内燃機関用ピストン及び内燃機関
【課題】内燃機関のシリンダ内周面とピストン外周面との間において、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善すること。
【解決手段】ピストン2のオイルリング溝22内にはフロント側及びリヤ側にオイル戻し孔28,30,32,34,36,38が開口しスラスト側及び反スラスト側には開口していない。このためスラスト側及び反スラスト側で高圧化されたオイルはオイルリング溝22内に入ってオイル戻し孔28〜38があるフロント側及びリヤ側へ迅速に流れる。このためオイルが不足している位相にオイルを十分に供給することができ、課題とするオイル循環を改善することができる。全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じるので、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【解決手段】ピストン2のオイルリング溝22内にはフロント側及びリヤ側にオイル戻し孔28,30,32,34,36,38が開口しスラスト側及び反スラスト側には開口していない。このためスラスト側及び反スラスト側で高圧化されたオイルはオイルリング溝22内に入ってオイル戻し孔28〜38があるフロント側及びリヤ側へ迅速に流れる。このためオイルが不足している位相にオイルを十分に供給することができ、課題とするオイル循環を改善することができる。全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じるので、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達する内燃機関用ピストン及びこのピストンを用いた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用ピストンには外周面に周方向に複数のリング溝が形成され、このリング溝内にはピストンリングがそれぞれ配置されている。これらのピストンリングのうちでオイルリングは、シリンダ内周面の余分なオイル分をかき集めて、シリンダ内周面とピストン外周面との間の油膜を適切な厚さに調節するためのものである。
【0003】
オイルリングにてかき集められたオイルは、オイルリングが配置されているオイルリング溝内を周方向に流れ、このことにより周方向でオイルが不足する位相位置にオイルを供給している。そして最終的にオイルリング溝内に開口しているオイル戻し孔を介してピストン内部に排出される。
【0004】
シリンダ内周面とピストン外周面との間の油膜では、スラスト側(シリンダ内周面の周方向の領域について燃焼行程でピストンが押し付けられる側)及び反スラスト側(前記スラスト側とは180°位相が異なる側)においては大きく圧力が変動する。したがってこのスラスト側及び反スラスト側では、オイル量の集中と分散とが繰り返し生じてオイル循環は良好となる。しかし、これらの中間位相位置(例えば直交する内燃機関のフロント側及びリヤ側)では油膜の圧力変動が少なく、オイルの集中と分散とが生じにくいことからオイル循環が困難となる傾向にある。したがってシリンダ内周面とピストン外周面との間のフリクションが十分に低減できなくなるおそれがある。
【0005】
オイル量の集中と分散とが繰り返し生じているスラスト側及び反スラスト側から、中間位相位置にオイルがオイルリング溝内を流れることが期待されるが、従来では前記オイル戻し孔がオイルリング溝内のスラスト側及び反スラスト側に開口している。このため、スラスト側及び反スラスト側にてほとんどのオイルが排出されることになり、スラスト側及び反スラスト側から中間位相位置へのオイル循環は十分に行われていない。
【0006】
オイル上がりを防止するために、オイルリング溝内に全周に渡って満遍なくオイル戻し孔を配置しているピストンが提案されている(例えば特許文献1参照)。又、同様な目的で、ピストンの内部空間に貫通していないオイル孔を、オイルリング溝内に、スラスト側及び反スラスト側とは45°の位相位置に形成したり、これに更にスラスト側及び反スラスト側にも内部空間に貫通していないオイル孔を設けたピストンが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭56−27341号全文公報(第3〜4頁、図2)
【特許文献2】実開平01−71157号全文公報(第5〜6頁、図2〜6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の構成では、オイルリング溝内から過剰なオイルを排出するには効果的であるが、オイルリング溝の各位相位置にて、直ちにオイルがピストンの内部空間へ排出されるため、オイルリング溝内でのオイルの循環は悪化する。したがってシリンダ内周面とピストン外周面との間におけるスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環は改善されない。
【0009】
特許文献2の構成では、オイルリングによる過剰なオイルの掻き上げ掻きおろし時のオイル上りを防止するには効果的であるが、オイルリング溝内でのオイルの循環は改善されず、シリンダ内周面とピストン外周面との間におけるスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環の改善にはならない。
【0010】
本発明は、内燃機関のシリンダ内周面とピストン外周面との間において、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載の内燃機関用ピストンは、内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口すると共に、このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していることを特徴とする。
【0012】
シリンダ内周面とピストン外周面との間へのオイル供給、例えばオイルジェットによるオイル噴射の場合は、通常、摩擦力が大きくなる部分であるスラスト側に供給されている。更にオイルジェットによらなくても、コンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げ効果を利用する場合にもオイルの飛散方向は主としてスラスト側及び反スラスト側となる。
【0013】
更に前述したごとくシリンダ内周面とピストン外周面との間の油膜は、スラスト側及び反スラスト側において大きく圧力が変動するので、オイル量の集中と分散とが繰り返し生じて、やはりオイル循環はスラスト側及び反スラスト側では十分なものとなる。
【0014】
その反面、スラスト側及び反スラスト側の中間位相位置では十分にオイルが供給されずにシリンダ内周面とピストン外周面との間のオイルが不足するおそれがある。
本発明では、スラスト側及び反スラスト側との中間位相位置において、オイルリング溝にはオイル戻し孔が開口している。したがってこの中間位相位置では、オイルリング溝はピストン内部空間と連通しており、常に低圧状態となっている。
【0015】
スラスト側及び反スラスト側においては前述したごとくオイルが大量に供給されると共に大きな圧力変動が生じていることから、スラスト側及び反スラスト側で油膜の圧力が上昇した場合に、オイルは、スラスト側及び反スラスト側でオイルリング溝内に入った後に、オイル戻し孔がある前記中間位相位置へ向かって流れることになる。
【0016】
このようにオイルは、オイルリング溝内を、スラスト側及び反スラスト側からその中間位相位置へと流れた後に、オイル戻し孔の開口に到達し、オイル戻し孔によりピストン内部空間へ排出されることになる。このようにオイルがオイルリング溝内を流れる間にオイルが不足する位相においてはオイルリング溝内からシリンダ内周面とピストン外周面との間へオイルを十分に供給できる。
【0017】
このようにしてシリンダ内周面とピストン外周面との間で、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することができる。
請求項2に記載の内燃機関用ピストンでは、請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して略直交して配列する2個所の位相位置であることを特徴とする。
【0018】
特にオイル戻し孔が開口する中間位相位置は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して略直交して配列する2個所の位相位置とすることにより、オイルリング溝内全体での良好なオイル循環を実現できる。このことによりシリンダ内周面とピストン外周面との間でスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0019】
請求項3に記載の内燃機関用ピストンでは、請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、内燃機関のフロント側及びリヤ側の位相位置であることを特徴とする。
【0020】
特にオイル戻し孔が開口する中間位相位置は、内燃機関のフロント側及びリヤ側の位相位置とすることができる。このことによりオイルリング溝内全体での良好なオイル循環を実現でき、このことによりシリンダ内周面とピストン外周面との間でスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0021】
請求項4に記載の内燃機関用ピストンでは、請求項2又は3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記オイル戻し孔は、前記中間位相位置に、複数が集合状態に近接して配置されていることを特徴とする。
【0022】
このような状態にオイル戻し孔を複数集合状態で配置しても良い。このことにより、オイルリング溝内で、より円滑にオイル循環ができることから、シリンダ内周面とピストン外周面との間においてもスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0023】
請求項5に記載の内燃機関は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関であって、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間にオイルを供給するオイル供給部を備え、このオイル供給部は、前記コンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げとオイルジェット部からのオイル噴射とのいずれか一方又は両方により、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間に対して、主として前記スラスト側及び反スラスト側の位相位置にオイルを供給するものであることを特徴とする。
【0024】
前述した請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関に付いては、上述のごとくオイル供給部を設けることができる。このようにオイル供給部が、主としてスラスト側及び反スラスト側の位相位置にオイルを供給するものであっても、前述したピストン構成により、オイルリング溝内で円滑にオイル循環ができる。この循環により、シリンダ内周面とピストン外周面との間においてもスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0025】
そしてこのようなオイル循環により、シリンダ内周面とピストン外周面との間の全周にオイルが十分に行き渡り、内燃機関のフリクション低減を効果的なものにできる。
請求項6に記載の内燃機関では、請求項5に記載の内燃機関において、前記内燃機関用ピストンは、前記オイルリング溝にピストン内部空間に貫通するオイル供給孔が開口すると共に、このオイル供給孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側と反スラスト側との一方又は両方の位相位置で前記オイルリング溝に開口し、スラスト側と反スラスト側との中間位相位置では前記オイルリング溝には開口しないものであり、前記オイルジェット部は、前記ピストン内部空間側に存在する前記オイル供給孔の開口に向けてオイル噴射するものであることを特徴とする。
【0026】
尚、オイル戻し孔とは別にオイル供給孔を上述のごとく設けても良い。このオイル供給孔を介して、オイルジェット部からのオイル噴射によりオイルがオイルリング溝内に押し込まれて、摩擦が大きいスラスト側及び反スラスト側にオイルが供給されることになる。このオイルは、更に前述したごとくオイルリング溝内をオイル戻し孔が存在する中間位相位置へ向かって循環する。この循環により、スラスト側及び反スラスト側の中間位相位置におけるシリンダ内周面とピストン外周面との間にもオイルが十分に行き渡り、内燃機関のフリクション低減を効果的なものにできる。
【0027】
請求項7に記載の内燃機関用ピストンでは、内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口し、このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していると共に、前記オイルリング溝の下面にはこの下面の外縁に接続する溝が、スラスト側及び反スラスト側の位相位置に形成されていることを特徴とする。
【0028】
この内燃機関用ピストンには、上述したオイル戻し孔が形成されていると共に、オイルリング溝の下面には、下面の外縁に接続する溝がスラスト側及び反スラスト側の位相位置に形成されている。
【0029】
前述したごとくシリンダ内周面とピストン外周面との間へのオイル供給は主としてスラスト側及び反スラスト側になされると共に、スラスト側及び反スラスト側では大きく圧力が変動するのでオイル循環はスラスト側及び反スラスト側では十分なものとなる。
【0030】
そしてオイル戻し孔の存在により、前述したごとくスラスト側及び反スラスト側からその中間位相位置へのオイルの流れが促進されて、全位相にオイルを十分に供給できる。
更にスラスト側及び反スラスト側において、オイルリング溝の下面には上述した溝が形成されている。このため、オイルリング溝の下面にオイルリングが接触した場合でも、この下面の外縁にてピストン外周面に開口する溝を介することで、シリンダ内周面とピストン外周面との間からオイルリング溝内へのオイル導入が促進される。
【0031】
このようにスラスト側及び反スラスト側でのオイルリング溝内へのオイル導入量が促進されることで、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を更に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態1の内燃機関用ピストンの正面図。
【図2】実施の形態1の内燃機関用ピストンの部分破断左側面図。
【図3】図1におけるB−B線断面図。
【図4】実施の形態1の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関におけるクランク角の変化に対応するスラスト側でのシリンダ内周面とピストン外周面との間の油圧変化を示すグラフ。
【図5】(a)〜(c)図4に対応したピストンの首振り状態を示す説明図。
【図6】実施の形態1の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関においてオイルリング溝内のフロント側及びリヤ側のオイル入れ替わり状態を示すグラフ。
【図7】実施の形態2の内燃機関用ピストンの正面図。
【図8】実施の形態2の内燃機関用ピストンの部分破断左側面図。
【図9】図7におけるD−D線断面図。
【図10】実施の形態3の内燃機関用ピストンの正面図。
【図11】実施の形態3の内燃機関用ピストンの部分破断左側面図。
【図12】図10におけるF−F線断面図。
【図13】他の実施の形態における内燃機関用ピストンの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[実施の形態1]
図1は、上述した発明が適用された内燃機関用ピストン(以下、ピストンと称する)2の正面図を表す。図2はピストン2の部分破断左側面図である。図2に一点鎖線にて示す中心線より右側に示している破断図は図1のA−A線での破断状態を示している。図3は図1のB−B線断面図であり、内燃機関に組み込んだ状態を破線にて示している。
【0034】
ピストン2は、金属材料により略円筒状に一体に形成されている。このピストン2は、内燃機関のシリンダブロック4に形成されたシリンダ4a内に配置されて、シリンダブロック4及びシリンダヘッドと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッド5を介してクランクシャフトに回転力として伝達するものである。
【0035】
燃焼室内の燃焼圧力を受けるピストン2の上部には、肉厚の円盤状の冠部2aが形成されている。この冠部2aの下部には、冠部2aに一体に、シリンダ内周面4bに摺接する一対のスカート部6,8と、エプロン部10,12とが形成されている。この一対のスカート部6,8は、ピストン2の中心軸回りに180°離れた位相位置にて対向して形成されている。これらスカート部6,8の位相位置に対して、一対のエプロン部10,12は、中間位置すなわち90°位相が異なる位置に対向して配置されている。
【0036】
エプロン部10,12には、そのほぼ中央ではあるが、わずかにオフセット(図1では左側に偏心)を設けてピンボス14,16が形成されている。このピンボス14,16には、ピストンピン17の両端部を回転自在に支持するための一対のピン孔14a,16aが形成されている。
【0037】
冠部2aは、外周面において周方向全周に渡って、上方部分にトップリング溝18が、中間部分にセカンドリング溝20が、そして下方部分にオイルリング溝22が、それぞれランド部24,26を間にして形成されている。
【0038】
トップリング溝18はトップリング18a(図5)が配置され、セカンドリング溝20はセカンドリング20a(図5)が配置される。これらリング18a,20aの配置により、シリンダ内周面4b内にピストン2を配置した場合、内燃機関駆動時にシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間から燃焼室の燃焼ガスが吹き抜けるのを防止している。
【0039】
オイルリング溝22はオイルリング22a(図5)が配置され、シリンダ内周面4bの内周面に付着したオイルが燃焼室側に流入するのを阻止し、オイルが燃焼されて消費されるのを防止している。
【0040】
このオイルリング溝22には、ピンボス14,16の位相位置に対応する位置に、それぞれ3つ、合計6つのオイル戻し孔28,30,32,34,36,38がエプロン部10,12を外部から内部に貫通した状態で形成されている。
【0041】
ピストンピン17を支持するピンボス14,16は、ピストン2において、内燃機関においてそのクランク軸と平行な方向、すなわち図3に示したごとくフロント側及びリヤ側の位相位置に配置されている。すなわち各3つのオイル戻し孔28〜32,34〜38は、それぞれ複数(ここでは3つ)が集合状態に近接してフロント側及びリヤ側の位相位置に配置されている。この位相位置にて、オイルリング溝22内とピストン2の内部空間2bとが連絡されている。
【0042】
これらのオイル戻し孔28〜32,34〜38は径方向に直線状に形成されている。したがってオイルリング溝22内においてオイル戻し孔28〜32,34〜38が開口する位相位置は、図3に示したごとく、スラスト側と反スラスト側との中間位相位置となっている。すなわちオイルリング溝22内におけるオイル戻し孔28〜32,34〜38の開口は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して、略直交して配列する位相位置となっている。ここでスラスト側とは、燃焼行程にて燃焼室から受ける燃焼圧によりピストン2がシリンダ内周面4bに押し付けられる位相側である。反スラスト側とは、スラスト側とは反対側(180°離れた位相)である。
【0043】
このピストン2が内燃機関のシリンダ内に配置された場合には、内燃機関駆動時に、シリンダブロック、あるいはクランクシャフトとコンロッド5に設けられたオイルジェット部J1により、ピストン2の下方側から、スラスト側におけるシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間にオイルが噴射される。
【0044】
更にピストンピン17とクランクシャフトとを接続しているコンロッド5は、クランクシャフトとの接続部分が回転することにより、この接続部分周辺のオイルをピストン2の下方側から掻き上げる。この掻き上げではコンロッド5とクランクシャフトとの接続部分の回転面は、スラスト側と反スラスト側とに広がる面であることから、掻き上げによるオイルの飛散量は、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に対して、スラスト側と反スラスト側とに偏ることになる。
【0045】
したがって、スラスト側の潤滑を目的とするオイルジェット部J1によるオイル供給量はスラスト側に偏り、コンロッド5とクランクシャフトとの接続部分によるオイルの掻き上げによるオイル供給量は、スラスト側と反スラスト側とに偏る。このことからフロント側及びリヤ側へのオイル供給量は少ない。
【0046】
このようなシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に対するオイル供給量の偏り状態において、ピストン2は、シリンダ内周面4bに対してスラスト側及び反スラスト側での圧力変動を生じる。図4はクランク角CA(°)変化に対応するスラスト側でのシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間の油圧(kPa)変化を示すグラフである。図5は図4のグラフにおける各クランク角(a)〜(c)でのピストン2の首振り状態を、同一符号(a)〜(c)で示す説明図である。尚、図5は理解し易くするためにデフォルメして示している。
【0047】
図5の(a)は燃焼行程の上死点直後の状態であり、上述したオイル噴射や、オイル掻き上げによりオイルが供給されているシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に存在する油膜は、オイルリング22aにより掻き落とされつつある。
【0048】
このときに、ピストン2は、その首振りによるシリンダ内周面4bのスラスト側への圧縮力は大きく生じておらず、スラスト側にある油膜油圧は、わずかに正圧となっている状態である。
【0049】
図5の(b)はピストン2の首振りにより燃焼圧にてピストン2はシリンダ内周面4bのスラスト側への圧縮力を急激に高めており、スラスト側の油膜油圧は高圧となっている。
【0050】
図5の(c)はピストン2の首振りによりピストン2はシリンダ内周面4bのスラスト側から急速に離れつつあり、スラスト側の油膜油圧は大きく負圧側に移動している。尚、反スラスト側の油膜油圧については、スラスト側オイルとは、ほぼ逆の油圧変動を生じる。
【0051】
このような正圧から負圧に至る大きな油圧変動が、スラスト側の油膜と反スラスト側の油膜とに生じている。この油圧変動において、油膜を掻き落としているオイルリング22aが配置されているオイルリング溝22内のオイルは、スラスト側及び反スラスト側の油膜油圧の影響を受けて、正圧と負圧との間の大きな振幅で油圧が変動する。
【0052】
オイルリング溝22には、フロント側及びリヤ側に、それぞれ3つのオイル戻し孔28〜32,34〜38が開口し、ピストン2の内部空間2bにオイルリング溝22内のオイルを排出可能としている。しかもオイルリング溝22のスラスト側及び反スラスト側にはオイル戻し孔の開口は存在しない。すなわちスラスト側及び反スラスト側から油圧を逃がすような孔は存在しない。
【0053】
このためスラスト側が正圧にて高圧化した図5の(b)の状態では、スラスト側にて、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に存在するオイルがオイルリング溝22内に流れ込む。そしてオイルリング溝22内を、スラスト側から、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔28〜32,34〜38に向けて、図3に実線矢印にて示すごとく、急速にオイルが流れる。
【0054】
同様に反スラスト側が正圧にて高圧化した図5の(c)に相当する状態では、反スラスト側から、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔28〜32,34〜38に向けて、オイルリング溝22内を図3に破線矢印にて示すごとく、急速にオイルが流れる。
【0055】
したがって、オイル噴射やオイル掻き上げにより、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に供給されるオイルが、スラスト側及び反スラスト側に偏っていて、フロント側及びリヤ側が少なくても、ピストン2の移動時に、オイルリング溝22により、迅速にオイルがスラスト側及び反スラスト側から、フロント側及びリヤ側へ循環される。このオイルリング溝22内を循環するオイルがシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に供給されることにより、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間においても全周に渡って良好なオイル循環及び潤滑が行われる。
【0056】
図6は、スラスト側及び反スラスト側からフロント側及びリヤ側へのオイルの循環程度を、本実施の形態と従来例1,2とを比較して示すグラフである。この図6のグラフは、オイルリング溝22内におけるフロント側及びリヤ側のオイルの入れ替わり時間を、オイルリング溝内にスラスト側及び反スラスト側のみにオイル戻し孔の開口が配置されている従来例1を基準にして、時間比で表したものである。
【0057】
図6において、(X)は本実施の形態におけるピストン2、(Y)はオイルリング溝内にスラスト側及び反スラスト側のみにオイル戻し孔の開口が配置されている従来例1のピストン、(Z)はオイルリング溝内に全周に満遍なくオイル戻し孔の開口が配置されている従来例2のピストンに対する測定結果である。
【0058】
(X)に示す本実施の形態では、短時間にオイルの入れ替わりがあり、(Y)の従来例1に比較して約70%も入れ替わり時間が短縮され、(Z)の従来例2に比較しても50%以上、入れ替わり時間が短縮されている。すなわち本実施の形態では、従来例1に比較して循環性は3.3倍となり、従来例2に比較しても循環性は2.2倍となっている。このように本実施の形態のオイル戻し孔28〜38の配置構成では、スラスト側及び反スラスト側から、その中間位相位置(フロント側及びリヤ側)へオイル循環が良好になされていることを示している。
【0059】
(Y)の従来例1に示すように、スラスト側及び反スラスト側のみにオイル戻し孔の開口が配置されている場合には、スラスト側及び反スラスト側にて多量に存在するオイルが直ちにピストン内部空間に排出されてしまうので、中間位相位置でのオイル入れ替わりに長時間を要し、オイル循環は非常に悪い。
【0060】
(Z)の従来例2に示す全周に満遍なくオイル戻し孔の開口が配置されている場合も、(Y)の従来例1ほどではないが、オイル循環は十分ではない。
以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果が得られる。
【0061】
(1)オイル供給部(オイルジェット部J1やコンロッド5とクランクシャフトとの接続部分)からのオイルジェットやオイル飛散によるオイル供給方向は、通常、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に対してはスラスト側及び反スラスト側となっている。更にこのスラスト側及び反スラスト側では、前述したごとくシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間の油膜は大きく圧力が変動するので、オイル量の集中と分散とが繰り返し生じてオイル循環量は十分なものとなっている。
【0062】
このためシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間では、特にスラスト側及び反スラスト側の位相位置でオイルは多くても、スラスト側及び反スラスト側との中間位相位置(具体的にはフロント側及びリヤ側)では十分にオイルが供給されずにオイルが不足するおそれがある。
【0063】
しかし本実施の形態のピストン2では、オイルリング溝22内においてフロント側及びリヤ側にオイル戻し孔28〜32,34〜38が開口している。したがって前述したごとくスラスト側及び反スラスト側で油膜圧力が上昇した場合には、オイルは、スラスト側及び反スラスト側でオイルリング溝22内に入る。その後に、オイルは、オイルリング溝22内を、オイル戻し孔28〜32,34〜38があるフロント側及びリヤ側へ流れる。そしてオイル戻し孔28〜32,34〜38に到達すると、オイルリング溝22内からピストン2の内部空間へ排出される。
【0064】
このようにオイルリング溝22内を、オイルが、スラスト側及び反スラスト側の位相位置から、その中間位相位置へ円滑に流される。そしてこのようにオイルが流れることにより、オイルが不足している位相では、オイルリング溝22からシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間へオイルを供給することができる。
【0065】
このことによりシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間において、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することができる。
このようなオイル循環がなされることにより、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間の全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じ、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【0066】
(2)オイル戻し孔28〜32,34〜38は、フロント側及びリヤ側の位相位置に、それぞれ複数が集合状態に近接して配置されている。このように、各位相位置にオイル戻し孔28〜32,34〜38を複数配置することにより、オイルリング溝22内で、より円滑にオイル循環ができ、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間においても、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0067】
[実施の形態2]
本実施の形態のピストン102を、図7の正面図、図8の部分破断左側面図に示す。図8の破断部分は図7のC−C線での破断状態を示している。図9は図7のD−D線断面図であり、内燃機関に組み込んだ状態を破線にて示している。
【0068】
本実施の形態のピストン102は、オイルリング溝122において、そのスラスト側にオイル供給孔150が開口している。このオイル供給孔150はピストン102の内部空間102bに貫通している。
【0069】
オイルジェット部J2は、ピストン102の内部空間102b側からオイル供給孔150にオイル噴射する。このことによりオイルを内部空間102b側の開口からオイルリング溝122側の開口へ向けてオイル供給孔150内に押し込んでいる。このようにしてオイルリング溝122内にはオイル供給孔150を介してピストン102の内部空間側からオイルが供給される。
【0070】
尚、前記実施の形態1の場合と同様に、コンロッド105とクランクシャフトとの接続部分によるオイル掻き上げによるシリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間へのオイル供給も実行されている。更に前記実施の形態1のオイルジェット部のようにシリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間へのオイル噴射する構成も加えても良い。
【0071】
これ以外の構成については前記実施の形態1と同じである。すなわち、ピンボス114,116が配置されている位相位置にて、それぞれ3つずつが集合して合計6つのオイル戻し孔128,130,132,134,136,138が、エプロン部110,112を外部から内部に貫通した状態で形成されている。そしてこれらオイル戻し孔128〜132,134〜138は、ピストン外周面102c側ではフロント側及びリヤ側の位相位置でオイルリング溝122に開口している。
【0072】
シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間へのオイル供給については、前述したごとくオイルジェット部J2はオイル供給孔150によりスラスト側に供給する。そしてコンロッド105とクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げについてはスラスト側と反スラスト側とにオイルを多く供給する。したがってフロント側及びリヤ側ではオイル供給量は少なくなる。
【0073】
このようなオイル供給量の偏り状態において、前記実施の形態1に述べたごとくピストン102の運動により、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間の油膜には、スラスト側及び反スラスト側にて前記図4に示したごとく正圧から負圧に至る大きな油圧変動を生じる。
【0074】
このようなスラスト側の油膜と反スラスト側の油膜とに生じている油圧変動において、オイルリング溝122内のオイルについても、スラスト側及び反スラスト側において正圧と負圧との間で大きな振幅で油圧が変動する。
【0075】
オイルリング溝122には、フロント側及びリヤ側に、それぞれ3つのオイル戻し孔128〜132,134〜138が形成され、オイルリング溝122内のオイルをピストン102の内部空間102bに排出可能となっている。しかもオイルリング溝122のスラスト側及び反スラスト側にはオイル戻し孔は存在しない。スラスト側にはオイル供給孔150が配置されているが、ここへはオイルジェット部J2からオイルが押し込まれることから、スラスト側及び反スラスト側には油圧を低下させるような貫通孔は存在しない。
【0076】
このためスラスト側の油膜が正圧にて高圧化した状態では、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔128〜132,134〜138に向けて、オイルリング溝122内をスラスト側から急速にオイルが流れる。同様に反スラスト側が正圧にて高圧化した状態では、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔128〜132,134〜138に向けて、オイルリング溝122内を反スラスト側から急速にオイルが流れる。
【0077】
したがって、オイル噴射やオイル掻き上げにより供給されるオイルが、スラスト側及び反スラスト側に偏っていて、フロント側及びリヤ側が少なくても、ピストン102の移動時に、オイルリング溝122内を、オイルがスラスト側及び反スラスト側から、フロント側及びリヤ側に迅速に供給される。このことによりオイルは全周に循環してシリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間を全位相に渡って十分なオイルを供給できる。
【0078】
以上説明した本実施の形態2によれば、以下の効果が得られる。
(1)オイルリング溝122のスラスト側に貫通孔であるオイル供給孔150が開口していても、上述したごとくオイル供給孔150からはピストン102の内部空間側へオイルが排出されることはない。このため、オイルリング溝122により、オイルがスラスト側からフロント側及びリヤ側へ迅速に供給され、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間に供給される。
【0079】
反スラスト側については前記実施の形態1と同様に、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間のオイルがオイルリング溝122を介して反スラスト側から、フロント側及びリヤ側へ供給される。
【0080】
したがって前記実施の形態1と同様に、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間において、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することができる。
【0081】
このことにより、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間の全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じ、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【0082】
[実施の形態3]
本実施の形態のピストン202を、図10の正面図、図11の部分破断左側面図に示す。図11の破断部分は図10のE−E線での破断状態を示している。図12は図10のF−F線断面図であり、内燃機関に組み込んだ状態を破線にて示している。
【0083】
本実施の形態のピストン202は、オイルリング溝222の下面222aにおいて、そのスラスト側及び反スラスト側には、それぞれ4本の溝222b,222cを形成している。この下面222aに設けられた溝222b,222cは、オイルリング溝222の径方向に形成されており、リング状の下面222aを横切っている。このことにより溝222b,222cの一端は下面222aの外縁222dに接続している。
【0084】
オイル戻し孔228,230は、前記実施の形態1と同様にスラスト側と反スラスト側との中間位相位置に形成されている。本実施の形態では、それぞれ4本のオイル戻し孔228,230が形成されている。他の構成は前記実施の形態1と同じである。
【0085】
シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間へのオイル供給については、前記実施の形態1と同様である。すなわち、オイルジェット部J3によりスラスト側にオイル供給がなされ、コンロッド205とクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げによりスラスト側と反スラスト側とにオイル供給がなされる。したがってフロント側及びリヤ側ではオイル供給量は少ない。
【0086】
このようなオイル供給量の偏り状態において、前記実施の形態1に述べたごとくピストン202の運動により、シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間の油膜には、スラスト側及び反スラスト側にて前記図4に示したごとく正圧から負圧に至る大きな油圧変動を生じる。
【0087】
オイルリング溝222の下面222aに形成されている溝222b,222cは、下面222aの外縁222dに接続している。このため図11に破線で示すごとくオイルリングRoが下面222aに接触している場合でも、溝222b,222cの一端側はピストン外周面202cに開口している。
【0088】
この開口位置はスラスト側及び反スラスト側であることから、上述したごとくスラスト側の油膜と反スラスト側の油膜とに油圧変動が生じると、シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間のオイルは、ピストン外周面202cに開口している溝222b,222cの一端からオイルリング溝222内に容易に流れ込む。このことによりオイルリング溝222内へのオイル導入量が増加する。
【0089】
前記実施の形態1にて述べたごとくスラスト側及び反スラスト側には油圧を低下させるような貫通孔は存在しない。このため下面222aの溝222b,222cからオイルリング溝222内、特にオイルリングのバッククリアランスに導入されたオイルは、スラスト側から、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔228,230に向けて、オイルリング溝222内を急速に流れる。同様に反スラスト側の高圧化したオイルにつても、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔228,230に向けて、オイルリング溝222内を急速に流れる。
【0090】
したがって、オイル噴射やオイル掻き上げにより供給されるオイルがスラスト側及び反スラスト側に偏り、フロント側及びリヤ側では少なくても、ピストン202の移動時に、オイルリング溝222内をスラスト側及び反スラスト側からフロント側及びリヤ側に迅速にオイルが供給される。
【0091】
このことにより多量のオイルが全周に循環してシリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間に対して全位相に渡って十分なオイル供給が可能となる。
以上説明した本実施の形態3によれば、以下の効果が得られる。
【0092】
(1)前記実施の形態1の効果を生じる。更にオイルリング溝222の下面222aに設けた溝222b,222cにより、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へ、より多くのオイル循環を実現することができる。
【0093】
このことにより、シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間の全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じ、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【0094】
[その他の実施の形態]
・前記各実施の形態では、オイル供給部として、オイルジェット部を備えていたが、このようなオイルジェット部によらなくても、オイル供給部としてはコンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げ効果のみを利用するものであっても良い。
【0095】
・前記実施の形態2においては、オイル供給孔はスラスト側に形成され、このオイル供給孔に対してオイルジェット部からオイルが噴射されていた。更に図13に示すピストン302のごとく、オイルリング溝322に、スラスト側に開口するオイル供給孔350と共に、反スラスト側に開口するオイル供給孔352を形成しても良い。この場合には、それぞれピストン302の内部空間302b側から、オイルジェット部J4,J5により、オイル供給孔350,352にオイルを噴射して、オイルリング溝322のスラスト側と反スラスト側とにそれぞれオイルを押し込む。この場合も前記実施の形態2にて説明したごとくの効果を生じさせることができる。
【符号の説明】
【0096】
2…ピストン、2a…冠部、2b…内部空間、2c…ピストン外周面、4…シリンダブロック、4a…シリンダ、4b…シリンダ内周面、5…コンロッド、6,8…スカート部、10,12…エプロン部、14,16…ピンボス、14a,16a…ピン孔、17…ピストンピン、18…トップリング溝、18a…トップリング、20…セカンドリング溝、20a…セカンドリング、22…オイルリング溝、22a…オイルリング、24,26…ランド部、28,30,32,34,36,38…オイル戻し孔、102…ピストン、102b…内部空間、102c…ピストン外周面、104b…シリンダ内周面、105…コンロッド、110,112…エプロン部、114,116…ピンボス、122…オイルリング溝、128,130,132,134,136,138…オイル戻し孔、150…オイル供給孔、202…ピストン、202c…ピストン外周面、204b…シリンダ内周面、205…コンロッド、222…オイルリング溝、222a…下面、222b,222c…溝、222d…外縁、228,230…オイル戻し孔、302…ピストン、302b…内部空間、322…オイルリング溝、350,352…オイル供給孔、J1,J2,J3,J4,J5…オイルジェット部、Ro…オイルリング。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達する内燃機関用ピストン及びこのピストンを用いた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用ピストンには外周面に周方向に複数のリング溝が形成され、このリング溝内にはピストンリングがそれぞれ配置されている。これらのピストンリングのうちでオイルリングは、シリンダ内周面の余分なオイル分をかき集めて、シリンダ内周面とピストン外周面との間の油膜を適切な厚さに調節するためのものである。
【0003】
オイルリングにてかき集められたオイルは、オイルリングが配置されているオイルリング溝内を周方向に流れ、このことにより周方向でオイルが不足する位相位置にオイルを供給している。そして最終的にオイルリング溝内に開口しているオイル戻し孔を介してピストン内部に排出される。
【0004】
シリンダ内周面とピストン外周面との間の油膜では、スラスト側(シリンダ内周面の周方向の領域について燃焼行程でピストンが押し付けられる側)及び反スラスト側(前記スラスト側とは180°位相が異なる側)においては大きく圧力が変動する。したがってこのスラスト側及び反スラスト側では、オイル量の集中と分散とが繰り返し生じてオイル循環は良好となる。しかし、これらの中間位相位置(例えば直交する内燃機関のフロント側及びリヤ側)では油膜の圧力変動が少なく、オイルの集中と分散とが生じにくいことからオイル循環が困難となる傾向にある。したがってシリンダ内周面とピストン外周面との間のフリクションが十分に低減できなくなるおそれがある。
【0005】
オイル量の集中と分散とが繰り返し生じているスラスト側及び反スラスト側から、中間位相位置にオイルがオイルリング溝内を流れることが期待されるが、従来では前記オイル戻し孔がオイルリング溝内のスラスト側及び反スラスト側に開口している。このため、スラスト側及び反スラスト側にてほとんどのオイルが排出されることになり、スラスト側及び反スラスト側から中間位相位置へのオイル循環は十分に行われていない。
【0006】
オイル上がりを防止するために、オイルリング溝内に全周に渡って満遍なくオイル戻し孔を配置しているピストンが提案されている(例えば特許文献1参照)。又、同様な目的で、ピストンの内部空間に貫通していないオイル孔を、オイルリング溝内に、スラスト側及び反スラスト側とは45°の位相位置に形成したり、これに更にスラスト側及び反スラスト側にも内部空間に貫通していないオイル孔を設けたピストンが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭56−27341号全文公報(第3〜4頁、図2)
【特許文献2】実開平01−71157号全文公報(第5〜6頁、図2〜6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の構成では、オイルリング溝内から過剰なオイルを排出するには効果的であるが、オイルリング溝の各位相位置にて、直ちにオイルがピストンの内部空間へ排出されるため、オイルリング溝内でのオイルの循環は悪化する。したがってシリンダ内周面とピストン外周面との間におけるスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環は改善されない。
【0009】
特許文献2の構成では、オイルリングによる過剰なオイルの掻き上げ掻きおろし時のオイル上りを防止するには効果的であるが、オイルリング溝内でのオイルの循環は改善されず、シリンダ内周面とピストン外周面との間におけるスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環の改善にはならない。
【0010】
本発明は、内燃機関のシリンダ内周面とピストン外周面との間において、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載の内燃機関用ピストンは、内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口すると共に、このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していることを特徴とする。
【0012】
シリンダ内周面とピストン外周面との間へのオイル供給、例えばオイルジェットによるオイル噴射の場合は、通常、摩擦力が大きくなる部分であるスラスト側に供給されている。更にオイルジェットによらなくても、コンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げ効果を利用する場合にもオイルの飛散方向は主としてスラスト側及び反スラスト側となる。
【0013】
更に前述したごとくシリンダ内周面とピストン外周面との間の油膜は、スラスト側及び反スラスト側において大きく圧力が変動するので、オイル量の集中と分散とが繰り返し生じて、やはりオイル循環はスラスト側及び反スラスト側では十分なものとなる。
【0014】
その反面、スラスト側及び反スラスト側の中間位相位置では十分にオイルが供給されずにシリンダ内周面とピストン外周面との間のオイルが不足するおそれがある。
本発明では、スラスト側及び反スラスト側との中間位相位置において、オイルリング溝にはオイル戻し孔が開口している。したがってこの中間位相位置では、オイルリング溝はピストン内部空間と連通しており、常に低圧状態となっている。
【0015】
スラスト側及び反スラスト側においては前述したごとくオイルが大量に供給されると共に大きな圧力変動が生じていることから、スラスト側及び反スラスト側で油膜の圧力が上昇した場合に、オイルは、スラスト側及び反スラスト側でオイルリング溝内に入った後に、オイル戻し孔がある前記中間位相位置へ向かって流れることになる。
【0016】
このようにオイルは、オイルリング溝内を、スラスト側及び反スラスト側からその中間位相位置へと流れた後に、オイル戻し孔の開口に到達し、オイル戻し孔によりピストン内部空間へ排出されることになる。このようにオイルがオイルリング溝内を流れる間にオイルが不足する位相においてはオイルリング溝内からシリンダ内周面とピストン外周面との間へオイルを十分に供給できる。
【0017】
このようにしてシリンダ内周面とピストン外周面との間で、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することができる。
請求項2に記載の内燃機関用ピストンでは、請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して略直交して配列する2個所の位相位置であることを特徴とする。
【0018】
特にオイル戻し孔が開口する中間位相位置は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して略直交して配列する2個所の位相位置とすることにより、オイルリング溝内全体での良好なオイル循環を実現できる。このことによりシリンダ内周面とピストン外周面との間でスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0019】
請求項3に記載の内燃機関用ピストンでは、請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、内燃機関のフロント側及びリヤ側の位相位置であることを特徴とする。
【0020】
特にオイル戻し孔が開口する中間位相位置は、内燃機関のフロント側及びリヤ側の位相位置とすることができる。このことによりオイルリング溝内全体での良好なオイル循環を実現でき、このことによりシリンダ内周面とピストン外周面との間でスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0021】
請求項4に記載の内燃機関用ピストンでは、請求項2又は3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記オイル戻し孔は、前記中間位相位置に、複数が集合状態に近接して配置されていることを特徴とする。
【0022】
このような状態にオイル戻し孔を複数集合状態で配置しても良い。このことにより、オイルリング溝内で、より円滑にオイル循環ができることから、シリンダ内周面とピストン外周面との間においてもスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0023】
請求項5に記載の内燃機関は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関であって、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間にオイルを供給するオイル供給部を備え、このオイル供給部は、前記コンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げとオイルジェット部からのオイル噴射とのいずれか一方又は両方により、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間に対して、主として前記スラスト側及び反スラスト側の位相位置にオイルを供給するものであることを特徴とする。
【0024】
前述した請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関に付いては、上述のごとくオイル供給部を設けることができる。このようにオイル供給部が、主としてスラスト側及び反スラスト側の位相位置にオイルを供給するものであっても、前述したピストン構成により、オイルリング溝内で円滑にオイル循環ができる。この循環により、シリンダ内周面とピストン外周面との間においてもスラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0025】
そしてこのようなオイル循環により、シリンダ内周面とピストン外周面との間の全周にオイルが十分に行き渡り、内燃機関のフリクション低減を効果的なものにできる。
請求項6に記載の内燃機関では、請求項5に記載の内燃機関において、前記内燃機関用ピストンは、前記オイルリング溝にピストン内部空間に貫通するオイル供給孔が開口すると共に、このオイル供給孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側と反スラスト側との一方又は両方の位相位置で前記オイルリング溝に開口し、スラスト側と反スラスト側との中間位相位置では前記オイルリング溝には開口しないものであり、前記オイルジェット部は、前記ピストン内部空間側に存在する前記オイル供給孔の開口に向けてオイル噴射するものであることを特徴とする。
【0026】
尚、オイル戻し孔とは別にオイル供給孔を上述のごとく設けても良い。このオイル供給孔を介して、オイルジェット部からのオイル噴射によりオイルがオイルリング溝内に押し込まれて、摩擦が大きいスラスト側及び反スラスト側にオイルが供給されることになる。このオイルは、更に前述したごとくオイルリング溝内をオイル戻し孔が存在する中間位相位置へ向かって循環する。この循環により、スラスト側及び反スラスト側の中間位相位置におけるシリンダ内周面とピストン外周面との間にもオイルが十分に行き渡り、内燃機関のフリクション低減を効果的なものにできる。
【0027】
請求項7に記載の内燃機関用ピストンでは、内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口し、このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していると共に、前記オイルリング溝の下面にはこの下面の外縁に接続する溝が、スラスト側及び反スラスト側の位相位置に形成されていることを特徴とする。
【0028】
この内燃機関用ピストンには、上述したオイル戻し孔が形成されていると共に、オイルリング溝の下面には、下面の外縁に接続する溝がスラスト側及び反スラスト側の位相位置に形成されている。
【0029】
前述したごとくシリンダ内周面とピストン外周面との間へのオイル供給は主としてスラスト側及び反スラスト側になされると共に、スラスト側及び反スラスト側では大きく圧力が変動するのでオイル循環はスラスト側及び反スラスト側では十分なものとなる。
【0030】
そしてオイル戻し孔の存在により、前述したごとくスラスト側及び反スラスト側からその中間位相位置へのオイルの流れが促進されて、全位相にオイルを十分に供給できる。
更にスラスト側及び反スラスト側において、オイルリング溝の下面には上述した溝が形成されている。このため、オイルリング溝の下面にオイルリングが接触した場合でも、この下面の外縁にてピストン外周面に開口する溝を介することで、シリンダ内周面とピストン外周面との間からオイルリング溝内へのオイル導入が促進される。
【0031】
このようにスラスト側及び反スラスト側でのオイルリング溝内へのオイル導入量が促進されることで、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を更に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態1の内燃機関用ピストンの正面図。
【図2】実施の形態1の内燃機関用ピストンの部分破断左側面図。
【図3】図1におけるB−B線断面図。
【図4】実施の形態1の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関におけるクランク角の変化に対応するスラスト側でのシリンダ内周面とピストン外周面との間の油圧変化を示すグラフ。
【図5】(a)〜(c)図4に対応したピストンの首振り状態を示す説明図。
【図6】実施の形態1の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関においてオイルリング溝内のフロント側及びリヤ側のオイル入れ替わり状態を示すグラフ。
【図7】実施の形態2の内燃機関用ピストンの正面図。
【図8】実施の形態2の内燃機関用ピストンの部分破断左側面図。
【図9】図7におけるD−D線断面図。
【図10】実施の形態3の内燃機関用ピストンの正面図。
【図11】実施の形態3の内燃機関用ピストンの部分破断左側面図。
【図12】図10におけるF−F線断面図。
【図13】他の実施の形態における内燃機関用ピストンの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[実施の形態1]
図1は、上述した発明が適用された内燃機関用ピストン(以下、ピストンと称する)2の正面図を表す。図2はピストン2の部分破断左側面図である。図2に一点鎖線にて示す中心線より右側に示している破断図は図1のA−A線での破断状態を示している。図3は図1のB−B線断面図であり、内燃機関に組み込んだ状態を破線にて示している。
【0034】
ピストン2は、金属材料により略円筒状に一体に形成されている。このピストン2は、内燃機関のシリンダブロック4に形成されたシリンダ4a内に配置されて、シリンダブロック4及びシリンダヘッドと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッド5を介してクランクシャフトに回転力として伝達するものである。
【0035】
燃焼室内の燃焼圧力を受けるピストン2の上部には、肉厚の円盤状の冠部2aが形成されている。この冠部2aの下部には、冠部2aに一体に、シリンダ内周面4bに摺接する一対のスカート部6,8と、エプロン部10,12とが形成されている。この一対のスカート部6,8は、ピストン2の中心軸回りに180°離れた位相位置にて対向して形成されている。これらスカート部6,8の位相位置に対して、一対のエプロン部10,12は、中間位置すなわち90°位相が異なる位置に対向して配置されている。
【0036】
エプロン部10,12には、そのほぼ中央ではあるが、わずかにオフセット(図1では左側に偏心)を設けてピンボス14,16が形成されている。このピンボス14,16には、ピストンピン17の両端部を回転自在に支持するための一対のピン孔14a,16aが形成されている。
【0037】
冠部2aは、外周面において周方向全周に渡って、上方部分にトップリング溝18が、中間部分にセカンドリング溝20が、そして下方部分にオイルリング溝22が、それぞれランド部24,26を間にして形成されている。
【0038】
トップリング溝18はトップリング18a(図5)が配置され、セカンドリング溝20はセカンドリング20a(図5)が配置される。これらリング18a,20aの配置により、シリンダ内周面4b内にピストン2を配置した場合、内燃機関駆動時にシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間から燃焼室の燃焼ガスが吹き抜けるのを防止している。
【0039】
オイルリング溝22はオイルリング22a(図5)が配置され、シリンダ内周面4bの内周面に付着したオイルが燃焼室側に流入するのを阻止し、オイルが燃焼されて消費されるのを防止している。
【0040】
このオイルリング溝22には、ピンボス14,16の位相位置に対応する位置に、それぞれ3つ、合計6つのオイル戻し孔28,30,32,34,36,38がエプロン部10,12を外部から内部に貫通した状態で形成されている。
【0041】
ピストンピン17を支持するピンボス14,16は、ピストン2において、内燃機関においてそのクランク軸と平行な方向、すなわち図3に示したごとくフロント側及びリヤ側の位相位置に配置されている。すなわち各3つのオイル戻し孔28〜32,34〜38は、それぞれ複数(ここでは3つ)が集合状態に近接してフロント側及びリヤ側の位相位置に配置されている。この位相位置にて、オイルリング溝22内とピストン2の内部空間2bとが連絡されている。
【0042】
これらのオイル戻し孔28〜32,34〜38は径方向に直線状に形成されている。したがってオイルリング溝22内においてオイル戻し孔28〜32,34〜38が開口する位相位置は、図3に示したごとく、スラスト側と反スラスト側との中間位相位置となっている。すなわちオイルリング溝22内におけるオイル戻し孔28〜32,34〜38の開口は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して、略直交して配列する位相位置となっている。ここでスラスト側とは、燃焼行程にて燃焼室から受ける燃焼圧によりピストン2がシリンダ内周面4bに押し付けられる位相側である。反スラスト側とは、スラスト側とは反対側(180°離れた位相)である。
【0043】
このピストン2が内燃機関のシリンダ内に配置された場合には、内燃機関駆動時に、シリンダブロック、あるいはクランクシャフトとコンロッド5に設けられたオイルジェット部J1により、ピストン2の下方側から、スラスト側におけるシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間にオイルが噴射される。
【0044】
更にピストンピン17とクランクシャフトとを接続しているコンロッド5は、クランクシャフトとの接続部分が回転することにより、この接続部分周辺のオイルをピストン2の下方側から掻き上げる。この掻き上げではコンロッド5とクランクシャフトとの接続部分の回転面は、スラスト側と反スラスト側とに広がる面であることから、掻き上げによるオイルの飛散量は、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に対して、スラスト側と反スラスト側とに偏ることになる。
【0045】
したがって、スラスト側の潤滑を目的とするオイルジェット部J1によるオイル供給量はスラスト側に偏り、コンロッド5とクランクシャフトとの接続部分によるオイルの掻き上げによるオイル供給量は、スラスト側と反スラスト側とに偏る。このことからフロント側及びリヤ側へのオイル供給量は少ない。
【0046】
このようなシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に対するオイル供給量の偏り状態において、ピストン2は、シリンダ内周面4bに対してスラスト側及び反スラスト側での圧力変動を生じる。図4はクランク角CA(°)変化に対応するスラスト側でのシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間の油圧(kPa)変化を示すグラフである。図5は図4のグラフにおける各クランク角(a)〜(c)でのピストン2の首振り状態を、同一符号(a)〜(c)で示す説明図である。尚、図5は理解し易くするためにデフォルメして示している。
【0047】
図5の(a)は燃焼行程の上死点直後の状態であり、上述したオイル噴射や、オイル掻き上げによりオイルが供給されているシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に存在する油膜は、オイルリング22aにより掻き落とされつつある。
【0048】
このときに、ピストン2は、その首振りによるシリンダ内周面4bのスラスト側への圧縮力は大きく生じておらず、スラスト側にある油膜油圧は、わずかに正圧となっている状態である。
【0049】
図5の(b)はピストン2の首振りにより燃焼圧にてピストン2はシリンダ内周面4bのスラスト側への圧縮力を急激に高めており、スラスト側の油膜油圧は高圧となっている。
【0050】
図5の(c)はピストン2の首振りによりピストン2はシリンダ内周面4bのスラスト側から急速に離れつつあり、スラスト側の油膜油圧は大きく負圧側に移動している。尚、反スラスト側の油膜油圧については、スラスト側オイルとは、ほぼ逆の油圧変動を生じる。
【0051】
このような正圧から負圧に至る大きな油圧変動が、スラスト側の油膜と反スラスト側の油膜とに生じている。この油圧変動において、油膜を掻き落としているオイルリング22aが配置されているオイルリング溝22内のオイルは、スラスト側及び反スラスト側の油膜油圧の影響を受けて、正圧と負圧との間の大きな振幅で油圧が変動する。
【0052】
オイルリング溝22には、フロント側及びリヤ側に、それぞれ3つのオイル戻し孔28〜32,34〜38が開口し、ピストン2の内部空間2bにオイルリング溝22内のオイルを排出可能としている。しかもオイルリング溝22のスラスト側及び反スラスト側にはオイル戻し孔の開口は存在しない。すなわちスラスト側及び反スラスト側から油圧を逃がすような孔は存在しない。
【0053】
このためスラスト側が正圧にて高圧化した図5の(b)の状態では、スラスト側にて、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に存在するオイルがオイルリング溝22内に流れ込む。そしてオイルリング溝22内を、スラスト側から、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔28〜32,34〜38に向けて、図3に実線矢印にて示すごとく、急速にオイルが流れる。
【0054】
同様に反スラスト側が正圧にて高圧化した図5の(c)に相当する状態では、反スラスト側から、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔28〜32,34〜38に向けて、オイルリング溝22内を図3に破線矢印にて示すごとく、急速にオイルが流れる。
【0055】
したがって、オイル噴射やオイル掻き上げにより、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に供給されるオイルが、スラスト側及び反スラスト側に偏っていて、フロント側及びリヤ側が少なくても、ピストン2の移動時に、オイルリング溝22により、迅速にオイルがスラスト側及び反スラスト側から、フロント側及びリヤ側へ循環される。このオイルリング溝22内を循環するオイルがシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に供給されることにより、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間においても全周に渡って良好なオイル循環及び潤滑が行われる。
【0056】
図6は、スラスト側及び反スラスト側からフロント側及びリヤ側へのオイルの循環程度を、本実施の形態と従来例1,2とを比較して示すグラフである。この図6のグラフは、オイルリング溝22内におけるフロント側及びリヤ側のオイルの入れ替わり時間を、オイルリング溝内にスラスト側及び反スラスト側のみにオイル戻し孔の開口が配置されている従来例1を基準にして、時間比で表したものである。
【0057】
図6において、(X)は本実施の形態におけるピストン2、(Y)はオイルリング溝内にスラスト側及び反スラスト側のみにオイル戻し孔の開口が配置されている従来例1のピストン、(Z)はオイルリング溝内に全周に満遍なくオイル戻し孔の開口が配置されている従来例2のピストンに対する測定結果である。
【0058】
(X)に示す本実施の形態では、短時間にオイルの入れ替わりがあり、(Y)の従来例1に比較して約70%も入れ替わり時間が短縮され、(Z)の従来例2に比較しても50%以上、入れ替わり時間が短縮されている。すなわち本実施の形態では、従来例1に比較して循環性は3.3倍となり、従来例2に比較しても循環性は2.2倍となっている。このように本実施の形態のオイル戻し孔28〜38の配置構成では、スラスト側及び反スラスト側から、その中間位相位置(フロント側及びリヤ側)へオイル循環が良好になされていることを示している。
【0059】
(Y)の従来例1に示すように、スラスト側及び反スラスト側のみにオイル戻し孔の開口が配置されている場合には、スラスト側及び反スラスト側にて多量に存在するオイルが直ちにピストン内部空間に排出されてしまうので、中間位相位置でのオイル入れ替わりに長時間を要し、オイル循環は非常に悪い。
【0060】
(Z)の従来例2に示す全周に満遍なくオイル戻し孔の開口が配置されている場合も、(Y)の従来例1ほどではないが、オイル循環は十分ではない。
以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果が得られる。
【0061】
(1)オイル供給部(オイルジェット部J1やコンロッド5とクランクシャフトとの接続部分)からのオイルジェットやオイル飛散によるオイル供給方向は、通常、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間に対してはスラスト側及び反スラスト側となっている。更にこのスラスト側及び反スラスト側では、前述したごとくシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間の油膜は大きく圧力が変動するので、オイル量の集中と分散とが繰り返し生じてオイル循環量は十分なものとなっている。
【0062】
このためシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間では、特にスラスト側及び反スラスト側の位相位置でオイルは多くても、スラスト側及び反スラスト側との中間位相位置(具体的にはフロント側及びリヤ側)では十分にオイルが供給されずにオイルが不足するおそれがある。
【0063】
しかし本実施の形態のピストン2では、オイルリング溝22内においてフロント側及びリヤ側にオイル戻し孔28〜32,34〜38が開口している。したがって前述したごとくスラスト側及び反スラスト側で油膜圧力が上昇した場合には、オイルは、スラスト側及び反スラスト側でオイルリング溝22内に入る。その後に、オイルは、オイルリング溝22内を、オイル戻し孔28〜32,34〜38があるフロント側及びリヤ側へ流れる。そしてオイル戻し孔28〜32,34〜38に到達すると、オイルリング溝22内からピストン2の内部空間へ排出される。
【0064】
このようにオイルリング溝22内を、オイルが、スラスト側及び反スラスト側の位相位置から、その中間位相位置へ円滑に流される。そしてこのようにオイルが流れることにより、オイルが不足している位相では、オイルリング溝22からシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間へオイルを供給することができる。
【0065】
このことによりシリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間において、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することができる。
このようなオイル循環がなされることにより、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間の全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じ、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【0066】
(2)オイル戻し孔28〜32,34〜38は、フロント側及びリヤ側の位相位置に、それぞれ複数が集合状態に近接して配置されている。このように、各位相位置にオイル戻し孔28〜32,34〜38を複数配置することにより、オイルリング溝22内で、より円滑にオイル循環ができ、シリンダ内周面4bとピストン外周面2cとの間においても、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を効果的に改善することができる。
【0067】
[実施の形態2]
本実施の形態のピストン102を、図7の正面図、図8の部分破断左側面図に示す。図8の破断部分は図7のC−C線での破断状態を示している。図9は図7のD−D線断面図であり、内燃機関に組み込んだ状態を破線にて示している。
【0068】
本実施の形態のピストン102は、オイルリング溝122において、そのスラスト側にオイル供給孔150が開口している。このオイル供給孔150はピストン102の内部空間102bに貫通している。
【0069】
オイルジェット部J2は、ピストン102の内部空間102b側からオイル供給孔150にオイル噴射する。このことによりオイルを内部空間102b側の開口からオイルリング溝122側の開口へ向けてオイル供給孔150内に押し込んでいる。このようにしてオイルリング溝122内にはオイル供給孔150を介してピストン102の内部空間側からオイルが供給される。
【0070】
尚、前記実施の形態1の場合と同様に、コンロッド105とクランクシャフトとの接続部分によるオイル掻き上げによるシリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間へのオイル供給も実行されている。更に前記実施の形態1のオイルジェット部のようにシリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間へのオイル噴射する構成も加えても良い。
【0071】
これ以外の構成については前記実施の形態1と同じである。すなわち、ピンボス114,116が配置されている位相位置にて、それぞれ3つずつが集合して合計6つのオイル戻し孔128,130,132,134,136,138が、エプロン部110,112を外部から内部に貫通した状態で形成されている。そしてこれらオイル戻し孔128〜132,134〜138は、ピストン外周面102c側ではフロント側及びリヤ側の位相位置でオイルリング溝122に開口している。
【0072】
シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間へのオイル供給については、前述したごとくオイルジェット部J2はオイル供給孔150によりスラスト側に供給する。そしてコンロッド105とクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げについてはスラスト側と反スラスト側とにオイルを多く供給する。したがってフロント側及びリヤ側ではオイル供給量は少なくなる。
【0073】
このようなオイル供給量の偏り状態において、前記実施の形態1に述べたごとくピストン102の運動により、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間の油膜には、スラスト側及び反スラスト側にて前記図4に示したごとく正圧から負圧に至る大きな油圧変動を生じる。
【0074】
このようなスラスト側の油膜と反スラスト側の油膜とに生じている油圧変動において、オイルリング溝122内のオイルについても、スラスト側及び反スラスト側において正圧と負圧との間で大きな振幅で油圧が変動する。
【0075】
オイルリング溝122には、フロント側及びリヤ側に、それぞれ3つのオイル戻し孔128〜132,134〜138が形成され、オイルリング溝122内のオイルをピストン102の内部空間102bに排出可能となっている。しかもオイルリング溝122のスラスト側及び反スラスト側にはオイル戻し孔は存在しない。スラスト側にはオイル供給孔150が配置されているが、ここへはオイルジェット部J2からオイルが押し込まれることから、スラスト側及び反スラスト側には油圧を低下させるような貫通孔は存在しない。
【0076】
このためスラスト側の油膜が正圧にて高圧化した状態では、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔128〜132,134〜138に向けて、オイルリング溝122内をスラスト側から急速にオイルが流れる。同様に反スラスト側が正圧にて高圧化した状態では、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔128〜132,134〜138に向けて、オイルリング溝122内を反スラスト側から急速にオイルが流れる。
【0077】
したがって、オイル噴射やオイル掻き上げにより供給されるオイルが、スラスト側及び反スラスト側に偏っていて、フロント側及びリヤ側が少なくても、ピストン102の移動時に、オイルリング溝122内を、オイルがスラスト側及び反スラスト側から、フロント側及びリヤ側に迅速に供給される。このことによりオイルは全周に循環してシリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間を全位相に渡って十分なオイルを供給できる。
【0078】
以上説明した本実施の形態2によれば、以下の効果が得られる。
(1)オイルリング溝122のスラスト側に貫通孔であるオイル供給孔150が開口していても、上述したごとくオイル供給孔150からはピストン102の内部空間側へオイルが排出されることはない。このため、オイルリング溝122により、オイルがスラスト側からフロント側及びリヤ側へ迅速に供給され、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間に供給される。
【0079】
反スラスト側については前記実施の形態1と同様に、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間のオイルがオイルリング溝122を介して反スラスト側から、フロント側及びリヤ側へ供給される。
【0080】
したがって前記実施の形態1と同様に、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間において、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へのオイル循環を改善することができる。
【0081】
このことにより、シリンダ内周面104bとピストン外周面102cとの間の全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じ、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【0082】
[実施の形態3]
本実施の形態のピストン202を、図10の正面図、図11の部分破断左側面図に示す。図11の破断部分は図10のE−E線での破断状態を示している。図12は図10のF−F線断面図であり、内燃機関に組み込んだ状態を破線にて示している。
【0083】
本実施の形態のピストン202は、オイルリング溝222の下面222aにおいて、そのスラスト側及び反スラスト側には、それぞれ4本の溝222b,222cを形成している。この下面222aに設けられた溝222b,222cは、オイルリング溝222の径方向に形成されており、リング状の下面222aを横切っている。このことにより溝222b,222cの一端は下面222aの外縁222dに接続している。
【0084】
オイル戻し孔228,230は、前記実施の形態1と同様にスラスト側と反スラスト側との中間位相位置に形成されている。本実施の形態では、それぞれ4本のオイル戻し孔228,230が形成されている。他の構成は前記実施の形態1と同じである。
【0085】
シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間へのオイル供給については、前記実施の形態1と同様である。すなわち、オイルジェット部J3によりスラスト側にオイル供給がなされ、コンロッド205とクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げによりスラスト側と反スラスト側とにオイル供給がなされる。したがってフロント側及びリヤ側ではオイル供給量は少ない。
【0086】
このようなオイル供給量の偏り状態において、前記実施の形態1に述べたごとくピストン202の運動により、シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間の油膜には、スラスト側及び反スラスト側にて前記図4に示したごとく正圧から負圧に至る大きな油圧変動を生じる。
【0087】
オイルリング溝222の下面222aに形成されている溝222b,222cは、下面222aの外縁222dに接続している。このため図11に破線で示すごとくオイルリングRoが下面222aに接触している場合でも、溝222b,222cの一端側はピストン外周面202cに開口している。
【0088】
この開口位置はスラスト側及び反スラスト側であることから、上述したごとくスラスト側の油膜と反スラスト側の油膜とに油圧変動が生じると、シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間のオイルは、ピストン外周面202cに開口している溝222b,222cの一端からオイルリング溝222内に容易に流れ込む。このことによりオイルリング溝222内へのオイル導入量が増加する。
【0089】
前記実施の形態1にて述べたごとくスラスト側及び反スラスト側には油圧を低下させるような貫通孔は存在しない。このため下面222aの溝222b,222cからオイルリング溝222内、特にオイルリングのバッククリアランスに導入されたオイルは、スラスト側から、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔228,230に向けて、オイルリング溝222内を急速に流れる。同様に反スラスト側の高圧化したオイルにつても、ほぼ90°位相差のある両側のオイル戻し孔228,230に向けて、オイルリング溝222内を急速に流れる。
【0090】
したがって、オイル噴射やオイル掻き上げにより供給されるオイルがスラスト側及び反スラスト側に偏り、フロント側及びリヤ側では少なくても、ピストン202の移動時に、オイルリング溝222内をスラスト側及び反スラスト側からフロント側及びリヤ側に迅速にオイルが供給される。
【0091】
このことにより多量のオイルが全周に循環してシリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間に対して全位相に渡って十分なオイル供給が可能となる。
以上説明した本実施の形態3によれば、以下の効果が得られる。
【0092】
(1)前記実施の形態1の効果を生じる。更にオイルリング溝222の下面222aに設けた溝222b,222cにより、スラスト側及び反スラスト側からこれらの中間位相位置へ、より多くのオイル循環を実現することができる。
【0093】
このことにより、シリンダ内周面204bとピストン外周面202cとの間の全周に十分にオイルが行き渡って良好な潤滑効果を生じ、内燃機関のフリクションを効果的に低減させることができる。
【0094】
[その他の実施の形態]
・前記各実施の形態では、オイル供給部として、オイルジェット部を備えていたが、このようなオイルジェット部によらなくても、オイル供給部としてはコンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げ効果のみを利用するものであっても良い。
【0095】
・前記実施の形態2においては、オイル供給孔はスラスト側に形成され、このオイル供給孔に対してオイルジェット部からオイルが噴射されていた。更に図13に示すピストン302のごとく、オイルリング溝322に、スラスト側に開口するオイル供給孔350と共に、反スラスト側に開口するオイル供給孔352を形成しても良い。この場合には、それぞれピストン302の内部空間302b側から、オイルジェット部J4,J5により、オイル供給孔350,352にオイルを噴射して、オイルリング溝322のスラスト側と反スラスト側とにそれぞれオイルを押し込む。この場合も前記実施の形態2にて説明したごとくの効果を生じさせることができる。
【符号の説明】
【0096】
2…ピストン、2a…冠部、2b…内部空間、2c…ピストン外周面、4…シリンダブロック、4a…シリンダ、4b…シリンダ内周面、5…コンロッド、6,8…スカート部、10,12…エプロン部、14,16…ピンボス、14a,16a…ピン孔、17…ピストンピン、18…トップリング溝、18a…トップリング、20…セカンドリング溝、20a…セカンドリング、22…オイルリング溝、22a…オイルリング、24,26…ランド部、28,30,32,34,36,38…オイル戻し孔、102…ピストン、102b…内部空間、102c…ピストン外周面、104b…シリンダ内周面、105…コンロッド、110,112…エプロン部、114,116…ピンボス、122…オイルリング溝、128,130,132,134,136,138…オイル戻し孔、150…オイル供給孔、202…ピストン、202c…ピストン外周面、204b…シリンダ内周面、205…コンロッド、222…オイルリング溝、222a…下面、222b,222c…溝、222d…外縁、228,230…オイル戻し孔、302…ピストン、302b…内部空間、322…オイルリング溝、350,352…オイル供給孔、J1,J2,J3,J4,J5…オイルジェット部、Ro…オイルリング。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、
シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口すると共に、
このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して略直交して配列する2個所の位相位置であることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、内燃機関のフロント側及びリヤ側の位相位置であることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記オイル戻し孔は、前記中間位相位置に、複数が集合状態に近接して配置されていることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関であって、
前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間にオイルを供給するオイル供給部を備え、このオイル供給部は、前記コンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げとオイルジェット部からのオイル噴射とのいずれか一方又は両方により、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間に対して、主として前記スラスト側及び反スラスト側の位相位置にオイルを供給するものであることを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関において、前記内燃機関用ピストンは、前記オイルリング溝にピストン内部空間に貫通するオイル供給孔が開口すると共に、このオイル供給孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側と反スラスト側との一方又は両方の位相位置で前記オイルリング溝に開口し、スラスト側と反スラスト側との中間位相位置では前記オイルリング溝には開口しないものであり、
前記オイルジェット部は、前記ピストン内部空間側に存在する前記オイル供給孔の開口に向けてオイル噴射するものであることを特徴とする内燃機関。
【請求項7】
内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、
シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口し、このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していると共に、
前記オイルリング溝の下面にはこの下面の外縁に接続する溝が、スラスト側及び反スラスト側の位相位置に形成されていることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、
シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口すると共に、
このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、スラスト側と反スラスト側との配列方向に対して略直交して配列する2個所の位相位置であることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記スラスト側と反スラスト側との中間位相位置は、内燃機関のフロント側及びリヤ側の位相位置であることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の内燃機関用ピストンにおいて、前記オイル戻し孔は、前記中間位相位置に、複数が集合状態に近接して配置されていることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンを組み込んだ内燃機関であって、
前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間にオイルを供給するオイル供給部を備え、このオイル供給部は、前記コンロッドとクランクシャフトとの接続部分によるオイル噴出およびクランクシャフトカウンターウェイト部によるオイル掻き上げとオイルジェット部からのオイル噴射とのいずれか一方又は両方により、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間に対して、主として前記スラスト側及び反スラスト側の位相位置にオイルを供給するものであることを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関において、前記内燃機関用ピストンは、前記オイルリング溝にピストン内部空間に貫通するオイル供給孔が開口すると共に、このオイル供給孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側と反スラスト側との一方又は両方の位相位置で前記オイルリング溝に開口し、スラスト側と反スラスト側との中間位相位置では前記オイルリング溝には開口しないものであり、
前記オイルジェット部は、前記ピストン内部空間側に存在する前記オイル供給孔の開口に向けてオイル噴射するものであることを特徴とする内燃機関。
【請求項7】
内燃機関のシリンダブロックに形成されたシリンダ内に配置されて、シリンダヘッド及びシリンダブロックと共に燃焼室を形成することで、この燃焼室に生じた燃焼圧力エネルギーを、コンロッドを介してクランクシャフトに回転力として伝達するピストンであって、
シリンダ内周面に対向するピストン外周面に周方向に形成されたオイルリング溝を備え、このオイルリング溝にはピストン内部空間に貫通するオイル戻し孔が開口し、このオイル戻し孔は、前記ピストン外周面の周方向においてスラスト側及び反スラスト側の位相位置で前記オイルリング溝には開口せず、スラスト側と反スラスト側との間の中間位相位置で前記オイルリング溝に開口していると共に、
前記オイルリング溝の下面にはこの下面の外縁に接続する溝が、スラスト側及び反スラスト側の位相位置に形成されていることを特徴とする内燃機関用ピストン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−112376(P2012−112376A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237803(P2011−237803)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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