説明

免疫原性の減少を伴った高親和性ヒトおよびヒト化抗−α5β1インテグリン機能阻害抗体

本発明は、高親和性および阻害機能を伴ってα5β1インテグリンと結合する組換えヒトまたはヒト化ポリペプチドに関する。さらには、該ポリペプチドの診断および医薬的適用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高親和性および機能阻害を伴ってα5β1インテグリンと結合する組換えヒトまたはヒト化ポリペプチドに関する。さらに、該ポリペプチドの診断および製薬的適用を開示する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、既存の血管から新しい血管が発達するプロセスである。新しい血管の発達は胚発生、創傷治癒、および女性の生殖周期を促進する。それはまた固形癌の病理学的発達および他の疾患、例えば血管腫、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性、乾癬、関節リウマチおよび骨関節炎の可能性および炎症性腸疾患において重要な役割を果たす(1)。
【0003】
低酸素の腫瘍組織から放出された成長因子は新しい血管の発達を刺激する。成長因子およびそれらの受容体が血管新生における発芽において重要な役割を果たす一方で、細胞外基質(ECM)への接着もまた血管新生における主要な制御因子となる。接着は、血管内膜増殖および移動と同様に、内皮細胞の生存を促進する(2−5)。特にECMタンパク質である、フィブロネクチンは、一時的な(腫瘍)基質内で発現し、血管細胞に対する増殖シグナルを提供する(2、3)。特に、フィブロネクチン−ゼロマウスは一連の欠損症より発生の初期段階で死に、それは不適切に形成された脈管構造も含む(6、7)。
【0004】
実験的動物モデルおよび変異体マウスにおける研究は、フィブロネクチンのための最も重要な受容体であるα5β1インテグリンが血管新生の制御において重要な役割を果たすことを示している。このインテグリンの胎期欠損は、早期および到死性の間葉系異常を誘導し、これはインビトロでの脈管構造の出現における機構の欠落(8、9)および内皮細胞の血管的な構造の形成能の欠落を含む(10、11)。
【0005】
α5β1インテグリンの発現は特に血管新生と関係がある:それは静止状態の内皮中においては検出可能ではないが、インビトロまたはインビボの増大腫瘍の血管新生脈管構造内(12、20、21)において、血管新生成長因子に応答して発現する(3、4)。
【0006】
Kimら(3)は、マウス抗−α5β1インテグリン−機能阻害抗体IIA1がインビボにおいて成長因子−誘導および腫瘍血管新生の両者共に阻害することを示すことができた。このインテグリンが拮抗された時の形質転換シグナルの研究は、非連結型の受容体はPKAを活性化し、それが次にカスパーゼ3および8を活性化し、アポトーシスを誘導することを示している(2、13)。
【0007】
マウス抗体IIA1(BD Pharmingen Cat.No.555614)のヒト化誘導体を製造するための試みが行われてきた。結果として、M200と呼ばれる82%ヒト/18%マウスのキメラlgG4モノクローナル抗体が産生された。さらに、F200と呼ばれる、M200の1価のFab−断片が作成され、黄斑変性症のカニクイザルモデルにおいて成功裏に試験された。しかしながら、M200の完全ヒト化抗体誘導体を用意するためのさらなる試みは、生物活性の劇的な減少という結果になった(14)。
【発明の概要】
【0008】
ヒト医学において、M200またはF200等の如き、α5β1インテグリンに対する現時点で既知の抗体のいずれかの適用は、ヒト患者における免疫原性ヒト抗−キメラ抗体(HACA)反応を誘導する危険性を有する。それゆえ、本発明の目的は、標的特異性および高生物活性および親和性を保つ一方で、存在するキメラ抗体と比較して免疫原性を減らすヒト抗−α5β1インテグリン抗体を提供することであった。
【0009】
本発明によると、Fab形式における完全ヒト抗体は、α5β1インテグリンの形質転換された細胞を用いるファージディスプレイによって、HuCAL(登録商標)−Gold抗体ライブラリーから単離された。完全ヒト起源に起因してヒト患者において低免疫原性が期待される一方で、これらの抗体は高インビトロ活性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】α5発現のためのK562細胞のFACS分析:生きているK562−細胞の細胞表面上におけるヒトα5β1インテグリンの発現を、機能阻害抗α5β1インテグリンマウスモノクローナル抗体IIA1と共に示した(14)。この目的のために、標準FACS−手順を、MorphoSysによって提供されたHuCAL(登録商標)GOLD Manualに記載されるように使用した。
【図1B】ヒト結腸癌細胞系HT29は、α5−インテグリン鎖を発現しない。FACS分析は、HT29細胞がα5−インテグリン鎖を発現しないことを実証し、一方、β1鎖は細胞表面に高密度で存在している。この理由から、HT29細胞はα5−インテグリン鎖のトランスフェクションに優れて適している。
【図1C】ヒト結腸癌細胞系HT29は、α5−インテグリンcDNAでのトランスフェクション後に、α5β1インテグリンを発現する。α5−インテグリン鎖でのトランスフェクション後、HT29α5細胞の表面上でのα5β1インテグリンの相同発現を、機能阻害マウス抗ヒトα5β1−インテグリンモノクローナル抗体IIA1を参照として用いるFACS分析によって示した。
【図2】フィブロネクチン−コート培養プレートへのK562細胞の接着阻害。カルセインが予め組み込まれているK562−細胞を、機能阻害(IIA1)または非−阻害(VC5)抗α5β1インテグリンマウスモノクローナル抗体の存在下で、インキュベートした。フィブロネクチンへのK562−細胞のインテグリン−非依存性バックグラウンド結合を、10mMEDTAを用いて測定した。アッセイの全体的なバックグラウンドを、培養プレート表面へのK562細胞の接着を支持しないBSA阻害ウェル上で測定した。接着細胞(洗浄後)を溶解し、蛍光を測定した。
【図3】フィブロネクチンへのK562細胞のFab−媒介投与量−依存性阻害。抗ヒトα5β1−特異的Fabを、蛍光色素を伴うK562−細胞の固定化フィブロネクチンへの結合を阻害する能力について試験した。接着後、細胞を溶解し、蛍光を接着細胞用の方法で測定した。フィブロネクチン単独では最大の接着を示す一方で、アッセイの全体的なバックグラウンドはBSAでコートされた細胞上で決定された。
【図4】抗α5β1−機能阻害抗体は内皮細胞においてアポトーシスを誘導する。一価の形式における精製Fabのカスパーゼ3/7活性化の誘導を、無血清内皮細胞培養液中のHUVEC細胞を用いて測定した。カスパーゼ活性を、メーカーの説明書に従って市販の化学発光アッセイ系(カスパーゼ GIo、PROMEGA)を用いて測定した。
【図5】FabおよびIIA1の競合FACS。FACS−競合は、MOR04624がHT29α5細胞上で参照抗体IIA1のエピトープと競合することを示す。これにより結論づけられることは、両抗体が同様のエピトープを共有し、一方全ての他のFabはα5β1インテグリンと無関係の結合部位と反応する。(黒線−Fab結合、緑線−参照抗体IIA1と競合した時のFab結合)。
【図6】親和性−成熟抗α5β1−機能阻害抗体は、内皮細胞におけるアポトーシスを強力に誘導する。一価の形式における精製Fabのカスパーゼ3/7活性化の誘導を、無血清内皮細胞培養液中のHUVEC細胞を用いて測定した。カスパーゼ活性をメーカーの説明書に従って市販の化学発光アッセイ系(カスパーゼGIo1 PROMEGA)を用いて測定した。
【図7】親和性−成熟抗α5β1−機能阻害Fab抗体は、内皮細胞の増殖を阻害する。無血清内皮細胞培養液内の接着性HUVEC細胞を、指定された量の精製Fabまたは参照抗体IIA1の存在下で、48時間インキュベートした。増殖細胞を、メーカーの説明書に従って市販のXTT−アッセイを用いて測定した。IC50−値を測定し、表4にまとめた。
【図8】HUVEC接着アッセイにおける最適化IgG。α5β1機能阻害IgG抗体によるHUVEC細胞のフィブロネクチンへの接着阻害。IgG MOR04974、MOR04975、MOR04977、MOR04985は、IIA1と同じようなIC50を伴って接着を阻害する。FabからIgGへの変換は、およそ2倍の改善という結果になった。
【図9】HUVEC生存率アッセイ−抗α5β1インテグリンIgGの分析。α5β1機能阻害IgG抗体によるHUVEC細胞の生存率の阻害。HUVEC細胞を、フィブロネクチンコートプレート上に蒔き、増大する濃度のIgG抗体と共にインキュベートし、生存率を48時間後に測定した。IgG MOR04974、MOR04975、MOR04977、MOR04985は、IIA1と同じようなIC50を伴って接着を阻害する。FabからIgGへの変換はおよそ2倍の改善という結果になった。
【図10】抗−α5β1インテグリンIgGのHUVECカスパーゼアッセイ。α5β1機能阻害IgG抗体によるカスパーゼ3/7活性化の誘導を、無血清内皮細胞培養液中のHUVEC細胞を用いて測定した。カスパーゼ活性を、メーカーの説明書に従って、市販の化学発光アッセイ系(カスパーゼglo、PROMEGA)を用いて測定した。MOR04974、MOR04975、MOR04977およびMOR04985は参照抗体IIA1と同様の有効性である。
【図11】親和性−成熟Fabはビオチン化細胞可溶化物の表面からα5β1インテグリンを特異的に沈殿させる。HT29α5およびHT29wtの表面−ビオチン化NP40−細胞可溶化物を、マグネチックダイナビーズと結合するFabと共にインキュベートした。免疫沈降を、PVDF−膜に移動させ、ストレプトアビジンアルカリホスファターゼ(AP)で分析した。全てのFabは、HT29α5細胞可溶化物からの参照抗体IIA1に相当する期待されるサイズのタンパク質を特異的に沈殿させ、一方、HT29wt細胞可溶化物中にはタンパク質は検出されなかった。無関係のFabMOR03207は、どのタンパク質も特異的に沈殿させなかった。
【図12】抗−α5β1インテグリンIgG(MOR04974の例)のHT29−wtおよびHT29α5への結合特異性(FACS測定)。親和性成熟IgG抗体を、5×105HT29wtおよびHT29α5細胞と共に、10μg/mLでインキュベートした。特異的な結合抗体を、Cy3標識された二次抗体を用いて検出した。上図:HT29wt(左)またはHT29α5−細胞(右)とインキュベートしたIIA1、下図:IgG1 MOR04974。蛍光シフトは、α5インテグリンとの特異的結合を示し、MOR04975、MOR04977、MOR04985およびMOR04624において見られた。抗体アイソタイプ対照は陰性である(黒線)。我々の抗−インテグリン抗体はα5−鎖トランスフェクト細胞と、参照抗体IIA1と同様の特異性で結合する。
【図13】IIA1とHT29α5細胞における抗−α5β1インテグリンIgG(MOR04974の例)との競合結合(FACS測定)。抗−α5β1インテグリンIgGはIIA1と重複エピトープにおいて競合する。室内で産生された抗−α5β1インテグリン抗体を、20μg/mLのIIA1と共にプレインキュベートしたか、しなかった5×105のHT29α5細胞と共に1μg/mLにおいてインキュベートした。IIA1結合の存在は、ヤギ−抗−マウス−FITCでの検出で示される(左図)。ヒト抗体(MOR04974)の結合および競合は、ヤギ−抗−ヒト−FITC二次抗体での検出で示される(右図)。この例はMOR04974における競合を示す。同一の結果がMOR04975、MOR04977、MOR04985、MOR04624において見られた。
【図14】管形成アッセイにおけるIgG1抗−α5β1インテグリン抗体の分析(MOR04974の例)。親和性最適化抗−α5β1インテグリンIgG1抗体は、IIA1と同様に効率的に管形成を阻害する。初期のヒト内皮静脈臍細胞(HUVECs#2519)を、60〜80%の密集度で蒔き、2x104細胞を、EBM−2培養液(Clonetics#CC3156)中のマルチゲル(Becton Dickinson #354234)含有ウェル上で接種した。抗体を15分後に添加し、管形成を18〜24時間、37℃において進行させた。次いで、細胞を固定し(4% ホルマリン)、透過処理し、ブロックし、そして抗−CD31で染色した。抗体を、6nM、3nM、600pM、300pM、および60pMで適用した。代表的な画像は、300pMで効果を示した。A:未処理サンプル、B:ヒトIgG1抗−リゾチームMOR03207、C:IgG1 MOR04624、D:IgG1 MOR04974、E:IIA1、F:マウスIgG1。同様の結果が、MOR04975およびMOR04977においても見られた。
【図15】トランスウェル遊走アッセイにおける親和性最適化抗−α5β1インテグリンIgG抗体活性。遊走アッセイを、フィブロネクチンを唯一の刺激剤として96−ウェルトランスウェル遊走マイクロプレート(8μm孔、#351163Falcon/BD)において行う。フルオロブロク(fluoroblok)膜の下側を2μg/mLのフィブロネクチンで1時間、37℃でコートし、そして2%BSAで30分、37℃でブロックした。0.1%BSAを含むヒト内皮無血清培地(Invitrogen)を容器の上部および下部内で遊走バッファーとして用いた。抗−α5β1インテグリン抗体(0.6〜10μg/mL)を各ウェルの容器の上部に添加し、初期継代のHUVEC(2×104)を添加し、そして細胞の遊走を4時間、37℃において進行させた。次いで、膜下で移動した細胞をカルセイン−染色し、そして結果として生じた蛍光を、485nm励起および535nm発光で、Perkin Elmer1220 Victor counterで測定した。 A:10μg/mL抗体濃度で示している画像を得た。MOR04974、MOR04975、MOR04977はIIA1と同様の効果でHUVECの移動を阻害した。 B:MOR04974、−75、−77(lgG4−Pro抗体アイソタイプ)の抗−遊走性活性の容量反応。IC50(MOR04974:1μg/ml、MOR04975:1.5μg/ml、MOR04977:1μg/ml、IIA1:2μg/ml)。
【図16】結腸癌組織における親和性−最適化IgG1抗−α5β1−インテグリン抗のIHC染色パターン。拡大率10×で、ビオチン化抗体を結腸癌の練増組織切片上で滴定した。検出はストレプトアビジン−アルカリホスファターゼを用いて行った。2.5μg/mL濃度で得られた免疫組織化学的な切片の例を示す。IIA1およびMOR04974において、小〜中規模サイズの血管の染色および間質性の区画が明らかとなった。黒色の矢印は両抗体で染色された同じ血管を示す。同様の染色パターンがMOR04975およびMOR04977で見られた。青色の矢印は染色された血管を示す。最適化抗−α5β1インテグリン抗体はIIA1に相当する染色パターンを見せることが結論付けられる。
【図17】親和性最適化抗−α5β1インテグリン抗体(lgG4−Pro)の腫瘍標的。抗−α5β1インテグリン抗体をヨウ素−125(1分、ヨードゲン法)を用いて放射能標識した。残存する免疫活性を75〜80%と測定し、そして3μgの標識抗体をHT29α5異種移植ヌードマウスに注入した。 A:IgG1MOR04974、MOR04975および対照(参照抗体IIA1および抗−リゾチームMOR03207)における腫瘍取り込み、B:IgG1MOR04977および対照における腫瘍取り込み。 抗−α5β1インテグリン抗体の抗体取り込みは、IIA1と類似しており、および無関係のIgG1MOR03207と比較して著しく高かった。我々はこの結果より、抗−α5β1インテグリン抗体がα5β1インテグリン−陽性HT29α5異種移植を特異的に標的にすることを結論付ける。
【図18】血管新生の3Dインビボ球状体代理モデルにおける最適化抗−α5β1インテグリンIgG抗体の分析。定義した内皮細胞数の球状体を含むマルチゲルプラグを、VEGFおよびFGF2と共に、SCIDマウスの皮下に移植した。EC−出芽およびマウス脈管構造を伴う血管形成の複合ネットワークを、最適化ヒト抗−α5β1インテグリン抗体および対照抗体との処理後、分析した。ヒトIgGMOR04974およびMOR04975は、IIA1と同程度に効果があった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従って、本発明の第一の側面は、(i)100nM、好ましくは10nM以下の親和性でα5β1インテグリンに結合し、(ii)インビトロおよびインビボにおいてα5β1インテグリン発現細胞の受容体への接着を阻害するヒト若しくはヒト化抗体またはその抗原結合性断片である。
【0012】
本発明のポリペプチドはヒト若しくはヒト化抗体またはその抗原結合性断片である。本発明において、「ヒト抗体」なる用語は、実質的にヒト若しくは完全ヒト可変領域および、もし存在すれば、ヒト定常ドメインを有する抗体分子を示す。本出願において、「ヒト」なる用語は、個々のヒトの中に形成され得る配列、または結果としてそこから生じる共通配列の使用により形成され得る配列を示し、例えばKabatら(1991)、Sequences of Proteins of immunological Interest、5th Edition、 NIH Publication no. 91−3242、US Department of Health and Human Services、Washington、DCによる対応する概要中に記載されている様に、参照により本明細書中に引用される。「実質的にヒト」なる用語は、Kabatらによって記載されるように、1、2、3、4または5までのアミノ酸における「完全ヒト」配列とは異なるだろう配列である。より詳細には、本発明にかかる抗体または抗体断片は、重(H)および軽(L)免疫グロブリン鎖における実質的または完全なヒト可変フレームワーク領域を含む。本発明における「ヒト化抗体」なる用語は、実質的にマウスまたは完全マウス可変領域およびヒトまたは実質的にヒト定常ドメインを有し、かつ>82%、好ましくは少なくとも90%であり、特に好ましくは少なくとも98%はヒトである抗体分子を示す。本出願において、「マウス」なる用語は、個々の齧歯類の中に形成され得る、または結果としてそこから生じる共通配列の使用により形成され得る配列を示す。「実質的にマウス」なる用語は、1、2、3、4または5アミノ酸までにおける「完全マウス」配列とは異なるだろう配列を示す。好ましくは、抗体またはその抗体断片はIgG抗体であり、例えばヒト若しくはヒト化IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4抗体またはその断片{例えばFab、Fab’または(Fab)2断片}である。しかしながら、本発明は、ヒト配列、例えば単鎖(sc)抗体またはその断片(例えばscFv断片)を有する組換え抗体にも関する。
【0013】
本発明の抗体または抗体断片は、α5β1インテグリンと特異的に相互作用する1以上の抗原結合性部位を含む。好ましくは、この抗原結合性特性は、可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)領域を組み合わせることで得られる。VHまたはVL領域は、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)、および抗原結合性−媒介CDR領域(VH領域のためにH−CDR1、H−CDR2、H−CDR3、およびVL領域のためにL−CDR1、L−CDR2、L−CDR3)を含む。
【0014】
本発明のヒト若しくはヒト化抗体または抗体断片は、好ましくは、KD値が100nM以下、好ましくは1OnM以下および最も好ましくは1nM以下に対応するα5β1インテグリンへの親和性を有し、該親和性はα5β1陽性ヒトHUVEC細胞上でFACS−滴定によって、実施例に記載するようにまたはコンペティションBIAcore若しくはコンペティションELISA測定によって、測定される。
【0015】
さらに、本発明のポリペプチドは、実施例に記載されるように、α5β1インテグリン発現ヒト腫瘍細胞の接着を阻害する、例えば、Lozzioら(1979)、Leukemia Research、3:363−370によって、K562細胞(ATCC受入番号:CCL−243)はインビトロで研究された。好ましくは、抗体または抗体断片は、10nM以下および好ましくは5nM以下の濃度において細胞接着の50%の阻害を示す(IC50)。
【0016】
さらに、本発明のポリペプチドは、好ましくはHUVEC細胞においてカスパーゼ活性を誘導することができる。HUVEC生存率に関するIC50値は、好ましくは10nM以下、より好ましくは5nM以下であり、ここで該IC50(50%生存率)値は実施例に記載するように決定される。
【0017】
さらに、本発明のポリペプチド、抗体および抗体断片は、腫瘍および癌、特に結腸癌の診断および予防および治療に好ましくは用いられ得る。
【0018】
該ポリペプチド、抗体および抗体断片は、放射性、NMR、色素、酵素および蛍光性標識基等の如き検出可能な標識基と結合し得る。放射性の基は、例えばI125、1131またはY90であり得る。
【0019】
好ましくは、本発明の抗体または抗体断片は、
(a)以下の:
(i)配列番号:1(MOR04624)、配列番号:3(MOR04055)のアミノ酸配列、または該VH領域の1つであるH−CDR1、H−CDR2および/若しくはH−CDR3領域の少なくとも1つ;または
(ii)少なくとも1つのH−CDR領域の変更により、(i)の配列に由来するアミノ酸配列、
より選択されるVH領域、および/あるいは、
(b)以下の:
(i)配列番号:2(MOR04624)、配列番号:4(MOR04055)のアミノ酸配列、または該VL領域の1つであるL−CDR1、L−CDR2および/またはL−CDR3領域の少なくとも1つ、または
(ii)少なくとも1L−CDR領域での変更により、(i)の配列に由来するアミノ酸配列、
より選択されるVL領域、
を含む。
【0020】
特に好ましくは、H−CDR2領域のランダム化によって、上記のような(a)(i)のVH−領域に由来するVH領域を含む抗体または抗体断片である。
【0021】
他の特に好ましい実施形態において、抗体または抗体断片は、L−CDR3領域のランダム化によって、上記のような(b)(i)のVL−領域に由来するVL−領域を含む。
【0022】
さらに他の特に好ましい実施形態において、抗体または抗体断片は、抗体鎖を混合することによって、(a)(i)のVH−領域および/または(b)(i)のVL−領域に由来するVH−および/またはVL−領域を含む。
【0023】
H−CDR2およびL−CDR3のサブライブラリーは、H−CDR2およびL−CDR3を、各々、タンパク質工学手法によってヒトCDRレパートリーと交換することにより作成される(17)。
【0024】
例えば抗体または抗体断片は、配列番号:1または配列番号:2(MOR04624)中に記載されるVLおよび/またはVH領域に由来するVHおよび/またはVL領域を含む。
【0025】
特に好ましくは、以下の:
(a)、配列番号:5(MOR04971)、配列番号:7(MOR04974)、配列番号:9(MOR04975)、配列番号:11(MOR04977)、および配列番号.11(MOR04985)のアミノ酸配列、または該VH−領域のH−CDR1、H−CDR2および/若しくはH−CDR3領域の少なくとも1つから選択されるVH−領域;および/あるいは、
(b)配列番号:6(MOR04971)、配列番号:8(MOR04974)、配列番号:10(MOR04975)、配列番号:12(MOR04977)および配列番号:14(MOR04985)のアミノ酸配列、または該VL−領域のL−CDR1、L−CDR2および/若しくはL−CDR3領域の少なくとも1つから選択されるVL−領域、を含むポリペプチドである。
【0026】
本発明におけるポリペプチドの具体例は以下の通りである:
配列番号:1のVH領域、および配列番号:2(MOR04624)のVL領域またはそのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−若しくはL−CDR3−領域の少なくとも1つを含む、抗体または抗体断片。
【0027】
配列番号:3のVH領域、および配列番号:4(MOR04055)のVL領域またはそのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−若しくはL−CDR3−領域の少なくとも1つを含む、抗体または抗体断片。
【0028】
配列番号:5のVH領域、および配列番号:6(MOR04971)のVL領域またはそのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−若しくはL−CDR3−領域の少なくとも1つを含む、抗体または抗体断片。
【0029】
配列番号:7のVH領域、および配列番号:8(MOR04974)のVL領域またはそのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−若しくはL−CDR3−領域の少なくとも1つを含む、抗体または抗体断片。
【0030】
配列番号:9のVH領域、および配列番号:10(MOR04975)のVL領域またはそのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−若しくはL−CDR3−領域の少なくとも1つを含む、抗体または抗体断片。
【0031】
配列番号:11のVH領域、および配列番号:12(MOR04977)のVL領域またはそのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−若しくはL−CDR3−領域の少なくとも1つを含む、抗体または抗体断片。
【0032】
配列番号:13のVH領域、および配列番号:14(MOR04985)のVL領域またはそのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域の少なくとも1つを含む、抗体または抗体断片。
【0033】
本発明はまた、上記の好ましいおよび/または例示された抗体または抗体断片として、抗原上の同じエピトープに対する抗体または抗体断片に関する。
【0034】
ポリペプチドのVHおよびVL鎖は、以下の領域を含む。
【0035】
MOR04624、MOR04055、および誘導体((17)による番号付けスキーム)のVH鎖:
−アミノ酸1〜30aaに伸びるフレームワーク1領域
−アミノ酸31〜35aaに伸びるCDR1領域
−アミノ酸36〜49aaに伸びるフレームワーク2領域
−アミノ酸50〜65aaに伸びるCDR2領域
−アミノ酸66〜94aaに伸びるフレームワーク3領域
−アミノ酸95〜102aaに伸びるCDR3領域
−アミノ酸103〜113aaに伸びるフレームワーク4領域。
【0036】
MOR04624のVLκ1鎖、および誘導体((17)による番号付けスキーム):
アミノ酸1〜23aaに伸びるフレームワーク1領域
アミノ酸24〜35aaに伸びるCDR1領域
アミノ酸36〜50aaに伸びるフレームワーク2領域
アミノ酸51〜57aaに伸びるCDR2領域
アミノ酸59〜89aaに伸びるフレームワーク3領域
アミノ酸90〜98aaに伸びるCDR3領域
アミノ酸99〜109aaに伸びるフレームワーク4領域。
【0037】
MOR04055のVLκ1鎖および誘導体((17)による番号付けスキーム):
アミノ酸1〜23aaに伸びるフレームワーク1領域
アミノ酸24〜35aaに伸びるCDR1領域
アミノ酸36〜50aaに伸びるフレームワーク2領域
アミノ酸51〜57aaに伸びるCDR2領域
アミノ酸58〜89aaに伸びるフレームワーク3領域
アミノ酸90〜98aaに伸びるCDR3領域
アミノ酸99〜109aaに伸びるフレームワーク4領域。
【0038】
VH−および/またはVL−鎖のフレームワーク領域は、1以上のアミノ酸の交換、例えば1、2、3、4または5アミノ酸の交換により変化し得る。例えば、VLκ1鎖のフレームワーク3領域はMOR04624ファミリーのメンバー内で変化し得る。好ましくは、Fab配列の85番目の位置のアミノ酸が交換可能であり、バリン(MOR04624、MOR04985)をスレオニン(MOR04974、−75、−77)に交換することが特に好ましい。
【0039】
さらに、VH鎖のフレームワーク1領域も変化し得る。好ましい実施形態において、各VH−Fab配列の3番目の位置のアミノ酸が交換可能である。特に好ましくは、例えば、クローニングの際に起こり得る、グルタミン(q)をグルタミン酸(e)に交換することである。
【0040】
本発明のポリペプチドは、治療または診断的適用、例えばインビトロまたはインビボでの診断的適用に適している。
【0041】
治療的適用として、抗体または抗体断片は、それ自体として用いられ得る。あるいは、前記ポリペプチドは、治療薬と結合した形であり、例えば放射線治療薬または化学療法薬(例えば低分子量または生物的細胞分裂阻害剤または細胞毒性剤)から選択される。治療薬は、場合によりホモ−またはヘテロ−二官能性リンカーを用いて、好ましくは前記ポリペプチドの活性アミノ、カルボキシ、ヒドロキシおよび/またはスルフヒドリル基の共有結合を介して、既知の手法により抗体または抗体断片と結合する。
【0042】
更なる実施形態において、前記ポリペプチドは、例えばIL−2、IL−12またはTNF−α等のサイトカインである、抗体または抗体断片ドメインおよび異種融合ドメインを含む融合タンパク質の形を取り得る。
【0043】
他の本発明における抗体または抗体断片の治療的に関連する融合パートナーは、増大または減少免疫エフェクター細胞動員のための改変IgGFc−部分、RNA分解酵素またはETA等のタンパク毒素、メイタンシン(maytansine)またはアウリスタチン(auristatin)誘導体等の如き小薬物分子、プロドラッグ活性化用酵素、他のインテグリン機能阻害拮抗薬との融合タンパク質、またはMMP−2またはMMP−9等の抗血管新生活性を有する酵素との融合タンパク質を含む(15)。
【0044】
さらに、融合タンパク質は、上記の少なくとも1つのα5β1インテグリン結合ドメイン、および更なる抗原に特異的な結合ドメインを含む二重特異性抗体の形を取り得る。例えば、第二抗原結合ドメインは、90Yの如きアルファ、ベータまたはガンマ放射性核種である診断および/または治療用放射性ヌクレオチドへのキレート薬、診断用NIR(近赤外)色素、治療的活性色素、NK−細胞、細胞毒性T−細胞またはNKT−細胞等の如き免疫エフェクター細胞上の表面分子、機能阻害抗−VEGF結合ドメインおよびVEGF受容体1、2および3、並びにインターロイキン等のサイトカインに対する機能阻害結合ドメインに直接対応するものであり得る。
【0045】
診断的適用として、ポリペプチドは検出可能な標識基、例えばインビトロまたはインビボにおける診断的適用のための標識基と結合した形を取り得る。例えば、検出可能な標識基は放射性、NMR、色素、酵素および蛍光(例えばNIR蛍光性)標識基から選択され得る。
【0046】
治療的適用として、ポリペプチドは、好ましくは、さらに活性成分および/または医薬として許容され得る担体、希釈剤、および/あるいはアジュバントを付加的に含み得る医薬組成物中に処方される。当該医薬組成物は、治療的に活性のある投与量の活性薬剤を含み、それは標準方法に従い当業者によって決定され、例えばインビトロ実験または動物実験モデルにより決定される。当該組成物は、好ましくは注入、注射または吸入によって投与される。活性成分の投与量は、疾患の型および重症度および治療を受ける患者の体質によって決定される。好ましくは、当該治療用組成物は、少なくとも2〜4週間に渡り幾度かの服用により投与される。それは、例えばFerraraら、Nature Reviews Drug Discovery、 Vol. 3、 May 2004、 391−400および Salgaller、 Current Opinion in Molecular Therapeutics、2003、5(6)、657−667 に記載されるように、抗体または抗体複合体の投与のための既知のプロトコル、あるいはRituximab、 Campath、Remicade等の医薬抗体の投与のためのプロトコルを示す。
【0047】
さらに、本発明は、診断試薬として上述されるように、抗体または抗体断片を含む診断用組成物に関する。診断用組成物は、さらに診断用に認容性のある試薬、担体、希釈剤および/またはアジュバントを含み得る。診断用組成物は、各々の分析形式、例えばインビボまたはインビトロ診断分析形式において、診断的検出が可能となるのに十分量のポリペプチドを含む。
【0048】
前記組成物は、α5β1インテグリン関連疾患における治療または診断的適用に用いられ得る。例えば、これらの疾患は過剰増殖性疾患であり、例えば血管新生および/または転移に関連する疾患、特には癌であり得る。本発明に関する組成物によって治療される癌は、特に、全種類の固形腫瘍、例えば結腸、腎臓、肺、前立腺、乳房、脳、胃、肝臓または皮膚癌を含む。あるいは、当該組成物は、血管新生と関連する血液癌の治療にも使用され得る。他の新血管新生と関連する疾患は、非制限的に、子宮内膜症、血管腫、関節リウマチ、骨関節炎、動脈硬化斑、炎症性腸疾患、炎症性CNS病、乾癬、糖尿病性網膜症または加齢性黄斑疾患等の目の疾患、および肥厚性瘢痕を含む。好ましい実施形態において前記組成物の抗血管新生活性は成長因子に非依存性である。
【0049】
前記組成物は、1またはいくつかの抗体または抗体断片、例えばα5β1インテグリンの異なるドメインと結合する抗体または抗体断片の組み合わせを含み得る。前記組成物は、また併用療法用の低分子薬を含み得る。前記組成物は、ヒトおよび獣医学における適用に適している。特に好ましくは、ヒト医学における適用に適している。
【0050】
さらに、本発明は、上記の抗体または抗体断片または融合ポリペプチドをコードする核酸に関する。当該核酸は、例えば一本鎖若しくは二本鎖DNAまたはRNAであり得る。好ましくは、核酸は発現制御配列に動作可能に連結され、それは適した宿主細胞または宿主細胞における発現を可能とする。当該核酸は、ベクターまたはベクター系(すなわち複数個のベクター)上に存在し得、宿主細胞または宿主生物中に導入され得る。当該ベクターは、例えばプラスミドまたはバクテリオファージの如き原核細胞に適した原核生物ベクターであり得る。さらに、当該ベクターは、例えばプラスミド、人工染色体またはウイルスベクターの如き真核生物宿主細胞または宿主生物用の真核生物ベクターであり得る。適切なベクターは、例えばSambrookら(1989)、Molecular Cloning、Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press およびAusubelら(1989)、Current Protocols in Molecular Biology、 John WileyおよびSonsに記載されている。
【0051】
本発明は、また、例えば上記の核酸またはベクターで形質転換されたヒト細胞等の原核細胞または真核細胞の如き細胞に関する。さらに、本発明は、非ヒト生物体、例えば上記の核酸またはベクターで形質転換されたトランスジェニック非−ヒト哺乳類などのトランスジェニック動物に関する。「形質転換」なる用語は、外来核酸を細胞に導入する全ての方法またはトランスフェクションまたは感染を含む生物体を含む。
【0052】
前記ポリペプチドは、例えば細胞、培養液、生物体または生物体の排出物からポリペプチドを発現させ該発現ポリペプチドを回収する条件下、上記の非ヒト生物体によって調製され得る。
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。しかし、以下の実施例は限定を意図するものと解されるべきではない。
【実施例】
【0054】
1.機能阻害抗−α5β1インテグリン抗体の作成
1.1 スクリーニング戦略
マウスモノクローナル抗体IIA1は、活性型の生きている(内皮)細胞上にのみ存在するα5β1インテグリンの高次構造エピトープと結合する。選択性および機能的活性の両者を網羅するために、機能的細胞ベースのスクリーニング検定と組み合わせた単離抗原および抗原−発現細胞上の交互パニング(alternateパニング)から成るスクリーニング経路を、Fab形式でHuCAL(登録商標)GOLD由来リード抗体候補を同定するために確立した。
【0055】
1.HuCAL(登録商標)−Goldライブラリー(MorphoSys)を用いたファージディスプレイによる抗−α5β1インテグリン結合Fab抗体断片の選定。パニング実験を単離抗原および抗原−発現細胞上で行った。最良の抗体クローンのアミノ酸配列に基づいて、サブライブラリーを、ヒトCDR配列を用いて、VL−CDR3またはVH−CDR2のいずれかのランダム化により作成し、そしてこれからさらなるパニング実験においてより高性能の結合剤を選択した。付加的なクローンを、1つの抗体分子に着目のVL−CDR3およびVH−CDR2を含む軽鎖および重鎖のクローニングの組み合わせにより得た(「X−クローニング」)。
【0056】
2.豊富なFab−抗体のスクリーニングを以下のように行った。全パニングの結合剤を、α5β1インテグリン−陽性およびα3β1インテグリン−陰性細胞上のELISA−結合においてテストした。次いで、ELISA陽性クローンをα5−過剰発現細胞およびα5−陰性細胞上のFACS実験における細胞結合においてさらに分析した。適切なクローンを、i)フィブロネクチンへの細胞接着、ii)HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)および/またはHDMVEC(ヒト真皮の血管内皮細胞)のアポトーシス誘導、iii)参照抗体IIA1を伴った親和性測定およびFACS競合分析、およびiv)種交差反応性のために、機能分析において分析した。
【0057】
1.2ツール作成およびアッセイ開発
α5−インテグリン鎖cDNA
ヒトα5−鎖のcDNAを、RZPD(IMAGE−ID6821577)から購入し、標準的な方法に従ってpcDNA3−発現ベクター(INVITROGEN)中にクローン化した。
【0058】
精製インテグリン受容体
界面活性剤で可溶化したヒトインテグリン受容体α5β1(Chemicon CC1052)およびα3β1(Chemicon CC1092)をCHEMICON INTERNATIONAL(Temecula、CA、USA)から購入した。固相ファージディスプレイ、ELISAおよびBiaCore−アッセイのために、少なくとも90%の精度を伴うインテグリン−バッチを、非変性SDS−PAGEによって選別した。
【0059】
細胞系
ヒト慢性骨髄性白血病細胞系K562(ATCC受入番号:CCL−243)のフィブロネクチンへの接着性は、α5β1インテグリンによって単に仲介される(16)。この細胞系を、最初の機能的スクリーニングのためのフィブロネクチン−仲介接着アッセイ中で使用した。α5β1−インテグリンの存在を、検出のために抗体IIA1を用いたFACS−アッセイによって実証した(図1A)。
【0060】
分化細胞パニングの戦略における必要条件は、着目の標的物が標的−陰性細胞系において過剰発現されるモデル系である。この目的のために、我々はβ1−インテグリン鎖は発現するがα5−鎖を発現しないヒト結腸癌細胞系HT29(ATCC受入番号:HTB−38)を選択した(図1B)。α5−鎖のcDNAを、メーカーの説明書に従って、Lipofectamineを用いて親HT29−細胞に形質移入した。安定したα5−過剰発現クローンを、α5β1インテグリンが発現した表面の特異的標識に対するマウスモノクローナル抗体IIA1を用いるFACS−スクリーニングによって選別した(図1C)。
【0061】
接着アッセイ
機能的スクリーニングにおける高感度接着アッセイを、ヒトα5β1インテグリンのみを発現するK562細胞系を用いて確立した。この目的のために、96ウェルプレートを非接着性基質として1μg/mlヒトフィブロネクチンまたはBSAで覆い、アッセイの全体的なバックグラウンドを決定した。インテグリンのECM分子への接着はCa2+/Mg2+の存在に依存するので、10mMEDTAをフィブロネクチンに結合するインテグリン非依存性バックグランドを決定するために用いた。機能阻害抗体IIA1を参照として用い、そして非ブロッキング抗α5β1インテグリンマウスモノクローナル抗体(VC5)を陰性抗体−対照として利用した。期待したように、EDTA、IIA1(5μg/ml)およびBSA−コーティング両者とも、K562−仲介接着の結合を阻害し、一方VC5(5μg/ml)は細胞接着に干渉しなかった(図2)。
【0062】
1.3 抗体ファージディスプレイおよびパニング戦略
完全ヒト抗α5β1インテグリン抗体の同定のための抗体ファージディスプレイを、文献(17−20)に記載されたプロトコルに従ってHuCAL(登録商標)−GOLDライブラリーを用いて行った。その後のパニング戦略を平行して適用および実行した(表1)。
【0063】
【表1】

【0064】
結果:
パニング1298−1324の間に、数千クローンをスクリーニングした。様々なディスプレイ−戦略を適用したという事実にもかかわらず、ELISAおよびFACSにおいて選択された1クローン(MOR04055)を繰り返し単離した。免疫優性エピトープと明らかに結合するMOR04055に加えて、4つの付加的なクローンを同定した(MOR04139、04141、04160、04568)。より多様で特異的なインテグリン結合剤を選択する機会をさらに増やすために、2回の付加的なパニング(1369.1−2および1371.1−2)を行った。ここで、10μg/mlMOR04055−Fabを、豊富な支配的クローンMOR04055を抑制するために、ファージディスプレイ中に添加した。Fab−競合にもかかわらず、パニング1369を通じて見つかった全ての特異的結合剤は、再びMOR04055であった。パニング1371において、1つの付加的な個別結合剤(MOR04624)を同定した。
【0065】
1.4機能テストFab−抗体
接着アッセイ
第一パニングアプローチから得た抗体をプレスクリーニング実験における機能阻害効力に従って順位付けた結果は、以下の通りである:MOR04624>MOR04055>MOR04141=MOR04568=MOR04160。MOR04139は、僅かに阻害的であったが、50%の阻害には届かなかった。K562接着アッセイにおける異なる濃度での抗体の投与量依存性再テストは、我々のプレスクリーニング実験の結果を一つの例外とともに決定づけた:それはMOR04139がいかなる用量依存的な阻害も見せなかったことであった。この抗体は、さらに検討しなかった(図3)。
【0066】
アポトーシス誘導
第一のパニングアプローチから得た抗体を、アポトーシス−誘導特性においてさらに評価した。それゆえ、96ウェルプレートを、37℃で1時間、0.2および0.4μg/mlのフィブロネクチンで覆い、そして2%BSAでブロックした。1×104HUVEC細胞を、内皮細胞培養液(Gibco)の無血清培地中で、各抗体と共にインキュベートした。18時間後、カスパーゼ3/7アッセイキットを、メーカー(カスパーゼGIo3/7;Promega)によって記載された手順に従って、細胞溶解およびカスパーゼ活性の定量化に用いた。100μg/mlの濃度において、一価のFabMOR04055および04624が、HUVEC細胞において、10μg/mlの二価参照IgGIIA1と同等の強さで、カスパーゼ3/7活性を誘発した(図4)。全ての他のFabは本アッセイにおいては陰性であった。
【0067】
FACS滴定による親和性測定
天然α5β1−インテグリンの結合強度を分析するために、全抗体をFACS滴定によってα5β1−陽性HUVEC細胞上で試験した(表2)。MOR04055は最も高い結合親和性(0.9nM)を有し、二量体IgG形式において増加を示した。MOR04624においては、一価Fabにおける低ナノモル範囲でのKD、および二量体IgGにおけるKDでの増加を発見した。
【0068】
【表2】

【0069】
FabおよびIIA1の競合FACS
Fab抗体が同じエピトープをIIA1と共有するか否かを検討するために、HT29α5細胞を、0.5μg/mlFab単独または0.5μg/mlFabおよび10μg/mlIIA1と共に、インキュベートした。ヒトFabsの細胞への結合を、FACS分析のためのヤギ抗ヒトFab−特異的−PE複合体で検出した。図7は、Fab染色のみ(黒色の線)およびFab+IIA1(緑色の線)の重ね合わせを示す。結果として、IIA1の添加は、MOR04624による染色強度の明らかな減少を引き起こす。全ての他のFabsは、IIA1によって影響を受けなかった。この結果は、IIA1およびMOR04624が同一または重複エピトープへの結合において互いに競合し、一方、他の4Fabsは無関係なエピトープと結合することを示す。
【0070】
1.5 親和性−成熟:FabおよびIgG抗体分析
FabsMOR04055および04624を1ラウンドの親和性成熟に供した。それゆえ、サブライブラリーを、VL−CDR3またはVH−CDR2のいずれかのランダム化により親Fabから作成し(17)、そして精製α5β1およびHT29α5細胞上でファージディスプレイ選択に供した。このスクリーニングの陽性結合剤を、HT29α5細胞上で接着アッセイにおいてさらに分析し、そしてそれらの阻害活性に従って順位付けた。最良の抑制ポテンシャルをMOR04624誘導体において発見した。MOR04055、MOR04568、MOR04141の誘導体は、阻害性においてせいぜい中程度または何の有意な向上も見せなかった。これらのクローンの軽および重鎖に基づいて、VL−CDR3およびVH−CDR2の12の新しい組み合わせを更なる最適化のためにクローン化した(いわゆる「X−クローニング」)。最良の阻害的クローンおよびX−クローニング由来のクローンを、インビトロにおいて発現させ精製し比較し、最終的に改良された機能阻害活性を伴う7つの強化されたユニークな結合剤を、更なる詳細な分析のために同定した(MOR04971、−72、−74、−75、−77、−85、−87)。
【0071】
アポトーシス誘導
インビトロで、HUVEC細胞上でのアポトーシス−誘導を、カスパーゼ活性および細胞生存によって測定した(図6および図7)。両アッセイにおいて一価のFabMOR04974、04975および04977の有効性は、二価のマウスモノクローナル参照抗体IIA1に相当した。
【0072】
【表3】

【0073】
表3:XTT−増殖アッセイにおけるFab抗体のIC50値
親Fabと比較して、親和性成熟抗体は有意に改善された(因数190まで)。一価のFabの増殖阻害は二価参照抗体IIA1より4倍に少ない効果であった。
【0074】
免疫沈降
Fab抗体の特異性を明らかにするために、表面−ビオチン化HT29α5およびHT29wt細胞のNP−40ライセートを、マグネチックダイナビーズと結合したFabと共にインキュベートした。IIA1は参照抗体として使用した。集中的に洗浄した後、沈殿物をSDS−PAGEサンプルバッファー中において還元性条件下で煮沸し、PVDF膜にブロットし、そしてストレプトアビジン(streptavidine)−APによってプローブした。全ての抗−α5β1インテグリン抗体は、インテグリン鎖α5およびβ1の期待される分子量に相当する〜135kDaのタンパク質2本kバンド(kband)を特異的に沈降し(図11)、HT29wt細胞可溶化物中には見つからなかった。同様の2本のバンドがIIA1と共に見つかった。無関係のFabMOR03207を陰性対照として用いたところ、この2本のバンドには沈降しなかった。この結果はFab抗体の高い特異性を示している。
【0075】
HUVEC接着アッセイにおける最適化したIgG
上記Fab抗体のインビトロでの効力が二量体形式においてさらに向上されるかどうか検討するために、当該抗体をMorphoSys HuCAL IgG Vector Kit(MorphoSys AG、Munich;Germany)を用いた標準技術に従って、完全IgG1分子に変換し、参照抗体IIA1と比較して、HUVEC接着アッセイ(図8)、HUVEC生存率アッセイ(図9)およびHUVECアポトーシスアッセイ(図10)によって分析した。
【0076】
最も重要なことに、IIA1を、参照点としての全ての実験に含んだ。この点において、MOR04974、−75および−77のIgG変換は、IIA1と非常によく似たIC50を有するHuCALIgGをもたらし、これは一価Fab形式と比較して、変換が実際に1〜2倍の向上をもたらしたことを示している。
【0077】
HUVEC生存率アッセイにおける最適化IgG
IgG変換後、5つの結合剤がFab形式と比較して〜2倍の改善されたIC50値を有することを観察した。MOR04974、−75、および−77は、HUVEC生存率を減少させる上で参照IgGIIA1と非常によく似た有効性を示した。
【0078】
HUVECアポトーシスアッセイにおける最適化IgG
カスパーゼ3、7アッセイにおける誘導IgGの分析より、MOR04974、−75および−77は、参照抗体IIA1と比べて、比較的よりアポトーシスを誘導したと結論付けられ得た。
【0079】
1.6抗−インテグリンIgG抗体に最適化された親和性のより深い分析
最適化された抗−インテグリン抗体の親和性の特異性
IgG1−形式の親和性成熟抗体を、HT29wt対HT29α5細胞のFACS分析によって、それらの結合特異性について試験した。HT29wt細胞はα5−陰性であるがβ1−インテグリン鎖を含む。HT29α5であるがHT29wtでない細胞は、蛍光シフトによって示されるように、IgG1−抗−インテグリン抗体および参照抗体IIA1によって特異的に認識された(図12)。非特異的抗体アイソタイプ対照は、細胞と結合せず、測定された蛍光においてシフトは見られなかった。これらの実験は、最有力候補の抗体がα5インテグリンを特異的に認識し、および参照抗体IIA1と同様の特異性で結合することを示している。
【0080】
抗−α5β1−インテグリン抗体のエピトープ特異性は、親和性成熟およびIgG形式へのリクローニング後、維持される。
我々はFACS競争実験によって、Fab抗体MOR04624およびその誘導体が重複エピトープへの結合について参照抗体IIA1と競合することを示している。IgG1形式への変換後、抗α5β1インテグリン抗体を、IIA1との結合競争について再度テストした。IgG1抗−α5β1インテグリン抗体MOR04974、−75、−77、−85およびMOR04624のHT29α5細胞への結合は、細胞をIIA1とプレインキュベートした場合に完全に阻害される蛍光シフトをもたらした。この結果は、IIA1およびIgG1抗−α5β1インテグリン抗体のエピトープ競争を確証させた(図13)。
【0081】
管形成血管新生アッセイにおける抗−α5β1インテグリンIgG1抗体の定量分析
活性化した内皮細胞由来の新しく形成された血管の遮断は、抗−α5β1インテグリン抗体の一つの重要な阻害活性と考えられている。完全な性質決定のために、我々は、HUVEC管形成アッセイにおいて参照抗体IIA1と比較して、親和性−最適化IgG1抗−α5β1インテグリン抗体を分析した。
【0082】
このアッセイにおいて、2×104のヒト内皮静脈臍細胞(HUVECs#2519、Promocell)を、EBM−2溶液(Clonetics#CC3156)中、成長因子リッチマルチゲル(Becton Dickinson#354234)上に蒔いた。抗体(6nM、3nM、600pM、300pM、60pM)を15分後に添加し、そして管形成を、18〜24時間、37℃で行わせた。次いで、細胞を、管形成の写真の証拠文献のために固定および抗−CD31で染色した。
【0083】
ウェル中に形成された複合ネットワークの視覚分析は、参照抗体と同様の効力を伴った、全てのMOR04624−由来の抗−α5β1インテグリン抗体についての管形成阻害活性を明らかにした(図14)。高濃度において、管形成の抗体遮断は、また、ヒトおよびマウスIgG1アイソタイプ対照においても発見した。しかしながら、より低い抗体濃度(300pMにまで下がって)において、活性ウィンドウは、管形成特異的抗体で処理されたウェルのみで阻害されるが未処理のウェルまたは抗体アイソタイプ対照または弱い機能阻害抗体MOR04624で処理されたウェルにおいては阻害されない場合に、観察された。
【0084】
遊走アッセイにおける抗−α5β1インテグリンIgG抗体の分析
血管新生の過程において、活性型内皮細胞は、主にフィブロネクチン(FN)から成る血管新生−特異的な暫定的マトリックス上の血管新生刺激に向かって移動する。我々は、トランスウェル遊走アッセイにおいて最適化抗−α5β1インテグリンIgG抗体を分析し、そしてIIA1と同じ規模(1〜10μg/ml)での有効性を伴った、全ての抗−α5β1抗体に対するα5β1−フィブロネクチン依存性HUVEC移動の阻害活性を発見した(図15)。
【0085】
抗−α5β1インテグリン抗体の反応性
腫瘍および内皮細胞系における反応性
抗−α5β1インテグリン抗体の反応性を、FACS結合実験によって様々な内皮および腫瘍細胞系上でテストした(表4)。α5鎖陰性と知られている、HT29wt細胞を除いた全ての試験された内皮および腫瘍細胞系への結合を観察した。参照抗体IIA1と比較して、最も有力な候補抗体は、全ての試験された細胞系に等しく結合し、および得られた蛍光シフトは全ての抗体において似ていた。アイソタイプ対照抗体は結合しなかった。要約すれば、抗−α5β1インテグリン抗体は、FACS細胞結合実験において、IIA1に相当する反応性を示す。
【0086】
【表4】

【0087】
正常および腫瘍組織切片上での抗−α5β1抗体の反応性−免疫組織化学
親和性−最適化抗−α5β1インテグリン抗体を、異なる組織片上で免疫組織化学実験として分析し、そして各組織上の抗−インテグリン抗体の特異的反応性特性は非常にIIA1の染色と似ていた。要約すれば、我々は、我々の抗−α5β1インテグリン抗体がIIA1に相当する染色パターンを示すと結論付けた(図16)。
【0088】
親和性最適化抗−α5β1インテグリンIgG抗体のインビボでの性質決定
異種移植ヌードマウスでのインビボ標的化の実証
IIA1と比較した最適化抗−α5β1インテグリン抗体のインビボ標的化特性を、HT29α5細胞の異種移植を保有するヌードマウスにおいて比較した。
【0089】
最適化抗−α5β1インテグリン抗体の放射能標識(lgG4−Pro)を、標準手順に従い、1分間、ヨードゲン法によってヨウ素−125を用いて行った。免疫活性を、細胞−結合アッセイ(「Lindmoアッセイ」)において測定した。50ngの放射能標識された抗体を、2時間、4℃で、増加しつつある(0、25〜10Mio)α5β1インテグリン−陽性細胞と共にインキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、そして結合された放射活性をシンチレーションカウンターで測定した。総数/結合数の商を、1/細胞数に対してプロットし、データを非線形回帰モデルに合わせた。y−軸との交点から無限抗原密度における残りの免疫活性を計算し、そして全ての抗−α5β1インテグリン抗体において75−80%であることがわかった。
【0090】
ヒト抗−α5β1インテグリン抗体は、24時間から96時間続く10%以上のID/gを伴うHT29α5異種移植において、48時間後に急速に減少し72時間後に5%未満のID/gとなったMOR04975を除き、全ての分析された抗体において、蓄積された。MOR04974は、そのピーク値に48時間後に18%ID/gを伴って到達し、MOR04977は、72時間後に18%ID/gを伴って到達した。相対的に、マウスIIA1抗体は、10%以上のID/gを伴うHT29α5異種移植において、24時間後から蓄積し、96時間まで継続した。非−特異的抗−リゾチーム(lysozme)抗体MOR03207において、3%未満のID/gをどの時点でも発見した。これらの結果から、α5β1−陽性HT29α5異種移植の特異的標的化が結論づけられる。抗−α5β1インテグリン抗体MOR04974およびMOR04977のインビボ標的化は、IIA1に類似しており、単一の時点ではさらに優れている。
【0091】
血管新生の代理動物モデルからの抗−α5β1インテグリン抗体のインビボ有効性
参照抗体IIA1として、抗−α5β1インテグリン抗体は、マウスおよびラットα5β1インテグリンとは交差反応性を示さない。それゆえ、インビボでの治療的有効性の分析、および動物モデルにおける特異的インビボ抗血管新生効果の実証は難しく、そして血管新生の代理モデルにおいて行う必要がある。抗−α5β1インテグリンIgG抗体とIIA1とのインビボ比較を、血管新生における3Dインビボ球状体代用モデルにおいて、実施した(図18)。
【0092】
このモデルにおいて、定義された内皮細胞数の球状体を、24ウェルプレートにおける重合を可能とするコラーゲンと混合した。次いで、VEGFおよびFGF2を含むマトリゲルプラグにおけるEC球状体を、刺激されたECがマウス脈管構造と吻合するヒト毛細血管の複雑な三次元網目構造を形成するSCIDマウスの皮下に移植した。抗−α5β1インテグリン抗体(200μg)を3週間に渡り週に2回与えた。21日目で研究は終了し、マルチゲルプラグを除去し、そして血管密度を調べた。参照抗体IIA1に関しては、最適化抗−α5β1インテグリンIgG抗体MOR04974およびMOR04975での処理は、2倍までマルチゲルプラグにおける微小血管密度を減少させ(1mm2あたりおよそ20微小血管)、一方、無関係なヒト抗−リゾチーム抗体MOR03277での処理は、1mm2あたりおよそ40微小血管という結果となった。
【0093】
この結果に基づいて、最適化ヒト抗−α5β1インテグリン抗体MOR04974およびMOR04975は、血管新生の3Dインビボ球状体代用モデルにおいて、IIA1に匹敵するインビボ抗−血管新生有効性を有することが結論付けられる。
【0094】
結論:
インビトロ実験において、IgG1形式と同様に、Fabにおける最善の阻害特性は、一貫してMOR4974、−75、−7において見つかった。全3つのIgGは、参照mAbIIA1に相当する。これらの結合剤は、MOR04624の誘導体である。インビボ実験において、完全ヒトおよび最適化IgGMOR04974、−75、−77を、ヌードマウスにおいて腫瘍異種移植を効率的に標的とするよう実施したところ、血管新生3D球状モデルにおいて、MOR04974およびOR04975は、参照抗体IIA1と同等に有効であった。
【0095】
上記抗体のV鎖のアミノ酸配列を表4中に示す:
親MOR04624
最終hlgG1カッパ VH−h−lgG−ベクター VL−h−カッパ−ベクター
MOR04974 MOR04985 MOR04990
MOR04975 MOR04985 MOR04991
MOR04977 MOR04987 MOR04989
MOR04985 MOR04985 MOR04624
【0096】
【化1】

【0097】
【化2】

【0098】
【化3】

【0099】
【化4】

【0100】
【化5】

【0101】
【化6】

【0102】
【化7】

【0103】
2.結論:
抗−α5β1インテグリン機能阻害抗体は、キメラ抗体形式において利用可能なだけである。完全ヒト化への試みは失敗した。かかる抗体の臨床症状での適用は、ヒト患者において免疫応答を誘発するであろう。特に抗−血管新生化合物の慢性的な適用において、これは、投与量の増加または治療の早期終了を導き得る重篤な副作用を導くであろう。
【0104】
我々は、素晴らしい生物学的特徴を伴った完全ヒトα5β1インテグリン機能阻害抗体を同定した。それは、臨床において可能な限り副作用がないことを保障するだろうその完全なヒト性質に起因して、現存するマウスおよびキメラ抗体にとって有利である。重篤な副作用およびまたは投与量の増大を伴う、この分子に対する免疫応答を引き起こす可能性は非常に低いことが期待される。それゆえ、これらの分子は、例えば固形腫瘍の治療の如きヒト医学における適用に、より適している。
【0105】
【化8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nM以下の親和性でα5β1インテグリンに結合し、かつインビトロおよびインビボで受容体へのα5β1インテグリン−発現細胞の接着を阻害する、ヒト若しくはヒト化抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
10nM以下の親和性でα5β1インテグリンに結合する、請求項1に記載の抗体または断片。
【請求項3】
インビトロでのK562細胞系の接着を阻害する、請求項1または2に記載の抗体または抗体断片。
【請求項4】
(a)以下の:
(i)配列番号:1(MOR04624)、配列番号:3(MOR04055)のアミノ酸配列、またはVH領域の1つの1H−CDR1領域、H−CDR2領域および/若しくはH−CDR3領域の少なくとも1つ;または、
(ii)少なくとも1つのH−CDR領域の変更により、配列(i)に由来するアミノ酸配列、
より選択されるVH−領域、および/あるいは、
(b)以下の:
(i)配列番号:2(MOR04624)、配列番号:4(MOR04055)のアミノ酸配列または該VL領域の1つのL−CDR1領域、L−CDR2領域および/またはL−CDR3領域の少なくとも1つ;または、
(ii)少なくとも1つのL−CDR領域の変更により、配列(i)に由来するアミノ酸配列、
より選択されるVL−領域、
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体または断片。
【請求項5】
該H−CDR2領域のランダム化により(a)(i)のVH−領域に由来するVH−領域を含む、請求項4に記載の抗体または抗体断片。
【請求項6】
該L−CDR3領域のランダム化により(b)(i)のVL−領域に由来するVL−領域を含む、請求項4または5に記載の抗体または抗体断片。
【請求項7】
抗体鎖の入れ替えにより、(a)(i)のVH−領域、および/または(b)(i)のVL−領域に由来するVH−および/またはVL−領域を含む、請求項4〜6のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項8】
(a)配列番号:5(MOR04971)、配列番号:7(MOR04974)、配列番号:9(MOR04975)、配列番号:11(MOR04977)、および配列番号:11(MOR04985)のアミノ酸配列、あるいはVH−領域の少なくとも1つのH−CDR1領域、H−CDR2領域および/またはH−CDR3領域より選択されるVH−領域、および/または、
(b)配列番号:6(MOR04971)、配列番号:8(MOR04974)、配列番号:10(MOR04975)、配列番号:12(MOR04977)および配列番号:14(MOR04985)のアミノ酸配列、あるいはVL−領域の少なくとも1つのL−CDR1領域、L−CDR2領域および/またはL−CDR3領域より選択されるVL−領域、
を含む、請求項4〜7のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項9】
配列番号:1のVH領域、および配列番号:2(MOR04624)のVL領域、あるいは少なくとも1つのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域を含む、抗体または抗体断片。
【請求項10】
配列番号:3のVH領域、および配列番号:4(MOR04055)のVL領域、あるいは少なくとも1つのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域を含む、抗体または抗体断片。
【請求項11】
配列番号:5のVH領域、および配列番号:6(MOR04971)のVL領域、あるいは少なくとも1つのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域を含む、抗体または抗体断片。
【請求項12】
配列番号:7のVH領域、および配列番号:8(MOR04974)のVL領域、あるいは少なくとも1つのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域を含む、抗体または抗体断片。
【請求項13】
配列番号:9のVH領域、および配列番号:10(MOR04975)のVL領域、あるいは少なくとも1つのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域を含む、抗体または抗体断片。
【請求項14】
配列番号:11のVH領域、および配列番号:12(MOR04977)のVL領域、あるいは少なくとも1つのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域を含む、抗体または抗体断片。
【請求項15】
配列番号:13のVH領域、および配列番号:14(MOR04985)のVL領域、あるいは少なくとも1つのH−CDR1−、H−CDR−2、H−CDR3−、L−CDR1−、L−CDR2−またはL−CDR3−領域を含む、抗体または抗体断片。
【請求項16】
ヒト若しくはヒト化IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4抗体の如きIgG抗体、あるいはFab、Fab1またはF(ab)2断片の如きその断片である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項17】
単鎖(sc)抗体の如き組換え抗体、あるいはscFv断片の如きその断片である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項18】
治療薬と結合した形態である、請求項1〜17のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項19】
該治療薬が放射線療法薬および化学療法薬より選択される、請求項18に記載の抗体または抗体断片。
【請求項20】
該放射線療法薬がI125、I131またはY90である、請求項19に記載の抗体または抗体断片。
【請求項21】
融合ポリペプチドの形態である、請求項1〜17のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項22】
サイトカインとの融合タンパク質または二重特異性抗体である、請求項21に記載の抗体または抗体断片。
【請求項23】
検出可能な標識基の形態である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の抗体または抗体断片。
【請求項24】
該検出可能な標識基が、放射性標識基、NMR標識基、色素標識基、酵素標識基および蛍光性標識基から選択される、請求項23に記載の抗体または抗体断片。
【請求項25】
該検出可能な放射性標識基が、I125、I131またはY90より選択される、請求項24に記載の抗体または抗体断片。
【請求項26】
活性薬剤として、請求項1〜25のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片を含む、医薬組成物。
【請求項27】
過剰増殖性疾患の予防または治療のための、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
癌の予防または治療のための、請求項26または27に記載の組成物。
【請求項29】
結腸癌の予防または治療のための、請求項26または27に記載の組成物。
【請求項30】
腫瘍の予防または治療のための、請求項26または27に記載の組成物。
【請求項31】
診断試薬として、請求項1〜17または23〜24のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片を含む、診断用組成物。
【請求項32】
過剰増殖性疾患またはその素因の診断のための、請求項32に記載の組成物。
【請求項33】
癌またはその素因の診断のための、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
人間医学における使用のための、請求項26〜33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
請求項1〜17若しくは21〜22のいずれか1項に記載の抗体または抗体断片をコードする、核酸。
【請求項36】
発現制御配列に動作可能に連結されている、請求項35に記載の核酸。
【請求項37】
請求項35または36に記載の核酸を含む、ベクターまたはベクター系。
【請求項38】
請求項35または36に記載の核酸、あるいは請求項37に記載のベクターによって形質転換された、細胞。
【請求項39】
請求項35または36に記載の核酸、あるいは請求項37に記載のベクターによって形質転換された、非ヒト生物体。
【請求項40】
請求項38に記載の細胞または請求項39に記載の非ヒト生物体を、ポリペプチドが発現し該発現ポリペプチドが回収される条件下で培養する、請求項1〜17または21〜22のいずれか1項に記載のポリペプチドの調製方法。
【請求項41】
α5β1インテグリン関連疾患またはその素因における予防または治療用薬物の製造のための、請求項1〜25のいずれか1項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項42】
癌の予防または治療用薬剤の製造のための、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
α5β1インテグリン関連疾患またはその素因の診断用試薬の製造のための、請求項1〜25のいずれか1項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項44】
癌の診断用試薬の製造のための、請求項43に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2009−537158(P2009−537158A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511419(P2009−511419)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004648
【国際公開番号】WO2007/134876
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【出願人】(594029230)モルフォシス・アクチェンゲゼルシャフト (9)
【氏名又は名称原語表記】MORPHOSYS AG
【Fターム(参考)】