説明

免疫療法のための潜在性HLA−A24エピトープの同定、最適化及び使用

本発明は、抗原中のHLA-A*2402制限潜在性エピトープを同定する方法;HLA-A*2402制限潜在性エピトープに対する免疫応答を誘引することができるHLA-A*2402制限エピトープを取得するために免疫原性を増大させる方法に関する。潜在性又は最適化HLA-A*2402制限エピトープからなる単離ペプチドもまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペプチド免疫療法の分野に関する。具体的には、本発明は、HLA-A*2402表現型を有する患者を効率的に治療するための新規な方法及び材料を提供する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドワクチン接種又は免疫療法は、現在ガン治療に関する膨大な数の研究の対象となっている治療的アプローチである。その原理は、腫瘍細胞の排除で重要な役割を演じる細胞傷害性Tリンパ球(CTL)により認識される腫瘍抗原のT細胞エピトープを再現するペプチドでの免疫化に基づいている。
【0003】
CTLはタンパク質抗原全体を認識せず、そのペプチドフラグメント(概して8〜10アミノ酸を含んでなり、細胞表面に発現されるクラスI主要組織適合性複合体(MHC I)分子により提示される)を認識することが思い出される。これらペプチドの提示は、3つの工程:
− プロテアソームと呼ばれる多酵素複合体による抗原の細胞質内分解、
− この分解から誘導されるペプチドの、TAP輸送体による小胞体(ER)中への転位、
− これらペプチドとMHC I分子との結合及びペプチド/MHC I複合体の細胞表面への輸出
を含む抗原プロセシングの結果である。
【0004】
ペプチド/MHC I複合体は、CTL上の特異的T細胞レセプター(TCR)と相互作用し、これらCTLの刺激及び増幅を誘導する。CTLは、該ペプチドが誘導された抗原を発現している標的細胞を攻撃できるようになる。
抗原プロセシングの間、ペプチド選択が起こり、或る階層のペプチド提示を生じる。MHC I分子により優先的に提示されるペプチドは、免疫優性と呼ばれる一方、弱く提示されるペプチドは、潜在性(cryptic)と呼ばれる。免疫優性ペプチドは、MHC Iに関して高親和性を示し、免疫原性であるが、潜在性ペプチドは、MHC Iに関して低親和性を示し、非免疫原性である。
【0005】
免疫優性ペプチドは、前臨床及び臨床研究において広く腫瘍ワクチンによる標的とされてきたが、結果は期待はずれであった(Grossら,2004;Rosenbergら,2004)。
腫瘍抗原は、高い頻度で、腫瘍により過剰発現され、正常細胞及び組織ではより低いレベルで発現される自己タンパク質である。免疫系は、自己寛容プロセスのため、これら自己抗原に対しては反応することができない。自己寛容は主に免疫優性ペプチドに関係する(Cibottiら,1992;Grossら,2004)ので、これらペプチドが腫瘍免疫を誘導できないことを説明する。
潜在性ペプチドは、自己寛容プロセスにほとんど関与せず(Cibottiら,1992;Grossら,2004;Moudgilら,1999)、したがってその免疫原性が増強されたならば効率的な腫瘍免疫を誘導することができる(Engelhornら,2006;Grossら,2004)。
【0006】
低いMHC I親和性のために非免疫原性である潜在性ペプチドの免疫原性を増強するための通常のストラテジーは、アミノ酸置換を介するMHC I分子に関する親和性の増大に存する。MHC I分子に関するペプチド親和性は、主に、十分に規定された位置(一次アンカー位置)での「一次アンカー残基」と呼ばれる残基の存在に依存する。これら残基は、MHC I対立遺伝子特異的である。一次アンカー残基の存在は、しばしば必要であるが、高MHC I親和性を確保するに十分ではない。一次アンカー位置の外に位置する残基(二次アンカー残基)がMHC Iに関するペプチドの親和性に対して好都合な効果又は不都合な効果を奏し得ることが示されている。これら二次アンカー残基の存在により、一次アンカーモチーフを有するペプチド間に結合親和性の大きなバラツキが存在することを説明できる(Ruppertら,1993)。
【0007】
MHC I分子に関する親和性の増強を目的とするアミノ酸置換は、最適化ペプチドの抗原性を保存すべきである。実際、最適化ペプチドにより生じるCTLは、対応する天然型ペプチドと交差反応しなければならない。
多くのチームが、HLA-A*0201に関する親和性を増大させることによって、既に免疫原性であるペプチドの免疫原性を増強することに成功している(Bakkerら,1997;Parkhurstら,1996;Valmoriら,1998)。本発明者らは、以前に、HLA-A*0201制限潜在性ペプチド(Scardinoら,2002;Tourdot及びGould, 2002)及びHLA-B*0702(WO 2008/010098)の親和性及び免疫原性を増強するための一般的ストラテジーについて記載した。
【0008】
HLA-A*2402は、日本人及びアジア人で高頻度に発現される分子であり(人口の27%)、最も一般的な対立遺伝子の1つである。したがって、HLA-A*2402を発現している患者に関する効率的なガンワクチンの開発には、HLA-A*2402制限腫瘍潜在性ペプチドの同定及び最適化が必要である。
これまでに、HLA-A*2402により提示される幾つかの腫瘍免疫原性ペプチドが記載されている(表1)。
【0009】
【表1】

【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
下記実験の部に記載されるように、本発明者らは、今や、抗原中で、HLA-A*2402分子により提示される潜在性ペプチドを同定し、対応する天然型潜在性ペプチドとの交差反応性を保存しつつその免疫原性を最適化するためのストラテジーを見出した。
よって、本発明の第1の観点は、抗原中のHLA-A*2402制限潜在性エピトープ(cryptic epitope)を同定する方法であり、該方法は、該抗原中で、一次アンカー位置である2位にチロシン(Y)を有する8〜12アミノ酸のペプチド〔但し、該ペプチドは、1位に正に荷電したアミノ酸(アルギニン(R)又はリシン(K))を、C末端位置にロイシン(L)又はフェニルアラニン(F)又はイソロイシン(I)を同時には有さない〕を選択する工程を含んでなる。よって、このエピトープは、配列X1YX2X3X4X5X6X7X8X9X10X11 (配列番号20)(式中、X1〜X6は任意のアミノ酸であり、X7〜X10は任意のアミノ酸であるか又は存在せず、X1 = R又はKであるときX11 ≠ L又はF又はI)を有する。
【0011】
上記選択工程が単独で実施されるとき、得られる配列は推定の潜在性エピトープのものである。上記基準に応じるエピトープは非免疫原性である可能性が高いが、真に潜在性であるエピトープを確実に同定するには機能試験が必要である。具体的には、本発明者らは、上記の一次配列を有する幾らかのペプチドが、事実、HLA-A*2402を発現している個体において免疫原性であることを観察した。よって、好適な実施形態において、抗原中のHLA-A*2402制限潜在性エピトープを同定する方法は、適切なモデルにおいて、配列番号20の各推定潜在性エピトープの免疫原性を試験し、非免疫原性であるものを選択することからなる工程を更に含んでなる。
【0012】
本発明のこの観点を実施するためには、適切なモデルは、HLA-A*2402を発現する個体において該ペプチドの免疫原性を予知するモデルである。このような適切なモデルの例は、実験の部に記載されており、HLA-A*2402トランスジェニックマウスからなる。このモデルにおいて、推定の潜在性ペプチドの非免疫原性は、該マウスにワクチン接種し、特異的CTLが生成されたかを、標的細胞としてHLA-A*2402を発現しているヒト細胞であって該ペプチドをロードした細胞を用いて試験することによって検証される。
【0013】
以下において、句「HLA-A*2402制限潜在性エピトープ」又は「天然型ペプチド」は、非免疫原性が検証されているかどうかに関わらず、配列番号20のいずれかのペプチドを指称するために使用する。必要なときには、句「推定(の)HLA-A*2402制限潜在性エピトープ」は、ペプチドの免疫原性が試験されていない事実を表現するために使用し、句「確証(された)HLA-A*2402制限潜在性エピトープ」は、適切なモデルにおいて試験され、非免疫原性であることが証明されているペプチドについて使用される。
本明細書において、用語「ペプチド」は、アミノ酸残基(L型又はD型)がペプチド(-CO-NH-)結合により連結されている分子のみならず、ペプチド結合が改変されている、特にタンパク質分解に対してより抵抗性となった合成の偽ペプチド又はペプチド擬似体(ただし、この改変により免疫原性は損傷されていない)もまた指称する。
【0014】
本発明の好適な実施形態によれば、選択されたペプチドは、9〜11アミノ酸、より好ましくは9又は10アミノ酸を有し、二次アンカー位置に1以上の不都合なアミノ酸、例えば1位のP(プロリン)及び/又はC末端位置のD又はE又はG又はH又はP又はQ又はR又はK(グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、ヒスチジン、プロリン、グルタミン、アルギニン又はリシン)を有する。
【0015】
本発明の第2の観点は、HLA-A*2402制限潜在性エピトープの免疫原性を増大させる方法であり、該方法は、前記エピトープのN末端残基を正に荷電したアミノ酸(R又はK)で置換する工程、及び/又は前記エピトープのC末端残基をL、F又はIで置換する工程を含んでなる。優先的には、C末端改変はLによる置換である。
当然のことながら、この方法において、語「置換」は、ペプチドを取得するために用いた技法に関わらず、その配列が前記HLA-A*2402制限潜在性エピトープの配列から上記置換によって誘導されるペプチドを取得することとして理解されるべきである。例えば、ペプチドは、人工的なペプチド合成により又は組換え発現により製造することができる。
【0016】
具体的には、最初の2残基がRY又はKYであるHLA-A*2402制限潜在性エピトープの免疫原性は、最後のアミノ酸をL、F又はIで、優先的にはLで置換することにより(又は11アミノ酸より長くならないという条件で、C末端にL、I又はFを付加することにより)増大させることができる。選択したHLA-A*2402制限潜在性エピトープの配列がX1YX2X3X4X5X6X7X8X9X10L (配列番号21)(式中、X1は、R及びKを除く任意のアミノ酸であり、X2〜X6は任意のアミノ酸であり、X7〜X10は任意のアミノ酸であるか又は存在しない)であるとき、R又はKでのX1の置換は、その免疫原性を増大させるに十分である。より一般的には、選択したHLA-A*2402制限潜在性エピトープの配列がX1YX2X3X4X5X6X7X8X9X10X11 (配列番号22)(式中、X1は、R及びKを除く任意のアミノ酸であり、X2〜X6は任意のアミノ酸であり、X7〜X10は任意のアミノ酸であるか又は存在せず、X11は不都合なアミノ酸(D又はE又はG又はH又はP又はQ又はR又はK)ではない)であるとき、R又はKでのX1の置換は、その免疫原性を増大させるに十分であることがある。
【0017】
以下において、表現「最適化ペプチド」又は「最適化免疫原性A*2402制限エピトープ」は、HLA-A*2402制限潜在性エピトープ(その「同族(の)天然型ペプチド」と呼ぶ)から上記方法により誘導される免疫原性ペプチドを指称する。
【0018】
本発明の好適な実施形態において、最適化ペプチドは、その同族の天然型ペプチドを交差認識する免疫応答を誘引することができる。よって、本発明の別の観点は、抗原のHLA-A*2402制限潜在性エピトープに対して免疫応答を誘引することができるHLA-A*2402制限エピトープを取得する方法であって、該方法は、以下の工程:
(i)前記抗原中で、1又は幾つかの天然型推定HLA-A*2402制限潜在性エピトープを、請求項1に記載の方法により同定する工程;
(ii)工程(i)で選択した各天然型エピトープの免疫原性を適切なモデルにおいて試験し、非免疫原性であるものを選択する工程;
(iii)工程(ii)で選択した各天然型エピトープについて、上記方法により免疫原性を増大させることによって最適化エピトープを取得する工程;
(iv)工程(iii)で取得した各最適化エピトープの免疫原性を適切なモデルにおいて試験し、免疫原性であるものを選択する工程;
(v)工程(iv)で選択した各エピトープについて、最適化エピトープに対して生じたCTLが同族の天然型エピトープもまた認識するかを試験し、該試験が陽性であるものを選択する工程
を含んでなる。
【0019】
この方法において、工程(ii)及び(iv)で使用することができる適切なモデルは、上記と同様である。工程(V)におて、交差認識は、当業者に公知の任意の方法、例えば実験の部に記載された方法により実施することができる。
下記の実験の部に記載されているように、本発明者らは、種々の腫瘍関連抗原(hTERT、EphA2、MAGE又はHer2/neu)中で、多くの推定のHLA-A*2402制限潜在性エピトープを同定した。これらエピトープの免疫原性を試験すると、そのうちの1つが免疫原性であることが証明された。本発明者らは、下記表2に開示した確証HLA-A*2402制限潜在性エピトープであるペプチドを選択した。このペプチドは本発明の一部である。
【0020】
【表2】

【0021】
本発明はまた、配列番号1〜9の潜在性ペプチドから本発明に従う方法により誘導された最適化ペプチドに関する。最適化ペプチドの好適な例は、KYGVLLKTL (配列番号11)、RYMRQFVAL (配列番号12)、RYVSRLLGI (配列番号13)、RYGKGWDLL (配列番号14)、RYLVQVQAL (配列番号15)、RYWELSNHL (配列番号16)である。これらペプチドのうち、配列番号13及び配列番号15は、それぞれ配列番号3及び5の潜在性HLA-A*2402制限エピトープからN末端アミノ酸のRでの置換により誘導された。配列番号11、12、14及び16のペプチドは、それぞれ配列番号1、2、4及び6のペプチドからN末端アミノ酸をR又はKで、C末端アミノ酸をLで置換することにより誘導された。
【0022】
多特異性腫瘍ワクチン接種は、単特異性ワクチン接種より幅広い腫瘍細胞制御を提供し、そのことにより免疫逃避変形体が発生するリスクを低減させる。ほとんどの場合で、免疫療法は、幾つかのエピトープを標的すると、1つのエピトープのみを標的するときより効率的である(但し、腫瘍は、全ての標的抗原を発現することが知られているという条件で)。本発明者らは、以前に、3つの異なる普遍(universal)腫瘍抗原(TERT988Y、HER-2/neu402Y及びMAGE-A248V9)から誘導されるHLA-A*0201制限最適化潜在性ペプチドから構成されたポリペプチド(Vx-006と名付けられた)を記載した(WO 2007/073768)。Vx-006は、HLA-A*0201トランスジェニックHHDマウスにおけるインビボ及びヒトにおけるインビトロの両方で、多特異性CD8細胞応答を誘導することができる一方、TERT988Y、HER-2/neu402Y及びMAGE-A248V9ペプチドの混合物は、三特異性応答を誘導することができなかった。よって、幾つかのエピトープを含んでなるキメラポリペプチドは、1より多いエピトープに対する応答を誘引するために、同じエピトープの単なる混合物より効率的であり得る。状況にもよるが、単一エピトープの反復を含んでなるキメラポリペプチドもまた、該エピトープに対して、該エピトープからなるペプチドより強力な応答を誘引し得る。事実、ポリペプチドの構成(幾つかの異なるエピトープを有するか又は単一エピトープの反復を有するかのいずれか)は、標的ペプチドに特異的な免疫応答を最適化することができる新たな接合部エピトープ(junctional epitope)、特にCD4制限エピトープを生じさせることがある。更に、遊離ペプチドは、皮下に注射されると、注射部位に存在する全ての細胞のMHC分子に直接結合する。ポリペプチドはプロセシングを受ける必要があるので、ポリペプチドでのワクチン接種は、抗原性ペプチドを樹状細胞のような専門の抗原提示細胞(APC)に標的付けるために、より効率的である。
【0023】
よって、本発明の更なる観点は、1、2、3又はそれより多いHLA-A*2402制限潜在性エピトープ又は1、2、3又はそれより多い上記最適化免疫原性HLA-A*2402制限エピトープを含んでなるキメラポリペプチドである。本発明に従うキメラポリペプチドにおいて、エピトープは互いに異なることができ、及び/又は同じエピトープを数度繰り返すことができる。
同じHLA分子に特異的な幾つかのエピトープを併せて(ミックスで又はキメラペプチドでのいずれでも)使用すると、該エピトープは、対応するHLA分子への結合について競合状態であることに留意すべきである。これに対して、異なるHLA-制限エピトープ(HLA-A*0201、HLA-A*2402、HLA-B*0702その他)のミックス又は同様な異なるHLA-制限エピトープを含んでなるキメラポリペプチドを使用することにより、HLA結合について競合はなくなり、多特異性応答が確実に得られる(但し、ワクチン接種した個体において当該HLA分子の全てが発現しているという条件で)。
【0024】
よって、本発明に従うキメラポリペプチドにおいて、上記のHLA-A*2402制限潜在性又は最適化免疫原性エピトープは、有利には、以前に記載されたHLA-A*0201ペプチド(WO 02/02716)及び/又はHLA-B*0702ペプチド(WO 2008/010010及びWO 2008/010098)と、又は以前に記載された腫瘍関連抗原(CEA、PRAME、チロシナーゼ、TRAG-3、NY-Eso-1、P53、Muc-1、PSA/PSMA、サービビン、メラン-A/MART-1、TRP-1、TRP-2、WT1、EphA1、EphA2、EphA3、EphA4、G250/MN/CAIX、STEAP、アルファフェトプロテイン、RAGE-1、PAGE-1を含む)から誘導される免疫原性エピトープと組み合せることができる。当然のことながら、本発明に従うペプチド及び1つの異なるHLA-制限エピトープ(HLA-A*0201、HLA-A*2402、HLA-B*0702その他)を少なくとも含んでなる多対立性ペプチドミックス(polyallelic peptide mix)もまた、本発明の一部である。
HLA-A*2402制限潜在性エピトープと(ミックス又はキメラポリペプチドのいずれかで)有利に組み合わせることができる潜在性エピトープの例及び最適化免疫原性HLA-A*2402制限エピトープと有利に組み合わせることができる最適化免疫原性エピトープの例を、下記表3に記載する。当然のことながら、これらリストに限定されるものではない。
【0025】
【表3−1】

【0026】
【表3−2】

【0027】
このようなポリペプチドを作製するために、当業者は任意の公知技術を選択することができる。例えば、該ポリペプチドは、化学合成により、又は遺伝子操作技術(Veldersら,2001)を用いて取得することができる。
【0028】
本発明の別の目的は、潜在性HLA-A*2402制限エピトープ又は最適化免疫原性HLA-A*2402制限エピトープ又は上記のキメラポリペプチドの発現を引き起こすように設計された単離核酸分子である。ペプチドの「発現を引き起こすように設計された」とは、本明細書中では、その配列が選択された(そして適切な場合には、上記のように最適化された)全体抗原から単離された前記ペプチド自体が、その核酸が適切な細胞中に導入されると、発現することを意味する。エピトープ又はキメラポリペプチドをコードする領域は、代表的には、ポリヌクレオチド中、適切なプロモーターの制御下に位置する。細菌性プロモーターは、細菌における発現に好適であり、インビトロ又は特定の状況下でのインビボのいずれでもポリペプチドを作製できる。本発明に従うペプチド又はポリペプチドをインビボで直接作製するために使用することができる細菌の例は、能動的食作用により専門の抗原提示細胞に侵入する通性細胞内細菌であるListeria monocytogenesである(Paterson及びMaciag,2005)。或いは、本発明に従う核酸は、適切なベクターを用いて直接投与することができる。この場合、ペプチド発現を制御するために、組織-特異的なプロモーター、強力な構成性プロモーター又は内因性プロモーターを使用することができる。適切なベクターシステムとしては、ネイキッドDNAプラスミド、送達を増強するリポソーム組成物及び一過性発現を引き起こすウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターの例は、アデノウイルス又はワクシニアウイルスベクター並びにヘルペス科の(特に非複製型の)ベクターである。
【0029】
本発明はまた、活性成分として上記のHLA-A*2402制限潜在性エピトープ又は上記の最適化免疫原性エピトープポリペプチド又は本発明に従うキメラポリペプチド又はこれらのいずれかをコードする核酸及び/又は該核酸を有するベクターを少なくとも含んでなる医薬組成物に関する。医薬組成物の製剤化は、現代の標準及び技術に従う。ヒト投与を意図する医薬は適切な滅菌条件下で製造し、該条件下に、活性成分を等張溶液又は推奨される治療用途に適切な他の製剤キャリアーと組み合わせる。適切な処方及び技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Maack Publishing Co, Easton PA)の最新版に概説されている。
具体的には、本発明に従うHLA-A*2402制限エピトープ又はキメラポリペプチド又は核酸は、予防的又は治療的免疫療法用、特には抗ウイルス又は抗ガン免疫療法用の組成物の製造に使用することができる。
【0030】
特定の実施形態において、本発明に従う医薬組成物はワクチンである。この後者の場合では、上記の成分は、免疫応答を増強するアジュバントと組み合わせることができる。古典的アジュバントとしては、不完全フロイントアジュバント又はMontanideのような油エマルジョン及びミョウバンのような接着性表面が上げられる。樹状細胞を特にTLRを介して動員し活性化するアジュバント(例えば、細菌DNA又は細菌膜由来タンパク質)又は細胞傷害性T細胞の誘起を援助するアジュバントが特に有用である。別の方法で免疫応答を高めるか又はガン細胞のアポトーシス若しくは排除を促進するその他の因子、例えばIL-2若しくはIL-12サイトカイン又はGM-CSFを組成物中に含ませることもできる。
別々又は一緒の配布のために、本発明の免疫原性組成物の多回用量及び/又は異なる組合せを詰め合わせることができる。各組成物又は組成物のセット(例えば下記のキット)に、免疫応答の誘起及び/又はガンの処置のための該組成物又は組合せの使用に関する指示書を添付することができる。
【0031】
以前の特許出願(WO 2006/120038)において、出願人は、低優性(sub-dominant)/潜在性エピトープを標的するT細胞応答の開始及び維持を可能にするワクチン接種プロトコールを記載した。WO 2006/120038で報告した結果は、同族の最適化ペプチドでのワクチン接種後の低優性/潜在性エピトープに対応する天然型ペプチドの注射が、該最適化ペプチドにより開始された免疫応答を維持することができることを証明している。
【0032】
よって、本発明によれば、HLA-A*2402制限潜在性エピトープは、同族の最適化ペプチドにより開始されたCTL免疫応答を維持するための医薬組成物の製造に使用することができる。HLA-A*2402制限潜在性エピトープから誘導された最適化免疫原性HLA-A*2402制限エピトープ配列を有する免疫原性ペプチドはまた、該HLA-A*2402制限潜在性エピトープに対してCTL免疫応答を開始するための医薬組成物の製造に使用することができる。本発明はまた、患者に腫瘍又はウイルス抗原に対するワクチン接種をする方法を包含し、該方法は、該抗原の天然型HLA-A*2402制限潜在性エピトープに対して同族である最適化免疫原性ペプチドをワクチン接種する第1の工程、及び続いて該天然型ペプチドをワクチン接種する第2の工程を含んでなる。この方法において、第1の工程及び/又は第2の工程は、単一エピトープペプチドの代わりに、1、2、3又はそれより多い上記最適化又は潜在性ペプチドを含んでなるキメラポリペプチドを使用することによって実施することができる。
【0033】
本発明はまた、別個の剤形で又は容器(バイアル、管など)中に、
(i)HLA-A*2402制限潜在性エピトープの配列を含んでなる第1のペプチド、及び
(ii)(i)に記載した潜在性エピトープに同族の最適化免疫原性エピトープ対応する配列を含んでなる第2のペプチド
を含んでなるキットに関する。
本発明に従うキットの一部であり得るペプチドの例は、配列番号1〜6のペプチドであり、これは第1のペプチドを構成することができ、第2のペプチドは、該第1のペプチドから、上記の免疫原性を増大させる方法により誘導される。よって、本発明に従う好適なキットは、配列番号1及び11のペプチドを(別個の容器に)、又は配列番号2及び12のペプチドを(別個の容器に)、又は配列番号3及び13のペプチドを(別個の容器に)、又は配列番号4及び14のペプチドを(別個の容器に)、又は配列番号5及び15のペプチドを(別個の容器に)、又は配列番号6及び16のペプチドを(別個の容器に)含んでなる。
【0034】
本発明に従う他のキットは、少なくとも1つのキメラポリペプチドを含んでなる。この実施形態において、キットはまた、キメラポリペプチドに含まれるエピトープの1つに同族のペプチドを少なくとも含んでなる。ここで、該同族ペプチドは、単離されているか又は別のキメラポリペプチド中に含まれているかのいずれかである。
【0035】
このようなキットの幾つかの好適な変形は以下のものが企図される:第1の実施形態では、キットは、1、2、3又はそれより多いHLA-A*2402制限潜在性エピトープを含んでなる第1のキメラポリペプチドと、同族のHLA-A*2402制限免疫原性キメラポリペプチドに対応する第2のキメラポリペプチド(このことは、第2のキメラポリペプチドが、第1のキメラポリペプチドに含まれる潜在性エピトープに同族の最適化HLA-A*2402制限免疫原性エピトープを含んでなることを意味する)とを、別の製剤中に含んでなる。第2の実施形態では、キットは、異なるHLA-A*2402制限潜在性エピトープに対応する1、2、3又はそれより多いペプチド(該ペプチドは、単一の製剤中で混合されているか又は幾つかの製剤中に分離されているかのいずれかである)及び該潜在性ペプチドと同族の最適化HLA-A*2402制限免疫原性エピトープを含んでなるキメラポリペプチドを別個の製剤中に含んでなる。
【0036】
上記のように、多対立性刺激(polyallelic stimulation)(すなわち、異なるHLA分子に特異的なエピトープを使用)は、有利には、多特異性応答が得られるように実施することができる。したがって、本発明に従うキットの好適な実施形態は、別個の容器に、
(i)少なくとも1つの上記のHLA-A*2402制限潜在性エピトープ及び少なくとも1つの異なるHLA-制限潜在性エピトープを含んでなる多対立性ペプチドミックス又は多対立性キメラポリペプチドと、
(ii)少なくとも1つの、(i)に記載のHLA-A*2402制限潜在性エピトープに同族のHLA-A*2402制限免疫原性エピトープ及び少なくとも1つの、(i)に記載の他の潜在性エピトープに同族の別の免疫原性エピトープを含んでなる多対立性ペプチドミックス又は多対立性キメラポリペプチド
を含んでなる。
【0037】
或いは、本発明に従うキットは、少なくともペプチド又はキメラポリペプチドの代わりに、該ペプチド又はキメラポリペプチドをコードする核酸を含んでなることができる。この場合、核酸は上記のとおりである。
本発明に従う幾つかの具体的キットについての下記の記載では、キットに含まれる(天然型又は最適化された)ペプチドについてのみ言及する;(天然型潜在性エピトープ又は最適化エピトープを含んでなる)キメラポリペプチドを、単一エピトープペプチドの代わりに、該キットに同封でき、核酸もまた該ペプチド又はキメラポリペプチドに加えて若しくはこれに代えて、キットに同封できることが理解される。
【0038】
本発明の特定の実施形態において、キットは、前記第1の(天然型)ペプチド及び第2の(同族の最適化)ペプチドが別個のワクチン接種用量で存在するワクチン接種キットである。好適な実施形態において、ワクチン接種キットは、2又は3回用量の最適化ペプチドと、3、4、5又は6回用量の天然型ペプチドとを含んでなる。本発明に従う特定のワクチン接種キットは、6回の注射からなる第1のワクチン接種シーケンスに適合されており、2又は3回用量の最適化ペプチドと、4又は3回用量の天然型ペプチドとを含んでなる。長期持続性疾患の場合、この第一部のワクチン接種(primo-vaccination)後に得られる免疫レベルを定期的なリコール(recall)によって維持することが好ましい。これは、例えば1〜6ヶ月ごとに実施する注射によって行うことができる。したがって、少なくとも2回用量、40又は50回用量までの天然型ペプチドを含んでなる補充キットもまた、本発明の一部である。或いは、ワクチン接種キットは、2〜3回用量の最適化ペプチドと、3〜40回用量の又は50回用量までの天然型ペプチドとを含んでなることができる。当然のことながら、キット中に存在する前記天然型及び最適化ペプチドは上記のとおりである。
【0039】
各用量は、0.1〜10mgのペプチド(好ましくは1〜5mg)又は1〜20mgのポリペプチドを含んでなる。好適な実施形態において、各用量は、皮下注射用に製剤化される。例えば、各用量は、アジュバントとして使用するMontanide ISA51で乳化された0.3〜1.5mlの水性エマルジョン溶液に製剤化することができる。当業者は、Montanide ISA51の代わりに(又は加えて)任意の他のアジュバントを選択することができる。特定の実施形態において、投薬形態は水性溶液の形態である。或いは、投薬形態は、注射する液体溶液の即座の調製のために、凍結乾燥ペプチドの形態であることができる。キットの他の可能な成分は、投与前にペプチド組成物に添加される1又は幾つかのアジュバント及び該キットの使用法を記載する注意書きである。
以下の図及び実施例により本発明を更に説明する。
図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1:HLA-A*2402潜在性ペプチドの免疫原性。記載のプロトコールに従ってHLA-A*2402トランスジェニックマウスに潜在性ペプチドをワクチン接種し、生成したCTLを、示したペプチド(NR非関連ペプチド)をロードしたT2-A24標的に対して試験した。特異的溶解の割合は以下のように決定した:溶解=(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)×100。4つのCTL/標的細胞比に対応する4つのCTL希釈を試験した。
【図2】図2:HLA-A*2402制限最適化潜在性ペプチドの免疫原性。記載のプロトコールに従ってHLA-A*2402トランスジェニックマウスに最適化ペプチドをワクチン接種し、生成したCTLを、示した最適化ペプチド(免疫原性)、対応する天然型ペプチド(交差認識天然型ペプチド)又は無関係の(NR)ペプチドをロードしたT2-A24標的に対して試験した。特異的溶解の割合は以下のように決定した:溶解=(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)×100。4つのCTL/標的細胞比に対応する4つのCTL希釈を試験した。
【実施例】
【0041】
実施例
本実施例は以下の材料及び方法を用いて実施した:
トランスジェニックマウス。記載した実験で使用したトランスジェニックマウスは、以前に記載されたHLA-A24トランスジェニックマウス(Barraら,1993)と、ヒトβ2ミクログロブリン及びCD8α鎖の両方についてトランスジェニックであるH2 Kb- H2Db-ノックアウトマウス(Perarnauら,1999)とを交配させて取得した。
ペプチド。ペプチドはEpytop (Nimes, France)が合成した。
細胞。HLA-A*2402トランスフェクトヒトTAP陰性T2-A24細胞は以前に記載されており(Miyaharaら,2005)、Lemonnier博士(Institut Pasteur, Paris, France)により提供された。全ての細胞株は、FCS 10%補充RPMI1640培養培地中で増殖させた。
【0042】
HLA-A*2402に対する相対的ペプチド親和性の測定。使用したプロトコールは以前に記載されている(Rohrlichら,2003)。簡潔には、T2-A24細胞を、100μM〜0.1μMの範囲のペプチド濃度と37℃で16時間インキュベートし、その後0041HAモノクローナル抗体(mAb)(One Lambda, Inc.)で染色してHLA-A*2402の表面発現を定量した。各ペプチド濃度について、HLA-A*2402特異的染色は、100μMの参照ペプチド標準A24 (AYIDNYNKF,配列番号111)で得られる染色の割合として算出した。相対的親和性(RA)は、RA=(30%のHLA-A*2402発現を誘導する各ペプチドの濃度/30%のHLA-A*2402発現を誘導する参照ペプチドの濃度)として決定した。
【0043】
HLA-A*2402トランスジェニックマウスにおけるインビボCTL誘導。150μgのI-Ab制限HBVcore128Tヘルパーエピトープ(TPPAYRPPNAPIL,配列番号112)の存在下で不完全フロイントアジュバント(IFA)に乳化した100μgのペプチドをマウスに皮下注射した。15日後、5×107個の脾臓細胞を、インビトロにてペプチド(10μM)で、6日間隔で2回刺激した。培養の13日目、バルクの反応体(responder)集団を、HLA-A*2402を発現しており同ペプチドをロードした標的細胞に対する特異的細胞傷害性について試験した。
交差認識アッセイ。150μgのI-Ab制限HBVcore128Tヘルパーエピトープ(TPPAYRPPNAPIL,配列番号112)の存在下で不完全フロイントアジュバント(IFA)に乳化した100μgの最適化ペプチドをマウスに皮下注射した。15日後、5×107個の脾臓細胞を、1回目はインビトロにて最適化ペプチド(10μM)で、2回目は培養の6日目に対応する天然型ペプチドで刺激した。13日目、バルクの反応体集団を、HLA-A*2402を発現しており最適化ペプチド、天然型ペプチド又は無関係のペプチドをロードした標的細胞に対する特異的細胞傷害性について試験した。
【0044】
細胞傷害性アッセイ。標的を100μCiのCr51で60分間標識し、96-ウェルV字底プレートにプレーティングし(100μLのRPMI 1640培地中3×103細胞/ウェル)、必要であれば、最適化又は天然型ペプチド(1μM)で37℃にて2時間パルスした。次いで、エフェクター細胞の4つの希釈物をウェルに加え、37℃にて4時間インキュベートした。特異的溶解の割合は以下のように決定した:溶解=(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)×100。
【0045】
実施例1:選択した潜在性ペプチドの親和性及び免疫原性
本発明者らは、上記の選択方法に従って10個の天然型ペプチドを選択した。最初に、7つのペプチドをHLA-A*2402分子への結合能力について試験した。2つのペプチドを除き全てのペプチドが、HLA-A*2402に結合できなかったか又は弱く結合することができた。
【0046】
【表4】

【0047】
次いで、HLA-A24トランスジェニックマウスに選択したペプチドをワクチン接種し、15日後、脾臓細胞をインビトロにて該ペプチドで6日間隔で2回刺激した。一次アンカーモチーフY2及び/又はC末端アンカーモチーフを有するとして選択したコントロールの高親和性ペプチドをワクチン接種したマウスにおいて、ペプチド-特異的CTLが検出された(データは示さず)。トランスジェニックマウスにおいて、天然型ペプチド(HLA-A*2402に結合することができない)は非免疫原性でもあることが示され(図1)、Her2/neu 802(HLA-A*2402に結合する)は免疫原性であることが示された。このことは、HLA-A*2402制限ペプチドに関する結合親和性及び免疫原性の間に相関が存在することを確証している。
【0048】
にもかかわらず、Her2/neu 780はHLA-A*2402に強力に結合するが、最終的には非免疫原性であるので、本発明者らは、HLA-A24トランスジェニックマウスにおける特異的免疫応答の誘導不能に基づいてのみ天然型ペプチドを選択することを決定した。最後に、記載した選択方法に従って選択した唯一の天然型ペプチドは、HLA-A*2402トランスジェニックマウスにおいて特異的免疫応答を生成することができた。このことは、記載した方法により、推定の潜在性ペプチドを効率的に選択することが可能になることを確証している。選択した天然型ペプチドの免疫原性を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
実施例2:選択した潜在性ペプチドの免疫原性の増強
HLA-A*2402親和性を増強し、その結果、HLA特異的アンカーモチーフを有する低親和性ペプチドの免疫原性を増強するためには、不都合な二次アンカーモチーフを同定し、それらを好都合なモチーフで置換する必要があった。しかし、これら置換は、TCRと相互作用するペプチドセグメント(4位〜8位)のコンフォメーションを保存しなければならない。したがって、関心を二次アンカー位置1位に集中させた。正に荷電したアミノ酸(リシン(K)又はアルギニン(R))は1位で好都合なモチーフである一方、プロリン(P)は不都合なアミノ酸である。
更に、下記表6に示されるように、腫瘍及びHIV細胞の両方で同定されたHLA-A*2402 CD8エピトープの50%以上がC末端位置にロイシン(L)を有する。よって、本発明者らは、ペプチド、優先的にはこの位置に不都合なアミノ酸(アスパラギン酸又はグルタミン酸(D、E)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、グルタミン(Q)、リシン(K)、プロリン(P)又はアルギニン(R))を有するペプチドの免疫原性を増強するためのC末端改変として、Lを使用することを決定した。
【0051】
【表6】

【0052】
最適化ペプチドを免疫原性について試験した(表7、図2)。このことにより、選択した改変が、6つの天然型ペプチドについてHLA-A24トランスジェニックマウスにおいて特異的免疫応答を誘導する能力を増強することが示された。TERT 403KIL9、TERT 770R1L9、HER 780R1、EphA2 47R1L9、EphA2 502R1及びEphA2 817R1L9ペプチドをワクチン接種したHLA-A24トランスジェニックマウスは、ペプチド特異的CTLを発現した。
重要なことに、最適化ペプチドをワクチン接種したマウスで生じたCTLは、対応する天然型ペプチドをロードする標的細胞を認識した(図2)。
【0053】
【表7】

【0054】
結論として、本発明者らは、HLA-A*2402制限潜在性ペプチドの免疫原性を最適化する方法を記載する。これは、a)Y2と、二次アンカー位置1及び/又は9位の不都合なアミノ酸とを有する潜在性ペプチドを選択すること;及びb)N末端位置の不都合なアミノ酸を正に荷電したアミノ酸(R又はK)で置換し、必要な場合にはC末端残基をLで置換することからなる。
これら選択/最適化方法を用いて、本発明者らはまた、対応する天然型ペプチドを提示している細胞を認識することができるトランスジェニックマウスにおいて、特異的CTLを誘導する6つの最適化潜在性ペプチドを記載した。
【0055】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原中で、2位にチロシンを有する8〜12アミノ酸のペプチド〔但し、該ペプチドは、1位に正に荷電したアミノ酸(リシン又はアルギニン)を、C末端位置にロイシン又はイソロイシン又はフェニルアラニンを同時には有さない〕を選択する工程を含んでなる、抗原中のHLA-A*2402制限潜在性エピトープを同定する方法。
【請求項2】
適切なモデルにおいて、請求項1に記載の方法により選択したペプチドの免疫原性を試験し、非免疫原性である場合に該ペプチドを選択する工程を更に含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(推定の)HLA-A*2402制限潜在性エピトープのN末端残基をアルギニン若しくはリシンで置換する工程、及び/又は該エピトープのC末端残基をロイシン若しくはイソロイシン若しくはフェニルアラニン、優先的にはロイシンで置換する工程を含んでなる、(推定の)HLA-A*2402制限潜在性エピトープの免疫原性を増大させる方法。
【請求項4】
(i)抗原中で、1又は幾つかの天然型の(推定)HLA-A*2402制限潜在性エピトープを、請求項1に記載の方法により同定する工程;
(ii)工程(i)で選択した各天然型エピトープの免疫原性を適切なモデルにおいて試験し、非免疫原性であるものを選択する工程;
(iii)工程(ii)で選択した各天然型エピトープについて、請求項3に記載の方法により免疫原性を増大させることによって最適化エピトープを取得する工程;
(iv)工程(iii)で取得した各最適化エピトープの免疫原性を適切なモデルにおいて試験し、免疫原性であるものを選択する工程;
(v)工程(iv)で選択した各エピトープについて、最適化エピトープに対して生じるCTLが同族の天然型エピトープも認識するかどうかを試験し、該試験が陽性であるものを選択する工程
を含んでなる、抗原のHLA-A*2402制限潜在性エピトープに対する免疫応答を誘引することができるHLA-A*2402制限エピトープを取得する方法。
【請求項5】
潜在性HLA-A*2402制限エピトープからなり、PYGVLLKTH (配列番号1);PYMRQFVAH (配列番号2);PYVSRLLGI (配列番号3);PYGKGWDLM (配列番号4);TYLVQVQAL (配列番号5);PYWELSNHE (配列番号6);PYDGIPARE (配列番号7);RYEFLWGPR (配列番号8)及びPYNYLSTDV (配列番号9)からなる群より選択される単離ペプチド。
【請求項6】
請求項4に記載の潜在性HLA-A*2402制限エピトープから請求項2に記載の方法により誘導される免疫原性HLA-A*2402制限エピトープからなり、KYGVLLKTL (配列番号11);RYMRQFVAL (配列番号12);RYVSRLLGI (配列番号13);RYGKGWDLL (配列番号14);RYLVQVQAL (配列番号15);及びRYWELSNHL (配列番号16)からなる群より選択される単離ペプチド。
【請求項7】
請求項4に記載のHLA-A*2402制限潜在性エピトープの1つ、2つ、3つ又はそれより多くを含んでなるキメラポリペプチド。
【請求項8】
請求項5に記載の免疫原性HLA-A*2402制限エピトープの1つ、2つ、3つ又はそれより多くを含んでなるキメラポリペプチド。
【請求項9】
請求項5に記載の潜在性HLA-A*2402制限エピトープ、請求項6に記載の免疫原性エピトープ又は請求項7若しくは8に記載のキメラポリペプチドの発現を引き起こすように設計された単離核酸分子。
【請求項10】
少なくとも、活性成分として、請求項5に記載のHLA-A*2402制限潜在性エピトープ又は請求項6に記載の免疫原性エピトープポリペプチド又は請求項7若しくは8に記載のキメラポリペプチド又は請求項9に記載の核酸を含んでなる医薬組成物。
【請求項11】
ワクチンである請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
別個の容器に、
(i)HLA-A*2402制限潜在性エピトープの配列を含んでなる第1のペプチド、及び
(ii)(i)に記載のHLA-A*2402制限潜在性エピトープから請求項3に記載の方法により誘導されるHLA-A*2402制限免疫原性エピトープからなる配列を含んでなる第2のペプチド
を含んでなるキット。
【請求項13】
前記第1のペプチドが請求項5に記載の単離潜在性エピトープであり、前記第2のペプチドが請求項6に記載の同族免疫原性エピトープである請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記第1のペプチドが1つ、2つ、3つ又はそれより多くのHLA-A*2402制限潜在性エピトープを含んでなるキメラポリペプチドであり、そして/又は前記第2のペプチドが1つ、2つ、3つ又はそれより多くのHLA-A*2402制限免疫原性エピトープを含んでなるキメラポリペプチドであり、第2のペプチドに含まれる少なくとも1つの免疫原性エピトープが第1のペプチドに含まれる少なくとも1つのHLA-A*2402制限潜在性エピトープに対して同族である請求項12に記載のキット。
【請求項15】
前記第1のペプチドが請求項7に記載のキメラポリペプチドであり、前記第2のペプチドが請求項8に記載のキメラポリペプチドである請求項14に記載のキット。
【請求項16】
ワクチン接種キットであり、前記第1及び第2のペプチド又はキメラポリペプチドが別個のワクチン投薬量で存在する請求項12〜15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
予防的又は治療的免疫療法用の医薬として使用するための、請求項5若しくは6に記載の単離ペプチド又は請求項7若しくは8に記載のキメラポリペプチド又は請求項9に記載の核酸。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−522500(P2012−522500A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502822(P2012−502822)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際出願番号】PCT/IB2009/005753
【国際公開番号】WO2010/112962
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(507370817)
【氏名又は名称原語表記】VAXON BIOTECH
【住所又は居所原語表記】Tour CIT,BP 191,3 rue de 1’Arrivee,75749 PARIS cedex 15,France
【Fターム(参考)】