説明

六価クロムに汚染された土壌・地下水、及び底質の浄化剤と浄化方法

【課題】 本発明は、六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質を効率的かつ迅速に浄化する浄化剤と、それを利用した浄化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質に鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と微生物活性剤を添加し、六価クロムを効率よく化学的・生物的に還元し、さらには鉄還元微生物を増殖・活性化することで、添加した鉄の還元力を長期間にわたり持続させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質を浄化するための手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
六価クロムは、電気めっき、塗料製造、なめしなどの多くの工業で使用されている。これらの工業から発生する廃棄物は、しばしば保存容器や配管から漏れて地下に浸透する。六価クロムは、人体にとって強力な発癌剤として作用する物質であり、クロム酸及び重クロム酸として水に溶解して地下水及び土壌を汚染し、深刻な環境問題を引き起こす。
【0003】
六価クロムにより汚染された土壌や地下水を復元する技術として、掘削除去、固形化・不溶化、封じ込めが一般的である。原位置において汚染を浄化する技術としては、過マンガン酸塩、オゾン、次亜塩素酸、過酸化水素などの酸化剤を注入する方法(例えば、特許文献1参照。)、土壌をクエン酸または酒石酸水溶液により処理して有害重金属を除去する方法(例えば、特許文献2参照。)、植物に重金属を吸収・蓄積して土壌から汚染物を除去するファイトレメディエーションと呼ばれる方法(例えば、特許文献3参照。)などが開示されている。
また、六価クロムを還元して水に不溶な三価クロムとして浄化する技術も、原位置での浄化が可能なこと、低コストであることなどから有望である。この方法において六価クロムは、いったん三価クロム(水酸化クロム)に還元されると、土壌粒子によりろ過されて地下水から除去される。
様々な化学物質及び微生物活性剤が土壌及び地下水中の六価クロムの還元に使用される。その中でも0価の鉄(以下、鉄(0)と記す)は、六価クロムを三価クロムに還元する効果が最も高い物質のひとつであり、六価クロムによる汚染の浄化の分野において還元剤として種々の用途に利用されている。
特許文献4には、地中に鉄粉を吹き込み、鉄粉の分散層を形成して通過した地下水を浄化する方法が記載されている。特許文献5には、透過型反応壁の還元剤として鉄を利用し、反応壁を通過した地下水中の六価クロムを三価クロムに還元する方法が開示されている。また、汚染媒体と混合して六価クロムを還元する鉄を含む浄化剤が特許文献6に記載されている。さらに硫酸第一鉄を汚染媒体に注入もしくは混合し、六価クロムを化学的な還元反応により三価クロムとして汚染を浄化する方法が特許文献7及び特許文献8に開示されている。
第一鉄を還元剤とした場合、第一鉄と六価クロムの間には次の反応が生じる。下記の式2によれば、1モルの六価クロムを還元するために3モルの第一鉄が必要である。
CrO72-+6Fe2++14H+ → 2Cr3++6Fe3++7H2O 式1
CrO42-+3Fe2++4H2O → Cr3++3Fe3++8OH- 式2
【0004】
自然界には、好気条件または嫌気条件において六価クロムを還元する能力を持つ微生物が存在する(例えば非特許文献1、及び非特許文献2参照。)。そのうちいくつかの微生物は、六価クロムを最終電子受容体として利用してエネルギーを獲得する。こうした微生物を利用した重金属汚染の浄化技術としては、廃糖蜜あるいは食用油を浄化剤として添加することで、土着の六価クロム還元微生物に炭素及びエネルギーを供給し、六価クロムを浄化する際に生物的還元反応を利用する方法が特許文献9、特許文献10及び特許文献11に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−096057号公報
【特許文献2】特開平11−156338号公報
【特許文献3】特願2002−042474号公報
【特許文献4】特開2002−200478号公報
【特許文献5】米国特許第20010054588号明細書
【特許文献6】米国特許第5975798号明細書
【特許文献7】特開2001−121131号公報
【特許文献8】特開2000−202421号公報
【特許文献9】米国特許第6143177号明細書
【特許文献10】米国特許第6322700号明細書
【特許文献11】米国特許第6398960号明細書
【非特許文献1】Baderら,「Aerobic reduction of hexavalent chromiumu in soil by indigenous Microorganisms」,Bioremediation Journal,1999,No.3,p.201-211
【非特許文献2】Komoriら,「Factors affecting chromate reduction in Enterobacter cloacae strain H01」,Applied Microbiology and Biotechnology,1989,No.31,p.567-570
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
六価クロム汚染の浄化において鉄を還元剤として利用する場合には、鉄粒子の表面が水酸化第二鉄となって反応性が低くなり、浄化効果が持続しないという問題がある。また、汚染濃度が高い場合には、六価クロムを還元するための鉄を多量に添加する必要があるが、硫酸第一鉄などの鉄化合物を地下水に多量に添加しすぎると、地下水中のpHが下がって還元反応が抑制され、三価クロムが六価クロムに酸化されるという問題がある。さらに、地下水中に酸素がある場合には、第一鉄による六価クロムの還元反応速度が遅くなるという問題もある。
一方、微生物活性剤を六価クロムの浄化に利用した場合の問題点として、六価クロムの濃度が極めて高く、六価クロムを還元できる土着の微生物が少ないか全くいない場合に浄化が困難になる場合がある。また、六価クロムの濃度が低い場合でも、供給された活性剤を利用して土着の微生物が増殖して六価クロムを還元できるように周囲の環境に順応するための時間が必要となり、浄化が長期間になるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであって、六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質を効率的かつ迅速に浄化する浄化剤と、それを利用した浄化方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤は、鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と微生物活性剤からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤は、鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方による化学的還元作用、及び微生物添加剤により増殖・活性化された土着の六価クロム還元微生物による生物的還元作用を利用して六価クロムを三価クロムに還元することを特徴とする。
したがって、本発明によれば、鉄(0)及び第一鉄による化学的還元作用と併行して微生物添加剤による生物的還元作用により六価クロムを還元させることができるため、六価クロムによる汚染を効率的かつ迅速に浄化することが可能となる。
【0010】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤は、微生物活性剤により増殖・活性化された土着の鉄還元微生物が、六価クロムの化学的還元反応において生成した第二鉄を第一鉄に還元することを特徴とする。
したがって、本発明によれば、第一鉄の還元効果を持続させることでき、六価クロムによる汚染を効率的かつ迅速に浄化することが可能となる。
【0011】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法は、六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質に、鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と微生物活性剤を添加し、鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方による化学的還元作用、及び微生物添加剤により増殖・活性化された土着の六価クロム還元微生物による生物的還元作用を利用して六価クロムを三価クロムに還元することを特徴とする。
したがって、本発明によれば、鉄(0)及び第一鉄による化学的還元作用と併行して微生物添加剤による生物的還元作用により六価クロムを還元させることができるため、六価クロムによる汚染を効率的かつ迅速に浄化することが可能となる。
【0012】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法は、微生物活性剤により増殖・活性化された土着の鉄還元微生物が、六価クロムの化学的還元反応において生成した第二鉄を六価クロムの還元剤として利用可能な第一鉄に還元し、第一鉄の六価クロムに対する化学的還元作用の持続性を高めることを特徴とする。
したがって、本発明によれば、添加した鉄(0)及び第一鉄を再び六価クロムの還元剤として利用可能な形態にし、第一鉄の還元効果を持続させることができるため、六価クロムによる汚染を効率的かつ迅速に浄化することが可能となる。
【0013】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法は、微生物活性剤により土着の好気性微生物を増殖・活性化させて土壌・地下水及び底質の環境を嫌気性雰囲気にし、鉄(0)及び第一鉄による六価クロムの還元反応を促進させることを特徴とする。
つまり、本発明によれば、微生物活性剤は、好気性微生物が酸素を消費して嫌気性雰囲気を造成するための栄養源、エネルギー源として作用するため、土壌・地下水及び底質の酸素が減少し、鉄(0)及び第一鉄による六価クロムの還元反応を促進させることができる。
【0014】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される鉄(0)の一形態である鉄屑は、各種工業から発生する工業廃棄物などであり、安価に入手が可能であり、六価クロムを化学的還元反応により浄化する際の鉄の形態として好ましい。
【0015】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される鉄(0)の一形態である鉄粉末は、各種用途に使用されるべく精製された微小な鉄の粒子であり、比表面積が大きくなるので、鉄屑に比べて同一重量で添加した場合の浄化効果が高く、六価クロムを化学的還元反応により浄化する際の鉄の形態として好ましい。
【0016】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される鉄(0)の一形態である鉄コロイドは、粒子径が1マイクロメートル以下と小さく、水に分散した状態なので、土壌、地下水及び底質に容易に注入することができ、六価クロムを化学的還元反応により浄化する際の鉄の形態として好ましい。
【0017】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される硫酸アンモニウム第一鉄、塩化第一鉄、乳酸第一鉄、ヨウ化第一鉄、シュウ酸第一鉄、硫酸第一鉄、及び硫化第一鉄の第一鉄化合物は、第一鉄と種々の陰イオンが結合した物質であり、土壌、底質中の水または地下水に溶解して第一鉄イオンを遊離する。
【0018】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される微生物活性剤である炭水化物は、好気性微生物が栄養源としてこれを分解する過程で効率的に酸素を消費するから、嫌気状態を造成する物質として好ましい。その上、炭水化物の生分解による生成物である有機酸は、六価クロム還元微生物及び鉄還元微生物にとって電子供与体として還元反応を促進する物質として好ましく、この観点からも炭水化物は浄化剤として望ましい。
【0019】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される乳糖、ショ糖、ブドウ糖及び澱粉は、微生物活性剤である炭水化物の一つであり、好気性微生物および条件的嫌気性微生物の酸素の消費を促進して浄化対象を速やかに嫌気状態にすることを可能とする。ブドウ糖は、他の物質に比べて高価なものの微生物が直接利用できるので、効果の発現が早く、嫌気状態を形成するための物質として好ましい。
一方、乳糖、ショ糖及び澱粉は、それぞれ二糖類、多糖類であり、微生物により分解されてブドウ糖もしくは麦芽糖となって初めて好気性微生物及び条件的嫌気性微生物を増殖・活性化させる効果が発現するので、ブドウ糖に比べて効果が発現しにくい。しかし、ブドウ糖に比べ、分解されにくいので効果が持続する。また、安価で入手しやすいという長所があり、浄化対象を嫌気状態とするための物質として望ましい。
【0020】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される微生物活性剤である有機酸及びその塩は、六価クロム還元微生物または鉄還元微生物が六価クロムまたは鉄を還元するにあたって、電子供与体として直接的に使用するものである。したがって、有機酸及びその塩は、六価クロムまたは鉄の還元を促進する物質として望ましい。
【0021】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される乳酸、酪酸及びプロピオン酸等は、微生物活性剤である有機酸の一つであり、その塩とともに優れた電子供与性を有し、安価で入手が容易な物質である。
【0022】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される微生物活性剤である酵母は、窒素、リン、無機物質、アミノ酸、ビタミンなど微生物が増殖する上で必須の栄養源をバランスよく含むため、六価クロム還元微生物及び鉄還元微生物あるいは好気性微生物及び条件的嫌気性微生物を増殖・活性化させる物質として望ましい。
【0023】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤及び浄化方法に使用される酵母エキス、活性酵母及び不活性酵母は、微生物活性剤である酵母の一つであり、微生物が必要とする栄養源をバランスよく含み、またその分解生成物である有機酸が六価クロム及び鉄を還元する際の電子供与体として作用するので、六価クロムまたは鉄の還元を促進する物質として望ましい。
【0024】
本発明の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法は、微生物活性剤を水と混合して溶液またはスラリー状などとし、六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質に供給することを特徴とする。したがって、本発明によれば、広範囲の汚染地域に微生物活性剤を供給することが可能となる。
【0025】
鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と微生物活性剤からなる浄化剤を六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質に添加すると、鉄(0)及び第一鉄の還元力により六価クロムが三価クロムに化学的に還元され、さらに微生物活性剤により増殖・活性化された土着の六価クロム還元微生物が六価クロムを三価クロムに生物的に還元する。さらに、微生物活性剤により増殖・活性化された土着の鉄還元微生物が、六価クロムの還元反応において酸化されて生成した第二鉄を第一鉄に還元し、再び六価クロムの還元剤として利用できるように再生する。これにより、第一鉄を還元剤として反復して使用することができるので、長期にわたり第一鉄の還元力を利用することができ、さらには鉄あるいは第一鉄の使用量を抑えることが可能となる。また、土着の微生物が微生物活性剤により増殖・活性化された際の周囲の環境に順応するまでの期間に鉄(0)あるいは第一鉄の還元作用により六価クロムの濃度を低下させることができるので、六価クロムの還元を効率化でき、浄化に要する工期を短縮することが可能となる。
【0026】
本願発明を図1及び図2の概念図を用いて説明する。図1は、鉄(0)と微生物活性剤からなる浄化剤を使用したときの概念図である。まず、汚染地域の土壌、地下水及び底質に添加された鉄は、六価クロムを難水溶性の三価クロムに還元して自身は第一鉄となり(a)、さらに六価クロムを還元して第二鉄となる(b)。一方、鉄と同時に添加された微生物活性剤は、土着の六価クロム還元微生物が六価クロムを最終電子受容体として利用して難水溶性の三価クロムに還元する反応において(c)、六価クロム還元微生物に対して炭素源及びエネルギーの供給源(電子供与体)として作用して六価クロム還元微生物を増殖・活性化する効果を有する(d)。さらに、本微生物活性剤は、土着の鉄還元微生物にとっても、第二鉄を最終電子受容体として第一鉄に還元する反応における炭素源及びエネルギー源として作用して鉄還元微生物を増殖・活性化する(e)。この反応により生成した第一鉄は、六価クロムを三価クロムとする還元剤として再び利用可能となる(f)。つまり、上記酸化反応により金属鉄の表面に生成した第二鉄が還元反応により第一鉄となり水に溶解するので、添加した鉄及び第一鉄の還元効果は、かなりの長期にわたって持続する。
【0027】
図2は、第一鉄と微生物活性剤からなる浄化剤を使用したときの概念図である。第一鉄は、六価クロムを難水溶性の三価クロムに還元し、自身は第二鉄となる(a)。また、同時に添加された微生物活性剤により増殖・活性化された土着の六価クロム還元微生物は(b)、六価クロムを最終電子受容体として利用して難水溶性の三価クロムに還元する(c)。さらに、土着の鉄還元微生物は、微生物活性剤により増殖・活性化され(d)、第二鉄を最終電子受容体として利用して第一鉄に還元する(e)。この還元反応により第一鉄は、六価クロムの還元剤として再び利用可能となり、還元剤としての効果を長期にわたり発揮する。
【発明の効果】
【0028】
六価クロムにより汚染された土壌、地下水或いは底質などを浄化するにあたって、浄化対象に金属鉄及び微生物活性剤或いは第一鉄及び微生物活性剤を添加することで、六価クロムを効率よく化学的・生物的に還元することができ、さらに、微生物活性剤により鉄還元微生物を増殖・活性化させることで、添加した鉄の還元力を長期間にわたり持続させることができる。
また、微生物活性剤は、好気性微生物が酸素を消費して嫌気性雰囲気を造成するための栄養源、エネルギー源として作用するため、土壌・地下水及び底質の酸素が減少し、金属鉄及び第一鉄による六価クロムの還元反応を促進させることができる。
したがって、本発明によれば、六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質を効率的かつ迅速に浄化することができ、さらには鉄の使用量を削減することができるので、低コストにて浄化するすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明が浄化対象とする物質は、六価クロムである。汚染地域において添加された鉄或いは第一鉄は、六価クロムを化学的に還元して難水溶性の三価クロムとし、三価クロムは土壌粒子に捕捉されて地下水流から除去される。
微生物活性剤は、好気性微生物が酸素を消費して嫌気状態を造成するための栄養源、エネルギー源として作用し、さらに六価クロム還元微生物が条件的嫌気条件下において六価クロムを最終電子受容体として三価クロムへと生物的に還元するための栄養源、エネルギー源(電子供与体)となる。また、微生物活性剤は、鉄還元微生物が、六価クロムの化学的還元反応において第一鉄が酸化されて生成した第二鉄を最終電子受容体として第一鉄へと還元して再生するための栄養源、エネルギー源(電子供与体)としても作用する。
本実施形態においては、実験室におけるミクロコスム実験により汚染地域に土着の微生物群に応じた適切な微生物活性剤の種類及び含有率が決定される。ミクロコスムは、汚染地域から採取した土壌、地下水及び底質で形成される。鉄(0)或いは第一鉄ならびに微生物活性剤である炭水化物、有機酸及びその塩、酵母を種々の混合比率で混合し、滅菌した後にミクロコスムに加え、一定温度の下、ミクロコスムを培養する。無菌・嫌気条件において土及び水をミクロコスムから定期的に採取し、六価クロム、全クロム、鉄化合物、全有機炭素量(TOC)などを公定法に従い分析する。六価クロム及び全クロムは浄化効果の確認のため、鉄化合物及びTOCについては、還元剤としての鉄及び第一鉄、酸化されて生成した第二鉄、有機化合物である微生物活性剤が残留しているかを確認するために分析する。一定期間、通常は1から2ヶ月程度の実験結果に基づき、汚染地域に最適な浄化剤の構成・配合比が決定される。
【0030】
次に実際に汚染サイトにおいて、実験により構成・配合比が決定された浄化剤を土壌、地下水及び底質に添加する。浄化剤の形態は、固体状、液体状あるいはスラリー状などのうち、汚染地域の地層などの地質や、汚染状況の調査結果に基づき決定される。浄化剤の添加方法は、水により溶液またはスラリー状にした後に重力による注入、ポンプなどの動力による加圧注入する方法等、汚染地域の地質、汚染状況に最適な方法が選択される。
【0031】
添加後、一定期間毎に土壌、地下水及び底質を採取し、六価クロム、全クロム、鉄化合物、TOCを分析する。六価クロム及び全クロムは浄化効果の確認のため、鉄化合物及びTOCは浄化剤が浄化対象範囲に十分に行き渡っているかを確認するためにそれぞれ分析する。例えば、ある観測地点において六価クロムが残留しているにも関わらず鉄化合物あるいはTOCが減少した場合は、生分解あるいは地下水流による散逸によりその地点において鉄化合物あるいは微生物活性剤が不足しているということであり、土壌からの六価クロムの溶出により浄化対象地域において再び六価クロム濃度が増加する可能性があるので、浄化剤を再注入する必要がある。
【0032】
以下、本発明の実施例を示してこの発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例に限定されるものでない。
【実施例1】
【0033】
鉄(0)及び微生物活性剤を組み合わせた浄化剤を使用して六価クロムにより汚染された地下水を実験室規模で浄化した実施例を以下に示す。
六価クロムにより汚染されたサイトから地下水及び土壌を採取した。試料を1Lのガラス容器に採取して冷蔵しながら実験室に運搬した。50gの土壌及び100mLの地下水を無菌条件下で200mLのガラス容器に分取した。各容器に下表に示した種々の微生物活性剤を添加して実験用の試料とした。
表1に記載の浄化剤を滅菌処理した後、各試料に添加して培養を開始した。ただし、試料No.5から7の金属鉄及び微生物活性剤を添加した試料の場合、まず金属鉄を添加してよく混合して3週間経過後、微生物活性剤を添加した。8つの試料を培養し、培養開始から0、14、28、42、56、70、84日後に各試料の水から1つの試料につき3検体、計24検体を採取し、含まれる六価クロム濃度を日本の地下水中の六価クロムの公定分析法(JIS K0102 65.2)に従い分析した。3検体の平均に基づく各試料の六価クロム濃度の経日変化を図3に示す。
図3に示したとおり、浄化剤を添加した試料における六価クロム濃度は、無添加の試料(No.8)に比べて低くなっている。乳糖、酵母エキス、プロピオン酸カルシウムのみの場合、六価クロム濃度を150mg/L以下まで減少させることはできなかった。その理由として、初期の六価クロム濃度が土着の微生物にとって高く、毒性物質として作用したために分解が遅くなったと考えられる。六価クロム濃度が高い場合、土着の微生物が環境に順応するために長い時間が必要となる。金属鉄粉末のみの場合(No.1)、初期における六価クロム濃度の減少は速いが、時間が経つにつれて減少速度が低下し、培養開始から84日間経過しても地下水の環境基準(0.05mg/L)以下までは浄化できなかった。これは、添加した金属鉄粉末が一部の六価クロムとの反応により酸化されて反応性が失われたためと考えられる。金属鉄及び微生物活性剤を添加した場合(No.5〜7)、六価クロム濃度は、5週間で環境基準以下まで減少した。その中でも酵母エキスを使用した場合(No.7)は、六価クロムの濃度を減少させる効果が最も高い。この結果は、初期の六価クロムが、金属鉄により化学的に還元されて減少し、さらに化学的還元が進んでいる間に微生物活性剤により活性化されて周囲の環境に順応した六価クロム還元微生物により還生物的に還元されたことによると考えられる。また、金属鉄粉末のみを添加した場合と金属鉄粉末及び微生物活性剤を添加した場合を比較すると(No.3と5、No.4と6、No.5と7)、金属鉄と微生物活性剤を組み合わせて使用した場合のほうが浄化の効果が長期にわたって持続していることもわかる。以上の事から、六価クロムを浄化するための浄化剤として金属鉄と微生物活性剤を使用した場合の浄化効果が最も高いことが明らかである。
【0034】
表1 実験に使用した金属鉄及び微生物活性剤

【実施例2】
【0035】
第一鉄化合物と微生物活性剤を組み合わせた浄化剤を使用して六価クロムにより汚染された地下水を実験室規模で浄化した実施例を以下に示す。
地下水及び土壌を六価クロムにより汚染されたサイトから採取した。試料は、ヘッドスペース(頭隙)ができないように1Lの容器に採取し、冷蔵しながら実験室に搬送した。無菌条件下において、50gの土壌と100mLの地下水を200mLの容器に分取した。各容器に表2に示す物質を滅菌後、浄化剤として添加した。
計9つの試料を培養し、培養開始から0、14、28、42、56.70、84日後に一つの試料につき3検体、計27検体の水を採取し、六価クロム濃度を日本の地下水中の六価クロムの公定分析法(JIS K0102 65.2)にしたがって分析した。各試料3検体の平均値に基づく六価クロム濃度の経日変化を図4に示す。
浄化剤無添加の対照(No.9)と比較した場合、いずれの浄化剤においても六価クロムの浄化効果が現れている。微生物活性剤のみを添加した場合(No.3から5)、六価クロムの濃度が減少傾向にあるものの、84日間の培養では六価クロムを環境基準(0.05mg/L)以下まで還元することはできなかった。このことは、微生物活性剤のみの使用により六価クロム汚染を浄化するために長い時間が必要となることを示す。第一鉄のみを添加した場合(No.1)の初期における六価クロムの減少速度は速いが、微生物活性剤と組み合わせて使用すると(No.6から8)さらに効果が高くなる。また、第一鉄のみを少量(1/6)加えた場合(No.2)には、六価クロムを環境基準以下まで還元することはできなかった。このことは、理論上六価クロム1モルに対して第一鉄が3モル必要なことから、本実験における六価クロムを還元するために50mgの第一鉄では不足であったと考えられる。一方、本願の微生物活性剤と組合わせた場合には、塩化第一鉄50mgで充分に効果を発揮した。以上の結果より、第一鉄と微生物活性剤を組み合わせて使用することにより六価クロムを効率的に還元することが可能であることが示された。
なお、本実施例では塩化第一鉄を使用したが硫酸第一鉄でも、同様の効果が得られる。
【0036】
表2 実験に使用した金属鉄及び微生物活性剤

【実施例3】
【0037】
第一鉄化合物と微生物活性剤を組み合わせた浄化剤を使用して、六価クロムにより土壌及び地下水が汚染されたサイトにおいてパイロット浄化試験を実施した。
まず、サイトにおいてボーリングにより土壌コアを採取し、同時に注入井戸を作成した。土壌試料を実験室に搬送し、公定法(JIS K0102 65.2)に基づき六価クロムを分析した。100kgの乳糖、20kgの酵母エキス、1kgの硫酸第一鉄を15トンの水と混合し、重力により井戸から地下水に注入した。注入井戸の周囲から土壌を、注入井戸から地下水をそれぞれ採取し、六価クロムを分析し、六価クロム還元微生物及び鉄還元微生物の群数を計数した。菌群数を計数する方法を以下で説明する。
菌群数を計数するため、無菌、嫌気条件下において採取した地下水10mLを90mLの液体培地を使用して連続希釈法により10倍に希釈する。液体培地には、鉄還元微生物(Nielsenら、2002、Applied and Environmental Microbiology、vol.68、Advance 〜、p.4629−4636)または六価クロム還元微生物(Smithら、2002、Bioremediation Journal、vol.6、『Effect of Carbon and Energy Source on Chromate reduction』、p.205−215)の栄養となる物質が含まれる。希釈した地下水をバイアル瓶に入れて密栓した後、30℃で10日間培養する。培養後、バイアル瓶から地下水の試料を分取して六価クロム及び全クロムを公定法(JIS K0102 65.2)により分析する。全クロム濃度から六価クロム濃度を減じた値を三価クロムの濃度とした。三価クロムのある試料には、六価クロム還元微生物が含まれると考えられる。六価クロム還元微生物の群数は、MPN(最確数:Most Probable Number)法(USFDA、2001、Bacteriological analytical manual on line Jounal、http://vm.cfsan.fda.gov/〜ebam/bam-a2.html)により計数する。また、鉄還元微生物の群数は、MPN法(Nielsenら、2002、Applied and Environmental Microbiology、vol.68、Advance 〜、p.4629−4636)により計数する。
土壌及び地下水の六価クロム濃度を分析した結果を図5及び図6に示す。これより浄化剤の添加により土壌及び地下水中の六価クロムの濃度が減少し、地下水の場合は、注入から28日後に定量下限(0.005mg/L)以下に、土壌中においては、注入から42日後に0.01mg/L以下となった。
次に、浄化剤添加後の地下水中の還元微生物群数の変化を表3に示す。表3から微生物活性剤と第一鉄の注入により六価クロム還元微生物と鉄還元微生物の双方が初期の誘導期を経て増加していることがわかる。これより微生物活性剤が土壌及び地下水中の六価クロム汚染の浄化に寄与する微生物の増殖を促進することがわかる。注入から21日後には鉄還元微生物が死滅期に入り、35日後には六価クロムの還元剤が減少し始めた。このことは、微生物活性剤が分解され減少するためと、地下水中の第二鉄及び六価クロムが最終電子受容体として利用されて減少することによると考えられる。
【0038】
表3 浄化剤注入後の微生物群数の変化

【産業上の利用可能性】
【0039】
六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質の浄化工事に本発明を活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】鉄(0)及び微生物活性剤を利用した六価クロム還元システム
【図2】第一鉄及び微生物活性剤を利用した六価クロム還元システム
【図3】ミクロコスム実験における鉄を含む各種浄化剤による六価クロム浄化効果
【図4】ミクロコスム実験における第一鉄化合物を含む各種浄化剤による六価クロム浄化効果
【図5】浄化剤注入による土壌中の六価クロム濃度の減少
【図6】浄化剤注入による地下水中の六価クロム濃度の減少

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と微生物活性剤とからなることを特徴とする六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
【請求項2】
前記鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方による化学的還元作用、及び前記微生物添加剤により増殖・活性化された土着の六価クロム還元微生物による生物的還元作用を利用して六価クロムを三価クロムに還元することを特徴とする六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
【請求項3】
前記微生物活性剤により増殖・活性化された土着の鉄還元微生物が、六価クロムの化学的還元反応において生成した第二鉄を第一鉄に還元することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
【請求項4】
前記鉄(0)が下記(1)乃至(3)の何れかの形態を一以上含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
(1)鉄屑 (2)鉄粉末 (3)鉄コロイド
【請求項5】
前記第一鉄化合物が下記(1)乃至(7)を一以上含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
(1)硫酸アンモニウム第一鉄 (2)塩化第一鉄 (3)乳酸第一鉄 (4)ヨウ化第一鉄 (5)シュウ酸第一鉄 (6)硫酸第一鉄 (7)硫化第一鉄
【請求項6】
前記微生物活性剤が下記(1)乃至(3)を一以上含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
(1)炭水化物 (2)有機酸及びその塩 (3)酵母
【請求項7】
前記炭水化物が下記(1)乃至(4)を一以上含むことを特徴とする請求項6に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
(1)乳糖 (2)ショ糖 (3)ブドウ糖 (4)澱粉
【請求項8】
前記有機酸が下記(1)乃至(3)を一以上含むことを特徴とする請求項6に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
(1)乳酸 (2)酪酸 (3)プロピオン酸
【請求項9】
前記酵母が下記(1)乃至(3)を一以上含むことを特徴とする請求項6に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
(1)酵母エキス (2)不活性酵母 (3)活性酵母
【請求項10】
六価クロムにより汚染された土壌、地下水及び底質に、鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と微生物活性剤を添加し、前記鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方による化学的還元作用、及び前記微生物添加剤により増殖・活性化された土着の六価クロム還元微生物による生物的還元作用を利用して六価クロムを三価クロムに還元する六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
【請求項11】
前記微生物活性剤により増殖・活性化された土着の鉄還元微生物が、六価クロムの化学的還元反応において生成した第二鉄を六価クロムの還元剤として利用可能な第一鉄に還元し、第一鉄の六価クロムに対する化学的還元作用の持続性を高めることを特徴とする請求項10に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
【請求項12】
前記微生物活性剤により土着の好気性微生物を増殖・活性化させて土壌・地下水及び底質の環境を嫌気性雰囲気にし、前記鉄(0)及び第一鉄による六価クロムの還元反応を促進させることを特徴とする請求項10に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
【請求項13】
前記鉄(0)が下記(1)乃至(3)の何れかの形態を一以上含むことを特徴とする請求項10乃至請求項12の何れか一に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
(1)鉄屑 (2)鉄粉末 (3)鉄コロイド
【請求項14】
前記第一鉄化合物が下記(1)乃至(7)を一以上含むことを特徴とする請求項10乃至請求項12の何れか一に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
(1)硫酸アンモニウム第一鉄 (2)塩化第一鉄 (3)乳酸第一鉄 (4)ヨウ化第一鉄 (5)シュウ酸第一鉄 (6)硫酸第一鉄 (7)硫化第一鉄
【請求項15】
前記微生物活性剤が下記(1)乃至(3)を一以上含むことを特徴とする請求項10乃至請求項12の何れか一に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
(1)炭水化物 (2)有機酸及びその塩 (3)酵母
【請求項16】
前記炭水化物が下記(1)乃至(4)を一以上含むことを特徴とする請求項15に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
(1)乳糖 (2)ショ糖 (3)ブドウ糖 (4)澱粉
【請求項17】
前記有機酸が下記(1)乃至(3)を一以上含むことを特徴とする請求項15に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
(1)乳酸 (2)酪酸 (3)プロピオン酸
【請求項18】
前記酵母が下記(1)乃至(3)を一以上含むことを特徴とする請求項15に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
(1)酵母エキス (2)不活性酵母 (3)活性酵母
【請求項19】
前記微生物活性剤を水と混合して供給することを特徴とする請求項10乃至請求項12の何れか一に記載の六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と、酵母エキス、不活性酵母、および活性酵母のうちの少なくとも一の微生物活性剤とからなることを特徴とする六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化剤。
【請求項2】
土壌・地下水及び底質に、鉄(0)及び第一鉄の少なくとも一方と、酵母エキス、不活性酵母、および活性酵母のうちの少なくとも一の微生物活性剤とを添加することによって六価クロムを三価クロムに還元する六価クロムにより汚染された土壌・地下水及び底質の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−204963(P2006−204963A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−332352(P2003−332352)
【出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【特許番号】特許第3564574号(P3564574)
【特許公報発行日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(302008467)エコサイクル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】