説明

免疫刺激オリゴヌクレオチドおよび前記免疫刺激オリゴヌクレオチドを含む治療剤

【課題】本発明は、副作用が少なく、臨床応用の可能性を有する強力なTh1免疫刺激活性を有する非修飾型オリゴヌクレオチドを提供することを課題とする。
【解決手段】一般式5’GTCGTT3’で表されるコア塩基配列と、前記コア塩基配列を連結する1以上の塩基からなる連結塩基配列とからなり、前記コア塩基配列を4以上含むことを特徴とする免疫刺激オリゴヌクレオチドを用いることによって前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫刺激オリゴヌクレオチドおよび前記免疫刺激オリゴヌクレオチドを含む治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Toll様受容体(TLR)は免疫系の多くの細胞に存在し、先天性免疫反応に関連する。脊椎動物において、このファミリーはTLR1〜TLR11と呼ばれる11種のタンパク質からなり、それらは、細菌、真菌、寄生虫、およびウィルスからの病原体関連分子パターンを認識する。
【0003】
TLRファミリーの中のTLR9は、細菌DNAおよび合成オリゴヌクレオチド内の非メチル化CpGモチーフ(以下CpGと記す)を認識することが知られている(非特許文献2、4)。細菌性DNAは、マクロファージおよびナチュラルキラー(NK)細胞によるサイトカイン産生を誘導する。細菌性DNAの細胞活性化は、非メチル化されたCpGを中心に含む短い配列によるとされている。
【0004】
細菌性DNAがマクロファージを刺激して、IL−12およびTNF−αの産生を誘導することも報告されている(非特許文献3)。これらのサイトカインは、さらにB細胞からIL−12およびIFN−γの産生を誘導することが知られている。また、細菌性DNAまたはCpGを含む免疫刺激オリゴヌクレオチドのいずれかをB細胞に添加することによりIL−6、IL−12、IFN−γの産生を誘導することが報告されている(非特許文献5、6)。これらの結果は、CpG含有配列がTh1型の免疫応答を誘導する能力を有することを示している。
【0005】
Th1型の免疫応答の誘導を示す免疫刺激オリゴヌクレオチドを利用した治療法が研究されている(非特許文献1)。例えば、抗原と免疫刺激ヌクレオチドの結合体、あるいはそれに類する近接体を投与する方法が見出されている。結合体の投与によって、特定の抗原に対するTh2型免疫応答をダウンレギュレートしながら同じ抗原に対するTh1型免疫応答を増強されることが示されている。このような処置は、アレルギー、腫瘍、自己免疫疾患などの疾患に有効であることが述べられている(非特許文献7、8、9、16)。
【0006】
天然のDNAに存在するホスホジエステル結合を有するオリゴヌクレオチドは細胞内および細胞培地中において様々な核酸分解活性によって分解されやすい。そのため、核酸分解酵素の攻撃標的であるヌクレオチド間のホスホジエステル結合を置換することによる安定化、さらにその結果としてのTh1型の免疫応答の誘導の増加の検討が行われている。頻繁に用いられている置換方法としては、ホスホジエステルからホスホロチオエートへの置換である(非特許文献10、11)。免疫刺激オリゴヌクレオチドのパリンドローム外のCpG配列をホスホチロオエート修飾することにより、免疫応答の誘導が増強されることも報告されている(非特許文献12)。
【0007】
DNAのチオール化は核酸分解酵素に対する抵抗性を高めるが、非特異的な蛋白質吸着の起因となり、細胞毒性等の副作用を示す。またDNA結合蛋白との相互作用が弱められるため免疫刺激活性の低下を招く(非特許文献13)。従って、チオール修飾がCpGのTh1型の免疫応答を低下させている可能性がある。また動物実験では、通常、チオール修飾CpGが用いられるが、致命的な副作用をもたらすことが報告されている(非特許文献14)。
【0008】
ホスホジエステルヌクレオチドからのみ構成されるCpGを含む配列にデオキシグアニル酸の繰り返し構造(ポリG配列)を付加することによって、免疫応答の誘導が増強されることが報告されている(非特許文献15)。ポリG配列は自然界では染色体DNAの末端部分(テロメア)に存在し、四重鎖DNA構造を形成することがしられている。そのために、CpGを含む免疫刺激オリゴヌクレオチドの末尾に付加されたポリGにより、免疫刺激オリゴヌクレオチドが高次構造を形成し、核酸分解に対する抵抗性が高まり、免疫応答が安定に行われると考えられる。
【0009】
一方、ポリGそのものはマウスB細胞ではIFN−γ産生を抑制することが報告されており、Gの付加は活性の消失・抑制にも影響することが懸念される(非特許文献17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−1号公報
【特許文献2】特開2005−237328号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Weiner GJ,Liu HM,Wooldridge JE,Dahle CE,Krieg AM:Immunostimulatory oligodeoxynucleotides containing the CpG motif are effective as immune adjuvants in tumor antigen immunization.Proc Natl Acad Sci USA 1997,94:10833−10837.
【非特許文献2】Hemmi H,Takeuchi O,Kawai T,Kaisho T,Sato S,Sanjo H, Matsumoto M,Hoshino K,Wagner H,Takeda K,Akira S:A Toll−like receptor recognizes bacterial DNA.Nature 2000,408:740−745.
【非特許文献3】Takeshita F,Leifer CA,Gursel I, Ishii KJ,Takeshita S,Gursel M,Klinman DM: Cutting edge:role of Toll−like receptor 9 in CpG DNA−induced activation of human cells.J Immunol 2001,167:3555−3558.
【非特許文献4】Krieg AM:CpG motifs in bacterial DNA and their immune effects.Annu Rev Immunol 2002,20:709−760.
【非特許文献5】Maggi E,Parronchi P,Manetti R, Simonelli C,Piccinni MP,Rugiu FS, De Carli M, Ricci M, Romagnani S: Reciprocal regulatory effects of IFN−gamma and IL−4 on the in vitro development of human Th1 and Th2 clones.J Immunol 1992,148:2142−2147.
【非特許文献6】Trinchieri G:Immunobiology of interleukin−12.Immunol Res 1998,17:269−278.
【非特許文献7】Jahrsdorfer B,Weiner,GJ:CpG oligodeoxynucleotides for immune stimulation in cancer immunotherapy.Curr Opin Investig Drugs 2003,4:686−690.
【非特許文献8】Fonseca DE,Kline JN:Use of CpG oligonucleotides in treatment of asthma and allergic disease.Adv Drug Deliv Rev 2009,61:256−262.
【非特許文献9】Klinman DM,Klaschik S,Sato T, Tross D:CpG oligonucleotides as adjuvants for vaccines targeting infectious diseases.Adv Drug Deliv Rev 2009,61:248−255.
【非特許文献10】Kurreck J:Antisense technologies:Improvement through novel chemical modifications.Eur J Biochem 2003,270:1628−1644.
【非特許文献11】Agrawal S,Zhao Q:Antisense therapeutics.Curr Opin Chem Biol 1998, 2:519−528.
【非特許文献12】Mutwiri GK,Nichani AK,Babiuk S,Babiuk,LA:Strategies for enhancing the immunostimulatory effects of CpG oligodeoxynucleotides.J Control Release 2004,97:1−17.
【非特許文献13】Brown DA,Kang SH,Gryaznov SM, DeDionisio L,Heidenreich O,Sullivan S,Xu X,Nerenberg MI:Effect of phosphorothioate modification of oligodeoxynucleotides on specific protein binding.J Biol Chem 1994,269:26801−26805.
【非特許文献14】Crooke RM:In vitro toxicology and pharmacokinetics of antisense oligonucleotides.Anticancer Drug Des 1991,6:609−646.
【非特許文献15】Lee SW,Song MK,Baek KH,Park Y, Kim JK,Lee CH,Cheong HK,Cheong C,Sung YC: Effects of a hexameric deoxyriboguanosine run conjugation into CpG oligodeoxynucleotides on their immunostimulatory potentials.J Immunol 2000,165:3631−3639.
【非特許文献16】Vollmer J.et al.(2009)Adv Drug Deliv Rev 61:195-204.
【非特許文献17】Halpern MD.et al.(1995)Immunopharmacology 29:47−52.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ホスホジエステルヌクレオチドからのみ構成される非修飾型オリゴヌクレオチドは核酸分解酵素に対する耐性が低く、短時間で分解される。
しかし、核酸分解酵素に対する抵抗性を高めた既存のホスホチロオエート修飾CpGならびにポリG配列の付加では、副作用ならびに免疫刺激活性の消失・抑制といった問題がある。
本発明は、副作用が少なく、臨床応用の可能性を有する強力なTh1免疫刺激活性を有する非修飾型オリゴヌクレオチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはこの課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、5’GTCGTT3’で構成される繰り返し単位を4以上含むオリゴヌクレオチドの中に、ヒトで高い免疫刺激活性、すなわち、ヒトにおいてToll様受容体9を介した免疫応答の高い誘導活性を示すオリゴヌクレオチドを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の構成を有する。
【0014】
(1)一般式5’GTCGTT3’で表されるコア塩基配列と、前記コア塩基配列を連結する1以上の塩基からなる連結塩基配列とからなり、前記コア塩基配列を4以上含むことを特徴とする免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0015】
(2)前記連結塩基配列が、C、TT又はTCのいずれかであることを特徴とする(1)に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0016】
(3)塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTT−3’(配列番号1)であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0017】
(4)塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号2)であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0018】
(5)塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号3)であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0019】
(6)塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号4)であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0020】
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の免疫刺激オリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする治療剤。
【0021】
(8)前記疾患又は障害がアレルギー疾患であることを特徴とする(7)に記載の治療剤。
【0022】
(9)前記アレルギー疾患が花粉アレルギー症であることを特徴とする(8)に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0023】
(1)本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドは、一般式5’GTCGTT3’で表されるコア塩基配列と、1以上の塩基からなる連結塩基配列とからなる構成なので、ホスホジエステルヌクレオチドのみから構成される非修飾型オリゴヌクレオチドとすることができる。前記コア塩基配列を4以上含む構成により、核酸分解酵素に対して耐性を有し、分解を抑制することができる。
また、ホスホジエステルヌクレオチドのみから構成し、ホスホロチオエートを含まない構成なので、治療薬の成分として利用した場合でも、副作用を生じさせないようにできる。
更にまた、本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドは、前記コア塩基配列を4以上含む構成なので、ヒトにおける免疫刺激活性を高めることができる。
以上により、副作用が少なく、臨床応用の可能性を有する強力なTh1免疫刺激活性を有する非修飾型オリゴヌクレオチドを提供することができる。
また、本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドを有効成分として含有する送達複合体や免疫刺激剤を提供することができ、有益性および有用性の高い医薬品を提供することができる。
【0024】
(2)本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドは、前記連結塩基配列が、C、TT又はTCのいずれかである構成なので、容易にかつ安定な免疫刺激オリゴヌクレオチドとすることができる。
【0025】
(3)〜(6)本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドは、配列番号1から4のいずれかで示される塩基配列である構成なので、ヒトに対して免疫刺激活性を有する、オリゴヌクレオチドを提供することができる。
【0026】
(7)本発明の治療剤は、先に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチドを含む構成なので、免疫系が正常に機能していない疾患または障害、あるいは免疫機能を増強させることが有効である疾患または障害を効果的に処置、予防もしくは改善することができる。
また、本発明の治療剤は、本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチド、またはこれらを有効成分として含有する送達複合体をアジュバントとして含むワクチンとすることができる。
以上により、本発明の治療剤は、有益性および有用性高い医薬品として利用できる。
【0027】
(8)本発明の治療剤は、前記疾患又は障害がアレルギー疾患である場合には、本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチド、および免疫刺激オリゴヌクレオチドを有効成分として含有する送達複合体や免疫刺激剤が、アレルギー疾患に対する免疫機能をより増強させることができ、その処置、予防又は改善の効果をより高めることができる。
【0028】
(9)本発明の治療剤は、前記アレルギー疾患が花粉アレルギー症である場合には、本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドおよび免疫刺激オリゴヌクレオチドを有効成分として含有する送達複合体や免疫刺激剤が、花粉アレルギー症に対する免疫機能を更に増強させることができ、その処置、予防又は改善の効果を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明および公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドを処置した293XL−hTLR9細胞における転写因子NF−kBの活性化の結果を示す図である。
【図2】本発明および公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドを処置した293XL−hTLR9細胞における転写因子NF−kBの活性化の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドおよびそのオリゴヌクレオチドを含む治療剤について説明する。
【0031】
(本発明の実施形態)
<免疫刺激オリゴヌクレオチド>
本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドは、一般式5’GTCGTT3’で表されるコア塩基配列(繰り返し単位)と、前記コア塩基配列を連結する1以上の塩基からなる連結塩基配列とからなり、前記コア塩基配列を4以上含む。
5’GTCGTT3’で構成されるコア塩基配列を4以上含むことにより、ヒトおよびマウスに対して高い免疫刺激活性を有する。また、核酸分解活性を有する血清中において12時間では分解されず、血清中での安定性が高い。
【0032】
なお、本実施形態において、免疫刺激オリゴヌクレオチドがヒトに対して免疫刺激活性を有するとは、ヒト胎児腎細胞をアデノウィルスのE1遺伝子によりトランスフォーメーションして樹立された細胞株HEK293細胞に、ヒトTLR9の構造遺伝子を組み込み、ヒトTLR9が恒常的に発現するようにした293−hTLR9細胞において、転写因子NF−kBの活性化を誘導する作用のことを示す。
【0033】
前記連結塩基配列は、C、TT又はTCのいずれかであることが好ましい。連結塩基配列をC、TT又はTCのいずれかとすることにより、コア塩基配列を容易に連結できるとともに、免疫刺激活性に悪影響を与えない。
【0034】
また、本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドは、安定性の高いホスホジエステルヌクレオチドのみから構成される非修飾型オリゴヌクレオチドとする構成であり、核酸分解酵素に対して耐性を有し、分解を抑制することができる。
更にまた、ホスホジエステルヌクレオチドのみから構成し、ホスホロチオエートを含まない構成なので、治療薬の成分として利用した場合でも、副作用を生じさせないようにできる。
【0035】
なお、一般に、生理活性を有する核酸において、少数の塩基が置換し、欠失し及び/又
は挿入された場合であっても、もとの核酸の生理活性が維持される場合があることは当業者において広く知られているところである。
【0036】
従って、コア塩基配列を4以上含んでいれば、他のコア塩基配列及び連結塩基配列において、1個ないし4個の塩基が置換されていてもよい。この場合でも、コア塩基配列を4以上含む構成なので、ヒトおよびマウスに対して高い免疫刺激活性を有する。
【0037】
また、コア塩基配列を4以上含んでいれば、他のコア塩基配列及び連結塩基配列において、1個ないし4個の塩基が欠失されていてもよい。この場合でも、コア塩基配列を4以上含む構成なので、ヒトおよびマウスに対して高い免疫刺激活性を有する。
【0038】
また、コア塩基配列を4以上含んでいれば、他のコア塩基配列及び連結塩基配列において、1個ないし4個の塩基が挿入されていてもよい。この場合でも、コア塩基配列を4以上含む構成なので、ヒトおよびマウスに対して高い免疫刺激活性を有する。
【0039】
このような置換、欠失及び/又は挿入の塩基数は、好ましくは2個以下であり、さらに好ましくは1個以下であり、最も好ましくは0個である。
また、置換、欠失及び/又は挿入の部位としては、コア塩基配列を4以上含み、ヒトに対する免疫刺激活性が維持されるのであれば、何ら限定されない。
【0040】
本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドは、例えば、次に示す配列番号1〜4の免疫刺激オリゴヌクレオチドである。
配列番号1:塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTT−3’である免疫刺激オリゴヌクレオチド。
配列番号2:塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTT−3’である免疫刺激オリゴヌクレオチド。
配列番号3:塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’である免疫刺激オリゴヌクレオチド。
配列番号4:塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’である免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0041】
配列番号1〜4の免疫刺激オリゴヌクレオチドは、いずれも5’GTCGTT3’で構成されるコア塩基配列を4以上含み、ヒトに対して高い免疫刺激活性を有する。また、核酸分解活性を有する血清中において12時間では分解されず、血清中での安定性が高い。
【0042】
配列番号1〜4の免疫刺激オリゴヌクレオチドは、コア塩基配列を4以上含んでいれば、それらの塩基配列で1個ないし4個の塩基が置換し、欠失し及び/若しくは挿入されていてもよい。この場合でも、コア塩基配列を4以上含む構成なので、ヒトおよびマウスに対して高い免疫刺激活性を有する。
【0043】
このような置換、欠失及び/又は挿入の塩基数は、好ましくは2個以下であり、さらに好ましくは1個以下であり、最も好ましくは0個である。また、置換、欠失及び/又は挿入の部位としては、コア塩基配列を4以上含み、ヒトに対する免疫刺激活性が維持されるのであれば、何ら限定されない。
【0044】
本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドは、従来の技術及び核酸合成装置で合成できる。
これらの合成方法は酵素的方法又は化学的方法であり、本発明の配列より長い配列の合成を含む方法であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
これらのオリゴヌクレオチドの合成技術、修飾技術は特許文献1、2及び非特許文献1〜17においても用いられており、その他にも多数の報告が確認される公知の技術である。
【0045】
<治療剤>
本発明の実施形態である治療剤(免疫刺激剤)は、本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドを含む。
本発明の実施形態である治療剤は、免疫機能を増強させることができる本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドを含むので、免疫機能を増強させることが有効である疾患又は障害を処置、予防又は改善できる。なお、免疫機能を増強させることが有効である疾患又は障害には、免疫系が正常に機能していない疾患または障害が含まれる。
【0046】
免疫系が正常に機能していない疾患または障害とは、アレルギー、悪性腫瘍があげられ、必ずしもこれに限定されるものではないが、好適な実施形態としては、上記疾患または障害がアレルギー疾患である。アレルギー疾患とは、花粉、ダニ、ハウスダストなどに由来する抗原物質を起因とし、鼻炎、結膜炎、皮膚炎、喘息などの炎症を症状とする疾患であるが、さらに好適な実施形態としては、上記アレルギー疾患が花粉アレルギー症である。花粉アレルギーとは特にスギ花粉由来の蛋白を抗原とするアレルギーを指すが、ブタクサ、ヒノキなどの他の花粉由来物質が抗原であっても良い。
【0047】
本発明の実施形態である治療剤は、前記疾患又は障害がアレルギー疾患である場合には、本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドが、アレルギー疾患に対する免疫機能をより増強させることができ、その処置、予防又は改善の効果をより高めることができる。
【0048】
本発明の実施形態である治療剤は、前記アレルギー疾患が花粉アレルギー症である場合には、本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドが、花粉アレルギー症に対する免疫機能を更に増強させることができ、その処置、予防又は改善の効果を更に高めることができる。
【0049】
本発明の実施形態である治療剤は、医薬としての使用を目的とした送達複合体の形態で本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドを含んでいてもよい。
送達複合体とは、例えば、免疫刺激オリゴヌクレオチドと他の物質との混合物もしくは結合体又は免疫刺激オリゴヌクレオチドを取り込ませたリポソームもしくはナノスフィアである。
送達複合体の好適な実施形態は、免疫刺激オリゴヌクレオチドを埋封したリポソームである。なお、埋封とは、リポソームの脂質膜表面との結合、脂質膜中への取り込み、あるいはリポソームの内腔への取り込みを指し示す。
しかし、送達複合体は、必ずしもこれらの形態に限定されるものではない。
【0050】
本発明の実施形態である治療剤を用いる場合、投与経路は、皮下注射、皮内注射、静脈内注射、筋肉内注射、患部組織への注入、経鼻投与、経眼投与等、系咽頭投与、系肺投与、経皮投与が好ましい。
しかし、投与経路は、これらに限定されるものではない。
【0051】
投与量は、患者の症状、治療目的、投与経路等により適宜選択されるが、通常、成人1日当り、オリゴヌクレオチド量として、0.1pM〜10μM、好ましくは1pM〜0.1μM程度である。
また、免疫刺激オリゴヌクレオチドは、通常、採用される剤形を製剤する周知の製剤方法により製剤される。
【0052】
免疫刺激オリゴヌクレオチド又は送達複合体は、ワクチンのアジュバントとしての用途をも有する。
ワクチンの使用可能な疾患は感染症である。感染症とは、ウィルス、細菌、真菌および原虫等を原因として発症する疾患である。
アジュバントとして使用する場合の投与量も、投与目的、投与経路等により適宜選択されるが、通常、上記と同程度の投与量でよい。
【0053】
本発明の実施形態である免疫刺激オリゴヌクレオチドおよびその免疫刺激オリゴヌクレオチドを含む治療剤は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(実施例1〜4、比較例1、2)
<免疫刺激オリゴヌクレオチドの、293XL−hTLR9細胞において、転写因子NF−kBの活性化の誘導>
まず、式(5’GTCGTT3’)と一致している塩基配列を4つ含む免疫刺激オリゴヌクレオチド(実施例1:PD−ODN2006−TCGTCGTT;配列番号1)を構築した。
次に、式(5’GTCGTT3’)と一致している塩基配列を5つ含む免疫刺激オリゴヌクレオチド(実施例2:PD−ODN2006−TCGTCGTTTTGTCGTT;配列番号2)を構築した。
次に、式(5’GTCGTT3’)と一致している塩基配列を6つ含む免疫刺激オリゴヌクレオチド(実施例3:PD−ODN2006−2006;配列番号3)を構築した。
次に、式(5’GTCGTT3’)と一致している塩基配列を9つ含む免疫刺激オリゴヌクレオチド(実施例4:PD−ODN2006−2006−2006;配列番号4)を構築した。
【0055】
次に、公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドとして、nが3の配列(比較例1:PD−ODN2006;配列番号5)を用意した。PD−ODN2006は血清中の核酸分解酵素により容易に分解され、ヒトに対する免疫刺激活性が低いことが報告されている。
次に、公知の別の免疫刺激オリゴヌクレオチドとして、nが3の配列の3’末端にデオキシグアニル酸の5回繰り返し構造(ポリG5配列)を有する配列(比較例2:PD−ODN2006−G5;配列番号6)を用意した。PD−ODN2006−G5は核酸分解酵素に対して耐性を示していることが報告されている。
そしてこれらの配列の293XL−hTLR9細胞における転写因子NF−kBの活性化の誘導のスクリーニングを行った。
【0056】
293−hTLR9細胞(インビボジェン社)に転写因子NF−kBの活性化を調べるためのレポーターアッセイ用プラスミドpNiFty−luc(インビボジェン社)ならびに遺伝子導入の標準化のためのプラスミドpGL4.74(プロメガ社)をトランスフェクション試薬であるLyoVec(インビボジェン社)を用いて、導入した。
24時間後、種々濃度のPD−ODN2006−TCGTCGTT、PD−ODN2006−TCGTCGTTTTGTCGTT、PD−ODN2006−2006、PD−ODN2006−2006−2006、PD−ODN2006、およびPD−ODN2006−G5を各々添加した。
免疫刺激オリゴヌクレオチド添加24時間後に、293−hTLR9細胞を回収し、破砕し、細胞破砕液内のレポータータンパク質であるルシフェラーゼの発現量を定量した。
【0057】
得られた細胞破砕液についてルシフェラーゼの発現量の定量を行った結果、図1のような結果が得られた。
オリゴヌクレオチド(0.1μM)を293/hTLR9細胞に処置すると、PD−ODN2006−TCGTCGTT、PD−ODN2006−TCGTCGTTTTGTCGTT、PD−ODN2006−2006、PD−ODN2006−2006−2006はPD−ODN2006と比較して、高い転写因子NF−kBの活性化の誘導を示した。
【0058】
さらに、PD−ODN2006−TCGTCGTTTTGTCGTT、PD−ODN2006−2006、PD−ODN2006−2006−2006は公知の免疫刺激オリゴヌクレオチドであるPD−ODN2006−G5よりも高い転写因子NF−kBの活性化の誘導を示した。
特に、PD−ODN2006−2006−2006は0.01μMにおいても、PD−ODN2006およびPD−ODN2006−G5と比較して、顕著に高い転写因子NF−kBの活性化を示した。
このことから、低濃度において、PD−ODN2006−2006−2006は特に有用である。
【0059】
5’GTCGTT3’はTLR9のアゴニストとして機能する繰り返し配列であり、本発明の配列番号1から4で示される塩基配列においては各々のオリゴヌクレオチドに含まれる数が異なる。
5’GTCGTT3’の繰り返し配列の数に応じて転写因子NF−kBの活性化が起こることが当然ながら予想される。
5’GTCGTT3’の各々のオリゴヌクレオチドに含まれる濃度で転写因子NF−kBの活性化を比較した結果、図2のような結果が得られた。
NF−kBの活性化は測定液中の5’GTCGTT3’繰り返し配列の量に依存しているのではなく、繰り返し配列を4回以上1以上の塩基からなる連結塩基配列で直列につなげることによる効果により獲得されていることが示された。
【0060】
これらの結果から、オリゴヌクレオチド配列PD−ODN2006−TCGTCGTT、PD−ODN2006−TCGTCGTTTTGTCGTT、PD−ODN2006−2006、およびPD−ODN2006−2006−2006において、ヒトに対して免疫刺激活性を有することが確認された。
また、その活性は既知のPD−ODN2006と比較して高かった。特に、PD−ODN2006−2006−2006は0.01μMにおいても十分な免疫刺激活性を有することが確認された。
【0061】
以上、実施例1〜4において具体的に示された通り、配列番号1から4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、ヒトに対して免疫刺激活性を有することが確認された。
また、これらのオリゴヌクレオチドは、核酸分解活性を有する血清中において12時間では分解されず、血清中での安定性が高いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の免疫刺激オリゴヌクレオチドおよびそのオリゴヌクレオチドを含む治療剤は、副作用が少なく臨床応用の可能性を有する強力なTh1免疫刺激活性を有する非修飾型オリゴヌクレオチドに関するものであり、医薬産業、特にアレルギーに係る医薬産業において利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式5’GTCGTT3’で表されるコア塩基配列と、前記コア塩基配列を連結する1以上の塩基からなる連結塩基配列とからなり、前記コア塩基配列を4以上含むことを特徴とする免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記連結塩基配列が、C、TT又はTCのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【請求項3】
塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTT−3’(配列番号1)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【請求項4】
塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号2)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【請求項5】
塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号3)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【請求項6】
塩基配列が5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTTTCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号4)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の免疫刺激オリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする治療剤。
【請求項8】
前記疾患又は障害がアレルギー疾患であることを特徴とする請求項7に記載の治療剤。
【請求項9】
前記アレルギー疾患が花粉アレルギー症であることを特徴とする請求項8に記載の治療剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−200233(P2012−200233A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70049(P2011−70049)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】