説明

内燃機関用点火コイル

【課題】絶縁ケース内部に発生する熱応力を低減し、応力緩和構造を必要としない内燃機関用点火コイルを提供すること。
【解決手段】コイルボビンに巻回された一次コイル及び二次コイルと、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、これらを収容する絶縁ケースとを備え、前記絶縁ケース内に充填された絶縁性合成樹脂によって前記収容物を固定し、前記一次コイルへの通電、遮断によって生じる磁束密度の変化を利用して二次コイルに高電圧を発生させる内燃機関用点火コイルであって、前記鉄心は、絶縁ケース内部に収納された一枚の磁性体板から成る第1の鉄心と、絶縁ケース外に配設された第2の鉄心とから構成されたので、絶縁ケース内部の鉄心が一枚の磁性体板から成る第1の鉄心のみとなり、周囲を覆う絶縁性合成樹脂との間に発生する熱応力を低減することができ、これを緩和する為の応力緩和構造を省略することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の内燃機関エンジンの点火プラグに火花放電を発生させるために高電圧を供給する内燃機関用点火コイルに関し、特にその熱応力の緩和に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用点火コイル装置においては、環境温度の変化及び点火コイルの動作に伴う自己発熱により、内部部品の構成材料による線膨張係数或いは体膨張係数の差から熱応力が発生する。殆どの構成部品が合成樹脂製であるのに対し、鉄心の線膨張係数は著しく小さい。この為、鉄心の外周角部に最大の熱応カが発生する。この応力により鉄心に接している絶縁樹脂にクラックが発生し、その後、そのクラックが伸展し点火コイル表面に露出する虞れがある。そこで、鉄心に発生する熱応力によって生じるクラックを防止する手段が種々提案されている。
例えば、従来の内燃機関用点火コイルは、磁気回路を構成するための鉄心1が例えば、図6に示すように全て絶縁ケース2内部に収納されており、その周囲に絶縁性合成樹脂3を充填して固定保持していた。また、絶縁ケース2と鉄心1の間には、シリコンゴム或いは樹脂の発泡体等の応力緩和材4が介装されている。
これは、絶縁ケースと鉄心が一体成形された場合も同様である。
また、別の例として鉄心と周囲を囲う合成樹脂との間に生じる熱応力を避けるために、鉄心を全て絶縁ケースの外部に設置する内燃機関用点火コイルも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−294434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような構成の従来の内燃機関用点火コイルにおいて、全ての鉄心を絶縁ケース内部に収納する形式のものでは、鉄心の周囲に熱応力を緩和するためのシリコンゴム或いは樹脂の発泡体等の応力緩和材を設ける必要が有り、構成が複雑になると云う欠点が存在した。また、応力緩和構造はシリコンゴム等を充填し硬化させる必要があるため、工数がかかる上に高価な構造となっていた。
更に、鉄心を全て絶縁ケースの外部に設置する形式のものでは、閉磁路を構成する場合にコネクタの位置が制約され、設計の自由度が制限される虞れが存在した。
【0005】
この発明は、上記に鑑み提案されたもので、絶縁ケース内部に収納する第1の鉄心を一枚の磁性体板から構成し、絶縁ケース外周に磁性体板を積層形成した第2の鉄心を配設したので、絶縁ケース内部に配設する鉄心に発生する熱応力を小さくすることができ、応力緩和構造を必要としない内燃機関用点火コイルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為に、コイルボビンに巻回された一次コイル及び二次コイルと、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、これらを収容する絶縁ケースとを備え、前記絶縁ケース内に充填された絶縁性合成樹脂によって前記収容物を固定し、前記一次コイルへの通電、遮断によって生じる磁束密度の変化を利用して二次コイルに高電圧を発生させる内燃機関用点火コイルであって、前記鉄心は、絶縁ケース内部に収納された一枚の磁性体板から成る第1の鉄心と、絶縁ケース外に配設された第2の鉄心とから構成されたことを特徴としている。
【0007】
また、本発明において、前記第2の鉄心は、平面形状がE型、T型、I型の何れか一つである複数の磁性体板を積層形成し、その一部を前記絶縁ケースの側方から内側に向かって突設された収納凹部に外側から挿着して、前記絶縁ケース内部に収納された第1の鉄心と磁気回路を構成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明において、前記第1の鉄心は、板厚が0.5〜2.0mmの磁性体板であり、前記絶縁性合成樹脂は、溶融した熱硬化性樹脂を前記絶縁ケースに真空注型し、熱硬化させて構成したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明において、前記収納凹部は、前記絶縁ケースの側面に形成された開口と、絶縁ケース内に収納されたコイルボビンとによって構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は上記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
【0011】
本発明では、コイルボビンに巻回された一次コイル及び二次コイルと、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、これらを収容する絶縁ケースとを備え、前記絶縁ケース内に充填された絶縁性合成樹脂によって前記収容物を固定し、前記一次コイルへの通電、遮断によって生じる磁束密度の変化を利用して二次コイルに高電圧を発生させる内燃機関用点火コイルであって、前記鉄心は、絶縁ケース内部に収納された一枚の磁性体板から成る第1の鉄心と、絶縁ケース外に配設された第2の鉄心とから構成されたので、絶縁ケース内部の鉄心が一枚の磁性体板から成る第1の鉄心のみとなり、周囲を覆う絶縁性合成樹脂との間に発生する熱応力を低減することができ、これを緩和する為の応力緩和構造を省略することができる。
【0012】
また、本発明において前記第2の鉄心は、平面形状がE型、T型、I型の何れか一つである複数の磁性体板を積層形成し、その一部を前記絶縁ケースの側方から内側に向かって突設された収納凹部に外側から挿着して、前記絶縁ケース内部に収納された第1の鉄心と磁気回路を構成するので、応力緩和構造が必要ないとともに、絶縁ケースの外部に配設された第2の鉄心の熱応力の影響を絶縁ケースが受けることがない。
【0013】
また、本発明において前記第1の鉄心は、板厚が0.5〜2.0mmの磁性体板であり、前記絶縁性合成樹脂は、溶融した熱硬化性樹脂を前記絶縁ケースに真空注型し、熱硬化させて構成したので、気泡が出来にくいとともに隅々まで樹脂が行き渡り、第1の鉄心と周囲を覆う熱硬化性樹脂との間に発生する熱応力を著しく低減することができる。
【0014】
また、本発明において前記収納凹部は、前記絶縁ケースの側面に形成された開口と、絶縁ケース内に収納されたコイルボビンとによって構成されたので、製品の組み立て工程を簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る内燃機関用点火コイルの一例を示す全体斜視図である。
【図2】図2は、同内燃機関用点火コイルを示す側面図である。
【図3】図3は、同内燃機関用点火コイルを示す縦断面図である。
【図4】図4は、同内燃機関用点火コイルを示す横断面図である。
【図5】図5は、同内燃機関用点火コイルに使用される第2の鉄心の変形例を示す説明図である。
【図6】図6は、従来の内燃機関用点火コイルの一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
内燃機関用点火コイルにおいて、コイルボビンに巻回された一次コイル及び二次コイルと、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、これらを収容する絶縁ケースとを備え、前記絶縁ケース内に充填された絶縁性合成樹脂によって前記収容物を固定し、前記一次コイルへの通電、遮断によって生じる磁束密度の変化を利用して二次コイルに高電圧を発生させるものであって、前記鉄心は、絶縁ケース内部に収納された一枚の磁性体板から成る第1の鉄心と、絶縁ケース外に配設された第2の鉄心とから構成されたので、絶縁ケース内部の鉄心が一枚の磁性体板から成る第1の鉄心のみであり、周囲を覆う絶縁性合成樹脂との間に発生する熱応力を低減することができ、これを緩和する為の応力緩和構造の設置を省略することができる。
【実施例】
【0017】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係る内燃機関用点火コイルの一例を示す全体斜視図、図2は本発明の内燃機関用点火コイルを示す側面図、図3は本発明の内燃機関用点火コイルを示す縦断面図、図4はその横断面図である。ここで、内燃機関用点火コイル10は、コイルボビン11に巻回された一次コイル12及び二次コイル13と、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、これらを収容する絶縁ケース14とを備え、前記絶縁ケース14内に充填された絶縁性合成樹脂15によって前記収容物を固定し、前記一次コイル12への通電、遮断によって生じる磁束密度の変化を利用して二次コイル13に高電圧を発生させるものであって、前記鉄心は、絶縁ケース14内部に収納された一枚の磁性体板から成る第1の鉄心16と、絶縁ケース14外に配設された第2の鉄心17とから構成されている。
【0018】
絶縁ケース14の下端部には、高圧筒18が形成されており、図示しない高圧端子、導電バネ等が配設される。また、絶縁ケース14の側端には、一次ソケット19が形成されており、図示しない一次端子が収納されており、この一次端子が一次コイル12に接続される。更に、絶縁ケース14の図中右側方から内側に向かって収納凹部20が突設されており、この収納凹部20に第2の鉄心17の一部を外側から挿着する。
【0019】
また、本実施例では収納凹部20は、絶縁ケース14の側面に形成された開口26と、絶縁ケース14内に収納されたコイルボビン11の内孔とによって構成されている。有底の角筒状に形成されたコイルボビン11は、開口端が絶縁ケース14の開口26側になるように取り付けられて収納凹部20を形成する。更に、収納凹部20は、第2の鉄心17の一部をそのまま収納できる大きさを有しており、絶縁ケース14の略中央に延設されている。また、コイルボビン11の外周には、一次コイル12および二次コイル13が同芯状に巻回される。
【0020】
また、第2の鉄心17が外側から挿着される収納凹部20の先端内側(コイルボビンの底部側)には、第1の鉄心16が配置され、第2の鉄心17との間に磁気回路が形成される。ここで、第1の鉄心16は、板厚が0.5〜2.0mmの一枚の磁性体板から形成されており、第2の鉄心17は、複数の磁性体板を積層形成してある。第2の鉄心17の平面形状は、図5(a)〜(c)に示すようにアルファベットのE型、T型、I型の何れかの形状をしている。例えば、E型である第2の鉄心17aは、平面形状がE型である磁性体板を積層して所定の厚さに形成し、中央の支片21が収納凹部20に収納され、残りの支片22は絶縁ケース14の周囲に配置される。また、T型である第2の鉄心17bは、平面形状がT型である磁性体板を積層して所定の厚さに形成し、中央の支片23が収納凹部20に収納され、残りの支片24は絶縁ケース14の周囲に配置される。更に、I型である第2の鉄心17cは、平面形状がI型である磁性体板を積層して所定の厚さに形成し、鉄心の略全体25が収納凹部20に収納される。
【0021】
上記内燃機関用点火コイルは、次のような手順で製造される。先ず、絶縁ケース14の開口26に一次コイル12および二次コイル13が同芯状に巻回されたコイルボビン11を開口端が絶縁ケース14の開口26側になるように取り付ける。また、コイルボビン11の底部で絶縁ケース14の内側に第1の鉄心16を取り付ける。更に、収納凹部20(コイルボビンの内孔)には、絶縁ケース14の外側から第2の鉄心17の一部が挿着される。以上のように、絶縁ケース14内に収納されたコイルボビン11、一次コイル12、二次コイル13、第1の鉄心16を真空槽に入れ、周囲を真空した後に溶融した熱硬化性樹脂を真空注型し、熱硬化させて固定する。
【0022】
次に、以上のように構成された内燃機関用点火コイル10は、絶縁ケース内の第1の鉄心が一枚の磁性体板から成り、絶縁ケース外に第2の鉄心が配設されたので絶縁ケース内部に発生する熱応力が低減され、応力緩和構造の設置を必要としない。また、第1の鉄心と第2の鉄心との間の閉磁路の形成を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0023】
10 内燃機関用点火コイル
11 コイルボビン
12 一次コイル
15 絶縁性合成樹脂
16 第1の鉄心
17 第2の鉄心
18 高圧筒
19 一次ソケット
20 収納凹部
21〜25 支持
26 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルボビンに巻回された一次コイル及び二次コイルと、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、これらを収容する絶縁ケースとを備え、前記絶縁ケース内に充填された絶縁性合成樹脂によって前記収容物を固定し、前記一次コイルへの通電、遮断によって生じる磁束密度の変化を利用して二次コイルに高電圧を発生させる内燃機関用点火コイルであって、
前記鉄心は、絶縁ケース内部に収納された一枚の磁性体板から成る第1の鉄心と、絶縁ケース外に配設された第2の鉄心とから構成されたことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
前記第2の鉄心は、平面形状がE型、T型、I型の何れか一つである複数の磁性体板を積層形成し、その一部を前記絶縁ケースの側方から内側に向かって突設された収納凹部に外側から挿着して、前記絶縁ケース内部に収納された第1の鉄心と磁気回路を構成することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
前記第1の鉄心は、板厚が0.5〜2.0mmの磁性体板であり、前記絶縁性合成樹脂は、溶融した熱硬化性樹脂を前記絶縁ケースに真空注型し、熱硬化させて構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項4】
前記収納凹部は、前記絶縁ケースの側面に形成された開口と、絶縁ケース内に収納されたコイルボビンとによって構成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の内燃機関用点火コイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate