説明

光音響画像化装置およびその故障検知方法

【課題】光音響画像化装置において、レーザ光等の光を被検体に向けて伝搬させる光ファイバの故障を正確に検知する。
【解決手段】被検体に照射する光Lを発する光源2および、前記光Lを被検体に向けて伝搬させる光ファイバ30Bを有するプローブを備えた光音響画像化装置において、光ファイバ30Bに入射してから光源2側に戻る戻り光RLを、光源2から光ファイバ30Bに向かう光の光路から分岐し、分岐された戻り光RLを光検出器20により検出し、この検出された戻り光RLの光量に基づいて光ファイバ30Bの故障を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響画像化装置すなわち、生体組織等の被検体に光を照射し、光照射に伴って発生する音響波に基づいて被検体を画像化する装置に関するものである。
【0002】
また本発明は、その種の光音響画像化装置の故障、より詳しくは該装置のプローブを構成する光ファイバの故障を検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば特許文献1や非特許文献1に示されているように、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響画像化装置が知られている。この光音響画像化装置においては、例えばパルスレーザ光等のパルス光が生体内に照射される。このパルス光の照射を受けた生体内部では、パルス光のエネルギーを吸収した生体組織が熱によって体積膨張し、音響波(音響信号)を発生する。そこで、この音響波を圧電素子等で検出し、その検出信号に基づいて生体内部を可視像化することが可能となっている。
【0004】
そのような光音響画像化装置においては、特許文献1にも記載されているように、光を伝搬させる複数の光ファイバの先端部および、音響波を検出する圧電素子が1次元あるいは2次元に配列されてなるプローブ(探触子)が多く用いられている。その種のプローブにおいては、複数の光ファイバの先端部から被検体に向けてレーザ光等の光が射出され、この光を受けた被検体から発生した音響波が複数の圧電素子によって検出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A High-Speed Photoacoustic Tomography System based on a Commercial Ultrasound and a Custom Transducer Array, Xueding Wang, Jonathan Cannata, Derek DeBusschere, Changhong Hu, J. Brian Fowlkes, and Paul Carson, Proc. SPIE Vol. 7564, 756424 (Feb.23, 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の光ファイバは、レーザ光源等の光源からプローブまで光を伝搬させるものであるが、プローブの使用を重ねるうちに断線したり、あるいは折損したりする可能性がある。光ファイバがそのような状態になったまま光音響画像を取得すると、断線あるいは折損した光ファイバの近くではその他の部分と比べて、被検体に対する照射光量が低下するので、得られる光音響画像は生体組織の状態を不正に示すものとなってしまう。しかし従来の光音響画像化装置では、このような光ファイバの故障(断線あるいは折損)を正確に検知する対策は施されていなかった。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光等の光を被検体に向けて伝搬させる光ファイバの故障を正確に検知することができる光音響画像化装置の故障検知方法を提供することを目的とする。
【0009】
また本発明は、上記故障検知方法を実施することができる光音響画像化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光音響画像化装置の故障検知方法は、
被検体に照射する光を発する光源および、前記光を被検体に向けて伝搬させる光ファイバを有するプローブを備えた光音響画像化装置において、前記光ファイバの断線あるいは折損等の故障を検知する方法であって、
前記光ファイバに入射してから光源側に戻る戻り光を、光源から光ファイバに向かう光の光路から分岐し、
分岐された戻り光を光検出器により検出し、
この検出された戻り光の光量に基づいて光ファイバの故障を検知することを特徴とするものである。
【0011】
この方法においてより具体的には、戻り光の光量が所定の基準値を上回った場合、光ファイバが故障していると判断する。なお、そのような基準値としては、個々の光音響画像化装置毎に定められたものを用いるのが好ましい。
【0012】
一方、本発明による光音響画像化装置は、
被検体に照射する光を発する光源および、前記光を被検体に向けて伝搬させる光ファイバを有するプローブを備えた光音響画像化装置において、
光ファイバに入射してから光源側に戻る戻り光を、光源から光ファイバに向かう光の光路から分岐させる分岐光学系と、
この分岐光学系により前記光路から分岐された戻り光を検出する光検出器と、
この光検出器が検出した戻り光の光量に基づいて前記光ファイバの故障を検知する故障検知手段とが設けられたことを特徴とするものである。
【0013】
なお、上記故障検知手段は、戻り光の光量が所定の基準値を上回った場合、光ファイバが故障していると判断するように構成されるのが望ましい。その場合、上記基準値としては、個々の光音響画像化装置毎に定められて記憶手段に記憶された基準値が好適に用いられる。
【0014】
また本発明の光音響画像化装置においては、故障検知手段が光ファイバの故障を検知したとき、その故障を示す表示を行う表示手段がさらに設けられることが好ましい。
【0015】
あるいは、故障検知手段が光ファイバの故障を検知したとき、その故障を示す例えば音や光による警報を発する警報手段が設けられてもよい。そのような警報手段は、上記表示手段とともに、あるいは上記表示手段に代えて設けることができる。
【0016】
また本発明の光音響画像化装置は、光ファイバが複数設けられてバンドルファイバを構成していることを前提として構成されるのが望ましい。
【0017】
他方、分岐光学系としては、光源から光ファイバに向かう光の光路に挿入されたビームスプリッタを含むものが好適に用いられる。
【0018】
あるいは、特に光源が直線偏光した光を発するものである場合、分岐光学系としては、光ファイバに向かって進行する光の直線偏光方向に対して透過軸が平行となる向きにして前記光路に挿入された偏光ビームスプリッタおよび、この偏光ビームスプリッタと光ファイバとの間の光路に挿入されたλ/4板を含むものが好適に用いられる。
【0019】
さらに分岐光学系としては、光源から光ファイバに向かう光の光路に挿入されて戻り光の一部を反射させるプリズムを含むものも好適に用いられる。
【0020】
また光ファイバが複数、それらの戻り光が出射する端面が一列に並んだ状態にして配設されている場合は、光検出器として、上記複数の光ファイバから各々戻り光が出射したとき、それらの戻り光の並び方向に沿うように光検出部が延びるラインセンサが用いられることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
プローブを構成する光ファイバに断線や折損が無い場合は、光源から発せられてそこに入射した光が光源側に戻ることはほとんど無い。それに対して、光ファイバに断線や折損した部分が有ると、入射した光がその部分で反射し、戻り光となって光源側に戻る。本発明による光音響画像化装置の故障検知方法はこの点に着目して、光ファイバに入射してから光源側に戻る戻り光を、光源から光ファイバに向かう光の光路から分岐し、分岐された戻り光を光検出器により検出し、この検出された戻り光の光量に基づいて光ファイバの故障を検知するようにしたので、光ファイバにおける断線や折損の故障を正確に検知可能となる。
【0022】
なお、戻り光の光量が所定の基準値を上回るかどうかという点を故障の判断基準としておけば、より簡単な構成で故障検知が可能になる。
【0023】
またそのようにする場合、上記基準値として、個々の光音響画像化装置毎に定められたものを用いれば、プローブの特性が装置毎に異なるような場合でも正確に故障の有無を検知可能となる。
【0024】
また本発明による光音響画像化装置は、光ファイバに入射してから光源側に戻る戻り光を、光源から光ファイバに向かう光の光路から分岐させる分岐光学系と、この分岐光学系により分岐された戻り光を検出する光検出器と、この光検出器が検出した戻り光の光量に基づいて光ファイバの故障を検知する故障検知手段とを備えているので、上述した本発明による故障検知方法を実施できるものとなる。
【0025】
そして本発明の光音響画像化装置において、故障検知手段が光ファイバの故障を検知したとき、その故障を示す表示を行う表示手段や、警報を発する警報手段が設けられていれば、装置使用者が故障発生を直ちに知ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態による光音響画像化装置の基本構成を示すブロック図
【図2】図1の装置に用いられたプローブの概略構成を示す斜視図
【図3】図2のプローブが有する光ファイバを示す概略正面図
【図4】プローブと信号取込み部との接続例を示すブロック図
【図5】図1の装置に用いられたプローブの分岐光学系およびその周辺部分を示す概略側面図
【図6】光ファイバから出射する戻り光の状態を説明する説明図
【図7】本発明の光音響画像化装置に用いられる分岐光学系の別の例を示す概略側面図
【図8】本発明の光音響画像化装置に用いられる分岐光学系のさらに別の例を示す概略側面図
【図9】本発明の光音響画像化装置に用いられる光検出器の別の例を示す概略側面図
【図10】図9の構成の一部を示す概略正面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による光音響画像化装置の基本構成を示すブロック図である。この光音響画像化装置100は、レーザドライバ1、レーザ光源2、超音波探触子(プローブ)3、領域選択部4、光照射検出部5、同期補正処理部6、信号取込み部7、素子データメモリ8、画像構築部9、画像メモリ10、画像表示部11、光検出器20、故障検知部21および分岐光学系40を有している。
【0028】
レーザ光源2は、被検体である生体組織に照射するレーザ光を射出するもので、本実施形態ではパルスレーザ光Lを発するものが用いられている。レーザドライバ1は、上記レーザ光源2を駆動するものである。
【0029】
図2に示すようにプローブ3は、複数ch(チャンネル)の圧電素子31を有する。それらの圧電素子31は、生体組織の画像化する範囲に対応させて、例えば192個並べて設けられている。このプローブ3は、レーザ光源2から生体組織にパルスレーザ光Lが照射されたとき該生体組織内から生じる音響信号(超音波)を圧電素子31により検出し、その音響信号を電気信号に変換して出力する。
【0030】
なお、多くの場合光音響画像化装置は、上記圧電素子31から生体組織に超音波を照射し、生体組織で反射した超音波を圧電素子31により受信して、超音波画像も取得可能に形成されるが、その点は本発明と直接関係が無いので説明は省略する。
【0031】
プローブ3の複数の圧電素子31に対応する範囲、つまり生体組織の画像化される範囲は、互いに重ならない複数の部分領域に分けられている。本実施形態においてこの部分領域は、後に詳述するように例えば領域A、領域Bおよび領域Cの3つとされている。各部分領域の幅は、信号取込み部7が並列にサンプリング可能な信号数と同数の圧電素子に対応する幅となっている。本例において、信号取込み部7は64ch分のデータを並列にサンプリング可能とされている。そこで、領域A、領域B、および領域Cの各領域は、64個の圧電素子に対応した幅となる。
【0032】
領域選択部4は、上記3つの部分領域のうちの1つを選択するものであり、その選択情報をレーザドライバ1およびプローブ3に通知する。レーザドライバ1は、少なくとも選択された部分領域を含む範囲にパルスレーザ光を照射するようにレーザ光源2を駆動する。一方、プローブ3はマルチプレクサなどを用いて、選択された部分領域に対応する圧電素子31を信号取込み部7に接続させる。信号取込み部7は、部分領域にパルスレーザ光が照射された後、接続された圧電素子31が出力する電気信号(音響信号データ)を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、サンプリングしたデータを素子データメモリ8に格納する。
【0033】
領域選択部4は、選択した部分領域に対応する圧電素子31からの音響信号データが素子データメモリ8に格納されると、次の部分領域を選択する。こうして領域選択部4は、生体組織の画像化する範囲すべてが選択されるまで、部分領域を順次選択する。領域選択部4が部分領域を順次選択することで、素子データメモリ8には、プローブ3の全圧電素子31からの音響信号データが素子データメモリ8に格納される。つまり、領域選択部4が領域A、領域B、領域Cを順次選択し、信号取込み部7が各領域についてN回サンプリングすれば、素子データメモリ8には計(192×N)ch分の音響信号データが格納されることになる。
【0034】
信号取込み部7は、プローブ3からの電気信号を素子データメモリ8に格納する。信号取込み部7は、プローブ3が出力する上記電気信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、それにより得られたサンプリングデータを素子データメモリ8に格納する。この信号取込み部7は、例えば微小信号を増幅するプリアンプや、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器を含んで構成されている。信号取込み部7が、並列に取り込める信号の数つまりch(チャンネル)数は、プローブ3が有する圧電素子の総数よりも少ない。例えば本実施形態では、プローブ3は一例として192個の圧電素子31を有するのに対して、信号取込み部7が並列に取り込み可能なch数は64とされている。
【0035】
次に図2〜5も参照して、上記構成についてさらに詳しく説明する。図1に示したレーザ光源2は、例えば波長1064nmのレーザ光をその第2高調波つまり波長が532nmのレーザ光に変換して出力するNd:YAG/SHGレーザおよび、上記波長532nmのレーザ光により励起されて波長700〜900nm程度のレーザ光を発するTi:サファイアレーザの2つの固体レーザから構成されている。光音響画像の取得時、上記Nd:YAG/SHGレーザは光照射を指令するトリガー信号Tを受けるとパルス駆動し、該レーザ光源2から最終的に波長700〜900nm程度のパルスレーザ光Lが発せられる。
【0036】
上記パルスレーザ光Lは、ファイバ入力光学系を兼ねる図1の分岐光学系40(これについては、後に図5を参照して詳述する)を介して、図2に示したプローブ3のバンドルファイバ30Bに入力される。バンドルファイバ30Bは、図3にその入射端面の形状を示す通り、多数のマルチモード光ファイバ30が束ねられてなるものであり、パルスレーザ光Lは略等光量ずつ各光ファイバ30に入力される。
【0037】
図2中に示す圧電素子31は、所定の方向に沿って1次元的に配列されている。バンドルファイバ30Bの各光ファイバ30の先端部は、上記配列された圧電素子31の両側方において該素子31の並び方向に沿って配置され、光ファイバ30を伝搬して来たパルスレーザ光Lを、圧電素子31の両側方から生体組織に照射する。つまり並設されたそれらの光ファイバ30の先端部は、光照射部を構成している。なお図2において、光ファイバ30および圧電素子31の個数は概略的に示してあり、実際の数の例は先に示した通りである。
【0038】
本実施形態において上記光照射部は、生体組織の例えば3つの領域A、領域B、および領域Cの各々に対応させて、それぞれ複数の光ファイバ30から構成されている。すなわち、領域Aに対応する複数の光ファイバ30からなる光照射部は、領域Aの選択時にパルスレーザ光Lを少なくとも領域Aに照射する。また、領域Bに対応する複数の光ファイバ30からなる光照射部は領域Bの選択時にパルスレーザ光Lを少なくとも領域Bに照射し、領域Cに対応する複数の光ファイバ30からなる光照射部は領域Cの選択時にパルスレーザ光Lを少なくとも領域Cに照射する。
【0039】
プローブ3には、3つの光検出器33a、33bおよび33cが設けられている。これらの光検出器33a〜33cは、図1に示す光照射検出部5に含まれる。光検出器33a〜33cは、パルスレーザ光Lが生体組織に照射されたことを検出するもので、このパルスレーザ光Lを受光すると光検出信号を出力する。光検出器33a、33bおよび33cはそれぞれ、領域A、領域Bおよび領域Cに対応して設けられている。領域Aに対応する光検出器33aは、領域Aが選択されているときに、該領域Aにパルスレーザ光Lが照射されたことを検出する。領域Bおよび領域Cに対応する光検出器33b、33cも同様であり、それぞれの領域の選択時に、各領域にパルスレーザ光Lが照射されたことを検出する。
【0040】
また図4は、プローブ3と信号取込み部7との接続例を示している。プローブ3は前述の通り、192chの圧電素子31(図2参照)を有している。192chの圧電素子31に対応する生体組織の領域は、前述したように3つの部分領域(領域A〜C)からなるものとして考えられる。つまり、192chの圧電素子31に対応する生体組織の幅が60mmであるとすると、各部分領域の幅は20mmとなる。光音響画像化装置100は、上記20mm幅の部分領域への光照射・データ収集を逐次行って、全192ch分のデータを取得する。
【0041】
信号取込み部7は、例えば64ch分のデータを並列にサンプリング可能なAD変換器を含む。マルチプレクサ12は、プローブ3の圧電素子31と信号取り込み部7とを選択的に接続する。マルチプレクサ12は、例えば192chの圧電素子と接続しており、そのうちの64ch分を信号取込み部7のAD変換器に選択的に接続する。マルチプレクサ12は、例えば領域Aが選択されているときは、領域Aに対応する部分の64chの圧電素子31を信号取込み部7のAD変換器に接続する。また、マルチプレクサ12は、領域Bが選択されているときは、領域Bに対応する部分の64chの圧電素子31を信号取込み部7のAD変換器に接続し、領域Cが選択されているときは、領域Cに対応する部分の64chの圧電素子31を信号取込み部7のAD変換器に接続する。
【0042】
領域Aが選択され、複数の光ファイバ30からなる光照射部が生体組織の領域Aにパルスレーザ光Lを照射すると、このパルスレーザ光Lは生体組織内の散乱により、ある程度の広がりを持って進行する。生体組織内に存在する血液等の吸収体はパルスレーザ光Lのエネルギーを吸収し、音響信号(音響波)を発生する。この音響信号が各圧電素子31で検出されるまでに要する時間は、音響信号発生地点と各圧電素子31とのX方向の位置関係と、音響信号発生地点のZ方向の位置とに応じて決まる。
【0043】
上記音響信号を検出するために、マルチプレクサ12が選択した圧電素子31が出力する電気信号は、AD変換器にて所定の計測期間にわたって複数回サンプリングされる。これは他の領域Bおよび領域Cについても同様であり、各領域に対してパルスレーザ光Lが照射され、各領域に対応する圧電素子31が出力する電気信号が所定の計測期間にわたって複数回サンプリングされ、音響信号が検出される。
【0044】
ここで、各部分領域に関する処理の流れを考えると、部分領域の選択、前記トリガー信号Tの発生、生体組織へのパルスレーザ光照射、生体組織からの音響信号検出、素子データメモリへのデータ格納という流れになる。信号取込み部7における電気信号の取込み開始タイミングつまりサンプリング開始タイミングは、生体組織へパルスレーザ光Lが照射されるタイミングに合わせて設定されている。
【0045】
上記のトリガー信号発生から実際に生体組織へパルスレーザ光Lが照射されるまでの時間が、各部分領域毎に異なっていると、各部分領域毎に得られた音響信号データを合成して生成される画像の画質が低下する問題が起きる。光照射検出部5および同期補正処理部6は、この問題を防止するために設けられている。すなわち、光照射検出部5はレーザ光源2から生体組織に光が照射されたことを検出し、また同期補正処理部6は、光照射検出部5が検出した光照射タイミングの差を部分領域間で求め、そのタイミング差に基づいて、素子データメモリ8におけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する。
【0046】
領域選択部4が全ての部分領域を選択し、プローブ3が有する192chの圧電素子31それぞれが出力する複数回のサンプリングデータが素子データメモリ8に格納されると、画像構築部9はこの素子データメモリ8からサンプリングデータを読み出し、読み出したデータに基づいて生体組織の断層画像を構築する。画像構築部9は典型的には、信号処理部、位相整合加算部および画像処理部を含んで構成される。画像構築部9における詳細な画像構築手順について詳しい説明は省略するが、その機能は、例えばコンピュータが所定のプログラムに従って動作することで実現可能である。あるいは画像構築部9の機能を、DSP(digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などで実現してもよい。
【0047】
画像構築部9は、構築した断層画像を示す画像データを画像メモリ10に格納する。画像表示部11は、画像メモリ10に格納された画像データに基づいて、上記断層画像を例えば液晶表示画面などに表示する。
【0048】
ここで、図2に示した複数の光ファイバ30は、プローブ3の使用を重ねるうちに断線したり、あるいは折損したりする可能性がある。その状態のまま光音響画像化装置100を使用すれば、先に述べたような不具合を招くことになる。以下、この光ファイバ30の断線や折損を検知する点について説明する。
【0049】
図5は、図1に示した分岐光学系40およびその周辺の構成を詳しく示すものである。ここに示される通り分岐光学系40は、レーザ光源2から発散光として発せられたパルスレーザ光Lを平行光化するコリメーターレンズ41と、平行光となったパルスレーザ光Lの光路に配されたビームスプリッタ42と、このビームスプリッタ42を通過したパルスレーザ光Lを集光してバンドルファイバ30Bの各光ファイバ30に入力させる集光レンズ43とを有している。
【0050】
光ファイバ30に入射したパルスレーザ光Lが戻り光RLとなってレーザ光源2側に進行した場合、その戻り光RLはビームスプリッタ42により、レーザ光源2から光ファイバ30に向かうパルスレーザ光Lの光路から分岐され、図5中で下方に進行する。この分岐された戻り光RLは結像レンズ44に通され、該結像レンズ44により、バンドルファイバ30Bの入射端面(戻り光RLについては出射端面)の像が光検出器20上に結像される。なお光検出器20としては、例えばCCDエリアセンサ等が好適に用いられる。またビームスプリッタ42としては、透過光量と反射光量との比率が例えば50:50のものが用いられるが、光検出器20により戻り光RLが観察である限り、その比率は例えば90:10等とされてもよい。
【0051】
図6は、上記光検出器20上に結像される、バンドルファイバ30Bの入射端面(図3参照)の像を概略的に示すものである。図3に示す各光ファイバ30において断線や折損が無ければ、その部分は図6にFで示すように暗くなっている。それに対して、断線や折損が生じている光ファイバ30の部分では、戻り光RLが出射するために、図6にF′で示すように明るく観察される。したがって、光検出器20が検出する光量は、全部の光ファイバ30が正常である場合と比べて、それらの一部に断線や折損が有る場合はより大となる。
【0052】
上記光検出器20は、検出した全光量を示す信号を出力する。この出力信号は、図1に示す故障検知部21に入力される。故障検知部21は上記出力信号と、不図示の内部メモリに記憶している光量基準値を示す信号とを比較し、前者が後者を上回った場合は、光ファイバ30の故障を示す故障検知信号SDを出力する。この故障検知信号SDは画素表示部11に入力され、画素表示部11はこの故障検知信号SDを受けると、例えば「プローブの光ファイバに異常が有ります」等の故障を知らせる表示を行う。
【0053】
装置操作者はこの表示により光ファイバ30の故障を知り、プローブ3を修理したり、あるいは交換したりすることができるので、故障した光ファイバ30を含むプローブ3を使用して、不正な光音響画像を取得してしまうことを未然に防止可能となる。なお、上述のように光ファイバの故障を示す表示を行う代わりに、ブザー音を発したり、警報灯を点滅させたりする警報手段を設けてもよい。
【0054】
なお、上記の光量基準値は、個々の光音響画像化装置100毎に定められたものであってもよいし、あるいは、例えば共通の仕様や型式のプローブ3を備えた光音響画像化装置毎に共通の値とされたものであってもよい。
【0055】
次に、本発明の光音響画像化装置において用いられ得る分岐光学系の別の例について、図7および図8を参照して説明する。なおそれらの図において、図1〜6中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。
【0056】
まず、図7に示す分岐光学系50は、図5に示した分岐光学系40と対比すると、ビームスプリッタ42に代えて偏光ビームスプリッタ51が設けられ、そしてこの偏光ビームスプリッタ51と集光レンズ43との間において、パルスレーザ光Lの光路にλ/4板52が挿入された点が異なるものである。
【0057】
またレーザ光源2としては、直線偏光したパルスレーザ光Lを発するものが用いられている。偏光ビームスプリッタ51は、その透過軸が、レーザ光源2からバンドルファイバ30Bに向かって進行するパルスレーザ光Lの直線偏光の方向と一致する向きに配設されている。そこで、レーザ光源2から発せられて偏光ビームスプリッタ51に入射したパルスレーザ光Lは、該偏光ビームスプリッタ51を高い透過率で透過する。ここを透過したパルスレーザ光Lは、次にλ/4板52により直線偏光状態から円偏光状態に変換されて、バンドルファイバ30Bに入射する。
【0058】
上記の構成においても、バンドルファイバ30Bの光ファイバ30に断線や折損した部分があると、パルスレーザ光Lの一部がそれらの部分で反射し、戻り光RLとなってレーザ光源2側に戻る。この戻り光RLは上述のように反射した際に円偏光の向きが反対になるので、λ/4板52を通過すると、バンドルファイバ30Bに向かうパルスレーザ光Lの直線偏光方向と直角な方向に直線偏光したものとなる。そこでこの戻り光RLは偏光ビームスプリッタ51において図中下方に反射して、結像レンズ44に入射する。それに続く戻り光RLの検出および、その検出光量に基づく光ファイバ30の故障検知、並びにその表示は、本例でも既述の通りになされる。
【0059】
以上の通りの偏光ビームスプリッタ51およびλ/4板52を備えた分岐光学系50によれば、図5に示した分岐光学系40において発生し得る、ビームスプリッタ42での光損失を防止することができる。
【0060】
次に図8に示す分岐光学系60は、図5に示した分岐光学系40と対比すると、ビームスプリッタ42に代えてプリズム61が設けられ、そしてレーザ光源2が、レンズ41および42の図中ほぼ上半分の部分をパルスレーザ光Lが進行するように配置された点が異なるものである。なお上記プリズム61は、レンズ41および43の図中ほぼ下半分の部分を通過する戻り光RLを、図中下方に反射させるように配置されている。
【0061】
プリズム61で反射した戻り光RLは、結像レンズ44に入射する。それに続く戻り光RLの検出および、その検出光量に基づく光ファイバ30の故障検知、並びにその表示は、本例でも既述の通りになされる。
【0062】
以上の通りのプリズム61を備えた分岐光学系60を適用することにより、本例においても、図5に示した分岐光学系40において発生し得る、ビームスプリッタ42での光損失を防止することができる。
【0063】
次に図9および図10を参照して、本発明の光音響画像化装置に用いられ得る光検出器の別の例について説明する。本例においては図9に示す通り、図5に示したものと同じ分岐光学系40が用いられている。一方バンドルファイバ30Bにおいては、図10に正面形状を示すように、パルスレーザ光Lが入射し、そして戻り光RLが出射する端面が一列に並んだ状態にして複数の光ファイバ30が配設されている。
【0064】
そこで、結像レンズ44によって結像されるバンドルファイバ30Bの端面の像は、複数の光ファイバ30の端面が一列に並んだものとなる。つまりそれらの端面からそれぞれ戻り光RLが出射したとすると、それらの戻り光RLは一列に並んだものとなる。光検出器70としては、これらの戻り光RLの並び方向(例えば図9中の左右方向)に沿って光検出部が延びるラインセンサが適用されている。
【0065】
上述のようなラインセンサとしては、例えばフォトダイオードアレイ等を好適に用いることができる。その種のラインセンサは、前述したCCDエリアセンサ等と比べればより安価なものであるので、故障検出のためのコストを抑える上で有利なものとなる。
【0066】
なお、以上説明した実施形態の光音響画像化装置100においては、複数の光ファイバ30を有するプローブ3が用いられているが、本発明は、光ファイバを1本だけ有するプローブを備えた光音響画像化装置に対しても適用可能である。その場合も、本発明によれば、その1本の光ファイバの破断や折損を正確に検知可能である。
【0067】
またレーザ光源としては、上記実施形態で用いられた固体レーザの他、アレキサンドライトレーザ等のその他の固体レーザや、発振波長が最大800nm程度のAlGaAs系半導体レーザ、発振波長が最大900nm程度のInGaAs系半導体レーザ等も適用可能である。さらには、半導体レーザを種光源とする光増幅型レーザ光源と光波長変換素子との組み合わせからなるもの、より具体的には、波長1560nm程度のレーザ光を発する半導体レーザと、そのレーザ光を増幅する偏波保存型Er(エルビウム)添加光ファイバからなるファイバ増幅器と、そこで増幅された上記レーザ光を波長780nm程度の第2高調波に変換するSHG(第2高調波発生)素子とからなるもの等も適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 レーザドライバ
2 レーザ光源
3 プローブ
4 領域選択部
5 光照射検出部
6 同期補正処理部
7 信号取込み部
8 素子データメモリ
9 画像構築部
10 画像メモリ
11 画像表示部
12 マルチプレクサ
20、70 光検出器
21 故障検知部
30 光ファイバ
30B バンドルファイバ
31 圧電素子
40、50、60 分岐光学系
41 コリメーターレンズ
42 ビームスプリッタ
43 集光レンズ
44 結像レンズ
51 偏光ビームスプリッタ
52 λ/4板
61 プリズム
100 光音響画像化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に照射する光を発する光源および、前記光を被検体に向けて伝搬させる光ファイバを有するプローブを備えた光音響画像化装置において、前記光ファイバの故障を検知する方法であって、
前記光ファイバに入射してから光源側に戻る戻り光を、光源から光ファイバに向かう光の光路から分岐し、
分岐された戻り光を光検出器により検出し、
この検出された戻り光の光量に基づいて前記光ファイバの故障を検知することを特徴とする光音響画像化装置の故障検知方法。
【請求項2】
前記戻り光の光量が所定の基準値を上回った場合、光ファイバが故障していると判断することを特徴とする請求項1記載の光音響画像化装置の故障検知方法。
【請求項3】
前記基準値が、個々の光音響画像化装置毎に定められたものであることを特徴とする請求項2記載の光音響画像化装置の故障検知方法。
【請求項4】
被検体に照射する光を発する光源および、前記光を被検体に向けて伝搬させる光ファイバを有するプローブを備えた光音響画像化装置において、
前記光ファイバに入射してから光源側に戻る戻り光を、光源から光ファイバに向かう光の光路から分岐させる分岐光学系と、
この分岐光学系により前記光路から分岐された戻り光を検出する光検出器と、
この光検出器が検出した戻り光の光量に基づいて前記光ファイバの故障を検知する故障検知手段とが設けられたことを特徴とする光音響画像化装置。
【請求項5】
前記故障検知手段が、前記戻り光の光量が所定の基準値を上回った場合、光ファイバが故障していると判断するものであることを特徴とする請求項4記載の光音響画像化装置。
【請求項6】
前記故障検知手段が、前記基準値として、個々の光音響画像化装置毎に定められて記憶手段に記憶された基準値を用いるものであることを特徴とする請求項5記載の光音響画像化装置。
【請求項7】
前記故障検知手段が光ファイバの故障を検知したとき、その故障を示す表示を行う表示手段が設けられたことを特徴とする請求項4から6いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項8】
前記故障検知手段が光ファイバの故障を検知したとき、その故障を示す警報を発する警報手段が設けられたことを特徴とする請求項4から6いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項9】
前記光ファイバが複数設けられてバンドルファイバを構成していることを特徴とする請求項4から8いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項10】
前記分岐光学系が、前記光路に挿入されたビームスプリッタを含むものであることを特徴とする請求項4から9いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項11】
前記光源が、直線偏光した光を発するものであり、
前記分岐光学系が、前記光ファイバに向かって進行する光の直線偏光方向に対して透過軸が平行となる向きにして前記光路に挿入された偏光ビームスプリッタおよび、この偏光ビームスプリッタと前記光ファイバとの間の前記光路に挿入されたλ/4板を含むものであることを特徴とする請求項4から9いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項12】
前記分岐光学系が、前記光路に挿入されて前記戻り光の一部を反射させるプリズムを含むものであることを特徴とする請求項4から9いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項13】
前記光ファイバが複数、それらの前記戻り光が出射する端面が一列に並んだ状態にして配設され、
前記光検出器として、前記複数の光ファイバから各々戻り光が出射した場合、それらの戻り光の並び方向に沿うように光検出部が延びるラインセンサが用いられていることを特徴とする請求項4から12いずれか1項記載の光音響画像化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−210337(P2012−210337A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77582(P2011−77582)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】