説明

光電変換素子

【課題】耐久性に優れ、かつ光電変換効率の低下を抑制することができる光電変換素子を提供する。
【解決手段】光透過性支持体と、光透過性支持体上に設けられた透明導電層と、透明導電層上に設けられた多孔質半導体層を含む光電変換層と、光電変換層の少なくとも一部に設けられた導電層と、透明導電層と向かい合うようにして設けられた対極導電層と、透明導電層と対極導電層との間に設けられたキャリア輸送材料と、を備え、キャリア輸送材料は難揮発性溶媒と酸化還元種とを含み、導電層は透明導電層と電気的に接続されている光電変換素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料に代るエネルギー源として、太陽光を電力に変換することができる電池、すなわち太陽電池が注目されている。現在、結晶系シリコン基板を用いた太陽電池および薄膜シリコン太陽電池が一部実用化され始めている。
【0003】
しかしながら、結晶系シリコン基板を用いた太陽電池は、シリコン基板の製造コストが高いという問題があった。また、薄膜シリコン太陽電池は、多くの種類の半導体製造用ガスや複雑な装置を用いる必要があるため、製造コストが高くなるという問題があった。そのため、いずれの太陽電池においても、発電出力当たりのコストを低減するために光電変換の高効率化の努力が続けられているが、上記の問題を十分に解決できるまでには至っていない。
【0004】
また、たとえば特許文献1(特許第2664194号)には、新しいタイプの太陽電池として、金属錯体の光誘起電子移動を応用した湿式太陽電池が開示されている。また、たとえば特許文献2(特開2008−287900号公報)には、新しいタイプの太陽電池として、量子ドットを用いた湿式太陽電池が開示されている。
【0005】
これらの湿式太陽電池は、2枚のガラス基板の表面にそれぞれ電極を形成し、これらの電極が内側となるように2枚のガラス基板を配置し、電極間に光電変換層と電解液とを挟み込むようにして作製されている。光電変換層は、光増感色素を吸着させて可視光領域に吸収スペクトルを持たせた半導体層からなる。このような湿式太陽電池は、色素増感太陽電池とも呼ばれる。
【0006】
上記のような湿式太陽電池に光が入射すると、光電変換層で電子が発生し、光電変換層で発生した電子は光電変換層を通って電極に到達する。そして、電極に到達した電子は、電極間を接続する外部電気回路を通って他方の電極に移動して電解液に供給され、電解液中のイオンによって運ばれて再度光電変換層に戻る。湿式太陽電池においては、このような電子の流れにより電気エネルギーが取り出される。
【0007】
また、特許文献3(特開2001−357897号公報)には、2枚の導電性基板を用いた湿式太陽電池が開示されている。この湿式太陽電池は、一方の導電性基板上に光電極である多孔質半導体層を形成し、他方の導電性基板上に触媒層を形成し、両者を合わせるように重ねた上で、側面をエポキシ系接着剤で封止することにより作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2664194号
【特許文献2】特開2008−287900号公報
【特許文献3】特開2001−357897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
湿式太陽電池の耐久性を向上させる観点からは、湿式太陽電池の電解液の溶媒としては難揮発性溶媒を用いることが好ましい。しかしながら、湿式太陽電池の電解液の溶媒として難揮発性溶媒を用いた場合には、電解液の溶媒にアセトニトリルなどの揮発性溶媒を用いた場合と比較して、湿式太陽電池の光電変換効率が大きく低下してしまうという問題があった。
【0010】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、耐久性に優れ、かつ光電変換効率の低下を抑制することができる光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、光透過性支持体と、光透過性支持体上に設けられた透明導電層と、透明導電層上に設けられた多孔質半導体層を含む光電変換層と、光電変換層の少なくとも一部に設けられた導電層と、透明導電層と向かい合うようにして設けられた対極導電層と、透明導電層と対極導電層との間に設けられたキャリア輸送材料と、を備え、キャリア輸送材料は難揮発性溶媒と酸化還元種とを含み、導電層は透明導電層と電気的に接続されている光電変換素子である。
【0012】
ここで、本発明の光電変換素子においては、難揮発性溶媒が沸点を有しない、または難揮発性溶媒の沸点が100℃以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の光電変換素子においては、光電変換層の厚さが4μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の光電変換素子においては、難揮発性溶媒の粘度が1cp以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の光電変換素子においては、キャリア輸送材料の電気伝導率が1.5S/m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐久性に優れ、かつ光電変換効率の低下を抑制することができる光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態の光電変換素子の模式的な断面図である。
【図2】本実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
【図3】本実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図4】本実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図5】本実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0019】
<光電変換素子>
図1に、本発明の光電変換素子の一例である本実施の形態の光電変換素子の模式的な断面図を示す。本実施の形態の光電変換素子は、透明電極板11と、透明電極板11と向かい合うようにして所定の距離を空けて配置された対極12と、透明電極板11と対極12との間に設けられたキャリア輸送材料8と、透明電極板11と対極12との間において透明電極板11と対極12とを接合する封止材6とを備えている。なお、封止材6は、透明電極板11と対極12との間においてキャリア輸送材料8を取り囲むようにして設置されており、キャリア輸送材料8を封止している。
【0020】
透明電極板11は、光透過性支持体1と、光透過性支持体1の一方の表面上に設けられた透明導電層2とから構成されている。そして、透明導電層2の表面上には光電変換層3が設けられており、光電変換層3の少なくとも一部に導電層4が設けられている。また、導電層4は、透明電極板11の透明導電層2と電気的に接続されている。なお、透明電極板11の一部にキャリア輸送材料8を注入するための孔が設けられていてもよい。
【0021】
対極12は、対極導電層5と、対極導電層5の一方の表面上に設けられた触媒層7とから構成されている。ここで、対極12の対極導電層5および触媒層7は、それぞれ、透明電極板11の透明導電層2と向かい合うようにして構成されている。
【0022】
<光透過性支持体>
光透過性支持体1は、本実施の形態の光電変換素子の受光面の少なくとも一部を構成していることから、光透過性支持体1としては、たとえば、光電変換素子の受光面となる部分で少なくとも光透過性を有する材料を用いることができる。ただし、少なくとも後述する光増感素子に実効的な感度を有する波長の光を実質的に透過させる材料であればよく、必ずしもすべての波長領域の光に対して透過性を有する必要はない。
【0023】
光透過性支持体1に用いられる光透過性を有する材料としては、たとえば、ソーダ石灰フロートガラス、溶融石英ガラス、結晶石英ガラスなどのガラス基板、または可撓性フィルムなどの耐熱性樹脂板などを用いることができる。
【0024】
また、光透過性支持体1に用いられる可撓性フィルムとしては、たとえば、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PA)、ポリエーテルイミド(PEI)、フェノキシ樹脂、またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフィルムを用いることができる。
【0025】
光透過性支持体1に用いられる可撓性フィルムとしては、なかでも、PTFEフィルムを用いることが好ましい。PTFEフィルムは250℃以上の耐熱性を有することから、光透過性支持体1の表面をたとえば250℃程度に加熱して透明導電層2を形成する場合に光透過性支持体1の熱ダメージを抑えることができる傾向にある。
【0026】
また、光透過性支持体1の厚さは、特に限定されないが、0.2mm以上5mm以下であることが好ましい。光透過性支持体1の厚さが0.2mm以上である場合には、光透過性支持体1が支持体としての機能を発揮することができる傾向にある。光透過性支持体1の厚さが5mm以下である場合には光透過性支持体1の透過光量が増大して光電変換素子の光電変換効率が向上する傾向にある。
【0027】
本実施の形態の光電変換素子を他の構造体に取り付けるときに光透過性支持体1を用いて取り付けることができる。たとえば、光透過性支持体1がガラス基板からなる場合には、光透過性支持体1の周縁部をねじ等により他の構造体に容易に取り付けることができる。
【0028】
<透明導電層>
透明導電層2は、本実施の形態の光電変換素子の受光面の少なくとも一部を構成していることから、透明導電層2としては、たとえば、光電変換素子の受光面となる部分で少なくとも光透過性を有するとともに導電性を有する材料を用いることができる。ただし、少なくとも後述する光増感素子に実効的な感度を有する波長の光を実質的に透過させる材料であればよく、必ずしもすべての波長領域の光に対して透過性を有する必要はない。
【0029】
透明導電層2に用いられる光透過性を有する材料としては、たとえば、インジウム錫複合酸化物(ITO)、フッ素をドープした酸化錫(FTO)、または酸化亜鉛(ZnO)などを用いることができる。
【0030】
透明導電層2に金属線を設けてもよい。透明導電層2に金属線を設けた場合には、透明導電層2の抵抗を低くすることができる傾向にある。金属線としては、たとえば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケルおよびチタンからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含む金属線を用いることができる。なお、透明導電層2に設けられた金属線による入射光量の低下を避ける観点からは、金属線の太さは、たとえば0.1〜4mm程度であることが好ましい。
【0031】
透明導電層2の厚さは、0.02μm以上5μm以下とすることが好ましい。透明導電層2の厚さが0.02μm以上である場合には、透明導電層2の抵抗が低減して光電変換素子の外部に取り出すことができる電流量が増大することから、光電変換素子の光電変換効率が向上する傾向にある。また、透明導電層2の厚さが5μm以下である場合には、透明導電層2の透過光量が増大して光電変換層3で発生する光電子量が増大することから、光電変換素子の光電変換効率が向上する傾向にある。
【0032】
また、透明導電層2の表面の面抵抗は40Ω/□以下であることが好ましい。透明導電層2の面抵抗が40Ω/□以下である場合には、光電変換素子の外部に取り出すことができる電流量が増大することから、光電変換素子の光電変換効率が向上する傾向にある。
【0033】
<透明電極板>
光透過性支持体1と透明導電層2とから透明電極板11が構成され、透明電極板11としては、たとえば、ソーダ石灰フロートガラスからなる光透過性支持体1上に、FTOからなる透明導電層2を積層した透明電極板11などを用いることができる。
【0034】
<光電変換層>
光電変換層3は、多孔質半導体層と、多孔質半導体層に吸着すること等により保持された光増感素子とを含むものを用いることができる。
【0035】
光電変換層3に用いられる多孔質半導体層としては、多孔質半導体から構成されるものであれば特に限定されず、たとえば、バルク状、粒子状または膜状などの種々の形状の多孔質半導体からなるものを用いることができる。なかでも、多孔質半導体層としては、膜状の多孔質半導体を用いることが好ましい。この場合には、光電変換層3の受光面積が増大して光電変換素子の光電変換効率が向上するとともに、光電変換素子の薄型化を促進することができる傾向にある。
【0036】
ここで、光電変換層3に用いられる多孔質半導体層の比表面積(単位質量当たりの表面積)は、0.5m2/g以上300m2/g以下であることが好ましい。光電変換層3の多孔質半導体層の比表面積が0.5m2/g以上である場合には、光電変換層3が多くの光増感素子を保持することができるため光を効率的に吸収することができる傾向にある。光電変換層3の多孔質半導体層の比表面積が300m2/g以下である場合には、光電変換層3の耐久性が向上する傾向にある。なお、光電変換層3に用いられる多孔質半導体層の比表面積は、たとえば、気体吸着法であるBET法(JIS Z8830:2001)によって算出することができる。
【0037】
光電変換層3に用いられる多孔質半導体層の空孔率(多孔質半導体層の全体の容積に対する多孔質半導体層に設けられている空隙の容積の割合)は、20%以上であることが好ましい。光電変換層3の多孔質半導体層の空孔率が20%以上である場合には、光電変換層3の多孔質半導体層の内部にキャリア輸送材料8を十分に拡散することができる傾向にある。なお、光電変換層3に用いられる多孔質半導体層の空孔率は、たとえば、多孔質半導体層の膜厚と面積とから算出した体積、多孔質半導体層の質量、および多孔質半導体層の材質の密度から算出することができる。
【0038】
光電変換層3に用いられる多孔質半導体層としては、たとえば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化亜鉛、リン化インジウム、銅インジウム硫化物(CuInS2)、CuAlO2およびSrCu22からなる群から選択された少なくとも1種を含む多孔質半導体からなる層を用いることができる。
【0039】
なかでも、光電変換層3の多孔質半導体層は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫および酸化ニオブからなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタンを含むことが特に好ましい。この場合には、光電変換層3の多孔質半導体層の安定性および安全性が向上するとともに、光電変換素子の光電変換効率が向上する傾向にある。
【0040】
なお、本明細書において、「酸化チタン」は、たとえば、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、およびオルソチタン酸などの各種の狭義のチタンの酸化物だけでなく、酸化チタン、水酸化チタンおよび含水酸化チタンなどの酸素を含むチタン化合物をも含む概念であり、これらを単独で、または混合して用いることができる。なお、酸化チタンは、その製法や熱履歴によって、アナターゼ型とルチル型の2種類のいずれの結晶系にもなり得るが、アナターゼ型が一般的である。
【0041】
また、光電変換層3の多孔質半導体層は、多結晶焼結体からなっていてもよい。この場合には、光電変換層3の多孔質半導体層の安定性が向上するとともに、結晶成長が容易となるために光電変換素子の製造コストを低減することができる傾向にある。
【0042】
光電変換層3の多孔質半導体層が多結晶焼結体からなる場合に、当該多結晶焼結体を構成する結晶子の平均粒径は、5nm以上50nm未満であることが好ましく、10nm以上30nm以下であることがより好ましい。この場合には、投影面積に対して十分に大きい実効表面積を得ることができるため、光の入射光量の増大により高効率で電気エネルギに変換することができる傾向にある。なお、結晶子の平均粒径は、たとえば、X線回折測定によって得られる多孔質半導体層のX線回折スペクトルにシェラーの式を適用することによって算出することができる。
【0043】
光電変換層3の光散乱性は、多孔質半導体層の形成に用いられる半導体粒子の粒子径(平均粒径)により調整することができる。
【0044】
たとえば、光電変換層3が平均粒径の大きい半導体粒子で形成した多孔質半導体層を含む場合には、光散乱性が高く、より多くの光が散乱するため、光捕捉率を向上させることができる傾向にある。また、たとえば、光電変換層3が平均粒径の小さい半導体粒子で形成した多孔質半導体層を含む場合には、光散乱性が低くなるが、光増感素子を保持できる箇所が増加するため、光電変換層3における光増感素子の保持量を増加させることができる傾向にある。
【0045】
光電変換層3の多孔質半導体層は、たとえば、上記の多結晶焼結体上に、好ましくは平均粒径が50nm以上、より好ましくは平均粒径が50nm以上600nm以下の半導体粒子からなる半導体層を設けた構造としてもよい。このように、光電変換層3の多孔質半導体層は、単層に限定されず、少なくとも2層の積層構造体であってもよい。
【0046】
光電変換層3の多孔質半導体層に保持された光増感素子としては、たとえば、色素および/または量子ドットなどを用いることができる。
【0047】
色素としては、たとえば、可視光領域および/または赤外光領域の波長の光を吸収することができる有機色素および/または金属錯体色素などの色素の1種または2種以上を選択的に用いることができる。
【0048】
有機色素としては、たとえば、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ペリレン系色素およびインジゴ系色素からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0049】
なお、有機色素の吸光係数は、一般的に、遷移金属に分子が配位結合した形態を有する金属錯体色素の吸光係数に比べて大きい。
【0050】
金属錯体色素としては、たとえば、Cu、Ni、Fe、Co、V、Sn、Si、Ti、Ge、Cr、Zn、Ru、Mg、Al、Pb、Mn、In、Mo、Y、Zr、Nb、Sb、La、W、Pt、Ta、Ir、Pd、Os、Ga、Tb、Eu、Rb、Bi、Se、As、Sc、Ag、Cd、Hf、Re、Au、Ac、Tc、TeまたはRhなどの金属に分子が配位結合した色素の少なくとも1種を用いることができる。このような金属錯体色素としては、たとえば、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、およびナフタロシアニン系色素などを挙げることができる。
【0051】
色素としては、フタロシアニン系色素またはルテニウム系金属錯体色素を用いることが好ましく、ルテニウム系金属錯体色素を用いることがより好ましく、特に、以下の式(I)〜(III)で表わされるルテニウム系金属錯体色素を用いることが好ましい。色素としてフタロシアニン系色素またはルテニウム系金属錯体色素を用いた場合、特に、以下の式(I)〜(III)で表わされるルテニウム系金属錯体色素を用いた場合には、近赤外線領域の波長の光をも吸収することができるため、光電変換素子の光電変換効率を高めることができる。なお、以下の式(II)および(III)において、「TBA」はテトラブチルアンモニウムを示している。
【0052】
【化1】

【0053】
【化2】

【0054】
【化3】

【0055】
また、光電変換層3の多孔質半導体層に色素を強固に吸着させるためには、色素は、カルボン酸基、カルボン酸無水物、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、スルホン酸基、エステル基、メルカプト基およびホスホニル基からなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましく、なかでも、カルボン酸基および/またはカルボン酸無水物を含むことが特に好ましい。色素が、カルボン酸基および/またはカルボン酸無水物を含む場合には、多孔質半導体層との吸着性が安定し、かつ、色素から多孔質半導体層への電子注入が効率的に行われる傾向にある。なお、これらの官能基は、励起状態の色素と多孔質半導体層の伝導帯との間の電子移動を容易にする電気的結合を提供するものである。
【0056】
また、量子ドットとしては、たとえば、CdS、CdSe、PbSおよびPbSeからなる群から選択された少なくとも1種の微粒子を用いることができる。量子ドットを構成する微粒子の粒径は、吸収波長などに応じて適宜調節されるが、量子ドットとして機能させる観点からは、1nm以上10nm以下とすることが好ましい。
【0057】
光電変換層3の厚さは、4μm以上30μm以下であることが好ましい。光電変換層3の厚さが4μm以上である場合には、光電変換層3における電子の移動距離が長くなるため、導電層4を設けたことによる効果が十分に発現する傾向にある。また、光電変換層3の厚さが30μm以下である場合には、光電変換層3に接触する光増感素子に十分な量の光を照射することができるため、光電変換素子の光電変換効率が向上する傾向にある。
【0058】
<導電層>
導電層4としては、導電性材料であれば特に限定なく用いることができ、たとえば、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン、ニッケル、タンタルおよび鉄からなる群から選択された少なくとも1種の金属または2種以上の合金などを用いることができ、なかでも光電変換層3とオーミック接触可能な材料を用いることが好ましい。導電層4に光電変換層3とオーミック接触可能な材料を用いた場合には、光電変換層3と導電層4との接触抵抗を低減することができ、光電変換素子の外部に取り出すことができる電流量を増大させることができるため、光電変換素子の光電変換効率が向上する傾向にある。
【0059】
導電層4としては、たとえば、ボロン、ガリウムおよびアルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種がドープされた酸化亜鉛、ニオブがドープされた酸化チタン、ITO、またはFTOなどの透明導電性金属酸化物などを用いることができる。
【0060】
キャリア輸送材料8にヨウ素などの腐食力の強い材料を用いた場合には、導電層4としては、ITO、FTO、チタンおよびタンタルからなる群から選択された少なくとも1種を用いることが好ましい。この場合には、キャリア輸送材料8による導電層4の腐食を有効に抑えることができる。なお、導電層4において、キャリア輸送材料8に対する耐腐食性が必要となる部分はキャリア輸送材料8との界面のみであるため、導電層4の表面のみを耐腐食性を有する材料で被覆してもよい。
【0061】
<キャリア輸送材料>
図1に示す実施の形態の光電変換素子においては、透明導電層2と、対極導電層5との間の封止材6で封止された空間には、キャリア輸送材料8が充填されており、キャリア輸送材料8中に光電変換層3が設けられている。すなわち、光電変換層3の空孔にはキャリア輸送材料8が入り込んでいる。
【0062】
キャリア輸送材料8としては、難揮発性溶媒と、酸化還元種とを含むものを用いることができ、たとえば、難揮発性溶媒中に酸化還元種を溶解させたものなどを用いることができる。
【0063】
難揮発性溶媒としては、たとえば、エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどの沸点を有しないイオン性液体、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3−メトキシプロピオニトリルなどのニトリル化合物、または水などの100℃以上の沸点を有する溶媒を用いることが好ましい。難揮発性溶媒として沸点を有しないイオン性液体、または100℃以上の沸点を有する溶媒を用いた場合には、光電変換素子の耐久性を向上させることができる傾向にある。また、難揮発性溶媒は、1種類の溶媒だけでなく、2種類以上を混合して用いることもできる。なお、本明細書において、「沸点」は、1atmの圧力における沸点を意味する。
【0064】
ここで、難揮発性溶媒の粘度は、1cp(0.001Pa・s)以上であることが好ましい。難揮発性溶媒の粘度が1cp以上である場合には、キャリア輸送材料8中のキャリア輸送を起因とする電子輸送時のロスが大きいことから、導電層4を形成したことによる効果が得られやすい傾向にある。なお、難揮発性溶媒の粘度は、たとえば従来から公知の粘度計などによって測定することができる。
【0065】
酸化還元種としては、たとえば、I-/I3-系、Br2-/Br3-系、Fe2+/Fe3+系およびキノン/ハイドロキノン系からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0066】
酸化還元種としては、金属ヨウ化物とヨウ素(I2)との組み合わせ、テトラアルキルアンモニウム塩とヨウ素(I2)との組み合わせ、または金属臭化物と臭素(Br2)との組み合わせを用いることが好ましい。この場合には、たとえばコバルト錯体またはフェロセンなどを酸化還元種として用いた場合と比較して良好なI−V曲線を有することができる。
【0067】
ここで、金属ヨウ化物としては、たとえば、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)およびヨウ化カルシウム(CaI2)からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0068】
また、テトラアルキルアンモニウム塩としては、たとえば、テトラエチルアンモニウムアイオダイド(TEAI)、テトラプロピルアンモニウムアイオダイド(TPAI)、テトラブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)およびテトラヘキシルアンモニウムアイオダイド(THAI)からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0069】
また、金属臭化物としては、たとえば、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)および臭化カルシウム(CaBr2)からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0070】
なかでも、酸化還元種としては、LiIとI2との組み合わせを用いることが好ましい。これは、キャリア輸送材料8中にLiカチオンが含まれる場合には、励起した色素から多孔質半導体層への電子注入効率が高くなるために、結果的に、得られる電流密度が高くなる傾向にあるためである。
【0071】
また、キャリア輸送材料8には、必要に応じて添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、たとえば、t−ブチルピリジン(TBP)などの窒素を含有する芳香族化合物、および/または、ジメチルプロピルイミダゾールアイオダイド(DMPII)、メチルプロピルイミダゾールアイオダイド(MPII)、エチルメチルイミダゾールアイオダイド(EMII)、エチルイミダゾールアイオダイド(EII)、ヘキシルメチルイミダゾールアイオダイド(HMII)などのイミダゾール塩などを用いることができる。
【0072】
キャリア輸送材料8中の酸化還元種の濃度は、上記の溶媒、電解質などの種類により適宜選択されるが、0.001モル/リットル以上1.5モル/リットル以下であることが好ましく、0.01モル/リットル以上0.7モル/リットル以下であることが好ましい。この場合には、キャリア輸送材料8中の酸化還元種の輸送が効率的に行なわれる傾向にある。
【0073】
キャリア輸送材料8の電気伝導率は、1.5S/m以下であることが好ましい。キャリア輸送材料8の電気伝導率が1.5S/m以下である場合には、キャリア輸送材料8から光増感素子への電子移動が効率的に行われないことから、導電層4を形成したことによる効果を十分に発現させることができる傾向にある。
【0074】
<対極>
対極12は、対極導電層5と、対極導電層5の表面上に設けられた触媒層7とから構成されている。対極導電層5は、電子を収集するとともに隣接する光電変換素子と電気的に接続することができる。また、触媒層7は、触媒能を有し、キャリア輸送材料8中の正孔を還元することができる。
【0075】
なお、本実施の形態においては、対極12は、対極導電層5と触媒層7とから構成されているが、対極導電層5が触媒能を有する場合、または触媒層7が高い導電性を有する場合には、対極導電層5および触媒層7のいずれか一方のみから対極12を構成してもよい。
【0076】
対極導電層5としては、導電性材料を用いることができ、たとえば、ITO、FTOおよびZnO等の金属酸化物の少なくとも1種、および/または、チタン、タングステン、金、銀、銅およびニッケル等の金属の少なくとも1種を含む導電性材料を用いることができる。なかでも、対極導電層5としては、チタンを用いることが好ましい。対極導電層5としてチタンを用いた場合には、対極導電層5の強度を大幅に向上させることができる。
【0077】
触媒層7としては、たとえば、白金および/またはカーボンを用いることが好ましい。触媒層7がカーボンからなる場合には、触媒層7に用いられるカーボンとしては、たとえば、カーボンブラック、グラファイト、ガラス炭素、アモルファス炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンホイスカー、カーボンナノチューブおよびフラーレンからなる群から選択された少なくとも1種などを用いることが好ましい。
【0078】
<封止材>
封止材6は、キャリア輸送材料8の揮発を抑制し、光電変換素子内への水など液体の浸入を抑制することができる。また、封止材6は、光透過性支持体1に作用する応力(衝撃)を吸収し、光電変換素子の長期使用時において光透過性支持体1に作用する撓みなどを吸収することができる。
【0079】
封止材6としては、たとえば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソブチレン系樹脂、ホットメルト樹脂およびガラスフリットからなる群から選択された少なくとも1種を含む単層、または当該単層を2層以上に重ねた複数層などを用いることができる。なお、キャリア輸送材料8の難揮発性溶媒として、ニトリル系溶剤またはカーボネート系溶剤を用いた場合には、封止材6は、シリコーン樹脂やホットメルト樹脂(例えば、アイオノマー樹脂)、ポリイソブチレン系樹脂およびガラスフリットからなる群から選択された少なくとも1種を含むことが特に好ましい。この場合には、キャリア輸送材料8に対する封止材6の腐食を抑えることができる傾向にある。
【0080】
<製造方法>
以下、図2〜図5の模式的断面図を参照して、実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例について説明する。
【0081】
まず、図2に示すように、光透過性支持体1の表面上に透明導電層2が設けられた透明電極板11を準備する工程を行なう。ここで、透明電極板11を準備する工程は、たとえば、市販されているものを準備してもよく、たとえば、光透過性支持体1の表面上に透明導電層2をたとえばスパッタリング法または熱CVD法などの方法によって積層することにより準備してもよい。
【0082】
次に、図3に示すように、透明導電層2の表面上に多孔質半導体層3aを形成する工程を行なう。ここで、多孔質半導体層3aを形成する工程は、特に限定されないが、たとえば以下の(i)〜(iv)の少なくとも1つの方法により行なうことができる。
(i)スクリーン印刷法またはインクジェット法などによって半導体材料からなる微粒子を含有するペーストを透明導電層2の表面上に塗布した後に焼成することによって透明導電層2の表面上に多孔質半導体層3aを形成する方法。
(ii)所望の原料ガスを用いてCVD法またはMOCVD法などによって、透明導電層2の表面上に多孔質半導体層3aを成膜する方法。
(iii)固体原料を用いたPVD法、蒸着法またはスパッタリング法などによって、透明導電層2の表面上に多孔質半導体層3aを成膜する方法。
(iv)ゾル−ゲル法または電気化学的な酸化還元反応を利用した方法などによって、透明導電層2の表面上に多孔質半導体層3aを形成する方法。
【0083】
なかでも、多孔質半導体層3aを形成する工程は、上記の(i)のスクリーン印刷法によって半導体材料からなる微粒子を含有するペーストを透明導電層2の表面上に塗布した後に焼成することによって透明導電層2の表面上に多孔質半導体層3aを形成する方法を用いることが好ましい。この場合には、比較的厚さのある多孔質半導体層3aを低コストで作製することができる傾向にある。
【0084】
膜状および/または粒子状の多孔質半導体層3aを形成する場合には、10m2/g以上200m2/g以下の比表面積の多孔質半導体層3aを形成することが好ましい。この場合には、光増感素子をより多く保持した光電変換層3を形成することによって、光電変換素子の光電変換効率を向上させることができる傾向にある。
【0085】
以下に、半導体粒子としてアナターゼ型酸化チタンを用いて、多孔質半導体層を形成する方法について、具体的に説明する。
【0086】
まず、チタンイソプロポキシド125mLを0.1Mの硝酸水溶液750mLに滴下して加水分解し、80℃で8時間加熱して、ゾル液を調製する。
【0087】
次に、上記のようにして調製したゾル液をチタン製オートクレーブ中で230℃で11時間加熱することによって酸化チタン粒子を成長させ、その後室温下で超音波分散を30分間行なうことにより、平均粒径(平均一次粒径)15nmの酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を調製する。
【0088】
次に、上記のようにして得られたコロイド溶液に、該コロイド溶液の2倍容量のエタノールを加え、これを回転数5000rpmで遠心分離して、酸化チタン粒子と溶剤とを分離させることによって、酸化チタン粒子を得る。
【0089】
次に、上記のようにして得られた酸化チタン粒子を洗浄した後、エチルセルロースとテルピネオールを無水エタノールに溶解させた溶液に酸化チタン粒子を加え、攪拌することによって、酸化チタン粒子を分散させる。
【0090】
次に、上記の酸化チタン粒子を分散させた溶液を真空条件下で加熱してエタノールを蒸発させることによって、酸化チタンペーストを得る。そして、最終的な組成として、たとえば、酸化チタン固体濃度20質量%、エチルセルロース10質量%、テルピネオール70質量%となるように濃度を調整する。なお、上記の最終的な組成は例示的なものであって、これに限定されるものではない。
【0091】
半導体粒子を含有する(懸濁させた)ペーストを調製するために用いる溶剤としては、上記以外にも、たとえば、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのグライム系溶剤、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、イソプロピルアルコールとトルエンとの混合液などの混合溶剤、または水などを用いることができる。
【0092】
次に、上記のようにして作製した酸化チタンペーストを透明導電層2の表面上にスクリーン印刷した後に乾燥させ、焼成することによって多孔質半導体層3aを作製することができる。ここで、酸化チタンペーストの乾燥条件および焼成条件は、それぞれ、光透過性支持体1や半導体粒子の種類によって、温度、時間および雰囲気などの条件を適宜設定することによって調節することができる。
【0093】
酸化チタンペーストの焼成は、たとえば、大気雰囲気下または不活性ガス雰囲気下で、50〜800℃程度の範囲内で、10秒〜12時間程度行なうことができる。また、酸化チタンペーストの乾燥および焼成は、それぞれ、たとえば、単一の温度で1回または温度を変化させて2回以上行なうことができる。なお、上記の条件で作製した酸化チタンからなる多孔質半導体層3aの比表面積は10m2/g以上200m2/g以下の範囲内にある。
【0094】
多孔質半導体層3aを構成する半導体粒子の平均粒径は、特に限定されないが、入射光を光電変換に有効利用するという点では、市販の半導体材料粉末のようにある程度粒径が揃っていることがより好ましい。
【0095】
次に、図4に示すように、光電変換層3および透明導電層2の表面上にそれぞれ導電層4を形成する工程を行なう。
【0096】
ここで、導電層4は、たとえば、透明導電層2と電気的に接続するようにして、蒸着法またはスパッタ法などによって光電変換層3の表面の少なくとも一部に形成することができる。
【0097】
また、光電変換層3は、たとえば、多孔質半導体層3aに光増感素子を吸着させることによって形成することができる。ここで、多孔質半導体層3aに光増感素子を吸着させる方法としては、たとえば、透明導電層2の表面上に形成された多孔質半導体層3aを、光増感素子を溶解した溶液に浸漬する方法を用いることができる。なお、浸漬条件は適宜調整することができる。
【0098】
光増感素子を溶解させる溶剤としては、たとえば、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類、ならびに水から選択された1種、または2種以上を混合して用いることができる。
【0099】
なお、光増感素子を溶解した溶液として、上記の溶剤に色素を溶解させた色素吸着用溶液を用いた場合には、色素吸着用溶液中の色素濃度は、色素および溶剤の種類により適宜調整することができるが、吸着機能(効率)を向上させるためには、できるだけ高濃度であることが好ましく、たとえば5×10-4モル/リットル以上であればよい。
【0100】
次に、図5に示すように、対極導電層5の表面上に触媒層7を形成することによって対極12を形成する工程を行なう。ここで、触媒層7として、白金を用いる場合には、触媒層7は、たとえば、蒸着法またはスパッタ法などのPVD法、塩化白金酸の熱分解または電着などの公知の方法により形成することができる。ここで、触媒層7の厚さは、たとえば、0.5nm以上1000nm以下とすることができる。
【0101】
触媒層7として、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどのカーボン材料を用いる場合には、触媒層7は、たとえば、任意の溶剤に分散してペースト状にしたカーボンをスクリーン印刷法などにより対極導電層5の表面上に塗布することにより形成することができる。ここでも、触媒層7の厚さは、たとえば、0.5nm以上1000nm以下とすることができる。
【0102】
対極導電層5の厚さは、対極導電層5の材料の比抵抗率に応じて適宜選択することが好ましい。対極導電層5が薄すぎると抵抗が高くなり、厚すぎるとキャリア輸送材料8の移動の妨げとなるためである。
【0103】
その後、図1に示すように、透明電極板11の透明導電層2と、対極12の触媒層7との間の領域にキャリア輸送材料8を設置する工程を行なう。キャリア輸送材料8を設置する工程は、たとえば、透明電極板11の光電変換層3の周囲を取り囲むようにして封止材6を設置し、透明電極板11の透明導電層2と、対極12の触媒層7とが向かい合うようにして透明電極板11と対極12とを配置して、透明電極板11と対極12とを封止材6により固定する。その後、透明電極板11に設けられた孔からキャリア輸送材料8を封止材6で取り囲まれた領域内に注入し、その後、孔を塞ぐことにより、図1に示す実施の形態の光電変換素子を作製することができる。
【0104】
<作用・効果>
本発明者は、難揮発性溶媒の粘度が高いことに起因する従来の光電変換素子の光電変換効率の低下は、以下のメカニズムによるものであると考えた。すなわち、難揮発性溶媒の粘度が高いために、光を吸収して励起した色素を還元する役割を担うイオンが、キャリア輸送材料8中を拡散する速度が遅くなり、光電変換層3の透明電極板11側に存在する色素などの光増感素子がカチオンである時間が長くなる。これにより、光電変換層3の対極12側に存在する光増感素子が光を吸収する確率が高くなる一方で、光電変換層3の対極12側で発生した電子が透明導電層2に到達するまでの距離が長くなるため、電子が光電変換層3の内部でトラップされてしまう確率が高くなり、電流密度の大幅な低下が引き起こされる。
【0105】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、上記のようにして作製した実施の形態の光電変換素子においては、キャリア輸送材料8の溶媒として難揮発性溶媒を用いるとともに、光電変換層3の対極12側の表面の少なくとも一部に導電層4を設け、導電層4を透明導電層2に電気的に接続されている。
【0106】
これにより、実施の形態の光電変換素子においては、光電変換素子の耐久性を向上させることができるとともに、光電変換層3の対極12側で発生した電子を導電層4から透明導電層2に導くことによって、電子が光電変換層3の内部でトラップされる確率を低くすることができることから、電流密度の大幅な低下を抑制して、光電変換効率の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0107】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例により本発明が限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、各層の厚みは段差計((株)東京精密製 E−VS−S28A)により測定した。
【0108】
<実施例1>
実施例1においては、図1に示す構造を有する光電変換素子を作製した。まず、ガラスからなる光透過性支持体1上にフッ素がドープされた酸化錫(FTO)からなる透明導電層2が成膜された、幅30mm×長さ30mm×厚さ1mmの透明電極板11(日本板硝子株式会社製、SnO2膜付ガラス)を準備した。
【0109】
次に、透明電極板11の透明導電層2側の表面上に、幅5mm×長さ5mmの多孔質半導体層のパターンを有するスクリーン版とスクリーン印刷機(ニューロング精密工業株式会社製、型番:LS−150)を用いて、市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製、商品名:D/SP)を塗布し、室温で1時間レベリングを行なった。
【0110】
次に、上記のようにして得られた塗膜を80℃に設定したオーブンで20分間乾燥し、さらに500℃に設定した焼成炉(株式会社デンケン製、型番:KDF P−100)を用いて空気中で60分間焼成した。上記の塗布、乾燥および焼成工程を繰り返して、厚さ12μm程度の多孔質半導体層を得た。さらに、得られた多孔質半導体層上に粒径の異なる酸化チタンペースト(日揮触媒化成株式会社製、PST−400C)を用い、さらに上記の塗布、乾燥および焼成工程を経ることで、最終的に、厚さ18μm程度の多孔質半導体層を形成した。
【0111】
次に、幅6mm×長さ12mmの長方形状の開口部が並ぶメタルマスクを用意し、多孔質半導体層および透明導電層2の表面上に、電子ビーム蒸着器ei−5(アルバック株式会社製)を用いて蒸着速度150nm/secでチタン膜を成膜することによって、厚さ約300nmの導電層4を形成した。
【0112】
次に、予め調製しておいた色素吸着用溶液に上記の導電層4の形成後の透明電極板11を室温で100時間浸漬させ、上記の導電層4の形成後の透明電極板11をエタノールで洗浄し、約60℃で約5分間乾燥させることによって、多孔質半導体層に色素を吸着させて光電変換層3を形成した。
【0113】
上記の色素吸着用溶液は、上記の式(II)の色素(Solaronix社製、商品名:Ruthenium620 1H3TBA)を体積比1:1のアセトニトリルとt−ブタノールの混合溶剤に溶解させて調製した濃度4×10-4モル/リットルの溶液であった。
【0114】
次に、上記の透明電極板(日本板硝子株式会社製、SnO2膜付ガラス)をもう1枚用意して対極導電層5とし、対極導電層5のSnO2膜の表面上に、触媒層7として、スパッタ法により厚さ約7nmの白金膜を成膜することによって、対極12を形成した。
【0115】
次に、透明電極板11の透明電極層2と、対極12の触媒層7とを、光電変換層3の周囲を囲う形に切り出した熱融着フィルム(デュポン社製、ハイミラン1855)を用いて貼り合せ、約100℃に設定したオーブンで10分間加熱することによって、これらを圧着した。
【0116】
次に、透明電極板11に予め設けてあった孔からキャリア輸送材料8として電解液を注入し、その後、紫外線硬化樹脂(スリーボンド社製、型番:31X−101)を用いて孔を封止することによって、キャリア輸送材料8を充填して、実施例の光電変換素子を得た。
【0117】
上記の電解液は、溶剤である3−メトキシプロピオニトリル(沸点:165℃、粘度:1.1cp)に、酸化還元種としてGuSCN(チオシアン酸グアニジン)を濃度0.1モル/リットル、I2(キシダ化学社製)を濃度0.15モル/リットルになるように、さらに添加剤としてN−メチルベンズイミダゾールを濃度0.5モル/リットル、メチルプロピルイミダゾールアイオダイド(四国化成工業社製)を濃度0.8モル/リットルになるように添加して溶解させたものである。この電解液の電気伝導率は1.5S/m以下であった。
【0118】
<実施例2>
実施例1において、細孔径の異なる光電変換層3(表1参照)を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法により実施例2の光電変換素子を作製した。
【0119】
<比較例1>
実施例1において、導電層4を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例1の光電変換素子を作製した。
【0120】
<比較例2>
実施例2において、導電層4を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様の方法により比較例2の光電変換素子を作製した。
【0121】
<比較例3>
実施例1において、3−メトキシプロピオニトリルに代えて、揮発性溶媒であるアセトニトリル(沸点:82℃、粘度:0.341cp)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例3の光電変換素子を作製した。
【0122】
<比較例4>
比較例3において、導電層4を形成しなかったこと以外は、比較例3と同様の方法により比較例4の光電変換素子を作製した。
【0123】
<光電変換効率の測定>
実施例1および2、ならびに比較例1〜4の光電変換素子に、それぞれ、集電電極部としてAgペースト(藤倉化成株式会社製、商品名:ドータイト)を公知の方法により塗布した。次いで、それぞれの光電変換素子の受光面に、開口部の面積が0.22cm2である黒色のマスクを設置して、それぞれの光電変換素子に1kW/m2の強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射して、光電変換効率を測定した。
【0124】
【表1】

【0125】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の構成要件を満たす実施例1および2の光電変換素子は、従来の光電変換素子である比較例1および2の光電変換素子に比べて、光電変換効率が向上することが確認できた。また、比較例3および比較例4から明らかなように、低沸点を有する揮発性溶媒であり、かつ低粘度溶媒であるアセトニトリルを用いた場合は、導電層4を形成したことによる光電変換効率の向上効果を確認できなかった。
【0126】
また、溶媒粘度が高い場合、細孔径が大きな光電変換層3を有することで、細孔径が小さな光電変換層3を有する場合と比較して、キャリア輸送材料8中のキャリア輸送を起因とする電子輸送時のロスが小さくなり、これにより、導電層4を形成したことによる効果は低下すると予測された。しかしながら、実施例1および2ならびに比較例1および2の光電変換素子をそれぞれ比較することにより、細孔径が大きな光電変換層3を有する光電変換素子において、細孔径が小さな光電変換層3を有する光電変換素子よりも、導電層4を形成したことによる効果が顕著であることが確認できた。
【0127】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の光電変換素子は、色素増感太陽電池などの湿式太陽電池に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0129】
1 光透過性支持体、2 透明導電層、3 光電変換層、3a 多孔質半導体層、4 導電層、5 対極導電層、6 封止材、7 触媒層、8 キャリア輸送材料、11 透明電極板、12 対極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性支持体と、
前記光透過性支持体上に設けられた透明導電層と、
前記透明導電層上に設けられた、多孔質半導体層を含む光電変換層と、
前記光電変換層の少なくとも一部に設けられた導電層と、
前記透明導電層と向かい合うようにして設けられた対極導電層と、
前記透明導電層と前記対極導電層との間に設けられたキャリア輸送材料と、を備え、
前記キャリア輸送材料は、難揮発性溶媒と、酸化還元種と、を含み、
前記導電層は、前記透明導電層と電気的に接続されている、光電変換素子。
【請求項2】
前記難揮発性溶媒が沸点を有しない、または前記難揮発性溶媒の沸点が100℃以上である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記光電変換層の厚さが、4μm以上30μm以下である、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記難揮発性溶媒の粘度が、1cp以上である、請求項1から3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記キャリア輸送材料の電気伝導率が、1.5S/m以下である、請求項1から4のいずれかに記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−41736(P2013−41736A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177394(P2011−177394)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】