説明

免疫抑制剤の改善された測定法

本発明は、高濃度塩条件で行なうことにより測定法の感度を改善した免疫抑制剤の免疫学的測定法を提供する。本発明はまた、本発明の方法を実施するのに有用な検査キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査試料中の免疫抑制剤の濃度レベルを決定する診断免疫学的測定法、特に測定法の感度を向上させる高濃度塩条件の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タクロリムス、エベロリムス、テムソロリムスおよびシクロスポリンなどの免疫抑制剤は、移植手術後の臓器または組織拒絶反応、移植片対宿主病、さらにヒトにおける自己免疫疾患の治療に有効である。薬剤レベルが不十分であると移植片(臓器または組織)の拒絶反応につながり、過剰レベルは望ましくない副作用や毒性の原因となるため、免疫抑制剤療法の間、免疫抑制剤の血中濃度レベルを監視することは、臨床ケアの重要なポイントである。このため、薬剤の用量を調節し薬剤レベルを適当な濃度に維持できるように、免疫抑制剤の血中レベルを測定している。このように、免疫抑制剤の血中レベル決定のための診断測定法は、臨床において広く用いられている。
【0003】
一般に用いられている競合フォーマットでは、第1の抗体を免疫抑制剤に結合させ、標識された免疫抑制剤(例えば(アクリジニウム−タクロリムス)を抗体上に残っている未結合サイトに結合させ、次いで、標識を検出することにより定量を行なう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、検査試料における免疫抑制剤の存在または濃度を評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の方法は検査試料または検査試料抽出物を免疫抑制剤に特異的な抗体に、免疫抑制剤(もし存在するのであれば)に抗体を結合させるのに適した条件下で接触させて、測定混合物を形成する。このような条件としては、約0.4Mを超える塩濃度などが挙げられる。次いで、免疫抑制剤に対する抗体の結合を検出する。特定の実施形態において、免疫抑制剤は、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの化合物のいずれかのアナログである。好適な実施形態においては、タクロリムスまたはシクロスポリンである。検査試料は、ヒト血液試料を含むのが好都合である。
【0006】
ある実施形態では、免疫学的測定法は約4.0M以下の濃度、例えば約2.0Mの濃度で塩を存在させて行なう。特定の実施形態では、塩は塩化物のような1価アニオンを含む。例示的な実施形態では塩は塩化ナトリウムのようなアルカリ金属の塩化物である塩を含む。
【0007】
測定混合物は、さらにエチレングリコール、プロピレングリコールまたはこれらのアナログなどのグリコールおよび炭素原子数が5個以下の少なくとも1種類のアルコールを含むこともできる。適当なアルコールとしては、例えばメタノール、エタノールおよびプロパノールなどが挙げられる。測定混合物におけるグリコール対アルコールの比は、約4:1から約1:4の範囲、または、より特定すると、約4:1から約1:2の範囲とすることができる。
【0008】
本発明の別の態様は、(a) 少なくとも1種類の免疫抑制剤に特異的に結合可能な少なくとも1種類の抗体と、(b) 少なくとも約1.0Mの濃度の塩を含む測定用希釈剤と、(c) エチレングリコール、プロピレングリコールまたはこれらアナログから選択されるグリコールおよび炭素原子数が5個以下の少なくとも1種類のアルコールを含む溶解試薬とを含む検査キットである。特定の実施形態において、免疫抑制剤は、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの化合物の任意のアナログである。好適な実施形態においては、タクロリムスまたはシクロスポリンである。
【0009】
ある実施形態では、測定用希釈剤中の塩の濃度は約10.0M以下、例えば約4.5Mである。特定の実施形態において、塩は塩化物のような1価アニオンを含む。典型的な実施形態では塩は塩化ナトリウムのようなアルカリ金属の塩化物である塩を含む。
【0010】
また、検査キットは、キットに付属する抗体によって認識される少なくとも1種類の免疫抑制剤を含むコントロール組成物を含んでもよい。
【0011】
溶解試薬におけるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、および/またはプロパノールなどが挙げられる。溶解試薬における測定混合物におけるグリコール対アルコールの比は、約4:1から約1:4の範囲、または、特に、約4:1から約1:2の範囲とすることができる。
【0012】
典型的な実施形態では、本発明の検査キットは、
(a) タクロリムスおよびシクロスポリンよりなる群から選択される少なくとも1種類の免疫抑制剤に特異的に結合可能な少なくとも1種類の抗体またはタンパク質と、(b) 少なくとも約1.0Mの濃度の塩を含む測定用希釈剤と、(c)(i) 約4:1から約1:2の範囲の比のプロピレングリコールとエチレングリコールと、(ii)(a)の少なくとも1種類の免疫抑制剤を含むコントロール組成物を含む溶解試薬と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ARCHITECT(登録商標)タクロリムス・アッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)を使用し、反応中のNaCl濃度を様々に変えて検査して得たグラフである。横軸はタクロリムス量(ng/mL)、縦軸は信号(相対的な光単位であるRLUs)。符号:(黒ひし形)0 M NaCl;(黒三角)1 M NaCl.;(黒四角)2 M NaCl。
【図2】ARCHITECT(登録商標)タクロリムス・アッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)を使用し、反応中のNaCl濃度を様々に変えて検査して得たグラフである。横軸はタクロリムス量(ng/mL)、縦軸はX/A。符号:(黒ひし形)0 M NaCl;(黒三角)1 M NaCl;(黒四角)2 M NaCl。反応中のNaCl濃度が増加することによってプロットの曲線形状が改善された(B/Aが減少)ことが見てとれる。
【図3】IMx(登録商標) タクロリムス II アッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL) を使用し、微粒子中のNaCl濃度を様々に変えて血中マトリックスカリブレーターのレートを検査して得たグラフである。横軸はタクロリムス量(ng/mL)、縦軸はレート。符号:(黒ひし形)1 M NaCl;(黒四角)2 M NaCl;(白丸) IMx(登録商標) タクロリムス II アッセイ(市販品;塩添加無し)。
【図4】IMx(登録商標) タクロリムス II アッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL) を使用して得たグラフである。横軸はタクロリムス量(ng/mL)、縦軸はX/A。符号:(黒ひし形)0M NaCl;(黒四角)2 M NaCl;(白丸) IMx(登録商標) タクロリムス II アッセイ(市販品;塩添加無し)。微粒子中2 M NaClでプロットの曲線形状が改善された(B/Aが減少)ことが見てとれる。
【図5】ARCHITECT(登録商標)タクロリムス・アッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)を使用し、各反応において塩を様々に変えて0.44Mとして得た棒グラフである。横軸は塩なし、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、縦軸は信号(RLUs)。符号:(灰色の棒グラフ)0 ng/mLタクロリムス;(黒色の棒グラフ) 3 ng/mLタクロリムス;(白色の棒グラフ) 30 ng/mLタクロリムス。反応における種々のアルカリ金属による最小限の効果が観察された。
【図6】ARCHITECT(登録商標)タクロリムス・アッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)を使用し、各反応においてナトリウム塩を様々に変えて(アニオンを変更)0.44Mとして得た棒グラフである。横軸は塩なし、フッ化ナトリウム(NaF)、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、酢酸ナトリウム(NaOAc)、クエン酸ナトリウム(Na citrate)、硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、縦軸は信号(RLUs)。符号:(灰色の棒グラフ)0 ng/mLタクロリムス;(黒色の棒グラフ) 3 ng/mLタクロリムス;(白色の棒グラフ) 30 ng/mLタクロリムス。塩化物イオンおよび酢酸アニオンは、最も高いトレーサー結合(RLUs)を生成した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高濃度塩条件で行なうことにより測定法の感度を改善した免疫抑制剤の免疫学的測定法に関する。この改善は、非特異的結合の減少によるものではない。むしろ高濃度塩は、薬剤−抗体相互作用を高めると思われる。
【0015】
定義
別に定めない限り、特許請求の範囲および明細書に使用される用語は以下に記載の通り定義される。
【0016】
本明細書で使用する「免疫抑制剤」または「免疫抑制薬」は、低分子か抗体のいずれかに基づき、タクロリムスまたはシクロスポリン(シクロスポリンAとしても知られている)のいずれかと同一または類似の化学構造を有する治療化合物をいう。既知の、または今後開発されるタクロリムスまたはシクロスポリンの任意のアナログは本発明における免疫抑制薬と考えられる。好ましい免疫抑制薬としては、タクロリムス、エベロリムス、テムソロリムス、ゾタロリムスおよびシクロスポリンなどが挙げられる。タクロリムスおよびシクロスポリンは、インターロイキン2などのサイトカインの阻害を通して免疫システムTリンパ球の早期の活性化を阻害するカルシニューリン阻害剤である。一方、エベロリムスおよびゾタロリムスの一次的な標的は、特異的細胞周期調節タンパク質であるラパマイシン(mTOR)の哺乳類標的である。mTORの阻害は、サイトカイン駆動Tリンパ球増殖の抑制につながる。
【0017】
シクロスポリンの化学式は式Aの通りである。シロリムス(ラパマイシン)の化学式は式Bの通りである。エベロリムス(RAD)のシロリムスとの構造上の化学式の違いは式Cの点である。
【0018】
【化1】

【0019】
シクロスポリンの種々の誘導体またはアナログが調製されてきた。本発明は、シクロスポリンまたはこれの任意のアナログの測定法および測定キットを含む。
【0020】
タクロリムス(FK−506としても知られている)は、S.tsukubaensisの株から分離された。FK−506の化学式は欧州特許EP 0 293 892 B1で公開されている。FK−506のアナログとしては、関連する天然産物FR−900520およびFR−900523が挙げられる。これらはC−21のアルキル置換基がFK−506と異なり、S.hygroscopicus yakushimnaensisから単離された。S.tsukubaensisによって産生される別のアナログ(FR−900525)は、ピペコリン酸残基がプロリン基に代わっている点がFK−506と異なる。本発明は、FK−506またはこれの任意のアナログのための測定法および測定法キットを含む。
【0021】
今日ではむしろゾタロリムスとして知られているABT−578 [40−エピ−(1−テトラゾリル)−ラパマイシン]はラパマイシンに由来する半合成マクロライド系トリエン抗生物質である。ゾタロリムスの構造は、式Dに示される。
【0022】
【化2】

【0023】
「検査試料」という用語は、免疫抑制剤分析物の源である動物の体の成分、組織または液を指す。これらの成分、組織および液は、全血、血清、血漿、滑液、脳脊髄液、尿、リンパ液、ならびに呼吸器、腸管および性尿器の各種の外分泌物、涙液、唾液、乳汁、白血球、骨髄腫などのヒトの体液および動物の体液;細胞培養上清のような生物学的流体;固定組織検体および固定した細胞標本を含む。好ましくは検査試料はヒト末梢血試料である。「検査試料」という用語は、例えば溶解試薬などの1以上の試薬が添加された試料を含む。
【0024】
「検査試料抽出物」という用語は、1以上の成分が1以上の他の成分から分離された検査試料を指す。本発明による検査試料抽出物において、免疫抑制剤は、1以上の担体タンパク質から分離された。
【0025】
本明細書で用いる場合、「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的にコードされる1以上のポリペプチドで構成されるタンパク質を指す。この用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体およびこのフラグメントだけでなく、免疫グロブリン遺伝子配列から遺伝子組み換えされた分子を包含する。認識された免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミュー定常領域遺伝子だけでなく、無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、カッパかラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンに分類され、これらはそれぞれ免疫グロブリンのクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定義する。
【0026】
一般的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体からなることが知られている。それぞれの四量体は、同一のポリペプチド鎖2対から構成され、各対は1本の軽鎖(約25kD)と1本の重鎖(約50から70kD)を有する。各鎖のN末端は、アミノ酸約100から110個以上の主に抗原認識に関わる可変領域を定義する。「可変軽鎖(VL)」および「可変重鎖(VH)」という用語は、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0027】
抗体は、本来のままの免疫グロブリンとしてまたは種々のペプチダーゼによる消化によって産生されるよく特徴付けられた多数のフラグメントとして存在する。従って、例えばペプシンは、抗体をヒンジ領域のジスルフィド結合より下の部分で消化し、F(ab’)2、即ち、これ自身は軽鎖であるFabのダイマーがジスルフィド結合によってVH−CH1に接合したものを生成する。(Fab’)2ダイマーは、温和な条件下に還元されてヒンジ領域でのジスルフィド結合が開裂し、それによってF(ab’)2がFab’ モノマーに変換されていてもよい。Fab’モノマーは、本質的にヒンジ領域部分を持ったFabである(他の抗体フラグメントのより詳細な説明については、W.E.Paul編Fundamental Immunology,Raven Press,N.Y.(1993)参照)。本来の抗体が消化されたものとして様々な抗体断片が定義されるが、このようなFab’断片は初めから化学合成または組換えDNA法の利用のいずれかで合成されたものでもよいことを当業者は理解するであろう。
【0028】
このように、本明細書で使用される「抗体」という用語は、全抗体の修飾によって産生されるかまたは初めから遺伝子組換え手法を使用することに合成される抗体フラグメントを含む。好ましい抗体としては、単鎖抗体(単一のポリペプチド鎖として存在する抗体)、より好ましくは可変重鎖と可変軽鎖が(直接またはペプチドリンカーによって)一体に連結され連続的ポリペプチドを形成したものである単鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)などが挙げられる。単鎖Fv抗体は、直接結合またはペプチドコードリンカーのいずれかで連結されたVH−およびVL−コード配列を含む核酸から発現され得る(Huston et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,85: 5879−5883)共有結合で結ばれたVH−VLヘテロダイマーである 。VHおよびVLが単一のポリペプチド鎖としてそれぞれに連結されるとともに、VHおよびVLドメインは、非共有結合で会合する。scFv抗体および他の多くの構造は、自然に塊状化しているが化学的には分離している軽鎖および重鎖ポリペプチド鎖を、抗体可変領域から本質的に抗原結合部位の構造に類似する3次元構造に折り畳まれた分子に変換することが、当業者には知られている(例えば米国特許第5091513号、第5132405号および第4956778号参照)。
【0029】
本明細書で使用する「分析物」は、検査試料中に存在していると疑われる検出対象物質を指す。分析物は、天然に特異的結合パートナーが存在する、または特異的結合パートナーが調製できる、任意の物質でよい。このように、分析物は、測定法に含まれる1以上の特異的結合パートナーと結合できる物質である。
【0030】
本明細書において、「結合パートナー」とは、結合対、即ち、1対の分子であってこの1つの分子が第2の分子に結合する1対のメンバーを指す。特異的に結合する結合パートナーは、「特異的結合パートナー」と定義される。免疫学的測定法で一般に使用される抗原と抗体の結合パートナーに加えて、この他特異的結合パートナーとしては、ビオチンとアビジン、炭水化物とレクチン、相補的ヌクレオチド配列、エフェクターとレセプター分子、補因子と酵素、酵素阻害薬と酵素などが挙げられる。免疫反応性特異的結合パートナーとしては、抗原、抗原フラグメント、抗体および抗体フラグメントが挙げられ、モノクローナルおよびポリクローナルの両方ならびにこれらの複合体が含まれ、遺伝子組換えの方法によって形成されるものも含まれる。
【0031】
「特異的結合」という用語は、本明細書では、特異的部位における、結合パートナーの他方(例えば2つのポリペプチド、ポリペプチドと核酸分子、または2つの核酸分子)との選択的結合として定義される。「特異的結合」という用語は、標的分子/配列についての結合の選択性(例えば親和性)が非特異的標的分子(例えば特異的認識される部位(複数でもよい)を有しない無作為に生成された分子)と比べて少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、最も好ましくは少なくとも5から10倍であることを示す。免
疫抑制剤に特異的に結合する抗体はこの免疫抑制剤に対し「特異性がある」と言われる。
【0032】
「捕捉物質」という用語は、本明細書において、分析物に、好ましくは特異的に結合する結合パートナーを指す。捕捉物質は、固相に結合できる。本明細書において、固相に付着させた捕捉剤の分析物への結合は、「固相付着複合体」を形成する。
【0033】
本明細書において、「標識された検出剤」は、分析物に(好ましくは特異的に)結合する結合パートナーであって、検出可能な標識で標識されている、または測定法での使用中、検出可能な標識で標識されるものを指す。
【0034】
「検出可能な標識」は、検出可能である、または検出可能にされる可能性がある成分を含む。
【0035】
標識された検出剤について使用する場合、「直接的標識」は検出剤に、手段を問わず直接的に取り付ける検出可能な標識である。
【0036】
標識された検出剤について使用する場合、「間接的標識」は検出剤に、特異的に取り付けられる検出可能な標識である。従って、間接的標識は、検出剤の一部分の特異的結合パートナーである部分を含む。例えばビオチンとアビジンは、このようにして用いる部分であり、例えばビオチン化抗体を標識アビジンに接触させることにより間接的に標識された抗体を生産するこのような分子部分の例である。
【0037】
本明細書において、「指示薬」という用語は、標識と接触して検出可能な信号を発生する任意の薬剤を指す。従って、例えば従来の酵素標識においては、酵素で標識された抗体は、基質(指示薬)と接触させることで着色反応生成物のような検出可能な信号を生じることができる。
【0038】
本明細書で用いる、「グリコール誘導体」は、2から6個の炭素原子を有する任意のグリコールである。
【0039】
I.試料収集及び処理
本発明の測定法方法は、一般に動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する検査試料に基づいて実施する。
【0040】
本発明の方法は、免疫抑制剤を含む可能性のある任意の試料を用いて実施できる。例えば簡便な試料としては、血液、血清および血漿などが挙げられる。
【0041】
特定の実施態様においては、免疫抑制薬は、一般的に試料の他の成分から分離される。試料中の免疫抑制剤のバルクは、結合タンパク質のような多様な「キャリアー」分子との複合体として存在する。タクロリムスおよびシクロスポリンは主に患者検体の赤血球に存在し、タクロリムスに対してはFKBP、シクロスポリンに対してはシクロフィリンなどの特異的結合タンパク質と会合する。試料中での総薬剤濃度を確実に正確に測定できるように、好ましくは結合タンパク質に結合している薬剤を定量の前に遊離させる。
【0042】
血液中の結合タンパク質からの免疫抑制剤の分離は、アセトニトリル、メタノールまたはジエチルエーテルなどの有機溶剤による処理によって行なうことができる。これらの溶媒は結合タンパク質を変性し、薬剤を遊離させる。血液試料からタクロリムスまたはシクロスポリンを抽出するために、典型的には、免疫学的測定法の前にメタノールが用いられている。メタノール濃度は、薬剤を結合タンパク質から遊離させるには概ね十分であるが、後の免疫学的測定法にはあまり妨害とならない程度とする。
【0043】
ある実施形態では、免疫学的測定法成分と相溶性があり蒸気圧の低い抽出試薬組成物を使用して免疫抑制剤を分離できる。免疫抑制剤を含む抽出液の蒸発は薬剤濃度の測定における誤差を引き起こす可能性があるため、蒸発を低減するためには低蒸気圧(例えば水の蒸気圧より低い)が有利である。この抽出試薬組成物は、2006年7月21日付で出願された同一の譲受人、同時係属出願の米国特許本出願第11/490624号明細書に記載され、これに関する教示についての全体は参照により本願に明示的に組み込まれる。簡単に言えば、この抽出試薬組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、少なくとも1種類の2価金属塩および水を含む。特定の実施形態において、この抽出試薬組成物は、DMSOおよび硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸カドミウム、銅硫酸およびこれらの金属塩の2以上の混合物のうちの少なくとも1つを含む。より好適な抽出試薬組成物としては、DMSO、2から6個の炭素原子を有する少なくとも1種類のグリコール(好ましくはエチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)またはEGおよびPGの混合物のうちの少なくとも1つ)および金属塩などが挙げられる。
【0044】
抽出試薬組成物中のDMSO濃度(EGもPGもなしで用いる場合)は、抽出試薬組成物の量の少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%であり、約95%以下である。金属塩濃度は少なくとも5mMであり、濃度400mMまでは使用できる。亜鉛塩の好適な濃度範囲は、30から75mMである。高塩濃度(例えば約75mM超過)を使用すると、次の測定法工程で過剰の金属を除去するためにエチレンジアミン四酢酸などのキレート化合物の使用が必要となる場合がある。DMSOと水を十分に混ぜ、金属塩を溶解する任意の適当な混合法によって抽出試薬組成物を作る。
【0045】
EGまたはPGが抽出試薬組成物に含まれる場合、DMSOは低濃度の方が効果的である。このような組成物では、EG、PGまたはこれらの混合物は、抽出試薬組成物の容積の少なくとも18%、好ましくは約25%から約33%の濃度で存在し、DMSOは抽出試薬組成物の容積の少なくとも50%の濃度で存在する。
【0046】
抽出試薬組成物と任意の選択された量の試料とを接触させるために、任意の所望の温度での任意の混合法によって検体抽出液を形成する。例えば約100μLから約600μLの血液試料を、約200μLから約1200μLの抽出試薬組成物と約5分以下の時間混合する。ある実施形態においては、血液試料150μLを組成物300μLと混合し、5から10秒の間ボルテックスで激しく混合することによって免疫抑制薬の抽出が達成される。このような実施態様の変法では、抽出は約5分から約60分間、室温以上、約30℃から約50℃の範囲の温度に混合物を加温することで実施できる。混合後、得られた懸濁液を、適当な回転率で適当な時間遠心して上清相および沈澱相を生成する。例えば混合物を5分間1万3000rpmで遠心して沈殿をペレット状にできる。遠心分離後、任意の適当な方法を用い、上清を分離する。次いで、本発明による免疫学的測定法を用いて、上清中の免疫抑制剤を測定する。
【0047】
別の実施形態では、溶解試薬を使用し、好ましくはしかる後、任意の会合した結合タンパク質から医薬品を放出する付加的な薬を用いることにより免疫抑制剤の分離を行なうことができる。典型的な溶解試薬としては2から6個の炭素原子を有するグリコールなどが挙げられる。5個以下の炭素原子を有する少なくとも1種類のアルコールを溶解試薬に含有させるか溶解混合物に添加する。溶解試薬の使用に適するグリコールとしては、例えばEG、PGおよびこれらのアナログ、さらにこれらグリコールの混合物などが挙げられる。例えば本発明における使用に適するアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノールおよびこの混合物などが挙げられる。特定の実施形態では、グリコール対アルコールの比は、約5:1から約1:5、4:1から約1:4、2:1から約1:2または約1:1(体積:体積)の範囲である。さらに特定の実施形態では、グリコール対アルコールの比は約4:1から約1:2の範囲である。
【0048】
任意の所望の温度で任意の混合法によって任意の選択量の試料を溶解試薬に接触させて溶解混合物を形成できる。試料を十分な量の溶解試薬と接触させ試料中の細胞を溶解し、均一な混合物を生成する。グリコール対アルコールの比率が前述のように約4:1から約1:4の範囲内である溶解試薬に対して、試料は、溶解試薬の組成により、溶解試薬に対する比率で約2:1から約1:2、約1:3、約1:4、約1:5または約1:10、例えば約1:1(体積:体積)または、最終濃度がこれらの値を含む他の範囲内で添加できる。好適な実施形態では、溶解は室温1分未満で完了する。
【0049】
溶解試薬を用いる場合、例えば結合タンパク質(複数可)に結合することで医薬品と競合する遊離剤を使用することで、免疫抑制剤は、結合タンパク質(複数可)を遊離することができる。実施する測定法の結果に影響しないような試剤が一般に選択され、例えば試剤は、典型的には、関連する1種または複数の抗体が交差反応しない試剤である。例えば後の免疫学的測定をする上で使用する抗体がシロリムスとタクロリムスを区別する場合、前記試剤は、同一ではないが構造上類似した免疫抑制剤でよい。米国特許第6187547号明細書(LegayとWengerに対して2001年2月13日に発行。免疫抑制剤競合に関する教示についての全体が参照により本願に組み込まれる)は結合タンパク質から免疫抑制剤を遊離させるのに有用な「結合競合物」について説明している。例としては、[Thr,Leu,D−Hiv,Leu10]−シクロスポリン(これは、シクロスポリンを遊離できる)などが挙げられる。
【0050】
別の方法として、結合タンパク質(複数可)から分析物を遊離するために、プロテアーゼを用いることができる。代表的なプロテアーゼとしては、プロテイナーゼK、サブチリシン、ディスパーゼ、サーモリシン、トリプシン、フィシン、ブロメラインおよびこの組み合わせなどが挙げられる。これらは同時係属出願である米国特許本出願第60/882732号(2006年12月29日出願)に記載されており、これに関する教示についての全体が参照により本願に明示的に組み込まれる。
【0051】
試料の溶解の後、免疫学的測定法によって生成溶解混合物を分析できる。
【0052】
II.免疫抑制剤の免疫学的測定法
A.概説
本発明による免疫学的測定法は、検査試料における免疫抑制剤の定性および/または定量に用いることができる。例えばこれらの方法は、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンおよびこれらの化合物の任意のアナログの免疫学的測定法に適用できる。ある実施形態では、免疫抑制剤に対する免疫学的測定法は、抽出試薬組成物を検査試料および水と組み合わせ、検査試料を形成することで実施できる。抗体を免疫抑制剤(存在する場合)に結合させるのに適した条件下で、検査試料または検査試料抽出物を少なくとも1種類の免疫抑制剤に対して特異的な抗体と接触させ、測定混合物を形成し、抗体の免疫抑制剤への結合を検出する。
【0053】
検査試料または検査試料抽出物を、約0.4M超 (例えば約0.5 Mから約5.0 M)の塩濃度の存在下、抗体に接触させることによって測定法感度の増強が一般に達成できる。特定の実施形態では、塩濃度は、約4.0M未満(例えば約0.5 Mから約4.0 M)である。典型的な実施形態では、塩濃度は約2.0M(例えば約1.5Mから約2.5 M、特に約1.8 M、約1.9 M、約2.0M、約2.1 Mまたは約2.2 M)である。適当な塩としては、例えばフッ化物、塩化物、ブロミド、ヨウ化、チオシアン酸、アセタート、クエン酸および重硫酸塩イオンのうち、任意のアニオンを含むものを挙げることができる。特定の実施形態では、塩は、例えばフッ化物、塩化物、ブロミド、ヨウ化、チオシアン酸および酢酸などの1価アニオンを含む。好適な実施形態では、塩は、例えば塩化物、例えばアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)の塩化物を含む。一般に、用いる塩は、測定法条件下では溶解する。塩化ナトリウムはほとんどの条件下で可溶性が高く、従って、本発明による免疫測定法で幅広い種類にわたって感度を強化するために便利に使用できる。
【0054】
塩は任意の便利な方法で測定混合物に加えることができ、検査試料または検査試料抽出物の抗体への接触の前または後に存在させることができる。例えば特定の実施形態では、塩は測定用希釈剤に溶かして用い、測定用希釈剤は場合により水(例えば緩衝液)に加えて1以上の他の成分を含んでもよい。測定用希釈剤中の塩濃度は、所望の最終塩濃度および測定混合物に添加される希釈剤の量によって変わる。例えば2.0 Mの最終塩濃度とするためには、約4.0Mの塩濃度を有する測定用希釈剤は、等容量の測定混合物に加えることができるであろう。
【0055】
B.抗体
検査試料中の免疫抑制剤の定性的検出のための免疫学的測定法では、免疫抑制剤に結合する少なくとも1種類の抗体を、薬剤を含む疑いのある少なくとも1点の検査試料または検体抽出液に接触させて抗体−薬免疫複合体を形成する。本発明による免疫学的測定法においては、特定の免疫抑制剤に結合する任意の適当な抗体が使用できる。タクロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンおよびエベロリムスのそれぞれへの抗体は当該分野で公知および/または市販されており、これらはいずれも使用できる。
【0056】
免疫抑制剤に特異的な抗体を生産する代表的なプロトコルは次の通りである。メスRBfDnjマウスに、毎月1回、剤−27−CMO−破傷風トキソイド免疫原を3か月にわたって投与し、その後、4ヶ月目に剤−42−HS−破傷風トキソイド製剤で免疫する。7ヶ月後、脾臓内の潅流ブーストを融合3日前に剤−27−CMO−破傷風トキソイド免疫原を使用して動物に投与する。次いで脾臓B細胞を分離し、SP2/0ミエローマとの標準的なポリエチレン(PEG)融合に用いる。10から14日後、コンフルエントな培養物をマイクロタイターEIA中で抗薬剤活性についてスクリーニングを行い、次いで、陽性培養物を使用限界希釈クローニング法でクローン化する。得られたクローンを単離し、IMDM wFBS(Invitrogen Corp.,Carlsbad,CA)組織培地でスケールアップし、分泌された抗体をタンパク質Aを用いアフィニティー精製する。薬剤としてシロリムスを用いて生成した例示的な好適な抗体をエベロリムスおよびゾタロリムスの免疫学的測定法に使用できる。
【0057】
タクロリムスに対する免疫学的測定法における使用のための例示的な好適な抗体は、T.Starzl,L.MakowkaおよびS.Todo編 A Transplantation Proceedings Reprint,Supplement 6,Vol.XIX,October,1987(Grine & Stratton,Inc.,Philadelphia,PA)の23から29ページ、M.Kobayashi他“A Highly Sensitive Method to Assay FK−506 Levels in Plasma”(“FK−506 A Potential Breakthrough in Immunosuppression”)に記載されている。
【0058】
シクロスポリンに対する免疫学的測定法での使用のための例示的な好適な抗体は、Abbott Laboratoriesから市販されているシクロスポリン測定用AxSymシクロスポリン測定法の成分である単クローン性抗体である。
【0059】
C.検出
次いで、任意の適当な技術を用い抗体−薬剤複合体を検出する。例えば抗体を検出標識で標識し、抗体−薬剤複合体の存在を検出できる。特定の標識の選択は重要ではないが、選択した標識は単独でまたは1以上の添加物質と協力して検出可能信号を発生できるものでなければならない。
【0060】
有用な検出標識、このための抗体の結合および検出技術は、当技術分野において周知である。当該分野で公知である任意の検出可能な標識を使用できる。例えば検出可能な標識は、H、1251、35S、14C、32P、33Pなどの放射性標識;ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリペルオキシダーゼ、グルコース6−リン酸デヒドロゲナーゼなどの酵素標識;アクリジニウム誘導体、ルミノール、イソルミノール、チオエステル、スルホンアミド、フェナントリジニウムエステル類などの化学発光標識;フルオレセイン(5−フルオレセイン、6−カルボキシフルオレセイン、3’ 6−カルボキシフルオレセイン、5(6)−カルボキシフルオレセイン、6−ヘキサクロロフルオレセイン、6−テトラクロロフルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネートなど)、ローダミン、フィコビリタンパク質、R−フィコエリスリンなどの蛍光標識、量子ドット(硫化亜鉛キャップセレン化カドミウム)、温度測定標識またはイムノポリメラーゼ連鎖反応標識)とすることができる。標識、標識方法および標識検出の紹介は、Polak and Van Noorden,Introduction to lmmunocytochemistry第2版、Springer Verlag,N.Y.(1997)およびHaugland,Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemi (1996)(これはMolecular Probes,Inc.,Eugene,Oregonから刊行されたハンドブックとカタログを組み合わせたものである)に認められる。これらはそれぞれこの内容が参照により本願に組み込まれる。本発明にとって好適な標識は、アクリジニウム−9−カルボキシアミドなどの化学発光標識である。さらなる詳細は、Mattingly,P.G.,and Adamczyk,M.(2002) Chemiluminescent N−sulfonylacridinium−9−carboxamides and their application in clinical assays,in Luminescence Biotechnology: Instruments and Applications (Dyke,K.V.,Ed.) pp 77−105,CRC Press,Boca Raton.に記載されている。
【0061】
検出可能な標識は、直接またはカップリング剤によって、分析物、分析物アナログまたは抗体に結合できる。使用できるカップリング剤の例は、EDAC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、塩酸塩)であり、これは、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)から市販されている。使用できる他カップリング剤は、当分野において周知である。検出可能な標識と抗体を結合する方法は、当分野において公知である。さらに、検出可能な標識は、検出可能な標識のカップリングを容易にする末端基を含む多数のものが既に購入可能であり、または合成できている。例えばCPSP−アクリジニウムエステルとしても知られるN10−(3−スルホプロピル)−N−(3−カルボキシプロピル)−アクリジニウム−9−カルボアミドやSPSP−アクリジニウムエステルとしても知られるN10−(3−スルホプロピル)−N−(3−スルホプロピル)−アクリジニウム−9−カルボアミドである。
【0062】
別の方法として、免疫抑制薬に結合し、検出可能な標識を含む第2の抗体を検査試料または検査試料抽出物に添加し、抗体−薬剤複合体の存在を検出するために使用できる。任意の適当な検出可能な標識がこの実施形態で使用できる。
【0063】
D.典型的なフォーマット
本発明の免疫学的測定法は、当分野で知られる任意のフォーマットを使用して実施できる。例えばサンドイッチフォーマット、競合阻害フォーマット(順または逆競合的阻害測定法の両者を包含する)または蛍光偏光フォーマットがあるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
免疫抑制薬の定量的検出のための免疫学的測定法では、サンドイッチフォーマットなどが好ましく、検査試料または検査試料抽出物中の薬剤を分離し定量するために、少なくとも2種類の抗体を用いる。より具体的には、少なくとも2種類の抗体を薬剤の異なる部分に結合させ「サンドイッチ」と言われる免疫複合体を形成する。一般に、検査試料中の免疫抑制剤を捕捉するために1以上の抗体が使用できる(これらの抗体はしばしば「捕捉」抗体と言われる)。また、検出可能な(即ち、定量可能な)標識をサンドイッチに結合するために1以上の抗体が使用できる(これらの抗体はしばしば「検出」抗体と言われる)。サンドイッチ測定法では、薬剤に対する両方の抗体の結合が、測定法における任意の他の抗体の各結合サイトへの結合によって低下しないことが好ましい。言い換えると、免疫抑制薬を含むと疑われる検査試料または検査試料抽出物と接触した第1の1種類以上の抗体が、第2のまたは後の抗体が認識する結合サイトの全部または一部に結合し、それによって第2のまたは後の抗体の薬剤との結合能力を妨げないように抗体は選択されるべきである。サンドイッチ測定法において、抗体および好ましくは少なくとも1種類の捕捉抗体は、検査試料または検査試料抽出物中に存在すると予想される薬剤の最大量と比べてモル過剰量で使用される。例えば固相含有溶液1mLあたり約5μg/mLから約1mg/mlの抗体を使用できる。
【0065】
一つの実施形態では、少なくとも1種類の第1の捕捉抗体は、検査試料からの第1の抗体−薬剤複合体の分離を容易にする固体支持体に結合できる。本発明の免疫学的測定法で使用する固体支持体または「固相」は特に限定されるものではなく、当業者によって選択できる。本発明で使用される固相または固体支持体は、不溶性である、または後続の反応により不溶性とされ得る任意の材料を指す。有用な固相または固体支持体は、当業者には公知であり、反応トレイのウェルの壁面、検査管、ポリスチレンビーズ、磁気ビーズ、ニトロセルロースストリップ、膜、ラテックス粒子などの微粒子、ヒツジ(または他の動物)の赤血球)およびDuracytes(登録商標)(Abbott Laboratories,Abbott Park 111の登録商標) (これは、ピルビンアルデヒドおよびホルムアルデヒドなどによって「固定」された赤血球である)。ペプチドを固相に固定する適当な方法としては、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用などが挙げられる。固相は、捕捉物質を引きつけ不動化する本質的な能力について選択できる。別の方法として、固相は、捕捉物質を引きつけ不動化する能力がある追加的なレセプターを含んでもよい。この追加的なレセプターとしては、捕捉物質自体または捕捉物質に結合する帯電物質と反対に帯電した帯電物質などが挙げられる。さらに別の方法としては、レセプターは、固相で固定され(付着し)特異的結合反応によって捕捉物質を固定する能力がある任意の特異的結合パートナーでもよい。レセプター分子は、測定法の実施前または測定法実施の間、固相材料への捕捉物質の間接的結合を可能にする。
【0066】
当該分野で公知である任意の固体支持体が使用できる。例えばポリマー材料でウェル、チューブまたはビーズ状に作られた固体支持体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。(1または複数の)抗体は、吸着によって、化学カップリング剤を使用する共有結合によって、または当分野で知られた他の手段によって、固体支持体と結合できる(但し、このような結合は薬剤と結合する抗体の能力を妨げないことを条件とする)。さらに、必要な場合は、抗体上の様々な官能基による反応性を許すために、固体支持体は誘導体化してもよい。このような誘導体化の場合にはある種のカップリング剤を使用する必要があり、例えば無水マレイン酸、N−ヒドロキシスクシンイミドおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
検出抗体を接近可能とし、抗原に結合する適当な表面親和性を与えるために、固相は十分な空孔率を有する任意の適当な多孔性物質を含み得るが、これも本発明の範囲内である。微小孔構造が一般に好ましいが、水和状態でのゲル構造体を有する材料を使用してもよい。これら有用な固体支持体としては、ニトロセルロースおよびナイロンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本明細書において記載されるこれら多孔性固体支持体は、約0.01から0.5mm、好ましくは約0.1mmの厚さのシート形状を取るものが考えられる。孔径は広い範囲で変わり得るが、好ましくは約0.025から15ミクロン、特に約0.15から15ミクロンである。抗原または抗体の支持体への共有結合を生じる化学プロセスによってこれら支持体の表面は、活性化されてもよい。しかし、抗原または抗体の不可逆結合は、疎水力による多孔質材料の吸着によっても一般に得られる。
【0068】
免疫抑制薬を含むことが疑われるかまたは免疫抑制薬を含む検査試料抽出物を少なくとも1種類の第1の捕捉抗体と接触させた後、第1の捕捉抗体(または複数の抗体)−薬剤複合体を生成させるために、得られた混合物をインキュベートする。このインキュベーションは、任意の適当なpH(pH約4.5から約10などが挙げられる)、任意の適当な温度(約2℃から45℃などが挙げられる)で、少なくとも約1分から約18時間までの適当な期間、好ましくは約4から20分、最も好ましくは約17から19分間行なうことができる。
【0069】
検出剤の添加および標識複合体の形成の後、公知の技術を用い、複合体における標識の量を定量する。例えば酵素標識を使用する場合、標識複合体を標識に対する基質と反応させて発色などの定量可能反応をさせる。標識が放射活性標識である場合は、シンチレーションカウンターを使用し、標識を定量する。標識が蛍光性標識である場合は、1つの色(「励起波長」と呼ばれる)の光で標識を刺激し、刺激に応じて標識が放出する別の色(「発光波長」と呼ばれる)を検出することによって標識を定量する。標識が化学発光標識である場合は、視覚的にまたはルミノメータ、X線フィルム、高速度写真フィルム、CCDカメラなどを使用することによって放出される光を検出し、標識を定量する。複合体における標識の量が定量した後は、検査試料の薬剤の濃度は、生成された検量線を利用することによって、例えば既知濃度の免疫抑制剤の連続希釈を用いて決定できる。薬剤の連続希釈を用いる以外に、質量分析またはその他公知の技術によって検量線を重量測定で得られることができる。
【0070】
好ましい順競合フォーマットでは、既知濃度の一定量の標識された薬剤(またはこれのアナログ)を使用して、検査試料中に存在している抗体と結合する薬剤と競合させる。順競合測定法では、不動化抗体を連続的または同時に検査試料および標識された薬剤または薬剤アナログに接触させることができる。薬剤または薬剤アナログは、上に論じた検出可能な標識を含む任意の適当な検出可能な標識で標識できる。この測定法では、上述の技術を用いて捕捉抗体を固体支持体上に固定できる。別の方法として、捕捉抗体を抗種抗体などの抗体(これは微小粒子などの固体支持体上に不動化されている)に結合できる。
【0071】
標識された薬剤または薬剤アナログと検査試料抽出物および抗体を、サンドイッチ測定法フォーマットについて上で述べたのと同様の条件下でインキュベートする。次に2つの異なるタイプの抗体−薬剤複合体を生成する。具体的に言えば、生成される抗体−薬剤複合体の一方は検出可能な標識を含むが、生成される抗体−薬剤複合体の他方は検出可能な標識を含まない。抗体−薬剤複合体は、検出標識の定量の前に残りの検査試料抽出物から分離できる(分離しなくともよい)。抗体−薬剤複合体が残りの検査試料から分離するか否かに関わらず、次いで、抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量を定量する。次に、抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量と標準曲線を比較することによって検査試料中の薬剤濃度が決定できる。質量分析により重量測定で、または当分野で既知の他の技術によって、既知濃度の薬剤の連続希釈を用いて標準曲線を生成できる。
【0072】
次に、サンドイッチ測定法フォーマットに関して上に論じた固体支持体のように抗体と固体支持体を結合し、検査試料の残りを固体支持体との接触から除くことによって、抗体−薬剤複合体を検査試料から分離できる。
【0073】
逆競合測定法では、不動化した免疫抑制剤またはこれのアナログを、連続的または同時に検査試料または検査試料抽出物および少なくとも1種類の標識抗体と接触させることができる。抗体は、上に論じた検出可能な標識を含む任意の適当な検出可能な標識で標識できる。薬剤または薬剤アナログは、サンドイッチ測定法フォーマットについて上で述べた固体支持体などの固体支持体に結合させることができる。
【0074】
不動化した薬剤または薬剤アナログ、検査試料または検査試料抽出物、少なくとも1種類の標識抗体を、サンドイッチ測定法フォーマットについて上で述べたのと同様の条件下でインキュベートする。次に2つの異なるタイプの抗体−薬剤複合体を生成する。具体的に言えば、生成される抗体−薬剤複合体の一方は不動化され検出可能な標識を含むが、生成される抗体−薬剤複合体の他方は不動化されず検出可能な標識を含む。不動化されていない抗体−薬剤複合体および残りの検査試料または検査試料抽出物は、洗浄のような公知の技術によって不動化された抗体−薬剤複合体の存在から除去した。不動化されていない抗体−薬剤複合体を除去した後、不動化された抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量を次いで定量する。次に、抗体−薬剤複合体における検出可能な標識の量と標準曲線を比較することによって検査試料中の薬剤濃度が決定できる。質量分析により重量測定で、または当分野で既知の他の技術によって、既知濃度の薬剤の連続希釈を用いて標準曲線を生成できる。
【0075】
蛍光偏光測定法の場合、一つの実施形態では、抗体または機能的に活性なこのフラグメントをはじめに免疫抑制剤を含む非標識化検査試料と接触させて非標識化抗体−薬剤複合体を形成する。非標識化抗体−薬剤複合体を、次に蛍光で標識された薬剤またはこのアナログと接触させる。標識された薬剤または薬剤アナログは、抗体または活性なこのフラグメントに結合することに関し、検査試料中の任意の非標識化薬剤と競合する。形成される標識された抗体−薬剤複合体の量を決定し、検査試料中の薬剤の量を検量線を利用して決定する。
【0076】
本発明の免疫学的測定法では、免疫学的測定法に走査型プローブ顕微鏡(SPM)を使用することも、容易に適用可能な技術である。SPM、特に原子間力顕微鏡では、捕捉物質は走査に適している表面を有する固相に固定される。例えば捕捉物質は、プラスチックまたは金属表面に吸着できる。別の方法として、捕捉物質は当業者には公知の方法によって共有結合で、例えば誘導体化プラスチック、金属、シリコンまたはガラスに付着させることができる。捕捉物質の付着後に、検査試料を固相と接触させ、固体相に固定された複合体を検出し、定量するために、走査型プローブ顕微鏡を用いる。SPMの使用により、免疫学的測定法システムでは典型的に用いられる標識の必要がなくなる。このようなシステムは、米国特許出願公開第662147号(この内容は参照により本願に組み込まれる)で説明される。
【0077】
また、本発明による免疫学的測定法は、Micro Electro Mechanical System (MEMS)を用いて行なうことができる。MEMSは、機械的、光学的および流体的な部材を電子技術と組み合わせるシリコン上に集積された顕微鏡的構造であり、対象とする分析物の簡便な検出を可能する。本発明での使用に適する例示的なMEMSデバイスは、Protiverisのマルチカンチレバーアレイである。このアレイは、特別に設計したシリコンマイクロカンチレバーの化学機械的動作とその後に続くマイクロカンチレバー屈曲の光学的検出に基づく。一方の側に結合パートナーが塗布された場合、相補的な分子を含む溶液にさらされると、マイクロカンチレバーは曲がる。結合が起こったため、表面エネルギーの変化によってこの屈曲が引き起こされる。曲がる(屈曲)の度合いを光学的に検出することで、マイクロカンチレバーに結合した相補性分子の量の測定ができる。
【0078】
別の実施形態では、電気化学的検出法を用いて本発明による免疫学的測定法を実施する。Heinemanおよび共同研究者によって電気化学的検出の基本的な手順が説明されている。この方法では、一次抗体(Ab(ラット抗マウスIgG))の不動化の後、抗原(Ag(マウスIgG))を含む溶液、酵素標識が結合した二次抗体(AP−Ab(ラット抗マウスIgGおよびアルカリホスファターゼ))およびp−アミノフェニルリン酸(PAPP) への接触を順次行なう。APはPAPPをp−アミノフェノール(PAP、“R”は酸化形PAP(キノンイミン)から還元形を区別するため)に変換する。これは、pH9.0 (そこで、APは最適活性を示す)での酸素と水の還元を妨害しない電位で電気化学的に可逆的である。PAPは、フェノール(この前駆体であるフェニルリン酸はしばしば酵素基質として用いられる)と異なり、電極の汚れを起こさない。PAPは空気で軽く酸化されるが、これは、小規模および短時間のフレームでは、簡単に阻止される。20μLから360μLまでの範囲のPAPP容量を用いた微小電気化学免疫定量法で達成される、PAPに対するピコモル検出限界とIgGに対するフェムトグラム検出限界が以前報告されている。電気化学的検知を伴うキャピラリー免疫学的測定法において、これまでに報告されている最も低い検出限界は、70μLの量および測定30分または25分を使用したマウスIgGの3000個の分子である。
【0079】
様々な電気化学検出システムが、米国特許第7045364号 (2006年5月16日発行。参照により本願に組み込まれる)、米国特許第7045310号(2006年5月16日発行。参照により本願に組み込まれる)、米国特許第6887714号(2005年5月3日発行。参照により本願に組み込まれる)、米国特許第6682648号(2004年1月27日発行。参照により本願に組み込まれる)。米国特許第6,670,115 (2003年12月30日発行。参照により本願に組み込まれる)に記載されている。
【0080】
例えば1種類の検査試料中の多数の分析物を同時に分析するのに有用な特定の実施形態においては、固相が複数の異なる捕捉物質を含むことができる。このように、例えば固相は複数の抗体をこの上に固定できる(各々は試料中の異なる分析物の存在を検査するためのものである)。典型的な実施形態では、固相が表面上に様々な複数の領域を含み、各領域中に特定の抗体が固定される。
【0081】
多重フォーマットでは、複数の標識を用い、各標識を特定の分析物の検出に用いることができる(但し、そうしなくてもよい)。例えば特異性に基づき、抗体など複数の捕捉物質を異なる既知の位置で固相に固定される複数の標識を使用しないで、複数の異なる分析対象物を検出できる。各位置にある捕捉物質の特異性が知られているため、特定の場所での信号の検出は、この位置で縛られる分析物の存在に関連づけられる。このフォーマットの例としては、それぞれチャネルまたはキャピラリーに沿った異なる場所に異なる捕捉剤を含む、微小流体デバイスおよびキャピラリーアレイ、典型的には、固体支持体の表面にマトリクス状スポット(「標的要素」)を配置した捕捉剤を含むマイクロアレイが挙げられる。特定の実施形態では、それぞれ別々の捕捉剤が異なる電極に固定され、これらの電極は、例えば固体支持体表面上、微小流体デバイスのチャネル内またはキャピラリー内に形成できる。
【0082】
III.検査キット
本発明はまた、免疫抑制剤について検査試料を測定する検査キットを提供する。本発明による検査キットは、本発明による1以上の免疫学的測定法を実施するために有用な1以上の試薬を含む。検査キットは、1以上の容器を備えたパッケージを有し、1以上の分離された組成物として、また場合により、試薬が併存可能な場合は混合物として、試薬を保持する。検査キットは、他の素材(複数可)を含んでもよく、これらはユーザーの観点から望ましい可能性のある緩衝液(複数可)、希釈剤(複数可)、標準(複数可)および/または検体処理、洗浄または測定法の他の任意の工程に有用であるものなどである。
【0083】
特定の実施形態では、本発明の検査キットは以下のものを含み得る: (a)少なくとも1種類の免疫抑制剤に特異的に結合し得る少なくとも1種類の抗体;(b) 少なくとも約1.0Mの濃度の塩を含む測定用希釈剤;および(c)エチレングリコール、プロピレングリコールおよびこれらのアナログよりなる群から選択されるグリコールおよび炭素原子数が5個以下の少なくとも1種類のアルコールを含む抽出試薬。典型的な実施形態では、抗体はタクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの化合物の任意のアナログに特異的なものとすることができる。
【0084】
測定用希釈剤の塩濃度は約10M以下、例えば約4.5Mとすることができる。本発明の免疫学的測定法と関連する上記に記載の塩は、検査キットの使用に適する測定用希釈剤に含むことができる。
【0085】
ある実施形態では、抽出試薬としてはメタノール、エタノール、プロパノールまたはこれらのアルコール類の任意の混合物が挙げられる。典型的な実施形態では、グリコール対アルコールの比は約4:1から約1:4の範囲、より特定すれば、約4:1から約1:2の範囲である。
【0086】
必要であれば、検査キットは、さらに測定法される際に免疫抑制剤が含まれるコントロール組成物を含むことができる。コントロール組成物は、上記に記載の例示的な検査キットに含んでもよいが、例えば以下のものを含む検査キットに含むこともできる:(a)少なくとも1種類の免疫抑制剤に特異的に結合し得る少なくとも1種類の抗体;および(b)少なくとも約1.0Mの濃度の塩を含む測定用希釈剤。
【0087】
本発明によるキットは、固相および固相に固定される、または測定法の間、固相に固定されている捕捉物質を含むことができる。典型的な実施形態では、固相は1種類以上の微粒子または電極を含む。このようなキットを、サンドイッチ免疫学的測定法を実施するために用いる場合、キットはさらに標識された検出剤を含むことができる。ある実施形態では、検査キットには、アクリジニウム−9−カルボキシアミドなどの少なくとも1種類の直接的標識が含まれる。本発明による検査キットには少なくとも1種類の間接的標識も含むことができる。一般に用いる標識が検出可能信号を発生する指示薬を必要とする場合、検査キットには、好ましくは1種類以上の適当な指示薬を含む。
【0088】
本発明による検査キットは、好ましくは本発明の1以上の免疫学的測定法を実施するための説明書を含む。本発明のキットに含まれる説明書は、パッケージに貼付してもよいし、または添付文書として含むことができる。説明書は、通常は筆記または印刷された材料であるが、これらに限定されるものではない。本発明では、通常、指示内容を記録し、エンドユーザーに指示を伝えることができる任意の媒体が考えられる。このような媒体としては、電子記憶媒体(例えば磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光メディア(例えば(CD ROM))などが含まれるが、これらに限定されるものではない。本明細書で用いる「説明書」という用語には、手順を示すインターネットホームページのアドレスを含むことができる。
【0089】
もちろん、ここに示した任意の例示的なフォーマット、および本発明による任意の測定法またはキットは、例えば米国特許第5,089,424号および米国特許第5,006,309号に記載され、例えばAbbott Laboratories社(Abbott Park,IL)からARCHITECT(登録商標)、AxSYM(登録商標)、IMX(登録商標)、ABBOTT PRISM(登録商標)およびQuantum IIプラットフォームその他のプラットフォームとして市販されている(但し、これらに限定されるものではない)自動化および半自動システム(微粒子を含む固相を有する場合を含む)での使用に適合または最適化され得ることは言うまでもない。
【0090】
さらに、場合によっては、本発明の測定法およびキットは、ケア時点測定法システム(Abbott Laboratories社のPoint of Care (i−STAT(登録商標) 電気化学的免疫学的測定システムなど)での使用に適合または最適化され得る。1回使い切り検査装置における免疫センサーならびにこれらの製造方法および操作方法は米国特許第5063081号および米国特許出願公開第20030170881号、第20040018577号、第20050054078号および第20060160164号(上記に関する教示はこの内容が参照により本願に組み込まれる)に記載されている。
【0091】
実施例
以下の例は特許請求の範囲に係る発明を説明するためのものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0092】
測定用希釈剤に塩を使用したタクロリムス免疫学的測定法
本実施例は、タクロリムスについての自動免疫学的測定法において測定用希釈剤に塩を添加した効果を説明する。
【0093】
本発明の好ましい測定法方法では、塩濃度が4.5Mとなるように、ARCHITECT(登録商標)タクロリムス・アッセイ(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)の付随的な測定法希釈成分に塩化ナトリウム(NaCl)を添加したものである。タクロリムス・アッセイでは、80μLの測定用希釈剤を微粒子試薬と試料を組み合わせる。反応体積は180μLであり2.0MのNaClの反応の濃度をもたらす。18分間のインキュベーションの後、タクロリムス標識されたトレーサー試薬の20μLを添加する。さらに4分間のインキュベーションの後、微粒子を洗浄し、次いで化学発光トリガー試薬を添加し、生じた光量(または信号)を相対的な光単位(RLUs)として測定する。
【0094】
RLUは他の装置の場合と同様に、ARCHITECT(登録商標)システムで用いられる光学測定単位の名称である。RLUという用語は、アクリジニウムなどの信号生成標準の特定量までカウントする光子の関係に由来する。各光学モジュールは、一組の標準(例えばアクリジニウム標準)で補正する。化学発光反応が起こる時、光は放出され、光子は一定の時間(例えば3秒間)測定される。光電子増倍管(PMT)は、カウントされた光子をデジタル信号に変換し、これは次に回路基板に送られ処理される。光回路基板は、PMTからのデジタル信号をアナログ信号に変換する。この信号はカウントされた光子数に比例しており、この光子数は存在する信号生成分子(例えばアクリジニウム)に比例している。次いで、RLU値を得るためにこのアナログ信号をさらに処理する。この関係は光学モジュールの測定で基準を生じるように定められたものであり、異なる基準にはそれぞれにRLU値が割り当てられる。このように、RLUユニット自体は任意であるが、特定の量の基準(例えばアクリジニウム)に比例的(即ち、相対的)である。
【0095】
試験結果を表1および表2中に示す。トレーサー製造化学発光信号の強度は試料中の非標識化競合体タクロリムスの濃度に反比例している。
【0096】
タクロリムストレーサーのみが試料中に存在している場合、反応混合物へのNaClの添加は、より強力な化学発光信号を生じる。NaClはタクロリムス標識されたトレーサーと競合するために、試料は、非標識化タクロリムスを含む状態でも信号がより大きく減少する。この変化により、塩を用いないで可能であったタクロリムス量より小さい量の検出が可能である。非特異的結合(カリブレーターRLUsの%として表わされる)は、反応に加えるNaClが増加しても同じである。
【実施例2】
【0097】
微粒子試薬中に塩を用いるタクロリムス免疫学的測定法
この実施例は、タクロリムスの自動免疫学的測定法において微粒子試薬への塩の添加の効果を説明する。これらの測定法については、NaClを種々の濃度でIMx(登録商標)Tacrolimus II測定法(Abbott Laboratories,Abbott Park,IL)の微粒子試薬成分に加える。
【0098】
これらの測定法の結果を図3および4に示す。これらの図から、ARCHITECT(登録商標)タクロリムス・アッセイ(図1および2)において、測定用希釈剤への塩の添加効果と同様の効果が得られることが見てとれる。これは、IMx(登録商標)タクロリムスII 測定法では、同様の75%メタノール/25%エチレングリコール/60mM硫酸亜鉛有機混合物で全血からの分析物を抽出し、高濃度塩の添加なしで分析している(0MNaClデータポイント参照(例えば図3))ので予想されたことであろう。
【0099】
比較のため、1M、2Mまたは4MのNaClをIMx(登録商標)Tacrolimus II微粒子試薬検査の容器に添加すると、カリブレーター信号のレート (例えば図3、IMx(登録商標)「本測定法」対1M、2M NaCl添加例で得られるレートを参照)、カリブレーターの高低間のレートの広がり(例えば図3、IMx(登録商標)の「本測定法」の最低最高レートを対1M、2MのNaCl添加例で得られる最低最高レートを参照)、感度(例えば図4での1または2MのNaCl添加曲線の左方シフト参照)および測定法の性能(例えば図4でのカリブレーターX/A参照)が増加した。
【実施例3】
【0100】
測定用希釈剤に他の塩を使用したタクロリムス免疫学的測定法
この実施例では、タクロリムスの自動免疫学的測定法によって測定用希釈剤における種々の塩の添加の効果を説明する。
【0101】
これらの検討では、NaCl以外の塩の使用を検討した。特に、ナトリウムカチオンおよび塩化物アニオンを変化させる効果を調べた。これらの測定法の結果を図5および6に示す。これらの図から見てとれるように、NaCl以外の塩も、程度は様々だが、ARCHITECT(登録商標)タクロリムス・アッセイに同様な効果をもたらす。一定濃度(0.45M)では、アルカリ金属、Li、Na、K、RbおよびCsすべてに対し、塩化物である塩類が同様に有効であった(図5)。しかし、ナトリウム塩と異なるアニオン類の挙動は異なる(図6)。すべてで分析性能が向上するが、塩化ナトリウムは極めて有効であり、溶解性も高いことがわかった。
【0102】
ここに述べた実施例および実施形態は、説明を目的とするものであり、これらに照らして様々な修正や変更を行なうことも当業者に示唆するものであって、本発明の技術思想、発明の範囲および添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。
【0103】
加えて、全血中の分子または薬剤を検出するための診断検査に関する教示全体についても、米国特許出願公開第60/882,732号(2006年12月29日出願。同一の譲受人、同時係属出願)が参照により明示的に本願に組み込まれる。
【0104】
また、溶液中捕捉免疫学的測定法で用いる非変性的溶解試薬に関する教示全体についても、米国特許仮出願公開第60/878,017号明細書(2006年12月29日出願。同一の譲受人、同時係属出願)が参照により明示的に本願に組み込まれる。
【0105】
また、非変性的溶解試薬に関する教示全体についても、米国特許本出願第11/618,495号(2006年12月29日出願。同一の譲受人、同時係属出願)が参照により明示的に本願に組み込まれる。
【0106】
また、抽出試薬組成物に関する教示全体についても、米国特許本出願第11/490,624号(2006年7月21日出願。同一の譲受人、同時係属出願)が参照により明示的に本願に組み込まれる。
【0107】
加えて、ここに引用するすべての他の刊行物、特許および特許出願は、すべての目的のためこの全体が参照により本願に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査試料中の免疫抑制剤の存在または濃度を評価する方法であって、
検査試料または検査試料抽出物を免疫抑制剤に特異的な抗体に、免疫抑制剤(もし存在するのであれば)に抗体が結合するのに適した条件下で接触させて測定混合物を形成すること(前記条件は約0.4Mを超える塩濃度を含む。)、および
免疫抑制剤に対する抗体の結合を検出することを含む、方法。
【請求項2】
免疫抑制剤が、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンまたはこれらの任意の化合物のアナログよりなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項3】
免疫抑制剤がタクロリムスを含む、請求項1の方法。
【請求項4】
免疫抑制剤がシクロスポリンを含む、請求項1の方法。
【請求項5】
検査試料がヒト血液試料を含む、請求項1の方法。
【請求項6】
塩濃度が約4.0M以下である、請求項1の方法。
【請求項7】
塩濃度が約2.0Mである、請求項1の方法。
【請求項8】
塩が1価アニオンを含む、請求項1の方法。
【請求項9】
1価アニオンが塩化物を含む、請求項9の方法。
【請求項10】
塩がアルカリ金属の塩化物である塩を含む、請求項9の方法。
【請求項11】
塩が塩化ナトリウムを含む、請求項10の方法。
【請求項12】
測定混合物がさらに、
エチレングリコール、プロピレングリコールおよびこれのアナログよりなる群から選択されるグリコール、および
炭素原子数が5個以下の少なくとも1種類のアルコール
を含む、請求項1から12のいずれかの方法。
【請求項13】
アルコールがメタノール、エタノールおよびプロパノールよりなる群から選択される、請求項12の方法。
【請求項14】
グリコール対アルコールの比が、約4:1から約1:4の範囲である、請求項12の方法。
【請求項15】
グリコール対アルコールの比が、約4:1から約1:2の範囲である、請求項14の方法。
【請求項16】
検査キットであって、
(a)少なくとも1種類の免疫抑制剤に特異的に結合可能な少なくとも1種類の抗体、
(b)少なくとも約1.0Mの濃度の塩を含む測定用希釈剤、および
(c)エチレングリコール、プロピレングリコールおよびこのアナログよりなる群から選択されるグリコール、ならびに
炭素原子数が5個以下の少なくとも1種類のアルコール
を含む溶解試薬、
を含む検査キット。
【請求項17】
免疫抑制剤が、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、シクロスポリンおよびこれらの任意の化合物のアナログよりなる群から選択される、請求項16の検査キット。
【請求項18】
免疫抑制剤がタクロリムスを含有する、請求項16の検査キット。
【請求項19】
免疫抑制剤がシクロスポリンを含有する、請求項16の検査キット。
【請求項20】
塩濃度が約10.0M以下である、請求項16の検査キット。
【請求項21】
塩濃度が約4.5Mである、請求項16の検査キット。
【請求項22】
塩が1価アニオンを含む、請求項16の検査キット。
【請求項23】
1価アニオンが塩化物を含む、請求項22の検査キット。
【請求項24】
塩がアルカリ金属の塩化物である塩を含む、請求項23の検査キット。
【請求項25】
塩が塩化ナトリウムを含む、請求項24の検査キット。
【請求項26】
(a)の少なくとも1種類の免疫抑制剤を含むコントロール組成物をさらに含む、請求項16から25のいずれかの検査キット。
【請求項27】
アルコールがメタノール、エタノールおよびプロパノールよりなる群から選択される、請求項26の検査キット。
【請求項28】
グリコール対アルコールの比が約4:1から約1:4の範囲である、請求項26の検査キット。
【請求項29】
グリコール対アルコールの比が約4:1から約1:2の範囲である、請求項26の検査キット。
【請求項30】
検査キットであって、
(a)タクロリムスおよびシクロスポリンよりなる群から選択される少なくとも1種類の免疫抑制剤に特異的に結合可能な少なくとも1種類の抗体またはタンパク質、
(b)少なくとも約1.0Mの濃度の塩を含む測定用希釈剤、
(c)(i)約4:1から約1:2の範囲の比のプロピレングリコールとエタノール
を含む溶解試薬、ならびに
(d)(a)の少なくとも1種類の免疫抑制剤を含むコントロール組成物
を備える検査キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−515064(P2010−515064A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544193(P2009−544193)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/088098
【国際公開番号】WO2008/082982
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】