説明

免疫原性分子

本発明は一般に、免疫学の分野に関し、具体的には、細胞性免疫応答を刺激することができる分子に関する。具体的には本発明は、ポリペプチドのエピトープに対する免疫応答を、対象のHLAタイプに関わらず刺激することのできる自己アジュバント性免疫原性分子を提供する。本発明はさらに、特定のポリペプチドに対する対象のワクチン接種に有用な自己アジュバント性免疫原性分子、および、これを含む組成物の作製法および使用法を企図している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、免疫学の分野に関し、および具体的には、細胞性免疫応答を刺激可能な分子に関する。具体的には本発明は、ポリペプチドのエピトープに対する免疫応答を、対象のHLAタイプに関わらず刺激可能な自己アジュバント性免疫原性分子を提供する。本発明はさらに、特定のポリペプチドに対する対象のワクチン接種に有用な自己アジュバント性免疫原性分子、および、これを含む組成物の作製法および使用法を想定している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
先行技術の説明
本明細書における、任意の先行技術の参照は、先行技術がオーストラリアにおける共通の一般知識の一部を形成することを認めたこと、または何らかの示唆を加えたと解釈せず、かつ解釈すべきではない。
【0003】
免疫療法およびワクチン接種は、感染性疾患および一部の腫瘍などの、さまざまな疾患の予防または治療に用いられている。しかしながら、このような治療の応用および成功は、部分的には、多面的な免疫応答を刺激する必要があるために限定されている。例えば、特異的な抗原に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応を引き起こして維持するためには、同じ抗原に対するTヘルパー(Th)応答の存在が必要である。特にTh応答の刺激は、細胞からのIL-2の産生を誘導し、これは後に同じ抗原に対するCTLのクローン増殖を可能とする。
【0004】
T細胞は、プロセシングを受け、および抗原提示細胞(APC)の表面に存在する主要組織適合性(MHC)分子と結合するペプチド断片を認識可能である。MHC複合体は、MHCクラスIおよびMHCクラスIIと呼ばれる、2セットの高度に多型性の細胞表面分子を含む。MHCクラスI分子は、APC内に存在する分子の分解によって生じるペプチドと結合する。MHCクラスI/ペプチド複合体は、MHCクラスI分子とペプチドの特定の組み合わせを認識するCD8+ T細胞に提示される。MHCクラスII分子は、APCによるエンドサイトーシスによって取り込まれたタンパク質の分解によって産生されたペプチドと結合する。MHCクラスII/ペプチド複合体は、MHC II分子とペプチドの特定の組み合わせを認識するCD4+ Th細胞に提示される。典型的には、特定の抗原に対するCD4+ Th応答は、抗原特異的なCD8+ CTL応答を刺激するさまざまなペプチドによって高められる。
【0005】
MHC分子上のペプチド結合溝は、MHCの折りたたみ時に形成される。この溝内の結合ポケットは、ハプロタイプに依存して、さまざまなペプチドも収容可能である。ヒトのクラスIファミリーは、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cと呼ばれる3つの主要なクラスIの遺伝子座を含む。HLA-E、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Hも存在するが、これらの遺伝子は、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cの遺伝子座より多型性がはるかに低い。ヒトのクラスIIは、DR、DQ、およびDPと呼ばれる3つの主な座位を含む。クラスI座位もクラスII座位も、無限の数のサブクラスにさらに分けられる。
【0006】
MHC分子は共優性的に発現される。これは、ある個体では、主要遺伝子座位の全てが母方と父方の両方の染色体から発現されることを意味する。3種類のクラスIの遺伝子座が存在し、および個々の遺伝子座が高度に多型であることから、大半の個体は6種類の異なるクラスI分子を有することになる。個々のMHC分子は、わずかに異なる形状を有するので、異なる抗原性ペプチドを提示する。類似の過程はMHCクラスIIについてもあてはまる。一見、APCは6種類の異なるクラスII分子を発現する可能性があると考えられるが、これはハイブリッドのクラスII分子のために過小評価である可能性が高い。したがって個体間には、個々のHLAタイプに関連して高レベルの可変性が存在する可能性があると理解することができる。
【0007】
個々のMHC分子は、タンパク質に由来する、さまざまなペプチド断片と結合可能であり、ひとたび結合すると、特異的なCD8+ CTLまたはCD4+ Thが、このペプチドを認識可能となるが、特定のHLAタイプに依存する。したがって、HLA-A2であるヒトにおけるCTL応答を刺激可能なHIV特異的ペプチドは、A2を表面に発現する細胞を含まないヒトにおける反応を刺激可能ではない可能性がある。
【0008】
免疫系のこのような多様性は、特定の病原体または腫瘍に対するワクチンまたは治療法の開発を試みる際に大きな障害となる。しばしば、CTL応答を誘導可能な1つだけのペプチドが投与される。このようなワクチン接種は、高度に制限された免疫応答を招くだけでなく、Th応答を刺激する可能性の高いペプチドも提供せず、したがって、必要な「援助」を提供する。また、ワクチン接種またはウイルスの治療におけるこのような戦略の使用は典型的には、ウイルスゲノムにおける進化的スイッチを生じ、このような応答の効果はなくなる。CTLエピトープを含む完全長のタンパク質が事実上、MHCクラスIのプロセシング経路に進まなくなると、輸送戦略も限定される。
【0009】
したがって、対象のHLAタイプにかかわらず免疫応答を刺激可能な免疫原性分子を開発する必要がある。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本明細書を通じて、文脈上、他の意味に解すべき場合を除いて、「を含む(comprise)」という表現、または「を含む(comprises)」もしくは「を含む(comprising)」のような類似表現は、記載された要素もしくは整数、または一群の要素もしくは整数を含むが、他の任意の要素もしくは整数、または一群の要素もしくは整数を除外しないことを意味すると理解される。
【0011】
本発明は、対象のHLAタイプにかかわらず、対象における免疫応答を誘導可能なポリペプチドに関する。具体的には本発明は、天然または組換え型のポリペプチド内のエピトープに特異的な免疫応答を刺激可能な、少なくとも1つの脂質部分もしくは脂肪酸部分と抱合される、天然または組換え型のポリペプチドを含む自己アジュバント性免疫原性分子を提供する。本発明の自己アジュバント性免疫原性分子は、天然または組換え型のポリペプチドに対する、いずれもポリペプチドに特異的なCD8+ CTLおよびCD4+ Tヘルパー、および/またはB細胞の存在を特徴とする免疫応答を特異的に誘導可能である。
【0012】
したがって、本発明の1つの局面は、1つもしくは複数の脂質部分または脂肪酸部分に抱合する、天然または組換え型のポリペプチドを含む自己アジュバント性免疫原性分子に関し、同ポリペプチドは、少なくとも1つのCTLエピトープおよび1つのTヘルパーエピトープ、または1つのCTLエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのCTLエピトープ、1つのTヘルパーエピトープ、および1つのB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を含み、同エピトープは同ポリペプチドに特異的であり、ならびに自己アジュバント性免疫原性分子は、対象における免疫応答を、対象のHLAタイプにかかわらず誘導する。
【0013】
特定の局面では、本発明のポリペプチドは、いずれも天然または組換え型のポリペプチドに特異的な免疫応答を誘導可能な、少なくとも1つのCTLおよび1つのTヘルパーエピトープを含む。
【0014】
本発明の関連する局面では、ポリペプチドは、いずれも天然または組換え型のポリペプチドに特異的な免疫応答を誘導可能な、1つのCTLエピトープおよび1つのB細胞エピトープを含む。
【0015】
本発明の別の局面では、ポリペプチドは、いずれも天然または組換え型のポリペプチドに特異的な免疫応答を誘導可能な1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープを含む。
【0016】
好ましい局面では、ポリペプチドは、いずれも天然または組換え型のポリペプチドに特異的な免疫応答を誘導可能な、少なくとも1つのCTLエピトープ、および少なくとも1つのTヘルパーエピトープ、および少なくとも1つのB細胞エピトープを含む。
【0017】
特定の態様では、本発明は、天然または組換え型のポリペプチドを含む自己アジュバント性免疫原性分子を想定しており、同ポリペプチドは、少なくとも1つのCTLエピトープ、および1つのTヘルパーエピトープ、および1つのB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を含み、同エピトープは同ポリペプチドに特異的であり、ならびに自己アジュバント性免疫原性分子は、対象における免疫応答を、対象のHLAタイプにかかわらず誘導する。
【0018】
加えて本発明は、対象における免疫応答を、対象のHLAタイプにかかわらず誘導する、1つもしくは複数の脂質部分または脂肪酸部分と抱合する、天然または組換え型のポリペプチドを含む自己アジュバント性免疫原性分子を提供する。
【0019】
脂質部分もしくは脂肪酸部分は、ポリペプチド主鎖内の任意のアミノ酸残基と、または糖質部分などの翻訳後に追加された化学物質と抱合可能である。好ましい態様では、脂質部分または脂肪酸部分は、ポリペプチドのアミノ酸の側鎖またはN末端に抱合される。好都合には、ポリペプチドに対する脂質部分または脂肪酸部分の抱合は、ポリペプチドの天然の折りたたみを有意に変化させないので、直鎖状エピトープと立体構造エピトープの両方の提示が可能となる。
【0020】
別の局面では、本発明は、対象における免疫応答を、対象のHLAタイプにかかわらず誘導する、少なくとも1つのCTLエピトープおよび1つのTヘルパーエピトープ、または1つのCTLエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのCTLエピトープ、1つのTヘルパーエピトープ、および1つのB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を含む天然または組換え型のポリペプチドを選択または調製する段階、ならびに少なくとも1つの脂質部分または脂肪酸部分をポリペプチド内の任意のアミノ酸残基に、または天然または組換え型のポリペプチド上の翻訳後に追加された化学部分に抱合させる段階を含む、自己アジュバント性免疫原性分子を作製する方法を提供する。
【0021】
本発明は、自己アジュバント性免疫原性分子を含む組成物を提供し、ならびに癌または病原体感染の治療用または予防用の薬物の製造における自己アジュバント性免疫原性分子の使用に関する。
【0022】
ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列識別番号(SEQ ID NO:)によって表記される。SEQ ID NO:は数値的に、配列識別子<400>1(SEQ ID NO:1)、<400>2(SEQ ID NO:2)などに対応する。配列識別子の概要を表1に示す。配列表を本明細書の最後に提供する。
【0023】
本明細書で使用される配列識別子の概要を表1に示す。
【0024】
(表1)配列識別子

【0025】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、分子、および特に、天然または組換え型のポリペプチド内のエピトープに特異的な免疫応答の刺激に使用される脂質部分または脂肪酸部分と抱合する天然または組換え型のポリペプチドを使用する。この応答は対象で、対象のHLAタイプにかかわらず生じる。「免疫応答」という表現は、細胞性応答もしくは液性免疫応答のいずれか、またはこの両方を含む。好ましい局面では、細胞性免疫応答は、細胞傷害性T細胞応答およびTヘルパー応答、または細胞傷害性T細胞応答およびB細胞応答、またはTヘルパー応答およびB細胞応答、または細胞傷害性T細胞応答およびTヘルパー応答およびB細胞応答を含む。
【0026】
したがって、本発明の1つの局面は、ポリペプチド上のエピトープに対する免疫応答を対象のHLAタイプにかかわらず刺激可能な、1つもしくは複数の脂質部分または脂肪酸部分を会合させた、天然または組換え型のポリペプチドを含む自己アジュバント性免疫原性分子を提供し、天然または組換え型のポリペプチドは、少なくとも1つのCTLエピトープおよび1つのTヘルパーエピトープ、または1つのCTLエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのCTLエピトープおよび少なくとも1つのTヘルパーエピトープおよび少なくとも1つのB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を含み、同エピトープは同ポリペプチドに特異的である。
【0027】
本明細書で用いる、「自己アジュバント性免疫原性分子」は、天然または組換え型のポリペプチドが、細胞傷害性T細胞応答、および/またはTヘルパー応答、および/またはB細胞応答を、追加的なアジュバントの支援を必要とすることなく刺激する能力を意味する。
【0028】
本明細書で用いる、「Tヘルパーエピトープ」は、「Thエピトープ」またはCD4+ Tヘルパーエピトープ」とも定義され、および、対象に投与時にCD4+ T細胞応答を促進または刺激することが可能な任意のエピトープを含む。好ましいTヘルパーエピトープは、少なくとも約6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、19アミノ酸、20アミノ酸、21アミノ酸、22アミノ酸、23アミノ酸、24アミノ酸、25アミノ酸、26アミノ酸、27アミノ酸、28アミノ酸、29アミノ酸、または30アミノ酸の長さを含む。
【0029】
本明細書で用いる、「CTLエピトープ」は、「細胞傷害性T細胞エピトープ」または「CD8+ CTLエピトープ」とも定義され、および、対象に投与時にCD8+ T細胞応答を促進または刺激することが可能な任意のエピトープを含む。好ましいCTLエピトープは、少なくとも約6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、19アミノ酸、20アミノ酸、21アミノ酸、22アミノ酸、23アミノ酸、24アミノ酸、25アミノ酸、26アミノ酸、27アミノ酸、28アミノ酸、29アミノ酸、または30アミノ酸の長さを含む。
【0030】
本明細書で用いる、「B細胞エピトープ」は、対象に投与時に、抗体産生を誘導可能な任意のエピトープである。好ましくはB細胞エピトープは、中和抗体、およびより好ましくは高力価の中和抗体を誘導可能である。好ましいB細胞エピトープは、少なくとも約4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、19アミノ酸、20アミノ酸、21アミノ酸、22アミノ酸、23アミノ酸、24アミノ酸、25アミノ酸、26アミノ酸、27アミノ酸、28アミノ酸、29アミノ酸、または30アミノ酸の長さを含む。
【0031】
本明細書で用いる、「ポリペプチド」という表現は、その従来の意味で、すなわちアミノ酸の配列について使用される。したがって、本発明の天然または組換え型のポリペプチドは、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質も含むと理解されるべきである。タンパク質は、グリコシル化状態、または非グリコシル化状態(すなわち糖質体を含む)の場合があるか、および/または、アミノ酸などのタンパク質、脂質、糖質、または他のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質などと融合されるか、連結されるか、結合されるか、または会合される、さまざまな他の分子を含む場合がある。これ以降、「タンパク質」は、アミノ酸、脂質、糖質、または他のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質などの、他の分子と結合したアミノ酸およびタンパク質の配列を含むタンパク質を含む。「糖質体」もしくは「グリコシル化体」という表現は、合成的に、または天然に修飾された分子(entity)を含む。
【0032】
ポリペプチドは、少なくとも1つのCTLエピトープおよび1つのTヘルパーエピトープ、または1つのCTLエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのCTLエピトープおよび1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープを含む長さを有しなければならない。上述したように、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質という表現は、ポリペプチドの定義に含まれ、ならびにこのような表現は本明細書では、特に示された部分を除いて互換的に使用可能である。この表現は、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などのポリペプチドの発現後修飾、ならびに天然および非天然の両方を含む当技術分野で既知の他の修飾も意味せず、除外もしない。ポリペプチドは、タンパク質全体、またはこの下位配列の場合がある。本発明で特に関心の寄せられるポリペプチドは、ポリペプチドの免疫原性特性を実質的に担い、および免疫応答をHLAに依存せずに誘導可能なエピトープすなわち抗原決定基を含むアミノ酸の下位配列である。
【0033】
本発明のポリペプチドは免疫原性である。すなわち標的ポリペプチドに特異的な、対象に由来するT細胞および/またはB細胞を、アジュバントを追加することなく刺激可能である。免疫原性活性のスクリーニングは、当業者に周知の手法で実施することができる。例えば、このようなスクリーニングは、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, USA, 1988に記載されているような方法で実施することができる。1つの説明目的の例では、ポリペプチドは、固相支持体上に固定化可能であり、および患者の血清に接触させて、固定化されたポリペプチドと、血清中の抗体の結合を可能とすることができる。後に非結合状態の血清を除去して、結合状態の抗体を例えばI125標識タンパク質Aを使用して検出することができる。
【0034】
本明細書で用いる、「免疫原性部分」または「エピトープ」は、そのものがポリペプチドを認識するB細胞および/またはT細胞の表面抗原受容体に対して免疫学的に反応性をもつ(すなわち特異的に結合する)、本発明の免疫原性ポリペプチドの断片である。免疫原性部分は一般に、Paul, Fundamental Immunology、第3版、243-247(Raven Press, 1993)、および同書に引用されている参考文献に要約されているような周知の手法で同定可能である。このような手法は、ポリペプチドを、抗原特異的抗体、抗血清、および/またはT細胞の系列もしくはクローンと反応する能力に関してスクリーニングする段階を含む。本明細書で用いるように、抗血清および抗体は、抗原に特異的に結合する(すなわちELISAまたは他の免疫アッセイ法でタンパク質と反応し、および無関係のタンパク質とは検出可能に反応しない)場合に、「抗原特異的」である。このような抗血清および抗体は、周知の手法で調製可能である。
【0035】
1つの好ましい態様では、本発明の自己アジュバント性免疫原性分子は、一部が抗血清およびT細胞と、完全長のポリペプチドの反応性に実質的に満たないレベルで、(例えばELISAおよび/またはT細胞反応性アッセイ法で)反応するポリペプチドを含む。好ましくは、自己アジュバント性免疫原性分子の免疫原性活性のレベルは、完全長のポリペプチドの免疫原性の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70%であり、および最も好ましくは約90%を上回る。状況によっては、好ましい免疫原性部分は、対応する完全長のポリペプチドのレベルを上回る免疫原性活性のレベルを有する、例えば約100%もしくは150%、またはこれ以上の免疫原性活性を有すると同定される。
【0036】
本発明は、全ての中間の長さを含む、少なくとも約5、10、15、20、25、50、もしくは100、またはこれ以上の連続アミノ酸、またはこれ以上を含むポリペプチドを想定している。
【0037】
組換えポリペプチドを発現させるためには、ポリペプチドまたは機能的等価物をコードするヌクレオチド配列を、適切な発現ベクター、すなわち挿入されたコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含むベクター中に挿入することができる。当業者に周知の方法で、対象ポリペプチドをコードする配列、ならびに適切な転写および翻訳の制御エレメントを含む発現ベクターを構築することができる。このような方法は、インビトロ組換えDNA法、合成法、およびインビボ遺伝子組換えを含む。このような手法は例えば、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y.、およびAusubel et al. Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York. N.Y, 1989に記載されている。
【0038】
ポリヌクレオチド配列を保持させて発現させるために、さまざまな発現ベクター/宿主系を利用することができる。これらは、組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターによって形質転換される細菌などの微生物;酵母発現ベクターで形質転換される酵母;ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)が感染する昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)、または細菌発現ベクター(例えばTiプラスミドもしくはpBR322プラスミド)で形質転換される植物細胞系;または動物細胞系を含むが、これらに限定されない。
【0039】
「制御エレメント」は「調節配列」とも呼ばれる場合がある。発現ベクター上に存在する、このような配列は、宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および翻訳を実行する、ベクターの非翻訳領域--エンハンサー、プロモーター、5'および3'の非翻訳領域--である。このようなエレメントは、さまざまな強度および特異性をもつ場合がある。使用されるベクター系および宿主に依存して、構成的および誘導的なプロモーターを含む任意の数の適切な転写エレメントおよび翻訳エレメントを使用することができる。例えば細菌系でクローニングを行う場合、pBLUESCRIPTファジミド(Stratagene, La Jolla, Calif.)、またはpSPORT1プラスミド(Gibco BRL, Gaithersburg, Md.)などのハイブリッドlacZプロモーターなどの誘導的プロモーターを使用することができる。哺乳類の細胞系では、哺乳類遺伝子に由来するプロモーターか、または哺乳類ウイルスに由来するプロモーターが一般に好ましい。仮に、ポリペプチドをコードするマルチコピーの配列を含む細胞系列を作製することが必要な場合は、SV40またはEBVに基づくベクターを有利には、適切な選択マーカーとともに使用することができる。
【0040】
細菌系では、発現されるポリペプチドの使用意図に依存して、任意の数の発現ベクターを選択することができる。例えば、抗体を誘導するために大量に必要な場合、精製の容易な融合タンパク質の高レベルの発現を誘導するベクターを使用することができる。このようなベクターは、ハイブリッドタンパク質が産生されるように、対象ポリペプチドをコードする配列がベクターに、β-ガラクトシダーゼのアミノ末端のMetと、これに続く7残基と同じ読み枠で連結可能なBLUESCRIPT(Stratagene);pIN ベクター(Van Heeke et al. J Biol Chem 264:5503-5509, 1989);などの多機能性の大腸菌のクローニングおよび発現ベクターを含むが、これらに限定されない。pGEXベクター(Promega, Madison, Wis.)を使用して、外来ポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させることができる。一般に、このような融合タンパク質は可溶性であり、および溶解した細胞から、グルタチオン-アガロースビーズへの吸着と、これに続く、遊離のグルタチオンの存在下における溶出によって容易に精製することができる。このような系で産生されるタンパク質は、クローニングされた対象ポリペプチドがGST部分から意図的に放出可能なように、ヘパリン、トロンビン、または第XA因子プロテアーゼの切断部位を含むように設計することができる。
【0041】
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)では、アルファ因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHなどの構成的または誘導的なプロモーターを含む、いくつかのベクターを使用することができる。総説として、Ausubel et al.、前掲、およびGrant et al. Methods Enzymol 153:516-544, 1987を参照されたい。
【0042】
植物の発現ベクターを使用時は、ポリペプチドをコードする配列の発現は、任意のいくつかのプロモーターによって駆動することができる。例えば、CaMVの35Sプロモーターおよび19Sプロモーターなどのウイルスのプロモーターを単独で、またはTMVに由来するオメガリーダー配列(Takamatsu EMBO J 6:307-311, 1987)と組み合わせて使用することができる。または、RUBISCOの小サブユニットなどの植物のプロモーター、または熱ショックプロモーターを使用することができる(Coruzzi et al. EMBO J 3;1671-1680, 1984;Broglie et al. Science 224:838-843, 1984;Winter et al., Results Probl Cell Differ 17:85-105, 1991)。これらのコンストラクトは、直接DNA形質転換、または病原体によるトランスフェクションによって植物細胞に導入することができる。このような手法は、数報の一般に入手可能な総説に記載されている(例えば、Hobbs or Murry, McGraw Hill Yearbook of Science and Technology McGraw Hill, New York, N.Y.; pp.191-196, 1992を参照)。
【0043】
昆虫の系を使用して対象ポリペプチドを発現させることができる。例えば、このような系の1つでは、キンウワバの一種であるAutographa californicaの核多角体病ウイルス(AcNPV)をベクターとして使用して、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)由来の細胞で、または鱗翅目昆虫Trichoplusiaの幼生で外来遺伝子を発現させる。ポリペプチドをコードする配列は、ポリヘドリン(polyhedrin)遺伝子などのウイルスの非必須領域にクローニングし、およびポリヘドリンプロモーターの制御下に配置することができる。ポリペプチドをコードする配列の挿入が成功すると、ポリヘドリン遺伝子は不活性となり、コートタンパク質を欠く組換えウイルスが産生される。次に組換えウイルスを使用して、例えば、対象ポリペプチドが発現され得るS. frugiperdaの細胞、またはTrichoplusiaの幼生に感染させることができる(Engelhard et al., Proc Natl Acad Sci 91: 3224-3227, 1994)。
【0044】
哺乳類の宿主細胞では、いくつかのウイルスベースの発現系が一般に利用可能である。例えばアデノウイルスを発現ベクターとして使用する場合は、対象ポリペプチドをコードする配列を、後期プロモーターおよび三分節系(tripartite)リーダー配列からなるアデノウイルスの転写/翻訳複合体に連結するとよい。ウイルスゲノムの非必須のE1領域またはE3領域に挿入することで、感染宿主細胞内でポリペプチドを発現可能な、生きているウイルスが得られる(Logan et al., Proc Natl Acad Sci 81:3655-3659, 1984)。加えて、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のエンハンサーなどの転写エンハンサーを使用して、哺乳類宿主細胞における発現を高めることができる。
【0045】
特定の開始シグナルを使用して、対象ポリペプチドをコードする配列の、より効率の高い翻訳を達成することもできる。このようなシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接配列を含む。ポリペプチドをコードする配列、その開始コドン、および上流配列が適切な発現ベクターに挿入される場合は、追加的な転写または翻訳の制御シグナルは必要ない場合がある。しかしながら、コード配列のみ、またはその一部が挿入される場合は、ATG開始コドンを含む外因性の翻訳制御シグナルが提供されるべきである。また開始コドンは、挿入物全体の翻訳を確実なものとするために、正しい読み枠に配置すべきである。外因性の翻訳エレメントおよび開始コドンは、天然および合成の両方の、さまざまな起源の場合がある。発現の効率は、文献(Scharf et al., Results Probl Cell Differ 20:125-162, 1994)に記載されているエンハンサーなどの、使用される特定の細胞系に適切なエンハンサーを含めることで高めることができる。
【0046】
加えて宿主細胞株は、挿入された配列の発現を調節する能力、または発現されたタンパク質が望ましい様式でプロセシングされる能力に関して選択することができる。ポリペプチドのこのような修飾は、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、およびアシル化を含むが、これらに限定されない。「プレプロ」型のタンパク質を切断する翻訳後のプロセシングを使用して、正しい挿入、折りたたみ、および/または機能を促すことができる。このような翻訳後活性に特異的な細胞装置および特徴的な機構を有するCHO、COS、HeLa、MDCK、HEK293、およびWI38などの多様な宿主細胞を、外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングを確実なものとするために選択することができる。
【0047】
組換えタンパク質を高収量で長期間にわたって産生させるためには、安定な発現が一般に好ましい。例えば、対象ポリヌクレオチドを安定に発現する細胞系列を、ウイルスの複製起点および/または内因性の発現エレメント、ならびに選択マーカー遺伝子を、同じベクターか、もしくは別個のベクター上に含む場合のある発現ベクターを使用して形質転換することができる。ベクターの導入後に、細胞を1〜2日間、濃縮培地で成長させた後に、選択培地に切り替えることができる。選択マーカーの使用目的は、選択に対する耐性を付与することであり、およびその存在によって、導入された配列を良好に発現する細胞の成長および回収が可能となる。安定に形質転換された細胞の耐性クローンは、細胞型に適した組織培養法で増殖させることができる。
【0048】
対象ポリヌクレオチド配列で形質転換された宿主細胞を、タンパク質の発現および細胞培養からの回収に適した条件で培養することができる。組換え細胞によって産生されたタンパク質を分泌させるか、または使用される配列および/またはベクターに依存して、細胞内に含ませることができる。当業者であれば理解するように、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、コードされたポリペプチドの、原核細胞または真核細胞の細胞膜を介した分泌を誘導するシグナル配列を含むように設計可能である。他の組換え的な構築によって、対象ポリペプチドをコードする配列を、可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチド領域をコードするヌクレオチド配列に連結させることができる。このような精製促進性のドメインは、固定化金属上における精製を可能とするヒスチジン-トリプトファンモジュールなどの金属キレート用ペプチド、固定化された免疫グロブリン上における精製を可能とするタンパク質Aドメイン、およびFLAGS伸長/アフィニティ精製系(Immunex Corp., Seattle, Wash.)に使用される領域を含むが、これらに限定されない。第XA因子またはエンテロキナーゼ(Invitrogen, San Diego, Calif.)に特異的な配列などの切断可能なリンカー配列を、精製ドメインとコードされたポリペプチド間に含めることで精製が容易になる場合がある。このような発現ベクターの1つは、対象ポリペプチドを含む融合タンパク質、およびチオレドキシンまたはエンテロキナーゼの切断部位に先立つ6ヒスチジン残基をコードする核酸の発現を可能とする。ヒスチジン残基は、Porath et al., Prot Exp Purif 3:263-281, 1992に記載されているように、IMIAC(固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィー)上における精製を容易にする。一方、エンテロキナーゼ切断部位は、所望のポリペプチドを融合タンパク質から精製する手段を提供する。融合タンパク質を含むベクターに関する議論は、Kroll et al. DNA Cell Biol 12:441-453, 1993に記載されている。
【0049】
T細胞は、T細胞が特異的に増殖して、サイトカインを分泌するか、またはポリペプチドもしくはポリペプチドをコードする遺伝子で被覆された標的細胞を死滅させる際に、本発明のポリペプチドに特異的であると見なされる。T細胞の特異性は、任意のさまざまな標準的な手法で評価することができる。例えばクロム放出アッセイ法または増殖アッセイ法では、陰性対照と比較して、溶解および/または増殖の2倍を超える刺激指数の上昇は、T細胞の特異性を意味する。このようなアッセイ法は例えば、Chen et al., Cancer Res 54:1065-1070, 1994に記載された手順で実施することができる。または、T細胞の増殖の検出は、さまざまな既知の手法で達成することができる。例えばT細胞の増殖は、DNA合成の上昇率を(例えばトリチウム化チミジンによるT細胞のパルス標識培養と、DNAに組み入れられたトリチウム化チミジンの量の測定によって)検出することができる。腫瘍ポリペプチド(100 ng/ml〜100μg/ml、好ましくは200 ng/ml〜25μg/ml)との3〜7日間の接触によって、典型的にはT細胞の増殖は少なくとも2倍上昇する。上述したような2〜3時間の接触は、標準的なサイトカインアッセイ法による測定時に、T細胞の活性化を招くはずであり、サイトカイン(例えばTNFもしくはIFN-γ)の放出のレベルの2倍の上昇はT細胞の活性化を意味する(Coligan et al., Current Protocols in Immunology, vol. 1, Wiley Interscience (Greene 1998)を参照)。腫瘍ポリペプチド、ポリヌクレオチド、またはポリペプチドを発現するAPCに反応して活性化されるT細胞は、CD4+および/またはCD8+である可能性がある。腫瘍ポリペプチドに特異的T細胞は、標準的な手法で増殖させることができる。好ましい態様では、T細胞は患者に、血縁関係にあるドナーに、または血縁関係にないドナーに由来し、および刺激および増殖の後に患者に投与される。
【0050】
治療目的で、特異的なポリペプチドに反応して増殖するCD4+またはCD8+のT細胞の数をインビトロもしくはインビボのいずれかで増殖させることができる。インビトロにおける、このようなT細胞の増殖は、さまざまな方法で達成することができる。例えばT細胞は、ポリペプチド、またはこのようなポリペプチドの免疫原性部分に対応する短いペプチドに、インターロイキン-2などのT細胞成長因子および/または腫瘍ポリペプチドを合成する刺激細胞を添加するか、または添加することなく、再暴露させることができる。または、腫瘍ポリペプチドの存在下で増殖する1つもしくは複数のT細胞の数をクローニングによって増殖させることができる。細胞のクローニング法は当技術分野で周知であり、および限界希釈を含む。
【0051】
好ましい局面では、脂質部分または脂肪酸部分を、アミノ酸残基を介してポリペプチドに抱合させる。このような残基は、免疫原性エピトープそのものの内部を含む、ポリペプチド内の任意の位置に存在する場合がある。さらに、脂質部分または脂肪酸部分を、ポリペプチド内の複数の残基に抱合させることができる。好ましい局面では、このようなアミノ酸残基は、リシン残基、またはシステイン残基、またはセリン残基である。脂質部分または脂肪酸部分を、翻訳後に追加された糖質などの化学物質に結合させることもできる。
【0052】
複数の異なる脂肪酸が脂質部分に使用されることが知られている。例示的な脂質部分または脂肪酸部分は、パルミトイル基、ミリストイル基、ステアロイル基、およびデカノイル基を含むが、これらに限定されず、またはより一般的には、任意のC2〜C30の飽和、一価不飽和、または多価不飽和の脂肪酸アシル基が有用であると考えられている。
【0053】
特異的な脂肪酸部分の例は、グラム陰性細菌の内膜および外膜を貫通するブラウン(Braun)のリポタンパク質のN末端部分の合成バージョンであるPam3CysまたはPam3Cys-OHとも呼ばれる、リポアミノ酸N-パルミトイル-S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインである(Wiesmuller et al., Hoppe Seylers Zur Physiol Chem 364:593, 1983)。Pam3Cysは、式(I)の構造を有する:

【0054】
Pam2Cys(Pam3Cysの類似体であるジパルミトイル-S-グリセリル-システインまたはS-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインとしても知られる)が合成されており(Metzger., et al., J. Pept. Sci. 1:184, 1995)、およびマイコプラズマから分離されたマクロファージ活性化リポペプチドであるMALP-2の脂質部分に対応することがわかっている(Sacht et al., Eur J Immunol 28:4207, 1998;Muhlradt et al., Infect Immun 66:4804, 1998;Muhlradt et al., J Exp Med 185:1951, 1997)。Pam2Cysは、式(II)の構造を有する:

【0055】
本発明の自己アジュバント性免疫原性分子と抱合する脂質部分または脂肪酸部分は、直接的もしくは間接的にポリペプチドに結合させることができる。つまり、自己アジュバント性免疫原性分子内に併置される(すなわちスペーサー分子によって隔てられていない)か、または例えば1つもしくは複数のアミノ酸残基などの1つもしくは複数の炭素含有分子を含むスペーサーによって隔てられる。ポリペプチドは、任意の長さの場合をとり得る。好ましくは、少なくとも1つのCTLエピトープおよび1つのTヘルパーエピトープ、または1つのCTLエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープ、または1つのCTLエピトープ、1つのTヘルパーエピトープ、および1つのB細胞エピトープを含む長さでなければならない。
【0056】
脂質部分は好ましくは、一般式(III)の構造を有する化合物である:

上式で、
(i) Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(-S-S-)、およびメチレン(-CH2-)、ならびにアミノ(-NH-)からなる群より選択され;
(ii) mは1もしくは2の整数であり;
(iii) nは0〜5の整数であり;
(iv) R1は、水素、カルボニル(-CO-)、およびR'-CO-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基と置換され;
(v) R2は、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基と置換され;ならびに
(vi) R3は、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基と置換され、ならびに、
R1、R2およびR3のそれぞれは同じか、または異なる。
【0057】
置換基に依存して、一般式(III)の脂質部分は、炭素原子が直接的または間接的に共有結合で整数R1に結合され、およびR2が非対称な右旋性または左旋性(すなわちRもしくはS)の配置であるキラル分子の場合がある。
【0058】
好ましくはXは硫黄であり;mおよびnはいずれも1であり;R1は、水素およびR'-CO-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル基であり;ならびにR2およびR3は、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0059】
好ましくはR'は、パルミトイル、ミリストイル、ステアリル、およびデカノールからなる群より選択される。より好ましくはR'はパルミトイルである。
【0060】
脂質部分内の個々の整数R'は同じか、または異なる場合がある。
【0061】
特に好ましい態様では、Xは硫黄であり;mおよびnはいずれも1であり;R1は水素またはR'-CO-であり、R'はパルミトイルであり;ならびにR2およびR3それぞれR'-CO-O-であり、R'はパルミトイルである。これらの特に好ましい化合物は、上記の式(I)および式(II)で現される。
【0062】
脂質部分は、以下の一般式(IV)もとり得る:

上式で、
(i) R4は、以下からなる群より選択され:(i)約7〜約25個の炭素原子からなるアルファ-アシル-脂肪酸残基;(ii)アルファ-アルキル-ベータ-ヒドロキシ-脂肪酸残基;(iii)エステル基が好ましくは、8個を上回る炭素原子を含む直鎖または分枝鎖である、アルファ-アルキル-ベータ-ヒドロキシ-脂肪酸残基のベータ-ヒドロキシエステル;および(iv)リポアミノ酸残基;ならびに
(ii) R5は、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である。
【0063】
好ましくはR4は、約10〜約20個の炭素原子、およびより好ましくは約14個〜約18個の炭素原子からなる。
【0064】
任意で、R4がリポアミノ酸残基であれば、整数R4およびR5の側鎖は共有結合を形成可能である。例えばR4が、リシン、オルニチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リシンの誘導体、オルニチンの誘導体、グルタミン酸の誘導体、およびアスパラギン酸の誘導体からなる群より選択されるアミノ酸を含むのであれば、アミノ酸または誘導体の側鎖は、アミド結合もしくはエステル結合によってR5に共有結合で結合される。
【0065】
好ましくは、一般式IVで表される構造は、N,N'-ジアシルリシン;N,N'-ジアシルオルニチン;グルタミン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;アスパラギン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;セリン、ホモセリン、またはトレオニンのN,O-ジアシル誘導体;ならびにシステインもしくはホモシステインのN,S-ジアシル誘導体からなる群より選択される脂質部分である。
【0066】
両親媒性の分子、特にPam3CyS(式(I))の疎水性を越えない疎水性を有する分子も好ましい。式(I)、式(II)、式(III)、または式(IV)の脂質部分は、さらに合成中もしくは合成後に、1つもしくは複数のスペーサー分子、好ましくは、炭素、およびより好ましくは1つまたは複数のアミノ酸残基を含むスペーサーの付加によって修飾される。これらは好都合には、従来の縮合反応、付加反応、置換反応、または酸化反応によって、末端のカルボキシ基を介して脂質構造に付加される。このようなスペーサー分子の作用は、脂質部分をポリペプチド部分から隔て、およびリポペプチド産物の免疫原性を高めることである。
【0067】
セリンの二量体、三量体、四量体などは特に、この目的に好ましい。
【0068】
この態様にしたがって作製される例示的な修飾型リポアミノ酸は、それぞれ式(I)および式(II)からセリンホモ二量体の付加によって容易に誘導される、式(V)および式(VI)で表される。本明細書に例示されるように、式(I)のPam3Cys、または式(II)のPam2Cysは好都合には、この目的で式(V)のPam3Cys-Ser-Serまたは式(VI)のPam2Cys-Ser-Serのリポアミノ酸として合成される。
式(V):

式(VI):

【0069】
脂質部分は、例えば米国特許第5,700,910号および第6,024,964号に記載されている方法、またはWiesmuller et al., 1983、前掲、Zeng et al., J Pept. Sci 2:66, 1996;Jones et al., Xenobiotica 5: 155, 1975;またはMetzger et al., Int J Peptタンパク質 Res 38:545, 1991)に記載されている方法などの従来の合成手段で調製される。当業者であれば、ポリペプチドへの抱合のために、所望の脂質の合成を達成するために、このような方法を容易に改変することができると思われる。
【0070】
スルフヒドリル、アミノオキシアセチル、アルデヒドなどの他の官能基を脂質部分に導入することで、脂質部分を天然または組換え型のタンパク質と、より特異的にカップリングさせることができる。
【0071】
さまざまな脂質の組み合わせも、本発明の自己アジュバント性免疫原性分子の使用に想定される。例えば、1個もしくは2個のミリストイルを含む脂質もしくはリポアミノ酸が、リシン残基を介してポリペプチド部分に結合されてポリペプチドとスペーサーで任意で隔てられ、1個もしくは2個のパルミトイルを含む脂質もしくはリポアミノ酸分子が、カルボキシ末端のリシンアミノ酸残基と結合される。他の組み合わせは除外されない。
【0072】
脂質部分もしくは脂肪酸部分は、任意のC2〜C30の飽和、一不飽和、または多価不飽和の直鎖状もしくは分枝状の脂肪酸アシル基、ならびに好ましくはパルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイル、およびデカノールからなる群より選択される脂肪酸基を含む場合がある。リポアミノ酸は特に、この意味で好ましい脂質部分である。本明細書で用いる、「リポアミノ酸」という表現は、例えばシステイン、もしくはセリン、リシン、またはこれらの類似体などのアミノ酸残基に共有結合で結合された1個または2個または3個、またはこれ以上の脂質を含む分子を意味する。特に好ましい態様では、リポアミノ酸はシステイン残基を、および任意で1個または2個または2個以上のセリン残基を含む。
【0073】
脂質部分の構造は、結果として生じる自己アジュバント性免疫原性分子の活性に不可欠ではなく、および、本明細書に例示されているように、パルミチン酸および/またはコレステロールおよび/またはPam1CySおよび/またはPam2Cysおよび/またはPam3Cysを使用することができる。本発明は、免疫原性を失うことなく自己アジュバント性免疫原性分子に使用される、さまざまな他の脂質部分を明らかに想定している。したがって本発明は、記述がない限り、または文中で指摘しない限り、脂質部分の構造に制限されない。
【0074】
同様に本発明は、記述がない限り、または文中で指摘しない限り、1つの脂質部分の要件に制限されない。複数の脂質部分の、天然または組換え型のポリペプチドへの付加、例えばエピトープ内の位置、または2つのエピトープ間の位置への付加が想定される。
【0075】
本発明のポリペプチドは、当技術分野で周知の方法で脂質化される。標準的な縮合、付加、置換、または酸化。ピアス(Pierce)カタログに記載された二機能性リンカー、および同カタログに記載された方法を、この場合に問題なく使用することができる。実施例に記載されているように、ヘテロ機能性リンカー、MCS(N-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸)、およびSPDP(N-スクシニミジル3-[2-ピリジルジチオ]プロピオン酸])を使用した。MCSをヘテロ機能性リンカーとして使用する場合は、システイン残基を、チオエーテル結合の形成によってMCS修飾タンパク質にカップリングさせた脂質部分Pam2Cys-Ser-(Lys)8-Cysに組み入れた。Pam2Cys(Lys)8-Cysも、ジスルフィド結合を形成させることでSPDP修飾タンパク質とカップリングさせることができる。
【0076】
ブロモアセチル基またはクロロアセチル基を脂質部分に導入することもできる。この2つの官能基は、チオエーテル結合を形成させることで、既存のスルフヒドリル基、またはタンパク質中に導入されたスルフヒドリル基にカップリングさせることができる。
【0077】
別の好ましい方法は、後に酸化されてアルデヒド基を生じる、組換え的または酵素的または化学的な方法による、ポリペプチドのN末端の位置へのセリン残基の組込みを含む。脂質部分に組み入れられたアミノオキシ官能基は、オキシム結合を形成して、自己アジュバント性脂質タンパク質を形成する。
【0078】
直交連結(orthogonal ligation)法(Tam et al., Biopolymers (Peptide Science) 51:311-332, 1999)、化学的連結法(native chemical ligation)(Dawson et al., Science 266:243-247, 1994)、発現タンパク質連結(Muir et al., Proc Natl Acad Sci USA 95: 6705-6710, 1998)などの他の化学的連結法でも、脂質部分を本発明のポリペプチドに結合させることができる。
【0079】
本明細書に例示されているように、1つの局面ではペプチドと抱合する式(I)のPam3Cysまたは式(II)のPam2Cysを含む、CTLおよび/またはThおよび/またはB細胞の応答を誘導可能な、自己アジュバント性の高い免疫原性分子が提供される。
【0080】
本発明の自己アジュバント性免疫原性分子が免疫応答を誘導する能力の亢進は、未成熟の樹状細胞(DC)、特にD1細胞上でMHCクラスII分子の表面発現を促進する能力に反映される。好ましくは、自己アジュバント性免疫原性分子は可溶性であり、最も好ましくは、高度に可溶性である。
【0081】
1つの局面では、本発明は、複数の脂質部分または脂肪酸部分の、ポリペプチドへの付加を開示する。
【0082】
脂質部分もしくは脂肪酸部分の位置決めは、免疫応答を誘導する能力を制限するように、脂質部分もしくは脂肪酸部分の会合が、CTL、Tヘルパー、またはB細胞のエピトープに干渉しないように選択されるべきである。例えば、脂質部分または脂肪酸部分の選択に依存して、エピトープ内における結合は、エピトープの提示を立体的に妨げる可能性がある。
【0083】
好ましくは、脂質部分または脂肪酸部分は、タンパク質の3次元構造を変化させない様式でポリペプチドと会合される。本発明は、直鎖状のエピトープ、ならびに非直鎖状の、すなわち「不連続」(立体構造)エピトープの提示を想定している。立体構造エピトープは、一次の一次元タンパク質配列内では相互に離れて存在するが、折りたたまれた3次元のアレルギー誘発性タンパク質の表面上では、相互に近接しており、および抗体と接触可能なアミノ酸残基からなる。
【0084】
別の態様では、本発明は、単独または1つもしくは複数の他の治療様式との組み合わせによる、対象への投与用に薬学的に許容される担体中における、本明細書に記載された自己アジュバント性免疫原性分子の1つもしくは複数の製剤に関する。
【0085】
望ましいならば、本明細書に開示された組成物は、例えば、他のタンパク質もしくはポリペプチド、またはさまざまな薬学的に活性のある薬剤などの他の薬剤とも組み合わせて投与可能であると理解される。実際に、追加的な薬剤が、標的細胞または宿主組織との接触時に有意な有害な作用を引き起こさない場合に、含まれる可能性もある他の成分に本質的に制限はない。したがって、このような組成物は、特定の状況において必要であれば、さまざまな他の薬剤とともに輸送可能である。このような組成物は、宿主細胞または他の生物学的供給源から精製可能なほか、本明細書に記載された手順で化学的に合成することができる。
【0086】
したがって、本発明の別の局面では、本明細書に記載された自己アジュバント性免疫原性分子の1つもしくは複数を、生理学的に許容される担体と組み合わせて含む薬学的組成物が提供される。特定の好ましい態様では、本発明の薬学的組成物は、予防および治療用のワクチンへの応用に使用される本発明の自己アジュバント性免疫原性分子を含む。ワクチンの調製については一般に、例えばPowellおよびNewman編、「Vaccine Design (the subunit and adjuvant approach)」、Plenum Press(NY, 1995)に記載されている。一般に、このような組成物は、1種類もしくは複数の免疫賦活剤と組み合わせて、1種類もしくは複数の本発明の自己アジュバント性免疫原性分子を含む。
【0087】
自己アジュバント性免疫原性分子は、好都合には、薬学的に許容される賦形剤、または例えば水性溶媒、非水性溶媒などの希釈剤、塩類などの非毒性賦形剤、保存剤、緩衝液中に製剤化される。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルなどがある。水性溶媒には、水、アルコール/水溶液、生理食塩水、塩化ナトリウム、リンゲルデキストロースなどの非経口溶媒などがある。保存剤は、抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガスを含む。薬学的組成物のさまざまな成分のpHおよび正確な濃度は、常用の手順で調整される。
【0088】
自己アジュバント性免疫原性分子製剤への外因性のアジュバントの添加は、一般には必要ではないが、本発明に含まれる。このような外因性アジュバントは、例えばサイトカイン、トキシン、または合成組成物などの、あらゆる許容される免疫刺激性化合物を含む。例示的なアジュバントは、IL-1、IL-2、BCG、水酸化アルミニウム、N-アセチル-ムラミル-L-トレオニル-D-イソグルタミン(thur-MDP)、N-アセチル-ノル-ムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(ノル-MDPと呼ばれるCGP 11637)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1'-2'-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン)(MTP-PEと呼ばれる(CGP)1983A)、脂質A、MPL、および細菌から抽出された、モノホスホリル脂質A、トレハロースジミコール酸、および細胞壁骨格の3成分(MPL+TDM+CWS)を2%スクアレン/Tween 80エマルジョン中に含むRIBIを含む。
【0089】
サプレッサーT細胞の活性を抑制するために、生物学的反応修飾物質(BRM)と自己アジュバント性免疫原性分子の同時投与が望ましい場合がある。例示的なBRMは、シメチジン(CIM; 1200 mg/d)(Smith/Kline, PA, USA);インドメタシン(IND; 150 mg/d)(Lederle, NJ, USA);または低用量シクロホスファミド(CYP; 75、150、または300 mg/m2)(Johnson/Mead, NJ, USA)を含むが、これらに限定されない。
【0090】
本発明の自己アジュバント性免疫原性分子は、T細胞応答および/またはB細胞応答をインビボもしくはエクスビボのいずれかで誘導可能である。具体的には、本発明の自己アジュバント性免疫原性分子は、動物対象に投与時に、CTLの活性化の同等のレベルを活性化するためのアジュバントを何ら必要とすることなく、CTLエピトープ部分に対するCTL記憶応答を高める。加えて、本発明の自己アジュバント性免疫原性分子は、樹状細胞の成熟、ならびにIFN-γを産生するCD8+細胞ならびにウイルス、細菌、および腫瘍細胞のクリアランスの誘導を含む、他の生物学的作用を促進する。
【0091】
したがって、本発明の別の局面は、本発明の自己アジュバント性免疫原性分子、または自己アジュバント性免疫原性分子の誘導体もしくは機能的に等価なバリアント、または自己アジュバント性免疫原性分子、またはバリアントもしくは誘導体を含むワクチン組成物を、対象のCTLおよび/またはCTL前駆細胞、および/またはThおよび/またはB細胞を十分に活性化する期間および十分で投与する段階を含む、T細胞および/またはB細胞のエピトープが由来するポリペプチドに対する細胞性免疫を対象で高める方法を提供する。
【0092】
好ましくは、自己アジュバント性免疫原性分子もしくはワクチンは、予防的には、寄生虫、細菌、もしくはウイルスによる潜伏型または活性型の感染のない対象、または癌に罹患していない対象に投与されるか、または自己アジュバント性免疫原性分子は、寄生虫、細菌、もしくはウイルスによる潜伏型もしくは活性型の感染のある治療対象、または癌に罹患している対象に治療的に投与される。この文脈において、「活性化する」という表現は、T細胞が、T細胞エピトープが由来する抗原を有する細胞を認識して溶解する能力が高められるか、またはT細胞が、抗原のT細胞エピトープを認識する能力が一過的または持続的に高められることを意味する。「活性化する」という表現は、寄生虫、または細菌もしくはウイルスによる潜伏感染の活性化後に、または寄生虫、または細菌もしくはウイルスによる再感染後に、または本発明の自己アジュバント性免疫原性分子もしくは組成物による、過去に感染した対象の免疫化後におけるT細胞集団の再活性化を含むと解釈される場合もある。
【0093】
当業者であれば、最適なT細胞活性化には、T細胞受容体(TcR)による抗原/MHCの同族認識、およびT細胞上のさまざまな細胞表面分子と、抗原提示細胞(APC)上の分子との連結を含む補助刺激が必要であることを理解する。CD28/B7、CD40L/CD40、およびOX40/OX40Lのような同時刺激相互作用が好ましいが、T細胞の活性化に不可欠ではない。他の同時刺激経路が作動する場合もある。
【0094】
CTLもしくはCTL前駆細胞の活性化、またはエピトープ特異的な活性のレベルを決定する際は、検体中のCD8+ T細胞の数を測定する標準的な方法を用いることができる。好ましいアッセイ法のフォーマットは、例えば標準的なクロム放出アッセイ法などの細胞毒性アッセイ法、例えばELISPOTアッセイ法などのIFN-γ産生のアッセイ法を含む。これらのアッセイ法のフォーマットについては、添付の実施例で詳述する。
【0095】
特に、CD8+ T細胞のCTLエピトープ特異的な定量には、MHCクラス1の四量体アッセイ法を使用することもできる(Altman et al., Science 274:94-96, 1996;Ogg et al., Curr Opin Immunol 10:393-396, 1998)。四量体を生じさせるためには、例えばHLA A2重鎖などのMHC分子のカルボキシル末端を、特定のペプチドエピトープもしくはポリエピトープと結合させ、これに結合する適切なレポーター分子、好ましくは、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン、フィコシアニン、またはアロフィコシアニンなどの蛍光色素を有する四量体複合体が形成されるように処理する。四量体の形成は例えば、MHC-ペプチド融合タンパク質のビオチン化分子としての産生と、これに続くビオチン化MHC-ペプチドと、フルオロフォアで標識された脱グリコシル化アビジンを4:1のモル比で混合することで達成される。生じた四量体は、ペプチドがHLA拘束性である、対象に由来する(例えば全血またはPBMC試料中の)CD8+ T細胞のサブセット上の一群のCD8+ T細胞受容体(TcR)と結合する。インビトロT細胞の活性化または増殖に要件はない。結合後にT細胞を洗浄して、非結合状態の、または非特異的に結合した四量体を除去した後に、HLA-ペプチド四量体に特異的に結合するCD8+細胞の数は、例えばFACSCaliburフロー血球計算器(Becton Dickinson)を使用する方法などの標準的なフローサイトメトリー法で容易に定量される。四量体は、非特異的に結合したレポーターの除去および細胞選別を容易にするために、常磁性粒子または磁気ビーズに結合可能でもある。これらの粒子は、業者(例えばBeckman Coulter, Inc., San Diego, CA, USA)から容易に入手できる。四量体染色は標識細胞を殺さないので、細胞の完全性は以降の解析用に維持される。MHC四量体は、CD8+ T細胞の1%未満に生じる極めてまれな事象であっても、特異的な細胞性免疫応答の正確な定量解析を可能とする(Bodinier et al., Nature Med 6:707-710, 2000;Ogg et al., Curr Opin Immunol 10:393-396, 1998)。
【0096】
試料中のCD8+細胞の総数は、例えば試料を、四量体の検出に使用されるさまざまなレポーター分子と抱合するCD8に対するモノクローナル抗体とともにインキュベートするなどして容易に決定することもできる。このような抗体は容易に入手できる(例えばBecton Dickinson)。使用した2つのレポーター分子に由来するシグナルの相対強度から、CD8+細胞および四量体と結合したT細胞の総数の定量、ならびに四量体と結合した総T細胞の割合の決定が可能である。
【0097】
CD4+ Tヘルパー細胞は、例えばIL-2などのサイトカインの産生細胞として細胞性免疫(CMI)において機能し、CD8+ T細胞の増殖を促進したり、APC療法と相互作用してCD8+ T細胞を活性化する能力を高めるので、サイトカイン産生はT細胞活性化の間接的な尺度となる。したがって、サイトカインアッセイ法で、ヒト対象におけるCTLもしくはCTL前駆細胞の活性化の判定、または細胞性免疫のレベルを決定することができる。このようなアッセイ法では、例えばIL-2などのサイトカインが検出されるか、またはサイトカインの産生は、エピトープ特異的に反応するT細胞のレベルの指標として決定される。
【0098】
好ましくは、サイトカインまたはサイトカイン産生のレベルの決定に使用されるサイトカインアッセイ法のフォーマットは本質的に、アッセイ法に関する言及が参照により本明細書に組み入れられる、Petrovsky et al., J Immunol Methods 186: 37-46, 1995に記載されている。
【0099】
好ましくは、サイトカインアッセイ法は、全血またはPBMCまたはバフィーコートを対象に実施される。
【0100】
好ましくは、自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアント、またはワクチン組成物は、T細胞および/またはB細胞の増殖を誘導もしくは促進するのに十分な時間および条件で投与される。
【0101】
さらにより好ましくは、自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアント、またはワクチン組成物は、対象でCMIが促進されるのに十分な時間および条件で投与される。
【0102】
「CMI」という表現は、活性化された、およびクローン増殖したCTLがMHC拘束性であり、およびCTLエピトープに特異的なことを意味する。CTLは、抗原特異性およびMHC拘束性(すなわち非特異的なCTLおよび抗原特異的なMHC拘束性のCTL)を元に分類される。非特異的なCTLは、NK細胞を含む、さまざまな細胞型を含み、免疫応答の極初期に機能して、病原体の量を、抗原特異的な応答が確立する前に減少させることが可能である。これとは対照的にMHC拘束性のCTLは、非特異的なCTLの後、一般に抗体産生の前に最適な活性を達成する。抗原特異的なCTLは、病原体の拡散を阻害するか、または減じ、および好ましくは感染を終結させる。
【0103】
CTLの活性化、クローン増殖、またはCMIは、全身的に、または区画的に局在した状態で誘導され得る。区画的に局在した作用の場合、対象区画への投与用に適切に製剤化されたワクチン組成物を使用することが好ましい。一方、対象で全身的にCTLの活性化、増殖、またはCMIを誘導する際には、このような厳格な要件は必要ない。
【0104】
T細胞およびB細胞の活性化、クローン増殖、またはCMIを誘導するために、単独で、またはワクチン組成物中に存在する状態で投与される自己アジュバント性免疫原性分子の有効量は、免疫原性エピトープの性質、投与経路、免疫化される対象の体重、年齢、性別、または全般的健康、および求められる免疫応答の性質に依存して変動する。このような全ての変数は、当技術分野で認識された手段で経験的に決定される。
【0105】
任意で、任意の適切な、もしくは望ましい担体、アジュバント、BRM、または薬学的に許容される賦形剤によって製剤化される自己アジュバント性免疫原性分子は、簡便には、注射可能な組成物の状態で投与される。注射は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、または他の既知の経路とすることができる。静脈内注射の場合、1種類もしくは複数の液体および栄養補給剤を含めることが望ましい。
【0106】
投与される最適用量、または好ましい投与経路は、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ、またはブタに自己アジュバント性免疫原性分子を含む製剤を注射後に、免疫応答を任意の従来のアッセイ法でモニタリングするといった手法で、動物モデルを使用して確立される。
【0107】
ヒトHLA A*0201対立遺伝子のα1ドメインおよびα2ドメイン、ならびにマウスH-2KbクラスIの分子のα3ドメインを含むキメラのヒト-マウスクラスIのMHC座位を有するHLA A2/Kbトランスジェニックマウスの使用(Vitiello et al., J Exp Med 173:1007, 1991)は、インビボにおける、HLA A2拘束性のCTLのエピトープを含む本発明の自己アジュバント性免疫原性分子との、または同分子を含むワクチン組成物との反応の検討に特に好ましい。
【0108】
任意の理論または作用様式に拘泥することなく、自己アジュバント性免疫原性分子の生物学的作用は、樹状細胞を刺激して成熟させる能力によって発揮される。樹状細胞は後に、流入領域リンパ節内でCD4+およびCD8+のT細胞を活性化する。
【0109】
関連する態様では、本発明は、対象から得られたエクスビボ細胞、好ましくは樹状細胞を、免疫学的に活性のある本発明の自己アジュバント性免疫原性分子、またはこの誘導体もしくはバリアント、または自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアントを含むワクチン組成物に、樹状細胞を成熟させるのに十分な時間および条件で接触させる段階を含む、対象の細胞性免疫を高める方法を提供する。樹状細胞は後に、T細胞および/またはB細胞のエピトープ特異的な活性化の付与が可能となる。
【0110】
好ましい態様では、本発明は、以下の段階を含む、対象の細胞性免疫を高める方法を提供する:
(i)対象から得られたエクスビボ樹状細胞に、免疫学的に活性のある本発明の自己アジュバント性免疫原性分子、またはこの誘導体もしくはもしくはバリアント、または自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアントを含むワクチン組成物を、樹状細胞を成熟させるのに十分な時間および条件で接触させる段階;ならびに
(ii)T細胞および/またはB細胞を活性化させるために、活性化された樹状細胞を対象に自家的に、または別の対象に同系的に導入する段階。
【0111】
T細胞は、CTLもしくはCTL前駆細胞、またはCD4+ Tヘルパー細胞の場合がある。
【0112】
樹状細胞の供給先の対象は、治療対象と同じ対象か、または異なる対象である場合がある。治療対象は、例えば寄生虫、細菌、もしくはウイルスなどの病原体の潜伏型もしくは活性型に感染している任意の対象、または、このような病原体に対するワクチン接種を得るためか、または、このようなワクチン接種を得ることが望まれる対象の場合がある。治療対象は、腫瘍に関する治療を受ける場合もあれば、腫瘍の発症に対抗するワクチンが接種される場合もある。
【0113】
「エピトープ特異的な活性」という表現は、T細胞が、上述したように活性化され得る状態であることを意味する(すなわちT細胞は、CTLエピトープが由来する病原体を有する細胞を認識して溶解するか、または病原体の抗原のT細胞エピトープを一過的もしくは持続的に認識可能である)。したがってT細胞は、本発明の過程によって、病原体を有する細胞を認識して溶解することが可能となるか、または病原体の抗原のT細胞エピトープを一過的もしくは持続的のいずれかに認識可能となるCTL前駆細胞であることが特に好ましい。
【0114】
このようなエクスビボ応用に関しては、樹状細胞は好ましくは、例えば血液、PBMC、またはこれらに由来するバフィーコート分画などの、対象に由来する生物学的試料に含まれる。
【0115】
本発明の別の局面は、免疫学的に活性のある本発明の自己アジュバント性免疫原性分子、またはこの誘導体もしくはバリアント、または自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアントを含むワクチン組成物を、病原体による将来の感染に対する免疫記憶を提供するのに十分な時間および条件で対象に投与する段階を含む、非感染対象に病原体に対する免疫をもたらすか、または高める方法を提供する。
【0116】
関連する態様では、本発明は、対象から得られたエクスビボ樹状細胞に、免疫学的に活性のある本発明の自己アジュバント性免疫原性分子、またはこの誘導体もしくはバリアント、または自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアントを含むワクチン組成物を、エピトープ特異的な活性をT細胞および/またはB細胞に付与するのに十分な時間および条件で接触させる段階を含む、非感染対象において病原体に対する免疫を高めるか、または付与する方法を提供する。
【0117】
したがって、本発明のこの局面は、対象への予防用ワクチンの投与を可能とし、ワクチンの活性成分(すなわち本発明の自己アジュバント性免疫原性分子)は、非感染個体における記憶T細胞を介する免疫記憶を誘導する。対象の細胞性免疫の促進に関して本明細書に記載されたワクチン接種プロトコルの好ましい態様を、必要な変更を加えて、対象における病原体に対する免疫記憶の誘導に応用する。
【0118】
したがって本発明は、以下の病原体に対する免疫を提供すること、または免疫を高めることを想定している:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス、エプスタイン-バーウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス、脳炎ウイルス、天然痘ウイルス、狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、RSウイルス、オルトミクソウイルス、麻疹ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ビスナウイルスおよびサイトメガロウイルス、アクレモニウム属(Acremonium spp.)、コウジカビ属(Aspergillus spp.)、バシディオボルス属(Basidiobolus spp.)、バイポラリス属(Bipolaris spp.)、ブラストミセス・デルマティディス(Blastomyces dermatidis)、カンジダ属(Candida spp.)、クラドフィアオロフォラ・カリオニイイ(Cladophialophora carrionii)、ココイディオデス・イミティス(Coccoidiodes immitis)、コニディオボルス属(Conidiobolus spp.)、クリプトコッカス属(Cryptococcus spp.)、カルバラリア属(Curvularia spp.)、表皮糸状菌属(Epidermophyton spp.)、エクソフィアラ・ジャーンセルメイ(Exophiala jeanselmei)、エクセロヒラム属(Exserohilum spp.)、フォンセカエア・コンパクタ(Fonsecaea compacta)、ファンセカエア・ペドロソイ(Fonsecaea pedrosoi)、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、ジオトリウム・カンジダム(Geotrichum candidum)、ヒストプラスマ・カプスラツム(Histoplasma capsulatum var. capsulatum)、ヒストプラスマ・・カプスラツム(Histoplasma capsulatum var. duboisii)、ホルタエア・ウェルネキイ(Hortaea werneckii)、ラカツィア・ロボイ(Lacazia loboi)、ラシオディプロディア・テオブロマエ(Lasiodiplodia theobromae)、レプトスファエリア・セネガレンシス(Leptosphaeria senegalensis)、メデュレラ・グリセア(Madurella grisea)、メデュレラ・ミセトマティス(Madurella mycetomatis)、マラセチア・フルフル(Malassezia furfur)、ミクロスポルム属(Microsporum spp.)、ネオテスツディナ・ロサティイ(Neotestudina rosatii)、オニチョコラ・カナデンシス(Onychocola canadensis)、パラコクシジオイデス・ブラジリエンジス(Paracoccidioides brasiliensis)、フィアロフォラ・ヴェルコサ(Phialophora verrucosa)、ピエドライア・ホルタエ(Piedraia hortae)、ピエドラ・イアホルタエ(Piedra iahortae)、ピティリアシス・ベルセコロール(Pityriasis versicolor)、シューダレシェリア・ボイディイ(Pseudallesheria boydii)、ピレノカエタ・ロメロイ(Pyrenochaeta romeroi)、リゾプス・アリツス(Rhizopus arrhizus)、スコプラリオプシス・ブレビカウリス(Scopulariopsis brevicaulis)、スキタリジウム・ジミジアトゥム(Scytalidium dimidiatum)、スポロトリックス・シェンキイ(Sporothrix schenckii)、トリコフィートン属(Trichophyton spp.)、トリコスボロン属(Trichosporon spp.)、ジゴムセテ菌(Zygomcete fungi)、アブシディア・コリンビフェラ(Absidia corymbifera)、リゾムコール・プシルス(Rhizomucor pusillus)およびリゾプス・アリツス、炭疽菌(Bacillus anthracis)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、破傷風菌(Clostridium tetani)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、およびシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)。
【0119】
本発明の別の局面は、免疫学的に活性のある本発明の自己アジュバント性免疫原性分子、またはこの誘導体もしくはバリアント、または自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアントを含むワクチン組成物を、癌に対する免疫記憶を提供するのに十分な時間および条件で対象に投与する段階を含む、対象における癌に対する免疫を提供または高める方法を提供する。
【0120】
関連する態様では、本発明は、対象から得られたエクスビボ樹状細胞に、免疫学的に活性のある本発明の自己アジュバント性免疫原性分子、またはこの誘導体もしくはバリアント、または自己アジュバント性免疫原性分子、または誘導体もしくはバリアントを含むワクチン組成物を、エピトープ特異的な活性をT細胞に付与するのに十分な時間および条件で接触させる段階を含む、対象における癌に対する免疫を高めるか、または付与する方法を提供する。
【0121】
したがって、本発明のこの局面は、対象への予防用ワクチンの投与を提供し、ワクチンの活性成分(すなわち本発明の自己アジュバント性免疫原性分子)は、個体において記憶T細胞を介して免疫記憶を誘導する。対象の細胞性免疫を高めるための、本明細書に記載されたワクチン接種プロトコルの好ましい態様を、必要な変更を加えて、対象における癌に対する免疫記憶の誘導に応用する。
【0122】
したがって本発明は、以下に対する免疫を提供すること、または免疫を高めることを想定している:ABL1プロト癌遺伝子による癌、AIDS関連癌、聴神経腫瘍、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、副腎皮質癌、原因不明骨髄様化生、脱毛症、胞巣状軟部肉腫、肛門癌、血管肉腫、再生不良性貧血、星細胞腫、血管拡張性失調症、基底細胞癌(皮膚)、膀胱癌、骨癌、腸癌、脳幹神経膠腫、脳およびCNSの腫瘍、乳癌、CNS腫瘍、カルチノイド腫瘍、子宮頚癌、小児脳腫瘍、小児癌、小児白血病、小児軟部組織肉芽種、軟骨肉腫、絨毛癌、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸直腸癌、皮膚T細胞リンパ腫、隆起性皮膚線維肉腫、結合織小円形細胞腫、腺管癌、内分泌癌、子宮内膜癌、脳室上衣細胞腫、食道癌、ユーイング肉腫、肝外胆管癌、眼の癌、眼の黒色腫、網膜芽腫、卵管癌、ファンコーニ貧血、線維肉腫、胆嚢癌、胃癌、消化器癌、消化器カルチノイド腫瘍、泌尿生殖器癌、胚細胞腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、婦人科の癌、血液悪性腫瘍、有毛細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞癌、遺伝性乳癌、組織球増殖症、ホジキン病、ヒトパピローマウイルス、胞状奇胎、高カルシウム血症、下咽頭癌、眼内黒色腫、島細胞癌、カポジ肉腫、腎臓癌、ランゲルハンス細胞組織球増殖症、喉頭癌、平滑筋肉腫、白血病、リー-フラウメニ症候群、口唇癌、脂肪肉腫、肝臓癌、肺癌、リンパ浮腫、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、男性乳癌、腎悪性ラブドイド腫瘍、髄芽腫、黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫、転移性癌、口腔癌、多発性内分泌腺腫、菌状息肉症、骨髄異形成症候群、骨髄腫、骨髄増殖症候群、鼻腔癌、鼻咽頭癌、腎芽腫、神経芽腫、神経線維腫症、ナイメーヘン染色体不安定症候群、非黒色腫皮膚癌、非小細胞肺癌(nsclc)、眼の癌、食道癌、口腔癌、中咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌(ostomy ovarian cancer)、膵臓癌、副鼻腔癌、副甲状腺癌、耳下腺癌、陰茎癌、末梢神経外胚葉性腫瘍、下垂体癌、真性多血症、前立腺癌、まれな癌および関連疾患(rare-cancers-and-associated-disorder)、腎細胞癌、網膜芽腫、横紋筋肉腫、ロスモンド-トムソン症候群、唾液腺癌、肉腫、シュワン細胞腫、セザリー症候群、皮膚癌、小細胞肺癌(sclc)、小腸癌、軟部組織肉芽種、脊椎腫瘍、扁平上皮癌(皮膚)、胃癌、滑膜肉腫、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、移行細胞癌(膀胱)、移行細胞癌(腎-骨盤-/-尿管)、栄養膜癌、尿道癌、泌尿器系癌、ウロプラキン(uroplakin)、子宮肉腫、子宮癌、膣癌、陰門癌、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、またはウイルムス腫瘍。
【0123】
別の態様では、本明細書に記載された薬学的組成物は、本発明の自己アジュバント性免疫原性分子に加えて、1種類もしくは複数の免疫賦活剤を含む。免疫賦活剤は、外因性抗原に対する免疫応答(抗体および/または細胞性)を高めるか、または強化する本質的に任意の物質を意味する。1つの好ましいタイプの免疫賦活剤はアジュバントを含む。多くのアジュバントは、水酸化アルミニウムまたは鉱油、および脂質A、百日咳菌または結核菌由来のタンパク質などの免疫応答の刺激剤などの、抗原を速やかな異化から保護するように設計された物質を含む。例えば、フロインドの不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, Mich.);Merckアジュバント65(Merck and Company, Inc., Rahway, N.J.);AS-2(SmithKline Beecham, Philadelphia, Pa.);水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)やリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;カルシウム、鉄、もしくは亜鉛の塩;アシル化チロシンの不溶性懸濁物;アシル化糖;陽イオン的もしくは陰イオン的に誘導体化された多糖類;ポリホスファゼン;生物分解性微粒子;モノホスホリル脂質Aおよびquil Aなどの一部のアジュバントは市販されている。GM-CSF、インターロイキン-2、インターロイキン-7、インターロイキン-12などのサイトカイン、および他の同様の成長因子をアジュバントとして使用することもできる。
【0124】
本発明の特定の態様では、アジュバント組成物は、主にTh1型の免疫応答を誘導する。高レベルのTh1型サイトカイン(例えばIFN-γ、TNFα、IL-2、およびIL-12)は、投与抗原に対する細胞性免疫応答の誘導に好ましい傾向がある。これとは対照的に、高レベルのTh2型サイトカイン(例えばIL-4、IL-5、IL-6、およびIL-10)は、液性免疫応答の誘導に好ましい傾向がある。本明細書に記載されたワクチンの接種後に、患者はTh1型およびTh2型の応答を含む免疫応答を支持するようになる。応答が主にTh1型である好ましい態様では、Th1型サイトカインのレベルは、Th2型サイトカインのレベルより大きな程度で上昇する。これらのサイトカインのレベルは、標準的なアッセイ法で容易に評価することができる。サイトカインのファミリーに関する総説として、Mosmann et al., Ann Rev Immunol 7:145-173, 1989を参照されたい。
【0125】
本発明の薬学的組成物に使用される他の説明目的のアジュバントは、Montanide ISA 720(Seppic, France)、SAF(Chiron, Calif, United States)、ISCOMS(CSL)、MF-59(Chiron)、SBASシリーズのアジュバント(例えばSmithKline Beecham, Rixensart, Belgiumから入手可能なSBAS-2やSBAS-4)、Detox(Enhanzyn.RTM.)(Corixa, Hamilton, Mont.)、RC-529(Corixa, Hamilton, Mont.)、ならびに全体が参照により本明細書に組み入れられる係属中の米国特許出願第08/853,826号および第09/074,720号に記載されているような他のアミノアルキルグルコサミニド4-リン酸(AGP)、およびWO 99/52549 A1に記載されているようなポリオキシエチレンエーテルアジュバントを含む。
【0126】
本発明の別の態様では、本明細書に記載された免疫原性組成物は、樹状細胞、マクロファージ、B細胞、単球、および効率的なAPCとなるように改変された他の細胞などの抗原提示細胞(APC)を介して宿主に輸送される。このような細胞は、抗原提示能力を高めるように、T細胞応答の活性化および/または維持を改善するように、抗腫瘍作用または抗病原体作用そのものを持たせるように、および/または受容側(すなわちマッチしたHLAハプロタイプ)に免疫学的に適合するように遺伝的に修飾されている場合があるが、必ずしも修飾の必要性はない。APCは一般に、腫瘍および腫瘍周囲組織を含む、任意のさまざまな体液および器官から単離可能であり、ならびに自家細胞、同種細胞、同系細胞、または異種細胞の場合がある。
【0127】
本発明は、樹状細胞、またはこの前駆細胞を抗原提示細胞として使用する。樹状細胞は極めて強力なAPCであり(Banchereau et al., Nature 392:245-251, 1998)、予防的または治療的な抗腫瘍免疫もしくは抗病原体免疫を誘導する生理的アジュバントとして有効なことが報告されている(Timmerman et al., Ann Rev Med 50:507-529, 1999を参照)。一般に樹状細胞は、その典型的な形状(インサイチューで星状、インビトロでは顕著な細胞質突起(樹状突起)が見られる)、抗原の取り込み、プロセシング、および高効率で抗原を提示する能力、ならびに未感作T細胞応答を活性化する能力を元に同定され得る。樹状細胞は、樹状細胞上には一般に存在しない特異的な細胞表面受容体またはリガンドを、インビボまたはエクスビボで発現するように改変可能なことは言うまでもなく、このような修飾された樹状細胞は本発明で想定されている。樹状細胞に代えて、分泌小体(secreted vesicle)抗原を提示する樹状細胞(エキソソームと呼ばれる)をワクチン中に含めて使用することができる(Zitvogel et al., Nature Med 4:594-600, 1998を参照)。
【0128】
樹状細胞および前駆細胞は、末梢血、骨髄、腫瘍浸潤細胞、腫瘍周囲組織浸潤細胞、リンパ節、脾臓、皮膚、臍帯血、または任意の他の適切な組織もしくは体液から得られる。例えば樹状細胞は、GM-CSF、IL-4、IL-13および/またはTNFαなどのサイトカインの組み合わせを、末梢血から回収された単球の培養物に添加することでエクスビボで分化可能である。または、末梢血、臍帯血、または骨髄から回収されたCD34陽性細胞を、GM-CSF、IL-3、TNFα、CD40リガンド、LPS、flt3リガンド、および/または樹状細胞の分化、成熟、および増殖を誘導する化合物を組み合わせて培地に添加することで樹状細胞に分化させることができる。
【0129】
樹状細胞は、2つのよく解析された表現型を区別する単純な方法を可能とする、好都合には「未成熟」細胞および「成熟」細胞と分類される。しかしながら、この命名は、分化のあらゆる可能な中間段階を除外するように制限されるべきではない。未成熟な樹状細胞は、Fcγ受容体およびマンノース受容体の高発現と相関する、抗原の取り込みおよびプロセシングの高い能力を有するAPCを特徴とする。成熟表現型は典型的には、これらのマーカーの低い発現と、クラスIおよびクラスIIのMHC、接着分子(例えばCD54およびCD11)、ならびに共刺激分子(例えばCD40、CD80、CD86、および4-1BB)などの、T細胞活性化を担う細胞表面分子の高い発現を特徴とする。
【0130】
例えば静脈内投与、鼻腔内投与、および筋肉内投与、ならびに製剤化を含む、さまざまな治療レジメンにおいて、本明細書に記載された特定の組成物を使用する適切な投与法および治療レジメンが開発されていることは当技術分野で周知であり、そのうちのいくつかを、一般的な説明目的で以下に簡単に説明する。
【0131】
状況によっては、本明細書に開示された薬学的組成物を非経口的に、静脈経由で、筋肉内に、またはさらには腹腔内経由で輸送することが望ましいであろう。このような方法は当業者に周知であり、そのうちの一部は、例えば米国特許第5,543,158号;米国特許第5,641,515号、および米国特許第5,399,363号に記載されている。ある態様では、遊離塩基としての活性化合物の溶液、または薬理学的に許容される塩類は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水で調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中に、ならびに油中で調製することができる。通常の保存および使用の条件では、これらの調製物は一般に、微生物の増殖を防ぐ保存剤を含む。
【0132】
注射使用に適した、説明目的の薬学的剤形は、無菌性の水溶液または分散液、および無菌性の注射溶液または分散液の即時調製用の無菌性粉末を含む(例えば米国特許第5,466,468号を参照)。あらゆる場合に、形状は無菌性でなければならず、かつシリンジに容易に充填可能な程度に液体でなければならない。また製造および保存の条件で安定でなければならず、かつ細菌や真菌などの微生物の作用の混入を避けて保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、この適切な混合物、および/または植物油を含む、溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動性は例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することで、分散の場合は必要な粒径を維持することで、および/または界面活性剤を使用することで維持できる。微生物の作用の予防には、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤が役立つ。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の長期吸収は、薬剤の吸収を遅らせる薬剤の組成物、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンを使用することで可能となる。
【0133】
1つの態様では、水溶液による非経口的投与に関しては、溶液には必要であれば適切な緩衝作用をもたせるべきであり、および液体希釈剤を最初に、十分な生理食塩水またはグルコースによって等張とすべきである。このような特定の水溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与に特に適している。これと関連して、使用可能な無菌性の水性溶媒が、本開示に鑑みて当業者に既知であると言える。例えば、1回分の用量を1 mlの等張性NaCl溶液に溶解し、1000 mlの皮下注入液に添加するか、または対象注入部位に注射することができる(例えば「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第15版、1035〜1038頁および1570〜1580頁を参照)。用量に関するいくつかの変更は、治療対象となる対象の条件に依存して加えられる場合がある。さらにヒトへの投与の場合、調製物が好ましくは、FDA生物局の基準が求める無菌性、発熱性、ならびに全般的な安全性および純度の基準に適合することは言うまでもない。
【0134】
本発明の別の態様では、本明細書に開示された組成物は、中性または塩の状態で製剤化することができる。説明目的の薬学的に許容される塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基によって形成される)、および例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸から誘導することができる。遊離のカルボキシル基によって形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第2鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基に由来する場合もある。製剤化時に溶液を、投与剤形と適合するように、および治療的に有効となるように加える。
【0135】
担体はさらに、任意の、およびあらゆる溶媒、分散媒、溶媒、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤、および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む場合がある。薬学的活性物質に対する、このような溶媒および薬剤の使用は当技術分野で周知である。任意の従来の溶媒または薬剤が活性成分と適合しない場合を除いて、治療的組成物における、その使用が想定される。補助的な活性成分を組成物中に混合することも可能である。「薬学的に許容される」という表現は、ヒトに投与時にアレルギー性反応や、類似の不都合な反応を生じない分子および組成物を意味する。
【0136】
ある態様では、薬学的組成物は、鼻腔内スプレー、吸入、および/または他のエアロゾル輸送溶媒によって輸送可能である。遺伝子、核酸、およびペプチド組成物の、鼻内エアロゾルスプレーを介した肺への直接輸送法は例えば、米国特許第5,756,353号および米国特許第5,804,212号で説明されている。同様に、鼻腔内微小粒子樹脂(Takenaga et al., J Controlled Release 52(1-2); 81-7, 1998)、およびリゾホスファチジル-グリセロール化合物(米国特許第5,725,871号)を使用する薬剤の輸送も薬学領域で周知である。同様に、ポリテトラフルオロエチレン支持体マトリックスの形状における、説明目的の経粘膜的な薬剤輸送は、米国特許第5,780,045号に記載されている。
【0137】
本発明の別の局面では、本明細書に記載された薬学的組成物は、癌または病原体感染の治療に使用可能である。このような方法では、本明細書に記載された薬学的組成物は、対象に、典型的には温血動物に、好ましくはヒトに投与される。対象は、癌または病原体感染に罹患している場合もあれば、罹患していない場合もある。したがって、上記の薬学的組成物は、癌の発症を予防するために、または癌に罹患した患者を治療するために、または病原体の感染を予防するために、または病原体感染を治療するために使用することができる。
【0138】
ある態様では、免疫療法は、治療が、本明細書に記載された自己アジュバント性免疫原性分子などの免疫応答修飾剤の投与によって、内因性の宿主免疫系をインビボで刺激して腫瘍または病原体に反応させるために行われる積極的免疫療法とすることができる。
【0139】
本明細書に記載された治療的組成物の投与経路および投与頻度、ならびに用量は、個体間で変動する場合があり、ならびに標準的な手法で容易に決定することができる。一般に薬学的組成物およびワクチンは、注射(例えば皮内、筋肉内、静脈内、もしくは皮下)、または鼻腔内に(例えば吸引による)投与することができる。好ましくは、52週間以上にわたって1〜10回の投与を行うことができる。好ましくは、1か月の間隔をおいて6回の投与を行うことが可能であり、およびその後に、ブースター接種を定期的に行うとよい。個々の患者には別のプロトコルが適切な場合がある。適切な用量は、上述の手順による投与時に、抗腫瘍免疫応答または抗病原体性免疫応答を高めることが可能な化合物の量であり、および基礎レベル(すなわち非投与時の)レベルを少なくとも10〜50%上回る。このような応答は、患者の抗腫瘍抗体を測定することで、または患者の腫瘍細胞をインビトロで死滅可能なワクチン依存性の細胞障害性のエフェクター細胞の生成を測定することで追跡することができる。このようなワクチンは、非接種患者と比較して接種患者における臨床転帰の改善(例えば、より高頻度の緩解、完全もしくは部分的な、またはより長い無疾患生存期間)に至る免疫応答を引き起こすことも可能であるべきである。一般に、1種類もしくは複数のポリペプチドを含む薬学的組成物およびワクチンに関しては、用量中に存在する個々のポリペプチドの量は、宿主1 kgあたり約25μg〜5 mgの範囲である。適切な用量サイズは、患者のサイズによって変動するが、典型的には約0.1 mL〜約5 mLの範囲である。
【0140】
一般に、適切な用量および治療レジメンは、治療的利益および/または予防的利益を提供するのに十分な量の活性化合物を提供する。このような反応は、非治療患者と比較して、治療を受けた患者における臨床転帰の改善(例えば、より高頻度の緩解、完全もしくは不完全の、またはより長い無疾患生存期間)を知ることでモニタリングすることができる。腫瘍タンパク質に対する既存の免疫応答の亢進は一般に、臨床転帰の改善と相関する。このような免疫応答は一般に、治療の前後に患者から得た試料を使用して実施可能な、増殖、細胞傷害性、またはサイトカインの標準的なアッセイ法で評価することができる。
【0141】
本発明の自己アジュバント性免疫原性分子は、診断目的で容易に修飾される。例えば、天然もしくは合成のハプテン、抗生物質、ホルモン、ステロイド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、酵素、酵素基質、酵素阻害剤、ビオチン、アビジン、ポリエチレングリコール、ペプチド性ポリペプチド部分(例えばタフトシン、ポリリシン)、蛍光マーカー(例えばFITC、RITC、ダンシル、ルミノール、もしくはクマリン)、生物発光マーカー、スピンラベル、アルカロイド、生体アミン、ビタミン、トキシン(例えばジゴキシン、ファロイジン、アマチニン、テトロドキシン)、または複合体形成剤の付加によって修飾される。
【0142】
本発明をさらに、以下の非制限的な実施例および図面を参照して説明する。マウスに関して本明細書に記載された実施例は、ヒトの同等の疾患に関して受入れられたモデルであり、および当業者であれば、そのようなモデルに関する本明細書に記載された知見をヒトの疾患に関して、過度の実験を行うことなく容易に拡張することができる。
【0143】
実施例1
材料および方法
試薬
特に明記しない限り、試薬類は、分析グレードまたはその等価物とした。N,N'-ジメチルホルムアミド(DMF)、ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)、O-ベンゾトリアゾール-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ならびにジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)はAuspep Pty. Ltd.(オーストラリア・メルボルン)、およびSigma-Aldrich Pty. Ltd.(オーストラリア・キャッスルヒル)から入手した。ジクロロメタン(DCM)およびジエチルエーテルはMerck Pty Ltd.(オーストラリア・キルサイス)から入手した。フェノールおよびトリイソプロピルシラン(TIPS)はAldrich(Milwaulke, WI)から、ならびにトリニトロベンジルスルホン酸(TNBSA)およびジアミノピリジン(DMAP)はFlukaから入手した。1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)はSigmaから、およびパルミチン酸はFlukaから入手した。固相支持体TentaGel S RAMおよびTentaGel S AmはRapp Polymere GmbH(ドイツ・チュービンゲン)から入手した。O-(N-Fmoc-2-アミノエチル)-O'-(2-カルボキシエチル)-ウンデカエチレングリコール(Fmoc-PEG)はNovabiochem, Merck Biosciences(スイス)から入手した。ヘテロ二機能性リンカー分子N-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸(MCS)はFluka Biochemika(スイス)から入手した。鶏卵リゾチーム(Hen egg lysozyme)、オボアルブミン、およびβ-ガラクトシダーゼはSigmaから入手した。
【0144】
水溶液中でタンパク質を脂質化するためのモジュールとして使用可能な水溶性のPam2Cysベースの脂質部分の合成
水溶性の脂質モジュールの略図を図1および図2に示す。
【0145】
脂質部分を、Fmoc化学を使用する従来の固相法で集合させた。ペプチド合成に使用される一般的な手順は、Jackson et al., Vaccine 18:355, 1999に記載されている。固相支持体TentaGel S RAMを使用した。4倍過剰のFmocアミノ酸誘導体をカップリング段階に使用した。ただしFmoc-PEGのカップリングには2倍過剰量を使用した。
【0146】
Pam2Cysをペプチドと、Jones et al., Xenobiotica 5:155, 1975およびMetzger et al., Int J Pept Protein Res 38:545, 1991に記載された方法に以下の変更を施してカップリングさせた。
【0147】
I.S-(2,3-ジヒドロキシプロピル)システインの合成:
トリエチルアミン(6 g、8.2 ml、58 mmole)を、塩酸L-システイン(3 g、19 mmole)および3-ブロモ-プロパン-1,2-ジオール(4.2 g、2.36 ml、27 mmole)(溶媒は水)に添加し、ならびに均一となった溶液を室温で3日間、静置した。この溶液を真空中で40℃で減圧して白色残渣を得た。これをメタノール(100 ml)中で沸騰させ、遠心分離し、および残渣を水(5 ml)に溶解した。この水溶液をアセトン(300 ml)に添加し、および沈殿を遠心分離によって分離した。アセトンによって数回沈殿させることで沈殿を水から精製し、S-(2,3-ジヒドロキシプロピル)システインを白色の無定形粉末として得た(2.4 g、12.3 mmol、64.7%)。
【0148】
II.N-フルオレニルメトキシカルボニル-S-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-システイン(Fmoc-Dhc-OH)の合成:
S-(2,3-ジヒドロキシプロピル)システイン(2.45 g、12.6 mmole)を9%炭酸ナトリウム(20 ml)に溶解した。フルオレニルメトキシカルボニル-N-ヒドロキシスクシニミド(3.45 g、10.5 mmole)(溶媒アセトニトリル)の溶液(20 ml)を添加し、混合物を2時間攪拌後に水(240 ml)で希釈し、ジエチルエーテルで抽出した(25 mlで3回)。水層を濃塩酸でpH 2に酸性化した後に、酢酸エチルで抽出した(70 mlで3回)。この抽出物を水(50 mlで2回)、および飽和塩化ナトリウム溶液(50 mlで2回)で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、および蒸発させて乾燥させた。-20℃でエーテルおよび酢酸エチルから再結晶化させることで無色の粉末を得た(2.8 g、6.7 mmole、63.8%)。
【0149】
III.樹脂結合ペプチドへのFmoc-Dhc-OHのカップリング:
Fmoc-Dhc-OH(100 mg、0.24 mmole)を、DCMおよびDMF(1:1、v/v、3 ml)中で、HOBt(36 mg、0.24 mmole)およびDICI(37μl、0.24 mmol)によって0℃で5分間処理して活性化させた。次に混合物を、樹脂結合ペプチド(0.04 mmole、0.25gのアミノ-ペプチド樹脂)を含む容器に添加した。2時間の攪拌後に、溶液を濾過して除去し、ならびに樹脂をDCMおよびDMFで洗浄した(それぞれ30 mlで3回)。反応はTNBSA試験で、完了するまでモニタリングした。必要であれば、二重カップリング(double coupling)を実施した。
【0150】
IV.Fmoc-Dhc-ペプチド樹脂の2つのヒドロキシ基のパルミトイル化:パルミチン酸(204 mg、0.8 mmole)、DICI(154μl、1 mmole)、およびDMAP(9.76 mg、0.08 mmole)を2 mlのDCMおよび1 mlのDMFに溶解した。樹脂結合Fmoc-Dhc-ペプチド樹脂(0.04 mmole、0.25 g)を同溶液に懸濁し、室温で16時間、振盪した。溶液を濾過して除去した後、樹脂をDCMおよびDMFで十分に洗浄し、尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5% DBU(2 x 5分)で達成した。
【0151】
全ての樹脂結合ペプチドコンストラクトを、試薬B(88% TFA、5%フェノール、2% TIPS、5%水)で2時間処理して固相支持体から切り離し、およびZeng et al., Vaccine 18, 1031 (2000)に記載された手順で逆相クロマトグラフィーを行って精製した。
【0152】
解析目的の逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を、Waters HPLCシステムに接続されたVydac C4カラム(4.6 x 300 mm)を使用して実施し、および0.1% TFA(溶媒は水)および0.1% TFA(溶媒はCH3CN)を限界溶媒(limit solvent)として使用して1 mL/分の流速で展開した。全ての生成物が、解析目的のRP-HPLCで1本の主要ピークとして現われ、およびAgilent 1100 LC-MSDトラップ質量分析計による解析時に推定質量を有していた。
【0153】
コンストラクトAおよびコンストラクトBの合成(図1):
樹脂TentaGel S Am樹脂を使用した。Fmoc-Cys(Trt)-OHを、樹脂にカップリングさせる第1のアミノ酸として使用し、続いて8 Fmoc-Lys(Boc)-OHおよびFmoc-Ser(tBu)-OHを使用した。コンストラクトAの合成では、Fmoc-S-(2,3-ビス-ヒドロキシ-2-プロピル)-システイン[Fmoc-Cys(Dhc)-OH]をセリン残基にカップリング後に、ジメチルアミノピリジン(DMAP)およびジイソプロピルカルボジイミドの存在下でパルミチン酸によるパルミトイル化を16時間かけて行った。コンストラクトBの合成では、Fmoc-Lys(Fmoc)-OHをセリン残基にカップリングさせた。両Fmoc基の除去後に、Fmoc-Cys(Dhc)-OHを2つの露出したアミノ基にカップリングさせ、続いてパルミチン酸によるパルミトイル化を、ジメチルアミノピリジン(DMAP)およびジイソプロピルカルボジイミドの存在下で16時間かけて行った。合成の最終段階でシステイン残基のFmoc基を除去し、ペプチドを樹脂から切り離し、ならびに側鎖を脱保護処理してコンストラクトAおよびコンストラクトBを得た。
【0154】
コンストラクトCおよびコンストラクトDの合成(図1):
樹脂TentaGel S Am樹脂を使用した。Fmoc-Lys(Mtt)-OHを、樹脂にカップリングさせる第1のアミノ酸として使用し、次に8 Fmoc-Lys(Boc)-OHおよびFmoc-Ser(tBu)-OHを使用した。Fmoc-Cys(Dhc)-OHをセリン残基にカップリング後に、ジメチルアミノピリジン(DMAP)およびジイソプロピルカルボジイミドの存在下で、パルミチン酸によるパルミトイル化を16時間かけて行った。Fmoc基の除去後に、N末端のアミノ基を、ジ-t-ブチルジカルボン酸を使用してブロックした。1% トリフルオロ酢酸(溶媒はジクロロメタン)を使用して、Mtt基を選択的に除去した。コンストラクトCの合成では、ブロモ酢酸を、露出したアミノ基に、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を活性化させた状態でカップリングさせた。コンストラクトDの合成では、Boc-アミノオキシ酢酸を、露出したアミノ基にカップリングさせた。ペプチドを樹脂から切り離し、側鎖を脱保護してコンストラクトCおよびコンストラクトDを得た。
【0155】
これら4種類のコンストラクトは、脂質部分の溶解性を高めるのに有用な8個のリシンを有する。
●コンストラクトAは、1個の脂質モジュールあたり1コピーのPam2Cysを有する。
●コンストラクトBは、1個の脂質モジュールあたり2コピーのPam2Cysを有する。このモジュールは、脂質化に利用可能な部位が限られる場合に有用な可能性がある。
●コンストラクトCは、タンパク質または組換えタンパク質内の任意の遊離SH基との直接的なカップリングに使用可能である。
●コンストラクトDは、タンパク質または組換えタンパク質のN末端に既存のセリン残基、または人工的に導入されたセリン残基の酸化によって生じ得る、アルデヒド基とオキシム結合を形成するアミノオキシ基を有する。
【0156】
ポリエチレングリコールをスペーサーとして有する4種類の脂質部分類似体(図2)を上記のプロトコルに従って合成した。これらは、タンパク質の脂質化に、コンストラクトA、コンストラクトB、コンストラクトC、およびコンストラクトDに関して上述した同様の方法で使用可能である。
【0157】
実施例2
脂質化HEL(リゾチーム)タンパク質の4種類の異なる分子種の合成
4種類の異なる脂質化HELを、鶏卵白リゾチーム(HEL)タンパク質に対する、図1に挙げられた4種類の脂質部分のカップリングによって作製した。図3は、これら4種類の脂質化HELの概念図を示す。
【0158】
脂質化HELタンパク質Lipidated1-HEL(チオエーテル)、およびLipidated2-HEL(チオエーテル)を、HELをMCSで誘導体化後に、コンストラクトAのスルフヒドリル基を化学選択的に連結して、タンパク質と脂質モジュール間のチオエーテル結合を形成させることで作製した。これらは、Lipidated2-HEL(チオエーテル)が2コピーのコンストラクトAを有するという点が異なる。分枝状のLipidated2-HELは、1個のタンパク質分子あたり1コピーの脂質モジュールを有するが、コンストラクトBの二価性のために1分子のタンパク質あたり2コピーのPam2Cysが存在する。このため疎水性がより高くなり、HPLCで遅く溶出される。
【0159】
Lipidated1-HEL(ジスルフィド)を作製するために、HELをヘテロ二機能性リンカー3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-ヒドロキシスクシニミドエステル(SPDP)で修飾後にコンストラクトAと反応させて、脂質モジュールとタンパク質間のジスルフィド結合の形成によってLipidated1-HEL(ジスルフィド)を得た。
【0160】
実施例3
脂質化インスリンの免疫原性の評価
インスリンを以下の手順で脂質化した。10 mgのウシ膵臓インスリンを、0.5 Mリン酸緩衝液(pH 7.9)を含む400μlの6 M塩酸グアニジン、および400μlの0.02 Mリン酸緩衝液(pH 7)に溶解した。この溶液に、200μlのアセトニトリルに溶解した3.25 mgのN-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸(MCS)を添加し、3時間後にMCS修飾型インスリンを半調製HPLCで分離した。3.3 mgのMCS修飾型インスリンおよび5 mgのPam2CysSer(Lys)8Cysを500μlのアセトニトリルおよび500μlの水に溶解した。反応混合物を室温で48時間、静置した。2種類の脂質化インスリン化合物を半調製HPLCで分離した。質量分析による、これらの分子種の解析の結果、1個のタンパク質分子あたりに組み入れられた脂質部分の数が異なる、2種類の異なる脂質化インスリンが作製されたことが判明した。Pam2Cys2-インスリンは、インスリン1分子あたり2コピーのPam2CysSer(Lys)8Cysを有しており、Pam2Cys3-インスリンは、インスリン1分子あたり3コピーのPam2CysSer(Lys)8Cysを有していた。
【0161】
動物試験を実施し、マウスに脂質化インスリンを接種して抗体応答を測定した。簡単に説明すると、4群のBalb/cマウスに、フロインドアジュバント(第1の投与には完全アジュバント、第2の投与には不完全アジュバント、CFA/IFA)中のインスリン、PBS中のPam2Cys2-インスリン、PBS中のPam2Cys3-インスリン、PBS中の脂質部分そのものを、第0週および第4週に接種し、ならびにそれぞれ第4週、第5週、および第6週に採取された血液から血清を調製した。血清の抗インスリン抗体の力価をELISAで決定した。この結果から、脂質化インスリンタンパク質が、1回の接種後に強力な抗インスリン応答を誘導したことがわかる。これは、2回の接種後のCFA/IFA中のインスリンによる誘導時と同程度に強力であった。脂質化インスリンの2回の接種後は、抗体レベルもCFA/IFA群におけるレベルより有意に高かった。3コピーの脂質部分を有する脂質化インスリンは、2コピーの脂質部分を有するインスリンより免疫原性が強いことが判明した。結果を図4に示す。
【0162】
実施例4
脂質化タンパク質である鶏卵リゾチーム(HEL)による抗体の誘導
第1段階:N-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸によるHELの修飾:
15 mgのHEL(Mr=14305)を800μlの6 Mグアニジン緩衝液(pH=7.75)に溶解し、この溶液に、200μlのアセトニトリル中に溶解した1.30 mgのN-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸を添加した。反応混合物を室温で30分間、静置し、生成物をHPLCで分離した。
【0163】
第2段階:MCS修飾型HELへのPam2Cys部分の抱合:
3.4 mgのMCS修飾型HEL、および1.76 mgのPam2Cys-SerLys8Cys(SEQ ID NO:7)を500μlの8 M尿素(溶媒は0.05 Mリン酸緩衝液、pH 7.30)に溶解した。反応混合物を室温で18時間、静置し、および1コピーのPam2Cysを含む脂質化HELをHPLCで分離した。
【0164】
第3段階:脂質化タンパク質鶏卵リゾチーム(HEL)による抗体の誘導:
C57BL/6マウスに、それぞれCFA中でHELと、生理食塩水でHELと、およびCFAと混合した、脂質化HELであるPam2Cys1-HEL、HEL、およびPam2CysSerLys8Cysを接種した。第0日および第21日にマウスに30μgの免疫原を2回投与し、ならびに第21日および第34日に採取した血液から血清を調製した。血清中の抗HEL抗体の力価を第21日(1°)および第34日(2°)にELISAで決定した(図5)。結果から、脂質化HELが、HELをフロインドアジュバント中に混合して投与した時に得られた反応と同程度に強力な抗HEL抗体応答を誘導したことがわかる。これとは対照的に、HELを脂質部分と混合時には、特異的な抗体応答は誘導されなかった。
【0165】
実施例5
脂質化HELによる、異なる2系統のマウスにおける抗HEL抗体応答の誘導
C57BL/6マウスおよびBALB/cマウスに、第0週および第3週に25μgの脂質化HELを2回投与した。比較として、フロインドアジュバント(1回目の接種には完全アジュバント、および2回目の接種には不完全アジュバント)中のHEL、または生理食塩水中のHELのみを同じ接種手順でマウスに投与した。これらのマウスから第3週および第5週に採血して血清を調製し、ならびに抗HEL抗体応答をELISAで判定した。結果(図6)から、脂質化HELが両系統のマウスで強力な抗HEL抗体応答を誘導したことがわかる。この応答は、HELをフロインドアジュバントと混合して投与時に得られた応答を上回るほどではないが、強力であった。
【0166】
Pam2Cysがさまざまな化学リンカーを介してタンパク質に結合された脂質化HELによって誘導された抗体応答
4種類の異なる脂質化HEL(図3)、および異なる化学リンカーを使用して得られたものをC57BL/6マウスへに接種した。第0週および第3週にマウスに2回の投与を行った(各25μg)。血液試料を第0週、第3週、および第5週に得た。血清を調製し、および抗HEL抗体応答をELISAで判定した。1群のマウスには、1回目の接種には完全フロインドアジュバント中に乳化したHELを、および2回目の接種には不完全フロインドアジュバント虫に乳化したHELの投与を行った。結果(図7)から、類似の特異的な抗HEL抗体応答が、使用された化学結合にかかわらず得られたことがわかる。
【0167】
抗体の誘導はT細胞依存性である
脂質化HELによって誘導された抗体のイソ型プロファイルの検討(図8)から、免疫応答がT細胞依存性であることがわかる。Tヘルパー細胞の関与のさらなる証拠を得るために、CD4+ T細胞を欠くGK 1.5トランスジェニックマウスに脂質化HELを接種した。比較対象として、野生型のC57BL/6マウスに抗原を平行して接種した。第0週および第4週にマウスに2回の投与(各25μg)を行い、ならびに第4週および第6週に血液を採取した。採血で得た血清を対象に、抗HEL抗体力価をELISAで決定した。結果(図8)から、脂質化HELがGK 1.5マウスで抗HEL抗体応答をわずかに誘導するか、または全く誘導しないことがわかる。これとは対照的に、脂質化HELを接種したC57BL/6マウスでは、強力な抗HEL抗体応答が検出された。フロインドアジュバント中のHELの2回の投与を受けたGK 1.5マウスでは、抗HEL抗体はわずかに認められるか、または全く認められなかった(図8)。
【0168】
脂質化ミョウバンおよびフロインドアジュバントの存在下におけるHELに対する抗体応答の比較
抗体応答の誘導能力に関して、脂質化HELP、HEL/ミョウバン、およびHEL/CFA、ならびにHEL/生理食塩水を比較した。結果を図9に示す。ミョウバン、CFA、または生理食塩水中のHELと比較して、脂質化HELは最大の抗体応答を誘導した。
【0169】
脂質化HELおよびフロインドアジュバント中のHELによって誘導された抗体イソ型の比較
第0日および第28日に、BALB/cマウスの皮下に、生理食塩水中のPam2Cys、またはフロインドアジュバント(第1の投与では完全アジュバント、および第2の投与では不完全アジュバント)中に乳化したHELの、2回の接種(各30μg)を行った。第2の抗原投与の14日後に採血し、血清を調製し、および抗HEL抗体のイソ型をELISAで決定した(図10)。結果から、イソ型の類似のプロファイルが得られたことがわかる。
【0170】
実施例6
オボアルブミンの脂質化
6.4 mgのオボアルブミンを、8 M尿素(溶媒は0.05 Mリン酸緩衝液、pH 8.3)に溶解した。この溶液に5 mgのジチオジスレイトールを添加した。同溶液を37℃で一晩、静置した。還元後のオボアルブミンを、Superdex G75 10/300GLカラムによるゲル濾過クロマトグラフィーで、50 mM炭酸水素アンモニウムを溶離用緩衝液として使用して分離した(流速0.5 mL/分)。25分の保持時間で溶出された材料を回収し、およびスピンカラム(Viva Spin 20 [VIVASCIENCE]、分子量カットオフ10,000 Da、またはUltra-15[Millipore]、分子量カットオフ10,000 Da)を使用して1 mlに濃縮した。
【0171】
遊離のSH基の量を以下のように決定した:還元タンパク質溶液の50μlの溶液に、50μlの10 mM 5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸)(溶媒は0.1 Mリン酸緩衝液、pH 8)を添加した。この溶液を37℃で10分間、静置した後に、900μlの50 mM炭酸水素アンモニウムを添加した。ブランクとしての950μlの5 mM炭酸水素アンモニウムに添加した50μlの10 mM 5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸)(溶媒は0.1 Mリン酸緩衝液、pH 8)を使用して、412 nmにおける光学密度を測定した。遊離のSH基の量を、以下の式で計算した:
光学密度/13.6 x 20 x 100
50 mgのデオキシコール酸を添加し、還元タンパク質溶液中に溶解した。次に、200μlの水中の1.3 mgのブロモアセチル化Pam2CysSK8K(図1のコンストラクトC)をタンパク質溶液に緩やかに添加した。1〜3μlの10 M水酸化ナトリウムを添加してpHを約8.5に調節した。この反応混合物を37℃で一晩、静置した。Superdex G-75 10/300GLのカラムを使用したゲル浸透クロマトグラフィーで、0.15% w/vデオキシコール酸(溶媒は50 mM酢酸アンモニウム)を溶出緩衝液として使用して最終生成物を分離した(流速0.5 mL/分)。フラクションを回収し、およびVivaSpin 20を使用して1 mlに濃縮した。脂質化されたオボアルブミンの量を、標準として作製した一連のオボアルブミン溶液に対するUV分光測定で決定した。
【0172】
この材料をマウスに接種し、ならびに抗体力価(図10および図12)および細胞傷害性T細胞活性(図13)を決定して、脂質化オボアルブミンの免疫原性特性を決定した。
【0173】
実施例7
β-ガラクトシダーゼの脂質化
4.86 mgのβ-ガラクトシダーゼを900μlの0.1 Mリン酸緩衝液(pH 8.0)に溶解し、この溶液に70μlのアセトニトリル中に溶解した0.70 mgのN-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸(MCS)を添加した。この反応混合物を室温で4時間、静置した。MCS修飾型β-ガラクトシダーゼを、Superdex G-75 10/300GLを使用して、50 mMの酢酸アンモニウムを溶出緩衝液として0.5 mL/分の流速で分離した。フラクションを回収し、プールし、およびViva Spin 20(分子量カットオフ10,000 Da.)を使用して1 mlに濃縮した。
【0174】
β-ガラクトシダーゼタンパク質に結合したマレイミド基の量を決定するために、10μlの5 mM 2-メルカプトエタノールを50μlのMCS修飾型β-ガラクトシダーゼ溶液に添加し、および混合物を37℃で7〜10分、静置した。次に50μlの10 mM 5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸)(溶媒は0.1 M リン酸緩衝液、pH 8)を添加後に、890μlの0.1 Mリン酸緩衝液(pH 8)を添加した。412 nmにおける光学密度(A)を決定した。10μlの5 mM 2-メルカプトエタノールを50μlの10 mM 5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸)(溶媒は0.1 Mリン酸緩衝液、pH 8)に添加し、室温で5分間の静置後に、940μlの0.1 Mリン酸緩衝液(pH 8)を添加し、412 nmにおける光学密度(B)を決定した。β-ガラクトシダーゼに結合したマレイミド基の量を以下の式で計算した:
nmolマレイミド/β-ガラクトシダーゼ=(A-B)/13.6 x 20 x 1000
75 mgのデオキシコール酸を、1 mlのMCS修飾型β-ガラクトシダーゼに溶解し、および200μlの水中の1.1 mgのPam2CysSK8Cを緩やかに添加した。1〜3μlの10 M水酸化ナトリウムを添加してpHを約8.5に調節した。反応混合物を37℃で一晩、静置した。Superdex G-75 10/300GLを使用して、0.15%デオキシコール酸(溶媒は50 mM酢酸アンモニウム)を溶出緩衝液として使用して、0.5 mL/分の流速で最終生成物を分離した。フラクションを回収し、およびViva Spin 20(分子量カットオフ10,000 Da.)を使用して1 mlに濃縮した。β-ガラクトシダーゼの量を、一連のβ-ガラクトシダーゼ溶液を標準として使用したUV分光測定で決定した。
【0175】
本明細書に記載されたワクチン系の有効性は、Pam2CysがToll様受容体2に対して有する標的特性に拠っている。この受容体は、抗原の取り込みおよびプロセシングに特に有効な樹状細胞上に存在する。
【0176】
実施例8
IFN-γ-ELISpotアッセイ法による脂質化ポリトープ(polytope)によるCTLの誘導
ポリトープは、以下の配列の6種類の異なるCTLエピトープを有する:

【0177】
1)ポリトープの脂質化:
a)N-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸によるポリトープの修飾:
ポリトープストック溶液:2.13 mg/ml(溶媒PBS);
N-スクシニミジル6-マレイミドカプロン酸(MCS)ストック溶液:0.92 mg/ml(溶媒アセトニトリル)。
100 μlのポリトープストック溶液に、48μlのMCSストック溶液(5倍過剰)を添加した。反応物を室温で2時間、静置した。修飾型ポリトープをHPLCで分離した。
b)MCS修飾型ポリトープへのPam2Cys部分の抱合;MCS修飾型ポリトープをアセトニトリルおよびPBSに溶解し、およびこの溶液に、2倍過剰のPam2Cys-Ser-(Lys)8-Cysを添加した。反応物を室温で18時間、静置した。脂質化ポリトープをHPLCで分離した。
【0178】
2)IFN-γ-ELISpotアッセイ法
検討エピトープ=SYIPSAEKI(SEQ ID NO:4)(P. berghiのスポロゾイト周囲タンパク):
BALB/cマウスの尾の基部に5 nmole/匹の用量で接種した。7日後に脾臓を摘出し、および1つの細胞懸濁物を調製した(エフェクター細胞)。IFN-γ-ELISPOTアッセイ法を、一連の濃度のエフェクターを使用して実施した。エフェクター細胞を、放射線を照射した自家脾臓細胞とともに、P. bergheiのスポロゾイト周囲タンパクに由来するCTL決定基(249〜257)の存在または非存在下で培養し、およびIFN-γ-ELISpotアッセイ法を実施した。結果を図14に示す。
【0179】
検討エピトープ=SGPSNTPPEI(SEQ ID NO:2)(h-2Db-アデノウイルス5EIA)
C57BL/6マウスの尾の基部に5 nmole/匹の用量で接種した。7日後に脾臓を摘出し、および1つの細胞懸濁物を調製した(エフェクター細胞)。IFN-γ-ELISPOTアッセイ法を、一連の濃度のエフェクターを使用して実施した。エフェクター細胞を、放射線を照射した自家脾臓細胞とともに、CTL決定基SGPSNTPPEI(SEQ ID NO: 2)の存在下または非存在下で培養し、およびIFN-γ-ELISpotアッセイ法を実施した(図14)。
【0180】
実施例9
N末端の位置にセリン残基を有する組換えタンパク質の発現
Pam2Cys分子を組換えタンパク質に抱合させるためには、通常のメチオニン残基で(開始コドンから)開始するタンパク質ではなく、セリン残基から開始する成熟タンパク質分子が必要である。このために、メチオニン残基を開始コドンとして、タンパク質が通常の様式で転写/翻訳されるように、成熟タンパク質を発現させて精製する。後に同タンパク質は、特異的なプロテアーゼで切断されて、セリン残基がアミノ末端の残基として残る。
【0181】
セリン残基がアミノ末端のアミノ酸として天然の状態で残るように、タンパク質を切断可能なプロテアーゼを選択するか、またはタンパク質分解後に、セリン残基をタンパク質のアミノ末端に人工的に組込まれたタンパク質を切断する。この基準を満たすプロテアーゼには、エンテロキナーゼおよび第Xa因子プロテアーゼがある。いずれのプロテアーゼとも、切断点後に特定のアミノ酸を必要としない切断部位を有するが、特定の残基が存在する場合は切断されない可能性がある。
【0182】
次に、選択された組換えタンパク質のクローニング、発現、精製、および切断が可能な発現ベクターを選択する。pET30(a/b/c)シリーズのベクターが、この基準を満たす。これはIPTGによって誘導可能な発現ベクターであり、タンパク質が発現されるように遺伝子のクローニングを可能とするマルチクローニングサイトが組込まれており、精製に使用可能なN末端またはC末端のいずれかのHisタグを有し、および精製後に成熟タンパク質の切断を可能とするエンテロキナーゼ切断部位が存在する。
【0183】
エンテロキナーゼ切断部位の周囲の配列、およびマルチクローニングサイトを操作しなければならない。この操作によって、選択されるタンパク質をコードするDNAの、すぐ下流に組込まれたセリン残基を有するエンテロキナーゼ切断部位の下流における同じ読み枠での連結が可能となる。この操作によって、pET30ベクターのプロモーター領域の使用により、選択されるタンパク質の発現が可能となり、精製を可能とするN末端のHisタグが存在し、および精製されたタンパク質は後にエンテロキナーゼで切断可能となる。切断されるとHisタグが除去されて、成熟タンパク質が先頭のアミノ酸としてセリン残基を有するようになる。
【0184】
pET30コンストラクトが生じたことを検討するために、2種類のタンパク質を選択した。これらのタンパク質は、鶏卵リゾチーム由来のオボアルブミン、および単純ヘルペスウイルス由来のgBである。遺伝子を増幅するPCR用にオリゴヌクレオチドを設計した。この際、精製後に可溶性の高いタンパク質を得るために、全ての膜貫通ドメインおよびシグナルペプチドが除去されるように設計した。タンパク質の発現はIPTGによって誘導され、および後にHisタグが、ニッケル樹脂上におけるタンパク質の精製に利用される。精製後にタンパク質をエンテロキナーゼで切断し、および同プロテアーゼは後にエンテロキナーゼ捕捉樹脂を使用して除去する。結果として得られたタンパク質は、セリン残基を先頭のアミノ酸として有する可溶型である。次に同タンパク質を対象に、後述する脂質連結化学的処理(lipid ligation chemistry)を行う。
【0185】
実施例10
単純ヘルペスウイルスに由来する糖タンパク質B(gB)のクローニングおよび発現:
N末端にセリンを有するgBタンパク質を、実施例9に記載された方法で発現させた。
【0186】
gBの脂質化:セリン残基をN末端の位置に有する、大腸菌で発現させたgBを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化して、アルデヒド官能基を、そのN末端に出現させる。この酸化型gBは、脂質部分Dと反応してオキシム結合を形成する。
【0187】
免疫化およびウイルス感染
C57BL/6マウスの鼻腔内に、生理食塩水に溶解した脂質化gBを接種した。ウイルス曝露については、脇腹を傷つける方法(flank scarification)で、または鼻腔内接種によりマウスにHSV-KOSを感染させる。ウイルスの力価を、コンフルエントなベロ(Vero)細胞の単層を対象とした標準的なPFUアッセイ法で決定した。肺(鼻腔内接種)から、またはウイルス感染部位(脇腹を傷つける方法)から試料を採取し、およびホモジナイズし、ならびに10倍の段階希釈物を対象にプラーク形成を検討して、当初の組織中におけるウイルス力価を決定した。
【0188】
エピトープ特異的CD8+陽性T細胞を、四量体染色法で評価する。H-2Kb-gB498-5-5四量体を、Jones et al., J Virol 74:2414-9, 2000に記載された手順で調製する。
【0189】
実施例11
オボアルブミンのクローニングおよび発現
N末端にセリン残基を有するオボアルブミンを、実施例9に記載された方法で発現させた。
【0190】
オボアルブミンの脂質化
N末端の位置にセリン残基を有する、大腸菌で発現させたオボアルブミンを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化して、N末端にアルデヒド官能基を生じさせる。この酸化型オボアルブミンをコンストラクトD(図1)と反応させてオキシム結合を形成させる。または、オボアルブミンタンパク質は、実施例に記載された他の方法で脂質化することができる。
【0191】
CTL実験
C57BL/6マウスの皮下に脂質化オボアルブミンを接種する。脾臓またはリンパ節などの器官から調製された1つの細胞懸濁物を対象に、インターフェロン-γのELIspotアッセイ法を実施する。
【0192】
実施例12
脂質化β-ガラクトシダーゼによって誘導される免疫応答
第0日および第7日に、C57BL/6マウスの首筋の皮下に脂質化β-ガラクトシダーゼを注射する。14日目にマウスを殺し、脾臓を摘出し、および1つの細胞懸濁物を調製する。β-ガラクトシダーゼペプチドのエピトープTPHPARIGLでインビトロで脾臓細胞を刺激し、および細胞傷害性リンパ球応答をペプチド特異的なIFN-γアッセイ法で決定する。
【0193】
脾臓細胞調製物は、実施例3に例示されたワクチン接種の結果としてIFN-γ産生を示すことが予想される。
【0194】
第0日および第7日に脂質化β-ガラクトシダーゼを2回、首筋の皮下に投与したBALB/cマウスについても、脾細胞をペプチドエピトープDAPIYTNVTでインビトロで刺激時に細胞傷害性T細胞応答を示すことが予想される。
【0195】
これらの結果は、脂質化タンパク質抗原が、さまざまな主要組織適合性の対立遺伝子によって制限される細胞傷害性T細胞応答を誘導可能なことを示す。HELに関して図2の報告された結果と同様に、抗体応答は両動物系統で得られることも予想される。
【0196】
実施例13
HBsAgの脂質化
B型肝炎ウイルス抗原(HBsAg)は、インスリン、HEL、またはOVA(実施例2、実施例3、および実施例4)に関して記載されたのと同様に脂質化が可能である。
【0197】
脂質化HBsAgによって誘導されるCTL応答
脂質化HBsAgが接種されたBALB/cマウスは細胞傷害性T細胞応答を示すことが予想される。接種個体から得られた脾細胞は、ペプチドエピトープIPQSLDSWWTSLに反応すると考えられる。異なるMHC特異性を示すマウスも、それらの個々のクラスI拘束性ペプチドエピトープに反応することが予想される。
【0198】
脂質化HBsAgによって誘導される抗体応答
異なる種および系統の個体も、脂質化HBsAgの接種に反応して抗体を誘導することが推定される。
【0199】
当業者であれば、本明細書に記載された発明が、具体的に記載された以外に、変更および修正を受ける可能性があることを理解するであろう。本発明は、このような全ての変更および修正を含むことを理解されたい。本発明は、本明細書において個別に、または一括して言及されたか、または示された、全ての段階、特徴、組成物、および化合物、ならびに任意の2つか、または2つ以上の段階もしくは特徴の任意の、および全ての組み合わせも含む。
【0200】
参考文献



【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】スペーサーとして8個のリシン残基を有し、および水溶液中でタンパク質を脂質化するためのモジュールとして使用可能な、水溶性のPam2Cysベースの脂質部分の概略図を示す図による表示である。
【図2】スペーサーとしてポリエチレングリコールを有し、および水溶液中でタンパク質とカップリングするためのモジュールとして使用可能な、水溶性のPam2Cysベースの脂質部分の概略図を示す図による表示である。
【図3】さまざまな脂質化鶏卵白リゾチーム分子種、および使用されるさまざまな化学結合の概略図を示す図による表示である。
【図4】BALB/cマウスにおいてインスリンおよび脂質化インスリンによって誘導される抗インスリン抗体応答を示すグラフ表示である。第0週および第4週に、マウスに皮下経路で、第1の投与用に完全フロインドアジュバント中に、および第2の投与用に不完全フロインドアジュバント中に乳化したインスリンを接種した。いずれの場合も、使用した抗原の投与量は10 nmoleとした。脂質化インスリンの場合は、2回の投与を再び行ったが、この場合はPBS中に溶解した。第4週、第5週、および第6週に採取した血液試料から血清を調製し、ならびに抗インスリン抗体力価をELISAで決定した。1o、2o、および3oは、それぞれ第4週、第5週、および第6週に得られた抗体の力価を意味する。Pam2Cys2-インスリンは、2コピーの脂質部分Pam2Cysがインスリンの各分子中に組み入れられたインスリンを意味し、およびPam2Cys3-インスリンは、3コピーの脂質部分Pam2Cysがインスリンの各分子中に組み入れられたインスリンを意味する。Pam2Cys-Ser-Lys8-Cysは、セリン残基、8個のリシン残基、およびC末端にシステイン残基が結合されたPam2Cysである。この構造は、インスリン分子とのカップリングに使用されるPam2Cysの可溶型である。
【図5】脂質化鶏卵白リゾチーム(Pam2Cys-HEL)、脂質部分Pam2CysSer(Lys)8Cysと混合したHEL、フロインドアジュバント中のHEL、HELのみ、フロインドアジュバントのみによって、C57BL/6で誘導された抗体応答を示すグラフ表示である。マウスに第0週および第4週に、HELを皮下経路で2回(各30μg)投与し、第4週および第6週に採血を行った。抗HEL抗体応答は、第4週(1o)および第6週(2o)に得た血清を対象にELISAで判定した。
【図6】脂質化鶏卵白リゾチーム(Pam2Cys-HEL)、HELのみ、または完全フロインドアジュバント中のHELによって、C57BL/6マウスおよびBALB/cマウスで誘導された抗体応答を示すグラフ表示である。マウスに第0週および第3週にHELを皮下経路で2回(25μg)、投与し、ならびに第3週および第5週に採血を行った。第3週(1o)および第5週(2o)に得た血清を対象に、抗HEL抗体応答をELISAで判定した。
【図7】さまざまな形状の脂質化HELを接種したC57BL/6マウスにおける抗HEL抗体応答を示すグラフ表示である。チオエーテル結合もしくはジスルフィド結合のいずれかによってタンパク質に結合された1コピーのPam2Cys(Pam2Cys1)、または2コピーのPam2Cys(Pam2Cys2)を含むHELをC57BL/6マウスに接種した。別のマウス群には、2コピーの分枝配置のPam2Cysとで抱合させたHELを接種した(図3参照)。マウスの対照群には、完全フロインドアジュバント(CFA)中に乳化したHEL、またはPam2CysSer-Lys8-Cysと1:4の比で同時混合したHELを接種した。マウスに、第0週および第3週に25μgのタンパク質を皮下経路で2回投与し、第3週および第5週に採血した。血清を調製し、および抗HEL抗体応答をELISAで判定した。
【図8】生理食塩水中に混合した脂質化HEL(Pam2Cys-HEL)、フロインドアジュバント中に混合したHEL、または生理食塩水中のHELによって、C57BL/6マウスおよびGK 1.5マウスで誘導された抗HEL抗体応答を示すグラフ表示である。第0週および第4週に、マウスに抗原を2回(各25μgの用量)投与し、第4週および第6週に採血した。血液から血清を調製し、および抗HEL抗体応答をELISAで判定した。
【図9】ジスルフィド化学で製造された脂質化HEL(Pam2Cys1-HEL)(図3)、フロインドアジュバント中に乳化したHEL(HEL/CFA)、またはミョウバン中に混合したHEL(HEL/ミョウバン)によってC57BL/6マウスで誘導された抗HEL抗体応答を示すグラフ表示である。第0日および第21日に、マウスに抗原を2回(各25μgの用量)投与し、ならびに第21日および第31日に採血を行った。血清を調製し、および抗HEL抗体応答をELISAで判定した。ミョウバン中に混合した非脂質化HEL、またはフロインドアジュバントの存在下と比較して、脂質化HELの投与時に、有意な二次抗HEL抗体応答が得られた。
【図10】生理食塩水中の脂質化HEL(Pam2Cys-HEL)、または完全フロインドアジュバント中に混合したHELによってBALB/cマウスで誘導された抗体のイソ型を示すグラフ表示である。第0日および第28日に、マウスの皮下に、Pam2Cys-HEL、または完全フロインドアジュバント(CFA)中に乳化したHELを2回(各用量30μg)接種した。第2の抗原投与の14日後に採血を行い、血清を調製し、および抗HEL抗体のイソ型をELISAで判定した。
【図11】オボアルブミン(OVA)を接種したC57BL/6マウスにおける抗体応答を示すグラフ表示である。第0日および第21日に、30μgの脂質化OVA(Pam2Cys-OVA)、完全フロインドアジュバント(CFA)中に乳化したOVA、または生理食塩水中のOVAをマウスの皮下に2回投与した。マウスの血液を第21日(1o)および第31日(2o)に採取し、血清を調製し、ならびに抗OVA抗体応答をELISAで判定した。
【図12】第0日および第23日に、脂質化OVA(Pam2Cys-OVA)、または完全フロインドアジュバント中に乳化したOVAの接種後にC57BL/6マウスで誘導された抗体イソ型を示すグラフ表示である。マウスの皮下に、Pam2Cys-OVA、または完全フロインドアジュバント(CFA)中に乳化したOVAのいずれかを2回(各30μg)に接種した。第33日に採血を行い、血清を調製し、および抗OVA抗体のイソ型をELISAで判定した。
【図13】脂質化オボアルブミン(OVA)によるCD8+ T細胞の誘導を示すグラフ表示である。第0日および第7日に、C57BL/6マウスの皮下に、生理食塩水中の非処理のオボアルブミン、または生理食塩水中のPam2Cys-OVAのいずれかを2回(各30μg)接種した。14日目に脾臓を摘出し、およびオボアルブミンCTLペプチドエピトープSIINFEKLまたは無関係のペプチドによる4時間の刺激後に、脾細胞をインターフェロン-γ分泌に関して細胞内サイトカイン染色で調べた。IFN-γがフロー解析で検出された。
【図14】脂質化ポリトープ(polytope)によるCTL誘導のグラフ表示である。BALB/cマウスおよびC57BL/6マウスの皮下(尾の基部)に、9 nmole(BALB/cマウス)または5 nmole(C57BL/6マウス)を接種した。7日後に脾臓を摘出し、および脾細胞を対象にIFNγ-ELISpotアッセイ法を、以下のCTLペプチドエピトープの存在下もしくは非存在下で実施した:H-2Kd拘束性で、かつネズミマラリア原虫(P. berghei)のスポロゾイト周囲タンパクに由来するSYIPSAEKI(SEQ ID NO:4)、またはH-2Dbに拘束され、かつアデノウイルス5EIAに由来するエピトープSGPSNTPPEI(SEQ ID NO:2)。結果をそれぞれ左右のパネルに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドが、少なくとも1つのCTLエピトープおよび1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を含み、エピトープがポリペプチドに特異的であり、ならびに自己アジュバント性免疫原性分子が、対象における免疫応答を対象のHLAタイプに関わりなく誘導する、1つもしくは複数の脂質部分または脂肪酸部分に抱合される天然または組換え型のポリペプチドを含む自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項2】
脂質部分または脂肪酸部分が、ポリペプチド主鎖内のアミノ酸残基に、または翻訳後に追加された化学物質に抱合される、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項3】
化学物質が糖質体である、請求項2記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項4】
脂質部分または脂肪酸部分が、アミノ酸の側鎖に、直接的または間接的に、二機能性クロスリンカーを介して抱合される、請求項2記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項5】
ポリペプチドが病原性生物またはウイルスに由来する、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項6】
ポリペプチドが癌細胞に由来する、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項7】
ポリペプチドが、脂質または脂質部分の抱合を可能とする、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基から選択される官能基によって1つもしくは複数の分子を保持するように修飾される、請求項1または5または6のいずれか一項記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項8】
ヘルパーTエピトープが、約6〜約30アミノ酸の長さである、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項9】
CTLエピトープが、約6〜約30アミノ酸の長さである、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項10】
CTLエピトープが、SEQ ID NO: 1、2、3、4、5、および6からなるリストより選択される、請求項9記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項11】
B細胞エピトープが、約4〜約30アミノ酸の長さである、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項12】
脂質部分または脂肪酸部分が、リシン残基、システイン残基、またはセリン残基に抱合される、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項13】
脂質部分または脂肪酸部分が、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、およびデカノイルからなるリストより選択される、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項14】
脂肪酸部分が、リポアミノ酸N-パルミトイル-S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインである、請求項13記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項15】
脂肪酸部分が、S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインである、請求項13記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項16】
脂質部分が、一般式(III)の構造を有する化合物である、請求項11記載の自己アジュバント性免疫原性分子:

上式で、
(vii) Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(-S-S-)、メチレン(-CH2-)、およびアミノ(-NH-)からなる群より選択され;
(viii) mは1もしくは2の整数であり;
(ix) nは0〜5の整数であり;
(x) R1は、水素、カルボニル(-CO-)、およびR'-CO-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基により置換され;
(xi) R2は、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基により置換され;ならびに
(xii) R3は、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基により置換され、
且つR1、R2、およびR3のそれぞれは同じか、または異なる。
【請求項17】
Xが硫黄であり;mおよびnがいずれも1であり;R1が、水素およびR'-CO-からなる群より選択され、R'が、7〜25個の炭素原子を有するアルキル基であり;ならびにR2およびR3が、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'が、7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項16記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項18】
R'が、パルミトイル、ミリストイル、ステアリル、およびデカノールからなるリストより選択される、請求項17記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項19】
R'がパルミトイルである、請求項18記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項20】
脂質部分内の個々の整数R'が同じか、または異なってもよい、請求項17または18または19のいずれか一項記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項21】
Xが硫黄であり;mおよびnがいずれも1であり;R1が水素もしくはR'-CO-であり、R'がパルミトイルであり;ならびにR2およびR3がそれぞれR'-CO-O-であり、R'がパルミトイルである、請求項16または17記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項22】
脂質部分が、以下の一般式(IV)を有しうる、請求項13記載の自己アジュバント性免疫原性分子:

上式で、
(iii) R4は、以下からなる群より選択され:(i)約7〜約25個の炭素原子からなるアルファ-アシル-脂肪酸残基;(ii)アルファ-アルキル-ベータ-ヒドロキシ-脂肪酸残基;(iii)エステル基が好ましくは、8個を上回る炭素原子を含む直鎖または分枝鎖である、アルファ-アルキル-ベータ-ヒドロキシ-脂肪酸残基のベータ-ヒドロキシエステル;および(iv)リポアミノ酸残基;ならびに
(iv) R5は、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である。
【請求項23】
R4が、約10〜約20個の炭素原子、およびより好ましくは約14個〜約18個の炭素原子からなる、請求項22記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項24】
整数R4およびR5の側鎖が共有結合を形成し得るようR4がリポアミノ酸残基である、請求項22または23記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項25】
一般式IVで表される構造が、N,N'-ジアシルリシン;N,N'-ジアシルオルニチン;グルタミン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;アスパラギン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;セリン、ホモセリン、またはトレオニンのN,O-ジアシル誘導体;およびシステインまたはホモシステインのN,S-ジアシル誘導体からなる群より選択される脂質部分である、請求項1記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項26】
脂質部分がさらに、合成中または合成後に、1つもしくは複数のスペーサー分子の追加によって修飾される、請求項25記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項27】
免疫応答が抗体応答である、請求項25記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項28】
免疫応答がCTL応答である、請求項25記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項29】
免疫応答が抗体応答およびCTL応答の両方である、請求項25記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項30】
対象における免疫応答を、対象のHLAタイプにかかわらず誘導する、1つもしくは複数の脂質部分または脂肪酸部分に抱合される、天然または組換え型のポリペプチドを含む自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項31】
少なくとも1つのCTLエピトープ、および1つのTヘルパーエピトープおよび1つのB細胞エピトープを含むアミノ酸配列を含む天然もしくは組換え型のポリペプチドを選択または調製する段階、ならびに少なくとも1つの脂質部分または脂肪酸部分をポリペプチド内の任意のアミノ酸残基に、または天然もしくは組換え型のポリペプチド上の翻訳後に追加された化学部分に抱合させる段階を含む、自己アジュバント性免疫原性分子を作製する方法であって、自己アジュバント性免疫原性分子が対象における免疫応答を対象のHLAタイプにかかわらず誘導する、方法。
【請求項32】
脂質部分または脂肪酸部分が、ポリペプチド主鎖内のアミノ酸残基に、または翻訳後に追加された化学物質に抱合される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
化学物質が糖質体である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
脂質部分または脂肪酸部分がアミノ酸の側鎖に抱合される、請求項32記載の方法。
【請求項35】
Tヘルパーエピトープが、約6〜約30アミノ酸の長さである、請求項31記載の方法。
【請求項36】
CTLエピトープが、約6〜約30アミノ酸の長さである、請求項31記載の方法。
【請求項37】
CTLエピトープが、SEQ ID NO: 1、2、3、4、5、または6からなるリストより選択される、請求項36記載の方法。
【請求項38】
B細胞エピトープが、約4〜約30アミノ酸の長さである、請求項31記載の方法。
【請求項39】
脂質部分または脂肪酸が、リシン残基、システイン残基、またはセリン残基に抱合される、請求項31記載の方法。
【請求項40】
脂質部分または脂肪酸部分が、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、およびデカノイルからなるリストより選択される、請求項31記載の方法。
【請求項41】
脂肪酸部分が、リポアミノ酸N-パルミトイル-S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインである、請求項40記載の方法。
【請求項42】
脂肪酸部分が、S-[2,3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインである、請求項40記載の方法。
【請求項43】
脂質部分が、一般式(III)の構造を有する化合物である、請求項41記載の方法:

上式で、
(xiii) Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(-S-S-)、およびメチレン(-CH2-)、ならびにアミノ(-NH-)からなる群より選択され;
(xiv) mは1もしくは2の整数であり;
(xv) nは0〜5の整数であり;
(xvi) R1は、水素、カルボニル(-CO-)、およびR'-CO-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基により置換され;
(xvii) R2は、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基は任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基により置換され;ならびに
(xviii) R3は、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群より選択され、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基が任意で、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基、またはシクロアルキル基により置換され、ならびに
R1、R2およびR3のそれぞれは同じか、または異なる。
【請求項44】
Xが硫黄であり;mおよびnがいずれも1であり;R1が、水素およびR'-CO-からなる群より選択され、R'が、7〜25個の炭素原子を有するアルキル基であり;ならびにR2およびR3が、R'-CO-O-、R'-O-、R'-O-CO-、R'-NH-CO-、およびR'-CO-NH-からなる群より選択され、R'が、7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
R'が、パルミトイル、ミリストイル、ステアリル、およびデカノールからなるリストより選択される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
R'がパルミトイルである、請求項45記載の方法。
【請求項47】
脂質部分内の個々の整数R'が同じか、もしくは異なっていてもよい、請求項43または44または45のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
Xが硫黄であり;mおよびnがいずれも1であり;R1が水素もしくはR'-CO-であり、R'がパルミトイルであり;ならびにR2およびR3がそれぞれR'-CO-O-であり、R'がパルミトイルである、請求項35記載の自己アジュバント性免疫原性分子。
【請求項49】
脂質部分が、以下の一般式(IV)も有しうる、請求項39記載の方法:

上式で、
(v) R4は、以下からなる群より選択され:(i)約7〜約25個の炭素原子からなるアルファ-アシル-脂肪酸残基;(ii)アルファ-アルキル-ベータ-ヒドロキシ-脂肪酸残基;(iii)エステル基が好ましくは、8個を上回る炭素原子を含む直鎖もしくは分枝鎖であるアルファ-アルキル-ベータ-ヒドロキシ-脂肪酸残基のベータ-ヒドロキシエステル;および(iv)リポアミノ酸残基;ならびに
(vi) R5は、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である。
【請求項50】
R4が、約10〜約20個の炭素原子、およびより好ましくは約14個〜約18個の炭素原子からなる、請求項49記載の方法。
【請求項51】
整数R4およびR5の側鎖が共有結合を形成し得るようR4がリポアミノ酸残基である、請求項49または50記載の方法。
【請求項52】
一般式IVで表される構造が、N,N'-ジアシルリシン;N,N'-ジアシルオルニチン;グルタミン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;アスパラギン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;セリン、ホモセリン、またはトレオニンのN,O-ジアシル誘導体;ならびにシステインまたはホモシステインのN,S-ジアシル誘導体からなる群より選択される脂質部分である、請求項31記載の方法。
【請求項53】
脂質部分がさらに、合成中または合成後に、1つもしくは複数のスペーサー分子の付加によって修飾される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
脂質部分がさらに、合成中または合成後に、1つもしくは複数のスペーサー分子の付加によって修飾され、スペーサー分子がポリエチレングリコールである、請求項52記載の方法。
【請求項55】
脂質部分がさらに、合成中または合成後に、1つもしくは複数のスペーサー分子の付加によって修飾され、スペーサー分子がポリリシンである、請求項52記載の方法。
【請求項56】
脂質部分がさらに、合成中または合成後に、アミノ基、スルフヒドリル基、ブロモアセチル基、アミノオキシ基などの官能基を有する1つもしくは複数の分子の付加によって修飾される、請求項52記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2008−529978(P2008−529978A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553418(P2007−553418)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000162
【国際公開番号】WO2006/084319
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(500057995)ザ カウンシル オブ ザ クイーンズランド インスティテュート オブ メディカル リサーチ (6)
【Fターム(参考)】