、光照射により容易に電荷分離が起こり、ポルフィリン類からフラーレン類への電子移動、ポルフィリン類によって形成されたネットワークによるホールの輸送、フラーレン類により形成されたネットワークによる電子の輸送がそれぞれ効率よく行われることになる。
また、単層カーボンナノチューブを含む複合クラスターを用いた有機太陽電池では、集積構造体において、ポルフィリン-フラーレン連結体からなるクラスターの間を繋ぐように単層カーボンナノチューブが存在する。このため、単層カーボンナノチューブが電子移動経路、電荷輸送経路として働き、より一層効率よく電子の輸送が行われることになる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、光捕集能に優れたポルフィリン類をフラーレン類と連結してポルフィリン-フラーレン連結体を形成し、多数のポルフィリン-フラーレン連結体をクラスター状に連結させて光電変換素子材料を得、該光電変換素子材料と電極などとを組み合わせることにより、高いエネルギー変換効率を有する太陽電池を得ることができる。また、単層カーボンナノチューブを含む光電変換素子材料では、電荷輸送がより一層効率よく行われるため、エネルギー変換効率の一層の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の態様の光電変換素子材料を用いた有機太陽電池の形成過程を説明する図(a)、第2の態様の光電変換素子材料を用いた有機太陽電池の形成過程を説明する図(b)。
【図2】第2構造体の合成経路の一例を示す図。
【図3】可溶性の単層カーボンナノチューブの合成経路の一例を示す図。
【図4】本発明の一実施例に係るクラスター((f-SWNT+H2P-C60)m、(H2P-C60)m、(f-SWNT)m)の走査型電子顕微鏡像((a)〜(c))を示す。
【図5】アセトニトリル注入前の吸収スペクトル(a)、アセトニトリル注入後の吸収スペクトル(b)を示す。
【図6】(f-SWNT+H2P-C60)mをFTO/SnO2電極上に集積化させる過程を説明するための図。
【図7】FTO/SnO2電極上に集積化した(f-SWNT+H2P-C60)m、(H2P-C60)m、(f-SWNT)mの走査型電子顕微鏡像((a)〜(c))を示す。
【図8】泳動電着時間を10秒、120秒にしたときの、FTO/SnO2電極上に集積化した(f-SWNT+H2P-C60)mの走査型電子顕微鏡像((a)、(b))を示す。
【図9】FTO/SnO2電極上に集積化した(f-SWNT+H2P-C60)m、(H2P-C60)m、(f-SWNT)mの吸収スペクトルを示す。
【図10】光電流測定システムの構成図(a)、同システムに係るセルの構成図(b)を示す。
【図11】FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m、FTO/SnO2/(f-SWNT)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)mを使用したシステムのIPCE値の波長依存性を示すグラフ。
【図12】ポルフィリン-フラーレン連結体がクラスター状に連結してなる光電変換素子材料における電荷輸送(a)及び集積構造体における電荷輸送(b)を説明するための図。
【図13】ポルフィリン-フラーレン連結体(H2P-C60)の構造(a)及びポルフィリン(TBPP)の構造(b)並びにこれらの蛍光減衰カーブ(c)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
[実施例]
(光電変換素子材料の作製及びその性能評価)
化学式(2)
【化2】

で表されるポルフィリン類(ポルフィリン骨格を有する化合物)に、ホルムアルデヒド(HCHO)とフラーレン(C60)を添加し、トルエンで還流することにより、化学式(3)
【化3】

で表される、ポルフィリン-フラーレン連結体(以下「H2P-C60」とする)を得た。
【0030】
次に、H2P-C60(0.55mM)と可溶性単層カーボンナノチューブ(以下、「f-SWNT(functionalized-single-walled carbon nano tube)」ともいう)(0.044gl-1)が溶解したo-ジクロロベンゼン溶液(0.46ml)に、アセトニトリル(1.14ml)を急速注入することにより、H2P-C60とf-SWNTとがクラスター状に連結した複合クラスター(以下、「(f-SWNT+H2P-C60)m」とする)を生成した。
また、同様の方法により、H2P-C60がクラスター状に連結した複合クラスター(以下、「(H2P-C60)m」とする)、f-SWNTがクラスター状に連結した単独クラスター(以下、「(f-SWNT)m」とする)を生成した。
【0031】
以上によって得られた(f-SWNT+H2P-C60)m、(H2P-C60)m、(f-SWNT)mを、走査電子顕微鏡を用いて観察した。その結果を図4に示す。図4(a)から明らかなように、(f-SWNT+H2P-C60)mでは、H2P-C60の集合体(細長い菱形状の塊、(H2P-C60)mに相当)の表面に多数のf-SWNTが付着している様子が明らかになった。
【0032】
また、o-ジクロロベンゼン溶液にアセトニトリルを注入する前後の吸収スペクトルを測定した結果を図5に示す。アセトニトリルを注入する前は、f-SWNT+H2P-C60、H2P-C60、f-SWNTがクラスターを形成する前の吸収スペクトルであり、アセトニトリルを注入した後は、(f-SWNT+H2P-C60)m、(H2P-C60)m、(f-SWNT)mの吸収スペクトルである。尚、図5(a)中、破線はH2P-C60とf-SWNTの吸収スペクトルを合算したものを、図5(b)中、破線は(H2P-C60)mと(f-SWNT)mの吸収スペクトルを合算したものをそれぞれ示す。
【0033】
図5から明らかなように、(f-SWNT+H2P-C60)m、(H2P-C60)mの吸収スペクトルは、クラスター形成前の吸収スペクトルに比べてブロードなスペクトルとなった。特に、ポルフィリンにみられる500-700nm付近のQ帯と呼ばれる吸収帯が、クラスター形成前は4つに分裂していたのに対して、クラスター形成によって分裂しなくなった。一方、ポルフィリンにみられる400-500nm付近のソーレー帯と呼ばれる鋭い吸収帯がクラスター形成により長波長側にシフト(レッドシフト)した。
また、f-SWNTはクラスター形成前後のいずれにおいても吸収スペクトルが観察されなかったことから、光捕集能が低いことが明らかとなった。
【0034】
(太陽電池の作製及びその性能評価)
3種のクラスター((f-SWNT+H2P-C60)m、(H2P-C60)m、(f-SWNT)m)を、フッ素−酸化スズ(FTO)電極にSnO2の透明導電性金属酸化物を載置したFTO/SnO2電極上に、電気泳動電着法(DC200V,120秒)により堆積させ、各クラスターをFTO/SnO2電極上に集積化させた(図6参照)。以上によって得られた集積構造体(以下、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)m、FTO/SnO2/(f-SWNT)m)とする)を走査電子顕微鏡を用いて観察した結果を図7に示す。図7(c)から明らかなように、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)mでは、(H2P-C60)m(細長い菱形状の塊)が集積し、且つ、集積構造体を構成する(H2P-C60)mの表面に多数のf-SWNTが付着している様子が明らかになった。また、多数のf-SWNTが(H2P-C60)mの間に跨って付着している様子も明らかになった。
【0035】
集積構造体(FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m)の底部付近(電極に近い側)におけるf-SWNTの付着状態を表面付近(電極に遠い側)の付着状態と比較するために、泳動電着時間を10秒にしたときの集積構造体を走査電子顕微鏡で観察した。その結果を図8に示す。図8(a)は泳動電着時間を10秒にしたときの集積構造体を、図8(b)は泳動電着時間を120秒にしたときの集積構造体の走査電子顕微鏡像を示す。図8(b)は図7(c)と同じ走査電子顕微鏡像を示している。
【0036】
泳動電着時間が120秒のときに比べると、泳動電着時間が10秒のときに集積する(f-SWNT+H2P-C60)mの量は少ないことから、図8(a)は(FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m)の底部付近を、図8(b)は(FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m)の表面付近を表しているとみなすことができる。
図8の(a)と(b)の比較から、底部付近でも表面付近と同様に、(H2P-C60)mの表面に多数のf-SWNTが付着していることが明らかである。
【0037】
また、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)m、FTO/SnO2/(f-SWNT)mの吸収スペクトルを測定した(図9参照)。この結果、広範囲の波長領域で、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)mの吸収スペクトルは、FTO/SnO2/(H2P-C60)mの吸収スペクトルに比べて吸光度が高くなっていた。
【0038】
以上のように作製されたデバイスの能力を測定するために模擬太陽電池を作製し、光電気化学測定を行った。
【0039】
光電気化学測定は、図10に示すような、作用電極、Ptワイヤー対電極、及びAg/AgNO3参照電極からなる標準三極配列を備え、Ptワイヤー対電極に170mV(対SCE(Saturated Calomel Electrode))のバイアス電圧を印加し、電解液として0.5MのLiI及び0.01MのI2を含むアセトニトリル溶液を収容したパイレックス(登録商標)UVセル(5 mL)を使用して行った(光電流測定にはALS 630A 電気化学分析装置を使用した)。ここで、SnO2上に形成したFTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)m、FTO/SnO2/(f-SWNT)m膜の励起は、500 Wのキセノンランプ(Ushio XB-50101AA-A)からモノクロメータ(Ritsu MC-10N)を通過した単色光を、カットオフフィルターを介して照射することによって行った。
【0040】
光電変換効率(IPCE)は、IPCE(%)=100×1240×I/(Win×λ)により求めた。Iは光電流(Acm-2)、Winは入射光強度(Wcm-2)、λは励起波長(nm)を表す。
【0041】
図11は、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m、FTO/SnO2/(f-SWNT)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)mを使用したシステムのIPCEの測定結果を示した図である。図11の(a)〜(c)は、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)m、FTO/SnO2/(f-SWNT)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)mを使用したシステムのIPCE値を、(d)は、FTO/SnO2/(f-SWNT)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)mのIPCE値を合算したものを示している。
【0042】
図11に示すように、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)mを使用したシステムのIPCE値は、FTO/SnO2/(f-SWNT)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)mを使用したシステムのIPCE値、及びこれらの合算したIPCE値、のいずれと比べて増加した。特に、波長440nmのときに大きく増加し、FTO/SnO2/(H2P-C60)mシステムのIPCE値が約11%であるのに対して、FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)mシステムのIPCE値は約22%であった。また、FTO/SnO2/(f-SWNT)m、FTO/SnO2/(H2P-C60)mシステムの合算したIPCE値も12%程度であったことから、ポリフィリン−フラーレン連結体と単層カーボンナノチューブの複合クラスターの形成が、光電気化学特性の改善に非常に有効であることを明確に示している。
【0043】
なお、従来の光電変換素子材料のIPCE値が0.4%であったことから、FTO/SnO2/(H2P-C60)mを使用したシステムも、光電気化学特性の改善に十分に有効であった。
【0044】
FTO/SnO2/(f-SWNT+H2P-C60)mを使用したシステムのIPCE値が大きく増加した理由を図12及び図13を参照して説明する。
ポルフィリン-フラーレン連結体がクラスター状に連結してなる光電変換素子材料(複合クラスター、(H2P-C60)m)では、ポルフィリン-フラーレン連結体(H2P-C60)が整然と配列する(図12(a)参照)。この結果、(H2P-C60)m)において、ポルフィリン類によって形成されたネットワークによるホールの輸送、フラーレン類により形成されたネットワークによる電子の輸送がそれぞれ効率よく行われる。
また、複合クラスター((H2P-C60)m)が集積して成る集積構造体では、複合クラスター間に単層カーボンナノチューブのクラスター((f-SWNT)m)が跨って付着する(図12(b)参照)。このため、各複合クラスターにおける電荷(ホール及び電子)の輸送に加えて、(f-SWNT)mにより、複合クラスター間の電子移動、電荷輸送が効率よく行われる。
【0045】
図13の(c)は、(a)及び(b)に示すポルフィリン-フラーレン連結体(H2P-C60)及びポルフィリン(TBPP)の蛍光減衰カーブを示している。図13に示すように、TBPPは、励起後、徐々に蛍光強度が減衰したのに対して、H2P-C60は励起後、直ぐに蛍光強度が消失した。このことは、励起により電荷分離した電子とホールが、TBPPでは直ぐに再結合したのに対して、H2P-C60ではポルフィリンからフラーレンへの速やかな電子移動が行われたことを示している。
【0046】
このことから、ポルフィリン-フラーレン連結体から成る複合クラスターを集積した集積構造体を金属酸化物が載置された光透明電極上に形成した有機太陽電池では、光捕集能に優れ、エネルギー変換効率が向上することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) ポルフィリン骨格を有する化合物にフラーレン類を結合させることによりポルフィリン-フラーレン連結体を形成する工程と、
b) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体を有機溶媒に溶解させる工程と、
c) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体が溶解した有機溶媒に貧溶媒を注入することにより、多数の前記ポルフィリン-フラーレン連結体がクラスター状に連結して成る光電変換素子材料を形成する工程と
を備えることを特徴とする光電変換素子材料の製造方法。
【請求項2】
a) ポルフィリン骨格を有する化合物にフラーレン類を結合させることによりポルフィリン-フラーレン連結体を形成する工程と、
b) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体と可溶性の単層カーボンナノチューブとを有機溶媒に溶解させる工程と、
c) 前記ポルフィリン-フラーレン連結体と可溶性の単層カーボンナノチューブとが溶解した有機溶媒に貧溶媒を注入することにより、前記ポルフィリン-フラーレン連結体と前記単層カーボンナノチューブがクラスター状に連結して成る光電変換素子材料を形成する工程と
を備えることを特徴とする光電変換素子材料の製造方法。
【請求項3】
前記可溶性の単層カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブを酸処理することにより形成される両側の開放端に炭素数が4以上の長鎖アルキル基を導入することで得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子材料の製造方法。
【請求項4】
前記ポルフィリン骨格を有する化合部が、一般式(1)
【化1】

(式中、R1〜R20は、それぞれ同一又は異なる、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基又はアルケニル基又はシクロアルキル基又はアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基を表す。)で表される構造を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子材料の製造方法。
【請求項5】
前記ポルフィリン骨格を有する化合物の側鎖部R1〜R20のうちポルフィリンが結合する側鎖部は、フレキシブルな構造を有していることを特徴とする請求項4に記載の光電変換素子材料の製造方法。
【請求項6】
前記ポルフィリン骨格を有する化合物の側鎖部R1〜R20のうちポルフィリンが結合する側鎖部は、アルキル基又はアルコキシ基であることを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子材料の製造方法。
【請求項7】
前記ポルフィリン-フラーレン連結体が、化学式(3)
【化3】

で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光電変換素子材料の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、o-ジクロロベンゼンであり、前記貧溶媒がアセトニトリルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光電変換素子材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によって製造される光電変換素子材料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によって製造される光電変換素子材料が、金属酸化物が載置された光透明電極と対向電極との間に介挿されて成る有機太陽電池。
【請求項11】
前記金属酸化物が酸化スズ又は酸化チタンであることを特徴とする請求項10に記載の有機太陽電池。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によって製造される光電変換素子材料を、金属酸化物が載置された光透明電極と対向電極との間に介挿することを特徴とする有機太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記金属酸化物が酸化スズ又は酸化チタンであることを特徴とする請求項12に記載の有機太陽電池の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によって製造される光電変換素子材料を、電気泳動電着法により、金属酸化物が載置された光透明電極上に堆積させることによって、該金属酸化物上に前記光電変換素子材料が集積化された集積構造体を形成することを特徴とする有機太陽電池の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−40435(P2011−40435A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183653(P2009−183653)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集I」、平成21年3月13日、社団法人日本化学会発行
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】