説明

内燃機関のピストン

【課題】内燃機関のピストンに関し、ピストンスラップ音を効果的に低減する。
【解決手段】クラウン部20と、クラウン部20の下部に設けられ、ピストンピン孔32が形成されたピンボス31を有する主スカート部30とを備える内燃機関のピストン10であって、主スカート部30のスラスト側及び反スラスト側の下端部のうち、少なくとも反スラスト側の下端部にピンボス31よりも下方に突出してシリンダ壁面と摺接する副スカート部40を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車用のエンジンに用いられるピストンとして、ピストンリング溝を有するクラウン部と、このクラウン部の下部に設けられると共に、ピストンピン孔が形成されたピンボスを有するスカート部とを備えたピストンが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、クラウン部の下部に、スラスト側及び反スラスト側に設けられた一対の主スカート部と、ピストンピン軸線方向に設けられた一対の副スカート部と、これら主スカート部及び副スカート部を連結する連結スカート部とを設けた内燃機関用ピストンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−65624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジン騒音の一つとして、ピストンがシリンダ内を往復運動する際に発生するピストンスラップ音が知られている。このピストンスラップ音は、ピストンが圧縮行程から膨張行程に移り降下する際にスラスト力によりスラスト側に姿勢変化して、シリンダ壁面と衝突することで引き起こされる。
【0006】
この様なピストンスラップ音を低減する方策として、ピストンとシリンダ壁面とのクリアランス低減やピストンのオフセット位置の最適化が考えられる。しかし、これらクリアランス低減等の方策は、耐久性や信頼性への影響が大きいため、ピストンスラップ音の低減に限界がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、その目的は、膨張行程時におけるピストンのスラスト側への姿勢変化(傾き量)を抑制して、ピストンスラップ音を効果的に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関のピストンは、クラウン部と、該クラウン部の下部に設けられ、ピストンピン孔が形成されたピンボスを有する主スカート部とを備える内燃機関のピストンであって、前記主スカート部のスラスト側及び反スラスト側の下端部のうち、少なくとも反スラスト側の下端部に前記ピンボスよりも下方に突出してシリンダ壁面に摺接する副スカート部が設けられることを特徴とする。
【0009】
また、前記副スカート部が、前記主スカート部の反スラスト側の下端部にのみ設けられてもよい。
【0010】
また、前記副スカート部の下端から前記ピストンピン孔中心までの高さが、該ピストンピン孔中心から前記クラウン部の頂部までの高さよりも大きく形成されてもよい。
【0011】
また、前記副スカート部の内周側に、該副スカート部を肉厚に形成する補強部が設けられてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内燃機関のピストンによれば、膨張行程時におけるピストンのスラスト側への姿勢変化(傾き量)を抑制して、ピストンスラップ音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストンを示す模式的な側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストンを示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るピストンのスラスト側への傾き量と従来のピストンのスラスト側への傾き量とを比較した図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るピストンを適用したエンジン及び従来のピストンを適用したエンジンの騒音レベルを比較した図である。
【図5】他の実施形態に係る内燃機関のピストンを示す模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜4に基づいて、本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストンを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
本実施形態のピストン10は、自動車に搭載されるエンジンのシリンダ内を往復運動するもので、図1に示すように、燃焼室に臨むクラウン部20と、クランク室に臨む主スカート部30と、この主スカート部30の下端から延長された副スカート部40とを備えている。
【0016】
クラウン部20の外周面には、図示しないピストンリングを収装する複数のリング溝21が形成されている。また、クラウン部20の下部には、このクラウン部20の下面から一体的に延びる円筒状の主スカート部30が設けられている。
【0017】
主スカート部30のスラスト−反スラスト方向と直交する筒面には、ピンボス31が設けられている。また、ピンボス31には、図示しないピストンピンを挿通するピストンピン孔32が形成されている。すなわち、主スカート部30には、図示しないコネクティングロッドがピストンピンを介して首振り可能に連結される。
【0018】
副スカート部40は、主スカート部30の反スラスト側の下端部からピンボス31よりも下方に突出して設けられている。この副スカート部40は、下端部からピストンピン孔32の中心までの高さH1が、ピストンピン孔32の中心からクラウン部20の頂部までの高さH2よりも大きくなるように形成されている。また、副スカート部40の内周側には、副スカート部40を下方から上方に向かって肉厚に形成する補強リブ50が設けられている。このように、副スカート部40や補強リブ50を反スラスト側にのみ設けたことにより、ピストン10のスラスト−反スラスト方向の重心位置は反スラスト側に偏心されている。
【0019】
次に、図3に基づいて本実施形態に係るピストン10の膨張行程における作用について説明する。
【0020】
図3(a)は、本実施形態のピストン10が上死点近傍にあって燃焼室で混合気が爆発した直後の状態を示している。また、図3(b)は、スカートとして主スカート部130のみを備えた従来のピストン100が上死点近傍にあって燃焼室で混合気が爆発した直後の状態を示している。
【0021】
膨張行程では図示しないコネクティングロッドがシリンダ軸心L1に対して傾斜するため、ピストン10,100を図中左側のシリンダ壁面(以下、スラスト側のシリンダ壁面という)に向けて押すスラスト力Fが発生する。このとき、従来のピストン100は、スラスト力Fによりスラスト側へ姿勢変化してスラスト側のシリンダ壁面と衝突する一方、本実施形態のピストン10は、反スラスト側の副スカート部40が図中右側のシリンダ壁面(以下、反スラスト側のシリンダ壁面という)と摺接することで、スラスト側への姿勢変化(傾き量)は抑制される。
【0022】
また、従来のピストン100では、ピストンピン軸心L2がシリンダ軸心L1に対してスラスト側に偏心するので、姿勢変化時にピストンピン軸心L2回りに作用するスラスト側への回転力は大きくなる一方、本実施形態のピストン10では、スラスト−反スラスト方向の重心位置が反スラスト側になるため、ピストンピン軸心L2回りに作用するスラスト側への回転力は低減される。
【0023】
すなわち、本実施形態のピストン10によれば、膨張行程時のスラスト側への姿勢変化(傾き量)が抑制され、かつ、スラスト側への回転力も低減されるので、スラスト側のシリンダ壁面との衝突エネルギーを低減することができ、図4に示すように従来のピストン100に比べてピストンスラップ音の発生を効果的に抑制することができる。
【0024】
また、副スカート部40は、内周側に設けられた補強リブ50により肉厚に形成されて剛性が高いため、スラスト側のシリンダ壁面と摺接する際の変形が効果的に抑制される。
【0025】
したがって、副スカート部40の変形によるスラスト側への姿勢変化(傾き量)が確実に抑制され、膨張行程時におけるピストンスラップ音を効果的に低減することができる。
【0026】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0027】
例えば、上述の実施形態において、副スカート部40は反スラスト側の主スカート部30の下端にのみ設けられるものとして説明したが、図5に示すようにスラスト側の下端と反スラスト側の下端の両方に設けてもよい。
【0028】
この場合も、ピストン膨張行程時におけるスラスト側への姿勢変化(傾き量)は抑制され、ピストンスラップ音を効果的に低減することができる。
【0029】
また、本実施形態のピストン10は、自動車に搭載されるエンジンのみならず、船舶や発電機のエンジン等、他の内燃機関に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 ピストン
20 クラウン部
30 主スカート部
31 ピンボス
32 ピストンピン孔
40 副スカート部
50 補強リブ(補強部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウン部と、該クラウン部の下部に設けられ、ピストンピン孔が形成されたピンボスを有する主スカート部とを備える内燃機関のピストンであって、
前記主スカート部のスラスト側及び反スラスト側の下端部のうち、少なくとも反スラスト側の下端部に前記ピンボスよりも下方に突出してシリンダ壁面と摺接する副スカート部が設けられることを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記副スカート部が、前記主スカート部の反スラスト側の下端部にのみ設けられた請求項1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記副スカート部の下端から前記ピストンピン孔中心までの高さが、該ピストンピン孔中心から前記クラウン部の頂部までの高さよりも大きく形成される請求項1又は2に記載の内燃機関のピストン。
【請求項4】
前記副スカート部の内周側に、該副スカート部を肉厚に形成する補強部が設けられる請求項1から3の何れかに記載の内燃機関のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−7325(P2013−7325A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140390(P2011−140390)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】