説明

全反射吸収スペクトル測定装置

【課題】 簡単な機構で正確に、ATR観測モードと可視観察モードとを切り替えすることができる手段を備えた全反射吸収スペクトル測定装置を提供する。
【解決手段】 凹面主鏡2と凸面副鏡3よりなる反射対物光学系と、該光学系の集光点に全反射面を有するATRプリズム4を備えた全反射吸収スペクトル測定装置において、前記ATRプリズム4を保持するホルダー7が回転軸6に取り付けられ、該回転軸6はATRプリズム4の下面に置かれる試料面Sに水平な線を中心として回転するように形成され、回転軸6を回動することによりATRプリズム4を試料測定位置から上方の退避位置に反転移動できるように構成されており、ATRプリズム4が退避位置にあるときに、測定光の通過を許す光透過手段(例えば穴)11が前記ホルダーに形成されている構造にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料などの有機物や、種々の物質の定性分析および固定分析などに広く利用される全反射吸収スペクトル測定装置に関し、殊に、試料の赤外スペクトルを測定する光学系と、試料を可視光によって観察する光学系とを備えた赤外顕微鏡用の全反射吸収スペクトル測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全反射吸収スペクトル測定法(ATR)は、試料面に試料より高屈折率の透明体を接触させ、この高屈折率透明体側から、試料との境界面で全反射がおきる入射角で測定光を入射させ、全反射された光の試料による吸収減光を検出することにより、試料の吸収特性を測定する方法で、従来から赤外光について測定を行う場合、反射光学系によって構成された赤外反射顕微鏡システムを利用した装置が用いられている。
【0003】
図5は、従来の赤外反射顕微鏡システムの対物鏡の構造を示す。対物鏡は中央に穴のあいた凹面主鏡12と、この凹面主鏡12と同軸の凸面副鏡13とからなっており、図外の分光器(または干渉計)から出射した単色の測定光(または干渉計により変調された全波長光)が、図5で光軸の右半分を下方の対物鏡光学系に入射され、その光は、凸面副鏡13及び凹面主鏡12で反射されて対物鏡光学系の集光点Pに集光される。集光点PにはP点を中心とする半球形のATRプリズム14が配置されており、試料をそのATRプリズム14の下面に接触させる。こうすると、P点に集光する測定光は、ATRプリズム14では屈曲されず、そのままP点に集光し、試料面で全反射されて対物光学系の光軸の左半分を上行し、検出される。
【0004】
全反射吸収スペクトル測定法(ATR)は、全反射を利用するため、プリズムが焦点位置にあると、全ての光がATRプリズムの底面で反射し、焦点位置にある試料を可視観察することができない。従って可視観察やプリズムを使用しない測定の時にはプリズムを別の場所に移動して、代わりに測定光を集光点に通す必要がある。そこで従来では、図6、図7並びに図8に示すように、軸18を支点として回転するターンテーブル15、若しくはスライドプレート16に、ATRプリズム14と測定光を通すための穴17とを設け、ターンテーブル15又はスライドプレート16を試料に水平な同一平面上で回転若しくはスライドさせて切り替えていた。このターンテーブルによる切り替え方式は、特許文献1の図1にも開示されている。
【特許文献1】特開2001−133400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このターンテーブルによる回転方式やスライドプレートによるスライド方式は、試料に水平な同一平面上で水平移動するものであるから、ATRプリズムは常に焦点位置と同じ高さに置かれることになる。ATRプリズムが光軸に沿った上下方向、即ちピント方向に移動しないのは、ATRプリズムを使用位置に移動したときの位置再現性には有利であるが、使用者が意図しないのに試料や試料載置台等の他のものに偶然触れてしまい、ATRプリズムや試料に望まぬ圧力がかかり、最悪の場合は破壊してしまうおそれがある。また不使用時にATRプリズムを剥き出しのままにしておくとATRプリズムを傷めることがあるので、プリズムに保護カバーを取り付けたり、或いは使用しないときに完全に取り外す等の対策が講じられることがあるが、操作上大変面倒である。
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点の解決を図ることを鑑み、簡単な機構で正確にATR観測モードと可視観察モードとを切り替えすることのできる手段を備えた全反射吸収スペクトル測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、凹面主鏡と凸面副鏡よりなる反射対物光学系と、該光学系の集光点に全反射面を有するATRプリズムを備えた全反射吸収スペクトル測定装置において、前記ATRプリズムを保持するホルダーが回転軸に取り付けられ、該回転軸はATRプリズムの下面に置かれる試料面に水平な線を中心として回転するように形成され、回転軸を回動することによりATRプリズムを試料測定位置から上方の退避位置に反転移動できるように構成されており、ATRプリズムが退避位置にあるときに、測定光の通過を許す光透過手段(例えば穴)が前記ホルダーに形成されている構造とした。
【0008】
ここで、光透過手段としては、穴を形成することが好ましいが、測定光を透過できるようにすれば他の方法(例えば光透過部材を取り付ける等)であってもよい。
ホルダーに形成される測定光通過用の穴は、ホルダーの強度の許す限りできるだけ大きくするのがこのましく、例えば、左右対称的に2個の大きな穴を形成するのがよい。またこの穴は、透明なガラス等の光透過性物質で形成することも可能である。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、可視観察やATRプリズムを使用しない測定を行う場合は、回転軸を回転させることによりATRプリズムを試料測定位置と退避位置とに簡単な操作で容易に切り替えることができると共に、ATRプリズムを退避位置に移動させた時は、反射対物鏡の奥部となる上方に反転させた状態で保持することができるので、使用者の不注意でATRプリズムを傷つけることを極力減らすことができ、またATRプリズムを使用位置に戻すときは試料に対して上方から円軌跡で移動してくるので、水平移動で復帰する場合のような試料やATRプリズムに対する悪影響や破損を未然に防止することができる。また、ATRプリズムの移動は、回転軸の回転によって行われるものであるから、ATRプリズムを使用位置に戻した場合は常に焦点位置が定まっているので、ATRプリズム位置の良好な再現性を得ることができる、といった優れた効果がある。
【0010】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
上記発明において、前記ATRプリズムが、回転軸の回転軸芯に対して偏芯した位置に取り付けて構成するのがよい。
これにより、簡単な構造でATRプリズムを試料測定位置から上方の退避位置に反転移動できるように形成することができる。
【0011】
上記発明において、前記ATRプリズムを試料測定位置と退避位置とに仮保持する位置決め機構を設けるのがよい。
これにより、正確にATRプリズムを予め設定された試料測定位置と退避位置とで保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。尚、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0013】
図1は本発明の一実施形態である全反射吸収スペクトル測定装置の反射対物鏡の断面図であり、図2はATRプリズム部分の拡大断面図であり、図3はATRプリズムを退避位置に反転移動させた状態を示す図2同様の断面図であり、図4は退避位置に反転移動したときのATRプリズム部分の拡大斜視図であり、図5は従来のターンテーブル式の切り替え手段を備えた反射対物鏡の断面図であり、図6は図5における従来のターンテーブル式の切り替え手段を示す平面図であり、図7は可視観察時の状態を示す図6同様の平面図であり、図8はスライド式の従来の切り替え手段を示す平面図である。
【0014】
図において符号1は、本発明にかかる全反射吸収スペクトル測定装置の反射対物鏡であって、この対物鏡は、中央に穴のあいた凹面主鏡2と、この凹面主鏡2と同軸の凸面副鏡3と、半球状のATRプリズム4とから構成されている。凹面主鏡2,凸面副鏡3並びにATRプリズム4は図外の分光器または干渉計から出射される測定光5と同一光軸上に配置されており、ATRプリズム4はその曲率中心が凹面主鏡2の集光点Pに位置するように配置されている。ATRプリズム4の下面に接して試料Sが試料ステージ19に載置される。
【0015】
ATRプリズム4は、回転軸6に固定されたホルダー7に保持されている。前記回転軸6は試料面に水平な一線を中心として回転できるように反射対物鏡1のフレイム8に保持されており、外部に露出した一端部には手で回動するためのつまみ9が設けられている。また、前記ホルダー7の中央部は回転軸6の回転軸芯に対して偏芯して形成されており、この偏芯した部分にATRプリズム4が取り付けられている。これにより、つまみ9を操作して回転軸6を図1並びに図2の試料測定位置から図3の退避位置まで180°回転させることができるように構成されている。また、前記ATRプリズムを試料測定位置と退避位置とに夫々安定した姿勢で仮保持できるように位置決め機構10が設けられている。この位置決め機構10は姿勢を保持できるものであればどのようなものであってもよいが、本実施例では、回転軸6の周面の対称位置に設けた凹部10a、10aと、該凹部に選択的に弾性嵌合するラッチ10bとにより形成されている。
【0016】
更に、ATRプリズム4が図3の退避位置にあるときに、測定光の通過を許す穴11が前記ホルダー7に形成されている。この穴11は、ホルダーの強度の許す限りできるだけ大きくするのがこのましく、例えば、図4に示すように左右対称的に2個の大きな穴を形成するのがよい。またこの穴11は、透明なガラス等の光透過性物質で形成することも可能である。
【0017】
この全反射吸収スペクトル測定装置でATR測定を行う場合、つまみ9を操作してATRプリズム4を図1並びに図2の測定位置に配置する。ATRプリズム4の下面に接触させて試料Sを配置させた状態で、図外の分光器または干渉計から測定光を出射する。例えば図1の光軸の右半分が下方の対物鏡光学系に入射され、その光は、凸面副鏡3及び凹面主鏡2で反射されて対物鏡光学系の集光点Pに集光される。P点に集光する測定光は、ATRプリズム4では屈曲されず、そのままP点に集光し、試料面で全反射されて対物光学系の光軸の左半分を上行し、検出される。
また、可視観察を行う場合は、つまみ9を操作して回転軸6を図1並びに図2の試料測定位置から図3の退避位置まで180°回転させる。この位置において測定光は穴11から集光点に入射されるので反射対物鏡としての機能を損なうことがない。
【0018】
本発明は、上記実施例の形態に限定されるものでなく、本願発明の構成要件を備え、且つ上記した効果を発揮する範囲内で適宜変更して実施することが可能である。例えばATR測定モードと可視観察モードの切り替えは、つまみによる手動操作に代えて電動によるボタン操作で行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の全反射吸収スペクトル測定装置は、高分子材料等の有機物をはじめ、種々の物質の定性分析や固定分析などに使用される測定装置として適用される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である全反射吸収スペクトル測定装置の反射対物鏡の断面図。
【図2】上記反射対物鏡のATRプリズム部分の拡大断面図。
【図3】ATRプリズムを退避位置に反転移動させた状態を示す図2同様の断面図。
【図4】退避位置に反転移動したときのATRプリズム部分の拡大斜視図。
【図5】従来のターンテーブル式の切り替え手段を備えた反射対物鏡の断面図。
【図6】図5における従来のターンテーブル式の切り替え手段を示す平面図。
【図7】可視観察時の状態を示す図6同様の平面図。
【図8】スライド式の従来の切り替え手段を示す平面図。
【符号の説明】
【0021】
1:反射対物鏡
2:凹面主鏡
3:凸面副鏡
4:ATRプリズム
5:測定光
6:回転軸
7:ホルダー
10:位置決め機構
11:光透過手段(穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹面主鏡と凸面副鏡よりなる反射対物光学系と、該光学系の集光点に全反射面を有するATRプリズムを備えた全反射吸収スペクトル測定装置において、前記ATRプリズムを保持するホルダーが回転軸に取り付けられ、該回転軸はATRプリズムの下面に置かれる試料面に水平な線を中心として回転するように形成されていてこの回転軸を回動することによりATRプリズムを試料測定位置から上方の退避位置に反転移動できるように構成されており、ATRプリズムが退避位置にあるときに測定光の通過を許す光透過手段が前記ホルダーに形成されている全反射吸収スペクトル測定装置。
【請求項2】
前記ATRプリズムが、回転軸の回転軸芯に対して偏芯した位置に取り付けられている請求項1に記載の全反射吸収スペクトル測定装置。
【請求項3】
前記ATRプリズムを試料測定位置と退避位置とに仮保持する位置決め機構を含む請求項1又は請求項2に記載の全反射吸収スペクトル測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−134132(P2008−134132A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320014(P2006−320014)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】