説明

免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有する新規乳酸菌

【課題】免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有する新規乳酸菌を提供する。
【解決手段】免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有するペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌並びに該乳酸菌又はその培養物を含有する飲食品又は医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有する新規乳酸菌並びに該乳酸菌又はその培養物を含有する飲食品又は医薬に関するものであり、詳細には、免疫賦活作用及び/又は抗アレルギー作用を有し、且つ胃液耐性を有するペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌並びに該乳酸菌又はその培養物を含有する飲食品又は医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、古来より、チーズ、ヨーグルト、発酵バター等の乳製品や発酵ソーセージ、発酵サラミ等の畜肉製品を製造する際にスターターとして使用されている微生物であり、最近では、パンのスターターや飼料用サイレージのスターターとしても利用されている。また、味噌、醤油、漬物等の熟成工程においても、乳酸菌は重要な役割を果していることが知られている。さらに、近年において、乳酸菌、特にヨーグルト等の乳製品に含まれる乳酸菌が種々の生理効果を有することが明らかにされてきており、該乳酸菌の菌体自体や乳酸菌の培養物等を健康食品や医薬品等の素材として利用するようになってきている。しかし、乳製品以外に含まれる乳酸菌については、その生理効果が明らかにされていないものが未だ多数存在する。
また、乳酸菌の中には、生きたまま腸内に到達できる乳酸菌、いわゆる「腸内乳酸菌」が存在するが、これらは腸内において有益な生理活性物質を産生するため非常に有用なものと考えられる。生きたまま腸内に到達できる乳酸菌としては、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌)やラクトバチルス属に属する乳酸菌が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有する新規乳酸菌並びに該乳酸菌又はその培養物を含有する飲食品又は医薬の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック
ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌において、免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有する乳酸菌株を見出し、本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、
1.免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有するペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌、
2.16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に記載のペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)である前記1.記載の乳酸菌、
3.ペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)に属する乳酸菌がペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株(FERM P
−20897)である前記2.記載の乳酸菌、
4.16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号2に記載のロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)である前記1.記載の乳酸菌、
5.ロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌がロイコノストック ガルリカムHFPRC9111株(FERM AP−20952
)である前記4.記載の乳酸菌、
6.前記1.ないし5.の何れか1つに記載の乳酸菌の培養物を含有する飲食品又は医薬、
に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の新規乳酸菌は、胃液耐性を有するため、生きたまま腸内に到達することが可能と考えられ、また、該乳酸菌は、高い免疫賦活活性及びアレルギー抑制効果を示すため、該乳酸菌を摂取することにより、高い免疫賦活活性及びアレルギー抑制効果を期待することができる。これにより、本発明の乳酸菌又はその培養物を含有することにより、高い免疫賦活活性及びアレルギー抑制効果が期待できる飲食品又は医薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の新規乳酸菌は、免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有するペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌である。
【0008】
前記ペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)に属する乳酸菌としては、好ましくは、16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に記載されたペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)である乳酸菌が挙げられ、また、ペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株である乳酸菌が挙げられる。
尚、ペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株は、独立行政法人産業技術総合研
究所、特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P−20897である。
また、ペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株の16S rRNA遺伝子の塩
基配列は、配列番号1に記載した。
【0009】
前記ロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌としては、好ましくは、16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号2に記載されたロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)である乳酸菌が挙げられ、また、ロイコノストック ガルリカムHFPRC9111株である乳
酸菌が挙げられる。
尚、ロイコノストック ガルリカムHFPRC9111株は、独立行政法人産業技術総合研究所
、特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM AP−20952である。
また、ロイコノストック ガルリカムHFPRC9111株の16S rRNA遺伝子の塩基配
列は、配列番号2に記載した。
【0010】
以下にペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株の菌学的性質を示す。
細胞形態 四連球菌
芽胞 形成せず
グラム染色性 陽性
運動性 非運動性
カタラーゼ反応 陰性
50℃での生育 成育せず
グルコースからのガス生成 陰性
初発pH pH 4.0〜pH 9.0+で増殖可能
糖の資化性(陽性:+、陰性:−、弱陽性:w)(35℃、3日間培養)
mannitol (−) mannose (+)
lactose (+) fructose (+)
cellobiose (+) melibiose (+)
melezitose (−) raffinose (+)
maltose (+) starch (−)
sorbitol (−) D-ribose (+)
trehalose (+) D-xylose (−)
galactose (+) rhamnose (+)
salicin (+) L-arabinose (+)
sucrose (−)
ペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株の形態を示す写真を図1に示した。
【0011】
以下にロイコノストック ガルリカム HFPRC9111株の菌学的性質を示す。
細胞形態 連鎖球菌
グラム染色性 陽性
運動性 非運動性
芽胞 形成せず
カタラーゼ反応 陰性
グルコースからのガス生成 陽性
初発pH pH 4.8〜pH 9.0で増殖可能
糖の資化性(陽性:+、陰性:−、弱陽性:w)(35℃、3日間培養)
mannitol (−) mannose (+)
lactose (−) fructose (+)*
cellobiose (−) melibiose (+)
melezitose (−) raffinose (+)
maltose (+) starch (−)
sorbitol (−) D-ribose (−)
trehalose (−) D-xylose (+)*
galactose (+)* rhamnose (−)
salicin (−) L-arabinose (+)
sucrose (+)
*:酸の生成は認められたが濁度の上昇(菌の増殖)は殆ど認められなかった。
ロイコノストック ガルリカム HFPRC9111株の形態を示す写真を図2に示した。
【0012】
本発明のペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌は、胃液耐性を有するものであり、従って、生きたまま腸に到達することができると考えられる。
【0013】
また、本発明のペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌の培養物は、CD69分子の発現促進(CD69陽性細胞の割合の増加)効果、INF−γの産生促進効果、IL−12の産生促進効果、また、IL−4の産生抑制効果を示した。
【0014】
CD69分子は、免疫細胞における活性化マーカーであり、従って、CD69分子の発現が促進(CD69陽性細胞の割合の増加)されると、免疫が賦活されることになる。
INF−γは、免疫系を活性化して抗ウイルス活性を奏する生理活性物質であり、従って、INF−γの産生が促進されると免疫系が活性化されることになる。
IL−12は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化と細胞性免疫の活性化を介して、非特異的な免疫と抗原特異的な細胞免疫の両方を賦活化するサイトカインであり、従って、IL−12の産生が促進されると細胞性免疫が活性化され、またそれを介して非特異的な免疫と抗原特異的な細胞免疫の両方が賦活化されることになる。
IL−4はアレルギー反応に係るサイトカインであり、アレルギー反応を活性化する作用を有し、また、アレルギー反応に係るT細胞であるTh2細胞の分化の際にも関与する。従って、IL−4の産生を抑制することにより、アレルギー反応が抑制されることになる。
以上のことより、本発明の前記乳酸菌の培養物は優れた免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を奏することができる。
上記の効果は、Th1/Th2バランスをTh1優位にすることを可能にすると考えられる。
【0015】
本発明の前記乳酸菌は、胃液耐性を有するものであり、従って、生きたまま腸に到達することができると考えられるため、前記乳酸菌を摂取することにより、高い免疫賦活活性及びアレルギー抑制効果を期待することができる。これにより、本発明の乳酸菌又はその培養物を含有することにより、高い免疫賦活活性及びアレルギー抑制効果が期待できる飲食品又は医薬を提供することができる。
【0016】
本発明は前記乳酸菌又はその培養物を含有する飲食品又は医薬にも関する。例えば、飲食品に用いる場合には、免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有する健康食品として実施することが好適である。また、公知の甘味料、酸味料、ビタミン等の各種成分と混合してユーザーの嗜好に合う製品とすればよい。例えば、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、ヨーグルト等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子等の形態で提供することが可能である。
【0017】
また、医薬に用いる場合には、主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の医薬の製剤技術分野において通常使用する公知の補助剤を用いて製剤化することができる。剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、座剤、注射剤等を挙げることができ、特に限定されるものではない。本医薬品の投与経路としては、例えば、経口投与、直腸投与、経腸投与等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0018】
本発明の前記乳酸菌の培養条件は、乳酸菌の培養を行うための通常の条件を用いて行うことができる。
培地中には、乳酸菌の生育を促すための栄養源を添加することができ、例えば、脱脂粉乳を添加するのが好ましい。
脱脂粉乳等を添加する場合、その添加量は、質量割合で、5ないし15%、好ましくは7.5ないし12.5%、また、例えば、10%である。
【実施例】
【0019】
以下に示す実施例において、本発明を具体的且つ更に詳細に説明する。下記実施例は本発明の説明のためのみのものであり、これらの実施例により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
尚、本実施例中で使用するP. pentosaceusは、ペディオコッカス ペントサセウスHFPR
C9101株を意味し、Le.garlicumは、ロイコノストック ガルリカムHFPRC9111株を意味し
、L.plantarum SK2は、ラクトバチルス プランタラム SK2株を意味し、L.plantarum
SK3は、ラクトバチルス プランタラム SK3株を意味し、L.plantarum MSは、ラクトバチルス プランタラム MS株を意味し、L.caseiは、ラクトバチルス カゼイを意味
し、L.sakeは、ラクトバチルス サケを意味し、Lac.garvieaeは、ラクトコッカス ガルビエを意味する。
【0020】
実施例1
本発明の新規乳酸菌及び上記に挙げた他の乳酸菌の免疫賦活効果をin vitroで調べた。免疫賦活効果は、試験に使用した各乳酸菌の死菌体を用い、脾臓細胞中におけるCD69陽性細胞の割合、培養上清におけるINF−γの濃度の測定及び培養上清におけるIL−12の濃度の測定により判断した。
細胞培養用96穴プレートに5×105個/穴のC57BL/6マウス脾臓細胞を入れ
、各乳酸菌の培養物を濃度10μg/mL及び100μg/mLになるように添加した。細胞培養液の総量は250μL/穴とした。
細胞培養を開始してから3日後に細胞を回収し、フローサイトメーターを使用して免疫細胞の活性化マーカーであるCD69の発現上昇の程度を確認した。
各乳酸菌における結果を図3に示した。
また、各乳酸菌の培養上清におけるINF−γの濃度を図4に示し、また、各乳酸菌の培養上清におけるIL−12の濃度を図5に示した。
【0021】
実施例2
各乳酸菌におけるアレルギー抑制効果をin vitroの実験で検討した。BALB/cマウスの腹腔内にOvalbumin 1mg/匹を含むAlum ajuvant
2mg/匹を150μL/匹に調整し、day0とday6の計2回接種した。その後day13にマウスを解剖し、脾臓を採取した。調製した脾臓細胞を細胞培養用96穴プレートに5×105個/穴入れ、各乳酸菌の培養物を濃度1μg/mL、10μg/mL
及び100μg/mLになるように添加した。細胞培養液の総量は250μL/穴とした。培養開始から1週間後に培養上清を回収し、上清中のINF−γ濃度及びIL−4濃度を測定した。
各乳酸菌の培養上清におけるINF−γの濃度を図6に示し、また、各乳酸菌の培養上清におけるIL−4の濃度を図7に示した。
【0022】
実施例3
P. pentosaceus及びLe.garlicumの胃液耐性をpH2.5及びpH3.0の人工胃液を
用いて評価した。
試験は、各人工胃液中の各処理時間(1時間、2時間、3時間)における各乳酸菌の生存率(%)の変化として測定した。
人工胃液処理後のP. pentosaceusの生存率(%)を図8に示し、人工胃液処理後のLe.garlicumの生存率(%)を図9に示した。
【0023】
実施例4 P. pentosaceusのラット経口摂取試験
目的:P. pentosaceusは腸管を生存したまま通り抜けることができるかどうかを、ラットを使って調べた。
方法:
1.実験動物
Wistar/ST系オスラット (日本SLC) 6匹を5週齢で導入して、固形飼料CE-2 (日本ク
レア)で5日間の予備飼育を行った。その後、ラットの体重差が出ないように3匹1群に分け、生理食塩水で洗った試験株 (P. pentosaceus 1.8×1010 CFU) を経口摂取させた。ラットはステンレスメッシュゲージで個別飼いし、予備飼育、試験飼育共に、室温22 ±
2℃、湿度40-60%、明暗周期12時間 (明期8:00-20:00) の条件下で飼育し、飼料と水は
自由摂取させた。
2.乳酸菌の生菌数の測定
導入5日後 (摂取当日)、摂取1日後、2日後の糞を全量採取した。それぞれ1日分全量と生理食塩水20 mLとメタルコーンをチューブに入れ、1500 rpm 20秒で均一化した。その液を変法LBS培地に塗沫して37℃で嫌気培養して、2-3日後に乳酸菌の生菌数を数えた。菌数は1日あたりの生菌数を常用対数で示した。P. pentosaceusは2日後に透明な白いコロニーを形成するが、他に似たような白いコロニーがあるために、P. pentosaceusのみの菌数計測は行わなかった。
3.ランダム増幅多型法 (randomly amplified polymorphic DNA, RAPD)
ラットに常在する乳酸菌と投与株を区別し、投与株が生きて腸管を通過したか確認するために、株レベルでの相違もわかるRAPD法を行った。変法LBS培地上で、コロニーを滅菌
爪楊枝で突き、50 μLのTE緩衝液 (pH 8.0) に懸濁し、97℃10分間熱をかけ、コロニー
を壊した液を鋳型とした。RAPD用反応液 (25 μL) は1 x PCR bufferとdNTP mixture (2.5 mMずつ) をそれぞれ2.5 μL、MgCl2 溶液 (25 mM) を1.75μL、AmpliTaq Goldを0.375 μL、プライマー (50 pmol/μL) を2 μL、鋳型を1 μL入れ、滅菌ミリQ水で全量を25 μLにした。プライマーはOPN-12 (5' cac aga cac c 3') (Operon Technologies) または OPN-16 (5' aag cga cct g 3') (Operon Technologies)を使い、94℃, 5分後に94℃, 1分、34℃, 2分、72℃, 2分を35サイクル、最後に72℃, 7分伸長反応したPCR条件
でRAPD法を行った。その後、1.5%アガロースで電気泳動して、投与株のプロフィールと比較した。
結果と考察:
摂取した餌の量、体重増加ともに、ラット間で大きな差はなかった。P. pentosaceus(1.8×1010 CFU)を摂取した2匹のラットの1日後では糞中乳酸菌の生菌数が増加した(図10、表1)。RAPD分析ではすべてのラットの糞中で、P. pentosaceusと同じプロフィールを持つコロニーが検出された(図11)。これは、P. pentosaceusはすべてのラットの糞中に最低でも5.5-6.2×108 CFU生存していたことを示している。以上より、P. pentosaceusは生きたまま腸管を通り抜け、糞中に排泄されることが明らかになった。
表1 糞中の乳酸菌の生菌数 (対数値, CFU/日)
――――――――――――――――――――――――
ラットno. 0日後 1日後 2日後
――――――――――――――――――――――――
4 9.99 9.86 10.30
5 9.94 10.49 10.35
6 9.89 10.15 9.98
――――――――――――――――――――――――
【0024】
実施例5 トウモロコシ穂軸粉末・乳酸菌のラット自由摂取試験
目的:
凍結乾燥させたP. pentosaceusが腸管を生存したまま通り抜けることができるかどうかと、トウモロコシ穂軸が乳酸菌に与える効果を、ラットを使って調べた。
方法:
1.実験動物
Wistar/ST系オスラット (日本SLC) 24匹を5週齢で導入して、AIN-93Gに基づいた基本飼料(表2)で5日間の予備飼育を行った。その後、ラットの体重差が出ないように6匹ずつ3群 (対照群、穂軸群、穂軸+P. pentosaceus群) に分け、試験食で9日間の試験飼育
を行った。対照群は基本飼料のまま、穂軸群、穂軸+P. pentosaceus群は基本飼料のセルロース5%をそれぞれ、穂軸、穂軸+P. pentosaceusに置き換えた飼料を与えた。穂軸+P. pentosaceus群の試験食にP. pentosaceusは5.7×109 CFU/g含まれていた。ラットはステンレスメッシュゲージで個別飼いし、予備飼育、試験飼育共に、室温22 ± 2℃、湿度4
0-60%、明暗周期12時間 (明期8:00-20:00) の条件下で飼育し、飼料と水は自由摂取さ
せた。
表2 基本飼料
(g/kg)
―――――――――――――――――――
basal (control)
―――――――――――――――――――
Sucrose 629.5
Casein *1 200
Soybean oil *2 70
Crystaline cellulose *3 50
AIN-93G MX 35
AIN-93 VMX 10
L-Cystine 3
Choline bitartrate 2.5
tert-butylhydroquinone 0.014
1000
―――――――――――――――――――
*1 ALACIDTM Lactic Casein, NZMP Ltd. New Zealand
*2 J-Oil Mills
*3 Ceolus (Avicel), PH-102, Asahi Kasei Chemicals, co.
2.乳酸菌の生菌数の測定
試験飼育5日後、9日後の糞を全量採取した。それぞれ1日分全量と生理食塩水9 mLとメタルコーンをチューブに入れ、1500 rpm 30秒で均一化した。その液を変法LBS培地に塗沫し37℃で嫌気培養して、3日後に乳酸菌の生菌数を数えた。菌数は1日あたりの生菌数を常用対数で示した。P. pentosaceusは3日後に透明な白いコロニーを形成するが、他に似たような白いコロニーがあるために、ランダム増幅多型法でプロフィールを確かめた。3.ランダム増幅多型法 (randomly amplified polymorphic DNA, RAPD)
ラット腸内に常在する乳酸菌と投与株を区別し、投与株と判定するために、株レベルでの相違もわかるRAPD法を行った。変法LBS培地上で、コロニーを滅菌爪楊枝で突き、50 μLのTE緩衝液 (pH 8.0) に懸濁し、97℃10分間熱をかけ、コロニーを壊した液を鋳型とした。RAPD用反応液 (25 μL) は1 x PCR bufferとdNTP mixture (2.5 mMづつ) をそれぞ
れ2.5 μL、MgCl2 溶液 (25 mM) を1.75μL、AmpliTaq Goldを0.375 μL、プライマー
(50 pmol/μL) を2 μL、鋳型を1 μL入れ、滅菌ミリQ水で全量を25 μLにした。プライマーはOPN-12 (5' cac aga cac c 3') (Operon Technologies) を使い、94℃, 5分後に94℃, 1分、34℃, 2分、72℃, 2分を35サイクル、最後に72℃, 7分伸長反応するPCR
条件でRAPD法を行った。その後、1.5%アガロースで電気泳動して、投与株のプロフィールと比較した(図12)。
4.統計処理
実験値は平均値±標準誤差で示した。試験食期体重増加、試験食期摂餌量、盲腸内容物のpHと有機酸量、乳酸菌の生菌数 (対数値) は、one-way ANOVA後に、多重比較検定 (Duncan's multiple range test) を行った。すべての統計処理は5%未満を有意水準とした。結果
1)重増加は穂軸群で低下傾向、摂餌量は穂軸群と穂軸乳酸菌混合群で低下傾向がみられたが、有意差はなかった。摂餌量から、穂軸+P. pentosaceus群では一日当たりP. pentosaceusを9.7×1010 CFU投与したことが示された。
表3 試験食期体重増加と摂餌量 (g/日)
―――――――――――――――――――――――――――――――
群 試験食期体重増加 試験食期摂餌量
―――――――――――――――――――――――――――――――
対照 7.38±0.22 18.28±0.57
穂軸 6.81±0.23 16.54±0.26
穂軸+P.pentosaceus 7.25±0.22 17.02±0.39
―――――――――――――――――――――――――――――――
2)肝臓と盲腸壁重量では有意差がなかった。盲腸内容物重量は、穂軸乳酸菌混合群で対照群と比較して有意に重量が減少していた(表4)。このことから、穂軸と摂取した乳酸菌による盲腸内発酵は起こらなかったことが示唆された。
表4 肝臓と盲腸壁、盲腸内容物重量 (g)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
群 肝臓 盲腸壁 盲腸内容物
――――――――――――――――――――――――――――――――――
対照 11.81±0.36 0.84±0.05 2.21±0.29a
穂軸 10.96±0.28 0.80±0.04 1.67±0.12ab
穂軸+P.pentosaceus 11.53±0.27 0.84±0.07 1.35±0.13b
穂軸+L.plantarum 11.32±0.25 0.76±0.05 1.42±0.17b
――――――――――――――――――――――――――――――――――
aとb間では、多重比較検定 (ダンカン) によって有意差がみられた (P<0.05)。
5、9日後の穂軸群と穂軸乳酸菌混合群の糞中では、乳酸菌の生菌数が有意に増加していた (P=0.02、表5)。9日後の穂軸+P. pentosaceus群の糞中では、106 CFU/日と、一日に摂取した菌数の1万分の一以下まで減少していた。
以上のことから、トウモロコシ穂軸を餌に添加すると、ラット腸内に常在する乳酸菌が増加することが示された。
表5 糞中の乳酸菌と投与株の生菌数 (CFU/日)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
乳酸菌総数 投与株
群 ―――――――――――――――――――――――――
5日後 9日後 5日後 9日後
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
対照 8.28±0.37 7.91±0.55a − −
穂軸 8.64±0.44 9.04±0.17b − −
穂軸+P.pentosaceus 8.84±0.26 9.14±0.13b 7.42±0.09* 6.29以下
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
aとb間では、多重比較検定 (ダンカン) によって有意差がみられた (P<0.05)。
*:3匹の平均値±標準誤差。残りの3匹は7.29以下だった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株の形態を示す写真である。
【図2】ロイコノストック ガルリカム HFPRC9111株の形態を示す写真である。
【図3】実施例1で行った、各乳酸菌におけるCD69陽性細胞の割合を比較したグラフである。
【図4】実施例1で行った、各乳酸菌の培養上清におけるINF−γの濃度を比較したグラフである。
【図5】実施例1で行った、各乳酸菌の培養上清におけるIL−12の濃度を比較したグラフである。
【図6】実施例2で行った、各乳酸菌の培養上清におけるINF−γの濃度を比較したグラフである。
【図7】実施例2で行った、各乳酸菌の培養上清におけるIL−4の濃度を比較したグラフである。
【図8】実施例3で行った、人工胃液処理後のP.pentosaceusの生存率(%)の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例3で行った、人工胃液処理後のLe.garlicumの生存率(%)の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例4で行った、ラットへのP.pentosaceus投与後の乳酸菌の生菌数の経時変化を示すグラフである。
【図11】実施例4で得られた、電気泳動後のP.pentosaceusのコロニーとP.pentosaceusと形態が似ているコロニーのRAPDプロフィールを示す写真である。
【図12】実施例5で得られた、電気泳動後のP.pentosaceusのコロニーとP.pentosaceusと形態が似ているコロニーのRAPDプロフィールを示す写真である。
【符号の説明】
【0026】
1、P2:P.pentosaceusのコロニー
4、5、6:ラットno.4、5、6から得られた糞を塗沫したプレートにそれぞれ生育したコロニー
1、W2:P.pentosaceusと形態が似ているコロニー
○:P.pentosaceusのコロニーと判定したコロニー
×:P.pentosaceusではないと判定したコロニー
M:100bpマーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫賦活作用及び/又はアレルギー抑制作用を有し、且つ胃液耐性を有するペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)又はロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌。
【請求項2】
16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号1に記載のペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)である請求項1記載の乳酸菌。
【請求項3】
ペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)に属する乳酸菌がペディオコッカス ペントサセウスHFPRC9101株(FERM P−2
0897)である請求項2記載の乳酸菌。
【請求項4】
16S rRNA遺伝子の塩基配列が配列番号2に記載のロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)である請求項1記載の乳酸菌。
【請求項5】
ロイコノストック ガルリカム(Leuconostoc garlicum)に属する乳酸菌がロイコノストック ガルリカムHFPRC9111株(FERM AP−20952)で
ある請求項4記載の乳酸菌。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の乳酸菌又はその培養物を含有する飲食品又は医薬。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−54556(P2008−54556A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234011(P2006−234011)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(598043054)日生バイオ株式会社 (21)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】