説明

入浴用リフタのバルブ機構

【課題】 手動でシリンダ装置のロッド部材を上昇・下降させることができ、しかも、大型化することがなく、また、コストを抑えることのできる入浴用リフタのバルブ機構を提供することである。
【解決手段】 プッシュピン19、20を押し込んで、弁体27の切換動作を行うことができる構成にしている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、入浴用リフタのシリンダ装置に流体を給排するバルブ機構に関する。
【0002】
【従来の技術】最近では、高齢者等の被介護者を入浴させるのに、家庭でも入浴用リフタが使用されるようになっている。入浴用リフタは、図3に示すように、浴室の床に突設したシリンダ装置Sと、このシリンダ装置Sのロッド部材1の上端で水平に支持されたアーム機構Aと、このアーム機構Aの先端につり下げた椅子Cとからなる。
【0003】上記アーム機構Aは、シリンダ装置Sのロッド部材1の上端に回転自在に連結する第1アームA1と、この第1アームA1に関節機構2を介して回転自在に連結する第2アームA2とからなる。そして、第2アームA2の先端に、上記椅子Cをつり下げるようにしている。このようにしたアーム機構Aでは、椅子Cをシリンダ装置Sの周りで旋回させるだけでなく、第1アームA1と第2アームA2とを任意の角度で相対回転させることで、椅子Cを水平面内で自由に動かすことができる。
【0004】被介護者を入浴させるときは、具体的に図示しないが、介護者が上記アーム機構Aを操作して椅子Cを脱衣所に位置させるとともに、コントローラ6を下降操作する。コントローラ6を下降操作すると、シリンダ装置Sに取り付けたバルブ機構Vが機能して、シリンダチューブ3内の流体を排出し、ロッド部材1を下降させることができる。そして、ロッド部材1を下降させた状態で、被介護者を椅子Cに座らせればよい。
【0005】被介護者を椅子Cに座らせたら、今度は、アーム機構Aを操作して椅子Cを浴室内に移動させるとともに、コントローラ6を上昇操作する。コントローラ6を上昇操作すると、バルブ機構Vが機能して、シリンダチューブ3内に流体を導き、ロッド部材1を上昇させることができる。そして、椅子Cを浴槽の上まで運んだら、再びロッド部材1を下降させて、被介護者を椅子Cごと浴槽につからせる。
【0006】図4には、上記入浴用リフタのバルブ機構Vを示す。シリンダ装置Sは、浴室に固定したシリンダチューブ3内に、ロッド部材1を組み込んだものである。そして、ロッド部材1に設けたピストン4を、シリンダチューブ3の内周面に対して摺動させるようにしている。したがって、シリンダチューブ3内には、ピストン4によって圧力室5が区画される。そして、これから説明するバルブ機構Vによって、圧力室5に流体を導いたり、圧力室5の流体を排出したりして、ロッド部材1を上昇・下降させるようにしている。
【0007】バルブ機構V内では、図4に示すように、流体源7とシリンダ装置Sの圧力室5とをメインライン8で連通している。そして、このメインライン8に、供給用バルブ9を設けている。供給用バルブ9は、具体構造の説明は省略するが、内部に組み込まれた電磁ソレノイドによって切り換えられ、流体源7と圧力室5とを遮断したり、流体源7から供給される流体を圧力室5に導いたりするものである。なお、符号10はフィルターであり、また、符号11は圧力室5側からの流体の逆流を防止する逆止弁である。
【0008】また、上記供給用バルブ9より下流側では、メインライン8に排出ライン12を接続している。そして、この排出ライン12に、排出用バルブ13を設けている。排出用バルブ13は、上記供給用バルブ9と同じく、内部に組み込まれた電磁ソレノイドによって切り換えられ、圧力室5と排出側とを遮断したり、圧力室5の流体を排出側に排出したりするものである。なお、符号14は、排出流量を調整するための調整弁である。そして、この調整弁14の開度を変えることで、ロッド部材1の下降スピードを調整するようにしている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記従来例の入浴用リフタでは、例えば、供給用バルブ9が故障すると、椅子Cを持ち上げることができなくなってしまう。そのため、状況によっては、被介護者が浴槽につかったままとなってしまうおそれがある。同様に、排出用バルブ13が故障すると、椅子Cを下げることができなくなってしまう。そのため、状況によっては、被介護者が椅子Cに座った状態でつり下げられたままとなってしまうおそれがある。
【0010】一方、上記のような問題が生じるのを防ぐため、図5に示すように、バルブ9、13と別に、手動バルブ15、16を設けることが考えられる。すなわち、メインライン8とパラレルに供給用サブライン17を接続するとともに、この供給用サブライン17に手動バルブ15を設けている。この手動バルブ15は、通常は閉じているが、それを開けば、流体源7から供給用サブライン17を介して圧力室5に流体を導き、ロッド部材1を上昇させることができる。したがって、供給用バルブ9が故障したような場合でも、手動バルブ15を開けば、椅子Cを持ち上げることができる。
【0011】同じく、排出ライン12とパラレルに排出用サブライン18を接続するとともに、この排出用サブライン18に手動バルブ16を設けている。この手動バルブ16は、通常は閉じているが、それを開けば、圧力室5から排出用サブライン18を介して流体を排出して、ロッド部材1を下降させることができる。したがって、排出用バルブ13が故障したような場合でも、手動バルブ16を開けば、椅子Cを下げることができる。
【0012】ところが、上記のようにサブライン17、18を設け、これらサブライン17、18に手動バルブ15、16を設置するのでは、バルブ機構Vが大型化し、コストもかかってしまう。特に、入浴用リフタを一般家庭用として普及させるには、できるだけ小型であり、また、価格を抑えることが要求される。この発明の目的は、手動でシリンダ装置Sのロッド部材1を上昇・下降させることができ、しかも、大型化することがなく、また、コストを抑えることのできる入浴用リフタのバルブ機構を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】この発明は、入浴用リフタは、浴室の床に突設したシリンダ装置と、シリンダ装置によって支持されるアーム機構と、アーム機構につり下げられた椅子とからなり、この入浴用リフタのシリンダ装置に流体を給排して、シリンダ装置を上昇・下降させるための入浴用リフタのバルブ機構を前提とする。そして、第1の発明は、 バルブボディと、バルブボディ内に組み込み、弁体の移動によって、流体源とシリンダ装置との間の流体の供給・排出・給排停止の切換動作を行うバルブと、バルブボディから突出させたプッシュピンとを備え、当該プッシュピンを押し込んで、弁体の切換動作を行うことができる構成にした点に特徴を有する。
【0014】第2の発明は、バルブボディ内でプッシュピンの端部を弁体から離しておき、プッシュピンを押し込んだとき、このプッシュピンの端部が弁体に当接して、この弁体を動かす構成にした点に特徴を有する。
【0015】
【発明の実施の形態】図1、2に、本発明の入浴用リフタのバルブ機構について一実施例を示す。この実施例は、プッシュピン19、20を設けた点に特徴を有するものである。以下では、上記従来例との相違点を中心に説明するとともに、従来例と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0016】図1に示すように、供給用バルブ9及び排出用バルブ13のそれぞれに、プッシュピン19、20を設けている。ただし、これらプッシュピン19、20は、通常のバルブ9、13の切り換えに影響を与えない状態となっている。そして、プッシュピン19を押し込むと、上記供給用バルブ9が強制的に切り換えられて、シリンダ装置Sの圧力室5に流体を導くようにしている。同じく、プッシュピン20を押し込むと、上記排出用バルブ13が強制的に切り換えられて、シリンダ装置Sの圧力室5から流体を排出するようにしている。
【0017】図2には、上記バルブ機構Vのうち、排出用バルブ13の具体的な構造を示す。バルブボディ21には、図示しないシリンダ装置Sの圧力室5に接続する通路22と、図示しない排出側に接続する通路23と隣り合わせて形成している。そして、これら通路22、23の連通部分に、組み付け穴24を形成している。さらに、この組み付け穴24内にスリーブ25を固定して、このスリーブ25を介して両通路22、23が連通するようにしている。
【0018】なお、通路22の圧力、言い換えれば、シリンダ装置の圧力室5の圧力は、ロッド部材1、ピストン4、椅子C、さらには椅子Cに座った被介護者の荷重によって決められる。そして、その圧力は、大気圧よりも高くなっている。一方、通路23の圧力は、調整弁14を介して開放されているので、ほぼ大気圧となっている。したがって、通路22の圧力は、通路23の圧力よりも高い状態に維持される。
【0019】また、上記バルブボディ21にケース26を取り付けて、このケース26の先端部分を上記組み付け穴24に挿入固定している。ケース26内には、ポペット27を組み込み、このポペット27の側部とケース26の内周面との間にダイアフラム28を介在させている。したがって、ポペット27の背面側には、ダイアフラム28とケース26とによって背圧室29が形成される。上記ポペット27の側部付近には、背圧室29を通路22側に連通する絞り通路32を形成している。また、ポペット27の中心には、背圧室29を通路23側に連通する連通路33を形成している。
【0020】さらに、ケース26内には、プランジャ30を組み込んでいる。そして、このスプリング39の弾性力によって、プランジャ30の端部を上記ポペット27の背面に当接させている。さらに、プランジャ30の周囲にコイル31を配置し、このコイル31を励磁したとき、プランジャ30が、スプリング39の弾性力に抗して、ポペット27の背面から離れる方向に移動するようにしている。そして、プランジャ30の端部がポペット27の背面から離れると、背圧室29と通路23とは連通状態となる。
【0021】このようにした排出用バルブ13では、図示しないコントローラ6を下降操作すると、コイル31が励磁され、上記のようにプランジャ30がポペット27の背面から離れる。したがって、背圧室29と通路23とが連通状態となり、背圧室29の圧力は、通路23の圧力、すなわち、ほぼ大気圧まで低下する。一方、ポペット27の前面端部側には、通路22の圧力が作用している。したがって、ポペット27に作用する圧力バランスによって、ポペット27は、プランジャ30側に移動し、スリーブ25端部から離れる。そして、ポペット27がスリーブ25端部から離れれば、通路22から通路23への流れが許容され、図示しないシリンダ装置Sを下降させることになる。
【0022】上記の状態から、図示しないコントローラ6の下降操作を止めると、コイル31の励磁も止められる。コイル31の励磁が止められると、前述のように、スプリング39の弾性力によって、プランジャ30の端部が上記ポペット27の背面に当接する。したがって、背圧室29と通路23とを連通する連通路33が塞がれることになる。そして、連通路33が塞がれると、背圧室29の圧力は、絞り通路32を介して通路22の圧力になるので、ポペット27に作用する圧力バランスによって、ポペット27はスリーブ25端部に当接し、通路22と通路23とを遮断する。
【0023】一方、上記バルブボディ21には、プッシュピン20を組み付けている。すなわち、バルブボディ21にスプリング室34を形成し、このスプリング室34を、挿通孔35を介して上記組み付け穴24側に連通させている。そして、このスプリング室34にプッシュピン20を組み付けるとともに、このプッシュピン20を、上記挿通孔35に貫通させて、組み付け穴24にあるスリーブ25内に挿入している。
【0024】また、プッシュピン20にはスプリング受け36を固定し、このスプリング受け36とスプリング室34の底部との間にスプリング37を介在させている。したがって、プッシュピン20には、組み付け穴24側から抜ける方向にスプリング37の弾性力が作用することになる。その状態で、プラグ38をスプリング室34に挿入固定するとともに、このプラグ38の内周面で、上記プッシュピン20を支持する。
【0025】通常は、図2に示すように、スプリング37の弾性力によって、スプリング受け36がプラグ38の挿入端部に当接した状態となっている。この状態では、バルブボディ21内では、プッシュピン20の端部が上記ポペット27から離れている。したがって、ポペット27の動きになんら影響を与えることがなく、上記排出用バルブ13は、既に説明したとおり、コイル31の励磁・非励磁に応じて作動する。
【0026】それに対して、ポペット27がスリーブ25端部に当接しているとき、プッシュピン20をスプリング37に抗して押し込むと、このプッシュピン20の先端がポペット27に当接する。そして、そのままプッシュピン20を押し込めば、ポペット27を、スプリング39に抗して強制的にスリーブ25端部から離すことができる。したがって、通路22から通路23への流れを許容して、図示しないシリンダ装置を下降させることができる。
【0027】なお、図2では、排出用バルブ13及びプッシュピン20について説明したが、供給用バルブ9及びプッシュピン19の構造についても同じである。そして、これら供給用バルブ9と排出用バルブ13とは、同一のバルブボディに組み込んでもよいし、それぞれ別々のバルブボディに組み込んでもよい。
【0028】以上述べた実施例によれば、プッシュピン19を押し込めば、流体源7からシリンダ装置Sの圧力室5に流体を導き、ロッド部材1を上昇させることができる。したがって、供給用バルブ9が故障したような場合でも、プッシュピン19を押し込むことで、椅子Cを持ち上げることができ、被介護者が浴槽につかったままとなるような状況を防ぐことができる。
【0029】同じく、プッシュピン20を押し込めば、シリンダ装置Sの圧力室5から流体を排出して、ロッド部材1を下降させることができる。したがって、排出用バルブ13が故障したような場合でも、プッシュピン20を押し込むことで、椅子Cを下げることができ、被介護者が椅子Cに座った状態でつり下げられたままとなるような状況を防ぐことができる。
【0030】しかも、サブラインを設けたり、他のバルブ類を設けたりするのではなく、プッシュピン19、20を組み付けるだけでよいので、バルブ機構Vが大型化することなく、コストもさほどかからない。そして、バルブ機構Vが大型化することなく、コストもかからなければ、入浴用リフタの機能を向上させながらも、大型化するのを避けることができ、その価格を抑えることもできる。
【0031】なお、図2の具体例で示したポペット27が、この発明でいう弁体を構成するが、それに限定するものではない。例えば、バルブ9、13としてスプール切り換え弁を使用する場合は、そのスプールが、この発明でいう弁体を構成することになる。そして、プッシュピン19、20を押し込んだとき、これらプッシュピン19、20をスプール端部に当接させて、このスプールを動かすようにすればよい。
【0032】
【発明の効果】第1の発明によれば、プッシュピンを押し込めば、流体源からシリンダ装置に流体を導き、このシリンダ装置を上昇させることができる。したがって、バルブが故障したような場合でも、プッシュピンを押し込むことで、椅子を持ち上げることができ、被介護者が浴槽につかったままとなるような状況を防ぐことができる。あるいは、プッシュピンを押し込めば、シリンダ装置の流体を排出して、このシリンダ装置を下降させることができる。したがって、バルブが故障したような場合でも、排出用プッシュピンを押し込むことで、椅子を下げることができ、被介護者が椅子に座った状態でつり下げられたままとなるような状況を防ぐことができる。しかも、プッシュピンを組み付けるだけでよいので、バルブ機構が大型化することなく、コストもさほどかからない。そして、バルブ機構が大型化することなく、コストもかからなければ、入浴用リフタの機能を向上させながらも、大型化するのを避けることができ、その価格を抑えることもできる。
【0033】第2の発明によれば、第1の発明において、プッシュピンを押し込まない限り、プッシュピンは弁体から離れているので、この弁体の通常の動きを妨げることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例のバルブ機構Vを示す図である。
【図2】バルブ機構Vのうち、排出用バルブ13の具体構造の一例を示す断面図である。
【図3】入浴用リフタを示す図である。
【図4】従来例のバルブ機構Vを示す図である。
【図5】従来例のバルブ機構Vの他のタイプを示す図である。
【符号の説明】
S シリンダ装置
1 ロッド部材
3 シリンダチューブ
4 ピストン
5 圧力室
9 供給用バルブ
13 排出用バルブ
19、20 プッシュピン
21 バルブボディ
27 ポペット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 入浴用リフタは、浴室の床に突設したシリンダ装置と、シリンダ装置によって支持されるアーム機構と、アーム機構につり下げられた椅子とからなり、この入浴用リフタのシリンダ装置に流体を給排して、シリンダ装置を上昇・下降させるための入浴用リフタのバルブ機構において、バルブボディと、バルブボディ内に組み込み、弁体の移動によって、流体源とシリンダ装置との間の流体の供給・排出・給排停止の切換動作を行うバルブと、バルブボディから突出させたプッシュピンとを備え、当該プッシュピンを押し込んで、弁体の切換動作を行うことができる構成にしたことを特徴とする入浴用リフタのバルブ機構。
【請求項2】 バルブボディ内でプッシュピンの端部を弁体から離しておき、プッシュピンを押し込んだとき、このプッシュピンの端部が弁体に当接して、この弁体を動かす構成にしたことを特徴とする請求項1記載の入浴用リフタのバルブ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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