説明

全方向操作スイッチ装置

【課題】操作部材の傾動方向を高精度で検知することができ、且つ安価な全方位操作スイッチ装置の提供。
【解決手段】全周を8等分割した分割電極21a〜hを有する放射状パターン2と、放射状パターンと対向する円錐電極3と、円錐電極を傾動させる操作部材4と、各分割電極を一定の巡回周期で順次に選択する切替手段6と、円錐電極と分割電極とで構成されるコンデンサの静電容量を、500kHz高周波信号を印加して電圧信号に変換する静電容量−電圧変換手段7と、分割電極ごとに順次に変換された一連の電圧信号から、巡回周期の特定周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ8と、特定周波数成分の信号波形が極大又は極小となる位相に対応する方向を操作部材4の傾動操作方向として検出するマイクロコンピュータ9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向操作スイッチ装置に係り、より詳細には、全周の任意の方向に傾動操作される操作部材の傾動方向を検出する全方向操作スイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の全方向操作スイッチ装置の従来例が、下記の特許文献1及び2に開示されている。特許文献1に開示の装置は、操作部材の揺動操作に伴って傾動する導電性の円環部と、その円環部に対向するプリント板上の導電性の放射状パターンとを具備する。そして、導電性円環部と放射状パターンとが接触した位置を検出することによって、操作部材の傾動方向が検知される。
【0003】
また、特許文献2に開示の装置は、操作部材の揺動操作に伴って移動する可動電極と、その可動電極に対向した複数の固定電極とを具備する。そして、可動電極と個々の固定電極との間の静電容量の変化から、固定電極全ての静電容量変化量が演算され、操作部位の傾動方向が検知される。
【0004】
【特許文献1】特開2003−272486号公報
【特許文献2】特開2001−325858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の従来の全方向操作スイッチ装置では、操作部材の傾動方向の方位分解能が、プリント基板板上に形成した放射状パターンの数によって制限される。
【0006】
また、特許文献2には、個々の固定電極の静電容量値から操作部材の傾動方向を求める具体的な方法が開示されていない。一般的には、特許文献2に開示の装置において、操作部材の傾動方向を求める方法として、次の二つの方法が考えられる。一つは、揺動検出方位平面上のX方向及びY方向それぞれの静電容量値から、公知の三角関数を含むベクトル演算を行って、傾動方向を求める方法である。もう一つは、揺動検出方位平面上のX方向およびY方向それぞれの静電容量値から、予め作成しておいた二次元テーブルを参照して、傾動方向を求める方法である。
【0007】
しかしながら、これらの方法により高精度の方位分解能を得るためには、高機能なマイクロプロセッサを使用して多くの演算桁数を行うか、或いは、大容量のメモリーを使用して膨大なメモリーサイズの二次元テーブルを参照する必要がある。このため、いずれの方法を採用しても、コストの上昇につながる。
【0008】
そこで、本発明は、操作部材の傾動方向を高精度で検知することができ、且つ安価な全方位操作スイッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の全方位操作スイッチ装置は、全周を等角度に分割した複数の分割電極を有する放射状パターンと、放射状パターンと対向し、かつ、全周の任意の方向に傾動可能に配置した円錐電極と、円錐電極を傾動させる操作部材と、放射状パターンの上記分割電極の各々を一定の巡回周期で順次に選択する切替手段と、円錐電極と、上記切替手段に選択されている上記分割電極とによって構成されるコンデンサの静電容量を、電圧信号に変換する静電容量−電圧変換手段と、分割電極ごとに順次に変換された一連の電圧信号から、巡回周期を一周期とする特定周波数成分を抽出する抽出手段と、特定周波数成分の信号波形の位相と放射状パターンの中心から見た方向とを対応づけ、信号波形が極大又は極小となる位相に対応する方向を操作部材の操作方向として検出する操作方向検出手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このように、本発明では、切替手段の巡回周期に対応する特定周波数成分の信号波形が極大又は極小となる位相が検出されることによって、操作部材の傾動方向が検出される。このため、操作部材の傾動方向の検出精度は、放射状パターンの分割角度によって制限されない。また、本発明では、傾動方向の検出精度を高めるために、コスト上昇の要因となる高機能なマイクロプロセッサや大容量のメモリーを必要としない。したがって、本発明の全方向操作スイッチ装置によれば、操作部材の傾動方向を高精度で検知することができ、且つ安価な全方位操作スイッチ装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、静電容量−電圧変換手段は、高周波信号源と、静電容量と高周波信号源との間、又はコンデンサと接地電位との間に設けた負荷抵抗とを有し、抽出手段は、コンデンサと負荷抵抗との間に接続される。
これにより、コンデンサの静電容量が、コンデンサと負荷抵抗との間のノードの電圧に変換される。
【0012】
また、本発明において好ましくは、抽出手段は、巡回周期に対応する周波数を含む周波数成分を通過させ、且つ、高周波信号の周波数成分を遮断するフィルタを含む。
フィルタにより、一連の電圧信号から、高周波信号の周波数成分が除去され、特定周波数の連続した信号波形が選択的に抽出される。
【0013】
また、本発明において好ましくは、特定周波数成分の信号波形の最大振幅に基づいて、操作部材の傾動操作量を検出する操作量検出手段を更に備える。
これにより、操作部材の傾動操作の方向と共に操作量も検出される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれは、操作部材の傾動方向を高精度で検知することができ、且つ安価な全方位操作スイッチ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して、本発明の全方向操作スイッチ装置の実施形態を説明する。
まず、図1を参照して、全方向操作スイッチ装置の電極の構成について説明する。図1は、実施形態の全方向操作スイッチの装置電極部分を模式的に示した斜視図である。
【0016】
図1に示すように、全方向操作スイッチ装置の電極は、プリント基板1上に形成され、全周を等角度に分割した複数の分割電極21を有する放射状パターン2と、その放射状パターン2と対向し、かつ、全周の任意の方向に傾動可能に配置した円錐電極3とを有する。そして、各分割電極21と円錐電極3とによって、それぞれコンデンサCが構成されている。
【0017】
なお、本実施形態では、放射状パターン2は、プリント基板上に形成されているが、放射状パターンの構成はこれに限定されず、例えば、プリント基板を使用せずに、金属板等の導電材料で作ってもよい。また、本実施形態では、円錐電極3は、導電性樹脂で作られている。しかし、円錐電極3の材料はこれに限定されず、例えば、金属材料等の任意の導電性材料で作ってもよい。また、操作部材4は、ABS樹脂(アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)等の絶縁性の成形樹脂で作られている。
【0018】
また、さらに、円錐電極3を傾動させる操作部材4が、円錐電極3に取り付けられている。操作部材4は、円錐電極3の円錐形の中心軸上に棒状に延びている。本実施形態では、操作部材4の傾動方向及び傾動角度と、円錐電極3の傾動方向及び傾動角度とが一致している。
【0019】
なお、操作部材4の形状は、棒状に限定されず、任意好適な形状とすることができる。また、操作部材4の傾動方向と、円錐電極3の傾動方向とは、必ずしも一致しなくてもよい。例えば、操作部材4と円錐電極3とがヒンジを介して連結され、且つ、そのヒンジを支点として傾動させることにより、操作部材の傾動方向と円錐形状の傾動方向とが正反対となるようにしてもよい。
【0020】
図2(a)に示すように、本実施形態の放射状パターン2は、全周を45°ごとに8等分割した分割電極21a〜21hから形成されている。したがって、各分割電極21a〜21hは互いに同一形状の扇形電極であり、同一面積を有する。
なお、放射状パターン2の分割数は、8等分割に限定されない。好ましくは、3等分割以上に分割されるとよい。
【0021】
そして、図2(b)に実線で示すように、円錐電極3の中心軸線が、放射状パターン2の平面に垂直である場合、円錐電極3と各分割電極21a〜21hとの距離が互いに等しいので、円錐電極3と各分割電極21a〜21hの各々とでそれぞれ構成される各コンデンサの容量Ca〜Chは、互いに等しい。
【0022】
これに対して、図2bに破線で示すように、図2(a)に矢印Xで示す方向に円錐電極3が傾動した場合、円錐電極3と分割電極21c及び21dとの間隔が減少する。その結果、これらのコンデンサの静電容量Cc及びCdが大きくなる。一方、この場合、円錐電極3と分割電極21g及び21hとの間隔は拡大する。その結果、これらのコンデンサの静電容量Cg及びChは小さくなる。
【0023】
これにより、円錐電極3と各分割電極21a〜21hとがそれぞれ構成するコンデンサの静電容量Ca〜Chの分布は、X方向において最大の静電容量値となり、X方向と逆方向で最小となる。すなわち、各静電容量の大小関係は、Cc、Cd>Cb、Ce>Ca、Cf>Cg、Chとなる。
【0024】
さらに、放射状パターン2の中心付近には、放射状パターンと同心円に配置された導電性の円形パターン22が形成されている。円形パターン22は、接地されている。また、各分割電極21a〜21hどうし、及び、円形パターン22と各分割電極21a〜21hは、互いに絶縁されている。円形パターン22と円錐電極3との間の静電容量は、円錐電極3の傾動によらず一定である。
なお、円形パターン22は省略してもよい。その場合、円錐電極3を接地電位に接続するとよい。
【0025】
また、図2(b)に示すように、円錐電極3は、円錐形状の頂点を下向きにして、その頂点がプリント基板1の放射状パターン2の中心に位置するように配置されている。プリント基板1の放射状パターン2の中心には、取り付け孔11が開口している。この取り付け孔11には、円錐電極3の頂点から延びるネジ棒4aが貫通している。このネジ棒4aは、ばね5aとナット5bとによって、プリント基板1に取り付けられている。これにより、円錐電極3は、全周の任意の方向に傾動することができる。すなわち、円錐電極3は、円錐形状の頂点付近を支点として、円錐形状の軸線が放射状パターン2の平面の法線に対して傾くように動くことができる。
【0026】
図1及び図2(b)に示すように、操作部材4は、力が加えられない状態では、プリント基板1の平面に対して垂直に直立している。そして、操作部材4は、円錐電極3の円錐形状の母線が放射状パターン2の平面と並行になるまで傾動させることができる。
また、本実施形態では、図2(b)に破線で示すように、操作部材4が円錐電極3に固定されているため、操作部材4の傾動方向及び傾動角度と、円錐電極3の傾動方向及び傾動角度とが一致している。
【0027】
次に、図3を参照して、本発明の実施形態の全方向操作スイッチ装置の電極等以外の部分の構成を説明する。図3は、本実施形態の全方向操作スイッチ装置の全体構成の模式図である。なお、図3では、円錐電極3及び操作部材4の図示を省略している。
【0028】
図3に示すように、本実施形態の全方向操作スイッチ装置は、図1に示した電極等以外に、放射状パターン2の各分割電極21a〜21hを、図2(a)において時計回りに、一定の巡回周期で順次選択する切替手段6と、円錐電極3と、切替手段6に選択されている分割電極21とによって構成されるコンデンサの静電容量を、電圧信号に変換する静電容量−電圧変換手段7と、分割電極21a〜21hごとに順次に変換された一連の電圧信号から、巡回周期を一周期とする特定周波数成分を抽出する抽出手段8と、特定周波数成分の信号波形の位相と、放射状パターン2の中心から見た方向とを対応づけ、信号波形が極大又は極小となる位相に対応する方向を、操作部材4の操作方向として検出する操作方向検出手段9とを備える。
【0029】
さらに、本実施形態の全方向操作スイッチ装置は、特定周波数成分の信号波形の最大振幅に基づいて、操作部材4の傾動操作量を検出する操作量検出手段を更に備える。なお、本実施形態では、操作方向検出手段9及び操作量検出手段は、マイクロプロセッサ9で構成される。
【0030】
本実施形態の切替手段6は、各分割電極21a〜21hにそれぞれ接続する8つの入力端61a〜61hと、1つの出力端62とを有する。そして、切替手段6は、これらの入力端61a〜61hと出力端62との接続を、10ミリ秒(100Hz)の一定周期で巡回するように順次に切り替える。これにより、各分割電極21a〜21hは、10ミリ秒ごとに選択される。
なお、切替手段6の巡回周期は、10ミリ秒に限定されず、任意の一定周期で接続を切り替えることができる。
【0031】
本実施形態では、切替手段6の出力端に、静電容量−電圧変換手段7、及び抽出手段8が接続されている。
【0032】
本実施形態の静電容量−電圧変換手段7は、高周波信号源71と、負荷抵抗72とから構成されている。負荷抵抗72は、コンデンサと高周波信号源71との間、すなわち、切替手段6の出力端62と、高周波信号源71との間に設けられている。高周波信号源71は、周波数500Hzでピーク間電圧5Vppの正弦波からなる高周波信号を発生する。
なお、印加する高周波信号の周波数は、500kHzに限定されず、任意好適な周波数を選択することができる。
【0033】
抽出手段8は、コンデンサと負荷抵抗72との間、具体的には、コンデンサに接続された切替手段6の出力端62と負荷抵抗72との間に接続される。これにより、出力端62と負荷抵抗72との間のノードの電圧信号が、抽出手段8に入力される。
【0034】
抽出手段8は、バンドパスフィルタ8で構成される。このバンドパスフィルタ8は、切替手段6の巡回周期10ミリ秒に対応する周波数100Hzを含む周波数成分を通過させ、且つ、高周波信号の周波数500kHzの周波数成分を遮断する。特定周波数成分には、操作部材4の傾動による、各分割電極21a〜21hに対応するコンデンサの静電容量の変動が反映される。
【0035】
なお、バンドパスフィルタ8の入力側に入力信号の正方向の電圧のみを通過させる半波整流回路を設けてもよい。また、抽出手段8は、ローパスフィルタで構成してもよい。
【0036】
バンドパスフィルタ8から出力された特定周波数成分の信号は、マイクロコンピュータ9のT1端子及びT2端子にそれぞれ入力される。また、マイクロコンピュータ9の端子T3から切替手段6の制御端子Cへ切替信号が入力される。この切替信号により、切替手段6は、接続を順次に切り替える。
【0037】
マイクロコンピュータ9のT1端子に入力された信号は、アナログ/デジタル変換される。マイクロコンピュータ9は、操作量検出手段として働き、変換された特定周波数成分の信号波形の最大振幅に基づいて、操作部材4の傾動操作量を検出する。
【0038】
また、マイクロコンピュータ9は、操作方向検出手段9として働き、T2端子に入力された信号は、公知のタイマー割り込みにより、信号波形が極大又は極小となる位相を検出する。検出された位相は、操作部材4の傾動操作方向に対応する。検出された傾動操作量及び傾動操作方向は操作信号として、出力端TOから図示しない外部機器へ出力される。
【0039】
次に、図4のタイミングチャートを参照して、本実施形態の全方向操作スイッチ装置の動作について説明する。
図4の1段目のタイミングチャートは、各分割電極21a〜21hに対応するコンデンサCa〜Chを表す。切替手段6は、図4に示した順に、各分割電極21a〜21hを巡回周期で選択する。
【0040】
図4の2段目、及び3段目のタイミングチャートは、それぞれ切替手段6の出力端62から出力される信号波形I及びIIを示す。これらの信号波形I及びIIは、分割電極ごとに順次に静電容量−電圧変換された一連の電圧信号の波形を表す。ただし、2段目の信号波形Iは、操作部材4が中立の場合、即ち、操作部材4が放射パターン2の平面に対して垂直に立っている場合のものを示す。また、3段目の信号波形IIは、操作部材4が、図2(a)に矢印Xで示す方向に傾動した場合のものを示す。
【0041】
図4の4段目のタイミングチャートは、バンドパスフィルタ8から出力された特定周波数成分の信号波形IIIを示す。この特定周波数成分の信号波形IIIの周期は、切替手段6が、各分割電極21a〜21hの選択を一巡させる周期10ミリ秒(100Hz)と一致している。そして、分割電極21aと分割電極21hとの境界の方向を0°として、特定周波数成分の信号波形IIIの位相と、放射状パターン2の中心から見た方向とが対応づけられている。
【0042】
まず、操作部材4が中立にある場合、各コンデンサの静電容量Ca〜Chは互いにほぼ等しい。このため、各コンデンサをインピーダンスとしてみた場合の、電圧降下は互いにほぼ等しい。その結果、図4の2段目の信号波形Iの信号レベル(振幅)は、選択されている分割電極によらず、一定となっている。
【0043】
この信号波形Iの成分は、実質的に500kHzの高周波成分のみを含み、100Hzの特定周波数成分を含まない。その結果、この信号波形IIが入力されたバンドパスフィルタ8から出力される特定周波数成分の電圧信号の信号レベルは、実質的に0Vとなる。これにより、操作部材4が中立であることが検出される。
【0044】
これに対して、操作部材4が傾動操作されると、各コンデンサの静電容量Ca〜Chが互いに異なる値となる。例えば、操作部材4が、図2(a)に矢印Xで示す方向に傾動した場合、円錐電極3と各分割電極21a〜21hとがそれぞれ構成するコンデンサの静電容量Ca〜Chは、X方向において最大の静電容量値となり、X方向と逆方向で最小となる。すなわち、各静電容量の大小関係は、Cc、Cd>Cb、Ce>Ca、Cf>Cg、Chとなる。
【0045】
このため、信号波形IIの振幅も、図4に示すように、切替手段6によって選択されているコンデンサの静電容量に対応して変化する。その結果、この信号波形IIには、500kHzの高周波成分に加えて、切替手段6の選択が一巡する周期に対応する100Hzで変化する特定周波数成分が含まれる。
【0046】
この信号波形IIの電圧信号をバンドパスフィルタ8に通すことによって、信号波形IIIの特定周波数成分が抽出される。図4に示すように、抽出された信号波形IIIは、位相tXで最小となる、振幅Vsの正弦波である。
【0047】
マイクロプロセッサ9の端子T1に入力された信号波形IIIは、アナログ/デジタル(A/D)変換される。変換後の信号の振幅Vsから操作部材4の傾動操作の角度、即ち、傾動操作量が検出される。操作部材4の傾動操作量は、信号波形IIIの振幅にほぼ比例する。
【0048】
また、マイクロプロセッサ9の端子T2に入力された信号波形IIIの位相tXのタイミングから、操作部材4の傾動方向Xが検出される。図4では、信号波形IIIの位相を、放射状パターン2の全周を分割電極21aと分割電極21hとの境界を起点とした、切替手段6の巡回方向と同じ時計回りの角度と対応づけている。そして、位相tXは、操作部材4の傾動方向XであるX°に対応する。
【0049】
この位相tXは、具体的には、タイマー割り込みによって検出される。タイマー割り込みは、マイクロプロセッサ9の端子T2に入力された信号波形IIIの信号レベルが、図4に一点鎖線IVで示す中心電圧となるタイミングで発生する。信号波形IIIが一点鎖線IVを交わるタイミングt0とタイミングt1との所定のタイマー値がサンプリングされる。そして、このタイミングt1とタイミングt0とから、これらのタイミングの中央値tXが演算されて、この中央値に対応する操作部材4の傾動方向が検出される。
【0050】
傾動方向の検出精度は、特定周波数成分の信号波形の極小値等の位相の検出精度に依存する。本実施形態では、この位相の検出精度は、タイマー割り込み時のサンプリング精度に依存するが、分割電極による放射状パターン2の分割数の制約を受けない。このため、放射状パターンの分割数によらずに、傾動方向の検出にあたり、高い方位分解能が実現される。
【0051】
上述の実施形態においては、本発明を特定の条件で構成した例について説明したが、本発明は種々の変更及び組み合わせを行うことができ、これに限定されるものではない。例えば、静電容量−電圧変換手段は、実施形態に示したものに限定されない。
静電容量−電圧変換手段の変形例として、円形パターンを介して円錐電極側に高周波信号を印加し、切替手段の出力端を負荷抵抗を介して接地するように構成してもよい。その場合、円錐形電極の傾動方向に相当する位相で、特定周波数成分の信号波形が極大となる。
【0052】
また、静電容量−電圧変換手段の別の変形例として、円形パターンを介して円錐電極側に、負荷抵抗を介して高周波信号を印加するとともに、バンドパスフィルタ等の抽出手段介してマイクロコンピュータを接続し、一方、切替手段の出力端を接地するように構成してもよい。その場合、円錐形電極の傾動方向に相当する位相で、特定周波数成分の信号波形が極小となる。
【0053】
また、静電容量−電圧変換手段の別の変形例として、円形パターンを介して円錐電極側を、負荷抵抗を介して接地するとともに、バンドパスフィルタ等の抽出手段介してマイクロコンピュータと接続し、一方、切替手段の出力端に高周波信号を印加するように構成してもよい。その場合、円錐形電極の傾動方向に相当する位相で、特定周波数成分の信号波形が極大となる。
【0054】
また、上述の実施形態では、円錐電極と放射状パターンをプリント基板の同一面側に設けているが、円錐電極と放射状パターンの配置はこれに限定されない。例えば、円錐電極をプリント基板の上面に配置し、放射状パターンをプリント基板の下面に形成してもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、円錐電極と操作部材をプリント基板の同一面側に設けているが、円錐電極と操作部材の配置はこれに限定されない。例えば、円錐電極をプリント基板の下面側にプリント基板側に円錐の頂点を向けて設け、操作部材を、プリント基板の上面側からプリント基板を貫通して円錐電極に連結するようにしてもよい。
【0056】
さらに、操作部材は傾動するだけでなく、様々な機能と組み合わせることができる。例えば、操作部材に、プリント板に対して垂直方向から押圧して作動する公知のプッシュスイッチの機能、及び、操作部材の周囲で回動して機能する回転ダイアルの機能の一方又は両方を付加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明の全方向操作スイッチ装置は、ダイアルの回転位置を非接触でかつ正確に検出可能であり、また外来ノイズや結露等に対して信頼性の高いダイアル構造を提供できるから、自動車用の空調制御装置用ダイアル等に用いて好適であるほか、その他一般電気製品の全方向操作スイッチ装置としても使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態の全方向操作スイッチ装置の電極等を模式的に示した斜視図である。
【図2】(a)は、実施形態の放射状パターンの平面図であり、(b)は、実施形態の電極の縦断面図である。
【図3】実施形態の全方方向操作スイッチ装置の構成図である。
【図4】実施形態の全方向操作スイッチ装置の動作のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 プリント基板
2 放射状パターン
3 円錐電極
4 操作部材
5a ばね
5b ナット
6 切替スイッチ
7 静電容量−電圧変換手段
8 抽出手段、バンドパスフィルタ
9 マイクロコンピュータ、操作方向検出手段
21a〜21h 分割電極
22 円形パターン
71 高周波信号源
72 負荷抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全周を等角度に分割した複数の分割電極を有する放射状パターンと、
上記放射状パターンと対向し、かつ、全周の任意の方向に傾動可能に配置した円錐電極と、
上記円錐電極を傾動させる操作部材と、
上記放射状パターンの上記分割電極の各々を一定の巡回周期で順次に選択する切替手段と、
上記円錐電極と上記切替手段に選択されている上記分割電極とによって構成されるコンデンサの静電容量を、電圧信号に変換する静電容量−電圧変換手段と、
上記分割電極ごとに順次に変換された一連の電圧信号から、上記巡回周期を一周期とする特定周波数成分を抽出する抽出手段と、
上記特定周波数成分の信号波形の位相と上記放射状パターンの中心から見た方向とを対応づけ、上記信号波形が極大又は極小となる位相に対応する方向を上記操作部材の操作方向として検出する操作方向検出手段と、
を備えることを特徴とする全方向操作スイッチ装置。
【請求項2】
上記静電容量−電圧変換手段は、高周波信号源と、
上記コンデンサと上記高周波信号源との間、又は上記コンデンサと接地電位との間に設けた負荷抵抗と、
を有し、
上記抽出手段は、上記コンデンサと上記負荷抵抗との間に接続される
ことを特徴とする請求項1記載の全方向操作スイッチ装置。
【請求項3】
上記抽出手段は、上記巡回周期に対応する周波数を含む周波数成分を通過させ、且つ、上記高周波信号の周波数成分を遮断するフィルタを含む、
ことを特徴とする請求項2記載の全方向操作スイッチ装置。
【請求項4】
上記特定周波数成分の信号波形の最大振幅に基づいて、上記操作部材の傾動操作量を検出する操作量検出手段を更に備える
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の全方向操作スイッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−21117(P2009−21117A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183146(P2007−183146)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(591003345)ビステオン・ジャパン株式会社 (28)
【Fターム(参考)】