説明

全身性遺伝子送達のための抗体フラグメント標的化イムノリポソーム

【課題】癌、例えば頭頚部癌、乳癌または前立腺癌の治療薬として有用な核酸−イムノリポソーム組成物の提供。
【解決手段】トランスフェリン受容体を発現する細胞、例えば癌細胞を標的とする(i)カチオンリポソーム、(ii)トランスフェリン受容体に結合する単鎖抗体フラグメント、(iii)野生型p53をコードする核酸を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、リピドタグ抗体フラグメント標的化リポソームを含む抗体フラグメント標的化リポソーム(「イムノリポソーム」)を調製するための方法、イムノリポソームを使用するインビトロトランスフェクションのための方法、およびインビボにおける全身性遺伝子送達のための方法を提供するものである。本発明のリポソームは、標的化遺伝子送達を行うのに有用であり、全身投与後の効率的な遺伝子発現のために効果的である。送達系の特異性は、標的化抗体フラグメントから誘導される。
【0002】
癌に対する理想的な治療は、腫瘍表現型の原因となる細胞経路を選択的に標的とし、正常細胞に関して非毒性のものである。遺伝子治療を含む癌治療は、かなり有望ではあるが、一方でこの有望性を実現し得る前に指向すべき多くの問題を抱えている。おそらく、高分子治療に関連する問題の中の最も主要なものは、体内で必要とされる部位への治療分子の効率的な送達である。ウイルスおよびリポソームを含む多様な送達系(別名「ベクター」)が試験されてきた。理想的な送達系ビヒクルは、全身的に投与されうるもの(局所とは反対に)であり、体内のどの場所に存在する腫瘍細胞も選択的に標的化し得るものである。
【0003】
また、送達ベクターとしてウイルスを魅力的にする感染性は、同時に最も大きな欠点をもたらす。従って、分子治療上の送達のための非ウイルスベクターに対して多くの注目が向けられている。該リポソーム方法は、遺伝子送達のためのウイルスの諸方式に対して多くの利点を提供する。最も重要なことは、リポソームは、自己複製し得る感染性薬物ではないため、別の個体に移入する危険性を持たない。リポソームにより癌細胞を標的化することは、リポソームがその成分を腫瘍細胞へ選択的に送達するようにそれを修飾することによって達成し得る。ある癌細胞の外側表面に存在する特異的分子に関する重要な知識基盤が現在存在する。かかる細胞表面分子は、腫瘍細胞の外表面に存在する該分子が、正常細胞上にあるものとは異なるので、リポソームを腫瘍細胞に標的化するために使用することができる。
【0004】
発明の背景を説明するため、もしくは実施に関して追加の説明を提供するために本明細書中で用いた文献および他の物質は、出典明示により本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0005】
現行の体細胞遺伝子治療のアプローチは、ウイルスまたは非ウイルスベクター系のいずれかを用いる。多くのウイルスベクターは、遺伝子移入の効率は高いが、ある領域においては不十分である(Ledley FD. et al. Hum. Gene Ther(1995) 6:1129-1144)。非ウイルス遺伝子移入ベクターは、ウイルスベクター使用時に付随するいくつかの問題を回避する。進歩は、インビボにおけるヒトの治療用遺伝子の、非ウイルス性、医薬製剤、特にカチオンリポソーム介在遺伝子導入系の開発に向けてなされた(Massing U. et al., Int.J.Clin. Pharmacol. Ther.(1997)35:87-90)。DNA送達に関して、カチオンリポソームを融通性および魅力的にするそれらの特徴は以下を包含する:調製の簡易性;大量のDNAを複合体化する能力;いかなるタイプおよびサイズのDNAまたはRNAの使用の際にも融通性があること;非分裂細胞を含む多くの異なるタイプの細胞をトランスフェクションする能力;免疫原性もしくは生物学的危険物質活性の欠如(Felgner PL, et al., Ann NY Sci.(1995)772:126-139;Lewis JG, et al.,Proc.Natl. Acad. Sci USA(1996)93:3176-3181)。ヒト癌治療に関する知見から、より重要性なことには、カチオンリポソームは、インビボ遺伝子送達に関して安全かつ効率的であることが証明されてきた(Aoki K et al., Cancer Res.(1997)55:3810-3816; Thierry AR, Proc. Natl. Acad. Sci.USA(1997)92:9742-9746)。30以上の臨床試験が、現在遺伝子治療に関してカチオンリポソームを用いて行われており(Zhang W et al.,Adv. Pharmacology (1997)32:289-333;RAC Committee Report : Human Gene Therapy Protocols-December 1998)、小分子治療物質(例えば、抗菌剤および従来の化学療法剤)を送達するためのリポソームはすでに市販されている(Allen TM, et al., Drugs(1997)54 Suppl 4:8-14)。
【0006】
カチオンリポソームのトランスフェクション効率は、細胞表面の受容体によって認識されるリガンドを持つ場合に、劇的に増加し得る。受容体介在エンドサイトーシスは、真核生物表面に存在する高効率の内在化経路を示す(Cristiano RJJ, et al., Cancer Gene Ther.(1996) 3:49-57, Cheng PW, Hum Gene Ther .(1996)7:275-282)。リポソーム上のリガンドの存在は、細胞表面上へのその受容体によるリガンドとの初期結合に続く結合複合体の内在化によって細胞へのDNA導入を助ける。トランスフェリンおよび葉酸を含む多様なリガンドが、そのリポソーム標的化能力に関して試験されてきた(Lee RJ, et al., J. Biol Chem.(1996)271:8481-8487)。トランスフェリン受容体(TfR)レベルは、前立腺癌を含む種々の癌細胞タイプにおいて上昇するが、ヒトリンパ節および骨の転移から派生した前立腺癌細胞系でもそうである(Keer HN et al.,J. Urol(1990)143:381-385); Chackal-Roy M et al., J.Clin. Invest.(1989)84:43-50;Rossi MC, et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA(1992)89:6197-6201;Grayhack JT, et al., J. Urol.(1979)121:295-299)。また、上昇したTfRレベルは、腫瘍細胞の攻撃性または増殖能と相関する。そのため、TfRレベルは、予後の腫瘍マーカーとして有用であると考えられ、TfRは悪性腫瘍細胞の治療の際に薬物送達に関する有力な標的である(Miyamoto T et al., Int J. Oral Maxillofac. Surg.(1994)23:430-433;Thorstensen K. et al., Scand J. Clin. Lab. Invest.Suppl(1993)215:113-120)。我々の研究室では、SCCHNでの腫瘍細胞トランスフェクション効率が、リガンドを持たないカチオンリポソームではわずか5〜20%であるのと比較して、60〜70%であるトランスフェリン複合体カチオンリポソームを調製した(Xu L, et al., Hum. Gene Ther.(1997)8:467-475)。
【0007】
腫瘍細胞上の受容体によって認識されるリガンドの使用に加えて、特異的抗体も、それらを特異的な腫瘍細胞表面抗原(これは受容体に制限するものではない)を指向しうるリポソーム表面(Allen TM et al.,(1995) Stealth Liposomes,pp.233-244)へ結合することができる(Allen TM, Biochim. Biohpys. Acta (1995)1237:99-108)。これらの「イムノリポソーム」、特に立体的に安定化したイムノリポソームは、特定の標的細胞群に治療薬物を送達することができる(Allen TM et al.,(1995) Stealth Liposomes,pp.233-244)。Parkら(Park JW, et al., Proc. Natl. Acad.Sci.USA(1995)92:1327-1331)は、リポソームに接合した抗HER-2モノクローナル抗体(Mab)Fabフラグメントが、HER-2を過剰発現する乳癌細胞系SK-BR-3に特異的に結合し得ることを明かにした。イムノリポソームは、被覆ピット経路を介する受容体介在エンドサイトーシスによって、また膜融合によっても効率的に内在化することが見出された。さらに、抗HER−2Fabフラグメントのアンカリングによって、その阻害効果は増強した。ドキソルビシンを有する抗HER−2イムノリポソームは、インビボおよびインビトロにおける標的細胞に対して重要な特異的細胞毒性を示した(Park et al.,Proc. Natl Acad.Sci.USA(1995)92:1327-1331)。さらに、Suzuki et al.,(Suzuki S, et al.,J.Cancer (1997)76:83-89)は、インビトロにおいてヒト白血球細胞においてさらに効率よいドキソルビシンを送達するために抗トランスフェリン受容体モノクローナル抗体接合イムノリポソームを用いた。Huwyler J, ら(Huwyler J, et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA (1996) 93:14164-14169)は、インビボにおいてラットグリオーマ細胞(RT2)に、ダウノマイシンを送達するために抗TfRモノクローナル抗体イムノリポソームを用いた。このペグ化(PEGlated)イムノリポソームは、正常組織および臓器において薬物の濃度低下を生じた。これらの研究は、腫瘍標的化薬物送達のためのイムノリポソームの有用性を示すものである。SuzukiらおよびHuwylerらによって使用されたイムノリポソーム複合体は、彼らが、アニオンリポソームを使用したこと、および彼らの方法では核酸を送達することができない点で、本発明に記載のものとは異なっていることに注意すべきである。
【0008】
単鎖抗体フラグメント
生物工学における発展は、Mabからの特異的な認識ドメインの誘導を可能にした(Poon RY, (1997) Biotechnology International: International Developments in the Biotechnology Industry.pp.113-128)。重鎖および軽鎖の多様な領域の組換えと、そのシングルポリペプチド内への組込みは、標的化の目的のために単鎖抗体誘導体(scFvを設計)を使用することの可能性を提供する。癌胎児性抗原に対して指向したscFv、HER-2、CD34、黒色腫関連抗原およびトランスフェリン受容体を提示するように作製したレトロウイルスベクターが開発された(Jiang A, et al.,J. Virol(1998)72:10148-10156, Konishi H. et al., Hum Gene Ther.(1994)9:235-248:Martin F, et al., Hum. Gene Ther.(1998)9:737-746)。ウイルスを指向したこれらのscFvは、特別な抗原を発現する細胞のタイプに特異的に結合および感染する標的を示している。さらに、少なくとも癌胎児性抗原の場合、scFvは、親の抗体と同じ細胞特異性を持つことが示されている(Nicholson IC, Mol. Immunol.(1997)34:1157-1165)。
【0009】
カチオンリポソーム遺伝子転移およびイムノリポソーム技術の組み合わせは、標的化遺伝子送達のための有望なシステムであると考えられる。
【発明の概要】
【0010】
発明の要旨
我々は、ヒト遺伝子治療の際に使用するための、核酸の腫瘍を標的化した全身送達を可能にする多様なイムノリポソームを構築した。下記の実施態様に示したデータに基に、これらのTfRscFvを組込んだイムノリポソームDNA複合体は、完全なTf分子を持つ同じリポソームDNA複合体より高いレベルのトランスフェクション効率をもたらし得る。そのため、本発明の一態様において、本発明のイムノリポソームは、トランスフェリン受容体を発現する多様な哺乳動物細胞型の高いトランスフェクション効率のためのキットを作製するために使用することが可能である。本発明の一態様において、我々は、リピドが細菌細胞によって自然に加えられ、scFvを不活性化させ得る化学反応を回避しながらリポソームへのscFvの組込みを容易にするように、リピドタグを有するscFvタンパク質を構築した。
【0011】
リピドタグscFvイムノリポソームは、基本的に2つの方法で調製される:脂質膜可溶化法およびダイレクト・アンカー法である。この脂質膜可溶化法は、界面活性剤の透析法を修飾したもので、Laukkanen ML, et al., (Laukkanen ML, et al., Biochemistry (1994)33:11664-11670)およびKruf et al.,(de Krurif et al.,FEBS Lett.(1996)399:232-236)によって、中性またはアニオンリポソームに関して記載されており、この両方法は出典明示により本明細書の一部とする。この方法は、リピドタグscFvとカチオンリポソームとを結合するために適当である。脂質膜可溶化法において、クロロホルム中の脂質は、減圧下蒸発し、丸底ガラスフラスコ内に乾燥脂質膜を得る。次いで、脂質膜0.5〜4%、好ましくは1%のリピド修飾scFvを含むβ-D-グルコシド(OG)を用いて可溶化し、撹拌にかける。滅菌水で希釈後、該溶液を短時間音波処理し、透明にする。
【0012】
リピド標的化抗体または抗体フラグメントを結合するための第2の方法は、ダダイレクト・アンカー法であり、これはE. Coliリポタンパク質N末端の9個のアミノ酸とscFv(lpp-scFv)または他のリピド修飾抗体またはフラグメントを結合するため、およびこれらを予め形成したリポソームに結合するために特に有用である。scFvと予め形成したリポソームを結合するために、1:3〜1:10の体積比で、1%のOG中リピド修飾scFvを撹拌しながら予め形成したリポソームに添加する。該混合物を、さらに5〜10分間撹拌し、scFvイムノリポソームの透明溶液を得る。残存OGおよび非複合体化scFvは、クロマトグラフィーで除去することができるが、後の過程でそれらが干渉することはほとんどない。分離実験、即ちCentricon-100(Amicon)を用いる限外濾過、Ficoll−400濾過(Shen DF, et al., Biochem. Biophys. Acta(1982)689:31-37)またはSepharose CL-4B(Pharmacia)クロマトグラフィーにより、添加された全リピドタグscFv分子は実質的にカチオンリポソームに結合または接続されていることが示された。これは、中性またはアニオンリポソームに対するlpp-scFvの非常に低い結合率を改善する。そのためこの改善は、非結合scFvを除去するためのさらなる精製工程を必要としない。
【0013】
表面上に1以上のリピドタグを持つように修飾し得る全ての抗体、抗体フラグメントまたは別のペプチド/タンパク質リガンドは、本発明において有用である。他のリピド修飾方法は、Liposome Technology, 2nd Ed.Gregorisdis, G., Ed., CRC Press, Boca Raton, FL, 1992に記載の、リピド鎖と抗体もしくはフラグメントとの直接的接合を包含する。
【0014】
本発明の別の態様において、システインはscFv配列のC末端に付加され、該タンパク質は、E. Coliの封入体で発現され、再折りたたみされ、活性scFvを生じる。C末端システインは、scFvとリポソームの接合を助ける遊離メルカプト基を提供する。2つの方法を、接合過程において使用し得る。1)前結合法:第一段階は、マレイミドイル(maleimidyl)基または別のメルカプト反応基を含むカチオンリポソームとscFv-SHを接合させ、scFvリポソームを生成する。次いで、核酸をscFvリポソームに添加し、scFv-リポソーム-DNA複合体を形成する。前結合法は、scFVがDNA複合体形成前に結合するように設計される。2)後結合法:この方法は、はじめに、核酸とカチオンリポソームを複合体化し、縮合構造(condensed structure)を形成する。次いで、scFv-SHを、DNAリポソーム複合体の表面上で結合させ、scFv-リポソーム-DNAを生成する。後結合法は、scFvがDNA複合体化後に結合するように設計される。そのため、この方法は、標的化リガンドscFvの使用および制御された複合体の内部構造を良好にしうる。
【0015】
抗体または抗体フラグメントがリピドタグ付きであるかもしくはリポソームへ接合しているかに拘らず、核酸イムノリポソーム複合体は治療上使用することができる。好ましい複合体は、注目とする部位、好ましくは癌細胞である細胞、より好ましくはトランスフェリン受容体を発現する細胞を標的にする。標的化剤は、好ましくは、トランスフェリン受容体に結合する該抗体または該抗体フラグメントである。核酸は、治療薬であり、好ましくはDNA分子であり、より好ましくは野生型p53分子をコードする。核酸イムノリポソーム複合体は、好ましくは治療用組成物は、全身投与、好ましくは静脈注射することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、scFvTfRリピド−タグの構築を示す。
【図2】図2は、全身投与による腫瘍異種移植片におけるインビボのscFv−リポソーム標的化p53発現のウエスタン・ブロット分析を示す。
【図3】図3は、pCMVp53およびpCMVpRO構築物を示す。
【図4】図4は、p53−3’Adの構築を示す。
【図5】図5は、His−タグを有するscFv−システインの構築を示す。
【図6】図6は、His−タグを有しないscFv−システインの構築を示す。
【図7】図7は、セルロース結合ドメイン(CBD)タグおよびSタグを有するscFv−システインの構築を示す。
【図8】図8は、接合法によって生成した精製TfRscFvタンパク質に関するクマシー・ブルー染色したSDSポリアクリルアミドゲルを示す。
【図9】図9は、全身投与による腫瘍異種移植片におけるインビボでのTfRscFv−リポソーム標的化p53の発現を生じる接合法のウエスタン・ブロット分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細な説明
本発明は、イムノリポソームを目的とし、該イムノリポソームを作製および使用する方法を目指すものである。様々なタグをつけたイムノリポソームおよびscFvをリポソームに結合する多様な方法を含む多様な態様を開示する。イムノリポソームは、リピドタグを含むか、または還元基、好ましい態様においては遊離メルカプト基を介して結合してもよい。
【0018】
腫瘍抑制遺伝子p53の変異体は、乳癌の15〜50%と転移性の前立腺癌の25〜70%を含む、ヒト癌の50%以上と関連がある。また、p53における異常は、多様なタイプの悪性腫瘍における予後の悪さに関連する。そのため、全身送達し、wtp53の機能を効果的に修復させるように腫瘍に対して特異的に遺伝子治療の標的とする能力は、癌治療における重要な治療態様であろう。即ち、本発明の方法によって生成されたイムノリポソームは、wtp53機能の修復のみならず他の治療薬剤遺伝子に関して腫瘍標的化全身性送達ビヒクルとしても効率的な新規癌治療モダリティとして有用であろう。
本発明を次の実施例で説明する。
【実施例】
【0019】
実施例1
生合成的リピドタグscFvの構築および発現
TfRscFvに関する発現ベクターの構築
I.発現ベクターを構築するために、E.coliリポプロテインシグナルペプチド(ssLPP)と該scFvクローニング部位との間のアミノ酸リンカー配列を含むベクターpLP1を使用した(de Kruif et al. FEBS Lett. (1996)399:232-236)。このベクターは、発現したscFvの精製および検出のために使用し得るc−mycとHisタグ配列の両方を含む(図1)。
【0020】
我々は、プラスミド発現ベクターであるpDFH2T−vecOKを得た。この発現ベクターは、DNA結合タンパク質と結合する5E9(Haynes, et al. J. Immunol(1981) 127:347-351)抗体に関する単鎖フラグメントを含み、ヒトトランスフェリン受容体(TfR)を認識する。このベクターは、DNA結合タンパク質に関する配列を含み、pDFH2T−vecOK中のscFv配列を断片化する独特な制限酵素部位は存在しない。さらに、我々は、NotI部位を含む5’プライマー
【表1】

およびNcoI部位を含む3’プライマー
【表2】

を用いて所望のフラグメントをPCR増幅して、VH−リンカーVκscFvをクローニングした。プライマーRB551およびRB552を用いるPCR増幅によって、81塩基のMetから821塩基のLysのpDFH2T−vecOK由来TfRに関するscFvを増幅した。pLP1ベクターは、Laukkenen ML, et al (Laukkanen ML, et al., Biochemistry (1994)33:11664-11670) およびde Kruif et al(Kruif et al., FEBS Lett.(1996)399:232-236) によって述べられているように、E.coliリポプロテインシグナルペプチド(ssLPP)とE.coliリポプリテインN末端の9個のアミノ酸(LPP)に関する配列も含む。これらの配列の挿入は、E.coli宿主において発現シグナルの脂肪酸アシル化を引き起こし、細菌膜内にその導入がおこる。該ベクターは、不可欠でない10個のアミノ酸リンカー配列を有し、リピドタグ部位とscFvとの間の空間を広げる。細菌膜由来のリピド修飾scFv配列の精製によって、リポソーム中に結合するか挿入され得る活性分子となる。
【0021】
2.TfRscFvの発現および精製
我々は、E.coli発現宿主SF110F’を上記構築した発現ベクターを用いて形質転換した。宿主細胞は不安定ではないが、発現したlac受容体を含むのが好ましい。多くのクローンを選別し、最良の収率でscFvを生成する一つのクローンが選択された。リピド修飾scFv(lpp-scFv)を、Kruif ら(de Kruif et al., FEBS Lett.(1996)399:232-236)によって記載されたようにTriton X-100を使用する細菌膜から単離した。精製するために、単一コロニーを5%グルコースと適当な抗菌剤を含むLB(200μl)中で再懸濁した。該混合物を、5%グルコースと適当な抗菌剤を含む2枚のLB寒天プレート(90mm)上に塗布し、一晩増殖した。翌日、該細胞を、プレートから洗浄し、0.1%グルコースと適当な抗菌剤を含むLB(全量5リットル)の播種に使用した。該培養物を、OD600が0.5〜0.7に達するまで、6時間、25℃、200rpmで増殖した。IPTGを、1mMの終濃度まで添加し、該培養物をさらに一晩インキュベートした。翌日、該細菌培養物を、遠心分離で回収し、200mlの溶解緩衝液で、室温で30分間溶解した。該試料を、氷上で冷やしながら28ワットで5分間音波処理を行った。該分解緩衝液は、20mM HEPES(pH7.4〜7.9)、0.5mM NaCl、10%グリセロール、および0.1mM PMSFを含む。引用したプロトコールからの逸脱は、各々20および200mM イミダゾールを含む、20mM HEPES(pH7.4〜7.9)、0.5M NaCl、10%グリセロール、0.1mM PMSF、1%n−オクチルβ−D−グルコシド(OG)、そして10%グリセロールを含む緩衝液でメタル・アフィニティーカラムの洗浄および溶出を行うことのみである。lpp−scFvの溶出試料を、SDS−PAGEおよび抗c−myc抗体9E10を用いてウエスタン・ブロットで分析し、精製scFvが約30kDaのバンドを示すことを確認した。
【0022】
実施例2
脂質膜可溶化法によるリピドタグscFvイムノリポソームの調製
この実施例は、リピドタグscFvイムノリポソームを調製するために脂質膜可溶化法に関する詳細な方法を開示する。クロロホルム中のリピド(5μmol、DOTAP/DOPE、1:1モル比)を、減圧下で蒸発させ、丸底ガラスフラスコ中で乾燥リピド膜を得た。リピド膜に、0.5mlの、リピド修飾scFvを含む1%OG、20mM HEPES、150mM NaCl(pH7.4)を添加した。これを、室温で、10〜20分間インキュベーションし、次いでリピド膜を撹拌で混合し、溶解した。次いで、滅菌水(2ml)を添加し、scFvリピド混合物を希釈した。該溶液を、20℃で、バス型ソニケーターにより短時間音波処理し、透明にした。該scFv−リポソームは限られた量の残存界面活性剤OGを有する透明な溶液である。該OGおよび非複合体scFvを、SepharoseCL-4BもしくはSephacrylS500を使用するクロマトグラフィーによって除去し得るが、それらは後の使用において干渉しない。
【0023】
実施例3
ダイレクト・アンカー法によるリピドタグscFvイムノリポソームの調製
この実施例は、リピドタグscFvイムノリポソームを調製するためにダイレクト・アンカー法を提示する。丸底ガラスフラスコ内の乾燥リピド膜として調製したリピド(20μmol、リピドA−H、組成および比は以下を参照)を、純水(10ml)に添加し、バス型ソニケーターで、室温(リピドA、B、C)もしくは65℃(リピドD、E、G、Hもしくは全てのコレステロール(Chol)との任意の組成物)で、10〜30分間音波処理した。調製した該カチオンリポソームは、透明な溶液であり、その組成および比は以下である。
【表3】

予め形成したリポソームをscFvに結合するために、1%OGを含む20mM HEPES、150mM NaCl(0.5ml、pH7.4)中の該リピド修飾scFv(IPP−scFv)を、撹拌を行いながら、1:3〜1:10の体積比で、予め形成したリポソームに添加する。該混合物を、さらに1〜5分間撹拌にかけ、scFvイムノリポソームの透明溶液を得た。残存OGと非複合体scFvは、クロマトグラフィーによって除去し得るが、それらは後の使用において干渉しない。分離実験、すなわちCentricon−100(Amicon)を用いる限外濾過、Ficoll−400フローテション(Shen DF, et al.,Biochem Biophys Acta (1982)689:31-37)またはSepharose CL-4B(Pharmacia)クロマトグラフィーは、実際に、添加した全てのリピドタグscFvが、カチオンリポソームに結合またはアンカリングしていることを示した。これは、対照的に、アニオンもしくは中性リポソームとlpp-scFvとの結合速度より非常に遅い。そのため、非結合scFvを除去するために、さらなる精製工程は必要でない。
【0024】
実施例4
ELISA、FACSおよび免疫蛍光法によって示したリピドタグscFvイムノリポソームの免疫活性
この実施例は、TfR(+)細胞への結合能に関する抗TfRscFvイムノリポソームの特徴を提供するものである。該ヒト前立腺癌細胞系DU145および頭部および頚部のヒト扁平上皮細胞癌細胞系JSQ−3は、これらの研究に対するTfR+標的細胞として機能する。
【0025】
間接的細胞系酵素結合免疫吸着剤アッセイ(ELISA)を用いて、リポソームに結合する前後のlpp−scFvの免疫活性を測定した。96ウェルプレートにおける融合性JSQ−3細胞を、PBS中の0.5%のグルタルアルデヒドを用いて、10分間、室温で固定した。該プレートを、PBS中の5%ウシ胎仔血清(FBS)を用いて、30℃で30分間ブロッキングした。lpp−scFv、scFv−イムノリポソームおよびリポソームを、デュプリケートでウェルに添加し、4℃で一晩インキュベーションした。3回のPBS洗浄の後、抗−c−mycモノクローナル抗体を、PBS中3%FBSの各ウェルに添加し、37℃で、60分間インキュベーションした。3回のPBS洗浄の後、3%FBSで希釈したHRP標識したヤギ抗マウスIgG(Sigma)を各ウェルに添加し、30分間37℃でインキュベーションした。該プレートを、3回PBSで洗浄し、リン酸クエン酸緩衝液(Sigma)中の0.4mg/mlOPD基質(100μl)を各ウェルに添加した。発色を2M スルホン酸(100μl)の各ウェルへの添加により停止した。該プレートを、490nmで、ELISAプレートリーダー(Molecular Devices Corp)で読取った。間接的細胞ELISAにより、抗TfR-scFvがリポソーム複合体中に組込まれた後にその免疫活性を保持することを示した(表1)。
表1:JSQ−3への抗TfRscFvリポソームの結合
【表4】

【0026】
FACS分析に関して、抗TfR-scFv−LipA分析は、4℃でJSQ−3とDU145細胞をインキュベーションし、次いでFITC標識ヒツジ抗マウスIgGと共に、4℃でインキュベーションした。JSQ−3細胞とscFv−LipAのインキュベーションは、非結合遊離抗TfR lpp-scFv抗体によって観察されたものと同一の蛍光変化を示し、標的細胞に結合する量が非常に多いことを示した。対照的に、非標的リポソームは、細胞への結合が非常に少ないことを示した。類似の結果が、前立腺癌細胞系DU145で観察された。また、明細書中、該scFv−Lip(A)複合体は、非標的化Lip(A)と比較すると、腫瘍細胞への充分な結合を明確に示した。FACSデータは表2にまとめた。表2では、蛍光変化を、蛍光を示す細胞の百分率として表示する。これらの研究において、陽性細胞の百分率によって示した細胞への結合レベルは、非結合の遊離scFvのものと類似し、さらにリポソーム複合体中への挿入が、抗TfR lpp−scFvの免疫学的活性を不活性にしないことを示唆した。DU145を用いるこれらの初期実験に対して使用したリポソーム調製物が、JSQ細胞に至適化されたことを示すべきである。そのため、前立腺腫瘍細胞へのscFv標的化リポソーム複合体の結合は、さらにこの細胞型に対して至適化されたリポソーム複合体の使用によって増幅される。
表2:JSQ−3およびDU145へのTfRscFvリポソーム結合のFACS分析
【表5】

【0027】
scFvリポソーム(Lip(A)が、ローダミンDOPEで標識されている)とFITC標識抗マウスIgGの後に抗c−myc抗体を用いる間接的免疫蛍光染色によって、JSQ−3細胞へのscFv標識リポソーム複合体の結合を確認した。形質移入細胞において赤色および緑色蛍光の一致は、抗TfRscFv(緑色蛍光としてFITC標識抗c−myc抗体によって示される)が、細胞への直接的なローダミン標識Lip(A)を示す。さらに、scFv Lip(A)システムに関する細胞性結合の高いレベルは、高い%の赤/緑二重陽性蛍光細胞によって示される。
【0028】
実施例5
インビボでの標的細胞のscFvイムノリポソーム介在遺伝子トランスフェクションの至適化
我々は、レポーター遺伝子としてβガラクトシダーゼを用いるJSQ−3細胞における抗TfRscFvLip(A)複合体のトランスフェクション効率を測定した。これらの研究において、使用したレポーター遺伝子構築物は、CMVプロモーター(pCMVb)制御下でβガラクトシダーゼ遺伝子を含み、その同じプロモーターをpCMVp53に使用した(図3)。トランスフェクションした細胞におけるβGla発現レベル(トランスフェクション効率と相関する)は、βGal酵素アッセイで評価した(XuL, et al.,Hum. Gene Ther.(1997)8:467-475)。表3に示したように、抗TfRscFvのLipAへの結合は、非標的化リポソーム複合体と比較すると、scFv-Lip(A)-pCMVbトランスフェクションした細胞における酵素活性が2倍であった。この発現レベルは、トランスフェリン自身を標的化リガンド(Tf-Lip(A)-pCMVb)として使用した場合に観察される発現レベルと視覚的に実際に同一であった。さらに、遺伝子発現における増加は、レポーター遺伝子DNA用量依存性であることが示された。表4は、JSQ-3細胞におけるscFvリポソーム介在トランスフェクションの至適化を示す。
表3:抗TfR−リポソームによるJSQ−3細胞のトランスフェクション
【表6】

表4:JSQ−3へのscFv−リポソームトランスフェクションの至適化
【表7】

【0029】
実施例6
化学療法薬への感受性を生じる腫瘍細胞を標的とするscFvイムノリポソーム介在p53遺伝子トランスフェクション
1.インビボにおけるリポソーム介在wtp53遺伝子トランスフェクションを促進した抗−TfRscFv
抗TfR−scFv標的化Lip(A)−p53−3’Adによって遺伝子移入したJSQ−3腫瘍細胞における外来性wtp53の発現を、p53応答性プロモーターの制御の下でルシフェラーゼレポーター遺伝子を含む発現プラスミド(pBP100)のトランスフェクションによって評価した(Chen L.et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1998)95:195-200)。結果として、外来性wtp53の発現レベルが高くなると、ルシフェラーゼ活性のレベルも高かった。このルシフェラーゼ酵素活性は、相対的光単位(RUL)として表現した。上記に示したように、β−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子と、Lip(A)−p53−3’Ad複合体への標的化剤としての抗TfRscFvの添加は、非標的化Lip(A)−p53−3’Ad複合体を超えるトランスフェクション効率とwtp53タンパク質の発現の大きな増加をもたらした(ルシフェラーゼ活性のRLUによって表現される)。再び、scFv−Lip(A)−p53−3’Adトランスフェクション細胞におけるp53発現レベルは、トランスフェリンそれ自身を、標的化リガンド(Lip(A)−p53−3’Ad)として使用した場合に観察されたレベルと非常に類似する。そのため、これらの知見は、抗TfR単鎖抗体方法が、腫瘍細胞への標的化カチオンリポソーム複合体を標的化し、生物学的に活性なwtp53遺伝子を送達する有用な方法であることを示す。
表5:JSQ−3細胞での異なるリポソームによって仲介されたインビトロでのp53発現
【表8】

【0030】
2.抗TfRscFvイムノリポソーム介在p53遺伝子修復は、腫瘍細胞をシスプラチン(CDDP)の細胞毒性に感受性とした
p53誘導アポトーシスの研究に対して、マウス黒色腫細胞系B16を、2セットの6ウェルプレートに、5μgのDNA/2×10細胞の用量で、p53−3’Ad(図4)またはpCMVpRoプラスミド(図3)DNA(それぞれ、scFv−Lip(A)−p53およびscFv−Lip(A)−pRo)との抗TfRscFvイムノリポソーム複合体でトランスフェクションを行った。比較のために、トランスフェリン−リポソーム−DNA(LipT−p53もしくはLIpT−pRo)も、5μgDNA/2×10細胞の用量で遺伝子移入した。24時間後、CDDPを、一組のプレートに、終濃度10μlまで添加した。薬物添加後の24および48時間、付着および浮遊細胞の両方を、アポトーシスの染色のために回収した。細胞を、製造元プロトコールに従って、アネキシン(Annexin)V−FITCキットで染色した(Trevigen, Inc., Gaithersburg, MD)。アネキシンVは、リポコルチンであり、天然に存在する血液タンパク質と抗凝固薬ある。染色細胞は、FACStarサイトメーター上で測定した(Becton and Dickinson)。表6は、アポトーシス分析の結果のまとめである。
表6:リポソームp53遺伝子修復およびCDDPによって誘導されたB16細胞のアポトーシス

【表9】

【0031】
CDDPを含まない場合、リポソーム複合体単独によって誘導される量と比較すると、scFvリガンドの添加によって24時間でアポトーシス細胞%の増加はなかった。しかし、48時間までには、リポプレックスへの標的化scFvの添加により、アポトーシス細胞%が、2倍以上に増加した。CDDPを有する場合、非標的化リポソーム複合体と比較して、24時間であってもアポトーシス細胞の顕著な増加があった(約1.5倍)。さらに重要なことは、CDDPを併用したアポトーシス細胞の増加は、Tf分子自身を用いる以上に標的リガンドとしてTf受容体にscFvを使用すると、さらに顕著であった。この増加は、トランスフェクション効率と相関する。
【0032】
実施例7
全身投与による、インビボにおけるscFvイムノリポソーム標的化wtp53遺伝子の送達および発現
リポソームを含有する抗TfRscFvの能力を試験するために、wtp53をインビボにおいて腫瘍細胞へ特異的に送達するために、scFv−Lip(A)p53−3’Ad(図4)または非標的化Lip(A)−p53−3’Ad(図4)を、JSQ−3皮下異種移植片の腫瘍細胞を有するヌード・マウスに静脈注射した。注射2日後、腫瘍細胞を摘出し、ウエスタン・ブロット分析のために肝臓および皮膚に加えて該腫瘍細胞からタンパク質を単離した(Xu L, et al., Hum. Gene Ther.(1997)8:467-475)。等量のタンパク質(100μg、濃度によって決定する場合)を、各々のレーンに流した。図2に示したように、scFv−Lip(A)p53−3’Ad複合体で全身的に処置したマウス由来の腫瘍(図2の標識scFv−Lip(A)−p53)は、非常に強いp53シグナルを示し、外来性のwtp53の高い発現レベルに関するさらに追加の低いバンド表示を示し、一方で、外来性マウスp53の非常に低い発現が、皮膚おび肝臓の双方においてのみであることが明らかとなった。対照的に、我々の初期段階の結果を基に期待していたように、非常低いレベルの外来性p53発現が非標的化Lip(A)p53−3’Ad注入マウス、図2中の標識化Lip(A)−p53から単離した腫瘍細胞において明らかである。すなわち、我々の新規でかつ独創的な抗TfRlpp−scFvリガンドによって標的化したリポソーム複合体は、外来性遺伝子を、インビボで腫瘍細胞に選択的に送達することができることは明らかである。これらの結果は、効率よく標的化する新規の方法の潜在性が、全身に、インビボで腫瘍に特異的にカチオンリポソーム複合体を送達したことを示すものである。
【0033】
実施例8
接合(コンジュゲーション)法で使用するための3’システインを用いるTfRscFvの構築および精製
リピドタグの非存在下、別の方法を考案し、リポプレックスに精製TfRscFvタンパク質を結合した。このアプローチは、還元基、例えばメルカプト基によるカチオンリポソームへの単鎖タンパク質の接合を目的とする。好ましい態様において、システイン残基を、TfRscFvタンパク質の3’末端に付加する。このシステインの還元は、カチオンリポソームに接合し得る遊離のメルカプト基において生じ、すなわちトランスフェリン受容体を発現する細胞にリポプレックスを標的化するものである。一方、以下の実施例は、還元基としてシステインを用い、他の類似の還元基はこの方法で機能することもまた明らかである。
【0034】
1.構築
A.TfRscFvイムノリポソームを製造する接合法において使用するためにヒスチジンタグを有する3’システインを含む発現ベクターの構築
実施例1のように、TfRのためのVH−リンカー−VκscFvを、プラスミド発現ベクター、pDFH2T−vecOKから得た(実施例1に記載)。PCR増幅のための5’プライマー
【表10】

を用いてNcoI部位を、pDFH2T−vecOKに導入した。
システイン残基に対するヌクレオチド配列に加えてNotl制限部位を、3’プライマー
【表11】

を使用して導入した。PCR産物を、市販のベクターpET26b(+)(Novagen)のNcoIおよびNotl部位にクローンした。このベクターは、NcoI部位の5’、pelBリーダーシグナル配列も含む。発現ベクター中のこの配列の存在は、ペリプラスミック(peliplasmic)スペースへのタンパク質の輸送を可能にする。該タンパク質の精製を助けるために、pET26b(+)ベクターもNotl部位のヒスチジンタグ配列3’を含む(図5)。
【0035】
B.TfRscFvイムノリポソームを製造する接合法で使用するためのヒスチジンタグを持たない3’システインを含む発現ベクターの構築
ヒトが治療用送達ビヒクルとして使用するためには、ヒスチジンタグなしにTfRscFvが製造されることが好ましい。故に、実施例8、セクション1.A.において記載した該構築を、最終タンパク質生成物においてこのタグを排除するために修飾した。これを達成するために、上記(実施例8、セクション1.A)に記載した同じ5’プライマーを使用した。しかし、異なる3’プライマーを用いた。システイン残基およびNotl制限部位に対するヌクレオチド配列に加えて、このプライマー
【表12】

は、システイン配列の隣で、Notl部位の前にDNAストップコドンを導入した(図6)。即ち、この構築物のタンパク質生成物は、ヒスチジンタグを含まない。
【0036】
C.TfRscFvイムノリポソームを製造する接合法における使用のための5’CBDTMタグを有する3’システインを含む発現ベクターの構築
接合法を用いるカチオンリポプレックスと結合するためにシステイン残基を含む3つの選択的構築物も作製した。この構築物のために、実施例8、セクション1.Bにおいて上記記載の2つの同じプライマーを使用した(図7)。即ち、ヒスチジンタグは、タンパク質生成物中には存在しなかった。しかし、これらの反応のPCR産物を、異なるベクター、pET37b(+)(Novagen)中にクローン化した。このベクターは、セルロース結合ドメインタグ(CBDTMタグ)とSタグ(両方とも、ベクター中のNcol部位の5’)を含む。該CBDTMタグ配列は、ミクロバイアルセルロースから誘導されたセルロース結合ドメインをコードする。そのため、このタグの存在は、高い特異性、タンパク質生成物の低コストアフィニティー精製のためのセルロースベースの支持体の使用を可能にする。この構築物中に存在するSタグの存在は、ウスタン・ブロットでのタンパク質生成物の簡単な検出、およびタンパク質量の簡単な酵素的定量を可能にする。
【0037】
2.システイン残基を含有するTfRscFvの精製
発現したlacリプレッサーを含む市販入手し得るE.coli発現宿主BL21(DE3)を、実施例8、セクション1に記載した発現ベクター(3つ全てを個々に用いた)で形質転換した。多くのクローンを選択し、最も収率よくTfRscFv産生するものを選抜した。ヒスチジンタグを有する実施例8、セクション1.Aにおいて、上記の構築物由来のタンパク質の精製は、実施例に詳細に記載するが、同じ方法を、実施例8、セクション1で記載した3つ全ての構築物由来のTfRscFvタンパク質を含有するシステインの精製に使用した。主要なTfRsタンパク質(約90%)は、可溶性で存在するのではなく、封入体中に存在することが明らかとなった。そのため、システインリンカーを含有するTfRscFvを、以下のように封入体から精製した。単一クローンを、50μg/mlのカナマイシン含有LB培地(5〜10ml)で培種し、37℃、250rpmで、0.5〜0.7のOD600になるまで(4〜5時間)増殖させた。この少量の培養物の30mlを沈殿させ、LB培地(ブロス)で懸濁し、50μg/mlのカナマイシン含有LB培地(1L)に添加し、37℃、250rpmで、OD600が0.5〜0.7になるまで(4〜5時間)増殖させた。TfRscFvタンパク質の発現を誘導するために、終濃度1mMのIPTGをこの時点で添加し、さらに4時間インキュベーションを継続した。この時点がタンパク質発現の最高レベルをもたらすことを決定した。次いで、バクテリア培養物を遠心分離で回収し、15分間、30℃で、リゾチーム(100μg/ml)を含有する20mMの冷Tris−HCl(pH7.5、100ml)で溶解した。試料を、氷上、10ワットで5分間(30秒のバースト)音波処理した。この封入体を、遠心分離(13000g、15分間)で単離した。得られた沈殿物を、20mMの冷Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で3回洗浄した。封入体の精製度と量を、可溶化前にSDSポリアミドゲル電気泳動によって決定した。
【0038】
単離した封入体を、6M グアニジン−HClと200mM NaCl(6M GuHCl緩衝溶液)を含有する100mMTris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解し、遠心分離(12,300g、15分間)を行い、不溶性堆積物を除去した。2−メルカプトエタノールを、タンパク質濃度の約50モル倍に等しい終濃度まで上清に添加し、1時間、室温で回転させながらインキュベーションした。このような高濃度のグアニジン−HClと還元剤の存在により、全く折りたたまれていないタンパク質が生じる。TfRscFvタンパク質の再折りたたみは、4℃で、透析を行って、2−メルカプトエタノールの非存在下、グアニジン−HCl濃度を低下させて行った。100mM Tris−HCl(pH8.0)および200mM NaCl中:6M、3M、2M、1Mおよび0.5Mのグアニジン−HCl濃度に対して各々、24時間、透析を行った。最後の透析は、100mM Tris−HCl(pH8.0)および200mM NaClを3回取り替えた。4回目の透析溶液(1M グアニジン−HCl)は、2mM グルタチオン(酸化型)と500mM L-アルギニンも含有する。これらの試薬は、部分的に再折りたたみされたタンパク質を適切なジスルフィド結合を形成させ、正しいタンパク質構造を形成させる。該溶液を、凝集物を除去するために遠心分離(13000g)によって精製した。該試料を、遠心分離用フィルター(Centrplus centrifugal filter)(Amicon)を用いて、約1.5倍に濃縮した(3000g、90分間)。SDS-PAGEは、ほんの微々たる混在物しか含まない、約28−30kDaの分子量を有するTfRscFvを含む可溶化システインの単一バンドを示した(図8)。
【0039】
実施例9
接合法によるscFvリポソームの調製
1.scFvの還元
精製したTfRscFvを、DTTにより還元し、モノマーscFv-SHを以下のように得た:HBS(10mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)中のscFvに、1M DTTを、1〜50mM の終濃度になるまで添加した。室温で、5〜10分間の回転後、該タンパク質を、10−DGカラム(Bio-Read)で脱塩した。遊離SH基を5,5’ジチオビス−(2−ニトロベンゼン酸)(DTNB、Ellman's 試薬)によって測定し(G.L. Ellman (1959)Arch. Biochem. Biophys. 82:70-77. P.W.Riddles, R.L.Blakely, B.Zeruer(1993)Methods Enzymol. 91:49-60)、SH/タンパク質モル比もしくは遊離SH/scFv分子の数として計算した(表7)。この結果は、1〜10mMDTTが、scFv還元に供されたことを示す。
表7:TfRscFvの還元
【表13】

【0040】
2.リポソーム調製
4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート−DOPE(MPB−DOPE)(Avanti Polar Lipids)は、リピド総量の5〜8%モルまで、実施例3に記載した7つのリポソーム製剤中に包含される。MPBリポソームを、実施例3に記載したのと同じ方法で調製した。他のリポソーム調製方法を、カチオンリポソームを調製するために使用することができる。例えば、Campbell MJ (Biotechniques 1995 Jun; 18(6):1027-32)によって記載された方法から改良されたエタノール注射法は、本発明において上手く使用された。簡単に言うと、全てのリピドを、エタノール中に可溶化し、混合し、ハミルトン(Hamilton)シリンジを用いて、50〜60℃の純水中に撹拌しながら注入した。該溶液を、さらに10〜15分間、撹拌した。この溶液の終濃度は、1〜2mMの全リピドであった。エタノール注入方法は、敏速かつ容易で確実である。終濃度10〜20mMになるまで、1M HEPES、pH7.5(pH7.0〜8.0)を添加した。我々は、マレイミド基が水溶液中(pH7.0以上)で不安定であるとわかったので、該リポソームを、水(pH5〜6.5)中で調製した。pHは、後の被覆反応を容易にするために、scFv−SHに結合する前に、1M HEPES緩衝液(pH7.0〜8.0)を用いて7.0〜8.0に調整されるはずである。
【0041】
3.前結合法
scFv−SHを、1/5〜1/40のタンパク質/リピド(w/w)比、好ましくは1/10〜1/20の比で、MPB−リポソームに添加した。該溶液をゆっくりと、30分間、室温で回転して混合し、scFv−Lipを生成した。scFv−Lipを精製せずに使用したが、Sepharose CL-4Bカラムクロマトグラフィーで精製することが可能である。プラスミドDNAを水で希釈し、1/6〜1/20、好ましくは1/10〜1/14のDNA/リピド(μg/nmol)比でscFv−Lipに添加した。該溶液を、数回反転させて、5−15分間充分に混合し、scFv−Lip−DNA複合体を生成した。scFv−Lip−DNAは精製せずに使用したが、Sepharose CL-4Bカラムクロマトグラフィーで精製することが可能である。80〜100%のscFvがリポソームに接合していたことが分かった。
【0042】
B.後結合法
プラスミドDNAを水で希釈し、1/6〜1/20、好ましくは1/10〜1/14のDNA/リピド(μg/nmol)比で、MPBリポソームに添加した。該溶液を、数回反転させて、5〜15分間充分に混合し、MPB−Lip−DNA複合体を生成した。次いで、scFv−SHを、該複合体に1/5〜1/40、好ましくは1/10〜1/20のタンパク質/リピド(w/w)比で添加した。該溶液を、ゆっくりと、30分間、室温で回転させて混合し、最終的なscFv−Lip−DNA複合体を生成した。該scFv−Lip−DNAは精製せずに使用したが、Sepharose CL-4Bカラムクロマトグラフィーで精製することが可能である。80〜100%のscFvがリポソームに接合していたことが分かった。
4.静脈注射のために、50%のデキストロース溶液を、終濃度5%までscFv−Lip−DNAに添加した。
【0043】
実施例10
ELISAアッセイによるシステイン含有TfRscFvイムノリポソームの免疫反応活性
この実施例は、インビトロでのTfR(+)細胞への結合能に関して、本発明の接合法によって生成した抗TfRscFv−イムノリポソームの特性化を提供する。ヒト扁平上皮細胞の頭頚部癌細胞系JSQ−3は、これらの研究に関してTfR(+)標的細胞として機能する。
【0044】
実施例4に記載したように、間接的細胞系酵素結合免疫収着アッセイ(ELISA)を用いて、リポソームに結合する前後のTfRscFv免疫反応活性を測定した。96ウェルプレート中コンフルエントのJSQ−3細胞を、PBS中0.5%グルタルアルデヒドを用いて、10分間、室温で固定した。該プレートを、PBS中5%ウシ胎仔血清(FBS)を用いて、30℃で30分間ブロッキングした。システイン含有TfRscFv単独、カチオンリポソームに接合したTfRscFv(TfRscFvイムノリポソームおよび非標的化リポソームを、トリプリケートでウェルに添加した。抗トランスフェリン受容体モノクローナル抗体(Hb21、David Fitzgerald, NIHから入手)を陽性対照として、一連のウェルに使用した。該プレートを、4℃で一晩インキュベーションした。該ウェルを、3回PBSで洗浄し、PBS中3%FBS中抗Hisモノクローナル抗体(Qiagen)を各ウェルに添加し、60分間37℃でインキュベーションした。PBSで3回洗浄後、3%FBSで希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(Sigma)を、各ウェルに添加し、30分間37℃でインキュベーションした。該プレートを、PBSで3回洗浄し、クエン酸リン酸緩衝液(Sigma)中の0.4mg/mlOPD基質(100μl)を各ウェルに添加した。発色は、各ウェルに2M スルホン酸(100μl)を添加して停止した。該プレートを、490nmで、ELISAプレートリーダー(Molecular Devices Corp)によって測定した。
【0045】
間接的細胞系ELISAは、C末端システインを含有する抗TfR-scFvが、該免疫活性を保持することを明確に示した。OD490値は、タンパク質(0.6μg)で0.060±0.0035から、TfRscFv(1.5μg)で0.100±0.0038およびTfRscFv(3μg)で0.132±0.0031までTfRscFvタンパク質量の増加と共に増加した。さらに、このTfR-scFvタンパク質は、陽性対照として使用した親のHb21抗トランスフェリン受容体以上にさらに高い結合活性を示すことが分かった。Hb21(100μl)の最高濃度に関するOD490は、約2〜4倍低い(0.033±0.0086)。
【0046】
間接的細胞系ELISAアッセイは、異なる2つのリポソーム複合体(Lip(A)およびLip(B))中に本発明の接合方法(実施例9)によって同じTfRscFvタンパク質を組み込んだ後に実施し、カチオンリポソームを用いるこの方法の万能性を示す。実施例9において詳細に記載されたリポソーム調製物の前および後結合法の両方を用いた。表8に示したように、接合法によって調製したTfRscFvの免疫反応活性は、2つのリポソーム組成物の両方と複合体化することによって失わない。これは、イムノリポソーム複合体を作製するために使用した前および後結合法の両方に当てはまる。該TfRscFv標的化リポプレックスも、細胞に結合することが示された。この結合は、TfRscFvを含まないリポソームの結合以上に非常に高く、実際、細胞のトランスフェリン受容体へのTfRscFvの結合によって仲介されると考えられる。
表8:インビトロでの接合法によるJSQ−3へのTfRscFvイムノリポソームの結合
【表14】

【0047】
実施例11
インビボにおける標的細胞の接合TfRscFvイムノリポソーム介在遺伝子トランスフェクション
我々は、プラスミドpLuc(これは、レポーター遺伝子として、CMVプロモータの制御の下、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含む)を用いる細胞における接合法によって調製したTfRscFvイムノリポソーム複合体のインビトロでのトランスフェクション効率を決定した。標的リガンドとしてTfRscFvの万能性を示すために、ここでもまた実施例10のように、2つの異なるリポソーム複合体(LIp(A)とLip(B))を、TfRscFvタンパク質に接合した。ヒト乳癌細胞系MDA−MB−435および頭および頚部のヒト扁平上皮瘍細胞を、これらの研究で使用した。インビボでのトランスフェクションを、24ウェルプレートで行った(Xu L, et al., Hum. Gene Yher.(1999)10:2941-2952)。トランスフェクション溶液を、10%の血清存在下、細胞に添加した。24時間後、細胞を洗浄し、ルシフェラーゼ活性およびタンパク質濃度を測定した。該結果は、表9Aおよび9Bに示したように、溶解物中のμgタンパク質あたりの相対的光単位(RLU)として表した。
【表15】

【表16】

【0048】
上記結果は、接合法によって調製したシステイン含有TfRscFvイムノリポソームが、非標的化リポソームよりも3〜6倍高く、トランスフェリン標的化リポソームよりも2〜3倍高い、インビトロで非常に高いトランスフェクション活性を有することを示す。これは、両方のヒト腫瘍細胞系および両方のリポソーム組成物に当てはまる。即ち、それらは、その免疫反応活性を保持し、標的受容体に結合することができる。表9Aを基にすると、scFvリポソームを、インビトロにおける効率的遺伝子トランスフェクション薬物として使用することができ、市販入手し得るカチオンリポソーム(DOTAP/DOPEおよびDDAB/DOPE)およびトランスフェリンリポソームよりも効率が良かった。本発明で開示した該TfRscFvイムノリポソームは、トランスフェリン受容体を有する哺乳類細胞のトランスフェクションに有用なインビトロ遺伝子トランスフェクションキットのために使用することができる。
【0049】
TfRscFvは、トランスフェリン自体よりも小さな分子である。そのため、得られた複合体はよりコンパクトで、細胞によって簡単に取り込まれ、高いトランスフェクション効率を示す。これらの結果は、ヒトに使用するための全身送達のためのTfRscFvイムノリポソーム使用の利点を示す。小さいサイズは、微小管からの腫瘍細胞へのアクセスを増加させた。最も重要なことは、TfRscFvはヒト血液産物ではなく、TfR分子である。そのため、ヒトの治療用のトランスフェリン自体の使用に関連する懸念および技術的問題は回避される。
【0050】
実施例12
ヌード・マウス異種移植片モデルにおける全身送達後の野生型p53の接合TfRscFvイムノリポソーム介在発現
この実施例において、本発明の接合法によって生じた全身送達後にインビボで腫瘍細胞に優先的に野生型p53(wtp53)遺伝子を持つリポプレックスを指向するTfRscFvの能力を示す。標的リガンドとしてTfRscFvの万能性を示すために、明細書中の実施例10に示したように、2つの別のリポソーム組成物(Lip(A)およびLip(B))を、接合法によってシステイン含有TfRscFvタンパク質と複合体化した。実施例9において詳細に説明したような前接合法だけを、この研究で用いた。2.5×10MDA−MB−435ヒト乳癌細胞を、4−6週令のメス無胸腺ヌード・マウスに皮下注射した。Martrigel(登録商標)コラーゲン基部膜[Collaborative Biomedical Produsts]中に懸濁した1.1×10DU145ヒト前立腺癌細胞も、4−6週令のメス無胸腺ヌード・マウスに皮下注射し、腫瘍を発生させた。50−200mmの腫瘍を持つ動物を本実験で使用した(1個体/1試験試料)。wtp53遺伝子を持つ接合TfRscFvイムノリポソーム、さらに非標的化Lip(B)およびwtp53本来の(naked)DNAを動物の尾血管中に静脈注射した。追加対照として、p53含有ベクターの代わりに空ベクターを保持する接合TfRscFv−Lip(A)を、マウスに注入した。実施例7に示したように、注射の約60時間後、該動物を殺し、腫瘍、および肝臓を採取した。タンパク質を組織から単離し、各々の試料(100μg)(タンパク質濃度アッセイにより決定した)を、抗53モノクローナル抗体を用いるウエスタン・ブロット分析のために10%ポリアクリルアミドゲルに流した。これら両方の腫瘍細胞のタイプでは、外来性マウスと外来性ヒトp53は、同じ位置で移動する。明細書においてこの結果は、実施例7における記載を反映するものであった。図9に示したように、接合法によって調製したTfRscFv−Lip(A)−pCMVp53リポプレクッスまたはTfRscFv−Lip(B)−pCMVp53リポプレックスによって静脈注射した動物由来のDU145およびMDA−MB−435腫瘍細胞の両方は、DU145腫瘍細胞において最良の発現と共に、強いp53シグナルとさらに低いバンドによって示されるような、外来性wtp53の高い発現レベルを示した。一方、両方の腫瘍細胞型において、Lip(A)組成物はいくらかLip(B)よりも良好であり、両方のリポソーム組成物はこの方法の万能性を示す。外来性マウスp53タンパク質のみが、これらの動物の肝臓に顕性であった。対照的に、外来性マウスp53タンパク質のみは、空のベクターを有する接合TfRscFv−Lip(B)または本来のwtp53DNAを用いて注入したマウスから取り出した腫瘍に顕性であった。また、p53の発現における若干の増加を、非標的化Lip(B)−p53と共にDU145腫瘍において観察した。即ち、接合TfRscFvイムノリポソームは、優先的に腫瘍細胞へwtp53遺伝子を送達した。この腫瘍標的化は、2つの異なる腫瘍細胞において顕性であり、この発明の方法の広い有用性を示すことも重要である。そのため、実施例において記載した本発明の方法は、カチオンリポソームへの結合能を保持するだけでなく、インビボおよびインビトロにおいてもトランスフェリン受容体への結合能を保持するTfRscFvタンパク質を産生し、即ち、遺伝子治療用に、腫瘍特異性の、標的化イムノリポソームを作製する我々の目的を満たすものであった。
【0051】
本発明は、本明細書中で、本発明の好ましい態様の詳細を引用して記載しているが、この記載は、本発明の精神および特許請求の範囲の範囲内で、修飾が当業者には容易になされるということが考えられるため、限定的意図よりむしろ説明的であることを意図することは理解されるべきである。
【0052】
【表17】

【0053】
【表18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)カチオンリポソーム、ii)抗体もしくは抗体フラグメント、およびiii)核酸を含むイムノリポソーム。
【請求項2】
該抗体もしくは抗体フラグメントがトランスフェリン受容体に結合し得る、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項3】
該核酸がDNAである、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項4】
該核酸が野生型p53をコードする、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項5】
該抗体もしくは抗体フラグメントがリピドタグを含む、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項6】
該抗体もしくは抗体フラグメントが、該抗体もしくは抗体フラグメント上のカルボキシ末端でメルカプト基の一部であった硫黄原子を介して該カチオンリポソームに共有結合する、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項7】
該硫黄原子がシステイン残基の一部である、請求項6記載のイムノリポソーム。
【請求項8】
該抗体もしくは抗体フラグメントが、MPBまたは別のメルカプト反応基に結合したDOPEと共有結合する、請求項6記載のイムノリポソーム。
【請求項9】
該抗体フラグメントが単鎖である、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項10】
該抗体もしくは抗体フラグメントおよび該カチオンリポソームが、1:5〜1:40の範囲内のタンパク質:リピド比(w:w)で存在する、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項11】
該核酸および該カチオンリポソームが、1:6〜1:20の範囲内の核酸:リピド比(μg:nmol)で存在する、請求項1記載のイムノリポソーム。
【請求項12】
請求項1記載のイムノリポソームを含む医薬組成物。
【請求項13】
以下の工程:
a)野生型p53をコードする核酸とカチオンリポソームを混合し、核酸リポソーム複合体を作製し;
b)トランスフェリン受容体に結合し得る抗体もしくは抗体フラグメントを調製し;そして
c)該核酸リポソーム複合体と該抗体もしくは抗体フラグメントを混合し、該核酸カチオンイムノリポソーム複合体を形成する、
を含む核酸カチオンイムノリポソーム複合体を調製するための方法。
【請求項14】
該抗体もしくは抗体フラグメントがリピドタグを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
該抗体もしくは抗体フラグメントが、該核酸リポソーム複合体と混合する前にカルボキシ末端で還元基を含む、請求項13記載の方法。
【請求項16】
該還元基がメルカプト基である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
該メルカプト基がシステイン残基の一部である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
該カチオンリポソームがMPBに結合したDOPEもしくは別のメルカプト反応基を含む、請求項15記載の方法。
【請求項19】
該核酸がDNAである、請求項13記載の方法。
【請求項20】
該抗体もしくは抗体フラグメントおよび該カチオンリポソームが、1:5〜1:40の範囲内のタンパク質:リピド比(w:w)で、該核酸カチオンイムノリポソーム複合体中に存在する、請求項13記載の方法。
【請求項21】
該核酸および該カチオンリポソームが、1:6〜1:20の範囲内の核酸:リピド比(μg:nmol)で、該核酸カチオンイムノリポソーム複合体中に存在する、請求項13記載の方法。
【請求項22】
該抗体フラグメントが単鎖である、請求項13記載の方法。
【請求項23】
以下の工程:
a)トランスフェリン受容体に結合し得る抗体もしくは抗体フラグメントを調製し;
b)該抗体もしくは抗体フラグメントとカチオンリポソームを混合し、カチオンイムノリポソームを形成し;そして
c)該カチオンイムノリポソームと野生型p53をコードする核酸を混合し、該核酸カチオンイムノリポソーム複合体を形成する;
を含む核酸カチオンイムノリポソーム複合体を調製するための方法。
【請求項24】
該抗体もしくは抗体フラグメントがリピドタグを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
該抗体もしくは抗体フラグメントが、該核酸リポソーム複合体と混合する前にカルボキシ末端で還元基を含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
該還元基がメルカプト基である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
該メルカプト基がシステイン残基の一部である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
該カチオンリポソームがMPB-DOPEを含む、請求項25記載の方法。
【請求項29】
該核酸がDNAである、請求項23記載の方法。
【請求項30】
該抗体もしくは抗体フラグメントおよび該カチオンリポソームが、1:5〜1:40の範囲内のタンパク質:リピド比(w:w)で、該核酸カチオンイムノリポソーム複合体中に存在する、請求項23記載の方法。
【請求項31】
該核酸および該カチオンリポソームが、1:6〜1:20の範囲の核酸:リピド比(μg:nmol)で、該核酸カチオンイムノリポソーム複合体中に存在する、請求項23記載の方法。
【請求項32】
該抗体フラグメントが単鎖である、請求項23記載の方法。
【請求項33】
治療分子を必要とする動物にそれを提供するための方法であって、i)カチオンリポソーム、ii)抗体もしくは抗体フラグメント、およびiii)核酸を含む治療上有効量の核酸カチオンイムノリポソーム複合体を、該動物に投与する方法。
【請求項34】
該複合体が全身投与される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
該複合体が静脈投与される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
該抗体もしくは抗体フラグメントがトランスフェリン受容体に結合し得る、請求項33記載の方法。
【請求項37】
該抗体フラグメントが単鎖である、請求項33記載の方法。
【請求項38】
該核酸がDNAである、請求項33記載の方法。
【請求項39】
該核酸が野生型p53をコードする、請求項33記載の方法。
【請求項40】
該抗体もしくは抗体フラグメントがリピドタグを含む、請求項33記載の方法。
【請求項41】
該抗体もしくは抗体フラグメントが、該抗体もしくは抗体フラグメント上のカルボキシ末端で還元基の一部である硫黄原子を介して該カチオンリポソームに共有結合する、請求項33記載の方法。
【請求項42】
該還元基がメルカプト基である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
該メルカプト基がシステイン残基の一部である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
該抗体もしくは抗体フラグメントが、MPBに結合したDOPEもしくは別のメルカプト反応基と共有結合する、請求項41記載の方法。
【請求項45】
該抗体もしくは抗体フラグメントおよび該カチオンリポソームが、1:5〜1:40の範囲のタンパク質:リピド比(w:w)で、該核酸イムノリポソーム複合体中に存在する、請求項33記載の方法。
【請求項46】
該核酸および該カチオンリポソームが、1:6〜1:20の範囲内の核酸:リピド比(μg:nmol)で該核酸カチオンイムノリポソーム複合体中に存在する、請求項33記載の方法。
【請求項47】
該動物がヒトである、請求項33記載の方法。
【請求項48】
該動物が癌を有する、請求項33記載の方法。
【請求項49】
該癌が、i)頭頚部癌、ii)乳癌、iii)前立腺癌からなる群から選択される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
カチオンイムノリポソームが、トランスフェリン受容体結合抗体フラグメントを含む、カチオンイムノリポソームを含むキット。
【請求項51】
該抗体フラグメントが単鎖である、請求項50記載のキット。
【請求項52】
該抗体フラグメントがリピドタグを含む、請求項50記載のキット。
【請求項53】
該抗体フラグメントがカチオンリポソームに接合する、請求項50記載のキット。
【請求項54】
該抗体フラグメントおよびカチオンリピドが、1:5〜1:40の範囲のタンパク質:リピド比(w:w)で存在する、請求項50記載のキット。
【請求項55】
該カチオンイムノリポソームが水溶液中に存在する、請求項50記載のキット。
【請求項56】
該カチオンイムノリポソームから分けた容器において陽性対照として使用するための核酸をさらに含む、請求項50記載のキット。
【請求項57】
該核酸がルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼおよび緑色蛍光タンパク質からなる群から選択されるレポーター遺伝子をコードする、請求項56記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−115167(P2011−115167A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−286366(P2010−286366)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【分割の表示】特願2000−600620(P2000−600620)の分割
【原出願日】平成12年2月22日(2000.2.22)
【出願人】(594140915)ジョージタウン・ユニバーシティ (11)
【氏名又は名称原語表記】GEORGETOWN UNIVERSITY
【出願人】(501201720)シナージーン・セラピューティックス・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SynerGene Therapeutics, Inc.
【Fターム(参考)】