説明

光電子増倍管

【課題】紫外光を検出する光電子増倍管において、ソーラブラインド特性を高精度に実現できる光電子増倍管を提供する。
【解決手段】光電子増倍管1は、被検出光を取り込むための受光面板11を有する真空容器10と、真空容器10内に設けられ、被検出光を光電変換して光電子を放出する光電面20と、二次電子放出面を有し真空容器10内に配設された複数段のダイノード25a〜25hを含み、光電面20から放出された光電子を二次電子増倍する電子増倍部24とを備える。光電面20は、AlGa1−XN(0≦X<1)を含む。電子増倍部24の複数段のダイノード25a〜25hのうち、光電面20から光電子を受ける第1段目のダイノード25aを含んで連続するダイノード25a〜25dは、ベリリウム銅合金基板と、該ベリリウム銅合金基板に形成された酸化ベリリウムを含む二次電子放出面とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子増倍管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の光電子増倍管の一例として、特許文献1に開示されたものがある。この光電子増倍管は、真空外囲器(真空容器)と、真空外囲器の一端に設けられた透明なフェースプレート(窓部材)と、フェースプレートの内面に形成された光電子放射陰極(光電面)と、複数のダイノードとを備えている。各ダイノードはいわゆる箱型(ボックス型)の形状を有しており、光電子放射陰極からの光電子を各ダイノード間で受け渡されるように配置されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−262341
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光電子増倍管の出力特性において、長波長側の感度波長限界(長波長側カットオフ波長)は光電面の感度波長範囲によって定まり、短波長側の感度波長限界(短波長側カットオフ波長)は窓部材のカットオフ波長によって定まる。しかしながら、窓部材から取り込まれた入射光の一部が、僅かながら光電面を透過して真空容器内の他の部位(例えばダイノード)に到達すると、その部位の構成材料が入射光を受けて光電子を放出することがある。このとき、該部位の構成材料の長波長側カットオフ波長が光電面よりも長いと、光電面の分光感度特性とは異なる意図しない長波長の感度特性が光電子増倍管の出力に生じてしまう。これにより、光電子増倍管の出力にノイズ成分が付加されてしまい、S/N比を低下させる一因となる。
【0005】
ここで、図6は、ダイノードの二次電子放出面の材料として一般的に用いられるアルカリアンチモン(Cs−K−Sb)の分光感度特性を示すグラフである。図6に示すように、アルカリアンチモンの分光感度特性は、可視域である波長750nmまで延びている。従って、長波長側カットオフ波長が紫外域(波長350nm以下)に含まれるような、可視域に対する感度が極めて小さいソーラブラインド特性を有する光電面を用いた場合であっても、上述したように入射光の一部がダイノードへ到達してしまうと、可視域の波長成分に応じた光電子がダイノードから放出されてしまう。これにより、光電子増倍管の感度波長範囲が可視域まで延びてしまい、ソーラブラインド特性が劣化してしまう。
【0006】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、紫外光を検出する光電子増倍管において、ソーラブラインド特性を高精度に実現できる光電子増倍管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明による光電子増倍管が有する構成について説明する。なお、以下の説明において、長波長側の感度波長限界とは、分光感度が最大分光感度の1パーセントまで下がる波長をいうものとする。
【0008】
本発明による第1の光電子増倍管は、入射した被検出光を取り込むための窓部材を有する真空容器と、真空容器内に設けられ、被検出光を光電変換して光電子を放出する光電面と、二次電子放出面を有し真空容器内に配設された複数段のダイノードを含み、光電面から放出された光電子を二次電子増倍する電子増倍部とを備え、光電面がAlGa1−XN(0≦X<1)を含むとともに、電子増倍部の複数段のダイノードのうち、光電面から光電子を受ける第1段目のダイノードを含んで連続する少なくとも2段のダイノードにおける二次電子放出面は、長波長側の感度波長限界がAlGa1−XNの長波長側の感度波長限界を超えない材料を含むことを特徴とする。
【0009】
光電面を透過した一部の入射光は、光電面から電子を受ける第1段目のダイノードへ主に到達するが、第1段目のダイノードを経て第2段目のダイノードへ到達する場合がある。ここで、光電面に用いられるAlGa1−XNは、紫外域に含まれる波長155nm〜350nmの光に対して感度を有する。また、上記した第1の光電子増倍管においては、第1段目のダイノードを含んで連続する少なくとも2段のダイノードの二次電子放出面に含まれる材料の長波長側の感度波長限界が、光電面材料(AlGa1−XN)の長波長側の感度波長限界(350nm)を超えない。すなわち、入射光が到達する範囲のダイノードにおける長波長側の感度波長限界が、光電面材料の長波長側の感度波長限界を超えない。従って、上記した第1の光電子増倍管によれば、光電子増倍管における長波長側の感度特性が光電面(AlGa1−XN)の分光感度特性とほぼ一致するので、AlGa1−XNが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管の感度特性として劣化させることなく用いることができる。これにより、ソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【0010】
また、第1の光電子増倍管は、二次電子放出面が、酸化ベリリウム、MgO、Cs-I、ダイヤモンド、Cs-Te、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Teのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴としてもよい。上記した各材料は、二次電子放出面として好適に機能するとともに、その分光感度特性における長波長側の感度波長限界がAlGa1−XNの長波長側の感度波長限界を超えない(例えば、酸化ベリリウム:160nm、MgO:250nm、Cs-I:200nm、ダイヤモンド:250nm、Cs-Te:320nm)。従って、この第1の光電子増倍管によれば、長波長側の感度波長限界が光電面材料の長波長側の感度波長限界を超えない材料を含む二次電子放出面を好適に実現できる。
【0011】
また、第1の光電子増倍管は、窓部材がサファイア及びAlNのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴としてもよい。光電面に用いられるAlGa1−XNは、波長155nm〜350nmの光に対して感度を有する。また、窓部材に用いられるサファイア及びAlNは、そのカットオフ波長が350nmよりも短いので、光電面が感度を有する波長範囲のうち長波長側の一部または全部の波長範囲の光を好適に透過できる。従って、この光電子増倍管によれば、波長350nm以下の紫外光を好適に検出できる。
【0012】
また、本発明による第2の光電子増倍管は、入射した被検出光を取り込むための窓部材を有する真空容器と、真空容器内に設けられ、被検出光を光電変換して光電子を放出する光電面と、二次電子放出面を有し真空容器内に配設された複数段のダイノードを含み、光電面から放出された光電子を二次電子増倍する電子増倍部とを備え、光電面の長波長側の感度波長限界が紫外域に含まれるとともに、電子増倍部の複数段のダイノードのうち、光電面から光電子を受ける第1段目のダイノードを含んで連続する少なくとも2段のダイノードにおける二次電子放出面が、MgO、Cs-I、ダイヤモンド、Cs-Te、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Teのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴とする。
【0013】
上記した各材料は、二次電子放出面として好適に機能するとともに、その分光感度特性における長波長側の感度波長限界が紫外域を超えない(例えば、MgO:250nm、Cs-I:200nm、ダイヤモンド:250nm、Cs-Te:320nm)。また、光電面を透過した一部の入射光は、上述したように第1段目のダイノードを経て第2段目のダイノードへ到達する場合がある。上記した第2の光電子増倍管においては、第1段目のダイノードを含んで連続する少なくとも2段のダイノードの二次電子放出面が、上記各材料のうち少なくとも一種類の材料を含んでいる。従って、上記した第2の光電子増倍管によれば、入射光が到達する範囲のダイノードにおける長波長側の感度波長限界が紫外域を超えないので、光電面が有するソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【0014】
また、上記第2の光電子増倍管は、光電面がCsIを含み、窓部材がMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアのうち少なくとも一種類の材料を含み、少なくとも2段のダイノードにおける二次電子放出面が、MgO、Cs-I、Cs-Br、Rb-I、K-I、Na-I、及びLi-Iのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴としてもよい。光電面に用いられるCs-Iは、紫外域に含まれる波長115nm〜200nmの光に対して感度を有する。また、窓部材に用いられるMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアは、カットオフ波長が200nmよりも短いので、光電面が感度を有する波長範囲のうち長波長側の一部または全部の波長範囲の光を好適に透過できる。従って、この光電子増倍管によれば、波長200nm以下の紫外光を好適に検出できる。また、上記少なくとも2段のダイノードに用いられる各材料の長波長側の感度波長限界は、光電面材料であるCs-Iの長波長側の感度波長限界(200nm)よりも長い波長に対する感度が、無視できる程度に極めて小さい。例えば、MgOの長波長側の感度波長限界はCs-Iよりも長い(250nm)が、その感度(量子効率)が極めて小さい。また、Cs-I、Cs-Br、Rb-I、K-I、Na-I、及びLi-Iの長波長側の感度波長限界は、それぞれCs-Iの長波長側の感度波長限界を超えない。従って、この光電子増倍管によれば、光電子増倍管における長波長側の感度特性が光電面(Cs-I)の分光感度特性とほぼ一致するので、Cs-Iが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管の感度特性として劣化させることなく用いることができる。これにより、ソーラブラインド特性をより高精度に実現できる。
【0015】
また、第1または第2の光電子増倍管は、複数段のダイノードのうち、少なくとも2段のダイノードに対して後段側に配置された別のダイノードにおける二次電子放出面が、アルカリ金属及びSbから成る化合物を含むことを特徴としてもよい。アルカリ金属及びSbから成る化合物(例えばCs-K-Sb)は、上述したMgO、Cs-I、ダイヤモンド、Cs-Te等よりも二次電子放出効率が高い。従って、複数段のダイノードのうち、入射光が到達する可能性が高い前段側のダイノード(第1段ダイノードを含む)には、MgO、Cs-I、ダイヤモンド、Cs-Te等のように長波長側の感度波長限界が紫外域を超えない二次電子放出面を採用し、入射光が到達する可能性が低い後段側のダイノードには、アルカリ金属及びSbから成る化合物を含む二次電子放出面を採用するとよい。これにより、ソーラブラインド特性を高精度に実現できるとともに、電子増倍部において十分な二次電子増倍率を確保できる。
【0016】
また、本発明による第3の光電子増倍管は、入射した被検出光を取り込むための窓部材を有する真空容器と、真空容器内に設けられ、被検出光を光電変換して光電子を放出する光電面と、二次電子放出面を有し真空容器内に配設された複数段のダイノードを含み、光電面から放出された光電子を二次電子増倍する電子増倍部とを備え、光電面の長波長側の感度波長限界が紫外域に含まれるとともに、電子増倍部の複数段のダイノードのうち、光電面から光電子を受ける第1段目のダイノードを含んで連続する少なくとも2段のダイノードにおける二次電子放出面が酸化ベリリウムを含み、少なくとも2段のダイノードに対して後段側に配置された別のダイノードにおける二次電子放出面が、アルカリ金属及びSbから成る化合物を含むことを特徴とする。
【0017】
酸化ベリリウムは、二次電子放出面として好適に機能するとともに、その分光感度特性における長波長側の感度波長限界(160nm)が紫外域を超えない。また、光電面を透過した一部の入射光は、上述したように第1段目のダイノードを経て第2段目のダイノードへ到達する場合がある。上記した第3の光電子増倍管においては、第1段目のダイノードを含んで連続する少なくとも2段のダイノードの二次電子放出面が酸化ベリリウムを含んでいる。従って、入射光が到達する範囲のダイノードにおける長波長側の感度波長限界が紫外域を超えないので、光電面が有するソーラブラインド特性を高精度に実現できる。更に、上記した第3の光電子増倍管においては、上記少なくとも2段のダイノードに対して後段側に配置された別のダイノードにおける二次電子放出面が、アルカリ金属及びSbから成る化合物を含む。アルカリ金属及びSbから成る化合物(例えばCs-K-Sb)は、酸化ベリリウムよりも二次電子放出効率が高い。従って、上記した第3の光電子増倍管によれば、ソーラブラインド特性を高精度に実現できるとともに、電子増倍部において十分な二次電子増倍率を確保できる。
【0018】
また、上記第3の光電子増倍管は、光電面がCsIを含み、窓部材がMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴としてもよい。光電面がCs-Iを含み、窓部材がMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアのうち少なくとも一種類の材料を含むことにより、上述したように波長200nm以下の紫外光を好適に検出できる。また、上記少なくとも2段のダイノードに用いられる酸化ベリリウムの長波長側の感度波長限界(160nm)は、光電面材料であるCs-Iの長波長側の感度波長限界(200nm)を超えない。従って、この光電子増倍管によれば、光電子増倍管における長波長側の感度特性が光電面(Cs-I)の分光感度特性とほぼ一致するので、Cs-Iが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管の感度特性として劣化させることなく用いることができる。これにより、ソーラブラインド特性をより高精度に実現できる。
【0019】
また、上記第2または第3の光電子増倍管は、光電面がCsTeを含み、窓部材がMgF、CaF、BaF、LiF、石英、サファイア、及びダイヤモンドのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴としてもよい。光電面に用いられるCs-Teは、紫外域に含まれる波長115nm〜320nmの光に対して感度を有する。また、窓部材に用いられるMgF、CaF、BaF、LiF、石英、サファイア、及びダイヤモンドは、カットオフ波長が320nmよりも短いので、光電面が感度を有する波長範囲のうち長波長側の一部または全部の波長範囲の光を好適に透過できる。従って、この光電子増倍管によれば、波長320nm以下の紫外光を好適に検出できる。また、上記少なくとも2段のダイノードに用いられる各材料の長波長側の感度波長限界(例えば、酸化ベリリウム:160nm、Mg-O:250nm、Cs-I:200nm、ダイヤモンド:250nm、Cs-Te:320nm)は、光電面材料であるCsTeの長波長側の感度波長限界(320nm)を超えない。従って、この光電子増倍管によれば、光電子増倍管における長波長側の感度特性が光電面(Cs-Te)の分光感度特性とほぼ一致するので、Cs-Teが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管の感度特性として劣化させることなく用いることができる。これにより、ソーラブラインド特性をより高精度に実現できる。
【0020】
また、第1ないし第3の光電子増倍管は、電子増倍部の複数段のダイノードが、板状に形成されて互いに積層されるとともに、内壁に二次電子放出面が形成され所定方向に並んで形成された複数の電子増倍孔を有しており、第1段目のダイノードが光電面に対向して配置されていることを特徴としてもよい。このような、いわゆるメタルチャンネル型の光電子増倍管においては、入射する被検出光の入射方向に板状のダイノードが積層されている為、光電面を透過した入射光が第1段目のダイノードを透過して第2段目以降のダイノードへ到達し易い。従って、このようなダイノード構造をもつ光電子増倍管においては、上記した第1ないし第3の光電子増倍管のような構造を採用することによってソーラブラインド特性をより高精度に実現できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、紫外光を検出する光電子増倍管において、ソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明による光電子増倍管の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明に係る光電子増倍管の一実施形態の構成を示す側面断面図である。本実施形態の光電子増倍管は、紫外域の被検出光に対して感度を有するとともに、可視光に対する感度が極端に小さいソーラブラインド特性を有する光電子増倍管である。なお、図1には説明の便宜の為にXYZ直交座標系が示されている。
【0024】
この光電子増倍管1は、真空容器10の内部に複数段ダイノードからなる電子増倍部24を配設して構成されている。真空容器10は、入射光を受ける円形の受光面板11と、受光面板11の外周部に配設される円筒形の金属側管12と、基台部を構成する円板状のステム13とによって構成されている。
【0025】
受光面板11は、光電子増倍管1に入射した被検出光を取り入れるための窓部材である。受光面板11は、真空容器10の外側に位置して入射光を受ける光入射面11aと、真空容器10の内側に位置する内面11bとを有する。図1においては、受光面板11の光入射面11a及び内面11bは共にXY平面と平行に設けられている。真空容器10の内部における受光面板11の内面11bには光電面20が形成されており、電位0Vに保持されている。この光電面20の組立時における熱的損傷を防ぐために、受光面板11及び金属側管12はインジウムシール14によるコールドシールによって接合され、その外側は保持リング14aによって保持されている。
【0026】
電子増倍部24は、光電面20から放出された光電子を二次電子増倍するための部材である。電子増倍部24は、方形の平板状の金属部材に複数の電子増倍孔28が形成され、電子増倍孔28の内壁に二次電子放出面が形成されたメタルチャンネル型のダイノード25a〜25hをZ軸方向に複数段積層して構成されている。複数の電子増倍孔28は、それぞれY軸方向に沿って延びており、X軸方向(所定方向)に並んでスリット状に配列されている。複数段のダイノード25a〜25hのうち、最上部(Z軸正方向における最端部)に位置する第1段目のダイノード25aは、光電面20に対向して配置されている。また、ダイノード25hの下方(Z軸負方向)には、アノード電極26及び最終段ダイノード27が順に配設されている。光電面20と第1段ダイノード25aとの間には、光電面20からの光電子を第1段ダイノード25aへ向けて集束するための集束電極21が配設されている。
【0027】
基台部となるステム13には、外部の電圧端子と接続して集束電極21、各ダイノード25a〜25h、27などに所定の電圧を与えるピン17が貫通されている。各ピン17は、テーパー状のハーメチックガラス18によってステム13に固定されている。また、上述した電子増倍部24は、ステム13上に載置されている。
【0028】
ここで、受光面板11、光電面20、及び各ダイノード25a〜25hの構成材料について説明する。光電面20は、紫外域の被検出光に対して感度を有し且つ可視光に対して感度を有しない(すなわち、長波長側の感度波長限界が紫外域に含まれる)材料、例えばAlGa1−XN(0≦X<1)、Cs-Te、及びCs-Iのうち少なくとも一種類の材料を含んで構成されている。また、受光面板11は、その短波長側カットオフ波長が光電面20の長波長側の感度波長よりも短い材料、例えばMgF、CaF、BaF、LiF、石英(合成石英或いは溶融石英)、サファイア、ダイヤモンド、及びAlNのうち少なくとも一種類の材料を含んで構成されている。
【0029】
ダイノード25a〜25hのうち、第1段目のダイノード25aを含み連続する少なくとも2段のダイノード(例えば、連続する4段のダイノード25a〜25d)は、ベリリウム銅合金基板と、該ベリリウム銅合金基板に形成された電子増倍孔28の内壁に形成された酸化ベリリウムを含む二次電子放出面とを有する。或いは、これら4段のダイノード25a〜25dは、ステンレス(SUS)基板と、該ステンレス基板に形成されたMgO、Cs-I、ダイヤモンド、Cs-Te、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Teからなる材料群のうち少なくとも一種類の材料を含む二次電子放出面とを有してもよい。この場合、ダイノード25a〜25dの二次電子放出面は、ステンレス基板に形成された電子増倍孔28の内壁に形成される。また、上記少なくとも2段のダイノード(ダイノード25a〜25d)に対して後段側に配置された別のダイノード25e〜25hは、二次電子放出能を重要視した選択をするのが好ましく、例えばステンレス基板と、該基板に形成されたアルカリ金属及びSbから成る化合物(例えばCs-K-Sb、Cs-Sbなど)を含む二次電子放出面とを有する。ダイノード25e〜25hの二次電子放出面は、基板に形成された電子増倍孔28の内壁に形成される。
【0030】
表1は、光電面20、受光面板11、並びにダイノード25a〜25dの基板及び二次電子放出面における構成材料の好適な組み合わせを示す表である。
【表1】

【0031】
ダイノード25a〜25dの基板材料として挙げられているベリリウム銅合金は、表面が酸化(酸化ベリリウム)することにより二次電子放出面として好適に機能する。また、非磁性であるベリリウム銅合金基板をダイノード25a〜25dに用いることにより、電子増倍部24内を電子(光電子、二次電子)が安定して飛行できる。
【0032】
ここで、図2のグラフG1は、ベリリウム銅合金を酸化させたもの、つまり酸化ベリリウムの分光感度特性を示している。図2に示すように、酸化ベリリウムの分光感度特性における長波長側の感度波長限界は約160nmであり、紫外域を超えない。また、基板材料であるベリリウム銅合金についても同様である。すなわち、可視光に対するダイノード25a〜25dの感度は無視できる程度に極めて小さい。従って、光電面20を透過した一部の入射光がダイノード25a〜25dへ到達するような場合であっても、ダイノード25a〜25dの基板材料としてベリリウム銅合金を用い、二次電子放出面として酸化ベリリウムを用いることにより、光電子増倍管1のソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【0033】
また、光電面20を透過した一部の入射光は、光電面20から光電子を受ける第1段目のダイノード25aへ主に到達するが、入射角度等の入射光の条件によっては、第1段目のダイノード25aを経て第2段目のダイノード25bへ到達する場合がある。光電子増倍管1においては、第1段目のダイノード25aを含んで連続する少なくとも2段のダイノード(本実施形態では4段のダイノード25a〜25d)が、ベリリウム銅合金基板と、該ベリリウム銅合金基板に形成された酸化ベリリウムを含む二次電子放出面とを有する。従って、本実施形態の光電子増倍管1によれば、入射光が到達する範囲のダイノード25a〜25dにおける長波長側の感度波長限界が紫外域を超えないので、ソーラブラインド特性をより高精度に実現できる。
【0034】
ここで、図3(a)のグラフG2は、光電面20の材料としてAlGaNを用い、ダイノード25a〜25dの基板材料としてベリリウム銅合金を用い、二次電子放出面を酸化ベリリウムとした光電子増倍管1の感度特性を示すグラフである。なお、ダイノード25e〜25hの二次電子放出面には、アルカリアンチモン(Cs-K-Sb)を用いている。また、図3(b)のグラフG3は、比較のため、光電面にAlGaNを用い、全てのダイノードの二次電子放出面にCs-K-Sbを用いた光電子増倍管における感度特性を示すグラフである。なお、図3(b)において、グラフG4はAlGaN光電面の分光感度特性を示している。
【0035】
図3(b)のグラフG3に示すように、光電面として良好なソーラブラインド特性を有する(350nmより長い波長の可視光に対する感度が極めて小さい)AlGaNを用いた場合であっても、全てのダイノードの二次電子放出面にCs-K-Sbを用いると、可視光に対する感度が上昇してしまい、光電子増倍管のソーラブラインド特性が劣化することとなる。これは、光電面を透過した可視域の波長成分がダイノードに到達することにより、Cs-K-Sb二次電子放出面から光電子が放出されることに起因する。なお、Cs-K-Sbの分光感度特性は、図6に示したとおりである。
【0036】
これに対し、ダイノード25a〜25dの基板材料としてベリリウム銅合金を用い、二次電子放出面を酸化ベリリウムとした場合、可視光に対するダイノード25a〜25dの感度は無視できる程度に極めて小さくなるので、光電面20を透過した可視域の波長成分がダイノード25a〜25dに到達したとしても、光電子増倍管1のソーラブラインド特性は劣化しない。従って、図3(a)に示すように、本実施形態の光電子増倍管1における感度特性は、良好なソーラブラインド特性となる。
【0037】
また、上述したように、ダイノード25a〜25dにおける二次電子放出面として、Cs-I、Cs-Te、MgO、ダイヤモンド、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Teからなる材料群のうち少なくとも一種類の材料を用いても良い。ここで、図4のグラフG5及びG6は、それぞれCs-I及びCs-Teの分光感度特性を示すグラフである。また、図5(a)のグラフG7は、MgOの分光感度特性を示すグラフであり、図5(b)のグラフG8は、ダイヤモンドの分光感度特性を示すグラフである。
【0038】
図4及び図5(a)、(b)のグラフG5〜G8に示すように、Cs-I、Cs-Te、MgO、及びダイヤモンドの分光感度特性における長波長側の感度波長限界は、それぞれ200nm、320nm、250nm、及び250nmであり、紫外域を超えない。すなわち、可視光に対するダイノード25a〜25dの感度は無視できる程度に極めて小さい。また、図示しないが、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Teについても同様である。従って、光電面20を透過した一部の入射光がダイノード25a〜25dへ到達するような場合であっても、ダイノード25a〜25dに上記材料群のうち少なくとも一種類の材料を用いることにより、光電子増倍管1のソーラブラインド特性を高精度に実現できる。特に、Cs-I、Cs-Te、MgO、及びダイヤモンドは、その製造が容易であり、二次電子放出面として好適である。また、上述したように、入射角度等の入射光の条件によっては、第1段目のダイノード25aを経て第2段目のダイノード25bへ到達する場合がある。従って、少なくとも2段のダイノード(ダイノード25a〜25d)における二次電子放出面が、上記材料群のうち少なくとも一種類の材料を用いて形成されることにより、ソーラブラインド特性をより高精度に実現できる。
【0039】
また、二次電子放出面として酸化ベリリウム以外の上記材料群を用いる場合には、ダイノード25a〜25dにステンレス基板を用いても良い。非磁性であるステンレス基板を用いることにより、電子増倍部24内を電子(光電子、二次電子)が安定して飛行できる。また、ステンレスは良好なソーラブラインド特性を有する。
【0040】
また、表1に示すように、光電面20がCs-Iを含んで構成される場合、受光面板11の構成材料としてはMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアのうち少なくとも一種類が好適であり、特にMgFが最も好適である。光電面20に用いられるCs-Iは、紫外域に含まれる波長115nm〜200nmの光に対して感度を有する。また、受光面板11に用いられるMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアは、カットオフ波長が200nmよりも短いので、光電面20(Cs-I)が感度を有する波長範囲のうち長波長側の一部または全部の波長範囲の光を好適に透過できる。従って、このような組み合わせにより、波長200nm以下の紫外光を好適に検出できる。
【0041】
また、光電面20としてCs-Iが用いられる場合、ダイノード25a〜25dにおける基板材料及び二次電子放出面は、Cs-Iの長波長側の感度波長限界(200nm)よりも長い波長に対する感度が、全く無いか、或いは無視できる程度に極めて小さいことが好ましい。例えば、ダイノード25a〜25dに酸化ベリリウムが用いられる場合、酸化ベリリウムの長波長側の感度波長限界(160nm)は、光電面20の材料であるCs-Iの長波長側の感度波長限界(200nm)よりも短い。従って、光電子増倍管1における長波長側の感度特性を光電面20(Cs-I)の分光感度特性に好適に一致させることができるので、Cs-Iが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管1の感度特性として劣化させることなく用いることができる。
【0042】
また、光電面20としてCs-Iが用いられる場合、ダイノード25a〜25dにおける二次電子放出面として、Cs−I、MgO、Cs-Br、Rb-I、K-I、Na-I、及びLi-Iのうち少なくとも一種類の材料が用いられてもよい。二次電子放出面としてCs-Iが用いられる場合には、この二次電子放出面の長波長側の感度波長限界は、光電面(Cs-I)と同じとなる。また、MgOの長波長側の感度波長限界は、図5(a)のグラフG7に示したようにCs-Iよりも長い(250nm)が、その感度(量子効率)がCs-Iと比較して極めて小さい。また、Cs-Br、Rb-I、K-I、Na-I、及びLi-Iの長波長側の感度波長限界は、それぞれCs-Iよりも短い。従って、ダイノード25a〜25dにおける二次電子放出面として、Cs-I、MgO、Cs-Br、Rb-I、K-I、Na-I、及びLi-Iのうち少なくとも一種類の材料が用いられることにより、光電子増倍管1における長波長側の感度特性を光電面20(Cs-I)の分光感度特性にほぼ一致させることができる。これにより、Cs-Iが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管1の感度特性として劣化させることなく用いることができるので、ソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【0043】
また、表1に示すように、光電面20がCs-Teを含んで構成される場合、受光面板11の構成材料としてはMgF、CaF、BaF、LiF、石英、サファイア、及びダイヤモンドのうち少なくとも一種類が好適であり、特にMgFが最も好適である。光電面20に用いられるCs-Teは、紫外域に含まれる波長115nm〜320nmの光に対して感度を有する。また、受光面板11に用いられるMgF、CaF、BaF、LiF、石英、サファイア、及びダイヤモンドは、カットオフ波長が320nmよりも短いので、光電面20(Cs-Te)が感度を有する波長範囲のうち長波長側の一部または全部の波長範囲の光を好適に透過できる。従って、このような組み合わせにより、波長320nm以下の紫外光を好適に検出できる。
【0044】
また、光電面20としてCs-Teが用いられる場合、ダイノード25a〜25dにおける基板材料及び二次電子放出面は、Cs-Teの長波長側の感度波長限界(320nm)よりも長い波長に対する感度が、全く無いか、或いは無視できる程度に極めて小さいことが好ましい。例えば、二次電子放出面に用いられる上記材料群(酸化ベリリウム、Cs-I、Cs-Te、MgO、ダイヤモンド、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Te)の長波長側の感度波長限界(例えば、酸化ベリリウム:160nm、MgO:250nm、Cs-I:200nm、ダイヤモンド:250nm、Cs-Te:320nm)は、光電面20の材料であるCs-Teの長波長側の感度波長限界(320nm)と同じか、それよりも短い。従って、光電子増倍管1における長波長側の感度特性を光電面20(Cs-Te)の分光感度特性に好適に一致させることができるので、Cs-Teが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管1の感度特性として劣化させることなく用いることができる。これにより、ソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【0045】
また、表1に示すように、光電面20がAlGa1−XN(0≦X<1)を含んで構成される場合、受光面板11の構成材料としてはサファイア及びAlNのうち少なくとも一種類が好適であり、コスト面から特にサファイアが好適である。光電面20に用いられるAlGa1−XNは、それぞれ、紫外域に含まれる波長155nm〜350nmの光に対して感度を有する。また、受光面板11に用いられるサファイア及びAlNは、カットオフ波長が350nmよりも短いので、光電面20(AlGa1−XN)が感度を有する波長範囲のうち長波長側の一部または全部の波長範囲の光を好適に透過できる。従って、このような組み合わせにより、波長350nm以下の紫外光を好適に検出できる。
【0046】
また、光電面20としてAlGa1−XNが用いられる場合、ダイノード25a〜25dにおける基板材料及び二次電子放出面は、AlGa1−XNの長波長側の感度波長限界(350nm)よりも長い波長に対する感度が、全く無いか、或いは無視できる程度に極めて小さいことが好ましい。例えば、二次電子放出面に用いられる上記材料群(酸化ベリリウム、Cs-I、Cs-Te、MgO、ダイヤモンド、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Te)の長波長側の感度波長限界(例えば、酸化ベリリウム:160nm、MgO:250nm、Cs-I:200nm、ダイヤモンド:250nm、Cs-Te:320nm)は、光電面20の材料であるAlGa1−XNの長波長側の感度波長限界(350nm)よりも短い。従って、光電子増倍管1における長波長側の感度特性を光電面20(AlGa1−XN)の分光感度特性に好適に一致させることができるので、AlGa1−XNが有する良好なソーラブラインド特性を光電子増倍管1の感度特性として劣化させることなく用いることができる。これにより、ソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【0047】
また、本実施形態のように、電子増倍部24の複数段のダイノード25a〜25hは、いわゆるメタルチャンネル型ダイノードであってもよい。メタルチャンネル型ダイノードを備える光電子増倍管1においては、入射する被検出光の入射方向にダイノード25a〜25hが積層されている為、光電面20を透過した入射光が第1段目のダイノード25aを通過して第2段目以降のダイノード(例えばダイノード25b〜25d)へ到達し易い。従って、本実施形態のように、第1段目のダイノード25aを含んで連続する少なくとも2段のダイノードの二次電子放出面が上記材料群(酸化ベリリウム、Cs-I、Cs-Te、MgO、ダイヤモンド、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Te)のうち少なくとも一種類の材料を含むことにより、メタルチャンネル型の光電子増倍管1においてソーラブラインド特性を高精度に実現できる。
【0048】
また、本実施形態のように、複数段のダイノード25a〜25hのうち、ダイノード25a〜25dに対して後段側に配置された別のダイノード25e〜25hにおける二次電子放出面は、アルカリ金属及びSbから成る化合物(例えばCs-K-Sb、Cs-Sbなど)を含むことが好ましい。アルカリ金属及びSbから成る化合物は、上述した酸化ベリリウム、MgO、Cs-I、ダイヤモンド、及びCs-Teなどよりも二次電子放出効率が高い。従って、複数段のダイノード25a〜25hのうち、入射光が到達する可能性が高い前段側のダイノード25a〜25dには、例えば上記材料群のうち少なくとも一種類の材料を含む二次電子放出面を採用し、入射光が到達する可能性が低い後段側のダイノード25e〜25hには、アルカリ金属及びSbから成る化合物を含む二次電子放出面を採用するとよい。これにより、ソーラブラインド特性を高精度に実現できるとともに、電子増倍部24において十分な二次電子増倍率を確保できる。なお、ダイノード25e〜25hにおける二次電子放出面としてKを含まないCs-Sbを用いれば、二次電子放出面を、Cs-IやCs-Teからなる光電面20と同時に形成することが可能である。また、ダイノード25e〜25hにおける二次電子放出面としてCs-K-Sbを用いれば、二次電子放出面におけるダーク電流を低減できる。
【実施例1】
【0049】
ここで、上記実施形態による光電子増倍管1を製造する方法の一例について説明する。まず、サファイアからなる受光面板11の内面11b上に、AlGaN結晶膜を、MOCVD法によりエピタキシャル成長させる。次に、化学的エッチングによりAlGaN結晶膜の表面を清浄にし、受光面板11をトランスファー真空装置内に導入する。
【0050】
続いて、ダイノード25a〜25hの基板となるベリリウム銅合金基板を用意し、そのうち前段のダイノード25a〜25dとなるベリリウム銅合金基板を高温で加熱しながら酸素雰囲気に曝すことにより、ベリリウム銅合金基板の表面(電子増倍孔28の内壁を含む)に酸化ベリリウムを形成する。他方、後段のダイノード25e〜25hとなるステンレス基板の表面(電子増倍孔28の内壁を含む)には、Sbを蒸着しておく。そして、これらの基板を、アノード電極26及び集束電極21などと共にステム13上に組立て、金属側管12を溶接したものを、トランスファー真空装置内に導入する。また、保持リング14aの内周にインジウムシール14を融着してなるシール部材も同様に、トランスファー真空装置内に導入する。
【0051】
続いて、トランスファー真空装置内に導入した各部品に対し、べーキングによる脱ガスを行う。受光面板11のAlGaN結晶膜に対しては、700℃程度の高温でヒートクリーニングを施すことにより、結晶表面の汚染物質を原子レベルで取り除く。その後、AlGaN結晶膜表面にセシウムと酸素を蒸着して負の電子親和力を持つ状態に活性化することにより、AlGaN光電面20が完成する。また、後段のダイノード25e〜25hとなるステンレス基板に対しては、300℃程度の温度に保ちながら最初カリウム雰囲気に曝し、次にセシウム雰囲気に曝すことにより、電子増倍孔28の内壁を含む表面にCs-K-Sbからなる二次電子放出面を形成する。
【0052】
最後に、トランスファー真空装置内で金属側管12と受光面板11とをインジウムシール14を介して接合することにより、密封された真空容器10を形成する。以上の工程により、光電子増倍管1が完成する。
【0053】
本発明による光電子増倍管は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではスリット状の電子増倍孔を有するダイノードに本発明を適用しているが、本発明は例えばマトリクス状の電子増倍孔を有するダイノードについても適用可能である。また、本発明は、メタルチャンネル型以外にも、例えばメッシュ型といった他のダイノード構成を有する光電子増倍管にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る光電子増倍管の一実施形態の構成を示す側面断面図である。
【図2】酸化ベリリウムの分光感度特性を示すグラフである。
【図3】(a)光電面の材料としてAlGaNを用い、前段側のダイノードの基板材料としてベリリウム銅合金を用い、二次電子放出面を酸化ベリリウムとした光電子増倍管の感度特性を示すグラフである。(b)グラフG3は、光電面にAlGaNを用い、全てのダイノードの二次電子放出面にCs-K-Sbを用いた光電子増倍管における感度特性を示すグラフである。グラフG4は、AlGaN光電面の分光感度特性を示すグラフである。
【図4】グラフG5及びG6は、それぞれCs-I及びCs-Teの分光感度特性を示すグラフである。
【図5】(a)MgOの分光感度特性を示すグラフである。(b)ダイヤモンドの分光感度特性を示すグラフである。
【図6】ダイノードの二次電子放出面の材料として一般的に用いられるアルカリアンチモン(Cs-K-Sb)の分光感度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1…光電子増倍管、10…真空容器、11…受光面板、12…金属側管、13…ステム、14…インジウムシール、14a…保持リング、17…ピン、18…ハーメチックガラス、20…光電面、21…集束電極、24…電子増倍部、25a〜25h…ダイノード、26…アノード電極、27…最終段ダイノード、28…電子増倍孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した被検出光を取り込むための窓部材を有する真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、前記被検出光を光電変換して光電子を放出する光電面と、
二次電子放出面を有し前記真空容器内に配設された複数段のダイノードを含み、前記光電面から放出された前記光電子を二次電子増倍する電子増倍部と
を備え、
前記光電面がAlGa1−XN(0≦X<1)を含むとともに、
前記電子増倍部の前記複数段のダイノードのうち、前記光電面から前記光電子を受ける第1段目の前記ダイノードを含んで連続する少なくとも2段の前記ダイノードにおける前記二次電子放出面は、長波長側の感度波長限界がAlGa1−XNの長波長側の感度波長限界を超えない材料を含むことを特徴とする、光電子増倍管。
【請求項2】
前記二次電子放出面が、酸化ベリリウム、MgO、Cs-I、ダイヤモンド、Cs-Te、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Teのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の光電子増倍管。
【請求項3】
前記窓部材がサファイア及びAlNのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の光電子増倍管。
【請求項4】
入射した被検出光を取り込むための窓部材を有する真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、前記被検出光を光電変換して光電子を放出する光電面と、
二次電子放出面を有し前記真空容器内に配設された複数段のダイノードを含み、前記光電面から放出された前記光電子を二次電子増倍する電子増倍部と
を備え、
前記光電面の長波長側の感度波長限界が紫外域に含まれるとともに、
前記電子増倍部の前記複数段のダイノードのうち、前記光電面から前記光電子を受ける第1段目の前記ダイノードを含んで連続する少なくとも2段の前記ダイノードにおける前記二次電子放出面が、MgO、Cs-I、ダイヤモンド、Cs-Te、Cs-Br、Na-Br、K-Br、Li-Br、Rb-I、K-I、Na-I、Li-I、MgZnO、Al、SiO、ZnO、NiO、Rb-Te、K-Te、及びNa-Teのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴とする、光電子増倍管。
【請求項5】
前記光電面がCs-Iを含み、前記窓部材がMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアのうち少なくとも一種類の材料を含み、前記少なくとも2段のダイノードにおける前記二次電子放出面が、MgO、Cs-I、Cs-Br、Rb-I、K-I、Na-I、及びLi-Iのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴とする、請求項4に記載の光電子増倍管。
【請求項6】
前記複数段のダイノードのうち、前記少なくとも2段のダイノードに対して後段側に配置された別の前記ダイノードにおける前記二次電子放出面が、アルカリ金属及びSbから成る化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光電子増倍管。
【請求項7】
入射した被検出光を取り込むための窓部材を有する真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、前記被検出光を光電変換して光電子を放出する光電面と、
二次電子放出面を有し前記真空容器内に配設された複数段のダイノードを含み、前記光電面から放出された前記光電子を二次電子増倍する電子増倍部と
を備え、
前記光電面の長波長側の感度波長限界が紫外域に含まれるとともに、
前記電子増倍部の前記複数段のダイノードのうち、前記光電面から前記光電子を受ける第1段目の前記ダイノードを含んで連続する少なくとも2段の前記ダイノードにおける前記二次電子放出面が酸化ベリリウムを含み、前記少なくとも2段のダイノードに対して後段側に配置された別の前記ダイノードにおける前記二次電子放出面が、アルカリ金属及びSbから成る化合物を含むことを特徴とする、光電子増倍管。
【請求項8】
前記光電面がCs-Iを含み、前記窓部材がMgF、CaF、BaF、LiF、石英、及びサファイアのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴とする、請求項7に記載の光電子増倍管。
【請求項9】
前記光電面がCs-Teを含み、前記窓部材がMgF、CaF、BaF、LiF、石英、サファイア、及びダイヤモンドのうち少なくとも一種類の材料を含むことを特徴とする、請求項4または7に記載の光電子増倍管。
【請求項10】
前記電子増倍部の前記複数段のダイノードが、板状に形成されて互いに積層されるとともに、内壁に前記二次電子放出面が形成され所定方向に並んで形成された複数の電子増倍孔を有しており、前記第1段目のダイノードが前記光電面に対向して配置されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の光電子増倍管。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−157442(P2007−157442A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349528(P2005−349528)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)