説明

免疫原性化合物及びタンパク質擬態物

【課題】目的の化合物の免疫原性を改良するための手段及び方法を提供すること。更に、免疫原性再現性を誘導及び/又は強化すること。
【解決手段】化合物の免疫原性再現性及び/又は免疫原性を誘導及び/又は強化するための方法。目的の化合物の免疫原性は、前記化合物の立体構造を(更に)拘束することにより、誘導及び/又は改善される。免疫原性化合物の免疫原性再現性は、前記化合物の立体構造が(更に)拘束されることにより、誘導及び/又は強化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学及び免疫学の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫原性化合物の検出、同定、単離及び生成技術に対する関心が高まりつつある。免疫原性化合物は、多種多様な用途(例えば例えばワクチン投与プログラム及び目的の抗体、B細胞及びT細胞の産生)で用いられる。ワクチン投与においては、免疫原性化合物を用いて宿主の免疫反応を生じさせる。免疫反応は好ましくは、目的の抗原(例えば病原体又は腫瘍)の存在が関与する疾患に対する防御免疫反応である。かかる免疫原性化合物は、典型的には、目的の前記抗原に完全に、又は部分的に由来するペプチド配列を含んでなる。
【0003】
免疫原性化合物はまた、目的の抗体、B細胞及び/又はT細胞を得るために広く用いられている。ヒト以外の動物に対して、免疫原性化合物をワクチン投与し、その後、抗体、B細胞及び/又はT細胞を動物から回収し、更なる使用に供する。特に、目的の免疫原性化合物を開始物質としてモノクローナル抗体(mAbs)の産生は、重要な応用である。mAbsの利点としては特に、疾患の原因に関与しうる特定の細胞又は化学伝達物質に対するそれらの標的能力が挙げられる。この特性により、mAbsは従来の治療よりも優れた臨床効果を発揮でき、その一方で、一般に副作用を伴うことなく、有効かつ寛容できる治療オプションを患者に提供することにもつながりうる。
【0004】
当該技術分野で多くの技術開発がなされているもかかわらず、免疫付与により、必ずしも所望の効果が得られていない。例えば、自己抗原に対する免疫付与は、宿主の免疫系は原則として自己抗原を標的としないため、困難である。しかしながら、自己抗原に対する免疫反応は、例えば自己抗原が腫瘍細胞に存在するような様々なケースにおいては要求される。腫瘍に存在する自己抗原に対する免疫反応により、腫瘍が予防できるからである。更に、腫瘍成長は血管新生を必要とする。すなわち新しい血管が形成されることにより、栄養分が腫瘍部位に輸送され、また腫瘍からの老廃物が輸送される。血管新生は血管内皮成長因子(VEGF)(また脈管透過性要因(VPF)とも称される)などの内在性成長ホルモンの作用を伴う。ゆえに、かかる成長因子の作用をアンタゴナイズすることは、血管新生が妨げられるため、腫瘍成長に間接的に逆作用する。
【0005】
宿主の免疫反応が一般に自己抗原に対して不活性であるという事実から考察すると、免疫反応を誘発できるだけの、自己抗原に対する十分な相違を有する免疫原性化合物がしばしば生じるが、自己抗原との十分な類似性を有するため、それにより誘発された免疫反応はまた、上記自己抗原に対して活性を示す。更に、免疫原性はしばしば、担体(例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH))及び/又はアジュバント(例えば不完全フロイントアジュバント)で強化される。しかしながら、目的の抗原に対する十分に強い免疫反応を得るには至っていない。
【0006】
免疫学の分野において遭遇する他の課題は、免疫原性再現性(immunogenic reproducibility)が得られないことである。これは、所望の免疫反応が1個体の動物においては得られるが、同じ種の第2の動物においては、それらの動物が同じ種類の免疫原性化合物でワクチン投与を受けた場合であっても、当該免疫反応が得られないか、あるいは著しく小さい程度に留まることを意味する。同じ種の動物間における、この免疫反応の変動性に関しては十分理解されていない。個体間の生物学的多様性は、異なる動物間での免疫系の相違の原因になるものと一般的には考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、目的の化合物の免疫原性を改良するための手段及び方法を提供することである。本発明の更なる目的は、免疫原性再現性を誘導及び/又は強化することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、化合物の免疫原性再現性及び/又は免疫原性を誘導及び/又は強化するための方法の提供に関し、当該方法では、少なくとも部分的に前記化合物の立体構造が拘束される。
【0009】
本発明では、目的の化合物の免疫原性は、前記化合物の立体構造を(更に)拘束することにより、誘導及び/又は改善される。免疫原性は更に、例えば担体に対する結合により、前記化合物が既に限られた立体構造しかとれないときに改良される。また、更に立体構造を拘束することにより、免疫原性が大幅に向上する。(更に)拘束された立体構造を有する化合物を動物に投与した場合、目的の特定の抗原に対する免疫反応が誘発され、その誘発は、拘束されていない立体構造を有する同じ種類の化合物を、同じ種類の動物に投与した場合と比較し強い。免疫反応の程度は例えば、ワクチン投与された動物の血液サンプルの抗体価の測定により測定される。
【0010】
更に、本発明では、免疫原性化合物の免疫原性再現性は、前記化合物の立体構造が(更に)拘束されることにより、誘導及び/又は強化される。本発明の方法により、同じ種の一群の動物に投与したときに、従来公知の免疫原性化合物と比較して、前記同じ種の一群の動物のより大きな割合において免疫反応を誘導できる、免疫原性化合物を調製することが可能になった。ゆえに、立体構造の拘束を有する本発明に係る免疫原性化合物は、立体構造の拘束を有さない同じ種類の化合物と比較し、同じ種の一群の動物のより高いパーセンテージにおいて、顕著な免疫反応を誘発することができる。動物間の多様性は少なくなる。これはすなわち、本発明に係る免疫原性化合物で、同じ種の幾つかの動物をワクチン投与した場合、動物において誘発される免疫反応が、従来公知の免疫原性化合物で免疫された同じ種の動物と比較し、変化が少ないことを意味する。ゆえに伝播も減少する。更に、集団のより大きな割合において免疫反応を誘導することが可能になった。したがって、顕著な免疫反応を得る可能性が、各個人において増加する。これは、例えば一群の動物又はヒトの個体群がワクチン接種を受けるとき(疾患に対する各個体の保護が要求されるため)幾つかのヒト以外の動物にワクチン処理をして、抗体、T細胞及び/又はB細胞を得るとき(最大の収量を得るため)、及び臨床試験のとき(動物個体間の多様性による免疫原性試験の結果の相違が少ないため)、特に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】2つのハロメチル基が、オルト−、メタ−又はパラ−配置で存在する芳香族足場。Halは、塩素、臭素又はヨウ素原子を指す。1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン及び他のレギオ異性体、3,4−ビス(ハロメチル)ピリジン(X=N)及び他のレギオ異性体、3,4−ビス(ハロメチル)ピリダジン(X=N)及び他のレギオ異性体、4,5−ビス(ハロメチル)ピリミジン(X=N)及び他のレギオ異性体、4,5−ビス(ハロメチル)ピラジン(X=N)及び他のレギオ異性体4,5−ビス(ハロメチル)−1,2,3−トリアジン(X=N)及び他のレギオ異性体、5,6−ビス(ハロメチル)−1,2,4−トリアジン(X=N)及び他のレギオ異性体、3,4−ビス(ハロメチル)ピロール(X=N)、−フラン(X=O)、−チオフェン(X=S)及び他のレギオ異性体、4,5−ビス(ハロメチル)イミダゾール(X=N,N)、−オキサゾール(X=N,O)、−チアゾール(X=S)及び他のレギオ異性体、4,5−ビス(ハロメチル)−3H−ピラゾール(X=N,N)、−イソオキサゾール(X=N、O)、−イソチアゾール(X=S)及び他のレギオ異性体、1,2−ビス(ブロモメチルカルボニルアミノ)ベンゼン(X=NH、X=O)、2,2’−ビス(ハロメチル)ビフェニレン、2,2”−ビス(ハロメチル)ターフェニレン、1,8−ビス(ハロメチル)ナフタレン、1,10−ビス(ハロメチル)アントラセン、ビス(2−ハロメチルフェニル)メタン。
【図2】3つのハロメチル基が、オルト−、メタ−又はパラ−配置で存在する芳香族足場。1,2,3−トリス(ハロメチル)ベンゼン及び他のレギオ異性体、2,3,4−トリス(ハロメチル)ピリジン(X=N)及び他のレギオ異性体、2,3,4−トリス(ハロメチル)ピリダジン(X=N)及び他のレギオ異性体、3,4,5−トリス(ハロメチル)ピリミジン(X=N)及び他のレギオ異性体、4,5,6−トリス(ハロメチル)−1,2,3−トリアジン(X=N)及び他のレギオ異性体、2,3,4−トリス(ハロメチル)ピロール(X=N)、−フラン(X=O)、−チオフェン(X=S)及び他のレギオ異性体、2,4,5−ビス(ハロメチル)イミダゾール(X=N,N)、−オキサゾール(X=N、O)、−チアゾール(X=S)及び他のレギオ異性体、3,4,5−ビス(ハロメチル)−1H−ピラゾール(X=N,N)、−イソオキサゾール(X=N、O)、−イソチアゾール(X=S)及び他のレギオ異性体、2,4,2−トリス(ハロメチル)ビフェニレン、2,3’,2”−トリス(ハロメチル)ターフェニレン、1,3,8−トリス(ハロメチル)ナフタレン、1,3,10−トリス(ハロメチル)アントラセン、ビス(2−ハロメチルフェニル)メタン。
【図3】4つのブロモメチル基が、オルト−、メタ−又はパラ−配置で存在する芳香族足場。1,2,4,5−テトラ(ハロメチル)ベンゼン及び他のレギオ異性体、1,2,4,5−テトラ(ハロメチル)ピリジン(X=N)及び他のレギオ異性体、2,4,5,6−テトラ(ハロメチル)ピリミジン(X=X=N)及び他のレギオ異性体、2,3,4,5−テトラ(ハロメチル)ピロール(X=NH)、−フラン(X=O)、−チオフェン(X=S)及び他のレギオ異性体、2,2’,6,6’−テトラ(ハロメチル)ビフェニレン、2,2”,6,6”−テトラ(ハロメチル)ターフェニレン、2,3,5,6−テトラ(ハロメチル)ナフタレン、2,3,7,8−テトラ(ハロメチル)アントラセン、ビス(2,4−ビス(ハロメチル)フェニル)メタン(X=CH)。
【図4】Cys−knot成長因子ファミリーのB3−ループ、及びそのペプチド擬態物の概略図。パネルAは、Cys−knotタンパク質ファミリーの様々なメンバーの一般的なループ構造を示す。パネルBは、CysIV及びCysV残基を有するB3−ループを示す。パネルCは、2つのシステインが本発明のポリペプチドに導入された、ペプチド擬態物の構造のデザインを示す。これらのシステインを介する足場(Tとして示す)への、上記ポリペプチドの共有結合により、野生型タンパク質のB3−ループの二次構造的に類似する形態が、当該ペプチドに付与される。
【図5】FSH−63ループmT2/SS CLIPS−ペプチドのワクチン投与試験による抗体応答を示す。
【図6】FSH−63ループに由来する、直鎖状、一重拘束型(T2又はSS)及び二重拘束型(T2及びSS)のペプチドを用いた、ワクチン投与試験による抗体応答を示す。
【図7】VEGF−Aβ5−ループ−β6部分に由来する、直鎖状、一重拘束型(T2のみ)及び二重拘束型(T2及びSS)ペプチドを用いた免疫付与実験によって得られた、抗ペプチド抗血清によるELISA競合試験を示す。
【図8】CCR5コレセプタ(GPCR−ファミリー)中のECL2a−ループに由来する、直鎖状、一重拘束型(T2のみ)及び二重拘束型(T2及びSS)ペプチドを用いたELISA競合試験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
免疫原性化合物により免疫反応を誘発できるいかなる動物も、用語「動物」に包含される。好ましくは動物には哺乳類が包含される。1つの好適な態様では、前記動物にはヒト個体が包含される。しかしながら、他の実施形態では、例えば免疫反応を誘導して抗体、T細胞及び/又はB細胞を調製するために場合には、前記動物にはヒト以外の動物が包含される。
【0013】
化合物の立体構造は、化合物の可能な空間的配置の数として定義される。1つの共有結合のまわりの回転からみて、フリーの化合物はしばしば多くの異なる形態を採る。化合物の立体構造の拘束には、ありうる空間的配置の数を拘束することが必要であり、それによって、化合物に特定の高次構造を、より多くの時間採らせることを強制する。
【0014】
本願明細書において免疫原性再現性とは、両方の動物が同じ免疫原性化合物によって、ワクチン投与を受けるときに、1匹の動物において得られる同じ種類の免疫反応が、同じ種の第2の動物においても得られる可能性として定義される。免疫原性再現性が強化される場合、一群の動物のより大きいパーセンテージが、同じ種類の免疫反応を示す。同じ種類の免疫反応とは、免疫反応の特異性及び程度がほぼ同等であることを意味する。抗体力価(血清の抗体濃度を意味する)は、しばしば血清の希釈値として用いられる。その濃度においては、結合ELISAのODは>3×バックグラウンド−ODとして表される。両方の動物の抗体価の相違が100倍、好ましくは50倍未満、最も好ましくは30倍未満である場合、第1の動物の免疫反応は、第2の動物の免疫反応と同等である。抗体価がLog値として表される場合、両方の動物の抗体価の相違が2.0未満、好ましくは1.5未満である場合、第1の動物の免疫反応は第2の動物の免疫反応と同等である。
【0015】
化合物の免疫原性は、当該化合物が、自身の化合物及び/又は好ましくは目的の分子に対して特異的な免疫反応を誘発する能力であると定義する。好ましくは、前記目的の分子はタンパク質性分子を含んでなる。好ましくは、前記化合物は、前記目的の分子と強く結合し、生物学的活性を中和する抗体を誘発できる。
【0016】
タンパク質性分子とは、アミノ酸残基を含んでなる分子が、ペプチド結合を経て各々結合している分子であると定義する。前記分子は、1個又は複数個の非アミノ酸部分を含んでなってもよい。
【0017】
化合物が目的の(タンパク質性の)分子に対する特異的な免疫反応を誘発する能力は、交差反応性と呼ばれている。本発明に係る方法は好ましくは、化合物の交差反応性を誘導及び/又は強化するために用いられる。したがって、好ましい実施形態では、化合物の交差反応性を誘導及び/又は強化する方法の提供に関し、詳細には当該方法は、少なくとも部分的に前記化合物の立体構造が拘束されるステップを有してなる。免疫原性化合物は、好ましくは目的のタンパク質性分子に由来し、それはすなわち、前記免疫原性化合物が、目的の前記タンパク質性分子と少なくとも50%の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなることを意味する。目的のタンパク質性分子と少なくとも50%の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなる免疫原性化合物は、好ましくは目的の前記タンパク質性分子に特異的な免疫反応を誘導できる。本発明に係る免疫原性化合物はゆえに、好ましくは目的のタンパク質性分子のアミノ酸配列の少なくとも一部と少なくとも50%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。好ましい実施形態では、前記アミノ酸配列は、目的のタンパク質性分子のアミノ酸配列の少なくとも一部と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも97%の相同性を有する配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。かかる免疫原性化合物は目的のタンパク質性分子に対して免疫反応の誘発に特に適している。好ましい一実施形態では、前記免疫原性化合物は、動物が前記タンパク質性分子自体によってワクチン投与を受ける場合と比較し、目的の前記タンパク質性分子に対するより強い免疫反応を誘発できる。これは例えば、自己抗原に由来するアミノ酸配列を修飾することによって可能となる。個体の免疫系が原則として自己抗原に対する活性を有さないため、修飾された配列は天然型の配列と比較し、免疫反応の誘発が好適に行える。例えばアミノ酸配列の免疫原性を改良する方法はTDK−Alascan法及び/又は置換ネットマッピング(replacement net mapping)法などが挙げられ、公知技術である。TDK−Alascanでは、アラニンによる元のアミノ酸残基の置換を行う。置換ネットマッピング法では、元のアミノ酸残基を、他の任意のアミノ酸残基で置換する。好ましくは、複数の分子を生じさせ、それぞれの鎖のアミノ酸残基は、アラニンによって、又は他のあらゆるアミノ酸残基によって置換される。その後、例えば目的の抗原と特異的に結合できる抗体に対する結合アフィニティを測定することによって、得られる分子の免疫原性(好ましくは交差反応性を含んでなる)を試験する。所望の特徴を有する分子をその後、同定及び/又は分離する。前記分子を、免疫付与のために用いてもよく、又は他のラウンドにおいて、置換及び選抜を行い、更に最適化してもよい。当然ながら他の最適化手順も同様に適用できる。
【0018】
一実施形態では、目的のタンパク質性分子の非免疫優性部位に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70、80、90又は95%の相同性を有するアミノ酸配列が用いられる。免疫優性部位とは、目的のタンパク質性分子による免疫付与の後、免疫反応が主に標的とする部位のことを指す。かかる免疫優性部位は、例えば容易にアクセスできる。しかしながら、例えば受容体結合部位などの、免疫優性でない他の特定の部位に対する抗体を誘発することが通常望ましい。その場合、前記特定の非免疫優性部位に由来するペプチドの使用が好ましい。この実施態様は例えば、Gタンパク質共役受容体(GPCR)(例えば例えばケモカインレセプタCCR5及び/又はCXCR4)の受容体結合部位に対して特異的に免疫反応を誘導及び/又は強化することに適している。
【0019】
本発明の一態様はすなわち、立体構造の拘束を有する免疫原性化合物の使用により、目的のタンパク質性分子に対する動物の免疫反応を誘導及び/又は強化する方法の提供に関する。好ましくは、少なくとも部分的な防御的及び/又は治癒的免疫反応が誘発される。防御免疫反応は、ワクチン投与を受けた動物における、目的の前記タンパク質性分子の存在に関連する疾患が、軽減される(あるいはなくなる)ことを意味する。例えば、前記タンパク質性分子が病原体に存在する場合、動物を免疫した後では、前記動物における前記病原体による感染症が緩和され、好ましくは完全に治癒する。他の例として、前記タンパク質性分子が腫瘍に存在する場合、あるいは、腫瘍の成長に関係する場合、前記ワクチン投与をされた動物では、前記腫瘍(の成長)を予防及び/又は抑止されうる。その結果、かかる動物では、腫瘍関連の疾患が緩和されるか、又は完全に治癒する。
【0020】
治癒的免疫反応とは、目的のタンパク質性分子の存在に関連する疾患に既に罹患する動物において、前記疾患(の兆候)が良好に防止されうることを意味する。
【0021】
化合物の立体構造は、様々な方法で拘束される。好ましくは、上記立体構造は、前記化合物中の少なくとも2つの異なる部位での結合の形成により拘束される。前記化合物中の前記少なくとも2つの異なる部位の各々は、他の化合物(例えば足場)に、又は前記化合物中の他の部位に結合し、それにより内部結合が形成される。上記結合は、好ましくはエピトープの外側の部位で形成される。これは、動物の免疫系によって生じる抗体及び/又はT細胞受容体により認識されるべき目的のエピトープの一部であるアミノ酸残基が、好ましくは結合を形成するために用いられないことを意味する。なぜなら、これにより動物の免疫系による前記エピトープの認識が通常妨げられるからである。典型的には、目的のかかるエピトープは、目的のタンパク質性分子に対して免疫反応を誘発できるエピトープを含んでなる。目的のかかるエピトープのアミノ酸が結合の形成に用いられる場合、得られる化合物は、その後の目的のタンパク質性分子の認識による免疫反応の誘発が弱まるか、あるいは完全に消失する。
【0022】
結合がエピトープ内部に存在するとき、好ましくは、重要でないか又は抗体結合にほとんど関係しないアミノ酸位との間で結合が形成されなければならない。ゆえに、最も好ましくは、エピトープ中の重要なアミノ酸が、結合を形成するために用いられない。エピトープの重要なアミノ酸とは、その存在により、目的のタンパク質性分子を認識できる免疫反応を誘発するために必要とされるアミノ酸である。当業者であれば、エピトープ認識を維持しながら、どのアミノ酸残基が結合の形成に適するか、またどのアミノ酸残基を用いるべきではないかを、実験的に容易に決定できる。
【0023】
好ましい実施形態では、化合物の立体構造は、前記化合物中における少なくとも1つの内部結合の形成により拘束される。本発明の一実施形態は、2つの内部結合を含んでなる免疫原性化合物の提供に関する。他の好ましい実施形態では、本発明に係る化合物は、足場及び/又は担体に結合する。最も好ましくは、足場及び/又は担体に結合し、内部結合を含んでなる免疫原性化合物を提供する。本発明では、かかる免疫原性化合物は、化合物の免疫原性再現性及び/又は免疫原性を特異的に誘導及び/又は強化することに適している。鋭意研究の結果、例えば2つの内部結合形成などの他のタイプの結合を有する化合物と比較し、かかる化合物では、免疫原性再現性及び/又は免疫原性を誘導及び/又は強化することが可能となることを見出した。したがって、足場及び/又は担体に結合し、内部結合を含んでなる免疫原性化合物が特に好適である。前記化合物は、前記化合物の立体構造が特殊な態様で拘束されるため、少なくとも2つの結合を介して足場及び/又は担体に結合するのが好ましい。したがって、免疫原性化合物は好ましくは、少なくとも2つの結合を介して足場及び/又は担体に結合し、更に少なくとも1つの内部結合を含んでなる態様で提供される。本発明を考察すると、フリーの化合物と比較し、担体又は足場と結合した本発明の免疫原性化合物の形態が既により拘束されているにもかかわらず、前記足場に結合する化合物の形態が(好ましくは第2の結合の形成によって)更に拘束される場合においても、免疫原性の顕著な改良及び免疫原性再現性がまだ得られることが示唆される。前記第2の結合は好ましくは内部結合である。なぜなら、足場と結合した化合物内部での結合の形成が、前記化合物の免疫原性及び免疫原性再現性を強化するからである。化合物が担体又は足場と結合しているとき、化合物の立体構造は既に拘束されているため、更なる結合(内部結合又は他の化合物に対する結合)により重要な効果がもたらされるとは予想できない。しかしながら、本発明では、第2の結合の形成により顕著な改良がもたらされる。
【0024】
本発明に係る方法は特に、目的のタンパク質性分子に対して免疫反応を誘導できる免疫原性化合物の三次元構造を最適化することに適用できる。本発明に係る方法を用いてかかる免疫原性化合物の立体構造を拘束することにより、当該化合物をより多くの時間、前記タンパク質性分子の対応するエピトープの三次元構造に密接に類似する高次構造の状態に維持させる。ゆえに、エピトープの天然の三次元構造が巧妙に擬態される。したがって、本発明に係る方法は特に、タンパク質性分子中において特定の三次元構造を有するエピトープに由来する免疫原性化合物の最適化に適している。かかるエピトープの例としては、非線形エピトープ及び/又はタンパク質に存在する特定の三次元構造に存在するエピトープ(例えばループ構造など)である。かかるループ構造の好適な例は、2つの逆平行β鎖との間に通常形成されるβ−ヘアピン構造である。β−ヘアピン構造は通常、比較的容易に利用できる。その結果、免疫反応では、β−ヘアピン配列に存在するエピトープが通常標的となる。ループ構造は、シスチン−knotスーパーファミリーのメンバーにも存在する。これらのメンバーは「シスチン−knot」形態を形成するために結合した、6つのシステインによる特有の配列を有する(図4Aに示す)。シスチン−knot構造は、knotより上の2つの歪められたβ−ヘアピンループとknotの下の単一のβ−ヘアピンループとを含んでなる。免疫優性エピトープは、これらのループ中に通常存在する。かかるループ構造に存在するエピトープの三次元構造が、本発明に係る方法において模倣されるのが好ましい。ヘアピンループに由来するペプチド配列の立体構造は、好ましくは少なくとも2つの結合を介して拘束され、それにより、前記ペプチド配列の立体構造は、ヘアピンループの天然の三次元構造に酷似する。したがって、本発明は更に、化合物の免疫原性再現性及び/又は免疫原性(好ましくは交差反応性)を誘導及び/又は強化するための方法の提供に関する。前記免疫原性化合物は、目的のタンパク質性分子のアミノ酸配列の一部と、少なくとも50%、好ましくは60%、好ましくは70、75、80、85、90及び/又は95%の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部は少なくとも8つのアミノ酸残基長を有し、前記一部は前記タンパク質性分子の非線形エピトープを含んでなり、及び/又は、前記一部は、前記タンパク質性分子のループ(好ましくはヘアピンループ)に存在する、少なくとも6つのアミノ酸残基、好ましくは少なくとも8つのアミノ酸残基の配列を含んでなる。
【0025】
天然型のエピトープの三次元構造は、少なくとも部分的に前記エピトープに由来する配列を有する免疫原性化合物の立体構造を、本発明に係る方法によって拘束することにより擬態される。好ましくは、少なくとも2つの結合部位を選択し、それにより、免疫原性化合物中に得られる形態が、目的の前記タンパク質性分子中の前記エピトープの天然型形態に類似する。内部結合の位置は、例えば、化合物中に得られる立体構造が密接に目的の前記タンパク質性分子のエピトープの天然型形態に類似するように選択される。更に、又はその代わりに、前記免疫原性化合物と足場との結合部位は、化合物中に得られる立体構造が密接に目的の前記タンパク質性分子のエピトープの天然型形態に類似するように選択される。本発明に係る免疫原性化合物の立体構造はまた、用いられる足場のタイプにより影響される。なぜなら、用いられる足場のサイズ及び形状が、免疫原性化合物の全体構造に影響しうるからである。当業者であれば、本発明に係る免疫原性化合物を、目的のタンパク質性分子のエピトープの天然型形態に酷似する形態となるように、容易に設計することができる。好ましくは、少なくとも2つの結合の位置を適宜選択し、目的の前記タンパク質性分子のエピトープの天然型形態に酷似する形態を得る。これは、例えば図4B及び4Cに図式的に示すように行う。当然ながら、当該結合は好ましくは目的のエピトープ中に位置しない。なぜなら、かかる結合により、エピトープの形態及び/又はアクセスし易さが損なわれるからである。足場を用いる場合、足場の種類、及び免疫原性化合物のアミノ酸配列に結合する足場中の部位を適宜選択することにより、目的の前記タンパク質性分子のエピトープの天然型形態に酷似する形態が得られる。例えば、異なる結合部位を有する幾つかの化合物を作製して、得られる化合物の免疫原性及び/又は免疫原性再現性を実験により測定することも可能である。それにより、最適な免疫原性特性を有する化合物を選択するのが好ましい。これは、例えば実施例1に例示するように行われる。実施例1においては、内部結合の位置を変化させることによる、最適な立体構造の決定方法が教示される。当然ながら、この実施例で概説される方法により、本発明が限定されるものではない。また、異なる種類の足場(アミノ酸配列中の同一若しくは異なる位置で結合する)を有する幾つかの化合物を作製し、得られる化合物の免疫原性及び/又は免疫原性再現性を実験により決定することも可能である。
【0026】
本発明では、用語「免疫原性化合物」には、宿主の免疫反応を誘発できるあらゆる種類の化合物が包含される。必須でないが、好ましくは本発明に係る免疫原性化合物はアミノ酸配列を含んでなる。本願明細書では、更に、好ましい実施例として、アミノ酸配列を含んでなる免疫原性化合物が用いた例を記載している。
【0027】
アミノ酸配列を含んでなる免疫原性化合物の立体構造は好ましくは、上記アミノ酸配列を、直接又は間接的に、例えばリンカーを介して担体又は足場に結合させ、前記アミノ酸配列中に少なくとも1つの内部結合を形成させることによって拘束される。好ましくは、前記内部結合はジスルフィド結合(またSS−架橋とも呼ばれる)を含んでなる。なぜなら、他のアミノ酸側鎖を保護する必要なく、フリーのシステイン残基間でジスルフィド結合を選択的に形成するからである。更にジスルフィド結合は、塩基性条件でインキュベートすることによって、容易に形成される。好ましくは、ジスルフィド結合は2つのシステイン残基間で形成される。なぜなら、それらのスルフヒドリル基は容易に結合に利用できるからである。アミノ酸配列の中のSS−架橋の位置は、遊離システイン残基の位置を調整することによって容易に調整される。特に好適な実施形態では、アミノ酸配列の立体構造を最適に拘束するため、前記システインは、アミノ酸配列の最初及び最後のアミノ酸の周辺に存在する。
【0028】
当然ながら他の種類の内部結合も、本発明の免疫原性化合物の立体構造の拘束に適する。例えば、Se−Seジセレン結合を用いる。ジセレン結合の効果は、これらの結合が還元に対して非感受性であることである。ゆえに、ジセレン結合を含んでなる免疫原性化合物は、例えば動物の体内に存在する還元条件下で、それらの形態を良好に維持することができる。更に、フリーのSH−基が免疫原性化合物中に存在する(例えばSH−基が担体に対する次のカップリング反応のために使用される)とき、ジセレン結合の存在が好適である。かかるフリーのSH−基は、ジセレン結合と反応できない。別法として、又はそれに追加して、メタテーゼ(metathese)反応が、内部結合の形成に用いられる。メタテーゼ反応において、2つの末端CC−二重結合又は三重結合は、Ruの触媒作用による転移反応により形成される。かかる末端CC−二重又はCC−三重結合は、例えばペプチドNH−基のアルキル化を経て、例えば臭化アリル又は臭化プロパルギルを用いて、又はアルケニル基−又はアルキニル基含有側鎖を有する非天然アミノ酸をペプチドに導入する反応を経て、ペプチドに導入される。メタテーゼ反応は、自発的には行われず、グラブス触媒の使用により行われる。
【0029】
一実施形態では、内部結合はBr−SH環化反応により形成される。例えば、遊離システインのSH部分を、好ましくはペプチドのN末端、又はリジン(RNH)側鎖に存在するBrAc−部分と結合させる。
【0030】
更なる実施形態では、アスパラギン酸又はグルタミン酸残基のCOH−側鎖と、リジン残基のNH側鎖とを結合させる。すなわち、アミド結合を形成される。ペプチド中のフリーのCOH末端を、ペプチド中のフリーのNH末端に結合させることにより内部結合を形成させ、アミド結合を形成させることも可能である。アミノ酸配列の中で内部結合を形成するための、公知の代替的な方法を利用してもよい。
【0031】
原則として、内部結合は、少なくとも1つの目的のエピトープの、一次、二次及び三次配列が基本的に維持される限り、免疫原性アミノ酸配列中でどの部分でも形成されうる。1つの好ましい実施形態では、結合は、N末端の10アミノ酸配列のうちの任意の1つと、C末端アミノ酸配列のうちの10のアミノ酸残基のうちの任意の1つとの間で形成される。好ましくは、結合は、N末端の6アミノ酸配列のうちの任意の1つと、C末端アミノ酸配列のうちの6のアミノ酸残基のうちの任意の1つとの間で、より好ましくはN末端の4アミノ酸配列のうちの任意の1つと、C末端アミノ酸配列のうちの4のアミノ酸残基のうちの任意の1つとの間で、形成される。当然ながら内部結合の形成に適する部位は、目的の1つ以上のエピトープの位置に依存する。1つの好ましい実施形態では、結合は、免疫原性アミノ酸配列の最初と最後のアミノ酸残基間で形成される。
【0032】
本発明に係る免疫原性化合物は好ましくは、足場及び/又は担体が免疫原性を強化するため、足場及び/又は担体に結合するアミノ酸配列を含んでなる。1つの好ましい実施形態では、前記アミノ酸配列は内部結合を含んでなる。したがって、足場及び/又は担体に結合するアミノ酸配列を含んでなる免疫原性化合物(前記アミノ酸配列が少なくとも1つの内部結合を含んでなる)は、もまた提供される。免疫原性化合物は更に、アミノ酸配列の柔軟性を制限するため、好ましくは少なくとも2つの結合を介して足場及び/又は担体に結合する。最も好ましくは、少なくとも1つの内部結合を含んでなるアミノ酸配列が、少なくとも2つの結合を介して足場又は担体に結合する。この方法により、免疫原性及び/又は免疫原性再現性が特に強化される。特に好適な実施形態では、前記足場は、国際公開第2004/077062号にて開示されるような、少なくとも第1及び第2の反応基を有する(ヘテロ)芳香族分子(好ましくは少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族分子)を含んでなる。2つのベンジルハロゲン置換基は好ましくは、アミノ酸配列を連結するための第1及び第2の反応基として用いられる。アミノ酸配列は、好ましくは国際公開第2004/077062号に記載の方法を使用して足場に結合する。簡潔には、少なくとも第1及び第2の反応基を有する足場が提供される。前記少なくとも第1及び第2の反応基と反応できるアミノ酸配列は、前記アミノ酸配列が、前記少なくとも第1及び第2の反応基と反応して、前記足場と前記アミノ酸配列との間の少なくとも2つの結合を形成できる条件下で、前記足場と接触し、その際、第1の結合の形成が、連続的な結合の形成を加速する。それにより、高次構造が拘束されたループ構造が形成される。国際公開第2004/077062号に従う方法及び足場を利用する利点としては、アミノ酸配列が迅速な、単純な、及び直接的な態様でこれらの足場に結合しうることである。国際公開第2004/077062号にて開示される方法を用いることにより、非保護ペプチドの使用が可能になった。ゆえに、面倒な保護及び脱保護ステップが必要ない。更に、足場を選択的に官能化する必要がない。更に、国際公開第2004/077062号にて開示される足場を使用したカップリング反応は、溶液における反応にも適している。アミノ酸配列は好ましくは、水溶液中で、国際公開第2004/077062号に記載の方法を使用して足場に結合させ、それにより、(有毒な)有機溶剤の使用が制限されるか、更には回避されうる。水は環境に対する負担が小さく、また凍結乾燥にすることによって容易に除去できる。更に、多くの非保護ペプチドは(大部分の塩類と同様に)水溶解性が高く、重炭酸アンモニウム(少ない揮発性の塩の1つ)の使用も可能となるため、水溶液のpHを7.8〜8.0(わずかに塩基性のpH)に設定することができる。
【0033】
第1の結合の形成が、第2の結合の形成を加速するため、国際公開第2004/077062号に従う、足場に対するアミノ酸配列の結合は、反応カスケードなどの迅速な協奏的プロセスとして生じる。第1の反応基を経た第1の結合(また(化学的)結合又は連結と呼ばれる)の形成は、第2の反応基及びその他の反応基の反応性を強化し、それにより、その活性化効果は1つの反応基から次の反応基まで「引き継がれ」ることとなる。前記化学反応は、足場の分子骨格を基本的に変化させることなく、官能基の変化をもたらす。例えば、国際公開第2004/077062号において用いられる、少なくとも2つの反応性基を含んでなる足場分子は、足場の反応性基がアミノ酸配列との新規な結合に関与しつつ、コア構造又は足場の骨格が直接カップリングには関与しない態様で、アミノ酸配列と反応できる。
【0034】
実施形態では、少なくとも2つの同一の反応性基を含んでなる合成足場は、1つ以上の免疫原性ペプチドに結合する。前記1つ以上免疫原性ペプチドは、足場への1つ以上のペプチドの結合の前若しくは後に、第2の結合(好ましくは内部結合)を更に形成する。適切なペプチドは、足場上の少なくとも2つの反応性基と反応して、1つ以上の前記ペプチドと前記足場との間の少なくとも2つの結合を形成できる全てのペプチドを含んでなり、それにより、典型的には足場上にループ状若しくは環状のペプチドが形成される。有機化学的にいえば、かかる結合形成の本質は、電荷の吸引及び電子運動である。好ましい実施形態では、アミノ酸配列及び足場間のカップリング反応は、フリーの求核性を有するアミノ酸配列が足場と反応する求核置換反応である。求核原子は典型的には、結合形成の際、親物質との間で電子対を共有する。換言すれば、求核原子は、反応性の電子欠乏中心(原子)を探している。求核原子は負に荷電してもよく、又は荷電しなくてもよく、例えば炭素以外の孤立電子対を有するヘテロ原子を含んでもよく、アルケン又はアルキンの場合はπ電子を有してもよい。求電子物質(「求電子種」)は電気的に中性若しくは正に荷電し、電子が運動するための幾つかの場を有する(空の電子軌道(BHなど)又は潜在的に空の電子軌道であってもよい)。好ましい実施形態では、前記求核基としてはチオール又はスルフヒドリル基などが挙げられる。チオール基は、飽和炭素原子を置換するための有効な求核基である。求核基を有するアミノ酸配列を提供することは通常困難でない。例えば、システイン残基をアミノ酸配列に導入することによって、アミノ酸配列は、そのチオール部分によって容易に官能化される。
【0035】
飽和炭素原子において生じる求核反応に共通の特徴としては、当該炭素原子がヘテロ原子(炭素原子又は水素原子以外の原子と本願明細書では定義される)と結合することである。更にヘテロ原子は通常、炭素原子より負に帯電し、置換反応におけるいわゆる脱離基(L)としても機能する。脱離基は、最初に炭素原子に結合していた電子対と共に脱離する。好ましい実施形態では、少なくとも2つの脱離基を含む足場を用い、少なくとも1つのアミノ酸配列との少なくとも2つの結合の形成を容易にする。脱離基の脱離しやすさは、その基の塩基性と関連がある。弱塩基は一般に、それらが効果的に電子対をできるため、良好な脱離基である。反応基の反応性は主に、脱離基の脱離能により規定される。反応基の反応性とのなんらかの関係がある他の要因は、脱離基と炭素原子との間の結合の強さである。なぜなら、置換が生じる場合には、この結合を破壊する必要があるからである。
【0036】
すなわち、好ましい実施形態では、各々良好な脱離基を含んでなる少なくとも2つの反応性基を含んでなる足場を、本発明に係る方法で用いる。良好な脱離基は通常、強酸の共役塩基である。重要な脱離基は、5以下のpKa値を有する酸の共役塩基である。特に興味深い脱離基としては、ハロゲン化物イオン(例えばI−、Br−及びCl−)が挙げられる。ハロゲン化アルキルの炭素−ハロゲン(C−X)結合は、炭素上の部分的な正電荷及びハロゲン上の部分的な負電荷を有するため、極性を有する。すなわち、炭素原子は求核物質(一対の電子を供与する物質)による攻撃に影響されやすく、またハロゲンはハロゲン化物イオン(X−)として(C−X結合から2つの電子を有した状態で)脱離する。したがって、一実施形態では、アミノ酸配列は足場上の反応基と結合し、上記反応基は求核物質による攻撃に影響されやすい炭素原子を含んでなり、前記反応基は炭素−ハロゲン結合を含んでなる。好ましい実施形態では、かかる反応性基のうちの少なくとも2つを含んでなる足場を用いて、求核物質として、2つのSHで官能化されたペプチドと反応させる。本発明は、少なくとも1つのループ状ペプチド構造を有する足場を含んでなる免疫原性化合物を得る方法の提供に関し、前記方法は、少なくとも1つのペプチドと前記足場を接触させるステップを有してなり、前記足場はハロゲノアルカンを含んでなり、その後で、結合されたペプチドが、第2の結合(好ましくは内部結合)を形成する。あるいは上記ペプチドは、第2の結合(好ましくは内部結合)を形成した後で、ハロゲノアルカンに結合してもよい。ハロゲノアルカン(別名ハロアルカン又はハロゲン化アルキル)とは、鎖中の1つ以上の炭素原子に結合するハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)を含んでなる化合物である。2つのハロゲン原子を含んでなるジハロ足場、及びトリ−及びテトラハロ足場が、高次構造が拘束された化合物の合成(例えば、1つ以上のループ状ペプチド部分からなるペプチド構造を、前記足場に結合させる反応)において特に好適であり、その際、ループ状のペプチド部分は、第2の結合(好ましくは内部結合)を更に形成する。
【0037】
一般に、良好な脱離基は負電荷を有し、炭素原子を極性化させ、脱離した後も、それは1対の余分の電子対の存在により安定であり、極性化されて遷移状態を安定化させることができる。ヨウ素を除き、全てのハロゲンは炭素原子より負に荷電している。塩素及び臭素はほぼ同様の電気陰性度を有し、炭素を有する結合を同様に極性化させる。イオン化したとき、両方とも非常に弱い塩基性を示し、2つのうちで臭素がより弱い。臭化物イオンは、サイズが大きいため、極性化しやすい。従って、免疫原性ペプチドは好ましくは、少なくとも2つのCl原子を含んでなる足場に結合し、より好ましくは、少なくとも1つのCl原子及び少なくとも1つのBr原子を含んでなる足場と結合し、更に好ましくは、少なくとも2つのBr原子を含んでなる足場と結合する。
【0038】
好ましい実施形態では、高次構造的に拘束されたアミノ酸配列は、アリル基系を含んでなる足場と結合する。アリル基系中には、少なくとも3つの炭素原子が存在し、そのうちの2つは炭素−炭素二重結合により結合する。好ましい実施形態では、足場と免疫原性ペプチドとの間の結合の形成は、アリル基置換反応を介してなされる。アリル基置換反応とは、アリル基系の1位、すなわち2位と3位との間に存在する二重結合において起こる置換反応のことを指す。攻撃する基は脱離基としての原子1に結合するか、又は、攻撃する基は相対的に3位の位置で結合し、二重結合を2/3から1/2へ変化させる。アリル基置換の反応速度は非常に高い。なぜなら、アリルカチオン反応中間体(正電荷を有する炭素原子が二重結合炭素原子に結合した状態)は非常に安定だからである。これは、アリルカチオンが、2つの等価な構造の共鳴混成体を形成するからである。存在するいずれの構造においても、空のp電子軌道と、π電子雲とを有する、電子が不足した炭素原子が存在する。二重結合のπ電子雲によるこの空のp電子軌道の重なりにより、π電子の正規の場所からの移動を生じさせ、それにより電子が不足している炭素に電子を供与し、カチオンを安定化させる。
【0039】
少なくとも2つのアリルハロゲン原子を含んでなる足場は、更に好適である。電子の脱分極のため、ハロゲン化アリルは非常に迅速にイオン化する傾向を有し、カルボカチオン及びハロゲン化物イオンを生じさせ、それにより、炭素−ハロゲン化物の結合の切断が急速に行われる。本発明の別の実施形態では、炭素−酸素二重結合(すなわちカルボニル基)が、足場に存在する。それにより、同様にアリル基系内に、カルボカチオンを安定化させる共鳴構造が形成される。例えば、足場は、−C(O)−CH−ハロゲンの構造を有する2つ以上の反応性基を含んでなる。
【0040】
更に、求核置換反応では、基質の構造は、脱離基の性質としての、非常に重要な役割を演ずる。例えば、求核物質が炭素の後方を攻撃する場合、脱離基がメチルに結合している場合、反応は妨害されずに進行する。その際、水素原子は炭素を攻撃するのに十分な表面を生じさせる。その炭素が更に置換されている場合、基のサイズが大きくなるため、求核原子が脱離基を置換するために通る経路が妨害される。これらの理由により、足場が少なくとも2つのハロメチル基を含んでなることは有利である。
【0041】
一実施形態では、足場は共役型ポリエン(別名芳香族化合物又はアレーン)を含んでなる。それは少なくとも2つの反応性基により形成される。芳香族化合物は平坦であり、分子平面の上下に、非局所化されたπ電子の環状の雲が形成されている。好ましくは、少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基(例えばハロメチル基など)を含んでなる分子足場を用いる。適切な例としては、限定されないが、ジ(ハロメチル)ベンゼン、トリ(ハロメチル)ベンゼン又はテトラ(ハロメチル)ベンゼン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。ベンジルハロゲン置換基の利点としては、主に芳香族化合物として公知の共役型ポリエンの共鳴に関連する特殊な安定性が得られることが挙げられ、特にベンジルハロゲン原子には、求核置換反応を生じさせる炭素原子を残すという更に有用な傾向を有する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、アミノ酸配列が、少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族分子を含んでなる足場に、少なくとも2つの結合を介して結合し、前記アミノ酸配列の立体構造が、好ましくは内部結合を介して更に拘束されることを特徴とする方法の提供に関する。好ましくは前記内部結合は、内部ジスルフィド結合を含んでなる。前記アミノ酸配列は好ましくは、アミノ酸配列中の2つの遊離システインチオールを使用して、上記(ヘテロ)芳香族分子に結合する。好ましくは、前記足場は、ハロメチルアレーンであり、好ましくはビス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及びテトラ(ブロモメチル)ベンゼンからなる群、並びにそれらの誘導体から選択される。好ましくは前記足場は、オルト−、メタ−及びパラ−ジハロキシレン及び1,2,4,5テトラハロジュレンからなる群から選択される。前記足場は、最も好ましくはメタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(m−T2)、オルト−1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(o−T2)、パラ−1,4−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(p−T2)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ピリジン(m−P2)、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレン(T3)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)−5−アジドベンゼン(m−T3−N3)、及び/又は1,2,4,5テトラブロモジュレン(T4)を含んでなる。
【0043】
本発明はすなわち、結合前記アミノ酸配列(そのアミノ酸配列は好ましくは2つの遊離システインチオールを含んでなる)と、少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族分子、好ましくはハロメチルアレーン、より好ましくはビス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及び/若しくはテトラ(ブロモメチル)ベンゼン、又はそれらの誘導体と、を結合させるステップと、前記アミノ酸配列中に少なくとも1つの内部結合を形成させるステップを有してなる、アミノ酸配列の免疫原性及び/又は免疫原性再現性を誘導及び/又は強化する方法の提供に関する。前記内部結合は、上記アミノ酸配列の足場への結合の前若しくは後に形成される。好ましくは、カップリング反応をさせた後に、前記内部結合を形成させる。前記アミノ酸配列は好ましくは、少なくとも2つの結合を介して(ヘテロ)芳香族分子に結合し、前記アミノ酸配列の立体構造を具体的に拘束する。最も好ましくは、1つのアミノ酸配列を内部結合の形成に用い、m−T2、o−T2、p−T2、m−P2、T3、m−T3−N3及び/又はT4に結合させる。
【0044】
好適な分子足場にはまた、より小さい若しくは大きな環状構造を有する多環式芳香族化合物が包含される。しかしながら、適切な足場は炭化水素に限定されない。むしろ、複素環式芳香族の足場(環状構造中に炭素以外の少なくとも1つの原子(最も一般的には窒素、酸素又は硫黄)を有する環状分子)も好適である。それらの例としては、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、3−ピロリン、ピリジン、ピリミジン及びそれらの誘導体などが挙げられる。好適な複素環式芳香族の足場としては、少なくとも2つのハロメチル基を含んでなるそれらが挙げられるが、これらに限られない。好適な足場は、メタ−ジブロモ−ピリジンである。他の実施形態では、1つのアミノ酸配列を、複数の芳香族環状構造(例えば融合環を有する芳香族化合物)をベースとするか、又はそれを含んでなる足場に結合させる。炭素−炭素結合を共有する2つの芳香環は、融合していると称される。それらが少なくとも2つの反応性基を含むと仮定した場合、適切な融合芳香環足場としては、例えばナフタレン、アントラセン又はフェナントレン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。好ましい実施形態では、融合芳香環足場は、少なくとも2つの反応性基を含んでなり、各基は非常に反応性の高いベンジルハロゲン原子(例えばハロメチル基)を含んでなる。複数の芳香族若しくは共役系分子を含んでなり、その系が一対の炭素原子を共有しない分子であっても、足場分子として有用である。例えば、足場は多環系又は融合環構造を含んでなり、例えば芳香族(ベンゼン)環が炭素−炭素結合を介して直接結合した足場が使用される。あるいは、前記環は、少なくとも1つの原子を含んでなるリンカーを介して結合する。適切な足場の例を、図1から3に列挙する。商業的な観点から、本発明に係る足場は、比較的低コストで市販されているものを多量に入手して使用するのが好ましい。例えば、ジブロモ足場である1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼンは、1gあたり約5ユーロで現在市販されている。
【0045】
典型的には、本発明に係る方法に用いられるペプチド分子は、合成ペプチド(例えば標準的なペプチド合成手順を用いて調製)である。合成ペプチドは、当技術分野で公知の様々な手順を使用して得られる。これらとしては、固相ペプチド合成(SPPS)及び液相有機合成(SPOS)などが挙げられる。SPPSは、小さいペプチド及びタンパク質を合成する迅速且つ簡便な方法である。C末端アミノ酸を、例えばリンカー分子による酸性変化しやすい結合を介して、架橋ポリスチレン樹脂に結合させる。この樹脂は合成に使用する溶媒に不溶性であり、操作が比較的単純であり、過剰な試薬及び副産物を迅速に洗浄除去することができる。適切なペプチドとしては、様々な長さのペプチドが存在する。本願明細書に例示されるように、3アミノ酸残基のオリゴペプチドから、27残基長のポリペプチドまで、方法、のセクションで使用されている。適切なペプチドの最大限の長さ又はサイズは基本的に、ペプチド合成を使用して得ることができる長さ又はサイズに依存する。一般に、大きな問題なく、最高30のアミノ酸残基のペプチドを合成することができる。
【0046】
国際公開第2004/077062号に記載の足場へのアミノ酸配列の結合では、非保護アミノ酸配列の使用も可能である。非保護アミノ酸配列に存在してはならない唯一の官能基はシステインSHである。なぜなら、それはカップリング反応に関与するからである。本発明の一実施形態では、足場に対する結合に用いられる2つの遊離システイン残基の他に少なくとも2つの更なるシステイン(Cys)残基を含んでなる、アミノ酸配列を用いる。カップリング反応における、これらの更なるCysチオール基の不必要な関与を防止するための単純な方法としては、例えば、ペプチド合成中にFmoc−Cys(Acm)(Fmoc−アセトアミドメチル−L−システイン)を使用し、被保護Cys残基を導入することである。あるいは、Fmoc−Cys(StBu)−OH、及び/又は対応するBocアミノ酸を用いることである。Acm又はStBu基は、通常のTFA脱保護−切断反応中に除去されないが、Acm基の場合には酸化的処理(I2/VitC)、又はStBu基の場合には還元的処理(BME(過剰)、又は1,4−DTT(過剰))を行い、ペプチドを還元型スルフヒドリル形態とする必要がある。それらは直接使用してもよく、又はその後酸化させて対応するシスチニルペプチドとしてもよい。一実施形態では、少なくとも1つのCys誘導体、例えばCys(Acm)又はCys(StBu)などのペプチドを用い、Cys−チオール基の選択的マスキングを実施してもよい。選択的なCys−チオール基のアンマスキングにより、所望の時点において、例えば足場とペプチドとの間のカップリング反応の完了後などにおいて、反応に利用できるCys−チオール基を作製することができる。これは例えば、ペプチドを足場に結合させた後で、ペプチド内に内部結合を形成させる場合において、非常に魅力的である。例えば、好ましい実施形態では、2つの被保護Cys誘導体、及び他の位置に存在する2つの非保護Cys残基を含んでなる、直鎖状ペプチドを合成する。その後で、2つのSHで官能化されたペプチドを、少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族足場に結合させ、足場上にループ状のペプチド構造が確立される。その後、2つのCys誘導体をアンマスキングし、内部ジスルフィド架橋を形成させる。
【0047】
本発明は更に、少なくとも2つの結合を経て足場及び/又は担体と結合するアミノ酸配列を含んでなり、前記アミノ酸配列が少なくとも1つの内部結合を含んでなる化合物の提供に関する。一実施形態では、前記内部結合としてはSS−架橋が挙げられ、好ましくは前記アミノ酸配列中の2つのシステイン残基間の架橋である。なぜなら、それらのスルフヒドリル基が結合に容易に利用できるからである。前記システインは好ましくは、アミノ酸配列中の最初及び最後の位置のアミノ酸の周辺に位置し、それにより、少なくとも部分的に、自由に回転できるペプチド端の形成が回避される。好ましくは前記化合物は、免疫原性化合物及び/又はタンパク質擬態物を含んでなる。本発明に係るタンパク質擬態物の非限定的な例としては、タンパク質の結合特性を模倣(例えばレセプタの活性化、又はレセプタの阻害)するペプチドである。説明したように、結合が形成される部位は、前記アミノ酸配列中の、少なくとも1つの目的のエピトープの位置に依存する。一般に、結合はエピトープ配列中の部位で形成されない。なぜなら、免疫原性が減弱されるからである。
【0048】
本発明に係る免疫原性化合物は好ましくは、少なくとも2つの結合を経て足場と結合するアミノ酸配列を含んでなる。なぜなら、前記化合物の立体構造が好適に拘束されるからである。説明したように、前記足場は好ましくは少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基(好ましくはハロメチルアレーン)を有する(ヘテロ)芳香族分子を含んでなる。好適な足場は、ビス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及びテトラ(ブロモメチル)ベンゼン、又はそれらの誘導体である。本発明に係る免疫原性化合物は好ましくは、以下からなる群から選択される足場を含んでなる:オルト−、メタ−及びパラ−ジハロキシレン及び1,2,4,5テトラハロジュレン。好ましくはそれらは、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(m−T2)、オルト−1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(o−T2)、パラ−1,4−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(p−T2)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ピリジン(m−P2)、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレン(T3)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)−5−アジドベンゼン(m−T3−N3)、及び1,2,4,5テトラブロモジュレン(T4)からなる群から選択される。
【0049】
本発明に係る免疫原性化合物は、所望の免疫反応を誘導及び/又は強化することに特に適している。一実施形態では、本発明に係る免疫原性化合物は、薬理学的に許容できる担体、アジュバント、希釈剤及び/又は賦形剤と組み合わされることにより、抗体産生又は体液性免疫反応が強化される。適切な担体の例としては、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン(例えばBSA又はRSA)及びオバルブミンなどが挙げられる。多くの適切なアジュバント(油ベース及び水ベース)が当業者に公知である。一実施形態では、前記アジュバントはSpecolを含んでなる。他の実施形態では、前記適切な担体は、例えば生理食塩水などの溶液であってもよい。
【0050】
本発明に係る免疫原性化合物と、薬理学的に許容できる担体、アジュバント、希釈剤及び/又は賦形剤と、を含んでなる免疫原性組成物もまた提供される。前記免疫原性組成物は好ましくは、防御免疫反応を誘導できるワクチンを含んでなる。あるいは、又はそれに加えて、本発明に係る免疫原性化合物を使用することにより、治癒的免疫反応を誘導及び/又は強化し、疾患に罹患する患者を治療する。薬剤及び/又はワクチン用の、本発明に係る免疫原性化合物も提供される。本願明細書に記載のような予防的及び/又は治療的用途で使用される、本発明の化合物の投与量範囲は、厳密なプロトコル要件が存在する臨床試験における投与量試験を基礎として設計される。典型的には、投与量は、0.01〜1000μg/kg体重、具体的には約0.1〜100μg/kg体重で変化させることができる。
【0051】
本発明に係る免疫原性化合物は好ましくは、目的のタンパク質性分子に由来するアミノ酸配列を含んでなり、それにより、前記目的のタンパク質性分子に対する免疫反応が誘発される。一実施形態では、前記目的のタンパク質性分子は、以下からなる群から選択される:シスチン−knotファミリー、膜貫通タンパク質、TNF−α、HGF/SF、FGF−β、インターロイキン、IL−5、ケモカイン、Gタンパク質共役受容体、CCR5、CXCR4、IGF、LMF、エンドセリン−1、VIP、CGRP、PIF、EGF、TGF−α、ErbBファミリー、HER1/EGF−R、HER2/neu、HER3、HER4、p53、コルチコトロピンRF、ACTH、副甲状腺ホルモン、CCK、P物質、NPY、GRP、ニューロトロフィン、アンギオテンシン−2、アンジオゲニン、エリスロポエチン、ニューロテンシン、SLCLC、SAES由来タンパク質、HIV由来タンパク質、乳頭腫ウイルス由来タンパク質及びFMDV。好ましくは、これらのいずれかの目的のタンパク質性分子に対する免疫反応を誘発及び/又は強化することにより、前記目的のタンパク質性分子の存在に関連する障害を予防及び/又は抑止できる。更には、以下のメンバーの存在に関連する障害に対する薬剤及び/又はワクチンの調製への、本発明に係る免疫原性化合物の使用が提供される:システイン−knotファミリー、膜貫通タンパク質、TNF−α、HGF/SF、FGF−β、インターロイキン、IL−5、ケモカイン、Gタンパク質共役受容体、CCR5、CXCR4、IGF、LMF、エンドセリン−1、VIP、CGRP、PIF、EGF、TGF−α、ErbBファミリー、HER1/EGF−R、HER2/neu、HER3、HER4、p53、コルチコトロピンRF、ACTH、副甲状腺ホルモン、CCK、P物質、NPY、GRP、ニューロトロフィン、アンギオテンシン−2、アンジオゲニン、エリスロポエチン、ニューロテンシン、SLCLC、SARS由来タンパク質、HIV由来タンパク質、乳頭腫ウイルス由来タンパク質及び/又はFMDV。
【0052】
特に好適な実施形態では、本発明に係る免疫原性組成物のアミノ酸配列は、シスチン−knotファミリーのメンバーに由来する。シスチン−knot(Cys−knot)ファミリーのメンバーは、6つのシステインが特殊な配置で結合して形成された、「シスチン−knot」形態を有する。これらの活性型のタンパク質は、二量体(ホモ又はヘテロ二量体)である。それらの形状ゆえに、二量体として形成されるための、シスチン−knot成長因子の存在が、固有の要件であると考えられる。組織中のこの濃度が過剰になることにより、この単純な構造モティーフの周辺で構築される構造バラエティが豊富になる。Cys−knotファミリーの多くのメンバーは成長因子である。
【0053】
トランスフォーミング成長因子β2(TGF−β2)、血小板由来成長因子(PDGF)、神経成長因子(NGF)及びヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の結晶構造中において、6つの保存されたシステイン残基(配列順序のCysVIに対するCysI)が、knot様のトポロジーでの配置で3つのジスルフィド結合を形成する。2つのジスルフィド結合(CysIIとCysVとの間([CysII−V])、及びCysIII及びCysVIとの間([CysIII−VI]))は、8つのアミノ酸からなるリング様構造を形成し、それを介して、残りのジスルフィド結合(CysI及びCysIVとの間)が貫通する形をとる(図4Aを参照)。ジスルフィド結合に関与する保存されたシステインIからVIの硫黄(S)原子は、典型的にはS1からS6と称される。6つ以上のシステイン残基を有するシスチンknot領域も存在する。通常、二量体化の間に、「余分の」システイン残基を用いて、シスチンknotドメイン内のジスルフィド結合、又は鎖間のジスルフィド結合が更に生じる。しかしながら、相同性及びトポロジに基づいて、どのシステインがCysIからCysVIの6つの保存された残基であるかを示すことは通常可能である(下記参照)。
【0054】
ジスルフィド結合の同様のknot配列が、電位型Ca2+チャネルと結合する幾つかの酵素阻害剤及び神経毒の構造中で発見されている(McDonaldら、1993,Cell 73 421−424)。しかしながら、それらの配列では、シスチントのトポロジが異なる(Cys[III−VI]が、Cys[I−IV]とCys[II−V]とにより形成される大環状構造を通過している)。すなわち、シスチン−knotタンパク質は、その構造から2種類に分類できる(成長因子タイプ、及び阻害剤様のシスチンknot)。
【0055】
シスチン−knot成長因子スーパーファミリーは、以下のサブファミリーに分類される:糖タンパク質ホルモン(例えば小胞刺激ホルモン(FSH))、トランスフォーミング成長因子β(TGF−β)タンパク質(例えば骨形成タンパク質4)、血小板由来成長因子様(PDGF様)タンパク質(例えば血小板由来成長因子A)、神経成長因子(NGF)(例えば脳由来向神経因子)(また表1及び2を参照)など。
【0056】
表1:Cvs−knotタンパク質サブファミリーの概要
糖タンパク質ホルモン−αファミリー、
糖タンパク質ホルモン(又は性腺刺激ホルモン)−α1,2(GLHA−1,2)、
糖タンパク質ホルモン−βファミリー、
絨毛膜性腺刺激ホルモン−β(β−CG)、
性腺刺激ホルモン−β1,2(GTH−I,II)、
小胞刺激ホルモン(又はフォロトロピン)−β(FSH−β)、
黄体ホルモン−β(又はルトロピン)−β(β−LH)、
甲状腺刺激ホルモン(又はチロトロピン)−β(TSH)、
コンタクチン−関連タンパク質様2前駆体(CTA−2)、
糖タンパク質ホルモンβ−5前駆体(GPB−5)、
神経成長因子ファミリー、
神経成長因子(NGF)、
ニューロトロフィン−3,4,5,7(NT−3,4,5,7;HDNF)、
脳由来向神経性因子(BDNF)、
PDGF−ファミリー、
血小板由来成長因子A,B−1,2(PDGF−A,B−1,2)、
PDGF関連トランスフォーミングタンパク質sis(TSIS、SMSAV、P28SIS)、
胎盤成長因子(PLGF)、
血管内皮成長因子A,B,C,D,H(VGEF−A,B,C,D,H)、
血管内皮成長因子トキシン(TXVE、SWEGF、ICPP)、
トランスフォーミング成長因子スーパーファミリー、
トランスフォーミング成長因子β1−5(TGFβ1−5)、
アクチビン−β(インヒビン−β)、
ATP依存性CLP−プロテアーゼATP−結合サブユニットCLPX(CLPX)、
骨形成タンパク質2−8,10,15(BMP2−8,10,15)、
60Aタンパク質前駆体(グラスボートタンパク質、60A)、
CET−1 線虫、
デカペンタプレジックタンパク質前駆体(DECA)、
DVR1−タンパク質前駆体(植物極VG1タンパク質)、
ドルサリン−1前駆体(DSL1)、
XNR−1,2,4(ツメガエル属)、
ZNR−1(ゼブラフィッシュ)、
VG1(ニワトリ)、
胎盤骨形成タンパク質結節状前駆体(NODA)、
ノウム病タンパク質(NDP)、
前立腺分化因子(PDF)、
(胚性)成長分化要因1−9(GDF−1−9)、
グリア細胞株由来向神経因子前駆体(GDNF)、
左右決定因子−b前駆体(左利き−bタンパク質、LFTB)、
巨大核細胞刺激因子(MSF)、
ムチン−2前駆体(腸ムチン−2)、
ミューラー管抑制因子(MIS)、
ニュールツリン前駆体(NRTN)、
ペルセフィン前駆体(PSPN)、
スクレオスチン(SOST)、
スクリュータンパク質前駆体(SCW)、
ユニヴィン前駆体(UNIV)。
【0057】
表2:Cys−knotタンパク質ファミリーの様々なメンバーのアラインメント
【表1】

【0058】
全ての成長因子のシスチンknot構造は同様のトポロジを有し、knotより上の2つの歪められたβヘアピン(β−1及びβ−3)ループと、knotの下の1つの(β−2)ループを有する。β−1ループはCysI及びCysIIとの間のアミノ酸の伸展により形成され、β−2ループはCysIII及びCysIVとの間のアミノ酸により形成され、β−3ループはCysIV及びCysV(図4Aを参照)との間のアミノ酸により形成される。ヘアピンループのサイズ(すなわち示されたシステイン間のアミノ酸の数)は、ファミリーの間で著しく異なりうる。
【0059】
特に好適な実施形態では、本発明に係る免疫原性化合物は、動物において、糖タンパク質ホルモン−β(GLHB)サブファミリー、血小板由来成長因子(PDGF)サブファミリー、トランスフォーミング成長因子(TGF)サブファミリー、神経成長因子(NGF)サブファミリー又は糖タンパク質ホルモン−α(GLHA)サブファミリーのメンバーに対して免疫反応を誘導及び/又は強化できるアミノ酸配列を含んでなる好ましくは、前記アミノ酸配列は、前記シスチン−knotタンパク質ファミリーの少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。相同性が高いほど、前記シスチン−knotタンパク質ファミリーに対する免疫反応の誘発が、特異的になる。これらのサブファミリーは、多くの異なる種類の癌の形成及び増殖において重要な役割を果たす。したがって、これらのサブファミリーの少なくとも1つのメンバーに特異的な免疫反応の誘発は、この種の疾患の予防及び/又は抑止にとり有用である。更に、これらのサブファミリーの幾つかのメンバーは、生殖力の調節に関与している(hCG、FSH)。
【0060】
特に好適な実施形態では、VEGFに対する免疫反応を誘導できる免疫原性化合物の、免疫原性及び/又は免疫原性再現性が強化される。VEGF(特定のVEGF−A/B、VEGF−C及び/又はVEGF−Dにおいて、)に対する免疫反応を誘発及び/又は強化することは、(リンパ)血管新生とは反対に作用する。これは例えば、個体が腫瘍関連の疾患に罹患する、あるいは罹患する危険性を有する場合に望ましい。腫瘍成長は、(リンパ)血管新生を必要とし、その際、新しい血管(又はリンパ管)の形成がなされ、それにより、栄養分が腫瘍部位へ輸送され、また腫瘍からの老廃物が輸送され、また拡散する。したがって、(リンパ)血管新生に反対に作用させることにより、腫瘍の成長及び拡散を防ぐことができる。(リンパ)血管新生では、内因性成長ホルモン(例えば血管内皮成長因子(VEGF−A/B、VEGF−C及び/又はVEGF−D))の作用が伴う。ゆえに、かかる成長因子の作用に間接的に反対に作用させることにより、腫瘍成長に反対に作用する(血管新生が少なくとも部分的に防止されるため)。
【0061】
同様に、胎盤成長因子(PlGF)も血管新生に関与する。従って、PlGFに対する免疫反応の誘発により、血管新生とは反対の作用が生じ、間接的に腫瘍成長と反対の作用が生じる。PlGFは主に腫瘍組織中での血管新生に関与するが、通常の組織の血管新生にはほとんど関与しないか全く関与しないため、PlGFに対する免疫反応を誘発及び/又は強化する治療は、好ましくない副作用が回避できるため、好ましい。
【0062】
更なる好ましい実施形態では、hCGに対する免疫反応を誘導できる、免疫原性化合物の免疫原性及び/又は免疫原性再現性が強化される。hCGは通常、腫瘍組織において過剰発現する。したがって、hCGに対する免疫反応の誘発により、腫瘍組織が攻撃される。hCGは通常、妊娠中にのみ発現されるため、非妊娠個体においては、好ましくない副作用は少なくとも部分的に回避されうる。
【0063】
更に、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(HER)、及び肝細胞成長因子/刺激因子(HGF/SF)は通常、腫瘍組織において過剰発現する。したがって、これらのタンパク質に対する免疫反応によっても、腫瘍組織が攻撃される。VEGF、hCG、PlGF、HER及び/又はHGF/SFに対する免疫反応は好ましくは、前記タンパク質に少なくとも部分的に由来するアミノ酸配列の使用によって誘発される。説明したように、上記アミノ酸配列は例えば、好ましくはTDK−Alascan法及び/又は置換ネットマッピング法を使用して最適化されるが、必須というわけではない。この方法により、免疫原性が強化される。したがって、更に提供される本発明に係る免疫原性化合物は、VEGF、hCG、PlGF、HER及び/又はHGF/SFのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。また、腫瘍関連の疾患に対する薬剤及び/又はワクチンの調製への、前記免疫原性化合物の使用、並びに腫瘍関連の疾患に対するワクチンを動物に投与する方法であって、前記動物に本発明に係る免疫原性化合物を適切な投与量で投与するステップを有してなる方法の提供に関する。前記免疫原性化合物は、VEGF、hCG、PlGF、HER及び/又はHGF/SFのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。また、本発明に係る免疫原性化合物の使用であって、前記免疫原性化合物が、hCGのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、生殖力調節のための薬剤及び/又はワクチンの調製への使用もまた提供される。
【0064】
PlGFは主に腫瘍組織の血管新生に関与するが、VEGF(VEGF−A/B、VEGF−C及びVEGF−D)もまた、別の(非腫瘍)組織の血管新生において重要な役割を果たす。また、非腫瘍関連の症状の場合においても、血管新生に反対の作用を生じさせることが望ましい(例えば眼内の網膜症(望ましくない眼内の血管新生であり、失明をもたらしうる))。したがって、更に提供される本発明に係る免疫原性化合物の使用は、前記免疫原性化合物が、VEGFのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、血管新生に対する薬剤及び/又はワクチンの調製のための使用である。他の実施形態は、血管新生に対するワクチンを動物に投与する方法の提供に関し、当該方法は、前記動物に本発明に係る免疫原性化合物を適切な投与量で投与することを含んでなり、前記免疫原性化合物は、VEGFのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。眼内の網膜症の場合には、本発明に係る前記免疫原性化合物を個体に投与することにより、例えばVEGF−A又はVEGF−Bに対する免疫反応が誘発及び/又は強化される。それに加えて、又はその代わりに、本発明に係る前記免疫原性化合物による免疫付与の後、目に対して、当該個体又はヒト以外の動物に由来する抗VEGF−A又は抗VEGF−B抗体、又はT細胞を投与する。前記免疫原性化合物がヒト以外の動物に投与された場合、回収された抗体又はT細胞は更に、ヒトへの使用に適応させるため、当該技術分野で公知の方法を用いて処理するのが好ましい。例えば、ヒト以外の抗体の重鎖及び軽鎖由来の6つの超可変領域を、ヒトフレームワーク配列中に組み込み、ヒト定常部と結合させてもよい。
【0065】
肝細胞増殖因子受容体/刺激因子(HGF/SF)は、腫瘍の発生の後の、主に転移形成に関与する。特に前立腺癌の場合に、HGF/SFは重要な役割を演ずる。したがって、転移形成と反対の作用を生じさせるため、HGF/SFの作用と反対の作用を生じさせるのが特に好ましい。したがって、更に提供される本発明に係る免疫原性化合物の使用は、前記免疫原性化合物が、HGF/SFのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、腫瘍関連の疾患の間の(好ましくは前立腺癌の間の)転移形成に対する薬剤及び/又はワクチンの調製への使用である。更に、腫瘍関連の疾患(好ましくは前立腺癌)の間に、動物に、転移形成に対するワクチン投与をする方法の提供に関する。当該方法は、本発明に係る免疫原性化合物を、前記動物に、適切な投与量で投与することを含んでなり、前記免疫原性化合物は、HGF/SFのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。
【0066】
ヒト上皮細胞増殖因子受容体(HER又はErbB(又はHER−1の場合にはEGF−R、又はHER−2の場合にはneu))は、多種多様な腫瘍(例えば胸部腫瘍など)において過剰発現する。HERは多くの腫瘍において過剰発現するため、HERに対する免疫付与により、広範囲の腫瘍関連の疾患に対する、一般的な治療方法が提供される。したがって、更に提供される本発明に係る免疫原性化合物の使用は、前記免疫原性化合物が、HERのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、腫瘍関連の疾患(好ましくは乳癌)に対する薬剤及び/又はワクチンの調製への使用である。更に、動物に、腫瘍関連の疾患(好ましくは乳癌)に対するワクチンを投与する方法の提供に関する。当該方法は、前記動物に、本発明に係る免疫原性化合物を適切な投与量で投与することを含んでなり、前記免疫原性化合物は、HERのアミノ酸配列中の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部は、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する。
【0067】
更に、本発明に係る免疫原性化合物を調製するための手段及び方法の提供に関する。一実施形態は、本発明に係る化合物の調製方法の提供に関する。当該方法は、
− 少なくとも第1及び第2の反応基を含んでなる足場を準備するステップと、
− 前記少なくとも第1及び第2の反応基と反応できる、少なくとも1つの分子を準備するステップであって、前記分子がアミノ酸配列を含んでなるステップと、
− 前記足場と、前記少なくとも1つの分子とを接触させ、カップリング反応において、前記足場と前記少なくとも1つの分子との間で少なくとも2つの結合を形成させるステップであって、結合の形成により連続的な結合の形成が加速され、前記カップリング反応が好ましくは溶液において、より好ましくは水溶液において実施されるステップと、
− 前記分子内部における内部結合の形成、及び/又は、前記分子と他の部分との第3の結合の形成を可能にし、誘導し及び/又は強化するステップと、
を有してなる。前記分子は好ましくはアミノ酸配列を含んでなる。前記内部結合は好ましくはSS−架橋を含んでなる。上記したように、前記SS−架橋は、好ましくは2つのシステイン残基間の結合であり、システイン残基は好ましくはアミノ酸配列のN末端及びC末端端周辺に位置する。
【0068】
前記分子は好ましくは、上記の足場のうちの少なくとも1つに結合する。ゆえに、本発明に係る化合物の調製方法の提供にも関し、当該方法では、前記足場が、(ヘテロ)芳香族分子、好ましくは少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族分子、より好ましくはハロメチルアレーンを含んでなり、前記ハロメチルアレーンが、好ましくはビス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及びテトラ(ブロモメチル)ベンゼン、並びにそれらの誘導体からなる群から選択される。一実施形態では、前記足場は、オルト−、メタ−及びパラ−ジハロキシレン及び1,2,4,5テトラハロジュレングループから選択され、好ましくはメタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(m−T2)オルト−1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(o−T2)パラ−1,4−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(p−T2)メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ピリジン(m−P2)2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレン(T3)メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)−5−アジドベンゼン(m−T3−N3)又は1,2,4,5テトラブロモジュレン(T4)である。
【0069】
本発明に係る免疫原性化合物は特に、ヒト以外の動物を使用した抗体、T細胞及びB細胞の生成に適している。したがって、抗体、T細胞及び/又はB細胞を産生させる方法が更に提供され、当該方法は、
− 本発明に係る免疫原性化合物及び/又は本発明に係る免疫原性組成物を、ヒト以外の動物にワクチン投与するステップと、
− 前記動物から、前記免疫原性化合物に特異的に結合できる抗体、T細胞及び/又はB細胞を回収するステップと、
を有してなる。更なる好ましい実施形態では、前記動物から得られる前記抗体を使用して、モノクローナル抗体を産生するステップを有してなる。ヒト以外の動物にワクチン投与をして、抗体、T細胞及び/又はB細胞を回収し、目的の抗体を分離し、モノクローナル抗体を産生する方法及びプロトコルは公知であり、更なる説明の必要はない。
【0070】
好ましい実施形態では、誘発された抗体、T細胞及び/又はB細胞は更に、ヒトへの利用に用いられる。例えば、Igの重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子を、回収したB細胞から単離し、第2の細胞(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系など)で発現させる。前記第2の細胞(また本願明細書においてプロデューサー細胞と称する)は、産業規模での抗体の生産にとり好適である。前記プロデューサー細胞の増殖により、目的の抗体を生産できるプロデューサー細胞株が確立される。好ましくは、前記プロデューサー細胞株はヒト用の化合物の調製に適している。ゆえに前記プロデューサー細胞株は好ましくは、病原体(例えば病原性微生物)を含まない。その代わりに、又はそれに加えて、T細胞受容体をコードする核酸を、回収した目的のT細胞から分離し、天然型の(好ましくはヒト)T細胞に導入する。好ましくはT細胞を培養し、T細胞株を得る。
【0071】
本発明を、以下の実施例で更に詳細に説明する。これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではなく、単に本発明を明確化するものに過ぎない。
【実施例】
【0072】
材料及び方法:ペプチドのバルク合成:
Syro−シンセサイザ(MultiSynTech社、ドイツ)により、4−(2’,4’−ジメトキシフェニル−Fmoc−アミノメチル)−フェノキシ(RinkAmide)樹脂(BACHEM、ドイツ)を使用して、固相ペプチド合成によりペプチドを合成した。全てのFmoc−アミノ酸を、N−t−Boc(KW)、O−t−Bu(DESTY)、N−Trt(HNQ)、S−Trt(C)、S(Acm)(C)又はN−Pbf(R)基として保護された側鎖官能性を有する状態で、Orpegen Pharma社(ハイデルベルク、ドイツ)又はSenn Chemicals(Dielsdorf、スイス)から購入した。二重カップリングを使用した、30分の活性化時間による、NMPにおけるHBTU/HOBt/アミノ酸/DIPEA(1:1:1:2)の6.5倍の過剰によるカップリングプロトコルを使用した。室温で、樹脂を30分間NMP/AcO/DIEA=10:1:0.1(v/v/v)と反応させ、ペプチドのアセチル化を実施した。アシル化されたペプチドを、室温で2〜4時間、13.3%(w)のフェノール、5%(v)のチオアニソール、2.5%(v)の1,2−エタンジチオール及び5%(v)のmilli Q−HOを含有するTFA(15ml/gの樹脂)と反応させることによって、樹脂から分離除去した。粗製のペプチドを、「DeltaPack」(25×100又は40×210mmの内径、15μmの粒径、100Åのポアサイズ、Waters、USA)、又は、「XTERRA」(19×100mmの内径、5μmの粒径(Waters、USA)、RP−18調製用C18カラム、1〜2%のB/分のリニアABグラジェント、溶媒A:0.05%のTFAを含有する水、溶媒B:0.05%のTFAを含有するACN)を用いて、逆相高速液体クロマトグラフィ(RP−HPLC)で精製した。ペプチドの正確な一次イオン分子量を、Micromass ZQ(Micromass、オランダ)による電子−スプレーイオン化質量分析、又はVG Quattro II(VG Organic、英国)質量分析によって確認した。アミノ酸を、1文字表記で示す。星印(*)は、N末端のアセチル化を示し、ナンバー記号(#)はC末端のアミド化を示す。
【0073】
mT2−ペプチドの合成:
2つの遊離システイン(C)を含有するペプチドを、室温で3時間、25%のACN/75%の重炭酸アンモニウム(20mM、pH7.8)中の1,3−(ビスブロモメチル)ベンゼン1.05当量と反応させ、mT2 CLIPS上へ環化させた。T2−ペプチド構築物を、RP−HPLCで生成し、更にアニオン交換樹脂で室温で2〜3時間処理した。最後に、ペプチド構築物をACN/milliQ−HO溶液から凍結乾燥し(3×)、TFA及び/又は重炭酸アンモニウムを完全に除去した。1,3−(ビスブロモメチル)ベンゼン(mT2)は、Sigma−Aldrich社(Zwijndrecht、オランダ)から購入した。
【0074】
T2/SS又はP2/SS−ペプチドの合成:
ペプチド(2つの遊離システイン(C)及び2つのAcm保護されたシステイン(C)を含む)を、室温で3時間、25%のACN/75%重炭酸アンモニウム(20mM、pH7.8)中の、1.05当量の対応する(ビスブロモメチル)ベンゼン又はピリジン化合物と反応させ、T2/P2 CLIPS上で環化させた。Acm−基の脱保護及び次のSS−酸化のため、T2/P2−ペプチド構築物を室温で15分間、1mM(最終濃度)となるように、MeOH/DMSO(9:1、v/v)の混合物中で、過剰量(10当量)のIで処理し、更にvitCで過剰のIを除去した。反応混合物を更に、9倍容のHOで希釈し、HPLC−抽出用のRP C18−カートリッジ(Sep−Pak(登録商標)Vac 3cc、Waters社、マサチューセッツ、米国)を通じて濾過した。ペプチド構築物を更に、ACN/HO(6mL、1:1 v/v)による溶出によって回収し、更に凍結乾燥して溶媒を除去した。ペプチド構築物をRP−HPLCで更に精製し、更に室温で2〜3時間、アニオン交換樹脂(BIO−RAD、AG 1−X8樹脂(100−200メッシュ)で処理した。最後に、ペプチド構築物をACN/milliQ−HO溶液から凍結乾燥し(3×)、TFA及び/又は重炭酸アンモニウムを完全に除去した。1,2−(oT2)、1,3−(mT2)、1,4−(ビスブロモメチル)ベンゼン(pT2)及び1,3−ビス(ブロモメチル)ピリジン(mP2)は、Sigma−Aldrich社(Zwijndrecht、オランダ)から購入した。
【0075】
ワクチン投与試験:
オスのウィスターラットを、0日目に、400μLのPBS/CFA=1:1(v/v)中のCLIPS/SS−ペプチド構築物〜2.5mg/mL溶液(PBS=リン酸緩衝食塩水、CFA=完全フロイントアジュバント)でワクチン投与し、更に4週目にブースター(同じ量及び濃度)を行った。8−9週後にラットから採血し、抗血清を回収した。
【0076】
ELISAによる抗FSHペプチド抗血清の評価:
抗血清を、2,2’−アジン−ジ(エチルベンズチアゾリンスルホネート)(ABTS)を使用して、FSH−結合ELISA(Greiner社、PS;1μg/mLのタンパク質によるGDA−コーティング)で分析した。二次抗体として、ペルオキシダーゼ標識ヤギ−抗−ラット血清を用いた。市販の抗タンパク質抗体を、ポジティブコントロールとして分析対象に含めた。FSHは、Biotrend者から購入した。
【0077】
in vitroでの、抗FSHペプチド抗血清によるFSH阻害活性:
抗FSH抗血清のFSH阻害活性を、Y1マウス副腎細胞(hFSHRのcDNAで安定にトランスフェクション)を用いて、ヒトFSHR細胞系アッセイにおいて測定した(Westhoffその他、Biol.Reprod.1997、56、460−468)。このアッセイでは、抗FSH抗体が、天然のFSHの細胞表面レセプタ(FSHR)上へのホルモン(生物学的)活性を中和する能力を測定した。市販の抗FSH mAb 6602を、ポジティブコントロールとして用いた。FSHは、Biotrend社から購入した。
【0078】
結果:
実施例1:CC−(61−74)及びCSSC−拘束(56−79)ペプチドの存在による、hFSH−交差反応性抗血清の産生能に対する効果:
【0079】
以下のhFSHに由来するペプチドを合成し、hFSH交差反応性抗体の産生能を評価した。
1.一重拘束ペプチド(CC単独)、
2〜5.二重拘束ペプチド(CC:61−74で固定、CC:4つの異なる位置で固定)。結果を表3及び図5に示す。
【0080】
表3:Y1細胞バイオアッセイにおける、FSH−β3ループmT2/SS CLIPSペプチドによるワクチン処理試験+それに対応する中和活性による、抗体応答
【表2】

a.「CT」で示すアミノ酸は、Cys残基がT2−CLIPSを介して連結することを表す。「Cs」で示すアミノ酸は、Cys残基がシステイン(=SS)架橋を介して連結することを表す。
b.Fox他に従うアミノ酸位の付番。(Molec.Endocrin.2001、15、378−389)。
c.抗体力価は、ELISAにより測定し(実施例1のMaterials及びMethodsを参照)、血清の希釈度は10log値として表した。その際、結合ELISAにおけるODは>3×バックグラウンド−ODである(1/10希釈=1、1/100=2、1/1000=3、1/10000=4など)。
d.数値をFSH−刺激アッセイにおいて測定し(実施例1の材料及び方法を参照)、最も高い精製血清(protG−カラム)の希釈剤を表す。その際、FSH誘導された生物活性の完全なブロッキングが依然観察された(6ng/mLのFSHで細胞刺激)。
【0081】
この試験により、二重拘束FSHタンパク質β3−ループ擬態物(位置61と74のmT2−CLIPS、加えて位置55と80、又は57と78間の内部ジスルフィド(SS)結合により高次構造的に拘束される)が、高レベルの、かつ再現性のある抗FSH抗体(及び中和)抗体力価(ペプチド3及び5における、2×4.6及び4.5/4.4)を生じさせることが示された。内部ジスルフィド(SS)結合の位置は、この試験において系統的に変化し、55〜80及び57〜78で最適であるとわかった。ペプチド2における抗FSHの中和効果の欠如は、正しい抗体を生成するために必要となる結合エピトープ(V57及びV78)の部分的な欠失が原因と考えられる。
【0082】
本発明に係る方法で得られた抗FSH抗体の力価は、位置61と74で、mT2−CLIPSのみを介して拘束され、内部ジスルフィド(SS)結合(化合物1)を欠く、対応する一重拘束ペプチドと比較し、顕著に高く、再生可能であった(2×4.6、i.s.o.3.5/1.5)。上記の結果は、二重拘束(mT2−CLIPS+SS−結合)FSHβ3−ループ擬態物が、対応する一重拘束化合物(化合物1:mT2−CLIPS単独)より顕著に高い抗FSH Ab−力価を生じさせることを明らかに証明するものである。更に、本発明に係る同じ化合物(化合物2、3、4又は5)でワクチン投与された2匹の個々のラットの抗体価が、コントロール化合物(化合物1)でワクチン投与された2匹の個々のラットの抗体価と比較し、各々に類似することを図5に示す。ゆえに、動物個体間の変動が少なく、免疫原性再現性が強化されていることを意味する。
【0083】
実施例2:一重拘束ペプチド7〜8及び直鎖状ペプチド6と比較した、二重拘束ペプチド3の、hFSH−交差反応性抗血清の産生能:
【0084】
hFSHに由来する、以下のペプチドのセットを合成し、それらのhFSH交差反応性抗体を誘発する能力を評価した。
A:
6.直鎖状ペプチド(拘束なし)、
7.一重拘束ペプチド(CC単独)、
8.一重拘束ペプチド(CC単独)、
3.二重拘束ペプチド(CC及びCC)(実施例1を参照)。
B:
9.直鎖状ペプチド(拘束なし)、
10.一重拘束ペプチド(CC単独)、
11.一重拘束ペプチド(CC単独)、
12.二重拘束ペプチド(CC及びCC)。
【0085】
表4及び図6で、ラット抗血清における、これらの2つのセットのペプチド(FSHのβ3−ループを模倣する)により誘発されるhFSHの中和活性(NT)及びELISA−力価(ET)に関するデータを要約する。
【0086】
表4:
【表3】

a.「CT」で示すアミノ酸は、Cys残基が(1,3−ジメチルベンジル)−ベースのリンカーを介して連結することを表す。「Cs」で示すアミノ酸は、Cys残基がシステイン(=SS)架橋を介して連結することを表す。
b.Fox他に従うアミノ酸位の付番。(Molec.Endocrin.2001、15、378−389)。
c.抗体力価は、ELISAにより測定し(実施例1のMaterials及びMethodsを参照)、血清の希釈度は10log値として表した。その際、結合ELISAにおけるODは>3×バックグラウンド−ODである(1/10希釈=1、1/100=2、1/1000=3、1/10000=4など)。「−」はELISA力価<2.0を示す。
d.中和力価(NT)を、FSH刺激アッセイにおいて測定し(材料及び方法を参照)、最も高い精製血清(protG−カラム)の希釈度を表す(1/10希釈=1、1/100=2、1/1000=3など)。その際、FSH誘導された生物活性の完全なブロッキングが依然観察された(6ng/mLのFSHで細胞刺激)。「−」は中和力価<1.0を示す。
【0087】
この2つのセットの試験(A及びB)により、二重拘束FSHタンパク質β3−ループ擬態物3及び12(位置61及び74のmT2−CLIPS、更に位置56及び79間の内部ジスルフィド(SS)結合により、高次構造が拘束)の能力が、対応する一重拘束ペプチド7−8及び10−11では部分的に、又は対応する直鎖状ペプチド6及び9では完全に、喪失していることが示された。ゆえに、これらの試験は、2つの拘束の存在が重要であることを。更に、測定されたETとNTとの間に強い相関が存在した。すなわち、高いETにより、高いNTが予測される。
【0088】
結論:
C−及びCC−拘束の両方を有するペプチド(FSHのβ3−ループに由来)でラットに免疫付与した結果、再現的に抗血清が産生され、ELISAにおいてhFSHと強く結合し、FSH−刺激アッセイにおいてhFSHの生物活性を中和した。直鎖状ペプチドでは全く効果がなく、一重拘束ペプチド(CC−又はCC−拘束単独)では効果がはるかに弱かった(2つに1つで反応、非常に低いET/NT)。
【0089】
実施例3:CC−拘束のタイプ(オルト/メタ/パラ−キシリル:2,6−ジメチルピリジル)の違いによる、ペプチドのhFSH−交差反応性抗血清の産生能に対する効果:
【0090】
ペプチド形態の拘束に用いるCC−拘束タイプがそれぞれ異なる、二重拘束hFSHに由来する、以下のペプチドセットを合成し、hFSH交差反応性抗体の産生能を評価した。
3.メタキシリルリンカー、
13.オルトキシリルリンカー、
14.パラ−キシリルリンカー、
15.メタ−(2,6−ジメチルピリジル)リンカー。
【0091】
表5で、FSH β3−ループを模倣する拘束ペプチドに対するラット抗血清の、hFSHに対する中和活性(NT)及びELISA−力価(ET)に関するデータを要約する。
【0092】
表5:
【表4】

下付文字aからdは、実施例1を参照のこと。
【0093】
これらのデータは、実施例1にて説明したように、良好な抗体産生が、ペプチド形態の拘束に用いるCC−拘束のタイプ(オルト/メタ/パラ−キシリル、2,6−ジメチルピリジル)には依存しないことを明らかに示すものである。結果は、メタ配向キシリル又はジメチルピリジルベースのリンカーにおいて最適であることを示すが、オルト/パラ−キシリル−ベースのリンカーもまた、直鎖状若しくは位置61−74で拘束されたペプチドと比較し、非常に良好(高いhFSH−ET/NT)であることを示すものである。
【0094】
結論:
C拘束のタイプは適宜変化させてもよく、良好な抗体産生においてはそれほど重要でなかった。
【0095】
実施例4A:hFSH−交差反応性抗血清を産生するペプチドの能力に対する、CC−拘束位置の効果:
【0096】
C−拘束位置が異なる二重拘束hFSHに由来する、以下のペプチドセットを合成し、hFSH交差反応性抗体の産生能を評価した。
6、16−19:エピトープ「内部」のCC−拘束(59−76から63−72)、
20−22:エピトープの「外側」のCC−拘束(57−78から55−80)。
【0097】
表6で、FSH β3−ループを模倣するT2/SS−二重拘束ペプチドに対するラット抗血清の、hFSHの中和活性(NT)及びELISA−力価(ET)に関するデータを要約する。
【0098】
表6:
【表5】

下付文字aからdは、実施例1を参照のこと。
【0099】
表6のデータは、「内部」へのCC拘束の配置を有するエピトープ(63−72から59−76)の場合、特定の位置(61−74、63−72)の場合にのみ高いETであり、一方残りの位置(62−73、60−75、59−76)では、hFSH交差反応性抗体の産生能が全く損なわれることを示すものである。これは、hFSHの抗体認識にとり重要なアミノ酸(E59、T60、R62、L73)の除去に起因する。その代わり、エピトープの「外側」におけるCC−拘束の配置(57−78から55−80)では、全ての位置において高いETを示した。すなわちこの場合、CC−拘束の存在が、当該ペプチドの、正しいhFSH−交差反応性抗体の産生能にとり、それほど阻害要因とはならないことを示すものである。
【0100】
結論:
重要なアミノ酸を用いて結合を形成してはならない。上記結合はエピトープの外側で形成されるのが好ましい。但しエピトープ内部の非必須アミノ酸であれば用いてもよい。
【0101】
実施例4B:hFSH−交差反応性抗血清を産生するペプチド能力への、CSSC−拘束位置の効果:
【0102】
SSC−拘束位置が異なる二重拘束hFSHに由来する、の以下のペプチドセットを合成し、hFSH交差反応性抗体の産生能を評価した。
23:57−78のCSSC−拘束、
24:55−80のCSSC−拘束、
25:54−81のCSSC−拘束、
26:51−84のCSSC−拘束、
27:48−87のCSSC−拘束、
28:45−90のCSSC−拘束。
【0103】
これに加えて、位置61−74のCC−拘束を欠く、以下の一重拘束ペプチドのセットを合成し、比較した。
26−SS:51−84でのCSSC−拘束のみ、
27−SS:48−87でのCSSC−拘束のみ、
28−SS:45−90でのCSSC−拘束のみ。
【0104】
表7で、FSH β3−ループを模倣するこの拘束されたペプチドセットに対するラット抗血清の、hFSHの中和活性(NT)及びELISA−力価(ET)に関するデータを要約する。
【0105】
表7:
【表6】

【0106】
結論:
上記のデータは、エピトープ(58−79〜45−90)の外側でCSSC−拘束位置を変化させても、それ程ペプチドの免疫原性性質に影響せず、全ての二重拘束ペプチドにおいて高いETであることを明らかに示すものである。これとは対照的に、CSSC−拘束(26SS−28SS)のみを有する対応する一重拘束ペプチドはそれ程効果的ではなく、ほぼ完全に、hFSH−交差反応性抗体の顕著な産生能が損なわれていた。
【0107】
実施例5A:hVEGF(cys−knotの成長因子ファミリーの更にもう1つのメンバー)のβ5−ループ−β6領域に由来する、二重拘束ペプチド(CC及びCC)の、hVEGF−交差反応性抗血清の産生能:
【0108】
hVEGFに由来する、以下のペプチドセットを合成し、hVEGF交差反応性抗体の産生能を評価した。
29:直鎖状ペプチド(拘束なし)、
30:一重拘束ペプチド(78−94のCC単独)、
31:二重拘束ペプチド(78−94のCC及び74−98のCSSC)。
【0109】
結果を表8に示す。
【0110】
表8:
【表7】

a.「CT」で示すアミノ酸は、Cys残基が(1,3−ジメチルベンジル)−ベースのリンカーを介して連結することを表す。「Cs」で示すアミノ酸は、Cys残基がシステイン(=SS)架橋を介して連結することを表す。
b.アミノ酸の付番は、de Vosら(Structure 1998,6,1153−1167)に準拠した。
c.ペプチド及びタンパク質(hVEGF)抗体価(ET)は、ELISAにより測定し(材料及び方法を参照)、血清希釈度のログ値として表した。その際、結合ELISAにおけるODは>3×バックグラウンド−ODである(1/10希釈=1、1/100=2、1/1000=3、1/10000=4など)。「−」はELISA力価<2.0を示す。
【0111】
FSH(実施例1−4を参照)で観察されたのと同様に、この試験においもまた、hVEGFのβ5−ループ−β6領域に由来する、高次構造が二重拘束されたペプチド(位置78−94のCC−拘束、及び位置74−98のCSSC−拘束の両方による)では、高レベルかつ再現性を有する抗VEGF抗体(及び中和)力価(ペプチド31においては2×>4.4)が観察された。
【0112】
実施例5B:hVEGF(cys−knotの成長因子ファミリーの更にもう1つのメンバー)のβ5−ループ−β6領域に由来する、二重拘束ペプチド(CC及びCC)の、表面に固定したhVEGFに対する抗VEGF mAbの結合をブロックする能力
【0113】
6つの抗ペプチド抗血清29.1−31.2(実施例5Bを参照)により、結合競合試験を実施し、hVEGFと結合する血清の能力を評価した。この試験のセットアップ(図7に図式的に示す)は以下の通りである:
ELISA−プレートを、hVEGF(Greiner、PS;酢酸バッファ(pH=5)中で3時間のGDA−活性化、更にリン酸バッファ(pH=8)中で1μg/mLのhVEGFに曝露、一晩)でコーティングした。更にウェルを、抗VEGF mAb(40ng/mL)と、6つの抗血清のうちの1つ(1/10希釈)(/5%のウマ血清中)との1:1混合液100μLを用いて、37℃で1時間インキュベートした。表面に固定された、VEGFと結合する抗VEGF mAbの量を、更に、2,2’−アジン−ジ(エチルベンズチアゾリンスルホネート)(ABTS)と、二次抗体としてのペルオキシダーゼ標識ヤギ−抗ヒト血清との組み合わせを使用して決定し、それを用いて、抗ペプチド血清の、抗VEGF mAbとの結合に関する競合能力を測定した。VEGFと結合する抗ペプチド血清の結合、及びそれによるmAbの結合をブロックする能力はすなわち、mAbの低い結合レベルをもたらすものである。
【0114】
上記の結果(図7を参照)はまた、二重拘束ペプチド31に由来する抗ペプチド血清の性能は、対応する直鎖状ペプチド(29)及び一重拘束ペプチド(30)よりも非常に強いことを明らかに示すものである。抗VEGF mAbのVEGFへの結合をブロックする抗ペプチド血清29.1/2の能力は、測定不能(非特異性IgGのそれに等しい)であり、一方、一重拘束ペプチド30に対する血清のうちの1/2のみが活性を示した。
【0115】
全体の結論:
実施例1のhFSHに関して説明した、二重拘束ペプチドによりラットの免疫付与により、hVEGFと非常に類似する結果が得られたが、cys−knotタンパク質−ファミリーの他のメンバーとは類似しなかった。ELISAにおいて見られる、二重拘束ペプチド(CC−及びCC−拘束の両方)により生じた両抗血清(2−o−2)のhVEGFへの結合はいずれも、直鎖状(CC−なし、及びCC−拘束)又は一重拘束(CC−拘束のみ)ペプチドによって生じた抗血清よりも優れていた。更に、ELISAにおける競合試験で、両方の血清が、hVEGFのβ5−ループ−β6一部に由来する直鎖状又は一重拘束ペプチドを含む血清より、非常に能率的に表面固定されたVEGFと抗VEGF mAbとの結合をブロックすることが明らかに示された。
【0116】
実施例6:上皮細胞増殖因子受容体ファミリー(EGFR)に属するErbB2(HER2/neu)タンパク質のドメインII(CR1)に存在する二量体化アームに由来する、二重拘束ペプチド(CC及びCC)の、ERbB2−交差反応性抗血清を生成する能力:
【0117】
ErbB2(HER2/neu)に由来する、以下のペプチドセットを合成し、ErbB2に対する交差反応性抗体の産生能を評価した。
32:直鎖状ペプチド(拘束なし)、
33:一重拘束ペプチド(246−266のCCのみ)、
34:二重拘束ペプチド(251−260のCC、及び246−266のCSSC)、
35:二重拘束ペプチド(254−256のCC、及び246−266のCSSC)。
【0118】
結論:
表9のデータは、hFSHに関して実施例1にて説明したように、二重拘束ペプチドによるラットの免疫付与により、ERbB2(HER2/neu)受容体タンパク質(受容体蛋白のEGFR−ファミリーのメンバー)のドメイン−II(CR1)中の二量体化アームに由来する二重拘束ペプチドにおいて、非常に類似する結果が得られることを明らかに示すものである。
【0119】
表9:
【表8】

a.「CT」で示すアミノ酸は、Cys残基が(1,3−ジメチルベンジル)−ベースのリンカーを介して連結することを表す。「Cs」で示すアミノ酸は、Cys残基がシステイン(=SS)架橋を介して連結することを表す。
b.Nagataらによるアミノ酸位の付番(Am.J.Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.2006,290,G1243−G1251)。
c.ペプチド及びタンパク質(hVEGF)抗体価(ET)は、ELISAにより測定し(材料及び方法を参照)、血清希釈度の10log値として表した。その際、結合ELISAにおけるODは>4×バックグラウンド−ODである(1/10希釈=1、1/100=2、1/1000=3、1/10000=4など)。「−」はELISA力価<2.0を示す。
【0120】
総合すると、2つの異なる二重拘束ペプチド(CC−及びCC−拘束の両方)によって産生される4つの抗血清(2×2)は、ELISAのERbB2タンパク質と強く結合した。これとは対照的に、対応する直鎖状ペプチドを用いて得られた抗血清は、ERbB2と弱く結合するだけであり(1−o−2;ET=2.4;<2.0)、一報、一重拘束ペプチド(CTC−拘束のみ)を用いて得た抗血清の場合、2つの血清のいずれも、ELISAにおいてERbB2タンパク質と結合しなかった(ET=<2.0)。
【0121】
実施例7:Gタンパク質共役受容体(GPCR)ファミリーに属する、CCR5−受容体タンパク質の細胞外領域ループ−2(ECL−2)に由来する、二重拘束ペプチド(CC及びCC)の、受容体蛋白を模倣する能力:
【0122】
CCR5のECL−2ループに由来する、以下のペプチドセットを合成し、抗CCR5モノクローナル抗体への結合に関する、受容体タンパク質を模倣する能力に関して試験した。
36:直鎖状ペプチド(拘束なし)、
37:一重拘束ペプチド(169−178のCCのみ)、
38:二重拘束ペプチド(169−178のCC、及び167−180のCSSC)、
39:二重拘束ペプチド(169−178のCC、及び166−181のCSSC)。
【0123】
これらの4つのペプチドを用いて結合競合試験を行い、抗CCR5モノクローナル抗体2D7(また図8を参照)と結合するそれらの能力を評価した。これにより、CCR5−受容体タンパク質の表面を機能的に模倣させる手段が提供され、それにより、CCR5に対する抗体を産生させるための良好な免疫原ともなりうることが示された(実施例1から4で示すFSH由来ペプチドの免疫原性は、ELISA競合アッセイ(データ示ず)における、抗FSH mAbの結合をブロックするこれらのペプチドの改良された能力に、正確に対応していた)。表面に固定された、CCR5のECL2a−ループに由来するペプチドを用いた、mAb 2D7とペプチドとの結合する能力を、ELISAにより測定した。mAb 2D7はELISAにおいて、このペプチドと強く結合した。溶液中における2D7に対するペプチド36−39の結合は、本発明において、表面に固定されたペプチドへの結合競合試験として行われ、mAb 2D7の表面への結合の減少として示されている。
【0124】
競合試験のセットアップ(図8に図式的に示す)は、以下の通りである:
ELISAプレートを、二重拘束ペプチド*CFTRCTQKEGLHYTCTSSHC#(Greiner、PS;酢酸バッファ(pH=5)中で3時間、GDA−活性化、更にリン酸バッファ(pH=8)中で、10μg/mLの拘束ペプチドで一晩曝露)でコーティングした。更に、上記のウェルを、5%のウマ血清中の、mAb 2D7(22ng/mL)と、上記4つのうちの1つのペプチド(開始濃度500μM、1/3希釈系列)との1:1混合液100μLで、37Cで1時間インキュベートした。次に、表面に固定された拘束ペプチドと結合するmAb 2D7の量を、2,2’−アジン−ジ(エチルベンズチアゾリンスルホネート)(ABTS)を使用して、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ−抗−マウス血清との組合せにより測定した。
【0125】
上記の結果は、二重拘束ペプチド(38−39)の性能は、対応する直鎖状(36)及び一重拘束ペプチド(37)より非常に強いことを明らかに示すものであった(図8を参照)。2D7との結合をブロックする直鎖状ペプチド36の能力は、最高濃度においても検出することができず、一方、一重拘束ペプチド37では、500μMにおいて〜50%であった。しかしながら、二重拘束ペプチド38及び39では、2D7の結合を165μMの濃度で〜90%で阻害したため、効果が非常により高いことが示された。これは明らかに、mAb結合ペプチドとしての、二重拘束ペプチドの改良された可能性を示すものである。
【0126】
結論:
受容体タンパク質CCR5のECL2−ループに由来する二重拘束ペプチドは、対応する直鎖状又は一重拘束ペプチドより、非常に良好にこのレセプタを擬態することが、競合ELISA試験により確認された。すなわち、これらのペプチドで免疫することにより、天然型のCCR5との交差反応をし得る抗体又は抗血清を産生させる能力が改良されることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物の免疫原性再現性及び/又は免疫原性を誘導及び/又は強化するための方法であって、
少なくとも1つの足場及び/又は担体に結合する前記化合物中の少なくとも2つの異なる部位での結合の形成によって、並びに、
前記化合物中での少なくとも1つの内部結合の形成によって、少なくとも部分的に前記化合物の立体構造が拘束される方法。
【請求項2】
前記免疫原性化合物が、目的のタンパク質性分子の少なくとも一部のアミノ酸配列と少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が、動物において、目的の前記タンパク質性分子に対して、免疫反応を誘導及び/又は強化できる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記内部結合が、SS−架橋、Se−Seジセレン結合、末端CC−二重結合、末端CC−三重結合、Br−SH結合又はアミド結合を含んでなる、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が少なくとも2つの結合を介して前記足場及び/又は担体に結合する、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記足場が、
− ハロゲノアルカン、好ましくはジハロアルカン、トリハロアルカン又はテトラハロアルカン、及び/又は、
− アリル基系、好ましくは2つのアリル基を有するハロゲン原子を含んでなる足場、及び/又は、
− 少なくとも2つのハロメチル基を含んでなる足場、及び/又は、
− (ヘテロ)芳香族分子、好ましくは少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族分子、
を含んでなる、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記足場がハロメチルアレーンであり、好ましくはビス(ブロモメチル)ベンゼン、(トリス(ブロモメチル)ベンゼン及びテトラ(ブロモメチル)ベンゼン)、並びにその誘導体からなる群から選択される、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記足場が、オルト−、メタ−及びパラ−ジハロキシレン及び1,2,4,5テトラハロジュレンからなる群から選択され、好ましくはメタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(m−T2)、オルト−1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(o−T2)、パラ−1,4−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(p−T2)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ピリジン(m−P2)、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレン(T3)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)−5−アジドベンゼン(m−T3−N3)、及び/又は1,2,4,5テトラブロモジュレン(T4)である、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
目的の前記タンパク質性分子が、システイン−knotファミリー、膜貫通タンパク質、TNF−α、HGF/SF、FGF−β、インターロイキン、IL−5、ケモカイン、Gタンパク質共役受容体、CCR5、CXCR4、IGF、LMF、エンドセリン−1、VIP、CGRP、PIF、EGF、TGF−α、ErbBファミリー、HER1/EGF−R、HER2/neu、HER3、HER4、p53、コルチコトロピンRF、ACTH、副甲状腺ホルモン、CCK、P物質、NPY、GRP、ニューロトロフィン、アンギオテンシン−2、アンジオゲニン、エリスロポエチン、ニューロテンシン、SLCLC、SARS由来タンパク質、HIV由来タンパク質、乳頭腫ウイルス由来タンパク質及びFMDVからなる群から選択される、請求項2から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記システイン−knotタンパク質ファミリーのメンバーが、糖タンパク質ホルモン−β(GLHB)サブファミリー、血小板由来成長因子(PDGF)サブファミリー、トランスフォーミング成長因子(TGF)サブファミリー、神経成長因子(NGF)サブファミリー又は糖タンパク質ホルモン−α(GLHA)サブファミリーのメンバーである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
化合物の免疫原性再現性及び/又は免疫原性を誘導及び/又は強化するための方法であって、前記化合物中の少なくとも2つの内部結合の形成によって、少なくとも部分的に前記化合物の立体構造が拘束される方法。
【請求項12】
前記化合物が、担体に結合する、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
足場及び/又は担体と結合したアミノ酸配列を含んでなり、前記アミノ酸配列が、少なくとも1つの内部結合を含んでなる、免疫原性化合物。
【請求項14】
前記内部結合が、SS−架橋、Se−Seジセレン結合、末端CC−二重結合、末端CC−三重結合、Br−SH結合又はアミド結合を含んでなる、請求項13記載の免疫原性化合物。
【請求項15】
前記アミノ酸配列が少なくとも2つの結合を介して前記足場に結合する、請求項13又は14記載の免疫原性化合物。
【請求項16】
前記足場が(ヘテロ)芳香族分子、好ましくは少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族分子を含んでなる、請求項13から15のいずれか1項記載の免疫原性化合物。
【請求項17】
前記足場がハロメチルアレーンであり、好ましくはビス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及びテトラ(ブロモメチル)ベンゼン、並びにその誘導体からなる群から選択される、請求項13から16いずれか1項記載の免疫原性化合物。
【請求項18】
前記足場が、オルト−、メタ−及びパラ−ジハロキシレン及び1,2,4,5テトラハロジュレン、好ましくはメタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(m−T2)、オルト−1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(o−T2)、パラ−1,4−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(p−T2)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ピリジン(m−P2)、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレン(T3)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)−5−アジドベンゼン(m−T3−N3)及び/又は1,2,4,5テトラブロモジュレン(T4)からなる群から選択される、請求項13から17のいずれか1項記載の免疫原性化合物。
【請求項19】
請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物と、薬理学的に許容できる担体、希釈剤及び/又は賦形剤とを含んでなる免疫原性組成物。
【請求項20】
薬剤及び/又はワクチン用途への、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物。
【請求項21】
システイン−knotファミリー、膜貫通タンパク質、TNF−α、HGF/SF、FGF−β、インターロイキン、IL−5、ケモカイン、Gタンパク質共役受容体、CCR5、CXCR4、IGF、LMF、エンドセリン−1、VIP、CGRP、PIF、EGF、TGF−α、ErbBファミリー、HER1/EGF−R、HER2/neu、HER3、HER4、p53、コルチコトロピンRF、ACTH、副甲状腺ホルモン、CCK、P物質、NPY、GRP、ニューロトロフィン、アンギオテンシン−2、アンジオゲニン、エリスロポエチン、ニューロテンシン、SLCLC、SARS由来タンパク質、HIV由来タンパク質、乳頭腫ウイルス由来タンパク質及び/又はFMDVのメンバーの存在に関連する障害に対する薬剤及び/又はワクチンの調製への、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物の使用。
【請求項22】
前記免疫原性化合物が、VEGF、hCG、PlGF、HER及び/又はHGF/SFのアミノ酸配列の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が、少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、腫瘍関連の疾患に対する薬剤及び/又はワクチンの調製への、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物の使用。
【請求項23】
前記免疫原性化合物が、VEGFのアミノ酸配列の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、血管新生に対する薬剤及び/又はワクチンの調製への、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物の使用。
【請求項24】
前記免疫原性化合物が、HGF/SFのアミノ酸配列の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する、腫瘍関連の疾患の間の転移形成に対する薬剤の及び/又はワクチンの調製への、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物の使用。
【請求項25】
請求項13から18のいずれか1項記載の化合物の調製方法であって、
− 少なくとも第1及び第2の反応基を含んでなる足場を提供するステップと、
− 前記少なくとも第1及び第2の反応基と反応できる少なくとも1つの分子を準備するステップであって、前記分子がアミノ酸配列を含んでなるステップと、
− 前記足場と前記少なくとも1つの分子とを接触させて、カップリング反応において、前記足場と前記少なくとも1つの分子との少なくとも2つの結合を形成させるステップであって、結合の形成により、連続的な結合の形成が加速され、好ましくは、前記カップリング反応が溶液において、好ましくは水溶液においてなされるステップと、
− 前記分子の内部での内部結合の形成を可能にし、誘導し及び/又は強化するステップと、
を含んでなる方法。
【請求項26】
前記内部結合が、SS−架橋、Se−Seジセレン結合、末端CC−二重結合、末端CC−三重結合、Br−SH結合又はアミド結合を含んでなる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記足場が、(ヘテロ)芳香族分子、好ましくは少なくとも2つのベンジルハロゲン置換基を有する(ヘテロ)芳香族分子を含んでなる、請求項25又は26記載の方法。
【請求項28】
前記足場が、ハロメチルアレーンであり、好ましくはビス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及びテトラ(ブロモメチル)ベンゼン、並びにその誘導体からなる群から選択される、請求項25から27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
前記足場が、オルト−、メタ−及びパラ−ジハロキシレン及び1,2,4,5テトラハロジュレンからなる群から選択され、好ましくはメタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(m−T2)、オルト−1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(o−T2)、パラ−1,4−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(p−T2)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)ピリジン(m−P2)、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレン(T3)、メタ−1,3−ビス(ブロモメチル)−5−アジドベンゼン(m−T3−N3)又は1,2,4,5テトラブロモジュレン(T4)である、請求項25から28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
動物に、腫瘍関連の疾患に対するワクチン投与をする方法であって、前記動物に、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物を適切な投与量で投与するステップを有してなり、前記免疫原性化合物が、VEGF、hCG、PlGF、HER及び/又はHGF/SFのアミノ酸配列の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する方法。
【請求項31】
動物に、血管新生に対するワクチン投与をする方法であって、前記動物に、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物を適切な投与量で投与するステップを有してなり、前記免疫原性化合物が、VEGFのアミノ酸配列の少なくとも一部と少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する方法。
【請求項32】
動物に、腫瘍関連の疾患、好ましくは前立腺癌の間の転移形成に対するワクチン投与をする方法であって、前記動物に、請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物を適切な投与量で投与するステップを有してなり、前記免疫原性化合物が、HGF/SFのアミノ酸配列の少なくとも一部と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の相同性を有する配列を有するアミノ酸配列を含んでなり、前記一部が少なくとも8つのアミノ酸残基長を有する方法。
【請求項33】
抗体、T細胞及び/又はB細胞を産生させる方法であって、
− 請求項13から18のいずれか1項記載の免疫原性化合物及び/又は請求項19記載の免疫原性組成物を、ヒト以外の動物にワクチン投与をするステップと、
− 前記動物から前記免疫原性化合物と特異的に結合できる抗体、T細胞及び/又はB細胞を回収するステップと、
を有してなる方法。
【請求項34】
前記動物から得られる前記抗体を使用して、単クローン抗体を産生させるステップを更に有してなる、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記一部が、目的の前記タンパク質性分子の(ヘアピン)ループに存在するエピトープを含んでなる、請求項2から12のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
少なくとも2つの結合を介して足場及び/又は担体と結合したアミノ酸配列を含んでなるタンパク質擬態物であって、前記アミノ酸配列が、少なくとも1つの内部SS−架橋を含んでなるタンパク質擬態物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−544697(P2009−544697A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521718(P2009−521718)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050374
【国際公開番号】WO2008/013454
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(503136174)ペプスキャン システムズ ベー.フェー. (4)
【氏名又は名称原語表記】PEPSCAN SYSTEMS B.V.
【住所又は居所原語表記】Edelhertweg 15,Lelystad,the Netherlands
【Fターム(参考)】