説明

免疫学的疾患の処置のための治療剤としての可溶性リンホトキシン−βレセプターならびに抗リンホトキシンレセプターおよびリガンド抗体

【課題】リンパ球媒介性免疫学的疾患の処置のために、そしてより特定すると、Th1細胞
媒介性免疫応答の阻害するために、従来技術における問題点を解決すること。
【解決手段】動物における免疫学的疾患の進行、重篤度、または影響を処置または軽減するための方法であって、治療有効量のLT−β−Rブロッキング剤および薬学的に受容可能
なキャリアを含む薬学的組成物を投与する工程を包含する、方法であって、1つの実施形態において、上記LT−β−Rブロッキング剤が、可溶性リンホトキシン−βレセプター、LT−βレセプターに対する抗体、および表面LTリガンドに対する抗体からなる群より選択
される、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、リンホトキシン-βレセプターシグナリングをブロックする「リンホトキシン-βレセプターブロッキング剤」を含む組成物および方法に関する。リンホトキシン-βレセプターブロッキング剤は、リンパ球媒介性免疫学的疾患の処置のために、そしてより特定すると、Th1細胞媒介性免疫応答の阻害のために有用である。本発明は、リンホトキシン-βレセプターブロッキング剤として作用するリンホトキシン-βレセプター細胞外ドメインの可溶性型に関する。本発明はまた、リンホトキシン-βレセプターブロッキング剤として作用する、リンホトキシン-βレセプターまたはそのリガンドである表面リンホトキシンのいずれかに対する抗体の使用に関する。可溶性レセプター、抗体およびLT-βレセプターシグナリングをブロックする他の物質を選択するための新規なスクリーニング方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
免疫チャレンジの開始において放出されるサイトカインのパターンは、どの免疫エフェクター経路が活性化されるかのその後の選択に影響し得る。免疫エフェクター機構の間の選択は、CD4陽性ヘルパーTリンパ球(Tヘルパー細胞またはTh細胞)により媒介される。Th細胞は、その表面上にMHCクラスII分子と会合してプロセスされた外来抗原のペプチドフラグメントを提示する抗原提示細胞(APC)と相互作用する。Th細胞は、Th細胞がそれに特異的レセプターを発現する適切なAPCの表面上に提示された外来抗原の特定のエピトープをそれらが認識すると、活性化される。次いで、活性化されたTh細胞は、適切な免疫エフェクター機構を活性化するサイトカイン(リンホカイン)を分泌する。
【0003】
Th細胞は、キラーT細胞活性化、B細胞抗体産生、およびマクロファージ活性化を含む多様なエフェクター機構を活性化し得る。エフェクター機構の間の選択は、どのサイトカインが活性化されたTh細胞により産生されるかにより大いに媒介される。
【0004】
Th細胞は、それらのサイトカイン分泌パターンに基づいて3つのサブグループに分けられる(Fitchら、Ann. Rev. Immunol., 11, 29-48頁 (1993))。これらのサブグループは、Th0、Th1およびTh2と呼ばれる。マウスにおいて、刺激されていない「ナイーブ」Tヘルパー細胞はIL-2を産生する。短期間の刺激は、Th0前駆体細胞に導き、これはIFN-γ、IL-2、IL-4、IL-5およびIL-10を含む広範なサイトカインを産生する。慢性的に活性化されたTh0細胞はTh1またはTh2細胞型のいずれかに分化し得、それに際してサイトカイン発現パターンは変化する。
【0005】
いくつかのサイトカインは、Th1およびTh2細胞の両方により放出される(例えば、IL-3、GM-CSFおよびTNF)。他のサイトカインは、一方または他方のTh細胞サブグループにより排他的に作られる。Tヘルパー細胞サブグループの特殊化された効果は最初にマウスにおいて認識された。Tヘルパー細胞の同様な区分は、ヒトにおいても存在する(Romagnaniら、Ann. Rev. Immunol., 12, 227-57頁 (1994))。
【0006】
Th1細胞はLT-α、IL-2およびIFN-γを産生する。ヒトにおいて、Th1サイトカイン分泌のパターンは、一般に細胞性免疫および感染に対する耐性に関連付けられている。Th1サイトカインは、マクロファージおよび特定の炎症性応答(例えば、IV型「遅延型」過敏症)を活性化する傾向にある(下記を参照のこと)。Th1サイトカインは組織移植片および器官移植物の細胞性拒絶において重要な役割を担う。
【0007】
Th2細胞は、サイトカインIL-4、IL-5、IL-6およびIL-10を産生する。Th2サイトカイン
は、好酸球および肥満細胞の産生を増加し、そしてB細胞の完全な拡大および成熟を促進する(Howardら、「T細胞由来サイトカインおよびそのレセプター」、Fundamental Immunology、第3版、Raven Press, New York (1993))。Th2サイトカインはまた、アレルギー反応に関連するIgE抗体および抗移植片抗体を含む抗体産生を増強する。Th2細胞はまた、持続性抗原に対する免疫抑制および寛容性に関与し得る。
【0008】
Th1関連サイトカインおよびTh2関連サイトカインは、特定の過敏症応答(以前に遭遇した抗原との接触により喚起される不適切なまたは不均衡な免疫応答)における役割を担う。4つの認識されている過敏症の型が存在する(Roittら、Immunology, 19.1-22.12頁 (Mosby-Year Book Europe Ltd., 第3版 1993))。
【0009】
I型「即時型過敏症」には、アレルゲン誘導性Th2細胞活性化およびTh2サイトカイン放出が関与する。Th2サイトカインであるIL-4は、B細胞を刺激して、アイソタイプ切り換えを経てIgEを産生するようにする。これは肥満細胞を活性化して、湿疹、ぜん息、およ
び鼻炎に導く急性炎症性反応のような急性炎症性反応を生成するようにする。
【0010】
II型およびIII型過敏症は、細胞表面もしくは特異的組織抗原(II型)または可溶性血清抗原(III型)に対するIgGおよびIgM抗体により引き起こされる。これらの型の過敏症反応は、Th細胞により媒介されるとは考えられていない。
【0011】
IV型「遅延型」過敏症(DTH)は、Th1細胞媒介性である。DTH反応は発達に12時間より長くかかり、そして「細胞媒介性」といわれる。なぜなら、それらは、血清単独ではなくTh1細胞を移入することによりマウス間で移され得るからである。IV型DTH応答は、一般に以下の3つの型に分類される:接触、ツベルクリン型および肉芽腫性過敏症。
【0012】
疾患を引き起こし得る多くの細胞媒介性応答が、疾患マウス由来のリンパ球を移入することにより健常マウスにおいて誘導可能である(例えば、インスリン依存性糖尿病および実験的自己免疫性脳脊髄炎)。この特徴はIV型 DTHを他の3つの型の過敏症(これらは、主に、無細胞血清中で移入され得る抗体により引き起こされる体液性の免疫応答)から区別する。
【0013】
Tヘルパー細胞はまた、デノボ免疫グロブリンアイソタイプ切り換えの調節に関与する。異なるThサブセットが、免疫チャレンジに応答して産生される所定のアイソタイプの免疫グロブリンの相対的な割合に影響し得る。例えば、Th2サイトカインであるIL-4は、活性化B細胞をIgG1アイソタイプに切り換え、そして他のアイソタイプを抑制し得る。上で論じたように、IL-4はまた、I型過敏症反応におけるIgEの過剰産生を活性化する。Th2サイトカインであるIL-5は、IgAアイソタイプを誘導する。アイソタイプ切り換えに対するこれらのTh2サイトカイン効果は、Th1細胞により産生されるIFN-γにより平衡される。
【0014】
Th1およびTh2細胞により分泌されるサイトカインのディファレンシャルなパターンは、応答を異なる免疫エフェクター機構に向けて指向させるようである。細胞媒介性または体液性のいずれかのエフェクター機構を活性化する切り換えは、Th1およびTh2細胞の間の交差抑制により感作される:Th1細胞により産生されるIFN-γは、Th2細胞増殖を阻害し、そしてTh2細胞により分泌されるIL-10は、Th1細胞からのサイトカイン分泌を減少させるよ
うである。
【0015】
サイトカインのそれらの分子的標的に対する相対的な親和性に依存して、Th1およびTh2の負の調節回路は、Th1サイトカインとTh2サイトカインとの間の小さな濃度差の影響を増幅し得る。増幅されたTh1またはTh2サイトカインシグナルは、Th1サイトカインおよびTh2サイトカインの相対濃度における小さな変化に基づいて、細胞媒介性または体液性エフェクター機構の間の切り換えを引き起こし得る。Th1サイトカインおよびTh2サイトカインの相対濃度を調節することによりこの切り換えを制御する能力は、免疫障害および疾患に導き得る種々のTh1およびTh2細胞依存性免疫応答における不均衡を処置するために有用である。
【0016】
病理学的Th1応答は、多数の器官特異的および全身性自己免疫症状、慢性炎症性疾患、および遅延型過敏症反応に関連する。上で論じたように、Th1応答はまた、移植された組織および移植された器官の拒絶に導く細胞性応答に寄与する。
【0017】
現在まで、これらの種々のTh1細胞に基づく免疫学的症状の処置は、一般に、免疫調節剤および免疫抑制剤ならびにあまり特徴付けられていない機構を有する多数の薬物(例えば、金またはペニシラミン)を用いてきた。現在使用される3つの一般的な免疫抑制剤は、ステロイド、シクロスポリン、およびアザチオプリンである。
【0018】
ステロイドは、Th1サイトカインであるIFN-γの効果の多くを逆転させる様式で、活性化マクロファージを抑制し、そして抗原提示細胞の活性を阻害する多面発現性抗炎症剤である。強力な免疫抑制剤であるシクロスポリンは、その活性化の間に、サイトカイン産生を抑制し、そしてリンパ球上のIL-2レセプターの発現を減少させる。アザチオプリンは、DNA合成を阻害する抗増殖剤である。これらの非特異的免疫抑制剤は、一般に高用量で必要とされ、これはそれらの毒性(例えば、腎毒性および肝毒性)を増加させ、そして有害な副作用を引き起こす。従って、それらは、長期治療のためには適切ではない。
【0019】
非特異的免疫抑制剤を用いる従来の処置により引き起こされる問題に取り組むために、多くの現在の治療ストラテジーは、免疫系の選択的局面の抑制または活性化を目指す。特に魅力的な目標は、細胞媒介性エフェクター機構と体液性エフェクター機構との間の平衡を移行させるためのTh1サイトカインとTh2サイトカインとの間の平衡の操作である。
【0020】
細胞媒介性エフェクター機構と体液性エフェクター機構との間の移行を達成するために、Th1およびTh2細胞サブクラスの相対的活性を移行させ得る分子の活性を調節し得ることが有用である。このような分子の候補としては、サイトカインおよびそれらのレセプターが挙げられる。最近のデータは、LT-α、IL-12、IFN-αおよびIFN-γはTh1応答の発達に寄与するが、IL-1およびIL-4は応答をTh2エフェクター機構に向けることを示唆する(Romagnaniら、Ann. Rev. Immunol., 12, 227-57頁 (1994))。
【0021】
Th細胞サイトカインの多くは、免疫の発達および機能の多面発現性レギュレーターであり、そしてそれらの産生の阻害は、非T細胞媒介性応答に対して有害な影響を有する。Th1エフェクター機構とTh2エフェクター機構との間の選択を選択的に調節するための所望のそして有効な標的は、同定されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
(1)動物における免疫学的疾患の進行、重篤度、または影響を処置または軽減するための方法であって、治療有効量のLT−β−Rブロッキング剤および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物を投与する工程を包含する、方法。
(2)前記LT−β−Rブロッキング剤が、可溶性リンホトキシン−βレセプター、LT−β
レセプターに対する抗体、および表面LTリガンドに対する抗体からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(3)前記動物が哺乳動物である、項目2の記載の方法。
(4)前記哺乳動物が、ヒトである、項目3に記載の方法。
(5)前記LT−β−Rブロッキング剤が表面LTリガンドに選択的に結合し得るリガンド結
合ドメインを有する可溶性リンホトキシン−βレセプターを含む、項目1に記載の方法。(6)前記可溶性リンホトキシン−βレセプターがヒト免疫グロブリンFcドメインをさらに含む、項目5に記載の方法。
(7)前記LT−β−Rブロッキング剤がLT−β−レセプターに対するモノクローナル抗体
を含む、項目1に記載の方法。
(8)項目7に記載の方法であって、前記組成物が、1〜14日間に亘ってLT−βレセプター陽性細胞をコートするのに十分な量で投与される、方法。
(9)前記LT−β−Rブロッキング剤が抗ヒトLT−β−R mAb BDA8を含む、項目4に記
載の方法。
(10)前記LT−β−Rブロッキング剤が表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体を
含む、項目2に記載の方法。
(11)項目10に記載の方法であって、前記組成物が、1〜14日間に亘ってLT−リガンド陽性細胞をコートするのに十分な量で投与される、方法。
(12)前記抗体が、前記LTリガンドのサブユニットに対するものである、項目10に記載の方法。
(13)前記LT−β−Rブロッキング剤が抗ヒトmAb B9を含む、項目4に記載の方法。
(14)前記哺乳動物がマウスであり、かつ、前記LT−β−Rブロッキング剤が、マウス
表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体を含む、項目3に記載の方法。
(15)動物におけるTh1細胞媒介性免疫応答を阻害するための方法であって、有効量のLT−β−Rブロッキング剤および薬学的に効果的なキャリアを含む薬学的組成物を投与する工程を包含する、方法。
(16)前記LT−β−Rブロッキング剤が、可溶性リンホトキシン−βレセプター、LT−
βレセプターに対する抗体、および表面LTリガンドに対する抗体からなる群より選択される、項目15に記載の方法。
(17)前記動物が、哺乳動物である、項目16に記載の方法。
(18)前記哺乳動物が、ヒトである、項目17に記載の方法。
(19)前記LT−β−Rブロッキング剤が表面LTリガンドに選択的に結合し得るリガンド
結合ドメインを有する可溶性リンホトキシン−βレセプターを含む、項目15に記載の方法。
(20)前記可溶性リンホトキシン−βレセプターがヒト免疫グロブリンFcドメインをさらに含む、項目11に記載の方法。
(21)前記LT−β−Rブロッキング剤がLT−βレセプターに対するモノクローナル抗体
を含む、項目9に記載の方法。
(22)項目21に記載の方法であって、前記組成物が、1〜14日間に亘ってLT−βレセプター陽性細胞をコートするのに十分な量で投与される、方法。
(23)前記LT−β−Rブロッキング剤が抗ヒトLT−β−R mAb BDA8を含む、項目18
に記載の方法。
(24)前記LT−β−Rブロッキング剤が表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体を
含む、項目9に記載の方法。
(25)項目24に記載の方法であって、前記組成物が、1〜14日間に亘ってLT−リガンド陽性細胞をコートするのに十分な量で投与される、方法。
(26)項目24に記載の方法であって、前記抗体が、LTリガンドのサブユニットに対するものである、方法。
(27)前記LT−β−Rブロッキング剤が抗ヒトmAb B9を含む、項目18に記載の方法。(28)項目17に記載の方法であって、哺乳動物がマウスであり、かつ、前記LT−β−Rブロッキング剤が、マウス表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体を含む、方法。
(29)前記Th1細胞媒介免疫応答が、遅延型過敏応答に寄与する、項目15に記載の方法。
(30)前記遅延型過敏反応が、接触過敏である、項目29に記載の方法。
(31)項目29に記載の方法であって、前記遅延型過敏反応が、ツベルクリン型過敏である、方法。
(32)前記遅延型過敏反応が、肉芽腫性反応である、項目29に記載の方法。
(33)前記Th1細胞媒介性免疫応答が、前記動物が組織移植片を受ける後の該動物における該組織の細胞性拒絶に寄与する、項目15に記載の方法。
(34)前記Th1細胞媒介性免疫応答が、前記動物が器官移植物を受ける後の該動物における該器官の拒絶に寄与する、項目15に記載の方法。
(35)前記Th1細胞媒介性免疫応答が、前記動物における自己免疫疾患に寄与する、項目9に記載の方法。
(36)前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、交感性眼炎、ブドウ膜炎、および乾癬からなる群より選択される、項目35に記載の方法。
(37)前記Th1細胞媒介性免疫応答がTh2細胞依存性免疫応答を阻害することなしに阻害される、項目15に記載の方法。
(38)治療有効量のLT−β−Rブロッキング剤および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
(39)前記LT−β−Rブロッキング剤が、可溶性リンホトキシン−β−レセプター、LT−βレセプターに対する抗体、および表面LTリガンドに対する抗体からなる群より選択される、項目38に記載の組成物。
(40)前記可溶性リンホトキシン−βレセプターが表面LTリガンドに選択的に結合し得るLT−β−Rリガンド結合ドメインを含む、項目38に記載の組成物。
(41)前記可溶性リンホトキシン−βレセプターがヒト免疫グロブリンFcドメインをさらに含む、項目40に記載の組成物。
(42)前記LT−β−Rブロッキング剤がLT−βレセプターに対するモノクローナル抗体を含む、項目38に記載の組成物。
(43)前記モノクローナル抗体が抗ヒトLT−β−R mAb BDA8である、項目42に記載の組成物。
(44)前記LT−β−Rブロッキング剤が表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体を含む、項目38に記載の組成物。
(45)前記抗体がLTリガンドのサブユニットに対する、項目44に記載の組成物。
(46)前記モノクローナル抗体が抗ヒトLT−β mAb B9である、項目45に記載の組成物。
(47)前記LT−β−Rブロッキング剤がマウス表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体を含む、項目22に記載の組成物。
(48)項目42に記載の組成物であって、前記抗体が、LT−βレセプター陽性細胞を1〜14日にわたってコートするのに十分な量で存在する、組成物。
(49)前記抗体が、1〜14日間に亘ってLT−リガンド陽性細胞をコートするのに十分な量で存在する、項目44に記載の組成物。
(50)LT−β−Rブロッキング剤を選択するための方法であって、以下の工程:
a) 有効量の少なくとも1つのLT−β−R活性化剤および推定のLT−β−Rブロッキング剤の存在下で腫瘍細胞を培養する工程;および
b) 該推定のLT−β−Rブロッキング剤が該LT−β−R活性化剤の抗腫瘍活性を減少させるかどうかを測定する工程、
を包含する、方法。
(51)項目50に記載の方法であって、前記LT−β−R活性剤が、LT−α/βヘテロマー複合体を含む、方法。
(52)前記LT−α/βヘテロマー複合体が、化学量論LT−α1/β2である、項目51に記載の方法。
(53)項目50に記載の方法であって、前記LT−β−R活性剤が、LT−β−Rシグナリングを刺激する抗LT−β−R抗体を含む、方法。
(54)TNF−Rシグナリングを阻害することなしにLT−β−Rシグナリングを阻害するための方法であって、有効量のLT−β−Rブロッキング剤を被験体に投与する工程を包含する、方法。
(55)項目54に記載の方法であって、前記LT−β−Rブロッキング剤は、可溶性リンホトキシン−βレセプター、LT−βレセプターに対する抗体、および表面LTリガンドに対する抗体からなる群より選択される、方法。
(56)項目54に記載の方法であって、前記被験体が、哺乳動物由来の1以上細胞を含む、方法。
(57)項目56に記載の方法であって、前記哺乳動物がヒトである、方法。
(58)項目54に記載の方法であって、前記LT−β−Rブロッキング剤が、表面LTリガンドに選択的に結合し得るリガンド結合ドメインを有する可溶性リンホトキシン−βレセプターを含む、方法。
(59)前記可溶性リンホトキシン−βレセプターが、ヒト免疫グロブリンFcドメインをさらに含む、項目58に記載の方法。
(60)項目54に記載の方法であって、前記LT−β−Rブロッキング剤が、LT−βレセプターに対するモノクローナル抗体を含む、方法。
(61)前記LT−β−Rブロッキング剤は、抗ヒトLT−β−R mAb BDA8を含む、項目57に記載の方法。
(62)項目54に記載の方法であって、前記LT−β−Rブロッキング剤が、表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体を含む、方法。
(63)前記抗体が、LTリガンドのサブユニットに対するものである、項目62に記載の方法。
(64)前記LT−β−Rブロッキング剤が、抗ヒトLT−β mAb B9を含む、項目57に記載の方法。
(65)前記哺乳動物が、マウスであり、前記LT−β−Rブロッキング剤が、マウス表面LTリガンドに対するモノクローナル抗体である、項目56に記載の方法。
(66)項目60に記載の方法であって、前記LT−β−Rブロッキング剤が、1〜14日間に亘ってLT−βレセプター陽性細胞をコートするのに十分な量で投与される、方法。
(67)項目62に記載の方法であって、前記LT−β−Rブロッキング剤が、1〜14日間に亘ってLT−リガンド陽性細胞をコートするのに十分な量で投与される、方法。
(68)炎症性腸管症候群の処置方法であって、治療有効量のLT−β−R融合タンパク質
を投与する工程を包含する、方法。
(69)前記融合タンパク質がLT−β−Rと免疫グロブリンFcドメインとの融合体である、項目68に記載の方法。
【0023】
発明の要旨
本発明は、上で言及された問題を、リンホトキシン-βレセプターブロッキング剤を使用してリンホトキシン-βレセプター(LT-β-R)シグナリングを阻害することによって、免疫学的疾患を処置するための薬学的組成物および方法を提供することにより解決する。より特定すると、LT-β-Rブロッキング剤を含む組成物および方法は、例えば炎症性腸管症候群のようなTh1細胞媒介性免疫応答を阻害するために有用である。
【0024】
1つの実施態様において、LT-β-Rブロッキング剤として作用するリンホトキシン-βレセプター細胞外ドメインの可溶性型が提供される。この実施態様の好ましい組成物および方法は、免疫グロブリン定常H鎖ドメインに融合されたLT-β-R細胞外リガンド結合ドメインを有する組換えリンホトキシン-βレセプター融合タンパク質を含む。より好ましくは、LT-β-Rリガンド結合ドメインはヒトIgG Fcドメインに融合される。
【0025】
本発明の別の実施態様において、LT-β-Rブロッキング剤として作用する抗体が提供される。この実施態様の好ましい組成物および方法は、リンホトキシン-βレセプターに対する1つ以上の抗体を含む。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。この実施態様の他の好ましい組成物および方法は、表面リンホトキシンに対する1つ以上の抗体を含む。より好ましくは、抗体はリンホトキシン-βに対するモノクローナル抗体である。
【0026】
本発明はさらに、LT-β-Rブロッキング剤(例えば、LT-β-Rの可溶性型、抗-LT Abおよび抗LT-β-R Ab)を選択するための新規なスクリーニングプロセスを提供する。このスクリーニングプロセスは、LT-β-Rシグナリングをモニターする腫瘍細胞傷害性アッセイを実施することを含む。アッセイは、腫瘍細胞傷害性アッセイにおいてLT-β-R活性化剤(例えば、LT-α1/β2)の存在下におけるリガンド誘導性または抗体誘導性LT-β-Rシグナリングに対するヒト腺ガン細胞の増加した感受性を使用する。
【0027】
LT-β-ブロッキング剤は、腫瘍細胞に対するLT-α/βヘテロマー複合体(または他のLT-β-R活性化剤)の細胞傷害性効果を阻害する。推定のLT-β-Rブロッキング剤を試験するために使用される手順は、抗LT-β-R抗体の場合(LT-β-R活性化剤であるLT-α1/β2の存在下で)について例示され、そして以下の工程を含む:
1) 腫瘍細胞(例えば、HT29ヒト腺ガン細胞)を、IFN-γおよび精製LT-α1/β2を含有する培地中で、アッセイされる特定の抗LT-β-R Abの存在下または非存在下で数日間培養する;
2) 細胞を、生存する細胞を染色する色素で処理する;そして
3) 染色された細胞の数を定量して、各サンプルにおいてLT-α1/β2、IFN-γ、および試験抗LT-β-R Abの存在下で傷害される腫瘍細胞の割合を決定する。あるいは、生存する細胞の数を、細胞生存性を測定する多くの周知のアッセイ(例えば、DNAへの3H-チミジン取り込み)のいずれかにより決定し得る。このアッセイにおいて傷害される腫瘍細胞の割合を少なくとも20%減少する抗LT-β-R Ab(またはAbの組み合わせ)は、本発明の範囲内のLT-β-Rブロッキング剤である。
【0028】
この細胞傷害性アッセイは、LT-α/βヘテロマー複合体および他のLT-β-R活性化剤を、単独でまたは組み合わせてのいずれかで使用して実施され得る。アッセイは、必要に応じて新たなLT-β-Rブロッキング剤を同定するために適合され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1 リガンド結合ドメインをコードするヒトLT-βレセプターの細胞外部分の配列。
【図2】図2 ヒトIgG1 Fcドメイン(mLT-β-R-Fc)にカップリングした可溶性マウスLT-βレセプターは、可溶性マウスLT-α/βリガンドによって誘導されるマウスWEHI 164細胞中のLT-β-Rシグナリングをブロックする。WEHI 164細胞は、LTリガンド(mLT-α/β)濃度の上昇に従って死滅する。可溶性mLT-β-R-Fc(10μg/ml)は、このLTリガンド誘導性細胞死をブロックする。可溶性マウスTNFレセプター融合タンパク質(p55TNF-R-Fc)は、LT-α/β活性化細胞死をブロックする効果をほとんど有さない。3日後に、細胞数と比例する反応したMTTの光学密度(OD 550)を測定することによって増殖を定量した。
【図3】図3 ヒトLT-β-R(BDA8 mAb)に対する抗体は、可溶性LTリガンドと、ヒト細胞表面上のLT-β-Rとの間の相互作用をブロックする。WiDr腫瘍細胞の増殖は、IFN-γおよび可溶性LT-α1/β2リガンドの組合わせによってブロックされる。抗LT-β-R抗体BDA8は、LT-α1/β2リガンドの、WiDr腫瘍細胞の増殖を阻害する能力をブロックする。黒字の記号は、IgG1コントロールmAb(10μg/ml)の存在下での細胞増殖を示す。白抜きの記号は、抗LT-β-R mAb BDA8(10μg/ml)の効果を示す。
【図4】図4 ヒトLT-β(B9 mAb)に対する抗体は、細胞表面LT-α/βリガンドと可溶性LT-βレセプター(hLT-β-R-Fc;2μg/ml)との間の相互作用をブロックする。表面結合LT-β-R-Fcを、フィコエリトリン標識されたロバ抗ヒトIgGおよびFACS分析を用いて検出した。生じたピークの平均蛍光強度を、チャンネル数としてプロットする。点線は、B9 mAbの非存在下でのレセプター結合の量に対応する平均蛍光強度を示す。
【図5】図5 マウス接触遅延型過敏症モデル(DTH)における耳腫脹に対するLT-β-Rブロッキング剤(mLT-β-R-Fc)の効果。グラフは、感作されたマウスの耳に対して0.2% DNFB抗原をチャレンジした24時間後に測定された耳の厚みの増加を示す。それぞれの記号は、異なる実験を表す。ポイント当たり4匹の動物のみを使用したダイアモンド形で区別された実験以外は、全ての実験においてポイントあたり7〜8匹の動物を使用した。緩衝液(PBS)、および20mg/kgのコントロールIgG融合タンパク質(LFA3-Fc)で処置したマウスを、ネガティブコントロールとして用いた。接触DTH耳腫脹を阻害する8mg/kgの抗VLA4 mAb(PS/2 mAb)で処置したマウスを、ポジティブコントロールとして用いた。
【図6】図6は、mLT-βR-1gおよびhLFA3-1g融合タンパク質での処置の14日後のマウスにおいて観察された体重変化のグラフである。
【図7】図7は、mLT-βR-1gおよびhLFA3-1g融合タンパク質での処置の14日後のマウスにおいて観察された結腸の長さの変化のグラフである。
【図8】図8は、CD45RBlowCD4ポジティブT細胞;CD45RBhighCD4ポジティブT細胞;CD45RBhighおよびLTβR-1g;ならびにCD45RBhighおよびhLFA3-lgの注射後のマウスの体重の時間経過である。
【図9】図9は、図8から11の処置の後に観察された体重の平均および標準偏差のグラフ表示である。
【図10】図10は、ネガティブおよびポジティブコントロール、ならびにmLTβR-1gを注射したマウスの肉趾の厚みの増加の表示である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本明細書に記載の発明が完全に理解され得るために、以下に詳細な説明を記載する。
【0031】
用語「サイトカイン」は、細胞間の相互作用を媒介する分子を指す。「リンホカイン」は、リンパ球によって放出されるサイトカインである。
【0032】
用語「Tヘルパー(Th)細胞」は、細胞傷害性T細胞の生成を助け、B細胞と協同して抗体産生を刺激するT細胞の機能的サブクラスを指す。ヘルパーT細胞は、クラスIIMHC分子とともに抗原を認識する。
【0033】
用語「Th1」は、LT-α、インターフェロン-γおよびIL-2(および他のサイトカイン)を産生し、チャレンジに対する細胞性(すなわち、非免疫グロブリン)応答に関連する炎症反応を誘発するTヘルパー細胞のサブクラスを指す。
【0034】
用語「Th2」は、免疫チャレンジに対する免疫グロブリン(体液性)応答に関連するIL-4、IL-5、IL-6、およびIL-10を含むサイトカインを産生するTヘルパー細胞のサブクラスを指す。
【0035】
用語「細胞媒介性」は、応答を生じるT細胞およびそれらの産物の直接的な効果により生じる免疫学的事象を指す。このタイプの応答は、概して(しかし、排他的ではなく)T細胞のTh1クラスに関連する。このカテゴリーには含まれないものは、概してT細胞のTh2クラスに関連するB細胞分化およびB細胞拡大に対するT細胞のヘルパー効果である。
【0036】
用語「遅延型過敏症(DTH)」は、完全な効果が1〜3日の間現れ、抗原に対する遅い応答に特徴づけられる免疫学的応答を指す。この遅い応答は、免疫グロブリン-媒介性(体液性)アレルギー反応に見られる相対的に速い応答と対照をなす。3タイプのDTH反応がある:接触過敏症、ツベルクリン型過敏症、および肉芽腫性反応。
【0037】
用語「免疫グロブリン応答」または「体液性応答」は、外来抗原に対する動物の免疫学的応答を指し、これにより動物が外来抗原に対する抗体を産生する。Tヘルパー細胞のTh2クラスは、高親和性抗体の効率的な産生に重要である。
【0038】
用語、抗体の「Fcドメイン」とは、ヒンジ、すなわちCH2およびCH3ドメインを含むが、抗原結合部位を欠く分子の一部をいう。この用語はまた、IgMまたは他の抗体イソタイプの等価領域を含むものとする。
【0039】
用語「抗LT-βレセプター抗体」は、LT-βレセプターの少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する任意の抗体を指す。
【0040】
用語「抗LT抗体」は、LT-α、LT-βまたはLT-α/β複合体の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する任意の抗体を指す。
【0041】
用語「LT-β-Rシグナリング」は、LT-β-R経路に関連する分子反応、およびその結果生じるその後の分子反応をいう。
【0042】
用語「LT-β-Rブロッキング剤」は、LT-β-Rに結合したリガンド、細胞表面LT-β-Rクラスタリング、またはLT-β-Rシグナリングを減少することのできる、またはLT-β-Rシグナルが細胞内においてどのように読みとられるかに影響を与え得る薬剤を指す。
【0043】
リガンド-レセプター結合の工程において作用するLT-β-Rブロッキング剤は、LT-β-Rに対するLTリガンド結合を、少なくとも20%阻害することができる。リガンド-レセプター結合の工程の後に作用するLT-β-Rブロッキング剤は、腫瘍細胞に対するLT-β-R活性化の細胞傷害性効果を少なくとも20%阻害することができる。LT-β-Rブロッキング剤の例として、可溶性LT-β-R-Fc分子、および抗LT-α、抗LT-β、抗LT-α/β、および抗LT-β-R Abが挙げられる。好ましくは、抗体は、LT-αの分泌形態と交差反応しない。
【0044】
用語「LT-β-R生物学的活性」は:1)LT-β-R分子または誘導体の、可溶性または表面LT-β-R分子と結合した可溶性または表面LTリガンドと競合する能力;または、
2)天然LT-β-R分子と共通する免疫調節応答または細胞傷害性活性を刺激する能力、を指す。
【0045】
用語「LT-α/βヘテロマー複合体」および「LTヘテロマー複合体」は、少なくとも1つのLT-αと、1つ以上のLT-βサブユニット(1つ以上のサブユニットの可溶性形態、変異形態、改変された形態、およびキメラ形態を含む)との間の安定な会合体をいう。これらのサブユニットは静電気相互作用、ファンデルワールス相互作用、または共有結合相互作用によって会合し得る。好ましくは、LT-α/βヘテロマー複合体は、少なくとも2つの隣接するLT-βサブユニットを有し、かつ隣接するLT-αサブユニットを欠く。LT-α/βヘテロマー複合体が、細胞増殖アッセイにおいてLT-β-R活性化剤として作用する場合、複合体が可溶性であり、かつ化学量論LT-α1/β2を有することが好ましい。可溶性LT-α/βヘテロマー複合体は、膜貫通ドメインを欠き、そしてLT-α、および/またはLT-βサブユニットを発現するように操作された適切な宿主細胞によって分泌され得る(Croweら、J. Immunol. Methods, 168, 79-89頁(1994))。
【0046】
用語「LTリガンド」は、LT-βレセプターに特異的に結合し得るLTヘテロマー複合体、またはその誘導体を指す。
【0047】
用語「LT-β-Rリガンド結合ドメイン」は、LTリガンドの特異的な認識およびそれとの相互作用に関わるLT-β-Rの部分または複数の部分を指す。
【0048】
用語「表面LT-α/β複合体」および「表面LT複合体」は、細胞表面に表示されたLT-αおよび膜結合LT-βサブユニット(1つ以上のサブユニットの変異形態、改変形態およびキメラ形態を含む)を含む複合体を指す。「表面LTリガンド」は、LT-βレセプターに特異的に結合し得る表面LT複合体またはその誘導体を指す。
【0049】
用語「被験体」は、動物、または動物由来の1つ以上の細胞を指す。好ましくは、動物は、哺乳動物である。細胞は、組織に保持された細胞、細胞クラスター、不死化細胞、トランスフェクションされた細胞または形質転換された細胞、ならびに物理的または表現型的に改変された動物由来の細胞を含むが、これらに限定されない、任意の形態であり得る。
【0050】
リンホトキシン-β:TNFファミリーのメンバー
腫瘍壊死因子(TNF)関連サイトカインは、宿主防御および免疫調節の多面発現性メディエーターの大きなファミリーとして出現した。このファミリーのメンバーは、細胞-細胞接触を介して局所的に作用する膜結合形態、または遠くの標的に作用し得る分泌タンパク質として存在する。TNF関連レセプターの相等しいファミリーは、これらのサイトカインと反応し、そして細胞死、細胞増殖、組織分化、および炎症誘発性(proinflammatory)応
答を含む種々の経路を引き起こす。
【0051】
TNF、リンホトキシン-α(LT-α、またはTNF-βとも称される)、およびリンホトキシン-β(LT-β)は、リガンドのTNFファミリーのメンバーであり、これはまた、Fas、CD27、CD30、CD40、OX-40、および4-1BBレセプターに対するリガンドも含む(Smithら、Cell、76、959-62頁(1994))。TNFファミリーのいくつかのメンバー(TNF、LT-α、LT-β、およびFasを含む)によるシグナリングは、壊死またはアポトーシスにより腫瘍細胞死を誘導し得る(プログラムされた細胞死)。非腫瘍形成性細胞において、TNFおよび多くのTNFファミリーリガンド-レセプター相互作用が、免疫システムの発達、および種々の免疫チャレンジに対する応答に影響を及ぼす。
【0052】
ほとんどのTNFファミリーリガンドは、細胞表面上の膜結合形態として見いだされる。TNFおよびLT-αは、ヒトにおいて、分泌形態および膜に会合した表面形態の両方で見いだされる。表面TNFは、分泌形態を生成するためにタンパク質分解的に切断される膜貫通領
域を有する。対照的に、表面LT-αは、膜貫通領域を欠く。膜に会合したLT-αは、LT-α/β複合体において、LT-β(関連した膜貫通ポリペプチド)とのヘテロマー複合体として、細胞表面につなぎ留められる。
【0053】
ほとんどの膜に会合したLT-α/β複合体(「表面LT」)は、LT-α1/β2化学量論を有する(Browningら、Cell、72、847-56頁(1993);Browningら、J. Immunol.、154、33-46頁(1995))。表面LTリガンドは、高い親和性を有するTNF-Rと結合せず、TNF-Rシグナリングを活性化しない。LT-βレセプター(LT-β-R)と称される、他のTNF関連レセプターは、高い親和性を有するこれらの表面リンホトキシン複合体と結合する(Croweら、Science、264、707-10頁(1994))。
【0054】
TNF-Rシグナリングと同様にLT-β-Rシグナリングは、抗増殖効果を有し、腫瘍細胞に対して細胞傷害性であり得る。出願人の同時係属中の米国出願第08/378,968号において、LT-β-R活性化剤を用いてLT-β-Rを選択的に刺激する組成物および方法が開示されている。LT-β-R活性化剤は、TNF-R誘導性の炎症誘発性または免疫調節性経路を同時に活性化することなく、腫瘍細胞増殖を阻害するために有用である。
【0055】
非腫瘍細胞において、TNFおよびTNF関連サイトカインは、広い範囲の免疫応答において活性である。TNFおよびLT-αリガンドの両方が、TNFレセプター(p55またはp60およびp75またはp80;本明細書において「TNF-R」と称される)に結合し、そしてそれを活性化する。TNFおよびLT-αは、マクロファージおよび好中球の殺菌活性を増強する微生物感染に対して初期かつ迅速に応答して、マクロファージにより産生される。マクロファージ、または細胞傷害性Tリンパ球(CTLまたは「キラーT細胞」)によって作られたTNFおよびLT-αは、標的細胞表面上のTNFレセプターに結合し、そして感受性細胞の死を引き起こす。
【0056】
TNFおよびTNF関連サイトカインはまた、感染またはストレスに応答して炎症性カスケードを開始し得る。TNF、LT-α、およびIFN-γの放出は、血管内皮細胞と、特定のリンパ球タイプとの間の接着特性を変化させる。接着の増大は、食細胞および白血球の、血流から炎症部位を囲む組織への遊走を容易にする。同様の炎症反応が、組織移植片および器官移植物の細胞性拒絶、ならびに特定の免疫障害において主要な役割を果たす。
【0057】
細胞表面リンホトキシン(LT)複合体は、高レベルのLTを発現するCD4+T細胞ハイブリドーマ細胞(II-23.D7)において特徴づけられている(Browningら、J. Immunol.、147、1230-37頁(1991);Androlewiczら、J.Biol.Chem.、267、2542-47頁(1992))。LT-β-R、LTサブユニット、および表面LT複合体の発現および生物学的役割は、Pathways for Cytolysis, Current Topics Microbiol. Immunol.、Springer-Verlag、175-218頁(1995)における、C.F. Wareら、「リンホトキシン系のリガンドおよびレセプター」においてレビューされている。
【0058】
主に活性化TおよびBリンパ球ならびにナチュラルキラー(NK)細胞によってLT-α発現が誘導され、そしてLT-αが分泌される。Tヘルパー細胞サブクラスの内、LT-αは、Th2細胞ではなくTh1によって産生されるように思われる。LT-αはまた、メラニン細胞において検出されている。多発性硬化症患者の病変における小膠細胞およびT細胞はまた、抗LT-α抗血清によって染色され得る。
【0059】
リンホトキシン-β(p33とも称される)は、Tリンパ球、T細胞株、B細胞株、およびリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞の表面上で同定されている。LT-βは、本明細書において参考として援用される、出願人の同時係属中の国際出願、1992年1月9日にWO 92/00329として公開されたPCT/US91/04588、および1994年6月23日にWO 94/13808として公開されたPCT/US93/11669の主題である。
【0060】
表面LT複合体は、抗LT-α抗体または可溶性LT-β-R-Fc融合タンパク質を用いて、FACS分析または免疫組織学によって定義されるように、主に活性化TおよびBリンパ球およびナチュラルキラー(NK)細胞によって発現される。表面LTはまた、ヒト細胞傷害性Tリンパ球(CTL)クローン、活性化末梢単核リンパ球(PML)、IL-2活性化末梢血リンパ球(LAK細胞)、アメリカヤマゴボウ分裂促進因子活性化または抗CD40活性化末梢Bリンパ球(PBL)、ならびにTおよびB細胞系統の種々のリンパ性腫瘍についても記載されている。アロ抗原を有する標的細胞の連動(engagement)は、CD8、およびCD4 CTLクローンによって、表面LT発現を特異的に誘導する。
【0061】
LT-βレセプター(レセプターのTNFファミリーのメンバー)は、表面LTリガンドに特異的に結合する。LT-β-Rは、LTヘテロマー複合体(優位的にLT-α1/β2およびLT-α2/β1)を結合するが、TNFまたはLT-αを結合しない(Croweら、Science、264、707-10頁(1994))。LT-β-Rによるシグナリングは、末梢リンパ性器官発達、および体液性免疫応答において役割を果たし得る。
【0062】
LT-β-R発現の研究は、初期段階にある。LT-β-R mRNAは、ヒト脾臓、胸腺、およびその他の主要な器官において見いだされる。LT-β-R発現パターンは、LT-β-Rが末梢血T細胞およびT細胞株においてないことを除いては、p55-TNF-Rについて報告されたものと類似している。
【0063】
可溶性LT複合体の産生
可溶性LT-α/βヘテロマー複合体は、膜結合形態から可溶性形態に変化したLT-βサブユニットを含む。これらの複合体は、本願出願人の同時係属中の国際出願(WO 94/13808として1994年6月23日に公開されたPCT/US93/11669)に詳述されている。可溶性LT-βペプチドは、膜貫通領域の末端(すなわちアミノ酸番号44付近)と最初のTNF相同領域(すなわちアミノ酸番号88)との間のいずれかの点で切断されるリンホトキシン-βのアミノ酸
配列によって規定される(番号付与法はBrowningら, Cell, 72, 847-56頁(1993)に従う)。
【0064】
可溶性LT-βポリペプチドは、LT-βのN末端を短縮し、細胞質テールおよび膜貫通領域を除去することによって産生され得る(Croweら, Science, 264, 707-710頁(1994))。あるいは、欠失によって、または、膜貫通ドメインを含む通常疎水性のアミノ酸残基を親水性のアミノ酸残基で置換することによって、膜貫通ドメインを不活化してもよい。いずれも場合も、実質的に親水性のハイドロパシープロフィールが作られ、それが脂質親和性を減少し、そして水溶性を改善する。膜貫通ドメインの欠失は、潜在的に免疫原性のエピトープの導入を避けるので、親水性アミノ酸残基による置換よりも好ましい。
【0065】
欠失または不活化した膜貫通ドメインは、I型リーダー配列(例えばVCAM-1リーダー)と置換するか、またはI型リーダー配列に連結され得、その結果val40とpro88との間のどこかの配列で始まるタンパク質を分泌する。可溶性LT-βポリペプチドはそのN末端に任意の数の周知のリーダー配列を含み得る。このような配列は、真核生物系においてそのペプチドを発現させ、そしてその分泌経路に標的化させる。例えば、Ernstら、米国特許第5,082,783号(1992)を参照のこと。
【0066】
可溶性LT-α/βヘテロマー複合体は、LT-αおよび可溶性LT-βをコードするDNAで適切な宿主細胞を同時にトランスフェクションすることによって産生され得る(Croweら, J. Immunol. Methods, 168, 79-89頁(1994))。LT-αの非存在下で分泌される可溶性LT-βは高度にオリゴマー化される。しかし、LT-αと同時に発現される場合、両方のタンパク質を含有する70kDaの三量体様構造が形成される。通常はLT-αのみを発現する細胞株(例えば上記のRPMI 1788細胞)を、可溶性LT-βポリペプチドをコードする遺伝子でトランスフェクションすることによって、可溶性LT-α1/β2ヘテロマー複合体を産生することもできる。
【0067】
LT-αポリペプチドおよびLT-βポリペプチドを別々に合成し、それらを温和な界面活性化剤を用いて変性し、混合し、そして界面活性化剤を除去することによって復元して、分離され得る混合したLTヘテロマー複合体を形成させ得る(下記を参照のこと)。
【0068】
LT-α1/β2複合体の精製
TNFレセプターおよびLT-βレセプターをアフィニティー精製試薬として使用するクロマトグラフィーによって、異なるサブユニット化学量論を含む同時発現複合体から、可溶性LT-α1/β2ヘテロマー複合体を分離する。TNFレセプターはLT複合体のα/αクレフト内のみに結合する。LT-βレセプターは、高い親和性でβ/βクレフトと、そして低い親和性でヘテロマーLT-α/β複合体のα/βクレフトと結合する。従って、LT-α3およびLT-α2/β1はTNF-Rと結合する。LT-β-Rはまた、LT-α2/β1三量体と結合し得る(α/βクレフト内において)が、LT-α3を結合し得ない。さらに、LT-β-R(TNF-Rではない)は、LT-α1/β2およびLT-βnを結合する(そのような調製物の正確な組成は知られていないが、これらは大きい凝集物である)
レセプターアフィニティー試薬は、可溶性細胞外ドメイン(例えばLoetscherら, J. Biol. Chem., 266, 18324-29頁(1991))、または免疫グロブリンFcドメインにカップリングした細胞外リガンド結合ドメインを有するキメラタンパク質(Loetscherら, J. Biol. Chem., 266, 18324-29頁(1991);Croweら, Science, 264, 707-710頁(1994))のいずれかとして調製され得る。レセプターは、日常的な手順を用いる化学的架橋によって、アフィニティーマトリックスにカップリングされる。
【0069】
レセプターおよび免疫アフィニティークロマトグラフィーを用いてLT-α1/β2リガンドを精製し得るスキームは2種類ある。第1のスキームでは、LT-αと短縮型のLT-β形態との両方を同時発現する適切な発現系から得た上清をTNF-Rカラムに通す。TNF-RはLT-α3三量体およびLT-α2/β1三量体に結合する。TNF-Rカラムからの流出液はLT-β(n)およびLT-α1/β2を含む。
【0070】
第2のスキームでは、全てのLT-β含有形態(LT-β(n)、LT-α1/β2、およびLT-α2/β1)をLT-β-Rカラムに結合させ、そしてカオトロフ(chaotrophe)またはpH変化のような古典的な方法を用いて、そのカラムから溶出させる。(LT-α3はこのカラムを流出する)。その溶出液を中和するか、またはカオトロフを除去し、次いでその溶出液を、LT-α2/β1三量体のみに結合するTNF-Rカラムに通す。このカラムの流出液はLT-β(n)およびLT-α1/β2三量体を含む。
【0071】
両方の場合において、当該分野で公知のゲルろ過および/またはイオン交換クロマトグラフィー手順を続けて行なうことによって、純粋なLT-α1/β2三量体をLT-βから分離し得る。
【0072】
あるいは、異なる形態のLT-α/βヘテロマー複合体を、種々の従来のクロマトグラフィー手段で分離および精製し得る。一連の従来の精製スキームを上記の免疫アフィニティー精製工程の1つと組み合わせることもまた好ましくあり得る。
【0073】
LT-β-Rブロッキング剤のスクリーニング 本発明の1つの態様において、LT-β-Rブロッキング剤は、LT-β-Rシグナリングを阻害するLT-β-Rに対する抗体(Ab)を含む。好ましくは、抗LT-β-R Abは、モノクローナル抗体(mAb)である。このような阻害的抗LT-β-R mAbの1つは、BDA8 mAbである。
【0074】
阻害的抗LT-β-R Abおよび他のLT-β-Rブロッキング剤は、LT-β-RもしくはLTリガンドに結合するか、またはLT-β-Rシグナリングの細胞に対する効果を阻害するかのいずれかの、1つ以上の因子の能力を検出するスクリーニング法を用いて同定され得る。
【0075】
1つのスクリーニング法は、LT-β-Rを有する腫瘍細胞に対するLT-β-Rシグナリングの細胞傷害性効果を使用する。腫瘍細胞は、1つ以上のLT-β-R活性化剤に曝され、LT-β-Rシグナリングを誘導する。LT-β-R活性化剤は、IFN-γの存在下におけるLT-α/βヘテロマー複合体(好ましくは可溶性LT-α1/β2)、または活性化抗LT-β-R Abを含む(以下を参照のこと;また本出願人等の同時係属中の米国特許出願番号第08/378,968号に記載されている)。LT-β-Rシグナリングをブロックし得る抗体および他の因子は、以下のアッセイにおいてLT-β-Rシグナリングの腫瘍細胞に対する細胞傷害性効果を阻害するそれらの能力に基づいて選択される:
1)HT29細胞のような腫瘍細胞を、培地、および試験される因子の段階希釈物の存在下または非存在下において、少なくとも1つのLT-β-R活性化剤を含む一連の組織培養ウェル中で3日から4日間培養する;
2)ミトコンドリアの機能を測定するMTTのような生体色素染色を腫瘍細胞混合物に添加し、そして数時間反応させる;
3)各ウェル中の混合物の光学密度を550nmの波長(OD 550)で定量化する。OD 550は、LT-β-R活性化剤および試験LT-β-Rブロッキング剤の存在下で各ウェル中に残存する腫瘍細胞の数に比例する。このアッセイにおいてLT-β-R活性化腫瘍細胞の細胞傷害性を少なくとも20%減少させ得る因子または因子の組合せは、本発明の範囲内のLT-β-Rブロッキング剤である。
【0076】
LT-β-Rシグナリングを活性化する任意の因子または因子の組合せが、上記のアッセイにおいてLT-β-Rブロッキング剤を同定するために用いられ得る。LT-β-Rシグナリングを誘導するLT-β-R活性化剤(例えば、活性化抗LT-β-R mAb)は、上記の腫瘍細胞アッセイを用いて、(単独または他の因子との組合せで)腫瘍細胞の細胞傷害性を増強するそれらの能力に基づいて選択され得る。
【0077】
LT-β-Rブロッキング剤を選択するための他の方法は、LTリガンド-レセプター結合を直接干渉する推定の因子の能力をモニターすることである。リガンド-レセプター結合を少なくとも20%ブロックし得る因子または因子の組合せは、本発明の範囲内のLT-β-Rブロッキング剤である。
【0078】
リガンド-レセプター結合の強さを測定する多くのアッセイの任意のものが、推定のLT-β-Rブロッキング剤との競合アッセイを行うために用いられ得る。レセプターとリガンドとの間の結合の強さは、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)またはラジオイムノアッセイ(RIA)を用いて測定され得る。特異的結合はまた、抗体-抗原複合体を蛍光的に標識し、そして蛍光活性化細胞選別(FACS)分析を行うことにより、または他のこのような免疫検出法を行うことにより測定され得る。これらの方法は全て、当該分野で周知の技術である。
【0079】
リガンド-レセプター結合相互作用はまた、プラズモン共鳴検出を利用するBIAcore機器(Pharmacia Biosensor)を用いて測定され得る (Zhouら、Biochemistry, 32,8193-98頁(1993); FaegerstramおよびO'Shannessy, "Surface plasmon resonance detection in affinity technologies", Handbook of Affinity Chromatography, 229-52頁、Marcel Dekker, Inc., New York(1993)) 。
【0080】
BIAcore技術により、金表面にレセプターを結合させ、そしてその上にリガンドを流すことが可能になる。プラズモン共鳴検出は、表面に結合した物質の量の直接的定量化をリアルタイムで与える。この技術は、結合(on)および解離(off)の両方の速度定数を生じる。従って、リガンド-レセプター解離定数および親和性定数が、推定のLT-β-Rブロッキング剤の存在下および非存在下で直接決定され得る。
【0081】
レセプター-リガンド相互作用を測定するためのこれらおよび他の任意の技術を用いて、表面または可溶性LTリガンドの表面または可溶性LT-β-R分子への結合を阻害するLT-β-Rブロッキング剤(単独または他の因子との組合せで)の能力を評価し得る。このようなアッセイはまた、LT-β-Rブロッキング剤、またはこのような因子の誘導体(例えば、融合体、キメラ、変異体、および化学的に改変された形態)(単独または組合せで)を試験し、LT-β-R活性化をブロックするその改変された因子の能力を至適化するために用いられ得る。
【0082】
可溶性LT-β-R分子の産生
本発明の1つの実施態様におけるLT-β-Rブロッキング剤は、可溶性LT-βレセプター分子を含む。図1は、ヒトLT-β-Rの細胞外部分の配列(これは、リガンド結合ドメインをコードする)を示す。図1の配列情報および当該分野で周知の組換えDNA技術を用いて、LT-β-Rリガンド結合ドメインをコードする機能的フラグメントが、ベクターにクローン化され得、そして可溶性LT-β-R分子を産生するために適切な宿主において発現され得る。本明細書中に記載されるアッセイに従ってLTリガンド結合について天然のLT-βレセプターと競合し得る可溶性LT-β-R分子は、LT-β-Rブロッキング剤として選択される。
【0083】
図1に示す配列から選択されるアミノ酸配列を含む可溶性LT-βレセプターは、1つ以上の異種タンパク質ドメイン(「融合ドメイン」)に結合されて、レセプター融合タンパク質のインビボにおける安定性を増大させられるか、またはその生物学的活性もしくは局在化を調節され得る。
【0084】
好ましくは、安定な血漿タンパク質(これらは、代表的には循環中で20時間より長い半減期を有する)を用いて、レセプター融合タンパク質を構築する。このような血漿タンパク質は、免疫グロビン、血清アルブミン、リポタンパク質、アポリポタンパク質、およびトランスフェリンを含むが、これらに限定されない。可溶性LT-β-R分子を特定の細胞または組織タイプに標的化し得る配列はまた、特異的に局在化される可溶性LT-β-R融合タンパク質を作製するために、LT-β-Rリガンド結合ドメインに結合させ得る。
【0085】
LT-β-Rリガンド結合ドメインを含むLT-β-R細胞外領域の全てまたは機能的部分(図1)は、ヒトIgG1重鎖のFcドメインのような免疫グロビン定常領域に融合され得る(Browningら、J. Immunol., 154,33-46頁(1995))。可溶性レセプター-IgG融合タンパク質が好ましく、そしてそれらは一般的な免疫学的試薬であり、そしてこれらの構築のための方法は、当該分野で公知である(例えば、米国特許第5,225,538号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。
【0086】
機能的LT-β-Rリガンド結合ドメインは、 IgG1以外の免疫グロブリンクラスまたはサブクラスに由来する免疫グロブリン(Ig)Fcドメインに融合され得る。異なるIgクラスまたはサブクラスに属する抗体のFcドメインは、多様な二次的エフェクター機能を活性化し得る。活性化は、Fcドメインが対応する(cognate)Fcレセプターにより結合される場合に起こる。二次的エフェクター機能には、補体系を活性化する能力、胎盤を横切る能力、および種々の微生物のタンパク質に結合する能力が含まれる。免疫グロビンの異なるクラスおよびサブクラスの特性は、Roittら、Immunology, 4.8頁(Mosby-Year Book Europe Ltd., 第3版、1993)に記載されている。
【0087】
補体系の活性化は、炎症を媒介する酵素反応のカスケードを開始する。補体系の産物は、細菌の結合、エンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、細胞傷害性、フリーラジカル生成、および免疫複合体の可溶化を含む種々の機能を有する。
【0088】
補体酵素カスケードは、抗原に結合したIgG1、IgG3、およびIgM抗体のFcドメインによって活性化され得る。IgG2のFcドメインは、より効果的でないようであり、そしてIgG4、IgA、IgDおよびIgEのFcドメインは、補体を活性化することにおいて無効である。従って、その関連した二次的エフェクター機能が、 LT-β-R-Fc融合タンパク質で処置される特定の免疫応答または疾患に望ましいのかどうかに基づいてFcドメインを選択し得る。
【0089】
LTリガンドを有する標的細胞を傷つけるかまたは殺すことが有利である場合には、特に活性なFcドメイン(IgG1)を選択して、LT-β-R-Fc融合タンパク質を作製し得る。あるいは、LT-β-R-Fc融合体を細胞に補体系を誘導することなしに標的化することが所望される場合は、不活性なIgG4 Fcドメインが選択され得る。
【0090】
Fcレセプターへの結合および補体活性化を低減または排除するFcドメイン中の変異が記載されている(S. Morrison, Annu. Rev. Immunol., 10, 239-65頁(1992))。これらまたは他の変異が、単独または組合せで、LT-β-R-Fc融合タンパク質を構築するために用いられるFcドメインの活性を至適化するために用いられ得る。
【0091】
ヒト免疫グロブリンFcドメインに融合されたリガンド結合配列を含む可溶性ヒトLT-β-R融合タンパク質(hLT-β-R-Fc)の産生が実施例1に記載されている。hLT-β-R-Fcを分泌する実施例1に従って作製された1つのCHO株は、「hLTβ;R-hG1 CHO#14」と呼ばれる。この株のサンプルは、ブダペスト条約の規定に従い1995年7月21日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville, MD)に寄託され、そしてATCC受託番号CRL11965を指定された。
【0092】
可溶性マウスLT-β-R融合分子(mLT-β-R-Fc)の産生は、実施例2に記載されている。実施例2に従って作製されたmLT-β-R-Fcを分泌するCHO株は、「mLTβ;R-hG1 CHO#1.3.BB」と呼ばれる。この株のサンプルは、ブダペスト条約の規定に従い1995年7月21日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville, MD)に寄託され、そしてATCC受託番号CRL11964を指定された。
【0093】
上記のATCC寄託物の公衆への入手可能性に関する全ての制限は、本出願に対する特許の認可の際に取り消し不能に除去される。
【0094】
レセプター-Ig融合タンパク質の連結点を形成する異なるアミノ酸残基は、可溶性LT-βレセプター融合タンパク質の構造、安定性、および最終的な生物学的活性を変化させ得る。1つ以上のアミノ酸が、選択されたLT-β-RフラグメントのC末端に付加され、選択された融合ドメインとの連結点が修飾され得る。
【0095】
LT-β-R融合タンパク質のN末端はまた、選択されたLT-β-R DNAフラグメントが組換え発現ベクターへの挿入のためにその5'末端で切断される位置を変えることにより変化され得る。各LT-β-R融合タンパク質の安定性および活性は、日常的な実験および本明細書中に記載のLT-β-Rブロッキング剤を選択するためのアッセイを用いて試験されそして至適化され得る。
【0096】
図1に示す細胞外ドメイン内のLT-β-Rリガンド結合ドメイン配列を用いて、アミノ酸配列改変体はまた、可溶性LT-βレセプターまたは融合タンパク質のLTリガンドに対する親和性を改変するために構築され得る。本発明の可溶性LT-β-R分子は、表面LTリガンド結合について内因性の細胞表面LT-βレセプターと競合し得る。細胞表面LT-βレセプターとLTリガンド結合について競合し得るLT-β-Rリガンド結合ドメインを含む可溶性分子はいずれも、本発明の範囲内のLT-β-Rブロッキング剤である。
【0097】
LT-β-Rブロッキング剤としての可溶性LT-β-R分子
可溶性ヒトLT-βレセプター-免疫グロブリン融合タンパク質(hLT-β-R-Fc)は、実施例1における手順に従い作製され、そしてヒトHT29腫瘍細胞においてLT-β-R誘導性細胞傷害性をブロックするその能力について試験された。表1(実施例3)は、可溶性LT-βレセプター(hLT-β-R-Fc)およびTNFレセプター(p55-TNF-R-Fc)融合タンパク質が、種々のTNFおよび可溶性LTリガンドのHT29腫瘍細胞増殖に対する阻害的効果をブロックする
能力を比較する。
【0098】
表1のデータは、可溶性LT-βレセプター(hLT-β-R-Fc)が、LT-α1/β2リガンドと細胞表面LT-βレセプターとの間の相互作用により引き起こされる腫瘍細胞死を、50%ブロックし得る濃度を示す。腫瘍細胞増殖を少なくとも20%ブロックする能力は、この可溶性LT-βレセプターを本発明によるLT-β-Rブロッキング剤として同定する。予想どおり、可溶性TNF-R融合タンパク質(p55-TNF-R-Fc)は、TNF誘導性増殖阻害を、TNFに結合し、そ
してその表面レセプターとの相互作用を妨害することにより完全にブロックした。
【0099】
可溶性TNF-R融合タンパク質は、LTリガンド(LT-α1/β2)媒介性抗増殖効果に対して何の影響も及ぼさなかった。対照的に、LT-β-R融合タンパク質は、LTリガンド効果をブロックしたが、TNFの効果もLT-αの効果もブロックしなかった。従って、可溶性ヒトLT-β-R融合タンパク質は、TNFおよびLT-αリガンドによるTNF-R活性化を干渉しない。
【0100】
LT-β-Rシグナリングがまた、マウスにおいて腫瘍細胞に対して細胞傷害性であるかどうか、および可溶性LT-β-R融合タンパク質がLT-β-R誘導性細胞傷害性をブロックし得るかどうかを決定するために、類似の実験をマウス腫瘍細胞を用いて行った。可溶性マウスLT-β-R-Fc融合タンパク質(mLT-β-R-Fc;実施例2を参照のこと)を、LTリガンドで処理されたマウスWEHI 164細胞の死をブロックするその能力について試験した(実施例4)。
【0101】
図2は、可溶性マウスLT-β-R(mLT-β-R-Fc)の、マウスWEHI 164細胞におけるLTリガンド誘導性LT-β-Rシグナリングに対する効果を示す。このアッセイが示すように、WEHI 164細胞は、可溶性LT-α1/β2リガンドで処理することにより死滅される。mLT-β-R-Fcの添加は、LTリガンド活性化細胞死をブロックする。コントロールのTNFレセプター融合タンパク質(p55TNF-R-Fc)は、細胞死のブロッキングに対して効果をほとんど有さない。
【0102】
これらのデータは、可溶性LT-β-R融合タンパク質が、LTリガンド結合について効果的に表面LT-β-R分子と競合し得ることを示す。従って、可溶性mLT-β-R-Fc融合タンパク質は、マウスにおいてLT-β-Rブロッキング剤として作用する。
【0103】
抗ヒトLT-β-R抗体の供給源
本発明の別の実施態様において、ヒトLT-βレセプターに対する抗体(抗LT-β-R Ab)は、LT-β-Rブロッキング剤として機能する。本発明の抗LT-β-R Abは、ポリクローナルまたはモノクローナル(mAb)であり得、そしてLT-β-Rシグナリングをブロックするその能力、インビボでのバイオアベイラビリティー、安定性、または他の所望の特質を至適化するために改変され得る。
【0104】
ヒトLT-βレセプターに対するポリクローナル抗体血清は、ヤギ、ウサギ、ラット、ハムスターまたはマウスなどの動物に、完全フロイントアジュバント中のヒトLT-βレセプターFc融合タンパク質(実施例1)を皮下注射した後、不完全フロイントアジュバントで腹腔内または皮下の追加抗原注射をすることにより、従来の技術を用いて調製される。LT-βレセプターに対する所望の抗体を含有するポリクローナル抗血清は、従来の免疫学的
手順によりスクリーニングされる。
【0105】
ヒトLT-βレセプター-Fc融合タンパク質に対するマウスモノクローナル抗体(mAb)は、実施例5に記載のように調製される。マウス抗ヒトLT-β-R mAb BDA8を産生するハイブリドーマ細胞株(BD.A8.AB9)は、ブダペスト条約の規定に従い1995年1月12日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville, MD)に寄託され、そしてATCC受託番号HB11798を指定された。上記のATCC寄託物の公衆への入手可能性に関する全ての
制限は、本出願に対する特許の認可の際に取り消し不能に除去される。
【0106】
種々の形態の抗LT-β-R抗体はまた、標準的な組換えDNA技術(WinterおよびMilstein, Nature, 349, 293-99頁(1991))を用いて作製され得る。例えば、動物抗体由来の抗原結合ドメインがヒト定常ドメインに連結されている「キメラ」抗体を構築し得る(例えば、Cabillyら;米国特許第4,816,567号;Morrisonら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81, 6851-55頁(1984))。キメラ抗体は、ヒトの臨床処置に使用される場合
、動物抗体により誘発される、観測される免疫原性応答を減少させる。
【0107】
さらに、LT-β-Rを認識する組換え「ヒト化抗体」を合成し得る。ヒト化抗体は、その中に特異的抗原結合に寄与する領域が挿入されている、主にヒトのIgG配列を含むキメラである(例えば、WO 94/04679)。動物を所望の抗原で免疫化し、対応する抗体を単離し、そして特異的抗原結合に寄与する可変領域配列の一部を取り出す。次いで、その動物由来の抗原結合領域を、抗原結合領域が欠失されているヒト抗体遺伝子の適切な位置にクローン化する。ヒト化抗体は、ヒト抗体における異種(種間)配列の使用を最小にし、そして処置される被験体における免疫応答を比較的誘発しそうにない。
【0108】
異なるクラスの組換え抗LT-β-R抗体の構築はまた、異なるクラスの免疫グロブリンから単離された、抗LT-β-R可変ドメインおよびヒト定常ドメイン(CH1、CH2、CH3)を含むキメラまたはヒト化抗体を作製することにより達成され得る。例えば、増加した抗原結合部位結合価を有する抗LT-β-R IgM抗体は、ヒトμ鎖定常領域を有するベクターに抗原結合部位をクローン化することによって組換え生産され得る(Arulanandamら, J. Exp. Med., 177, 1439-50頁(1993);Laneら, Eur. J. Immunol., 22, 2573-78頁(1993);Trauneckerら, Nature, 339, 68-70頁(1989))。
【0109】
さらに、標準的な組換えDNA技術を用いて、抗原結合部位の近傍にあるアミノ酸残基を変えることによって、組換え抗体のその抗原との結合親和性を変化させ得る。ヒト化抗体の抗原結合親和性は、分子モデリングに基づく変異誘発によって増大され得る(Queenら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 86, 10029-33頁(1989);WO 94/04679)。
【0110】
標的化される組織タイプまたは意図される特定の処置計画に依存して、LT-β-Rに対する抗LT-β-R Abの親和性を増大させるか、または減少させることが所望され得る。例えば、半予防的処置のために、一定レベルの、LT-β経路を介してシグナルする能力が減少した抗LT-β-R Abで、患者を処置することが有利であり得る。同様に、LT-β-Rに対して増大した親和性を有する阻害的抗LT-β-R Abは、短期の処置に有利であり得る。
【0111】
LT-β-Rブロッキング剤としての抗LT-β-R抗体
LT-β-Rブロッキング剤として作用する抗LT-β-R抗体は、腫瘍細胞におけるLT-β-R誘導性細胞傷害性を阻害するその能力を試験することにより選択され得る(実施例5)。
【0112】
本発明の好ましい実施態様において、組成物および方法は、マウス抗ヒトLT-β-R mAb BDA8を含む。図3は、mAb BDA8が、本発明によって規定されるようなLT-β-Rブロッキング剤として作用することを示す。WiDr腫瘍細胞は、IFN-γおよび可溶性LT-α1/β2リガンドの存在下で増殖を停止する。コントロール抗体(IgG1)は、この増殖阻害に対し何ら影響を及ぼさない。対照的に、抗LT-β-R mAb BDA8は、WiDr細胞増殖を阻害する可溶性LT-α1/β2リガンドの能力をブロックする。従って、ヒトLT-β-Rに対する抗体は、本発明により規定されるようなLT-β-Rブロッキング剤として機能し得る。
【0113】
ヒトLT-βレセプターに対する他の抗体を試験することにより、ヒトにおいてLT-β-Rブロッキング剤として機能するさらなる抗LT-β-R抗体が、日常的な実験および本明細書中で記載のアッセイを用いて同定され得ることが予想される。
【0114】
抗表面LTリガンド抗体の供給源
本発明の別の好ましい実施態様は、LT-β-Rブロッキング剤として機能するLTリガンドに対する抗体を含む組成物および方法に関する。抗LT-β-R Abについて上記したように、LT-β-Rブロッキング剤として機能する抗LTリガンド抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであり得、そして日常的な手順に従い改変して、その抗原結合特性および免疫原性を調節し得る。
【0115】
本発明の抗LT抗体は、可溶性の、変異体の、変化された、そしてキメラ型のLTサブユニットを含む、2つのLTサブユニットのいずれか1つに対して個々に惹起され得る。LTサブユニットが抗原として用いられる場合、好ましくはこれらは、LT-βサブユニットである。LT-αサブユニットが用いられる場合、得られる抗LT-α抗体が、表面LTリガンドに結合し、そして分泌されるLT-αと交差反応もせず、TNF-R活性(実施例3に記載のアッセイによる)を調節もしないことが好ましい。
【0116】
あるいは、1つ以上のLTサブユニットを含むホモマーの(LT-β)またはヘテロマーの(LT-α/β)複合体に対する抗体が、LT-β-Rブロッキング剤としての活性について惹起されそしてスクリーニングされ得る。好ましくは、LT-α1/β2複合体は、抗原として用いられる。先に議論したように、得られる抗LT-α1/β2抗体が、分泌されるLT-αに結合することなしに、そしてTNF-R活性に影響を及ぼすことなしに表面LTリガンドに結合するこ
とが好ましい。
【0117】
ポリクローナル抗ヒトLT-α抗体の産生は、本出願人等の同時係属出願(WO 94/13808)に記載されている。モノクローナル抗LT-αおよび抗LT-β抗体もまた、記載されている(Browningら、J. Immunol., 154, 33-46頁 (1995))。
【0118】
マウス抗ヒトLT-β mAbは、実施例6に記載のように調製した。マウス抗ヒトLT-β-R mAb B9を産生するハイブリドーマ細胞株(B9.C9.1)は、ブダペスト条約の規定に従い1995年7月21日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville, MD)に寄託され、そしてATCC受託番号HB11962を指定された。
【0119】
モノクローナルハムスター抗マウスLT-α/β抗体を、実施例7に記載のように調製した。ハムスター抗マウスLT-α/β mAb BB.F6を産生するハイブリドーマ細胞株(BB.F6.1)は、ブダペスト条約の規定に従い1995年7月21日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(Rockville, MD)に寄託され、ATCC受託番号HB11963を指定された。
【0120】
上記のATCC寄託物の公衆への入手可能性に関する全ての制限は、本出願に対する特許の認可の際に取り消し不能に除去される。
【0121】
LT-β-Rブロッキング剤としての抗LTリガンド抗体
蛍光活性化細胞選別(FACS)アッセイを開発し、LT-β-Rブロッキング剤として作用し得るLTサブユニットおよびLT複合体に対する抗体についてスクリーニングした(実施例6および7)。このアッセイにおいて、可溶性ヒトLT-β-R-Fc融合タンパク質を、漸増量の試験抗体の存在下で、PMA活性化II-23細胞--これは表面LT複合体を発現する(Browningら、J. Immunol., 154, 33-46頁(1995))--に添加した。LT-βレセプター−リガンド相互作用を少なくとも20%阻害し得る抗体を、LT-β-Rブロッキング剤として選択する。
【0122】
マウス抗ヒトLT-β mAb B9を試験するために行ったこのアッセイの結果を図4に示す。図4は、抗LT-β mAb B9が、可溶性LT-β-R-Fc融合タンパク質の、活性化された細胞上に誘導された表面LTリガンドへの結合を選択的にブロックし得ることを示す。これらの結果は、LTリガンドサブユニットに対する抗体がLT-β-Rブロッキング剤として機能することを確認する。
【0123】
上記のFACSアッセイをまた、ハムスターにおいて可溶性マウスLT-α/β複合体に対して惹起されたmAbを試験するために用いた(実施例7)。ハムスター抗マウスLT-α/β mAb BB.F6を試験するために行われたこのアッセイの結果を、表2に示す(実施例7)。表2は、抗LT-α/β mAb BB.F6が、可溶性mLT-β-R-Fc融合タンパク質(実施例2)の、マウスT細胞ハイブリドーマ上に発現された表面LTリガンドへの結合を効果的にブロックし得、従って、本発明によるLT-β-Rブロッキング剤であることを示す。
【0124】
LTサブユニットではなくむしろLT-α/β複合体を、動物を免疫化するための抗原として用いることにより、より効果的な免疫化が導かれ得るか、または表面LTリガンドに対するより高い親和性を有する抗体が得られ得る。LT-α/β複合体で免疫化することにより、LT-αおよびLT-βサブユニットの両方におけるアミノ酸残基(例えば、LT-α/βクレフトを形成する残基)を認識する抗体を単離し得ることが考えられる。ヒトLT-α/βヘテロマー複合体に対する抗体を試験することにより、ヒトにおいてLT-β-Rブロッキング剤として機能するさらなる抗LT抗体が、日常的な実験および本明細書中に記載のアッセイを用いて同定され得ることが予想される。
【0125】
LT-β-Rブロッキング剤は、マウスにおけるTh1細胞媒介性接触過敏症を阻害する
本発明のLT-β-Rブロッキング剤は、Th1細胞媒介性免疫応答を阻害し得る。このようなTh1媒介性応答の一つは、遅延型過敏症(DTH;CherおよびMosmann, J.Immunol. 138, 3688-94頁 (1987);一般的議論については、I. Roittら, Immunology, 22.1-22.12頁, Mosby-Year Book Europe Ltd., 第3版, (1993)もまた参照のこと)である。DTHは、抗原で感作したTh1細胞が、それと同一の抗原との二次接触の後にサイトカインを分
泌するときに誘発される。Th1サイトカインは、マクロファージを誘引および活性化する。このマクロファージは、炎症反応を引き起こすさらなるエフェクター分子を放出する。
【0126】
DTH反応は、3つの異なるタイプ(接触過敏症、ツベルクリン型過敏症、および肉芽腫性反応)に分類される。3つのタイプの過敏症(HS)は、外来抗原が、感作された被験体に直接付与されるか、またはその皮下に注射される場合の、外来抗原に対する応答の速度および性質により区別され得る。DTH反応は、皮膚の肥厚化の速度および程度を測定することによりモニターされる。
【0127】
ツベルクリン型HS反応は、被験体に以前に曝された微生物(例えば、mycobacterium tuberculosisまたはM. leprae)由来の外来抗原の注射部位で生じる皮膚反応である。この皮膚反応は、48時間〜72時間の間が最大であり、以前に遭遇した微生物に対する診断的感受性試験(例えば、ツベルクリン皮膚試験)の基礎として頻繁に用いられる。抗原が組織内に存続する場合は、ツベルクリン型病変が発達した結果、これは肉芽腫性反応になり得る。
【0128】
肉芽腫性反応は、臨床的に最も深刻なDTH反応である。なぜなら、これらは、Th1細胞媒介性疾患に関連する多くの病理学的影響をもたらし得るからである。肉芽腫性反応は、抗原または免疫複合体がマクロファージからクリアランスされず、そしてTh1サイトカイン分泌を刺激し続ける場合に生じる。刺激部位での慢性的炎症および活性化マクロファージの凝集は、肉芽腫性反応を特徴付ける。
【0129】
上皮細胞およびマクロファージのコアは、リンパ球および線維性沈着によっても囲まれ得、肉芽腫といわれる硬化した構造を形成する。ときどき、肉芽腫のコアの広い範囲において、細胞死が存在する(例えば、結核に罹患した肺組織において)。肉芽腫性反応の標的組織における硬化は、約4週間内に起きる。
【0130】
肉芽腫形成の頻度に影響を及ぼす因子は、住血吸虫に感染したマウスを用いて同定され得る(Amiriら, Nature, 356, 604-607頁 (1992))。住血吸虫寄生虫(住血吸虫)は、感染した肝臓の門脈細静脈に産みつけられた住血吸虫の卵の周辺に肉芽腫形成をもたらす、寄生性疾患を生じ得る。このTh1細胞媒介性DTH応答を阻害する因子は、住血吸虫に感染したマウスの肝臓における、肉芽腫のサイズまたは肉芽腫形成の頻度もしくは速度を減少させ得る。住血吸虫の卵に対する細胞反応は、漸増濃度の推定LT-β-Rブロッキング剤で経時的に処置したマウスにおいて形成された肉芽腫の数およびサイズを定量することにより評価され得る。
【0131】
接触過敏症(CHS)は、皮膚が標的器官である、DTHの1つのクラスである。CHSにおいて、炎症反応は、反応性のハプテンを皮膚上に局所適用することにより生じる。アレルゲンは、一般に、少なくとも1つのハプテン分子を含む。このハプテン分子は、通常、それ自身で抗原性であるためには、小さすぎる。ハプテンは皮膚に浸透し、そして皮下で正常なタンパク質と反応して新規の抗原複合体を生成する。
【0132】
感作した被験体のハプテンへの再曝露は、DTH応答を引き起こす。抗原提示細胞と組み合わせたハプテン-キャリアタンパク質結合体は、サイトカイン(IL-2、IL-3、IFN-γ、およびGM-CSFを含む)の放出を引き起こすエフェクター機構を活性化する。放出されたサイトカインのカスケードは、CD4+ T細胞を増殖させ、種々の細胞表面接着分子の発現パターンを変化させ、そしてT細胞およびマクロファージを皮膚の炎症部位に誘引する。サイトカインカスケードおよびそれにより生じる血管拡張、真皮および表皮の細胞浸潤および水腫は、標的組織の腫脹および炎症を導く。このことは、DTH反応に対する応答における測定可能な皮膚肥厚化を説明する。
【0133】
特定のハプテンが個体を感作し得る程度は、種々の要因に依存する。これらの要因は、ハプテンがどの程度充分に皮膚に浸透し得るか、および宿主のキャリアタンパク質と反応して結合体を形成し得るかを含む。ほぼ全ての個体を感作するハプテンの1つは、2,4-ジニトロ-フルオロベンゼン(DNFB)である。
【0134】
DNFBのようなハプテンに対する皮膚のCHS応答は、細胞媒介性免疫についての古典的な動物モデルである。感作マウスの耳へのこのCHS応答の局在化は、耳の厚みを測定することにより、インビボでのこの細胞媒介性免疫応答の、容易で、正確かつ再現性の高い定量を可能にする。マウスのCHS反応およびDNFB誘導性炎症応答の組織病理学の詳細は、報告されている(Chisholmら, Eur.J.Immunol., 23, 682-688頁 (1993))。
【0135】
ほとんどの個体において接触過敏症応答を誘導するDNFBの能力は、Th1細胞媒介性DTH反応に関連する炎症応答を低減または排除する因子を同定するために使用され得る。可溶性マウスLT-β-R-Fc融合タンパク質は、マウスにおけるDNFB誘導性接触過敏症反応を有効に阻害する(実施例8)。マウスを、最初に、各後肢の踵にDNFBを2日間連続で適用することにより感作した。最初の感作の5日後に、キャリア溶液中の準刺激用量のDNFBを左耳の表面に付与した。キャリア溶液単独を、コントロールとして右耳に付与した。
【0136】
次いで、漸増濃度のLT-β-Rブロッキング剤mLT-β-R-Fc(実施例2)を、マウスに静脈内注射した(実施例8)。PBS緩衝液単独、またはヒトIgG融合タンパク質(LFA3-Fc)の注射をネガティブコントロールとして供し、そしてCHSを阻害することが知られる抗VLA4特異的mAb(PS/2 mAb)の注射をポジティブコントロールとして供した。抗原投与の24時間後、それぞれの耳の厚み(DNFB抗原投与およびDNFB非投与について)を測定した。LT-β-Rブロッキング剤による耳の腫脹応答の阻害を、処置した群とそれらのネガティブコントロール群とを比較することにより判断した。
【0137】
図5は、mLT-β-R-Fcが、阻害されないDNFB処置コントロール動物(PBSおよびLFA3-Fc)と比較して、DNFB処理マウスの耳の腫脹応答において有意な低減を生じることを示す。可溶性LT-β-Rは、インヒビター抗VLA4特異的mAb(PS/2 mAb)と同等に有効に、このCHS反応をブロックし得る。これは、抗原投与部位内へのT細胞の流入をブロックすることにより作用する(Chisholmら, Eur. J. Immunol.,23, 682-88頁 (1993))。
【0138】
これらのデータは、インビトロでLT-β-Rブロッキング剤として作用する可溶性LT-β-R融合タンパク質がまた、動物に投与された場合に、Th1細胞媒介性免疫応答を有効に阻害し得ることを示す。インビトロで同定された本発明のLT-β-Rブロッキング剤は、この耳腫脹アッセイ、または上記のアッセイのような他のDTHアッセイを用いて、インビボでのTh1細胞媒介性免疫応答の重篤度を低減するのに有用であるさらなるLT-β-Rブロッキング剤を選択するために試験され得る。
【0139】
LT-β-Rブロッキング剤は、Th2細胞媒介性(体液性)免疫応答を阻害しない
上に示すように、本発明のLT-β-Rブロッキング剤は、接触遅延型過敏症のようなTh1細胞媒介性エフェクター機構を阻害し得る(図5)。このTh1細胞媒介性応答は、Th2細胞依存性応答に顕著に影響を及ぼすことなく阻害される。Th1細胞媒介性免疫応答におけるLT-β-Rブロッキング剤の差別的効果は、LT-β-Rブロッキング剤の存在下でのTh2細胞依存性免疫応答(例えば、一次抗体応答およびイソタイプスイッチング)をモニタリングすることにより示された。
【0140】
マウスに、可溶性LT-β-R融合タンパク質(mLT-β-R-Fc;実施例2)もしくはコントロールのIgG融合タンパク質(LFA3-Fc)のいずれかを10日間の日程で5回にわたって注射したか、または未処置のままにした。2回目の注射後、全てのマウスの尾の基部に、100μgのオボアルブミンを含有する100μlの完全フロイントアジュバントを注射した。11日後、一次血清の抗オボアルブミン特異的抗体の力価を、IgG1、IgG2a、およびIgMイソタイプに特異的なELISAを用いて分析した。
【0141】
図6は、オボアルブミンを免疫したマウスにおける血清の抗オボアルブミン抗体産生へのマウスLT-β-Rブロッキング剤mLT-β-R-Fcの効果を示す(実施例9)。LT-β-Rブロッキング剤の投与は、オボアルブミン免疫後の一次抗体の力価に顕著には影響を及ぼさない。比較すると、CD40リガンドに誘導されるCD40レセプターシグナリングを妨害することにより、マウスにおける抗原特異的IgG応答を完全にブロックする(Renshawら, J.Exp.Med., 180, 1889-1900頁 (1994))。CD40は、TNFファミリーにおける別のリガンド/レセプター対である。
【0142】
全免疫グロブリン産生および成熟は、明らかにTh2細胞依存性である。しかし、Th1サイトカインIFN-γはIgG2aサブクラスへのスイッチに関与するが、そのために絶対的に必要とされるわけではないという証拠もある(Huangら, Science, 259, 1742-45頁 (1993))。LT-β-Rブロッキング剤mLT-β-R-Fcは、これらの実験においてIgG2aスイッチを阻害しなかった。本発明のLT-β-Rブロッキング剤が、Th1細胞媒介性応答のこの体液局面をブロックしないという可能性がある。さらに、mLT-β-R-Fcで処理したマウス由来のリンパ球の増殖応答は減少しなかった(実施例10;図7)。
【0143】
これらの実験は、本発明のLT-β-Rブロッキング剤の投与に基づく治療が、免疫応答のTh2依存性抗体産生機能に有害には影響を及ぼさないことを示す。図6に例示する抗体応答の正常パターンはまた、可溶性mLT-β-R-Fcでの多数の処置がマウスに対して毒性を示さないことを示し、さらに、本発明に示す組成物および方法の有用な治療的性質を示す。
【0144】

Tヘルパー細胞媒介性疾患
多くの器官特異的自己免疫状態は、病理学的Th1応答に関与するようである。これらのデータは概説されている(ModlinおよびNutman, Current Opinion in Immunol., 5, 511-17頁 (1993);Romagnaniら, Ann. Rev. Immunol., 12, 227-57頁 (1994))。これらの器官特異的自己免疫状態は、以下を包含する:多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、交感性眼炎、ブドウ膜炎、および乾癬。
【0145】
インスリン依存性糖尿病は、インスリンを産生するβ膵細胞がランゲルハンス島内に浸潤する白血球により破壊される、自己免疫疾患である。糖尿病は、活性化された前糖尿病性膵細胞を移入することにより、新生仔非肥満性糖尿病(NOD)マウスにおいて迅速に誘導され得る。最近、Th1様細胞またはTh2様細胞、さもなければ遺伝的類似物が、新生仔NODマウスに移入された。Th1細胞のみが糖尿病を、そしてほぼ全てのレシピエントにおいて迅速に誘導した(Katzら, Science, 268, 1185-88頁 (1995))。これは、本発明のLT-β-Rブロッキング剤(これは、Th1細胞媒介性免疫応答の効果をインビボで阻害し得る)がインスリン依存性糖尿病を処置または予防するために有用であることを示す。
【0146】
いくつかの全身性自己免疫疾患(種々の関節炎を含む)はTh1細胞関連性である。慢性関節リウマチおよびSjorgren症候群は両方とも、Th0細胞およびTh1細胞に関与するようである。対照的に、全身性紅斑狼蒼(SLE)は、異常なTh0/Th2支配性応答を有するようである。
【0147】
いくつかの慢性炎症性疾患はまた、異常なTh1型応答を有するようである。この応答は、炎症性腸管疾患、肺のサルコイドーシス、および同種移植片拒絶を包含する。ヒトにおける炎症性腸管疾患(IBD)は、少なくとも2つのカテゴリー(潰瘍性結腸炎およびクローン病)を包含する。両方の疾患は、免疫病理学的自己免疫様障害から生じると考えられる。IBDのいくつかのマウスモデルにおいて、Th1応答をブロックするいくつかの因子がこの疾患の進展または経過をブロックし得ることが明らかである(F. Powrieら, Immunity 1: 553 1994)。免疫応答のTh1成分の阻害が、ヒトのIBDにおいて有益な効果を有することが可能である。IBDの多くのモデルは、記載および概説されている(C. Elsonら, Gastroenterology 109: 1344 1995)。少なくとも3群のモデル(化学誘導型、ポリマー/微生物誘導型、および変異マウスを用いる免疫学型)が存在する。
【0148】
通常用いられるポリマー/微生物誘導性モデルの1つにおいては、デキストラン硫酸溶液がマウスの飲料水中に導入され、そしてこれを摂取すると腸の上皮内層が刺激され、その損傷に対する強力な免疫応答がもたらされる。動物は、結腸炎を生じ、この結腸炎は、下痢、糞便中の血液、体重の減少、および結腸壁の膨張に起因する結腸長の短縮として現れる。このモデルは、左側の結腸炎および上皮形成異常を誘導する。上皮形成異常は、潰瘍性結腸炎の特徴であるガンを導き得る。
【0149】
第2のモデルは、選択されたセットのCD4 T細胞をscidマウス(すなわち、T細胞およびB細胞を欠くマウス)内に移植することからなる(F. Powrieら, International Immunology 5: 1461-1471 1993; Morrisseyら, J. Exp. Med. 178: 237 1993)。選択された細胞(CD45RBhi細胞といわれる)が増殖し、そしてscidマウスを再構成するので、自己反応性T細胞の出現を防いでいる正常な機構は機能不全であり、そして自己反応性細胞が発達する。ラットにおいて、多くの器官と反応性の細胞が観察されるが、マウスにおいては反応性はまず腸管において生じる。自己反応性細胞が拡大および発達する経路を変化させる因子、または細胞が腸管を攻撃する能力をブロックし得る因子のいずれかがこのモデルにおいて効力を有する。さらに、このモデルは自己反応性免疫系細胞の病理学的進展を少なくとも部分的に模倣するので、このモデルをブロックする処理は、実際に、ヒトにおいて疾患を改変する挙動を有し得る。このモデルにおいて、TNFに対する抗体は、疾患をブロックし得(F. Powrieら, Immunity 1, 552 1994)、そしてこれらの抗体は、ヒトの疾患の処置において効能があることが見出されている(H. M. van Dullemenら, Gastroenterology 109: 109 1995)。従って、このモデルは、どの因子がIBDにおいて治療的に有用であり得るかを予測し得る。さらに、CD45RBモデルがTh1媒介性疾患プロセスの1例であり、そして実際にラットにおいてこのモデルは多くの器官における疾患を導くので、この系におけるLTβR-Igの効力は、LTβR-Ig、またはLTβRとそのリガンドとの相互作用をブロックする他の手段が広範囲の関連する免疫学的疾患において有益であり得ることを示す。
【0150】
一般に、特異的T細胞に対する自己抗体の正確な寄与は、これらの自己免疫疾患において示されていない。細胞応答は、現在、主に抗体により引き起こされると考えられるこれらの全身性自己免疫疾患(例えば、種々の関節炎)における病原性に対して大きく寄与し得る。
【0151】
いくつかの病原性感染因子に対する正常な免疫応答はまた、Th1応答を惹起する。Th1応答は過剰となり得、そしてそれ自身が医療的問題として存在する。重篤な医療的問題を導く肉芽腫性反応の例(上記のDTH反応の1つのクラス)は、癩病、結核患者の肺における肉芽腫形成、サルコイドーシス、および住血吸虫病を包含する(Roittら, Immunology, 22.5-6頁(Mosby-Year Book Europe Ltd.)第3版, 1993)。乾癬もまた、Th1細胞により媒介されるようである。
【0152】
細胞溶解性T細胞(すなわち、CTL(CD8陽性T細胞))もまた、Th1様集団およびTh2様集団にさらに分けられ得る。従って、Th群に関して知られる多くのことをまた、CD8+細胞に適用することが可能である。CD8+細胞は、主に、抗ウイルス応答および移植組織拒絶応答に関連する。
【0153】
LT-β-Rブロッキング剤を用いる処置
本発明の組成物は、取り組まれる特定の臨床状態を処置するために、有効用量で投与される。与えられた適用に関して好ましい薬学的処方および治療的に有効な用量レジメの決定は、充分に当業者の技術範囲内であり、例えば、患者の状態および体重、望まれる処置の程度ならびにその処置に対する患者の寛容が考慮される。可溶性LT-β-Rの約1mg/kgの用量は、処置用量を最適化するための開始点として適切であると期待される。
【0154】
治療的有効用量の決定はまた、インビトロで、標的細胞(ブロッキング剤に依存して、LT-β-RまたはLTリガンド陽性細胞)を1〜14日間コートするために必要とされるLT-β-Rブロッキング剤の濃度を測定する実験を行うことにより決定され得る。本明細書中に記載されるレセプター-リガンド結合アッセイは、細胞コーティング反応をモニターするために用いられ得る。LT-β-RまたはLTリガンド陽性細胞は、活性化したリンパ球集団からFACSを用いて分離され得る。これらのインビトロ結合アッセイの結果に基づいて、適切なLT-β-Rブロッキング剤の適切な濃度範囲は、本明細書中に記載されるアッセイによって動物において試験するために選択され得る。
【0155】
本発明の可溶性LT-β-R分子、抗LTリガンド、および抗LT-β-R Ab(単離および精製形態の抗体もしくは複合体、その塩またはそれらの薬学的に受容可能な誘導体を含む)の単独または組み合わせた投与は、免疫抑制活性を示す因子の通常受け入れられる任意の投与方法を用いて達成され得る。
【0156】
これらの治療において使用される薬学的組成物もまた、種々の形態であり得る。これらには、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液体溶液または懸濁剤、坐剤、ならびに注射可能および注入可能な溶液のような固体、半固体、および液体の投薬形態が含まれる。好ましい形態は、目的とする投与方法および治療的適用に依存する。投与方法には、経口投与、非経口投与、皮下投与、静脈内投与、病変内投与、または局所投与が含まれ得る。
【0157】
本発明の可溶性LT-β-R分子、抗LTリガンド、および抗LT-β-R Abは、例えば、取り込みまたは安定性を刺激するコファクターと共に、もしくはこれらを伴わずに、滅菌等張処方物中に入れられ得る。処方物は好ましくは液体であり、または凍結乾燥粉末であり得る。例えば、本発明の可溶性LT-β-R分子、抗LTリガンド、および抗LT-β-R Abを、5.0mg/mlクエン酸一水和物、2.7mg/mlクエン酸三ナトリウム、41mg/mlマンニトール、1mg/mlグリシン、および1mg/mlポリソルベート20を含む処方緩衝液で希釈し得る。この溶液を凍結乾燥し、冷蔵状態で保存し、そして投与前に滅菌注射用水(USP)で再構成し得る。
【0158】
組成物はまた、好ましくは、当該分野において周知の通常の薬学的に受容可能なキャリア(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,第16版, 1980, Mac Publishing Companyを参照のこと)を含む。このような薬学的に受容可能なキャリアは、他の医療用薬剤、キャリア、遺伝的キャリア、アジュバント、賦形剤などを含み得る。それには、例えばヒト血清アルブミンまたは血漿調製物がある。組成物は、好ましくは単位投与形態であり、そして通常は1日に1回以上投与される。
【0159】
本発明の薬学的組成物はまた、冒された組織または血流の中、その近傍、さもなければそれと連絡して配置される、マイクロスフェア、リポソーム、他の微小粒子送達系または徐放性処方物を用いて、投与され得る。徐放性キャリアの好適な例は、坐剤またはマイクロカプセルのような成形物の形態の半透過性ポリマーマトリックスを包含する。移植可能な徐放性マトリックスまたはマイクロカプセル状の徐放性マトリックスとしては、ポリラクチド(米国特許第3,773,319号;EP 58,481)、L-グルタミン酸とエチル-L-グルタメートとの共重合体(Sidmanら, Biopolymers, 22, 547-56頁(1985));ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)またはエチレンビニルアセテート(Langerら, J. Biomed. Mater. Res., 15, 167-277頁(1981);Langer, Chem. Tech., 12, 98-105頁(1982))が挙げられる。
【0160】
本発明の可溶性LT-β-R分子、抗LTリガンド、および抗LT-β-R Abを、単独で、または組み合わせて含有するリポソームは、周知の方法により調製され得る(例えば、DE 3,218,121;Epsteinら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82, 3688-92頁(1985);Hwangら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77, 4030-34頁(1980);米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号を参照のこと)。通常、リポソームは、小さく(約200〜800オングストローム)単層型であり、その脂質含量は約30モル%コレステロールより多い。コレステロールの割合が選択されて、可溶性LT-β-R分子、抗LTリガンド、および抗LT-β-R Abの最適放出速度を制御する。
【0161】
本発明の可溶性LT-β-R分子、抗LTリガンド、および抗LT-β-R Abはまた、LT-β-Rブロッキング活性を調節するために、他のLT-β-Rブロッキング剤、免疫抑制剤、またはサイトカインを含有するリポソームに結合され得る。リポソームへのLT-β-R分子、抗LTリガンド、および抗LT-β-R Abの結合は、標的化送達のためにトキシンまたは化学療法剤を抗体に結合するのに広く使用されているヘテロ二官能性架橋剤のような、任意の公知の架橋剤によって達成され得る。リポソームへの結合はまた、炭水化物指向性架橋試薬である4-(4-マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド(MPBH)を用いて達成され得る(Duzgunesら,J. Cell. Biochem. Abst. Suppl. 16E 77(1992))。
【0162】
LT-β-Rブロッキング剤を含む治療的組成物の利点
本発明のLT-β-Rブロッキング剤は、Thを選択的に阻害し得、そしてTh2細胞依存性免疫エフェクター機構は阻害し得ない。LT-β-Rブロッキング剤は、Th1型サイトカイン(例えば、IL-2およびIFNγ)の活性により悪化させられる症状の処置に有用である。Th1サイトカインはTh2細胞依存性応答を阻害し得るので、LT-β-Rブロッキング剤はまた、通常はTh1誘導性サイトカインカスケードにより阻害される特定のTh2細胞依存性応答を間接的に刺激し得る。
【0163】
Th1細胞応答を選択的に抑制する(またはTh2細胞応答を間接的に刺激する)能力は、種々の自己免疫および慢性炎症性症状を含む多様な細胞媒介性免疫応答における異常性、抗原寛容、ならびに組織移植片および器官移植物の細胞性拒絶を処置するために有用である。
【0164】
上記のように、Th1細胞に基づく免疫学的状態の処置は、一般に免疫調節剤および免疫抑制剤を使用する。これらは、広範な細胞型および免疫学的応答に対する多面発現性効果を有する。これらの非特異的免疫抑制剤は一般に、有害な副作用を引き起こす、高くそしてしばしば細胞傷害性の用量で必要とされる。
【0165】
免疫学的応答の特徴を変化させる能力は、上記で議論されたマウス糖尿病の最近の研究(Katzら、Science, 268, 1185-88頁(1985))、および同種異系移植物モデル(Sayeghら、J. Exp. Med, 181, 1869-74頁(1995))において支持されている。後の研究において、CD28-B7 T細胞共刺激経路をブロックする融合タンパク質は、腎移植片寛容を誘導することが示された。寛容は、インビボで、Th1サイトカインの減少、およびTh2サイトカインの増加と相関した。これらのデータは、本発明のLT-β-Rブロッキング剤が、Th1細胞媒介性サイトカイン放出を阻害することによって組織移植片および器官移植物の細胞性拒絶を抑制することにおいて有用であることを示す。
【0166】
本発明の組成物および方法のLT-β-Rブロッキング剤を改変して、処置される症状、障害、または疾患に依存するLT-β-Rシグナリングの所望されるレベルが得られ得る。LT-β-Rシグナリングの絶対レベルは、そのそれぞれの分子標的についてLT-β-Rブロッキング剤の濃度および親和性を操作することによって、精密に調節され得ることが意図される。
【0167】
例えば、本発明の一つの実施態様において、可溶性LT-β-R分子を含む組成物が被験体に投与される。可溶性LT-βレセプターは、表面LTリガンドの結合について、細胞表面LT-βレセプターと有効に競合し得る。表面LTリガンドと競合する能力は、可溶性および細胞表面LT-β-R分子の相対的濃度、ならびにリガンド結合についてのその相対的親和性に依存する。
【0168】
その変異体可溶性LT-β-Rの表面LTリガンドとの結合親和性を増加または減少させる変異を有する可溶性LT-β-R分子は、当業者に周知の標準的な組換えDNA技術を使用して作製され得る。部位特異的変異またはランダムな変異を有する多数の分子は、日常的な実験および本明細書中に記載される技術を使用して、LT-β-Rブロッキング剤として作用するその能力について試験され得る。
【0169】
同様に、本発明の別の実施態様において、LT-βレセプターまたは一つ以上のLTリガンドサブユニットのいずれかに対する抗体は、LT-β-Rブロッキング剤として機能する。LT-βレセプターのシグナリングをブロックするこれらの抗体の能力は、変異、化学的修飾、または被験体に送達される抗体の有効濃度または活性を変化させ得る他の方法によって、修飾され得る。
【0170】
LT-β-Rのシグナリングを完全には阻害せずに減少させる能力は、正常な免疫機能を支持する一方で、過剰であるかまたは異常であるTh1細胞媒介性応答を阻害する、LT-β-Rのシグナリングのレベルの減少を、確立するため、または維持するために、重要であり得る。
【0171】
マウスのLT-α遺伝子の破壊によって、異常な末梢リンパ器官の発達が導かれる(De Togniら、Science, 264、703-7頁、(1994))。このようなマウスは、リンパ節を欠き、そしてその脾臓は、通常は明らかな小節中のT細胞に富む領域とB細胞に富む領域との間の区別を欠いた。類似する表現型がTNF-R活性を調節することによっては観察されていないので、本発明者らはこの表現型が表面LT誘導性のLT-β-Rのシグナリングの欠失と関連すると考える。従って、LT-β-R経路を選択的または部分的にブロックする能力は、LT-β-R経路によるシグナルの誤発現または過剰発現に関連する異常なリンパ器官の発達を処置することにおいて有用であり得る。
【0172】
いくつかのTh1関連反応は、多数の細胞媒介性免疫応答の重大な要素であり(Romagni, S., Ann. Rev. Immnol., 12, 227-57頁(1994))、そしてTh1細胞活性の絶対的な阻害は、特定の環境においては所望でないかもしれない。例えば、マウスは、良好なTh1応答が配備され得る場合、寄生虫感染に有効に耐え得る。ListeriaおよびToxoplasmaのような感染性因子はまた、強力なTh1型応答を誘発する。ヒトにおいて、mycobacterium tuberculosis応答は、Th1に基づくようである。リーシュマニア症の病原性は、マウスにおいて特徴付けられるTh1応答に類似する応答に相関する(ReedおよびScott, Current Opinion in Immunol., 5, 524-31頁、(1993))。
【0173】
LT-β-RのシグナリングをブロックすることによってTh1阻害のレベルに影響を及ぼす能力は、本発明のLT-β-Rブロッキング剤での処置によって達成され得る有益な結果を最大にすることにおいて重要であり得る。
【0174】
以下は、本発明の可溶性LT-βレセプター、抗LTリガンド、および抗LT-β-R抗体、ならびにそれらを特徴づけるために使用される方法を例証する実施例である。これらの実施例は、限定として解釈されるべきではない:本実施例は、例示の目的のために含まれており、そして本発明は、請求の範囲によってのみ限定される。
【0175】
実施例1
免疫グロブリンFc融合タンパク質としての可溶性ヒトLT-βレセプターの調製
体細胞ハイブリッド由来のヒト12p転写配列のライブラリーから単離されたヒトcDNAクローンの配列(Baensら、Genomics, 16,214-18頁(1993))は、GenBankに登録され、そして後にヒトLT-β-Rをコードする配列として同定された。この全長ヒトLT-β-R cDNAクローンの配列は、1992年以来、GenBank登録番号L04270として入手可能である。
【0176】
膜貫通領域までのLT-β-Rの細胞外ドメイン(図1)を、5'末端および3'末端にそれぞれNotIおよびSalI制限酵素部位を取り込んだプライマーを使用して、cDNAクローンからPCRによって増幅した(Browningら、J. Immnol.,154, 33-46頁(1995))。増幅産物を、NotIおよびSalIで切断し、精製し、そしてヒトIgG1のFc領域をコードするSalI-NotIフラグメントと共に、NotIで線状化したベクターpMDR901に連結した。得られたベクターは、別々のプロモーターにより駆動されるジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子およびLT-β-R-Fc融合タンパク質を含んでいた。
【0177】
このベクターを、CHO dhfr-細胞にエレクトロポレーションし、そしてメトトレキセート耐性クローンを、標準的な手順どおりに単離した。LT-β-R-Fcは培地中に分泌され、そしてELISAアッセイを用いて最高レベルのレセプター融合タンパク質を産生する細胞株を選択した。高産生の細胞株を多数になるまで増殖させ、そして馴化培地を回収した。純粋なLT-βレセプター融合タンパク質を、Protein A Sepharose Fast Flowアフィニティークロマトグラフィー(Pharmacia)によって単離した。
実施例2
免疫グロブリンFc融合タンパク質としての可溶性マウスLT-βレセプターの調製
mLT-β-Rの完全なcDNAクローンを、pCDNA3(InVitrogen, San Diego, CA)のNotI部位に2つの部分cDNA単離物由来の5'NotI/ApaLIフラグメントおよび3'ApaLI/NotIフラグメントを連結することによって調製した。このcDNAクローンの配列は、GenBank登録番号U29173としてアクセス可能である。GenBank登録番号L38423に見出されるmLT-β-Rについての別の登録配列と比較した場合、コード配列の差異は認められなかった。
【0178】
可溶性mLT-β-R(hIgG1)融合タンパク質を、テンプレートとしての全長mLT-β-R cDNAクローン、ならびにプライマー5'AACTGCAGCGGCCGCCATGCGCCTGCCC 3'および5'GACTTTGTCGACCATTGCTCCTGGCTCTGGGGG 3'のPCR増幅によって調製した。増幅産物を精製し、そしてNotIおよびSalIで切断し、そしてNotIで線状化しそしてホスファターゼで処理したSAB132中にSalI/NotIヒトIgG1 Fcフラグメントとともに連結し、JLB 122を形成した。安定な発現のために、mLT-β-R-Fcフラグメントを含むNotIカセットを、pMDR901のNotI部位に移入してPSH001を形成し、そしてこのベクターを記載のように(Browningら、J. Immunol., 154, 33-46頁(1995))CHO細胞にトランスフェクトした。mLT-β-R-Fcを分泌する細胞クローンを、ELISA分析によって同定した。精製したレセプター融合タンパク質を、Protein A Sepharose Fast Flowクロマトグラフィー(Pharmacia)によってCHO細胞上清から単離した。
【0179】

実施例3
LT-βレセプター-リガンド相互作用をブロックするための可溶性ヒトLT-β-R-Fcの使用
可溶性hLT-β-R-Fcを、上記の腫瘍細胞細胞傷害性アッセイにおけるLT-βレセプターへのLTリガンド結合をブロックするその能力について試験した。このアッセイにおいて、LT-β-Rシグナリングを活性化する可溶性型のLTリガンド(hLT-α1/β2)を使用し、ヒト腫瘍細胞を死滅させる。LT-β-Rシグナリングのインヒビターは、LT-β-R誘導性腫瘍細胞細胞傷害性を減少させ得る。
【0180】
可溶性LT-α1/β2リガンドは、機能的膜貫通ドメインを欠く短縮されたかまたは改変されたLT-βサブユニットを含む。可溶性LT-α1/β2リガンドは、LTリガンドの表面形態と同様に、LT-β-Rに結合しそしてLT-β-Rシグナリングを刺激する(Browningら、J. Immunol., 154, 33-46頁(1995))。
【0181】
hLT-α1/β2、hNTF、またはhLT-αの連続希釈を、96ウェルプレート中の0.05ml中に調製し、そして80U/ml(抗ウイルスユニット)のhu-IFN-γを含む0.05mlの培地中で5000個のトリプシン処理したHT29細胞(ATCC)を添加した。4日後、MTT色素のミトコンドリア性還元を以下のように測定した:10μlのMTTを添加しそして3時間後、還元された色素を10mM HClを含む0.09mlのイソプロパノールに溶解し、そして550nmにおけるO.D.を測定した。可溶性レセプター形態または純粋なヒトIgGを10μl中で添加した後細胞を加え、5μg/mlの最終濃度を得た。
【0182】
表1は、hLT-β-R-Fcおよびp55-TNF-R-Fcキメラ(コントロールとしてのヒトIgGとともに)のHT29腫瘍細胞増殖に対する種々の可溶性TNFおよびLTリガンドの阻害効果をブロックする能力を比較する。
【0183】
【表1】

【0184】
a各細胞傷害剤を、細胞に添加する前に、Ig融合タンパク質と10分間予め混合した。融合タンパク質の最終濃度は、5μg/mlであった。
bより高い濃度は試験しなかった。
【0185】
表1中のデータは、可溶性ヒトLT-β-R融合タンパク質(hLT-β-R-Fc)が、LTリガンド(LT-α1/β2)と細胞表面LT-βレセプターとの間の相互作用を効果的にブロックし得、従って本発明によるLT-β-Rブロッキング剤であることを示す。
【0186】
予想されるように、可溶性TNF-R融合タンパク質(p55-TNF-R-Fc)は、TNFへの結合および表面TNFレセプターとのその相互作用の妨害によってTNF誘導性増殖阻害を完全にブロックした。この可溶性TNFレセプターは、LTリガンド媒介性抗増殖効果に対する効果を有さなかった。それに対して、LT-β-R-Fcは、LTリガンド誘導性細胞傷害性効果をブロックしたが、TNFまたはLT-αの細胞傷害性効果をブロックしなかった。従って、可溶性ヒトLT-β-R融合タンパク質は、TNFおよびLT-αリガンドによるTNF-R活性化を干渉しない。
【0187】
実施例4
マウスLT-βレセプター-リガンド相互作用をブロックするための可溶性マウスLT-β-R-Fcの使用
ヒトIgG1 Fcドメインに結合した可溶性マウスLT-βレセプター(mLT-β-R-Fc;実施例2を参照のこと)を、マウス細胞に対する細胞傷害性アッセイを使用して、マウスにおけるLT-βレセプター−リガンド相互作用をブロックするその能力について試験した(図2)。実施例3に記載のHT29細胞アッセイにおいて使用した手順と本質的に同一の手順を使用して、WEHI 164細胞に対して細胞傷害性アッセイを行った(BrowningおよびRibolini、J. Immunol., 143, 1859-67頁(1989)も参考のこと)。
【0188】
図2は、マウスWEHI 164細胞におけるリガンド誘導性LT-β-Rシグナリングに対するmLT-β-R-Fcの効果を示す。このアッセイが示すように、WEHI 164細胞は、約1〜100ng/mlの濃度範囲のLT-α/βリガンドでそれらを処理することにより死滅させられる。可溶性mLT-β-R-Fc(10μ/ml)は、LTリガンド活性化細胞死をブロックする。可溶性マウスp55-TNF-R-Fc融合タンパク質またはIgGコントロール抗体(各10μ/ml)の添加は、細胞死をブロックすることに対して効果をほとんど有さないかまたは全く有さなかった。これらのデータは、mLT-β-R-Fc融合タンパク質が、LTリガンド結合について表面LT-β-R分子と効果的に競合し得ることを示す。これらのデータはまた、LT-α/β誘導性細胞傷害性がLT-β-R媒介性であり、そして本発明によるLT-β-Rブロッキング剤として作用する可溶性mLT-β-R-Fcによって阻害され得ることを示す。
【0189】
実施例5
LT-βレセプター−リガンド相互作用をブッロクするための抗ヒトLT-β-R抗体の使用
ヒトLT-βレセプターに対するマウスモノクローナル抗体(mAb)を、アジュバントの非存在下でProtein A Sepharoseビーズに結合した、CHO細胞由来のhLT-β-R-Fc融合タンパク質を用いて、反復したRBFマウスの腹腔内免疫化により調製した。動物を、最後に、腹腔内および静脈内の両方で、可溶性hLT-β-R-Fcで追加免疫した。脾臓細胞を従来のプロトコルにより融合し、そしてハイブリドーマの上清をELISAによりスクリーニングした(Lingら、J. Interferon and Cytokine Res., 15, 53-59頁 (1995))。ハイブリドーマの上清を、細胞パンニングアッセイ(cell panning assay)においてLT-β-R-Fcでコートしたプレートへの活性化したII-23ハイブリドーマ細胞(これは、表面のLT-α1/β2を発現する)の結合をブロックするその能力についてさらにスクリーニングした。純粋なmAbを、培養上清からのIgGのProtein A Sepharose(Pharmacia)精製により調製した。
【0190】
抗LT-βレセプターmAbが、可溶性LTの結合により開始されるLT-β-Rシグナリングをブロックし得るか否かを決定するために、腫瘍細胞傷害性アッセイを、WiDrヒトカルシノーマ細胞を用いて行った。細胞傷害性アッセイにおいて、段階希釈したLT-α1/β2を96ウエルプレート中で0.05mlで調製し、そして10μlの、コントロールのマウスIgG1 mAbまたは抗LT-βレセプターmAbのいずれかを含有する100μg/ml溶液を添加した。次いで、トリプシン処理した5000個のWiDr細胞(ATCC)を、50U/ml(抗ウイルス単位)のhu-IFN-γを含有する0.05mlの培地中で各ウエルに添加した。4日後、色素MTTのミトコンドリア還元を以下のように測定した:10μlのMTTを添加し、そして3時間後、還元された色素を、10mM HClを含む0.09mlのイソプロパノールで溶解し、そしてO.D.を550nmで測定した。紫色の量は、細胞増殖の量と比例する。
【0191】
図3は、抗LT-β-R mAb BDA8が、本発明のLT-β-Rブロッキング剤として作用することを示す。ヒトWiDrカルシノーマ細胞は、IFN-γおよび可溶性LT-α1/β2リガンドの存在下(約0.05〜50ng/ml)で増殖を停止する。IgG1コントロール抗体(10μg/m)は、この増殖阻害に対して効果を有さなかった。対照的に、抗LT-β-R mAb BDA8(10μg/ml)は、可溶性LT-α1/β2リガンドの存在下で増殖するWiDr細胞の能力を回復する。
【0192】
実施例6
レセプター−リガンド相互作用をブロックするための抗ヒトLT-β抗体の使用
抗ヒトLT-β mAbを、CFA中の約1〜2μgのヒト組換えLT-βを含有する、洗浄したProtein A Sepharose-9E10-rLT-βビーズでRBFマウスを免疫化することにより調製し、その後、IFA中の同じ物質で1回追加免疫した。最後の追加免疫の8週後、マウスに、30μgの精製した可溶性rLT-β(9E10樹脂から酸溶出した)、および2日後に20μgの同じ可溶性の物質を静脈内投与した。2回目の静脈内投与による追加免疫の翌日、脾臓細胞を従来のプロトコルを用いて融合し、mAbを作製した。ハイブリドーマの上清を、ELISAにより、またはPMA活性化II-23細胞のFACS染色により直接スクリーニングした。純粋なmAbを、培養上清からのIgGのProtein A Sepharose Fast Flow精製により調製した(Pharmacia)。
【0193】
FACSアッセイを用いて、細胞表面上のLT-βレセプターへの可溶性LT-α/βリガンドの結合を効果的にブロックし得る(従って、インビボで2つの細胞間の相互作用を模倣する)LT-βに対する抗体を選択した。このアッセイにおいて、可溶性ヒトLT-β-R-Fc(2μg/ml)は、漸増濃度の試験抗LT-β mAb(0.02〜20μg/ml)の存在下で、PMA活性化II-23細胞の表面LTリガンドへの結合が可能になった(Browningら、J. Immunol. 154, 33-46頁 (1995))。細胞を洗浄し、そして結合したLT-β-R-Fcを、フィコエリトリンで標識したロバ抗ヒトIgGとの反応により検出した。結合した蛍光標識の量をFACS分析により決定し、そして平均
蛍光強度をプロットした。
【0194】
図4は、上記の、LT-βレセプター−リガンド相互作用をブロックする抗LT-βmAb B9の能力を測定した、FACSアッセイの結果を示す。本実験は、抗LT-β mAb B9(0.02〜5μg/ml)が、可溶性LT-β-R融合タンパク質(2μg/ml)と結合する細胞表面LTリガンドを特異的にかつ効果的に競合し得ること、従って本発明のLT-β-Rブロッキング剤として適することを示す。
【0195】
実施例7
レセプター−リガンド相互作用をブロックするための抗マウスLT-α/β抗体の使用
可溶性マウスLT-α/β複合体を、ヒト可溶性LT-α/β複合体についての記載のように調製した。可溶性マウスLT-βサブユニットを、以前に記載された配列情報に基づいて作製した(Lawtonら、J. Immunol., 154, 239-46頁(1995))。可溶性マウスLT-α/β複合体を、バキュウロウイルス/昆虫細胞発現系を用いて発現し、そしてLT-α/β複合体を、ヒトp55 TNF-RおよびLT-β-Rカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより単離した。これらは、本質的には、ヒトLT-α/β複合体の発現および精製について上記に記載されている。アルメニアンハムスターを、本質的には実施例6に記載されるように、精製した可溶性マウスLT-α/β複合体で免疫した。ハムスターの脾臓細胞を、記載されるように、マウスP3Xハイブリドーマ細胞株に融合した(Sanchez-Madridら、Methods of Enzymology, 121, 239-44頁(1986))。ハイブリドーマを、LT-α/β複合体またはLT-α単独のいずれかに対するその結合特徴に基づいて、それぞれ、抗mLT-βまたは抗mLT-αとしてグループ分けした。ハイブリドーマ細胞を拡大培養し、そして抗体を、Protein Aアフィニティークロマトグラフィー(Pharmacia)を用いて、培養上清から精製した。
【0196】
ハムスターの抗マウスLT-α mAbおよびLT-β mAbが、mLT-β-RへのLTリガンド結合をブロックし得るか否かを評価するために、本発明者らは、TIMI-4細胞(ATCC)、マウスT細胞株(7時間のPMA活性化後、表面LTリガンドを発現する)を用いた。ハムスター抗mLT-α mAbまたは抗mLT-β mAbを、上記の細胞とともに、30分間4℃でプレインキュベートし、次いで2回洗浄した。洗浄した細胞を、1μg/mlのmLT-β-R-Fcとともに4℃でインキュベートした。30分後、細胞を結合しなかったmLT-β-R-Fcがなくなるまで洗浄し、次いで30分間、10μg/mlのフィコエリトリン標識したロバ抗ヒトIgGとともにインキュベートして、結合したmLT-β-R-Fcを検出した。結合した蛍光標識の量を、FACS分析により決定し、そして平均蛍光強度を計算した。
【0197】
この分析を用いて、ハムスター抗mLT-β mAb、T細胞表面LTリガンドへの可溶性LT-βレセプターの結合を効果的にブロックし得ることを見出した。この結果を、表2に示す。
【0198】
【表2】

【0199】
レセプター添加せず
平均蛍光チャンネル番号
%阻害
実施例8
LT-β-Rブロッキング剤はマウスのTh1媒介接触過敏を阻害する
20gの雌Balb/cマウス(Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME)を、最初に、25μLの4:1v/vのアセトン:オリーブ油中の0.5%2,4-ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)を各後肢の付け根に塗布することにより感作した。最初の感作の24時間後、本発明者らは、再度、25μlの同じ溶液で各マウスを感作した。感作は、麻酔していないマウスを拘束しながら行った。5日目(最初の感作の120時間後)に、本発明者らは、マウスを90:10mg/kgのケタミン:キシラジンで(i.p.)麻酔し、そして亜刺激用量の10μlの0.2%DNFBを左耳の表側および裏側に塗布した。右耳には、4:1v/vのアセトン:オリーブ油ビヒクルを同様に塗布した。
【0200】
免疫応答の抗原投与の4時間後、本発明者らは、0.1mlのリン酸緩衝化食塩水(PBS)中の漸増濃度のmLT-β-R-Fc(0.08〜5.0mg/kg;実施例2)をマウスに静脈注射により投与した。PBS緩衝液単独、または20mg/kgのヒトIgG融合タンパク質(LFA3-Fc)(Millerら、J. Exp. Med., 178, 211-22頁(1993))の注射を、ネガティブコントロールとした。8mg/kgの抗VLA4特異的mAb(PS/2 mAb;Chisolmら、Eur. J. Immunol. 23, 682-88頁(1993))の注射を、ポジティブコントロールとした(抗VLA4特異的mAbは、抗原投与部位へのT細胞の流入をブロックすることによりCHSを阻害することが知られている)。4〜8匹のマウスの群を、各濃度の抗体で処置した。
【0201】
抗原投与の24時間後、マウスを、再度、ケタミン:キシラジンで麻酔し、そして両方の耳の耳厚を、10-4インチの精度で技術者用のミクロメーターで測定した。各マウスの耳の腫脹応答は、コントロール投与およびDNFB投与の耳の厚さの間で異なっていた。典型的な阻害されなかった耳の腫脹応答は、95〜110×10-4インチであった。耳の腫脹応答の阻害を、処置群と、そのネガティブコントロール群との比較により判断した。処置群間での相違の統計的な有意性を、偏差の片側分析(one-way analysis of variance)を用いて評価し、その後p < 0.05でTukey-Kramer Honestly Significant Difference(JMP, SAS Institute)のコンピューター処理を行った。
【0202】
図5は、漸増濃度のmLT-β-R-Fcの投与により、阻害されなかったDNFB処置コントロール動物(PBS、LFA3-Fc)と比較して、DNFB処置マウスの耳の腫脹応答に有意な減少がもたらされることを示す。可溶性LT-β-R(約1〜5mg/kg)は、阻害剤である抗VLA4特異的mAbと同じくらい効果的に、この接触DTH反応をブロックし得る。阻害されないこの耳の腫脹アッセイの一部は、恐らく、「非特異的」顆粒球浸潤に由来する。
【0203】
実施例11
デキストラン硫酸溶液(DSS)IBDモデル
マウスを、図の説明に規定されるように、hLFA3-Ig、すなわちコントロールIg融合タンパク質、またはmLTβR-Igで腹腔内注射により処置した。0日目、飲み水を5%デキストラン硫酸溶液に交換し、そしてマウスを、1週間この液体で飼育した。1週間後、すなわち、DSS投与の開始の2週間後、マウスを屠殺し、そして体重変化および大腸の長さ(肛門から盲腸まで)を測定した。図 は、種々の処置後の体重変化および大腸の長さを示す。短くなった腸の長さならびに体重減少は、IBDの指標である。mLTβR-Ig処置により、結腸の短縮および体重減少を示す効力が劇的に妨げられることを示した。
【0204】
図6:
種々の処置後、飲み水中のDSSの開始後14日に観測された体重変化。Veh=ビヒクル、LTBrおよびLFA3は、mLTβR-Ig融合タンパク質およびhLFA3-Ig融合タンパク質を示す。これらは、DSS添加の1週間前、DSS投与時点、および1週間後(すなわち、-1、0および1週間での3回の注射)、100μgの腹腔内注射により投与された。1群あたり10匹の動物を用いた。
図7:
6に記載される種々の処置後のDSS投与後14日目の結腸の長さ。
【0205】
実施例10
IBDのCD45RB/scidモデル
CD4ポジティブT細胞を、磁気ビーズ技術を用いて、以前に記載されたように(F. Powrieら、International Immunology 5:1461-1471 1993)、C.B-17雌マウスから単離する。次いで、CD8ポジティブT細胞を枯渇させたCD4細胞、B細胞、および単球を、これもまた本質的には上記に記載されるように、蛍光活性化細胞分別によりCD45RB集団およびCD45RB集団に分別した。5×10のCD45RB細胞を、雌C.B-17scidマウスに静脈内注射し、そしてマウスの体重を追跡した。CD45RB細胞を戻した動物は通常の様式で体重を得たことが示され得る。対照的に、CD45Rb細胞を受けた動物は、事実上、体重が減少し、そして10週で瀕死となった。コントロールマウスは、その最初の体重の約20%を失った場合、そのマウスを屠殺し、そして種々の臓器を組織学により分析した。悪液質のように見える典型的な病的動物は、下痢を呈し、そして劇的に大きくなった結腸および盲腸を有した。図の説明に記載されるように、hLFA3-Igで処置した動物は、処置しなかった動物と同様であった一方で、mLTβR-Igで処置した動物は、体重が減少せず、比較的正常なサイズの結腸を有し、そして結腸で典型的に観測される広範囲に及ぶ炎症性浸潤を示さなかった。図8は、種々の方法で処置した、CD45RBを注射した動物の体重減少の時間経過を示す。そして、図9は、注射後8週間での最終的な体重を示す。IBDの非常に異なる2つのモデ
ル(すなわち、CD45RBモデルおよびDSSモデル)におけるmLTβR-Igの効果は、免疫系に対するこの処置の十分な効果の強力な証拠を表す。
【0206】
図8:
CD45RB CD4ポジティブT細胞のscidマウスへの注射後の体重の時間経過。各曲線は1匹の動物を示し、そしてパネル内の書き込みは、どの細胞(すなわち、CD45RBまたはCD45RB)が注射されたか、および処置の特徴を示す。動物を、100μgのタンパク質を腹腔内注射することにより、毎週処置した。処置を、細胞の注射の2週間前に開始し、そして実験の期間中続けた。
図9:
移植後10週での種々の処置後に観測された体重変化の平均および標準偏差(1群あたり5〜6匹)。
【0207】
実施例11
遅延型過敏のSRBCモデル
雌balb/cマウスを、PBS中の2×10個の洗浄したヒツジ赤血球(SRBC)を皮下注射することにより感作する。5日後、マウスに、PBS中の1×10個のSRBCを右肢の足蹠内へ注射(足裏注射)することにより抗原投与する。足蹠内への注射後の種々の時期に、足蹠厚をカリパスで測定した。図10は、mLTβR-Igでの腹腔内注射のいずれかによる処置のマウスにおける足蹠の腫脹応答を示す。感作の時点、または両方の感作の時点、または抗原投与段階のいずれかの、mLTβR-Igでの処置はSRBC誘導DTH応答を阻害した。
【0208】
図10:
SRBCでの抗原投与の注射後18時間で測定された足蹠厚の増加を示す。処置は、感作するためのSRBCの皮下注射の直前、抗原投与時、またはその両方の時点のいずれかで行われた、PBSのネガティブコントロール注射、ポジティブコントロール抗体PS/2(これは、VLA4相互作用、従って細胞のトラフィッキング(trafficking)をブロックする)、およびmLTβR-Igのいずれかであった(100μgの静脈注射)。
【0209】
(配列表)
【0210】
【数1−1】

【0211】
【数1−2】

【0212】
【数1−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−41350(P2012−41350A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209921(P2011−209921)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2007−161925(P2007−161925)の分割
【原出願日】平成8年7月19日(1996.7.19)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】