説明

光電変換素子用電解質組成物及び光電変換素子

【課題】高い短絡光電流密度及び高い光電変換効率を達成し得る光電変換素子用の電解質組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩イオン液体及びと、四級ホスホニウムヨージドからなるレドックス対を含有する光電変換素子用電解質組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四級ホスホニウム塩イオン液体及び四級ホスホニウムヨージドからなるレドックス対を含む光電変換素子用電解質組成物及びそれを用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、グレッツエルらにより提案された色素増感型太陽電池が注目を集めている。この太陽電池は、増感色素を担持させた酸化チタン多孔質電極と対極との間に電解液を介在させた構造を有している。この太陽電池は、材料及び製法等の点から、シリコン系太陽電池に比べて大幅なコストダウンが可能なものである。
【0003】
色素増感型太陽電池では、その電解質として例えば、揮発性がなく、引火性のない物質であるイオン液体、すなわち常温溶融塩が提案されている。例えば本発明者らは先に、色素増感型太陽電池に用いられる電解質として、四級ホスホニウムカチオンを含むイオン液体を提案した(特許文献1参照)。このイオン液体は、トリアルキル(アルコキシアルキル)ホスホニウムカチオンを含むものである。このイオン液体は、化学的及び熱的に安定であり、更にリンを含有することによる難燃性(自己消火性)を有しているという利点を有する。更にこの四級ホスホニウム塩イオン液体は、粘度が低く、イオン導電性が高いという利点も有する。
【0004】
この技術とは別に、アニオン成分としてトリシアノメチドイオンを用いたイオン液体も知られている。例えば特許文献2には、イミダゾリニウム誘導体とトリシアノメチドとからなるイオン液体が提案されている。しかし、このイオン液体は、カチオン成分であるイミダゾリニウム誘導体の構造に起因して粘度を十分に低くすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−70811号公報
【特許文献2】特開2010−171087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来提案されていた色素増感型太陽電池用の電解質組成物よりも各種の性能が一層向上した電解質組成物及びそれを用いた光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の四級ホスホニウムカチオンと特定のアニオンとの組み合わせからなる四級ホスホニウム塩イオン液体は、粘性が著しく低く、イオン導電性が高く、かつ耐熱性・難燃性に富むことから、色素増感型太陽電池の電解質組成物に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩イオン液体、及び
ヨウ化物イオンとポリヨウ化物イオンとからなるレドックス対を含有し、
前記ヨウ化物イオンの供給源として下記一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドを用いたことを特徴とする光電変換素子用電解質組成物を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
また本発明は、前記の電解質組成物を用いた光電変換素子を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光電変換素子用電解質組成物によれば、これを光電変換素子に用いることで、高い短絡光電流密度及び高い光電変換効率を達成し得る光電変換素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の光電変換素子の一実施形態の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の光電変換素子用電解質組成物(以下、単に「電解質組成物」ともいう。)は、その一成分として、前記の一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩イオン液体を含有する。一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩における4つの基のうちの3つは、R1で表される同一のアルキル基であり、残りの一つは−(CH2nO−R2で表されるアルコキシアルキル基である。このような構造の四級ホスホニウム塩は、リンに結合する基がすべてアルキル基である四級ホスホニウム塩に比べて粘度が格段に低くなる。この理由は現時点では完全には解明されていないが、アルコキシ基の電子供与性によりカチオン電荷を弱めていることに起因すると考えられる。また、3つのアルキル基がすべて同じ基であることによって、電気化学的安定性及び耐熱性が向上する。
【0015】
一般式(1)中のR1の具体的なアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらの基のうち、四級ホスホニウム塩イオン液体の粘度が特に低下する観点から、メチル基、エチル基又はn−ブチル基が特に好ましい。
【0016】
一般式(1)中のR2として、メチル基又はエチル基を用いると、四級ホスニウム塩イオン液体の粘度が特に低下する観点から好ましい。また一般式(1)中のnは、上述のとおり1〜6であり、好ましくは1〜3であり、更に好ましくは1又は2であり、最も好ましくは1である。nの値がこの範囲内であると、四級ホスホニウム塩イオン液体の粘度を特に低下させることができ、また電解質組成物に含有される有機化合物の溶解性を一層高めることができる。
【0017】
一般式(1)中の−(CH2nO−R2で表される具体的なアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、2−メトキシエチル基、3−メトキシ−n−プロピル基、4−メトキシ−n−ブチル基、5−メトキシ−n−ペンチル基、6−メトキシ−n−ヘキシル基、エトキシメチル基、2−エトキシエチル基、3−エトキシ−n−プロピル基、4−エトキシ−n−ブチル基、5−エトキシ−n−ペンチル基、6−エトキシ−n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0018】
一般式(1)中のアニオン成分としては、トリシアノメチドイオン、すなわちC(CN)3-が用いられる。このアニオン成分を、上述の四級ホスホニウムカチオン成分と組み合わせることで、意外にも、イオン液体の粘性が極めて低くなることが、本発明者らの検討結果判明した。
【0019】
一般式(1)で表される具体的な四級ホスホニウム塩としては、例えば、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリエチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−プロピル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−プロピル(2−メトキシエチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−ブチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−ブチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−ペンチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−ペンチル(2−メトキシエチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−ヘキシル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチド、トリ−n−ヘキシル(2−メトキシエチル)ホスホニウムトリシアノメチドなどが挙げられる。これらのうち、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチドは、特に粘度が低い観点から好ましい。
【0020】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、室温(25℃)においてイオン伝導性を有する液状体、即ちイオン液体である。この四級ホスホニウム塩イオン液体は、25℃における粘度が好ましくは200mPa・sec以下、更に好ましくは100mPa・sec以下、一層好ましくは50mPa・sec以下である。粘度を200mPa・sec以下とすることで、イオン液体の精製における脱水効率が高まるので好ましい。粘度を100mPa・sec以下とすることで、ヨウ素レドックス対の拡散が高効率化するので好ましい。更に、粘度が50mPa・sec以下であると、イオン導電性が著しく高まり、光電変換効率が高まるので好ましい。四級ホスホニウム塩からなるイオン液体の粘度の下限値に特に制限はなく、低ければ低いほど好ましいが、25℃における粘度が20mPa・sec程度に低ければ、イオン導電性が十分に高くなり、光電変換効率が十分に高まるので好ましい。粘度の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0021】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、四級ホスホニウムハライドとアニオン成分の金属塩とを反応させアニオン交換することにより得ることができる。四級ホスホニウムハライドとは、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩におけるアニオン部分がハロゲンであるものの総称である。
【0022】
四級ホスホニウムハライドがトリアルキル(アルコキシアルキル)ホスホニウムハライドである場合、この化合物は、例えばトリアルキルホスフィンとハロゲン化アルコキシアルキルを反応させて得ることができる。特に、リン原子に結合している3つのアルキル基が同一であるトリアルキルホスフィン(一般式:(Ra3P)と、ハロゲン化アルコキシアルキル(一般式:X−(CH2nO−Rb)とを反応させる方法を採用すると不純物の少ない目的物を得ることができるので好ましい。また、四級ホスホニウムハライドのハロゲンが臭素やヨウ素であると、四級ホスホニウムハライドを再結晶によって精製することができるので好ましい。この観点から、ハロゲン化アルコキシアルキルとして、臭化アルコキシアルキルやヨウ化アルコキシアルキルを用いることが好ましい。なお、四級ホスホニウムハライドにおけるハロゲンが臭素及びヨウ素以外の元素である場合、例えば塩化物等であっても、ヨウ化ナトリウム等を用いることで、塩素をヨウ素又は臭素に置換することができる。
【0023】
四級ホスホニウムハライドがトリアルキル(アルコキシアルキル)ホスホニウムハライドである場合、この化合物を生成させるためには、トリアルキルホスフィンに対してハロゲン化アルコキシアルキルを好ましくは0.5〜2倍モル、更に好ましくは0.9〜1.2倍モル添加する。そして、塩素を含まない不活性溶媒中、例えばトルエン中で、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは30〜100℃で、好ましくは3時間以上、更に好ましくは5〜12時間反応させる。反応雰囲気は酸素が存在しない雰囲気が好ましい。例えば窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気が好ましい。酸素が存在する雰囲気中でトリアルキルホスフィンとハロゲン化アルコキシアルキルを反応させると、トリアルキルホスフィンに酸素が結合したトリアルキルホスフィンオキシドが生成してしまい収率が低下する傾向にある。トリアルキルホスフィンオキシドは適宜有機溶媒で洗浄することで除去できるが、四級ホスホニウムハライドの炭素数の総数が大きくなると四級ホスホニウムハライドも有機溶媒に溶解する傾向があるため除去が困難になる。したがって、トリアルキルホスフィンオキシドを生成させないようにするために、不活性雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
【0024】
アニオン交換によって、四級ホスホニウムハライドへ他のアニオンを導入するために使用するアニオン成分の金属塩としては、例えば前記したアニオン成分であるトリシアノメチドのLi塩などのアルカリ金属塩を使用することができる。アルカリ金属塩を用いると、該塩と四級ホスホニウムハライドとの反応により生じたハロゲン化アルカリを、水洗や吸着剤によって容易に除去できることから好ましい。トリシアノメチドのアルカリ金属塩は、商業的に容易に入手可能な化合物である。
【0025】
水洗に用いる水は超純水や脱イオン水を用いることができる。水洗は不純物含有量が低下するまで適宜繰り返して行うことが好ましい。水洗により除去すべき不純物としては、未反応原料及びアルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。吸着剤の使用によって、アルカリ金属のハロゲン化物を効率よく除去することができる。また、未反応原料や副生物等を除去するために、適宜有機溶媒による洗浄を行うこともできる。洗浄に用いることができる有機溶媒としては、塩素を含まない非極性溶媒、例えばペンタン、ヘキサン又はヘプタンなどを用いることが好ましい。これらの非極性溶媒を用いることで、四級ホスホニウム塩を溶解させることなく、不純物等の非極性有機化合物を効率よく除去することができる。
【0026】
水や有機溶媒で洗浄した四級ホスホニウム塩は、水分や有機溶媒を除去するために精製されることが好ましい。精製法としては、モレキュラーシーブによる脱水及び真空乾燥による脱溶媒等の方法が挙げられる。不純物の混入を防止し、水分と有機溶媒を一度に除去できることから真空乾燥による精製が好ましい。真空乾燥による精製では、乾燥温度が好ましくは70〜120℃、更に好ましくは80〜100℃であり、真空度が好ましくは0.1〜1.0kPa、更に好ましくは0.1〜0.5kPaである。時間は好ましくは2〜8時間程度、更に好ましくは5〜12時間程度である。
【0027】
このようにして得られた一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体は、四級ホスホニウムカチオンの構造及びアニオン成分の構成に由来する低粘性、高いイオン伝導性、適度な溶解性、化学的安定性及び熱的安定性という性質を有することから、光電変換素子の電解質組成物の一成分として好適に使用される。低粘性である場合、拡散や対流が促進されイオン伝導性が著しく向上するだけでなく、冷却による粘度増加度も低いので、低温下でのイオン液体の使用が可能になるという観点から有利である。また、アルコキシアルキル基が導入されているので、有機化合物の溶解性が向上する傾向がある。つまり、アルキル基を短くすることによって分子量を減少させて低粘性のイオン液体を得ることができる一方で、アルキル基が短くなることで有機化合物系の添加物の溶解性が低下するという問題を、アルコキシアルキル基の導入で解決することができる。
【0028】
更に、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩を始めとする有機リン化合物は、難燃性及び自己消火性を発現する。そして、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体は、アルキル基が短く(炭素数1〜6)、分子量が小さいことからリン原子の割合が高く、適度な難燃性及び自己消火性を有する。したがって該イオン液体は、光電変換素子の難燃性電解質として使用することができる。
【0029】
以上の説明から、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体は、粘性が低いためイオン伝導性が高く、その結果高い短絡光電流密度及び光電変換効率が得られ、かつ耐熱性及び難燃性が高いものであることが理解される。したがって該イオン液体は、光電変換素子の電解質組成物として有利に使用できるものであることが明らかである。
【0030】
本発明の電解質組成物は、上述した一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体に加えてレドックス対を含んでいる。レドックス対としては、そのレドックス対の酸化還元電位が励起色素の還元電位と対極の酸化電位との間にあれば特に限定されないが、本発明においては、ヨウ化物イオン(I-)と、I3-、I5-、I7-、Cl2-、ClI2-、Br2-、BrI2-などのポリヨウ化物イオンとからなる含ハロゲン系レドックス対を用いる。電解質組成物中でのレドックス対の濃度(すなわちヨウ化物イオンとポリヨウ化物イオンとの合計の濃度)は、モル濃度で表して好ましくは0.05〜4.0M(「M」は「mol/l」のことである。以下同じ。)、更に好ましくは0.1〜3.0M、一層好ましくは0.5〜2.0Mである。このヨウ素レドックス対は、ヨウ化物イオンに、ヨウ素分子を反応させることによって得ることができる。ヨウ化物イオンに対するヨウ素分子の比は、特に限定されないが、モル比で好ましくは1〜100%であり、更に好ましくは2〜50%であり、一層好ましくは3〜30%である。ヨウ化物イオンの供給源としては、四級ホスホニウムイオンのヨウ化物が用いられる。
【0031】
本発明において、ヨウ化物イオンの供給源として用いられる前記の四級ホスホニウムのヨウ化物は、前記一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドである。
【0032】
一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドにおいて、R3〜R6は、(イ)そのすべてがアルキル基であるか、又は(ロ)R3〜R5がアルキル基であり、R6がアルコキシアルキル基であるかのいずれかであることが好ましい。
【0033】
(イ)の場合、4つのアルキル基は同一のものでよく、あるいは異なるものでもよい。場合によっては、4つのアルキル基のうち、R3とR4とが結合して環を形成していてもよい。4つのアルキル基のうち、R3〜R5までの3つのアルキル基が同一のアルキル基であり、R6がR3〜R5と異なるアルキル基であることも、光電変換効率の一層の向上の点から好ましい。一般式(2)において、R6の炭素数がR3〜R5の炭素数よりも少ない場合の方が、R6の炭素数がR3〜R5の炭素数よりも多い場合よりも、光電変換効率が一層高くなることが判明した。R6の炭素数がR3〜R5の炭素数よりも少ない場合、R6の炭素数とR3〜R5の炭素数との差は、1〜5であることが好ましく、特に2〜4であることが好ましい。R6の炭素数がR3〜R5の炭素数よりも少ない場合の方が、光電変換効率が向上する理由は現時点では完全に解明されていない。本発明者らはこの理由を、一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドの存在によってレッドクス対の酸化還元効率が高まり、電解質組成物中での電荷移動の効率が高まるからではないかと考えている。
【0034】
3〜R5が同じアルキル基であり、かつR6の炭素数がR3〜R5の炭素数よりも少ない場合には、R3〜R5としては例えばエチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、i−へキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらのアルキル基は一価の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基の例としては、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルホキシ基、アルキルスルホニル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシスルホニル基、アリール基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ガルバモイル基、スルホン酸基、スルファモイル基、シクロアルキル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、複素環基、アミノスルホニル基、ハロゲン原子、2−ブトキシエチル基、6−ブロモヘキシル基、2−カルボキシエチル基、3−スルホキシプロピル基、4−スルホキジブチル基、2−ヒドロキシエチル基、フェニルメチル基、4−ブトキシフェニルメチル基などが挙げられる。一方、R6としては、炭素数がR3〜R5よりも少ないことを条件として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基などが挙げられる。R6もR3〜R5と同様の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
(ロ)の場合、アルキル基であるR3〜R5は同一のものでよく、あるいは異なるものでもよい。特に、R3〜R5は同一のものであることが好ましい。R3〜R5としては例えばエチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、i−へキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらのアルキル基は、先に述べた一価の置換基で置換されていてもよい。一方、R6としては、全炭素数が2〜6であることを条件として、メトキシメチル基、メトキシエチル基等が好ましい。
【0036】
前記の(イ)及び(ロ)のいずれの場合であっても、R3とR4とが環を形成している場合、そのような環としては、例えばテトラヒドロホスホール環、ペンタヒドロホスホリン環、9−H−9−ホスファビシクロノナン環等が挙げられる。
【0037】
前記の(イ)及び(ロ)のいずれの場合であっても、四級ホスホニウムヨージドは、比較的短鎖のアルキル基がリン原子に直接結合した構造を有していることに起因して、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩イオン液体とともに光電変換素子用の電解質組成物として用いることで、光電変換効率が従来よりも非常に高くなることが本発明者らの検討の結果判明した。また、一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドを用いることで、これを含む電解質組成物は化学的安定性及び耐熱性が向上することも判明した。この理由は、四級ホスホニウムカチオンは、イミダゾリウムカチオンのような活性水素部位を持たないからであると本発明者らは考えている。更に、一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドは、対応する窒素系カチオン塩に比較して溶媒への溶解性が高く、アニオンの濃度を高めることが容易であるという観点からも有利である。
【0038】
3〜R6の特に好ましい組み合わせとしては、R3〜R5がエチル基で、R6がメチル基;R3〜R5がn−プロピル基で、R6がメチル基;R3〜R5がi−プロピル基で、R6がメチル基;R3〜R5がn−ブチル基で、R6がメチル基;R3〜R5がi−ブチル基で、R6がメチル基;R3〜R5がn−ペンチル基で、R6がメチル基;R3〜R5がシクロペンチル基で、R6がメチル基;R3〜R5がn−ヘキシル基で、R6がメチル基;R3〜R5がシクロヘキシル基で、R6がメチル基;R3〜R5がエチル基で、R6がメトキシメチル基;の組み合わせが挙げられる。とりわけ好ましい組み合わせは、R3〜R5がn−ブチル基で、R6がメチル基の組み合わせ、及びR3〜R5がエチル基で、R6がメトキシメチル基の組み合わせである。
【0039】
一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドの好ましい具体例としては、テトラメチルホスホニウムヨージド、テトラエチルホスホニウムヨージド、トリエチルメチルホスホニウムヨージド、テトラ−n−プロピルホスホニウムヨージド、トリ−n−プロピルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−プロピルエチルホスホニウムヨージド、テトラ−n−ブチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ブチルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ブチルエチルホスホニウムヨージド、トリ−i−ブチルメチルホスホニウムヨージド、テトラ−n−ペンチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ペンチルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ペンチルエチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ペンチル−n−プロピルホスホニウムヨージド、トリシクロペンチルメチルホスホニウムヨージド、テトラ−n−ヘキシルホスホニウムヨージド、トリ−n−ヘキシルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ヘキシルエチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ヘキシル−n−プロピルホスホニウムヨージド、トリ−n−ヘキシル−n−ブチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ヘキシル−i−ブチルホスホニウムヨージド、トリシクロヘキシルメチルホスホニウムヨージド、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムヨージドなどが挙げられる。これらの化合物のうち、トリエチルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−プロピルメチルホスホニウムヨージド、トリ−i−プロピルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ブチルメチルホスホニウムヨージド、トリ−i−ブチルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ペンチルメチルホスホニウムヨージド、トリシクロペンチルメチルホスホニウムヨージド、トリ−n−ヘキシルメチルホスホニウムヨージド、トリシクロヘキシルメチルホスホニウムヨージド、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムヨージド等が特に高い化学的安定性及び耐熱性を発現する観点から好ましい。更にこれらの中で、トリ−n−ブチルメチルホスホニウムヨージド及びトリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムヨージドが、特に優れた光電変換効率を発現するので好ましい。
【0040】
一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドとしては、市販品を用いることができる。そのような市販品としては、日本化学工業株式会社から入手可能な化合物であるヒシコーリン(登録商標)PX−4MI(トリ−n−ブチルメチルホスホニウムヨージド)などが挙げられる。また、一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドは、トリアルキルホスフィンと、アルキルヨージドとの求核反応によって合成することもできる。例えば、トリアルキルホスフィンに対してアルキルヨージドを好ましくは0.5〜2倍モル、更に好ましくは0.9〜1.2倍モル添加し、塩素を含まない不活性溶媒中、例えばトルエン中で、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは30〜100℃で、好ましくは3時間以上、更に好ましくは5〜12時間反応させる。トリアルキルホスフィンは容易に酸化されるので、反応雰囲気は酸素が存在しない雰囲気が好ましい。例えば窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気が好ましい。酸素が存在する雰囲気中でトリアルキルホスフィンとアルキルヨージドを反応させると、トリアルキルホスフィンに酸素が結合したトリアルキルホスフィンオキシドが生成してしまい収率が低下することがある。トリアルキルホスフィンオキシドは適宜有機溶媒で洗浄することで除去できるが、四級ホスホニウムヨージドの炭素数の総数が大きくなると四級ホスホニウムヨージドも有機溶媒に溶解する傾向があるため除去が困難になる。したがって、トリアルキルホスフィンオキシドを生成させないようにするために、不活性雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
【0041】
得られた四級ホスホニウムヨージドは、再結晶により精製することができる。再結晶は、不純物含有量が低下するまで適宜繰り返して行うことが好ましい。再結晶により除去すべき不純物としては、未反応原料及びトリアルキルホスフィンオキシド等が挙げられる。再結晶に用いることができる有機溶媒としては、例えば水、メタノール、アセトン、トルエン、ヘキサンなどを単独で又は組み合わせて用いることが好ましい。
【0042】
再結晶により精製された四級ホスホニウムヨージドは、水分や有機溶媒を除去するために乾燥されることが好ましい。乾燥法としては、不純物の混入を防止し、水分と有機溶媒を一度に除去できることから真空乾燥法が好ましい。真空乾燥法では、乾燥温度が好ましくは70〜120℃、更に好ましくは80〜100℃であり、真空度が好ましくは0.1〜1.0kPa、更に好ましくは0.1〜0.5kPaである。乾燥時間は好ましくは2〜8時間程度、更に好ましくは5〜12時間程度である。
【0043】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体及びヨウ素レドックス対を含有する電解質組成物を、色素増感型太陽電池の電解質層として用いる場合には、必要に応じて、該電解質組成物に4−tert−ブチルピリジン(以下「TBP」という。)、2−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドンなどの有機窒素化合物、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、ヨウ化物、チオシアン酸塩、水などの各種添加物を、光電変換効率を高めるために添加することが好ましい。後述する実施例において例証されるように、添加物としてTBPを用いたり、あるいはTBPと水とを組み合わせて用いたりすると、光電変換効率が一層向上するので好ましい。これらの添加物の添加量に特に制限はないが、電解質組成物中における各添加剤のモル濃度を好ましくは0.01〜4.0M、更に好ましくは0.05〜3.0M、一層好ましくは0.1〜2.0Mとする。
【0044】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体及びヨウ素レドックス対を含有する電解質組成物を備えた光電変換素子としては、光を電気エネルギーに変換する素子及び逆に電気エネルギーを光に変換する素子が包含される。前者の代表的なものとしては、色素増感型太陽電池やフォトダイオード等の発電デバイスが挙げられる。後者の代表的なものとしては、発光ダイオードや半導体レーザ等の発光デバイスが挙げられる。光電変換素子が発電デバイス及び発光デバイスのいずれである場合においても、例えば図1に示すように、光電変換素子10は、半導体層11、半導体層11の一方の面に設けられた色素層12、半導体層11の他方の面に設けられた透明電極層13、色素層12に対向して配された対極14、及び色素層12と対極14との間に配された電解質層15を具備する。色素層12と対極14との間隔、すなわち電解質層15の厚みは一般に50〜500μmとすることができる。電解質層15は、一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体及びヨウ素レドックス対を含有する電解質組成物からなる。図1に示す光電変換素子10を発電デバイスとして用いる場合には、透明電極層13の側から太陽光(可視光)を照射することで、透明電極層13と対極14との間に起電力が生じる。同図に示す光電変換素子10を発光デバイスとして用いる場合には、透明電極層13と対極14との間に電圧を印加することで、半導体層11と色素層12との間で発光が起こる。なお、図1においては、透明電極層13及び対極14に導線が接続されているが、透明電極層13に代えて、半導体層11に導線を接続することもできる。この場合には透明電極層13は必須ではない。
【0045】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体及びヨウ素レドックス対を含有する電解質組成物を用いた光電変換素子10は、発電デバイスの一種である色素増感型太陽電池として特に有用なものである。一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩は、アニオン成分としてトリシアノメチドイオンを含んでいるので、従来の四級ホスホニウム塩イオン液体に比較して粘度が著しく低く、電解質層中でのイオン伝導性を向上させるなどの効果が期待できるので好ましい。また、本発明の電解質組成物を色素増感型太陽電池に用いると、他のイオン液体を用いた場合に比較して、高い短絡光電流密度及び高い開放電圧が得られるので好ましい。
【0046】
一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩からなるイオン液体及びヨウ素レドックス対を含有する電解質組成物を用いた光電変換素子が色素増感型太陽電池である場合、該色素増感型太陽電池の具体的な構成の一例は次のとおりである。すなわち色素増感型太陽電池は、透明電極層、それに塗設されかつ増感色素が担持されたナノポーラス酸化物半導体層、対極、及び透明電極層と対極との間の少なくとも一部に配されたヨウ素レドックス対を含む電解質層から構成される。透明電極側から照射された太陽光(例えば可視光)が酸化物半導体上の色素を励起すると、励起された色素は酸化物半導体の伝導帯に電子を注入する。その結果生じた色素酸化体は、電解質層中の還元体から電子を受容し、基底状態色素に戻り、還元体は酸化体となる。酸化物半導体層に注入された電子は外部回路を経由し、対極で電解質層中の酸化体に電子を供与する。以上のサイクルにより、回路に定常的な光電流が流れる。
【0047】
前記の透明電極層は、光透過率がよく、表面に導電材料からなる層を形成して導電性を有するものであればその種類に特に限定はない。例えばスズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)などの透明な酸化物半導体を単独又は組み合わせて、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などの非導電かつ透明基板上に薄膜として形成されることが好ましい。ナノポーラス酸化物半導体層は、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化二オブ(Nb25)などを単独で又は組み合わせて使用した酸化物半導体微粒子を主成分とする多孔質薄膜である。用いる酸化物半導体微粒子の平均粒径は好ましくは1〜200nm、更に好ましくは3〜100nm、一層好ましくは5〜50nmである。酸化物半導体は一般にn型のものであるが、これに限られずp型のものであってもよい。ナノポーラス酸化物半導体に担持される増感色素は、効率よく太陽光(例えば可視光)を吸収するものであれば特に制限されない。例えばビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体及び鉄錯体などの含金属錯体、ポルフィリン系やフタロシアニン系の含金属錯体、エオシン、ローダミン、メロシアニン、クマリンなどの有機色素などであることが、太陽光照射条件での光励起の観点から好ましい。対極としては、前記の透明電極との間で起電力を生じさせる電極であれば特に限定されず、例えば金、白金、炭素系材料などの導電性材料を、スパッタ法や蒸着法といった真空製膜法、塗布法、塩化白金酸溶液などの含白金溶液を塗布後に熱処理を加える湿式製膜法などの方法によって、電極として基板上に形成したものを用いることが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。特に断らない限り「%」は「重量%」を意味する。
【0049】
〔合成例1〕
トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチドの合成及び物性測定
(1)合成
トリエチルホスフィン25%トルエン溶液(日本化学工業株式会社製 製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−2)236g(0.5mol)に、ブロモメチルメチルエーテル(東京化成工業株式会社製試薬)62g(0.5mol)を滴下し、70〜80℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロミドの結晶を97g得た(収率80%)。このトリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロミド97g(0.4mol)を100gの水に溶かし、ナトリウムトリシアノメチド(Lonza Ltd.製試薬)45g(0.4mol)を加えて反応させた。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、ジクロロメタンで生成物を抽出し、シリカゲルカラムに通して精製してから溶剤留去し、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物の確認を、1H−NMR、13C−NMR、31P−NMRにて行った。生成物(赤褐色透明液体)の収量は51g(収率40%)であり、31P−NMRより純度99%以上であることを確認した。
【0050】
(2)物性測定
25℃における粘度を、回転型粘度計(BROOKFIELD社、DV−II+Pro)
を用いて測定した。測定結果を表1に示す。なお、粘度は測定条件により、±5%程度の誤差が生じる。
【0051】
〔合成例2〕
トリ−n−ブチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチドの合成及び物性測定
(1)合成
トリ−n−ブチルホスフィン25%トルエン溶液(日本化学工業株式会社製 製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−4)405g(0.5mol)に、ブロモメチルメチルエーテル(東京化成工業株式会社試薬)62g(0.5mol)を滴下し、70〜80℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリブチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロミドの結晶を131g得た(収率80%)。このトリブチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロミド131g(0.4mol)を65gの水に溶かし、ナトリウムトリシアノメチド(Lonza Ltd.製試薬)45g(0.4mol)を加えて水系で反応させた。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、ジクロロメタンで生成物を抽出し、シリカゲルカラムに通して精製してから溶剤留去し、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物の確認を、1H−NMR、13C−NMR、31P−NMRにて行った。生成物(赤褐色液体)の収量は67g(収率40%)であり、31P−NMRより純度99%以上であることを確認した。
(2)物性測定
生成物の25℃における粘度を合成例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0052】
〔合成例3〕
トリ−n−ブチル(メトキシエチル)ホスホニウムトリシアノメチドの合成及び物性測定
(1)合成
トリ−n−ブチルホスフィン25%トルエン溶液(日本化学工業株式会社製 製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−4)405g(0.5mol)に、2−ブロモエチルメチルエーテル(アルドリッチ社製試薬)69g(0.5mol)を滴下し、70〜80℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリブチル(メトキシエチル)ホスホニウムブロミドの結晶を136g得た(収率80%)。このトリブチル(メトキシエチル)ホスホニウムブロミド136g(0.4mol)を68gの水に溶かし、ナトリウムトリシアノメチド(Lonza Ltd.製試薬)45g(0.4mol)を加えて水系で反応させた。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、ジクロロメタンで生成物を抽出し、シリカゲルカラムに通して精製してから溶剤留去し、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物の確認を、1H−NMR、13C−NMR、31P−NMRにて行った。生成物(赤褐色液体)の収量は70g(収率40%)であり、31P−NMRより純度99%以上であることを確認した。
(2)物性測定
生成物の25℃における粘度を合成例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0053】
〔合成例4(比較)〕
トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成及び物性測定
(1)合成
トリエチルホスフィン25%トルエン溶液(日本化学工業株式会社製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−2)236g(0.5mol)に、ブロモメチルメチルエーテル(東京化成工業株式会社試薬)62g(0.5mol)を滴下し、70〜80℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロミドの結晶を97g得た(収率80%)。このトリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロミド97g(0.4mol)を50gの水に溶かし、リチウムビス(フルオロメチルスルホニル)イミド(三菱マテリアル株式会社試薬)75g(0.4mol)を加えて水系で反応させた。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、下層(生成物)を分離した。分離した生成物に対して純水洗浄を4回行い、続いてヘキサン洗浄を4回行った。洗浄終了後、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物の確認を、1H−NMR、13C−NMR、31P−NMR、19F−NMRにて行った。生成物(無色透明液体)の収量は130g(収率76%)であり、31P−NMRより純度99%以上であることを確認した。
(2)物性測定
生成物の25℃における粘度を合成例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0054】
〔合成例5(比較)〕
トリエチル(メトキシメチル)アンモニウムトリシアノメチドの合成及び物性測定
(1)合成
トリエチルアミン(関東化学株式会社試薬)51g(0.5mol)に、ブロモメチルメチルエーテル(東京化成工業株式会社試薬)62g(0.5mol)を滴下し、70〜80℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリエチル(メトキシメチル)アンモニウムブロミドの結晶を81g得た(収率76%)。このトリエチル(メトキシメチル)アンモニウムブロミド81g(0.4mol)を40gの水に溶かし、ナトリウムトリシアノメチド(Lonza Ltd.製試薬)45g(0.4mol)を加えて水系で反応させた。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、ジクロロメタンで生成物を抽出し、シリカゲルカラムに通して精製してから溶剤留去し、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物の確認を、1H−NMR、13C−NMR、15N−NMRにて行った。生成物(淡黄色透明液体)の収量は42g(収率38%)であり、1H−NMRより純度99%以上であることを確認した。
(2)物性測定
生成物の25℃における粘度を合成例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0055】
〔合成例6(比較)〕
トリエチルペンチルホスホニウムトリシアノメチドの合成及び物性測定
(1)合成
トリエチルホスフィン25%トルエン溶液(日本化学工業株式会社製品名:ヒシコーリン(登録商標)P−2)236g(0.5mol)に、1−ブロモペンタン(東京化成工業株式会社試薬)77g(0.5mol)を滴下し、70〜80℃で6時間反応させた。反応終了後ヘキサンを加えて晶析させ、トリエチルペンチルホスホニウムブロミドの結晶を113g得た(収率84%)。このトリエチルペンチルホスホニウムブロミド81g(0.3mol)を40gの水に溶かし、ナトリウムトリシアノメチド(Lonza Ltd.製試薬)34g(0.3mol)を加えて水系で反応させた。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、ジクロロメタンで生成物を抽出し、シリカゲルカラムに通して精製してから溶剤留去し、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物の確認を、1H−NMR、13C−NMR、31P−NMRにて行った。生成物(赤褐色液体)の収量は38g(収率45%)であり、31P−NMRより純度99%以上であることを確認した。
(2)物性測定
生成物の25℃における粘度を合成例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0056】
〔合成例7(比較)〕
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメチドの合成及び物性測定
(1)合成
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(東京化成工業株式会社試薬)25g(0.13mol)を12gの水に溶かし、ナトリウムトリシアノメチド(Lonza Ltd.製試薬)15g(0.13mol)を加えて水系で反応させた。次いで室温で3時間攪拌して熟成させた。攪拌終了後、ジクロロメタンで生成物を抽出し、シリカゲルカラムに通して精製してから溶剤留去し、100℃、真空度0.5kPaにて5時間真空乾燥した。このようにして得られた生成物の確認を、1H−NMR、13C−NMR、15N−NMRにて行った。生成物(赤褐色透明液体)の収量は9.2g(収率35%)であり、1H−NMRより純度99%以上であることを確認した。
(2)物性測定
生成物の25℃における粘度を合成例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
〔実施例1ないし3並びに比較例1ないし5〕
表2に示すように、各合成例で得られた化合物からなるイオン液体に対して、同表に示すヨウ素レドックス対を、同表に示すモル濃度になるように添加・溶解した。更に同表に示す添加剤を、同表に示すモル濃度になるように添加・溶解した。このようにして、電解質組成物を調製した。
【0059】
【表2】

【0060】
得られた電解質組成物を用い、色素増感型太陽電池を以下の手順で作製し、その評価を以下の方法で行った。その結果を表3に示す。
【0061】
光アノードとして、酸化チタンナノ粒子(Solaronix D)を、膜厚が8milとなるようにドクターブレードによって塗布したフッ素添加酸化スズ透明電極(FTO;旭硝子株式会社製、10.8Ωcm-2)を、450℃で30分間焼成したものを用いた。この光アノードを、0.3mMのN719色素エタノール溶液中に40℃で5時間浸漬させ、色素を担持させた。色素を担持させた光アノードと白金担持対極とを挟んでセルを組み(間隔:100μm)、両者の間に実施例及び比較例で得られた電解質組成物を充填した。光アノードの作用面積は0.25cm2であり、それ以外の面をマスクした。それ以外は常法に従い色素増感型太陽電池を作製した。このようにして得られた色素増感型太陽電池について、光電流−起電圧特性を、ケイスレー2400型高圧電源及び500Wキセノンランプを装備したAM1.5ソーラーシミュレータ(ペクセルPEC−L10N)を用いて測定した。光強度は、NDフィルターを用いて調整した(100mWcm-2)。すべての測定は、常温常圧の条件で行った。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示す結果から明らかなように、各実施例の電解質組成物を用いた太陽電池は、各比較例の電解質組成物を用いた太陽電池に比べて、高い短絡光電流密度及び高い光電変換効率を示すことが判る。特に、イオン液体:トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリシアノメチド、レドックス対:トリ−n−ブチルメチルホスホニウムヨージドを組み合わせて用いた場合、光電変換効率が非常に高くなることが判る。
【符号の説明】
【0064】
10 光電変換素子
11 半導体層
12 色素層
13 透明電極層
14 対極
15 電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される四級ホスホニウム塩イオン液体、及び
ヨウ化物イオンとポリヨウ化物イオンとからなるレドックス対を含有し、
前記ヨウ化物イオンの供給源として下記一般式(2)で表される四級ホスホニウムヨージドを用いたことを特徴とする光電変換素子用電解質組成物。
【化1】

【化2】

【請求項2】
一般式(1)において、R1がエチル基又はn−ブチル基であり、nが1である請求項1に記載の光電変換素子用電解質組成物。
【請求項3】
前記レドックス対を0.05〜4.0M含む請求項1又は2に記載の光電変換素子用電解質組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光電変換素子用電解質組成物を用いた光電変換素子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−129089(P2012−129089A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280319(P2010−280319)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】