説明

内容物による着色が抑制されたプラスチック容器

【課題】オレフィン系樹脂により内面が形成されているプラスチック容器について、内容物中に含まれる有色成分の移行による容器壁の着色の問題を有効に解決する。
【解決手段】少なくとも内面がオレフィン系樹脂から形成されたプラスチック容器において、前記内面を形成しているオレフィン系樹脂には、両親媒性化合物からなり且つ融点が85℃以上のブリード性添加剤が、該オレフィン系樹脂100重量部当り0.2重量部以上の量で配合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック容器に関するものであり、より詳細には、容器内面がポリエチレン等のオレフィン系樹脂で形成されているプラスチック容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器は、成形が容易であり、安価に製造できることなどから、各種の用途に広く使用されており、例えば、容器壁の内面がポリエチレンなどのオレフィン系樹脂で形成されている容器は、粘稠なスラリー状或いはペースト状の内容物を収容するための容器としても使用されている。
【0003】
ところで、上記のような容器には、一般に、滑り性を付与して耐ブロッキング性を向上させ、生産ラインでの搬送工程での容器同士のくっつき或いは容器と搬送ベルトなどの搬送材との接着などの不都合を防止することが必要であり、このための手段として、特許文献1には、容器の最外層に、不飽和脂肪族アミド(例えばオレイン酸アミド)などの低融点の脂肪酸アミドと、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミドやベヘン酸アミド)などの高融点の脂肪酸アミドとを滑剤として配合することが提案されている。
【0004】
また、粘稠な内容物を収容するためのプラスチック容器では、容器内に充填されている粘稠な内容物を速やかに排出するため、或いは容器内に残存させることなくきれいに最後まで使いきるために、容器を倒立状態で保存しておかれる場合が多い。従って、上記のように生産ラインでの搬送性を高めると共に、容器を倒立させたときには、内容物が容器内壁面に付着残存せず、例えば粘稠な内容物が速やかに落下するという特性(滑落性)も望まれている。
【0005】
内容物の容器内壁面への付着が抑制されたプラスチック容器については、種々の提案がなされており、例えば、特許文献2には、界面活性剤を主成分とするシャンプーや液体洗剤に使用される多層ポリエチレン製容器であって、内表面のポリエチレン層に4000ppm以上のエルカ酸アミド(不飽和脂肪族アミド)或いは1〜5重量%のシリコーンオイルを容器内面への付着防止剤として配合することが提案されている。
【0006】
また、粘稠ではあるが油分によるべたつき感のないケチャップなどの非油性物質については、滑剤として、500ppm以上、4000ppm未満の量で脂肪族アミド、特にオレイン酸アミド等の不飽和脂肪族アミドがポリエチレン樹脂の内面層に配合されたポリエチレン製容器が特許文献3で提案されている。かかるポリエチレン製容器は、ケッチャプのような内容物について優れた滑落性を示し、容器を倒立状態に保持しておくと、粘稠な内容物が容器の内壁面に付着せずに下方に落下しているため、内容物を容器から速やかに排出することができるばかりか、容器内の内容物の残存を効果的に抑制し、内容物の全量を容器内から排出することができるばかりか、容器内に残存する内容物の量も、目視により容易に認識することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2627127号
【特許文献2】特開平6−99481号公報
【特許文献3】特許第4218729号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、オレフィン系樹脂製の容器では、種々の目的のために、容器壁を構成するオレフィン系樹脂に各種の滑剤を配合することが行われている。
【0009】
しかしながら、本発明者等の研究によると、オレフィン系樹脂により内面が形成されているプラスチック容器では、経時と共に、容器壁が着色していくという問題があることが判った。例えば、上記のプラスチック容器にケチャップを充填し、長時間保存しておくと、次第に容器壁が着色していき、この結果、外部からケチャップの視認性が低下し、外観が悪くなってしまう。このような問題は、内容物中の一部の有色成分が容器内面を形成しているオレフィン系樹脂層に移行していくことにより発生するものと考えられる。このような着色の問題は、特許文献1〜3に開示されているような公知の手段では解決することができない。
【0010】
従って、本発明の目的は、オレフィン系樹脂により内面が形成されているプラスチック容器について、内容物中に含まれる有色成分の移行による容器壁の着色の問題を有効に解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記のようなプラスチック容器の着色の問題について、多くの実験を行った結果、滑剤などのブリード性添加剤の中で、高融点の両親媒性化合物を選択し、これを内表面を形成しているオレフィン系樹脂に対して、比較的多量配合することにより、このような着色の問題を有効に抑制できるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、少なくとも内面がオレフィン系樹脂から形成されたプラスチック容器において、前記内面を形成しているオレフィン系樹脂には、両親媒性化合物からなり且つ融点が85℃以上のブリード性添加剤が、該オレフィン系樹脂100重量部当り0.2重量部以上の量で配合されていることを特徴とするプラスチック容器が提供される。
【0013】
本発明のプラスチック容器においては、
(1)前記ブリード性添加剤が、前記オレフィン系樹脂100重量部当り0.3乃至2重量部の量で配合されていること、
(2)前記ブリード性添加剤が飽和脂肪酸アミドであること、
(3)前記飽和脂肪酸アミドが、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドの群から選ばれた1種であること、
(4)透明容器であること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラスチック容器は、少なくとも容器内面がオレフィン系樹脂により形成されているものであるが、この内面を形成しているオレフィン系樹脂に、両親媒性化合物からなり且つ融点が85℃以上のブリード性添加剤が、該オレフィン系樹脂100重量部当り0.2重量部以上、特に0.3乃至2重量部、最も好適には0.4乃至1重量部の量で配合されている点に顕著な特徴を有している。即ち、このような量でブリード性添加剤が内面を形成するオレフィン系樹脂に配合されているため、容器内に充填された内容物に含まれる有色成分の容器内面側への移行による着色を効果的に抑制することができる。
【0015】
例えば、このプラスチック容器に、水性色素(コンゴーレッド)の0.02重量%水溶液を充填し、密封して、30℃80%RHの雰囲気中に168時間保存したとき、該容器の胴部は、該色素水溶液充填前に比して、L*a*b表色系におけるa値の変化値Δaが0.5以下となる。即ち、このa値は、赤色度合いを示すが、このΔaの値が小さいということは、上記のような水溶性色素を含有する水溶液を充填して長期間保存した場合においても、容器壁の変色度合いが小さいことを示している。このような水溶性色素の水溶液を用いた着色評価は、後述の実施例1〜3に示されており、この実験結果から、本発明では、容器内容物中に含まれる有色成分による着色が有効に抑制されることが理解される。また、実施例4〜7は、実際に容器内容物として使用されるケチャップを用いて、上記と同様の着色試験を行ったものであるが、この実験結果により、実際の内容物に対しても、優れた着色防止効果が得られていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のプラスチック容器の内面にブリーディングしたブリード性添加剤(両親媒性化合物)の存在形態を説明するための説明図。
【図2】本発明の容器をキャップと共に示す図。
【図3】飽和脂肪酸アミドの添加量と容器の着色度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本発明の原理>
本発明において、上記のような着色防止効果が得られる理由は明確に解明されたわけではないが、本発明者等は次のように推定している。
即ち、本発明において、内表面を形成しているオレフィン系樹脂の層に配合されるブリード性添加剤は、成形後に容器の内表面に析出するという性質を有しているものであり、この析出により、容器内表面に種々の特性を付与する。本発明では、このブリード性添加剤として、両親媒性化合物が使用されるわけであるが、この化合物は、図1に示されているように、極性基(親水性基)と非極性基(疎水性基)とを有しており、容器内表面にブリーディングしたとき、極性基同士が水素結合等により連なった形で多分子層を形成し、最下層は、非極性基が容器内面側に位置し、極性基が上端に位置するような形態で直立して、この上端の極性基に他の分子の極性基が連なった形で上層が形成され、このような繰り返しによって多分子層が形成されている。このような多分子層によって有色成分の容器内面側への移行が抑制されるのであるが、本発明では、ブリーディングにより多分子層を形成する両親媒性化合物の融点が85℃以上であり、且つ内表面を形成するオレフィン系樹脂100重量部当り0.2重量部以上の量で配合している。このため、ブリーディングにより形成された多分子層は、運動性に乏しく、容器内表面の全体にわたってがっちりと緻密に形成されることとなる。この結果、内容物中に含まれる有色成分の容器内面側への移行を極めて効果的に抑制することが可能となるものと考えられる。事実、後述する比較例2等によれば、融点が85℃未満の両親媒性化合物(例えばオレイン酸アミド)を用いた場合や、オレフィン系樹脂当りの配合量が0.2重量部よりも少ない場合には、着色評価を行ったときのΔa値がかなり高く、満足すべき着色防止効果は得られないことが示されている。
【0018】
<ブリード性添加剤>
プラスチック容器の内面を形成しているオレフィン系樹脂に添加配合されるブリード性添加剤としては、両親媒性化合物が使用される。この両親媒性化合物は、図1に示されているように極性基、例えばアミド基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アミノ基、第4級アンモニウム塩基などを有し、さらにアルキル基などの炭化水素基等の非極性基を有するものであるが、特にブリード性を示し且つ図1に示すような多分子層を形成しやすいという観点から脂肪酸アミドが好適である。また、本発明でブリード性添加剤として用いる両親媒性化合物は、融点が85℃以上、特に100℃以上のものが使用される。即ち、上記のような分子構造を有していたとしても、融点が上記範囲よりも低いと、分子の運動性が高いため、ブリーディングにより形成される多分子層が不安定となり、容器内表面からの脱落等が生じ易くなるばかりか、緻密な層構造を形成することが困難となり、この結果、容器内容物に含まれる有色成分の容器内面側への移行を効果的に遮断することができず、満足すべき着色防止効果が得られなくなってしまうからである。
【0019】
このような観点から、本発明で使用されるブリード性添加剤の具体例としては、飽和脂肪酸アミド、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等を例示することができ、中でも融点が100℃以上のパルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドが好適である。例えば、オレイン酸等の不飽和脂肪酸アミドは、融点が低く、分子の運動性が高いため、本発明では使用することができない。
【0020】
また、上記の飽和脂肪酸アミドは、それぞれ1種単独で使用することもできるし、或いは2種以上を組み合わせて使用することもできるが、基本的には、1種単独で使用することが好ましい。即ち、複数種の飽和脂肪酸アミドを併用した場合、形成される多分子層には、分子鎖(非極性基の長さ)が異なる分子が混在することとなるため、規則正しく且つ緻密に分子が配列された多分子層の形成が困難となり、この結果、着色防止効果が低くなったり或いは不安定となるおそれがあるからである。但し、上記の飽和脂肪酸アミドは、通常、不可避的不純物として炭素数が若干異なる成分を含んでいる場合が多いため、1種単独で使用するといっても100%が1種の飽和脂肪酸アミドとすることを意味するものではなく、例えば90重量%以上が同一の飽和脂肪酸アミドであることを意味する。このような観点から、本発明で最も好適な飽和脂肪酸アミドは、高純度の市販品があるベヘン酸アミドである。
【0021】
また、本発明において、上記のような高融点のブリード性添加剤は、容器内面を形成しているオレフィン系樹脂100重量部当り、0.2重量部以上、特に0.3重量部以上、最も好適には0.4重量部以上の量で配合されるべきである。即ち、この量が少ないと、ブリーディングにより緻密な多分子層を容器内面(特に胴部)の全体にわたって形成することが困難となってしまい、着色防止効果が不満足となってしまうからである。また、基本的に、この添加量が多いほど着色防止効果が高められるが、ある程度以上配合したとしても、着色防止効果が向上することがなく、むしろ多分子層の脱落などが生じ易くなったり、或いはコストの増大などの不都合を生じてしまうため、一般的には、2重量部以下の配合量とすることが好ましい。
【0022】
<プラスチック容器の層構造>
本発明のプラスチック容器は、少なくとも容器内面がオレフィン系樹脂により形成されているものであり、この内面を形成しているオレフィン系樹脂に、上述したブリード性添加剤が配合される。
このようなオレフィン系樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中或いは高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができる。勿論、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等であってもよい。また、このようなポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR,JIS K−6728)は、一般に0.1乃至3g/10min程度の範囲にある。本発明において、特に好適に使用されるポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレンであり、ポリエチレンが最適であり、特に容器にスクイズ性を付与し、容器内容物を絞り出しにより容器から取り出すようにするためには、低密度ポリエチレンや直鎖低密度ポリエチレンを用いるのがよい。
【0023】
また、本発明においては、オレフィン系樹脂によって容器内面が形成されている限り、該ポリオレフィン系樹脂層を単層として容器器壁が形成されていてもよいし、該ポリオレフィン系樹脂層を内面層とし、これに他の樹脂層が積層された多層構造とすることもできる。特に、多層構造とした場合には、オレフィン系樹脂層に配合されたブリード性添加剤が容器の外表面にブリーディングせず、容器の内表面に選択的にブリーディングするため、前述した着色防止効果を高める上で極めて好適である。
【0024】
前記のような多層構造の例としては、内面層(オレフィン系樹脂層)/接着剤層/酸素バリア層/接着剤層/外表面層の5層構造が代表的である。このような層構造において、接着剤層は、例えば酸変性オレフィン系樹脂などの接着剤樹脂から形成されるものであり、酸素バリア層は、エチレンビニルアルコール共重合体などの酸素バリア性樹脂から形成される。また、鉄粉等の酸素吸収剤をポリオレフィン系樹脂や酸素バリア性樹脂に分散した樹脂層を酸素バリア層とすることもできるし、不飽和二重結合を有するポリブタジエンなどの酸化性樹脂成分を遷移金属触媒などとともに酸素バリア性樹脂に配合して酸素バリア層とすることもできる。外表面層は、内面層と同じポリオレフィン系樹脂で形成することが一般的であるが、他の熱可塑性樹脂層、例えばポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂で形成することもできる。
【0025】
勿論、多層構造は、前記の5層構造に限定されるものではなく、例えば、酸素バリア層及び接着剤層を用いて、外表面層をさらに多層構造とすることもできる。さらに、内層に隣接してブリード性添加剤が配合されていないオレフィン系樹脂層を設け、この層に、接着剤層を介して酸素バリア層が形成された多層構造とすることもできる。さらに、酸素バリア層を設けず、内面層を低密度ポリエチレンや直鎖低密度ポリエチレンなどから形成し、外面側に印刷適正の高い高密度ポリエチレンの層を設けた2層構造とすることもできる。
さらには、この容器の成形時に発生するリグラインド(スクラップ樹脂)をバージンのオレフィン系樹脂とブレンドしたリグラインド層を中間層として容器壁の内部に形成することもできる。
【0026】
本発明において、容器内面を形成するオレフィン系樹脂層の厚みは、特に制限されないが、通常は、少なくとも50μm以上の厚みとするのがよい。この厚みがあまり薄いと、十分な着色防止効果を発揮するのに十分な多分子多層構造を形成することが困難となるおそれがあるからである。また、多層構造とする場合において、かかる内面層に積層される各種の層は、その機能に応じた厚みとすればよく、例えば、接着剤層は、十分な接着力が確保できる程度の厚みとすればよく、酸素バリア層は、良好な酸素バリア性を示し、酸素透過による内容物の劣化が有効に防止できる程度の厚みとすればよい。
【0027】
尚、前述した各層には、各層に要求される特性を損なわない範囲において、それ自体公知の各種の配合剤、例えば、顔料、紫外線吸収剤等が必要により配合されていてよいが、本発明の利点を最大限に活かすためには、この容器は透明であることが好ましい。即ち、透明容器の場合には、着色による透明性の低下を有効に回避することができ、例えば、外部からの目視により、容器内容物の量を容易に確認することができるからである。この場合、透明性が損なわれない程度とは、容器内の内容物を外部から目視で視認できる程度の透明性が保持されることを意味する。
【0028】
上述した構造を有する本発明のプラスチック容器は、層の数に応じた数の押出機や射出機を用いて、押出、共押出、共射出などにより容器用プリフォームの形状に成形され、続いての二次成形、例えばダイレクトブロー成形、プラグアシスト成形などによって、ボトル或いはカップ状容器に成形されることとなる。
【0029】
例えば、ボトル形状のプラスチック容器は、図2に示されているように、螺条を備えた首部1、肩部3を介して首部に連なる胴部5及び胴部の下端を閉じている底部7を有しており、このような容器に内容物を充填した後、首部1の上端開口部にアルミ箔等の金属箔9をヒートシールにより施し、所定のキャップ10を装着することにより、包装容器として使用に供される。かかる包装容器では、キャップ10を開封し、シール材が塗布された金属箔9を引き剥がし、内容物の取り出しが行われる。
【0030】
<内容物>
本発明のプラスチック容器に充填される内容物は、特に有色成分を含有するものであり、有色成分による着色の問題がある全てに適用できる。特に、ケチャップ、ソース、マスタードなど、非油性で有色成分を含有しているものに特に効果的である。中でも、ケチャップは、粘稠であるため、容器を倒立保持させた状態で保存される場合が多いが、このような場合、本発明では、ブリード性添加剤のブリーディングにより形成された多分子層により、着色防止効果のみならず、非油性内容物に対する滑落性も向上しているため、本発明の利点を最大限に活かすことができ、本発明が適用されるには最適な内容物である。
【0031】
上記のような内容物は、加熱殺菌を兼ねて、通常、60℃以上、特に60乃至90℃の範囲に加熱しての熱間充填によりプラスチック容器内に充填されるが、本発明では、前述した高融点にブリード性添加剤により形成される多分子層は、分子の運動性が極めて低いため、このような熱間充填によっても脱落せず、従って着色防止効果が阻害されることはない。
また、最近では、容器やキャップを予め過酸化水素水などで殺菌した後に容器内に内容物を充填するという無菌充填法(アセプティック充填)が広く採用されているが、このような場合には、内容物は、室温、あるいは60℃未満での低温でプラスチック容器内に充填されるが、本発明では、このような無菌充填で内容物が充填されていてもよい。例えば、オレイン酸アミドの如き不飽和脂肪酸アミドがブリード添加剤として使用されている場合には、このような無菌充填により60℃未満の低温で内容物が充填される場合であっても着色防止効果は発揮されないが、本発明に従って高融点のブリード性添加剤が使用されている場合には、内容物が低温で充填されている場合であっても優れた着色防止効果が発揮される。
【実施例】
【0032】
本発明を次の実施例にて説明する。
尚、以下の実施例での着色評価は、以下の方法により行われた。
【0033】
着色評価方法:
容器内に充填した内容品を取り出した後、容器内面を純水にて洗浄・乾燥した。乾燥後の容器内面を切り出し、容器胴部の着色性をSMカラーコンピューター(スガ試験機(株)製)を用いて測定した。充填後の値(a’、b’)と充填前の空ボトルの値(a0、b0)の差(ΔaおよびΔb、Δa=a’-a0, Δb=b’- b0)を比較し、着色性の目安とした。値が小さい程、低着色性に優れることを示す。
評価:
○:着色性が抑制されている
×:着色性が抑制されていない
【0034】
<実施例1〜3,比較例1〜5>
低密度ポリエチレン100重量部に対し、表1に示した種々の飽和脂肪酸アミドを二軸混練測定装置ULT Nano05((株)テクノベル製)を用い、シリンダー温度200℃の条件下で溶融混練し、脂肪酸アミド含有ポリエチレン樹脂ペレットを作成した。作成した脂肪酸アミド含有ポリエチレンを最内層とし、ダイレクトブロー成形機を用いて4種6層の多層容器(容量500mL:最外層/接着層/バリア層(EVOH)/接着層/LDPE層/最内層、層厚み:25/20/20/10/180/180(μm))をシリンダー温度200℃、ダイヘッド温度210℃の条件下で成形した。容器成形後、容器を22℃60%RH環境下にて一晩以上保管した。保管後、容器に0.02重量%のコンゴーレッド(キシダ化学株式会社製)水溶液を約500g低温充填(25℃)し、シール材で口部を密封した後、容器を30℃80%RH環境下で168時間保管した。その後、シール材を剥がし、容器の着色性評価を行った。結果を表1に示す。また、ベヘン酸アミドの添加量と容器の着色度(Δa)との関係を図3に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、内層材に融点が85℃以上であるベヘン酸アミドを0.2重量部以上配合した実施例1、2では、添加剤を用いない比較例1、融点が85℃未満であるオレイン酸アミドを用いた比較例2、3、ベヘン酸アミドを0.2重量部未満配合した比較例4、5と比較し、Δa値が低く、着色を効果的に低減できていることが分かる。また、図3より、容器の着色度はベヘン酸アミドの添加量に依存し、0.4重量部程度で着色度がほぼ飽和することが分かる。
【0037】
<実施例4〜6、比較例6〜8>
低密度ポリエチレンに添加する脂肪酸アミドを表2に記載したものに変更した以外は、実施例1と同様に多層容器を成形した。容器成形後、容器を22℃60%RH環境下にて一晩以上保管した。保管した容器にトマトケチャップ(カゴメ(株)製)を約500g熱間充填(80〜85℃)し、シール材で口部を密封した後、容器を水中で冷却した。冷却後、22℃60%RH環境下で1週間保管した。その後、シール材を剥がし、容器着色性試験を行った。結果を表2に示す。
【0038】
<実施例7,比較例9,10>
低密度ポリエチレンに添加する脂肪酸アミドを表2に記載したものに変更した以外は、実施例1と同様に多層容器を成形した。容器成形後、容器を22℃60%RH環境下にて一晩以上保管した。保管した容器にトマトケチャップ(カゴメ(株)製)を約500g低温充填(25℃)し、シール材で口部を密封した。密封後、30℃80%RH環境下で1ヶ月保管した。その後、シール材を剥がし、容器着色性試験を行った。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2より、内容品が熱間充填される場合において、融点が85℃以上の脂肪酸アミドであるパルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドを添加した実施例4〜6、では、内層材に添加剤を用いない比較例6、融点が85℃未満の脂肪酸アミドであるオレイン酸アミド、エルカ酸アミドを添加した比較例7、8と比較し、Δb値が低く着色を低減できていることが分かる。
【0041】
また、内容品が低温充填される場合においても、融点が85℃以上の脂肪酸アミドであるベヘン酸アミドを添加した実施例7では、内層材に添加剤を用いない比較例9、融点が85℃未満の脂肪酸アミドであるオレイン酸アミドを添加した比較例10と比較し、Δb値が低く着色を低減できていることが分かる。
【符号の説明】
【0042】
1:首部1
3:肩部3
5:胴部5
7:底部7
9:金属箔
10:キャップ10
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、少なくとも内面がオレフィン系樹脂から形成されたプラスチック容器であって、内容物中に含まれる有色成分の移行による容器壁の着色の問題を有効に解決することにある。このため、ケチャップ、ソース、マスタード等のプラスチック容器として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内面がオレフィン系樹脂から形成されたプラスチック容器において、前記内面を形成しているオレフィン系樹脂には、両親媒性化合物からなり且つ融点が85℃以上のブリード性添加剤が、該オレフィン系樹脂100重量部当り0.2重量部以上の量で配合されていることを特徴とするプラスチック容器。
【請求項2】
前記ブリード性添加剤が、前記オレフィン系樹脂100重量部当り0.3乃至2重量部の量で配合されていることを特徴とするプラスチック容器。
【請求項3】
前記ブリード性添加剤が飽和脂肪酸アミドである請求項1又は2に記載のプラスチック容器。
【請求項4】
前記飽和脂肪酸アミドが、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドの群から選ばれた1種である請求項3に記載のプラスチック容器。
【請求項5】
透明容器である請求項1乃至4の何れかに記載のプラスチック容器。
【請求項6】
容器内に水溶性色素の0.02重量%水溶液を充填、密封し、30℃80%RHの雰囲気中に168時間保存したとき、該容器の胴部は、該色素水溶液充填前に比して、L*a*b表色系におけるa値の変化値Δaが0.5以下である請求項1乃至5の何れかに記載のプラスチック容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−25964(P2011−25964A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174133(P2009−174133)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】