説明

共重合体及び共重合体微粒子の製造方法

【課題】室温付近の温度変化によって、1次凝集及び2次以上の高次凝集を可逆的に制御可能な共重合体及び共重合体微粒子の製造方法の提供。
【解決手段】共重合体は、スチレンと式(1)で表されるアリルオキシスチレンとが共重合されたことを特徴とする。数平均分子量(Mn)が、5,000〜300,000である態様、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれかである態様、などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度によって凝集状態の制御が可能な共重合体及び共重合体微粒子の製造方法に関し、特に、室温付近の温度変化によって1次凝集及び2次以上の高次凝集を可逆的に制御可能な共重合体及び共重合体微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ナノメートルサイズの微粒子による樹脂やゴムの着色、補強及び充填等の各分野では、微粒子が2次以上の高次凝集を起こすことが原因となって、微粒子の混合や分散における均一性の低下が問題となっている。
【0003】
この問題を解決するために、微粒子表面を各種の界面活性剤や樹脂で被覆して、微粒子を均一に混合若しくは分散させる方法が、数多く検討されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、界面活性剤や樹脂による被覆が微粒子の表面改質に不十分であったり、また、界面活性剤や樹脂による被覆によって微粒子の機械的強度や着色性、電気的特性、誘電特性等の特性にバラツキが生じ、微粒子の性能を低下させる結果となっていた。
【0004】
一方で、鉄鋼等の金属の防食被覆の分野では、被覆に用いる微粒子のサイズが1次粒子では小さすぎて効果がないため、1次粒子が2次凝集したものが用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
つまり、微粒子の用途によって、その1次凝集と2次以上の高次凝集を制御できる技術が要求されることになるが、現段階では微粒子の1次凝集と高次凝集を有効に制御できる技術はほとんど皆無である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、界面活性剤や樹脂で被覆しなくても、2次以上の高次凝集を回避できる共重合体及び共重合体微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、2次以上の高次凝集体が必要になったときには、1次凝集体を高次凝集体に変換できる共重合体及び共重合体微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
即ち、本発明は、共重合体微粒子の凝集状態を制御することにより、より高性能な材料を開拓することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、スチレンと、下記一般式(1)で示されるアリルオキシスチレンとが共重合された共重合体を、溶媒としてのシクロヘキサンに溶解させることにより該共重合体が凝集して、流体力学的直径で100nmから10μmの微粒子を形成し、さらに、その凝集状態である1次凝集と2次以上の高次凝集を室温付近(20℃〜40℃)の温度変化によって可逆的に制御できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
【化1】

前記一般式(1)中、アリルオキシ基は、芳香環上の2位、3位、及び4位のいずれかの位置に結合している。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> スチレンと、下記一般式(1)で表されるアリルオキシスチレンとが共重合されたことを特徴とする共重合体である。
【化1】

前記一般式(1)中、アリルオキシ基は、芳香環上の2位、3位、及び4位のいずれかの位置に結合している。
<2> 数平均分子量(Mn)が、5,000〜300,000である前記<1>に記載の共重合体である。
<3> ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれかである<1>から<2>のいずれかに記載の共重合体である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の共重合体を、溶媒としてのシクロヘキサン中に溶解し、内核がポリアリルオキシスチレンセグメントであり、外殻がポリスチレンセグメントであり、流体力学的直径が100nm〜10μmである微粒子を形成することを特徴とする共重合体微粒子の製造方法である。
<5> 共重合体の凝集状態を、1次凝集と、2次以上の高次凝集とが可逆的となるように制御する前記<4>に記載の共重合体微粒子の製造方法である。
<6> 共重合体の凝集状態の制御を、20℃〜40℃で行う前記<5>に記載の共重合体微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができる。即ち、室温付近の温度変化によって、1次凝集及び2次以上の高次凝集を可逆的に制御可能な共重合体及び共重合体微粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、実施例1で測定したブロック共重合体微粒子の流体力学的直径の温度に対する感熱応答挙動を示すグラフである。
【図1B】図1Bは、実施例1で測定したブロック共重合体微粒子の散乱強度の温度に対する感熱応答挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の共重合体及び共重合体微粒子の製造方法の詳細について、具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの説明に何ら拘束されることはなく、以下の事例以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜実施し得る。
【0014】
(共重合体)
本発明の共重合体は、スチレンと、下記一般式(1)で表されるアリルオキシスチレンとが共重合されたものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ(4−アリルオキシスチレン)−block−ポリスチレン、などが挙げられる。
【化1】

前記一般式(1)中、アリルオキシ基は、芳香環上の2位、3位、及び4位のいずれかの位置に結合している。
【0015】
前記共重合体の数平均分子量(Mn)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5,000〜300,000が好ましく、10,000〜250,000がより好ましい。
【0016】
前記ポリ(4−アリルオキシスチレン)−block−ポリスチレンにおけるポリ(4−アリルオキシスチレン)セグメントの数平均分子量(Mn)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜50,000が好ましく、3,000〜30,000がより好ましい。
【0017】
前記ポリ(4−アリルオキシスチレン)−block−ポリスチレンにおけるポリスチレンセグメントの数平均分子量(Mn)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3,000〜300,000が好ましく、10,000〜200,000がより好ましい。
【0018】
前記ポリ(4−アリルオキシスチレン)−block−ポリスチレンにおいて、ポリ(4−アリルオキシスチレン)セグメントの数平均分子量(Mn)は、ポリスチレンセグメントの数平均分子量(Mn)と等しいか、又はポリスチレンセグメントの数平均分子量(Mn)よりも小さいことが好ましい。
【0019】
前記共重合体の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、などが挙げられる。
【0020】
前記ブロック共重合体の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ジブロック、トリブロック、マルチブロック、などが挙げられる。
【0021】
本発明の共重合体としてのポリ(4−アリルオキシスチレン)−block−ポリスチレンは、例えば、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、MTEMPOと略す)をメディエーターとするリビングラジカル重合により合成したポリ(4−tert−ブトキシスチレン)とポリスチレンとからなるポリ(4−tert−ブトキシスチレン)-block-ポリスチレンのジブロック共重合体を加水分解して、ポリ(4−ビニルフェノール)とポリスチレンとからなるブロック共重合体を合成し、続いて、このポリ(4−ビニルフェノール)-block-ポリスチレンを塩化アリルと反応させることにより得ることができる。
【0022】
(共重合体微粒子の製造方法)
本発明の共重合体微粒子の製造方法は、微粒子形成工程を含み、さらに、必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0023】
−微粒子形成工程−
前記微粒子形成工程は、本発明の共重合体を、溶媒としてのシクロヘキサン中に溶解し、内核がポリアリルオキシスチレンセグメントであり、外殻がポリスチレンセグメントであり、流体力学的直径が100nm〜10μmである微粒子を形成する工程である。
【0024】
前記流体力学的直径は、全体を正規分布と仮定したCumulant法で測定したものである。
なお、前記微粒子の流体力学的直径の測定方法は、以下の通りである。
ポリ(4−アリルオキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体を、溶媒としてのシクロヘキサンに40℃で完全に溶解させ、この溶液をHe−Neを用いた光散乱測定装置(大塚電子製、ELS−8000)を用いて、各温度における共重合体の流体力学的直径を測定した。
【0025】
前記溶媒としてのシクロヘキサンは、蒸留後、窒素で置換することが好ましい。
【0026】
前記シクロヘキサンにおける前記共重合体の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3g/L〜10g/Lが好ましく、0.7g/L〜7g/Lがより好ましい。
【0027】
前記微粒子形成工程では、共重合体の凝集状態が、1次凝集と、2次以上の高次凝集とが可逆的となるように制御される。また、共重合体の凝集状態の制御が、室温付近の温度(20℃〜40℃)で行われる。
【0028】
前記共重合体は、シクロヘキサン中で、40℃付近では単量体で存在するが、シクロヘキサンの温度を下げていくと、ポリ(4−アリルオキシスチレン)セグメント同士が凝集して、内核がポリ(4−アリルオキシスチレン)セグメントであり、外殻がポリスチレンセグメントであり、流体力学的直径(粒径)が数百nmである微粒子を形成する。さらに、シクロヘキサンの温度を下げると、前記微粒子同士が会合し、流体力学的直径(粒径)が数μmである微粒子凝集体が形成される。
【0029】
共重合体微粒子の内核がポリ(4−アリルオキシスチレン)セグメントであり、共重合体微粒子の外殻がポリスチレンセグメントであることは、核磁気共鳴スペクトルで観察することができる。
【0030】
また、1次凝集及び高次凝集などの共重合体の凝集状態は、温度の変化により可逆的に制御され、その過程は光散乱測定で観察することができる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0032】
(実施例1)
(ポリ(4−tert−ブトキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体の合成)
4−tert−ブトキシスチレン単量体を、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、水素化カルシウム存在下で減圧蒸留することによって、ラジカル重合禁止剤を除去した。ラジカル重合開始剤としての過酸化ベンゾイルは、クロロホルムに溶解後、メタノールに投じて再結晶することにより精製した。過酸化ベンゾイル109mg、4−tert−ブトキシスチレン単量体7g、及びMTEMPO109mgをアンプルに入れ、真空中で脱気封管した。この4−tert−ブトキシスチレン溶液を125℃で50時間重合した。生成物をジクロロメタンに溶解後、メタノールに投じて生成ポリマーを単離した。得られたポリマーを真空中で数時間乾燥して、末端にMTEMPOが結合したポリ(4−tert−ブトキシスチレン)4.65gを得た。H−NMRによって決定した数平均分子量はMn=15,400、また、GPCにより算出した数平均分子量及び分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれ、Mn=10,000、Mw/Mn=1.17であった。
このようにして合成したポリ(4−tert−ブトキシスチレン)2gを、4−tert−ブトキシスチレン単量体と同様の方法で精製したスチレン単量体10mLに溶解し、アンプルに入れ真空中で脱気封管した。この溶液を125℃で14時間重合し、生成物をジクロロメタン30mLに溶解後、ヘキサン2Lに投じて生成ポリマーを単離した。その後、真空中で数時間乾燥して、ブロック共重合体9.78gを得た。
【0033】
(ポリ(4−ビニルフェノール)-block-ポリスチレンジブロック共重合体の合成)
得られたポリ(4−tert−ブトキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体2gを、ナトリウム存在下で還流及び蒸留して精製したテトラヒドロフラン70mLに溶解した。この溶液に、濃塩酸7mLを添加し、85℃で4.5時間還流を行った。反応溶液を1Lの水に投じ、生成ポリマーを単離した。このポリマーを真空中で乾燥することにより、ポリ(4−ビニルフェノール)-block-ポリスチレンジブロック共重合体1.59gを得た。H−NMRによって決定したポリ(4−ビニルフェノール)-block-ポリスチレンジブロック共重合体の数平均分子量は、Mn=10,500-block-96,600であった。
【0034】
(ポリ(4−アリルオキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体の合成)
合成したポリ(4−ビニルフェノール)-block-ポリスチレンジブロック共重合体0.70gを、水素化カルシウム存在下で減圧蒸留することにより精製したN,N−ジメチルホルムアミド15mLに溶解した。この溶液に窒素気流下0℃で、水素化ナトリウム0.414gを添加した。この混合溶液を0℃で5分間攪拌した後、さらに室温で1時間撹拌した。この溶液に、5mLのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した塩化アリル1.41gを0℃で滴下し、0℃で5分間攪拌後、室温で20時間撹拌した。反応溶液を1Lのメタノールに投じて生成ポリマーを単離した。得られたポリマーを真空乾燥し、ポリ(4−アリルオキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体0.68gを得た。H−NMRによって決定したポリ(4−アリルオキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体の数平均分子量はMn=14,000-block-96,600であった。
【0035】
(ポリ(4−アリルオキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体微粒子の作製)
得られたポリ(4−アリルオキシスチレン)-block-ポリスチレンジブロック共重合体8.2mgを、ナトリウム存在下で蒸留することにより精製したシクロヘキサン5mLに40℃で完全に溶解させた。この溶液を、He−Neを用いた光散乱測定装置(大塚電子製、ELS−8000)を用いて各温度における共重合体の流体力学的直径を測定した。その結果、40℃では37nmであった共重合体の流体力学的直径が、30℃では270nmになり、さらに温度を20℃に下げると3μmになった。また、図1A及び図1Bに示すように、温度を再び20℃から40℃に上げると、ほぼ同じ軌跡を通って、流体力学的直径および散乱強度とも元の値に戻ることが分かった。即ち、温度の上昇と降下で良好なヒステリシスが得られているのが分かった。
また、前記シクロヘキサン溶液を核磁気共鳴スペクトルで観察することにより、共重合体微粒子の内核がポリ(4−アリルオキシスチレン)セグメントであり、共重合体微粒子の外殻がポリスチレンセグメントであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の共重合体は、各種界面活性剤、薬物輸送システムの薬物運搬体、温度センサー組成物として、好適に利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開2000−191941号公報
【特許文献2】特開2001−288588号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンと、下記一般式(1)で表されるアリルオキシスチレンとが共重合されたことを特徴とする共重合体。
【化1】

前記一般式(1)中、アリルオキシ基は、芳香環上の2位、3位、及び4位のいずれかの位置に結合している。
【請求項2】
数平均分子量(Mn)が、5,000〜300,000である請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の共重合体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の共重合体を、溶媒としてのシクロヘキサン中に溶解し、内核がポリアリルオキシスチレンセグメントであり、外殻がポリスチレンセグメントであり、流体力学的直径が100nm〜10μmである微粒子を形成することを特徴とする共重合体微粒子の製造方法。
【請求項5】
共重合体の凝集状態を、1次凝集と、2次以上の高次凝集とが可逆的となるように制御する請求項4に記載の共重合体微粒子の製造方法。
【請求項6】
共重合体の凝集状態の制御を、20℃〜40℃で行う請求項5に記載の共重合体微粒子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2010−248283(P2010−248283A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95941(P2009−95941)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】