説明

免疫賦活剤

【課題】本発明は悪性黒色腫の化学療法剤であるシステアミニルフェノール誘導体を全身投与による投与量制限や副作用を回避し、且つ全身投与以上の効果を実現せしめる局所投与法を提供する。
【解決手段】悪性黒色腫に対する化学療法剤であるシステアミニルフェノール誘導体を新たに見いだされた免疫賦活剤としての作用を効果的に併用するメラーノーマ化学免疫療法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、悪性黒色腫(メラノーマ)の免疫賦活剤としての効能がある薬剤に関する用途発明である。
【技術背景】
【0002】
従来、チロシナーゼの基質となるある種のシステアミニフェノール誘導体はメラノーマ細胞をはじめとするメラニン合成細胞に選択的に接着して取り込まれ、直接殺細胞効果および脱色素効果を発揮する化学療法剤であった(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特許第3178834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これには次のような欠点があった。
(イ)他の化学療法剤と同様に副作用のため全身投与では 投与量に制限があり、局所投与では局所投与部位以外には効果が期待出来ない。
(ロ)メラノサイトのメラニン合成を阻害するため全身投与では全身正常皮膚の脱色素という副作用を来たす。
本発明は、以上のような欠点をなくすためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、前記したシステアミニルフェノール誘導体には悪性黒色腫に対する直接的殺細胞効果を示す化学療法剤としてだけではなく、悪性黒色腫に対する免疫賦活剤としての効果もあることを見いだした。本発明は局所投与のみで免疫賦活作用を利用して全身投与と同等以上の効果が期待できる治療法である。
【発明の効果】
【0006】
これまで外科的切除しか治療法のなかったメラノーマ治療に対して、本発明が提供する治療法では、本来切除するべき悪性黒色腫にシステアミニルフェノール誘導体を局所注入するだけでその腫瘍を完全消失することが可能になっただけでなく、免疫賦活効果により薬剤を局所注入不能な遠隔転移巣を同時に縮小させることも可能になり、患者に対して外科的侵襲および薬剤全身投与による副作用をも回避できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明でのシステアミニルフェノール誘導体とはメラニン形成酵素でありチロシナーゼの基質であるチロシンにイオウを結合させたアミン誘導体である。その製造方法は前述特許第3178834公報に記載されている。具体的にはN−アセチル−4−S−システアミニルフェノール、N−プロピオニル−4−S−システアミニルフェノール、N,N−ジメチル−4−S−システアミニルフェノール、4−S−ホモシステアミニルフェノール、α−メチル−4−S−システアミニルフェノール等がある。
【0008】
本発明での治療法は以下のように実施される。皮膚メラノーマの原発巣又は転移巣にシステアミニルフェノール誘導体の癌組織内注射を1日1回施行し、これを24時間から48時間間隔で3回から5回繰り返すのが良い。
【0009】
この治療方法はマウスを用いた動物実験の結果によるものである。対象動物としてC57BL/6マウス(体重約10g、4週令、メス)、メラノーマ細胞はマウスB16F1メラノーマ、システアミニルフェノール誘導体としてN−プロピオニル−4−S−システアミニルフェノール(N−propionyl−cysteaminylphenol:NPrCAP)を用いた。1回の腫瘍内局注投与量は濃度として0.244μmol、2.44μmol、24.4μmol、122μmolの4種類を使用した。マウスの右側腹部皮下にメラノーマ細胞を移植し、担癌マウスを作製した。この腫瘍内に上記薬剤を直接癌組織内に注射し3回から5回の治療を施行した。この治療したマウス群に後日、反対側である左側腹部皮下に同じメラノーマ細胞を移植したところ、その細胞増殖が無治療のマウス群(コントロール群)の細胞増殖に比べて統計学的に有意に抑制されるだけでなく、その生存率も統計学的に有意に延長することが確認された。これは直接薬剤を注入し癌組織を治療することが、腫瘍免疫を介して直接薬剤を注入していない癌組織を抑制することを示すものである。上記動物実験に於いて、NPrCAPを極量を全身投与しても、治療腫瘍を完全に消失させることは出来ないが、腫瘍内に直接注射すれば容易に消失させることが出来ることが確認された。これは外科的切除が不要になったことを示すものである。局所投与単独だけでなく、全身投与単独、両者併用のいずれの場合でも免疫が誘導されるのが確認された。
【0010】
また、熱ショック蛋白質(Heat Shock Protein:HSP)は温熱療法を施行した時に細胞内に亢進する蛋白質であり、間接的に細胞障害性T細胞、サイトカイン等を刺激し遠隔転移巣に対する腫瘍免疫を誘導するものとして知られている。上記実験に於いて、NPrCAPを注射した治療腫瘍内のHSPを測定したところ無治療腫瘍(コントロール群)に比べ統計学的に有意に発現していることが確認された。これは化学療法剤を腫瘍内に局注するだけで、温熱免疫療法を併用していることと同等の効果があることを示すものである。
【0011】
実施例は上記に限定されるものではなく、リンパ節廓清術後局所投与、術後胸腹腔内局所投与などにも有効である。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は単一薬剤で化学療法と免疫療法を同時かつ簡単に施行できるだけでなく手術療法が不要となるメラノーマ化学免疫療法を提供するもので医療上の価値は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システアミニルフェノール(cysteaminylphenol)誘導体を用いた悪性黒色腫に対する免疫賦活剤。

【公開番号】特開2009−242369(P2009−242369A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117836(P2008−117836)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(508129610)
【Fターム(参考)】