説明

共重合芳香族ポリエステルおよびその製造方法

【課題】6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合していながらも、フィルムなどにしたときにフライスペックと呼ばれる欠陥の発生が少ない共重合芳香族ポリエステルが得られる製造方法を提供すること。
【解決手段】6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルの割合が5モル%以上80モル%未満である芳香族ジカルボン酸低級アルキルエステルとポリアルキレングリコールとをエステル交換反応および重縮合反応させて共重合芳香族ポリエステルを製造するに際し、予め6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルを溶融・濾過してからエステル交換反応させ、さらに、エステル交換反応終了後、および重縮合反応終了後にも濾過を行う。このようにすることによって、孔径5μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量が100個/mg以下の共重合芳香族ポリエステルを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合した新規な芳香族ポリエステルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートに代表されるポリエステルは優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性、特に温度や湿度の変化に対する寸法安定性の要求はますます高くなってきており、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
温度や湿度の変化に対する寸法変化を小さくする方法としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートの場合、湿度膨張係数と温度膨張係数とはともにヤング率と非常に密接な関係にあり、その方向のヤング率を高くすればよい。しかしながら、ヤング率を高めるにはその方向により厳しい延伸条件で延伸することとなり、例えばフィルム中に存在する粗大異物とポリマーの界面に剥離が生じ、フライスペックと言われる欠陥が生じやすくなる。また、特許文献3では、湿度膨張係数の小さいポリマーとして、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を酸成分として用いたポリエステルが提案されている。しかしながら、その実施例を見ても分かるように、湿度膨張係数は低いものの、温度膨張係数が非常に高いものであった。
【0004】
本発明者らは、かかる問題を解消するために研究を進め、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を特定割合で共重合すれば湿度膨張係数を小さくでき、しかも温度膨張係数は延伸によりヤング率を高めることができるので小さくできることを知見し、先に提案した。しかしながら、従来ポリエステルの原料として用いられてきたテレフタル酸もしくは2,6−ナフタレンジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体に比べ、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体といった原料は、蒸留精製が困難なことから得られるポリエステル中の異物量は多く、前述のフライスペックと呼ばれる欠陥が生じやすいという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合していながらも、フィルムなどにしたときに含有する異物などの周辺に発生するフライスペックと呼ばれる欠陥が少ない共重合芳香族ポリエステルを容易に得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究し、下記式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルを共重合成分として用いる場合、予め6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルを溶融濾過すると共に、さらにエステル交換反応終了後および重縮合反応終了後にも得られた反応生成物の濾過を行えば、共重合芳香族ポリエステル中の粗大異物量が減少してフライスペックの少ないフィルムが得られることを見出し、さらに検討を重ねた結果本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、下記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の低級アルキルエステルおよび下記式(II)で表される芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルからなり、前記式(I)で表される成分の割合が両成分の合計モル数を基準として5モル%以上80モル%未満の範囲にある芳香族ジカルボン酸成分と、下記式(III)で表されるアルキレングリコールとをエステル交換反応させてポリエステル前駆体を得、次いで重縮合反応させて共重合芳香族ポリエステルを製造するに際し、
R2-O(O)C-R4-OR1O-R4-C(O)O-R3 (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
R6-O(O)C-R5-C(O)O-R7 (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
HO-R-OH (III)
[上記式(III)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基を表す。]
予め6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の低級アルキルエステルを溶融し、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターで濾過した後にアルキレングリコールとエステル交換反応させること、
エステル交換反応で得られたポリエステル前駆体を、重縮合反応を開始させる前に、95%濾過精度が10μm以下の第2フィルターで濾過すること、そして、
重縮合反応によって得られた共重合芳香族ポリエステルを溶融状態とし、平均空孔径が6μm以下の第3フィルターで濾過すること、
を特徴とする共重合芳香族ポリエステルの製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、アルキレン基の炭素数が2〜10である6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸(A)と、ベンゼンジカルボン酸またはナフタレンジカルボン酸からなる芳香族ジカルボン酸(B)とからなり、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の割合が両ジカルボン酸の合計モル数を基準として5モル%以上80モル%未満の範囲にある芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜10のアルキレングリコール成分とからなる共重合芳香族ポリエステルであって、
孔径5μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量が、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、100個/mg以下であることを特徴とする共重合芳香族ポリエステルも提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、含有する異物量が多くなりやすい前記式(I)で示される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合しても、粒径5μm以上の粗大異物を特定量以下まで取り除くことができ、本発明の共重合芳香族ポリエステルが持つポリエチレン−2,6−ナフタレートなどに比べて延伸応力が低いという特性とあいまってか、フライスペックの少ないフィルムなどの成形品を提供することができる。
【0011】
そして、本発明で得られる共重合芳香族ポリエステルを用いれば、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合することによる湿度膨張係数の低減だけでなく、より高い延伸倍率で延伸してもフライスペックができにくいことから、さらに温湿度変化に対する寸法安定性に優れたフィルムなどの成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、詳述する。
本発明の共重合芳香族ポリエステルの製造方法においては、全芳香族ジカルボン酸成分のうち5モル%以上80モル%未満が前記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の炭素数が1〜4の低級アルキルエステルである。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルの割合が少なすぎると、得られる共重合芳香族ポリエステルを成形品にしたときの寸法安定性などの向上効果が乏しい。他方、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルの割合が多すぎると、得られる共重合芳香族ポリエステルの結晶性や融点が高すぎて、製膜などの成形工程での生産性が低下しやすい。好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルの割合は、10モル%以上75モル%以下、さらには15モル%以上70モル%以下の範囲である。特に、成形性と寸法安定性の点からは、15モル%以上40モル%以下の範囲が好ましい。一方、共重合量の多いものを作成すれば、共重合していないか共重合量の少ないものと併用することで目的の共重合量のものを簡便に用意することができる。そのような観点からは、好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルの割合は、50モル%以上80モル%未満、さらには55モル%以上75モル%以下の範囲である。
【0013】
好ましく用いられる、前記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルとしては、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸などの、炭素数1〜4の低級アルキルエステルが挙げられる。中でも本発明の効果の点から、上記式(I)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸のジエチルエステルが好ましい。
【0014】
つぎに、本発明で用いられる前記式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸などの、炭素数1〜4の低級アルキルエステルが挙げられ、これらの中でもより機械的特性などを高度に維持しやすい観点から、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸の、低級アルキルエステルが好ましく、特にテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸の低級アルキルエステル、最も好ましいのは2,6−ナフタレンジカルボン酸低級アルキルエステルである。
【0015】
また、本発明で用いられる前記式(III)で表わされるアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどを例示することができ、なかでもエチレングリコールが本発明の効果の点から好ましい。なお、全グリコール成分中のエチレングリコールの占める割合は90モル%以上、さらには95モル%以上、特に97モル%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲、例えば全ジカルボン酸成分を基準として10モル%以下、好ましくは5モル%以下、特に好ましくは3モル%以下の割合で、上記の芳香族ジカルボン酸低級アルキルエステルおよびアルキレングリコール以外の共重合成分、例えばアジピン酸、セバシン酸、ジエチレングリコール、ビスフェノール類を併用してもよい。
【0017】
本発明においては、上記の式(1)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルと前記式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとを、前記式(III)で表わされるアルキレングリコールとエステル交換反応させてポリエステルのポリエステル前駆体を合成し、次いで重縮合反応させて目的とする共重合芳香族ポリエステルを製造する。
【0018】
かかる製造方法において、予め6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルを溶融し、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターで濾過した後に反応釜へ供給してアルキレングリコールとエステル交換反応させることが肝要であり、かくする点が本発明の第1の特徴である。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルは融点を有しているので容易に溶融濾過することができ、なかでも6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジエチルエステルの融点は190℃であるので、溶融温度を200〜210℃程度の低温とすることができ、必要熱量および溶融時の熱安定性の面から特に好ましい。
【0019】
この濾過処理により、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルをジメチルスルホキシドやN−メチルピロリドンのような有機溶媒に溶解させた溶液中の、孔径5μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を減らすことができる。このように、エステル交換反応前の段階で不溶性粗大異物量を減らすことにより、後述する反応後の濾過工程を安定に行うことが可能となり、また最終的に得られる共重合芳香族ポリエステル中の不溶性粗大異物量を容易に減らすことができる。特に6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステル中の孔径5μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量が、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルの重量を基準として400個/mg以下、さらには200個/mg以下となるように第1フィルターで濾過するのが好ましい。
【0020】
なお、第1フィルターでの濾過は一度に限定されず、必要であればさらに濾過を繰り返したり、フィルターを多重に使用しても良い。また、エステル交換反応前に行なう第1フィルターの濾過精度は、フライスペック低減の観点からは小さいほど好ましく、95%濾過精度が5μm以下、さらには2μm以下であることが好ましい。一方、第1フィルターの95%濾過精度の下限は特に制限されないが、小さくしていくと圧力損失が大きくなって濾過処理時間が長くなったり、フィルターが詰まりやすくなって交換周期が短くなるので、生産性などの観点からは0.5μm以上、さらには1μm以上であることが好ましい。また、この第1フィルターは、金属繊維の不織布を積層した構造のものが好ましい。
【0021】
本発明においては、上記の濾過処理した前記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の級アルキルエステルとアルキレングリコールとのエステル交換反応を、前記式(II)で表される芳香族ジカルボン酸低級アルキルエステルとアルキレングリコールとのエステル交換反応と、一緒に行なってもよいし別々に行なっても良いが、製造工程を簡略化できることから、両方を一緒に行なうことが好ましい。
【0022】
また、本発明の別の特徴は、上記のエステル交換反応(以下、第一反応と称することがある)で得られたポリエステル前駆体を、重縮合反応(以下、第二反応と称することがある)を開始する前に、95%濾過精度が10μm以下の第2フィルターで濾過することにあり、かくすることにより、得られる共重合芳香族ポリエステルをテトラエチレングリコールに溶解したときの溶液中の、孔径5μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を減らすことができる。好ましくは、得られる共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、孔径5μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を200個/mg以下、さらに150個/mg以下となるように第2フィルターで濾過するのが好ましい。このようにして不溶性粗大異物量を減らすことで、さらに後述の第二反応後の濾過で、不溶性粗大異物量を減らしやすくなる。なお、第2フィルターでの濾過も一度に限定されず、必要であればさらに濾過を繰り返したり、フィルターを多重に使用しても良い。また、第2フィルターの濾過精度は、フライスペック低減の観点からは小さいほど好ましく、95%濾過精度がさらに8μm以下、特に5μm以下であることが好ましい。一方、第1フィルターの95%濾過精度の下限は特に制限されないが、小さくしていくと圧力損失が大きくなって濾過処理時間が長くなったり、フィルターが詰まりやすくなって交換周期が短くなるので、生産性などの観点から0.8μm以上、さらには1μm以上であることが好ましい。この第2フィルターも、前記第1フィルターと同じく、金属繊維の不織布を積層した構造のものが好ましい。
【0023】
次に好ましいエステル交換反応の条件について説明する。エステル交換反応は、常圧下で行ってもよいが、0.05MPa〜0.5MPaの加圧下で行うことが反応速度をより速めやすいことから好ましい。また、反応温度は170〜270℃の範囲で行なうことが好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることにより、反応の進行を進みやすくしつつ、ジアルキレングリコールに代表される副生物の発生を抑制できる。このとき、アルキレングリコールは、エステル交換反応を行う反応系に存在するジカルボン酸成分に対し1.1〜6モル倍用いることが、反応速度および得られる共重合芳香族ポリエステルの物性の点から好ましい。より好ましくは1.8〜5モル倍、さらに好ましくは2〜4モル倍である。
【0024】
また、エステル交換反応速度をより早くするために、それ自体公知の触媒を用いることが好ましく、たとえばLi,Na,K,Mg,Ca,Mn、Co,Tiなどの金属成分を有する金属化合物が好ましく挙げられ、これらの中でも加圧下で行う場合には、反応の進みやすさの点からMn化合物やTi化合物が好ましい。特にTi化合物は、次いで行なわれる重縮合反応の触媒としても使用でき、かつ触媒残渣の析出も少ないことから好ましい。好ましく用いられるチタン化合物としては、触媒残渣の析出による不溶性粗大異物の発生を抑制する観点から、得られるポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましい。特に好ましいチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシド、トリメリット酸チタンなどを例示できる。
【0025】
添加する触媒量は、エステル交換反応中に存在する全酸成分のモル数を基準として、金属元素換算で、5〜100ミリモル%の範囲にあることが好ましく、さらに7〜70ミリモル%、特に10〜60ミリモル%の範囲にあることが反応速度を促進しつつ、触媒起因の粗大不溶性異物の生成を抑制でき、さらに得られる共重合芳香族ポリエステルの耐熱性を高度に維持できることから好ましい。
【0026】
つぎに、エステル交換反応により得られたポリエステル前駆体第2フィルターでろ過した後に行なう重縮合反応について説明する。
【0027】
本発明では、得られる共重合芳香族ポリエステルに高度の熱安定性を付与させる目的で、重縮合反応の開始以前の段階で、反応系にリン化合物からなる熱安定剤を添加することが好ましい。具体的なリン化合物としては、化合物中にリン元素を有するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸アンモニウム、トリエチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテートなどを挙げることができ、これらのリン化合物は二種以上を併用してもよい。なお、リン化合物の添加時期は、エステル交換反応が実質的に終了してから重縮合反応初期の間に行なうことが好ましく、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0028】
重縮合反応の温度は270〜300℃の範囲が好ましく、また重縮合反応中の圧力は50Pa以下の減圧下が好ましい。重縮合反応中の圧力が50Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。重縮合触媒としては、それ自体公知のTi,Al,Sb,Geなどの金属化合物を好適に使用でき、それらの中でもエステル交換反応時に添加されたチタン化合物を引き続き使用することが触媒残渣による不溶性粗大異物の発生を抑制できることから好ましい。
【0029】
ところで、本発明のさらに別の特徴は、重縮合反応によって得られる所望の分子量を有する共重合芳香族ポリエステルを、溶融状態で平均空孔径が6μm以下の第3フィルターで濾過することにある。この際、別途6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステルの割合を80モル%未満とし、上記と同様にエステル交換反応および重縮合反応して得た6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の含有量が異なる(共重合)芳香族ポリエステルを、得られる共重合芳香族ポリエステル中の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が5モル%以上80モル%未満となる割合で混合溶融した後に平均空孔径が6μm以下の第3フィルターで濾過してもよく、特に前記式(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分と前記式(III)で表されるアルキレングリコール成分とからなる6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有しない芳香族ポリエステルを用いるのが簡便で好ましい。
【0030】
本発明においては、このような濾過処理により、前述の第一反応と第二反応の間で行なわれる濾過では取りきれなかった、またはその後に生成された不溶性粗大異物を取り除くことができる。好ましい第3フィルターの平均空孔径は、5μm以下であり、小さければ小さいほどフライスペックの点では好ましいが、生産性などの点から0.8μm以上、さらに1μm以上であることが好ましい。なお、第3フィルターも、金属不織布メディアを積層した構造のものが好ましい。
【0031】
以上に説明した本発明の製造方法によれば、アルキレン基の炭素数が2〜10である6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸(A)と、ベンゼンジカルボン酸またはナフタレンジカルボン酸からなる芳香族ジカルボン酸(B)とからなり、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の割合が両ジカルボン酸の合計モル数を基準として5モル%以上80モル%未満の範囲にある芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜10のアルキレングリコール成分とからなる共重合芳香族ポリエステルであって、テトラエチレングリコールによって分解・溶解した後に孔径5μmの直孔性フィルターで濾過したときの不溶性粗大異物量が、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、100個/mg以下であるものを容易に得ることができ、例えばフィルムに成形したときにフライスペックなどの欠点の発生を抑制することができる。
【0032】
なお、このような不溶性粗大異物量が100個/mgを越えると、前述の延伸応力の低い特性を活かしてもフライスペックが発生しやすくなる。好ましい不溶性粗大異物量の上限は80個/mg以下、さらには50個/mg以下であり、不溶性粗大異物量は少ないほど好ましいので下限は0個/mgである。
【0033】
また、本発明の共重合芳香族ポリエステルは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度は、0.4〜1.5dl/g、さらに0.5〜1.3dl/gの範囲にあることが取扱い性や得られる成形品の機械的特性などの点から好ましく、特に前述の第3フィルターでの濾過を容易に行なえるようにする観点からは、0.8dl/g以下であることが好ましい。
【0034】
さらに、本発明の共重合芳香族ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してポリエステル組成物としても良く、そのようなポリエステル組成物にすることは得られる成形品にさらなる特性を付与しやすいことから好ましい。なお、他の熱可塑性ポリマーとしては、本発明とは異なる共重合芳香族ポリエステル他のポリエステル、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどが挙げられる。
【0035】
かかる共重合芳香族ポリエステルは、押出成形法、射出成形法、押出しブロー成形法、カレンダー成形法により、フィルムをはじめとして各種の成形品とすることができる。例えば二軸配向フィルムとするには、公知の方法でシート状に溶融押出し、次いで二軸方向に延伸することにより製造でき、製膜方法などはそれ自体公知のものを採用することができる。なお、前述の第3フィルターでの濾過は、製膜などの成形加工直前であるほど、再凝集などによって後から生成される不溶性粗大異物の影響を低減できるので、例えば製膜では溶融押出工程で行なうのが好ましい。
【0036】
このようにして得られる二軸配向フィルムは、前述のとおり、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されていることから、同じヤング率のポリエチレン−2、6−ナフタレートからなるフィルムと比べたとき、同等の温度膨張係数を維持しつつ、低い湿度膨張係数を有するなど、温湿度変化に対する優れた寸法安定性を有し、しかも6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合することに基づくフライスペックの問題も、第1ないし第3フィルターを用いた濾過により不溶性粗大異物が低減されているので極めて少なくすることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明における共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0038】
(1)固有粘度
得られた共重合芳香族ポリエステルの固有粘度は、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用い、35℃で測定して求めた。
【0039】
(2)大突起の数(フライスペック)
アルミニウムをフィルム表面に蒸着した層を、光学顕微鏡を用いて微分干渉法により倍率200倍にて1cm×5cmの範囲を観察し、長径が5μm以上の大きさの突起をマーキングした。この突起を非接触三次元粗さ計(WYKO社製TOPO−3D)にて、測定倍率40倍、測定面積242μm×239μm(0.058mm)の条件にて測定し、表面粗さのプロフィル(オリジナルデータ)を得た。同粗さ測定計内臓のソフトによる表面解析により、ベースライン高さからの最高高さをもって突起高さとし、高さ100nm以上の突起を10cmあたりの個数で表す。
【0040】
(3)不溶性粗大異物の含有量
粗大異物量1は、第1フィルター通過後の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸低級アルキルエステル20mgを、ジメチルスルホキシド10gに常温で溶解させて溶液を得た。その溶液を孔径5μmの直孔性メンブレンフィルターによって濾過し、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させた6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の低級アルキルエステルの重量を基準として、含有量を個/mgとして算出した。
【0041】
粗大異物量2は、第2フィルター通過後のポリエステル前駆体1.0gを、テトラエチレングリコール60gによって270℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。得られた溶解液を、孔径5μmの直孔性メンブレンフィルターによって濾過し、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させたポリエステル前駆体から得られる共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、含有量を個/mgとして算出した。
【0042】
粗大異物量3は第3フィルター通過後の共重合芳香族ポリエステル1.0gを、テトラエチレングリコール60gによって270℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。得られた溶解液を、孔径5μmの直孔性メンブレンフィルターによって濾過し、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントして、溶解させた共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、含有量を個/mgとして算出した。
【0043】
(4)フィルターの濾過精度
試験粉体のガラスビーズ(JIS−Z8901:2006記載)を蒸留水中に分散させ、フィルター濾過前後の粒度分布の変化を測定し、95%カット値を持って濾過精度とする。
【0044】
(5)フィルターの平均空孔径
予め10分以上イソプロピルアルコールに浸したフィルターエレメントを水平にして、試験用タンクに取り付け、タンク内にイソプロピルアルコールをフィルターエレメントの上端15mmの高さまで注ぐ。次にフィルターエレメント内部の空気圧を零から徐々に増加し、メディアより最初に気泡(バブル)が発生し、その気泡が連続して発生する時の空気圧をマノメータにより読み取る。さらに空気流量を増し、空気流量と空気圧を測定し、空気流量の変化率がほぼ一定になるまで継続する。空気流量と空気圧の関係をグラフに表わし、初期の傾きの接線と終期傾きの接線から、交点のバブルポイント圧を読み取る。得られた交点バブルポイント圧より、平均空孔径を次式より算出する。
D=3640/P
ここで、D:平均空孔径(μm)、P:交点バブルポイント圧(mmH2O)である。
【0045】
[実施例1]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジエチル32kg(69.9モル)を撹拌機を備えた容器に仕込み、撹拌をしながら200℃まで加熱し、溶融させた。この容器から攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽までの輸送ラインの途中に95%濾過制度が5μmの金属繊維製の第1フィルターを設置し、窒素加圧により、容器より反応槽に移送中に濾過を行った。そして、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル7.3kg(30.0モル)、エチレングリコール15kgを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた同反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物をモル比1:2で175℃、4時間反応させた反応物(トリメリット酸チタン)を6.0g(15ミリモル%)添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、圧力一定のまま、反応の進行にしたがって副生するアルコールを除去しながら内温を250℃まで上げてエステル交換反応させた。次いで、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリエチルホスホノアセテート6.0g(25ミリモル%)を添加し、余剰のエチレングリコールを追い出した。
【0046】
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度8μmの金属繊維製の第2フィルターを通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、50Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、共重合芳香族ポリエステル1を製造した。
【0047】
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル30kg(123.0モル)を、撹拌機を備えた容器に仕込み、撹拌をしながら200℃まで加熱し、溶融させた。この容器から攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽までの輸送ライン途中に95%濾過精度が2μmの金属繊維製フィルターを設置し、窒素加圧により、容器より反応槽に移送中に濾過を行った。そして、エチレングリコール21kgを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた同反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物をモル比1:2で175℃、4時間反応させた反応物(トリメリット酸チタン)を4.9g(10ミリモル%)添加し、反応槽全体を窒素により0.1MPaの圧力下で加熱して、圧力一定のまま、反応の進行にしたがって副生するアルコールを除去しながら内温を250℃まで上げてエステル交換反応させた。次いで、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリエチルホスホノアセテート5.0g(17ミリモル%)を添加し、余剰のエチレングリコールを追い出した。
【0048】
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルターを通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、50Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、芳香族ポリエステル2を製造した。
【0049】
このようにして得られた共重合芳香族ポリエステル1と芳香族ポリエステル2を重量比1:1.6で混ぜた後、押し出し機に供給して290℃まで過熱して溶融状態とし、平均空孔径が4.3μmの金属不織布製の第3フィルターで濾過した後、ダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、150℃で横方向(幅方向)に延伸倍率6.0倍で延伸し、その後200℃で10秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0050】
[実施例2〜4および比較例1〜3]
実施例1において、第1フィルターまたは第2フィルターまたは第3フィルターを表1に示す95%濾過精度もしくは平均空孔径のものに変更したほかは同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお、比較例1および2では、第1フィルターでの濾過は行なわなかった。
【0051】
[実施例5]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジエチル15kg(33.0モル)を撹拌機を備えた容器に仕込み、撹拌をしながら200℃まで加熱し、溶融させた。この容器から攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽までの輸送ラインの途中に5μmの金属繊維製の第1フィルターを設置し、窒素加圧により、容器より反応槽に移送中に濾過を行った。そして、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル15kg(61.5モル)、エチレングリコール14.6kgを同反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物をモル比1:2で175℃、4時間反応させた反応物(トリメリット酸チタン)を6.0g(15ミリモル%)添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応の進行にしたがって副生するアルコールを除去しながら内温を250℃まで上げエステル交換反応させた。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリエチルホスホノアセテート6.0g(25ミリモル%)を添加し、余剰のエチレングリコールを追い出した。
【0052】
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度8μmの金属繊維製の第2フィルターを通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、50Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、共重合芳香族ポリエステルを製造した。
【0053】
このようにして得られたポリエステル押し出し機に供給して290℃まで加熱して溶融状態とし、平均空孔径が4.3μmの金属不織布製の第二フィルターで濾過した後、ダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、150℃で横方向(幅方向)に延伸倍率6.0倍で延伸し、その後200℃で10秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0054】
[実施例6および比較例4〜5]
実施例5において、第1フィルターまたは第2フィルターまたは第3フィルターを表1に示す濾過精度もしくは平均空孔径のものに変更したほかは同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。なお、比較例4では、第1フィルターでの濾過は行なわなかった。
【0055】
[実施例7]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジエチル15kg(33.0モル)を撹拌機を備えた容器に仕込み、撹拌をしながら200℃まで加熱し、溶融させた。この容器から攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽までの輸送ラインの途中に2μmの金属繊維製の第1フィルターを設置し、窒素加圧により、容器より反応槽に移送中に濾過を行った。そして、テレフタル酸ジメチルエステル11.9Kg(61.3モル)、エチレングリコール14.6kgを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物をモル比1:2で175℃、4時間反応させた反応物(トリメリット酸チタン)を6.0g(15ミリモル%)添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応の進行にしたがって副生するアルコールを除去しながら内温を250℃まで上げエステル交換反応させた。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリエチルホスホノアセテート6.0g(25ミリモル%)を添加し、余剰のエチレングリコールを追い出した。
【0056】
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度4μmの金属繊維製の第2フィルターを通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、50Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、共重合芳香族ポリエステルを製造した。
【0057】
このようにして得られたポリエステル押し出し機に供給して290℃まで過熱して溶融状態とし、平均空孔径が3.9μmの金属不織布製の第3フィルターで濾過した後、ダイから溶融状態で回転中の温度50℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、150℃で横方向(幅方向)に延伸倍率6.0倍で延伸し、その後200℃で10秒間熱固定処理を行い、厚さ5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。
【0058】
[実施例8および比較例6〜7]
実施例7において、第1フィルターまたは第2フィルターを表1に示す濾過精度もしくは平均空孔径のものに変更したほかは同様な操作を繰り返した。得られた共重合芳香族ポリエステルおよび二軸配向共重合芳香族ポリエステルフィルムの特性を表2に示す。なお、比較例6では、第1フィルターでの濾過は行なわなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1、2中の、Aは6,6’−エチレンジオキシージー2−ナフトエ酸成分、Bは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、Cはテレフタル酸成分、粗大異物量2は第2フィルター濾過後の原料中の粒径5μm越える不溶性粗大異物量を、得られるポリエステル樹脂1mg当たりに換算したもの、粗大異物量3は第3フィルター濾過後の得られたポリエステル樹脂中の粒径5μmを越える不溶性粗大異物量を、共重合芳香族ポリエステル樹脂1mg当たりに換算したもの、粗大突起数は前述の(2)大突起の数(フライスペック)で説明した測定方法で得られた突起数である。
実施例はいずれも大突起数が低めで良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の製造方法で作られる共重合芳香族ポリエステルは、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などの通常の溶融成形に供することができ、繊維、フィルム、三次元成形品、容器、ホース等に加工することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の低級アルキルエステルおよび下記式(II)で表される芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとからなり、前記式(I)で表される成分の割合が全ジカルボン酸成分の合計モル数を基準として5モル%以上80モル%未満の範囲にある芳香族ジカルボン酸成分と、下記式(III)で表されるアルキレングリコールとをエステル交換反応させてポリエステル前駆体を得、次いで重縮合反応させて共重合芳香族ポリエステルを製造するに際し、
R2-O(O)C-R4-OR1O-R4-C(O)O-R3 (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
R6-O(O)C-R5-C(O)O-R7 (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
HO-R-OH (III)
[上記式(III)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基を表す。]
予め6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の低級アルキルエステルを溶融し、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターで濾過した後にアルキレングリコールとエステル交換反応させること、
エステル交換反応で得られたポリエステル前駆体を、重縮合反応を開始させる前に、95%濾過精度が10μm以下の第2フィルターで濾過すること、そして、
重縮合反応によって得られた共重合芳香族ポリエステルを溶融状態とし、平均空孔径が6μm以下の第3フィルターで濾過すること、
を特徴とする共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
重縮合反応によって得られた共重合芳香族ポリエステルを、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の含有量が異なる共重合芳香族ポリエステルと溶融混合し、次いで平均空孔径が6μm以下の第3フィルターで濾過する請求項1記載の共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の低級アルキルエステルが6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジエチルエステルである請求項1または2記載の共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記式(II)で表わされる芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルが、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルである請求項1〜3のいずれか記載の共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記式(III)で表されるアルキレングリコールが、その90モル%以上がエチレングリコールである請求項1〜4のいずれか記載の共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
アルキレン基の炭素数が2〜10である6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分と、ベンゼンジカルボン酸またはナフタレンジカルボン酸からなる芳香族ジカルボン酸成分とからなり、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が全芳香族ジカルボン酸成分の合計モル数を基準として5モル%以上80モル%未満の範囲にある芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜10のアルキレングリコール成分とからなる共重合芳香族ポリエステルであって、
孔径5μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量が、共重合芳香族ポリエステルの重量を基準として、100個/mg以下であることを特徴とする共重合芳香族ポリエステル。

【公開番号】特開2010−24344(P2010−24344A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187107(P2008−187107)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】