説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】 従来の添加剤組成の最適化のみではなし得なかった金属系清浄剤由来の灰分を実質的に含有しないレベルの超低灰分配合であるにも拘らず、ピストン部分の高温清浄性に優れた内燃機関用潤滑油を提供する。
【解決手段】
GCDの550℃以上の重質留分が6容量%以上であり、硫酸灰分量が0.6質量%以下およびホウ素系化合物を含む添加剤の含有量がホウ素量として少なくとも0.02質量%であって、金属系清浄剤を含有しないものであることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関するものであり、さらに詳しくは、ディーゼルパーティキュレートフィルター(以下、「DPF」という。)、ディーゼルパーティキュレートNOx同時低減触媒システム(以下、「DPNR」という。)等の排気ガス後処理装置を装着したディーゼルエンジンに使用されるのに適した超低灰分油組成を有する内燃機関用潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の強化の観点から、内燃機関の排気ガスに対する規制が益々厳格となり、特に、ディーゼルエンジンの排気ガスについては、窒素酸化物(NOxガス)と粒子状物質(PM)の排出の削減が不可避の課題とされてきた。
これらの対策として、NOxガスおよびPMの削減については、排気ガス再循環(EGR)、燃料噴射時期遅延、燃料噴射高圧化、燃焼費形状の改良等による取組みが行なわれ、さらに、排ガス後処理装置が装着されるに至っており、かかる排ガス後処理装置として酸化触媒およびDPFが開発されている。
【0003】
しかしながら、ディーゼルエンジンに使用される潤滑油には、通常、金属系清浄剤と無灰分散剤が必須成分として配合されており、油中の金属分によりDPFが閉塞し作動不能となる問題が生じる一方、金属分を低減するとエンジンの清浄性が欠如するという難点が生じている。
【0004】
従って、DPF等の後処理装置に対応するために低灰分油組成について多数提案されてきた。例えば、潤滑油基油に対し、(a)ホウ素含有無灰分散剤、(b)金属系清浄剤および場合により(c)水酸基を有する芳香族カルボン酸とヒドロキシ化合物とのエステルおよび/またはホウ素含有化合物を、[B]/[M]([B];組成物中のホウ素含有量(重量%)、[M];組成物中の金属系清浄剤に基く総金属量(重量%))が0.15以上になる割合で配合してなる硫酸灰分量が1.5重量%以下の内燃機関用潤滑油組成物が提案されている先行技術1(特開平8−253782号公報(特許文献1))。
しかしながら、特許文献1ではカルシウムを0.18質量%必要と記載されていることから判断しても、金属分の十分な低減は未だ果たされていない。
【0005】
また、先行技術2(特開平9−111275号公報(特許文献2))によれば、特定の金属系清浄剤と無灰系分散剤との組合せにより、灰分0.4〜0.8質量%で優れた清浄性等の性能を達成したと記載されているが、清浄性を維持するには依然として金属系清浄剤成分を0.07%必要としており、また、先行技術3(特開2002−60776号公報(特許文献3))では低硫黄含量でMo化合物を含む組成により低灰分化しているが、むしろPMの燃焼改善を目指したものであり、DPFの目詰り防止という点では0.2%程度の金属系清浄剤由来の金属成分を含んでいるため、超低灰分のレベルには達していない。
【0006】
さらに、先行技術4(特開2004−35652号公報(特許文献4))には特定のカルシウムサリシレートの使用により、低灰分量で優れた清浄性の確保を企図しているが、従前と同様にカルシウムを少なくとも0.03質量%必要としており、なお、低灰分化は十分ではない。
かかる状況下において、排気ガス規制の強化および将来のサブミクロン粒子への規制等を考慮すれば、またDPFの寿命延長の観点から、現状レベルよりもさらなる低灰分化が切望されている。
【0007】
しかしながら、前記の如く、従来の提案は、いずれも添加剤組成を最適化することにより低灰分化と高温清浄性を確保せんとするものであり、これらによれば、実質的に金属系清浄剤由来の灰分を含まないレベルにまで超低灰分化しつつ、高温清浄性を確保するには必然的に限界があった。
【0008】
本発明者らは、添加剤組成の最適化技術によるものではなく、GCDの550℃以上の重質留分(以下、「GCD550℃+重質留分」という。)が6容量%以上の範囲に制御した潤滑油組成物を使用することにより、低灰分で、かつ高温清浄性の確保が可能であるディーゼルエンジン油組成物を提案した(先行技術5(特開2003−201496号(特許文献5))。
【0009】
一方、地球温暖化防止の観点からCO2 排出量を低減するために燃費規制が制定されており、省燃費化に寄与するエンジン油として粘性抵抗を下げた低粘度油が求められるようになった。SJ/GF−2の時代から高温高剪断粘度を最低レベルまで下げた5W−20油が普及してきた。さらに近年、油温が高いときだけでなく、油温が低い状態での燃費向上のために、低温側の粘度を下げた0W−20化が進んできており、日本の主な自動車メーカーの純正油には、現在のSAEJ300で規定されている最も低いマルチグレード油である0W−20油が採用されてきている実情にある。
【0010】
かかる状況に鑑み、低粘度油に対してもDPFの実用化が進むに伴ない、硫酸灰分量をさらに低減することにより、超低灰分化を追求すると共に、ピストン内部のカーボン成分に対する清浄性のみではなく、ラッカー付着に対する清浄性の改善が切望されている。
【特許文献1】特開平8−253782号公報
【特許文献2】特開平9−111275号公報
【特許文献3】特開2002−60776号公報
【特許文献4】特開2004−35652号公報
【特許文献5】特開2003−201496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、前記の如き開発状況に鑑み、本発明の課題は、従来の添加剤組成の最適化のみではなし得なかった金属系清浄剤由来の灰分を実質的に含有しないレベルの超低灰分油組成であって、かつピストン内部のカーボン成分に対する清浄性のみではなく、エンジン内部のより低温部分に付着したラッカーに対する清浄性にも優れた潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、低粘度油であっても、内燃機関用潤滑油組成物のGCD550℃+重質留分を6容量%以上存在させると共に特定量のホウ素系添加剤とを併用することにより、実質的に金属系清浄剤を除外するか、または極度に低減し、該金属系清浄剤に由来する金属を抑制した超低灰分組成の潤滑油組成物がエンジン内のピストン内部のカーボン成分に対する清浄性のみでなく、エンジン内部のより低温部分に付着したラッカーに対する清浄性も発揮できることを見い出し、かかる知見に基いて本発明の完成に到達した。
【0013】
かくして、本発明によれば、
GCDの550℃以上の重質留分が6容量%以上であり、
硫酸灰分量が0.6質量%以下 および
ホウ素系化合物を含む添加剤の含有量がホウ素量として少なくとも0.02質量%であって、金属系清浄剤を含有しないものであることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物
が提供される。
【0014】
本発明は、必須成分としてGCD550℃+重質留分6容量%以上とホウ素系添加剤をホウ素量として少なくとも0.02質量%含有してなり、金属系清浄剤を含有しない内燃機関用潤滑油組成物を提供するものであるが、さらに好ましい実施態様として下記記載の1)〜8)に挙げるものを包含する。
【0015】
1)粘度グレードが、SAE粘度分類0W−20、0W−30、5W−20、5W−30 または10W−30のいずれか、好ましくは0W−20、0W−30、5W−20ま たは5W−30のいずれかの低粘度油である前記内燃機関用潤滑油組成物。
2)高温高剪断粘度(本明細書において、「HTHS粘度」という。)が、150℃および 10-1の剪断条件下において2.6mPa・s未満の低粘度油である前記内燃
機関用潤滑油組成物。
3)前記内燃機関用潤滑油組成物の基油が、内燃機関の潤滑に要求される粘度を有する鉱 油および/または合成油と高沸点油との混合油である前記内燃機関用潤滑油組成 物。
4)前記ホウ素系化合物を含有する添加剤が分散状の水和アルカリ金属ホウ酸塩である前 記内燃機関用潤滑油組成物。
5)前記ホウ素系化合物を含有する添加剤がホウ素含有ポリアルケニルコハク酸イミドで ある前記内燃機関用潤滑油組成物。
6)さらに、非ホウ素系無灰分散剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点 降下剤、腐食防止剤、消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤の有 効量が配合されてなる前記内燃機関用潤滑油組成物。
7)前記酸化防止剤がフェノール系およびアミン系酸化防止剤からなる群より選択される 少なくとも一種の添加剤である前記内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物は、前記構成の如く、金属系清浄剤を実質的に含有しないレベルの超低灰分組成を有するものであるにも拘らず、高温清浄性の改善において顕著な効果を奏する。
従って、本発明によれば、DPFの如き排気ガス後処理装置を装着したディーゼルエンジンに対してDPFにおける灰分詰まりを防止することができる好適なエンジン油を提供するものである。
さらに、本発明によれば、低粘度油であって、かつ金属系清浄剤を実質的に含有しないレベルの超低灰分組成を有するものであるにも拘らず高温清浄性に優れた内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
内燃機関用潤滑油組成物
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物は、次の(1)〜(4)の特性;
(1)GCD550℃+重質留分が6容量%以上、
(2)硫酸灰分量が0.6質量%以下
および
(3)ホウ素系化合物の含有量がホウ素量として少なくとも0.02質量%
であって、
(4)金属系清浄剤を含有しないものであること
により特徴づけられるものである。
【0018】
かかる内燃機関用潤滑油組成物は、高沸点基油を添加した潤滑油基油と、ホウ素系化合物を含む添加剤とを含有し、金属系清浄剤を実質的に除外することにより完成したものである。
【0019】
また、本発明によれば、粘度グレードが、SAE粘度分類0W−20、0W−30、5W−20、5W−30もしくは10W−30のいずれか、好ましくは0W−20、0W−30、5W−20もしくは5W−30のいずれかの低粘度内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、150℃および10-1におけるHTHS粘度が2.6mPa・s未満である低粘度内燃機関用潤滑油組成物を提供することもできる。
【0020】
前記特性(1)は、「GCD550℃重質留分が6容量%以上」である点にあり、かかる重質留分が6容量%以上において臨界的意義を有することはパネルコーキング試験デポジットの生成量で示される高温清浄性の改善効果が著しく顕著であるのに対し、GCD550℃重質留分が6容量%未満ではかかる効果が激減することに基くものである。なお、その上限は50容量%、好ましくは25容量%である。前記重質留分の含有量が50容量%を超えると低温粘度性状が悪化し、低温始動性および燃費性能の悪化の弊害が生ずるおそれがある。
なお、「GCD550℃重質留分」は、後述するように、ガスクロマトグラフィーを用いて、実施例の欄に記載の操作および条件により測定された550℃以上の留出分を示すものである。
【0021】
かかるGCD550℃重質留分が高温清浄性の改善に与える作用については、未だ十分解明されていないが、ピストン上部等に推積されるカーボンデポジット等の重質留分による洗い流し作用によるものと推定される。
【0022】
前記特性(2)は、硫酸灰分量が0.6質量%以下、好ましくは0.5質量%以下である点にある。
硫酸灰分は、後述の実施例において測定方法を説明するが、試料油を燃焼して生成した炭化残留物に硫酸を加えて加熱することにより恒量となった灰分である。通常、硫酸灰分は、潤滑油組成物中の金属系添加剤の金属成分に由来するものであり、硫酸灰分量として1.0質量%を超えるとDPFの灰分詰まりが生ずるおそれが大となるため、1.0質量%以下とすることが要求されているが、本発明によれば、さらに低減化し、0.6質量%以下の超低灰分としたものを提供することができる。
【0023】
前記特性(3)は、前記潤滑油組成物中にホウ素系化合物を含む添加剤をホウ素量として少なくとも0.02質量%を含有する点にある。
前記潤滑油組成物にホウ素系化合物を特定量、すなわちホウ素量として0.02質量%以上含有させることにより、290℃のホットチューブ試験により示されるラッカーの付着に対する清浄性の改善効果が著しく顕著となり、前記特性(1)のGCD550℃重質留分の特定量との組合せにより広範囲にわたる高温清浄性を確保することができる。
【0024】
ホウ素系化合物の配合量については、ホウ素量の増加は灰分の増加につながるため、上限はホウ素として0.2質量%、好ましくは0.1質量%である。
かかるホウ素系化合物としては、ホウ素含有ポリアルケニルコハク酸イミドおよびアルカリ金属ホウ酸塩を挙げることができるが、詳細は後述する。
前記特性(4)は、金属系清浄剤を含有しないものである点にある。これにより、金属系清浄剤由来の灰分を実質的に含有しない潤滑油組成物を実現したものであり、これは、実施例に記載された金属系清浄剤抜きの添加剤パッケージの使用により示された通りのものである。
【0025】
潤滑油基油
本発明の内燃機関用潤滑油組成物の構成成分としての潤滑油基油は、高温で流動性を有する高沸点成分の特定量を含有するものであり、具体的にはGCD550℃重質留分が潤滑油組成物基準で6容量%以上含有するものである。
【0026】
かかる特定の性状を有する基油は、各種の混合基材を選択して混合することにより調製することができるが、混合基材としては所定の留分を有するものであれば特に限定されるものではなく、鉱油系基油、合成油系基油、水素化異性化/異性化脱蝋基油、GTL(Gas to Liquid)基油、ATL(Asphalt to Liquid)基油、植物油系基油またはこれらの混合基油を挙げることができる。
【0027】
以下、本発明に係る潤滑油基油について具体的に説明する。
鉱油系基油としては、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留出油として得られる潤滑油留分を溶剤精製、水素化分解、水素化処理、水素化精製、接触脱蝋、白土処理等の各種精製工程を任意に選択して用いることにより処理して得られる溶剤精製ラフィネートまたは水素化処理油等の鉱油、減圧蒸溜残渣油を溶剤脱瀝処理に供したのち、得られた脱瀝油を前記の精製工程により処理して得られる鉱油、またはワックス分の異性化により得られる鉱油等、水素化異性化/異性化脱蝋基油、GTL基油、ATL基油、またはこれらの混合油を用いることができる。前記の溶剤精製においては、フェノール、フルフラール、N−メチル−2−ピロリドン等の芳香族抽出溶剤が用いられ、一方、溶剤脱蝋の溶剤としては、液化プロパン、MEK/トルエン等が用いられる。また、接触脱蝋においては、例えば形状選択性ゼオライト等が脱蝋触媒として用いられる。
【0028】
本発明において、水素化脱蝋産物または水素化異性化/接触(または溶剤)脱蝋産物ベースストックの混合物、GTLベースストックの混合物、またはそれらの混合物、好ましくはGTLベースストックの混合物が、潤滑油基油の全部または一部を構成することができる。
同様にアスファルト等の重質残油成分を原料とするATLプロセスにより得られる液状生成油から分離される潤滑油留分等も用いることができる。
前記の如くして得られる精製鉱油、水素化異性化/異性化脱蝋基油、GTL基油、ATL基油としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油等を挙げることができ、これらの基材を基油の要求性状を満たすように適宜調合することにより所望の基油を製造することができる。
【0029】
合成油系基油としては、
ポリ−α−オレフィンオリゴマー(PAO)(例えば、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびこれらの混合物。);
ポリブテン;
アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、ジノニルベンゼン等。);
ポリフェニル(例えば、ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等。);
アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体;
ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等。)と各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソデシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等。)とのエステル;
炭素数4〜20のモノカルボン酸とポリオール(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等。)とのエステル;
その他、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、リン酸エステルおよびシリコーン油等を挙げることができる。
【0030】
前記ポリ−α−オレフィンオリゴマー(PAO)の具体例を例示すると、前記の1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数6〜12のα−オレフィンの単独重合体または混合モノマーの共重合体を挙げることができ、100℃動粘度として2〜3000mm2/sのものを使用することができる。また、エチレンとα−オレフィンとの液状共重合体も用いることができ、市場で提供される100℃動粘度が8mm2/s、10mm2/s、20mm2/s、40mm2/s、100mm2/s、150mm2/s、600mm2/s、2000mm2/s等の各粘度グレードのものを選択して基油として使用することができる。
【0031】
前記ポリオールエステルの具体例としては、炭素数5〜30のヒンダードアルコールと脂肪酸とのエステルが用いられる。ヒンダードアルコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブチルプロパン−1,3ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3ジオール、2−エチル−2−ブチルプロパン−1,3ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、テトラトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール、ペンタペンタエリスリトール等が挙げられ、その一種または二種以上が用いられる。好ましいヒンダードアルコールは、炭素数5〜20のものであり、特にトリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等が好適である。
【0032】
脂肪酸としては、炭素数4〜20の直鎖状または分岐状脂肪酸が用いられる。直鎖状脂肪酸としては、例えば、n−ブタン酸、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸、n−デカン酸、n−ウンデカン酸、n−ドデカン酸、n−トリデカン酸、n−テトラデカン酸、n−ペンタデカン酸、n−ヘキサデカン酸、n−ヘプタデカン酸、n−オクタデカン酸、n−ノナデカン酸、n−イコサン酸等が挙げられ、その一種または二種以上が用いられる。また、分岐状脂肪酸としては、例えば、2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2−エチルブタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、2−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2−エチル−2−メチルブタン酸、3−メチルへキサン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、2−プロピルペンタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2−メチルペンタン酸、2−メチルオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、2−エチルヘプタン酸、2−メチルノナン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−メチルノナン酸、2−エチルオクタン酸、2−メチルデカン酸、3−メチルデカン酸、4−メチルデカン酸、5−メチルデカン酸、6−メチルデカン酸、7−メチルデカン酸、6−エチルノナン酸、3−メチルウンデカン酸、2−メチルドデカン酸、2―メチルトリデカン酸、2−メチルテトラデカン酸、4−メチルテトラデカン酸、2−エチルテトラデカン酸、2−プロピルテトラデカン酸、2−ペンチルノナン酸、2−へキシルデカン酸、2−エチルヘキサデカン酸、2−ブチルテトラデカン酸、2−ヘプチルウンデカン酸、3−メチルノナデカン酸、2−エチルオクタデカン酸が挙げられ、その一種または二種以上が用いられる。好ましい脂肪酸は、炭素数4〜18のものであり、特に8〜18のものが好ましい。
【0033】
前記のヒンダードエステルは、従来から採用されている製造方法、例えば、(a)ポリオールと脂肪酸とを無触媒または酸性触媒の存在下において脱水縮合により直接エステル化する方法、(b)脂肪酸塩化物を調製し、これとポリオールとを反応させる方法、および(c)低級アルコールと脂肪酸とのエステルとポリオールとのエステル交換反応等を採用することができる。
【0034】
ポリオールエステルの具体例を例示すると次の如くである(以下、ネオペンチルグリコールをNPG、トリメチロールプロパンをTMP、ジトリメチロールプロパンをDTMP、ペンタエリスリトールをPE、ジペンタエリスリトールをDPE、トリペンタエリスリトールをTPEと略記する。)。
【0035】
すなわち、NPG・ジ(n−ブタノエート)、NPG・ジ(n−ペンタノエート)、NPG・ジ(n−ヘキサノエート)、NPG・ジ(n−ヘプタノエート)、NPG・ジ(n−オクタノエート)、NPG・ジ(2−エチルヘキサノエート)、NPG・ジ(n−ノナネート)、NPG・ジ(イソノナネート)、NPG・ジ(n−デカノエート)、NPG・ジ(n−ウンデカノエート)、NPG・ジ(n−ドデカノエート)、NPG・ジ(n−トリデカノエート)、NPG・ジ(n−テトラデカノエート)、NPG・ジ(n−ペンタデカノエート)、NPG・ジ(n−ヘキサデカノエート)、NPG・ジ(n−ヘプタデカノエート)、NPG・ジ(n−オクタデカノエート)、NPG・ジ(n−ノナデカノエート)、NPG・ジ(n−イコサノエート)、NPG・ジ(2,2−ジメチルオクタノエート)、NPG・ジ(2−メチルデカノエート)、NPG・ジ(3−メチルヘンデカノエート)、NPG・ジ(2メチルドデカノエート)、NPG・ジ(2−メチルトリデカノエート)、NPG・ジ(2−メチルテトラデカノエート)、NPG・ジ(2−プロピルデカノエート)、NPG・ジ(2−ペンチルノナネート)、NPG・ジ(2−ヘキシルデカノエート)、NPG・ジ(2−エチルヘキサデカノエート)、NPG・ジ(2−エチルテトラオクタノエート)、TMP・トリ(n−ブタノエート)、TMP・トリ(n−ペンタノエート)、TMP・トリ(n−ヘキサノエート)、TMP・トリ(n−ヘプタノエート)、TMP・トリ(n−オクタノエート)、TMP・トリ(n−ノナネート)、TMP・トリ(n−デカノエート)、TMP・トリ(n−ドデカノエート)、TMP・トリ(n−トリデカノエート)、TMP・トリ(n−テトラデカノエート)、TMP・トリ(n−ペンタデカノエート)、TMP・トリ(n−ヘキサデカノエート)、TMP・トリ(n−ヘプタデカノエート)、TMP・トリ(n−オクタデカノエート)、TMP・トリ(n−ノナデカノエート)、TMP・トリ(n−イコサノエート)、TMP・トリ(2,2−ジメチルオクタノエート)、TMP・トリ(2−メチルデカノエート)、TMP・トリ(2−メチルドデカノエート)、TMP・トリ(2−メチルトリデカノエート)、TMP・トリ(2−エチルテトラデカノエート)、TMP・トリ(2−エチルヘキサデカノエート)、TMP・トリ(2−ヘプチルテカノエート)、TMP・トリ(2−エチルオクタデカノエート)、TMP・トリ(3−メチルノナデカノエート)、DTMP・テトラ(n−ブタノエート)、DTMP・テトラ(n−ペンタノエート)、DTMP・テトラ(n−ヘキサノエート)、DTMP・テトラ(n−ヘプタノエート)、DTMP・テトラ(n−オクタノエート)、DTMP・テトラ(n−ノナネート)、DTMP・テトラ(n−デカノエート)、DTMP・テトラ(n−ドデカノエート)、DTMP・テトラ(n−オクタデカノエート)、PE・テトラ(n−ブタノエート)、PE・テトラ(n−ペンタノエート)、PE・テトラ(n−ヘキサノエート)、PE・テトラ(n−ヘプタノエート)、PE・テトラ(n−オクタノエート)、PE・テトラ(n−ノナネート)、PE・テトラ(n−デカノエート)、PE・テトラ[混合(n−ペンタノエート、イソペンタノエート、n−ヘキサノエート、n−ブタノエート)]、PE・テトラ(n−ドデカノエート)、PE・テトラ(n−トリデカノエート)、PE・テトラ(n−テトラデカノエート)、PE・テトラ(n−ペンタデカノエート)、PE・テトラ(n−ヘキサデカノエート)、PE・テトラ(n−ヘプタデカノエート)、PE・テトラ(n−オクタデカノエート)、PE・テトラ(n−ノナデカノール)、PE・テトラ(n−ノコサノエート)、PE・テトラ(2,2−ジメチルオクタノエート)、PE・テトラ(2−メチルデカノエート)、PE・テトラ(2−メチルドデカノエート)、PE・テトラ(2−メチルトリデカノエート)、PE・テトラ(2−メチルテトラデカノエート)、PE・テトラ(2−エチルテトラデカノエート)、PE・テトラ(2−プロピルテトラデカノエート)、PE・テトラ(2−ヘキシルデカノエート)、PE・テトラ(2−エチルヘキサデカノエート)、PE・テトラ(2−ブチルテトラデカノエート)等を例示することができる。
また、植物油系基材としては、ひまし油、やし油等を挙げることができる。
【0036】
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の基油は、前記の各種基油基材を各々単独で、または二種以上を混合することにより、所望の性状、例えば100℃動粘度が2〜15mm2/s、好ましくは3〜13mm2/sを有し、かつGCD550℃重質留分が潤滑油組成物基準で6容量%以上であって50容量%以下、好ましくは25容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下となるように調整されたものである。
【0037】
また、潤滑油基油の選択により、潤滑油組成物として低粘度油、すなわち、粘度グレードとしてSAE粘度番号0W−20、0W−30、5W−20、5W−30、10W−30等の規格を充足する低粘度油を提供することができる。さらに、HTHS粘度が2.6mPa・s未満の低粘度油を提供することもできる。
なお、前記粘度グレードは、SAE(米国自動車技術会)が規定した粘度特性を示した規格に基くものであり、SAEJ300として規定されたものである。
【0038】
ホウ素系添加剤
次に、本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の構成成分としてのホウ素系化合物を含有する添加剤としては、具体的には、ホウ素含有ポリアルケニルコハク酸イミド系分散剤およびホウ酸カリウム系添加剤を挙げることができる。
【0039】
ホウ素含有コハク酸イミド系分散剤としては、下記記載の一般式(1)で表されるモノタイプまたは一般式(2)で表されるビスタイプのポリアルケニルコハク酸イミドをホウ素化合物で処理して得られるものである。かかるモノタイプおよびビスタイプのポリアルケニルコハク酸イミドは、混合して用いることもできる。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸無水物、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸エステル等を挙げることができる。
前記一般式(1)および(2)においてR1、R3、R5は、それぞれ、数平均分子量800〜2600、好ましくは900〜2400のポリアルケニル基であり、互いに同一でも異なるものでもよい。ポリアルケニル基としては、ポリブテニル基が好ましい。R2、R4は、それぞれ炭素数2〜5のアルキレン基であり、互いに同一でも異なるものでもよい。Xは1〜10の整数である。
【0043】
一般式(1)および(2)で表されるモノタイプおよびビスタイプのポリアルケニルコハク酸イミドは、一般には、ポリブテンと無水マレイン酸との反応で得られるポリブテニルコハク酸無水物と、ポリアミンとの反応によって合成される。ポリアミンの例としては、単一ジアミン、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミンなど;ポリアルキレンポリアミン、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミンなど、が挙げられる。
前記の如きホウ素含有ポリアルケニルコハク酸イミド系分散剤中のホウ素含有量を、0.2質量%以上としたものが好ましい。また、前記一般式(1)のモノタイプ、または一般式(2)のビスタイプのいずれも用いることができるが、特に、ビスタイプが好ましい。
【0044】
次に、ホウ酸アルカリ系添加剤は、アルカリ金属ホウ酸塩水和物を含有するものであり、下記一般式で表すことができる。


2O・xB23・yH2

式中、Mはアルカリ金属であり、xは2.5〜4.5、yは1.0〜4.8である。
具体的には、ホウ酸リチウム水和物、ホウ酸ナトリウム水和物、ホウ酸カリウム水和物、ホウ酸ルビジウム水和物、ホウ酸セシウム水和物等を挙げることができるが、ホウ酸カリウム水和物、ホウ酸ナトリウム水和物が好ましく、特に、ホウ酸カリウム水和物が好ましい。
ホウ酸塩水和物粒子の平均粒径は、一般に1ミクロン(μ)以下である。
本発明に用いられるアルカリ金属ホウ酸塩において、ホウ素とアルカリ金属の比は約2.5:1〜4.5:1の範囲にあることが好ましい。
【0045】
アルカリ金属ホウ酸塩水和物の油分散体は、通常、脱イオン水中で任意に少量のアルカリ金属炭酸塩の存在下でアルカリ金属水酸化物とホウ酸の溶液を形成させることにより製造される。次に、ここで得られた該溶液を潤滑油、分散剤および任意の添加剤を含有する潤滑油組成物に加えて乳化液を形成させ、次いで脱水するなどの工程が採用される。
【0046】
また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属中性スルホネートを、アルカリ金属水酸化物の存在下において炭酸化して、超塩基性スルホネートを得、これにホウ酸を反応させて得られるアルカリ金属ホウ酸塩の微粒子分散体を用いることができる。かかる炭酸化反応は、コハク酸イミドのような無灰型分散剤の共存下で行うこともできる。成分であるアルカリ金属ホウ酸塩水和物としては、より好ましくは、中性カルシウムスルホネートまたはコハク酸イミド等の無灰型分散剤を使用して製造されるホウ酸カリウムまたはホウ酸ナトリウム分散体を挙げることができる。成分のアルカリ金属ホウ酸塩水和物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物において、ホウ素系添加剤は、前記ホウ素含有ポリアルケニルコハク酸イミドまたはホウ酸アルカリ系添加剤のいずれかまたは混合して用いることができるが、特に、ホウ酸アルカリ系添加剤が好適である。ホウ素系添加剤の配合量は、ホウ素量として潤滑油組成物全量基準で少なくとも0.02質量%配合される。配合量が、0.02質量%に達しないと実施例、比較例でも示すように清浄性を欠如し、一方、多量に配合すると硫酸灰分量を増加させDPFへの閉塞の問題が生じ、また、コハク酸イミド成分により粘度性状を悪化させるおそれがあるので、上限としては0.2質量%に設定することが好ましい。
【0048】
金属系清浄剤
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物は、構成成分として金属系清浄剤を配合しなくとも高度の高温清浄性が発揮されるように組成が構成されている。
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属フェネートのいずれかまたはこれらの混合物が用いられる。アルカリ土類金属スルホネートは、長鎖アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等のスルホン酸のアルカリ土類金属塩である。
【0049】
アルカリ土類金属サリシレートは、アルキルサリチル酸または硫化アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩である。
アルカリ土類金属フェネートは、アルキルフェノールまたは硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩である。
前記スルホネート、サリシレートおよびフェネートのアルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられるが、カルシウムが好ましい。また、これらのアルカリ土類金属塩は、中性塩または塩基性塩のいずれでもよい。
【0050】
その他の添加剤
内燃機関用潤滑油には多様な性能が要求されるため、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、下記記載の添加剤を配合することができる。
非ホウ素系分散剤としては、コハク酸イミド、コハク酸アミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、コハク酸エステル−アミド等を含有する添加剤等が挙げられるが、コハク酸イミド系が好ましく用いられる。コハク酸イミド系の配合量は、組成物全量基準で油中窒素量として、0.001質量%〜0.5質量%であり、好ましくは0.04質量%〜0.2質量%である。
【0051】
摩耗防止剤としては、一般にジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸金属塩(Sb,Moなど)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn,Sb,Moなど)、ナフテン酸金属塩、脂肪酸金属塩、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩、リン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、亜リン酸エステル金属塩等が挙げられ、通常0.1質量%〜5質量%の割合で使用される。特にジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましい。これらの配合量としては、組成物全量基準でリン濃度として0.01質量%以上、特に0.05質量%〜0.2質量%が好ましい。
【0052】
酸化防止剤としては、一般にアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、さらにジチオリン酸亜鉛等が挙げられ、特に、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤およびこれらの組合せが好ましく用いられる。これらは、通常0.04質量%〜5質量%の割合で使用される。
【0053】
粘度指数向上剤としては、一般にポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン−ブタジエン水添共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、星状イソプレン等が挙げられるが、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体)が好ましく用いられる。特にポリイソブチレンやエチレン−プロピレン共重合体の分子量としては、重量平均分子量で10万以上(GPC分析においてポリスチレン換算量)のものが特に好ましく用いられる。分散型オレフィンコポリマーとは、分子中に酸素または窒素を含有しているものである。これらは、通常0.01質量%〜30質量%の割合で使用される。
【0054】
流動点降下剤としては、一般にエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、特に、ポリメタアクリレートが好ましく用いられる。これらは、通常0.01質量%〜5質量%の割合で使用される。
【0055】
摩擦低減剤としては、例えば、有機モリブデン系化合物、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、アミド、エーテル、硫化エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらは、通常0.05質量%〜3質量%の割合で使用される。
【0056】
極圧剤としては、一般に無灰系サルファイド化合物、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられ、これらは、通常0.05質量%〜3質量%の割合で使用される。
【0057】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアゾール、チアゾール誘導体、チアジアゾール、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、これらは0.001〜3質量%の割合で使用される。
【0058】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、これらは、通常0.01質量%〜3質量%の割合で使用される。
【0059】
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリアクリレート等が挙げられ、通常極く少量、例えば0.002質量%程度添加される。
【0060】
さらに、本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物には、着色剤等その他の添加剤も所望に応じて使用することができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明について実施例および比較例により具体的に説明する。もっとも、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において用いた潤滑油組成物の基油、添加剤および同組成物の性能評価方法は下記記載の通りである。
また、「%」は、ことわりのない限り質量%を意味する。
【0062】
I.潤滑油基油
1.鉱油系基油;100℃動粘度4.5mm2/s
2.合成油系基油1;ポリ−α−オレフィン
合成油系基油2;トリメチロールプロパン−C18酸エステル
【0063】
II.添加剤
(1)粘度指数向上剤;オレフィンコポリマー
(2)流動点降下剤;ポリメタクリレート
(3)消泡剤;シリコーン系消泡剤
(4)DIパッケージ;金属系清浄剤、酸化防止剤、無灰分散剤および摩耗防止剤
(5)ホウ素系添加剤
・ホウ素系添加剤1
ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド(ホウ素含有量:1.4%)
・ホウ素系添加剤2
ホウ酸カリウム系添加剤(ホウ素含有量:6.8%)
無灰およびカルシウム系分散剤システムの中にホウ酸カリウムを分散
させたもの
(6)非ホウ素系分散剤
・コハク酸イミド系無灰型分散剤
【0064】
III.評価方法
1.GCD550℃以上の重質留分
下記条件で沸点既知の直鎖状炭化水素標準試料をガスクロマトグラフィーにかけ、該試料から沸点550℃の成分が流出する保持時間を求め、続いて試料油をガスクロマトグラフィーにかけて、その保持時間以後に留出した留分の積分値が全体に占める割合を550℃以上の留出分とする。
カラム:HT-5
長さ:6m
内径:0.53mm
膜厚:0.1μm
キャリアガス:ヘリウム
検出器:FID
初期温度:50℃
昇温速度:10℃/min.
最終温度:450℃
溶媒:二硫化炭素
注入量:2μl
【0065】
2.パネルコーキング試験デポジット量
試料油に市販カーボンブラック3%を添加したものを、1.0g/hの速度で傾斜したパネル上に滴下する。滴下された試料油はパネル上で炭化してデポジットを生成する。パネル傾斜角:8度、パネル温度:310℃の条件で、3時間試験をした後、生成したデポジット中に残存する油分を石油エーテルで抽出して、試験前後のパネルの重量差によりデポジット生成量を求める。
3.硫酸灰分量
ASTM D874に準拠して測定する。
4.ホットチューブ試験(JPI-5S-55-99 準拠)
内径2mmのガラス管中に、試料油0.3ミリリットル/時、空気10ミリリットル/秒をガラス管の温度を280℃および290℃に保ちながら流し続ける。ガラス管中に付着したラッカーを色見本と比較し、透明の場合は10点、黒の場合は0点として評点を付ける。評点が高いほど性能が良いことを示す。
【0066】
実施例1
鉱油系基油:78.8%、合成油系基油1:5.1%、金属系清浄剤を除外したDIパッケージ:10.1%、粘度指数向上剤:5.1%、流動点降下剤:0.1%、消泡剤:0.02%およびホウ素系添加剤1:0.8%を配合することにより、GCD550℃+重質留分:8.0容量%、ホウ素量:0.02%:硫酸灰分量:0.34%の超低灰分組成を有し、HTHS粘度(@150℃):3.2mPa・s、SAE粘度グレード5W30の試作油Aが得られた。試作油Aをホットチューブ試験(280℃×16h,290℃×16h)およびパネルコーキング試験に供したところ表1に示す結果を得た。これらの結果から高温清浄性およびピストン内部の低温部でのラッカーに対する清浄性にも優れていることが判明した。
【0067】
実施例2
ホウ素系添加剤1を0.8%配合した実施例1の試作油Aにおけるホウ素系添加剤1の代わりにホウ素系添加剤2を0.2%配合したこと以外すべて試作油Aと同様にし表1に示す組成性状の試作油Bを調製した。試作油Bのホットチューブ試験およびパネルコーキング試験による性能評価結果を同表に示す。
【0068】
実施例3
合成油系基油1を5.1%配合した実施例1の試作油Aにおける合成油系基油1の代わりに合成油系基油2を9%配合したこと以外すべて試作油Aと同様にし、表1に示す組成性状を有する試作油Cを調製した。試作油Cのホットチューブ試験およびパネルコーキング試験による性能評価結果を同表に示す。
【0069】
実施例4
合成油系基油1を5.1%配合した実施例1の試作油Aにおける合成油系基油1の代わりに合成油系基油2を15%配合したこと以外すべて試作油Aと同様にし、表1に示す組成、性状を有する試作油Dを調製した。試作油Dのホットチューブ試験およびパネルコーキング試験による性能評価結果を同表に示す。
【0070】
比較例1〜5
表1に示す基油および添加剤を同表に示す割合で配合し、試作油a〜eを調製した。各試作油は、いずれも本発明により要求している組成性状のいずれかを欠如するかまたは含有量の範囲を逸脱するものであり、表1に示すようにホットチューブ試験結果およびパネルコーキング試験結果の両者を同時に満足させることができず、性能がいずれも著しく劣るものであった。比較例1の試作油aは、GCD550℃重質留分の含有量が7.6容量%であるが、ホウ素系添加剤を含有しておらず、パネルコーキング試験によるデポジット量は十分減少したが、ホットチューブ試験の290℃では付着ラッカーは黒色であり、評点は1.0点であった。
【0071】
比較例2および3の試作油b,cは、いずれもGCD550℃重質留分の含有量がそれぞれ3.6容量%および3.7容量%であり、パネルコーキング試験によるデポジット生成量は著しく多量であった。
【0072】
また、比較例5は、GCD550℃重質留分の含有量が5.5容量%であり、パネルコーキング試験デポジットの生成量が多い。一方、比較例4ではGCD550℃重量留分の含有量が8.0容量%に達しているが、ホウ素含有量(少なくとも0.02質量%)を欠如するため、ホットチューブ試験の290℃での評点が極めて低いものであった。
【0073】
【表1】



【0074】
以上の実施例、比較例の結果からGCD550℃重量留分が6容量%以上であり、硫酸灰分量が0.6質量%以下およびホウ素含有量が少なくとも0.02質量%であり、これらの組成性状をすべて満足する試作油が、ホットチューブ試験の280℃および290℃において、いずれも高評点を得ることができ、かつ、パネルコーキング試験デポジットの生成量が大巾に抑制されることから超低灰分組成であるにも拘らず高度の清浄性を発揮し、著しく顕著な効果を奏することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GCDの550℃以上の重質留分が6容量%以上であり、硫酸灰分量が0.6質量%以下およびホウ素系化合物を含む添加剤の含有量がホウ素量として少なくとも0.02質量%であって、金属系清浄剤を含有しないものであることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
粘度グレードが、SAE粘度分類0W−20、0W−30、5W−20、5W−30または10W−30のいずれかである請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに、非ホウ素系無灰分散剤、摩耗防止剤、無灰酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤および消泡剤からなる群より選択された少なくとも一種の添加剤の有効量が配合されてなる請求項1または2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−214820(P2012−214820A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181132(P2012−181132)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2007−119824(P2007−119824)の分割
【原出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)
【Fターム(参考)】