説明

免疫組織化学的方法

本発明は生体マーカーの免疫組織化学的同定方法に関する。本発明は、Rafキナーゼ阻害剤の生体マーカーとしての腫瘍細胞中のホスホERK(pERK)レベルの使用に関する。本発明はまた、癌を検出するための診断アッセイのための方法および組成物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年11月4日出願の米国仮出願第60/517,495号(その内容はそっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる)の特典を主張する。
【0002】
本発明は生体マーカーの免疫組織化学的同定方法に関する。例えば、本発明は、Rafキナーゼ阻害剤の生体マーカーとしての腫瘍細胞中のホスホERK(pERK)レベルの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの疾患状態は、タンパク質キナーゼ若しくはホスファターゼの活性の変化による多様なシグナリングタンパク質(signaling proteins)のリン酸化レベルの差違により特徴づけられる。これらの多様な疾患(例えば癌)を処置するための治療薬として使用される化合物は、おそらく、これらのタンパク質のリン酸化レベルの調節の若干若しくは全部を無効にする。これらのタンパク質の少なくとも数種のリン酸化レベル若しくはレベルの変化は、従って、こうした治療薬の有効性のモニター若しくはなお予測方法として使用しうる。結果として、これらのタンパク質のリン酸化レベル若しくはレベルの変化の若干若しくは全部は、生体マーカーであるとみなし得、かつ、生体マーカーとして利用し得る。治療薬の有効性をモニター若しくは予測するのに使用されることを別にして、生体マーカーはまた、治療的投与に正に応答することが予測される患者、および非応答状態に戻りうる者を選択するのにも使用しうる。これらのタンパク質のリン酸化レベル若しくはレベルの変化の分析は、目的の標的組織(例えば腫瘍)若しくは若干の代理細胞集団(例えば末梢血白血球)で実施しうる。後者の場合、タンパク質のリン酸化レベル若しくはレベルの変化の有効性(例えば腫瘍退縮若しくは非増殖)との相関は、有効性のマーカーとして使用されるべき発現の変化のパターンについてとりわけ強いはずである。
【0004】
RafキナーゼはRasシグナル伝達経路に関与するタンパク質である。Rasは、Raf/Mek/Erkカスケードならびにracおよびrho経路を包含する、細胞の形質転換を相乗的に誘導するいくつかの経路を調節する。とりわけ、Rasは、原形質膜(ここでRafが分裂促進性キナーゼカスケードを開始する)にRafを最初に局在化させることによりRaf/MEK経路を活性化する(非特許文献1)。活性化されたRafはMEK(既知の下流の基質)をリン酸化かつ活性化し、これが順にERKをリン酸化かつ活性化する。活性化されたERKはその後細胞質から核中に転位し、そして転写因子のリン酸化を介して遺伝子発現を調節する。従って、Rasの活性化を介するRafキナーゼの活性化は、ヒトの癌が発生する重要な機構とみなされる。
【0005】
多数の研究が、Rafキナーゼの阻害が癌治療の重要な一標的であることを示唆している。例えば、Raf、MEK若しくはERK活性のドミナントネガティブ(dominant negative)の変異体は、げっ歯類の線維芽細胞の背景において変異体Rasの形質転換能力を有意に低下させる。さらに、ドミナントネガティブのMEKを発現するヒト腫瘍細胞系は、親細胞系に比較した場合に、組織培養物中ならびに足場非依存性の(anchorage independent)増殖アッセイの双方において増殖するそれらの能力が不完全であった。こうした変異体はまた、in vivoでヒト腫瘍異種移植片の原発性および転移性双方の増殖も阻害した。Rafキナーゼを標的とするための付加的な裏付けがアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いる研究によりもたらされている。c−Rafを標的とするように設計したホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチドISIS 5132が、in vivoでA549ヒト肺異種移植片の増殖を阻害することが見出された(非特許文献2)。一緒にする場合、これらのデータは、Rafキナーゼタンパク質が、活性化されたrasシグナリングにより駆動される悪性の表現型への重大な寄与因子(contributor)であることを示唆している。さらに、該データはまた、rafキナーゼ活性の小分子阻害剤が癌の処置において重要な治療機構であろうことも示唆している。
【0006】
しかしながら、増殖因子受容体、リガンド、ならびに下流の細胞増殖および細胞生存のエフェクター分子のネットワークにより、特定のキナーゼを阻害することは、癌を伴う全個体において有効な治療戦略ではないかもしれない。治療的阻害を克服するための多様な補償経路が存在しうるからである。従って、患者の腫瘍が特定の治療的介入に応答しているかどうかを個々の患者において示す生物学的マーカーを同定することが有用であろう。腫瘍の大きさ若しくは疾患の進行は、ある個体が特定の治療に応答していたかどうかを決定するのに伝統的に使用されてきた一方、分子マーカーの使用は応答者および非応答者のより早期の同定を可能にしうる。非応答者はその場合、代替治療を提供されることができ、そして、彼らの特定の腫瘍に対し無効である治療法の潜在的な副作用をなしで済ますことができる。
【0007】
ある個体の腫瘍が処置(例えばRafキナーゼ阻害剤での処置)に応答しているかどうかを示すことが可能な分子マーカーの1種若しくはそれ以上または組合せを同定することが有用であるとみられる。こうしたマーカーは、(i)該治療的アプローチが有効であることが最もありそうである臨床設定および患者集団を同定し、かつ(ii)患者の腫瘍が特定の処置に応答しているかどうかを個々の患者で評価するのに役立つとみられる。
【0008】
正常組織は特徴的な外観を有するため、組織学的検査が疾患に罹った組織を同定するのにしばしば利用される。免疫組織化学(IHC)は組織学的診断における有用なツールである。IHCを利用して、検出可能な実体に結合することが可能な特異的結合剤を使用することによりサンプル中のある実体を検出しうる。特異的結合剤は抗体を含むことができ、そして検出可能な実体はポリペプチド、タンパク質若しくはエピトープを含みうる。こうした抗体の増大する利用可能性は、疾患に罹った組織および正常組織の鑑別診断に役立ちうる。IHC法はHarlowとLane(非特許文献3)に詳細に記述されている。
【0009】
IHC技術は、ガラス製スライド若しくは他の平坦な支持体上にマウントした組織切片上で実施しうる一連の段階を必要とする。疾患状態のある種の形態学的指標を選択的染色により強調しうる。例えば、サンプルを患者から採取し、そしてその後固定しかつ目的の抗原に対する抗体に曝露する。さらなる処理段階、例えば抗原賦活、二次抗体(通常、適する酵素に結合されている)および色素生産性酵素基質への曝露が、抗原結合のパターンを示すのに必要でありうる。
【0010】
一般に、組織学的材料の2種の範疇、すなわち(a)アルデヒドに基づく固定剤で固定されていない新鮮組織および/若しくは細胞を含んでなる調製物、ならびに(b)固定かつ包埋した組織試料(しばしば保管庫の資料)が存在する。組織試料の多くの固定および包埋方法は既知である(例えばアルコール固定)。しかしながら、最も広範に使用される固定/包埋技術はホルマリン固定およびその後のパラフィン包埋(FFPE)を使用する。典型的なFFPE IHC染色手順は:組織の切断およびトリミング(trimming)、固定、脱水、パラフィン浸潤、薄片への切断、ガラス製スライド上へのマウント、ベーキング、脱パラフィン化、再水和、抗原賦活、ブロッキング段階、一次抗体の適用、洗浄、二次抗体−酵素複合物の適用、洗浄、酵素色素原基質の適用、洗浄、対比染色、カバーガラスで覆うこと、および検鏡の段階を必要としうる。
【0011】
上述されたとおり、ERKのリン酸化はras/raf/MEK/ERK経路の下流にある。腎細胞癌(RCC)において、リン酸化された(すなわち活性化された)rafおよびERKタンパク質の増大されたレベルが時間のおよそ50%存在する(非特許文献4)。であるから、上昇したリン酸化されたERKを伴う患者は、ras/raf/ERK経路がアップレギュレートされていない患者よりも、Rafキナーゼ阻害剤での処置から利益を得ることがよりありそうであるとみられる。この効果を評価するため、腫瘍生検サンプルを、定量的若しくは半定量的免疫組織化学を使用してpERKレベルについて解析しうる。
【非特許文献1】Hall、Science 264:1413−1414、1994
【非特許文献2】Moniaら、Proc.Natl.Acad.Sci 93:15481−15484、1996
【非特許文献3】Antibodies:A Laboratory Manual
【非特許文献4】Okaら、Cancer Res.55:4182−4187、1995
【発明の開示】
【0012】
[発明の要約]
本発明は、生体マーカーの免疫組織化学的同定方法に向けられる。例えば、本発明は、Rafキナーゼ阻害剤の生体マーカーとしての腫瘍細胞中のホスホERK(pERK)レベルの使用に関する。
【0013】
本発明の一態様は、腫瘍中のpERKの処置前レベルを測定することを含んでなる方法を介する、腫瘍に対する処置を必要とする被験体がこうした処置に対し好都合な臨床応答を表すことがありそうであるかどうかの該被験体における評価方法である。
【0014】
本発明の別の態様は、腫瘍中のpERKの処置前のレベルを測定すること、治療上有効な量のRafキナーゼ阻害剤を投与すること、および該治療薬での処置の初期期間の後に腫瘍中のpERKレベルを測定することによる、腫瘍に対する処置の必要な被験体がこうした処置に対し好都合な臨床応答を表すことがありそうであるかどうかの該被験体における評価方法である。pERKレベルの低下は、該被験体がpERKレベルの変化を伴わない若しくは増大を伴う被験体に比較して該処置に対し好都合な臨床応答を表すことがよりありそうであることを示す。
【0015】
本発明の別の局面は、腫瘍細胞中のpERKレベルを分析する段階を含んでなる薬物、例えばRafキナーゼ阻害剤の組織若しくは細胞サンプルに対する効果のスクリーニング方法であるが、ここでは、組織若しくは細胞サンプル中の腫瘍細胞でのpERKレベルを薬物への曝露の前および後に分析し、そして、腫瘍細胞中でのpERKレベルの変動が、薬物効果の指標となるか、若しくは患者診断を提供するか、若しくは該処置に対する患者の応答を予測する。
【0016】
本発明のさらなる一局面は腫瘍細胞中のpERKレベルを分析する段階を含んでなる正常状態と疾患状態の間の識別方法であり、ここでは、正常および疾患組織のpERKレベルを分析し、そして、腫瘍細胞中のpERKレベルの変動が疾患状態を暗示する。
【0017】
本発明はまた腫瘍細胞中のpERKレベルを分析する段階を含んでなる患者診断の提供方法も提供し、ここでは、正常および患者サンプルのpERKレベルを分析し、そして、患者サンプル中の腫瘍細胞でのpERKレベルの変動が疾患の症候である。患者サンプルは、限定されるものでないが血液、羊水、血漿、精液、骨髄および組織生検を挙げることができる。
【0018】
本発明はまた腫瘍細胞中のpERKレベルを分析する段階を含んでなる患者選択方法も提供し、ここでは、患者サンプルのpERKレベルを分析し、そして、患者サンプル中の腫瘍細胞でのpERKレベルがRafキナーゼ阻害剤に対するその患者の応答の前兆となる。患者サンプルは、限定されるものでないが血液、羊水、血漿、精液、骨髄および組織生検を挙げることができる。腫瘍細胞中のpERKのレベルは、この場合、Rafキナーゼ阻害剤の有効性についての生体マーカーとみなしうる。
【0019】
本発明の別の局面は腫瘍細胞中のpERKレベルを分析する段階を含んでなる新規薬物の発見方法であり、ここでは、pERKレベルを薬物への曝露の前および後に分析し、そして、腫瘍細胞中のpERKレベルの変動が該薬物の有効性を暗示する。腫瘍細胞中のpERKのレベルは、その場合、Rafキナーゼ阻害剤の有効性についての生体マーカーとみなしうる。
【0020】
本発明の別の態様は診断キットである。例えば、診断キットは多様なレベルの染色の細胞の多様な組の顕微鏡写真を含有しうる。該キットはまた、特定の一組の細胞がカットオフあるいは閾値点を表す指標も含有することができ、その染色に一致若しくはそれを超える細胞が「陽性」であり、かつ、より少ない染色を有する細胞が「陰性」である。該キットはまた、対照スライド上で既に染色されている組織若しくは細胞の実際のサンプルも含有しうる。例えば、キットは、多様なレベルの乳房特異的タンパク質発現を表す乳癌細胞株の切片を伴う数種の参照スライドを包含しうる。
[発明の詳細な記述]
本発明は、記述される特定の方法論、プロトコル、細胞系、動物種若しくは属、構築物および試薬に制限されず、そしてそうしたものは変動しうることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は特定の態様を記述する目的上のみであり、そして付属として付けられる請求の範囲によってのみ制限されるであろう本発明の範囲を制限することを意図していないこともまた理解されるべきである。
【0021】
本明細書でおよび付属として付けられる請求の範囲で使用されるところの単数形「ある(a)」、「および(and)」および「該(the)」は、文脈が別の方法で明瞭に指図しない限り複数の言及を包含することに注意しなければならない。従って、例えば「あるタンパク質(a ptrotein)」への言及は、1種若しくはそれ以上のタンパク質への言及であり、そして当業者に既知のその同等物を包含する、などである。
【0022】
別の方法で定義されない限り、本明細書で使用される全部の技術および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に共通に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記述されるものに類似若しくは同等のいかなる方法、装置および材料も、本発明の実務若しくは試験で使用し得る。
【0023】
本明細書に挙げられる全部の刊行物および特許は、例えば、現在記述される発明とともに使用しうる刊行物に記述される構築物および方法論を記述および開示する目的上、ここに引用することにより本明細書に組み込まれる。上および本文全体で論考される刊行物は、本出願の出願日以前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書の何物も、発明者が以前の発明に基づくこうした開示に先行する権利を与えられないという承認として解釈されるべきでない。
定義
便宜性のため、本明細、実施例および付属として付けられる請求の範囲で使用されるある種の用語および句の意味を下に提供する。
【0024】
疾患に罹った細胞「の対応する正常細胞」若しくは「に対応する正常細胞」若しくは「の正常な対照物」という句は、該疾患に罹った細胞の型と同一の型の正常細胞を指す。例えばBリンパ腫細胞の対応する正常細胞はB細胞である。
【0025】
本明細書で使用されるところの「アゴニスト」という用語は、タンパク質の生物活性を模倣すなわちアップレギュレートする(例えば増強する(potentiates)若しくは補う)作用剤(agent)を指すことを意味している。アゴニストは、野性型タンパク質、若しくは該野性型タンパク質の最低1種の生物活性を有するその誘導体でありうる。アゴニストはまた、遺伝子の発現をアップレギュレートする、若しくはタンパク質の最低1種の生物活性を増大させる化合物でもありうる。アゴニストはまた、別の分子、例えば標的ペプチド若しくは核酸とのポリペプチドの相互作用を増大させる化合物でもあり得る。
【0026】
本明細書で使用されるところの「アンタゴニスト」は、タンパク質の最低1種の生物活性をダウンレギュレート(例えば抑制若しくは阻害)する剤を指すことを意味している。例えば、Rafキナーゼ阻害剤はこうしたアンタゴニストの一例である。アンタゴニストは、タンパク質と別の分子、例えば標的ペプチド若しくは酵素基質との間の相互作用を阻害若しくは低下させる化合物でありうる。アンタゴニストはまた、遺伝子の発現をダウンレギュレートする、若しくは存在する発現されたタンパク質の量を減少させる化合物でもありうる。
【0027】
本明細書で使用されるところの「抗体」という用語は、例えばいかなるアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgEなど)の抗体全体も包含することを意図しており、また、脊椎動物(例えば哺乳動物)のタンパク質ともまた特異的に反応性であるそれらのフラグメントを包含することを意図している。抗体は慣習的技術を使用して断片化することができ、そして、該フラグメントを、抗体全体について上述されたものと同一の様式で利用性についてスクリーニングしうる。従って、該用語は、ある種のタンパク質と選択的に反応することが可能である抗体分子のタンパク質分解性に切断した若しくは組換え的に製造した部分のセグメントを包含する。こうしたタンパク質分解性および/若しくは組換えのフラグメントの制限しない例は、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、ならびにペプチドリンカーにより結合されたV[L]および/若しくはV[H]ドメインを含有する一本鎖抗体(scFv)を包含する。scFvを共有若しくは非共有結合させて2個若しくはそれ以上の結合部位を有する抗体を形成させうる。主題の発明は、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化抗体、若しくは抗体の他の生成された調製物および組換え抗体を包含する。
【0028】
本明細書で互換性に使用される「生物学的活性」、「生物活性」、「活性」若しくは「生物学的機能」は、ポリペプチド(その本来のコンホメーションにあろうと変性したコンホメーションにあろうと)若しくはそのいずれかの下位配列により直接若しくは間接的に実施されるエフェクター若しくは抗原性機能を意味している。生物学的活性は、ポリペプチドへの結合、他のタンパク質若しくは分子への結合、DNA結合タンパク質として、転写調節物質としての活性、損傷を受けたDNAを結合する能力などを包含する。生物活性は主題のポリペプチドに直接影響を及ぼすことにより調節し得る。あるいは、生物活性は、対応する遺伝子の発現を調節することによるような、ポリペプチドのレベルを調節することにより変えることができる。
【0029】
本明細書で使用されるところの「生物学的サンプル」という用語は、生物体から若しくは生物体の成分(例えば細胞)から得られるサンプルを指す。サンプルはいかなる生物学的組織若しくは液体のものであってもよい。サンプルは、患者由来のサンプルである「臨床サンプル」でありうる。こうしたサンプルは、限定されるものでないが、唾液、血液、血液細胞(例えば白血球)、組織若しくは細針生検サンプル、尿、腹水および胸水、若しくはそれらからの細胞を挙げることができる。生物学的サンプルは、組織学的目的上採取した凍結切片のような組織の切片もまた包含しうる。
【0030】
「生体マーカー」若しくは「マーカー」という用語は、広範な細胞内および細胞外事象ならびに生物体全体の生理学的変化を包含する。生体マーカーは、限定されるものでないが、シグナルリング分子、転写因子、代謝物、遺伝子転写物の産生のレベル若しくは速度、ならびにタンパク質の翻訳後修飾を挙げることができる細胞機能の本質的にいかなる局面も表しうる。生体マーカーは、転写レベルの全ゲノム分析、またはタンパク質レベルおよび/若しくは修飾の全プロテオーム分析を包含しうる。
【0031】
「生体マーカー」という用語は、対照物である未処置の疾患に罹った細胞に関して、疾患を有する被験体の化合物で処置した疾患に罹った細胞中でアップ若しくはダウンレギュレートされている遺伝子若しくは遺伝子産物(例えばタンパク質)を指す。すなわち、該遺伝子若しくは遺伝子産物は、疾患に対する小分子の有効性を同定、予測若しくは検出するのに場合によっては他の遺伝子若しくは遺伝子産物とともにそれが使用されうる処置された細胞に対し十分に特異的である。一般に、生体マーカーは、疾患に罹った細胞中での化合物の有効性に特徴的である遺伝子若しくは遺伝子産物、または該化合物による処置に対するその疾患に罹った細胞の応答である。
【0032】
「癌」という用語は、限定されるものでないが、乳房、気道、脳、生殖器、消化管、尿路、眼、肝、皮膚、頭頚部、甲状腺、副甲状腺の癌のような充実性腫瘍、およびそれらの遠隔転移を挙げることができる。該用語はリンパ腫、肉腫および白血病もまた包含する。
【0033】
乳癌の例は、限定されるものでないが、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、非浸潤性乳管癌および非浸潤性小葉癌を挙げることができる。
【0034】
気道の癌の例は、限定されるものでないが小細胞および非小細胞肺癌、ならびに気管支腺腫および胸膜肺芽腫を挙げることができる。
【0035】
脳の癌の例は、限定されるものでないが脳幹および視床下部の神経膠腫、小脳および大脳星状細胞腫、髄芽腫、上衣腫、ならびに神経外胚葉および小果体の腫瘍を挙げることができる。
【0036】
男性生殖器の腫瘍は、限定されるものでないが前立腺および精巣癌を挙げることができる。女性生殖器の腫瘍は、限定されるものでないが、子宮内膜、子宮頚部、卵巣、膣および外陰部の癌、ならびに子宮の肉腫を挙げることができる。
【0037】
消化管の腫瘍は、限定されるものでないが肛門、結腸、結腸直腸、食道、胆嚢、胃、膵、直腸、小腸および唾液腺の癌を挙げることができる。
【0038】
尿路の腫瘍は、限定されるものでないが膀胱、陰茎、腎、腎盂、尿管および尿道の癌を挙げることができる。
【0039】
眼の癌は、限定されるものでないが眼内黒色腫および網膜芽腫を挙げることができる。
【0040】
肝癌の例は、限定されるものでないが肝細胞癌(線維層板型の変種を伴う若しくは伴わない肝細胞癌)、胆管癌(肝内胆管癌)および混合型肝細胞胆管癌を挙げることができる。
【0041】
皮膚癌は、限定されるものでないが、扁平上皮細胞癌、カポジ肉腫、悪性黒色腫、メルケル細胞皮膚癌および黒色腫以外の皮膚癌を挙げることができる。
【0042】
頭頚部の癌は、限定されるものでないが、喉頭/下咽頭/鼻咽頭/口腔咽頭癌、ならびに口唇および口腔癌を挙げることができる。
【0043】
リンパ腫は、限定されるものでないがAIDS関連リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキン病、および中枢神経系のリンパ腫を挙げることができる。
【0044】
肉腫は、限定されるものでないが、軟組織の肉腫、骨肉腫、悪性線維性組織球腫、リンパ肉腫および横紋筋肉腫を挙げることができる。
【0045】
白血病は、限定されるものでないが急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病および毛様細胞白血病を挙げることができる。
【0046】
「癌の疾患に罹った細胞」は癌を有する被験体に存在する細胞を指す。すなわち、正常細胞の改変された形態でありかつ癌を有しない被験体に存在しない細胞、または、癌を有しない被験体に関して癌を有する被験体において有意により多い若しくはより少ない数で存在する細胞。
【0047】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド若しくは前駆体の産生に必要な制御配列およびコーディング配列を含んでなる核酸配列を指す。ポリペプチドは完全長のコーティング配列、若しくはコーティング配列のいずれかの部分によりコードされ得る。遺伝子は植物、真菌、動物、細菌のゲノム若しくはエピソーム、真核生物、核若しくはプラスミドDNA、cDNA、ウイルスDNAまたは化学合成したDNAを包含する、当該技術分野に既知のいずれかの供給源に全体として若しくは部分的に由来しうる。遺伝子は、コーディング領域、あるいは発現産物の生物学的活性若しくは化学構造、発現の速度または発現制御の様式に影響を及ぼし得る非翻訳領域のいずれか中に1個若しくはそれ以上の改変を含有しうる。こうした改変は、限定されるものでないが1個若しくはそれ以上のヌクレオチドの突然変異、挿入、欠失および置換を挙げることができる。遺伝子は中断されない1個のコーティング配列を構成しうるか、または、それは適切なスプライス接合部により結合された1個若しくはそれ以上のイントロンを包含しうる。
【0048】
本明細書で使用されるところの「標識」および「検出可能な標識」という用語は、限定されるものでないが放射活性同位元素、蛍光団、化学発光部分、酵素、酵素基質、酵素補助因子、酵素阻害剤、色素、金属イオン、リガンド(例えばビオチン若しくはハプテン)などを挙げることができる検出の可能な分子を指す。「蛍光剤(fluorescer)」という用語は、検出可能な範囲の蛍光を表すことが可能である物質若しくはその一部分を指す。本発明で使用しうる標識の例は、フルオレセイン(fluorescein)、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、テキサスレッド、ルミノール、NADPH、α−β−ガラクトシダーゼおよびワサビペルオキシダーゼを包含する。
【0049】
本明細書で使用されるところの「患者」若しくは「被験体」という用語は哺乳動物(例えばヒトおよび動物)を包含する。
【0050】
細胞の生物学的状態の「プロファイル」は、薬物処置に応答して変化することが既知である細胞の多様な構成要素のレベルおよび細胞の生物学的状態の他の変動を指す。細胞の構成要素は、例えばRNAのレベル、タンパク質若しくはタンパク質の活性のレベルまたはリン酸化のレベルを包含する。
【0051】
「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は、遺伝子産物を指す場合に本明細書で互換性に使用される。
【0052】
本明細書で使用されるところの「小分子」は、約5kD未満および最も好ましくは約4kD未満の分子量をもつ組成物を指す。小分子は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣物、炭水化物、脂質、または他の有機若しくは無機分子であり得る。多くの製薬企業は、生物活性を調節する化合物を同定するために本発明のアッセイのいずれかでスクリーニングし得る化学的および/若しくは生物学的混合物、しばしば真菌、細菌若しくは藻類抽出物の広範囲のライブラリーを有する。
【0053】
ポリペプチドの「バリアント」は、1個若しくはそれ以上のアミノ酸残基が変えられているアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造的若しくは化学特性を有する(例えばロイシンのイソロイシンでの置換)「保存的」変化を有しうる。バリアントは「非保存的」変化(例えばグリシンのトリプトファンでの置換)もまた有しうる。類似の小さな変動はアミノ酸の欠失若しくは挿入または双方を包含しうる。生物学的若しくは免疫学的活性を消失させることなくどのアミノ酸残基を置換、挿入若しくは欠失しうるかの決定における手引きは、当該技術分野で公知のコンピュータプログラム、例えばLASERGENEソフトウェア(DNASTAR)を使用して同定しうる。
【0054】
本発明は、Rafキナーゼ阻害剤の生体マーカーとしての腫瘍細胞中のホスホERK(pERK)レベルの使用に関する(例えば、Wilhelmら、Cancer Res.64:7099−7109、2004(そっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0055】
本発明の方法は、ある治療的処置に対するある被験体の応答をモニターするため、すなわち、該被験体がその処置に対し好都合な臨床応答を有することがありそうであるかどうかを決定するための生体マーカーの使用に向けられる。本発明の方法は、Rafキナーゼ阻害剤での腫瘍の治療的処置の早期の生体マーカーのレベルの変化をモニターすること、および、(一般集団でのこうした応答の見込みに比較して)こうした処置に対する好都合な臨床応答を表すことがありそうである被験体を同定することに向けられる。
【0056】
本発明の方法はまた、被験体が指定された治療的処置に対する好都合な臨床応答を有するであろうかどうかの予測における補助としての、治療を開始する前の生体マーカーのレベルの使用にも向けられる。本発明の方法はさらに、Rafキナーゼ阻害剤での腫瘍の治療的処置の前の生体マーカーのレベルを測定すること、および、(一般集団でのこうした応答の見込みに比較して)こうした処置に対して(臨床上)好都合に応答することがありそうである被験体を同定することに向けられる。本明細書で使用されるところの予測的は100%の予測能力を暗示することを意味していないが、しかし、ある特徴を伴う被験体がこうした特徴を欠く被験体よりも好都合な臨床応答を経験することがよりありそうであることを示すことを意味している。しかしながら、当業者に明らかであろうとおり、好都合な臨床応答を経験することがよりありそうと同定された若干の個体は、にもかかわらず疾患の進行を経験するであろう。ある種の状態だけが好都合な臨床応答の増大した見込みと関連すると本明細書で同定されるため、こうした状態の非存在は好都合な臨床応答の低下した見込みと関連するであろうことが、当業者にさらに明らかであろう。
【0057】
本明細書で使用されるところの、処置に対する好都合な応答(若しくは好都合な臨床応答)は、いずれかの処置の非存在下で生じると思われる腫瘍の増殖に比較して腫瘍の増殖の低下した速度を示すとして当業者により認識される生物学的若しくは身体的応答を指す。本明細書で使用されるところの好都合な臨床応答は治癒を示すことを意味していない。治療に対する好都合な臨床応答は、(それぞれ、治療の非存在下で生じると思われるものに比較しての)被験体により経験される症状の低下、期待若しくは達成される生存時間の増大、腫瘍増殖の低下された速度、腫瘍増殖の停止(安定疾患)、および/または腫瘍塊の後退を包含しうる。
【0058】
当該技術分野で公知であるとおり、腫瘍は、腫瘍増殖の最初の(原発性)病巣が1個若しくはそれ以上の解剖学的に分離した部位に広がるために頻繁に転移性である。本明細書で使用されるところの、被験体における腫瘍への言及は、原発性腫瘍のみならず、しかし転移性腫瘍の増殖を同様に包含する。いくつかの場合には、原発性腫瘍は外科的に到達不可能でありうる一方、転移はより容易に到達可能である。
臨床医学における生物学的マーカー
特定の処置に対する個々の患者の臨床応答を予測するため(医学応答マーカー)および所定の処置に好都合に応答することが最もありそうな被験体ならびに応答することがありそうでない(そして従って代替処置について考慮すべきである)者を同定するための代理マーカーとして利用しうる腫瘍の特徴若しくは生体分子の同定は、臨床実務で役に立つであろう。加えて、こうしたマーカーは、特定の治療に応答する(若しくは応答しない)患者の群を同定するため、ならびに応答者および非応答者に共通の特質および表現型を同定するために臨床試験で使用しうる。
【0059】
Andersonら(Ins.J.Cancer 94:774、2001)は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤ZD1839がin vitroおよびin vivo双方でヒト癌細胞系の増殖を阻害したことを報告している。さらに、腫瘍増殖速度の低下(マウスにおけるSKOV3およびMDA−MB−231異種移植片)が、構成的ERK MAPキナーゼ活性化の阻害と同時に起こることが報告された。ZD1839との細胞のプレインキュベーションが、SKOV(ヒト卵巣癌)細胞中でのERK MAPキナーゼおよびPKB/Aktの活性化のEGF誘発性の増大を阻害することもまた報告された。
【0060】
Albanellら(Semin.Oncol.28(5Suppl.16):56−66、2001)は、臨床試験におけるヒトへのZD1839の投与が、ケラチノサイト中での活性化されたMAPKおよびKi−67双方の低下された発現(ZD1839投与の前および後に採取した正常皮膚の生検で評価した;表皮の基底層は高レベルのEGF受容体発現を有する)をもたらしたことを報告している。Albanellら(J.Clin.Oncol.20:4292−4302、2002)もまた、処置前および処置のおよそ第28日に採取した連続した皮膚生検がEGFRシグナル伝達経路の阻害を示したことを報告した。
【0061】
Albanellら(Cancer Res.61:6500−6510、2001)は、キメラ抗EGF受容体抗体(セツキシマブ;C225)で処置した患者において、皮膚中のERK1およびERK2の活性化が対照(患者以外の)皮膚に比較してより低かったことを報告した。
【0062】
ERK1およびERK2(ERK1/2)がエストロゲン受容体(ER)のリン酸化を介してERシグナリングを刺激し得ること、ならびに、誇張されたERK1/2 MAPK活性がERシグナリング、および従ってエストロゲンの非存在下での腫瘍増殖(腫瘍でのホルモン抵抗性として表現型的に明示される)を駆動することが可能でありうることが報告されている(例えばCouttsとMurphy、Cancer Res.58:4071−4074、1998を参照されたい)。Geeら(Ins.J.Cancer(Pred.Oncol)95:247−254、2001)は、乳癌組織サンプルの集合物でpMAPK陽性状態がER陰性乳癌の83%で見出されたこと;ならびに、増大されたERK1/2 MAPKリン酸化がER陰性およびER陽性双方の疾患でのより早期の再発および低下した生存時間と関連したことを報告した。
【0063】
増殖因子受容体活性化により形質導入される大部分の分裂促進シグナルは、共通の下流のエフェクターERK1/2 MAPキナーゼに最終的に集束する(EganとWeinberg、Nature 365:781−783、1993)。活性化されたERK1/2は、腫瘍細胞の増殖および生存を調節する転写因子としてはたらく(Pulvererら、Nature 353:670−674、1991)。活性化されたERK1/2の増大した発現は多数のヒト悪性病変でもまた示されている(Hoshinoら、Oncogene 18:813−822、1999);Albanellら、Cancer Res.61:6500−6510、2001)。
【0064】
本発明は、Rafキナーゼ阻害剤の臨床効果と腫瘍生検中でのpERKの基礎レベルとを相関させる。すなわち、患者において、腫瘍組織中の特定の分子マーカーのより高い基礎レベルが、Rafキナーゼ阻害剤のような抗腫瘍治療に対する患者の臨床応答と相互に関連づけられた。
【0065】
本発明は、腫瘍についてRafキナーゼ阻害剤で処置される患者のスクリーニング方法、および該処置に好都合に応答することが最もありそうである被験体の同定方法を提供する。であるから、処置に応答する患者の同定は臨床での意志決定における補助としてはたらきうる。
【0066】
本発明の一態様において、試験されるべき被験体からの1種若しくはそれ以上の細胞を得、そして、免疫組織化学的分析のための処理のため固定する。例えば、腫瘍生検、若しくは末梢血白血球(PBL)細胞のサンプルを被験体から得ることができる。被験体から細胞サンプルを得、そしてその後該サンプルを所望の細胞型について濃縮することもまた可能である。例えば、細胞を、所望の細胞型の細胞表面上のエピトープへの抗体結合を用いる単離のような多様な技術を使用して、他の細胞から単離しうる。所望の細胞が固形組織中にある場合は、特定の細胞を、例えば顕微解剖若しくはレーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)により切開しうる(例えば、Bonnerら、Science 278:1481、1997;Emmert−Buckら、Science 274:998、1996;Fendら、Am.J.Path.154:61、1999;およびMurakamiら、Kidney Int.58:1346、2000を参照されたい)。
【0067】
本発明の方法は、被験体の腫瘍中の生物学的マーカーの処置前および初回処置のレベルを測定することを含んでなる。特定の生物学的マーカーのレベルのいかなる適する測定方法も本方法で利用しうる。こうした一方法は、当業者に明らかであろうとおり、被験体の腫瘍から生検サンプル若しくは細胞吸引物を得ること、およびいずれかの適する手段によりマーカーレベルを評価することを必要とする。処置前サンプルは、処置計画の一部として外科的に切除した腫瘍組織であるりうるか、若しくは、マーカーレベルの測定のためのみに行う生検でありうる。組織サンプルはリン酸化されたタンパク質の正確な検出を可能にする様式で処理しなければならない。例えば、組織サンプルがパラフィン包埋されている場合は、それをホスファターゼ阻害剤および中和した緩衝ホルマリン溶液の存在下で固定しうる。
【0068】
本発明の方法により、被験体の腫瘍組織中の指定されたマーカー(1種若しくは複数)の処置前レベルを、被験体が一過程の治療的処置を開始する前に評価しうる。例えば、該評価は、処置の前約3週間以内、処置の前約2週間以内、または処置の前約1週間若しくはそれ未満以内に実施しうる。
【0069】
最初の処置期間が終わった後に同一のマーカー(1種若しくは複数)を再評価して、このマーカー(1種若しくは複数)のレベルの変化を測定しうる。pERKの減少は、該被験体がこのマーカーの変化しない若しくは増大したレベルを伴う類似の被験体に比較してRafキナーゼ阻害剤での処置に好都合に応答することがよりありそうであることを示しうる。一例として、被験体はpERKレベルの少なくとも約30%の低下を表しうるか、または、pERK指標(若しくは匹敵する尺度)の減少は少なくとも約50%、70%、80%若しくはそれを超え得る。
【0070】
本方法は、処置の彼らの最初の過程を受けている被験体、若しくは腫瘍に対する一過程の処置を以前に受領した被験体での使用に適する。
【0071】
本発明の方法において、生物学的マーカーのレベルを処置前に評価することができ、かつ、処置の間の何らかの点(例えば最初の処置期間の後)で再評価しうる。マーカーレベルの再評価は、腫瘍組織中での該治療薬に対する生物学的応答を可能にするのに十分な期間腫瘍の部位に治療薬が物理的に到達した時点でなしうる。本発明の一態様において、最初の治療期間は、治療薬が定常状態の血漿濃度に達するのに必要とされる期間(若しくはその直後)でありうる。生物学的マーカーの再評価は、最初の処置期間の直後、および応答することがありそうでない被験体で治療を中断しうるような一過程の治療の終了前にもまたなしうる。さらに、再評価は、被験体が必要な場合は第二クールの同一の治療に適するとみられるかどうかを決定するために、一過程の治療の終了時若しくはその直後にもまた実施しうる。
【0072】
特定の生物学的マーカーのいかなる適する検出方法も本方法で使用しうる。例えば、免疫組織化学(IHC)を利用しうる。この染色方法は、細胞若しくは組織抗原のような特定のタンパク質に対するモノクローナル若しくはポリクローナル抗体を使用する免疫酵素反応に基づく。典型的には、免疫組織化学プロトコルは、定性的若しくは定量的分析のためのマーカーの可視化(例えば光学顕微鏡検査若しくは自動走査装置を介する)を可能にする検出装置を包含する。目的のタンパク質を検出するための多様な免疫酵素染色法が当該技術分野で既知である。例えば、免疫酵素相互作用は、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼのような多様な酵素、またはDAB、AEC若しくはファストレッドのような多様な色素原を使用して可視化しうる。
【0073】
簡潔には、目的の標的分子を認識する一次抗体を病理学的試料に導入する。一次抗体は、該病理学的試料中若しくは上の標的分子に結合する。インキュベーション後に洗浄を実施して未結合の抗体を除去する。その後、一次抗体に向けられかつ酵素で標識した二次抗体を、該病理学的試料とともにインキュベートする。インキュベーションの間に二次抗体は一次抗体に結合することができる。あるいは、標的分子を認識する一次抗体を酵素で標識し、そして二次抗体は必要ない。別の例において、標識した抗体は酵素よりはむしろビオチンで標識しうる。その後、付加的な一段階において、酵素標識したアビジン若しくはストレプトアビジンをサンプルに導入し、そしてビオチニル化した抗体に結合させる。
【0074】
IHCは、広範な特定のウイルス、細菌、真菌および寄生生物からの抗原を検出するため、およびこれらの微生物に対する抗体の存在を測定するための血清診断薬のような多様な免疫診断の応用で使用されている。同様に、これらの技術は、例えばホルモンレベル、血液学的因子、血清腫瘍マーカー、薬物レベル若しくは抗体レベルをモニターするのに利用しうる。加えて、IHCは乏しく分化した悪性腫瘍を分類かつ診断するのに使用しうる。さらに、IHCは、転移性腫瘍の原発部位すなわち起源の同定を可能にする。腫瘍は通常、起源の部位を同定するマーカーを含有するためである。
【0075】
本発明の方法は、自動化装置、定量的IHC、半定量的IHCおよび手動の方法を包含する当業者に明らかであろうところの免疫組織化学のいずれかの適する方法若しくは装置を使用して達成しうる。
【0076】
本明細書で使用されるところの定量的免疫組織化学は、抗原若しくは他のタンパク質のような指定された生体マーカーの存在を同定かつ定量するために免疫組織化学を受けたサンプルの自動化された走査および評価(scoring)方法を指す。サンプルに与えられる得点(score)は、該サンプルの免疫組織化学染色の強度の数的表示であることができ、そして該サンプル中に存在する標的生体マーカーの量を表す。例えば、光学密度(OD)は染色の強度を表す数的得点である。本明細書で使用されるところの半定量的免疫組織化学は、訓練された操作者が結果を数値で(例えば1+、2+若しくは3+のように)順位付けする、人の眼による免疫組織化学的結果の評価を指す。
【0077】
免疫組織化学とともにの使用に適する多様な自動化サンプル処理、走査および分析装置が当該技術分野で利用可能である。こうした装置は、自動染色(例えばBenchmark装置、Ventana Medical Systems,Inc.)および顕微鏡走査、コンピュータ化画像解析、連続切片比較(サンプルの向きおよび大きさの変動について制御するため)、ディジタル報告書作成、ならびに(組織切片が置かれているスライドのような)サンプルの保管および追跡を包含しうる。免疫染色したサンプルを包含する細胞および組織で定量的分析を実施するためのディジタル画像処理装置と慣習的光学顕微鏡を組合せている細胞画像化装置が商業的に入手可能である(例えばCAS−200装置、Becton,Dickinson & Co.)。
データ解析方法
染色のパターン若しくは分布に関する記述を、解析を補助するために包含しうる。例えば、得点0(陰性):染色が観察されない、若しくは膜染色が腫瘍細胞の10%未満で観察される。得点1+(陰性):かすかな若しくはようやく認識可能な膜染色が腫瘍細胞の10%超で検出される。細胞は膜の一部でのみ染色されている。得点2+(弱陽性):弱いないし中程度の完全な膜染色が腫瘍細胞の10%超で観察される。得点3+(強陽性):強い完全な膜染色が腫瘍細胞の10%超で観察される。
【0078】
染色の参照レベルを確立することが可能であるとは言え、サンプルそれら自身の染色の一貫した質の確立にかなりの困難が存在する。これは、不均質な組織材料、該処置の困難かつ複雑な性質、試薬の質(抗体/プローブの親和性および特異性を包含する)の変動性、ならびに実施者(practitioner)により実施される解釈の主観的性質を包含する多様な異なる要因から生じる。さらに、サンプル染色における変動性の他の起源は、組織サンプルを収集、処理および保存する条件;エピトープ賦活手順の変動性;ならびに酵素に触媒される色素原の沈殿を包含する。
【0079】
これらの問題を解決するためのある試みとして、関連する抗原(若しくは核酸)の異なるレベルの発現を伴う未染色の組織若しくは細胞の参照組を包含することが従来技術で既知である。参照サンプルは、既知の疾患に罹ったおよび正常な個体、または抗原若しくは関連する検出可能な核酸を正常より高いレベルで発現するがしかし臨床的に疾患に罹っていない個体からの生検サンプル(例えば組織サンプル)を含みうる。さらに、組織培養細胞が抗原若しくは検出可能な核酸を多様なレベルで発現することを可能にするように発現ベクターでトランスフェクトしうる組織培養細胞もまた参照標準として使用しうる。参照組は、固定かつホルマリン包埋された細胞を含むがしかしそれ以外は染色されずかつパラフィンに包埋されうるスライドを含みうる。スライドをその後、抗原(若しくは検出可能な核酸)染色のレベルおよびパターンを示すようにサンプルと同時に処理しうる。最後に、サンプルを参照組と比較して、タンパク質若しくは核酸の発現レベルが診断上意義があるかどうかを決定しうる。
キット
本発明の別の態様は、病理学的組織サンプル中のpERK標的分子の同定での使用のためのキットを包含する。例えば、該キットは、標的分子を免疫学的に認識する第一のすなわち一次抗体、第一の抗体を免疫学的に認識しかつ検出の手段に複合されている第二のすなわち二次抗体を包含する抗体溶液を包含しうる。該キットはまた、検出可能な反応生成物を生じさせるための試薬も包含しうる。あるいは、標的分子を認識する一次抗体を酵素で標識しうる。標識抗体は酵素よりもむしろビオチンで標識しうる。その後、追加の一段階において、酵素標識したアビジン若しくはストレプトアビジンをサンプルに導入しかつビオチニル化した抗体に結合させうる。
【0080】
本発明の技術思想若しくは範囲が本明細書に示されるところのそれから離れることなく本発明に対して変更および改変を行い得ることが、当業者に明らかであるはずである。
[実施例]
【0081】
本明細書に記述される構造、材料、組成物および方法は本発明の代表的な例であることを意図しており、そして本発明の範囲は実施例の範囲により制限されないことが理解されるであろう。当業者は、開示される構造、材料、組成物および方法に対する変形を伴い本発明を実施しうることを認識することができ、そしてこうした変形は本発明の範囲内とみなされる。
【実施例1】
【0082】
pERK抗体の免疫組織化学染色
腫瘍生検サンプルを処置を開始する前の基礎(baseline)に収集し、そして追加のサンプルを処置周期の間の多様な時間点で収集する。サンプルは同一の腫瘍部位から収集する。腫瘍サンプルは免疫組織化学による分析の前にパラフィン包埋する。
A.手動染色手順
スライド切片を、およそ95℃に加熱したクエン酸緩衝液(0.01M、pH6.0)中にスライドを置くこと、およびその後スライドを高の電子レンジ(microwave on high)におよそ2〜3分間入れることにより脱パラフィン化する。緩衝液およびスライドを含む容器をその後、予熱した蒸し器におよそ30分間入れた。完了の場合に、加熱した緩衝液中にスライドを留まらせ、そしておよそ30分間室温に馴化した。スライドをその後蒸留水中ですすいだ。このすすぎの後に、スライドを1.5%過酸化水素溶液中で10分間ブロッキングし、蒸留水中で洗浄し、そしてその後PBS(0.01M、pH7.4)中でおよそ5分間洗浄した。
【0083】
スライドを、50倍希釈の一次抗体[ホスホp44/42 MAPK(Thr202/Tyr204)]中でおよそ30分間インキュベートした。陰性対照のスライドを対応するIgG中でインキュベートした。スライドをPBS中で5分間すすぎ、そしてその後ウサギHRP標識ポリマー(例えばDAKO EnVision系、HRP(DAB)、#K4011)をスライド上に30分間置いた。スライドをPBS中で5分間すすいだ。その後、DAB基質色素原を5分間適用し、次いで水中で5分間洗浄した。スライドを濾過したヘマトキシリンでおよそ20秒間対比染色した。スライドを温水で洗浄し、脱水し、そしてパーマウント(permount)を用いてカバーガラスをマウントした。
B.自動染色手順
スライド切片を、およそ95℃に加熱したクエン酸緩衝液(0.01M、pH6.0)中にスライドを置くこと、およびその後該スライドを高の電子レンジにおよそ2〜3分間入れることにより脱パラフィン化する。緩衝液およびスライドを含む容器をその後、予熱した蒸し器におよそ30分間入れた。完了の場合に、加熱した緩衝液中にスライドを留まらせ、そしておよそ30分間室温に馴化した。スライドをその後、DAKO洗浄緩衝液(例えば、Wilhelmら、Cancer Res.64:7099−7109、2004(そっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる)を参照されたい)中ですすいだ。
【0084】
スライドをその後、自動染色装置(例えば、DAKO Autostainerユニバーサル染色装置、DakoCytomation,Inc.、カリフォルニア州カーピンテリア)を利用して染色した。スライドを1.5%過酸化水素溶液中で10分間ブロッキングし、そしてその後通常のブロッキング血清とともに20分間インキュベートした。スライドをその後DAKO緩衝液中で洗浄し、そして50倍希釈の一次抗体[ホスホp44/42 MAPK(Thr202/Tyr204)]中でおよそ30分間インキュベートした。陰性対照のスライドをブロッキング血清中に留めた。一次抗体中でのインキュベーション後に、スライドをDAKO緩衝液中ですすいだ。スライドをその後、希釈したビオチニル化二次抗体溶液とともに30分間インキュベートし、そしてその後DAKO緩衝液中ですすいだ。スライドを、Vecstatin Elite ABC試薬(例えばVector PK−6101、Vector Laboratories、カリフォルニア州バーリンゲーム)とともに30分間インキュベートし、そしてその後DAKO緩衝液ですすいだ。DAB基質色素原をその後スライドに1分間適用し、次いで蒸留水ですすいだ。スライドをDAKO Automation Hematoxylinで1分間対比染色し、DAKO緩衝液中ですすぎ、蒸留水中ですすぎ、脱水し、そしてパーマウント(permount)を用いてカバーガラスをマウントした。
C.抗ホスホERK抗体で染色した組織切片の評価
スライドを定性的および半定量的に評価する。定性的評価は、染色強度を評価すること、正に染色する細胞および染色に関与する細胞内区画を同定すること、ならびに全体的なスライドの質を評価することよりなる。個別の評価を腫瘍細胞および腫瘍細胞間質で実施する。染色の強度は以下の尺度、すなわち、陰性、±(あいまい)、1+(弱い)、2+(中程度)、3+(強い)若しくは4+(極めて強い)に基づき等級付けした。染色の強度は試料全体の評価により決定する。標的抗原発現の半定量的評価を、後に続くところの各標的抗原を発現する試料全体を通じての細胞のパーセントに基づく等級付け体系を使用して実施する:陽性の標的抗原発現を伴う0〜5%=<5%;6〜25%=第一四分位(1Q);26〜50%=第二四分位(2Q);51〜75%=第三四分位(3Q);76〜100%=第四四分位(4Q)。定量的評価のため、各組織切片をBioquant TCW98画像解析装置を使用して評価する。例えば、5個の重ならない視野/組織を選択し、そしてBioquantソフトウェアを作動するPCに基づくコンピュータに接続したOlympus BX−60顕微鏡およびOptronics DEI−750カラーディジタルカメラを使用して電子的に記録する。20倍拡大視野あたりのサンプリングした組織面積あたりの個々の免疫染色事象の総数を測定する。これらの測定から収集したデータを、組織切片あたりの染色密度(すなわち組織の単位面積あたりの染色事象の数[染色された細胞数/mm])として提示する。
【0085】
患者の最良の応答を下に概説されるとおり分類する:
著効(CR):腫瘍の全部の臨床的および放射線学的証拠の消失(標的および非標的双方)。
【0086】
有効(PR):参照の基礎の最長径(LD)の総和と解釈する標的病変のLDの総和の少なくとも30%の低下
やや有効(MR):参照の基礎の最長径(LD)の総和と解釈する標的病変のLDの総和の30%未満の低下。
【0087】
不変(SD):疾患の定常状態。PRの質までの十分な退縮でも、PDの質までの十分な増大でもない。
【0088】
進行(PD):処置が開始して以来または1個若しくはそれ以上の新たな病変の出現以来記録された参照の最小のLDの総和と解釈する測定された病変のLDの総和の少なくとも20%の増大。新たな病変の出現は進行性疾患(進行としてもまた知られる)もまた構成しうる。例外的な環境では、測定されない病変のあいまいな進行が疾患の進行の証拠として受容されうる。
【0089】
pERK染色のレベルおよび/若しくは強度と患者の応答との間に相関が存在するかどうかを決定するために、Windows 2000を作動するPCでRソフトウェア(www.r−project.org)バージョン1.9.0を使用して、pERKデータの以下のプロットおよび統計学的解析を実行する。プロットは、最初にSurv関数を使用して生存目標を創製すること、およびその後survfitを使用してこの目標を進行までの時間データに当てはめることにより生成させる。プロット関数をその後sruvfitの結果で使用する。2群の患者間の比較の有意性を表すp値を、1に設定された任意のパラメータρを用いてsurvdiff関数を使用して計算する。従って、該アルゴリズムを使用して、pがGehan−Wilcoxonの順位和検定のPetoおよびPetoの変法であったを計算しうる。
【0090】
染色された核のパーセントについての患者の分類のために、5%未満の報告された値を伴う患者を第一の分類に一緒にグループ化する。全部の他の患者は第二の分類に一緒にグループ化する。最大の染色強度についての患者の分類のために、染色強度を1範囲として報告する。該範囲の上限が最大染色強度を指定される。陰性の染色若しくは1の最大強度のいずれかを有すると報告された患者を第一の分類に一緒に入れる。全部の他の患者は第二の分類に一緒にグループ化する。
【0091】
図1に描かれるとおり、pERKレベル(腫瘍内の最大染色強度として測定される)と進行までの時間との間に統計学的に有意の相関があるように思われる。言い換えれば、腫瘍細胞中の基礎のpERK染色レベルが高いほど、患者が進行までの遅延された時間を有するはずであることがよりありそうである。相関する傾向が、pERKを発現する核のパーセントにより定義されるpERKレベルと進行までの時間との間で観察された。しかしながら、この傾向のp値(p=.073)は統計学的に有意の範囲(p≦0.05)のすぐ外側にある。加えて、最大染色強度において「応答者」(有効(PR)若しくは不変(SD)を伴う患者)と「非応答者」(進行(PD))との間に統計学的有意差(p=0.00093)が存在した。1+ないし4+の尺度での「非応答者」の平均最大染色強度は0.88+であった一方、「応答者」においては該平均は2.04+であった。さらに、いずれの非応答者も1+より大きい最大染色強度を有しなかった。
【0092】
さらに、統計学的解析は、合わせた全腫瘍型について、pERKレベルが「応答者」(PR、MR、SD)よりも「非応答者」(進行を伴う患者)において統計学的に有意に(p=0.0024)より高いことを示す。さらに、より高レベルのpERKを有する腫瘍を伴う患者は、統計学的に有意により短い腫瘍進行までの時間(TTP)(p<0.05)および死亡までの時間(TTD)(p=0.023)を示す。
【0093】
本明細書に記述される方法および材料は本発明の代表的な例であることを意図しており、そして、本発明の範囲は該実施例の範囲により制限されないことが理解されるであろう。当業者は、本発明は、開示される方法および材料の変形を伴い実施しうることを認識することができ、そしてこうした変形は本発明の範囲内とみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】0および1+若しくは2から4+のいずれかの最大pERK染色強度を伴う患者における進行までの時間の関数としての、進行していない患者のパーセントのKaplan−Meierプロット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗癌剤を投与することにより癌について処置されている患者の応答のモニター方法であって、
(a)該抗癌剤での処置前に該患者から採取した第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;
(b)該抗癌剤での処置後に該患者から採取した少なくとも1個の第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;および
(c)第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを、第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;
第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較した第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルの変化が、該抗癌剤での処置の有効性を示す、
上記方法。
【請求項2】
前記抗癌剤がRafキナーゼ阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質がpERKである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記癌が、肺癌、腎癌、膵癌、肝癌、胃腸癌、甲状腺癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌および黒色腫から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質発現レベルが免疫組織化学により評価される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルが腫瘍生検である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
癌の患者診断の提供方法であって、
(a)患者から採取した第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;
(b)正常な患者サンプルから採取した最低1個の第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;および
(c)第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを、第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;
第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較した第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルの変化が、疾患の症候である、
上記方法。
【請求項8】
前記タンパク質がpERKである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記癌が、肺癌、腎癌、膵癌、肝癌、胃腸癌、甲状腺癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌および黒色腫から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質発現レベルが免疫組織化学により評価される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルが腫瘍生検である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
正常組織と疾患組織との識別方法であって、
(a)疾患組織の第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;
(b)正常組織から採取した最低1個の第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;および
(c)第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを、第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;
第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較した第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルの変化が、疾患状態の指標となる、
上記方法。
【請求項13】
前記タンパク質がpERKである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質発現レベルが免疫組織化学により評価される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
癌の処置のための新規薬物の発見方法であって、
(a)抗癌剤での処置前に第一の腫瘍細胞サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;
(b)抗癌剤での処置後に少なくとも1個の第二の腫瘍細胞サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;および
(c)第二の腫瘍細胞サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを、第一の腫瘍細胞サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;
第一の腫瘍細胞サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較した第二の腫瘍細胞サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルの変化が、該抗癌剤の有効性を示す、
上記方法。
【請求項16】
前記タンパク質がpERKである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
タンパク質発現レベルが免疫組織化学により評価される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍細胞が、肺癌、腎癌、膵癌、肝癌、胃腸癌、甲状腺癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌および黒色腫から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
抗癌処置に適格な患者の選択方法であって、
(a)患者から採取した第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを測定する段階;
(b)第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルを、正常な患者サンプルから採取した第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較する段階
を含んでなり;
第二の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルと比較した第一の生物学的サンプル中の1種若しくはそれ以上のタンパク質の発現のレベルの変化が、抗癌処置に対するその患者の応答の前兆である、
上記方法。
【請求項20】
前記抗癌剤がRafキナーゼ阻害剤である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記タンパク質がpERKである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
患者が、癌が肺癌、腎癌、膵癌、肝癌、胃腸癌、甲状腺癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌および黒色腫から選択される癌と診断されている、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
タンパク質発現レベルが免疫組織化学により評価される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記サンプルが腫瘍生検である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
pERKに向けられた一次抗体、二次抗体、試薬、参照サンプルおよび対照サンプルを含んでなるキット。

【図1】
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【公表番号】特表2007−510910(P2007−510910A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538517(P2006−538517)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/036977
【国際公開番号】WO2005/044794
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(503211596)バイエル・フアーマシユーチカルズ・コーポレーシヨン (46)
【Fターム(参考)】