説明

内燃機関の燃焼制御装置

【課題】ノイズ成分だけを除去してノック判定をする燃焼制御装置を提供する。
【解決手段】原信号F(n)について離散ウェーブレット変換によって、レベル−1のウェーブレット係数d−1を算出する第1手段(ST2)と、レベル−1のウェーブレット係数d−1に基づいて、レベル−2のウェーブレット係数d−2を算出する第2手段(ST2)と、レベル−1のウェーブレット係数d−1のうち第1閾値TH1を超える部分と、レベル−2のウェーブレット係数d−2のうち第2閾値TH2を超える部分と、に基づいてノイズ除去の必要性を特定する第3手段と、第3手段によってノイズ除去の必要性が認められた場合に、レベル−1とレベル−2のウェーブレット係数のレベルを抑制する第4手段(ST5)と、レベル抑制後のレベル−1のウェーブレット係数に基づいて、ノッキングが発生しているか否かノック判定する第5手段(ST7)とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室に発生するイオン信号に基づいてノッキングの発生を判定して、適切な運転を実現する燃焼制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノッキング(以下ノックと略す)とは、内燃機関の燃焼室において混合気の異常燃焼によって金属性の打撃音を発する現象を一般に意味する。そして、ノックを放置するとエンジン壁面の疲労劣化が促進されるなど、更なるトラブルに至るので、確実にノックを検出して、適切な燃焼制御を実行する必要がある。
【0003】
そこで、燃焼時に燃焼室内に発生するイオン信号を取得し、これにノック信号が重畳しているか否かに基づいてノック発生の有無を判定することが行われている。そして、本出願人も、ノイズ成分を排除してノック信号だけを特異的に抽出する手法について、各種の提案をしている(特許文献1〜特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270830号公報
【特許文献2】特開2007−239691号公報
【特許文献3】特開2007−239518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、正常燃焼時と全く同一の運転条件でも、時として、ノック信号と区別困難なコロナノイズが発生することがある。ここで、ウェーブレット変換を活用することが考えられるが、コロナノイズのスパイクは、正方向に生じる場合(図5(a))と、負方向に生じる場合(図5(b))とがあり、特に、負方向に生じたコロナノイズについては、通常の周波数分析では、本来のノック信号と区別することができない。
【0006】
そして、ノック信号を見落とすことが許されない一方で、逆に、コロナノイズをノック信号と誤認したのでは、その後、内燃機関がノック回避の燃焼制御に移行することで十分な運転性能を発揮できない弊害が生じる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、同じ周波数域において同様の挙動を示すノイズ成分を、本来の検出対象であるノック信号と峻別して、適切な燃焼制御を実現できる燃焼制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明者は、正常燃焼時のイオン信号と、ノック信号の重畳したイオン信号と、正常燃焼時にコロナノイズが重畳したイオン信号について、ウェーブレット変換による時間周波数分析を繰り返した。
【0009】
その結果、ウェーブレット変換により得られるウェーブレット係数を、そのレベル毎に着目することで、ノック信号を損なうことなく、コロナノイズ成分だけを特異的に除去できることを確認して本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明に係る燃焼制御装置は、内燃機関の運転時に燃焼室に発生するイオン信号をサンプリング周波数fsで取得したN個の原信号F(n)について、周波数範囲fs/4〜fs/2の周波数成分を特異的に抽出可能な離散ウェーブレット変換によって、レベル−1のN/2個のウェーブレット係数d−1(2×k)を算出する第1手段(但し、k=0,1,・・・,N/2−1)と、前記レベル−1のウェーブレット係数d−1(2×k)に基づいて、レベル−2のN/4個のウェーブレット係数d−2(4×k)を算出する第2手段(但し、k=0,1,・・・,N/4−1)と、
レベル−1のウェーブレット係数d−1(2×k)のうち第1閾値TH1を超える部分と、レベル−2のウェーブレット係数d−2(4×k)のうち第2閾値TH2を超える部分と、に基づいてノイズ除去の必要性を特定する第3手段と、第3手段によってノイズ除去の必要性が認められた場合に、レベル−1のウェーブレット係数d−1(2×k)、及び/又は、レベル−2のウェーブレット係数d−2(4×k)のレベルを抑制する第4手段と、第4手段によるレベル抑制後のレベル−1のウェーブレット係数d−1’(2×k)に基づいて、ノッキングが発生しているか否かノック判定する第5手段と、を設けたことを特徴とする。
【0011】
図1は、第1手段〜第5手段の関係を示すクレイム対応図であり、第1手段〜第5手段は、コンピュータ回路におけるソフトウェア処理によって実現される。したがって、原信号は、イオン信号をAD変換した後のN個のデジタルデータである。
【0012】
サンプリング周波数は、予め実験的に特定されるノック信号の周波数(通常は、5kHz〜10kHz程度)に対応して、その2倍以上の周波数に設定されるが、現状のコンピュータ装置の処理能力やメモリ容量などに基づき、具体的には、25kHz〜35kHz程度のサンプリング周波数とするのが好ましい。
【0013】
ノック信号は、通常、10kHz〜7.5kHz程度の信号成分に限定され、周波数帯域がほぼ限定されるのに対して、コロナノイズは、その波形そのものは種々変わるものの(図5参照)、何れの場合も、ノック信号の周波数帯域以下の信号成分も少なからず含んでいる。そこで、本発明では、レベル−1のウェーブレット係数d−1(2×k)と、レベル−2のウェーブレット係数d−2(4×k)とを対比することで、ノイズの発生の有無を判定している。
【0014】
本発明では、レベル−1のウェーブレット係数のうち、第1閾値を超える部分と、レベル−2のウェーブレット係数d−2(4×k)のうち第2閾値TH2を超える部分と、に基づいてノイズ除去の必要性を特定する。典型的には、d−1(2×k)>TH1であって、且つ、d−2(4×k)>TH2となる時間軸範囲でノイズが重畳されていると判定している。この場合には、第1閾値TH1を超える時間区間と、第2閾値TH2を超える時間区間とが重複して存在するか否かに基づいてノイズ除去の必要性が特定される。或いは、レベル−1のウェーブレット係数のピーク位置と、レベル−2のウェーブレット係数のピーク位置とが、ほぼ一致するか否か基づいてノイズ除去の必要性を特定するのも好ましい。
【0015】
2つの閾値TH1,TH2は、固定値とするのではなく燃焼サイクル毎に動的に決定するのが好ましく、具体的には、第1閾値TH1は、N/2個のウェーブレット係数d−1(2×k)の平均値M1と標準偏差δ1とに基づいて決定され、第2閾値TH2は、N/4個のウェーブレット係数d−2(4×k)の平均値M2と標準偏差δ2とに基づいて決定されるのが好適である。
【0016】
更に好ましくは、第1閾値TH1及び第2閾値TH2は、各々、実験的に確定される調整係数k1、k2を使用して(k1>0,k2>0)、TH1=M1+k1×δ1、及び、TH2=M2+k2×δ2で与えられる。
【0017】
第4手段は、第1閾値TH1を超える時間区間、及び/又は、第2閾値TH2を超える時間区間について、ウェーブレット係数のレベルを抑制している。そして、後述する本発明の実施例では、第1閾値TH1を超える時間区間について、レベル−1のウェーブレット係数を抑制すると共に、第2閾値TH2を超える時間区間について、レベル−2のウェーブレット係数を抑制している。但し、レベル−2のウェーブレット係数のレベル抑制処理は、必ずしも必須ではない。
【0018】
もっとも、第4手段によるレベル抑制後のウェーブレット係数に基づいて第3手段が実行され、第3手段においてノイズ除去の必要性が認められる限り、第4手段と第3手段とが繰返し実行されるのが好ましいので、このような実施態様を採る限り、レベル−1だけでなく、レベル−2のウェーブレット係数のレベル抑制処理も必要となる。
【0019】
第5手段は、レベル抑制後のウェーブレット係数d−1’(2×k)を用いたウェーブレット逆変換によって得られる補正信号F’(n)を評価してノック判定をするのも好適である。このような実施態様を採ると、ノイズ成分を含まないイオン信号を生成できるので、従来の手法をそのまま活用してノック信号を抽出できる利点がある。
【0020】
本発明のウェーブレット変換は、特に限定されるものではないが、好ましくは、完全シフト不変性(PTI:perfect translation invariance)の性質を持つ複素数ウェーブレットが使用される。このような場合、レベル−1のN/2個のウェーブレット係数d−1(2×k)や、レベル−2のN/4個のウェーブレット係数d−2(4×k)は、実数部と虚数部とを有するので、その絶対値に基づいて平均値や標準偏差が算出される。
【発明の効果】
【0021】
上記した本発明によれば、同じ周波数域において同様の挙動を示すノイズ成分だけを、ノック信号を損なうことなく、特異的に除去することができるので、適切な燃焼制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のクレイム対応図である。
【図2】実施例に係る燃焼制御装置を示す回路図である。
【図3】コンピュータ回路における処理内容を説明するフローチャートである。
【図4】導出されたウェーブレット係数を図示したものである。
【図5】イオン信号波形を例示したものである。
【図6】PTI複素数ウェーブレットによる複素数離散ウェーブレット変換の計算法を図示したものである。
【図7】図4のレベル抑制処理(ST5)について、その計算法を図示したものである。
【図8】ウェーブレット逆変換の計算法を図示したものである。
【図9】本発明の研究論文(参考文献)を図示したものである。
【図10】参考文献を図示したものである。
【図11】参考文献を図示したものである。
【図12】参考文献を図示したものである。
【図13】参考文献を図示したものである。
【図14】参考文献を図示したものである。
【図15】参考文献を図示したものである。
【図16】参考文献を図示したものである。
【図17】参考文献を図示したものである。
【図18】参考文献を図示したものである。
【図19】参考文献を図示したものである。
【図20】参考文献を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。図2は、実施例に係る燃焼制御装置EQUの回路図である。
【0024】
図示の通り、この燃焼制御装置EQUは、イオン信号Voを出力するイオン電流検出回路IONと、イオン信号Voをデジタル変換するAD変換部14と、AD変換部14の出力データを受けてノック判定をするコンピュータ回路15と、点火パルスIGNを出力すると共に、コンピュータ回路15からノック判定結果を受けるECU(Engine Control Unit)と、を中心に構成されている。
【0025】
そして、この回路構成では、図1に示す第1手段〜第5手段の全てが、コンピュータ回路15において実現されている。なお、AD変換部14は、サンプル&ホールド機能を有しており、コンピュータ回路15は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)を構成要素にしている。
【0026】
イオン電流検出回路IONは、一次コイルL1と二次コイルL2からなる点火トランスCLと、点火パルスIGNに基づく遷移動作によって一次コイルL1の電流をON/OFF制御するスイッチング素子Qと、二次コイルL2の誘起電圧を受けて放電動作をする点火プラグPGと、信号検出部DETと、を中心に構成されている。
【0027】
スイッチング素子Qは、ここではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が使用されている。そして、スイッチング素子Qのコレクタ端子は、一次コイルL1を経由してバッテリ電圧VBを受けており、エミッタ端子は、グランドに接続されている。
【0028】
信号検出部DETは、電流検出回路として機能するOPアンプAMPを中心に構成され、コンデンサC1、ツェナーダイオードZD、ダイオードD1,D2、抵抗R1〜R3を有して構成されている。コンデンサC1とツェナーダイオードZDの並列回路によって、イオン電流検出時のバイアス電圧が生成される。
【0029】
二次コイルL2の高圧端子は、点火プラグPGに接続され、低圧端子は、前記バイアス電圧を生成するコンデンサC1及びツェナーダイオードZDの並列回路に接続されている。そして、コンデンサC1及びツェナーダイオードZDの並列回路は、ダイオードD1を通して、グランドに接続されている。図示の通り、ダイオードD1のカソード端子がグランドに接続されている。
【0030】
一方、ダイオードD1のアノード端子は、電流制限抵抗R1を経由してOPアンプの反転入力端子(−)に接続されている。そして、OPアンプAMPの反転入力端子(−)と出力端子の間に、電流検出抵抗R2が接続され、出力端子とグランド間には、負荷抵抗R3が接続されている。また、OPアンプの非反転端子(+)は、グランドに接続され、反転端子(−)には、ダイオードD2のカソード端子が接続されている。なお、ダイオードD2のアノード端子はグランドに接続されている。
【0031】
上記した構成のイオン電流検出回路IONでは、点火パルスIGNがHレベルからLレベルに変化すると、二次コイルL2に誘起される高電圧によって点火プラグPGが放電する。この放電電流は、点火プラグPG→二次コイルL2→コンデンサC1→ダイオードD1の経路で流れるので、コンデンサC1は、ツェナーダイオードZDの降伏電圧により規定される電圧値に充電される。
【0032】
点火プラグPGの放電によって燃焼室の混合気が着火されると、その後、急速に燃焼反応が進行するが、イオン電流iは、電流検出抵抗R2→電流制限抵抗R1→コンデンサC1→二次コイルL2→点火プラグPGの経路で流れる。したがって、イオン電流検出回路IONの出力電圧Voは、Vo=R2×iとなり、イオン電流iに比例した値となる。
【0033】
図3は、コンピュータ回路15において実現されるソフトウェア処理を示すフローチャートである。コンピュータ回路15では、点火サイクル毎に、点火放電から所定時間のイオン信号SGiを取得して記憶する(ST1)。特に限定されないが、この実施例では、サンプリング周波数fsを30kHzとしている。
【0034】
また、点火放電(t=0)の終了直後に出現する振動波と、更にその後に発生する第1ピーク部分は、ともに本発明に不要であるので、この実施例では、点火開始から取得されるイオン信号SGiのうち、第1ピーク部分を経過した、t≒2mSからのイオン信号SGiだけを記憶している。なお、この実施例では、データ個数Nは、256個である。
【0035】
このようにして、N個のデータの記憶処理(ST1)が終われば、続いて、PTI(perfect translation invariance)複素数ウェーブレットのスケーリング関数Φ(t)を利用して、N個の原データSGi〜SGiN−1から、レベル−1のN/2個のウェーブレット係数d−1(2×k)と、レベルー2のN/4個のウェーブレット係数d−2(4×k)とを算出する(ST2)。なお、変数kは、レベル−1のウェーブレット係数において、k=0,1,2・・・N/2−1であり、レベル−2のウェーブレット係数において、k=0,1,2・・・N/4−1である。
【0036】
ウェブレット係数の算出アルゴリズムは、具体的には、図6に示す通りである。本実施例で使用したPTI複素数ウェーブレットのスケーリング関数Φ(t)は、Meyerウェーブレットのスケーリング関数に基づいているが、その詳細は、本発明者の研究論文(図9〜図20)に詳述されている。なお、図6の(式1.1)〜(式2.4)で算出されるウェーブレット係数は、実数部と虚数部とを有しているので、ステップST2に続く処理(ST3〜ST6)では、各ウェーブレット係数の絶対値が使用される。
【0037】
図4には、絶対値演算後のレベル−1のウェーブレット係数d−1(0)、d−1(2)、d−1(4)、・・・・d−1(254)が時間軸方向に128個表示され、絶対値演算後のレベル−2のウェーブレット係数d−2(0)、d−2(4)、d−2(8)、・・・・d−2(252)が64個表示されている。この実施例では、サンプリング周波数が30kHzであるので、レベル−1のウェーブレット係数d−1は、イオン信号SGiの15kHz〜7.5kzの信号成分を反映し、レベル−2のウェーブレット係数は、3.75kHz〜7.5kHzの信号成分を反映している。
【0038】
なお、図4(a)は、コロナノイズが重畳した図5(b)のイオン信号についてのウェーブレット係数であり、図4(b)は、コロナノイズの重畳していない図5(c)のイオン信号についてのウェーブレット係数を示している。また、図4(a)には、参考のために、1.875kHz〜3.75kHzの信号成分の強度を反映するレベル−3のウェーブレット係数d−3と、937Hz〜1.875kHzの信号成分をの強度を反映するレベル−4のウェーブレット係数d−4についても表示している。
【0039】
ステップST2の処理が終われば、続いて、128個のウェーブレット係数d−1(2×k)の平均値M1と標準偏差δ1とに基づいて、第1閾値TH1を決定する(ST3)。具体的には、図7の(式4)〜(式6)の処理に基づき、第1閾値TH1を、TH1=M1+k1×δ1と決定する。同様に、64個のウェーブレット係数d−2(4×k)の平均値M2と標準偏差δ2とに基づいて、第2閾値TH2を、TH2=M2+k2×δ2と決定する(ST4)。ここで調整係数k1,k2は、実験的に最適値が決定されるが、この実施例ではk1=4,k2=2としている。
【0040】
このようにして第1と第2の閾値TH1、TH2が決定されると、次に、レベル−1のウェーブレット係数d−1が第1閾値TH1を超え、且つ、レベル−2のウェーブレット係数d−2が第2閾値TH2を超える重複超過区間[i,j]を特定する(ST5)。そして、重複超過区間について、各レベルのウェーブレット係数d−1,d−2を各レベルの平均値M1,M2に押し下げるレベル抑制処理を実行する(ST5)。
【0041】
なお、重複超過区間が検出されない場合は、イオン信号SGiにコロナノイズが重畳していないと判断されるので、各レベルのウェーブレット係数は、何ら補正されないのは勿論である。
【0042】
一方、重複超過区間[i,j]が検出された場合には、この重複超過区間が消滅するか、或いは、標準偏差δ1,δ2が所定値に収まるまで、ステップST3〜ST6の処理を繰り返す。本発明者の実験によれば、最高でも4回程度繰り返せば十分であった。シミュレーション実験によれば、このようなレベル抑制処理によってパルス成分(コロナノイズ)のエネルギーが1.4%まで低下し、一方、ノック信号については、エネルギー換算で96.7%維持できることが確認された。
【0043】
ところで、ノック信号に影響を与えることなく、コロナノイズの除去効果を高めるには、以下の手法(選択処理)を採るのが有効である。先ず、レベル−1の処理において、第1閾値TH1を超えるウェーブレット係数の中から最大値を特定し、そのデータ番号n−1を記憶しておく。そして、レベル−2の処理において、第2閾値TH2を超えるウェーブレット係数の中から最大値を示すデータ番号がn−2であった場合、2×n−2≦n−1≦2×n−2+1の条件を満たす場合のみ、レベル抑制処理を実行し、2×n−2≦n−1≦2×n−2+1の条件を満たさない場合にはステップST3〜ST6の処理を完了させる。
【0044】
この選択処理は、これを言い換えると、レベル−1の場合の2倍ピッチで現れるレベル−2のウェーブレット係数の最大値d−2(k)が、データ番号kであった場合(但し、k=0,1,2・・・N/4−1)に、レベル−1のウェーブレット係数の2×k番目か、或いは、2×k+1番目の何れかが最大値である場合だけレベル抑制処理を実行することになる。
【0045】
この選択処理は、コロナノイズに起因するウェーブレット係数のピーク位置が、レベル−1でもレベル−2でも重複位置に出現する性質に基づいている。例えば、コロナノイズが重畳したイオン信号(図4(a))については、スパイク状のコロナノイズ発生時に、レベル−1のウェーブレット係数d−1と、レベル−2のウェーブレット係数d−2とが、重複位置でピーク値を示していることが確認される。これに対して、コロナノイズが重畳していない図4(b)に示すイオン信号では、レベル−1のウェーブレット係数d−1とレベル−2のウェーブレット係数d−2のピーク位置が一致しない。
【0046】
さて、ステップST6の判定において、処理完了を判断された場合には、上記したレベル抑制処理を終えたか、或いは、レベル抑制処理の必要のない除去したウェーブレット係数d−1に基づいて、ノック判定が実行される(ST7)。
【0047】
なお、レベル抑制処理を経たウェーブレット係数d−1’に基づいて、ウェーブレット逆変換をして補正信号SGi’を生成すれば、従来のアルゴリズムに基づいて、ノック判定をすることもできる(ST8〜ST9)。ウェーブレット逆変換のアルゴリズムについては、図8に示す通りである。
【0048】
以上本発明の実施例について詳細に説明したが、具体的な記載内容は何ら本発明の限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0049】
ST2 第1手段、第2手段
ST5 第4手段
ST7 第5手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転時に燃焼室に発生するイオン信号をサンプリング周波数fsで取得したN個の原信号F(n)について、周波数範囲fs/4〜fs/2の周波数成分を特異的に抽出可能な離散ウェーブレット変換によって、レベル−1のN/2個のウェーブレット係数d−1(2×k)を算出する第1手段(但し、k=0,1,・・・,N/2−1)と、
前記レベル−1のウェーブレット係数d−1(2×k)に基づいて、レベル−2のN/4個のウェーブレット係数d−2(4×k)を算出する第2手段(但し、k=0,1,・・・,N/4−1)と、
レベル−1のウェーブレット係数d−1(2×k)のうち第1閾値TH1を超える部分と、レベル−2のウェーブレット係数d−2(4×k)のうち第2閾値TH2を超える部分と、に基づいてノイズ除去の必要性を特定する第3手段と、
第3手段によってノイズ除去の必要性が認められた場合に、レベル−1のウェーブレット係数d−1(2×k)、及び/又は、レベル−2のウェーブレット係数d−2(4×k)のレベルを抑制する第4手段と、
第4手段によるレベル抑制後のレベル−1のウェーブレット係数d−1’(2×k)に基づいて、ノッキングが発生しているか否かノック判定する第5手段と、
を設けたことを特徴とする燃焼制御装置。
【請求項2】
第3手段は、第1閾値TH1を超える時間区間と、第2閾値TH2を超える時間区間とが重複して存在するか否かに基づいてノイズ除去の必要性を特定している請求項1に記載の燃焼制御装置。
【請求項3】
第3手段は、レベル−1のウェーブレット係数のピーク位置と、レベル−2のウェーブレット係数のピーク位置とが、ほぼ一致するか否か基づいてノイズ除去の必要性を特定している請求項1に記載の燃焼制御装置。
【請求項4】
第4手段は、第1閾値TH1を超える時間区間、及び/又は、第2閾値TH2を超える時間区間について、ウェーブレット係数のレベルを抑制している請求項1〜3の何れかに記載の燃焼制御装置。
【請求項5】
第4手段によるレベル抑制後のウェーブレット係数に基づいて第3手段が実行され、第3手段においてノイズ除去の必要性が認められる限り、第4手段と第3手段とが繰返し実行される請求項1〜4の何れかに記載の燃焼制御装置。
【請求項6】
第1閾値TH1は、N/2個のウェーブレット係数d−1(2×k)の平均値M1と標準偏差δ1とに基づいて決定され、
第2閾値TH2は、N/4個のウェーブレット係数d−2(4×k)の平均値M2と標準偏差δ2とに基づいて決定される請求項1〜5の何れかに記載の燃焼制御装置。
【請求項7】
第5手段は、レベル抑制後のウェーブレット係数d−1’(2×k)を用いたウェーブレット逆変換によって得られる補正信号F’(n)を評価してノック判定をする請求項1〜6の何れかに記載の燃焼制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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