説明

免震方法及び免震台

【課題】 構造が簡単、設置も容易でコスト的にも有利となり、大きな設備から家庭の棚、机に至るまで簡単に適用することができる免震方法及び免震台を提供する。
【解決手段】 建物の床面と家具等との間に、低摩擦材からなる摺動シート12、13とこれをバックアップするクッションシート11、14を重ねた摺動部材を一対介在させ、対向して配置される一対の摺動シート12、13の間の摺動作用により地震による振動を軽減させる。床面側の摺動部材を枠体21内に配置し、両摺動部材の相対変位量を見込んで床面側に配置される摺動部材の周囲に移動代を余分に設け、該移動代を緩衝材23で覆ってもよい。両摺動部材の周囲の少なくとも一部を接合し、もしくは弾性結合部材43で結び、両摺動部材の相対変位量を抑制、もしくは相対移動を原点復帰させることができる。一対の摺動部材を複数重ね合わせることで地震によるショックを軽減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に、家具、設備、棚にある商品など、建物内外にある物品の倒壊、損壊、落下を回避、軽減するための免震方法、及び免震台に関する。
【背景技術】
【0002】
地震は建物自身の倒壊、損壊を招くのみならず、建物が倒壊に至らない場合にあっても、建物内部若しくはその周辺にある家具、什器、装飾品等、事務所や工場では機械、設備、備品等、商店等では棚、棚にある商品等(本明細書では、これらを総称して「家具等」という。)が倒壊、損壊に至ることがよく見られる。従来行われていたこれらへの対策は、対象となる家具等を物理的に固定することであった。例としては、棚類を壁に対して固定する、天井との間で倒壊防止用バーを設置する、設備を床面に固定するなどであった。しかしながら、地震力は未定の周期、加速度、速度、変位からなる波形から構成されるため、そのような地震力に対してこれらの転倒防止策では必ずしも万全ではなかった。また、商店等では商品棚が固定できても、その棚に置かれた商品の落下を防ぐものとはならなかった。
【0003】
地震による被害を回避する方策として、建物自身を耐震構造、制震構造、免震構造にすることが行われている。しかしながらこれらの技術は、建物の新築時でなければ適用することはできず、後付けによる対応は一般には不可能である。これに対して、建物は別としても、少なくとも家具等の損壊を防ぐため、上述のような物理的な転倒防止策に加えて、地震に伴う揺れが家具等に直接伝達されることを防ぐ技術、すなわち、床面と家具等の間に介在させて地震の揺れを吸収するための装置が、従来技術においても開示されている。具体例として、積層ゴム体を利用して床面の揺れを吸収する装置(例えば、特許文献1参照。)、磁気浮動機構を利用して家具等を非接触状態に維持する装置(例えば、特許文献2参照。)、空気ばねを利用して家具等を浮上支承する装置(例えば、特許文献3参照。)、ローラによる転がりを利用して家具等を滑らす装置(例えば、特許文献4参照。)等が見られる。これらは、免震装置、免震台、あるいは除振装置、除振台などと呼ばれている。本明細書では、これらを一括総称して「免震台」と呼ぶものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−099544号公報
【特許文献2】特開2010−223284号公報
【特許文献3】特開2010−203594号公報
【特許文献4】特開2008−309206号公報
【特許文献5】特開2011−47514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術文献に記載されたような従来技術による免震台では、いずれも構造が複雑で大掛かりなものであった。比較的大きな機械装置等に適用はできても、例えば商店の商品棚、家庭内での家具等への適用は困難であった。したがって、本発明は従来技術とは異なって、構造が簡単であり、設置も容易でコスト的にも有利となり、さらに大きな設備から家庭の棚、机などに至るまで簡単に適用することができる新たな構造を備えた免震台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、摺動作用、すなわち、床面と家具等との間に摺動部材を介在させ、両者間の相対的な滑り(摺動)により揺れを吸収して上記課題を解決するもので、具体的には以下の内容を含む。なお、従来技術においても摺動作用を利用する装置が開示されてはいたが(例えば、特許文献5参照。)、これによれば、摺動部材に留まらず、可動部材、可動支持部材、復元用のばねを装備するなど、やはり構造複雑で取扱いが困難であることに変わりはなかった。本願発明は、よりシンプルな構造を備えた摺動型の免震台、並びに免震方法を提供するものである。
【0007】
本発明による1つの態様は、建物の内部もしくはその周辺に配置された家具等を地震の際に倒壊や損壊から守るための免震方法であって、低摩擦材からなる摺動シートと該摺動シートをバックアップするよう重ね合わされるクッションシートとから構成される摺動部材の一対を、双方の前記摺動部材の摺動シート面同士が対向するよう重ね合わせて建物の床面と前記家具等との間に介在させ、前記対向する一対の摺動シート間の摺動作用により、および/または前記クッションシートの減衰作用により、床面から前記家具等に伝達される地震による振動を軽減させることを特徴とする免震方法に関する。
【0008】
前記一対の摺動部材は、これを複数重ね合わせて建物の床面と家具等との間に配置し、もしくは該複数を個別に建物の床面と家具等との間に配置して地震による振動を軽減させるようにしてもよい。
【0009】
前記一対の摺動部材の周囲の少なくとも一部の間を接合することにより、または弾性連結部材で結ぶことにより、前記一対の摺動部材間の相対変位量を制限し、もしくは相対移動した前記一対の摺動部材を原点復帰させるよう構成することができる。また、前記一対の摺動部材の少なくともいずれか一方のクッションシートに振動吸収部材を取り付けることにより、地震による垂直方向の振動をさらに吸収させることができる。
【0010】
本発明に係る他の態様は、建物の内部もしくはその周辺に配置された家具等を地震の際に倒壊もしくは損壊から守るため、建物の床面と前記家具等の間に配置される免震台であって、低摩擦材からなる摺動シートと、これをバックアップするよう重ね合わされるクッションシートとからなる摺動部材の一対から構成され、前記一対の摺動部材の各摺動シートの面同士が対向するよう重ね合わされ、該摺動シート間の摺動作用、および/または前記クッションシートの減衰作用によって地震による振動を軽減するよう構成されていることを特徴とする免震台に関する。
【0011】
前記一対の摺動部材の内の床面側に配置される摺動部材の周囲に、両摺動部材の相対移動を見込んだ移動代を家具等の側に配置される摺動部材に対して余分に設けることができる。前記床面側に配置される摺動部材を枠体内に配置し、その際に家具等の側に配置される摺動部材の該枠体に対する移動を緩衝する緩衝材を前記移動代の上に設けてもよい。
【0012】
前記一対の摺動部材間の相対移動を容認もしくは拘束する、解除可能な拘束機構をさらに備えてもよい。
【0013】
前記一対の摺動部材の少なくともいずれか一方のクッションシートには、地震による垂直方向の振動をさらに吸収する振動吸収部材を取り付けることができる。
【0014】
前記一対の摺動部材の周囲の少なくとも一部、もしくは周囲全体を接合し、あるいは前記一対の摺動部材の周囲の少なくとも一部を弾性結合部材で結び、該一対の摺動部材の相対変位量を制限し、もしくは該一対の摺動部材間の相対移動を原点復帰させるよう構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る免震台の実施により、従来技術に対してはるかに構造が簡単、安価であり、設置,取扱い、管理も容易な免震台、及び免震方法を提供することができる。また、前記一対の摺動部材からなる免震台を2個、3個と積上げ、多層免震台構造とすることによって、大きな衝撃エネルギを持った地震でも相対移動量を大きくとることができ、ショックを和らげ、かつ原点復帰機構をも併せ持つ機能を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る免震台を示す正面部分断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る免震台を示す斜視部分断面である。
【図3】図2に示す免震台の他の態様を示す斜視部分断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態に係る免震台を示す斜視図である。
【図5】本発明のさらに他の実施の形態に係る免震台を示す斜視図である。
【図6】図5に示す免震台の他の態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の第1の実施の形態に係る免震台について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態にかかる免震台10を示しており、図1は、免震台10を床面に垂直な断面で示したものである。図1において、免震台10は、床面50に対して敷設された第1のクッションシート11と、第1のクッションシート11の上に敷設された一対の低摩擦材からなる第1、第2の摺動シート12、13と、両摺動シート12、13の上にさらに敷設された第2のクッションシート14とから構成されている。図1では一般住宅への適用がされた例であり、床面50は木材のフロアーで、免震台10の上にはカーペット51が敷かれ、さらにその上には一例としてテレビ52が置かれたテレビ台53が載せられている。なお、図面では便宜的に免震台10を構成する第1、第2の摺動シート12、13の間に隙間を設けて描いているが、これは説明容易化のためであって、実際にはこれらは密着するように重ね合されている。これは、以下に記す各実施の形態においても同様である。
【0018】
第1のクッションシート11は直接又は間接(例えば、マット類などを介して)床面に接するよう敷設され、これによって床面の凹凸をクッションシート11の柔軟性で吸収する。このためクッションシート11は凹凸のある床面と密着する柔軟性のある材料を使用することが好ましく、本実施の形態では1.5mm厚のゴム系防水シートを使用している。材質的には、この他にアスファルトシート、ゴムシート、ゴムマット(バラストマット)、プラスチックシートなど、床面の凹凸が吸収できる他の材料が使用されてもよい。クッションシート11の板厚は、床面の凹凸が吸収でき、かつ使用時の違和感を生じない程度の必要十分な厚さであればよく、1.5mmは単なる例示である。クッションシート11の作用により、床面の凹凸が吸収され、後述する両摺動シート12、13間の摩擦を軽減する役割を果たす。なお、工場や倉庫などで床面がコンクリートとなる場合には、耐アルカリ性を備えた材料からなるクッションシートを使用することが耐久性を高めるものとなる。この場合には、コンクリートの床面からの水分浸入を防ぐ役割をも果たすものとなる。
【0019】
次に、第1のクッションシート11の上に、摺動面を構成する第1の摺動シート12と、さらのその上に同じく摺動面を構成する第2の摺動シート13が一対となって敷設される。この敷設時に、下側に位置する第1の摺動シート12を第1のクッションシート11に粘着材又は接着材等を使って部分的又は全面的に密着・溶着固定してもよい。その上にある第2の摺動シート13は第1の摺動シート12との間で摺動自在の状態にある。この第1および第2の摺動シート12、13の間で地震の揺れを吸収するものとなる。このため、両者摺動シート12、13の間の静摩擦係数は、できるだけ低いものであること好ましい。本実施の形態では、いずれの摺動シート12、13とも0.075mm厚のフッ素樹脂シートを使用している。これによる両摺動シート12、13の間の静摩擦係数は、後述するように約0.2に収めることができる。
【0020】
フッ素樹脂シートを構成するフッ素樹脂材料としては、テトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレンポリプロピレンコーポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレンポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコーポリマー(PFA)などが含まれるが、これらには限定されない。
【0021】
後段の[表1]に示すように、本願発明者らの実験によれば、摺動シートの材質としてこのフッ素樹脂シート同士の組合せが最も低い摩擦係数を示しているが、他の材料として、超高分子ポリエチレンシート(分子量100万以上が好ましい)の利用も考えられる。一対の摺動シートをフッ素樹脂シートと超高分子ポリエチレンシートとの組合せとした場合、両者間の摩擦係数は約0.25ほどとなる。これを超高分子ポリエチレンシート同士の組合せとすると、摩擦係数は約0.4ほどに低下する。将来、低摩擦係数のシート材料が新たに開発された場合には本願発明への適用が容易に想定されることであり、本発明はそれらの材料の適用を排除するものではない。本明細書においては、摺動シート間の静摩擦係数は、約0.4以下となることが好ましい。
【0022】
次に、第2の摺動シート13の上に第2のクッションシート14が敷設される。第2のクッションシート14は、第1のクッションシート11と同様に、追ってその上に載置される家具等の平面の凹凸を吸収する柔軟性を有している。本実施の形態では、第1のクッションシート11と同様のゴムシートを使用し、板厚を1.5mmとしているが、これは単なる一例である。第2のクッションシート14は、第2の摺動シート13の上に敷設する際、粘着材又は接着材を使って両者を部分的又は全面的に密着固定してもよい。この結果、第1及び第2の摺動シート12、13は、これをそれぞれバックアップする第1及び第2のクッションシート11、14に挟まれたサンドイッチ構造となる。第1と第2のクッションシート11、14は、その材質による特性から減衰作用を備えており、これが地震の際の垂直方向の振動を吸収する効果をも奏するものとなる。本明細書では、摺動シートとクッションシートとから成る組合せを「摺動部材」と呼ぶものとする。一対の摺動部材が、各摺動部材の摺動シートの面を対向して重ね合わされることにより、免震台10を形成するものとなる。
【0023】
免震台10の上に被せられたカーペット51は任意である。ただし、摺動シート12、13の隙間への埃の浸入を防ぎ、あるはい床面に配置された免震台10の違和感を回避するためにカーペット51の使用が好ましい。図1では、説明容易化のために免震台10が厚目に描かれているが、以上の構成とした場合の免震台10全体の厚さは僅か3.15mmほどでしかなく、その上にカーペット51が敷かれていても全く違和感はない。
【0024】
なお、図1では、大きめの1つの免震台10によってテレビ台53全体を支えるものとしているが、支持する家具等が重量物であり、かつ図示のテレビ台53の脚53aにあるように荷重が平面ではなくて幾つかの点に集中するような場合、免震台10にはその箇所に局部的に応力が集中して摺動シート12、13間での滑りが円滑でなくなる場合も考えられる。このような場合の対応として、1つはカーペット51の代わりに、もしくはカーペット51に加えて例えば合板ボードのような剛性のある支承板を置き、その上に家具等を載置して荷重を分散させるようにしてもよい。その代替としては、小振りの免震台10を複数準備し、これに小振りの支承板を載せたものを各脚53aと床面50との間に介在させるようにしてもよい。
【0025】
以上のように構成された本実施の形態にかかる免震台10は以下のように動作する。地震の発生により、まず床面50に揺れが伝わる。この揺れは第1のクッションシート11に伝わり、これに密着固定された第1の摺動シート12に伝わる。しかしながら、第1の摺動シート12と第2の摺動シート13との間は摩擦係数が低いため、一定の限度までは後者は前者に追従するものの、その限度を超えると両摺動シート12、13の間で摺動(滑り)が発生する。第2の摺動シート13は第2のクッションシート14に密着固定されており、摺動の発生によって床面50の揺れがそのまま上方にあるテレビ台53まで伝達されることはなくなる。
【0026】
地震の強さは一般に「震度」で表される。内閣府発行の「地震被害想定支援マニュアル」によれば、「震度」と地震の「加速度(gal)」との間は以下の関係にある。
震度 : 〜4 〜5弱 〜5強 〜6弱 〜6強 〜7
加速度(gal): 〜100 〜240 〜520 〜830 〜1470 1471〜
【0027】
本願発明者らの行った実験によれば、本実施の形態に示す免震台10を利用した場合、入力加速度(地震の加速度)が約200galまでは両摺動シート12、13の間の滑りはごく僅かであるが、入力加速度が約200galを越えると顕著な滑りが始まる。例えば、入力加速度が500galのときは、上方のテレビ台53における応答加速度は約200galまで低減する。すなわち、ほぼ震度5強の地震が発生した場合においても、テレビ台53に伝わる震度は5弱ほどに軽減されるものとなる。これは、入力加速度が200gal以上となっても、応答加速度は200galのままほぼ維持されることを意味している。これにより、本来震度5強の地震があった場合には倒壊した恐れのあるテレビ52が、倒壊することなく保たれる可能性を生むことになる。
【0028】
地震の周波数で見た場合、ほとんどの地震の卓越周波数(最も振幅が大きい周波数)は1Hzから6Hzであると言われる。この内でも卓越周波数が1Hz〜3Hzの地震が家具の転倒、家屋の倒壊に結びついている。正弦波による加速度と周波数の式を使って、上記掲載マニュアルによる震度と周波数1Hz、2Hz、3Hzの場合の振幅(cm)を求めた結果を以下に示す。
震度: 〜4 〜5弱 〜5強 〜6弱 〜6強 〜7
振幅(1Hz):〜±2.5 〜±6.0 〜±13 〜±21 〜±37 ±37〜
振幅(2Hz):〜±0.6 〜±1.5 〜±3.3 〜±5.3 〜±9.5 ±9.5〜
振幅(3Hz):〜±0.3 〜±0.7 〜±1.5 〜±2.3 〜±4.2 ±4.2〜
これによれば、本発明に係る免震台10を使用した場合、上記の例で震度5強の地震が発生した際に、その周波数が1Hzであるとすると、図1に示すテレビ52では本来13cmにもなる地震による振幅が、その半分以下の6cmまで低減できることが分かる。周波数2Hzや3Hzの場合であっても半減以下(それぞれ、3.3cm→1.5cm、1.5cm→0.7cm)になるのは同様であり、免震台10を使用することによる効果が顕著であることが分かる。
【0029】
このように、本実施の形態に係る免震台10は、「摺動」という作用を利用して極めてシンプルな構造で構成することができ、かつ有効な免震効果を得ることができる。なお、図1において、第1のクッションシート11、第1の摺動シート12が、第2の摺動シート13、第2のクッションシート14よりも長くしてあるのは、地震の際の振幅に応じて両者が相対移動する移動代sを見込んだものである。移動代sの大きさは、前述の震度と振幅の関係から見込むことができる。地震波の周波数が大きくなると振幅は非常に小さく、逆に周波数が小さくなると振幅は大きくなる。どんな地震でも対応できる移動代sは40cmほどと考えられるが、家具等の据え付け場所の制約条件もあることから、図示の例では移動代sを15cmとし、これにより周波数1Hzの地震であれば震度5強まで、周波数2Hz以上の地震であれば震度7でも対応できるようにしている。地震が収まったのち、両者の間に残留変位が生じ原点復帰させる場合には、テレビ台53ごとカーペット51を移動させることで簡単に元の位置に復帰させることができる。カーペット51は、上方に向けて開放される第1のクッションシート12の移動代の部分をカバーする寸法とすることが、摺動面間への異物の混入を防ぐ意味で望ましい。
【0030】
なお、高層ビルにおいては2次モード、3次モードで揺れることがあるため、そのような屋内で使用する際には、上記移動代sを大きめに採っておくことが1つの対応策である。ただし、家具等の側の第2の摺動シート13が、移動代sを越えてさらに移動することであっても特に問題はない。その他の対応として、上述したような免震台10を2つ、もしくはそれ以上の数を重ねて使用し、これによって移動量を確保することが考えられ、これに関しては後述する。また、 摺動作用を利用する免震台10は、地表面を座標面とするX(例えば、南北)方向、Y(同、東西)方向の振動吸収が主体となるが、クッションシート11、14の減衰作用によって実際には地表面に垂直なZ方向の振動をも吸収する効果をも得られることが本願発明者らの実験によって明らかになっており、これに関しても後の実施例において説明する。
【0031】
本発明に係る摺動作用を利用した免震台と、従来技術による免震台とを比較した場合、以下のような顕著な有利点が見られる。
1)構造が簡単であり、従来技術に比較して大幅なコスト低減となる。
2)設置、撤去、管理が極めて容易である。
3)したがって一般家庭の机などの小物から工場の設備に至るまで、幅広い対象物に利用することができる。
4)単純な摺動であるため、機械的な故障がなく、摺動シート(特にはフッ素樹脂シート)の耐久性が高く、メンテナンスフリーで長い年月にわたって安定使用が可能である。
【0032】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る免震台について、図面を参照して説明する。図2は本実施の形態に係る免震台20を示しており(手前側の半分を切断して断面を示す)、ここでは免震台をユニット化した商品として提供できる形態を示している。図2において、免震台20は、第1のクッションシート11、第1の摺動シート12、第2の摺動シート13、第2のクッションシート14を含んでおり、この構成は先の実施の形態に係る免震台10と同様である。本実施の形態に係る免震台20は、これに加えて枠体21と、第2のクッションシート14の上に被せられるオプションの支承板22と、第1のクッションシート11および第1の摺動シート12の周囲に設けられた移動代をカバーする緩衝材23とをさらに含んでいる。第1のクッションシート11および第1の摺動シート12は、枠体21内にキッチリ収まるよう寸法採りがされている。移動代の分だけ小さい面積となる第2の摺動シート13と第2のクッションシート14、加えて支承板22がその上に敷設され、全周に残る移動代の上に板状の緩衝材23が配置されている。
【0033】
枠体21は、シート類を保持し、その相対摺動の限界を定めるものとなる。枠体21は、例えば金属、プラスチック、木材等により製造可能な剛体構造を有するものである。支承板22は、追ってこの上に載置される設備などの荷重が第2のクッションシート14に等分布に掛かるように伝達し、これによって第2のクッションシート14への局部的な応力集中を回避するものである。例えば、机やピアノなどの脚のあるものを載せる場合には支承板22を備えることが好ましいが、底面が平坦な箱類や装置などであれば、そのまま第2のクッションシート14の上に直接載せてもよく、従って支承板22はオプションとして扱うことができる。支承板22は、金属、合板、パーチクルボード、プラスチックなどから製造可能である。
【0034】
枠体21と支承板22を紐状低硬度ゴムにて部分的に固着することも考えられるが、ゴミの混入が避けられない。緩衝材23は、地震時に免震台10の動きをスムーズにさせ、摺動面に埃、ゴミ、異物の混入を防止し、且つ原点復帰機能をもち合わせるものである。緩衝材23は、耐候性のあるゴム材を利用することが好ましい。図2には、緩衝材23の断面形状の一例を示している。ここでは、帯状の断面に対して表裏で互い違いに溝状の凹みを設けており、断面をいわば蛇腹状にしている。図示の平面矩形状の免震台20では、左右、上下に4分割された板状の緩衝材23をそれぞれの辺に対応して隙間なく配置するよう構成しているが、緩衝材23を枠体21の内側形状に合わせて一体で成形してもよい。なお、図2では緩衝材23が厚目に表示されているが、これは各シート11〜14が表示目的のために厚目に描かれているからであって、実際の緩衝材23は、図の厚さ方向よりも幅方向の方がはるかに長めとなる(先の実施の形態の例でいえば、厚さ約10mm(支承板22の板厚を約8mmとする)に対し、幅は約150mm(図1の幅s)となる。)。なお、支承板22と緩衝材23の厚さは諸般の条件を考慮して設定可能である。例えば家具等の幅が広く、これが支承板22の幅から飛び出すような場合、地震により圧縮されて蛇腹状に折り畳まれた緩衝材23が家具等の底部で拘束されることがないよう、支障板23の厚みを大き目に見込むことが望ましい。
【0035】
以上のように構成された免震台20の動作は、基本的に先の実施の形態における免震台10と同様である。本実施の形態に係る免震台20は、図2に示す要素全体をキットとしてユニットでの商取引を行うことを可能にするものである。購入者は、必要な大きさと形状のユニットを入手し、建物内外の必要な位置に設置するだけでよい。後は保護すべき家具等を免震台20の上に配置する。地震発生の際、免震台20内での摺動作用により、支承板22及び第2の摺動シート13と第2のクッションシート14が枠体21に対して相対移動するが、その移動に応じて緩衝材23が圧縮、伸長する。特に圧縮側では、緩衝材23が支承板22と枠体21の間に圧縮される。緩衝材23は断面形状が略蛇腹状であるため、圧縮にしたがって対抗力が増し、これによって支承板22の上に配置された家具等には、地震の揺れによる不要な衝撃荷重が加わることが回避でき、原点復帰も可能になる。また摺動面への埃、ゴミの混入も防止できる構造となっている。
【0036】
図2に示す例では、枠体21と支承板22との間を結ぶ破線で示す係止具24が設けられている。係止具24は、枠体21側に固定され、支承板22とは着脱自在に構成されている。係止具24は免震台20に設けられる拘束機構であり、これがセットされているときには摺動シート12、13の間での摺動が拘束される。係止には、はめ合い機構、差込み機構、マジックテープ(登録商標:マジックバンド)などが利用可能である。係止具24は、例えば免震台20上に配置された商品を乗せたパレットをフォークリフタで乗り上げて取り出す場合などに、免震台20での摺動動作を一次的に回避するために使用される。これは、他の実施の形態に示す免震台においても同様に用いられてもよい。この際、第1の実施の形態に示すような枠体21や支承板22を含まない構成にあっても、第1のクッションシート11と第2のクッションシート14、もしくは第1の摺動シート12と第2の摺動シート13とをまたいで固定するマジックテープ(登録商標)等の係止具24が利用可能である。
【0037】
なお、先に「建物内外」としたのは、本発明にかかる免震台は必ずしも建物内部のみでの使用に限定されず、例えば建物外の軒先下にストックする型具、設備、在庫品の保管などに対しても利用可能であることを意味する。ただし、建物そのものの防振対策への適用に関しては除外される。
【0038】
図3は、本実施の形態に係る免震台20の他の態様を示している。ここでは、免震台20は平面が円形に形成されており、円形の枠体21の内側にピッタリ収まるように第1のクッションシート11と第1の摺動シート12が配置され、その上に面積の小さい第2の摺動シート13、第2のクッションシート14、及びオプションとなる支承板22が配置されている。両者の間にある移動代の上には、環状の緩衝材23が配置され、これによってユニット化が形成される。破線で示す係止具24がさらに設けられてもよい。
【0039】
図2及び図3からも明らかなように、本実施の形態に係る免震台20は、その大きさ、形状は任意に選択可能である。図2に示す形態では事務所内の机や工場内の設備への適用、さらには建物の床面全体への適用も可能である。図3に示す形態では、設備等の各脚に1つずつ小型のものが配置されても良く、あるいは設備等のために大型のものが単独で使用されても良い。
【0040】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る免震台について、図面を参照して説明する。図4(a)は、本実施の形態に係る免震台30を示しており、免震台30は、図1に示すものと同様に第1のクッションシート11、第1の摺動シート12、第2の摺動シート13、第2のクッションシート14がその順で重ねられて形成されている。図は、クッションシート11、14として柔軟性に富む1.5mm厚のゴム系防水シートを使用した例を図式化したものである。本実施の形態の免震台30では、それらの各シートが周囲の少なくとも一部、好ましくは全周囲で接合されている点を特徴としている。接合方法は、例えば接着、融着など、所定の接合強度が得られるものであれば任意である。免震台30には、支承板31が載置されることが好ましく、家具等は支承板31の上に配置される。
【0041】
図4(b)は、地震発生時の免震台30の状況を示している。地震の揺れにより、床面側に位置する第1のクッションシート11および第1の摺動シート12に対し、家具等(図示せず)の側に位置する支承板31が第2の摺動シート13及び第2のクッションシート14と共に図の矢印Aに示す方向に摺動し、相対移動する。この時、両者が図1に示すように単に接触しているだけであれば相対移動に拘束はないが、各シートが周囲で接合された本実施の形態に係る免震台30においては、図4(b)に示すように、両者の相対移動によって周囲の接合箇所が拘束されたままで各シートがたくり上げられ、変形する。相対移動量が大きいほどこの変形は大きく、変形が進むに従って摺動に対してより大きな抵抗力を生むものとなる。この抵抗力が上側に載置された家具等の移動量を一定限度に抑える効果を奏するものとなる。さらには、相対移動したことにより生ずる変形が元の状態に戻ろうとする力が作用し、これが相対移動量を元に戻そうとする一定の原点復帰力となる。
【0042】
以上のように構成された本実施の形態にかかる免震台30のさらなる利点としては、特には各シートの周囲が接合されている場合、周囲から摺動面内に水分や埃が浸入することがなく、良好な低摩擦係数を長期間にわたって維持できることが挙げられる。加えて、柔軟性のあるシート材のみでユニットが構成されことから、巻く、折り曲げるなどにより比較的大きなサイズであっても商品流通が容易になることなどが挙げられる。免震台30の平面形状は、図示の矩形状に限らず、円形状など任意に選択が可能である。
【0043】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る免震台について、図面を参照して説明する。図5(a)は、本実施の形態に係る免震台40を示しており、免震台40は、図1に示すものと同様の第1のクッションシート11及び第1の摺動シート12とからなる第1の摺動部材41と、第2の摺動シート13及び第2のクッションシート14とからなる第2の摺動部材42と、その両者を周囲でつなぐ弾性連結部材43(43a、43b、43c、43d)とから構成されている。後述する家具類の重量と地震の速度で決まる衝撃エネルギと弾性連結部材43の吸収エネルギとが同一値になるように、弾性連結部材43の超低硬度ゴムの厚み×幅×長さを決定することができる。また、実験的に効果を見極めた上でサイズを決定することもできる。本実施の形態では、弾性連結部材43として、破断伸びが約1600%となるゲル状シートが使用されており、より具体的には低硬度のスチレン・ブタジエン系エラストマ(TPS)、ウレタン系エラストマ(TPU)、EPDM系加硫ゴムなどが使用可能である。弾性連結部材43の両端は、接着、融着などの適切な手段によって第1、第2の摺動部材41、42にそれぞれ接合される。この際の接合は、他の部材を介して間接的に第1と第2の摺動部材41、42が接合されることでもよい。
【0044】
以上のように構成された免震台40の地震発生時の動作は、床面側に置かれた第1の摺動部材41と家具等の側に置かれた第2の摺動部材42とが、各摺動シート12、13間の摺動により図5(b)の矢印で示すように相対移動する。図示の矢印の方向は一例であって、実際には任意の方向に相対移動する。この間の動作はこれまでの実施の形態と同様である。本実施の形態に係る免震台40では、その際に周囲に配置された弾性連結部材43が相対移動する両摺動部材41、42にそれぞれ引っ張られて伸張する。例えば第1、第2の摺動部材41、42の厚さがそれぞれ5mmとすれば、弾性連結部材43の側面高さはこの合計で約10mmとなり、破断伸びを1600%とすれば最大16cmまでの伸長を許容するものとなる。この伸び代であれば、第1の実施の形態の例で示す15cmの移動代にも十分対応可能となる。当然ながら、弾性連結部材43の高さ部分をより長くすることによって、より大きな伸び代を得ることができる。また、破断伸びの1600%は一例であって、所望の伸びが得られるようであればこれ以上であってもこれ以下であってもよい。
【0045】
第1の実施の形態に示す例のように免震台10を一対の摺動部材のみで構成した場合では、相対的な滑りによる自由移動となるため、慣性により移動量が増したり、あるいは移動後に両摺動部材が相対的にずれた位置のままで留まったりするものとなる。本実施の形態に係る免震台40では、弾性連結部材43により第1と第2の摺動部材41、42を結ぶことで、両摺動部材41、42の相対移動量が増すに従って弾性連結部材43が縮む方向へ反力を及ぼし、相対移動量を制限する制振機能を果たすことになる(実施例3参照)。
【0046】
弾性連結部材43を設けるさらなる利点は、相対移動した後の摺動部材41、42を当初のずれのない原点位置に復帰させる復元力を付与することである。特には家具等の重量が過分に重かった場合、原点復帰は、瞬時に行われないとしても、復元力が常時作用し続けることによって周囲での何らか要因による振動などの折に徐々に原点復帰することもあり得る(実施例3参照)。
【0047】
弾性連結部材43は、必ずしも図示のように4分割(43a〜43d)とする必要はなく、十分な強度が得られるようであれば、一対の対辺に対向する一対の連結部材として構成してもよい。あるいは、免震台40の周囲全体をスッポリと覆う環状のつば付き一体部材として成型することも可能である。このように構成することで、免震台40の平面形状は矩形には限定されず、例えば略円形であっても、略円形の弾性連結部材43でその周囲を覆うことで同様の効果を得ることができる。弾性連結部材43により免震台40の周囲を完全に覆った際には、摺動シート12、13の間に塵、埃が侵入することを防ぐ効果をも得ることができる。周囲を完全に覆わず、図示のように分割形の弾性連結部材43とすることであっても、各弾性連結部材43a〜43dの幅を両摺動部材41、42の対応する辺の長さに近づけて広くとることによって、ほぼ同等の効果を得ることもできる。
【0048】
図6は、本実施の形態に係る免震台40の他の応用例を示している。ここでは、免震台40の第2の摺動部材42の上に、垂直方向の振動を吸収するための振動吸収材45が固定されている。固定は、例えば接着などにより可能である。振動吸収材45の材料としては、ゴムの利用も可能ではあるが、減衰能を考慮すれば、使用済みの廃タイヤ又は、工業用ゴム部品を粉砕して平板状に固めた多孔質ゴムチップ盤状体を振動吸収材として利用することが好ましい。図示の例では、10mm厚のタイヤチップからなる振動吸収材45を使用している。第1の実施の形態に示す免震台10においても、第1、第2のクッションシート11、14のみでも垂直方向の振動吸収効果が見られるが、これらに加えてより振動吸収能の高い振動吸収材45を加えることで、地震にともなう上下振動をより効果的に吸収し、被害を軽減する効果を高めることができる。水平方向の振動吸収に関しては上述した第4の実施の形態と同様である。廃材であるタイヤチップの利用は、環境保護への貢献をも果たすものとなる。
【0049】
上述した垂直方向の振動を吸収する振動吸収材45の利用は、先に述べた第1〜第3の実施の形態においても同様に適用可能である。また、上述した例では振動吸収材45を家具等の側に位置する第2の摺動部材42の側に設けているが、これを床面側に位置する第1の摺動部材41の側に設けても、あるいはこれら両方の側に設けても同様な効果を得ることができる。
【0050】
以上、本発明の各実施の形態に係る免震台について説明してきたが、各免震台には各種の改善が可能である。例えば、上側に位置する第2のクッションシート14には、その上面に装飾をほどこし、例えば植毛などを行うことで図1に示すカーペット51を除くことができる。また、第2のクッションシート14の上に別要素となる支承板22、31を設けることなく、支承板自身にクッションシートとなるゴム材を焼き付けて一体とすることなども可能である。あるいは図1に示す例において、本発明にかかる免震台10をカーペットの表地と裏地の間に内包させ、免震効果を備えたカーペットとして構成することもできる。
【0051】
さらに、本発明は以上に述べた各態様に係る免震台の構成を利用した免震方法をも包含している。すなわち、本発明に係る免震方法は、低摩擦材からなる摺動シートとクッションシートとの組み合わせに係る摺動部材を該摺動シート同士が対向するよう一対重ね合わせて免震台を構成し、該免震台を建物の床面と家具等との間に介在させて該一対の摺動シート間の摺動作用により、また一対のクッションシートの減衰作用により、床面から家具等に伝達される地震による振動を軽減させることを特徴とする方法である。前記一対の摺動シートは、建物内部の床面をほぼ覆うように設置して建物内にある全ての家具等に対する免震効果を提供するよう構成することもできる。
【0052】
また、一対の摺動部材からなる免震台は単数に限らず、複数を重ねて使用して免震効果を高めることもできる。特には高層ビルにおいては共振により、もしくは長周期振動により左右方向の振幅が増幅される場合がある。免震台を複数重ねて敷設することにより、このような振幅の増大に伴う家具等への影響度をさらに軽減させることができる。第4の実施の形態に示す弾性連結部材を備えた免震台の構造による場合には、免震台を多層重ねることよって、応力見合いの変位量を大きくすることができる(実施例4参照)。
【実施例1】
【0053】
フッ素樹脂シート、超高分子樹脂シートの組合せによる静摩擦係数を、テストピースを用いて測定し、検証した。
1.試料の大きさ 300×300mm
2.構成
摺動シート(0.2mm)(1)フッ素樹脂シート 本多産業(株)製
(2)超高分子ポリエチレンシート 厚木ヒューテック製
【表1】


上記結果より、いずれの組み合わせにおいても、鉛直荷重によって摩擦係数は大きな差はないことが確認できた。中でも、フッ素樹脂シート/フッ素樹脂シートの組み合わせによる摩擦係数が最も良好であり、次いで僅かな差ではあるがフッ素樹脂トート/超高分子樹脂シートの組み合わせが挙げられる。超高分子樹脂シート同士の組合せは摩擦係数が0.4を上回るものとなり、摺動効果はやや劣るものとなる。なお、本明細書でいう「低摩擦係数」、もしくは「低摩擦材」における摩擦係数は、この超高分子樹脂シート同士の組合せを限度とするもので、具体的には静摩擦係数が0.43以下であることを意味するものとする。
【実施例2】
【0054】
平成23年 3月11日の東北地方太平洋沖地震及びその後の余震において、本発明に係る免震台の入力加速度と応答加速度を測定した。第1の実施の形態に係る免震台とほぼ同様のアスファルトシート(1.5mm厚)・フッ素樹脂シート(0.075mm厚)/フッ素樹脂シート(0.075mm厚)・バラストマット(25mm厚)の組み合わせからなる摺動構造を備えた免震台にセンサを設置し、パソコン接続型地震計(数理設計研究所製)を用いて入力加速度と応答加速度を測定したものである。試験装置が設置された神奈川県相模原市では各地震の震度が5弱以下であったため、水平方向(南北のX方向、及び東西のY方向)での加速度差(振動吸収)は必ずしも明りょうに捉えられなかったが、垂直方向(Z方向)での振動吸収効果が見られた。これは、クッションシートとしてバラストマット(25mm厚)敷設による効果と思われる。以下に示す表2〜4は、その際の測定結果を示している。
【表2】

【表3】

【表4】

【実施例3】
【0055】
第4の実施の形態に係る免震台40の弾性連結部材43による減数機能、復元機能を検証した。
弾性連結部材に求められる性能は、反力を抑えて変位量を大きくとる設計にすることが肝要である。4辺すべてに2mm厚×4cm巾の超低硬度ゴムからなる弾性連結部材43で固着した免震台40の場合と、4辺すべてに2mm厚×8cm巾の超低硬度ゴムからなる弾性連結部材43で固着した免震台40(図5参照)を、別々に40kgの重量が載った支持台の下側コーナ部に配置した場合の反力と変位量を以下の関係式から求めてみた。
床の衝突エネルギと免震台40の吸収エネルギとの間の関係式1/2・mv=1/2・kx(m:載荷重量、v:速度、k:単位伸び当りの応力、x:変位量)から、入力加速度500galで、周波数1.67Hzを前提として両弾性連結部材43の伸びの変位量を算出すると以下のようになる。
2mm厚×8cm巾の弾性連結部材43: 8.9cm
2mm厚×4cm巾の弾性連結部材43:12.6cm
これにより、巾を変化させることで伸びの変位量は変化するが、弾性連結部材として低硬度のものを使用することによって反力を抑え、変位量を大きくし、吸収エネルギを大きくして減衰効果を高めることができることを確認できた。同時に残留変位量もほぼゼロであり、原点復帰機能もあることも確認できた。
【実施例4】
【0056】
免震台を複数層重ねて使用することによる効果を検証した。
5mm厚×10cm角の第1の摺動部材41と、同一サイズの第2の摺動部材42を合せて1つの免震台を構成する。この免震台を1つ使用する1層のものと、これを2つ重ねた2層の免震台とを準備する。
2mm厚×4cm巾の弾性連結部材を免震台の四辺に取り付けるものとし、これを上記1層からなる免震台と2層からなる免震台の各第1の摺動部材と第2の摺動部材とを四辺で結ぶ。この状態で両者に滑り方向の力を同じ条件で加えて比較すると、伸び応力の変位量が1層のみからなる免震台よりも2層の免震台の方が大きくなることが分かった。すなわち弾性連結部材を備えた免震台を多層にすることによって、応力見合いの変位量を大きくできることが見出された。これによって地震による移動変位量は大きくなっても、ショックは小さく、衝撃エネルギ見合いの吸収エネルギを確保することができる方法であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る免震方法および免震台は、免震部材の開発、製造、販売、利用を図る産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10、20、30.免震台、 11.第1のクッションシート、 12.第1の摺動シート、 13.第2の摺動シート、 14.第2のクッションシート、 21.枠体、 22、31.支承板、 23.緩衝材、 24.係止具、 40.免震台、 41.第1の摺動部材、 42.第2の摺動部材、 43.弾性連結部材、 45.振動吸収材、50.床面、 51.カーペット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の内部もしくはその周辺に配置された家具等を、地震の際に倒壊や損壊から守るための免震方法において、
低摩擦材からなる摺動シートと、該摺動シートをバックアップするよう重ね合わされるクッションシートとから構成される摺動部材の一対を、双方の前記摺動部材の摺動シート面同士が対向するよう重ね合わせて建物の床面と前記家具等との間に介在させ、前記対向する一対の摺動シート間の摺動作用、および前記一対のクッションシートの減衰作用の少なくともいずれかにより、床面から前記家具等に伝達される地震による振動を軽減させることを特徴とする免震方法。
【請求項2】
前記一対の摺動部材を複数重ね合わせて建物の床面と家具等との間に配置し、もしくは該複数を個別に建物の床面と家具等との間に配置することにより地震による振動を軽減させる、請求項1に記載の免震方法。
【請求項3】
前記一対の摺動部材の周囲の少なくとも一部の間を接合することにより、または弾性連結部材で結ぶことにより、前記一対の摺動部材間の相対変位量を制限し、もしくは相対移動した前記一対の摺動部材を原点復帰させる、請求項1または請求項2に記載の免震方法。
【請求項4】
前記一対の摺動部材の少なくともいずれか一方のクッションシートに振動吸収部材を取り付けることにより、地震による垂直方向の振動をさらに吸収する、請求項1から請求項3のいずれか一に記載された免震方法。
【請求項5】
建物の内部もしくはその周辺に配置された家具等を地震の際に倒壊もしくは損壊から守るため、建物の床面と前記家具等の間に配置される免震台であって、
低摩擦材からなる摺動シートと、これをバックアップするよう重ね合わされるクッションシートとからなる摺動部材の一対から構成され、
前記一対の摺動部材の各摺動シートの面同士が対向するよう重ね合わされ、該摺動シート間の摺動作用、および前記クッションシートの減衰作用の少なくともいずれかによって地震による振動を軽減するよう構成されていることを特徴とする免震台。
【請求項6】
前記一対の摺動部材の内の床面側に配置される摺動部材の周囲に、両摺動部材の相対移動を見込んだ移動代が家具等の側に配置される摺動部材に対して余分に設けられている、請求項5に記載の免震台。
【請求項7】
前記床面側に配置される摺動部材が枠体内に配置され、家具等の側に配置される摺動部材の該枠体に対する移動を緩衝する緩衝材が前記移動代の上に被せられている、請求項6に記載の免震台。
【請求項8】
前記一対の摺動部材間の相対移動を容認もしくは拘束する、解除可能な拘束機構をさらに備えている、請求項5から請求項7のいずれか一に記載の免震台。
【請求項9】
前記一対の摺動部材の少なくともいずれか一方のクッションシートに、地震による垂直方向の振動をさらに吸収する振動吸収部材が取り付けられている、請求項5から請求項8のいずれか一に記載の免震台。
【請求項10】
前記一対の摺動部材の周囲の少なくとも一部、もしくは周囲全体が接合されている、請求項5に記載の免震台。
【請求項11】
前記一対の摺動部材の周囲の少なくとも一部を結び、該一対の摺動部材の相対変位量を制限し、もしくは該一対の摺動部材間の相対移動を戻して原点復帰させる弾性結合部材をさらに備えている、請求項5から請求項9のいずれか一に記載の免震台。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−46743(P2013−46743A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135667(P2012−135667)
【出願日】平成24年6月15日(2012.6.15)
【出願人】(508267484)
【Fターム(参考)】