説明

免疫原と連結した抗体または抗体フラグメント

本発明は、標的細胞特異的循環分子および少なくとも1つの免疫原を含有する免疫原性複合体に関し、前記免疫原は任意の好適な手段により循環分子と連結している。本発明はまた前記免疫原性複合体の調製方法および癌または自己免疫疾患の処置のためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫分野に関し、その主題は哺乳動物における少なくとも1つの免疫反応を誘導することができる新規な複合体である。かかる化合物は免疫原性複合体(immunogenic conjugate)ともいう。本発明はまたかかる免疫原性複合体を得るための方法に関する。最終的に、医薬組成物において、特に抗体により処置された癌または任意の疾患を治療するためのこの新規な免疫原性複合体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、癌、移植拒絶反応、感染症、または炎症若しくはアレルギー性病状の処置と同様に多様性のある病状において用いられる約15の治療上のモノクローナル抗体が存在する。
【0003】
リツキシマブ(rituximab)は、Bリンパ腫の処置においてFDA(食品医薬品局)により承認された最初のモノクローナル抗体であった(IDEC製薬)。このキメラ抗体は、Bリンパ球、前B段階から成熟Bリンパ球段階のリンパ球産生の間にリンパ球の表面に大量に発現するが、造血幹細胞およびプラズマ細胞には存在しないCD20抗原に非常に特異的な、標的分子に対する抗体である。この抗体は、ヒトカッパ軽鎖およびガンマ1重鎖の定常領域と融合する抗CD20ネズミ抗体の可変領域で構成されている(Reff et al., 1994, Depletion of B cells in vivo by a chimeric mouse human monoclonal antibody to CD20. Blood 83(2) : 435-45)。この抗体が効果的であり耐容性が良好であるという事実は、B−タイプリンパ腫および自己免疫疾患の処置において、その抗体を治療上の選択手段とする。
【0004】
治療的なモノクローナル抗体、特にリツキシマブは、標的腫瘍細胞の表面に結合するという事実により細胞障害活性を誘導する。この細胞障害活性は、補体系(CDCおよび/またはCDCC)の活性化および/または抗体依存性細胞傷害(ADCC)の誘導、結果として標的細胞のアポトーシスの誘導により反映される。
【0005】
抗腫瘍治療の環境において細胞障害活性を増大させるために、モノクローナル抗体を活性剤、例えば放射性同位元素または毒素に連結することができる。非連結モノクローナル抗体が、単にそれらが標的細胞の表面に結合するという事実により細胞障害反応を誘導するのに対し、連結抗体は活性剤のためのベクターとしての役割も有する。
【0006】
放射性標識抗体は、放射性同位元素の放射性放出により腫瘍細胞に対し細胞溶解作用を有する。作用メカニズムは、まず抗体により標的の腫瘍細胞を特異的に認識し、次に抗体によって運搬される放射性同位元素により腫瘍細胞を照射することにある。
【0007】
抗毒素は毒素または該毒素のサブユニットに連結した抗体に相当する。該毒素は非特異的、かつ標的細胞において細胞に対し、非常に低濃度で非常に強力、致死的である。標的細胞の表面に結合した後、抗体−毒素複合体は細胞中に内在化する。抗毒素は、特に細胞の生存に必須のタンパク質合成を阻害することにより標的細胞を破壊する。
【0008】
臨床研究が肯定的な結果を示すのに対し、放射性同位元素または抗毒素を用いる抗腫瘍処置の開発は、2つの主な問題:ある放射性同位元素または抗毒素の低有効性、及び非特異的でかつ制御が困難な毒性の問題に直面している。放射性同位元素または抗毒素に連結したモノクローナル抗体の低有効性は、それらの作用メカニズムが本質的に免疫系とは異なるという事実による可能性がある。事実、標的細胞の破壊は主に免疫系の採用により誘導されるのではなく、細胞を照射することにより、タンパク質合成を阻害することにより、および未照射部位への効果により誘導される。
【0009】
今日まで、抗体または抗体フラグメントおよび他のタイプのベクター(186Re−ビスホスホン酸塩、68Ga−DOTA−アルブミン、HPMA−毒素等)が、放射性同位元素または毒素を標的腫瘍細胞に運搬する循環分子として使用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、治療目的のために、これらの標的細胞に対する特異的な免疫反応を誘導または増幅することができる免疫原性複合体を生成する目的により、少なくとも1つの免疫原を標的細胞特異的循環分子に連結することである。本発明によれば、免疫原は任意の適切な手段により、標的細胞に特異的に結合するための少なくとも1つの部位を有する循環剤に連結することができる。したがって、本発明の主題は、標的細胞特異的循環分子および少なくとも1つの免疫原を含有する免疫原性複合体であり、上記免疫原が任意の適切な手段により該循環分子に連結している。
【0011】
特に、本発明の1つの目的は、モノクローナル抗体または抗体フラグメントの特異的な細胞障害活性を、それらを哺乳動物において少なくとも1つの免疫反応を誘導することが可能な免疫原にカップリングすることにより増幅することである。抗体の細胞障害活性の増幅は、補体系の活性化の増大により、さらに免疫系(ADCC)の種々の細胞エフェクターの刺激により、特に反映される(Watier et al., 1996, Human NK cell mediated direct and IgG dependent cytotoxicity against xenogeneic porcine endothelial cells, Transpl. Immunol., 4(4) :293-9)。
【0012】
用語「循環分子」は、血液および/またはリンパ系中を循環すること、および/または血液脳関門および/または内臓を通過して拡散することができる任意の分子を意味し、上記循環分子は好ましくはイムノグロブリンまたはそのフラグメントである。
【0013】
用語「標的細胞」は、自己免疫および/または癌性疾患に関係する任意の細胞を意味する。
【0014】
用語「標的細胞特異的分子」はモチーフ、特に標的細胞の表面に発現された抗原、受容体、またはタンパク質を特異的に認識することが可能な任意の分子を意味する。
【0015】
用語「免疫原」は、補体系の活性化および/または抗体依存性細胞障害の誘導により反映される細胞障害活性を誘導することが可能な任意の分子を意味する。
【0016】
用語「連結する」は循環分子と少なくとも1つの免疫原との間の結合の生成を意味し、上記結合は特に循環分子と免疫原との間の特別な共有結合、または循環分子と免疫原との間のリンカーによる結合を意味する。
【0017】
語句「補体系の活性化」は、約20個のタンパク質が関与する酵素反応のカスケードを含む補体系の古典経路、または補体系の第2経路、またはレクチン経路を介した免疫反応の活性化を意味する。これらのタンパク質は、標的細胞の浸透圧ショックにより溶解を生じる(CDC)、連続するタンパク質分解の連鎖において活性化され、したがって、生物学的活性を有するペプチドの生成を誘導する(CDCC)。
【0018】
語句「抗体依存性細胞障害の誘導」は、抗体Fcフラグメント受容体を運搬するキラー細胞、特にナチュラルキラー細胞(NK)、およびマクロファージが特異的抗体で被覆された標的細胞を認識する免疫反応の誘導を意味する。
【0019】
本発明の第1の実施態様において、免疫原性複合体は、免疫原と循環分子が直接カップリングしていること、即ち、上記の少なくとも1つの免疫原が共有結合により循環分子に連結していることを特徴とする。
【0020】
本発明の第2の実施態様において、免疫原性複合体は、上記の少なくとも1つの免疫原がリンカーにより循環分子に連結していることを特徴とする。
【0021】
用語「リンカー」は、循環分子の反応性基と結合を形成することが可能な少なくとも1つの反応性基、および免疫原の少なくとも1つの反応性基と結合を形成することが可能な少なくとも1つの反応性基を有する任意の反応性分子を意味する。用語「反応性基」は、別の官能基、例えば、特にアミノ、チオール、ヒドロキシル、カルボニル、活性化エステル、ヒドラジン、イソシアナート、ハロゲン、基等と共有結合により結合することが可能な任意の官能基を意味する。
【0022】
リンカーは好ましくはヘテロ二官能性であり、即ち、2つの免疫原の間または2つの循環分子の間に形成される望ましくない結合を防止するための、特徴のある反応性基を有する。リンカーは好ましくは以下の市販の試薬から選択される。
循環分子上に存在するマレイミド基またはハロゲン化誘導体と反応することが可能なチオールを導入するための、N−アセチルホモシステインチオラクトン、S−アセチルメルカプト無水コハク酸、3−メルカプトプロピオンイミダート、4−メルカプトブチルアミド、またはその環状体、トラウト試薬(2−イミノチオラン)、SMPT(4−スクシンイミジルオキシカルボニルメチル−α−[2−ピリジルジチオ]−トルエン)、SPDP(N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート)、LC−SPDP(スクシンイミジル6−(3−[2−ピリジルジチオ]プロピオンアミド)ヘキサノアート)、スルホ−LC−SPDP、PDPヒドラジド(3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)、DTT(ジチオスレイトール)、TCEP(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)、SATA(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート)、SATP(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオナート)、3−(3−アセチルチオプロピオニル)チアゾリジン−2−チオン、3−(3−p−メトキシベンジルチオプロピオニル)チアゾリジン−2−チオン;
循環分子上に存在するチオール基と反応することが可能なマレイミドを導入するための、SMCC(スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート)、スルホ−SMCC、LC−SMCC(スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシ−(6−アミドカプロアート))、KMUH(N−(κ−マレイミドウンデカン酸)ヒドラジン)、KMUS(N−(κ−マレイミドウンデカノイルオキシ)スクシンイミドエステル)、スルホ−KMUS、PMPI(N−(p−マレイミドフェニル)イソシアナート)、SMPB(スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート)、スルホ−SMPB、SMPH(スクシンイミジル6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノアート)、AMAS(N−(α−マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル)、BMPH(N−(β−マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド)、BMPS(N−(β−マレイミドプロピルオキシ)スクシンイミドエステル)、MBS(m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)およびスルホ−MBS、EMCS(N−(ε−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミドエステル)およびスルホ−EMCS、SMPB(スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート)、スルホ−SMPB、EMCH((N−ε−マレイミドカプロン酸)ヒドラジン);
循環分子上に存在するアルデヒド基と反応することが可能なヒドラジン/ヒドラジドを導入するための、SANH(スクシンイミジル4−ヒドラジノニコチナート(hydrazinonicotinate)アセトンヒドラゾン)およびC6−SANH、スクシンイミジル4−ヒドラジドテレフタレート塩酸塩、KMUH(N−(κ−マレイミドウンデカン酸)ヒドラジド)、BMPH(N−β−マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、PDPヒドラジド(3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)、EMCH;
循環分子上に存在するヒドラジン/ヒドラジド基と反応することが可能なアルデヒドを導入するための、SFB(スクシンイミジル4−ホルミルベンゾアート)およびC6−SFB、メタ過ヨウ素酸ナトリウム;
循環分子上に存在するアルコール基と反応することが可能なイソシアナート基を導入するための、PMPI(N−[p−マレイミドフェニル]イソシアナート);
循環分子上に存在するチオール基と反応することが可能なハロゲン化誘導体を導入するための、SBAP(スクシンイミジル3−[ブロモアセトアミド]プロピオナート)、SIA(N−スクシンイミジルヨードアセタート)、SIAB(N−スクシンイミジル[4−ヨードアセチル]アミノベンゾアート)、スルホ−SIAB
本発明の好ましい実施態様によれば、リンカーはスルホ−SMCCである。
【0023】
本発明の好ましい実施態様において、上記循環分子は単一特異性または多重特異性のモノクローナル抗体、または抗体フラグメントであり、好ましくは1つまたは2つ以上の認識部位および1つまたは2つ以上の標的分子に結合する部位を有する抗体フラグメントであり、より好ましくはFabフラグメントである。
【0024】
抗体またはイムノグロブリン(Ig)は、ジスルフィド結合により安定化されたY形状構造を形成する2つの同一の重鎖(H鎖)および2つの軽鎖(L鎖)から構成されている。Yの腕の末端は重鎖および軽鎖の可変領域を含み、可変領域は、単一特異性モノクローナル抗体の場合は抗原に結合し、および多重特異性モノクローナル抗体の場合は特徴を有する複数の抗原に結合する。該領域は、3つの超可変域または相補性決定領域(CDR)の存在により可変と呼ばれる。種々の抗原を認識するための抗体の能力を説明するのがこの大きな可変性である。
【0025】
Yの基部(base)は定常領域(Fc)に相当し、認識および特異的抗原結合に関係することはない。この定常領域はエフェクター基を有し、特に細胞受容体に対する抗体の結合および補体の結合に関係する。イムノグロブリン(Ig)は、このFc領域の構造によりクラスおよびサブクラスに分類される。5つのイムノグロブリンクラスには、IgG、IgA、IgM、IgEおよびIgDが存在し、あるものはそれらのIgGサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4に分類される。したがって、IgG1、IgG2、IgG3およびIgMイムノグロブリンは補体系を活性化することが可能である一方、IgG1およびIgG3イムノグロブリンは、IgG2およびIgG4イムノグロブリンに比べより効果的にADCCを活性化するように見える。タンパク質分解酵素によるイムノグロブリンの消化後に得られるフラグメントの研究は、抗体の構造と機能の間に存在する関係を明らかにすることを可能にした。本発明において循環分子として使用される抗体フラグメントは、一般にタンパク質分解酵素、好ましくはペプシンまたはパパインの作用後に得られる。ペプシンは一般に抗体分子を、2つの重鎖を連結する1つ(複数)のジスルフィド架橋の下方で開裂する。ペプシンの作用後に、1つまたは2つ以上のジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントに対応する(Fab’)2フラグメント、およびFcフラグメント分解生成物が得られる。他方、パパインの作用の下では、抗体分子は一般に、2つのFabフラグメントおよび1つのFcフラグメントに対応する3つのフラグメントに開裂する。
【0026】
それぞれのFab(abは抗原結合に関する)フラグメントは、軽鎖および重鎖のフラグメントから構成される。Fabフラグメントの本質的な特性は、抗原に結合すること、およびアポトーシスを誘導することである。定常領域に対応し、したがって、抗体のエフェクター能力を有するFc(cは結晶性に関する)フラグメントは、補体のC1q成分(CDC)およびエフェクター細胞のFc受容体に結合する能力を有する。
【0027】
したがって、抗体は、標的分子、特に抗原の特異的な認識およびそれら抗体の可変領域(Fab)を介するそれら抗原への結合だけでなく、補体系の活性化および抗体の定常領域(Fc)を介する免疫応答性細胞を用いることができる。抗体は、抗原の認識およびエフェクター細胞の採用を可能にするそれらの分子可塑性により特徴付けられる。
【0028】
多重特異性抗体は、しばしばモノクローナル抗体であり、その抗原結合部位が特徴のある抗原決定基に対し特異的な抗体である。それらは、化学的結合、ハイブリドーマ細胞の融合により、または分子遺伝学的技術により生産される。それらは、標的細胞の細胞障害の主要なメディエーターとして機能し、薬物、毒物、放射性標識ハプテン、および疾患、主に腫瘍性組織に対するエフェクター細胞の標的とする場合に効果的であることが見出された。
【0029】
本発明の好ましい実施態様において、免疫原性複合体はFabフラグメントに連結した免疫原を含有する。Fabフラグメントは、複合体の迅速な作用、拡散等の有利な薬物動態学的特性を有するのに対し、免疫原は、特に補体系を活性化することにより、複合体に強力な免疫応答を誘導する能力を与える。
【0030】
本発明の好ましい実施態様において、上記免疫原は少なくとも1つのオリゴ糖を含有し、免疫原それ自体が、少なくとも1つの抗体および/またはヒト補体の1つの可溶性タンパク質および/または免疫系エフェクター細胞の表面に発現された受容体により認識されることが可能な少なくとも1つのモチーフを含有する。
【0031】
本発明の目的に適したオリゴ糖の例としては、特に二糖または三糖からなってもよく、好ましくはGalαGalエピトープ、より好ましくは特にGal−(α.1,3)−Gal、Gal−(α.1,3)−Gal−Rを含有し、ここで、Rは単糖、アミン基、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、または有機若しくは無機置換基であってもよい。GalαGalエピトープは、移植後早期から観察される超急性の異種移植片拒絶に関与するとして同定され;該拒絶は、IgGおよびIgMタイプの循環する天然のヒト抗体による、移植された器官の細胞表面に存在するエピトープに対する認識に起因する。このエピトープは、したがって特に細胞に対し毒性があり、天然のヒト抗体によるエピトープの認識が補体系を活性化し、およびエフェクター細胞を用いるため、細胞はエピトープを発現し、結果として細胞溶解をもたらす。本発明の状況において、血液型(例えば:A、B、ルイス等)のオシド(oside)構造を免疫原として用いることができるだけでなく、免疫系エフェクター細胞、例えば血小板活性化因子類似体の走行性に対する活性剤として用いることができる。
【0032】
免疫分子の投与に基づいたモノクローナル抗体による処置と異なり、補体系において活性な分子のベクトル化(vectorization)の原理は、標的細胞の緊密な環境において免疫反応を引き起こすことおよび局部的な炎症反応を開始することを可能にし、そのことは、これらの腫瘍が補体系に関して提供することができた抵抗のメカニズムを克服することを可能にする。この免疫系の局所的な活性化は、標的細胞表面における高密度の免疫原に原因する可能性があり、そのことは血流中の免疫系の活性化をもたらすものではない。
【0033】
本発明の別の目的は、
任意選択で、循環分子においておよび免疫原において反応性基を生成すること、
循環分子と少なくとも1つの免疫原との間のカップリング反応を行うこと、
を含む、上記の免疫原性複合体の調製を提案することである。
【0034】
上記方法の1つの実施態様において、循環分子および免疫原は反応性基を含有せず、反応性基をカップリング反応前に、循環分子中におよび免疫原中に、場合によって人工的に生成する。
【0035】
用語「生成する」は、自然に存在する官能基を反応性基に導入するか、転化することを意味する。
【0036】
本発明の好ましい実施態様によれば、循環分子の修飾は、好ましくは循環分子上に少なくとも1つの反応性基を人工的に生成することを可能にする試薬の添加により行う。該試薬は好ましくは、商業的に入手可能な試薬、特に以下の試薬から選択する。
チオールを導入するための、N−アセチルホモシステインチオラクトン、S−アセチルメルカプト無水コハク酸、3−メルカプトプロピオンイミダート、4−メルカプトブチルアミド、またはその環状体、トラウト試薬(2−イミノチオラン)、SMPT(4−スクシンイミジルオキシカルボニルメチル−α−[2−ピリジルジチオ]−トルエン)、SPDP(N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート)、LC−SPDP(スクシンイミジル6−(3−[2−ピリジルジチオ]プロピオンアミド)ヘキサノアート)、スルホ−LC−SPDP、PDPヒドラジド(3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)、DTT(ジチオスレイトール)、TCEP(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)、SATA(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート)、SATP(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオナート)、3−(3−アセチルチオプロピオニル)チアゾリジン−2−チオン、3−(3−p−メトキシベンジルチオプロピオニル)チアゾリジン−2−チオン;
マレイミドを導入するための、SMCC(スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート)、スルホ−SMCC、LC−SMCC(スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシ−(6−アミドカプロアート))、KMUH(N−(κ−マレイミドウンデカン酸)ヒドラジド)、KMUS(N−(κ−マレイミドウンデカノイルオキシ)スクシンイミドエステル)、スルホ−KMUS、PMPI(N−(p−マレイミドフェニル)イソシアナート)、SMPB(スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート)、スルホ−SMPB、SMPH(スクシンイミジル6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノアート)、AMAS(N−(α−マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル)、BMPH(N−(β−マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド)、BMPS(N−(β−マレイミドプロピルオキシ)スクシンイミドエステル)、MBS(m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)およびスルホ−MBS、EMCS(N−(ε−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミドエステル)およびスルホ−EMCS、SMPB(スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート)、スルホ−SMPB、EMCH((N−ε−マレイミドカプロン酸)ヒドラジド);
ヒドラジン/ヒドラジドを導入するための、SANH(スクシンイミジル4−ヒドラジノニコチナートアセトンヒドラゾン)およびC6−SANH、スクシンイミジル4−ヒドラジドテレフタレート塩酸塩;
アルデヒドを導入するための、SFB(スクシンイミジル4−ホルミルベンゾアート)およびC6−SFB、メタ過ヨウ素酸ナトリウム;
チオール類に関し反応性を有するハロゲン化誘導体を導入するための、SBAP(スクシンイミジル3−[ブロモアセトアミド]プロピオナート)、SIA(N−スクシンイミジルヨードアセタート)、SIAB(N−スクシンイミジル[4−ヨードアセチル]アミノベンゾアート)、スルホ−SIAB
SATA(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート)が特に好ましい。2−イミノチオラン(トラウト試薬)も特に好ましい。
【0037】
修飾反応が完結するとき、修飾した循環分子を好ましくは透析するか限外ろ過し、より好ましくは、Fabフラグメントの場合、25000Da未満のカットオフ限界値において、および完全な抗体の場合、75000Da未満のカットオフ限界値において行う。
【0038】
本発明の好ましい実施態様によれば、免疫原上の反応性基を明らかにする目的で免疫原を修飾してもよい:脱アセチル化段階は、好ましくは水酸化ナトリウムおよび水素化ホウ素ナトリウムの溶液を添加することにより行う。修飾した免疫原は、立体排除カラムおよび/またはイオン交換カラムおよび/またはHPLCにおいて精製してもよく、次いで場合によって凍結乾燥してもよい。
【0039】
循環分子および免疫原中に本来存在するか、または人工的に生成した反応性基は、相補的であってもよいし、なくてもよい。
【0040】
用語「相補的」は他の反応性基と共有結合を生成することが可能な反応性基を意味する。
【0041】
本発明の方法の第1の実施態様において、循環分子および免疫原中に本来存在するか、または人工的に生成した反応性基が相補的であり、相補的な反応性基間で共有結合を生成することが可能な条件下で、循環分子と免疫原とを反応させることによりカップリングを行う。
【0042】
本発明の方法の第2の実施態様においては、循環分子および免疫原中に本来存在するか、または人工的に生成した反応性基が相補的でなく、上で規定したようにカップリングをリンカーの存在下で行う。このリンカーは、好ましくはヘテロ二官能性であり、以下の商業的に入手可能な試薬から選択する。
循環分子上に存在するマレイミド基またはハロゲン化誘導体と反応することが可能なチオールを導入するための、N−アセチルホモシステインチオラクトン、S−アセチルメルカプト無水コハク酸、3−メルカプトプロピオンイミダート、4−メルカプトブチルアミド、またはその環状体、トラウト試薬(2−イミノチオラン)、SMPT(4−スクシンイミジルオキシカルボニルメチル−α−[2−ピリジルジチオ]−トルエン)、SPDP(N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート)、LC−SPDP(スクシンイミジル6−(3−[2−ピリジルジチオ]プロピオンアミド)ヘキサノアート)、スルホ−LC−SPDP、PDPヒドラジド(3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)、DTT(ジチオスレイトール)、TCEP(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)、SATA(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート)、SATP(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオナート)、3−(3−アセチルチオプロピオニル)チアゾリジン−2−チオン、3−(3−p−メトキシベンジルチオプロピオニル)チアゾリジン−2−チオン;
循環分子上に存在するチオール基と反応することが可能なマレイミドを導入するための、SMCC(スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート)、スルホ−SMCC、LC−SMCC(スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシ−(6−アミドカプロアート))、KMUH(N−(κ−マレイミドウンデカン酸)ヒドラジド)、KMUS(N−(κ−マレイミドウンデカノイルオキシ)スクシンイミドエステル)、スルホ−KMUS、PMPI(N−(p−マレイミドフェニル)イソシアナート)、SMPB(スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート)、スルホ−SMPB、SMPH(スクシンイミジル6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノアート)、AMAS(N−(α−マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル)、BMPH(N−(β−マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド)、BMPS(N−(β−マレイミドプロピルオキシ)スクシンイミドエステル)、MBS(m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)およびスルホ−MBS、EMCS(N−(ε−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミドエステル)およびスルホ−EMCS、SMPB(スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート)、スルホ−SMPB、EMCH((N−ε−マレイミドカプロン酸)ヒドラジド);
循環分子上に存在するアルデヒド基と反応することが可能なヒドラジン/ヒドラジドを導入するための、SANH(スクシンイミジル4−ヒドラジノニコチナートアセトンヒドラゾン)およびC6−SANH、スクシンイミジル4−ヒドラジドテレフタレート塩酸塩、KMUH(N−(κ−マレイミドウンデカン酸)ヒドラジド)、BMPH(N−β−マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、PDPヒドラジド(3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)、EMCH;
循環分子上に存在するヒドラジン/ヒドラジド基と反応することが可能なアルデヒドを導入するための、SFB(スクシンイミジル4−ホルミルベンゾアート)およびC6−SFB、メタ過ヨウ素酸ナトリウム;
循環分子上に存在するアルコール基と反応することが可能なイソシアナート基を導入するための、PMPI(N−[p−マレイミドフェニル]イソシアナート);
循環分子上に存在するチオール基と反応することが可能なハロゲン化誘導体を導入するための、SBAP(スクシンイミジル3−[ブロモアセトアミド]プロピオナート)、SIA(N−スクシンイミジルヨードアセタート)、SIAB(N−スクシンイミジル[4−ヨードアセチル]アミノベンゾアート)、スルホ−SIAB
本発明の方法の好ましい実施態様において、循環分子と免疫原とのカップリングは、循環分子と免疫原との間の望ましくない結合を形成しないように、いくつかの連続した段階において行う。カップリングは、有利には以下の種々の段階:
免疫原とリンカーをカップリングする段階、
リンカーとカップリングした免疫原と、循環分子とをカップリングする段階
を含む。
【0043】
好ましくは、循環分子とカップリングする間にリンカーとカップリングした免疫原が過剰に存在する。
【0044】
本発明の方法の1つの実施態様において、循環分子および免疫原が凍結乾燥形態であり、免疫原性複合体の調製に使用する前に可溶化する。
【0045】
本発明の方法の1つの実施態様において、カップリングを好ましくは標準生理食塩水中、pH範囲が7から8.5、特にPBS緩衝液中で、室温で1時間から24時間撹拌しながら行う。
【0046】
本発明の方法の1つの実施態様において、免疫原性複合体を含有する溶液を続いて立体排除カラムまたは好ましくは透析若しくは超遠心分離、好ましくは、Fabフラグメントの場合、25000Da未満のカットオフ限界値において、および完全な抗体の場合、75000Da未満のカットオフ限界値において精製し、次いで場合によって凍結乾燥する。
【0047】
本発明の主題はまた、哺乳動物において免疫反応、特に補体依存性の細胞障害反応を誘導および/または増幅するための免疫原性複合体の使用である。
【0048】
本発明の主題はまた、癌、特に骨髄腫、乳癌若しくはリンパ腫、または自己免疫疾患を、自己反応性リンパ球を標的とすることにより処置する際に使用する医薬を調製するための、本発明の免疫原性複合体の使用である。
【0049】
本発明は、以下の実施例からより明確に理解することができる。これらの実施例は、本発明の主題を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0050】
以下の実施例において、添付された図面を参照することができる。
【0051】
図1は、スルホ−SMCCを用いる、リツキシマブのFabフラグメントに対するGalα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2トリサッカライドのグラフト化の根拠を示す。
【0052】
図2は、レクチン−MOAを用いるリツキシマブのFabフラグメントに対するGalα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2モチーフの生物学的結合の、ドット−ブロッティング分析を示す。
【0053】
図3は、1%アガロースゲル上のα−Galエピトープに連結したリツキシマブのFabフラグメントまたはFabフラグメントの免疫沈降を示す。
【0054】
図4は、Fabフラグメントおよび異種抗原Galα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2に連結したFabフラグメントを有する補体系の活性化の評価を示す。
【0055】
図5は、50μg/mlのFabフラグメント、または10μg/mlおよび50μg/mlのα−Galエピトープに連結したFabフラグメントの存在下、トリチウム化したチミジンの組込みによるDaudi腫瘍株の細胞増殖の評価を示す。
【0056】
図6は、リツキシマブのFabフラグメント、およびその血液型Aおよび血液型Bとの複合体によるDaudi細胞表面のCD20認識についてのフローサイトメトリー分析を示す。
【0057】
図7は、リツキシマブFabフラグメント上に存在する、その血液型A(D)および血液型B(C)の認識についての、Bandeiraea simplicifoliaレクチンによるフローサイトメトリー分析を示す。
【0058】
実施例1:Fab−Gal免疫原性複合体の調製
1−FabおよびFc抗体フラグメント化
20mgのリツキシマブを0.5mlの固定化パパイン(Pierce)を用いて、リン酸塩EDTA Na2緩衝液(10mM、pH7)中で、システイン(10mM)等の触媒の存在下で消化する。使用するパパインは、酵素反応の終了時にその除去を促進するためにアガロースビーズ上に固定化する。酵素反応速度論により最適な消化時間を24時間に決定することが可能であった。酵素反応は、3mlのトリス−HCl緩衝液(10mM、pH7.5)を加えることにより停止した。アガロースビーズ上に固定化したパパインを5000gで10分間の遠心分離により種々のフラグメントから分離する。続いてこれらのフラグメントをプロテインAカラムにより精製し、次いでセントリコン(centricon)により濃縮する、そのカットオフ限界値は5000Daである。酵素消化により誘導される抗体フラグメントは、電気泳動:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)10%の変性条件下により視覚化される。
【0059】
2−Gal−α(1,3)−Gal−β(1,4)−GlcNAcトリサッカライドの修飾
トリサッカライドは、アミン基(NH2)が露出し、それにリンカーのアームがグラフト接合するように脱アセチル化する。
【0060】
トリサッカライドは、好ましくは凍結乾燥形態であり、1%の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を含有する水酸化ナトリウム溶液(1M)中に可溶化する。80℃で1時間後、NaBH4を中和するために氷酢酸溶液および次いで水を反応混合物に加える。脱アセチル化したトリサッカライドは、次に、溶離液としてmilliQ水を用いるP2カラム(Biorad)上の立体排除により精製する。
【0061】
3−薄層クロマトグラフィーによる脱アセチル化Galα(1−3)Galβ(1−4)GlcNAc上へのアミン基形成の分析
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、主に吸着現象に基づいており、移動相が溶媒または溶媒混合物であり、ガラス板またはプラスチック若しくはアルミニウムの半剛性シート上に固定したシリカゲルからなる固定相に展開する。アミン基はニンヒドリンにより明らかにする。
【0062】
天然のトリサッカライド(Galα(1−3)Galα(1−4)GlcNAc)および脱アセチル化したトリサッカライド(Galα(1−3)Galα(1−4)GlcNH2)はシリカプレート(Merck、フランス)上に沈着する。溶離はブタノール/水/エタノール混合液(1/1/1、v/v/v)を用いて行う。プレートは37℃のオーブン中で乾燥し、次いでアミン基をエタノール中0.2%(w/v)のニンヒドリン溶液により明らかにし、モノサッカライドをH2SO4/エタノール/水の混合液(v/v/v)により明らかにする。
【0063】
4−グラフト化用のFabフラグメントの調製
遊離チオール基(SH)をFabフラグメントの第1アミンに導入する。SATA(N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート)、トラウト試薬等の商業的に入手可能な試薬を用いることができる。好ましくは、Fab分子あたり2つの遊離チオール基を導入する。
【0064】
次に、これらの修飾したFabフラグメントをpH7.2、5mMのEDTAを含有するPBS緩衝液に対して限外ろ過(カットオフ限界値:5000Da)する。遊離SH基はエルマンズ試薬(Pierce)を用いて分析する。
【0065】
5−修飾したFabフラグメントに対する脱アセチル化したトリサッカライドのカップリング
トリサッカライドおよびFabフラグメントとのカップリングをリンカー:官能化したFabの遊離チオール基と特異的に反応するマレイミド基および脱アセチル化したトリサッカライドの第1アミンと特異的に反応するN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基(NHS)を含有するスルホ−SMCCの存在下で行う。
【0066】
トリサッカライドの第1アミン基とFabフラグメントのそれらの間の交叉反応を防止するため、カップリング反応を以下の方法で行う:
脱アセチル化したトリサッカライド溶液とスルホ−SMCCとをpH8.5のPBS緩衝液中、室温で2時間反応させ、
このグラフト化したモチーフは、脱アセチル化したトリサッカライドおよびP2立体排除カラム上のグラフト化していないリンカーから分離することができ、
前段階の反応混合物とFabフラグメントとを、トリサッカライド−スルホ−SMCCがFabフラグメントに比べ過剰に存在するpH7.2のPBS中、室温で2時間反応させ、
カップリングした、Fab−Gal免疫原性複合体をpH7.2のPBS緩衝液に対し限外ろ過する(カットオフ限界値が10000Da)。
【0067】
Fab−Gal免疫原性複合体の濃度は280nmの吸収によりおよびBradford法(Bioradキット)により測定する。
【0068】
6−シッフ試薬を用いたGalα(1−3)Galβα(1−4)GlcNH2トリサッカライドの染色によるグラフト化の特性解析
SDS−PAGEによりFabおよびFab−Galフラグメントを泳動した後、ゲルを2つの異なる方法、タンパク質を検出する1つの方法、酸化されたオリゴサッカライドを検出する他の方法により染色する。事実、末端モノサッカライドの過ヨウ素酸塩による酸化は、シッフ試薬による標識が可能であり、ピンク色に着色するアルデヒド基の生成を可能にする(DubrayおよびBezard、1982)。図1は、スルホ−SMCCを用い、クマシーブルー(A)およびシッフ試薬(B)染色法により、リツキシマブのFabフラグメントに対するGalα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2トリサッカライドのグラフト化の根拠を示す。レーン1は天然のリツキシマブのFabフラグメントに対応し、レーン2はGalα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2トリサッカライドに連結したリツキシマブFabフラグメントに対応する。
【0069】
SDS−PAGE電気泳動
Mini protean 3システム(Biorad、フランス)を用いる電気泳動は、Laemmli(1970)により記載された方法に従い、加熱およびβ−メルカプトエタノールの添加のいずれも用いない変性条件下で、14%(w/v)アクリルアミドゲルにおいて行う。
【0070】
クマシーブルーによるタンパク質の染色
ゲル中のタンパク質は、標準的なプロトコルに従いクマシーブルーによる染色方法により明らかにする(図1A):まず、ゲルを激しく撹拌しながら染色緩衝液中に30分間浸漬し、次に数個の浴を用い、脱染色緩衝液中で明瞭なバンドが現れるまで脱染色する。
【0071】
シッフ試薬によるモノサッカライドの染色
シッフ試薬による染色(図1B)は、オリゴサッカライド構造を明らかにすることができる:まずゲルを酢酸/メタノール/mQ水混合液(10/35/55(v/v/v))中で1から2時間固定する。次に、アルデヒド基を生成するため、暗室中、酸化緩衝液(0.7gの過ヨウ素酸を含む100mlの5%(v/v)酢酸)中に1時間浸漬する。水ですすいだ後、ゲルをシッフ試薬(Sigma−Aldrich、フランス)溶液中、4℃で1時間インキュベートし、シッフ試薬と形成されたアルデヒド基を反応させる。最後に、ゲルを7.5%(v/v)酢酸の数個の浴を用い、室温で脱染色する。
【0072】
7−ドットブロッティングによるFabフラグメントへグラフト化したα−Gal抗原性モチーフの特性解析
MOA(Marasmium oreades agglutinin)レクチンは、Galα(1−3)Galモチーフ(Winter et al., 2002, The mushroom Marasmius oreades lectin is a blood group type B agglutinin that recognizes the Galαl,3Gal and Galα, 3Galβl, 4GIcNAc porcine xenotransplantation epitopes with high affinity(キノコのMarasmium oreadesレクチンは、Galα1、3GalおよびGalα1、3Galβ1、4GlcNAcのブタの異種移植エピトープを高い親和性で認識する血液型B凝集素である), J. Biol. Chem. 277(17) :14996-5001)を特異的に認識するタンパク質である。結果として、ニトロセルロース膜上にブロットされた、リツキシマブのFabフラグメントに連結した異種抗原のGalα(1−3)Galα(1−4)GlcNH2は、このレクチンにより特異的に標識することができる。後者はHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)に連結し、酵素形態のアクリジニウムエステルとすることが可能であり、励起化合物に分解し、そのエネルギーを最大波長430nmにおける光形態で放出し、光感光フィルム上に視覚化することを可能にする、増幅された化学発光(ECL)により、この複合体を明らかにすることができる。
【0073】
10μgの種々の抗体フラグメントをBio−Dot装置(Biorad、フランス)を用いて、0.22μmのニトロセルロース膜(Biorad、フランス)上にブロットする。続いて、5%(w/v)のBSAを含有するTBST緩衝液(500mMのNaClおよび0.05%のTween20を含有する20mMのトリス−HCl、pH7.5)中、室温で1時間、膜をインキュベーションすることにより非特異的部位をブロックする。次に該膜をTBSTの3つの浴でそれぞれ5分間洗浄し、次いで、HRP(EY Laboratories、Biovalley、フランス)に連結したMOAレクチン(5%(w/v)のBSAを含有するTBST中に1/100000)と室温で45分間インキュベーションする。膜をTBSTの3つの浴で、それぞれ5分間再度洗浄する。最後に化学発光(ECL+確認キット、Amersham、フランス)および感光フィルム(ハイパーフィルムECL、Amersham、フランス)の現像により明らかにする。図2は、MOAレクチンを用いるリツキシマブのFabフラグメントへのGalα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2モチーフの生物学的結合のドット−ブロッティング解析を示す。Aは天然のリツキシマブのFabフラグメントに対応し、Bは、Galα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2モチーフに連結したリツキシマブフラグメントに対応する。
【0074】
8−アガロースゲル上での免疫沈降:オクタロニー法
この方法は、タンパク質、特定のイムノグロブリンがアガロースゲル(pH7.2のPBS中に1%、)内でほぼ速やかに移動することが可能であるという事実に基づく。イムノグロブリンが抗原を認識すると免疫沈降する。イムノグロブリンおよびその抗原により形成された免疫複合体は沈降アーチにより視覚化される。この方法を用いて、修飾したまたは非修飾のトリサッカライドがヒト血清(各ウェル内に、PBS中で1/50に希釈された正常ヒト血清および約50μgのFab−Gal対Fabを含む)のイムノグロブリンにより効果的に認識されることを立証することができる。100μlの正常ヒト血清(1/20)をアガロースゲルの中央のウェルに挿入し、70μgの種々の試料を中央のウェルから約1cmの他のウェルに挿入し、全体を湿潤雰囲気下、室温で24から48時間インキュベーションする。図3は、この免疫沈降の結果を示す。ウェル1は正常ヒト血清に対応し、ウェル2は天然のリツキシマブのFabフラグメントに対応し、ウェル3および4はαGalエピトープに連結したリツキシマブFabフラグメントに対応する。
【0075】
実施例2:CH50の正常ヒト血清の溶血能におけるFab−Gal免疫原性複合体活性の評価
正常ヒト血清(NHS)中の補体系の活性化は、ウサギ抗体で予め被覆したヒツジ赤血球(EA)の導入により開始する。ヒト血清の存在下で、ウサギ抗体はヒツジ赤血球を外来性として認識し、古典的補体経路の活性化を開始する。この活性化は古典的C3転換酵素の形成をもたらす。この経路の活性化は結果として最終的な溶解複合体を形成し、赤血球の表面において標的細胞の細胞膜に細孔を形成する。この複合体は、赤血球を破裂し、ヘモグロビンを放出する。補体系の活性化は、414nmの波長における吸収により、この実験システムにおいて放出されたヘモグロビンの量を分析することにより測定する。この分析において、ヒツジ赤血球に対応する活性化剤は、放出されたヘモグロビンの効力により、活性化の確認剤としての役目も果たす。
【0076】
補体系における分子の活性を測定するための全体の戦略は、以下のとおりである:まず、正常ヒト血清(NHS)のCH50(最大で50%の赤血球が溶血するためのNHSの濃度が得られる)における溶血能で分子の活性を測定し、古典的補体系経路における阻害活性の評価を可能にする。次に、補体系のある特定のタンパク質の不足についての血清試験が、補体系を活性化するための種々の分子の能力評価を可能にする。これらのすべての測定は、すべての酵素カスケードが生じた後、終末点において実行する。
【0077】
CH50におけるEAに対する分子の作用は、古典的補体系経路で起こり得る阻害の観察を可能にする。事実、検討した分子とインキュベートしたNHSは、補体カスケードのタンパク質のすべてを含有する。したがって、EAが溶解する場合、このことは該分子が補体系を活性化するか、または補体系に対し作用を有しないことを意味する。これに対し、細胞が溶解しない場合は、該分子により古典的補体系経路が阻害されたことを意味する。したがって、この分子の濃度の関数として阻害のパーセントを計算することが可能である。
【0078】
分子が阻害しない場合、そのことが分子の活性化であるか、または補体系に対し作用を有しないかを判別することが必要である。このことを判別するために、まず、該分子をNHSとインキュベーションする。それが補体系を活性化する場合、該タンパク質はこのインキュベーションの間に「消費」される。活性化しない場合、該タンパク質は依然として混合物中に存在する。次に、補体カスケードのタンパク質の1つを欠如するか、使い果たした血清、およびEAとともに全体を再度インキュベーションする。該分子が補体系に対し作用を有しない場合、消費されていないNHSタンパク質は欠如血清の溶血能を回復し、EAは溶解する。反対に、該タンパク質が補体系の活性化の間に消費された場合は、欠如血清の溶血能は回復せず、したがって赤血球は溶解しない。したがって、検討した該分子の濃度の関数として古典的補体経路の活性化のパーセントを測定することができる。
【0079】
これらの種々の分析を用いて、補体系に対する該分子の潜在的な阻害または活性化についての活性を測定することができる。
【0080】
1−CH50の測定
種々のVBS2+濃度での、350μlのNHS(Etablissement Francais du Sang (EFS) [フランス血液銀行]、フランス)を450μlのVBS2+および200μlの1/20に希釈したEAとともに37℃で45分間インキュベーションする。0%(L0)および100%(L100)溶解性に対応する対照を同一の条件下でインキュベーションする。それらは、200μlの1/20に希釈したEAの存在下で800μlのVBS2+をインキュベーションすることにより調製する。
【0081】
2mlの0.15M冷NaClを、L100に対応する管(全体を溶解させるために2mlのmQ水を加える)を除いてそれぞれの管に加える。600gで15分間遠心分離した後、上清のODを414nmで測定する。
2−CH50における正常ヒト血清の溶血能における分子活性の評価
この実験は、古典的補体系経路を阻害するために試験した分子の能力を評価することを可能にする。
【0082】
350μlのCH50のNHSを、0から100μgの試験分子および200μlのEA(1/20に希釈されている)を含有する450μlのVBS2+とともに水浴中で37℃、45分間インキュベーションする。0%(L0)および100%(L100)溶解性(lysis)に対応する対照を同一の条件下でインキュベーションする。それらは、200μlの1/20に希釈したEAの存在下で、800μlのVBS2+をインキュベーションすることにより調製する。
【0083】
2mlの0.15M冷NaCl(ただし、L100に対しては2mlのmQ水を加える)を加えた後、600gで15分間遠心分離した後、上清のODを414nmで測定する。
【0084】
次に、Yと呼ばれる血清の溶血能を試験した分子の存在の有無により測定する:
Y=(ODsample−ODL0)/(ODL100−ODL0
試験した種々の分子を含有するサンプルの溶血能の消失が補体阻害の直接の原因となる:
DY=Y0mgノ試験分子−Yxmgノ試験分子
阻害%=(DY/Y0mgノ試験分子)×100
CH50は、感作されたヒツジ赤血球の50%が溶解するNHSの濃度である。この研究を行う間に実施された種々の実験において、CH50はNHSの1/100の希釈により得られる。
【0085】
CH50のNHSの溶血能を評価することを可能にする第1の実験は、100μgのFabフラグメント(対照として使用される)またはFab−Galフラグメントとインキュベーションするときに得られる。NHSの溶血能におけるこれらの分子の活性を見るために、比較的高い濃度のFabまたはFab−Galフラグメントを意図的に選択する。
【0086】
得られた結果は、下記の表に示すように、FabフラグメントまたはFab−GalフラグメントとインキュベーションしたNHSが50%の溶血能を維持することを示す。これらの分子は、結果として古典的補体系経路において阻害活性を有しないが、この実験は、潜在的な活性化を評価することを可能にする。
【0087】
【表1】

【0088】
第2の実験は、100μgのFabまたはFab−Galフラグメントと1/100に希釈したNHSとを37℃で45分間プレインキュベーションし、次いでこの血清の溶血能を評価することにより行う。Fabフラグメント単独とともにプレインキュベーションした血清の溶血能は変化が見られず、50%(図「プレインキュベーションを用いるCH50」)を維持する。繰り返すと、上記Fabフラグメントは古典的補体系経路において活性を有しない。しかし、NHSを可溶性Fab−Galフラグメントとプレインキュベーションすると、溶血能が顕著に減少する。
【0089】
【表2】

【0090】
この結果は、プレインキュベーションの間に、NHS中に存在する天然のIg、より詳しくはIgMによるα−Gal異種抗原の認識が存在するという事実により説明することができる。そして、古典的補体系経路を活性化するための高い能力を生成する、Fabに対してグラフト化した2価のエピトープによる免疫複合体が存在する。この活性化は、カスケードのすべてのタンパク質の「消費」をもたらし、およびNHSは、感作したヒツジ赤血球とのインキュベーションの間にこれらのタンパク質を欠如するため、もはや溶血活性を示すことができない。
【0091】
このように、CH50の正常ヒト血清の溶血活性に対するこれらの種々の分子の活性を測定することにより、Fab−GalとNHSとのプレインキュベーションの実施の有無により、これらの生物学的複合体が古典的補体系経路に対して阻害活性を有しないことを示す。また、それらの生物学的複合体がこのシステムを活性化する能力を有する場合があると考える、有力な理由が存在する。この仮説を確認するために、補体C4タンパク質を欠如するモルモット血清を用いる他の溶血分析の手段により、補体系の活性化を研究する。
【0092】
実施例3:古典的補体経路を活性化するための分子の能力の測定
これらの新規なFab−Gal免疫原性複合体が、古典的補体経路を活性化する能力を有することを補足して示すために、補体カスケードのタンパク質の1つを欠如する血清においてEAの溶解を分析した。これらの分析は、種々のオリゴサッカライドの濃度の関数として古典的補体経路の活性化のパーセントを測定することを可能にする。このことは、同定されたタンパク質(C4、C2またはC1q)を欠如する血清の溶血能の回復を測定することを可能にし、したがって該分子の濃度の関数として古典的補体経路の活性化のパーセントを計算することを可能にする。
【0093】
15μlの(1/20に希釈された)NHSと種々の量の試験分子とを37℃で45分間インキュベーションする。NHSのみによる細胞溶解の測定を可能にする、陰性の対照(対照0mg)は、同一の実験条件下で分子を用いずに行う。次に全体を、補体カスケードのタンパク質として知られたタンパク質を欠如する、100μlの血清(その希釈は、これらの実験条件下で、分子なしに90%の細胞溶解を有するように予め定められた)、100μlのEA(1/20に希釈されている)および最終容量が500μlとなるためのVBS2+とともに、水浴中、37℃で45分間インキュベーションする。
【0094】
0%(L0)および100%(L100)溶解性に対応する対照は、同一の実験条件下でインキュベーションする。それらは100μlの1/20に希釈したEAの存在下で400μlのVBS2+をインキュベーションすることにより調製する。
【0095】
2mlの0.15M冷NaClを加えた後(2mlのmQ水を加える、L100に対応するNaClを除く)、600gで15分間遠心分離し、上清のODを414nmで測定する。
【0096】
同一の実験条件下で処理した凝集したIgGを、この実験において陽性の対照として供給し、実験モデルを検証することを可能にする。それらは、実際に古典的補体経路の非常に有効な活性化剤である。
【0097】
次に古典的補体経路を活性化するための能力を下記の計算により決定する:
溶解性%=(ODsample−ODL0)/(OD対照0mg)×100
活性化%=100−溶解性%
この実験は、古典的補体系経路を活性化するための種々の分子の能力を評価することを可能にする。補体タンパク質の1つ、この場合、C4タンパク質である、を欠如したモルモット血清の溶血能を回復するために、種々の濃度のFabまたはFab−GalとともにインキュベーションしたNHSの能力に基づいている。
【0098】
図に示すように、結果はFab−Galフラグメントが補体系を活性化するのに対し、Fabフラグメントはこのシステムについて活性を有しないことを示す。事実、20μgのFab−Galフラグメントにより古典的補体経路を100%活性化するのに対し、Fabフラグメントはこのシステムを活性化する能力を有しない。
【0099】
このように、リツキシマブのFabフラグメント上にグラフト化され、正確に提示されているGalα1−3Galモチーフは、補体系を活性化する血清Igにより認識されていることを非常に明瞭に示す。これらの結果により、血清Igが、古典的補体系経路を活性化する非常に高い能力を有する、α−Galエピトープに対して特異的な天然のIgMを主とするという仮説を確認することを可能にする。
【0100】
しかし、これらの実験は、活性化が確かにこのタイプのイムノグロブリンから生じることを明らかにするために、IgMを欠如する血清を用いる他の溶血分析により補足することが可能である。
結果:Fabフラグメント単独および本発明のFabGal免疫原性複合体による古典的補体系経路の活性化
この分析は、Fabフラグメントがオリゴサッカライドモチーフに連結する場合に、補体活性化のパーセントがはるかに高いことを明らかにする。
結果:本発明のFab−Gal免疫原性複合体の濃度の関数としての補体の活性化
【0101】
【表3】

【0102】
上記の表に示すように、Fabフラグメントに連結したオリゴサッカライドモチーフは、古典的補体系経路を活性化することを可能にする。
【0103】
図4は、上で得られた2つの結果:天然のリツキシマブのFabフラグメントが四角形により表され、Galα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2異種抗原に連結したリツキシマブフラグメントがダイヤモンドにより表示されている、の説明を示す。
【0104】
実施例4:Fab−Gal免疫原性複合体の生物学的活性の評価:細胞増殖阻害分析
この分析は、腫瘍細胞系の増殖を阻害するためのFab−Gal免疫原性複合体の能力を測定することを可能にする。この研究に用いる細胞モデルは、Daudi(E. Klein and G. Klein, 1967)およびRaji(R.J.V. Pulvertaft, 1963)癌株である。細胞を50cm3または275cm3のフラスコ中、3×105から1×106細胞/mlの範囲の濃度で培養する。Daudi系は1%のグルタミン、1%の抗生物質、および56℃で30分間加熱脱補体化した20%のウシ胎児血清(FCS、Gibco)を補充したRPMI媒体中で培養する。
【0105】
使用する技術は、トリチウム化したチミジンの分裂細胞のDNA中への組込みを測定する技術である。したがって、細胞をFabフラグメント(10μg/ml)(対照)および2濃度(10および50μg/ml)のFab−Gal免疫原性複合体とともに、20%のNHSおよび放射性チミジン(チミジンはDNAの塩基である)(ウェルあたり1μlのチミジン)を含有する媒体中で、24時間インキュベーションする。正常に増殖する細胞はシンチレーションカウンターにより測定することができる放射性チミジンを取り込む。その細胞増殖が影響を受けた細胞は、放射性チミジンの取り込みが少ない。
【0106】
図5は、50μg/mlのFabフラグメント、または10μg/mlおよび50μg/mlのα−Galエピトープに連結したFabフラグメントの存在下、トリチウム化したチミジンの取り込みによるDaudi腫瘍株の細胞増殖の評価を示す。
【0107】
Fabフラグメント単独が細胞増殖を顕著に阻害できないのに対し、本発明のFab−Gal免疫原性複合体は、細胞増殖を阻害することが可能である。
【0108】
実施例5:Fab−血液型免疫原複合体の調製
1−AおよびB血液型トリサッカライドの修飾されたFabフラグメントに対するカップリング
A型(またはB型)トリサッカライドとFabフラグメントとのカップリングを、Fabの遊離チオール基と特異的に反応するマレイミド基およびトリサッカライドの第1アミンと特異的に反応するN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基を含有するスルホ−SMCCリンカーの存在下で行う。
【0109】
交叉反応を防止するため、カップリング反応を以下の方法により行う:
トリサッカライドの溶液(1当量(eq.))とスルホ−SMCC(1.01当量)とをpH8のPBS緩衝液中、室温で2時間反応させ、
前段階の反応混合物とFabフラグメントとを、Fabフラグメントに比べ過剰なトリサッカライド−スルホ−SMCCで、pH7.2のPBS中、室温で1時間反応させる。マレイミド基の消費を観察するため、カップリング反応を330nmのUVによりモニターする。
【0110】
連結すると、Fab−A型(またはFab−B型)免疫原性複合体をpH7.2のPBS緩衝液に対し、限外ろ過する(カットオフ限界値:10000Da)。Fab−A型(またはFab−B型)免疫原性複合体の濃度は、Bradford法(Bioradキット)により測定する。
【0111】
生物学的複合体は上記と同じ方法により特徴付けられる。
【0112】
2−Fab−B型のウエスタンブロット法
タンパク質は、SDS−PAGE電気泳動法により、それらの分子量に従って同定する。ウエスタンブロット法のため、一度電気泳動法を実施し、タンパク質は分離されるが、ポリアクリルアミドゲル中に留まる。ゲル中に含まれる種々のタンパク質は、ニトロセルロース膜上に吸着される;このために、電極が、ゲルとフィルターにより覆われたニトロセルロース膜とを挟む。転写した後、電気泳動と転写が正しく行われたことを確認するために、膜をタンパク質に特異的な染料であるPonceau redで染色する。B型に特異的なプローブとしてMOA−レクチン−HRPを用いる前に、膜上の使用しないすべての潜在的な結合部位をTween20およびBSAを用いてブロックし、タンパク質−タンパク質およびタンパク質−マトリックスの非特異的な吸着を最小限にしなければならない。次にタンパク質を含有するニトロセルロース膜をMOAレクチン−HRPと45分間接触させ、数回洗浄した後、MOAレクチン/B型トリサッカライド複合体を化学発光により検出する。
【0113】
実施例6:Fab−血液型免疫原性複合体のCD20に対する認識についてのフローサイトメトリー分析
1−リツキシマブFabフラグメントのネズミカッパ鎖のフラグメントを特異的に認識する第2抗体の使用
リツキシマブのFabフラグメントおよびその血液型AおよびBとの複合体による、Bリンパ腫(ATCC、American Type Culture Cellsから生成する系統)から得られるDaudi癌細胞の表面に存在するCD20タンパク質の認識をフローサイトメトリーにより試験した。
【0114】
100μlのPBS/1%BSA中に懸濁した105個の細胞を、PBS(陰性の対照)または10μgのFab、Fab−A型若しくはFab−B型の存在下、室温(22℃)で20分間インキュベーションする。過剰な抗体フラグメントを除くため、PBS/1%BSA中で2回洗浄した後、PBS緩衝液/1%BSA中に1/10に希釈した、100μlのFITC−結合抗マウスカッパ抗体ヤギ抗体(ICL)を室温で20分間加えた。次に、PBS緩衝液/1%BSA中で2回洗浄し、500μlのPBS緩衝液に取った細胞をフローサイトメトリー(Becton Dickinson製:FITC分析用に488nmの波長のアルゴンレーザーが装備されている)により約5000細胞について分析した。図6は、リツキシマブのFabフラグメント(B)、その血液型Aとの複合体(C)および血液型Bとの複合体(D)によるDaudi細胞表面のCD20認識についてのフローサイトメトリー分析を示す。蛍光細胞(第2抗体による標識により陽性を示す)のパーセントは、凡例において同定する。
【0115】
天然のFabフラグメントとFab−A型およびFab−B型との複合体により得られる認識を比較すると、Fab−A型およびFab−B型複合体による、認識においてわずかな低下が観察され、それは複合体によるそれらの標的CD20に対する有効性の低い認識か、または複合体のFab部分に本来存在する、ネズミカッパ鎖に対する第2抗体による有効性の低い認識かのいずれかによる可能性がある。このことは、Fab上の血液型の存在により誘導される立体障害により説明することができる。
【0116】
2−血液型Bに特異的なレクチンの使用
リツキシマブのFabフラグメントおよびその血液型AおよびBとの複合体による、Bリンパ腫(ATCC、American Type Culture Cellsから生成する系統)から得られたDaudi癌細胞の表面に存在するCD20タンパク質の認識をフローサイトメトリーにより試験した。
【0117】
100μlのPBS、0.5mMのCaCl2中に懸濁した105個の細胞をPBS(陰性の対照)または10μgのFab、Fab−A型若しくはFab−B型の存在下、室温(22℃)で20分間インキュベーションした。過剰な抗体フラグメントを除くため、PBS、0.5mMのCaCl2中で2回洗浄した後、100μlの、FITCに連結したBandeiraea simplicifoliaレクチン(Sigma)、PBS緩衝液、0.5mMCaCl2中10mg/l、を室温で20分間加えた。PBS緩衝液、0.5mMのCaCl2中で2回洗浄し、500μlのPBS緩衝液に取った細胞の分析をフローサイトメトリー(Becton Dickinson製:FITC分析用に488nmの波長のアルゴンレーザーが装備されている)により約5000細胞について分析した。図7は、リツキシマブFabフラグメント上に存在する、その血液型A(D)およびB(C)の認識についてBandeiraea simplicifoliaレクチンによるフローサイトメトリー分析を示す。AおよびBは、それぞれDaudi細胞単独により得られるおよびリツキシマブFabフラグメントの存在下において得られるヒストグラムを示す。
【0118】
蛍光細胞(レクチンによる標識により陽性を示す)のパーセントは、Fab−血液型B複合体について94.9%であり、Fab−血液型A複合体について66.7%である。
【0119】
使用するレクチンは、末端α−D−ガラクトシル残基(血液型B上に存在する)に対し高い親和性を有し、末端N−アセチル−α−D−ガラクトサミニル残基(血液型A上に存在する)に対し比較的低い親和性を有する。したがって、得られる蛍光細胞のパーセントの違いは、上に示した理由により説明することができる。
【0120】
この分析によって、レクチンによりFab−血液型複合体が検出できることから、Fab−血液型複合体が正しく露出されたモチーフを含むことを示すだけでなく、CD20抗原がこれらの同じ複合体により認識されることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】リツキシマブのFabフラグメントに対するGalα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2トリサッカライドのグラフト化の根拠を示す。
【図2】Fabフラグメントに対するGalα(1−3)Galβ(1−4)GlcNH2モチーフの生物学的結合の、ドット−ブロッティング分析を示す。
【図3】リツキシマブのFabフラグメントまたはFabフラグメントの免疫沈降を示す。
【図4】Fabフラグメントを有する補体系の活性化の評価を示す。
【図5】トリチウム化したチミジンの組込みによるDaudi腫瘍株の細胞増殖の評価を示す。
【図6】Daudi細胞表面のCD20認識についてのフローサイトメトリー分析を示す。
【図7】Bandeiraea simplicifoliaレクチンによるフローサイトメトリー分析を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞特異的循環分子および少なくとも1つの免疫原を含有する免疫原性複合体であって、前記免疫原が任意の適当な手段により前記循環分子に連結している、免疫原性複合体。
【請求項2】
前記免疫原が共有結合により前記循環分子に連結していることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性複合体。
【請求項3】
前記免疫原がリンカーにより、好ましくはヘテロ二官能性リンカーにより前記循環分子に連結していることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性複合体。
【請求項4】
前記リンカーがスルホ−SMCCから選択されることを特徴とする、請求項3に記載の免疫原性複合体。
【請求項5】
前記循環分子が抗体、単一特異性モノクローナル抗体、または多重特異性モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項6】
前記循環分子が抗体フラグメント、特にFabフラグメントであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項7】
前記免疫原が、少なくとも1つの抗体および/またはヒト補体の可溶性タンパク質によりおよび/または免疫系エフェクター細胞の表面に発現される受容体により、認識されることが可能な少なくとも1つのモチーフを含有する少なくとも1つのオリゴ糖を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項8】
前記免疫原が、GalαGalエピトープを含有するオリゴ糖であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項9】
前記免疫原が、二糖、特にGal−(α1,3)−Galであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項10】
前記免疫原が、三糖、特にGal−(α1,3)−Gal−Rであり、式中、Rが単糖、アミン基、ヒドロキシ基、カルボキシレート基、または有機若しくは無機置換基であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項11】
前記免疫原が血液型オシド構造であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項12】
前記抗体または抗体フラグメントが、リツキシマブまたはリツキシマブフラグメントであることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の免疫原性複合体。
【請求項13】
任意選択で、前記循環分子においておよび前記免疫原において反応性基を生成すること、
前記循環分子と少なくとも1つの前記免疫原との間のカップリング反応を行うこと、
を含む、請求項1から12に記載の免疫原性複合体の調製方法。
【請求項14】
前記循環分子を、SATA(N−スクシニミジル−S−アセチルチオアセタート)または2−イミノチオラン(トラウト試薬)により修飾することを特徴とする、請求項13に記載の免疫原性複合体の調製方法。
【請求項15】
前記免疫原を、水酸化ナトリウムおよび水素化ホウ素ナトリウムの溶液を加えることにより修飾することを特徴とする、請求項13または14に記載の免疫原性複合体の調製方法。
【請求項16】
前記カップリングをリンカー、好ましくはヘテロ二官能性リンカー、非常に好ましくはスルホ−SMCCの存在下で行うことを特徴とする、請求項13から15のいずれか一項に記載の免疫原性複合体の調製方法。
【請求項17】
前記循環分子と前記免疫原とのカップリングを種々の段階:
免疫原とリンカーを連結する段階、
好ましくは過剰に存在する、リンカーに連結した免疫原を循環分子に連結する段階、
により行うことを特徴とする、請求項13から16のいずれか一項に記載の免疫原性複合体の調製方法。
【請求項18】
哺乳動物における免疫反応、特に補体依存性細胞傷害反応を、誘導および/または増幅するための、請求項1から12に記載の免疫原性複合体の使用。
【請求項19】
癌、特に骨髄腫、乳癌若しくはリンパ腫、または自己免疫疾患の処置において使用するための医薬を製造するための、請求項1から12に記載の免疫原性複合体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−545681(P2008−545681A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512878(P2008−512878)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001196
【国際公開番号】WO2006/125921
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(507386276)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DE RECHERCHE POUR L’EXPLOITATION DE LA MER IFREMER
【出願人】(507387871)ユニヴェルシテ ド ブルターニュ オクシダンタル (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BRETAGNE OCCIDENTALE
【Fターム(参考)】