説明

入浴用車椅子

【課題】 シート部へ入浴者を移乗させる際に、介助者が入浴用車椅子へ最大限接近できるようにし移乗に係る作業性を向上させた入浴用車椅子を提供すること。
【解決手段】 走行可能な台車部と、台車部に軸着された背凭部と、背凭部に固着された座席部と、座席部に対して水平方向に旋回可能に取着された左右一対の下肢支持部とを有し、左右の下肢支持部をそれぞれ座席部の側方方向へ旋回可能としたことを特徴とする入浴用車椅子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴者を着座状態で浴槽内へ挿入し入浴に供する入浴用の車椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、シート部の前方両側部に肘掛けを備え、シート部の前方下部にフットレストを備えた車椅子が開示されている。
【0003】
上記の車椅子は、フットレストが椅子部本体の前方に常に固定状態とされている為、介助者が入浴者を搬送用の他機器(車椅子等)から入浴用の車椅子のシート部へ移乗させる際にフットレストが移乗作業の邪魔になり不便であるといった欠点を有していた。
【特許文献1】特開平9−108290号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、シート部へ入浴者を移乗させる際に、介助者が入浴用車椅子へ最大限接近できるようにし移乗に係る作業性を向上させた入浴用車椅子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を実現する為、本発明では、走行可能な台車部と、台車部に軸着された背凭部と、背凭部に固着された座席部と、座席部に対して水平方向に旋回可能に取着された左右一対の下肢支持部とを有し、左右の下肢支持部をそれぞれ座席部の側方方向へ退避可能としたことを特徴としている。
【0006】
又、走行可能な台車部と、台車部に軸着された背凭部と、背凭部に固着された座席部と、座席部に対して前後方向に摺動可能に取着された下肢支持部とを有し、下肢支持部を座席部に対して後方向へ摺動させることにより下肢支持部の少なくとも一部を座席部の下方に退避可能としたことを特徴とする。
【0007】
更に、下肢支持部を座席部に対して複数段階的に後方向へ摺動させることを特徴とする。
【0008】
更に、下肢支持部の先部を鉛直方向に回動可能したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は左右一対の下肢支持部をそれぞれ座席部の側方方向へ退避可能としたものであるから、介助者は入浴者を浴室まで搬送する他の車椅子等の福祉機器から入浴者を座席部に移乗させる作業を行う際、又は、本発明の入浴用車椅子から他の福祉機器に入浴者を移乗させる作業を行う際に、一対の下肢支持部を座席部の左右側方方向へ旋回させ一時的に退避することで座席部前方に移乗作業スペースを確保でき、下肢支持部が座席部前方からの移乗作業の妨げとならず移乗作業を円滑に行え、フットレストが座席部の前方位置に常時固定状態にある従来の車椅子に比して、介助者は座席部の前方向から入浴用車椅子により接近して移乗作業を行うことができるのでより楽な体勢で移乗作業が行え、その結果、介助者の作業労力及び負担を軽減できる。
【0010】
本発明は下肢支持部を座席部に対して後方向へ摺動可能としたものであるから、介助者は下肢支持部を座席部の下方に一時的に退避することで下肢支持部が移乗作業の妨げにならず移乗作業を円滑に行え、座席部の前方向から接近して移乗作業を行うことができるのでより楽な体勢で移乗作業が行え、その結果、介助者の作業労力及び負担を軽減できる。
【0011】
又、従来の車椅子では移乗作業時に介助者が誤って入浴者の下肢をフットレストに衝突させてしまい、入浴者の下肢に損傷を与えてしまうといった危険性が懸念されていたが、本発明は移乗作業時に下肢支持部を座席部の下方に退避収納しておけば前記のような危険性を回避でき、安全に移乗作業が行える。更に、入浴用車椅子の未使用時には、下肢支持部を座席部の下方奥側に退避収納することで入浴用車椅子の全長を短縮することができ、入浴用車椅子の保管場所等における占有スペースを低減させることができ、限られた狭いスペースの区域にも当該入浴用車椅子を保管できるといった利点がある。
【0012】
座席部に対して下肢支持部を複数段階的に後方向へ摺動させることにより、下肢支持部を座席部の下方奥側へ退避させる本発明によれば、前後摺動ストロークを十分確保でき、座席部の前方へ延出した下肢支持部の大部分を座席部の奥側方向まで退避させることが可能となる。
【0013】
又、座席部に対して下肢支持部を後方向へ摺動させた後、下肢支持部の先部(足載せ枠)を鉛直方向の下方に回動させる本発明によれば、容易な操作で座席部の前方へ延出した下肢支持部を座席部の下方へ退避させることができ、入浴用車椅子の操作に不慣れな介助者であっても簡便に楽に下肢支持部の退避作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
シート部へ入浴者を移乗させる際に、介助者が入浴用車椅子へ最大限接近できるようにし移乗に係る作業性を向上させるという目的を、座席部に対して水平方向に旋回可能に取着された左右一対の下肢支持部をそれぞれ座席部の側方方向へ一時的に旋回退避とすることにより実現した。
【0015】
又、前記の目的を座席部に対して前後方向に摺動可能に取着された下肢支持部を座席部に対して後方向へ一時的に摺動退避させることにより実現した。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施例1を図1乃至6を参照して説明する。
図1は下肢支持部7を非旋回位置になした状態の入浴用車椅子1を示す平面図、図2は下肢支持部7を非旋回位置になした状態の入浴用車椅子1の右側面図、図3は下肢支持部7を旋回位置になした状態の入浴用車椅子1を示す右側面図である。
入浴用車椅子1は、前後左右に計4個のキャスターを有し床面76を走行可能な台車枠2からなる台車部3と、下端部が台車枠2に支軸4にて傾動可能に軸着される背凭部5と、背凭部5に固着される座席部6と、座席部6の先部に水平方向に旋回固定可能に取着される下肢支持部7とから構成される。
【0017】
前記台車枠2は左右に平行配置され前後にキャスターが取着されたパイプ2a・2bと、パイプ2a・2bの中間位置より後方の位置にて両パイプ2a・2bを横架状に連結するパイプ2cとから構成され、台車枠2全体は平面視H形状をなしている。前記背凭部5は、背凭フレーム78にFRP製の表側部材79と裏側部材(図示省略)とが接合されて形成されるものである。背凭フレーム78の左右下端がそれぞれパイプ2a・2bに支軸4にて軸着されており、背凭部5は支軸4を支点にして所定の起立位置から傾斜位置にまで傾動可能となっている。座席部6は、背凭部5の左右に固着された側面視略L字形状のパイプ状座席枠9上に座板27が載置されてなる。
【0018】
下肢支持部7は図1に示すように左右一対構成とされ、左右の各下肢支持部7は平面視略L字形状のパイプ部材でなる下肢支持枠10と下肢支持枠10の長辺部10aの略中央位置に内側に向かって水平に取着された下肢載せ板11とからなる。入浴者は下肢支持枠10の短辺部10bに足裏をあてがい、下肢載せ板11に脹脛部を載置する。図2中、26は入浴者が把持する把手である。
【0019】
図4は、下肢支持部7と座席部6との連結部位を示す部分平面図である。図4に示すように座席枠9の上方面に取着され座席部6の前方向へ延出されたパイプ部材12と下肢支持枠10の長辺部10aとがジョイント13を介して連結接続される。ジョイント13は固定部14と旋回部15とから構成され、パイプ部材12の先端がジョイント13の固定部14に形成されたパイプ部16に外嵌され両パイプが螺着固定される。前記固定部14には旋回基部17が旋回軸18にて水平方向に旋回可能に軸着され、旋回基部17の先端にはパイプ部19が形成され、該パイプ部19に下肢支持枠10の長辺部10aの一端が外嵌され、両パイプが螺着固定される。
【0020】
旋回基部17と固定部14とに亘って固定部14に対する旋回基部17の旋回を規制するロック手段20が設けられ、更に、旋回基部17の側方にはロック手段20による旋回基部17の旋回規制を解除するロック解除手段21が設けられている。前記ロック手段20は、固定部14の側壁に開設される開孔22と該開孔22に挿脱可能に設けられるロックピン23とから構成され、前記ロック解除手段21はロックピン23を開孔22から脱抜するロック解除レバー24である。
【0021】
ロック解除レバー24の基端部24aに螺着されたロックピン23は、旋回基部17に開設される開孔22にロック時には挿通されている。ロック解除レバー24の基端部24a及びロックピン23は、図示しないスプリング等により固定部14方向へ押圧付勢されている。
【0022】
下肢支持部7が非旋回位置にある状態では、ロックピン23が固定部14の開孔22に嵌入しロック機能が作用しており、旋回基部17は固定部14に対して旋回不自在となっている。前記ロック機能を解除する場合は、ロック解除レバー24のレバー部24bを下肢支持枠10方向へ押すことにより、ロックピン23が開孔22から抜脱され、旋回基部17が固定部14に対して旋回可能となる。
【0023】
下肢支持部7を座席部6の側方へ旋回作動させる場合、介助者は前記レバー部24bを押した状態で下肢支持枠10の一部を適宜把持し座席部6に対して側方方向へ引き寄せれば下肢支持部7が座席部6の側方に旋回作動する。下肢支持部7は最大で120度の角度範囲まで旋回可能となされている。又、旋回部15が固定部14に対して不用意に旋回作動しないよう旋回軸18の締め付け力により固定部14と旋回部15との摺接面に適度な摩擦抵抗を付与している。
【0024】
尚、詳細な説明は省略するが、入浴用車椅子1には、所定の傾斜位置にまで後傾させた背凭部5を所定の起立位置にまで戻す介助者の傾動操作を補助する傾動補助手段81が台車枠2と背凭部5とに亘って介装される。前記傾動補助手段81は、上端部がブラケット82を介して背凭フレーム78に取着される筒状のアッパーブラケット83と、アッパーブラケット83の下端部に取着される圧縮バネ84と、アッパーブラケット83及び圧縮バネ84に内嵌され下端部が前記パイプ2cの中央位置に固着された下部ホルダー85に螺着された筒状のボトムブラケット86と、前記圧縮バネ84の収縮・復元(伸長)作動を操作する背凭ロック解除レバー8とから構成される。
【0025】
起立位置にある背凭部5を傾斜位置にまで後傾動させる場合は、前記背凭ロック解除レバー8を上方に僅かに押し上げることで、前記傾動補助手段81に設けられる圧縮バネ84の収縮又は復元作動を規制する図示しないロック機構が解除され、背凭部5が後傾動可能となる。この状態で背凭部5に掛かる入浴者の荷重を利用して支軸4を支点に後傾動させると、圧縮バネ84が収縮作動する方向へ変位し、この圧縮バネ84の収縮作動に伴いアッパーブラケット83がボトムブラケット86に対して相対的に下方向へ移動することで背凭部5が傾斜位置にまで後傾動する。アッパーブラケット83が所定の下方位置にまで移動すると、前記ロック機構が自動的に作用しアッパーブラケット83の移動が規制され、背凭部5が所定の傾斜位置にて固定保持される構成となっている。
【0026】
続いて、実施例1の入浴用車椅子1を用いて入浴者を入浴させる浴槽61について説明する。浴槽61には貯湯槽62が一体的に形成され、浴槽61の一側方に開口部63が形成される。実施例1は、浴槽61の開口部63を入浴者が着座した入浴用車椅子1の背凭部5で閉塞することにより入浴者を入浴状態にさせるものである。図5に浴槽61を開口部63方向から見た斜視図、図6に浴槽61を開口部63方向から見た正面図を示す。
【0027】
前記開口部63は、浴槽61の左・右側壁61a・61bの内側面に開口部63側から浴槽61の奥側方向に向かって傾斜状に形成された左・右内側壁61aa・61bbと底壁61cとで構成される接合面64を有し、該接合面64には入浴用車椅子1の背凭部5に形成される左・右・下平坦面65a・65b・65c(図1参照)が当接可能となっている。
【0028】
浴槽61の接合面64より前方向に突出して形成された左・右側壁61a・61bの内側上方位置にそれぞれ略L字形状の左・右補強部材66・66が取着され、該左・右補強部材66・66にそれぞれ入浴用車椅子1の左右のロックピン67・67が嵌入する左孔(図示省略)・右孔68が貫設される。
【0029】
前記接合面64の周縁には、接合面64に沿って接合面64と入浴用車椅子1の背凭部5の平坦面65との水密状態を維持する為のシール材69が貼着される。又、浴槽61の底壁61cの内側には、浴槽61の開口部63と反対側位置に段部70が形成される。段部70を形成することにより浴槽61の容積を減少させることができ、貯湯槽62から浴槽61へ移送する湯水の省湯量化が図れる。
【0030】
浴槽61と、入浴用車椅子1の背凭部5との固定は、以下の二つの手段により行う。一つは、浴槽61の左右側壁61a・61bと入浴用車椅子1の背凭部5の左右側上部を固定する第一の固定手段71であり、もう一つは浴槽61の底壁61cと入浴用車椅子1の背凭部5の下部を固定する第二の固定手段72である。
【0031】
前記第一の固定手段71は、入浴用車椅子1側に設けられる左・右ロックピン67・67と、浴槽61側に設けられる前記左孔(図示省略)・右孔68とから構成される。前記第二の固定手段72は、底壁61cの下方外面に固着された電動アクチュエーター73と、該電動アクチュエーター73の伸縮自在なロッドの先端部と底壁61cの端面とに回動可能に軸着される押圧片74と、入浴用車椅子1の背凭フレーム78下端の中央部に螺着され前記押圧片74の押圧を受け止める図示しない受止部材とから構成される。
【0032】
従って、入浴用車椅子1を浴槽61の内方所定位置にまで進入させると、ロックピン67が孔68に自動的に嵌入し、入浴用車椅子1の背凭部5の上部と浴槽61とが固定される。続いて、電動アクチュエーター73のロッドの伸長作動を開始すると、押圧片74の先端部が上方向に回転(背凭部5側に回転)し前記受止部材に当接する。更に、ロッドの伸長作動を行うと、押圧片74により受止部材が押圧され、浴槽61の底壁61cに入浴用車椅子1の背凭部5の下部が押圧固定される。上述した第一の固定手段71と第二の固定手段72とにより浴槽61の開口部63が入浴車椅子1の背凭部5で閉塞されることになる。
【0033】
上述した入浴用車椅子1を用いて、入浴者を浴槽61に入浴させる場合、介助者は、先ず貯湯槽62へ湯水を所定量貯湯する。
【0034】
介助者は、ロック解除レバー24のレバー部24bを下肢支持枠10方向へ押しロック機能を解除した状態で、下肢支持枠10を座席部6に対して側方方向へ引き寄せることにより下肢支持枠10を一時的に旋回退避させる。
【0035】
介助者は、入浴用車椅子1の下肢支持部7を前記退避状態に変更する準備を行った後、入浴者が搬送される他の福祉機器を入浴用車椅子1の近傍へ停車させ、入浴者を入浴用車椅子1の座席部6へ移乗させる。前述したように移乗時に左右の下肢支持枠10を共に座席部6の側方へ所定角度旋回させることで、座席部6の前方位置に移乗の為のスペースが確保でき介助者が接近し易く移乗作業が行い易い状態となる。
【0036】
介助者は押しハンドル75を操作し、入浴用車椅子1を床面76上を走行させる。入浴用車椅子1を開口部63付近に配置し、開口部63方向に延出し左・右側壁61a・61bの内側に沿って平行に取着されたガイドレール77・77に台車枠2を当接させながら、入浴用車椅子1を開口部63側から浴槽61内へ進入させる。
【0037】
この時、台車部3は、底壁61cの外部下方に位置し、入浴者の載置される座席部6及び下肢支持部7が浴槽61内に位置する。下肢支持部7は背凭部5の後傾動に伴って上限位置に持上げされた状態であるので、浴槽61の内方に挿入された場合にも底壁61cに形成された段部70に衝突することはない。
【0038】
入浴用車椅子1を浴槽61の内方所定位置にまで進入させると、ロックピン67が孔68に嵌入し、入浴用車椅子1の背凭部5の上部と浴槽61とが固定される。次に、電動アクチュエーター73のロッドを伸長作動させ、押圧片74にて前記受止部材を押圧すると、背凭部5の左平坦面65a・右平坦面65b・下平坦面65cが接合面64に当接し、浴槽61の開口部63が入浴用車椅子1の背凭部5で閉塞される。貯湯槽62から浴槽61へ湯水を移送し、入浴者を入浴させる。
【0039】
入浴が完了し入浴者を退浴させる場合、まず浴槽61内の湯水を入浴装置外へ排出する。浴槽61内の水位が減少し所定の高さ位置未満になると、電動アクチュエーター73のロッドの収縮が許容可能となるので、介助者は、ロッドを収縮させ、押圧片74による前記受止部材の押圧固定を解除し、浴槽61の底壁61cと入浴用車椅子1の背凭部5の下部との固定を解除する。次に、入浴用車椅子1のロックピン操作レバー80を手前方向に引き、ロックピン67を孔68から抜脱し、浴槽61の左右側壁61a・61bと入浴用車椅子1の背凭部5の左右側上部との固定を解除し、入浴用車椅子1を浴槽61内から退出操作する。
【0040】
介助者は、背凭れロック解除レバー8を操作し傾斜位置にある背凭部5を起立位置にまで復帰作動させ、前述した入浴作業と逆の作業を行い、入浴用車椅子1から他の福祉機器へ入浴者を移乗させ、入浴を完了する。
【実施例2】
【0041】
図7に本発明の実施例2を示す。図7は、下肢支持部7を座席部6に対して前後方向へ摺動させる摺動機構を示す部分断面図である。左右のパイプ状の座席枠9の下面に取付部材28を介して第一の筒状部材29が固定され、第一の筒状部材29に対して第二の筒状部材30が前後方向に摺動可能に外嵌されている。そして、第二の筒状部材30に第三の筒状部材31が前後方向に摺動可能に外嵌され、第三の筒状部材31の下面に取付部材32を介して下肢支持部7の足載せ枠25が固定されている。実施例2は下肢支持部7が座席部6に対して前後方向に二段階的に摺動する構成となっている。尚、実施例2において実施例1と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。
【0042】
図7は、第二の筒状部材30と第三の筒状部材31をそれぞれ第一の筒状部材29と第二の筒状部材30に対して、前端位置にまで摺動させた状態を示す図である。以下、この状態図に基づいて、下肢支持部7の座席部6に対する前後方向への摺動に係る作用説明を行う。
【0043】
第二の筒状部材30の天井面に取着された封口板33の中心位置に基端部が螺着されたストッパーロッド34が第二の筒状部材30の内方向に向かって伸び出されており、前記ストッパーロッド34は第一の筒状部材29の天井面に開設された通過孔35に挿嵌されている。ストッパーロッド34の先端部外周面にはストッパーロッド34が第一の筒状部材29の内壁を滑らかに摺動するように摺動部材36が取着されている。
【0044】
又、第一の筒状部材29の先部の外周面における二箇所位置に摺動部材37,37が、第二の筒状部材30の後端部内周面に摺動部材38がそれぞれ固着されており、これらの摺動部材37,38によって第一の筒状部材29に対して第二の筒状部材30が前後方向に滑らかに摺動可能となっている。尚、摺動部材37・38は、第二の筒状部材30を前終端位置に摺動させた際に第二の筒状部材30が第一の筒状部材29から抜け出てしまないよう抜け止め防止機能としての役割も果たしている。
【0045】
ストッパーロッド34には、当該ロッド34先端部に取着された摺動部材36から僅かの距離を隔てた位置に、第一の筒状部材29から延出したロッドの退入動を規制する規制部材39が固着されている(第一のストッパー機構40)。規制部材39の輪郭形状は通過孔35の輪郭形状と略同形状に、規制部材39の形状寸法は通過孔35より若干小さくなるよう相似的に形成されている。前記規制部材39が規制作用をなしている状態では、規制部材39が通過孔35を通過しないように規制部材39の形状方向が通過孔35の形状方向と不一致となっている。
【0046】
ストッパーロッド34の基端方向位置にはストッパーピン41が座席部6の内側方向に向かって固着され、ストッパーピン41は対応する第二の筒状部材30及び第三の筒状部材31に形成される長孔42に挿通され、ストッパーピン41の先部は長孔42から介助者の後述する操作を可能にする為、突出させている(第二のストッパー機構43)。尚、ストッパーピン41は、通常、図示しないスプリング等によって座席部6の内側方向に付勢されている。このとき第三の筒状部材31の先端部は前記封口板33に当接しており、第三の筒状部材31の前方向への摺動が阻止されている。
【0047】
第二の筒状部材30は、前述した第一のストッパー機構40及び第二のストッパー機構43の二重のストッパー機構によって第一の筒状部材29に対して摺動不可能になされている。第三の筒状部材31は第二のストッパー機構43のみによって第二の筒状部材30に対して摺動不可能になされている。
【0048】
下肢支持部7を座席部6の下方へ退避させる場合は、介助者がストッパーピン41を押し込みながら長孔42に沿って下方へ押し下げ操作することにより、ストッパーピン41全体が長孔42内に嵌入し第二のストッパー機構43によるストッパー作用が解除され、第三の筒状部材31の第二の筒状部材30に対する後方向(図7中の矢印A方向)への摺動が許容される。この状態で第三の筒状部材30を後方向へ押し込み作動させることにより、第三の筒状部材31が第二の筒状部材30に対して摺動し、第三の筒状部材31の摺動部材44が第二の筒状部材30の後端外周面に凸状形成された受止縁部45に当接した時点で摺動停止される。
【0049】
又、前記押し込み及び押し下げ操作に連動してストッパーロッド34が所定方向に回転した結果、規制部材39の輪郭形状と通過孔35の輪郭形状との形状方向が一致し、規制部材39が通過孔35を通過可能となり、第二の筒状部材30の第一の筒状部材29に対する後方向(図7中の矢印B方向)への摺動が許容される。この状態で第二の筒状部材30を後方向へ押し込み作動させることにより、第二の筒状部材30が第一の筒状部材29に対して摺動する。第二の筒状部材30の摺動部材45が第一の筒状部材29の後端外周面に凸状形成された受止縁部46に当接した時点で第二の筒状部材30の摺動が停止される。
【0050】
前述したように下肢支持部7を座席部6の下方後方向へ摺動させることで、座席部6の前方位置に移乗の為のスペースが確保でき介助者が入浴用車椅子1に接近し易く移乗作業が行い易い状態となる。
【実施例3】
【0051】
図8に本発明の実施例3を示す。図8は、実施例3の下肢支持部7の摺動機構及び回転機構を示す図であり、(a)は下肢支持部7の水平方向の部分断面図であり、(b)は下肢支持部7の鉛直方向の部分断面図であり、(c)は座席部6に対する保持筒47の取着位置を模式的に示す図である。
【0052】
実施例3の下肢支持部7は、平面視U字形状の足載せ枠25と、先端側が足載せ枠25の両遊端部に連結された左右の筒状部材48とから構成され、左右の筒状部材48は座面取付板58の下面に取着された筒取付板59の左右両端部に取着され座席枠9の内側下方位置に座席枠9と平行的に設けられた保持筒47に摺動固定可能に内嵌される(図8(c)参照)。座面取付板58の上側面には入浴者が着座可能に被覆材60が取着される。尚、実施例3において実施例1と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。
【0053】
前記左右の筒状部材48の先端には鉛直下方向に延出された延長部51が接合形成され、延長部51の内側方向であって上部位置に支軸49にて足載せ枠25の遊端部が回動可能に軸着されている。足載せ枠25の遊端位置近傍の外周下面位置に直方体形状の部材50が突出して取着され、部材50には足載せ枠25の回転を規制する固定ピン53の挿嵌を可能にする挿入溝52が形成されている。前記固定ピン53は筒状部材48の外側方向から水平に挿入溝52に挿嵌され、固定ピン53は常時バネ56によって挿入溝52方向に付勢されている。
【0054】
又、保持筒47の外側外周面位置には、保持筒47に対する筒状部材47の摺動を規制する摺動規制部材54(具体的にはプランジャー57)が取着される。前記筒状部材48の外側外周面の二箇所位置に前記摺動規制部材54の球状部54aが嵌入可能に堀削孔55(先端側堀削孔55a・基端側堀削孔55b)が形成される。前記球状部54aは常時図示しないバネによって筒状部材48方向に付勢され、筒状部材48を押圧している。
【0055】
図8(a)及び(b)に示される座席部6の前方に伸展している下肢支持部7を座席部6の下方に退避させる場合、摺動規制部材54の摘み部54bを引き、球状部54aを基端側堀削孔55bから抜脱し筒状部材48を保持筒47に対して(図8(b)中の矢印C方向)押し込む。筒状部材48が押し込まれ、球状部54aが先端側堀削孔55aに臨む位置に到達すると、球状部54aが自動的に先端側堀削孔55aに嵌入し、筒状部材48の押し込みが規制される。
【0056】
続いて、下肢支持部7の先部(足載せ枠25)を把持しつつ固定ピン53を挿入溝52から引き抜き、足載せ枠25を左回り方向(図8(b)中の矢印D方向)へ自重作用を利用して回転させる。
【0057】
本発明は上記の実施例1乃至3で述べた実施態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、入浴者を着座状態で浴槽内へ挿入し入浴に供する入浴用の車椅子に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の下肢支持部を非旋回位置になした状態の入浴用車椅子を示す平面図である。
【図2】本発明の下肢支持部を非旋回位置になした状態の入浴用車椅子の右側面図である。
【図3】本発明の下肢支持部を旋回位置になした状態の入浴用車椅子を示す右側面図である。
【図4】本発明の下肢支持部と座席部との連結部位を示す部分平面図である。
【図5】浴槽を開口部方向から見た斜視図である。
【図6】浴槽を開口部方向から見た正面図である。
【図7】本発明の実施例2の下肢支持部を座席部に対して前後方向へ摺動させる摺動機構を示す部分断面図である。
【図8】本発明の実施例3の下肢支持部の摺動機構及び回転機構を示す図であり、(a)は下肢支持部の平面視の部分断面図であり、(b)は下肢支持部の右側面視の部分断面図であり、(c)は座席部に対する保持筒の取着位置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 入浴用車椅子
3 台車部
5 背凭部
6 座席部
7 下肢支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能な台車部と、台車部に軸着された背凭部と、背凭部に固着された座席部と、座席部に対して水平方向に旋回可能に取着された左右一対の下肢支持部とを有し、左右の下肢支持部はそれぞれ座席部の側方方向へ退避可能であることを特徴とする入浴用車椅子。
【請求項2】
走行可能な台車部と、台車部に軸着された背凭部と、背凭部に固着された座席部と、座席部に対して前後方向に摺動可能に取着された下肢支持部とを有し、下肢支持部を座席部に対して後方向へ摺動させることにより下肢支持部の少なくとも一部を座席部の下方に退避可能としたことを特徴とする入浴用車椅子。
【請求項3】
下肢支持部を座席部に対して複数段階的に後方向へ摺動させることを特徴とする請求項2記載の入浴用車椅子。
【請求項4】
下肢支持部の先部を鉛直方向に回動可能とした請求項2記載の入浴用車椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−102225(P2006−102225A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293900(P2004−293900)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)
【Fターム(参考)】