光電変換素子
【課題】DSCが外付の電解液貯蔵部などによって嵩張ること無く、DSCを設置する際の省スペース化が図れ、セルの設置方向の影響を受けることなく、気泡を発電エリアから効果的に排除することができる構造を有することにより、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は光電変換素子1に関し、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層13を有して構成され、窓極として機能する第一電極10と、前記第一電極と対向して配される第二電極20と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液30を備え、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部23が備えられている。本発明によれば、気泡を発電エリアから効果的に排除することができるので、発電特性を向上させた長期耐久性を備える光電変換素子を提供することが可能となる。
【解決手段】本発明は光電変換素子1に関し、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層13を有して構成され、窓極として機能する第一電極10と、前記第一電極と対向して配される第二電極20と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液30を備え、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部23が備えられている。本発明によれば、気泡を発電エリアから効果的に排除することができるので、発電特性を向上させた長期耐久性を備える光電変換素子を提供することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型の光電変換素子に関する。具体的には、長期耐久性や高温耐久性など、寿命を向上させた光電変換素子に関する。
本願は、2006年12月11日に、日本に出願された特願2006−333414号、および、2006年12月11日に、日本に出願された特願2006−333415号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、資源問題などを背景に、クリーンエネルギーとしての太陽電池が注目を集めている。代表的な太陽電池としては、単結晶、多結晶あるいはアモルファスのシリコンを用いたものが挙げられる。しかし、従来のシリコン系太陽電池は減圧(真空)プロセスを要することから製造コストが高く、その原料供給が不安定などの理由から、太陽電池の安価な提供が難しく、広く普及させるためには多くの課題が残されている。
【0003】
また、Cu−In−Se系(CIS系とも呼ぶ)などの化合物系太陽電池が開発されており、極めて高い光電変換効率を示すなど優れた特徴を有しているが、コストや環境負荷などの問題があり、やはり大幅普及への障害となっている。
【0004】
これに対して、色素増感型太陽電池[以下、DSC(Dye-Sensitized Solar Cell) と略記する。]は、スイスのグレッツェルらのグループなどから提案されたものであり、その製造に際して減圧(真空)プロセスをほとんど必要としないことから、安価でかつ優れた光電変換効率を得られる光電変換素子として注目されている(非特許文献1を参照)。
一般に、DSC を始めとする湿式太陽電池は、光を入射させる透明な窓極と導電ガラス基板からなる対極との間に電解液を挟んだ構造を有している。
図27は、従来の湿式太陽電池の構造の一例を示す概略断面図である。
このDSC200は、増感色素を担持させた多孔質半導体電極(以下、色素増感半導体電極とも呼ぶ)203が一方の面に形成された第一基材201と、触媒膜205が形成された導電性の第二基材204と、これらの間に封入された例えばゲル状電解質からなる電解質層206を主な構成要素としている。
【0005】
第一基材201としては、例えば、光透過性の板材が用いられ、第一基材201の色素増感半導体電極203と接する面には、導電性を持たせるために透明導電膜202が配置されており、第一基材201、透明導電膜202及び色素増感半導体電極203により窓極(作用極とも呼ぶ)208を構成している。
一方、第二基材204としては、電解質層206と接する側の面には電解質層との間で電荷をやり取りするため、例えば、炭素や白金からなる触媒層205が設けられ、第二基材204及び触媒層205により対極209を構成している。
これら第一基材201と第二基材204は、色素増感半導体電極203と触媒層205が対向するように所定の間隔をおいて配置し、両基板間の周辺部に封止材207を設ける。そして、この封止材207を介して2つの基板201、204を貼り合わせてセルを積み上げ、電解液の注入口210を通して、両極208、209間にヨウ素・ヨウ化物イオンなどの酸化・還元対を含む有機電解液を充填し、電荷移送用の電解質206を形成している。
【0006】
このようなDSCは、電解液の漏洩や揮発を防ぐため、封止を行なって使用している。
DSCの封止技術としては、大別すると以下のような2種類が挙げられる。
一つは、封止材料に樹脂を使用し、窓極と対極間の周辺部に熱可塑性樹脂からなる封止材を配し、この封止材を介して両極を貼り合わせて硬化し、その後電解液を注入する方法である(例えば、非特許文献2、非特許文献4を参照)。
もう一つは、封止材料にガラスを使用し、窓極と対極間の周辺部に低融点ガラスからなる封止材を配し、この封止材を介して両極を貼り合わせて過熱溶融し、その後電解液を注入する方法である(例えば、非特許文献3、非特許文献4を参照)。
【0007】
このような封止技術では、封止材料が樹脂の場合、作業性の面で、常温もしくは色素の分解温度である140℃以下で封止できるため、工程が簡単になり、特に、ホットメルト樹脂やUV硬化樹脂を使用する場合は、製造速度に優れる、という長所をもつ反面、耐久性に劣るという短所があった。一方、封止材料がガラスの場合、作業性の面において、ガラス溶融に450℃以上の温度が必要となるため、樹脂を用いた場合と比較して製造速度が遅く、また、ピンホールやクラックなどが入りやすく歩留まりが悪いという短所がある反面、耐久性に優れるという長所がある。
【0008】
ところで、DSCは、高温下で長期にわたり使用すると電解液の漏洩や揮発、あるいはセル内の圧力変化などで、気泡が発生する傾向にある。この気泡はセルの封止部の近傍に限らず、あらゆる場所で発生する傾向にある。この気泡の生じた部分は、電荷の移動が正常に行なわれず発電特性が劣化するばかりでなく、増感色素の分解なども起こるため、セル故障の原因となる。
【0009】
そこで、上記のような問題を解決し、耐久性を向上させる方法の一つとして、樹脂による封止を行なう手段が提案されている(特許文献1を参照)。樹脂は一般にガス透過率が高いため、電解液が樹脂内や、界面を経由して徐々に漏洩する。この提案では、DSCの外側上部に、電解液の補充行うために電解液貯蔵部が設けられている。これにより、漏洩した分量に応じた電解液を前記電解液貯蔵部より再注入しながら使用することによって、寿命を延ばすことができる太陽電池が提案可能である。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の手段のように、DSCの外側に電解液貯蔵部を配置した構造では、DSCが大きくなって嵩張るものとなるため、DSCを設置して利用する際に余分なスペースを要することとなり、扱いづらいものとなってしまう。しかも、DSCの上部に配置した電解液貯蔵部から重力を利用して電解液を供給する方式であることから、DSCは、電解液貯蔵部の配置位置との関係でその設置方向が制限されるものとなるとともに、セル中央付近に生じた小サイズの気泡を効果的に排出することが極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−280085号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】O’ Regan B, Gratzel M. A low cost, high-efficiency solar cell based on dye-sensitized colloidal TiO2 films, Nature 1991;353:737-739
【非特許文献2】M.Spaeth re al., Prog. Photovolt: Res. Appl. 2003; 11: 2007-220
【非特許文献3】R.Sastrawan re al., Sol. Ener. Mat. Sol. Cells 2006;90,11,1680
【非特許文献4】特許庁:標準技術集、色素増感太陽電池、http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/solar_cell/01_mokuji.htm、6-B−6-C章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、DSCが外付の電解液貯蔵部などによって嵩張ること無く、DSCを設置する際の省スペース化が図れ、セルの設置方向の影響を受けることなく、気泡を発電エリアから効果的に排除することができる構造を有することにより、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に記載の光電変換素子は、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、該集電配線の周囲に、前記液溜り部が設けられ、前記第二電極が導電性の基材を有し、前記液溜り部は、前記第二電極の前記基材に設けられた凹部であることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の光電変換素子は、請求項1において、前記凹部が、前記集電配線の上部に対応する位置に形成されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光電変換素子は、請求項1又は2において、少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光電変換素子は、請求項1〜3の何れか一項において、前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の光電変換素子は、請求項1〜4の何れか一項において、前記集電配線が保護層によって被覆されていることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の光電変換素子は、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、前記液溜り部が、前記集電配線の周囲に且つ前記集電配線と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の光電変換素子は、請求項6において、少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の光電変換素子は、請求項6又は7において、前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の光電変換素子は、請求項6〜8の何れか一項において、前記集電配線が保護層によって被覆されており、前記液溜り部が、前記保護層と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の湿式太陽電池は、第一電極と第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられた構成をしている。ゆえに、電解液を補充する液溜り部がDSCに内在し、発電エリアに気泡が混入又は発生した場合、気泡の浮力よりも駆動力が大きい気泡の表面張力を利用して気泡を効果的に誘導し、前記発電エリアから前記液溜り部へ気泡を排出して、前記液溜り部内の電解液を前記発電エリアに供給することが可能となる。
したがって、DSCが外付の電解液貯蔵部などによって嵩張ること無く、DSCを設置する際の省スペース化が図れ、セルの設置方向の影響を受けることなく、気泡を発電エリアから効果的に排除することができる構造を有する湿式太陽電池が得られる。ゆえに、本発明によれば、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた湿式太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る湿式太陽電池の一例(第一構造)を示す断面図である。
【図2】図1の湿式太陽電池を構成する第一電極(作用極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図3】図2の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図4】図3の次工程(第三工程)を示す断面図である。
【図5】図4の次工程(第四工程)を示す断面図である。
【図6】図1の湿式太陽電池を構成する第二電極(対極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図7】図6の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図8】図7の次工程(第三工程)を示す断面図である。
【図9】図8の次工程(第四工程)を示す断面図である。
【図10】図9の次工程(第五工程)を示す断面図である。
【図11】図10の次工程(第六工程)を示す断面図である。
【図12】図1の湿式太陽電池を作製する工程を示す断面図である。
【図13】本発明に係る湿式太陽電池の他の一例(第二構造)を示す断面図である。
【図14】図13の湿式太陽電池を構成する第二電極(対極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図15】図14の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図16】図13の湿式太陽電池を作製する工程を示す断面図である。
【図17】本発明に係る湿式太陽電池の他の一例(第三構造)を示す断面図である。
【図18】図17の湿式太陽電池を構成する第二電極(対極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図19】図18の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図20】図19の次工程(第三工程)を示す断面図である。
【図21】図17の湿式太陽電池を作製する工程を示す断面図である。
【図22】本発明に係る光電変換素子の他の一例(第四構造)を示す概略断面図である。
【図23】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図24】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図25】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図26】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図27】従来の湿式太陽電池の構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明に係る光電変換素子の実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は上述した作用と効果を満たす構成であればよく、これらの実施形態に限定されるものではない。
なお、以下に示す図面は、本発明を理解しやすく説明するため必ずしも縮尺は正確には描かれていない。
まず、本発明に係る光電変換素子(湿式太陽電池)は、例えば、図1に一つの構成例を示すように、基本的に、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層(酸化物電極とも呼ぶ)13を有して構成され、窓極(作用極とも呼ぶ)として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極20、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子1は、前記第一電極10と前記第二電極間20の少なくとも一部には、電解液30の液溜り部23が内在するように備えられている構成をしている。この基本的な構成については、図13、図17に示した構成例においても満足している。
【0018】
第一電極は、例えば第一基材と、その上に順に配される透明導電膜、および多孔質酸化物半導体層からなる。第一電極は、光透過性の材料からなる第一基材の表面に、導電材料からなる透明導電膜(層)を形成することにより電気を通す導電性を有し、この透明導電膜を介して多孔質酸化物半導体層が形成されている。
【0019】
第一電極の一部である第一基材は、電解質を収容するセルをなす一方の電極として働くとともに、筐体を構成する蓋体としての役割も果たす。
第一電極を構成する第一基材は、太陽光を透過する光学特性を備えた部材が好適に用いられる。この第一基材としては、ガラス板を使用するのが一般的であるが、特に制限されない。ガラス板以外にも、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチック、酸化チタン、アルミナなどセラミックスの研磨板などを用いることができる。
また、第一基材は、後に導電膜を形成した基板上に色素担持用の多孔質半導体として二酸化チタン(TiO2)を焼き付ける場合は、500℃程度の高熱に耐える導電性耐熱ガラスが望ましい。
【0020】
第一基材の表面には、やはり光を透過し、電気も通す透明導電膜が形成されている。導電性を備えた透明な薄膜(透明導電膜という)としては、例えば酸化インジウムに数%のスズを添加してなる薄膜、インジウム・スズ・酸化物(Indium-Tin-Oxide:ITO)膜、酸化スズに数%のフッ素を添加してなる薄膜、フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine-doped-Tin-Oxide:FTO)膜などが挙げられる。このような透明導電膜を、例えば50〜2000nm程度の厚さに形成して用いる。
上記ITO膜では、3価のインジウム(In3+)席に置換した4価のスズ(Sn4+)がキャリア電子を発生するため、ITO膜は電気をよく通す性質を備えている。また、ITO膜は、エネルギー・ギャップが紫外線領域に対応するため可視光をほとんど吸収しないので、太陽光を構成する可視光スペクトルの大部分を透過させる能力も備えている。
【0021】
この透明導電膜は、減圧雰囲気を使用する真空成膜法、例えばスパッタ法や蒸着法等に代表される公知の方法によって形成されている。このような方法から、透明導電膜を形成する材料などに応じて適切な方法を用いることにより、透明性に優れ、かつ高い導電性を備えた膜が得られる。
【0022】
透明導電膜の上には、多孔質酸化物半導体層が設けられる。多孔質酸化物半導体層は、多孔質半導体に色素を担持させたものである。多孔質酸化物半導体層の素材、形成方法などについて特に限定はされず、通常、太陽電池用の多孔質半導体を形成するのに用いられるものであればどのようなものも用いることができる。このような半導体としては、例えば、TiO2、SnO2、WO3、ZnO、Nb2O5、In2O3、ZrO2、Y2O3、 Al2O3などを用いることができる。
多孔質膜を形成する方法としては、例えば、微粒子の泳動電着、ペーストを塗布して焼結する方法などを例示できるが、これらに限定されるものではない。この多孔質酸化物半導体層13の粒子表面には、増感色素が吸着している。
【0023】
光電変換素子においては、変換効率を向上させるために、吸収波長の広い色素を用いて波長400nm〜900nmの紫外領域より長波長領域をなす可視領域の光を、紫外領域の光と同程度あるいはそれ以上に吸収するようにする。
このような増感色素としては、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニン等の含金属錯体をはじめ、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができ、これらの中から用途、使用半導体に適した励起挙動をとるものを適宜選択すれば良い。
上記の増感色素は、前記多孔質酸化物半導体層の微粒子半導体表面に吸着させて担持させる。
【0024】
一方、第二電極は、例えば、第二基材とその上に形成された導電性多孔質や、第二基材と網目状導電体、全面に穴もしくは溝が形成された第二基材とその表面に設けられた対極触媒層などからそれぞれ構成される。
【0025】
液溜り部は、例えば、第二電極の導電性多孔質の所定の位置に形成された凹部からなるもの(第一構造)や、第二電極の網目状の導電層間に形成される空隙であるもの(第二構造)、第二電極に形成された凹部からなるもの(第三構造)、第一電極の集電配線の周囲に配され、第二電極の第二基材に設けられた凹部からなるもの(第四構造)とに大別することができる。
【0026】
そして、第一電極と第二電極との間には電解液を注入する。電解液を構成する材料としては、例えば、電解質成分として、ヨウ素・ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジン等がエチレンカーボネートやメトキシアセトニトリル等の有機溶媒に溶解されてなる液状の電解質等が挙げられる。
【0027】
以上ように構成した光電変換素子は、第一電極と第二電極間に液溜り部が備えられ、液溜り部がDSCに内在する構造となる。
したがって、DSCが外付の電解液貯蔵部などによって嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして、第一電極と第二電極間に混入した気泡を発電エリアから効果的に排出することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0028】
<第一実施形態>
本発明に係る光電変換素子の一例について、図1から図12に基づき説明する。
図1は、本発明に係る光電変換素子の一例(第一構造)を示す概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る光電変換素子1は、増感色素を表面に担持させた多孔質酸化物半導体層13を有して構成され、窓極として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極20、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子1は、導電性多孔質24の所定の位置に、凹部からなる液溜り部23が備えられている構成をしている。
【0029】
第一電極10は、第一基材11としてのガラス板の表面に、透明導電膜12としてFTO導電膜を成膜したもので、さらに、この透明導電膜12を介して多孔質酸化物半導体層13が設けられる。多孔質酸化物半導体層13は、多孔質半導体に色素を担持させたものである。
【0030】
一方、第二電極20は、例えば緻密な第二基材21と、その上に形成された導電性多孔質24からできている。
第二電極20を構成する第二基材21は、特に光透過性をもつ必要はないことから金属板を用いることもできるし、第一基材11と同様のものを用いても構わない。この第二基材21としては、ガラス板を使用するのが一般的であるが、ガラス板以外にも、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチックフィルムシート、酸化チタン、アルミナなどセラミックスの研磨板などを用いることができる。そして、第二基材21上に、導電膜22を形成する。
【0031】
導電膜22は、第一電極10との間で起電力を生じさせる電極であり、第二基材21に導電性を付与するために、その一方の面に形成された、例えば、金属薄膜を用いることができる。
導電膜22の形成方法に関しては、例えば、蒸着法やスパッタ法が好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
【0032】
導電性多孔質24は、多孔質の少なくとも表面近傍に対極触媒が形成された構造とする。この対極触媒は、外部へ導電パスを介して接続されるように設計する。また、対極触媒を形成する場合、電解液30が対極触媒層を経由して第一電極(酸化チタン電極)10側から多孔質側へ移動する必要があるため、緻密にならないように成膜する。
導電性多孔質24は、少なくともセル全体に注入した電解液量の5vol%相当の空隙を含むように設計する。電解液が大量に漏洩すると、成分の揮発性の差から電解液組成が大きく変化してしまい、再注入しても元の特性より低下してしまうため、空隙は最大でも20vol%程度で十分である。
【0033】
導電性多孔質24の表面(第一電極側の面)に生じる多孔穴の大きさは、対極触媒層から第一電極10までの距離を担保するため、φ1000μm未満が望ましい。また、発電域での導電性多孔質24の表面荒さもまた、対極触媒層から第一電極10までの距離を担保するため、500μm未満が望ましい。
【0034】
さらに、導電性多孔質24の表面(第一電極側の面)に生じる多孔穴の大きさは、φ50μmと、第一電極10と第二電極20との平均距離のどちらか小さい方より大きい方が望ましい。これ以下の場合、気泡が透過しにくくなる。
【0035】
気泡を効果的に誘導するためには、導電性多孔質24の表面近傍より、第二電極20内部の多孔度(孔径)を大きくすると良い。また、第二電極20内部は多孔質ではなく、単純な空隙でも良い。
【0036】
また、導電性多孔質24の表面近傍の多孔穴の大きさがφ50μmを超える場合には、電解液30移動のため、気泡の移動を阻害したりしない方法で、導電性多孔質24の表面にキャピラリー構造部25を設けて、第一電極10の多孔質酸化物半導体層13上の少なくとも一部にキャピラリー構造部25を有する構成にすると良い。
キャピラリー構造部25は、第一電極10に接している必要がある。キャピラリー構造部25としては、親水処理を施した樹脂やガラス、セラミックなどの酸化物、チタン、ニオブなどの耐薬品性の高い金属などによって作られた極細線束、メッシュ、多孔体などが考えられる。このキャピラリー構造部25を有することにより、電解液30を保持することができる。
また、導電性多孔質24には、液溜り部23となる凹が形成されている。
【0037】
そして、第一電極10と第二電極20との間には電解液30を注入する。電解液30を構成する材料としては、例えば、電解質成分として、ヨウ素・ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジン等がエチレンカーボネートやメトキシアセトニトリル等の有機溶媒に溶解されてなる液状の電解質等が挙げられる。なお、電解液30は、導電性多孔質24、多孔質酸化物半導体層13、キャピラリー構造部25の内部にも存在する。
【0038】
以上ように構成した光電変換素子1は、第二電極20の導電性多孔質24の少なくとも一部に、凹部からなる液溜り部23が備えられた構造となる。
したがって、光電変換素子1が嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、第一電極10と第二電極20間に混入した気泡を、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして発電エリアから効果的に排出するので、この凹部に気泡が入ることで発電エリアに発生した気泡を容易に排除することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0039】
次に、本発明に係る光電変換素子(第一構造)1の製造方法の一例について説明する。
図2から図5は、本光電変換素子において窓極として機能する第一電極10を作製する工程を順次示す図であり、図6から図11は、本光電変換素子において対極として機能する第二電極20を作製する工程を順次示す図である。そして、図12は、前記第一電極10と前記第二電極20とを積層して接合することで、本発明に係る光電変換素子1を製造する工程を示す概略断面図である。
【0040】
まず、第一電極10の作製方法について説明する。
図2に示すように、第一基材11を準備し、この第1の基材11の一方の面の上に透明導電膜12を設ける。
第一基材11は、通常用いられているガラス板でも差し支えないが、経済的で、軽量なモジュールを得ることができるプラスチックを用いても良い。
また、透明導電膜12の形成方法としては、透明導電膜12の材料に応じて公知の方法を用いて行えば良く、例えば、スパッタ法やCVD法(気相成長法)、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法などにより、フッ素添加スズ(FTO)などの酸化物半導体からなる薄膜を形成する。この薄膜は、厚過ぎると光透過性が劣り、一方、薄過ぎると導電性が劣ってしまうため、光透過性と導電性の両方を考慮して、0.1μm〜1μm程度の膜厚に形成する。
引き続き、この成膜された薄膜の上に、レジストをスクリーン印刷法などにより形成した後、レジストをエッチングして透明導電膜12の表面上に、所定のパターンの透明導電膜12を作成する。これにより、窓側電極用の導電性基板が構成される。
【0041】
次いで、図3及び図4に示すように、窓側電極用の導電性基板における透明導電膜12上に、第一多孔質酸化物半導体層13Aと第二多孔質酸化物半導体層13Bからなる多孔質酸化物半導体層13を形成する。多孔質酸化物半導体層13の形成方法としては、例えば、二酸化チタン(TiO2)の粉末を分散媒と混ぜてペーストを調整し、これをスクリーン印刷法やインクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法などにより透明導電膜12上に塗布し、焼成する。そして、この多孔質酸化物半導体層13は、5μm〜30μm程度に形成する。
【0042】
そして、図5に示すように、多孔質酸化物半導体層13の粒子間に、増感色素14を担持させることで、窓極として機能する第一電極10を構成する。増感色素14の担持は、例えば、多孔質酸化物半導体層13が形成された導電性基板を色素液に浸漬することで成し得ることができる。
【0043】
次に、第二電極20の作製方法について説明する。
まず、図6に示すように、プラスチックやガラス等からなる第2の基材21を準備し、この第2の基材21の一面に導電層22を設ける。導電層22の形成方法としては、第一基材11の場合と同様に、導電層22の材料に応じて公知の方法を用いて行えば良く、例えば、スパッタ法やCVD法(気相成長法)、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法などにより、フッ素添加スズ(FTO)などの酸化物半導体からなる薄膜を形成する。
この導電層22は、厚過ぎると光透過性が劣り、一方、薄過ぎると導電性が劣ってしまうこととなるため、光透過性と導電性の両方を考慮して、0.01μm〜1μm程度の膜厚が好ましい。
引き続き、この成膜された導電層22の上に、レジストをスクリーン印刷法などにより形成した後、レジストをエッチングして所望の形状をしたユニットセルパターンを作成する。
これにより、対極用の導電性基板が構成される。
【0044】
次いで、図7に示すように、対極用の導電性基板に、電解液30を注入するための電解液注入孔26を形成する。電解液注入孔26は、例えば、ドリル等でセル部分に達するように設ける。
【0045】
次に、図8に示すように、対極用の導電性基板上に、空隙の型となる液溜り部形成樹脂27をパターニングする。液溜り部形成樹脂27としては、例えば、ポリオレフィン樹脂インクを用いることができ、スクリーン印刷法などにより形成できる。この液溜り部形成樹脂27の大きさは、幅0.5mm〜5mm、厚さ0.2mm〜2mm程度とする。また、形成樹脂27の形状は、線状でも点状に形成してもよい。
【0046】
引き続き、図9に示すように、液溜り部形成樹脂27が完全に埋まるように、表面にSPD法でFTO膜を形成したガラスマイクロビーズに少量の無機接着剤を加えた導電性多孔質ペースト24aを塗布し、硬化する。
【0047】
さらに、図10に示すように、その後、500℃で焼成して液溜り部形成樹脂27を除去し、導電性多孔質24の所定の位置に液溜り部形成凹部28を形成する。
次いで、図11に示すように、前記導電性多孔質24の表面に、例えば、400nmの酸化チタン粒子によるペーストを格子状にパターニングし、焼成してキャピラリー構造部25を形成する。
そして、導電性多孔質24の表面に、対極触媒として白金をスパッタ成膜することで、対極として機能する第二電極20を構成する。
【0048】
次に、図12に示すように、図5に示した第一電極10用の導電性基板と図11に示した第二電極20用の導電性基板とを、第一電極10に設けた多孔質酸化物半導体層13と第二電極20に設けた導電性多孔質24とが向かい合うように配置し、第一電極10に第二電極20を重ね合わせ、その周囲を、例えば、UV硬化接着剤(不図示)で封止する。
【0049】
その後、前記第二電極20に設けた電解液注入孔26より第一電極10と第二電極20との間に電解液30を注入し、例えばUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて前記電解液注入孔26を封止し、図1に示すような光電変換素子1とする。
【0050】
以上のような構成により、第一電極10と第二電極20間に配された導電性多孔質24の少なくとも一部に、凹部からなる電解液30の液溜り部23が備えられた構造の光電変換素子を製造することができる。
【0051】
<第二実施形態>
次に、本発明に係る光電変換素子の他の例について、図13から図16に基づき説明する。
図13は、本発明に係る光電変換素子の他の例(第二構造)を示す概略断面図である。
図13に示すように、本実施形態に係る光電変換素子(湿式太陽電池)41は、増感色素を表面に担持させた多孔質酸化物半導体層(酸化物電極とも呼ぶ)13を有して構成され、窓極(作用極とも呼ぶ)として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極50、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子41は、網目状導電体52の導電層間に形成された空隙からなる液溜り部53が備えられている構成をしている。
なお、本実施形態において、図1に示した第一実施形態の光電変換素子の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0052】
第二電極50は、例えば緻密な第二基材51と、表面に白金などの金属からなる対極触媒を担持した網目状導電体52から構成されている。
第二電極50を構成する第二基材51は、特に光透過性をもつ必要はないことから、その材料に制限は無い。第二基材51として、例えば、第一基材11と同様にガラス板やプラスチック板を用いても良いし、外部との導電性が直接確保できる利点がある、チタンなどの金属板を用いても構わない。第二基材51としては、ガラス板を使用するのが一般的であるが、ガラス板以外にも、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチックフィルムシート、酸化チタン、アルミナなどセラミックスの研磨板などを用いることができる。そして、第二基材51上に、後述する網目状導電体52を設ける。
【0053】
網目状導電体52は、第一電極10との間で起電力を生じさせる電極である。また、網目状導電体52の少なくとも一部は、キャピラリー構造になっていることが好ましい。キャピラリー構造は、極細より線束で編んだ導電性メッシュで構成される。
【0054】
そして、第一電極10と第二電極50との間には電解液30を注入する。このキャピラリー構造を有することにより、電解液30を保持することができる。
【0055】
以上ように構成した光電変換素子41は、第二電極50の少なくとも一部に、網目状導電体52が配され、電解液30の液溜り部53が備えられた構造となる。
したがって、光電変換素子41が嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、第一電極10と第二電極50間に混入した気泡を、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして発電エリアから効果的に排出するので、この網目の隙間に気泡が入ることで発電エリアに発生した気泡を容易に排除することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0056】
次に、本発明に係る光電変換素子(第二構造)41の製造方法の一例について説明する。
図14及び図15は、本光電変換素子において対極として機能する第二電極50を作製する工程を順次示す図であり、図16は、第一電極10と第二電極50とを積層して接合することで、本発明に係る光電変換素子41を製造する工程を示す概略断面図である。
なお、本光電変換素子において窓極として機能する第一電極10を作製する工程については、図2から図5に示す第一構造の光電変換素子での作製工程と同じであるので、その説明は省略する。
【0057】
次に、第二電極50の作製方法について説明する。
まず、図14に示すように、プラスチックもしくがガラスなどよりなる第二基材51及び、極細より線束を編んだ、チタンなどの金属メッシュ(網目状導電体)52を準備する。これにより、対極用の導電性基板が構成される。
【0058】
次に、図15に示すように、対極用の導電性基板を構成する第二基材51に、電解液30を注入するための電解液注入孔56を形成する。電解液注入孔56は、例えば、ドリル等でセル部分に達するように設ける。
【0059】
そして、金属メッシュ52の表面に、対極触媒として白金をスパッタ成膜することで、対極として機能する第二電極50を構成する。
【0060】
次に、図16に示すように、図5に示した第一電極10用の導電性基板と図15に示した第二電極50用の導電性基板とを、第一電極10に設けた多孔質酸化物半導体層13と第二電極50に設けた金属メッシュ52とが向かい合うように配置し、第一電極10に第二電極50を重ね合わせ、その周囲を、例えば、UV硬化接着剤(不図示)で封止する。
【0061】
その後、前記第二電極50に設けた電解液注入孔56より第一電極10と第二電極50との間に電解液30を注入し、例えばUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて前記電解液注入孔56を封止し、図13に示すような光電変換素子41とする。
【0062】
以上のような構成により、第一電極10と、第二電極50に設けた金属メッシュ(網目状導電体)52との間の少なくとも一部に、電解液30の液溜り部53が備えられた構造の光電変換素子を製造することができる。
【0063】
<第三実施形態>
次に、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例について、図17から図21に基づき説明する。
図17は、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例(第三構造)を示す概略断面図である。
図17に示すように、本実施形態に係る光電変換素子(湿式太陽電池)61は、増感色素を表面に担持させた多孔質酸化物半導体層(酸化物電極とも呼ぶ)13を有して構成され、窓極(作用極とも呼ぶ)として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極70、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子61は、前記第一電極10と前記第二電極70間の少なくとも一部には、前記第二電極70を構成する第二基材71の内面側に形成した穴もしくは溝などの凹部からなる液溜り部73が備えられている構成をしている。
なお、本実施形態においても、図1に示した第一実施形態の光電変換素子の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0064】
第二電極70は、第二基材71と、その表面に順に重ねて設けた導電層72aおよび触媒層72bからなる対極触媒層72とで構成されている。図17に示すように、導電層72aは、第二基材71と接する側に設けて密着性および導電性を確保する。一方、触媒層72bは、電解質層との間で電荷をやり取りする速度を向上させるための触媒活性を付与する働きを担う。
第二基材71は、特に光透過性をもつ必要はないことから、その材料に制限は無い。第二基材71として、例えば、第一基材11と同様にガラス板やプラスチック板を用いても良いが、外部との導電性が直接確保でき、後述する凹部の加工性に優れること等から、チタンなどの金属板が好適に用いられる。
【0065】
触媒層72bとしては、例えば炭素や白金などの層を、蒸着、スパッタ、塩化白金酸塗布後に熱処理を行ったものが好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
そして、第一電極10と第二電極70との間には電解液30を注入する。
【0066】
以上ように構成した光電変換素子61は、第一電極10と第二電極70間の少なくとも一部に、第二電極20に形成された穴もしくは溝などにより凹部からなる液溜り部73が備えられた構造となる。
したがって、光電変換素子61が嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、第一電極10と第二電極70間に混入した気泡を、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして発電エリアから効果的に排出するので、この凹部に気泡が入ることで発電エリアに発生した気泡を容易に排除することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0067】
次に、本発明に係る光電変換素子(第三構造)61の製造方法の一例について説明する。
図18から図20は、本光電変換素子において対極として機能する第二電極70を作製する工程を順次示す図であり、図21は、第一電極10と第二電極70とを積層して接合することで、本発明に係る光電変換素子61を製造する工程を示す概略断面図である。
なお、本光電変換素子において窓極として機能する第一電極10を作製する工程については、図2から図5に示す第一構造の光電変換素子での作製工程と同じであるので、その説明は省略する。
【0068】
次に、第二電極70の作製方法について説明する。
まず、図18に示すように、チタンなどの金属よりなる第二基材71を準備する。
次に、図19に示すように、対極用の導電性基板を構成する第二基材71に、電解液30を注入するための電解液注入孔76を2箇所形成すると共に、例えば、φ400μm×深さ2mmの穴を液溜り部形成凹部77として、9箇所/cm2 の密度で形成する。この電解液注入孔76及び液溜り部形成凹部77は、例えば、ドリル等を用いて設けられ、前記電解液注入孔76はセル部分に達するように設ける。
【0069】
そして、図20に示すように、第二基材71の表面に、対極触媒として白金をスパッタ成膜し、対極触媒層72を設けることで、対極として機能する第二電極70を構成する。
【0070】
次に、図21に示すように、図5に示した第一電極10用の導電性基板と図20に示した第二電極70用の導電性基板とを、第一電極10に設けた多孔質酸化物半導体層13と第二電極70に設けた液溜り部形成凹部77とが向かい合うように配置し、第一電極10に第二電極70を重ね合わせ、その周囲を、例えば、UV硬化接着剤(不図示)で封止する。
【0071】
その後、前記第二電極70に設けた電解液注入孔76より第一電極10と第二電極70との間に電解液30を注入し、例えばUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて前記電解液注入孔56を封止し、図17に示すような光電変換素子61とする。
【0072】
以上のような構成により、第一電極10と第二電極70間の少なくとも一部に、第二電極20に形成された穴もしくは溝などにより凹部からなる電解液30の液溜り部73が備えられた構造の光電変換素子を製造することができる。
(実施例1〜3)
【0073】
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
まず、以下に述べる各実施例共通の第一電極用の透明基板(以下、窓側基板という)として、ガラス(第一基材)の一方の面に、透明導電膜が設けられた、導電性ガラス基板(大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次いで、成膜された透明導電膜の上に、スクリーン印刷で粒径15nmの酸化チタンからなるペーストを15μmの厚さに塗布し、450℃で焼結して第一多孔質酸化物半導体層を形成した。
引き続き、第一多孔質酸化物半導体層の上に、スクリーン印刷で粒径400nmの酸化チタンからなるペーストを15μmの厚さに塗布し、450℃で焼結して第二多孔質酸化物半導体層を形成した。
そして、第一多孔質酸化物半導体層と第二多孔質酸化物半導体層より構成される多孔質酸化物半導体層を形成した窓側基板は、色素溶液に浸漬し、酸化チタン多孔膜表面に増感色素を担持して、第一電極とした。
【0074】
一方、実施例1の第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、FTO透明導電ガラス板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次に、対極基板に、電解液を注入するための注入孔を形成した。
次いで、対極基板上に隙間の型となる樹脂をパターニングし、完全に樹脂が埋まるように、表面にSPD法でFTO膜を形成したガラスマイクロビーズに少量の無機接着剤を加えたペーストを塗布し、硬化し、その後、500℃で樹脂型を除去した。
さらに、400nmの酸化チタン粒子によるペーストを対極基板表面に格子状にパターニングし、焼結し、その後、表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0075】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けた導電膜とが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の実施例による第一構造光電変換素子を作製した。
【0076】
また、実施例2の第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、ガラス板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)と、極細より線束を編んだチタンメッシュを用意する。
次に、対極基板を構成するガラス板に、電解液を注入するための電解液注入孔を形成した。
次いで、対極基板を構成するチタンメッシュ表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0077】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けたチタンメッシュとが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の実施例による第二構造光電変換素子を作製した。
【0078】
さらに、実施例3の第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、チタン板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次に、対極基板に、電解液を注入するための電解液注入孔を2箇所と、φ400μm×深さ2mmの穴を9箇所/cm2 の密度で形成した。
次いで、対極基板の表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0079】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けた導電膜とが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の実施例による第三構造光電変換素子を作製した。
【0080】
(比較例1)
また、比較例として、第一電極用の透明基板(以下、窓側基板という)として、ガラス(第一基材)の一方の面に、透明導電膜が設けられた、導電性ガラス基板(大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次いで、成膜された透明導電膜の上に、スクリーン印刷で酸化チタンからなるペーストを10μmの厚さに塗布し、450℃で焼結して酸化チタンからなる多孔質酸化物半導体層を形成した。
そして、多孔質酸化物半導体層を形成した窓側基板は、色素溶液に浸漬し、酸化チタン多孔膜表面に増感色素を担持して、第一電極とした。
【0081】
一方、第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、チタン板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次に、対極基板に、電解液を注入するための注入孔を形成した。
次いで、対極基板表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0082】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けた導電膜とが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の比較例による光電変換素子を作製した。
【0083】
そして、上記のようにそれぞれ作製した実施例の各光電変換素子、及び比較例の光電変換素子の短絡電流が初期値から20%低下した時点を寿命とする特性の評価を行なった。
特性は、65℃に保持できる恒温槽付きソーラーシミュレータを用いて連続評価した。
この際、特性の評価は、セルの上下左右4辺それぞれを上にした場合と、水平にした場合の5種類の設置方法で行い、最も特性の悪い設置方法の測定結果を採用した。測定した値を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
その結果、表1からわかるように、本発明の各実施例における光電変換素子では、比較例における光電変換素子と比べて2倍から4倍と著しく寿命が延びた測定結果を得ることができた。
したがって、本発明では、セルの設置方向の影響を受けにくく、気泡を発電エリアから効果的に排除することができ、発電特性を向上させた長期耐久性を備える良好な光電変換素子とすることが出来た。
しかも、本発明では、電解液の漏洩や揮発を防ぐために樹脂による封止技術を採用しているため、十分な作業性も有している。
【0086】
<第四実施形態>
次に、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例について、図22から図26に基づき説明する。
図22は、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例(第四構造)を示す概略断面図である。
本実施形態に係る光電変換素子101A(101)は、絶縁性の透明な第一基材102と、該第一基材102の一面102aに透明導電膜103を介して配され、少なくとも一部に増感色素が担持された多孔質酸化物半導体層104、および、導電体からなる集電配線105とを備える作用極(第一電極)107と、前記作用極107の前記多孔質酸化物半導体層104と対向する位置に配され、導電性の第二基材108からなる対極(第二電極)110と、前記作用極107と前記対極110との間の少なくとも一部に配された電解液111と、から構成される。
【0087】
そして本実施形態の光電変換素子101は、前記集電配線105の近傍(集電配線105の周囲)に、液溜り部112が設けられていることを特徴とする。
色素増感型の光電変換素子を高温下で長期にわたり使用すると、電解液の漏洩、揮発やセル内の圧力変化によりセル内に気泡が発生する。気泡はセルの封止部分近傍に限らず、あらゆる場所で発生する傾向がある。気泡の生じた部分では電荷の移動が正常に行なわれず発電特性が低下するばかりでなく、増感色素の分解なども起こり、セル故障の原因となる。
【0088】
本実施形態の光電変換素子101では、集電配線105の近傍に液溜り部112が設けられていることで、セル内にできた気泡を取り込んで効果的に排出することが可能となる。その結果、長寿命を有するものとすることができる。
本発明では、気泡の浮力よりも駆動力が大きく、設置方向の影響も受けにくい「気泡の表面張力」を利用し、発電エリアから液溜り部112に気泡を確実に排出し、液溜り部112内の電解液111を自動的に供給するため、長期耐久性を向上させることができる。また、本発明の構造は、組み付け時のミス等により初めから混入している気泡に対しても排出効果がある。
【0089】
前記液溜り部112は、例えば、前記対極110をなす第二基材108に設けられた凹部113である。これにより、簡易な構造で容易に気泡を取り込むことができる液溜り部112となる。
また、前記凹部113は、前記集電配線105に沿って、連続して設けられていることが好ましい。気泡は一箇所に集中して発生する傾向があるため、凹部113がある程度の面積で連続して設けられていることで、効率よく気泡を取り込むことができる。
【0090】
また、凹部113の深さは0.05〜1mmの範囲であることが好ましい。深さが前記下限値以下では電解液111の保持量が過少となる。一方、深さが前記上限値を超えると、セルを立てて設置した際、重力で電解液111が偏在する可能性があるため、別途重力供給による液溜り部を設ける必要がある。
【0091】
凹部113部分にリザーブされる電解液の量は、少なくともセル全体に注入する電解液量の5%以上となるように設計する。電解液が大量に漏洩すると、電解液成分の揮発性の差から電解液組成が大きく変化してしまい、再注入しても元の特性より低下してしまうため、最大でも20%程度で十分である。
【0092】
また、電解液移動のためリザーブ量を減らしたり、図23に示す光電変換素子101B(101)のように、気泡の移動を阻害したりしない範囲で、凹部113内において少なくとも前記集電配線105上に、キャピラリー構造(以下、「キャピラリ」とも呼ぶ)114を設けてもよい。その際、キャピラリ114は気泡の移動を妨げないよう、多孔質酸化物半導体層104に接続している必要がある。キャピラリ114が設けられることにより、毛細管現象により、電解液111が挿入しやすくなる。
【0093】
このようなキャピラリ114としては、特に限定されるものではないが、例えば、親水処理を施した樹脂やガラス、セラミックなどの酸化物、チタン、ニオブなどの耐薬品性の高い金属などによって作られた極細線束、メッシュ、多孔体などが挙げられる。
また、図24に示す光電変換素子101C(101)のように、キャピラリ114と光散乱膜(多孔質酸化物半導体層104上に形成され、該多孔質酸化物半導体層104を透過した光を散乱・反射する多孔質層)とを併用させてもよい。
【0094】
凹部113と凹部113との間隔は、2cm未満であることが好ましい。間隔が2cm以上であると、気泡を効果的に排出することが困難になる。
【0095】
凹部113と凹部113との間隔が5mm以上となる場合には、図23に示す光電変換素子101C(101)のように、気泡を誘導するために、発電エリアの対極110(第二基材108)表面に深さ数〜150μm、幅数十〜数百μmのグルーブ115(溝)を設けるとよい。グルーブ115以外の発電エリアにおいて、作用極107(第一基材102)と対極110(第二基材108)との間隔は150μm以下に設計する。また、可能であれば最寄の凹部113に向かって深さや幅が傾斜しているとなおよい。
【0096】
なお、上記の例では、液溜り部112を、第二基材108に設けられた凹部113から構成している場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、図25に示す光電変換素子101D(101)のように、作用極107において、集電配線105と多孔質酸化物半導体層104との間に隙間を設け、この隙間を液溜り部112としてもよい。この場合、液溜り部112が切断されないように、集電配線105を格子状に設計しないようにする。なお、この場合も、この隙間(液溜り部112)は、隙間内にリザーブされる電解液の量がセル全体に注入する電解液量の5%〜20%となるように形成されることが望ましい。
【0097】
さらに、図26に示す光電変換素子101E(101)のように、グルーブ115を設けず、前記液溜り部112の周囲(近傍)において、作用極107(第一基材102)と対極110(第二基材108)との間隔が他の部分よりも大きくなるように、前記第二基材108には、集電配線105に向かって傾斜する傾斜部116が設けられていてもよい。傾斜部116が設けられることにより、セル内に気泡が対流しにくくなる。その場合も発電エリア内で、作用極107と対極110との間隔が最大150μm以上とならないようにする。
【0098】
作用極107は、透明基材(第一基材102)、および、その一方の面102aに形成された透明導電膜103と、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層104とから概略構成されている。
【0099】
透明基材としては、光透過性の素材からなる基板が用いられ、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなど、通常、光電変換素子101の透明基材として用いられるものであればいかなるものでも用いることができる。透明基材は、これらの中から電解液111への耐性などを考慮して適宜選択される。また、透明基材としては、用途上、できる限り光透過性に優れる基板が好ましく、透過率が90%以上の基板がより好ましい。
【0100】
透明導電膜103は、透明基材に導電性を付与するために、その一方の面に形成された薄膜である。透明導電性基板の透明性を著しく損なわない構造とするために、透明導電膜103は、導電性金属酸化物からなる薄膜であることが好ましい。
【0101】
透明導電膜103を形成する導電性金属酸化物としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO2)などが用いられる。
これらの中でも、成膜が容易かつ製造コストが安価であるという観点から、ITO、FTOが好ましい。また、透明導電膜103は、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜であることが好ましい。
【0102】
透明導電膜103を、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜とすることにより、可視域における光の吸収量が少なく、導電率が高い透明導電性基板を構成することができる。
【0103】
多孔質酸化物半導体層104は、透明導電膜103の上に設けられており、その表面には増感色素が担持されている。多孔質酸化物半導体層104を形成する半導体としては特に限定されず、通常、光電変換素子101用の多孔質酸化物半導体を形成するのに用いられるものであれば、いかなるものでも用いることができる。このような半導体としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb2O5)などを用いることができる。
【0104】
多孔質酸化物半導体層104を形成する方法としては、例えば、市販の酸化物半導体微粒子を所望の分散媒に分散させた分散液、あるいは、ゾル−ゲル法により調製できるコロイド溶液を、必要に応じてポリエチレングリコールなどの添加剤を添加した後、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スプレー塗布法など公知の塗布方法により塗布した後、加熱処理により添加物を除去して空隙を形成させ多孔質化する方法などを適用することができる。
【0105】
増感色素としては、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニンなどの含金属錯体、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができ、これらの中から、用途、使用半導体に適した挙動を示すものを特に限定なく選ぶことができる。
【0106】
集電配線105は、透明基板上に、導電性粉末を含有する導電性ペーストが塗布乾燥されて形成された導電膜、白金やカーボン等の金属等からなる薄膜、半田付けにより形成された配線等から構成され、透明導電膜103に電気的に接続されたものである。この集電配線105を介して、積層体と、外部接続用端子(図示略)とが電気的に接続できるようになっている。
【0107】
また、集電配線105を被覆するように、低融点ガラス、絶縁樹脂等の絶縁体からなる保護層106が設けられている。したがって、集電配線105と電解液111との間に保護層106が存在するため、集電配線105と電解液111とが直接接触することがない。これにより、電解液111と集電配線105が接触して、集電配線105が腐食するのを防止することができる。
【0108】
対極110は、第二基材108と、この一方の面上に形成された触媒膜109とから構成されている。
【0109】
第二基材108としては、第一基材102に導電膜を設けたものや、特に光透過性をもつ必要がないことから金属板、合成樹脂板に導電膜を設けたものなどが用いられる。
【0110】
触媒膜109は、第二基材108に電解液との電荷のやり取りをする速度を向上させるための触媒活性を付与するために、その一方の面に形成された白金、炭素などからなる薄膜である。触媒膜109としては、例えば炭素や白金などの層を、蒸着、スパッタ、塩化白金酸塗布後に熱処理を行ったものが好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
【0111】
電解液111としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリ−ブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されてなるものが用いられる。
【0112】
光電変換素子101において、作用極107と対極110とが所定の間隔を以って貼り合わされてなる積層体が、その外周部を封止部材(図示略)によって接着、一体化され、作用極107と対極108との間に電解液111が注入、封止されて光電変換素子として機能する。
【0113】
封止部材としては、対極110をなす第二基材108に対する接着性に優れるものであれば特に限定されないが、例えば、分子鎖中にカルボン酸基を有する熱可塑性樹脂からなる接着剤などが望ましく、具体的には、ハイミラン(三井デュポンポリケミカル社製)、バイネル(三井デュポンポリケミカル社製)などが挙げられる。
(実施例4)
【0114】
(実施例)
図22に示すような光電変換素子を作製した(実施例4)。
ガラス基板(140mm角)上に、FTO透明導電膜を成膜した。この透明導電膜基板上にTiO2 ナノ粒子からなる多孔質酸化物半導体層を形成した。具体的には、スクリーン印刷法により粒径15nmのTiO2 ナノ粒子からなるペーストを塗布し、乾燥後、焼成した。さらに、スクリーン印刷法により粒径400nmのTiO2 ナノ粒子からなるペーストを塗布し、乾燥後、焼成することにより多孔質酸化物半導体層を得た。
【0115】
スクリーン印刷法により、透明導電膜基板上に銀ペーストを塗布し、乾燥後、焼成することで集電配線を形成した。さらに、スクリーン印刷法により、低融点ガラスを塗布し、乾燥後、焼成することで集電配線保護層を形成した。
集電配線保護層および、一部の多孔質酸化物半導体層上にスクリーン印刷法により粒径400nmのTiO2 ナノ粒子からなるペーストを塗布し、乾燥後、焼成した。
基板を色素溶液に浸漬し多孔質酸化物半導体層に増感色素を担持させた。以上を作用極とした。
【0116】
一方、金属チタン板を用意し、このチタン板をエッチング加工し、セル形状にあわせて凹部(液溜り部)、電解液注入孔を形成後、全面に白金膜を形成した。以上を対極とした。白金膜形成面を作用極と対向させて使用する。
また、メトキシアセトニトリル中に、ヨウ素、ヨウ化リチウム、terf−ブチルピリジン、および、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、を溶解させて液体電解質を調製した。
【0117】
作製した作用極と対極とを積層し、紫外線硬化樹脂からなる封止層を形成して封止した。電解液注入孔から電解液を注入した後、注入孔を紫外線硬化樹脂で封止した。これにより試験用の光電変換素子を得た。
【0118】
(比較例2)
対極において、凹部(液溜り部)を形成しなかったこと以外は、実施例と同様にして光電変換素子を作製した。
【0119】
(比較例3)
特開2002−280085号公報に記載されている光電変換素子を作製した。すなわち、本体内に、酸化物半導体電極材料に色素を吸着させてなる酸化物半導体電極と、液体または擬液体状で電解質を含む電解液と、前記酸化物半導体電極に前記電解質を介して対向配置された対向電極とを備え、前記本体が、開閉可能な液体成分の出し入れ口を有する光電変換素子を作製した。
【0120】
以上のようにして作製された光電変換素子について、つぎのようにして耐久性を評価した。
65℃に保持できる恒温槽付きソーラーシミュレーターを用いて特性を連続評価し、短絡電流が初期値から20%低下した時点を寿命とした。この際、セルは上下左右の4辺それぞれを上にした場合と、水平にした場合との5種類の設置方法で行い、最も特性の悪い設置方法の結果を採用した。
【0121】
評価の結果、素子の寿命は、比較例2では400時間、比較例3では1600時間程度であったが、これに対し、実施例4では2000時間以上もの長寿命を有していることが確認された。
【0122】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、気泡を発電エリアから効果的に排除することができるので、発電特性を向上させた長期耐久性を備える光電変換素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0124】
1、41、61、101…光電変換素子;10、107…第一電極(作用極、窓極);11、102…第一基材;12、103…透明導電膜;13、104…多孔質酸化物半導体層;13A…第一多孔質酸化物半導体層;13B…第二多孔質酸化物半導体層;14…増感色素;20、50、70、110…第二電極(対極);21、51、71、108 第二基材…22 導電膜(金属薄膜);23、53、73、112…液溜り部;24…導電性多孔質;24a…導電性多孔質ペースト;25、114…キャピラリー構造部;26、56、76…電解液注入孔;27…液溜り部形成樹脂;28…液溜り部形成凹部;30、111…電解液;52…網目状導電体;72…対極触媒層;77…液溜り部形成凹部;105…集電配線;106…保護層;109…触媒膜;113…凹部;115…グルーブ;116…傾斜部
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型の光電変換素子に関する。具体的には、長期耐久性や高温耐久性など、寿命を向上させた光電変換素子に関する。
本願は、2006年12月11日に、日本に出願された特願2006−333414号、および、2006年12月11日に、日本に出願された特願2006−333415号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、資源問題などを背景に、クリーンエネルギーとしての太陽電池が注目を集めている。代表的な太陽電池としては、単結晶、多結晶あるいはアモルファスのシリコンを用いたものが挙げられる。しかし、従来のシリコン系太陽電池は減圧(真空)プロセスを要することから製造コストが高く、その原料供給が不安定などの理由から、太陽電池の安価な提供が難しく、広く普及させるためには多くの課題が残されている。
【0003】
また、Cu−In−Se系(CIS系とも呼ぶ)などの化合物系太陽電池が開発されており、極めて高い光電変換効率を示すなど優れた特徴を有しているが、コストや環境負荷などの問題があり、やはり大幅普及への障害となっている。
【0004】
これに対して、色素増感型太陽電池[以下、DSC(Dye-Sensitized Solar Cell) と略記する。]は、スイスのグレッツェルらのグループなどから提案されたものであり、その製造に際して減圧(真空)プロセスをほとんど必要としないことから、安価でかつ優れた光電変換効率を得られる光電変換素子として注目されている(非特許文献1を参照)。
一般に、DSC を始めとする湿式太陽電池は、光を入射させる透明な窓極と導電ガラス基板からなる対極との間に電解液を挟んだ構造を有している。
図27は、従来の湿式太陽電池の構造の一例を示す概略断面図である。
このDSC200は、増感色素を担持させた多孔質半導体電極(以下、色素増感半導体電極とも呼ぶ)203が一方の面に形成された第一基材201と、触媒膜205が形成された導電性の第二基材204と、これらの間に封入された例えばゲル状電解質からなる電解質層206を主な構成要素としている。
【0005】
第一基材201としては、例えば、光透過性の板材が用いられ、第一基材201の色素増感半導体電極203と接する面には、導電性を持たせるために透明導電膜202が配置されており、第一基材201、透明導電膜202及び色素増感半導体電極203により窓極(作用極とも呼ぶ)208を構成している。
一方、第二基材204としては、電解質層206と接する側の面には電解質層との間で電荷をやり取りするため、例えば、炭素や白金からなる触媒層205が設けられ、第二基材204及び触媒層205により対極209を構成している。
これら第一基材201と第二基材204は、色素増感半導体電極203と触媒層205が対向するように所定の間隔をおいて配置し、両基板間の周辺部に封止材207を設ける。そして、この封止材207を介して2つの基板201、204を貼り合わせてセルを積み上げ、電解液の注入口210を通して、両極208、209間にヨウ素・ヨウ化物イオンなどの酸化・還元対を含む有機電解液を充填し、電荷移送用の電解質206を形成している。
【0006】
このようなDSCは、電解液の漏洩や揮発を防ぐため、封止を行なって使用している。
DSCの封止技術としては、大別すると以下のような2種類が挙げられる。
一つは、封止材料に樹脂を使用し、窓極と対極間の周辺部に熱可塑性樹脂からなる封止材を配し、この封止材を介して両極を貼り合わせて硬化し、その後電解液を注入する方法である(例えば、非特許文献2、非特許文献4を参照)。
もう一つは、封止材料にガラスを使用し、窓極と対極間の周辺部に低融点ガラスからなる封止材を配し、この封止材を介して両極を貼り合わせて過熱溶融し、その後電解液を注入する方法である(例えば、非特許文献3、非特許文献4を参照)。
【0007】
このような封止技術では、封止材料が樹脂の場合、作業性の面で、常温もしくは色素の分解温度である140℃以下で封止できるため、工程が簡単になり、特に、ホットメルト樹脂やUV硬化樹脂を使用する場合は、製造速度に優れる、という長所をもつ反面、耐久性に劣るという短所があった。一方、封止材料がガラスの場合、作業性の面において、ガラス溶融に450℃以上の温度が必要となるため、樹脂を用いた場合と比較して製造速度が遅く、また、ピンホールやクラックなどが入りやすく歩留まりが悪いという短所がある反面、耐久性に優れるという長所がある。
【0008】
ところで、DSCは、高温下で長期にわたり使用すると電解液の漏洩や揮発、あるいはセル内の圧力変化などで、気泡が発生する傾向にある。この気泡はセルの封止部の近傍に限らず、あらゆる場所で発生する傾向にある。この気泡の生じた部分は、電荷の移動が正常に行なわれず発電特性が劣化するばかりでなく、増感色素の分解なども起こるため、セル故障の原因となる。
【0009】
そこで、上記のような問題を解決し、耐久性を向上させる方法の一つとして、樹脂による封止を行なう手段が提案されている(特許文献1を参照)。樹脂は一般にガス透過率が高いため、電解液が樹脂内や、界面を経由して徐々に漏洩する。この提案では、DSCの外側上部に、電解液の補充行うために電解液貯蔵部が設けられている。これにより、漏洩した分量に応じた電解液を前記電解液貯蔵部より再注入しながら使用することによって、寿命を延ばすことができる太陽電池が提案可能である。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の手段のように、DSCの外側に電解液貯蔵部を配置した構造では、DSCが大きくなって嵩張るものとなるため、DSCを設置して利用する際に余分なスペースを要することとなり、扱いづらいものとなってしまう。しかも、DSCの上部に配置した電解液貯蔵部から重力を利用して電解液を供給する方式であることから、DSCは、電解液貯蔵部の配置位置との関係でその設置方向が制限されるものとなるとともに、セル中央付近に生じた小サイズの気泡を効果的に排出することが極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−280085号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】O’ Regan B, Gratzel M. A low cost, high-efficiency solar cell based on dye-sensitized colloidal TiO2 films, Nature 1991;353:737-739
【非特許文献2】M.Spaeth re al., Prog. Photovolt: Res. Appl. 2003; 11: 2007-220
【非特許文献3】R.Sastrawan re al., Sol. Ener. Mat. Sol. Cells 2006;90,11,1680
【非特許文献4】特許庁:標準技術集、色素増感太陽電池、http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/solar_cell/01_mokuji.htm、6-B−6-C章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、DSCが外付の電解液貯蔵部などによって嵩張ること無く、DSCを設置する際の省スペース化が図れ、セルの設置方向の影響を受けることなく、気泡を発電エリアから効果的に排除することができる構造を有することにより、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に記載の光電変換素子は、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、該集電配線の周囲に、前記液溜り部が設けられ、前記第二電極が導電性の基材を有し、前記液溜り部は、前記第二電極の前記基材に設けられた凹部であることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の光電変換素子は、請求項1において、前記凹部が、前記集電配線の上部に対応する位置に形成されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光電変換素子は、請求項1又は2において、少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光電変換素子は、請求項1〜3の何れか一項において、前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の光電変換素子は、請求項1〜4の何れか一項において、前記集電配線が保護層によって被覆されていることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の光電変換素子は、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、前記液溜り部が、前記集電配線の周囲に且つ前記集電配線と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の光電変換素子は、請求項6において、少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の光電変換素子は、請求項6又は7において、前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の光電変換素子は、請求項6〜8の何れか一項において、前記集電配線が保護層によって被覆されており、前記液溜り部が、前記保護層と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の湿式太陽電池は、第一電極と第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられた構成をしている。ゆえに、電解液を補充する液溜り部がDSCに内在し、発電エリアに気泡が混入又は発生した場合、気泡の浮力よりも駆動力が大きい気泡の表面張力を利用して気泡を効果的に誘導し、前記発電エリアから前記液溜り部へ気泡を排出して、前記液溜り部内の電解液を前記発電エリアに供給することが可能となる。
したがって、DSCが外付の電解液貯蔵部などによって嵩張ること無く、DSCを設置する際の省スペース化が図れ、セルの設置方向の影響を受けることなく、気泡を発電エリアから効果的に排除することができる構造を有する湿式太陽電池が得られる。ゆえに、本発明によれば、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた湿式太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る湿式太陽電池の一例(第一構造)を示す断面図である。
【図2】図1の湿式太陽電池を構成する第一電極(作用極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図3】図2の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図4】図3の次工程(第三工程)を示す断面図である。
【図5】図4の次工程(第四工程)を示す断面図である。
【図6】図1の湿式太陽電池を構成する第二電極(対極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図7】図6の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図8】図7の次工程(第三工程)を示す断面図である。
【図9】図8の次工程(第四工程)を示す断面図である。
【図10】図9の次工程(第五工程)を示す断面図である。
【図11】図10の次工程(第六工程)を示す断面図である。
【図12】図1の湿式太陽電池を作製する工程を示す断面図である。
【図13】本発明に係る湿式太陽電池の他の一例(第二構造)を示す断面図である。
【図14】図13の湿式太陽電池を構成する第二電極(対極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図15】図14の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図16】図13の湿式太陽電池を作製する工程を示す断面図である。
【図17】本発明に係る湿式太陽電池の他の一例(第三構造)を示す断面図である。
【図18】図17の湿式太陽電池を構成する第二電極(対極)を作製する第一工程を示す断面図である。
【図19】図18の次工程(第二工程)を示す断面図である。
【図20】図19の次工程(第三工程)を示す断面図である。
【図21】図17の湿式太陽電池を作製する工程を示す断面図である。
【図22】本発明に係る光電変換素子の他の一例(第四構造)を示す概略断面図である。
【図23】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図24】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図25】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図26】本発明に係る光電変換素子の他の一例を示す概略断面図である。
【図27】従来の湿式太陽電池の構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明に係る光電変換素子の実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は上述した作用と効果を満たす構成であればよく、これらの実施形態に限定されるものではない。
なお、以下に示す図面は、本発明を理解しやすく説明するため必ずしも縮尺は正確には描かれていない。
まず、本発明に係る光電変換素子(湿式太陽電池)は、例えば、図1に一つの構成例を示すように、基本的に、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層(酸化物電極とも呼ぶ)13を有して構成され、窓極(作用極とも呼ぶ)として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極20、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子1は、前記第一電極10と前記第二電極間20の少なくとも一部には、電解液30の液溜り部23が内在するように備えられている構成をしている。この基本的な構成については、図13、図17に示した構成例においても満足している。
【0018】
第一電極は、例えば第一基材と、その上に順に配される透明導電膜、および多孔質酸化物半導体層からなる。第一電極は、光透過性の材料からなる第一基材の表面に、導電材料からなる透明導電膜(層)を形成することにより電気を通す導電性を有し、この透明導電膜を介して多孔質酸化物半導体層が形成されている。
【0019】
第一電極の一部である第一基材は、電解質を収容するセルをなす一方の電極として働くとともに、筐体を構成する蓋体としての役割も果たす。
第一電極を構成する第一基材は、太陽光を透過する光学特性を備えた部材が好適に用いられる。この第一基材としては、ガラス板を使用するのが一般的であるが、特に制限されない。ガラス板以外にも、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチック、酸化チタン、アルミナなどセラミックスの研磨板などを用いることができる。
また、第一基材は、後に導電膜を形成した基板上に色素担持用の多孔質半導体として二酸化チタン(TiO2)を焼き付ける場合は、500℃程度の高熱に耐える導電性耐熱ガラスが望ましい。
【0020】
第一基材の表面には、やはり光を透過し、電気も通す透明導電膜が形成されている。導電性を備えた透明な薄膜(透明導電膜という)としては、例えば酸化インジウムに数%のスズを添加してなる薄膜、インジウム・スズ・酸化物(Indium-Tin-Oxide:ITO)膜、酸化スズに数%のフッ素を添加してなる薄膜、フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine-doped-Tin-Oxide:FTO)膜などが挙げられる。このような透明導電膜を、例えば50〜2000nm程度の厚さに形成して用いる。
上記ITO膜では、3価のインジウム(In3+)席に置換した4価のスズ(Sn4+)がキャリア電子を発生するため、ITO膜は電気をよく通す性質を備えている。また、ITO膜は、エネルギー・ギャップが紫外線領域に対応するため可視光をほとんど吸収しないので、太陽光を構成する可視光スペクトルの大部分を透過させる能力も備えている。
【0021】
この透明導電膜は、減圧雰囲気を使用する真空成膜法、例えばスパッタ法や蒸着法等に代表される公知の方法によって形成されている。このような方法から、透明導電膜を形成する材料などに応じて適切な方法を用いることにより、透明性に優れ、かつ高い導電性を備えた膜が得られる。
【0022】
透明導電膜の上には、多孔質酸化物半導体層が設けられる。多孔質酸化物半導体層は、多孔質半導体に色素を担持させたものである。多孔質酸化物半導体層の素材、形成方法などについて特に限定はされず、通常、太陽電池用の多孔質半導体を形成するのに用いられるものであればどのようなものも用いることができる。このような半導体としては、例えば、TiO2、SnO2、WO3、ZnO、Nb2O5、In2O3、ZrO2、Y2O3、 Al2O3などを用いることができる。
多孔質膜を形成する方法としては、例えば、微粒子の泳動電着、ペーストを塗布して焼結する方法などを例示できるが、これらに限定されるものではない。この多孔質酸化物半導体層13の粒子表面には、増感色素が吸着している。
【0023】
光電変換素子においては、変換効率を向上させるために、吸収波長の広い色素を用いて波長400nm〜900nmの紫外領域より長波長領域をなす可視領域の光を、紫外領域の光と同程度あるいはそれ以上に吸収するようにする。
このような増感色素としては、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニン等の含金属錯体をはじめ、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができ、これらの中から用途、使用半導体に適した励起挙動をとるものを適宜選択すれば良い。
上記の増感色素は、前記多孔質酸化物半導体層の微粒子半導体表面に吸着させて担持させる。
【0024】
一方、第二電極は、例えば、第二基材とその上に形成された導電性多孔質や、第二基材と網目状導電体、全面に穴もしくは溝が形成された第二基材とその表面に設けられた対極触媒層などからそれぞれ構成される。
【0025】
液溜り部は、例えば、第二電極の導電性多孔質の所定の位置に形成された凹部からなるもの(第一構造)や、第二電極の網目状の導電層間に形成される空隙であるもの(第二構造)、第二電極に形成された凹部からなるもの(第三構造)、第一電極の集電配線の周囲に配され、第二電極の第二基材に設けられた凹部からなるもの(第四構造)とに大別することができる。
【0026】
そして、第一電極と第二電極との間には電解液を注入する。電解液を構成する材料としては、例えば、電解質成分として、ヨウ素・ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジン等がエチレンカーボネートやメトキシアセトニトリル等の有機溶媒に溶解されてなる液状の電解質等が挙げられる。
【0027】
以上ように構成した光電変換素子は、第一電極と第二電極間に液溜り部が備えられ、液溜り部がDSCに内在する構造となる。
したがって、DSCが外付の電解液貯蔵部などによって嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして、第一電極と第二電極間に混入した気泡を発電エリアから効果的に排出することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0028】
<第一実施形態>
本発明に係る光電変換素子の一例について、図1から図12に基づき説明する。
図1は、本発明に係る光電変換素子の一例(第一構造)を示す概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る光電変換素子1は、増感色素を表面に担持させた多孔質酸化物半導体層13を有して構成され、窓極として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極20、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子1は、導電性多孔質24の所定の位置に、凹部からなる液溜り部23が備えられている構成をしている。
【0029】
第一電極10は、第一基材11としてのガラス板の表面に、透明導電膜12としてFTO導電膜を成膜したもので、さらに、この透明導電膜12を介して多孔質酸化物半導体層13が設けられる。多孔質酸化物半導体層13は、多孔質半導体に色素を担持させたものである。
【0030】
一方、第二電極20は、例えば緻密な第二基材21と、その上に形成された導電性多孔質24からできている。
第二電極20を構成する第二基材21は、特に光透過性をもつ必要はないことから金属板を用いることもできるし、第一基材11と同様のものを用いても構わない。この第二基材21としては、ガラス板を使用するのが一般的であるが、ガラス板以外にも、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチックフィルムシート、酸化チタン、アルミナなどセラミックスの研磨板などを用いることができる。そして、第二基材21上に、導電膜22を形成する。
【0031】
導電膜22は、第一電極10との間で起電力を生じさせる電極であり、第二基材21に導電性を付与するために、その一方の面に形成された、例えば、金属薄膜を用いることができる。
導電膜22の形成方法に関しては、例えば、蒸着法やスパッタ法が好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
【0032】
導電性多孔質24は、多孔質の少なくとも表面近傍に対極触媒が形成された構造とする。この対極触媒は、外部へ導電パスを介して接続されるように設計する。また、対極触媒を形成する場合、電解液30が対極触媒層を経由して第一電極(酸化チタン電極)10側から多孔質側へ移動する必要があるため、緻密にならないように成膜する。
導電性多孔質24は、少なくともセル全体に注入した電解液量の5vol%相当の空隙を含むように設計する。電解液が大量に漏洩すると、成分の揮発性の差から電解液組成が大きく変化してしまい、再注入しても元の特性より低下してしまうため、空隙は最大でも20vol%程度で十分である。
【0033】
導電性多孔質24の表面(第一電極側の面)に生じる多孔穴の大きさは、対極触媒層から第一電極10までの距離を担保するため、φ1000μm未満が望ましい。また、発電域での導電性多孔質24の表面荒さもまた、対極触媒層から第一電極10までの距離を担保するため、500μm未満が望ましい。
【0034】
さらに、導電性多孔質24の表面(第一電極側の面)に生じる多孔穴の大きさは、φ50μmと、第一電極10と第二電極20との平均距離のどちらか小さい方より大きい方が望ましい。これ以下の場合、気泡が透過しにくくなる。
【0035】
気泡を効果的に誘導するためには、導電性多孔質24の表面近傍より、第二電極20内部の多孔度(孔径)を大きくすると良い。また、第二電極20内部は多孔質ではなく、単純な空隙でも良い。
【0036】
また、導電性多孔質24の表面近傍の多孔穴の大きさがφ50μmを超える場合には、電解液30移動のため、気泡の移動を阻害したりしない方法で、導電性多孔質24の表面にキャピラリー構造部25を設けて、第一電極10の多孔質酸化物半導体層13上の少なくとも一部にキャピラリー構造部25を有する構成にすると良い。
キャピラリー構造部25は、第一電極10に接している必要がある。キャピラリー構造部25としては、親水処理を施した樹脂やガラス、セラミックなどの酸化物、チタン、ニオブなどの耐薬品性の高い金属などによって作られた極細線束、メッシュ、多孔体などが考えられる。このキャピラリー構造部25を有することにより、電解液30を保持することができる。
また、導電性多孔質24には、液溜り部23となる凹が形成されている。
【0037】
そして、第一電極10と第二電極20との間には電解液30を注入する。電解液30を構成する材料としては、例えば、電解質成分として、ヨウ素・ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジン等がエチレンカーボネートやメトキシアセトニトリル等の有機溶媒に溶解されてなる液状の電解質等が挙げられる。なお、電解液30は、導電性多孔質24、多孔質酸化物半導体層13、キャピラリー構造部25の内部にも存在する。
【0038】
以上ように構成した光電変換素子1は、第二電極20の導電性多孔質24の少なくとも一部に、凹部からなる液溜り部23が備えられた構造となる。
したがって、光電変換素子1が嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、第一電極10と第二電極20間に混入した気泡を、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして発電エリアから効果的に排出するので、この凹部に気泡が入ることで発電エリアに発生した気泡を容易に排除することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0039】
次に、本発明に係る光電変換素子(第一構造)1の製造方法の一例について説明する。
図2から図5は、本光電変換素子において窓極として機能する第一電極10を作製する工程を順次示す図であり、図6から図11は、本光電変換素子において対極として機能する第二電極20を作製する工程を順次示す図である。そして、図12は、前記第一電極10と前記第二電極20とを積層して接合することで、本発明に係る光電変換素子1を製造する工程を示す概略断面図である。
【0040】
まず、第一電極10の作製方法について説明する。
図2に示すように、第一基材11を準備し、この第1の基材11の一方の面の上に透明導電膜12を設ける。
第一基材11は、通常用いられているガラス板でも差し支えないが、経済的で、軽量なモジュールを得ることができるプラスチックを用いても良い。
また、透明導電膜12の形成方法としては、透明導電膜12の材料に応じて公知の方法を用いて行えば良く、例えば、スパッタ法やCVD法(気相成長法)、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法などにより、フッ素添加スズ(FTO)などの酸化物半導体からなる薄膜を形成する。この薄膜は、厚過ぎると光透過性が劣り、一方、薄過ぎると導電性が劣ってしまうため、光透過性と導電性の両方を考慮して、0.1μm〜1μm程度の膜厚に形成する。
引き続き、この成膜された薄膜の上に、レジストをスクリーン印刷法などにより形成した後、レジストをエッチングして透明導電膜12の表面上に、所定のパターンの透明導電膜12を作成する。これにより、窓側電極用の導電性基板が構成される。
【0041】
次いで、図3及び図4に示すように、窓側電極用の導電性基板における透明導電膜12上に、第一多孔質酸化物半導体層13Aと第二多孔質酸化物半導体層13Bからなる多孔質酸化物半導体層13を形成する。多孔質酸化物半導体層13の形成方法としては、例えば、二酸化チタン(TiO2)の粉末を分散媒と混ぜてペーストを調整し、これをスクリーン印刷法やインクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法などにより透明導電膜12上に塗布し、焼成する。そして、この多孔質酸化物半導体層13は、5μm〜30μm程度に形成する。
【0042】
そして、図5に示すように、多孔質酸化物半導体層13の粒子間に、増感色素14を担持させることで、窓極として機能する第一電極10を構成する。増感色素14の担持は、例えば、多孔質酸化物半導体層13が形成された導電性基板を色素液に浸漬することで成し得ることができる。
【0043】
次に、第二電極20の作製方法について説明する。
まず、図6に示すように、プラスチックやガラス等からなる第2の基材21を準備し、この第2の基材21の一面に導電層22を設ける。導電層22の形成方法としては、第一基材11の場合と同様に、導電層22の材料に応じて公知の方法を用いて行えば良く、例えば、スパッタ法やCVD法(気相成長法)、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法などにより、フッ素添加スズ(FTO)などの酸化物半導体からなる薄膜を形成する。
この導電層22は、厚過ぎると光透過性が劣り、一方、薄過ぎると導電性が劣ってしまうこととなるため、光透過性と導電性の両方を考慮して、0.01μm〜1μm程度の膜厚が好ましい。
引き続き、この成膜された導電層22の上に、レジストをスクリーン印刷法などにより形成した後、レジストをエッチングして所望の形状をしたユニットセルパターンを作成する。
これにより、対極用の導電性基板が構成される。
【0044】
次いで、図7に示すように、対極用の導電性基板に、電解液30を注入するための電解液注入孔26を形成する。電解液注入孔26は、例えば、ドリル等でセル部分に達するように設ける。
【0045】
次に、図8に示すように、対極用の導電性基板上に、空隙の型となる液溜り部形成樹脂27をパターニングする。液溜り部形成樹脂27としては、例えば、ポリオレフィン樹脂インクを用いることができ、スクリーン印刷法などにより形成できる。この液溜り部形成樹脂27の大きさは、幅0.5mm〜5mm、厚さ0.2mm〜2mm程度とする。また、形成樹脂27の形状は、線状でも点状に形成してもよい。
【0046】
引き続き、図9に示すように、液溜り部形成樹脂27が完全に埋まるように、表面にSPD法でFTO膜を形成したガラスマイクロビーズに少量の無機接着剤を加えた導電性多孔質ペースト24aを塗布し、硬化する。
【0047】
さらに、図10に示すように、その後、500℃で焼成して液溜り部形成樹脂27を除去し、導電性多孔質24の所定の位置に液溜り部形成凹部28を形成する。
次いで、図11に示すように、前記導電性多孔質24の表面に、例えば、400nmの酸化チタン粒子によるペーストを格子状にパターニングし、焼成してキャピラリー構造部25を形成する。
そして、導電性多孔質24の表面に、対極触媒として白金をスパッタ成膜することで、対極として機能する第二電極20を構成する。
【0048】
次に、図12に示すように、図5に示した第一電極10用の導電性基板と図11に示した第二電極20用の導電性基板とを、第一電極10に設けた多孔質酸化物半導体層13と第二電極20に設けた導電性多孔質24とが向かい合うように配置し、第一電極10に第二電極20を重ね合わせ、その周囲を、例えば、UV硬化接着剤(不図示)で封止する。
【0049】
その後、前記第二電極20に設けた電解液注入孔26より第一電極10と第二電極20との間に電解液30を注入し、例えばUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて前記電解液注入孔26を封止し、図1に示すような光電変換素子1とする。
【0050】
以上のような構成により、第一電極10と第二電極20間に配された導電性多孔質24の少なくとも一部に、凹部からなる電解液30の液溜り部23が備えられた構造の光電変換素子を製造することができる。
【0051】
<第二実施形態>
次に、本発明に係る光電変換素子の他の例について、図13から図16に基づき説明する。
図13は、本発明に係る光電変換素子の他の例(第二構造)を示す概略断面図である。
図13に示すように、本実施形態に係る光電変換素子(湿式太陽電池)41は、増感色素を表面に担持させた多孔質酸化物半導体層(酸化物電極とも呼ぶ)13を有して構成され、窓極(作用極とも呼ぶ)として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極50、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子41は、網目状導電体52の導電層間に形成された空隙からなる液溜り部53が備えられている構成をしている。
なお、本実施形態において、図1に示した第一実施形態の光電変換素子の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0052】
第二電極50は、例えば緻密な第二基材51と、表面に白金などの金属からなる対極触媒を担持した網目状導電体52から構成されている。
第二電極50を構成する第二基材51は、特に光透過性をもつ必要はないことから、その材料に制限は無い。第二基材51として、例えば、第一基材11と同様にガラス板やプラスチック板を用いても良いし、外部との導電性が直接確保できる利点がある、チタンなどの金属板を用いても構わない。第二基材51としては、ガラス板を使用するのが一般的であるが、ガラス板以外にも、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチックフィルムシート、酸化チタン、アルミナなどセラミックスの研磨板などを用いることができる。そして、第二基材51上に、後述する網目状導電体52を設ける。
【0053】
網目状導電体52は、第一電極10との間で起電力を生じさせる電極である。また、網目状導電体52の少なくとも一部は、キャピラリー構造になっていることが好ましい。キャピラリー構造は、極細より線束で編んだ導電性メッシュで構成される。
【0054】
そして、第一電極10と第二電極50との間には電解液30を注入する。このキャピラリー構造を有することにより、電解液30を保持することができる。
【0055】
以上ように構成した光電変換素子41は、第二電極50の少なくとも一部に、網目状導電体52が配され、電解液30の液溜り部53が備えられた構造となる。
したがって、光電変換素子41が嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、第一電極10と第二電極50間に混入した気泡を、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして発電エリアから効果的に排出するので、この網目の隙間に気泡が入ることで発電エリアに発生した気泡を容易に排除することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0056】
次に、本発明に係る光電変換素子(第二構造)41の製造方法の一例について説明する。
図14及び図15は、本光電変換素子において対極として機能する第二電極50を作製する工程を順次示す図であり、図16は、第一電極10と第二電極50とを積層して接合することで、本発明に係る光電変換素子41を製造する工程を示す概略断面図である。
なお、本光電変換素子において窓極として機能する第一電極10を作製する工程については、図2から図5に示す第一構造の光電変換素子での作製工程と同じであるので、その説明は省略する。
【0057】
次に、第二電極50の作製方法について説明する。
まず、図14に示すように、プラスチックもしくがガラスなどよりなる第二基材51及び、極細より線束を編んだ、チタンなどの金属メッシュ(網目状導電体)52を準備する。これにより、対極用の導電性基板が構成される。
【0058】
次に、図15に示すように、対極用の導電性基板を構成する第二基材51に、電解液30を注入するための電解液注入孔56を形成する。電解液注入孔56は、例えば、ドリル等でセル部分に達するように設ける。
【0059】
そして、金属メッシュ52の表面に、対極触媒として白金をスパッタ成膜することで、対極として機能する第二電極50を構成する。
【0060】
次に、図16に示すように、図5に示した第一電極10用の導電性基板と図15に示した第二電極50用の導電性基板とを、第一電極10に設けた多孔質酸化物半導体層13と第二電極50に設けた金属メッシュ52とが向かい合うように配置し、第一電極10に第二電極50を重ね合わせ、その周囲を、例えば、UV硬化接着剤(不図示)で封止する。
【0061】
その後、前記第二電極50に設けた電解液注入孔56より第一電極10と第二電極50との間に電解液30を注入し、例えばUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて前記電解液注入孔56を封止し、図13に示すような光電変換素子41とする。
【0062】
以上のような構成により、第一電極10と、第二電極50に設けた金属メッシュ(網目状導電体)52との間の少なくとも一部に、電解液30の液溜り部53が備えられた構造の光電変換素子を製造することができる。
【0063】
<第三実施形態>
次に、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例について、図17から図21に基づき説明する。
図17は、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例(第三構造)を示す概略断面図である。
図17に示すように、本実施形態に係る光電変換素子(湿式太陽電池)61は、増感色素を表面に担持させた多孔質酸化物半導体層(酸化物電極とも呼ぶ)13を有して構成され、窓極(作用極とも呼ぶ)として機能する第一電極10と、前記第一電極10と対向して配される第二電極70、及びこれら両極の間の少なくとも一部に電解液30とを配置している。さらに、光電変換素子61は、前記第一電極10と前記第二電極70間の少なくとも一部には、前記第二電極70を構成する第二基材71の内面側に形成した穴もしくは溝などの凹部からなる液溜り部73が備えられている構成をしている。
なお、本実施形態においても、図1に示した第一実施形態の光電変換素子の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0064】
第二電極70は、第二基材71と、その表面に順に重ねて設けた導電層72aおよび触媒層72bからなる対極触媒層72とで構成されている。図17に示すように、導電層72aは、第二基材71と接する側に設けて密着性および導電性を確保する。一方、触媒層72bは、電解質層との間で電荷をやり取りする速度を向上させるための触媒活性を付与する働きを担う。
第二基材71は、特に光透過性をもつ必要はないことから、その材料に制限は無い。第二基材71として、例えば、第一基材11と同様にガラス板やプラスチック板を用いても良いが、外部との導電性が直接確保でき、後述する凹部の加工性に優れること等から、チタンなどの金属板が好適に用いられる。
【0065】
触媒層72bとしては、例えば炭素や白金などの層を、蒸着、スパッタ、塩化白金酸塗布後に熱処理を行ったものが好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
そして、第一電極10と第二電極70との間には電解液30を注入する。
【0066】
以上ように構成した光電変換素子61は、第一電極10と第二電極70間の少なくとも一部に、第二電極20に形成された穴もしくは溝などにより凹部からなる液溜り部73が備えられた構造となる。
したがって、光電変換素子61が嵩張ること無く扱いやすくなり、DSCを設置する際の省スペース化が図れるものとなる。しかも、第一電極10と第二電極70間に混入した気泡を、セルの設置方向の影響を受けにくい表面張力を駆動力にして発電エリアから効果的に排出するので、この凹部に気泡が入ることで発電エリアに発生した気泡を容易に排除することができ、優れた発電特性と長期耐久性とを兼ね備えた光電変換素子とすることが可能となる。
【0067】
次に、本発明に係る光電変換素子(第三構造)61の製造方法の一例について説明する。
図18から図20は、本光電変換素子において対極として機能する第二電極70を作製する工程を順次示す図であり、図21は、第一電極10と第二電極70とを積層して接合することで、本発明に係る光電変換素子61を製造する工程を示す概略断面図である。
なお、本光電変換素子において窓極として機能する第一電極10を作製する工程については、図2から図5に示す第一構造の光電変換素子での作製工程と同じであるので、その説明は省略する。
【0068】
次に、第二電極70の作製方法について説明する。
まず、図18に示すように、チタンなどの金属よりなる第二基材71を準備する。
次に、図19に示すように、対極用の導電性基板を構成する第二基材71に、電解液30を注入するための電解液注入孔76を2箇所形成すると共に、例えば、φ400μm×深さ2mmの穴を液溜り部形成凹部77として、9箇所/cm2 の密度で形成する。この電解液注入孔76及び液溜り部形成凹部77は、例えば、ドリル等を用いて設けられ、前記電解液注入孔76はセル部分に達するように設ける。
【0069】
そして、図20に示すように、第二基材71の表面に、対極触媒として白金をスパッタ成膜し、対極触媒層72を設けることで、対極として機能する第二電極70を構成する。
【0070】
次に、図21に示すように、図5に示した第一電極10用の導電性基板と図20に示した第二電極70用の導電性基板とを、第一電極10に設けた多孔質酸化物半導体層13と第二電極70に設けた液溜り部形成凹部77とが向かい合うように配置し、第一電極10に第二電極70を重ね合わせ、その周囲を、例えば、UV硬化接着剤(不図示)で封止する。
【0071】
その後、前記第二電極70に設けた電解液注入孔76より第一電極10と第二電極70との間に電解液30を注入し、例えばUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて前記電解液注入孔56を封止し、図17に示すような光電変換素子61とする。
【0072】
以上のような構成により、第一電極10と第二電極70間の少なくとも一部に、第二電極20に形成された穴もしくは溝などにより凹部からなる電解液30の液溜り部73が備えられた構造の光電変換素子を製造することができる。
(実施例1〜3)
【0073】
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
まず、以下に述べる各実施例共通の第一電極用の透明基板(以下、窓側基板という)として、ガラス(第一基材)の一方の面に、透明導電膜が設けられた、導電性ガラス基板(大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次いで、成膜された透明導電膜の上に、スクリーン印刷で粒径15nmの酸化チタンからなるペーストを15μmの厚さに塗布し、450℃で焼結して第一多孔質酸化物半導体層を形成した。
引き続き、第一多孔質酸化物半導体層の上に、スクリーン印刷で粒径400nmの酸化チタンからなるペーストを15μmの厚さに塗布し、450℃で焼結して第二多孔質酸化物半導体層を形成した。
そして、第一多孔質酸化物半導体層と第二多孔質酸化物半導体層より構成される多孔質酸化物半導体層を形成した窓側基板は、色素溶液に浸漬し、酸化チタン多孔膜表面に増感色素を担持して、第一電極とした。
【0074】
一方、実施例1の第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、FTO透明導電ガラス板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次に、対極基板に、電解液を注入するための注入孔を形成した。
次いで、対極基板上に隙間の型となる樹脂をパターニングし、完全に樹脂が埋まるように、表面にSPD法でFTO膜を形成したガラスマイクロビーズに少量の無機接着剤を加えたペーストを塗布し、硬化し、その後、500℃で樹脂型を除去した。
さらに、400nmの酸化チタン粒子によるペーストを対極基板表面に格子状にパターニングし、焼結し、その後、表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0075】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けた導電膜とが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の実施例による第一構造光電変換素子を作製した。
【0076】
また、実施例2の第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、ガラス板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)と、極細より線束を編んだチタンメッシュを用意する。
次に、対極基板を構成するガラス板に、電解液を注入するための電解液注入孔を形成した。
次いで、対極基板を構成するチタンメッシュ表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0077】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けたチタンメッシュとが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の実施例による第二構造光電変換素子を作製した。
【0078】
さらに、実施例3の第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、チタン板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次に、対極基板に、電解液を注入するための電解液注入孔を2箇所と、φ400μm×深さ2mmの穴を9箇所/cm2 の密度で形成した。
次いで、対極基板の表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0079】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けた導電膜とが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の実施例による第三構造光電変換素子を作製した。
【0080】
(比較例1)
また、比較例として、第一電極用の透明基板(以下、窓側基板という)として、ガラス(第一基材)の一方の面に、透明導電膜が設けられた、導電性ガラス基板(大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次いで、成膜された透明導電膜の上に、スクリーン印刷で酸化チタンからなるペーストを10μmの厚さに塗布し、450℃で焼結して酸化チタンからなる多孔質酸化物半導体層を形成した。
そして、多孔質酸化物半導体層を形成した窓側基板は、色素溶液に浸漬し、酸化チタン多孔膜表面に増感色素を担持して、第一電極とした。
【0081】
一方、第二電極用の透明基板(以下、対極基板という)として、チタン板(第二基材、大きさ100mm角、厚さ:1mm)を用意する。
次に、対極基板に、電解液を注入するための注入孔を形成した。
次いで、対極基板表面に白金からなる導電膜をスパッタ法にて形成して第二電極とした。
【0082】
そして、前記第一電極に設けた多孔質酸化物半導体層と、前記第二電極に設けた導電膜とが向かい合うように配置し、周囲をUV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止した。
その後、対極基板に形成した前記注入孔より、第一電極と第二電極との間の空間内に電解液を注入すると共に、前記電解液注入孔を、UV硬化接着剤からなる封止剤を用いて封止し、本発明の比較例による光電変換素子を作製した。
【0083】
そして、上記のようにそれぞれ作製した実施例の各光電変換素子、及び比較例の光電変換素子の短絡電流が初期値から20%低下した時点を寿命とする特性の評価を行なった。
特性は、65℃に保持できる恒温槽付きソーラーシミュレータを用いて連続評価した。
この際、特性の評価は、セルの上下左右4辺それぞれを上にした場合と、水平にした場合の5種類の設置方法で行い、最も特性の悪い設置方法の測定結果を採用した。測定した値を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
その結果、表1からわかるように、本発明の各実施例における光電変換素子では、比較例における光電変換素子と比べて2倍から4倍と著しく寿命が延びた測定結果を得ることができた。
したがって、本発明では、セルの設置方向の影響を受けにくく、気泡を発電エリアから効果的に排除することができ、発電特性を向上させた長期耐久性を備える良好な光電変換素子とすることが出来た。
しかも、本発明では、電解液の漏洩や揮発を防ぐために樹脂による封止技術を採用しているため、十分な作業性も有している。
【0086】
<第四実施形態>
次に、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例について、図22から図26に基づき説明する。
図22は、本発明に係る光電変換素子のさらに他の例(第四構造)を示す概略断面図である。
本実施形態に係る光電変換素子101A(101)は、絶縁性の透明な第一基材102と、該第一基材102の一面102aに透明導電膜103を介して配され、少なくとも一部に増感色素が担持された多孔質酸化物半導体層104、および、導電体からなる集電配線105とを備える作用極(第一電極)107と、前記作用極107の前記多孔質酸化物半導体層104と対向する位置に配され、導電性の第二基材108からなる対極(第二電極)110と、前記作用極107と前記対極110との間の少なくとも一部に配された電解液111と、から構成される。
【0087】
そして本実施形態の光電変換素子101は、前記集電配線105の近傍(集電配線105の周囲)に、液溜り部112が設けられていることを特徴とする。
色素増感型の光電変換素子を高温下で長期にわたり使用すると、電解液の漏洩、揮発やセル内の圧力変化によりセル内に気泡が発生する。気泡はセルの封止部分近傍に限らず、あらゆる場所で発生する傾向がある。気泡の生じた部分では電荷の移動が正常に行なわれず発電特性が低下するばかりでなく、増感色素の分解なども起こり、セル故障の原因となる。
【0088】
本実施形態の光電変換素子101では、集電配線105の近傍に液溜り部112が設けられていることで、セル内にできた気泡を取り込んで効果的に排出することが可能となる。その結果、長寿命を有するものとすることができる。
本発明では、気泡の浮力よりも駆動力が大きく、設置方向の影響も受けにくい「気泡の表面張力」を利用し、発電エリアから液溜り部112に気泡を確実に排出し、液溜り部112内の電解液111を自動的に供給するため、長期耐久性を向上させることができる。また、本発明の構造は、組み付け時のミス等により初めから混入している気泡に対しても排出効果がある。
【0089】
前記液溜り部112は、例えば、前記対極110をなす第二基材108に設けられた凹部113である。これにより、簡易な構造で容易に気泡を取り込むことができる液溜り部112となる。
また、前記凹部113は、前記集電配線105に沿って、連続して設けられていることが好ましい。気泡は一箇所に集中して発生する傾向があるため、凹部113がある程度の面積で連続して設けられていることで、効率よく気泡を取り込むことができる。
【0090】
また、凹部113の深さは0.05〜1mmの範囲であることが好ましい。深さが前記下限値以下では電解液111の保持量が過少となる。一方、深さが前記上限値を超えると、セルを立てて設置した際、重力で電解液111が偏在する可能性があるため、別途重力供給による液溜り部を設ける必要がある。
【0091】
凹部113部分にリザーブされる電解液の量は、少なくともセル全体に注入する電解液量の5%以上となるように設計する。電解液が大量に漏洩すると、電解液成分の揮発性の差から電解液組成が大きく変化してしまい、再注入しても元の特性より低下してしまうため、最大でも20%程度で十分である。
【0092】
また、電解液移動のためリザーブ量を減らしたり、図23に示す光電変換素子101B(101)のように、気泡の移動を阻害したりしない範囲で、凹部113内において少なくとも前記集電配線105上に、キャピラリー構造(以下、「キャピラリ」とも呼ぶ)114を設けてもよい。その際、キャピラリ114は気泡の移動を妨げないよう、多孔質酸化物半導体層104に接続している必要がある。キャピラリ114が設けられることにより、毛細管現象により、電解液111が挿入しやすくなる。
【0093】
このようなキャピラリ114としては、特に限定されるものではないが、例えば、親水処理を施した樹脂やガラス、セラミックなどの酸化物、チタン、ニオブなどの耐薬品性の高い金属などによって作られた極細線束、メッシュ、多孔体などが挙げられる。
また、図24に示す光電変換素子101C(101)のように、キャピラリ114と光散乱膜(多孔質酸化物半導体層104上に形成され、該多孔質酸化物半導体層104を透過した光を散乱・反射する多孔質層)とを併用させてもよい。
【0094】
凹部113と凹部113との間隔は、2cm未満であることが好ましい。間隔が2cm以上であると、気泡を効果的に排出することが困難になる。
【0095】
凹部113と凹部113との間隔が5mm以上となる場合には、図23に示す光電変換素子101C(101)のように、気泡を誘導するために、発電エリアの対極110(第二基材108)表面に深さ数〜150μm、幅数十〜数百μmのグルーブ115(溝)を設けるとよい。グルーブ115以外の発電エリアにおいて、作用極107(第一基材102)と対極110(第二基材108)との間隔は150μm以下に設計する。また、可能であれば最寄の凹部113に向かって深さや幅が傾斜しているとなおよい。
【0096】
なお、上記の例では、液溜り部112を、第二基材108に設けられた凹部113から構成している場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、図25に示す光電変換素子101D(101)のように、作用極107において、集電配線105と多孔質酸化物半導体層104との間に隙間を設け、この隙間を液溜り部112としてもよい。この場合、液溜り部112が切断されないように、集電配線105を格子状に設計しないようにする。なお、この場合も、この隙間(液溜り部112)は、隙間内にリザーブされる電解液の量がセル全体に注入する電解液量の5%〜20%となるように形成されることが望ましい。
【0097】
さらに、図26に示す光電変換素子101E(101)のように、グルーブ115を設けず、前記液溜り部112の周囲(近傍)において、作用極107(第一基材102)と対極110(第二基材108)との間隔が他の部分よりも大きくなるように、前記第二基材108には、集電配線105に向かって傾斜する傾斜部116が設けられていてもよい。傾斜部116が設けられることにより、セル内に気泡が対流しにくくなる。その場合も発電エリア内で、作用極107と対極110との間隔が最大150μm以上とならないようにする。
【0098】
作用極107は、透明基材(第一基材102)、および、その一方の面102aに形成された透明導電膜103と、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層104とから概略構成されている。
【0099】
透明基材としては、光透過性の素材からなる基板が用いられ、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなど、通常、光電変換素子101の透明基材として用いられるものであればいかなるものでも用いることができる。透明基材は、これらの中から電解液111への耐性などを考慮して適宜選択される。また、透明基材としては、用途上、できる限り光透過性に優れる基板が好ましく、透過率が90%以上の基板がより好ましい。
【0100】
透明導電膜103は、透明基材に導電性を付与するために、その一方の面に形成された薄膜である。透明導電性基板の透明性を著しく損なわない構造とするために、透明導電膜103は、導電性金属酸化物からなる薄膜であることが好ましい。
【0101】
透明導電膜103を形成する導電性金属酸化物としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO2)などが用いられる。
これらの中でも、成膜が容易かつ製造コストが安価であるという観点から、ITO、FTOが好ましい。また、透明導電膜103は、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜であることが好ましい。
【0102】
透明導電膜103を、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜とすることにより、可視域における光の吸収量が少なく、導電率が高い透明導電性基板を構成することができる。
【0103】
多孔質酸化物半導体層104は、透明導電膜103の上に設けられており、その表面には増感色素が担持されている。多孔質酸化物半導体層104を形成する半導体としては特に限定されず、通常、光電変換素子101用の多孔質酸化物半導体を形成するのに用いられるものであれば、いかなるものでも用いることができる。このような半導体としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb2O5)などを用いることができる。
【0104】
多孔質酸化物半導体層104を形成する方法としては、例えば、市販の酸化物半導体微粒子を所望の分散媒に分散させた分散液、あるいは、ゾル−ゲル法により調製できるコロイド溶液を、必要に応じてポリエチレングリコールなどの添加剤を添加した後、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スプレー塗布法など公知の塗布方法により塗布した後、加熱処理により添加物を除去して空隙を形成させ多孔質化する方法などを適用することができる。
【0105】
増感色素としては、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニンなどの含金属錯体、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができ、これらの中から、用途、使用半導体に適した挙動を示すものを特に限定なく選ぶことができる。
【0106】
集電配線105は、透明基板上に、導電性粉末を含有する導電性ペーストが塗布乾燥されて形成された導電膜、白金やカーボン等の金属等からなる薄膜、半田付けにより形成された配線等から構成され、透明導電膜103に電気的に接続されたものである。この集電配線105を介して、積層体と、外部接続用端子(図示略)とが電気的に接続できるようになっている。
【0107】
また、集電配線105を被覆するように、低融点ガラス、絶縁樹脂等の絶縁体からなる保護層106が設けられている。したがって、集電配線105と電解液111との間に保護層106が存在するため、集電配線105と電解液111とが直接接触することがない。これにより、電解液111と集電配線105が接触して、集電配線105が腐食するのを防止することができる。
【0108】
対極110は、第二基材108と、この一方の面上に形成された触媒膜109とから構成されている。
【0109】
第二基材108としては、第一基材102に導電膜を設けたものや、特に光透過性をもつ必要がないことから金属板、合成樹脂板に導電膜を設けたものなどが用いられる。
【0110】
触媒膜109は、第二基材108に電解液との電荷のやり取りをする速度を向上させるための触媒活性を付与するために、その一方の面に形成された白金、炭素などからなる薄膜である。触媒膜109としては、例えば炭素や白金などの層を、蒸着、スパッタ、塩化白金酸塗布後に熱処理を行ったものが好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
【0111】
電解液111としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリ−ブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されてなるものが用いられる。
【0112】
光電変換素子101において、作用極107と対極110とが所定の間隔を以って貼り合わされてなる積層体が、その外周部を封止部材(図示略)によって接着、一体化され、作用極107と対極108との間に電解液111が注入、封止されて光電変換素子として機能する。
【0113】
封止部材としては、対極110をなす第二基材108に対する接着性に優れるものであれば特に限定されないが、例えば、分子鎖中にカルボン酸基を有する熱可塑性樹脂からなる接着剤などが望ましく、具体的には、ハイミラン(三井デュポンポリケミカル社製)、バイネル(三井デュポンポリケミカル社製)などが挙げられる。
(実施例4)
【0114】
(実施例)
図22に示すような光電変換素子を作製した(実施例4)。
ガラス基板(140mm角)上に、FTO透明導電膜を成膜した。この透明導電膜基板上にTiO2 ナノ粒子からなる多孔質酸化物半導体層を形成した。具体的には、スクリーン印刷法により粒径15nmのTiO2 ナノ粒子からなるペーストを塗布し、乾燥後、焼成した。さらに、スクリーン印刷法により粒径400nmのTiO2 ナノ粒子からなるペーストを塗布し、乾燥後、焼成することにより多孔質酸化物半導体層を得た。
【0115】
スクリーン印刷法により、透明導電膜基板上に銀ペーストを塗布し、乾燥後、焼成することで集電配線を形成した。さらに、スクリーン印刷法により、低融点ガラスを塗布し、乾燥後、焼成することで集電配線保護層を形成した。
集電配線保護層および、一部の多孔質酸化物半導体層上にスクリーン印刷法により粒径400nmのTiO2 ナノ粒子からなるペーストを塗布し、乾燥後、焼成した。
基板を色素溶液に浸漬し多孔質酸化物半導体層に増感色素を担持させた。以上を作用極とした。
【0116】
一方、金属チタン板を用意し、このチタン板をエッチング加工し、セル形状にあわせて凹部(液溜り部)、電解液注入孔を形成後、全面に白金膜を形成した。以上を対極とした。白金膜形成面を作用極と対向させて使用する。
また、メトキシアセトニトリル中に、ヨウ素、ヨウ化リチウム、terf−ブチルピリジン、および、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、を溶解させて液体電解質を調製した。
【0117】
作製した作用極と対極とを積層し、紫外線硬化樹脂からなる封止層を形成して封止した。電解液注入孔から電解液を注入した後、注入孔を紫外線硬化樹脂で封止した。これにより試験用の光電変換素子を得た。
【0118】
(比較例2)
対極において、凹部(液溜り部)を形成しなかったこと以外は、実施例と同様にして光電変換素子を作製した。
【0119】
(比較例3)
特開2002−280085号公報に記載されている光電変換素子を作製した。すなわち、本体内に、酸化物半導体電極材料に色素を吸着させてなる酸化物半導体電極と、液体または擬液体状で電解質を含む電解液と、前記酸化物半導体電極に前記電解質を介して対向配置された対向電極とを備え、前記本体が、開閉可能な液体成分の出し入れ口を有する光電変換素子を作製した。
【0120】
以上のようにして作製された光電変換素子について、つぎのようにして耐久性を評価した。
65℃に保持できる恒温槽付きソーラーシミュレーターを用いて特性を連続評価し、短絡電流が初期値から20%低下した時点を寿命とした。この際、セルは上下左右の4辺それぞれを上にした場合と、水平にした場合との5種類の設置方法で行い、最も特性の悪い設置方法の結果を採用した。
【0121】
評価の結果、素子の寿命は、比較例2では400時間、比較例3では1600時間程度であったが、これに対し、実施例4では2000時間以上もの長寿命を有していることが確認された。
【0122】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、気泡を発電エリアから効果的に排除することができるので、発電特性を向上させた長期耐久性を備える光電変換素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0124】
1、41、61、101…光電変換素子;10、107…第一電極(作用極、窓極);11、102…第一基材;12、103…透明導電膜;13、104…多孔質酸化物半導体層;13A…第一多孔質酸化物半導体層;13B…第二多孔質酸化物半導体層;14…増感色素;20、50、70、110…第二電極(対極);21、51、71、108 第二基材…22 導電膜(金属薄膜);23、53、73、112…液溜り部;24…導電性多孔質;24a…導電性多孔質ペースト;25、114…キャピラリー構造部;26、56、76…電解液注入孔;27…液溜り部形成樹脂;28…液溜り部形成凹部;30、111…電解液;52…網目状導電体;72…対極触媒層;77…液溜り部形成凹部;105…集電配線;106…保護層;109…触媒膜;113…凹部;115…グルーブ;116…傾斜部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、
前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、
前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、該集電配線の周囲に、前記液溜り部が設けられ、
前記第二電極が導電性の基材を有し、前記液溜り部は、前記第二電極の前記基材に設けられた凹部であることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記凹部が、前記集電配線の上部に対応する位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記集電配線が保護層によって被覆されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、
前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、
前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、
前記液溜り部が、前記集電配線の周囲に且つ前記集電配線と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項7】
少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項6又は7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記集電配線が保護層によって被覆されており、前記液溜り部が、前記保護層と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする請求項6〜8の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項1】
増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、
前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、
前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、該集電配線の周囲に、前記液溜り部が設けられ、
前記第二電極が導電性の基材を有し、前記液溜り部は、前記第二電極の前記基材に設けられた凹部であることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記凹部が、前記集電配線の上部に対応する位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記集電配線が保護層によって被覆されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層を有して構成され、窓極として機能する第一電極と、前記第一電極と対向して配される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部に配される電解液を備え、
前記第一電極と前記第二電極間の少なくとも一部には、電解液の液溜り部が備えられ、
前記第一電極が導電体からなる集電配線をさらに備え、
前記液溜り部が、前記集電配線の周囲に且つ前記集電配線と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項7】
少なくとも前記集電配線上に、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記多孔質酸化物半導体層上の少なくとも一部には、キャピラリー構造が設けられていることを特徴とする請求項6又は7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記集電配線が保護層によって被覆されており、前記液溜り部が、前記保護層と前記多孔質酸化物半導体層との間に、備えられていることを特徴とする請求項6〜8の何れか一項に記載の光電変換素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2012−104505(P2012−104505A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28786(P2012−28786)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2008−549283(P2008−549283)の分割
【原出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2008−549283(P2008−549283)の分割
【原出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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