内燃機関始動装置
【課題】リングギヤ、クランク軸側部材、及びワンウェイクラッチを備えていない既存の機関本体をそのまま流用しつつ、機関始動後における機関抵抗の増大を抑制することができる。
【解決手段】始動用モータ40の回転力が伝達されるリングギヤ16とクランクシャフト2に連動して回転するアウターレース部材12との間にラチェット式のワンウェイクラッチ30を設け、リングギヤ16からクランクシャフト2への始動用モータ40による一方向の回転力を伝達する一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達を遮断する。また、リングギヤ16を回転可能に支持する支持部10dを有するスペーサ10が設けられている。また、スペーサ10は機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)とトランスミッションハウジングとの間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジングと共締めするためのボルトが挿通されるボルト孔が形成されている。
【解決手段】始動用モータ40の回転力が伝達されるリングギヤ16とクランクシャフト2に連動して回転するアウターレース部材12との間にラチェット式のワンウェイクラッチ30を設け、リングギヤ16からクランクシャフト2への始動用モータ40による一方向の回転力を伝達する一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達を遮断する。また、リングギヤ16を回転可能に支持する支持部10dを有するスペーサ10が設けられている。また、スペーサ10は機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)とトランスミッションハウジングとの間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジングと共締めするためのボルトが挿通されるボルト孔が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランク軸に連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチが設けられる内燃機関始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載の内燃機関始動装置では、始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランクシャフトに連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチが設けられている。そして、このワンウェイクラッチにより、リングギヤからクランクシャフトへの始動用モータによる一方向の回転力が伝達される一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達が遮断されるようにしている。
【0003】
特許文献1の第10図に示す装置では、クランク軸側部材として機能するアウターレース支持プレート(218)とリングギヤ(220)との間にボールベアリング(234)を設けることにより、リングギヤ(220)を回転可能に支持するようにしている。ここで、ボールベアリング(234)によって、クランクシャフト(4)と一体に回転するアウターレース支持プレート(218)の回転力がリングギヤ(220)側に伝達されないようにされてはいる。しかしながら、ボールベアリング(234)がアウターレース支持プレート(218)からの回転力を受ける構造であるため、機関始動後において機関抵抗を増大させる一因となっている。
【0004】
これに対して、特許文献1の第1図に示す装置では、シリンダブロック(2)のオイルシールハウジングを円筒状に加工することでベアリング嵌合部(16a)とし、この外周面にリングギヤ(10)を回転可能に支持するためのボールベアリング(14)のインナーレースが圧入されている。すなわち、ボールベアリング(14)は機関本体側に固定されており、アウターレース支持プレート(8)からの回転力を受けない構造となっている。このため、機関始動後における機関抵抗の増大が抑制されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007―32498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般にシリンダブロックは鋳造にて形成されている。そのため、先の第1図に示した装置にあっては、ボールベアリング(14)のインナーレースを圧入して組み付けるためには、オイルシールハウジングの外周面を所望の形状とするために切削等の加工処理が必要となる。従って、リングギヤ、クランク軸側部材、及びワンウェイクラッチを備えていない既存の機関本体をそのまま流用することができない。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リングギヤ、クランク軸側部材、及びワンウェイクラッチを備えていない既存の機関本体をそのまま流用しつつ、機関始動後における機関抵抗の増大を抑制することのできる内燃機関始動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランク軸に連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチを設け、リングギヤからクランク軸への始動用モータによる一方向の回転力を伝達する一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達を遮断する内燃機関始動装置であって、前記リングギヤを回転可能に支持する支持部を有するスペーサを備え、前記スペーサは機関本体とトランスミッションハウジングとの間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジングと共締めするためのボルトが挿通されるボルト孔が形成されてなることをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、組み付けに際しては、機関本体とトランスミッションハウジングとの間にスペーサを配置し、機関本体に対してトランスミッションハウジングを組み付けるためのボルトをスペーサのボルト孔に挿通することで機関本体に対してスペーサが固定される。すなわち、リングギヤを回転可能に支持する軸受を機関本体に対して直接圧入するといった工程や、軸受を支持する部材を機関本体に対して圧入するといった工程が不要となる。また、リングギヤを支持するスペーサが機関本体側に固定されており、クランク軸側部材からの回転力を受けない構造となるため、支持部或いは支持部に設けられてリングギヤを支持する軸受が機関始動後において機関抵抗となることはない。従って、リングギヤ、クランク軸側部材、及びワンウェイクラッチを備えていない既存の機関本体をそのまま流用しつつ、機関始動後における機関抵抗の増大を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関始動装置において、前記スペーサ、前記リングギヤ、前記ワンウェイクラッチ、及び前記クランク軸側部材が予め互いに組み付けられた状態で、機関本体に対して組み付け可能に構成されてなることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、組み付けに際しては、スペーサ、リングギヤ、ワンウェイクラッチ、及びクランク軸側部材を予め互いに組み付けて部分組付体とし、この部分組付体が機関本体に対して組み付けられる。従って、組み付けを容易なものとすることができる。
【0012】
請求項1又は請求項2に記載の発明は、請求項3に記載の発明によるように、前記スペーサは平板状をなすとともに前記ボルト孔及びクランク軸が挿通される挿通孔が形成されたプレート部を有してなり、前記支持部は円筒状をなすとともに前記挿通孔の縁部から延びてなるといった態様をもって具体化することができる。この場合、請求項1又は請求項2に記載のスペーサを容易に具現化することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関始動装置において、前記支持部は前記プレート部よりも剛性が高くされてなることをその要旨としている。
質量の大きいリングギヤを支持するべくスペーサの支持部には高い剛性が必要とされる。これに対して、プレート部を支持部と同様な高い剛性を有するものとすると、このことに起因してスペーサの重量増加や体積増大といった問題が生じる。この点、上記構成によれば、支持部はプレート部よりも剛性が高くされているため、支持部及びプレート部の剛性を適切に設定することができる。従って、上記問題の発生を抑制することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関始動装置において、前記プレート部と前記支持部とは互いに接合されてなることをその要旨としている。
同構成によれば、支持部及びプレート部がそれぞれ別体として形成され、これらが互いに接合されることでスペーサが形成される。このため、支持部の剛性をプレート部の剛性よりも高くすべく支持部及びプレート部の材料や肉厚を互いに適宜異ならせることが容易にできる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関始動装置において、前記プレート部と前記支持部とは鋳造にて一体形成されてなることをその要旨としている。
同構成によれば、プレート部と支持部とが鋳造にて一体形成されるため、例えば支持部の肉厚をプレートの肉厚よりも厚くすることで支持部の剛性を高くすることが容易にできる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の内燃機関始動装置において、前記ワンウェイクラッチはラチェット式のワンウェイクラッチであることをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、スプラグ式のワンウェイクラッチを備える構成とは異なり、機関始動後においてはワンウェイクラッチを構成する爪片がリングギヤのインナーレース部上を摺動することはない。このため、機関始動後においてリングギヤが機関抵抗となることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る内燃機関始動装置の一実施形態について、内燃機関の後部を中心とした断面構造を示す断面図。
【図2】同実施形態におけるスペーサについて、(a)正面構造を示す正面図、(b)(a)のA−A線に沿った断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態における機関本体、スペーサ、及びトランスミッションハウジングの概略構成を示す概略図。
【図4】同実施形態における内燃機関について、機関本体、部分組付体、及びフライホイールを互いに分解して示した分解断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図4を参照して、本発明に係る内燃機関始動装置を具体化した一実施形態について詳細に説明する。尚、本実施形態の内燃機関は複数のシリンダが直列配置された直列型内燃機関である。
【0020】
図1に本実施形態の内燃機関の後部を中心とした断面構造を示す。尚、図1においてシリンダに近接する側を「前側」と称し、トランスミッションに近接する側を「後側」と称する。また、鉛直方向上側を単に「上側」と称し、鉛直方向下側を単に「下側」と称する。
【0021】
図1に示すように、内燃機関1の後部には、シリンダブロック4とクランクベアリングキャップ6とによりジャーナル軸受部が構成され、このジャーナル軸受部によりクランクシャフト2のジャーナル2bが支持されている。クランクシャフト2の後端部2aはシリンダブロック4の後端よりも後方に突出している。
【0022】
シリンダブロック4の後端には半円環状をなす嵌合部4aが後方に突設されている。また、クランクベアリングキャップ6の下方にはオイルパン8が取り付けられており、このオイルパン8の後端には半円環状をなす嵌合部8aが後方に突設されている。
【0023】
上記嵌合部4a,8aの内周面とこれに対向するクランクシャフト2の大径部2cの外周面との間には、機関本体の内部からのオイルをシールするためのオイルシール24が設けられている。すなわち、上記嵌合部4a,8aはオイルシール24が取り付けられるオイルシールハウジングとして機能する。
【0024】
機関本体を構成するシリンダブロック4及びオイルパン8の後端には略円盤状のスペーサ10が固設されている。
ここで、図2を参照してスペーサ10の構造について詳細に説明する。
【0025】
図2(a),(b)に示すように、スペーサ10のプレート部10aは略円盤状をなすとともに中心に挿通孔10bが形成されており、この挿通孔10bの縁部には円筒状をなすとともに後方に延びる支持部10dが接続されている。プレート部10aの外縁部には複数のボルト孔10cが同一円周上に形成されている。これらボルト孔10cは、機関本体(シリンダブロック4及びオイルパン8)に対してトランスミッションハウジング50を組み付けるためにシリンダブロック4及びオイルパン8に形成された複数のボルト孔にそれぞれ対応している。また、プレート部10aに形成された凹部10e,10fは始動用モータ40等の構造体を逃がすために形成されている。
【0026】
本実施形態では、プレート部10aが鉄製とされており、支持部10dはステンレス鋼製とされている。また、これらプレート部10aと支持部10dとは互いに溶接にて接合されている。このことにより、支持部10dはプレート部10aよりも剛性が高くされている。
【0027】
図3に示すように、スペーサ10は機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)とトランスミッションハウジング50との間に配置されている。また、シリンダブロック4及びオイルパン8に対してスペーサ10とトランスミッションハウジング50とがボルト51により共締めされている。これらのボルト51が前述したスペーサ10のボルト孔10cに挿通される。
【0028】
先の図1に示すように、スペーサ10の支持部10dの外周面には、第1ブッシュ26が嵌挿されている。そして、この第1ブッシュ26によりリングギヤ16のインナーレース部16bが回転可能に支持されている。ここで、シリンダブロック4の嵌合部4aはスペーサ10の挿通孔10bの内部に位置しており、嵌合部4aの外周面と挿通孔10bの内周面との間には間隙が形成されている。
【0029】
リングギヤ16の外周面にはギヤ部16aが形成されており、このギヤ部16aには、始動用モータ40の出力軸に設けられたピニオンギアが常時噛み合わせられている。
クランクシャフト2の後端部2aには、略円盤状をなすとともにその中心部に孔が形成されたアウターレース部材12が固定されている。アウターレース部材12の外縁部には、略円筒状をなすとともに前方に延びるアウターレース部12bが形成されている。
【0030】
アウターレース部12bの内周面とインナーレース部16bの外周面との間には複数の爪片32及びばね(図示略)が周方向において等間隔にて設けられている。これらアウターレース部12b、インナーレース部16b、爪片32、ばね等によってラチェット式のワンウェイクラッチ30が構成されている。このワンウェイクラッチ30により、始動用モータ40からリングギヤ16を介してクランクシャフト2へ一方向の回転力が伝達される一方、クランクシャフト2からリングギヤ16への回転力の伝達が遮断される。
【0031】
クランクシャフト2においてアウターレース部材12の後方には、略円盤状をなすとともにその中心部に孔が形成されたフライホイール20が固定されている。クランクシャフト2、アウターレース部材12、及びフライホイール20は、これらに形成されたボルト孔2d及び貫通孔12a,20aにボルト22が挿通されることで互いに固定されている。
【0032】
次に、図4を参照して、本実施形態の内燃機関始動装置の組み付け方法について説明する。
まずは、図4において右側に示すように、シリンダブロック4、クランクベアリングキャップ6、オイルパン8、及びクランクシャフト2が互いに組み付けられた機関本体に対して、シリンダブロック4の嵌合部4aとクランクシャフト2の大径部2cとの間にオイルシール24を取り付ける。
【0033】
また、図4において中央に示すように、スペーサ10、リングギヤ16、第1ブッシュ26、爪片32、ばね、グリスシール34、第2ブッシュ28、及びアウターレース部材12を予め組み付けた部分組付体SAを準備しておく。ちなみに、本実施形態のワンウェイクラッチ30はグリス封入式のものである。
【0034】
次に、機関本体に対して後側から部分組付体SAを組み付け、更にその後側からフライホイール20を組み付ける。そして、クランクシャフト2のボルト孔2d、アウターレース部材12及びフライホイール20の各貫通孔12a、20aにボルト22を挿通してこれらを締結する。
【0035】
そして、内燃機関1に対してトランスミッションを組み付けた後に、これらの後側からトランスミッションハウジング50を組み付ける。
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0036】
トランスミッションハウジング50はボルト51により機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)に対して組み付けられる。ここで、スペーサ10は機関本体とトランスミッションハウジング50との間に配置され、ボルト孔10cに上記ボルト51が挿通されることにより、機関本体に対してトランスミッションハウジング50と共締めされて固定される。このスペーサ10の支持部10dによりリングギヤ16が回転可能に支持される。このため、前述した特許文献1の第1図に示したようにリングギヤを回転可能に支持するボールベアリングをシリンダブロックに対して直接圧入するといった工程や、リングギヤを回転可能に支持する軸受を支持する部材を機関本体に対して圧入するといった工程が不要となる。
【0037】
また、リングギヤ16を支持する支持部10d(スペーサ10)が機関本体側に固定されており、アウターレース部材12からの回転力を受けない構造となる。このため、第1ブッシュ26(支持部10d)が機関始動後において機関抵抗となることはない。
【0038】
また、ワンウェイクラッチ30の爪片32が機関始動後においてリングギヤ16のインナーレース部16b上を摺動しないように設計する上では、上記ラチェット式のワンウェイクラッチ30が好ましい。
【0039】
以上説明した本実施形態に係る内燃機関始動装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)始動用モータ40の回転力が伝達されるリングギヤ16とクランクシャフト2に連動して回転するアウターレース部材12との間にラチェット式のワンウェイクラッチ30が設けられており、リングギヤ16からクランクシャフト2への始動用モータ40による一方向の回転力が伝達される一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達が遮断される。また、リングギヤ16を回転可能に支持する支持部10dを有するスペーサ10が設けられている。また、スペーサ10は機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)とトランスミッションハウジング50との間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジング50と共締めするためのボルト51が挿通されるボルト孔10cが形成されている。具体的には、スペーサ10は平板状をなすとともにボルト孔10c及びクランクシャフト2が挿通される挿通孔10bが形成されたプレート部10aを有している。また、支持部10dは円筒状をなすとともに挿通孔10bの縁部から延びている。こうした構成によれば、リングギヤ16、アウターレース部材12、及びワンウェイクラッチ30を備えていない既存の機関本体をそのまま流用しつつ、機関始動後における機関抵抗の増大を抑制することができる。
【0040】
(2)スペーサ10、リングギヤ16、ワンウェイクラッチ30、及びアウターレース部材12等が予め互いに組み付けられた状態で、機関本体に対して組み付け可能に構成されている。こうした構成によれば、組み付けに際しては、スペーサ10、リングギヤ16、ワンウェイクラッチ30、及びアウターレース部材12を予め互いに組み付けて部分組付体SAとし、この部分組付体SAが機関本体に対して組み付けられる。従って、組み付けを容易なものとすることができる。
【0041】
(3)支持部10dはプレート部10aよりも剛性が高くされている。具体的には、鉄製のプレート部10aとステンレス鋼製の支持部10dとが互いに溶接にて接合されている。
【0042】
質量の大きいリングギヤ16を支持するべくスペーサ10の支持部10dには高い剛性が必要とされる。これに対して、プレート部を支持部と同様な高い剛性を有するものとすると、このことに起因してスペーサの重量増加や体積増大といった問題が生じる。この点、上記構成によれば、支持部10dはプレート部10aよりも剛性が高くされているため、支持部10d及びプレート部10aの剛性を適切に設定することができる。従って、上記問題の発生を抑制することができる。また、上記構成によれば、支持部10d及びプレート部10aがそれぞれ別体として形成され、これらが互いに接合されることでスペーサ10が形成される。このため、支持部10dの剛性をプレート部10aの剛性よりも高くすべく支持部10d及びプレート部10aの材料や肉厚を互いに適宜異ならせることが容易にできる。
【0043】
尚、本発明に係る内燃機関始動装置は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態では、スペーサ10の支持部10dの外周面に第1ブッシュ26を設け、第1ブッシュ26によりリングギヤ16のインナーレース部16bを回転可能に支持するようにした。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、支持部10dの外周面にボールベアリングを設け、このベアリングによりリングギヤが回転可能に支持されるものであってもよい。
【0044】
・上記実施形態では、スペーサ10のプレート部10aをステンレス綱とし、支持部10dを鉄製としたが、スペーサ10の材料はこれに限定されるものではない。他に例えば、スペーサ全体が同一の材料(例えばステンレス鋼)により構成されるとともに、支持部の肉厚をプレート部の肉厚よりも厚くすることによって支持部の剛性がプレート部の剛性よりも高くされるものとしてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、スペーサ10のプレート部10aと支持部10dとを各別に形成するとともにこれらを接合するようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スペーサを構成するプレート部と支持部とが鋳造にて一体形成されるものであってもよい。この場合、支持部の肉厚をプレートの肉厚よりも厚くすることで支持部の剛性を高くすることが容易にできる。ちなみに、スペーサの材料としてアルミニウム合金を採用するようにしてもよい。
【0046】
・上記実施形態及びその変形例によるように、支持部をプレート部よりも剛性の高いものとすることが、質量の大きいリングギヤを好適に支持しつつ、スペーサの重量増加や体積増加といった問題の発生を抑制する上では望ましい。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、支持部がプレート部と同等な剛性を有するものであってもよい。
【0047】
・上記実施形態によるように、スペーサ10、リングギヤ16、ワンウェイクラッチ30、及びアウターレース部材12等を予め組み付けて部分組付体SAとし、これを機関本体に対して組み付けるようにすることが、組み付けを容易なものとする上で望ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの部品を部分組付体SAにすることなく、各別に機関本体に対して組み付けるようにすることもできる。
【0048】
・上記実施形態によるように、グリス封入式のワンウェイクラッチ30とすることが、爪片32等の潤滑システムを簡易なものとする点で好ましい。しかしながら、ワンウェイクラッチはこれに限定されるものではなく、爪片等の潤滑が不要な構造にあっては潤滑剤を用いないもの、所謂ドライタイプのワンウェイクラッチとすることもできる。
【0049】
・上記実施形態によるように、ラチェット式のワンウェイクラッチ30を採用することが、ワンウェイクラッチ30の爪片32が機関始動後においてインナーレース部16b上を摺動しないように設計する上では好ましい。すなわち、リングギヤ16が機関抵抗となることを抑制する点において好ましい。しかしながら、本発明に係るワンウェイクラッチはこれに限定されるものではなく、スプラグ式のワンウェイクラッチを採用することもできる。この場合であっても、リングギヤを支持するスペーサが機関本体側に固定されるものとされ、クランク軸側部材からの回転力を受けない構造となるため、支持部或いは支持部に設けられてリングギヤを支持する軸受が機関始動後において機関抵抗となることはない。
【符号の説明】
【0050】
1…内燃機関、2…クランクシャフト(クランク軸)、2a…後端部、2b…ジャーナル、2c…大径部、2d…ボルト孔、4…シリンダブロック、4a…嵌合部、6…クランクベアリングキャップ、8…オイルパン、8a…嵌合部、10…スペーサ、10a…プレート部、10b…挿通孔、10c…ボルト孔、10d…支持部、12…アウターレース部材(クランク軸側部材)、12a…貫通孔、12b…アウターレース、16…リングギヤ、16a…ギヤ部、16b…インナーレース部、20…フライホイール、20a…貫通孔、22…ボルト、24…オイルシール、26…第1ブッシュ、28…第2ブッシュ、30…ワンウェイクラッチ、32…爪片、34…グリスシール、40…始動用モータ、50…トランスミッションハウジング、51…ボルト、SA…部分組付体、C…中心軸線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランク軸に連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチが設けられる内燃機関始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載の内燃機関始動装置では、始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランクシャフトに連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチが設けられている。そして、このワンウェイクラッチにより、リングギヤからクランクシャフトへの始動用モータによる一方向の回転力が伝達される一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達が遮断されるようにしている。
【0003】
特許文献1の第10図に示す装置では、クランク軸側部材として機能するアウターレース支持プレート(218)とリングギヤ(220)との間にボールベアリング(234)を設けることにより、リングギヤ(220)を回転可能に支持するようにしている。ここで、ボールベアリング(234)によって、クランクシャフト(4)と一体に回転するアウターレース支持プレート(218)の回転力がリングギヤ(220)側に伝達されないようにされてはいる。しかしながら、ボールベアリング(234)がアウターレース支持プレート(218)からの回転力を受ける構造であるため、機関始動後において機関抵抗を増大させる一因となっている。
【0004】
これに対して、特許文献1の第1図に示す装置では、シリンダブロック(2)のオイルシールハウジングを円筒状に加工することでベアリング嵌合部(16a)とし、この外周面にリングギヤ(10)を回転可能に支持するためのボールベアリング(14)のインナーレースが圧入されている。すなわち、ボールベアリング(14)は機関本体側に固定されており、アウターレース支持プレート(8)からの回転力を受けない構造となっている。このため、機関始動後における機関抵抗の増大が抑制されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007―32498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般にシリンダブロックは鋳造にて形成されている。そのため、先の第1図に示した装置にあっては、ボールベアリング(14)のインナーレースを圧入して組み付けるためには、オイルシールハウジングの外周面を所望の形状とするために切削等の加工処理が必要となる。従って、リングギヤ、クランク軸側部材、及びワンウェイクラッチを備えていない既存の機関本体をそのまま流用することができない。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リングギヤ、クランク軸側部材、及びワンウェイクラッチを備えていない既存の機関本体をそのまま流用しつつ、機関始動後における機関抵抗の増大を抑制することのできる内燃機関始動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランク軸に連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチを設け、リングギヤからクランク軸への始動用モータによる一方向の回転力を伝達する一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達を遮断する内燃機関始動装置であって、前記リングギヤを回転可能に支持する支持部を有するスペーサを備え、前記スペーサは機関本体とトランスミッションハウジングとの間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジングと共締めするためのボルトが挿通されるボルト孔が形成されてなることをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、組み付けに際しては、機関本体とトランスミッションハウジングとの間にスペーサを配置し、機関本体に対してトランスミッションハウジングを組み付けるためのボルトをスペーサのボルト孔に挿通することで機関本体に対してスペーサが固定される。すなわち、リングギヤを回転可能に支持する軸受を機関本体に対して直接圧入するといった工程や、軸受を支持する部材を機関本体に対して圧入するといった工程が不要となる。また、リングギヤを支持するスペーサが機関本体側に固定されており、クランク軸側部材からの回転力を受けない構造となるため、支持部或いは支持部に設けられてリングギヤを支持する軸受が機関始動後において機関抵抗となることはない。従って、リングギヤ、クランク軸側部材、及びワンウェイクラッチを備えていない既存の機関本体をそのまま流用しつつ、機関始動後における機関抵抗の増大を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関始動装置において、前記スペーサ、前記リングギヤ、前記ワンウェイクラッチ、及び前記クランク軸側部材が予め互いに組み付けられた状態で、機関本体に対して組み付け可能に構成されてなることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、組み付けに際しては、スペーサ、リングギヤ、ワンウェイクラッチ、及びクランク軸側部材を予め互いに組み付けて部分組付体とし、この部分組付体が機関本体に対して組み付けられる。従って、組み付けを容易なものとすることができる。
【0012】
請求項1又は請求項2に記載の発明は、請求項3に記載の発明によるように、前記スペーサは平板状をなすとともに前記ボルト孔及びクランク軸が挿通される挿通孔が形成されたプレート部を有してなり、前記支持部は円筒状をなすとともに前記挿通孔の縁部から延びてなるといった態様をもって具体化することができる。この場合、請求項1又は請求項2に記載のスペーサを容易に具現化することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関始動装置において、前記支持部は前記プレート部よりも剛性が高くされてなることをその要旨としている。
質量の大きいリングギヤを支持するべくスペーサの支持部には高い剛性が必要とされる。これに対して、プレート部を支持部と同様な高い剛性を有するものとすると、このことに起因してスペーサの重量増加や体積増大といった問題が生じる。この点、上記構成によれば、支持部はプレート部よりも剛性が高くされているため、支持部及びプレート部の剛性を適切に設定することができる。従って、上記問題の発生を抑制することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関始動装置において、前記プレート部と前記支持部とは互いに接合されてなることをその要旨としている。
同構成によれば、支持部及びプレート部がそれぞれ別体として形成され、これらが互いに接合されることでスペーサが形成される。このため、支持部の剛性をプレート部の剛性よりも高くすべく支持部及びプレート部の材料や肉厚を互いに適宜異ならせることが容易にできる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関始動装置において、前記プレート部と前記支持部とは鋳造にて一体形成されてなることをその要旨としている。
同構成によれば、プレート部と支持部とが鋳造にて一体形成されるため、例えば支持部の肉厚をプレートの肉厚よりも厚くすることで支持部の剛性を高くすることが容易にできる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の内燃機関始動装置において、前記ワンウェイクラッチはラチェット式のワンウェイクラッチであることをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、スプラグ式のワンウェイクラッチを備える構成とは異なり、機関始動後においてはワンウェイクラッチを構成する爪片がリングギヤのインナーレース部上を摺動することはない。このため、機関始動後においてリングギヤが機関抵抗となることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る内燃機関始動装置の一実施形態について、内燃機関の後部を中心とした断面構造を示す断面図。
【図2】同実施形態におけるスペーサについて、(a)正面構造を示す正面図、(b)(a)のA−A線に沿った断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態における機関本体、スペーサ、及びトランスミッションハウジングの概略構成を示す概略図。
【図4】同実施形態における内燃機関について、機関本体、部分組付体、及びフライホイールを互いに分解して示した分解断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図4を参照して、本発明に係る内燃機関始動装置を具体化した一実施形態について詳細に説明する。尚、本実施形態の内燃機関は複数のシリンダが直列配置された直列型内燃機関である。
【0020】
図1に本実施形態の内燃機関の後部を中心とした断面構造を示す。尚、図1においてシリンダに近接する側を「前側」と称し、トランスミッションに近接する側を「後側」と称する。また、鉛直方向上側を単に「上側」と称し、鉛直方向下側を単に「下側」と称する。
【0021】
図1に示すように、内燃機関1の後部には、シリンダブロック4とクランクベアリングキャップ6とによりジャーナル軸受部が構成され、このジャーナル軸受部によりクランクシャフト2のジャーナル2bが支持されている。クランクシャフト2の後端部2aはシリンダブロック4の後端よりも後方に突出している。
【0022】
シリンダブロック4の後端には半円環状をなす嵌合部4aが後方に突設されている。また、クランクベアリングキャップ6の下方にはオイルパン8が取り付けられており、このオイルパン8の後端には半円環状をなす嵌合部8aが後方に突設されている。
【0023】
上記嵌合部4a,8aの内周面とこれに対向するクランクシャフト2の大径部2cの外周面との間には、機関本体の内部からのオイルをシールするためのオイルシール24が設けられている。すなわち、上記嵌合部4a,8aはオイルシール24が取り付けられるオイルシールハウジングとして機能する。
【0024】
機関本体を構成するシリンダブロック4及びオイルパン8の後端には略円盤状のスペーサ10が固設されている。
ここで、図2を参照してスペーサ10の構造について詳細に説明する。
【0025】
図2(a),(b)に示すように、スペーサ10のプレート部10aは略円盤状をなすとともに中心に挿通孔10bが形成されており、この挿通孔10bの縁部には円筒状をなすとともに後方に延びる支持部10dが接続されている。プレート部10aの外縁部には複数のボルト孔10cが同一円周上に形成されている。これらボルト孔10cは、機関本体(シリンダブロック4及びオイルパン8)に対してトランスミッションハウジング50を組み付けるためにシリンダブロック4及びオイルパン8に形成された複数のボルト孔にそれぞれ対応している。また、プレート部10aに形成された凹部10e,10fは始動用モータ40等の構造体を逃がすために形成されている。
【0026】
本実施形態では、プレート部10aが鉄製とされており、支持部10dはステンレス鋼製とされている。また、これらプレート部10aと支持部10dとは互いに溶接にて接合されている。このことにより、支持部10dはプレート部10aよりも剛性が高くされている。
【0027】
図3に示すように、スペーサ10は機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)とトランスミッションハウジング50との間に配置されている。また、シリンダブロック4及びオイルパン8に対してスペーサ10とトランスミッションハウジング50とがボルト51により共締めされている。これらのボルト51が前述したスペーサ10のボルト孔10cに挿通される。
【0028】
先の図1に示すように、スペーサ10の支持部10dの外周面には、第1ブッシュ26が嵌挿されている。そして、この第1ブッシュ26によりリングギヤ16のインナーレース部16bが回転可能に支持されている。ここで、シリンダブロック4の嵌合部4aはスペーサ10の挿通孔10bの内部に位置しており、嵌合部4aの外周面と挿通孔10bの内周面との間には間隙が形成されている。
【0029】
リングギヤ16の外周面にはギヤ部16aが形成されており、このギヤ部16aには、始動用モータ40の出力軸に設けられたピニオンギアが常時噛み合わせられている。
クランクシャフト2の後端部2aには、略円盤状をなすとともにその中心部に孔が形成されたアウターレース部材12が固定されている。アウターレース部材12の外縁部には、略円筒状をなすとともに前方に延びるアウターレース部12bが形成されている。
【0030】
アウターレース部12bの内周面とインナーレース部16bの外周面との間には複数の爪片32及びばね(図示略)が周方向において等間隔にて設けられている。これらアウターレース部12b、インナーレース部16b、爪片32、ばね等によってラチェット式のワンウェイクラッチ30が構成されている。このワンウェイクラッチ30により、始動用モータ40からリングギヤ16を介してクランクシャフト2へ一方向の回転力が伝達される一方、クランクシャフト2からリングギヤ16への回転力の伝達が遮断される。
【0031】
クランクシャフト2においてアウターレース部材12の後方には、略円盤状をなすとともにその中心部に孔が形成されたフライホイール20が固定されている。クランクシャフト2、アウターレース部材12、及びフライホイール20は、これらに形成されたボルト孔2d及び貫通孔12a,20aにボルト22が挿通されることで互いに固定されている。
【0032】
次に、図4を参照して、本実施形態の内燃機関始動装置の組み付け方法について説明する。
まずは、図4において右側に示すように、シリンダブロック4、クランクベアリングキャップ6、オイルパン8、及びクランクシャフト2が互いに組み付けられた機関本体に対して、シリンダブロック4の嵌合部4aとクランクシャフト2の大径部2cとの間にオイルシール24を取り付ける。
【0033】
また、図4において中央に示すように、スペーサ10、リングギヤ16、第1ブッシュ26、爪片32、ばね、グリスシール34、第2ブッシュ28、及びアウターレース部材12を予め組み付けた部分組付体SAを準備しておく。ちなみに、本実施形態のワンウェイクラッチ30はグリス封入式のものである。
【0034】
次に、機関本体に対して後側から部分組付体SAを組み付け、更にその後側からフライホイール20を組み付ける。そして、クランクシャフト2のボルト孔2d、アウターレース部材12及びフライホイール20の各貫通孔12a、20aにボルト22を挿通してこれらを締結する。
【0035】
そして、内燃機関1に対してトランスミッションを組み付けた後に、これらの後側からトランスミッションハウジング50を組み付ける。
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0036】
トランスミッションハウジング50はボルト51により機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)に対して組み付けられる。ここで、スペーサ10は機関本体とトランスミッションハウジング50との間に配置され、ボルト孔10cに上記ボルト51が挿通されることにより、機関本体に対してトランスミッションハウジング50と共締めされて固定される。このスペーサ10の支持部10dによりリングギヤ16が回転可能に支持される。このため、前述した特許文献1の第1図に示したようにリングギヤを回転可能に支持するボールベアリングをシリンダブロックに対して直接圧入するといった工程や、リングギヤを回転可能に支持する軸受を支持する部材を機関本体に対して圧入するといった工程が不要となる。
【0037】
また、リングギヤ16を支持する支持部10d(スペーサ10)が機関本体側に固定されており、アウターレース部材12からの回転力を受けない構造となる。このため、第1ブッシュ26(支持部10d)が機関始動後において機関抵抗となることはない。
【0038】
また、ワンウェイクラッチ30の爪片32が機関始動後においてリングギヤ16のインナーレース部16b上を摺動しないように設計する上では、上記ラチェット式のワンウェイクラッチ30が好ましい。
【0039】
以上説明した本実施形態に係る内燃機関始動装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)始動用モータ40の回転力が伝達されるリングギヤ16とクランクシャフト2に連動して回転するアウターレース部材12との間にラチェット式のワンウェイクラッチ30が設けられており、リングギヤ16からクランクシャフト2への始動用モータ40による一方向の回転力が伝達される一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達が遮断される。また、リングギヤ16を回転可能に支持する支持部10dを有するスペーサ10が設けられている。また、スペーサ10は機関本体(シリンダブロック4、オイルパン8)とトランスミッションハウジング50との間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジング50と共締めするためのボルト51が挿通されるボルト孔10cが形成されている。具体的には、スペーサ10は平板状をなすとともにボルト孔10c及びクランクシャフト2が挿通される挿通孔10bが形成されたプレート部10aを有している。また、支持部10dは円筒状をなすとともに挿通孔10bの縁部から延びている。こうした構成によれば、リングギヤ16、アウターレース部材12、及びワンウェイクラッチ30を備えていない既存の機関本体をそのまま流用しつつ、機関始動後における機関抵抗の増大を抑制することができる。
【0040】
(2)スペーサ10、リングギヤ16、ワンウェイクラッチ30、及びアウターレース部材12等が予め互いに組み付けられた状態で、機関本体に対して組み付け可能に構成されている。こうした構成によれば、組み付けに際しては、スペーサ10、リングギヤ16、ワンウェイクラッチ30、及びアウターレース部材12を予め互いに組み付けて部分組付体SAとし、この部分組付体SAが機関本体に対して組み付けられる。従って、組み付けを容易なものとすることができる。
【0041】
(3)支持部10dはプレート部10aよりも剛性が高くされている。具体的には、鉄製のプレート部10aとステンレス鋼製の支持部10dとが互いに溶接にて接合されている。
【0042】
質量の大きいリングギヤ16を支持するべくスペーサ10の支持部10dには高い剛性が必要とされる。これに対して、プレート部を支持部と同様な高い剛性を有するものとすると、このことに起因してスペーサの重量増加や体積増大といった問題が生じる。この点、上記構成によれば、支持部10dはプレート部10aよりも剛性が高くされているため、支持部10d及びプレート部10aの剛性を適切に設定することができる。従って、上記問題の発生を抑制することができる。また、上記構成によれば、支持部10d及びプレート部10aがそれぞれ別体として形成され、これらが互いに接合されることでスペーサ10が形成される。このため、支持部10dの剛性をプレート部10aの剛性よりも高くすべく支持部10d及びプレート部10aの材料や肉厚を互いに適宜異ならせることが容易にできる。
【0043】
尚、本発明に係る内燃機関始動装置は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態では、スペーサ10の支持部10dの外周面に第1ブッシュ26を設け、第1ブッシュ26によりリングギヤ16のインナーレース部16bを回転可能に支持するようにした。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、支持部10dの外周面にボールベアリングを設け、このベアリングによりリングギヤが回転可能に支持されるものであってもよい。
【0044】
・上記実施形態では、スペーサ10のプレート部10aをステンレス綱とし、支持部10dを鉄製としたが、スペーサ10の材料はこれに限定されるものではない。他に例えば、スペーサ全体が同一の材料(例えばステンレス鋼)により構成されるとともに、支持部の肉厚をプレート部の肉厚よりも厚くすることによって支持部の剛性がプレート部の剛性よりも高くされるものとしてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、スペーサ10のプレート部10aと支持部10dとを各別に形成するとともにこれらを接合するようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スペーサを構成するプレート部と支持部とが鋳造にて一体形成されるものであってもよい。この場合、支持部の肉厚をプレートの肉厚よりも厚くすることで支持部の剛性を高くすることが容易にできる。ちなみに、スペーサの材料としてアルミニウム合金を採用するようにしてもよい。
【0046】
・上記実施形態及びその変形例によるように、支持部をプレート部よりも剛性の高いものとすることが、質量の大きいリングギヤを好適に支持しつつ、スペーサの重量増加や体積増加といった問題の発生を抑制する上では望ましい。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、支持部がプレート部と同等な剛性を有するものであってもよい。
【0047】
・上記実施形態によるように、スペーサ10、リングギヤ16、ワンウェイクラッチ30、及びアウターレース部材12等を予め組み付けて部分組付体SAとし、これを機関本体に対して組み付けるようにすることが、組み付けを容易なものとする上で望ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの部品を部分組付体SAにすることなく、各別に機関本体に対して組み付けるようにすることもできる。
【0048】
・上記実施形態によるように、グリス封入式のワンウェイクラッチ30とすることが、爪片32等の潤滑システムを簡易なものとする点で好ましい。しかしながら、ワンウェイクラッチはこれに限定されるものではなく、爪片等の潤滑が不要な構造にあっては潤滑剤を用いないもの、所謂ドライタイプのワンウェイクラッチとすることもできる。
【0049】
・上記実施形態によるように、ラチェット式のワンウェイクラッチ30を採用することが、ワンウェイクラッチ30の爪片32が機関始動後においてインナーレース部16b上を摺動しないように設計する上では好ましい。すなわち、リングギヤ16が機関抵抗となることを抑制する点において好ましい。しかしながら、本発明に係るワンウェイクラッチはこれに限定されるものではなく、スプラグ式のワンウェイクラッチを採用することもできる。この場合であっても、リングギヤを支持するスペーサが機関本体側に固定されるものとされ、クランク軸側部材からの回転力を受けない構造となるため、支持部或いは支持部に設けられてリングギヤを支持する軸受が機関始動後において機関抵抗となることはない。
【符号の説明】
【0050】
1…内燃機関、2…クランクシャフト(クランク軸)、2a…後端部、2b…ジャーナル、2c…大径部、2d…ボルト孔、4…シリンダブロック、4a…嵌合部、6…クランクベアリングキャップ、8…オイルパン、8a…嵌合部、10…スペーサ、10a…プレート部、10b…挿通孔、10c…ボルト孔、10d…支持部、12…アウターレース部材(クランク軸側部材)、12a…貫通孔、12b…アウターレース、16…リングギヤ、16a…ギヤ部、16b…インナーレース部、20…フライホイール、20a…貫通孔、22…ボルト、24…オイルシール、26…第1ブッシュ、28…第2ブッシュ、30…ワンウェイクラッチ、32…爪片、34…グリスシール、40…始動用モータ、50…トランスミッションハウジング、51…ボルト、SA…部分組付体、C…中心軸線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランク軸に連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチを設け、リングギヤからクランク軸への始動用モータによる一方向の回転力を伝達する一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達を遮断する内燃機関始動装置であって、
前記リングギヤを回転可能に支持する支持部を有するスペーサを備え、
前記スペーサは機関本体とトランスミッションハウジングとの間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジングと共締めするためのボルトが挿通されるボルト孔が形成されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関始動装置において、
前記スペーサ、前記リングギヤ、前記ワンウェイクラッチ、及び前記クランク軸側部材が予め互いに組み付けられた状態で、機関本体に対して組み付け可能に構成されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関始動装置において、
前記スペーサは平板状をなすとともに前記ボルト孔及びクランク軸が挿通される挿通孔が形成されたプレート部を有してなり、
前記支持部は円筒状をなすとともに前記挿通孔の縁部から延びてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関始動装置において、
前記支持部は前記プレート部よりも剛性が高くされてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関始動装置において、
前記プレート部と前記支持部とは互いに接合されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項6】
請求項4に記載の内燃機関始動装置において、
前記プレート部と前記支持部とは鋳造にて一体形成されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の内燃機関始動装置において、
前記ワンウェイクラッチはラチェット式のワンウェイクラッチである
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項1】
始動用モータの回転力が伝達されるリングギヤとクランク軸に連動して回転するクランク軸側部材との間にワンウェイクラッチを設け、リングギヤからクランク軸への始動用モータによる一方向の回転力を伝達する一方、該一方向とは逆方向の回転力の伝達を遮断する内燃機関始動装置であって、
前記リングギヤを回転可能に支持する支持部を有するスペーサを備え、
前記スペーサは機関本体とトランスミッションハウジングとの間に設けられるとともに機関本体に対してトランスミッションハウジングと共締めするためのボルトが挿通されるボルト孔が形成されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関始動装置において、
前記スペーサ、前記リングギヤ、前記ワンウェイクラッチ、及び前記クランク軸側部材が予め互いに組み付けられた状態で、機関本体に対して組み付け可能に構成されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関始動装置において、
前記スペーサは平板状をなすとともに前記ボルト孔及びクランク軸が挿通される挿通孔が形成されたプレート部を有してなり、
前記支持部は円筒状をなすとともに前記挿通孔の縁部から延びてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関始動装置において、
前記支持部は前記プレート部よりも剛性が高くされてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関始動装置において、
前記プレート部と前記支持部とは互いに接合されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項6】
請求項4に記載の内燃機関始動装置において、
前記プレート部と前記支持部とは鋳造にて一体形成されてなる
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の内燃機関始動装置において、
前記ワンウェイクラッチはラチェット式のワンウェイクラッチである
ことを特徴とする内燃機関始動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−219773(P2012−219773A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89169(P2011−89169)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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