説明

入浴用車椅子

【課題】側方部材と背もたれとの間の角度を、容易かつ確実に調整する。
【解決手段】着座部は、背もたれ5と、背もたれ5の側方に配された側方部材6と、背もたれ5と側方部材6との間の角度を切り替える角度切替機構7と、を備えている。角度切替機構7は、側方部材6に取り付けられて下方側が開口するシリンダ11と、シリンダ11に下方側から挿入されるとともに背もたれに支持されたピストン12と、を備えている。シリンダ11には、外周部11cに下方へ開口する複数の凹部21が互いに周方向へ間隔をあけるように形成されている。ピストン12には、凹部21に嵌合可能であるとともに、外周面12cから外方に突出する第1ピン(突起部)31Aおよび第2ピン(突起部)が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴用車椅子に関し、特に、使用者が背もたれの側方に倒れることを防止できる入浴用車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車椅子の背もたれやヘッドレストなどの側方に、使用者が背もたれやヘッドレストから側方に倒れることを防止する側方部材が取り付けられている。このような側方部材は、背もたれとの間に所定の角度をなすように設置されており、この角度は調整可能となっている。
例えば、特許文献1に開示された車椅子では、側方部材を背もたれと着脱させることによって、側方部材と背もたれとの間の角度を調整している。
また、特許文献2に開示された車椅子では、側方部材が蝶番によって回動可能に背もたれに取り付けられていて、つまみで蝶番の角度を所定の角度に固定することで、側方部材と背もたれとの間の角度を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−201391号公報
【特許文献2】特開2007−54181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、側方部材と背もたれとの間の角度を調整する際に、特許文献1の車椅子では、側方部材を背もたれと着脱させており、また、特許文献2の車椅子においても、蝶番の角度を調整してつまみで固定しているため、側方部材と背もたれとの間の角度調整に労力がかかっている。
特に、入浴時に使用する入浴用車椅子においては、容易かつ確実に側方部材と背もたれとの間の角度を調整できることが望まれている。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、側方部材と背もたれとの間の角度を、容易かつ確実に調整することができる入浴用車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る入浴用車椅子は、使用者が着座する着座部と、前記着座部と分離可能な台車部とを備える入浴用車椅子であって、前記着座部は、背もたれと、該背もたれの側方に配された側方部材と、前記背もたれと前記側方部材との間の角度を切り替える角度切替機構と、を備え、該角度切替機構は、前記側方部材に取り付けられて下方側が開口するシリンダと、該シリンダに下方側から挿入されるとともに前記背もたれに支持されたピストンと、を備え、前記シリンダには、外周部に下方へ開口する複数の凹部が互いに周方向へ間隔をあけるように形成され、前記ピストンには、前記凹部に嵌合可能であるとともに、外周面から外方に突出する突起部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、角度切替機構は、側方部材に取り付けられて下方側が開口するシリンダと、シリンダに下方側から挿入されるとともに背もたれに支持されたピストンと、を備え、シリンダには、外周部に下方へ開口する複数の凹部が互いに周方向へ間隔をあけるように形成され、ピストンには、凹部に嵌合可能であるとともに、外周面から外方に突出する突起部が形成されていることにより、突起部を任意の凹部に挿入させることによって、背もたれと側方部材との間の角度を容易かつ確実に調整することができる。
【0008】
また、本発明に係る入浴用車椅子では、前記複数の凹部は、前記側方部材が前記シリンダを軸として前記背もたれの前方側へ回転するときの回転方向前側の第1端部は、前記回転方向と直交し、前記回転方向後側の第2端部は、下方に向かうに従って前記第1端部と離間していることが好ましい。
【0009】
このように、複数の凹部は、側方部材が前記シリンダを軸として背もたれの前方側へ回転するときの回転方向前側の第1端部は、回転方向と直交し、回転方向後側の第2端部は、下方に向かうに従って第1端部と離間していることにより、側方部材を前方へ回転させると、凹部の第2端部と突起部とが当接する。
そして、更に側方部材を前方へ回転させると、第2端部が突起部に沿うように上方に変位しながら回転するため、突起部は、凹部から外れて、この凹部と隣り合う他の凹部と嵌合する。このようにして、側方部材と背もたれとの間の角度を容易に切り替えることができる。
【0010】
また、側方部材に前方から使用者の体重や衝撃などの外力が加わった場合に、側方部材が後方へ回転しようとするが、シリンダの凹部の第1端部と突起部とが当接するため、この方向の回転が拘束され、側方部材と背もたれとの角度を所定の角度に保持することができる。
更に、凹部が下側へ開口されているため、人為的にシリンダを持ち上げて突起部と凹部とを離間させれば、容易に側方部材を後方へ回転させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、背もたれと側方部材との間の角度を容易にかつ確実に調整することができ、入浴用車椅子に着座する使用者や、使用者を介護する介護者が、快適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による入浴用車椅子の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す入浴用車椅子角度切替機構を示す斜視図である。
【図3】背もたれと側方部材との関係を示す上面図である。
【図4】(a)は側方部材を第1方向へ回転させる方法を説明する図で角度切替機構を後側から見た図と下側から見た図、(b)は(a)に続く側方部材を第1方向へ回転させる方法を説明する図である。
【図5】(a)は図4(b)に続く側方部材を第1方向へ回転させる方法を説明する図、(b)は(a)に続く側方部材を第1方向へ回転させる方法を説明する図である。
【図6】(a)は側方部材を第2方向へ回転させる方法を説明する図、(b)は(a)に続く側方部材を第2方向へ回転させる方法を説明する図である。
【図7】(a)は図6(b)に続く側方部材を第2方向へ回転させる方法を説明する図、(b)は(a)に続く側方部材を第2方向へ回転させる方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による入浴用車椅子について、図1乃至図7に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による入浴用車椅子1は、使用者(不図示)が着座する着座部2と、着座部2と分離可能に構成され床面を走行可能な台車部3とを備えている。
なお、着座部2と台車部3とを着脱可能とする着脱機構は、公知のものが用いられている。
着座部2は、座面4と、座面4と連続する背もたれ5と、背もたれ5の上部側の両側方に位置し使用者が背もたれ5の側方へ倒れることを防止する一対の側方部材6,6と、背もたれ5と側方部材6との間の角度を調整する一対の角度切替機構7,7と、を備えている。
【0014】
図2に示すように、角度切替機構7は、側方部材6の一方の側部6aに取り付けられたシリンダ11と、背もたれ5に支持されシリンダ11の内部に挿入されるピストン12と、シリンダ11とピストン12との間に介装されるサスペンション13とを備えている。
シリンダ11は、ピストン12が挿入された状態において、その周方向に回転可能に構成されている。このため、側方部材6は、背もたれ5との間の角度を変えることができる。
また、シリンダ11は、ピストン12が挿入された状態において、その軸方向へ変位可能に構成されている。
【0015】
ここで、図3に示すように、シリンダ11が回転する方向で、シリンダ11とともに回転する側方部材6の他方の端部6bが、入浴用車椅子1の前方(図中の上方)へ向かう方向を第1方向(図中の矢印Aの方向)とし、その逆方向を第2方向(図中の矢印Bの方向)として以下説明する。
また、一対の角度切替機構7,7は、背もたれ5を中心として左右対称となっているため、一対の角度切替機構7,7における第1方向および第2方向も左右対称となっている。
【0016】
図2に示すように、シリンダ11は、略有底筒状に形成され、底部側が反対側よりも上方にとなるように配されている。ここで、この底部側を上端部11aとし、反対側を下端部11bとして以下説明する。
シリンダ11は、側面11cに、下端部11b側へ開口する複数の凹部21が周方向に所定の間隔をあけて形成されている。本実施形態では、凹部21はシリンダ11の軸を中心に30°ずつ間隔をあけて12個形成されている。ここで、これらの凹部21を第2方向の順番に凹部21A〜凹部21L(図4(a)参照)と示す。
【0017】
凹部21は、断面形状が下方に開口する略C字型で、第1方向にある側部の第1側部22と、第2方向にある側部の第2側部23と、が異なる形状に形成されている。
第1側部22は、シリンダ11の中心軸と略平行で、その端面がシリンダ11の周方向と略直交するように形成されている。第2側部23は、上方から下方に向かうにつれて第1側部22と離間していて、その端面は凹部側へ突出する円弧面状に形成されている。
【0018】
ピストン12は、円柱状または円筒状に形成され、その上端部12a側がシリンダ11の下端部11b側からシリンダ11内部へ挿入されている。ピストン12は、その下端部12b側が背もたれ5に支持されている。
また、ピストン12には、下端部12b近傍の外周面12cに外方に向かって突出する第1ピン(突起部)31Aおよび第2ピン(突起部)31B(図3参照)が設けられている。第1ピン31Aは、ピストン12に対して背もたれ5の前後方向の前側に設けられ、第2ピン31Bは、ピストン12に対して背もたれ5の前後方向の後側に設けられている。
また、第1ピン31Aおよび第2ピン31Bは、ピストン12がシリンダ11の内部に挿入されたときに、シリンダ11の下端部11bに形成された凹部21と嵌合可能に構成されている。
【0019】
次に、背もたれ5と側方部材6との間の角度の調整方法について説明する。
まず、背もたれ5と略同一面上にある状態の側方部材6をシリンダ11の軸を中心に第1方向へ回転させて、背もたれ5との間の角度を調整する方法について説明する。
ここで、図3示すように、背もたれ5と略同一面上にある状態の側方部材6の位置を位置6Aと示し、この状態から30°ずつ第1方向へ回転した状態における側方部材6の各位置を位置6B,6C,6Dとして以下説明する。
なお、側方部材6は、位置6Dに設置されたときに、背もたれ5との間の角度が略直角となっている。
【0020】
まず、シリンダ11を第1方向へ回転させて、側方部材6を位置6Aから位置6Bへ移動させる。
側方部材6が位置6Aにあるときには、図4(a)に示すように、シリンダ11の凹部21Aとピストン12の第1ピン31Aとが嵌合し、シリンダ11の凹部21Gとピストン12の第2ピン31Bとが嵌合している。
そして、シリンダ11が第1方向へ回転すると、凹部21Aの第2側部23が第1ピン31Aと当接し、凹部21Gの第2側部23が第2ピン31Bと当接する。
そして、第2側部23は、上方から下方に向かうにつれて第1側部22と離間していて、その端面は凹部21側へ突出する円弧面状に形成されているとともに、シリンダ11が上下方向に移動可能であるため、更にシリンダ11を第1方向に回転させると、図4(b)に示すように、第2側部23と第1ピン31A,第2ピン31Bとが互いにすべり、シリンダ11は第1方向に回転しながら上方に向かって移動する。
【0021】
そして、更にシリンダ11を回転させると、図5(a)に示すように、シリンダ11の下端部11bと第1ピン31A,第2ピン31Bの上部とが当接する。そして、隣り合う凹部21Aと凹部21Lとの間の凸部24Aが第1ピン31Aを超えるとともに、隣り合う凹部21Gと凹部21Fとの間の凸部24Gが第2ピン31Bを超える。
これにより、図5(b)に示すように、凹部21Lと第1ピン31Aとが嵌合し、凹部21Fと第2ピン31Bとが勘合する。
このようにして、側方部材6は、位置6Bへ移動し、背もたれ5との角度が調整される。
【0022】
そして、側方部材6を位置6Aから位置6Bへ移動させた動作と同様に、側方部材6を位置6Bから位置6C(図3参照)、位置6Cから位置6D(図3参照)へ移動させ、背もたれ5との間の角度が略直角となるように角度を調整する。
このとき、図4に示す第1ピン31Aと凹部21Jとが嵌合し、第2ピン31Bと凹部21Dとが嵌合している。
【0023】
また、この状態において、入浴用車椅子1に着座した使用者が側方部材6へ寄りかかるなど、側方部材6が第2方向へ加力された場合、第1ピン31Aと凹部21Jの第1側部22とが当接するとともに第2ピン31Bと凹部21Dの第1側部22とが当接するため、シリンダ11の回転が拘束され、側方部材6は、位置6Dからずれずに、背もたれ5との角度を保持することができる。
【0024】
次に、側方部材6を第2方向へ移動させる方法について説明する。
ここでは、位置6Bにある側方部材6を位置6Aに移動させる方法について説明する。
まず、側方部材6が位置6Bに位置しているときは、第1ピン31Aと凹部21Lとが嵌合している状態で、シリンダ11を第2方向へ回転させると、第1ピン31Aと凹部21Lの第1側部22とが当接する。そして、第1側部22は、シリンダ11の中心軸と略平行に形成されているため、第1ピン31Aと凹部21Lの第1側部22とが当接するとシリンダ11の回転が阻止される。
【0025】
このため、シリンダ11を上方へ引き上げて、第1ピン31Aを凹部21Lからはずし、このシリンダ11が引き上げられた状態を保持しながら第2方向へ回転させる。
そして、側方部材6が位置6Aとなるように、シリンダ11を第2方向へ回転させ、第1ピン31Aを凹部21Aと嵌合させる。
このようにして、側方部材6が位置6Bから位置6Aへ移動する。
なお、上述した側方部材6を第2方向へ移動させる方法では、側方部材6を位置6Bから位置6Aへ移動させているが、他の位置間での側方部材6移動についても同様に行うことができる
【0026】
次に、上述した入浴用車椅子1の作用について図面を用いて説明する。
本実施形態の入浴用車椅子1によれば、背もたれ5の側方に設けられた側方部材6が、背もたれ5との間の角度を変えることができる。これにより、側方部材6を使用者が背もたれ5からずれない位置(例えば位置6D)に設置することができるとともに、使用者の側方をケアしやすい位置(例えば位置6A)に設置することができ、使用者や介護者が快適に使用することができる。
【0027】
そして、角度切替機構7は、30°毎に角度を切り替えることができるとともに、シリンダ11を回転させて第1ピン31Aおよび第2ピン31Bを凹部21と嵌合させる簡便な作業で角度を変更することができるため、背もたれ5と、側方部材6との間の角度を容易にかつ簡便に変更することができる。
また、側方部材6にかかる第2方向からの荷重によって、設定された背もたれ5と側方部材6との間の角度が変化することないため、使用中にこの角度が変化することがなく安全性を高めることができる。
【0028】
以上、本発明による車椅子の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、背もたれ5の上部側の両側方に側方部材6,6が設けられているが、背もたれ5の下部側の側方に側方部材6,6が設けられていてもよい。
また、上述した実施形態では、シリンダ11には、12個の凹部21が周方向へ30度ずつ間隔をあけて形成されているが、凹部21の数や、間隔は任意に設定されてよい。
また、上述した実施形態では、ピストン12には、第1ピン31Aおよび第2ピン31Bの2つのピン(突起部)が設置されているが、ピンの数は1つでもよく。3つ以上であってもよい。
また、上述した実施形態では、側方部材6は、位置6Aに設置されたときに背もたれ5と略同一面上にある状態となり、位置6Dに設置されたときに背もたれ5との間の角度が略直角となっているが、位置6Aに設置されたときに背もたれ5と略同一面上にある状態とならなくてもよく、位置6Dに設置されたときに背もたれ5との間の角度が略直角とならなくてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 入浴用車椅子
2 着座部
3 台車部
4 座面
5 背もたれ
6 側方部材
7 角度切替機構
11 シリンダ
12 ピストン
21,21A〜21J 凹部
22 第1側部(第1端部)
23 第2側部(第2端部)
31A 第1ピン(突起部)
31B 第2ピン(突起部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座する着座部と、前記着座部と分離可能な台車部とを備える入浴用車椅子であって、
前記着座部は、背もたれと、該背もたれの側方に配された側方部材と、前記背もたれと前記側方部材との間の角度を切り替える角度切替機構と、を備え、
該角度切替機構は、前記側方部材に取り付けられて下方側が開口するシリンダと、該シリンダに下方側から挿入されるとともに前記背もたれに支持されたピストンと、を備え、
前記シリンダには、外周部に下方へ開口する複数の凹部が互いに周方向へ間隔をあけるように形成され、
前記ピストンには、前記凹部に嵌合可能であるとともに、外周面から外方に突出する突起部が形成されていることを特徴とする入浴用車椅子。
【請求項2】
前記複数の凹部は、前記側方部材が前記シリンダを軸として前記背もたれの前方側へ回転するときの回転方向前側の第1端部は、前記回転方向と直交し、前記回転方向後側の第2端部は、下方に向かうに従って前記第1端部と離間していることを特徴とする請求項1に記載の入浴用車椅子。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−66010(P2012−66010A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215511(P2010−215511)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000182373)酒井医療株式会社 (46)
【Fターム(参考)】