説明

共焦点顕微鏡システム

【課題】 試料を3次元的に繰返し測定する場合に、1立体の画像取込みが終了した後、指定のZ位置のスライス画像をライブ画像として表示することができる共焦点顕微鏡システムを実現する。
【解決手段】 共焦点スキャナに入力されるレーザ光を顕微鏡の対物レンズを介して試料に照射すると共に、前記対物レンズの焦点位置を焦点方向にシフトさせながら試料からの戻り蛍光を結像させた共焦点画像を3次元スライス画像として取り込む共焦点顕微鏡システムにおいて、
3次元測定のサイクルタイム毎の休止期間中に前記対物レンズの焦点位置を焦点方向における指定のZ位置にシフトさせ、このZ位置での前記試料のスライス画像を表示するZ位置画像処理手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共焦点スキャナに入力されるレーザ光を顕微鏡の対物レンズを介して試料に照射すると共に、タイムラプス周期毎に前記対物レンズの焦点位置を焦点方向にシフトさせながら試料からの戻り蛍光を結像させた共焦点画像を3次元スライス画像として取り込む共焦点顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来の共焦点顕微鏡システムの構成例を示す機能ブロック図である。1は高速ビデオカメラであり、CCDセンサ1aを有する。2は共焦点スキャナであり、ダイクロイックミラー2aを有する。3は顕微鏡、4はアクチュエータであり、対物レンズ5を焦点方向にシフト操作する。6はステージであり、観察対象の試料7が搭載されている。
【0003】
8は画像処理手段であり、試料の長時間変化を計測するために、タイムラプス的に画像を取り込む。高速ビデオカメラ1からのビデオ信号VSをタイムラプス周期でサンプルして取り込み、画像処理を実行して画像データベース9に保存する。10はタイムラプス周期設定手段であり、ビデオ信号VSに同期して周期設定値tで設定される画像取り込み指令信号STを画像処理手段8に出力する。
【0004】
11は任意波形発生器であり、タイムラプス周期設定手段10からの画像取り込み指令信号STを入力し、STの取得毎に一定ステップ増加して、所定ステップまで増加すると元のレベルに戻る三角波の走査信号SCをアクチュエータドライバ12に出力し、対物レンズ5のアクチュエータ4をZ軸方向に走査させる。MPはアクチュエータドライバ12の操作信号である。
【0005】
高速ビデオカメラ1、共焦点スキャナ2、顕微鏡3、アクチュエータ4、及び、対物レンズ5は、同じ光軸上に配置される。共焦点スキャナ2は、2万個のピンホールを持つニポウディスク、及び、それに対応するマイクロレンズアレイを有し、シンプルな光学系から成るニポウディスク方式が採用されるアドオンタイプであり、顕微鏡3のカメラポートに取り付けることにより、手持ちの顕微鏡3を共焦点顕微鏡にグレードアップすることができる。ニポウディスク方式の共焦点スキャナの詳細は、特許文献2に開示されている。
【0006】
共焦点スキャナ2に入射されたレーザ光Rは、ダイクロイックミラー2aで反射して、顕微鏡3、アクチュエータ4、対物レンズ5を経由して試料7に照射される。試料7からの戻り蛍光は、同一経路をダイクロイックミラー2aまで戻り、これを透過して高速ビデオカメラのCCDセンサ1aに共焦点画像を結像する。
【0007】
アクチュエータ4は、顕微鏡3の対物レンズレボルバーと対物レンズ5との間に取り付けられ、ピエゾ駆動により操作信号MPのレベルに比例して画像の焦点方向(Z方向)の長さが変化し、対物レンズ5の焦点位置を制御する。共焦点顕微鏡は、操作信号MPに基づいて、焦点をシフトさせる走査により、試料7のスライス画像を取得する。
【0008】
13は、取得した試料7のスライス画像をリアルタイムに表示するためのライブ画像表示手段であり、モニタ14を介してオペレータ15は、ライブ画像を観察することができる。
【0009】
図5は、3次元測定のサイクルタイム毎の対物レンズ5のZ方向シフト制御を説明するタイムチャートである。この図では、第1回目の測定と次の測定サイクルタイムでの第2回目の測定を示している。各サイクルタイムは、測定期間と休止期間が略50%ずつ配分されている。
【0010】
第1回目の測定開始時刻T11では、対物レンズの焦点位置は試料の底部以下の下限レベルL1にシフトされている。操作信号MPに基づく対物レンズのZ方向制御により、時間と共に対物レンズの焦点位置は上方にシフト制御され、1立体の測定が完了して試料の頂部以上の上限レベルL2まで制御された後に所定の勾配で下限レベルL1に戻され、これが測定終了時刻T12となる。この時刻より所定の休止期間を経て次のサイクルタイムで第2回目の測定が時刻T12よりT22まで実行され、休止期間を経て以下同様の手順で繰り返される。
【0011】
共焦点顕微鏡システムに関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0012】
【特許文献1】特開2002−72102号公報
【0013】
ニポウディスク方式の共焦点スキャナに関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0014】
【特許文献2】特開平5−60980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の共焦点顕微鏡システムにおける対物レンズのZ方向シフト制御では、次のような問題点がある。
(1)3次元長時間タイムラプス測定の場合、図5に示すように、1立体の測定が完了した後、次回の測定のために、対物レンズの焦点位置を測定開始位置のレベルL1に戻して休止期間をおくようにしている。この時、ライブ画面上に表示されるのは、測定終了位置(下限レベルL1)における画像であり、往々重要でない情報である。
【0016】
(2)3次元繰り返し測定中の表示は、測定面の表示のみであるため、測定速度が遅い場合は、Z方向の変化に付随するライブ画像が見えて3次元の測定中であることは分かるが、着目したいZ位置の変化がオペレータには追従できないので、測定全体の良否が分からない。
【0017】
(3)このため、測定が全て終了後、3次元構築した画像での判断となるため、判断に長い時間がかかる。また、貴重なサンプルの場合は、やり直しが利かず、大変な機会損失となっている。この背景には、例えば、測定環境の温度変化によって、顕微鏡筐体が熱膨張し、対物レンズの位置が実験開始直後と実験終了後で異なり、狙った試料の位置がずれてしまうことがあるが、このようなトラブルをリアルタイムで把握して対応処置をとることができない。
【0018】
従って本発明が解決しようとする課題は、試料を3次元的に繰返し測定する場合に、1立体の画像取込みが終了した後、指定のZ位置のスライス画像をライブ画像として表示することができる共焦点顕微鏡システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題を達成するために、本発明の構成は次の通りである。
(1)共焦点スキャナに入力されるレーザ光を顕微鏡の対物レンズを介して試料に照射すると共に、前記対物レンズの焦点位置を焦点方向にシフトさせながら試料からの戻り蛍光を結像させた共焦点画像を3次元スライス画像として取り込む共焦点顕微鏡システムにおいて、
3次元測定のサイクルタイム毎の休止期間中に前記対物レンズの焦点位置を焦点方向における指定のZ位置にシフトさせ、このZ位置での前記試料のスライス画像を表示するZ位置画像処理手段を備えたことを特徴とする共焦点顕微鏡システム。
【0020】
(2)前記Z位置画像処理手段は、前記対物レンズの焦点位置のシフト範囲の中間点を前記指定のZ位置とすることを特徴とする(1)に記載の共焦点顕微鏡システム。
【0021】
(3)前記Z位置画像処理手段は、前記対物レンズの焦点位置のシフト範囲の任意位置を前記指定のZ位置とすることを特徴とする(1)に記載の共焦点顕微鏡システム。
【0022】
(4)前記Z位置画像処理手段は、前記試料の3次元スライス画像の取り込みと同期してZ位置画像をリアルタイムのライブ画像として表示することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の共焦点顕微鏡システム。
【0023】
(5)前記Z位置画像処理手段は、前記試料の所定時間以上にわたる3次元測定中おける前記Z位置画像に基づいて前記試料の褪色を検出したときに、測定中止指令を出力することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の共焦点顕微鏡システム。
【0024】
(6)前記共焦点スキャナは、ニポウディスク方式であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の共焦点顕微鏡システム。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
(1)1立体の3次元測定が終了後、指定Z位置のスライス画像をライブ表示して、測定が正しかったか否かをオペレータがリアルタイムで判断できることで、測定の間、経時的に、立体毎の同じ断面の画像を比較できる。これにより、例えば、環境温度変化による焦点位置のずれによる急激な画像変化を監視することができ、対策を打つことができる。
【0026】
(2)また、指定のZ位置を試料の中央位置とすることで、常に中央位置のスライス画像を観察することによって、長時間測定の間に試料の蛍光が褪色したら、測定を中止する指令を出力することができる。
【0027】
(3)従来システムでは、全ての測定が終了した後、初めて測定が妥当だったかどうかを判断する時、アクシデントがあった場合、やり直しが利かずに大変な機会損失となっていたが、本発明によれば、アクシデントは発生時点で把握可能でり、重大な機会損失を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は本発明を適用した共焦点顕微鏡システムの一実施形態を示す機能ブロック図である。図4で説明した従来システムと同一要素には同一符号を付して説明を省略する。以下、本発明の特徴部につき説明する。
【0029】
図1において、100は本発明で導入されたZ位置画像処理手段であり、波形制御手段101、Z位置画像ライブ表示手段102、褪色監視手段103を備えている。波形制御手段101は、タイムラプス周期設定手段10からの画像取り込み信号STを入力して制御信号MZを任意波形発生器11に出力する。
【0030】
図2は、図5と対応して示した、測定のサイクルタイム毎の対物レンズ5のZ方向シフト制御を説明するタイムチャートである。図5との相違点は、休止期間における対物レンズ5のZ位置制御にあり、この制御を波形制御手段101からの制御信号MZにより、任意波形発生器10で実行する。
【0031】
第1回目の測定開始時刻T11では、対物レンズの焦点位置は試料の底部以下の下限レベルL1にシフトされている。操作信号MPに基づく対物レンズのZ方向制御により、時間と共に対物レンズの焦点位置は上方にシフトされ、1立体の測定が完了した後試料の頂部以上の上限レベルL2まで制御された後に所定の勾配で下限レベルL1に戻され、これが測定終了時刻T12となる。ここまでの操作は従来システムと同じである。
【0032】
この終了時刻T12より次のサイクルタイムの測定開始時刻T21までの休止期間において、対物レンズの焦点位置を試料の所定のスライスレベルL3(指定のZ位置)にシフトさせ、このZ位置でのスライス画像を、画像処理手段8を経由してZ位置画像ライブ表示手段102に渡し、モニタ14でオペレータ15が観察可能とする。次のサイクルタイムでも同様な処理を実行する。
【0033】
所定スライスレベルL3(指定のZ位置)は、波形制御手段101への設定値SZにより任意レベルに設定可能であり、例えば測定範囲の中間位置のレベルを指定し、試料の中央部のスライス画像を表示できる
【0034】
このように、本発明では、1立体の測定が終了後、指定Z位置、例えば、測定範囲の中間位置の画像を表示して、測定が正しかったか否かをオペレータがライブ画像を監視してリアルタイムで判断できるので、測定結果の信頼を確保することが可能となる。また、立体毎の測定後、表示するZの位置を任意に変えることができる。
【0035】
図3は、Z位置画像処理手段100の信号処理手順を示すフローチャートである。ステップS1で条件設定のルーチンがスタートすると、ステップS2で1立体の3次元測定が実行された後に、ステップS3で繰り返し測定の終了がチェックされる。終了でなければステップS4に進む。
【0036】
ステップS4では、ライブ表示するZの位置を取得し、ステップS5で指定位置のスライス画像を表示してステップS6に進む。ステップS6では、サイクルタイムに達したか否かがチェックされ、達していなければステップS4に戻る。サイクルタイムに達していれば、ステップS2に戻る。ステップS3で繰り返し測定が終了であればステップS7で処理ルーチンを終了する。
【0037】
褪色監視手段103は、Z位置画像ライブ表示手段102から渡されるライブ画像を監視し、試料の蛍光画像の褪色が所定レベルを超えたときに測定中止指令を出力してシステムを停止することで無駄な画像取り込みを防止することができる。この機能は、オペレータ15の目視判断に委ねることも可能である。
【0038】
本発明において、高速ビデオカメラ1はこれに限定されるものではなく、通常のカメラ手段でもよい。また、共焦点スキャナ2も、ニポウディスク方式に限定されるものではない。
【0039】
実施形態のように、タイムラプス周期より十分短い撮像周期を有する高速ビデオカメラとニポウディスク方式の共焦点スキャナの組み合わせによれば、ニポウディスクの回転同期制御、画像処理手段によるビデオ信号の取得の開始タイミング及び光学制御系による対物レンズの焦点位置の走査開始タイミングが、すべてビデオ信号に同期することになり、共焦点画像の位置精度が向上し、複数のスライス画像を取得する際に個々の取得時間のばらつきがなくなるので、信頼性の高いスライス画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を適用した共焦点顕微鏡システムの一実施形態を示す機能ブロック図である。
【図2】測定のサイクルタイム毎の対物レンズのZ方向シフト制御を説明するタイムチャートである。
【図3】Z位置画像処理手段の信号処理手順を示すフローチャートである。
【図4】従来の共焦点顕微鏡システムの構成例を示す機能ブロック図である。
【図5】測定のサイクルタイム毎の対物レンズのZ方向シフト制御を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1 高速ビデオカメラ
1a CCDセンサ
2 共焦点スキャナ
2a ダイクロイックミラー
3 顕微鏡
4 アクチュエータ
5 対物レンズ
6 ステージ
7 試料
8 画像処理手段
9 画像データベース
10 タイムラプス周期設定手段
11 任意波形発生器
12 アクチュエータドライバ
14 モニタ
15 オペレータ
100 Z位置画像処理手段
101 波形制御手段
102 Z位置ライブ画像表示手段
103 褪色監視手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共焦点スキャナに入力されるレーザ光を顕微鏡の対物レンズを介して試料に照射すると共に、前記対物レンズの焦点位置を焦点方向にシフトさせながら試料からの戻り蛍光を結像させた共焦点画像を3次元スライス画像として取り込む共焦点顕微鏡システムにおいて、
3次元測定のサイクルタイム毎の休止期間中に前記対物レンズの焦点位置を焦点方向における指定のZ位置にシフトさせ、このZ位置での前記試料のスライス画像を表示するZ位置画像処理手段を備えたことを特徴とする共焦点顕微鏡システム。
【請求項2】
前記Z位置画像処理手段は、前記対物レンズの焦点位置のシフト範囲の中間点を前記指定のZ位置とすることを特徴とする請求項1に記載の共焦点顕微鏡システム。
【請求項3】
前記Z位置画像処理手段は、前記対物レンズの焦点位置のシフト範囲の任意位置を前記指定のZ位置とすることを特徴とする請求項1に記載の共焦点顕微鏡システム。
【請求項4】
前記Z位置画像処理手段は、前記試料の3次元スライス画像の取り込みと同期してZ位置画像をリアルタイムのライブ画像として表示することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の共焦点顕微鏡システム。
【請求項5】
前記Z位置画像処理手段は、前記試料の所定時間以上にわたる3次元測定中おける前記Z位置画像に基づいて前記試料の褪色を検出したときに、測定中止指令を出力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の共焦点顕微鏡システム。
【請求項6】
前記共焦点スキャナは、ニポウディスク方式であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の共焦点顕微鏡システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−350005(P2006−350005A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176301(P2005−176301)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成14年度新エネルギー・産業技術総合開発機構再委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】