説明

免疫グロブリンの精製

本発明は、リガンドが固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、前記リガンドが、1以上の脂肪族スルホンアミドを含む分離マトリックスに関する。スルホンアミドの窒素は第二級アミン又は第三級アミンとすることができる。本発明は、上記の分離マトリックスを含むクロマトグラフィーカラムにも関し、更に、脂肪族スルホンアミドリガンドを含む分離マトリックスへの吸着により、免疫グロブリンのような化合物を単離する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の調製の分野に関し、より具体的には抗体単離用の分離マトリックスに関する。本発明は、新規なマトリックスを含むクロマトグラフィーカラム、並びに抗体単離方法も包含する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、細菌性感染、寄生虫感染、真菌感染、ウイルス感染から、並びに腫瘍細胞の成長から、共同で体を保護している多くの相互依存した細胞型から構成されている。免疫系のガードは、宿主の血流中を絶えず動き回るマクロファージである。感染又は免疫化の挑戦を受けると、マクロファージは、抗原として知られている異分子の印が付いている外敵を包み込むことによって対応する。この現象は、ヘルパーT細胞が仲介して、複雑な応答の鎖を開始させ、その結果B細胞が刺激される。これらのB細胞は、次に、抗体と呼ばれるタンパク質を生成し、これが外敵と結合する。抗体と抗原が結合すると、外敵は食作用又は補完系の活性化により分解される。IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの異なる5種類の抗体又は免疫グロブリンが存在する。これらは、その生理的役割並びにその構造が異なる。構造の観点からは、IgG抗体は、おそらく、成熟した免疫応答においてこれが演じる支配的な役割のために、広範に研究されている特殊な種類の免疫グロブリンである。
【0003】
今日、免疫グロブリンが持つ生物活性は、ヒト及び獣医学の診断、ヘルスケア、並びに治療部門の様々な用途において活用されている。実際、最近の数年において、モノクロナール抗体及び組換え抗体構築物は、現在臨床試験において研究され治療薬及び診断薬としてFDAの認可を受けている最大の種類のタンパク質になっている。高純度抗体を単純且つ経済的な方法で得るための精製プロトコールが、発現系及び生産戦略と相補的に設計される。
【0004】
免疫グロブリンを単離するための伝統的方法は、他の群のタンパク質を溶液中に残しながら、免疫グロブリンを含有するタンパク質画分の選択的可逆的沈殿に基づくものである。典型的な沈殿剤はエタノール、ポリエチレングリコール、硫酸アンモニウム及びリン酸カリウムなどのリオトロピック即ち非カオトロピック塩、並びにカプリル酸である。通常、これらの沈殿方法は、非常に純度の低い生成物を与え、同時に時間がかかり労力を要するものである。更に、原料への沈殿剤の添加は、上清を他の目的に使用することを困難にし、廃棄処理の問題を発生させる。このことは、免疫グロブリンの大規模な精製について考えると特に問題である。
【0005】
イオン交換クロマトグラフィーは、免疫グロブリンの単離に頻繁に用いられる、もう1つの周知のタンパク質分別方法である。しかし、帯電したイオン交換リガンドは反対に帯電したすべての化合物と反応するので、イオン交換クロマトグラフィーの選択性は、他のクロマトグラフィー分離法よりやや低い可能性がある。
【0006】
プロテインAとプロテインGのアフィニティークロマトグラフィーは、主として使いやすさと得られる高純度により、免疫グロブリンの単離及び精製、特にモノクロナール抗体の単離のための、評判のよい広く普及した方法である。特にタンパク質Aに基づく方法は、イオン交換、疎水性相互作用、ヒドロキシアパタイト及び/又はゲル濾過段階と組み合わせて使用されて、多くのバイオ医薬品会社に好まれる抗体精製方法になった。しかし、これらの方法が一般に使用されているにもかかわらず、コスト、漏れ及び高pH値における不安定性などのタンパク質A系媒体に伴うよく知られた問題に対処する効果的な代替方法への必要性及び要求が増大している。
【0007】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)も免疫グロブリンの単離用に広く記述されている方法である。しかし、疎水性マトリックスは、免疫グロブリンを効率的に結合させるために原料へのリオトロピック塩の添加を必要とする。結合した抗体は、連続又は段階的な濃度勾配で、リオトロピック塩の濃度を低下させることによってマトリックスから放出される。高純度生成物が目的物である場合は、疎水性クロマトグラフィーと別の段階を組み合わせることが望ましい。したがって、この方法の欠点は、原料にリオトロピック塩を添加することが必要なことである。何故なら、これが問題をもたらし、これにより大規模ユーザにコストアップをもたらすからである。ホエー、血漿、及び卵黄などの細胞培養上清以外の原料については、リオトロピック塩が免疫グロブリンを除去した原料の経済的実現可能な使用を妨害する恐れがあるので、多くの場合原料へのリオトロピック塩の添加は、大規模用途では行わない方がよいであろう。大規模用途におけるその他の問題は数千リットルもの廃棄物の処理の問題であろう。
【0008】
チオフィリック吸着クロマトグラフィーは、免疫グロブリン単離用の新しいクロマトグラフィー吸着原理として、1985年にJ.Porath(J.Porath et al;FEBS Letters,vol.185,p.306,1985)によって導入された。この論文には、遊離メルカプト基を含む様々なリガンドと結合したジビニルスルホン活性化アガロースが、0.5M硫酸カリウム即ちリオトロピック塩の存在下、免疫グロブリンの特定の結合を示す状況が記述されている。ビニルスルホンスペーサーからのスルホン基及び得られるリガンドのチオエーテルは、抗体を結合させるための記述された特異性及び能力を得るために構造上必要なものであることが自明のこととみなされた。しかし、その後、リガンドが芳香族基を更に含む場合は、チオエーテルを窒素又は酸素で置換できることが示された(K.L.Knudsen et al,Analytical Biochemistry,vol.201,p.170,1992)。チオフィリッククロマトグラフィーについて記述されたマトリックスは一般に良好な性能を示すが、これらのマトリックスにも大きな欠点がある。即ち、免疫グロブリンの効率的な結合を確保するために原料にリオトロピック塩を添加する必要があることである。このことは上記の理由で問題である。
【0009】
エポキシ活性化アガロースに結合したその他のチオフィリックリガンド、例えば2−メルカプトピリジン、2−メルカプトピリミジン、及び2−メルカプトチアゾリンが(J.Porath et.al.Makromol.Chem.,Makromol.Symp.,vol.17,p.359,1988)並びに(A.Schwarz et.al.,Journal of Chromatography B,vol.664,pp.83−88,1995)に開示されている。しかし、これらのアフィニティーマトリックスのすべては、リオトロピック塩を添加せずに抗体の効率的な結合を確保するには依然として不適当なアフィニティー定数を有する。
【0010】
米国特許第6498236号(Upfront Chromatography)は、免疫グロブリンの単離に関するものである。この開示された方法は、負に帯電した界面活性剤と1種以上の免疫グロブリンを含む溶液を固相マトリックスと接触させ、免疫グロブリンの少なくとも一部を固相マトリックスに結合させる段階と;この固相マトリックスを溶出液と接触させ、固相マトリックスから免疫グロブリンを遊離させる段階とを含む。この免疫グロブリン含有溶液は、更に、2.0〜10.0の範囲のpH、せいぜい2.0のイオン強度に相当する塩総含有量、及びせいぜい0.4Mの濃度のリオトロピック塩を有することを特徴とする。この溶液に存在する界面活性剤は、他の生体分子がマトリックスに付着するのを抑制すると思われ、硫酸オクチル、ブロモフェノールブルー、オクタンスルホネート、ラウリルサルコシンナトリウム、及びヘキサンスルホネートによって実証することができる。固相マトリックスは、式M−SP1−Lによって定義される。式中、Mはマトリックスの主鎖を表し、SP1は単環式若しくは二環式の芳香族又は複素環式芳香族化合物部分を含むリガンドを表す。
【0011】
Liu等(Yang Liu,Rui Zhao,Dihua Shangguan,Hongwu Zhang,Guoquan Liu:Novel sulfmethazine ligand used for one−step purification of immunoglobulin G from human plasma,Journal of Chromatography B,792(2003)177−185)は、ヒトIgGに対するスルフメタジン(SMZ)のアフィニティーを研究した。したがって、R基が複素環であるスルホニル基を含むリガンドが開示されている。この文献によれば、SMZは、単分散非多孔性架橋ポリ(グリシジルメタクリレート)ビーズ上に固定化された。次いで、このビーズを、ヒト血漿からIgGを単離するための高速アフィニティークロマトグラフィーに使用した。pH5.5において最大吸着が得られた。このビーズは、他のタンパク質との最少の非特異的相互作用を示した。したがって、リガンドは抗体を吸着することができた。一方、他のタンパク質との相互作用は、使用した吸着用緩衝液においてこれらを遅延させるのにちょうど十分であった。しかし、周知のように、メタクリレートなどのエステル化合物は高いpH値で容易に加水分解する。したがって、プロテインAとプロテインGのマトリックスと同様に、ここに開示された分離マトリックスは、一般に使用されている定置洗浄(cip)法において不安定であると推測される。
【0012】
米国特許第4725355号は、担体と吸着剤を含む体液精製媒体に関する。この媒体は1種以上のサルファ剤を含み、体液中の病原性物質を吸着し除去する。サルファ剤は化学療法剤であり、より具体的には1以上の芳香族R基を特徴とするスルホンアミドである。媒体は体液入口と出口の間の容器に設けられた体液流路に供給することができる。
【0013】
欧州特許第0197521号は、免疫グロブリン吸着剤及び吸着装置に関する。より具体的には、ジアミン化合物が結合した水酸基含有水不溶性キャリヤーを含む免疫グロブリン吸着剤が開示されている。このジアミン化合物は、一般式:
NH(CHNH
によって表される。式中、nは3〜9の値を有する整数である。この化合物はシランカップリング剤又はその誘導体を介して結合し、複素環式化合物が2官能性試薬を介してジアミンと結合する。したがって、R基は芳香族構造である。
【0014】
しかし、純度、安全性、効力及び経済性の強い要求を実現できる、抗体又は抗体作成物精製の代替方法が依然として必要とされている。
【特許文献1】米国特許第6498236号明細書
【特許文献2】米国特許第4725355号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0197521号明細書
【特許文献4】国際公開第2003/046063号パンフレット
【非特許文献1】J.Porath in 1985(J.Porath et al;FEBS Letters,vol.185,p.306,1985)
【非特許文献2】K.L.Knudsen et al,Analytical Biochemistry,vol.201,p.170,1992
【非特許文献3】J.Porath et.al.Makromol.Chem.,Makromol.Symp.,vol.17,p.359,1988
【非特許文献4】A.Schwarz et.al.,Journal of Chromatography B,vol.664,pp.83−88,1995
【非特許文献5】Yang Liu,Rui Zhao,Dihua Shangguan,Hongwu Zhang,Guoquan Liu:Novel sulfmethazine ligand used for one−step purification of immunoglobulin G from human plasma,Journal of Chromatography B,792(2003)177−185
【非特許文献6】S Hjerten:Biochim Biophys Acta 79(2),393−398(1964)
【非特許文献7】“Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization”R Arshady:Chimica e L’Industria 70(9),70−75(1988))
【非特許文献8】Immobilized Affinity Ligand Techniques,Herman−son et al,Greg T.Hermanson,A.Krishna Mallia and Paul K.Smith,Academic Press,INC,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の一態様は、中性域のpH値において低イオン強度で抗体の吸着を可能にする分離マトリックスである。これは、請求項1に記載の分離マトリックスによって実現することができる。
【0016】
本発明の別の態様は、抗体の高選択性吸着を可能にする分離マトリックスである。
【0017】
本発明の特定の態様は、抗体は吸着するが、一方他のタンパク質は実質上いかなる相互作用もなしに通過させる分離マトリックスである。
【0018】
本発明の更なる態様は、チオフィリック相互作用、疎水性相互作用、及び/又は水素結合相互作用によって抗体の吸着を可能にする官能基を含む、抗体分離用マトリックスの調製方法に関するものである。この方法はリガンド構造の変化を容易にする。これは、アミン及び/又はポリアミンの多孔質担体への固定化、並びに後続の前記固定化アミンをスルホニル化する段階によって実現することができる。
【0019】
本発明の更に別の態様は、液体を分離マトリックスに吸着させることによって、液体から抗体を単離する方法に関するものである。この方法は、吸着を実現するために界面活性剤の添加を必要としない。
【0020】
本発明のその他の態様及び利点は以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
定義
「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、本明細書では同義に用いられる。
【0022】
「リガンド」という用語は、本明細書では、抗体などの目標化合物との相互作用が可能な分子又は化合物を意味する。
【0023】
「スペーサーアーム」という用語は、本明細書では、リガンドを分離マトリックスの担体から遠ざける要素を意味する。
【0024】
「第一級アミン」は、式RNHによって定義される。但し、Rは有機基を表す。
【0025】
「第二級アミン」は、式RNHによって定義される。但し、Rは有機基を表す。
【0026】
「スルホンアミド」という用語は、その通常の意味で、即ち1以上のスルホン酸のアミドを含む任意の化学物質に対して用いられる。
【0027】
スルホニル基は、式―S(=O)Rによって定義される。但し、Rは有機基を表す。
【0028】
「溶出液」という用語は、この分野における通常の意味で、即ち分離マトリックスから1種以上の化合物を放出させるための、適当なpH及び/又はイオン強度を有する緩衝液に対して用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
第1の態様においては、本発明は、適宜スペーサーアームを介してリガンドが固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、前記リガンドが、スルホニルの1以上のR基が脂肪族化合物である1以上のスルホンアミドを含む分離マトリックスである。
【0030】
一実施形態においては、スルホンアミドは、その窒素を介して多孔質担体に結合している。別の実施形態においては、スルホンアミドはその硫黄を介して多孔質担体に結合している。しかし、本発明は、異なる方向で結合したスルホンアミド、即ちアミンで結合したスルホンアミドとスルホンで結合したスルホンアミドの混合物であるリガンドからなる分離マトリックスも包含する。
【0031】
一実施形態においては、前記リガンドは1種以上の第一級又は第二級アミンを含む。
【0032】
分離マトリックスは、抗体、並びに免疫グロブリン部分又は抗体断片を含む融合タンパク質など、抗体と同等の結合性を示す他の化合物の精製又は分析などの単離のために用いることができる。本発明は、1以上のスルホンアミドを含む分離マトリックスを用いて、高い能力で優れた選択性で抗体を精製することができることを示した。抗体精製用のイオン交換リガンドとして芳香族又は複素環式芳香族化合物部分を利用する上記の米国特許第6498236号とは異なり、本発明は、抗体を含む液体を、帯電していないリガンドを用いたマトリックスと接触させる前に、これに界面活性剤を添加する必要なしに精製を実現する。
【0033】
周知のように、スルホンアミドは、アミンのR基の少なくとも1つがスルホニル基であるアミンからなる。本発明のマトリックスの一実施形態においては、スルホニルのR基は、炭素1〜4個、例えば1個又は2個、及び/又はヘテロ原子の直鎖などの脂肪族非環式又は環式基であり、1個以上の水素をヘテロ原子で置換することができる。一実施形態においては、スルホニルの脂肪族R基はメチル基である。別の実施形態においては、スルホニルの脂肪族R基はエチル基である。
【0034】
別の実施形態においては、スルホニルのR基は、単環式又は多環式芳香族基などの置換又は非置換芳香族基である。更に別の実施形態においては、スルホニルのR基は脂肪族基及び芳香族基の両方を含む。
【0035】
本発明の分離マトリックスの一実施形態においては、リガンドは、スルホニル化されたモノアミン、例えばシステアミン又はアンモニアである。別の実施形態においては、リガンドは、スルホニル化されたポリアミン、例えばトリエチレンテトラミンである。こうしたスルホニル化ポリアミンは、任意の都合のよい数、例えば2〜10個のアミンを含むことができる。例示の実施形態においては、各ポリアミンは2〜6個のアミンを含む。
【0036】
本発明の特定の実施形態においては、リガンドは、担体に固定化されたポリマーの繰返し単位として存在する。このポリマーは、任意の適切なポリアミン、例えばポリアルキレンイミンであってよい。一実施形態においては、このポリマーはポリエチレンアミンである。当業者ならば分かるように、こうしたポリマーのアミン含有率は変化させることができる。例えば、第一級アミン及び/又は第二級アミンを任意の所望の程度に含むことができる。したがって、一実施形態においては、ポリマーは2種以上の異なるリガンド基を有する。これらのポリマーは、当分野における標準的方法に従って適切なモノマーから容易に製造することができる。ポリアミンを担体に結合させる方法も周知であり、例えばポリマーのin situ重合又はグラフトによって当業者が容易に行える。例えば、PCT/SE02/02159(Ihre et al.)を参照されたい。この実施形態の利点は、例えばポリマー長、枝分れなどを変化させることによって、分離マトリックス特性の最適化が都合よくできることである。
【0037】
一実施形態において、リガンドは非環式化合物である。
【0038】
本発明の分離マトリックスの多孔質担体は、任意の適切な材料から作製することができる。一実施形態においては、担体は、架橋炭水化物材料、例えば、アガロース、寒天、セルロース、デキストラン、キトサン、コンニャク、カラギーナン、ジェラン、アルギナートなどからなる。担体は、逆懸濁ゲル化(S Hjerten:Biochim Biophys Acta 79(2),393−398(1964))などの標準的方法に従って容易に調製することができる。或いは、担体は、Sepharose(商標)FF(Amersham Biosciences AB、Uppsala、Sweden)などの市販の製品である。したがって、本発明のマトリックスの一実施形態においては、担体は架橋多糖である。特定の実施形態においては、前記多糖はアガロースである。こうした炭水化物材料は、通常そのリガンドを固定化する前にアリル化される。簡単に言えば、アリル化は、標準的方法に従ってアリルグリシジルエーテル、臭化アリル、又は任意の他の適切な活性化剤を用いて行うことができる。
【0039】
別の実施形態においては、本発明の分離マトリックスの多孔質担体は、架橋合成高分子、例えば、スチレン又はスチレン誘導体、ジビニルベンゼン、アクリルアミド、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、ビニルエーテル、ビニルアミドなどからなる。こうしたポリマーの担体は、標準的方法に従って容易に製造される。例えば、“Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization”R Arshady:Chimica e L’Industria 70(9),70−75(1988))を参照されたい。或いは、Source(商標)(Amersham Biosciences AB、Uppsala、Sweden)などの市販の製品を、本発明に従って表面変性することができる。しかし、この実施形態においては、担体の表面は、通常、露出した残存二重結合の大部分を水酸基に変換することによって、その親水性を上昇させるように変性することが好ましい。
【0040】
本発明の分離マトリックスは、任意の適切な形態とすることができる。例えば、実質的に球形粒子又はモノリス;フィルター又はメンブラン;チップ、面、キャピラリーなどの形態のクロマトグラフィーマトリックスとすることができる。したがって、本発明は、上記の分離マトリックスを充填したクロマトグラフィーカラムも包含する。有利な実施形態においては、このカラムは、任意の通常の材料、例えば、ポリプロピレンなどの生体適合性プラスチック、又はガラスから作製される。カラムは、抗体の実験室規模又は大規模な精製に適したサイズのものとすることができる。特定の実施形態においては、本発明によるカラムは、ルアーアダプター、チュービングコネクター、及び六角ナットを備えている。したがって、本発明は、別々の区画に入れた、上記の分離マトリックスを充填したクロマトグラフィーカラムと、1種以上の緩衝液と、抗体精製のための使用説明書とからなるキットも包含する。特定の実施形態においては、本キットは、ルアーアダプター、チュービングコネクター、及び六角ナットも含む。
【0041】
第2の態様においては、本発明は、抗体分離用マトリックスの調製方法に関する。この方法は、アミン及び/又はポリアミンを多孔質担体に固定化する第1の段階と、前記アミンをスルホニル化する後続の段階とを含む。多孔質担体は上記のものとすることができ、固定化のための任意の標準的方法を使用することができる。例えば、Immobilized Affinity Ligand Techniques,Hermanson et al,Greg T.Hermanson,A.Krishna Mallia and Paul K.Smith,Academic Press,INC,1992を参照されたい。しかし、当業者ならば分かるように、分離マトリックスのいくつかは、リガンドの性質に応じて、スルホンアミドを担体に直接固定化することによっても同等に良好に調製することができる。
【0042】
第3の態様においては、本発明は、液体から抗体を単離する方法である。この方法は、
(a)1種以上の抗体を含む液体を供給する段階と、
(b)前記液体を、1以上のスルホンアミド基を含む分離マトリックスに接触させて、これにより1種以上の抗体を前記マトリックスに吸着させる段階と、適宜、
(c)溶出液を、前記マトリックス中を通過させて1種以上の抗体を放出させる段階と、
(d)1種以上の抗体を溶出液の画分から回収する段階と
を含む。
【0043】
この文脈において、「抗体」という用語は、抗体断片、並びに抗体又は抗体断片を含む任意の融合タンパク質も含むことを理解されたい。したがって、本方法は、抗体の結合性を示す任意の免疫グロブリン状分子を単離するのに有用である。抗体を含む液体は、例えば抗体を産生する細胞培養由来の液体又は発酵ブロスであって、そこから1種以上の所望の抗体の精製を所望するものとすることができる。或いは、この液体は、そこから1種以上の抗体が除去され、その点で純粋な液体を得ることが所望される血液又は血漿であってもよい。したがって、本方法の一実施形態においては、段階(a)において準備される液体は、抗体以外の1種以上の他のタンパク質も含む。以下の実験の部において示されるように、一般に、本方法は、比較的低いイオン強度において抗体の選択的吸着を可能にする。予想外なことに、本発明者等は、1以上のスルホンアミド基を有する多孔質分離マトリックスの使用により抗体の吸着が可能になるが、一方抗体以外の他のタンパク質は吸着されないことを見出した。したがって、本方法は、高収率で純粋な抗体の調製を提供する。以下の実験の部において論じるように、当業者は、定型化した実験を用いて、それぞれのスルホンアミドリガンド構造に対して容易に最適条件を選択することができる。例えば、当該分野においては、ゲルの性質のいずれか、この場合スルホンアミドのR基、或いは置換度、即ち担体上のリガンド密度を変えることにより、分離用マトリックスの特性を最適化できることは周知である。吸着用緩衝液の塩濃度も、各リガンドについて最適化することができる。したがって、本発明の一実施形態においては、段階(b)の吸着は、約0.25MのNaSO塩濃度で行われる。特定の実施形態においては、リガンドはモノアミンを含み、段階(b)は約0.5Mを超えるNaSO塩濃度で行われる。
【0044】
本方法は、任意の適切な形態の分離マトリックス、例えば、実質的に球形粒子又はモノリス;フィルター又はメンブラン;チップなどの形態のクロマトグラフィーマトリックスを使用することができる。したがって、有利な実施形態においては、段階(b)の分離マトリックスはクロマトグラフィーカラムで提供される。
【0045】
段階(b)の分離マトリックスの担体及びリガンドは上記のもののうちどれでもよい。
【0046】
上述のように、本発明は、本発明による新規な分離マトリックスを使用することにより、中性のpHにおいて選択性の高い抗体の吸着が可能になることを予想外に示した。したがって、一実施形態において、段階(b)は、pH6.5〜8.3、例えば7.2〜7.6、例えば約7.4で行われる。
【0047】
カラムに吸着した抗体は、標準的な溶出によって、例えばイオン強度を次第に低下させる溶出液の使用によって容易に放出される。したがって、一実施形態においては、段階(c)は、塩濃度を次第に低下させる溶出液を分離マトリックスに添加すること、好ましくは前記溶出液を、マトリックス中を通過させることによる濃度勾配溶出である。濃度勾配は、直線的又は段階的濃度勾配など、任意の形状のものであってよい。溶出液に競合結合剤を添加すること、マトリックスに吸着した抗体を置換するアルコール、塩などの化合物を溶出液に添加すること、或いは温度変化を与えることなど、その他の溶出方式も有用である。
【0048】
或いは、段階(c)の溶出は、pHの上昇又は低下などのpH調整によって行われる。pH調整を、上記の塩濃度勾配と組み合わせることもできる。特定の実施形態においては、段階(b)は中性より高いpHで行われ、段階(c)は、pHが次第に低下する溶出液の添加によって行われる濃度勾配溶出である。
【0049】
本方法は、マウス、齧歯類、霊長類、並びにヒトなどの哺乳動物の宿主由来の抗体、或いはハイブリドーマなどの培養細胞由来の抗体など、どんな種類のモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体を回収するのにも有用である。一実施形態においては、段階(d)において回収される抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。抗体はどんな種類のもの、即ちIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMからなる群から選択されるどんなものでもよい。特定の実施形態においては、段階(d)において回収される抗体は免疫グロブリンG(IgG)である。本発明は、上記抗体並びにこうした抗体を含む融合タンパク質のどの断片の精製も包含する。
【0050】
本方法により、抗体の定量的吸着が可能になる。したがって、一実施形態においては、本方法は、上記の方法に加えて、分光光度的に抗体の量を測定する段階(e)を含む。当業者には、こうした方法及び有用な機器は周知である。本方法は、分析方法においても有用である。
【0051】
最後に、本発明は、適宜スペーサーアームを介してリガンドが固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、前記リガンドが1以上のアセトアミド基を含む分離マトリックスにも関する。こうしたアセトアミド基は、例えばトリエチレンテトラミンとすることができる。このスルホンアミドマトリックスに対して、担体は上記のようなものとすることができる。アセトアミド基の多孔質担体への固定化は、上記のような標準的方法に従って当業者が容易に行うことができる。本発明のこの態様は、アセトアミドリガンドを含む分離マトリックスを用いた液体クロマトグラフィー法も包含する。こうした方法は、タンパク質、ウイルス、DNA又はRNAなどの核酸、プラスミドなどの生体分子の分離に有用である。吸着と溶出の適切な条件は、当業者が容易に選択することができる。
【0052】
図面の詳細な説明
図1は、担体に結合可能な点を有するスルホニル化アミンのいくつかの選択された例を示す図である。より具体的には、図1は、左から右へ、システアミンとアンモニア(上のライン);並びにジエチレントリアミンとトリエチレンテトラミン(下のライン)を示す。
【実施例】
【0053】
本実施例は、例証することのみを目的として提供されるものであり、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。以下及び本明細書の他の場所に記載されているすべての参考文献は、参照により本明細書に組込まれる。
【0054】
実施例1
スルホンアミド分離マトリックスの調製
以下に示すのは、スルホニルのR基を脂肪族基とした、本発明による分離マトリックスの調製法である。
【0055】
概要:
マトリックスの容積とは沈殿層の容積のことをいう。
【0056】
グラムで示したマトリックスの重量とは真空乾燥重量のことをいう。尚、これらのマトリックスは依然として水が溶媒和した材料であることが理解される。
【0057】
大規模の反応では、マグネット棒スターラーの使用はビーズを痛めやすいので、攪拌とは懸垂型電動攪拌機のことをいう。小規模の反応(ゲル20ml又は20g迄)は密閉したバイアル中で行った。このときの攪拌とは振動台を使用することをいう。
【0058】
官能性の分析、並びにアリル化度、エポキシ化度、又はビーズ上のイオン交換基の置換度の測定には通常の方法を用いた。これらの方法は、最終的にゲルの元素分析、特に硫黄原子についての分析を更に行って補完した。
【0059】
本発明に従って分離マトリックスを調製する1つの方法を、架橋アガロースゲル(Sepharose(商標)6FF、Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)から始めて以下に例証した。それぞれの段階について、特定の実施例を記載した。
【0060】
A.マトリックスへのアリル基の導入
Sepharose(商標)を、アリルグリシジルエーテルを用いて以下の如く活性化した:100g量のSepharose 6FFを78gまで真空乾燥し、NaBH0.4g、NaSO11g並びに50%NaOH水溶液60mlと混ぜた。この混合物を50℃で1時間攪拌した。アリルグリシジルエーテル80mlを添加した後、この懸濁液を更に20時間激しく攪拌しつつ50℃に保持した。この混合物を濾過した後、ゲルを、蒸留水500ml、エタノール500ml、蒸留水200ml、0.2M酢酸200ml並びに蒸留水500mlで連続的に洗浄した。滴定により、置換度はアリル0.4mmol/ゲル1mlであることが分かった。
【0061】
B.マトリックスへのアミン基の導入
特定のラジカル付加条件で固定化したシステアミンは別にして、アミン基は、アミン基の窒素原子を介してマトリックスへ直接導入された。典型的な方法では、塩基性条件下でのアリル基の臭素化と求核置換を介して、マトリックスへのカップリングが優先して行われた。
【0062】
システアミンSepharose(商標)(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)
10g量のアリル活性化ゲル(0.4mmolアリル基/mlゲル)をジオキサンで洗浄し、システアミンHCl(1g)をジオキサン12mlに溶かした溶液を入れた反応容器に移した。反応物を70℃に加熱し、AIBN(0.9g)を加えた。70℃で攪拌下に17時間反応させた。反応混合物を濾過した後、ゲルを、ジオキサン10mlで3回、エタノール10mlで3回、蒸留水10mlで3回、0.5HCl水溶液10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。置換度がアミン0.34mmol/ゲル1mlのシステアミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0063】
臭素化によるアリルSepharose(商標)の活性化
攪拌下、アリル活性化Sepharose(商標)6FF(0.4mmolアリル基/mlゲル)100ml、AcONa4g、及び蒸留水100mlの懸濁液に、黄色が消えなくなるまで臭素を加えた。次いで、ギ酸ナトリウムを、懸濁液の色が完全に消えるまで加えた。この反応混合物を濾過し、ゲルを蒸留水5000mlで洗った。次いで、活性化ゲルを反応容器に直接移し、しかるべきリガンドと更に反応させた。
【0064】
ジエチレントリアミンSepharose(商標)
10g量の臭素活性化ゲル(0.4mmolアリル基/mlゲル)を、ジエチレントリアミン溶液(12.5ml)を含む反応バイアルに移した。50℃で攪拌下に17時間反応させた。反応混合物を濾過した後、ゲルを、蒸留水10mlで3回、0.5HCl水溶液10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。置換度がアミン0.56mmol/ゲル1mlのジエチレントリアミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0065】
トリエチレンテトラミンSepharose(商標)
10g量の臭素活性化ゲル(0.4mmolアリル基/mlゲル)を、トリエチレンテトラミン溶液(12.5ml)を含む反応バイアルに移した。50℃で攪拌下に17時間反応させた。反応混合物を濾過した後、ゲルを、蒸留水10mlで3回、0.5HCl水溶液10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。置換度がアミン0.62mmol/ゲル1mlのトリチレンテトラミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0066】
ペンタエチレンヘキサミンSepharose(商標)
10g量の臭素活性化ゲル(0.4mmolアリル基/mlゲル)を、ペンタエチレンヘキサミン溶液(12.5ml)を含む反応バイアルに移した。50℃で攪拌下に17時間反応させた。反応混合物を濾過した後、ゲルを、蒸留水10mlで3回、0.5HCl水溶液10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。置換度がアミン0.61mmol/ゲル1mlのペンタエチレンヘキサミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0067】
ポリエチレンイミンSepharose(商標)
10g量の臭素活性化ゲル(0.4mmolアリル基/mlゲル)を、ポリエチレンイミン溶液12.5ml(50%水溶液)を含む反応バイアルに移した。50℃で攪拌下に17時間反応させた。反応混合物を濾過した後、ゲルを、蒸留水10mlで3回、0.5HCl水溶液10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。置換度がアミン0.45mmol/ゲル1mlのポリエチレンイミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0068】
アンモニアSepharose(商標)
1)10g量の臭素活性化ゲル(0.32mmolアリル基/mlゲル)を、アジ化ナトリウム(1g)を水(3ml)に溶解し、50%NaOH水溶液を加えてpH12に調整した溶液を含む反応バイアルに移した。50℃で攪拌下に17時間反応させた。反応混合物を濾過した後、ゲルを、蒸留水20mlで3回、DMF10mlで3回、連続的に洗浄した。乾燥ゲルは、DTE(1.5g)とDBU(1.2ml)のDMF(7.5ml)溶液中で室温において18時間攪拌し更に還元した。反応混合物を濾過した後、ゲルを、DMF10mlで3回、エタノール10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。置換度がアミン基0.21mmol/ゲル1mlのアミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0069】
2)10g量の臭素活性化ゲル(0.4mmolアリル基/mlゲル)を、アジ化ナトリウム(1g)を水(3ml)に溶解し、50%NaOH水溶液を加えてpH12に調整した溶液を含む反応バイアルに移した。50℃で攪拌下に17時間反応させた。反応混合物を濾過した後、ゲルを、蒸留水20mlで3回、DMF10mlで3回、連続的に洗浄した。乾燥ゲルは、DTE(1.5g)とDBU(1.2ml)のDMF(7.5ml)溶液中で室温において18時間攪拌し更に還元した。反応混合物を濾過した後、ゲルを、DMF10mlで3回、エタノール10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。置換度がアミン基0.26mmol/ゲル1mlのアミンSepharose(商標)ゲルが得られた。
【0070】
C.スルホニルクロリドを用いた誘導体化
基本方法
5g量のアミン結合ゲルを、エタノール10mlで3回、その後DCM(ジクロロメタン)10mlで3回洗った。ゲルをバイアルに移し、DCM(2ml)とDIPEA3.3当量を加えた。この混合物を5分間攪拌した。DCM(3ml)に溶解したメチルスルホニルクロリド3当量を滴下した後、反応混合物を室温で18時間攪拌した。反応混合物を濾過した後、ゲルを、DCM10mlで3回、エタノール10mlで3回、蒸留水10mlで3回、0.5MHCl10mlで3回、最後に蒸留水10mlで3回、連続的に洗浄した。
【0071】
実施例2
IgGの選択的吸着
本発明による新しい非芳香族スルホンアミドリガンドが、ヒト免疫グロブリン(IgG)を選択的に吸着するかどうかを試験するために、種々の条件において、IgGと3種の異なるモデルタンパク質の吸着性を試験した。試験方法の原理としては、タンパク質を、緩衝液A(塩及び緩衝成分を含む)で平衡化したHR5/5カラム(Sepharose(商標)Fast Flow(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)に固定化したスルホンアミドリガンドを含む)に注入(15μl)した。次いで、15mlの緩衝液Aを、カラムを通してポンプで送液し、その後緩衝液Aから緩衝液B(緩衝液Bは緩衝成分を含むが塩を含まない)へ5mlの直線的濃度勾配を施した(以下のUNICORN(商標)メソッドを参照されたい)。次いで、280、254及び215nmにおいてクロマトグラフィーの形状を監視した。
【0072】
吸着した試料の量及びカラムから溶出した試料の量を評価するために、カラムに通したものと同量の試料をモニターに直接注入しその応答を取り込んだ。
【0073】
実験
吸着用緩衝液(緩衝液A#)と溶出緩衝液(緩衝液B#)の6種類の組合せを用いた。
【0074】
1.緩衝液A1:0.50MNaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)
緩衝液B1:20mMリン酸緩衝液(pH7.4)
2.緩衝液A2:0.25MNaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)
緩衝液B1:20mMリン酸緩衝液(pH7.4)
3.緩衝液A3:0.50MNaSOを含む20mM酢酸緩衝液(pH4.0)
緩衝液B2:20mM酢酸緩衝液(pH4.0)
4.緩衝液A4:0.25MNaSOを含む20mM酢酸緩衝液(pH4.0)
緩衝液B2:20mM酢酸緩衝液(pH4.0)
5.緩衝液A2:0.25MNaSOを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)
緩衝液B3:100mM酢酸緩衝液(pH4.0)
6.緩衝液A5:0.50MNaSOを含む20mMグリシン緩衝液(pH10.0)
緩衝液B4:20mMグリシン緩衝液
試料
用いた試料は、ウシ血清アルブミン(BSA)、リボヌクレアーゼA(RIB A)、トランスフェリン(TRANSF)及びヒト免疫グロブリン(IgG、Gammanorm)であった。これらのタンパク質は、濃度15mg/mlで緩衝液Aに溶解し、一度に1種のタンパク質のみをカラムに通した。
【0075】
機器
装置
液体クロマトグラフィー
(LC)システム:AKTA(商標)Explorer(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)10XT又は同等品
ソフトウェア: UNICORN(商標)
注入ループ: Superloop(商標)15μl
カラム: HR5/5
機器パラメータ
流量: 0.5ml/分
検出セル:10mm
波長: 280、254及び215nm
UNICORN(商標)法
【0076】
【表1】

結果と考察
1(a)スルホンアミドリガンド:pH7.4における吸着及び脱着条件
非芳香族スルホンアミドリガンドが免疫グロブリンを選択的に吸着するかどうかを記録するために、ヒトIgGを、本発明による新規マトリックスを充填した1mlカラム(HR5/5)に通した。更に、ウシ血清アルブミン(BSA)、リボヌクレアーゼA(RIB A)、トランスフェリン(TRANSF)などのタンパク質もカラムに通した。異なるpHと異なる塩(NaSO)含有量の異なる5種類の緩衝液を吸着用緩衝液として用いた。表1及び2に、pH7.4(緩衝液A1及びA2)の結果を示した。以下に示す表1から分かるように、0.25MのNaSOを移動相に加えた場合は、BSA、RIB A及びTRANSFは、検討したリガンドに吸着されなかった。しかし、IgGは、ポリアミンをベースとする4種のリガンドのうち3種に定量的に吸着し、カラムに通したIgGの90%は第4のリガンド、即ちトリエチレンテトラミンをベースとするリガンドに吸着した。更に、アンモニア(モノアミン)の1種のみ、即ちシステアミンをベースとするリガンドがIgGを吸着した。
【0077】
【表2】

以下に示す表2から分かるように、イオン強度がより高い移動相(緩衝液A1;0.50MのNaSO)を用いた場合、トランスフェリンはいくつかのリガンドに一部吸着し(表2)、IgGはすべてのリガンドに吸着した。最も選択的なリガンドは、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン及びアンモニア1をベースとしたスルホンアミドリガンドであった(表2)。何故なら、BSA、RIB A及びTRANSFはこれらのリガンドに吸着しなかったからである。
【0078】
【表3】

以上の結果から、pH7.4の吸着用緩衝液のイオン強度に応じて、異なるスルホンアミドリガンドがIgG吸着に最適になることが分かる。
【0079】
免疫グロブリンの理想的な吸着剤は、顕著な選択性を有すると同時に、効率的な溶出が可能でなければならない。吸着したIgGの大部分は、塩を加えてない20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で容易に脱着することができる。移動相として緩衝液A1を用いたIgGの吸着では、溶出緩衝液B1を用いた場合、吸着したIgGの70〜100%が回収された。しかし、緩衝液A2を用いて吸着した場合は、IgGの溶出はこれより困難であり、緩衝液B3(100mM酢酸緩衝液、pH4.0)を用いて容易に脱着することができた。
【0080】
1(b)スルホンアミドリガンド:pH4.0における吸着及び脱着条件
以下に示す表3及び4から分かるように、酸性条件におけるIgGの吸着は、明らかにpH7.4における吸着ほど選択的ではない。緩衝液として0.25MNaSOを加えた20mM酢酸緩衝液(pH4.0)(緩衝液A4)を用いることにより、システアミン、トリエチレンテトラミン及びジエチレントリアミンをベースとしたリガンドは、それぞれ、IgG注入量の40、40及び60%を吸着する(表3)。同じ条件において、リボヌクレアーゼA及びトランスフェリンは吸着されない。しかし、カラムに通したウシ血清アルブミンの90、10及び100%が、それぞれ、システアミン、トリエチレンテトラミン及びジエチレントリアミンをベースとしたリガンドに吸着される。
【0081】
【表4】

以上の結果から、トリエチレンテトラミンをベースとしたリガンドがIgGについて試験したリガンドのうち最も選択的であることが分かる。試料IgGは、異なる免疫グロブリンのサブクラスを含む(59%のIgG1、36%のIgG2、4,9%のIgG3及び0.5%のIgG4)。吸着用緩衝液の塩濃度が増大すると、他のタンパク質が吸着する結果、IgGの選択性は低下する。表4には、吸着用緩衝液として緩衝液A3(0.50MNaSOを含む20mM酢酸緩衝液(pH4.0))を用いた結果が示されている。リボヌクレアーゼAとトランスフェリンの両方がいくつかのリガンドに吸着することが明らかに分かる。更に、ウシ血清アルブミンは、緩衝液A4を用いた場合と比べて緩衝液A3を用いると、より高い程度まで吸着する(表3と4)。BSA、RIB及びTRANSFの注入量のうち、それぞれ、10、20及び10%しか吸着していないので、緩衝液A3を用いた場合に最も選択的なリガンドは、ペンタエチレンヘキサミンをベースとしたものであると思われる。これは、注入量の50%が吸着したIgGと比較することができる(表4)。
【0082】
【表5】

すべての吸着試料の定量的脱着が、緩衝液B2(20mM酢酸緩衝液、pH4.0)によって容易に実現することができた。
【0083】
1(c)スルホンアミドリガンド:pH10.0における吸着及び脱着条件
いくつかの実験がpH10.0において行われた。表5から、吸着用緩衝液A5(0.50MNaSOを含む20mMグリシン緩衝液(pH10.0))を用いることにより、IgGは、システアミン及びトリエチレンテトラミンをベースとしたリガンドに定量的に吸着することが分かる。しかし、溶出緩衝液B4(20mMグリシン緩衝液)によって、IgGの吸着量の10%しか溶出させることができなかった。IgGの定量的脱着を実現するには、例えば溶出緩衝液B3(100mM酢酸緩衝液、pH4.0)を用いることにより、pHを酸性条件に変えなければならない。
【0084】
【表6】

実施例3
CHSOCl変性アミンリガンドとCHSOCl変性アミンリガンドの比較(メチルスルホンアミドリガンドとアセトアミドリガンド)
本発明によるスルホンアミド構造が、アセトアミドリガンドより強く抗体と相互作用することを確かめるために、2種のアミンリガンドであるトリエチレンテトラミン及びシステアミンをベースとして、それぞれのタイプの2種のリガンドを調製した(上記の実施例2、実験の部に従って)。以下に示す表6において、4種類の緩衝液系(緩衝液B1〜3及びB5)についてのIgG吸着の結果が提示されている。表6から明らかに分かるように、本発明によるスルホンアミド構造は、検討したすべての条件においてアセトアミドリガンドより効果的にIgGを吸着する。システアミンをベースにしたアセトアミドリガンドは、緩衝液A1とA5を吸着用緩衝液として用いた場合に、IgG(注入量の50%)を吸着することができた唯一のリガンドであった。しかし、このリガンドは、20mMリン酸緩衝液(pH7.4)において塩濃度を0.5MNaSOから0.25MNaSOに低下させた場合は、IgGを吸着することができなかった。メチルスルホンアミドリガンドは両方ともすべての検討条件でIgGを吸着する。これらの結果は、本発明によるメチルスルホンアミドリガンドがアセトアミドリガンドより優れたIgG吸着剤であることを示している。
【0085】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】担体に結合可能な点を有するスルホニル化アミンのいくつかの選択された例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適宜スペーサーアームを介してリガンドが固定化された多孔質担体からなる分離マトリックスであって、前記リガンドが、スルホニルのR基が脂肪族化合物である1以上のスルホンアミドを含む分離マトリックス。
【請求項2】
前記スルホンアミドがその窒素を介して前記多孔質担体に結合している、請求項1記載のマトリックス。
【請求項3】
前記スルホンアミドがその硫黄を介して前記多孔質担体に結合している、請求項1記載のマトリックス。
【請求項4】
前記R基がメチル基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項5】
前記1以上のスルホンアミドの窒素が第一級又は第二級アミンである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項6】
前記リガンドがモノアミンである、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項7】
前記リガンドがポリアミンである、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項8】
各ポリアミンが2〜6個のアミンを含む、請求項7記載のマトリックス。
【請求項9】
前記リガンドが、前記担体に固定化されたポリマーの繰返し単位として存在する、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項10】
前記ポリマーがポリエチレンイミンである、請求項9記載のマトリックス。
【請求項11】
前記ポリマーが2種以上の異なるリガンド基を有する、請求項9又は請求項10記載のマトリックス。
【請求項12】
前記リガンドが脂肪族化合物である、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項13】
前記担体が架橋多糖である、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載のマトリックス。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の分離マトリックスを充填したクロマトグラフィーカラム。
【請求項15】
実質的に無菌である、請求項14記載のクロマトグラフィーカラム。
【請求項16】
使い捨て用品である、請求項14又は請求項15記載のクロマトグラフィーカラム。
【請求項17】
アミン及び/又はポリアミンを多孔質担体に固定化する第1の段階と、前記アミンをスルホニル化して脂肪族スルホンアミドリガンドを形成する後続の段階とを含む抗体分離用マトリックスの調製方法。
【請求項18】
多孔質担体を活性化する第1の段階と、スルホンアミドを、その硫黄を介して前記活性化部位に付着させて脂肪族スルホンアミドリガンドを形成する後続の段階とを含む抗体分離用マトリックスの調製方法。
【請求項19】
液体から抗体を単離する方法であって、
(a)1種以上の抗体を含む液体を供給する段階と、
(b)前記液体を、1以上の脂肪族スルホンアミドリガンドを含む分離マトリックスに接触させて、1種以上の抗体を前記マトリックスに吸着させる段階と、適宜、
(c)溶出液を、前記マトリックス中を通過させて1種以上の抗体を放出させる段階と、
(d)1種以上の抗体を溶出液の画分から回収する段階と
を含む方法。
【請求項20】
段階(a)で供給される前記液体が1種以上の他のタンパク質も含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
段階(b)の前記分離マトリックスがクロマトグラフィーカラムに供給される、請求項19又は請求項20記載の方法。
【請求項22】
段階(b)の前記分離マトリックスが請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載のものである、請求項19乃至請求項21のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
段階(b)が中性に近いpH、例えばpH7.2〜7.6、好ましくは約7.4で行われる、請求項21記載の方法。
【請求項24】
段階(c)が、塩濃度を次第に低下させる溶出液を前記分離マトリックスに添加することによる濃度勾配溶出である、請求項19乃至請求項23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
段階(b)が中性以上のpHで行われ、段階(c)が、pHが次第に低下する溶出液の添加による濃度勾配溶出である、請求項19乃至請求項24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
段階(d)において回収される抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項19乃至請求項25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
段階(d)において回収される抗体が免疫グロブリンG(IgG)である、請求項19乃至26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
抗体の量を測定する方法であって、請求項19乃至請求項27のいずれか1項記載の方法と、更に、分光光度的に抗体の量を測定する段階(e)とを含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−535658(P2007−535658A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546922(P2006−546922)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/SE2004/002007
【国際公開番号】WO2005/061543
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】