説明

光音響画像化方法および装置

【課題】光音響画像において、管腔等の一部が欠落して表示されることを防止する。
【解決手段】レーザ光源13から被検体に、その内部で吸収される波長のパルス光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化装置10において、被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得る超音波画像取得手段11、40、41と、光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す超音波データに基づいて補正する補正手段27、28、42とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響画像化方法すなわち、生体組織等の被検体に光を照射し、光照射に伴って発生する音響波に基づいて被検体を画像化する方法に関するものである。
【0002】
また本発明は、光音響画像化方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば特許文献1や非特許文献1に示されているように、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響画像化装置が知られている。この光音響画像化装置においては、例えばパルスレーザ光等のパルス光が生体に照射される。このパルス光の照射を受けた生体内部では、パルス光のエネルギーを吸収した生体組織が熱によって体積膨張し、音響波を発生する。そこで、この音響波を超音波プローブなどで検出し、それにより得られた電気的信号(光音響信号)に基づいて生体内部を可視像化することが可能となっている。光音響画像化方法は、特定の吸光体から放射される音響波のみに基づいて画像を構築するようにしているので、生体における特定の組織、例えば血管等を画像化するのに好適である。
【0004】
光音響画像には、光吸収体である生体中の血管等を抽出して表示できる利点があり、例えば特許文献2には、このように抽出した血管を表示する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【特許文献2】特表2010−512929号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A High-Speed Photoacoustic Tomography System based on a Commercial Ultrasound and a Custom Transducer Array, Xueding Wang, Jonathan Cannata, Derek DeBusschere, Changhong Hu, J. Brian Fowlkes, and Paul Carson, Proc. SPIE Vol. 7564, 756424 (Feb.23, 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし従来の光音響画像化装置においては、血管が一部欠落した状態で表示されることがある、という問題が認められている。
【0008】
以下、この問題について図2および図3を参照して詳しく説明する。ここでは、両図に示すように、複数の超音波振動子が一次元に(図中の左右方向に)配列されてなる超音波プローブPが音響波検出のために用いられ、そして複数の超音波振動子の並び方向と同じ方向に例えば複数の光ファイバの先端部等が並設されてなる送光部Lが配設され、そこから、画像化対象である血管Hに向けてパルスレーザ光が照射されるものとする。なお、このような超音波プローブPは一般に、超音波エコー画像取得のために、被検体に向けて超音波を送信する手段および、被検体で反射した超音波を受信する手段としても利用される。
【0009】
図2は、血管Hが比較的細くて、上に述べた問題が生じない場合を示している。すなわちこの場合は、血管Hの右側に概略的に示すように、音響波が、超音波プローブPに近い側の血管壁でも、また超音波プローブPから遠い側の血管壁でも発生する。これは、送光部Lから発せられたパルスレーザ光が血管Hの内部で全て吸収されてしまうことがなく、超音波プローブPから遠い側の血管壁まで届くからである。
【0010】
それに対して血管Hが比較的太い場合は、図3に示すように、音響波が超音波プローブPに近い側の血管壁のみで発生し、超音波プローブPから遠い側の血管壁では発生しないことがある。これは、送光部Lから発せられたパルスレーザ光が血管Hの内部で全て吸収されて、超音波プローブPから遠い側の血管壁まで届かないからである。このような状況になると、超音波プローブPから遠い側の血管壁は、光音響画像において欠落することになる。
【0011】
以上は血管の一部が欠落する場合について説明したが、血管と同じように管腔状になっている部分は、同じ原因によって欠落して表示される可能性がある。
【0012】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、管腔等の一部が欠落して表示されることを防止できる光音響画像化方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
また本発明は、そのような光音響画像化方法を実施することができる光音響画像化装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による光音響画像化方法は、
被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化方法において、
前記被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得、
前記光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す前記超音波データに基づいて補正し、
この補正後の光音響データによって前記被検体を画像化することを特徴とするものである。
【0015】
なお、この本発明による光音響画像化方法においては、上記特定部分が、例えば被検体中の管腔部分とされる。そして、そのような管腔部分は、例えば血管部とされる。
【0016】
また上記の補正としては、例えば、光音響画像において欠落している管壁部分を、超音波画像における管壁部分に沿って全周繋げる補正を適用することができる。
【0017】
そして、そのような補正は、光音響画像において欠落している管壁部分を、光音響画像に存在している管壁部分と区別可能な態様、例えば色分けした態様で表示されるように生成するものであることが望ましい。
【0018】
あるいは、上記の補正として、超音波画像における管壁部分の内側に有る部分を、光音響画像において所定色で塗りつぶす補正を適用することもできる。
【0019】
なお、そのような補正を適用する場合は、上記所定色を、上記塗りつぶす補正がなされる管壁部分とは別の位置に有って正常に画像化される管壁部分とは別の色とすることが望ましい。
【0020】
また、本発明による光音響画像化方法においては、
前記パルス光として、互いに異なる複数の波長のパルス光を照射し、
各波長のパルス光に対する吸収特性が互いに異なる被検体の複数の部分を識別して、互いに識別可能に表示することが望ましい。
【0021】
上述のように、複数の部分を識別可能に表示するには、例えばそれらの部分の表示色を互いに変えればよい。
【0022】
また上記複数の波長は、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる2つの波長であることが望ましい。
【0023】
他方、本発明による光音響画像化装置は、
被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化装置において、
前記被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得る超音波画像取得手段と、
前記光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す前記超音波データに基づいて補正する補正手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0024】
なお上記補正手段としては、例えば、前記特定部分として被検体中の管腔部分を補正する手段が適用可能である。
【0025】
また上記補正手段には、上記管腔部分として被検体中の血管部を補正する手段を適用することもできる。
【0026】
さらに上記補正手段としては、光音響画像において欠落している管壁部分を、超音波画像における管壁部分に沿って全周繋げる補正を行う手段を適用することが可能である。
【0027】
そして、そのような補正手段は、光音響画像において欠落している管壁部分を、光音響画像に存在している管壁部分と区別可能な態様、例えば色分けした態様で表示されるように生成するものであることが望ましい。
【0028】
あるいは、上記補正手段として、超音波画像における管壁部分の内側に有る部分を、光音響画像において所定色で塗りつぶす補正を行う手段を適用することも可能である。
【0029】
なお、そのような塗りつぶしを行う補正手段は、上記所定色を、上記塗りつぶす補正がなされる管壁部分とは別の位置に有って正常に画像化される管壁部分とは別の色に設定するものであることが望ましい。
【0030】
また、本発明による光音響画像化装置においては、
前記パルス光として、互いに異なる複数の波長のパルス光を照射する手段と、
各波長のパルス光に対する吸収特性が互いに異なる被検体の複数の部分を識別して、互いに識別可能に表示させる手段とが設けられることが望ましい。
【0031】
上記複数の部分を識別して互いに識別可能に表示させる手段は、それらの部分を互いに色を変えて表示させるものであることが望ましい。
【0032】
また上記複数の波長は、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる2つの波長であることが望ましい。
【発明の効果】
【0033】
従来知られている超音波画像は、光音響画像のように血管等を明確に抽出して表示するには不向きである半面、画像化したい部分が、光吸収のために欠落してしまうような問題とは無縁のものである。本発明による光音響画像化方法はこの点に鑑みて、被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得、光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す超音波データに基づいて補正し、この補正後の光音響データによって被検体を画像化するようにしたので、この光音響画像化方法によれば、本来の光音響画像において欠落が有ったとしても、補正によりその欠落部分を表示させることが可能になる。
【0034】
また、本発明による光音響画像化方法において特に、前記パルス光として、互いに異なる複数の波長のパルス光を照射し、各波長のパルス光に対する吸収特性が互いに異なる被検体の複数の部分を識別して、互いに識別可能に表示する場合は、例えば生体の動脈と静脈とを明確に識別して観察可能になるので、手術の支援や異常発見において有利となる。
【0035】
他方、本発明の光音響画像化装置は、被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得る超音波画像取得手段と、光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す前記超音波データに基づいて補正する補正手段とを備えたので、この光音響画像化装置によれば、上述した本発明の光音響画像化方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態による光音響画像化装置の概略構成を示すブロック図
【図2】血管部における光音響信号の発生を説明する概略図
【図3】従来装置における問題を説明する図
【図4】図1の装置における光音響画像および超音波画像の例を示す図
【図5】光音響画像の補正例を示す図
【図6】本発明の第2の実施形態による光音響画像化装置の概略構成を示すブロック図
【図7】図6の装置における光音響画像および超音波画像の例を示す図
【図8】光音響画像の補正例を示す図
【図9】酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)の光波長毎の分子吸収係数を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による光音響画像化装置10の基本構成を示すブロック図である。この光音響画像化装置10は、光音響画像と超音波画像の双方を取得可能とされたもので、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13、および画像表示手段14を備えている。
【0038】
上記レーザ光源ユニット13は所定波長のパルスレーザ光を発するもので、そこから射出されたパルスレーザ光は被検体に照射される。このパルスレーザ光は、図1では出射方向については概略的に示してあるが、例えば複数の光ファイバなどの導光手段を用いてプローブ11まで導光され、プローブ11の部分から被検体に向けて照射されるのが望ましい。
【0039】
プローブ11は、被検体に対する超音波の出力(送信)、および被検体から反射して戻って来た反射超音波の検出(受信)を行う。そのためにプローブ11は、例えば一次元に配列された複数の超音波振動子を有する。またプローブ11は、被検体内の観察対象物がレーザ光源ユニット13からのレーザ光を吸収することで生じた超音波(音響波)を、複数の超音波振動子によって検出する。プローブ11は、上記音響波を検出して音響波検出信号を出力し、また上記反射超音波を検出して超音波検出信号を出力する。
【0040】
なお、プローブ11に上述した導光手段が結合される場合は、その導光手段の端部つまり複数の光ファイバの先端部等が、複数の超音波振動子の並び方向(図1中の左右方向)に沿って配置され、そこから被検体に向けてレーザ光が照射される。以下では、このように導光手段がプローブ11に結合される場合を例に取って説明する。
【0041】
被検体の光音響画像あるいは超音波画像を取得する際、プローブ11は複数の超音波振動子が並ぶ一次元方向に対してほぼ直角な方向に移動され、それにより被検体がレーザ光および超音波によって二次元走査される。この走査は、検査者が手操作でプローブ11を動かして行ってもよく、あるいは、走査機構を用いてより精密な二次元走査を実現するようにしてもよい。
【0042】
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、データ分離手段24、光音響画像再構成手段25、検波・対数変換手段26、血管判断手段27、血管補正手段28、および光音響画像構築手段29を有している。
【0043】
上記受信回路21は、プローブ11が出力した前記音響波検出信号および超音波検出信号を受信する。AD変換手段22はサンプリング手段であり、受信回路21が受信した音響波検出信号および超音波検出信号をサンプリングして、それぞれデジタル信号である光音響データおよび超音波データに変換する。このサンプリングは、例えば外部から入力されるADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期でなされる。
【0044】
また超音波ユニット12は、上記データ分離手段24の出力を受ける超音波画像再構成手段40に加えて、検波・対数変換手段41、管腔検出手段42、超音波画像構築手段43、この超音波画像構築手段43および前記光音響画像構築手段29の出力を受ける画像合成手段44を有している。この画像合成手段44の出力は、例えばCRTや液晶表示装置等からなる画像表示手段14に入力される。さらに超音波ユニット12は、送信制御回路30、および超音波ユニット12内の各部等の動作を制御する制御手段31を有している。
【0045】
上記AD変換手段22が出力した光音響データあるいは超音波データは、一旦受信メモリに格納された後、データ分離手段24に入力される。データ分離手段24は入力された光音響データと超音波データとを互いに分離し、光音響データは光音響画像再構成手段25に入力させ、超音波データは超音波画像再構成手段40に入力させる。
【0046】
レーザ光源ユニット13は、Ti:Sapphireレーザ等からなるQスイッチパルスレーザ32と、その励起光源であるフラッシュランプ33とを備えた固体レーザユニットである。なお以下では、特に血管を示す光音響画像を取得する場合を例に挙げて説明するが、その場合レーザ光源ユニット13としては、血管において良好に吸収される波長のパルスレーザ光を発するものが選択利用される。
【0047】
このレーザ光源ユニット13は、上記制御手段31から光出射を指示する光トリガ信号を受けると、フラッシュランプ33を点灯させてQスイッチパルスレーザ32を励起する。制御手段31は、例えばフラッシュランプ33がQスイッチパルスレーザ32を十分に励起させると、Qスイッチトリガ信号を出力する。Qスイッチパルスレーザ32は、Qスイッチトリガ信号を受けるとそのQスイッチをオンにし、パルスレーザ光を出射させる。
【0048】
ここで、フラッシュランプ33の点灯からQスイッチパルスレーザ32が十分な励起状態となるまでに要する時間は、Qスイッチパルスレーザ32の特性などから見積もることができる。なお、上述のように制御手段31からQスイッチを制御するのに代えて、レーザ光源ユニット13内において、Qスイッチパルスレーザ32を十分に励起させた後にQスイッチをオンにしてもよい。その場合は、Qスイッチをオンにしたことを示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。
【0049】
また制御手段31は、送信制御回路30に、超音波送信を指示する超音波トリガ信号を入力する。送信制御回路30はこの超音波トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。制御手段31は、先に前記光トリガ信号を出力し、その後、超音波トリガ信号を出力する。光トリガ信号が出力されることで被検体に対するレーザ光の照射、および音響波の検出が行われ、その後、超音波トリガ信号が出力されることで被検体に対する超音波の送信、および反射超音波の検出が行われる。
【0050】
制御手段31はさらに、AD変換手段22に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。このサンプリングトリガ信号は、前記光トリガ信号が出力された後で、かつ超音波トリガ信号が出力される前、より好ましくは被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで出力される。そのためにサンプリングトリガ信号は、例えば制御手段31がQスイッチトリガ信号を出力するタイミングに同期して出力される。AD変換手段22は上記サンプリングトリガ信号を受けると、プローブ11が出力して受信回路21が受信した音響波検出信号のサンプリングを開始する。
【0051】
制御手段31は、光トリガ信号を出力した後、音響波の検出を終了するタイミングで超音波トリガ信号を出力する。このとき、AD変換手段22は音響波検出信号のサンプリングを中断せず、サンプリングを継続して実施する。言い換えれば、制御手段31は、AD変換手段22が音響波検出信号のサンプリングを継続している状態で、超音波トリガ信号を出力する。超音波トリガ信号に応答してプローブ11が超音波送信を行うことで、プローブ11の検出対象は、音響波から反射超音波に変わる。AD変換手段22は、検出された超音波検出信号のサンプリングを継続することで、音響波検出信号と超音波検出信号とを連続的にサンプリングする。
【0052】
AD変換手段22は、サンプリングして得られた光音響データおよび超音波データを、共通の受信メモリ23に格納する。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、ある時点までは光音響データであり、ある時点からは超音波データとなる。データ分離手段24は、受信メモリ23に格納された光音響データと超音波データとを分離し、光音響データを光音響画像再構成手段25に入力し、超音波データを超音波画像再構成手段40に入力する。
【0053】
以下、超音波画像と光音響画像の生成、表示について、図4も参照して説明する。超音波画像再構成手段40は、プローブ11が有する複数の超音波振動子毎のデータとなっている上記超音波データを加算して、1ライン分の超音波断層画像データを生成する。検波・対数変換手段41はこの超音波断層画像データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げた後、このデータを管腔検出手段42に入力する。管腔検出手段42はこのデータから、例えばパターンマッチング等の手法により、環状になっていて管腔と考えられる部分を検出する。
【0054】
ここで図4の(A)は、超音波断層画像の一例を概略的に示すものであり、この画像中には、一つの組織Eと管腔F、GおよびHが示されている。なおこの図4(A)並びに、後述する同図の(B)、(C)および(D)において、超音波およびパルスレーザ光は図中の上方から下方に向けて照射されるものとする。また各図では、管腔Hの部分を分かりやすく別途拡大表示してある。超音波断層画像がこのようなものである場合、管腔検出手段42は環状になっている部分、つまり管腔F、GおよびHの部分を検出し、それらの形状および位置を示すデータを血管判断手段27に入力する。
【0055】
また検波・対数変換手段41の出力は、そのまま超音波画像構築手段43にも入力される。超音波画像構築手段43は、検波・対数変換手段41が出力した各ラインのデータに基づいて超音波断層画像(超音波エコー画像)を生成する。すなわちこの超音波画像構築手段43は、例えば前述した超音波検出信号のピーク部分の時間軸方向の位置が、断層画像における深さ方向の位置に変換されるようにして超音波断層画像を生成する。
【0056】
以上の処理は、プローブ11の走査移動に伴って逐次なされ、それにより、被検体の走査方向に亘る複数箇所に関する超音波断層画像が生成される。そしてこれらの超音波断層画像を担持する画像データは、画像合成手段44に入力される。なお、超音波断層画像のみを単独で表示したい場合は、超音波断層画像を担持する上記画像データが画像合成手段44を素通りさせて画像表示手段14に送られ、この画像表示手段14に超音波断層画像が表示される。
【0057】
次に、光音響画像の生成および表示について説明する。光音響画像再構成手段25には、データ分離手段24において超音波データと分離された光音響データ、つまり、血管に吸収される波長のパルスレーザ光を被検体に照射して得られた光音響データが入力される。光音響画像再構成手段25は、プローブ11が有する複数の超音波振動子毎のデータとなっている上記光音響データを加算して、1ライン分の光音響画像データを生成する。検波・対数変換手段26はこの光音響画像データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げた後、このデータを血管判断手段27に入力する。
【0058】
図4の(B)は、上述の光音響画像データが担持する光音響画像として、同図(A)に示した断面と同じ断面についての光音響画像を概略的に示している。この光音響画像には、一例として血管部Fa、Haが存在するが、それらの中でも特に比較的太い血管部Haは、先に図2および図3を参照して説明した理由により、パルスレーザ光の照射側(プローブ11が存在する側であり、ここでは図の上方)から遠い側の血管壁が欠落した状態となっているので、血管とみなしてよいかどうか不明確となっている。
【0059】
そこで血管判断手段27は、前述したようにして管腔検出手段42から入力された管腔Hの形状および位置を示すデータに基づいて、半分の円環状となっている上記血管部Haが本来は管腔である、つまり明らかに血管を示しているものであると判断する。この管腔検出手段42の判断結果を受けた血管補正手段28は、検波・対数変換手段26から入力された光音響画像データを、上記半分の円環状部分が管腔Hに沿って全周繋がった円環状となるように補正する。
【0060】
図4の(C)および(D)は、上記補正を説明するものである。もし、上記補正を行なわずに超音波断層画像データと光音響画像データとを合成したとすると、その合成データに基づいて表示される画像において管腔Hと血管部Haとは、同図(C)に拡大図示する状態で画像化されることになる。それに対して、上記の補正を行ってから超音波断層画像データと光音響画像データとを合成すれば、管腔Hと補正された血管部Ha′とが、同図(D)に拡大図示する状態で画像化される。こうして、上記補正を行うことにより、光音響画像において血管部が本来の形状通りに表示されるようになる。
【0061】
なお、上記の補正された血管部H′は、本来光音響画像に存在していた部分と、補正で追加した部分とが互いに区別可能な態様、例えば色分けした態様で表示されるように生成されることが望ましい。そのようにすれば、装置操作者が、本来の光音響画像には欠落が有ったということを把握できるようになる。
【0062】
上記補正後の光音響画像データは、光音響画像構築手段29に入力される。光音響画像構築手段29は、各ライン毎の光音響画像データに基づいて光音響画像を生成する。すなわちこの光音響画像構築手段29は、例えば光音響画像データのピーク部分の時間軸方向の位置が、断層画像における深さ方向の位置に変換されるようにして光音響画像を生成する。
【0063】
以上の処理は、プローブ11の走査移動に伴って逐次なされ、それにより、被検体の走査方向に亘る複数箇所に関する光音響画像が生成される。そしてこれらの光音響画像を担持する画像データは画像合成手段44に入力され、そこで前述の超音波断層画像を担持する画像データと合成され、合成されたデータが担持する画像が画像表示手段14に表示される。先に説明した通り、この合成されたデータに基づいて表示される画像は、図4の(D)に示すようなものとなる。
【0064】
なお本実施形態では、半分の円環状となっている血管部Haを、全周繋がった円環状の血管部Ha′となるように補正しているが、その代わりに図5に示すように、管腔Hの内部を図中Jで示すように所定色で塗りつぶす補正を行って、血管であることを示すようにしてもよい。
【0065】
そして、そのような塗りつぶしを行う場合は、上記所定色を、塗りつぶす補正がなされる血管部Haとは別の位置に有って正常に画像化される血管部(例えば図5の血管部Fa)とは別の色に設定することが望ましい。そのようにすれば、血管部Haが本来正常に表示されているのか、あるいは補正によって正常に表示されているのかを容易に判別できるようになる。
【0066】
また以上の実施形態では、被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得る超音波画像取得手段がプローブ11、超音波画像再構成手段40および検波・対数変換手段41から構成され、また、光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す超音波データに基づいて補正する補正手段が管腔検出手段42、血管判断手段27および血管補正手段28から構成されている。
【0067】
次に図6、7および8を参照して、動脈と静脈とを識別して表示可能とした本発明の別の実施形態について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態による光音響画像化装置110の基本構成を示すブロック図である。なおこの図6において、図1中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。この光音響画像化装置110は、図1の光音響画像化装置10と比べると基本的に、2波長データ複素数化手段115、強度情報抽出手段116および2波長データ演算手段117が追加された点、並びに、レーザ光源ユニット13に代えて、2波長のパルスレーザ光を選択的に発することができるレーザ光源ユニット113が適用された点が異なるものである。
【0068】
上記レーザ光源ユニット113は、より詳しくは、図1のQスイッチパルスレーザ32に代えてQスイッチパルスレーザ132が適用されたものである。このQスイッチパルスレーザ132は、フラッシュランプ33によって励起されるレーザ媒質である固体レーザロッド133と、このレーザロッド133の前方側(使用光取り出し側)に配置された部分透過ミラー134と、レーザロッド133の後方側に配置されて上記部分透過ミラー134と共にレーザ共振器を構成するミラー135と、レーザロッド133と部分透過ミラー134との間に配置されたQスイッチ素子136と、回転型フィルタ素子(図示せず)を備えてレーザロッド133とミラー135との間に配置されたバンドパスフィルタ137と、上記回転型フィルタ素子を回転させるサーボモータ138と、上記回転型フィルタ素子の回転位置を検出するエンコーダ139と、このエンコーダ139からの出力を受けてサーボモータ138の駆動を制御するバンドパスフィルタ制御部140とを備えてなるものである。
【0069】
上記レーザロッド133としては、フラッシュランプ33の励起により例えば中心波長がそれぞれ750nm、800nm近辺の光を発するものが適用されている。それに対応して上記回転型フィルタ素子としては、それぞれ750nm近辺の光、800nm近辺の光を良好に透過させる2つのフィルタ部分が回転体に保持されてなるものが適用されている。サーボモータ138はこの回転体(フィルタ回転体)を回転させることにより、上記2つのフィルタ部分のいずれかを、レーザロッド133とミラー135との間の後方出射光の光路に選択的に挿入させる。
【0070】
上述した750nm近辺の光を良好に透過させるフィルタ部分が後方出射光の光路に挿入された場合は、ミラー135を介して750nm近辺の光のみがレーザロッド133にフィードバックされる。そこでこの場合は、中心波長750nmの光のゲインが特に高くなるので、Qスイッチパルスレーザ132から中心波長750nmのパルスレーザ光が発せられるようになる。同様にして、800nm近辺の光を良好に透過させるフィルタ部分が後方出射光の光路に挿入された場合は、Qスイッチパルスレーザ132から中心波長800nmのパルスレーザ光が発せられるようになる。
【0071】
なおレーザロッド133には、例えばアレキサンドライト結晶やCr:LiSAF(Cr:LiSrAlF6),Cr:LiCAF(Cr:LiCaAlF6)結晶,Ti:Sapphire結晶等を用いることができる。
【0072】
またバンドパスフィルタ137のフィルタ回転体においては、その半分(例えば回転変位位置0°から180°の領域)に波長750nm近辺の光を良好に透過させるフィルタ部分が担持され、残りの半分(例えば回転変位位置180°から360°の領域)に波長800nm近辺の光を良好に透過させるフィルタ部分が担持されている。そこで、このフィルタ回転体がサーボモータ138により回転されると、レーザ共振器内の後方出射光光路内に、上記2つのフィルタ部分が、フィルタ回転体の回転速度に応じた切り替え速度で交互に挿入されることになる。
【0073】
エンコーダ139は、例えばサーボモータ138の出力軸に取り付けられたスリット入りの回転板と透過型フォトインタラプタとから構成されたロータリエンコーダであり、上記フィルタ回転体の回転変位位置を検出し、その回転変位位置を示すBPF(バンドパスフィルタ)状態信号を生成する。バンドパスフィルタ制御部140はこのBPF状態信号に基づいて、例えば所定時間の間にエンコーダ139が検出した回転変位の量が、フィルタ回転体の所定の回転速度に応じた量になるようにサーボモータ138に供給する電圧などを制御する。
【0074】
一方制御手段31は、前述したように超音波ユニット12内の各部の制御を行うと共に、レーザ共振器内の後方出射光光路に挿入される前記2つのフィルタ部分が所定の切替え速度で切り替わるように、バンドパスフィルタ制御部140を制御する。なお、フィルタ回転体の回転速度は、例えばレーザ光源ユニット113から出射すべきパルスレーザ光の波長の数(バンドパスフィルタの透過波長域の数)や、単位時間当たりのパルスレーザ光の個数に基づいて適宜決定すればよい。
【0075】
制御手段31のトリガ制御部31aは、レーザ光源ユニット113に対して例えば所定の時間間隔で周期的に、フラッシュランプ33の駆動を指令する光トリガ信号を出力する。フラッシュランプ33は光トリガ信号に応答して発光し、レーザロッド133に励起光を照射する。このときトリガ制御部31aはBPF状態信号に基づいて、光トリガ信号を出力する。すなわちトリガ制御部31aは、例えばBPF状態情報が、出射すべきパルスレーザ光の波長に対応したフィルタ部分がレーザ共振器内の後方出射光光路に挿入されるようになるバンドパスフィルタ137の(つまりフィルタ回転体の)回転変位位置から、レーザロッド133の励起に要する時間の間にフィルタ回転体が変位する量を差し引いた位置を示す情報になると、光トリガ信号を出力する。
【0076】
トリガ制御部31aは、光トリガ信号を出力した後、レーザ光源ユニット113のQスイッチ素子136にQスイッチトリガ信号を出力する。このときトリガ制御部31aは、出射すべきパルスレーザ光の波長に対応したフィルタ部分がレーザ共振器内の後方出射光光路に挿入されているタイミングで、Qスイッチトリガ信号を出力する。こうして、Qスイッチトリガ信号が入力されて該Qスイッチ素子136が開状態になったときだけパルスレーザ光が出力されるので、このパルスレーザ光は極めて高強度のものとなり得る。なお図1では、この種のQスイッチ素子は特に図示していないが、Qスイッチパルスレーザ32も上記と同様のQスイッチ素子を備えるものである。
【0077】
次に、この図6の光音響画像化装置110において表示される血管画像について、図7および8を参照して説明する。本装置110でも図1の光音響画像化装置10におけるのと基本的に同様にして、管腔の一つである血管部を本来の形状通りに表示するようにしているが、本装置110では特に、血管の動脈と静脈とを互いに識別して表示可能としている。以下、その点について詳しく説明する。
【0078】
一例として、ヒトの動脈に多く含まれる酸素化ヘモグロビン(酸素と結合したヘモグロビン:oxy-Hb)の波長750nmにおける分子吸収係数は、波長800nmにおける分子吸収係数よりも低い。一方、静脈に多く含まれる脱酸素化ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビンdeoxy-Hb)の波長750nmにおける分子吸収係数は、波長800nmにおける分子吸収係数よりも高い。なお図9に、酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)の光波長毎の分子吸収係数を示す。本実施形態ではこの性質を利用し、中心波長800nmの光を照射して得られた光音響信号に対して、中心波長750nmの光を照射して得られた光音響信号が相対的に大きいのか小さいのかを調べることで、動脈からの光音響信号と静脈からの光音響信号とを判別するようにしている。
【0079】
本実施形態において、AD変換手段22による音響波検出信号のサンプリングは、レーザ光源ユニット113が出射する光の波長の数だけ繰り返し行われる。例えば、まずレーザユニット113から被検体に中心波長750nmのパルスレーザ光が照射されたときに得られた音響波検出信号のサンプリングがなされ、次いで、被検体に中心波長800nmのパルスレーザ光が照射されたときに得られた音響波検出信号のサンプリングがなされる。それに加えて、超音波検出信号のサンプリングも、第1の実施形態におけるのと同様にしてなされる。
【0080】
以上のサンプリングにより得られた光音響データおよび超音波データは、共通の受信メモリ23に格納される。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、ある時点までは光音響データであり、ある時点からは超音波データとなる。また特に光音響データについては、ある時点までは被検体に中心波長750nmのパルスレーザ光が照射されたときの光音響データ(以下、第1の光音響データという)であり、ある時点からは被検体に中心波長800nmのパルスレーザ光が照射されたときの超音波データ(以下、第2の光音響データという)となる。データ分離手段24は、受信メモリ23に格納された光音響データと超音波データとを分離し、光音響データを2波長データ複素数化手段115に入力し、超音波データを超音波画像再構成手段40に入力する。
【0081】
2波長データ複素数化手段115は、第1の光音響データと第2の光音響データのうちの何れか一方を実部、他方を虚部とした複素数データを生成する。以下では、第1の光音響データを実部とし、第2の光音響データを虚部とした複素数データが生成されるものとして説明する。
【0082】
光音響画像再構成手段25は、2波長データ複素数化手段115から入力された複素数データから、フーリエ変換法(FTA法)により光音響画像の再構成を行う。フーリエ変換法による画像再構成には、例えば文献”Photoacoustic Image Reconstruction-A Quantitative Analysis”Jonathan I.Sperl et al. SPIE-OSA Vol.6631 663103 等に記載されている従来公知の方法を適用することができる。光音響画像再構成手段25は、再構成画像を示すフーリエ変換後のデータを強度情報抽出手段116と2波長データ演算手段117とに入力する。
【0083】
強度情報抽出手段116は、各波長に対応した光音響データに基づいて信号強度を示す強度情報を生成する。本実施形態において強度情報抽出手段116は、光音響画像再構成手段25から入力される再構成画像を示す複素数データから強度情報を生成する。すなわち強度情報抽出手段116は、例えば複素数データがX+iYで表わされるとき、(X+Y1/2を強度情報として抽出する。
【0084】
それに次ぐ検波・対数変換手段26、血管判断手段27および血管補正手段28による処理は、図1の装置におけるのと同様にしてなされる。そこでこの場合も、光音響画像構築手段29により構築される光音響画像においては、血管部が、全周繋がった円環状や、あるいは内部が所定色で塗りつぶされた円状にして示されるようになる。そしてこの光音響画像を担持する画像データは画像合成手段44に入力され、そこで超音波断層画像を担持する画像データと合成され、合成されたデータが担持する画像が画像表示手段14に表示される。
【0085】
こうして画像表示手段14に表示される画像の例を、図7および8を参照して説明する。なお図7の(A)、(B)、(C)および(D)は、先に説明した図4の(A)、(B)、(C)および(D)とそれぞれ同じ種類の画像例を示している。本例では、図7(A)の超音波断層画像において、図4の場合と同様に一つの組織Eと管腔F、GおよびHが示されており、管腔F、Gは共に血管部である。しかし本例では図4の場合と異なって、図7(B)の光音響画像において、血管部Faと血管部Haの双方共、パルスレーザ光照射側から遠い側の血管壁が欠落した状態となっている
そこで、仮に、血管補正手段28による前述の補正を行なわずに超音波断層画像データと光音響画像データとを合成したとすると、その合成データに基づいて表示される画像において管腔Hと血管部Ha、そして管腔Fと血管部Faは、図7(C)に拡大図示する状態で画像化されることになる。それに対して、血管補正手段28による補正を行ってから超音波断層画像データと光音響画像データとを合成すれば、管腔Hと補正された血管部Ha′とが、また、管腔Fと補正された血管部Fa′とが同図(D)に拡大図示する状態で画像化される。こうして、上記補正を行うことにより、光音響画像において血管部が本来の形状通りに表示されるようになる。
【0086】
なおこの場合も、半分の円環状となっている血管部Ha、Faを、全周繋がった円環状の血管部Ha′、Fa′となるように補正しているが、その代わりに図8に示すように、管腔H、Fの内部をそれぞれ図中J、Kで示すように所定色で塗りつぶす補正を行って、血管であることを示すようにしてもよい。
【0087】
ここで、例えば血管部Ha′は動脈で、血管部Fa′は静脈である場合に、それらを互いに識別可能に表示する点について説明する。図6の2波長データ演算手段117は、各波長(750nmと800nm)に対応した光音響データ(第1の光音響データと第2の光音響データ)間の相対的な信号強度の大小関係を抽出する。本実施形態では、2波長データ演算手段117は、光音響画像再構成手段115で再構成された再構成画像を示すデータを入力データとし、複素数データであるこの入力データから、実部と虚部とを比較したときに、相対的に、どちらがどれ位大きいかを示す位相情報を抽出する。すなわち2波長データ演算手段117は、例えば複素数データがX+iYで表わされるとき、θ=tan−1(Y/X)を位相情報として生成する。なお、X=0の場合はθ=90°とする。実部を構成する第1の光音響データ(X)と虚部を構成する第2の光音響データ(Y)とが等しいとき、位相情報はθ=45°となる。位相情報は、相対的に第1の光音響データが大きいほどθ=0°に近づいて行き、第2の光音響データが大きいほどθ=90°に近づいて行く。
【0088】
光音響画像構築手段29には、検波・対数変換手段26で検波・対数変換処理がなされた後に血管補正がなされた強度情報が入力されると共に、2波長データ演算手段117から位相情報が入力される。光音響画像構築手段29は、入力された位相情報と強度情報とに基づいて、光音響画像を生成する。すなわち光音響画像構築手段29は、例えば入力された強度情報に基づいて、光吸収体の分布画像における各画素の輝度(階調値)を決定する。また、光音響画像構築手段29は、例えば位相情報に基づいて、光吸収体の分布画像における各画素の色(表示色)を決定する。光音響画像構築手段29は、例えば位相0°から90°の範囲を所定の色に対応させたカラーマップを用いて、入力された位相情報に基づいて各画素の色を決定する。
【0089】
ここで、位相0°から45°の範囲は、第1の光音響データが第2の光音響データよりも大きい範囲であるので、光音響信号の発生源は、波長800nmの光に対する吸収よりも波長750nmの光に対する吸収の方が大きい脱酸素化ヘモグロビンを主に含む血液が流れている静脈であると考えられる。一方、位相45°から90°の範囲は、第2の光音響データが第1の光音響データよりも小さい範囲であるので、光音響信号の発生源は、波長800nmの光に対する吸収よりも波長750nmの光に対する吸収の方が小さい酸素化ヘモグロビンを主に含む血液が流れている動脈であると考えられる。
【0090】
そこで、カラーマップとして、例えば位相が0°が青色で、位相が45°に近づくに連れて無色(白色)になるように色が徐々に変化すると共に、位相90°が赤色で、位相が45°に近づくに連れて白色になるように色が徐々に変化するようなカラーマップを用いる。こうすることにより、光音響画像上で、動脈に対応した部分つまり図7(D)の補正血管部Ha′や図8の補正血管部Jを赤色で表わし、静脈に対応した部分つまり図7(D)の補正血管部Fa′や図8の補正血管部Kを青色で表わすことができる。なお、強度情報を用いずに、階調値は一定として、位相情報に従って動脈に対応した部分と静脈に対応した部分との色分けを行うだけでもよい。
【0091】
また、本実施形態では、2つの波長の光を各々被検体に照射して得られた第1の光音響データと、第2の光音響データとの何れか一方を実部、他方を虚部とした複素数データを生成し、その複素数データからフーリエ変換法により再構成画像を生成している。このようにする場合、再構成処理は一度で済むため、第1の光音響データと第2の光音響データとを別々に再構成処理する場合と比べて、再構成を効率的に行うことができる。
【0092】
なお、以上の説明から明らかな通り本実施形態においては、2波長データ演算手段117および光音響画像構築手段29が、複数の波長のパルス光に対する吸収特性が互いに異なる被検体の複数の部分を識別して、互いに識別可能に表示させる手段を構成している。
【0093】
また、本実施形態においては、2つの波長のパルスレーザ光を交互に高速切り替えながら被検体に照射して1枚の画像を生成するようにしているが、1つの波長のパルスレーザ光を被検体に照射して1枚の画像を生成した後に波長切り替えを行うことにより、別の波長のパルスレーザ光を被検体に照射して別の画像を生成することも可能である。
【0094】
また、2つの波長の選択については、理論上は吸収係数が互いに相違してさえいれば、どのような2波長の組合せでも可能である。ただし、動脈/静脈を明確に区別して画像化する観点からは、一方は酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)の等吸収点に近い793〜802nm(より好ましくは等吸収点の798nm)とし、他方は両ヘモグロビンの吸収が大きく異なる748〜770nm(より好ましくは脱酸素化ヘモグロビンの吸収ピークが有る757nm)とするのが望ましい。
【0095】
以上、本発明の二つの実施形態について説明したが、本発明の光音響画像化装置および方法は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正および変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【0096】
例えば光音響画像においては、血管以外の管腔部分が、先に説明した血管の場合と同じ理由で一部欠落することも有り得るが、そのような血管以外の管腔部分を、超音波画像に基づいて補正するように本発明の光音響画像化装置を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 光音響画像化装置
11 プローブ
12 超音波ユニット
13、113 レーザ光源ユニット
14 画像表示手段
21 受信回路
22 AD変換手段
23 受信メモリ
24 データ分離手段
25 光音響画像再構成手段
26、41 検波・対数変換手段
27 血管判断手段
28 血管補正手段
29 光音響画像構築手段
30 送信制御回路
31 制御手段
32、132 Qスイッチパルスレーザ
33 フラッシュランプ
40 超音波画像再構成手段
42 管腔検出手段
43 超音波画像構築手段
44 画像合成手段
115 2波長データ複素数化手段
116 強度情報抽出手段
117 2波長データ演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化方法において、
前記被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得、
前記光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す前記超音波データに基づいて補正し、
この補正後の光音響データによって前記被検体を画像化することを特徴とする光音響画像化方法。
【請求項2】
前記特定部分が、被検体中の管腔部分であることを特徴とする請求項1記載の光音響画像化方法。
【請求項3】
前記管腔部分が血管部であることを特徴とする請求項2記載の光音響画像化方法。
【請求項4】
前記補正が、光音響画像において欠落している管壁部分を、超音波画像における管壁部分に沿って全周繋げる補正であることを特徴とする請求項2または3記載の光音響画像化方法。
【請求項5】
前記補正が、光音響画像において欠落している管壁部分を、光音響画像に存在している管壁部分と区別可能な態様で表示されるように生成するものであることを特徴とする請求項4記載の光音響画像化方法。
【請求項6】
前記補正が、超音波画像における管壁部分の内側に有る部分を、光音響画像において所定色で塗りつぶす補正であることを特徴とする請求項2または3記載の光音響画像化方法。
【請求項7】
前記所定色を、前記塗りつぶす補正がなされる管壁部分とは別の位置に有って正常に画像化される管壁部分とは別の色とすることを特徴とする請求項6記載の光音響画像化方法。
【請求項8】
前記パルス光として、互いに異なる複数の波長のパルス光を照射し、
各波長のパルス光に対する吸収特性が互いに異なる被検体の複数の部分を識別して、互いに識別可能に表示することを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の光音響画像化方法。
【請求項9】
前記複数の部分を、互いに色を変えて表示することを特徴とする請求項8記載の光音響画像化方法。
【請求項10】
前記複数の波長が、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる2つの波長であることを特徴とする請求項8または9記載の光音響画像化方法。
【請求項11】
被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、それにより被検体から発せられた音響波を検出して光音響データを得、この光音響データに基づいて前記被検体を画像化して画像表示手段に表示する光音響画像化装置において、
前記被検体に向けて超音波を送信し、それにより被検体で反射した反射超音波を検出して超音波データを得る超音波画像取得手段と、
前記光音響データが示している被検体中の特定部分を、該特定部分を示す前記超音波データに基づいて補正する補正手段とを備えたことを特徴とする光音響画像化装置。
【請求項12】
前記補正手段が、前記特定部分として被検体中の管腔部分を補正するものであることを特徴とする請求項11記載の光音響画像化装置。
【請求項13】
前記補正手段が、前記管腔部分として被検体中の血管部を補正するものであることを特徴とする請求項12記載の光音響画像化装置。
【請求項14】
前記補正手段が、光音響画像において欠落している管壁部分を、超音波画像における管壁部分に沿って全周繋げる補正を行うものであることを特徴とする請求項12または13記載の光音響画像化装置。
【請求項15】
前記補正手段が、光音響画像において欠落している管壁部分を、光音響画像に存在している管壁部分と区別可能な態様で表示されるように生成するものであることを特徴とする請求項14記載の光音響画像化装置。
【請求項16】
前記補正手段が、超音波画像における管壁部分の内側に有る部分を、光音響画像において所定色で塗りつぶす補正を行うものであることを特徴とする請求項12または13記載の光音響画像化装置。
【請求項17】
前記補正手段が、前記所定色を、前記塗りつぶす補正がなされる管壁部分とは別の位置に有って正常に画像化される管壁部分とは別の色に設定するものであることを特徴とする請求項16記載の光音響画像化装置。
【請求項18】
前記パルス光として、互いに異なる複数の波長のパルス光を照射する手段と、
各波長のパルス光に対する吸収特性が互いに異なる被検体の複数の部分を識別して、互いに識別可能に表示させる手段とを備えたことを特徴とする請求項11から17いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項19】
前記複数の部分を識別して互いに識別可能に表示させる手段が、それらの部分を互いに色を変えて表示させるものであることを特徴とする請求項18記載の光音響画像化装置。
【請求項20】
前記複数の波長が、生体の動脈および静脈における吸収特性が互いに異なる2つの波長であることを特徴とする請求項18または19記載の光音響画像化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−34852(P2013−34852A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−123847(P2012−123847)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】