説明

光電導特性をチューニングした自己組織化ナノチューブ

【課題】
本発明は、ナノチューブにおける光電導性を調整することができる新規なナノサイズ構造体、及びそれを用いた光電導性材料を提供する。
【解決手段】
本発明は、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びTNFなどの電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体、並びにそれを用いてなる光検出素子、光スイッチング素子、及び光応答性電荷輸送素子などの各種の光関連素子に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び電子受容性の基を有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体、並びに前記ナノサイズ構造体を用いた光検出素子、光スイッチング素子、及び光応答性電荷輸送素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機分子や高分子化合物を用いた電子デバイスに関する研究、開発が盛んに行われている。有機物を電子デバイスとして用いる利点としては、素子の軽量化や構造体のフレキシブル化、またプロセスを簡便化出来る点などが挙げられる。また、各素子の微細化に伴い、分子を最小単位として用いることによるボトムアップ型の素子構造作製プロセスが注目を集めている。しかしながら、一分子を一つの素子として作動出来るデバイスは、研究段階では行われているものの、現時点では実用化には至っていない。その理由としては、単一分子のサイズが数nm以下であり、現在の半導体デバイス作製の微細加工技術を用いて組み込むには小さすぎる点が挙げられる。従って現在実用化に至っている液晶、有機EL素子などに代表される有機分子デバイスは、有機分子のバルクとしての性質を利用していると考えることが出来る。
また、分子プログラミングによるナノマテリアル創成に関する研究が盛んに行われている。分子プログラミングとは、分子が自己組織化により特定の集合形体をとり、さらに物性、機能を発現するよう、あらかじめ分子を精密に設計することを指すが、このようにしてデザインされた分子を用いて自己組織化を行うことにより、極めて簡便な溶液プロセスでナノ構造体を構築できる利点がある。実際、分子の自己組織化によりナノドットやナノファイバー、ナノチューブなど、様々なナノ構造体の自発的形成が報告されている。超分子ナノチューブは、一本一本がナノメートルオーダーの構造体であり、各々のナノチューブを構成単位とする機能性ナノマテリアルとして利用出来る点が、従来の有機あるいは高分子薄膜デバイスとは本質的に異なるのである。しかしながら、それらの殆どは電子的、光化学的特性等に乏しく、実用化には至っていない。
【0003】
このような超分子ナノテクノロジーを支える機能性ナノマテリアル構築へのアプローチとして、自己集合プロセスによるボトムアップ型の手法が注目されている。これは、例えば溶液中において、会合性を有する低分子の自発的かつ階層的な集積化を利用するといった手法である。この手法により、ベシクル、ファイバー、リボン、チューブなどの構造体が得られることが知られている。しかしながら、従来、これらのナノ構造体を構成する分子しとして用いられてきたものは、脂質などの両親媒性化合物であり、電子的、光化学的特性等に乏しく、構造体が得られても特筆すべき性質を示さない。
これに対して本発明者等は、ナノ構造体構築の基本要素としてヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に着目し、HBC骨格に親水性置換基と疎水性置換基を導入することにより、直径約20nm、アスペクト比5000以上の超分子ナノチューブが溶液プロセスにより簡便かつ定量的に得られることを報告してきている(特許文献1及び2参照)。このHBCナノチューブは、π−スタッキング相互作用によりHBC平面がらせん状に配列しており、化学ドーピングにより容易に電荷キャリア(ホール)を形成し導電性を示す(抵抗率10Ωcm)。このようなヘキサペリヘキサベンゾコロネンを含むドナー−アクセプター系として、以下の非特許文献1〜3に記載された系が知られているが、これらはいずれもヘキサペリヘキサベンゾコロネン分子にペリレンやトリニトロフルオレノン(TNF)等の電子受容性の分子をドープした系である。
また、ヘキサベンゾコロネン類を有機半導体材料として使用することも報告されており(特許文献3〜6参照)、このような有機半導体を用いた太陽電池の開発も報告されている(特許文献7参照)。さらに、ヘキサベンゾコロネン類の電荷輸送物質としての性質に着目し、電子写真感光体の感光層表面における酸掃去剤として第三級アミンを有するヘキサベンゾコロネン誘導体を使用することが報告されている。これは、電子写真感光体の感光層表面が、繰り返しの使用や、周辺環境により生じる酸化性物質による劣化を防止するために感光層におけるこのような酸化性物質を中和するための酸掃去剤として、塩基性でありかつ電荷輸送能を有する物質である第三級アミンを有するヘキサベンゾコロネン誘導体が開発されてきたものである(特許文献8参照)。
【0004】
また、近年のエネルギー問題や地球温暖化などの環境問題ともあいまって、有機薄膜太陽電池の開発には大きな注目が集まっている。有機薄膜太陽電池において光−電気変換効率を向上するための方法として、電子供与体と受容体が分子レベルで相分離した構造を実現することが提案されている。本発明者らは、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有する化合物からなる自己組織化ナノチューブを既に報告してきており(特許文献9、及び非特許文献4参照)、このものは電子供与体と受容体のナノ相分離構造と広い面積での各層の接合という2つの条件を満たしており、溶液プロセスにより直径約16ナノメートルの超分子ナノチューブを形成する。このナノチューブは、電子供与性のHBCがπ−スタッキング相互作用によりナノチューブの壁内に整列し、このHBC層をTNF層が両側からラミネートした同軸構造を有している(図1参照)。そして、電子供与体と受容体のナノ相分離構造、および各層が極めて大きな接合界面によって連結していることにより、このナノチューブは顕著な光電導性を示し、今後有機太陽電池開発へ向けた応用研究が期待されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−220046号公報
【特許文献2】特開2005−220047号公報
【特許文献3】特開2004−158709号公報
【特許文献4】特開2005−79163号公報
【特許文献5】特開2006−41495号公報
【特許文献6】特表2005−504663号公報
【特許文献7】特開2003−168492号公報
【特許文献8】特開2005−48336号公報
【特許文献9】特願2006−65884号
【非特許文献1】L. Schmidt-Mende, et al., Science, 293, 1119 (2001)
【非特許文献2】C. Im, W. Tian, et al., Syn. Metals, 139, 683 (2003)
【非特許文献3】C. Im, W. Tian, et al., J. Chem. Phys., 119, 3952 (2003)
【非特許文献4】Y. Yamamoto, et al., Science, 2006, 314, 1761-1764
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のナノチューブは、ナノチューブ材料の選択により光電導性が決定され、光電導性の程度を調整することが困難であった。本発明は、ナノチューブにおける光電導性を調整することができる新規なナノサイズ構造体、及びそれを用いた光電導性材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有する化合物からなる自己組織化ナノチューブを既に報告してきた(特許文献9、及び非特許文献4参照)。このものは図1に示されるように層状の構造を有するナノチューブであり、ヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)骨格がπ−スタッキング相互作用によりナノチューブの壁内に整列し、チューブの壁の内側のヘキサペリヘキサベンゾコロネン層(HBC層)を、外側のトリニトロフルオレノン層(TNF層)が両側からラミネートしたような同軸構造を有しており、電子供与体と受容体のナノ相分離構造と広い面積での各層の接合という2つの条件を満たす超分子ナノチューブを形成している。このナノチューブは、顕著な光電導性を示し、今後有機太陽電池開発へ向けた応用研究が期待されているが、光電導特性が固定化されており、光電導特性を変化させることが困難であった。
本発明者らは、このような光電導性を有するナノチューブ材料に、更に他のナノチューブ材料を導入させることにより、ナノチューブ表面の電子受容性の基の被覆率を系統的に変化させることにより、ナノチューブの光電導性をチューニング(調整)することができることを見出した。さらに、本発明者らは、このような調整により、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有する化合物のみからなる自己組織化ナノチューブよりも、大きな光電導特性を示すナノチューブを得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
より詳細には、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びTNFなどの電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体からなる自己組織化ナノチューブは、電子供与体であるHBCがナノチューブの壁内に規則正しく整列し、その表面を電子受容体であるTNFが被覆している(図1参照)。本発明者らは、TNFなどの電子受容性の基の被覆率を0%(即ち、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を全く含有していない自己組織化ナノチューブ)から、被覆率100%(即ち、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のみからなる自己組織化ナノチューブ)まで変化させた場合における光電導特性の変化を、フラッシュフォトリシスによるマイクロ波電導度測定(FP−TRMC)法により評価した。その結果、被覆率が25〜90%の範囲で、被覆率100%と同等もしくはそれ以上の大きな光電導特性を示すことが明らかとなり、中でも被覆率75%の時に最大値(被覆率100%の時の約1.5倍)を示すことが明らかとなった。光子から電荷キャリアへの変換効率(f)は被覆率が高くなるにつれ大きくなると考えられているが、必ずしも被覆率のみに依存するものではないことを見出した。これは、同時に逆電子移動による電荷再結合も加速されるため、電荷分離状態の寿命も短くなり、被覆率を減少させることにより、電荷再結合が抑制されるためではないかと考えられる。いずれにしても、本発明者らは、ナノチューブ材料を複合化させることにより光電導特性を可変化することができるのみならず、複合化により光電導特性をさらに向上させることができることに成功した。
【0009】
即ち、本発明は、TNFなどの電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及びTNFなどの電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体、より詳細には、本発明は、次の一般式(1)、
【0010】
【化5】

【0011】
[式中、Rはそれぞれ独立してアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して次の一般式(3)
−C−O−R−(O−R−OR (3)
(式中、−C−はフェニレン基を表し、Rは水素原子、アルキル基又は電子受容性の基を表し、R及びRはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方のR基は電子受容性の基であり、R及びRはそれぞれ独立してアルキレン基を表し、nは正の整数を表す。)
で表される基を表し、Xは水素原子又は有機基を表す。]
で表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び次の一般式(2)、
【0012】
【化6】

【0013】
[式中、Rはそれぞれ独立してアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して次の一般式(4)
−C−O−R10−(O−R11−OR12 (4)
(式中、−C−はフェニレン基を表し、R12は水素原子、又はアルキル基を表し、R10及びR11はそれぞれ独立してアルキレン基を表し、mは正の整数を表す。)
で表される基又はオニウム塩の基を表し、Xは水素原子又は有機基を表す。]
で表される電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体に関する。
本発明の自己組織化ナノサイズ構造体は光電導特性を有しており、本発明は、前記した本発明の自己組織化ナノサイズ構造体を用いてなる光検出素子、光スイッチング素子、及び光応答性電荷輸送素子などの各種の光関連素子、並びにこれらの素子の少なくとも1種を含有してなる電子部品材料に関する。
【0014】
本発明をさらに詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体。
(2)自己組織化ナノサイズ構造体が、自己組織化により形成されるナノチューブである前記(1)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(3)電子受容性の基が、トリニトロフルオレノン(TNF)、ペリレンジイミド(PdI)、及びテトラシアノキノジメタン(TCNQ)からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記(1)又は(2)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(4)電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の合計のモル数に対する、電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が10〜90%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(5)電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が25〜80%である前記(4)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(6)電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が前記した一般式(1)で表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体であり、電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(7)一般式(1)及び一般式(2)における、一般式(3)のR及びR、並びに一般式(4)のR10及びR11が、それぞれエチレン基(−CHCH−)である前記(6)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(8)一般式(1)のR及びRにおける一般式(3)のR基の電子受容性の基が、4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)−2−カルボニル基である前記(6)又は(7)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(9)一般式(2)のR及びRにおける一般式(4)のR12基が、アルキル基である前記(6)〜(8)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(10)一般式(1)のX、及び一般式(2)のXにおける有機基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、複素環基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、アミド基、アシル基、及び置換シリル基からなる群から選ばれる基である前記(6)〜(9)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(11)一般式(1)のR、及び一般式(2)のRが、それぞれ独立して炭素数10〜30のアルキル基である前記(6)〜(10)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(12)一般式(1)におけるR及びRの少なく一方が、次式
−C−OCHCH−(OCHCH−OCO−TNF
(式中、−C−はフェニレン基を表し、TNFは4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)イル基を表す。)
で表される基である前記(6)〜(11)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(13)一般式(1)で表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(5)、
【0015】
【化7】

【0016】
で表される化合物である前記(12)に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(14)一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(6)、
【0017】
【化8】

【0018】
で表される化合物である前記(6)〜(13)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
(15)前記(1)〜(14)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光検出素子。
(16)前記(1)〜(14)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光スイッチング素子。
(17)前記(1)〜(14)のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光応答性電荷輸送素子。
(18)前記(15)〜(17)いずれかに記載の素子の少なくとも1種を含有してなる電子部品材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、分子内に電子受容性の基を有する自己組織化ナノサイズ構造体における光電導性が調整されたナノサイズ光電導性構造体を提供するものである。本発明のナノサイズ構造体は、電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を混合するという極めて簡便な方法により光電導性が調整されたナノサイズ光電導性構造体を得ることができ、これらのヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体は、親水性及び疎水性置換基を有し、両親媒性の特性とHBCによるπ−πスタッキング効果を介して自己集積し、超分子ナノチューブを形成することができるだけでなく、さらに調整された光伝導特性を併せ持ち、光応答性の新規な素子材料を提供するものである。
本発明のナノサイズ構造体は、光検出素子、光スイッチング素子、光応答性電荷輸送素子などとして多くの電子部品材料に適用されるだけでなく、光を利用した各種の電子材料の新規な機能性素子を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体は、電子ドナー部位であるHBCと電子アクセプター部位である電子受容性の基、例えばTNFを同一分子内に有していることを特徴とするものであり、さらに親水性の部分及び疎水性の部分の両方を有しており、この化合物の溶液中での自己集合化により形成される超分子ナノチューブは、πスタックを形成するHBC骨格と、ナノチューブの内面および外面を覆う電子受容性の基により構成されることを特徴とするものである(図1参照)。この超分子ナノチューブに光を照射すると、励起された電子は電子アクセプターとしてのTNF部位にトラップされ、HBCカラム内を電荷キャリア(ホール)がスムーズに移動することにより光伝導特性を示す。このように、自己集合により形成された直径約20ナノメートルの独立した超分子ナノチューブが、光伝導性といった機能を併せ持つ材料は未だ知られておらず、本発明者らが初めて提供してきたものである。
また、本発明の電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体は、特許文献1及び2に記載されており、基本骨格であるヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)は、グラファイトの断片と見なされる本来極めて疎水的な分子であるが、これにR及び/又はRのようなポリエーテル構造からなる親水性基が導入されており両親媒性となり、両親媒性と疎水効果、更に、分子面の重なりによるπ−πスタッキングの共同効果を介して自己集積し、ナノスケールのチューブ状又はリボン状の集積体を形成することができる。このナノサイズ構造体は、π電子の重なりを通じたスムーズなキャリアの移動など、従来の脂質等からのナノチューブには無い電子的特性が期待され、また、金属等の不純物を含まず、アスペクト比が大きく太さが均一であるなどの特徴を兼ね備えているものであったが、光電導性については検討されていなかった。
【0021】
本発明の電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、ヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に一般式(3)、
−C−O−R−(O−R−OR (3)
(式中、−C−はフェニレン基を表し、Rは水素原子、アルキル基又は電子受容性の基を表し、R及びRはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方のR基は電子受容性の基であり、R及びRはそれぞれ独立してアルキレン基を表し、nは正の整数を表す。)
で表されるようなポリエーテル構造などの親水性の基を有し、かつ電子受容性の基を有するものであって、両親媒性と疎水効果、更に、分子面の重なりによるπ−πスタッキングの共同効果を介して自己集積し、自己組織化してナノサイズの集積体を形成することができるものであればよい。電子受容性の基としては、トリニトロフルオレノン(TNF)、ペリレンジイミド(PdI)、又はテトラシアノキノジメタン(TCNQ)などの基が挙げられるがこれに限定されるものではない。好ましい電子受容性の基としては、トリニトロフルオレノン(TNF)、特に4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)イル基が挙げられる。好ましい電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、特許文献9(特願2006−65884号)明細書に記載されているものが挙げられ、当該明細書の記載を引用して本明細書に取り込む。
また、本発明の電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、ヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に一般式(4)、
−C−O−R10−(O−R11−OR12 (4)
(式中、−C−はフェニレン基を表し、R12は水素原子、又はアルキル基を表し、R10及びR11はそれぞれ独立してアルキレン基を表し、mは正の整数を表す。)
で表されるようなポリエーテル構造などの親水性やオニウム塩の基などの親水性の基を有し、両親媒性と疎水効果、更に、分子面の重なりによるπ−πスタッキングの共同効果を介して自己集積し、自己組織化してナノサイズの集積体を形成することができるものであればよい。好ましい電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体としては、特許文献1(特開2005−220046号公報)及び/又は特許文献2(特開2005−220047号公報)に記載されているものが挙げられ、当該文献の記載を引用して本明細書に取り込む。
【0022】
本発明の電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の好ましい例としては、前記した一般式(1)で表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が挙げられ、また、本発明の電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の好ましい例としては、前記した一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が挙げられる。
これらの本発明の一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物についてより詳細に説明する。
本発明の一般式(1)のRに及び一般式(2)のRにおけるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは10〜30、より好ましくは10〜20の直鎖状、分枝状又は環状(ただし、環状の場合は炭素数は3以上である。)のアルキル基が挙げられ、好ましい具体例としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシルル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基などが挙げられ、これらの基は直鎖状、分枝状又は環状の何れであってもよい。また、炭素数が10以下のアルキル基の場合は、例えばt−ブチル基のような嵩高い基が好ましい。また、これらのアルキル基は物性に影響を与えない置換基で置換されていてもよい。
本発明の一般式(1)におけるR及びRは前記一般式(3)で表される基であり、また一般式(2)におけるR及びRは前記一般式(4)で表される基であり、当該一般式(3)のRに及び一般式(4)のR12におけるアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状、分枝状又は環状(ただし、環状の場合は炭素数は3以上である。)のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。また、これらのアルキル基は物性に影響を与えない置換基で置換されていてもよい。
【0023】
前記一般式(3)のR及びR、並びに一般式(4)のR10及びR11におけるアルキレン基としては、例えば、炭素数が2〜10、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜5の直鎖状又は分枝状の2価のアルキレン基が挙げられ、具体例としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などが挙げられる。また、これらのアルキレン基は物性に影響を与えない置換基で置換されていてもよい。
前記一般式(3)及び一般式(4)におけるフェニレン基としては、p−フェニレン基、m−フェニレン基などの2価のフェニレン基であればよいが、好ましいフェニレン基としてはp−フェニレン基が挙げられる。また、これらのフェニレン基は物性に影響を与えない置換基で置換されていてもよい。
前記一般式(3)におけるn、及び一般式(4)におけるmは、1以上の正の整数であるが、好ましくは2以上の整数、より好ましくは2〜20、2〜10、又は2〜5が挙げられる。
【0024】
また、前記一般式(3)のRにおける電子受容性の基としては、電子受容性の機能を有する有機基であれば特に制限はないが、好ましい電子受容性の基としては、例えば、トリニトロフルオレノン(TNF)、特に4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)、ペリレンジイミド(PdI)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)などを含有する基が挙げられる。これらの電子受容性の基は、直接隣接する酸素原子に結合していてもよいが、好ましくはカルボニル基などの官能基を介して隣接する酸素原子の結合することができる。
本発明における好ましい電子受容性の基としては、例えば、次の式
【0025】
【化9】

【0026】
で表される4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)−2−カルボニル基が挙げられるが、これに限定されるものではない。
一般式(3)で表されるR及びRの基の具体的な例としては、例えば、
−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−C−OCHCH(OCHCH−OCH
−C−OCHCH(OCHCH−OCOTNF等が挙げられ、中でも、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OCH
−p−C−OCHCH(OCHCH−OCH
−p−C−OCHCH(OCHCH−OCH
−p−C−OCHCH(OCHCH−OCOTNF
[前記の式中、TNFは4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)イル基を表す。]
で表される基等がより好ましい例として挙げられるが、勿論これらに限定されるものではない。
また、一般式(4)で表されるR及びRの基の具体的な例としては、例えば、
−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−C−OCHCH(OCHCH−OCH等が挙げられ、中でも、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OH、
−p−C−OCHCH(OCHCH−OCH
−p−C−OCHCH(OCHCH−OCH
−p−C−OCHCH(OCHCH−OCH
で表される基等がより好ましい例として挙げられるが、勿論これらに限定されるものではない。
また、R及びRの基におけるオニウム塩の基としては、例えば、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等の基が挙げられる。なお、オニウムと塩を形成するカウンターアニオンに特に制約はなく、どのようなカウンターアニオンでも良い。
【0027】
本発明の一般式(1)におけるX、及び一般式(2)におけるXで表される有機基としては、本発明の両親媒性ヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の製造及び使用(例えば機能性ナノチューブ作製等)に際して、支障を来さない有機基であればどのような基でも良いが、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、複素環基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、アミド基、アシル基、置換シリル基等がより一般的な基として挙げられる。好ましくは、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、複素環基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、アミド基、アシル基、及び置換シリル基からなる群から選ばれる基からなる有機基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10の直鎖状、分枝状又は環状(ただし、環状の場合は炭素数は3以上である。)のアルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の二重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えば、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の三重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えば、炭素数6〜30、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜14の単環、多環又は縮合環式の芳香族炭化水素基が挙げられ、より具体的には、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、炭素数7〜30、好ましくは7〜20、より好ましくは7〜15の単環、多環又は縮合環式のアラルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0028】
複素環基としては、環中に少なくとも1個以上の窒素原子、酸素原子又は/及び硫黄原子を有し、1個の環の大きさが5〜20員、好ましくは5〜10員、より好ましくは5〜7員であって、シクロアルキル基、シクロアルケニル基又はアリール基などの炭素環式基と縮合していてもよい飽和又は不飽和の単環、多環又は縮合環式のものが挙げられ、より具体的には、例えば、ピリジル基、チエニル基、フェニルチエニル基、チアゾリル基、フリル基、ピペリジル基、ピペラジル基、ピロリル基、モルホリノ基、イミダゾリル基、インドリル基、キノリル基、ピリミジニル基などが挙げられる。
また、複素環基としては、ポルフィリニル基のような大環状複素環基でも良い。
ハロゲン原子としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10の直鎖状又は分枝状のアルコキシ基が挙げられ、より具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、第二級ブトキシ基、第三級ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピロキシ基、シクロペンチロキシ基、シクロヘキシロキシ基、シクロオクチロキシ基などが挙げられる。
アリールオキシ基としては、例えば、炭素数6〜30、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜14の単環、多環又は縮合環式の芳香族炭化水素基を有するアリールオキシ基が挙げられ、より具体的には、例えば、フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基、メチルナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、フェナントリルオキシ基、ビフェニルオキシ基などが挙げられる。
アルキルチオ基としては、例えば、炭素数が1〜30、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキルチオ基が挙げられ、より具体的には、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、第三級ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロプロピルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、シクロオクチルチオ基などが挙げられる。
アリールチオ基としては、例えば、炭素数6〜30、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜14の単環、多環又は縮合環式の芳香族炭化水素基を有するアリールチオ基が挙げられ、より具体的には、例えば、フェニルチオ基、トリルチオ基、キシリルチオ基、ナフチルチオ基、メチルナフチルチオ基、アントリルチオ基、フェナントリルチオ基、ビフェニルチオ基などが挙げられる。
アシル基としては、例えば、炭素数2〜30、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10のアシル基が挙げられ、より具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、フタロイル基などが挙げられる。
置換シリル基としては、シリル基の水素原子の1〜3個がアルキル基、アリール基等に置き換わったものが挙げられ、中でもトリ置換体が好ましく、より具体的には、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。
【0029】
本発明の一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物は、任意の公知の方法又はこれに準じた方法で製造することができる。例えば、特許文献1若しくは特許文献2、又は特許文献9に記載の方法に準じて、基R又はRに電子受容性の基を有する中間体を製造し、これを特許文献1又は特許文献2に記載の方法に準じて閉環することにより製造することができる。
本発明の一般式(1)で表される化合物のなかで、最も好ましい化合物の例として、次の式(5)
【0030】
【化10】

【0031】
で表される化合物が挙げられるが、本発明の一般式(1)で表される化合物はこれに限定されるものではない。
また、本発明の一般式(2)で表される化合物のなかで、最も好ましい化合物の例として、次の式(6)
【0032】
【化11】

【0033】
で表される化合物が挙げられるが、本発明の一般式(2)で表される化合物はこれに限定されるものではない。
前記した式(5)で表される化合物の具体的の製造方法の例を次の反応経路で示しておく。
【0034】
【化12】

【0035】
まず、トシル基(Ts)で保護された化合物1を製造し、これをブロモビフェニル化して化合物2とし、これをアセチル化して化合物3を製造する。化合物3とビフェニルアセチレン誘導体とを反応させてアセチレン誘導体4を製造し、これとテトラフェニルシクロペンタジエノン誘導体とを反応させて、ヘキサフェニルベンゼン誘導体5を製造する。得られたヘキサフェニルベンゼン誘導体5の末端のアセトキシ基を加水分解してヒドロキシ体6とした後、これにTNFカルボン酸をDCCの存在下にカップリングしてTNF誘導体7を製造する。TNF誘導体7を公知の方法に準じて、ルイス酸の存在下に環化することにより、目的の式(1)で表される化合物8を製造することができる。
【0036】
このようにして製造された本発明の一般式(1)で表される化合物は、以前に本発明者らが報告してきた末端に電子受容性の基を有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体(HBC誘導体)(特許文献1及び2参照)と同様な挙動をとることがわかった。
即ち、テトラヒドロフラン/水混合液中における集積体の形成については、水溶液中の水の量やHBC誘導体の側鎖の置換基の親水性などに応じて、ゲル化、ミセル/小胞形成、繊維形成といったものが観察される。ロッド状や環状のミセルも観察されるが、テトラヒドロフラン溶液に、水又はメタノールをその割合を変えて混合したときに、集積体の形成が見られ、高軸比ナノチューブ(HARNs)が形成される。また、テトラヒドロフラン溶液(1mg/1ml)中の水の配合割合を増すことにより、らせん状リボン構造が形成される。このらせん構造は、チューブがほぐれることにより形成されると考えられる。
このようなチューブの形成は、本発明の一般式(1)で表される化合物が有する両親媒性とπ−πスタッキング効果により、2層からなる幅〜20nmのリボン状集積体が形成され、次いで、このリボンは、らせん状にぐるぐる巻きになると考えられる。このときの巻きの強さは基R及びRの部分のトリエチレングリコール鎖の水和の程度によって調整されと考えられる。
【0037】
本発明の一般式(1)で表される化合物の例として、前記式(5)で表される化合物8について、溶媒中での自己組織化を試みたところ、黄色粉末の自己組織化により形成されるナノサイズの構造体を得た。
得られた黄色沈殿物の電子顕微鏡像(SEM)で観察した結果、この構造体は、均一な直径(約16nm)のナノチューブであることがわかった。
このことから、本発明の一般式(1)で表される化合物は、分子内に電子受容性の基を有する超分子ナノチューブを形成することができることがわかった。この一般式(1)で表される化合物により形成された超分子ナノチューブを用いて、電気測定用試料を作製した。電流−電圧特性を、0V〜2V又は−2Vまでを0.05V間隔で、電圧印加後の遅延時間1秒として、暗状態及び光照射下で電流測定を行った結果、暗状態では印加電圧に関係なく電流は流れず絶縁体としての特性であるのに対し、光照射下ではオーミックな電流−電圧特性を示し、印加電圧2Vにおいて0.07pA(暗状態)から4.2nA(光照射時)へと60,000倍にも及ぶ電流値の増大を確認することができた。また、光照射のON/OFFに伴う電流のスイッチング特性については、印加電圧を2Vとし、光量60mWの光を1分ごとにOFF/ONと繰り返し、1秒ごとに電流値を記録した結果、光のON/OFFに伴い再現性よく電流値の変化が観測された。
【0038】
このように、本発明の一般式(1)で表される化合物の自己組織化により形成されるナノサイズの構造体は、超分子ナノチューブを形成することができるものである。そして、当該ナノチューブは、光応答性を示す。これは、この超分子ナノチューブに光を照射すると、励起された電子は電子受容体としてのTNF部位にトラップされ、HBCカラム内を電荷キャリア(ホール)がスムーズに移動することにより光伝導特性を示すものと考えられる。このように、本発明の材料は、超分子ナノチューブを形成するに必要な親水性部分などを有し、かつπ−πスタッキング効果を有する部分を有し、さらに電子受容性という機能を有することを特徴とするものであり、自己集合により形成された直径約20nm程度の独立した超分子ナノチューブが光伝導性といった機能を併せ持つ材料が提供されている。
【0039】
本発明者ら、このようにして得られた一般式(1)で表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の光電導特性をさらに改善するために、一般式(1)で表せる電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体と一般式(2)で表される電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を混合物からのナノサイズの構造体を検討してみたところ、このような混合物においても両親媒性と疎水効果、更に、分子面の重なりによるπ−πスタッキングの共同効果を介して自己集積し、これらのモル分率に応じた均一なナノスケールのチューブ状又はリボン状の集積体を形成することができることを見出した。そして、このようにして形成されたナノサイズの構造体は、モル分率に応じた光電導特性を示すことになるが、驚くべきことに、その光電導特性はモル分率に単純な依存性を示すものではなく、一般式(1)で表せる電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率(被覆率)が25〜90%の範囲で、被覆率100%と同等もしくはそれ以上の大きな光電導特性を示すことが明らかとなり、中でも被覆率75%の時に最大値(被覆率100%の時の約1.5倍)を示すことが明らかとなった。光子から電荷キャリアへの変換効率(f)は被覆率が高くなるにつれ大きくなると考えられているが、必ずしも被覆率のみに依存するものではないことを見出した。
【0040】
このことを明らかにするために、本発明の一般式(1)で表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の例として式(5)で表される化合物8を用い、また、本発明の一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の例として式(6)で表される化合物を用いた実験結果に基づいて以下に説明する。
式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物を、様々なモル分率で混合したテトラヒドロフラン溶液([(5)+(6)]=0.1mM)に、室温下でメタノールによる蒸気拡散法により混入させることにより、いずれも黄色懸濁液を得た。
このようにして得られた式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の同時自己組織化により得られた黄色析出物の透過型電子顕微鏡(TEM)像を図2に図面に代わる写真で示す。図2の(a)は式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の混合比率が0:100のものであり、(b)は同じく25:75のものであり、(c)は同じく50:50のものであり、(d)は同じく75:25のものであり、(e)は同じく100:0のものである。各写真の左下側に示されるスケールは0.2μmである。
いずれもナノチューブ構造体が生成していることが確認できる。
【0041】
次に、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の同時自己組織化により生成したナノチューブの固体の示差走査熱量を測定した。その結果の測定プロファイルを図3(a)に示す。図3(a)の縦軸は発熱量(W/g)を示し、横軸は温度(℃)を示す。図3(a)の下側から式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の混合比率が0:100のもの、同25:75のもの、同50:50のもの、同75:25のもの、同100:0のものであることを示す。このように、吸熱ピークが系統的に変化し、混合比が50:50の時に最小値(約183.7℃)を示している。
また、式(5)で表される化合物、及び式(6)で表される化合物からそれぞれ作製したナノチューブ懸濁液を混合して得たナノチューブ混合体の熱分析プロファイルを図3(b)に示す。この結果、本発明のナノサイズ構造体(図3(a))と、単純な混合物(図3(b))とは明らかに挙動が異なっており、これらの結果より、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の同時自己組織化により得られたナノチューブにおいては、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物が同一チューブ内に共存していることが示された。
【0042】
さらに、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の同時自己組織化により得られたナノチューブ薄膜のフラッシュフォトリシス時間分解マイクロ波電導度(FP−TRMC)を測定した。この結果を図4(a)に示す。図4(a)の縦軸はTRMC信号(光電導度を、φΣμ(光キャリアの生成効率 × 光キャリアの移動度の総和)として換算して示している。)(m/Vs×10−6)を示し、横軸は時間(秒×10−6)を示す。図4(a)の下側から、式(5)で表される化合物が0%の場合、10%の場合、100%野場合、25%の場合、50%の場合、及び75%の場合をそれぞれ示している。
また、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の同時自己組織化したナノチューブ薄膜と、式(5)で表される化合物、及び式(6)で表される化合物のそれぞれから作製したナノチューブの混合物の薄膜において観測された、各TRMC信号の最大値の式(5)で表される化合物の混合比率(モル分率)に対するプロットを図4(b)に示す。図4(b)の縦軸はTRMC信号(光電導度を、φΣμ(光キャリアの生成効率 × 光キャリアの移動度の総和)として換算して示している。)(m/Vs×10−6)を示し、横軸は式(5)で表される化合物の混合比(モル分率)を示す。図4(b)の黒丸印(●)は本発明の式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物の同時自己組織化したナノチューブ薄膜の場合を示し、白丸印(○)は式(5)で表される化合物、及び式(6)で表される化合物のそれぞれから作製したナノチューブの混合物の薄膜の場合を示す。
これらの結果から、式(6)で表される化合物のみからなるナノチューブ薄膜において非常に小さいTRMC信号(光電導度を、φΣμ(光キャリアの生成効率 × 光キャリアの移動度の総和)として換算して示している。以下同じ。)しか観測されていない(図4(a)の0%のラインを参照)のに対し、式(5)で表される化合物の混合比率が増すにつれTRMC信号が増大していくのが確認できる。しかしながら、式(5)で表される化合物の混合比率が75%のところで信号の増大は頭打ちとなり、混合比率100%(式(5)で表される化合物のみからなるナノチューブ)においては信号強度の減少が観測された。
また、図4(b)からも明らかなように、本発明の同時自己組織化により生成したナノチューブの方が、式(5)で表される化合物、及び式(6)で表される化合物のそれぞれから得られたナノチューブの混合体より大きな光電導度を示しており、このことからも本発明の同時自己組織化により得られたナノチューブが、式(5)で表される化合物、又は式(6)で表される化合物が別々のナノチューブとして析出しているのではなく、同一チューブ内に共存していることが示された。
被覆率(モル分率)が25〜90%の範囲で、被覆率100%(つまり、式(5)で表される化合物のみからなるナノチューブ)と同等もしくはそれ以上の大きな光電導特性を示しており、中でも被覆率75%の時に最大値(被覆率100%の時の約1.5倍)を示すことが明らかとなった。この光電導度の増大は、光誘起電子移動により生成した電荷分離状態の再結合が、TNFの被覆度を下げることにより抑制され、長寿命化された結果である。光子から電荷キャリアへの変換効率(φ)は被覆率が高くなるにつれ大きくなると考えられるが、同時に逆電子移動による電荷再結合も加速されるため、電荷分離状態の寿命も短くなる。TNFの被覆率を減少させることにより、電荷再結合が抑制され、これと変換効率(φ)との兼ね合いにより、被覆率75%程度の時に光電導度の最大値をとるものと考えられる。
【0043】
このように、本発明における一般式(1)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び一般式(2)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を混合して自己集積させることにより、同時自己組織化が生起し、両者のモル分率応じた自己組織化ナノサイズ構造体が得られることが明らかになり、そして、これらの同時自己組織化ナノサイズ構造体は、得られたナノサイズ構造体の表面におけるTNFなどの電子受容性の基の被覆率が変化し、これに伴って光導電特性をチューニング(調整)することができることが判明した。さらに、光導電特性は、被覆率(モル分率)に単純に依存するものではなく、最も効率的な光電導特性を示す被覆率(モル分率)が存在することが本発明により初めて明らかにされ、本発明はこのような最も効率的な光電導特性を有するナノサイズ構造体、特にナノチューブの作製に成功したものである。
以上のように、本発明は、一般式(1)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び一般式(2)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を混合して同時自己集積させてなる自己組織化ナノサイズ構造体に関するものであり、ナノサイズ構造体中に両者が同時に存在していることを特徴とするものであり、本発明における被覆率(モル分率)としては、電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の合計のモル数に対する、電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率(被覆率)が、0%を超え、100%未満であればよいのであるが、好ましいモル分率(被覆率)としては、10〜90%が挙げられ、より好ましくは20〜85%程度、25〜80%程度、30〜80%程度が挙げられる。
【0044】
本発明の同時自己組織化ナノサイズ構造体は、一般式(1)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、又は一般式(2)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体からなるナノサイズ構造体を単独で製造する方法と同様な方法で製造することができる。例えば、一般式(1)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び一般式(2)で表される化合物などに代表される電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を、溶媒中で混合することにより、懸濁化させることにより製造することができる。また、好ましくは前記の混合物を溶媒中に入れ、これを加温して溶解させる。得られた溶液を超音波ミキサーで懸濁となるまで混合撹拌し、これを室温で熟成させることにより本発明の同時自己集積体を製造することができる。
使用される溶媒としては、加温して本発明のHBC誘導体の混合物を溶解することができるものであればよく、好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。使用する溶媒の量としては、加温して溶解できる程度の量であればよく、特に制限はないが本発明のHBC誘導体の混合物1mgに対して重量で0.1mL〜20mL、好ましくは0.5〜10mL、1mL〜5mL程度であるが、50mLとか100mL以上のような大量の使用は懸濁化が困難になり好ましくない。
加温する温度としては、溶解して透明な溶液となる温度であって、溶媒の沸点以下であればよい。好ましい温度としては、35〜80℃、40〜60℃程度が挙げられる。例えば、溶媒としてジクロロメタンやテトラヒドロフラン(THF)を使用した場合には、40℃程度が好ましい。
超音波ミキサーでの混合時間としては、特に制限はなく、加温して得られた溶液が懸濁化するまで混合撹拌するのが好ましい。数時間以上も混合撹拌しても懸濁化しない場合には溶媒の量を減少させるか、溶媒を交換して他の好ましい溶媒を選択することができる。通常の混合撹拌時間としては、0.5〜3時間、好ましくは0.5〜2時間、0.5〜1時間程度が挙げられる。溶媒の種類及び量の選択が適切であれば、通常は0.5時間から1時間程度で懸濁化が生起する。
このようにして懸濁化した混合液をさらに熟成させることが好ましい。当該熟成時間としては、特に制限はなく同時自己集積体が得られるまで熟成させることができる。熟成は通常は室温で行うことができるが、必要により冷却や加温することもできる。通常は室温で一夜放置することにより熟成が完了する。
【0045】
また、本発明のナノチューブは大きなアスペクト比を有する特異的な構造であり、効果的にその特性を引き出すためには一方向に配向していることが好ましい。このように一方向に整列したナノサイズ構造体を製造する方法としては、原料となるHBC誘導体の混合物を溶媒中に入れ、必要によりこれを加温して溶解させる。次いで、この溶液を静置させて、当該溶液の表面に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気と接触させて、当該溶液の表面に本発明の2種類のHBC誘導体が均一に面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体を形成させることもできる。本発明の好ましい方法を例示すれば、本発明のHBC誘導体の混合物の溶液を室温まで冷却し、この溶液をガラス容器ごと、当該ガラス容器より大きい第二のガラス容器に蓋をせずに入れ、外側の第二のガラス容器に当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒、好ましくは貧溶媒を入れる。そして、外側の第二のガラス容器を密栓し、当該本発明のHBC誘導体の溶液に貧溶媒の蒸気を拡散させて接触させ、そのままの状態で一週間程度、室温で熟成させると、内側の液面に黄色透明なフィルムが生成する。この方法の概要を模式的にして図5に示す。まず、本発明のHBC誘導体の混合物の溶液の入った小さなガラス容器を大きなガラス容器に入れ、大きなガラス容器に本発明のHBC誘導体の貧溶媒を入れて、当該貧溶媒の蒸気を溶液の表面に接触させる。これにより溶液表面に自己集積体が整列して形成される。
【0046】
本発明のHBC誘導体の混合物を溶解させる溶液の溶媒としては、加温して本発明のHBC誘導体の混合物を溶解することができるものであればよく、好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。より好ましい溶媒としてはテトラヒドロフランが挙げられる。使用する溶媒の量としては、加温して溶解できる程度の量であって、室温においても自己集積体が形成されない程度であればよく、例えば、溶媒1mLに対して重量で本発明のHBC誘導体が、0.1〜5mg、好ましくは0.5〜5mg、0.5〜2mg程度が挙げられる。
加温する温度としては、溶解して透明な溶液となる温度であって、溶媒の沸点以下であればよい。好ましい温度としては、35〜80℃、40〜70℃程度が挙げられる。例えば、溶媒としてジクロロメタンやテトラヒドロフラン(THF)を使用した場合には、40℃〜66℃程度が好ましい。
当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒としては、本発明のHBC誘導体を充分に溶解することができない貧溶媒が好ましい。このような貧溶媒としては、例えば、n−ヘキサンなどの炭素数5〜12の炭化水素系溶媒、好ましくは炭素数5〜12、より好ましくは炭素数5〜8の脂肪族飽和炭化水素系の溶媒が挙げられる。
静置させておく温度(熟成温度)としては室温が好ましいが、これに限定されるものではなく、使用する溶媒の溶解度や蒸気圧に応じて冷却や加温してもよい。
静置させておく時間(熟成時間)としては、溶液の表面に十分な自己集積体が形成されるまでであり、特に制限はないが、通常は約1週間程度でフィルムが生成する。
【0047】
以上のように、本発明は、本発明の同時自己組織化により形成されるナノサイズの構造体、好ましくは超分子ナノチューブからなる光伝導性材料を提供するものであり、本発明の光伝導性材料は、新規な電子材料を提供するものであり、光検出素子、光スイッチング素子、光応答性電荷輸送素子などとして多くの電子部品材料に適用されるものである。本発明の電子部品材料は、例えば、太陽電池材料、光検出素子材料、分子導線などナノデバイスなどへ応用可能なものである。
【0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
式(5)で表される化合物の製造:
(1)化合物1の合成
トリエチレングリコール(20.00g,133.18mmol)をテトラヒドロフラン(THF,50ml)に溶解させ、水酸化ナトリウム(10ml,2.66M 水溶液)を0℃で加え、30分攪拌した。この溶液に20mlのTHFに溶解させたp−トルエンスルフォニルクロライド(5.07g,26.62mmol)を滴下し、一時間攪拌後、室温まで昇温し、さらに9時間攪拌した。反応混合物を氷水に注ぎ、ジクロロメタン(CHCl)で抽出、有機層を水、次いで塩酸(0.5N)、水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/MeOH)により精製し、化合物1を無色油状物として得た(6.67g,収率82.24%)。
【0050】
(2)化合物2の合成
アルゴン雰囲気下、前記で得られた化合物1(6.00g,19.71mmol)と4−ブロモ−4’−ヒドロキシビフェニル(4.46g,17.92mmol)を乾燥THF(100ml)に溶解させ、水酸化カリウム(2.01g,35.84mmol)を加えた後、19時間加熱還留させた。反応混合物を室温まで降温させた後、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、有機層を水、次いで塩酸(0.5N)、水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物2を白色個体として得た(4.80g,収率70%)。
H NMR(500MHz,CDCl) δ:
7.504 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.453 (d, J = 8.5 Hz, 2H),
7.386 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.970 (d, J = 8.5 Hz, 2H),
4.161 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.872 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.700 (m, 6H),
3.611 (t, J = 4.0 Hz, 2H)
【0051】
(3)化合物3の合成
アルゴン雰囲気下、前記得られた化合物2を乾燥CHCl(35ml)に溶解させ、0℃まで冷却した。この溶液にピリジン(1.16ml,15.74mmol)を加え、無水酢酸(1.49ml,15.74mmol)を加えて一時間攪拌し、室温まで昇温し、さらに一晩攪拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で二回、ついで水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物3を白色個体として得た(3.37g,収率76%)。
H NMR(500MHz,CDCl) δ:
7.506 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.452 (d, J = 9.0 Hz, 2H),
7.387 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 6.963 (d, J = 9.0 Hz, 2H),
4.211 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 4.156 (t, J = 5.0 Hz, 2H),
3.865 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.696 (m, 6H), 2.052 (s, 3H)
【0052】
(4)化合物4の合成
アルゴン雰囲気下、前記で得られた化合物3(3.24g,7.64mmol)とビス−トリフェニルフォスフォパラジウムジクロライド(0.27g,0.38mmol)、ヨウ化銅(0.14g,0.76mmol)を1,8−ジアゾビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)(35ml)と、ベンゼン(25ml)に溶解し、ベンゼン(25ml)に溶解したアセチレン(2.06g,7.64mmol)を滴下し、60℃で一晩加熱攪拌した。室温まで降温後、反応混合物にCHClを加えて抽出し、飽和塩化アンモニウム水溶液にて洗浄、有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥した。デカンテーションにて硫酸ナトリウムを除去し、CHCl懸濁液から白色固体状の化合物4を濾取して得た(3.13g,収率60%)。
H NMR(500MHz,CDCl) δ:
7.567 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 7.526 (m, 8H), 6.982 (d, J = 8.0 Hz, 4H),
4.219 (t, J = 4.5 Hz, 2H), 4.168 (t, J = 4.5 Hz, 4H),
3.873 (t, J = 5.0 Hz, 4H), 3.690 (m, 13H), 3.539 (t, J = 5.0 Hz, 2H),
3.366 (s, 3H), 2.057 (s, 3H) ;
MALDI−TOF−MS: m/z:
4146として 計算値 : [M] 682.3;
実測値 : 682.4.
【0053】
(5)化合物5の合成
アルゴン雰囲気下、前記で得られた化合物4(1.00g,1.46mmol)とシクロペンタジエン(1.06g,1.46mmol)をジフェニルエーテル(4ml)に溶解し、350℃で 2日間加熱攪拌した。反応混合物を室温まで降温しシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)、さらに中圧液体クロマトグラフィー(CHCl/アセトン)により精製し、化合物5を白色個体として得た(1.47g,収率73%)。
H NMR(500MHz,CDCl) δ:
7.320 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 7.047 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 6.830 (m, 18H),
6.662 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 6.610 (d, J = 8.0 Hz, 4H),
4.195 (t, J = 4.5 Hz, 2H), 4.090 (t, J = 4.5 Hz, 4H), 3.819 (m, 4H),
3.678 (m, 12H), 3.515 (m, 2H), 3.342 (s, 3H), 2.321 (t, J = 4.5 Hz, 4H),
2.037 (s, 3H), 1.369 (m, 4H), 1.236 (s, 32H), 1.073 (b, 4H),
0.859 (t, J = 7.0 Hz, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
93115として、計算値: [M+H] 1375.8;
実測値: 1375.5:
【0054】
(6)化合物6の合成
前記で得られた化合物5(300mg,0.22mmol)をメタノール(20ml)とTHF(10ml)に溶解し、水酸化カリウム(002g,0.33mmol)を水(1ml)に溶解させた溶液を加え、室温で1時間攪拌した。溶媒を留去後、残渣にCHClを加え水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去後し、化合物6を白色固体として得た(0.27g,収率93%)。
H NMR(500MHz,CDCl) δ:
7.320 (m, 4H), 7.046 (d, J = 9.0 Hz, 4H), 6.827 (m, 18H),
6.663 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 6.611 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 4.194 (m, 4H),
3.821 (m, 4H), 3.647 (m, 14H), 3.513 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.342 (s, 3H),
2.322 (t, J = 8.0 Hz, 4H), 1.370 (m, 4H), 1.236 (m, 32H), 1.071 (b, 4H),
0.860 (t, J = 7.0 Hz, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
91113として、計算値: [M+H] 1333.8;
実測値: 1333.8.
【0055】
(7)化合物7(HPB−TNF)の合成
アルゴン雰囲気下、前記で得られた化合物6(270mg,0.20mmol)とジメチルアミノピリジン(12mg,0.01mmol)を室温で乾燥CHClに溶解し、THF(5ml)に溶解したTNF(109mg,0.30mmol)を加えて10分間攪拌した後、CHCl(5ml)に溶解したジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(83mg,0.40mmol)を加え、2日間攪拌した。溶媒を留去後、シリカゲルクロマトグラフィー(CHCl/アセトン)、中圧液体クロマトグラフィー(CHCl/アセトン)にて精製し、茶色固体として化合物7を得た(150mg,収率44%)。
H NMR(500MHz,CDCl) δ:
8.781 (d, J = 1.0 Hz, 1H), 8.723 (d, J = 1.0 Hz, 1H),
8.670 (d, J = 1.0 Hz, 1H), 8.644 (d, J = 1.0 Hz, 1H),
7.310 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.195 (d, J = 8.5 Hz, 2H),
7.065 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.942 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 6.826 (m, 16H),
6.667 (m, 6H), 6.611 (d, 4H), 4.571 (t, 2H), 4.071 (t, 2H),
4.004 (t, 2H), 3.828 (m, 7H), 3.723 (s, 4H), 3.694 (m, 2H),
3.622 (m, 4H), 3.507 (t, 2H) , 3.334 (s, 3H) ,
2.321 (t, J = 7.5 Hz, 4H) , 1.370(m, 4H) , 1.236 (m, 32H) ,
1.071 (b, 4H) , 0.859 (t, J = 7.0 Hz, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
10511616として、計算値: [M+H] :1674.8;
実測値: 1675.1.
【0056】
(8)化合物8(HBC−TNF)(式(5)で表される化合物)の合成
前記で得られた化合物7(150mg,0.09mmol)を乾燥CHCl(60ml)に溶解し、溶液を乾燥アルゴンにて10分間バブリングした後、MeNO(5ml)に溶解した塩化鉄(III)を加え、さらに2時間攪拌した。反応混合物を攪拌しながらメタノール(200ml)中に注ぎ込み、析出した固体を濾取し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/THF)で精製、さらにクロロフォルムに溶解し、メタノールへ再沈精製したものを、濾取して8を黒色固体として得た(143mg,収率96%)。
H NMR (500MHz,d−THF) δ:
8.335 (m, 8H), 8.159 (m, 3H), 7.965 (s, 1H), 7.721 (m, 3H),
7.570 (m, 3H), 7.399 (b, 1H), 7.303 (b, 1H), 7.127(b, 2H), 7.070 (b, 2H),
6.685 (b, 1H), 4.335 (b, 2H), 4.295 (b, 2H), 4.237 (b, 2H),
3.952 (m, 4H), 3.766 (m, 4H), 3.674 (m, 8H) , 3.510 (b, 2H) ,
3.346 (s, 3H) , 2.991 (b, 4H), 1.973 (b, 4H) , 1.580 (b, 4H) ,
1.300 (b, 32H), 0.873 (b, 6H);
MALDI−TOF−MS: m/z:
10510416として、計算値: [M+H] 1662.7 ;
実測値: 1662.7.
【実施例2】
【0057】
2,5−ジ(n−ドデシル)−11,14−ビス(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}フェニル)−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(一般式(2)において、RがC1225で、R及びRがCOCHCH(OCHCHOCHで、Xが水素原子の化合物)[式(6)で表される化合物]の製造
【0058】
(1)4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}ビフェニルの合成
4−(4’−ブロモフェニル)フェノール(3.00g,0.012mol)と1−(4−トルエンスルホニル)トリエチレングリコールモノメチルエーテル(4.2g,0.0132mol,1.1当量)を最少量の無水N,N−ジメチルホルムアミド(〜30ml)に溶解し、無水炭酸カリウム(4g,3.3当量)を添加した。生成した懸濁液を撹拌しながら24時間加熱、反応させ、反応液を室温まで冷却した後、水(100ml)に注ぎ、生成した白色沈殿を濾取した。濾取した白色沈殿をジクロロメタン(100ml)に溶解し、NaSOで一晩乾燥した。NaSOを濾別後、濾液のジクロロメタンを留去して4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}ビフェニルを白色粉末として得た(4.3g,0.0109mol,収率:91%)。得られた白色粉末はそのまま次の反応に供した。
H−NMR(500MHz,CDCl):δ
7.50(d,J=8.55Hz,2H),7.45(d,J=8.55Hz,2H),7.39(d,J=8.55Hz,2H),
6.96(d,J=8.55Hz,2H),4.15(t,J=4.88Hz,2H),3.86(t,J=4.88Hz,2H),3.74(m,2H),
3.67(m,2H),3.65(m,2H),3.53(m,2H),3.36(s,3H)。
【0059】
(2)1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチンの合成
4−ブロモ−4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−ビフェニル(4g,0.01mol)、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)(9.2g,6eq)、PdCl(PPh(425mg,6%)及びCuI(192mg,10%)をベンゼン(20ml)中、室温で撹拌して溶解させ、60℃に加温してトリメチルシリルエチン(0.71ml,0,496g,0.5eq)を加え、直ちに水(70μL,0.4eq)を加えた。60℃で24時間反応させた後、生成物を濾取し、少量の氷冷したジクロロメタンで洗浄した。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[溶離液:ジクロロメタン/メタノール(濃度勾配1−5%メタノール)]により精製して、1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチンをうす茶色のフレークとして得た(トルエン溶液から再結晶しても同様の結果が得られた。)。収量:2.3g、収率:71%。
H−NMR(500MHz,CDCl):δ
7.57-7.51(m,6H),6.97(d,J=9.15Hz,4H),4.15(t,J=4.88Hz,4H),
3.86(t,J=4.89Hz,4H),3.74(m,4H),3.68,(m,4H),3.64(m,4H),3.54(m,4H),
3.36(s,6H)。
MALDI−TOF(dithranol):m/z=655.31(M+H)
【0060】
(3)2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノンの合成
1,2−ビス−(4−n−ドデシルフェニル)−1,2−ジケトン(1.5g,2.75×10−3mol)と1,3−ジフェニルアセトン(0.58g,2.76×10−3mol)をジオキサンに溶解し100℃に加熱して、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(1.0Mメタノール溶液)(1eq,2.76ml)を一度に加え、更に15分間加熱した。反応混合物を水に注ぎジクロロメタンで抽出し、抽出液を蒸発乾固した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー[溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン(濃度勾配10−50%ジクロロメタン)]により精製した。ジクロロメタン/ヘキサン(1:3)を溶離液として分取HPLCで更に精製し、蒸発乾固して溶媒を除き、2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノンを紫色の粉末として得た。収量:0.88g、収率:44%。
H−NMR(500MHz,CDCl):δ
〜7.24(m),6.96(d,J=7.94Hz,4H),6.80(d,J=7.94Hz,4H),2.55(t,J=7.63Hz,4H),
1.56(br.,4H),1.26(br.,36H),0.88(t,J=6.71Hz,6H)。
MALDI−TOF(dithranol):m/z=720(M)。
【0061】
(4)1,4−ジフェニル−2,3−ビス(4−n−ドデシルフェニル)−5,6−ビス(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリル)ベンゼンの合成
2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−n−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(0.6g,8.3×10−4mol)と1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチン(0.52g, 7.9×10−4mol)をシュレンク中でジフェニルエーテル(1.5ml)に懸濁させ、24時間還流(〜300℃)させた後、室温まで冷却した。反応混合液をアセトンに溶解させ、シリカゲルカラムを通して未反応の1,2−ビス−(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリルエチンを除去した。次いで溶液から溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン、濃度勾配ジクロロメタン/ヘキサン(3/2)〜ジクロロメタン(100%))にかけて精製して、うす茶色の粉末を得た。収量:0.75g、収率:70%。 H−NMR(500MHz,CDCl):δ
7.32(d,J=9.16Hz,4H),7.05(d,J=8.55Hz,4H),6.82(m,18H)6.67(d,J=7.94Hz,4H),
6.61(d,J=8.55Hz,4H),4.09(t,J=4.88Hz,4H),3.82,(t,J=4.88Hz,4H),3.71(m,4H),
3.64(m,8H)3.52(m,4H),3.34(s,6H),2.33(t,J=7.63Hz,4H),1.37(m,4H)1.24(m,34H),
1.08(br.,4H),0.86(t,J=6.71Hz,6H)。
MALDI−TOF(dithranol):m/z=1348.27(M)。
【0062】
(5)2,5−ジ(n−ドデシル)−11,14−ビス(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}フェニル)−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンの合成
1,4−ジフェニル−2,3−ビス(4−n−ドデシルフェニル)−5,6−ビス(4’−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}−4−ビフェニリル)ベンゼン(0.70g,5×10−4mol)を乾燥したジクロロメタン(200ml)に溶解させ、ガラス管の中でアルゴンガスを吹き込みながら室温で撹拌した。無水FeCl(2.7g,0.017mol,34eq)をニトロメタン(5ml)に溶解し上記の溶液に少しずつ加えると溶液の色が暗赤色〜黒色からオレンジ色に変化した。更に90分間撹拌を続けた後、メタノール(100ml)を加えクエンチした。生成した黄色の沈殿を濾取し、最初にカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/メタノール=300:10)で精製し、次いでGPC(Bio−Rad BioBeads X−1,ジクロロメタン溶離液)で精製した。更にジクロロメタン/メタノールで精製すると、黄色のゲル状物が得られ、これを真空乾燥して2,5−ジ(n−ドデシル)−11,14−ビス(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}フェニル)−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンを黄褐色の固体として収量0.49g(収率:73%)で得た。
H−NMR(500MHz,CDCl):δ
8.05(s,2H),7.95(s,2H),7.79(d,J=8.54Hz,2H),7.71(d,J=7.94Hz,2H),7.59(s,2H),
7.56(s,2H),7.52(d,J=7.93Hz,4H),7.10(d,J=7.93Hz,4H),7.07(m,2H),4.32(br.,2H),
4.06(t,J=4.56Hz,4H),3.92(m,4H),3.85(m,4H),3.79(m,4H),3.67(m,4H),3.47(s,6H),
2.59(br.t,4H),1.69(br.,4H),1.46-1.30(m,36H),0.89(t,J=7.02Hz,6H)。
MALDI−TOF(dithranol):m/z=1335.75(M)。
【0063】
参考例1
式(5)で表される化合物(化合物8)のみの自己組織化
実施例1で得られた化合物8(HBC−TNF)1mgを、5mlのTHFに溶解させ(0.12mM)、室温にて7.5mlのMeOHを蒸気拡散法により混入させることにより、静置約5日後、黄色懸濁液となった。吸引濾過により、黄色粉末を得た。
前記で得られた得られた黄色沈殿物の電子顕微鏡像(SEM)で観察した結果、均一な直径(約16nm)のナノチューブが生成していることが分かった。
【実施例3】
【0064】
同時自己組織化物の製造
実施例1で製造された化合物8(式(5)で表される化合物)と実施例2で製造された式(6)で表される化合物を、様々なモル分率、即ち、0:100、25:75、50:50、75:25、及び100:0でそれぞれ混合したテトラヒドロフラン溶液([式(5)の化合物+式(6)の化合物]=0.1mM)4mLに、室温下7mLのメタノールを蒸気拡散法により混入させることにより、いずれも黄色懸濁液を得た。
【実施例4】
【0065】
実施例3で製造したそれぞれの同時自己組織化構造体を用いて、黄色析出物の透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察した。結果を前記した図2に示す。
【実施例5】
【0066】
実施例3で製造したそれぞれの同時自己組織化構造体を用いて、固体の示差走査熱量を測定した。結果を前記した図3に示す。
【実施例6】
【0067】
実施例3で製造したそれぞれの同時自己組織化構造体を用いて、フラッシュフォトリシス時間分解マイクロ波電導度(FP−TRMC)を測定した。結果を前記した図4に示す。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、光伝導性を有するナノサイズ構造体、特に超分子ナノチューブを提供するものであり、本発明のナノサイズ構造体は光電導性を調整することが可能であり、また最も効率的な光電導性を有する機能性分子として、光検出素子、光スイッチング素子、光応答性電荷輸送素子などとして産業上有用なものであり、光電子デバイス材料、非線形光学材料、無機有機複合材料の鋳型材料、太陽電池材料、燃料電池用材料などの種々の応用が期待されることから、化学分野だけでなく電子材料などの産業分野において、産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、式(5)で表される化合物を単独で自己組織化させたナノチューブの層構造を模式的に示したものである。
【図2】図2は、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物を種々の混合比率において同時自己組織化することにより生成した本発明のナノチューブのTEM像を示す図面に代わる写真である。
【図3】図3は、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物を種々の混合比率において同時自己組織化することにより生成した本発明のナノチューブの示差走査熱量測定プロファイルを示す(図3(a))。図3(b)は、式(5)で表される化合物、又は式(6)で表される化合物のそれぞれから得られたナノチューブを混合した試料の示差走査熱量測定プロファイルを示す。
【図4】図4は、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物を種々の混合比率において同時自己組織化することにより生成した本発明のナノチューブ薄膜のFP−TRMCプロファイルを示す(図4(a))。図4(b)は、式(5)で表される化合物と式(6)で表される化合物を種々の混合比率において同時自己組織化することにより生成した本発明のナノチューブ薄膜(●)、及び式(5)で表される化合物、又は式(6)で表される化合物のそれぞれから得られたナノチューブ混合体薄膜(○)のFP−TRMC測定におけるφΣμの最大値をプロットしたグラフを示す。
【図5】図5は、本発明の同時自己集積体の製造方法の例を模式的に示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体を含有してなる自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項2】
自己組織化ナノサイズ構造体が、自己組織化により形成されるナノチューブである請求項1に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項3】
電子受容性の基が、トリニトロフルオレノン(TNF)、ペリレンジイミド(PdI)、及びテトラシアノキノジメタン(TCNQ)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項4】
電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体、及び電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の合計のモル数に対する、電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が10〜90%である請求項1〜3のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項5】
電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体のモル分率が25〜80%である請求項4に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項6】
電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(1)、
【化1】

[式中、Rはそれぞれ独立してアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して次の一般式(3)
−C−O−R−(O−R−OR (3)
(式中、−C−はフェニレン基を表し、Rは水素原子、アルキル基又は電子受容性の基を表し、R及びRはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよいがR及びRの少なくともどちらか一方のR基は電子受容性の基であり、R及びRはそれぞれ独立してアルキレン基を表し、nは正の整数を表す。)
で表される基を表し、Xは水素原子又は有機基を表す。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体であり、電子受容性の基を分子中に有していないヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が次の一般式(2)、
【化2】

[式中、Rはそれぞれ独立してアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して次の一般式(4)
−C−O−R10−(O−R11−OR12 (4)
(式中、−C−はフェニレン基を表し、R12は水素原子、又はアルキル基を表し、R10及びR11はそれぞれ独立してアルキレン基を表し、mは正の整数を表す。)
で表される基又はオニウム塩の基を表し、Xは水素原子又は有機基を表す。]
で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体である請求項1〜5のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項7】
一般式(1)及び一般式(2)における、一般式(3)のR及びR、並びに一般式(4)のR10及びR11が、それぞれエチレン基(−CHCH−)である請求項6に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項8】
一般式(1)のR及びRにおける一般式(3)のR基の電子受容性の基が、4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)−2−カルボニル基である請求項6又は7に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項9】
一般式(2)のR及びRにおける一般式(4)のR12基が、アルキル基である請求項6〜8のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項10】
一般式(1)のX、及び一般式(2)のXにおける有機基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、複素環基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、アミド基、アシル基、及び置換シリル基からなる群から選ばれる基である請求項6〜9のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項11】
一般式(1)のR、及び一般式(2)のRが、それぞれ独立して炭素数10〜30のアルキル基である請求項6〜10のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項12】
一般式(1)におけるR及びRの少なくとも一方が、次式
−C−OCHCH−(OCHCH−OCO−TNF
(式中、−C−はフェニレン基を表し、TNFは4,5,7−トリニトロ−9−フルオレノン(TNF)イル基を表す。)
で表される基である請求項6〜11のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項13】
一般式(1)で表される電子受容性の基を分子中に有するヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(5)
【化3】

で表される化合物である請求項12に記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項14】
一般式(2)で表されるヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体が、次の式(6)
【化4】

で表される化合物である請求項6〜13のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光検出素子。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光スイッチング素子。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載の自己組織化ナノサイズ構造体からなる光応答性電荷輸送素子。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の素子の少なくとも1種を含有してなる電子部品材料。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−272916(P2008−272916A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122884(P2007−122884)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】