説明

内燃機関用点火コイル及びその製造方法

【課題】一次コイルの巻回を行う際に一次コイルにおける一対の巻線端部をコネクタ部に直接係止することができ、一次コイルを構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入ることを効果的に抑制することができる内燃機関用点火コイル及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】内燃機関用点火コイルは、内外周に重ねて配置した一次コイル21及び二次コイルと、軟磁性材料粉末を圧縮成形してなり一次コイル21及び二次コイルの内周側に配置した中心コア23と、熱可塑性樹脂からなり一次コイル21及び二次コイルを外部と電気的に接続するためのコネクタ部3とを備えている。中心コア23は、コネクタ部3に形成した嵌入穴34に嵌入してある。一次コイル21は、コネクタ部3と一体化させた中心コア23の外周に巻回してある。一次コイル21における一対の巻線端部211は、コネクタ部3に係止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の内燃機関において、燃焼室内にスパークを発生させるために用いる点火コイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いる点火コイルは、一次コイル及び二次コイルを備えており、一次コイルへの通電を遮断したときの磁束の変化によって、二次コイルに高電圧を発生させ、点火プラグからスパークを発生させている。
例えば、特許文献1の点火コイルにおいては、一次電線を筒状に巻回した状態で融着して一次コイルを形成し、この一次コイルを中心コアの外周に装着している。また、二次コイルを外周に巻回した二次スプールに対して、一次コイル及び二次コイルを外部と電気的に接続するためのコネクタ部を一体的に設けている。
また、例えば、特許文献2の点火コイルおよびその製造方法においては、中心コアの外周に一次コイルを巻回することが開示されている。そして、中心コアに鍔部を形成しておき、一次コイルを巻回する際に鍔部によって巻崩れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−38198号公報
【特許文献2】特開2009−238906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1においては、一次コイルを治具に巻回して融着させた後、この一次コイルを治具から取り出して中心コアの外周に装着する必要がある。この際、一次コイルの両端部が中心コアの角部に接触し、一次コイルを構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入るおそれがある。
また、特許文献2においては、中心コアの外周に一次コイルを巻回する際には、一次コイルにおける一対の巻線端部を治具に係止しておく必要がある。そして、一次コイルの巻回後には、一対の巻線端部を治具から取り外し、これらをコネクタ部における導体に係止し直す必要がある。この際、一次コイルにおける一対の巻線端部が、中心コアの角部に接触し、一次コイルを構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入るおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、一次コイルの巻回を行う際に一次コイルにおける一対の巻線端部をコネクタ部に直接係止することができ、一次コイルを構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入ることを効果的に抑制することができる内燃機関用点火コイル及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内外周に重ねて配置した一次コイル及び二次コイルと、軟磁性材料からなり、上記一次コイル及び二次コイルの内周側に配置した中心コアと、熱可塑性樹脂からなり、上記一次コイル及び二次コイルを外部と電気的に接続するためのコネクタ部とを備えており、
上記中心コアは、上記コネクタ部に形成した嵌入穴に嵌入してあり、
上記一次コイルは、上記コネクタ部と一体化させた上記中心コアの外周に巻回してあり、
上記一次コイルにおける一対の巻線端部を上記コネクタ部に係止させたことを特徴とする内燃機関用点火コイルにある(請求項1)。
【0007】
第2の発明は、内外周に重ねて配置した一次コイル及び二次コイルと、軟磁性材料からなり、上記一次コイル及び二次コイルの内周側に配置した中心コアと、熱可塑性樹脂からなり、上記一次コイル及び二次コイルを外部と電気的に接続するためのコネクタ部とを備える内燃機関用点火コイルを製造する際に、
上記コネクタ部に形成した嵌入穴に上記中心コアを嵌入して、コア組付体を形成し、
該コア組付体における上記中心コアの外周に対して上記一次コイルを巻回し、
上記一次コイルにおける一対の巻線端部を上記コア組付体における上記コネクタ部に係止させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法にある(請求項9)。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明の内燃機関用点火コイルにおいては、中心コアをコネクタ部に形成した嵌入穴に嵌入し、一次コイルを、コネクタ部と一体化させた中心コアの外周に対して巻回している。また、一次コイルにおける一対の巻線端部をコネクタ部に係止させている。これにより、一次コイルの巻回を行う際には、コネクタ部に対して巻始め側の巻線端部を直接係止し、一次コイルの巻回後には、コネクタ部に対して巻終り側の巻線端部を直接係止することができる。そのため、一次コイルを巻回した後、一対の巻線端部を係止し直す必要がない。
また、一次コイルの巻回を行う際には、中心コアにおいて一対の巻線端部が引き出された側に位置する角部は、少なくとも一部がコネクタ部によって覆われた状態にある。そのため、一次コイルにおける一対の巻線端部が中心コアの角部に接触して、一次コイルを構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入ることを効果的に抑制することができる。
【0009】
それ故、第1の発明の内燃機関用点火コイルによれば、一次コイルの巻回を行う際に一次コイルにおける一対の巻線端部をコネクタ部に直接係止することができ、一次コイルを構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入ることを効果的に抑制することができる。
【0010】
第2の発明の内燃機関用点火コイルの製造方法においては、コネクタ部に形成した嵌入穴に中心コアを嵌入してコア組付体を形成し、コア組付体における中心コアの外周に対して一次コイルを巻回する。そして、一次コイルにおける一対の巻線端部をコア組付体におけるコネクタ部に係止させる。
それ故、第2の発明の内燃機関用点火コイルの製造方法によれば、上記第1の発明と同様に、一次コイルの巻回を行う際に一次コイルにおける一対の巻線端部をコネクタ部に直接係止することができ、一次コイルを構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入ることを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における、内燃機関用点火コイルを正面から見た状態で示す断面説明図。
【図2】実施例1における、内燃機関用点火コイルを軸方向から見た状態で示す断面説明図。
【図3】実施例1における、エンジンのプラグホールに配置した内燃機関用点火コイルを正面から見た状態で示す断面説明図。
【図4】実施例1における、中心コアを示す斜視図。
【図5】実施例1における、コネクタ部を上面から見た状態で示す説明図。
【図6】実施例1における、コネクタ部を軸方向から見た状態で示す説明図。
【図7】実施例1における、中心コアを配置する状態のコネクタ部を軸方向から見た状態で示す説明図。
【図8】実施例1における、中心コアとコネクタ部とを一体化したコア組付体を上面から見た状態で示す断面説明図。
【図9】実施例1における、中心コアに一次コイルを巻回したコア組付体を軸方向から見た状態で示す断面説明図。
【図10】実施例1における、中心コアに一次コイルを巻回したコア組付体を上面から見た状態で示す断面説明図。
【図11】実施例1における、中心コアに一次コイルを巻回したコア組付体を正面から見た状態で示す説明図。
【図12】実施例1における、コア組付体と二次スプールとを一体化した状態を軸方向から見た状態で示す断面説明図。
【図13】実施例1における、コア組付体と二次スプールとを一体化した状態を上面から見た状態で示す断面説明図。
【図14】実施例1における、コア組付体と二次スプールとを一体化した状態を正面から見た状態で示す断面説明図。
【図15】実施例1における、コア組付体と二次スプールと外周コアとを一体化した状態を上面から見た状態で示す断面説明図。
【図16】実施例1における、コア組付体と二次スプールと外周コアとを一体化した状態を正面から見た状態で示す断面説明図。
【図17】実施例2における、コネクタ部を軸方向から見た状態で示す説明図。
【図18】実施例2における、他のコネクタ部を軸方向から見た状態で示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述した第1、第2の発明の内燃機関用点火コイル及びその製造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記コネクタ部は、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設したコア保持部とを有しており、上記嵌入穴は、上記コア保持部に形成した切欠部からなり、上記中心コアは、棒状本体部と、該棒状本体部と一体的に形成され、該棒状本体部の軸方向一端部において径方向外方へ突出する鍔部とを有しており、上記鍔部の近傍に位置する上記棒状本体部を上記切欠部に嵌入すると共に上記鍔部を上記コア保持部における内側面に係止させて、上記コネクタ部に対して上記中心コアを保持させることができる(請求項2)。
この場合には、鍔部の形成によって中心コアをコネクタ部に対して安定して組み付けることができる。また、一次コイルの鍔部をコア保持部によって覆うことができ、一次コイルにおける一対の巻線端部が中心コアの鍔部に接触してしまうことを効果的に抑制することができる。
【0013】
また、上記コネクタ部は、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設したコア保持部とを有しており、上記嵌入穴は、上記コア保持部に形成した貫通穴によって形成してあり、上記中心コアは、棒形状を有しており、上記中心コアを上記貫通穴に嵌入して、上記コネクタ部に対して上記中心コアを保持させることもできる(請求項3)。
この場合には、一次コイルの角部をコア保持部によって覆うことができ、一次コイルにおける一対の巻線端部が中心コアの角部に接触してしまうことを効果的に抑制することができる。
【0014】
また、上記一対の巻線端部を引き出した側に位置する引出側コイル端部を、上記コア保持部における外側面に係止させて、上記中心コアに対する上記一次コイルの巻崩れを防止することが好ましい(請求項4)。
この場合には、コネクタ部のコア保持部によって、一次コイルの巻回時における電線の巻崩れを防止することができる。
【0015】
また、上記中心コアにおける軸方向両端面の軸中心には、中心位置出し用の凹部が形成してあり、上記コネクタ本体部は、上記中心位置出し用の凹部に対する軸方向外方を開放するよう上記中心コアの軸中心に対して横にずれた位置に配置することが好ましい(請求項5)。
この場合には、コネクタ部と一体化した中心コアの外周に一次コイルを巻回する際に、軸方向両端面の中心位置出し用の凹部に中心位置出し用のピンを配置することができる。そのため、コネクタ部と一体化した中心コアを偏心させずに安定して回転させることができ、一次コイルの巻回の精度を容易に維持することができる。
【0016】
また、上記嵌入穴は、上記中心コアの外径よりも小さな内径に形成してあり、上記中心コアは、上記嵌入穴に圧入することが好ましい(請求項6)。
この場合には、コネクタ部のコア保持部における嵌入穴に対して中心コアを安定して保持することができ、コア保持部における外側面に対して一次コイルの引出側コイル端部をより安定して係止させることができる。
【0017】
また、上記二次コイルは、熱可塑性樹脂からなる二次スプールの外周に巻回してあり、該二次スプールは、上記コア保持部に係合して上記コネクタ部に組み付けることが好ましい(請求項7)。
この場合には、中心コア及びコネクタ部に一体化した一次コイルと、二次スプールに巻回した二次コイルとを、位置決めを行って安定して組み付けることができる。
【0018】
また、上記中心コアは、軟磁性材料粉末を圧縮成形してなることが好ましい(請求項8)。
この場合には、外周が滑らかな中心コアを容易に作製することができ、中心コアの外周に対して円滑に一次コイルを巻回することができる。
【0019】
また、第2の発明において、上記コネクタ部を、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設して上記嵌入穴を形成したコア保持部とから形成しておき、上記コア保持部によって巻崩れを防止しながら、上記コア組付体における上記中心コアの外周に対して上記一次コイルを巻回することが好ましい(請求項10)。
この場合には、コア保持部によって、一次コイルの巻回時にその巻崩れを容易に防止することができ、一次コイルを巻回した後においても、その巻崩れを容易に防止することができる。
【0020】
また、上記中心コアにおける軸方向両端面の軸中心に中心位置出し用の凹部を形成し、かつ上記コネクタ部を、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設したコア保持部とから形成すると共に、上記コネクタ本体部を、上記中心位置出し用の凹部に対する軸方向外方を開放するよう上記中心コアの軸中心に対して横にずれた位置に配置しておき、上記軸方向両端面における上記中心位置出し用の凹部に、中心位置出し用のピンを配置し、上記コア組付体を回転させて、上記中心コアの外周に対して上記一次コイルを巻回することが好ましい(請求項11)。
この場合には、コア組付体における中心コアを偏心させずに安定して回転させることができ、一次コイルの巻回の精度を容易に維持することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の内燃機関用点火コイル及びその製造方法に係る実施例につき、図面を参照して説明する。
(実施例1)
本例の内燃機関用点火コイル1は、図1〜図3に示すごとく、内外周に重ねて配置した一次コイル21及び二次コイル22と、軟磁性材料粉末を圧縮成形してなり一次コイル21及び二次コイル22の内周側に配置した中心コア23と、熱可塑性樹脂からなり一次コイル21及び二次コイル22を外部と電気的に接続するためのコネクタ部3とを備えている。
図9〜図11に示すごとく、中心コア23は、コネクタ部3に形成した嵌入穴34に嵌入してある。一次コイル21は、コネクタ部3と一体化させた中心コア23の外周に巻回してある。一次コイル21における一対の巻線端部(巻始め端部及び巻終り端部)211は、コネクタ部3に係止されている。
【0022】
以下に、本例の内燃機関用点火コイル1及びその製造方法につき、図1〜図16を参照して詳説する。
図3に示すごとく、本例の点火コイル1は、内燃機関としてのエンジンに用いるものであり、エンジン(シリンダヘッド81及びシリンダヘッドカバー82)のプラグホール83の外部に横置き状態(プラグホール83の軸方向に対して一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lを直交させた状態)で配置して用いるものである。本例の点火コイル1は、エンジンのプラグホール83内に配置したスパークプラグ7に装着すると共に、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23、外周コア24等を配置したコイル本体部をプラグホール83の外部に横置き状態で配置して使用される。
【0023】
図1、図2に示すごとく、点火コイル1は、一次コイル21及び二次コイル22の内周側に、軟磁性材料からなる中心コア23を配置し、一次コイル21及び二次コイル22の外周側に、軟磁性材料からなる外周コア24を配置してなる。
一次コイル21と二次コイル22とは、同一軸心状に内外周に重ねて配置されている。一次コイル21は、中心コア23の外周に一次電線を直接巻回して形成してあり、二次コイル22は、一次コイル21の外周側において、樹脂製の二次スプール4に一次電線よりも細い二次電線を、一次電線よりも多い巻回数で巻回して形成してある。
【0024】
図1〜図3に示すごとく、本例のケース5は、エンジンのプラグホール83に配置される高電圧タワー部51を有している。高電圧タワー部51は、ケース5の一部を突出させて形成してあり、スパークプラグ7に接触させる高電圧端子25を内部に配置すると共にゴム製のプラグキャップ11を外装する部分である。プラグキャップ11内には、高電圧端子25に導通されるコイルスプリング12が配置されている。点火コイル1は、コイルスプリング12にスパークプラグ7の端子部72を接触させると共に、プラグキャップ11内にスパークプラグ7の碍子部71を圧入して、シリンダヘッド81に螺合したスパークプラグ7に装着される。
【0025】
本例の点火コイル1は、電子部品を樹脂によってモールド成形してなるイグナイタ26を内蔵しており、イグナイタ26は、ECU(エンジン制御ユニット)等の外部機器からの指令を受けて、一次コイル21への通電とその遮断とのスイッチングを行うスイッチング制御回路を備えている。
本例の点火コイル1において、ECUからの指令を受けてイグナイタ26のスイッチング制御回路の動作により一次コイル21へ通電を行ったときには、中心コア23及び外周コア24を通過する磁界が形成される。次いで、一次コイル21への通電を遮断したときには、相互誘導作用により二次コイル22に高電圧の誘導起電力が発生し、点火コイル1に装着されたスパークプラグ7における一対の電極73間にスパークを発生させることができる(図3参照)。
【0026】
本例の点火コイル1は、図8に示すごとく、コネクタ部3と中心コア23とを一体化してコア組付体10を形成し、図9〜図11に示すごとく、このコア組付体10における中心コア23の外周に一次コイル21を巻回し、図12〜図16に示すごとく、このコア組付体10に対して、二次コイル22を巻回した二次スプール4と外周コア24とを組み付けて仮組体100を形成し、図1、図2に示すごとく、この仮組体100をケース5に配置して、ケース5内を熱硬化性樹脂6で絶縁固着してなるものである。
図5、図6に示すごとく、本例のコネクタ部3は、複数の導体33を設けたコネクタ本体部31と、コネクタ本体部31から延設したコア保持部32とを有している。コネクタ本体部31における導体33は、配線のコネクタ部と接続される接続部311において、左右方向Wに複数本(本例では4本)並ぶピン部分331にそれぞれ繋がっている。各導体33は、点火コイル1に内蔵したイグナイタ26、ダイオード28等と接続を行うようコネクタ本体部31の内側(コア保持部32側)に導出されている(図1参照)。
【0027】
本例の複数の導体33におけるピン部分331は、プラス電源用端子、マイナス電源用端子、スイッチング信号線用端子、イオン電流検出用端子を構成する。一次コイル21における各巻線端部211は、プラス電源用端子と、イグナイタ26におけるスイッチング素子の電流増幅端子とに接続される。一次コイル21における各巻線端部211に接続される接続導体33Aは、コア保持部32における左右の突出部321の外側に導出されている。一次コイル21における各巻線端部211は、それぞれ接続導体33Aに接続され、かしめ、フュージング、半田付け等を行って接続導体33Aに接合される。
また、コア保持部32は、コネクタ本体部31における左右両側の端部から突出した一対の突出部321と、この一対の突出部321に掛け渡した掛渡部322とを有している。
【0028】
図5〜図7に示すごとく、コア保持部32においては、一対の突出部321と掛渡部322とによって囲まれて、中心コア23の鍔部232を差し込む差込凹部(差込ポケット)325が形成されている。
コア保持部32における嵌入穴34は、中心コア23の外径よりも小さな内径に形成してある。すなわち、嵌入穴34としての切欠部34は、その幅が中心コア23の棒状本体部231の外径よりも小さく、かつ底部を形成する円弧の内径も棒状本体部231の外径よりも小さくなっている。そして、中心コア23の棒状本体部231は、切欠部34に圧入してある。また、切欠部34の外縁は、鋭角状に尖らせてあり、棒状本体部231を圧入する際の荷重を低減するようにしている。
【0029】
コネクタ部3における嵌入穴34は、コア保持部32の掛渡部322に形成した切欠部34からなる。
図4に示すごとく、本例の中心コア23は、軟磁性材料粉末である鉄粉(バインダー等を適宜添加することができる。)を圧縮成形して形成した圧粉コアである。中心コア23は、断面円形状の棒状本体部231と、棒状本体部231と一体的に成形され、棒状本体部231の軸方向Lの一端部において径方向外方へ突出する鍔部232とを有している。この鍔部232は、四角形状を有しており、互いに対向する左右一対の短辺233が、コア保持部32の一対の突出部321によって保持される。
四角形状の鍔部232は、コネクタ本体部31において複数の導体33のピン部分331が並ぶ方向である左右方向Wに長辺を形成しており、左右一対の短辺233に圧縮成形時のバリB(成形の際に生じる突起)が形成されている。そして、図8〜図10に示すごとく、このバリBが形成される左右一対の短辺233を一対の突出部321によって保持することにより、一次コイル21を構成する一次電線の絶縁被膜に傷を付けないようにしている。
【0030】
図10、図11に示すごとく、本例の中心コア23は、鍔部232の近傍に位置する棒状本体部231をコネクタ部3の切欠部34に嵌入すると共に鍔部232をコア保持部32の掛渡部322における内側面に係止させて、コネクタ部3に保持されている。
本例の一次コイル21は、その一対の巻線端部211を引き出した側に位置する引出側コイル端部210を、コア保持部32の掛渡部322(切欠部34の周辺の外側面)に係止させて、中心コア23に対する巻崩れが防止されている。
【0031】
図8に示すごとく、中心コア23における軸方向両端面230の軸中心には、この中心コア23の外周に一次コイル21を巻回する際の中心位置出しを行うための凹部234が形成してある。図11に示すごとく、本例のコネクタ部3のコネクタ本体部31は、中心位置出し用の凹部234に対する軸方向Lの外方を開放するよう中心コア23の軸中心に対して横(本例では上側)にずれた位置に配置してある。そして、中心コア23における軸方向両端面230に設けた凹部234は、いずれも軸方向Lの外方が開放されている。
【0032】
図12〜図14に示すごとく、二次コイル22は、熱可塑性樹脂からなる二次スプール4の外周に巻回されており、二次スプール4は、コア保持部32に係合してコネクタ部3に組み付けてある。
コネクタ部3のコア保持部32は、二次スプール4の低電圧側の軸方向端部を保持するよう構成してある。二次スプール4の低電圧側の軸方向端部には、コア保持部32の外側に係合する係合部41が突出して形成してある。この係合部41のうち上側の係合部41Aには、コア保持部32の上部において左右に掛け渡して形成した上側掛渡部323に設けた係止突起324によって係止される係止穴42が形成されている。
そして、本例の点火コイル1は、図1、図2に示すごとく、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23、外周コア24、コネクタ部3、二次スプール4等を組み付けた仮組体100を、熱可塑性樹脂からなるケース5内に配置し、このケース5内の隙間を熱硬化性樹脂6で充填して形成されている。
【0033】
次に、本例の点火コイル1を製造する方法について説明する。
点火コイル1を製造するに当たっては、まず、図7、図8に示すごとく、コネクタ部3のコア保持部32に形成した切欠部34に対して中心コア23を嵌入(圧入)して、コア組付体10を形成する。このとき、中心コア23は、その鍔部232を差込凹部325に差し込むと共に、鍔部232の近傍に位置する棒状本体部231を切欠部34の上側開口部から差し込む。そして、鍔部232をコア保持部32における内側面に係止させて、中心コア23がコネクタ部3におけるコア保持部32に保持される。
【0034】
次いで、図9〜図11に示すごとく、コア組付体10における中心コア23の外周に対して一次コイル21を巻回する。
このとき、一次コイル21を構成する一次電線の巻始め端部211を、コネクタ部3のコア保持部32から突出させた一方の接続導体33Aに係止し、中心コア23の軸方向両端面230に形成した凹部234に中心位置出し用のピンPを配置する(図11参照)。この中心位置出し用のピンPは、コネクタ本体部31が中心位置出し用の凹部234に対する軸方向Lの外方を開放するよう形成してあることにより、容易に配置することができる。
【0035】
そして、一対の中心位置出し用のピンPによって中心コア23の中心位置出しを行って、コネクタ部3と中心コア23とを一体化したコア組付体10を回転させながら、このコア組付体10における中心コア23の外周に一次コイル21を巻回する。これにより、コネクタ部3と一体化した中心コア23を偏心させずに安定して回転させることができ、この中心コア23の外周に安定して一次コイル21を巻回することができる。そのため、一次コイル21の巻回の精度を容易に維持することができる。
【0036】
また、一次電線の巻始め部分は、コネクタ部3のコア保持部32における掛渡部322の外側面に当接ながら巻回することができる。次いで、一次電線の巻終り端部をコネクタ部3のコア保持部32から突出させた他方の接続導体33Aに係止する。このとき、一次電線の巻終わり部分は、コネクタ部3のコア保持部32における掛渡部322の外側面に当接させることができる。これにより、コネクタ部3のコア保持部32によって、一次コイル21の巻回時における一次電線の巻崩れを防止することができる。
こうして、コア保持部32によって巻崩れを防止しながら、コア組付体10における中心コア23の外周に対して一次コイル21を巻回することができ、一次コイル21における一対の巻線端部211をコア組付体10におけるコネクタ部3の各接続導体33Aに係止させ、かしめ、フュージング、半田付け等を行って接合することができる。
【0037】
次いで、図12〜図14に示すごとく、一次コイル21の巻回及び一対の巻線端部211の接合を行ったコア組付体10に対し、二次コイル22の巻回を行った二次スプール4を装着する。このとき、コア組付体10における一次コイル21を巻回した中心コア23を、二次スプール4の内周側に挿入して、複数の係合部41の係合によって二次スプール4とコア組付体10を一体化する。
また、コネクタ部3におけるコア保持部32には、中心コア23の軸方向端面230に隣接して、性能改善用の磁石27を配置する。
【0038】
次いで、図15、図16に示すごとく、二次スプール4の外周側において、コア組付体10のコネクタ部3のコア保持部32に対して外周コア24を取り付ける。また、コア組付体10のコネクタ部3のコネクタ本体部31に対してイグナイタ26、ダイオード28等を取り付け、イグナイタ26、ダイオード28等の端子を、コネクタ部3における導体33に接合する。こうして、点火コイル1の仮組体100を形成する。
その後、この仮組体100を、ケース5内に配置し、ケース5内の隙間に熱硬化性樹脂6を充填し、硬化させて、ケース5に対して仮組体100における各構成部品の絶縁固着を行う。
【0039】
本例においては、コネクタ部3と一体化した中心コア23に対して一次電線を巻回して、一次コイル21を形成している。そして、この一次電線の巻回を行う際には、コネクタ部3に対して巻始め側の巻線端部211を直接係止し、一次電線の巻回後には、コネクタ部3に対して巻終り側の巻線端部211を直接係止することができる。そのため、一次コイル21を形成した後、一対の巻線端部211を係止し直す必要がない。
また、一次電線の巻回を行う際には、中心コア23の鍔部232においてバリBが大きく形成された左右の角部は、コネクタ部3のコア保持部32によって覆われた状態にある。そのため、一次電線における一対の巻線端部211が中心コア23の鍔部232における角部のバリBに接触して、各巻線端部211に設けられた絶縁被膜に傷が入ることを効果的に抑制することができる。
なお、コネクタ部3は、内部に保持する複数の導体33を除く全体が熱可塑性樹脂で形成されており、表面の硬度が中心コア23よりも低い。そのため、コネクタ部3に各巻線端部211が接触したとしても、その絶縁被膜に傷が入ることを防止することができる。
【0040】
また、中心コア23は、治具に保持する代わりに、コネクタ部3に直接保持している。そして、一次電線における一対の巻線端部211は治具に保持させることなく、コネクタ部3に直接係止させることができる。これにより、治具に対して中心コア23を着脱する工程を省略することができ、この着脱の際に絶縁被膜に傷が入ることを防止することができると共に、製造コストの低減を図ることもできる。
【0041】
それ故、本例の点火コイル1及びその製造方法によれば、一次コイル21の巻回を行う際に一次コイル21における一対の巻線端部211をコネクタ部3に直接係止することができ、一次コイル21を構成する電線に設けられた絶縁被膜に傷が入ることを効果的に抑制することができる。
【0042】
(実施例2)
本例は、コネクタ部3のコア保持部32に設ける嵌入穴34を、貫通穴34によって形成した例である。
図17に示すごとく、本例の中心コア23は、断面円形状の円柱形状を有している。嵌入穴34は、中心コア23の外径よりも小さな内径に形成してある。そして、中心コア23は、その軸方向端部を貫通穴34に圧入して、コネクタ部3のコア保持部32に保持される。また、上記実施例1に示した切欠部34と同様に、貫通穴34の外縁を鋭角状に尖らせて、中心コア23を圧入する際の荷重を低減させることができる。
本例においても、一対の巻線端部211を引き出した側に位置する引出側コイル端部210を、コア保持部32における外側面に係止させて、中心コア23に対する一次コイル21の巻崩れを防止することができる。
【0043】
また、図18に示すごとく、貫通穴34の内壁面には、周方向の複数箇所において、突起部341を設けることができる。そして、中心コア23は、その軸方向端部を複数の突起部341に対して圧入することができる。この場合には、中心コア23の圧入の際の荷重を低減させることができる。
本例においても、その他の構成は上記実施例1と同様であり、上記実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 点火コイル
10 コア組付体
100 仮組体
21 一次コイル
210 引出側コイル端部
211 巻線端部
22 二次コイル
23 中心コア
231 棒状本体部
232 鍔部
234 中心位置出し用の凹部
24 外周コア
26 イグナイタ
3 コネクタ部
31 コネクタ本体部
32 コア保持部
33 導体
34 嵌入穴(切欠部、貫通穴)
4 二次スプール
5 ケース
6 熱硬化性樹脂
7 スパークプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外周に重ねて配置した一次コイル及び二次コイルと、軟磁性材料からなり、上記一次コイル及び二次コイルの内周側に配置した中心コアと、熱可塑性樹脂からなり、上記一次コイル及び二次コイルを外部と電気的に接続するためのコネクタ部とを備えており、
上記中心コアは、上記コネクタ部に形成した嵌入穴に嵌入してあり、
上記一次コイルは、上記コネクタ部と一体化させた上記中心コアの外周に巻回してあり、
上記一次コイルにおける一対の巻線端部を上記コネクタ部に係止させたことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記コネクタ部は、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設したコア保持部とを有しており、
上記嵌入穴は、上記コア保持部に形成した切欠部からなり、
上記中心コアは、棒状本体部と、該棒状本体部と一体的に形成され、該棒状本体部の軸方向一端部において径方向外方へ突出する鍔部とを有しており、
上記鍔部の近傍に位置する上記棒状本体部を上記切欠部に嵌入すると共に上記鍔部を上記コア保持部における内側面に係止させて、上記コネクタ部に対して上記中心コアを保持させたことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記コネクタ部は、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設したコア保持部とを有しており、
上記嵌入穴は、上記コア保持部に形成した貫通穴によって形成してあり、
上記中心コアは、棒形状を有しており、
上記中心コアを上記貫通穴に嵌入して、上記コネクタ部に対して上記中心コアを保持させたことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記一対の巻線端部を引き出した側に位置する引出側コイル端部を、上記コア保持部における外側面に係止させて、上記中心コアに対する上記一次コイルの巻崩れを防止したことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記中心コアにおける軸方向両端面の軸中心には、中心位置出し用の凹部が形成してあり、
上記コネクタ本体部は、上記中心位置出し用の凹部に対する軸方向外方を開放するよう上記中心コアの軸中心に対して横にずれた位置に配置してあることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記嵌入穴は、上記中心コアの外径よりも小さな内径に形成してあり、
上記中心コアは、上記嵌入穴に圧入してあることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記二次コイルは、熱可塑性樹脂からなる二次スプールの外周に巻回してあり、
該二次スプールは、上記コア保持部に係合して上記コネクタ部に組み付けてあることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記中心コアは、軟磁性材料粉末を圧縮成形してなることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項9】
内外周に重ねて配置した一次コイル及び二次コイルと、軟磁性材料からなり、上記一次コイル及び二次コイルの内周側に配置した中心コアと、熱可塑性樹脂からなり、上記一次コイル及び二次コイルを外部と電気的に接続するためのコネクタ部とを備える内燃機関用点火コイルを製造する際に、
上記コネクタ部に形成した嵌入穴に上記中心コアを嵌入して、コア組付体を形成し、
該コア組付体における上記中心コアの外周に対して上記一次コイルを巻回し、
上記一次コイルにおける一対の巻線端部を上記コア組付体における上記コネクタ部に係止させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記コネクタ部を、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設して上記嵌入穴を形成したコア保持部とから形成しておき、
上記コア保持部によって巻崩れを防止しながら、上記コア組付体における上記中心コアの外周に対して上記一次コイルを巻回することを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記中心コアにおける軸方向両端面の軸中心に中心位置出し用の凹部を形成し、かつ上記コネクタ部を、複数の導体を設けたコネクタ本体部と、該コネクタ本体部から延設したコア保持部とから形成すると共に、上記コネクタ本体部を、上記中心位置出し用の凹部に対する軸方向外方を開放するよう上記中心コアの軸中心に対して横にずれた位置に配置しておき、
上記軸方向両端面における上記中心位置出し用の凹部に、中心位置出し用のピンを配置し、上記コア組付体を回転させて、上記中心コアの外周に対して上記一次コイルを巻回することを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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