説明

光90度ハイブリッド

【課題】小型化が可能で、かつ製造コストを低減した光90度ハイブリッドを提供する。
【解決手段】光90度ハイブリッド1は、PLCチップ3の平面光波回路内に形成され、信号光と局所発振光(LO光)を混合して信号光を直交成分I、Qに分離して出力する90度ハイブリッド回路4を備える。90度ハイブリッド回路4は、信号光およびLO光を分岐する第1,第2カプラ11,12と、信号光が伝搬する第1,第2経路21,22と、LO光が伝搬する第3,第4経路23,24と、信号光とLO光を合波する第3,第4カプラ13,14とを備える。第3、第4経路を伝搬する局所発振光の間に90度の位相差が付与される。第2カプラ12、第3経路23および第4経路24が、第1経路21と第2経路22の間に形成されている。90度ハイブリッド回路4全体のサイズが縮小され、PLCチップ3の小型化が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光と局所発振光を混合するコヒーレント光伝送方式の受信器、例えば、DP-QPSK信号を受信するDP-QPSK変調方式の受信器などに使用される、石英系PLCなどの平面光波回路を用いた光90度ハイブリッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、石英系平面光波回路(PLC: Planer Lightwave Circuit)などのPLC上に、カプラと偏波ビームスプリッタ(PBS: Polarization Beam Splitter)の組合せからなる光90度ハイブリッドが知られている(例えば、非特許文献1〜3参照)。
【0003】
一般に、DP-QPSK(Dual Polarization-Quadrature Phase Shift Keying)変調方式の受信器などに使用される従来の光90度ハイブリッドは、図6に示すように、QPSK信号などの位相変調信号(信号光)と局所発振光(LO光)をそれぞれ入力側のカプラ(第1カプラ101と第2カプラ102)で分岐した後、信号光とLO光を出力側のカプラ(第3カプラ103と第4カプラ104)で合波させる。入力側の第1カプラ101で分岐された2つの信号光は、同じ光路長の経路(経路1,3)をそれぞれ伝搬して出力側のカプラ(第3カプラ103と第4カプラ104)に入射する。一方、入力側の第2カプラ102で分岐されたLO光がそれぞれ伝搬する2つの経路(経路2,4)には、両LO光の間に90度の位相差が付与されるように光路長差を持たせてある。つまり、経路2,4は、その光路長差が位相換算で90度となるように設定されている。これにより、出力側の第3カプラでは、経路1を伝搬した信号光と経路2を伝搬したLO光とが合波され、出力側の第4カプラでは、経路3を伝搬した信号光と経路4を伝搬したLO光とが合波(混合)される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−192746号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】井上靖之他、「石英系PLCを用いた光90度ハイブリッド」1994年電子情報通信学会秋季大会、C-259
【非特許文献2】細矢正風他、「PLCを用いた90°ハイブリッド・バランス型光受信モジュールの構成技術」、電子情報通信学会技術研究報告.光通信システムOCS-95 pp.49-54
【非特許文献3】S. Norimatsu et al., “An Optical 90-Hybrid Balanced Receiver Module Using a Planar LightwaveCircuit,” IEEE Photon. Technol. Lett., Vol.6, No.6, pp.737-740 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の光90度ハイブリッドでは、次のような問題があった。
(1)PLCチップに、信号光が伝搬する2つの経路の一方(経路3)とLO光が伝搬する2つの経路の一方(経路2)とが交差し、かつ、同チップの左右方向にそれぞれ延びる4つの経路1乃至4がその縦方向に略等間隔で並ぶように光導波路が形成されている。そのため、PLCチップに形成される平面光波回路である90度ハイブリッド回路全体の縦方向の寸法が大きくなり、PLCチップ自体が大型化してしまう。
(2)PLCチップ自体の大型化により、1枚のウェハに作製可能な90度ハイブリッド回路の数、つまりウェハ1枚当たりのPLCチップの取り数を多くして、製造コストを低減するのが難しい。
【0007】
本発明の目的は、小型化が可能で、かつ製造コストを低減した光90度ハイブリッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、PLCチップの平面光波回路内に、変調された信号光と局所発振光を混合して信号光を直交成分I、Qに分離して出力する90度ハイブリッド回路が形成された光90度ハイブリッドであって、前記90度ハイブリッド回路は、前記信号光および局所発振光をそれぞれ分岐する第1および第2カプラと、前記第1カプラで分岐された前記信号光がそれぞれ伝搬する第1経路および第2経路と、前記第2カプラで分岐された前記局所発振光がそれぞれ伝搬する第3経路および第4経路と、前記第1経路を伝搬した信号光と前記第3経路を伝搬した局所発振光とを合波する第3カプラと、前記第2経路を伝搬した信号光と前記第4経路を伝搬した局所発振光とを合波する第4カプラと、を備え、前記第3経路と第4経路を伝搬する前記局所発振光の間に90度の位相差が付与されるように構成され、かつ、前記第2カプラ、前記第3経路および前記第4経路が、前記第1経路と第2経路の間に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記第1経路と前記第2経路、および前記第3経路と前記第4経路は、前記PLCチップ左右の入力端および出力端の各中心部を結ぶ仮想中心線に関してそれぞれ対称に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記入力端の中央部に前記信号光および前記局所発振光がそれぞれ入力される第1および第2入力ポートが設けられ、前記出力端の中央部に第1乃至第4出力ポートがそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記第1入力ポートと前記第1カプラとの間には、前記仮想中心線に沿ったPLCチップの上下方向における中央部で延びる信号光用の第1入力導波路が形成され、前記第2入力ポートと前記第2カプラとの間には、前記第1経路と第2経路のいずれか一方と交差する局所発振光用の第2入力導波路が形成され、前記第3カプラの二つの出力ポートと前記第1および第2出力ポートとを接続する第1および第2出力導波路と、前記第4カプラの二つの出力ポートと前記第3および第4出力ポートとを接続する第3および第4出力導波路とが前記仮想中心線に関してそれぞれ対称に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記第3経路および前記第4経路は、曲げ導波路と直線導波路をそれぞれ有し、前記曲げ導波路の回転角や前記直線導波路の長さを調整して、前記第3経路と第4経路の光路差が位相換算で90度となるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記第1乃至第4経路には位相トリミング用のヒータがそれぞれ配置されており、前記位相トリミング用のヒータのうち、前記第3経路に配置されたヒータと前記第4経路に配置されたヒータのいずれか一方を駆動して位相トリミングを行うことで前記第3経路および前記第4経路の各光路長を調整可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記第2カプラとして方向性結合器を用いたことを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記方向性結合器が低波長特性型方向性結合器であることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明に係る光90度ハイブリッドは、前記PLCチップの平面光波回路内に、前記90度ハイブリッド回路が二つ形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小型化が可能で、かつ製造コストを低減した光90度ハイブリッドを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光90度ハイブリッドを示す概略構成図。
【図2】第2の実施形態に係る光90度ハイブリッドを示す概略構成図。
【図3】図6に示す従来の光90度ハイブリッドが持つ位相誤差波長特性を示すグラフ。
【図4】図2に示す光90度ハイブリッドが持つ位相誤差波長特性を示すグラフ。
【図5】図6に示す従来の光90度ハイブリッドが持つ位相誤差波長特性を示すグラフ。
【図6】従来の光90度ハイブリッドを示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態の説明において同様の部位には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0020】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る光90度ハイブリッド1を図1に基づいて説明する。
光90度ハイブリッド1は、図1に示すように、PLCチップ3の平面光波回路内に、信号光と局所発振光(LO光)を混合して信号光を直交成分I、Qに分離して出力する90度ハイブリッド回路4が形成されたデバイスである。
PLCチップ3には、石英基板或いはシリコン基板などの図示を省略した基板上に、光ファイバ製造技術と半導体微細加工技術を組み合わせてコアとクラッドからなる複数の導波路を含む平面光波回路(PLC)が形成されている。このPLCは、例えば、石英系PLCである。
【0021】
90度ハイブリッド回路4は、信号光および局所発振光(LO光)をそれぞれ分岐する第1カプラ11および第2カプラ12と、第1カプラ11で分岐された信号光がそれぞれ伝搬する第1経路21および第2経路22と、第2カプラ12で分岐されたLO光がそれぞれ伝搬する第3経路23および第4経路24と、第1経路21を伝搬した信号光と第3経路23を伝搬したLO光とを合波する第3カプラ13と、第2経路22を伝搬した信号光と第4経路24を伝搬したLO光とを合波する第4カプラ14とを備える。信号光は、例えば、QPSK信号などの位相変調信号である。
【0022】
図1に示す90度ハイブリッド回路4では、第1カプラ11の一方の出力ポートと第3カプラ13の一方の入力ポートとの間に、第1経路(アーム導波路)21が接続されている。第1カプラ11の他方の出力ポートと第4カプラ14の一方の入力ポートとの間に、第2経路(アーム導波路)22が接続されている。第1経路21と第2経路22の光路長は同じ長さである。
【0023】
また、第2カプラ12の一方の出力ポートと第3カプラ13の他方の入力ポートとの間に、第3経路(アーム導波路)23が接続されている。第2カプラ12の他方の出力ポートと第4カプラ14の他方の入力ポートとの間に、第4経路(アーム導波路)24が接続されている。
【0024】
90度ハイブリッド回路4は、第3経路23および第4経路24をそれぞれ伝搬するLO光の間に90度の位相差が付与されるように構成されている。本実施形態では、第3経路23および第4経路24の各光路長は、両経路23,24の光路差が位相換算で90度となるように設定されている。つまり、LO光がそれぞれ伝搬する第3経路23と第4経路24の光路長を変える(光路長を長くしたり、短くしたりする)ことで、両LO光の間に90度の位相差が付与されるようにしている。一般に、経路間に光路長差2ΔLを与えた場合に得られる位相差Δφは、次の(式1)で表わされる。
Δφ=(4πnΔL/λ) ・・・(式1)
ここでnは導波路の実効屈折率で、λは考える光の波長である。
【0025】
90度ハイブリッド回路4の特徴は、第2カプラ12、第3経路23および第4経路24が、第1経路21と第2経路22の間に形成されている構成にある。つまり、第1経路21と第2経路22の間に、第2カプラ12、第3経路23および第4経路24が入れ子(入れ子構造)になっている。
【0026】
第1カプラ11はY分岐カプラである。第2カプラ12はY分岐カプラである。第3カプラ13および第4カプラ14は、方向性結合器(DC)或いは波長無依存型方向性結合器(WINC)である。
【0027】
90度ハイブリッド回路4では、図1に示すように、第1経路21と第2経路22、および第3経路23と第4経路24が、PLCチップ3の左右の入力端3aおよび出力端3bの各中心部を結ぶ仮想中心線5に関してそれぞれ対称に形成されている。
【0028】
入力端3aの中央部には、信号光およびLO光がそれぞれ入力される第1入力ポート31および第2入力ポート32が設けられている。また、出力端3bの中央部には、第1出力ポート41乃至第4出力ポート44の四つの出力ポートが設けられている。
本実施形態では、入力端3aの中央部に第1入力ポート31が、その中央部から下方に僅かにずれた位置に第2入力ポート32が設けられている。また、出力端3bの中央部より上方に僅かにずれた位置に第1出力ポート41および第2出力ポート42が、その中央部より下方に僅かにずれた位置に第3出力ポート43および第4出力ポート44がそれぞれ設けられている。
【0029】
第1入力ポート31と第1カプラ11との間には、PLCチップ3の縦方向における中央部で仮想中心線5に沿って延びる信号光用の第1入力導波路51が形成されている。ここで、PLCチップ3の縦方向は、図1の紙面内で上下の方向、つまり、長方形のPLCチップ3の短手方向(短辺方向)である。
また、第2入力ポート32と第2カプラ12との間には、PLCチップ3の縦方向における中央部からずれた位置でPLCチップ3の左右方向に延びかつ第2経路22と交差するLO光用の第2入力導波路52が形成されている。ここで、PLCチップ3の左右方向は、図1で左右の方向、つまり、長方形のPLCチップ3の長手方向(長辺方向)である。
【0030】
また、第3カプラ13の二つの出力ポートと第1出力ポート41および第2出力ポート42とは、第1出力導波路61および第2出力導波路62によりそれぞれ接続されている。第4カプラ14の二つの出力ポートと第3出力ポート43および第4出力ポート44とは、第3出力導波路63および第4出力導波路64によりそれぞれを接続されている。また、第1出力導波路61および第2出力導波路62と、第3出力導波路63および第4出力導波路64とは、仮想中心線5に関して対称に形成されている。
【0031】
第1経路21および第2経路22は、第1カプラ11で分岐された後、仮想中心線5から互いに離れる方向へ延びる曲げ導波路を含む導波路21aおよび22aと、該導波路から仮想中心線5に関して対称な位置で平行に延びる直線導波路21bおよび22bと、仮想中心線5に近づく方向へ延びる曲げ導波路を含む導波路21cおよび22cとをそれぞれ有する。
【0032】
90度ハイブリッド回路4では、LO光が第2カプラ12で二分岐された後は、二つの経路23,24を伝搬するLO光に90度の位相差を与える必要があるため、第3経路23および第4経路24の光路長を任意に調整できる構造をとっている。
すなわち、第3経路23および第4経路24は、曲げ導波路と直線導波路をそれぞれ有する。各経路23,24の曲げ導波路の曲げ半径rをそれぞれ最適な値、例えば2000μmに固定した条件で、各曲げ導波路の回転角θや各直線導波路の長さlを調整して、第3経路23と第4経路24の光路差が位相換算で90度となるように設定できる構造になっている。
【0033】
また、第2経路22と第1入力導波路52とが交差する交差角α(図1参照)を、60°〜90°の範囲に設定する。交差角αは、60°以上であることが望ましい。交差角αが60°より小さいと、第2経路22と入力導波路52経路1と経路2との交差部での損失(クロストーク)が発生する。交差角αを90°に設定した場合、その交差部での損失が最も小さくなる。
【0034】
また、90度ハイブリッド回路4では、四つの経路21乃至24には、位相トリミング用のヒータA乃至Dがそれぞれ配置されていてもよい。四つのヒータA乃至Dのうち、第3経路23に配置されたヒータCと第4経路24に配置されたヒータDのいずれか一方を駆動して位相トリミングを行うことで、第3経路23および第4経路24の各光路長を調整可能である。
つまり、出力ポート41乃至44から出力される信号光の直交成分I、Qの位相がずれた場合に、ヒータC,Dのいずれか一方を駆動して位相トリミングを行うことができる。また、LO光が伝搬する経路23,24の各々にヒータC,Dが設置されているので、正と負の位相誤差のいずれについてもトリミングを行うことができる。
また、経路21乃至24の全てにヒータA乃至Dを設けた場合は、経路21乃至24の全ての光学的特性を均一とし、非常に安定した出力特性を有する90度ハイブリッド回路4を得ることができる。
なお、90度ハイブリッド回路4で、四つの経路21乃至24に位相トリミング用のヒータが配置されていなくとも、水素を注入後、紫外線レーザ光を照射することで位相トリミングを行うことが可能である。
【0035】
以上の構成を有する第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)第2カプラ12、第3経路23および第4経路24が、第1経路21と第2経路22の間に形成されているので、90度ハイブリッド回路4全体のサイズ、特に、PLCチップの縦方向(信号光、LO光が伝搬する方向に垂直な方向)のサイズが縮小され、PLCチップ3の小型化が可能になる。これにより、小型の光90度ハイブリッドを実現することができる。
(2)PLCチップ3の小型化が可能になることで、1枚のウェハに作製可能な90度ハイブリッド回路4の数、つまりウェハ1枚当たりのPLCチップ3の取り数を多くして、製造コストを低減することができる。
【0036】
(3)第1経路21と第2経路22が、PLCチップ3の左右の入力端3aおよび出力端3bの各中心部を結ぶ仮想中心線5に関して対称に形成されているので、両経路21,22を伝搬する両信号光は、時間差(スキュー)なしでそれぞれカプラ13および14に達することができる。また、仮想中心線5に対して構造が対称であることで、ロスが均一となる。
(4)PLCチップ3の小型化が可能になると共に、第3経路23と第4経路24が上記仮想中心線5に関してそれぞれほぼ対称に短い距離で形成されているので、両経路23,24をそれぞれ伝搬するLO光間に位相誤差が生じるのを抑制することができる。その結果非常に安定した出力特性を得ることができる。また、仮想中心線5に対して構造が対称であることで、ロスが均一となることに加え、スキューや位相誤差が発生しない。
(5)広帯域動作(例えばCLバンド波長帯;1530〜1620nmでの使用)が可能で、低損失でかつ小型の光90度ハイブリッドを実現することができる。
【0037】
(6)信号光とLO光をそれぞれ分岐する入力側カプラとしてY分岐カプラを用い、LO光と信号光を合波する(干渉させる)出力側カプラとしてWINCを用いている。このため、小型化と波長無依存化が可能で、かつ広帯域で安定した動作が可能な光90度ハイブリッドを実現することができる。
(7)第3経路23および第4経路24の各曲げ導波路の曲げ半径rを固定にした条件で、各曲げ導波路の回転角θや各直線導波路の長さlを調整して、第3経路23および第4経路24を任意の光路長に調整できる構造になっている。このため、上記回転角θや長さlを調整することにより、経路23,24の光路長を自由に変えることができ、設計の自由度を拡大することができる。特に、各曲げ導波路の曲げ半径を、最適な値に固定するという条件が設定されている場合に、上記各パラメータを調整して経路23,24の光路長を自由に変えることができるので、各種の仕様に応じた光90度ハイブリッドの設計が容易になる。
【0038】
(8)第2経路22と入力導波路52とが交差する交差角α(図1参照)を、60°〜90°の範囲に設定することにより、第2経路22と入力導波路52の交差部での損失を抑制することができる。
(9)直交成分I、Qの位相がずれた場合の位相トリミングが、ヒータC,Dのいずれか一方を駆動することにより可能になる。
(10)出力端3bの中央部に出力ポート41乃至44が集中して配置されているので、出力導波路61乃至64と図示を省略した光ファイバアレイ或いはバランストフォトダイオード(B−PD)アレイとの光接続が容易になる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る光90度ハイブリッド1Aを図2に基づいて説明する。
図1に示す上記光90度ハイブリッド1では、LO光を分岐する第2カプラ12として、Y分岐カプラを用い、LO光がそれぞれ伝搬する第3経路23と第4経路24の光路長を変えることで、両LO光の間に90度の位相差が付与されるようにしている。具体的には、例えば、Δφ=π/2、λ=1.55、n=1.456とおいて式1を解いて、2ΔL=0.266μmの光路差を両経路に与えればよい。
これに対して、光90度ハイブリッド1Aでは、図2に示すように、上記光90度ハイブリッド1において、第3経路23と第4経路24の光路長が等しくなるように導波路の設定を行った上で、LO光を分岐する第2カプラとして方向性結合器(DC)12Aを用いている。本発明は、方向性結合器が入力光の波長に関係なく、クロスポート出力光の位相はスルーポート出力光に比べて90度遅れるという性質を持つことを用い、該方向性結合器12Aのクロスポート出力光がそのスルーポート出力光に比べて位相が90度遅れるようにすることで、第3経路23と第4経路24をそれぞれ伝搬する両LO光の間に90度の位相差を付与するようにしている。
【0040】
また、第2入力ポート32と、DC12Aの二つの入力ポートの一方との間には、PLCチップ3の縦方向における中央部からずれた位置でPLCチップ3の左右方向に延びかつ第2経路22と交差するLO光用の第2入力導波路52が形成されている。その他の構成は光90度ハイブリッド1と同様である。
このように、図2に示す光90度ハイブリッド1Aの特徴は、波長無依存で、かつクロスポート出力光とスルーポート出力光との間に90度の位相を付与するという方向性結合器特有の性質を積極的に利用して、両LO光の間に90度の位相差を付与する点にある。
【0041】
上記従来の光90度ハイブリッドでは、LO光が伝搬する2つの経路の光路長を変えることで、両LO光の間に90度の位相差Δφが付与されるようにしている。
位相差Δφを表わす上記(1式)には波長λが含まれているので、LO光が伝搬する2つの経路の光路長を、ある波長λのもとで両LO光の間に90度の位相差Δφが付与されるように設定した従来の光90度ハイブリッドでは、波長が変わると、本質的に2つの経路を伝搬する両LO光間の位相差Δφにずれ(位相誤差)が生じる(図3のグラフ参照)。つまり、両LO光の間に90度の位相差Δφが付与されるように光路長が設定された2つの経路を伝搬する両LO光間の位相差Δφが、波長が変わると90度の位相差Δφからずれてしまう。さらに、PLC作製時の誤差により、ガラスの屈折率nや光路長差ΔLが変化すると、やはり位相誤差が発生することになる。
【0042】
図3は上記従来の光90度ハイブリッドが持つ位相誤差の波長特性を示すグラフである。図3のグラフにおいて、符号71は位相誤差が0度(位相差が所望の位相差=90度)のレベルを、符号72は位相誤差が+5度(位相差=95度)のレベルを、符号73は位相誤差が−5度(位相差=85度)のレベルをそれぞれ示している。
上記従来の光90度ハイブリッドでは、図3の直線70で示すように、LO光の波長λが設計波長、例えば1.57μm(周波数が約191THz)から短波長側(大きな周波数の側)に変わると、位相差が90度より次第に大きくなってしまう。逆に、LO光の波長λが設計波長から長波長側(小さな周波数の側)に変わると、位相差が90度より次第に小さくなってしまう。
【0043】
そのため、図1に示す上記光90度ハイブリッドや上記従来の光90度ハイブリッドでは、C―Lバンド等の広帯域における全部の波長に対して、位相誤差が+5度(位相差=95度)から−5度(位相差=85度)の許容範囲に入るように、両LO光間の位相差Δφを位相トリミングにより調整する必要がある。
その位相トリミングは、LO光が分岐されて伝搬する二つの経路のいずれか一方に設けたヒータを駆動することにより、或いは、ヒータを使わずに、二つの経路のいずれか一方にUV光を照射してその経路の屈折率を永久的に変えるUVトリミングにより実施される。いずれの位相トリミングも、作製されたPLCチップ毎に行う必要があり、非常に煩雑であり、製造コストをアップする要因の一つになっている。
【0044】
また、そのような位相誤差を補正するための光90度ハイブリッドの機能補正方法も提案されている(例えば特許文献1参照)。
このように、LO光が伝搬する2つの経路の光路長を変えることで、両LO光の間に90度の位相差Δφを付与する光90度ハイブリッドにおける上述した問題点を解決するために、本発明者らは鋭意研究の結果、第2の実施形態に係る光90度ハイブリッド1Aを発明するに至ったのである。
【0045】
図2の形態をもつ本発明の第2の実施形態に係る光90度ハイブリッド1Aを試作し、位相誤差を評価した。その結果を図4に示す。図4の結果から、本発明の光90度ハイブリッド1Aを用いた場合は、1530nmから1600nmの非常に広い波長範囲で、位相誤差が約−2度から0度の範囲で得られており、位相トリミングを必要とせず、良好な位相特性を示すことがわかる。
【0046】
これに対して、同時に図6の形態をもつ従来の光90度ハイブリッドも同時に試作し、位相誤差を評価した。その結果を図5に示す。1530nmから1600nmの波長範囲で位相誤差は約10度から4度に変化している。位相誤差を±5度の範囲に低減するためには、位相トリミングを行う必要があるが、それを行ったとしても、位相誤差の波長特性はなくならないので、図4の結果と比較すると、良好な位相特性であるとは言えない。
【0047】
以上の構成を有する第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態の奏する作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
【0048】
(1)LO光を分岐する第2カプラとしてDC12Aを用い、該DC12Aのクロスポート出力光はそのスルーポート出力光に比べて位相が90度遅れるという現象により、第3経路23と第4経路24を伝搬するLO光の間に90度の位相差を付与するようにしている。このため、波長無依存でかつ位相誤差が理論的に存在しない光90度ハイブリッドを実現することができる。
つまり、C―Lバンド等の広帯域内で波長を変えても位相誤差が発生しない光90度ハイブリッドを実現することができる。
【0049】
(2)図3のグラフで示すような位相誤差の波長特性が原理的に無くなるので、同じ仕様、例えば、位相誤差の許容範囲が+5度(位相差=95度)から−5度(位相差=85度)の範囲となるような仕様の場合であれば、上述したような煩雑な位相トリミングが不要になる可能性が高い。これにより、製造コストを低減することができる。
(3)特許文献1に記載の発明のように、光90ハイブリッドの光路長間の理想的な相対位相差からの誤差を補正する方法が不要になる。
【0050】
なお、図2に示す光90度ハイブリッド1Aでは、LO光を分岐する第2カプラとして用いたDC12Aは、位相に関しては波長無依存であり、どの波長に対してもそのクロスポート出力光とスルーポート出力光との間に90度の位相差を付与するが、両出力光の強度に関しては波長依存性がある。この波長依存性を小さくするためには、通常のDCよりも結合部の導波路幅(コア幅)が狭く、結合部の導波路間隔の狭い低波長特性型DC、いわゆる細幅DCを使用するのが好ましい。
【0051】
また、図2に示す光90度ハイブリッド1Aでは、90度ハイブリッド回路4の特徴は、第2カプラとして用いたDC12A、第3経路23および第4経路24が、第1経路21と第2経路22の間に形成されている構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。
すなわち、次のような構成を有する光90度ハイブリッドにも本発明は適用可能である。
PLCチップの平面光波回路内に、信号光と局所発振光を混合して信号光を直交成分I、Qに分離して出力する90度ハイブリッド回路が形成された光90度ハイブリッドであって、
前記信号光および局所発振光をそれぞれ分岐する第1カプラおよび第2カプラと、
前記第1カプラで分岐された信号光がそれぞれ伝搬する第1経路および第2経路と、
前記第2カプラで分岐されたLO光がそれぞれ伝搬する第3経路および第4経路と、
前記第1経路を伝搬した信号光と第3経路を伝搬したLO光とを合波する第3カプラと、
前記第2経路を伝搬した信号光と前記第4経路を伝搬したLO光とを合波する第4カプラと、を備え、
前記第2カプラとして方向性結合器を用い、該方向性結合器のクロスポート出力光はそのスルーポート出力光に比べて位相が90度遅れるという現象により、第3経路と第4経路をそれぞれ伝搬する両LO光の間に90度の位相差を付与するようにしたことを特徴とする光90度ハイブリッド。
【0052】
なお、上記各実施形態では、PLCチップ3上に一つの90度ハイブリッド回路が形成された光90度ハイブリッドについて説明したが、PLCチップ3上に二つの90度ハイブリッド回路が形成され、DP-QPSK受信器等に使用可能な光90度ハイブリッドにも本発明は適用可能である。
また、PLCチップ3上に二つの90度ハイブリッド回路と偏波ビームスプリッタ(PBS)とが形成された光90度ハイブリッドにも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1,1A:光90度ハイブリッド
3:PLCチップ
3a:入力端
3b:出力端
4:90度ハイブリッド回路
5:仮想中心線
11:第1カプラ
12:第2カプラ
12A:第2カプラとして用いた方向性結合器
13:第3カプラ
14:第4カプラ
21:第1経路
22:第2経路
23:第3経路
24:第4経路
31:第1入力ポート
32:第2入力ポート
41〜44:出力ポート
51:第1入力導波路
52:第2入力導波路
61〜64:出力導波路
A〜D:位相トリミング用のヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLCチップの平面光波回路内に、変調された信号光と局所発振光を混合して信号光を直交成分I、Qに分離して出力する90度ハイブリッド回路が形成された光90度ハイブリッドであって、
前記90度ハイブリッド回路は、
前記信号光および局所発振光をそれぞれ分岐する第1および第2カプラと、
前記第1カプラで分岐された前記信号光がそれぞれ伝搬する第1経路および第2経路と、
前記第2カプラで分岐された前記局所発振光がそれぞれ伝搬する第3経路および第4経路と、
前記第1経路を伝搬した信号光と前記第3経路を伝搬した局所発振光とを合波する第3カプラと、
前記第2経路を伝搬した信号光と前記第4経路を伝搬した局所発振光とを合波する第4カプラと、を備え、
前記第3経路と第4経路を伝搬する前記局所発振光の間に90度の位相差が付与されるように構成され、かつ、
前記第2カプラ、前記第3経路および前記第4経路が、前記第1経路と第2経路の間に形成されていることを特徴とする光90度ハイブリッド。
【請求項2】
前記第1経路と前記第2経路、および前記第3経路と前記第4経路は、前記PLCチップ左右の入力端および出力端の各中心部を結ぶ仮想中心線に関してそれぞれ対称に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光90度ハイブリッド。
【請求項3】
前記入力端の中央部に前記信号光および前記局所発振光がそれぞれ入力される第1および第2入力ポートが設けられ、
前記出力端の中央部に第1乃至第4出力ポートがそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項2に記載の光90度ハイブリッド。
【請求項4】
前記第1入力ポートと前記第1カプラとの間には、前記仮想中心線に沿ったPLCチップの上下方向における中央部で延びる信号光用の第1入力導波路が形成され、
前記第2入力ポートと前記第2カプラとの間には、前記第1経路と第2経路のいずれか一方と交差する局所発振光用の第2入力導波路が形成され、
前記第3カプラの二つの出力ポートと前記第1および第2出力ポートとを接続する第1および第2出力導波路と、前記第4カプラの二つの出力ポートと前記第3および第4出力ポートとを接続する第3および第4出力導波路とが前記仮想中心線に関してそれぞれ対称に形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の光90度ハイブリッド。
【請求項5】
前記第3経路および前記第4経路は、曲げ導波路と直線導波路をそれぞれ有し、前記曲げ導波路の回転角や前記直線導波路の長さを調整して、前記第3経路と第4経路の光路差が位相換算で90度となるように設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の光90度ハイブリッド。
【請求項6】
前記第1乃至第4経路には位相トリミング用のヒータがそれぞれ配置されており、
前記位相トリミング用のヒータのうち、前記第3経路に配置されたヒータと前記第4経路に配置されたヒータのいずれか一方を駆動して位相トリミングを行うことで前記第3経路および前記第4経路の各光路長を調整可能であることを特徴とする請求項5に記載の光90度ハイブリッド。
【請求項7】
前記第2カプラとして方向性結合器を用いたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の光90度ハイブリッド。
【請求項8】
前記方向性結合器は低波長特性型方向性結合器であることを特徴とする請求項7に記載の光90度ハイブリッド。
【請求項9】
前記PLCチップの平面光波回路内に、前記90度ハイブリッド回路が二つ形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の光90度ハイブリッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−257513(P2011−257513A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130691(P2010−130691)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】