説明

内燃機関用点火コイル

【課題】点火コイルが膨張・収縮する際に、二次スプールの突出保持部の基端部に亀裂が生じ難くすることができる内燃機関用点火コイルを提供しようとするものである。
【解決手段】二次スプール3の突出保持部32は、二次スプール3の軸方向一方側に位置する一方側挟持部32Aと、二次スプール3の軸方向他方側に位置する他方側挟持部32Bとからなり、各挟持部32A、32Bの間に二次ターミナル4を挟み込んで保持している。突出保持部32において一方側挟持部32Aの側と他方側挟持部32Bの側とには、二次スプール3の内周側に位置する二次ターミナル4の基端側角部43を開放する開放切欠部33が形成してある。開放切欠部33に熱硬化性樹脂を充填して、熱硬化性樹脂を基端側角部43に接触させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の内燃機関において、燃焼室内にスパークを発生させるために用いる点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いる点火コイルは、一次コイル及び二次コイルを備えており、一次コイルへの通電を遮断したときの磁束の変化によって、二次コイルに高電圧を発生させ、点火プラグからスパークを発生させている。二次コイルの高電圧側巻線端部は、熱可塑性樹脂からなる二次スプールに設けた導体である二次ターミナルに接続し、この二次ターミナルを介してスパークプラグの端子部に導通させている。
二次ターミナルは、二次スプールの外周側に突出させて形成した突出保持部に差し込んで保持している。そして、二次ターミナル、二次スプールを含めた点火コイルの各構成部品は、熱硬化性樹脂によって相互に絶縁固着されている。
【0003】
なお、例えば、特許文献1の内燃機関用点火コイルの1次、2次コイル組立体においては、2次ボビンの巻初め側の鍔の前面に、導電ピンを挟圧支持する支持壁を設け、この支持壁の下端の一部に導電ピンの一部を露出させる切割り部を形成している。また、1次ボビンの前端部に、2次ボビンの巻初め側の鍔の前面に当接するストッパ鍔を設け、このストッパ鍔に導電片を取り付けている。そして、導電片に設けた咬え部を切割り部に突入させて、導電片を導電ピンと導通させ、1次コイルの一端部と2次コイルの巻初め側の端部とを電気的に接続させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−37016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、点火コイルは、その点火動作を受けて内燃機関が燃焼・排気を繰り返す度に加熱・冷却を繰り返し、点火コイルを構成する各部品は膨張・収縮を繰り返す。この際、二次ターミナルを保持する二次スプールの突出保持部の基端部は、二次ターミナルの基端側部分の全体を覆っている。そのため、二次ターミナルを構成する導体の線膨張係数と、二次スプールを構成する熱可塑性樹脂の線膨張係数との違いによって、両者の膨張・収縮の度合いが異なり、突出保持部の基端部に熱応力による亀裂が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、点火コイルが膨張・収縮する際に、二次スプールの突出保持部の基端部に亀裂が生じ難くすることができる内燃機関用点火コイルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一次コイル及び二次コイルを備え、該一次コイル及び二次コイルを熱可塑性樹脂からなるケースに配置し、熱硬化性樹脂によって上記一次コイル及び二次コイルを上記ケースに絶縁固着させてなる内燃機関用点火コイルにおいて、
上記二次コイルは、熱可塑性樹脂からなる二次スプールの外周に巻回してあり、
上記二次スプールの円筒状本体部の外周側に突出させた突出保持部には、上記二次コイルの高電圧側巻線端部を接続する二次ターミナルが設けてあり、
該二次ターミナルは、上記二次スプールの軸方向に板面を向けると共に該二次スプールの接線方向に伸びる長尺形状の平板状導体からなり、
上記突出保持部は、上記二次スプールの軸方向一方側に位置する一方側挟持部と、上記二次スプールの軸方向他方側に位置する他方側挟持部とからなると共に、該各挟持部の間に上記二次ターミナルを挟み込んで保持しており、
上記突出保持部において上記一方側挟持部と上記他方側挟持部との少なくともいずれか一方の側には、上記二次スプールの内周側に位置する上記二次ターミナルの基端側角部を開放する開放切欠部が形成してあり、
該開放切欠部に上記熱硬化性樹脂を充填して、該熱硬化性樹脂を上記基端側角部に接触させたことを特徴とする内燃機関用点火コイルにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の内燃機関用点火コイルにおいては、内燃機関の加熱・冷却サイクルを受けて膨張・収縮を繰り返す際に、二次スプールの突出保持部に、熱応力による亀裂が生じないようにする工夫を行っている。
具体的には、突出保持部は、一方側挟持部と他方側挟持部とを設けて構成しており、突出保持部において一方側挟持部と他方側挟持部との少なくともいずれか一方の側には、二次ターミナルの基端側角部を開放する開放切欠部を形成している。そして、この開放切欠部に点火コイルにおける絶縁固着を行う熱硬化性樹脂を充填し、この熱硬化性樹脂を二次ターミナルの基端側角部に接触させている。
【0009】
二次スプールを構成する熱可塑性樹脂の線膨張係数は、二次ターミナルを構成する導体の線膨張係数よりも大きいのに対し、点火コイルにおける絶縁固着を行う熱硬化性樹脂の線膨張係数は、両者の中間の値を有する。そして、二次ターミナルの基端側角部に開放切欠部に充填した熱硬化性樹脂を接触させたことにより、二次ターミナルの基端側角部に接触する樹脂部分の線膨張係数を、二次ターミナルの線膨張係数に近くすることができる。
それ故、本発明の内燃機関用点火コイルによれば、点火コイルが膨張・収縮する際に、二次スプールの突出保持部の基端部に亀裂が生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1における、点火コイルの断面を正面から見た状態で示す説明図。
【図2】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の点火コイルの断面を軸方向から見た状態で示す説明図。
【図3】実施例1における、点火コイルをエンジンに装着した状態を示す断面説明図。
【図4】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を、軸方向から見た状態で示す説明図。
【図5】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を、プラグホール側から見た状態で示す断面説明図。
【図6】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を示す図で、図4のA−A線矢視断面説明図。
【図7】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を示す図で、図4のB−B線矢視断面説明図。
【図8】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填した後の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を、軸方向から見た状態で示す断面説明図。
【図9】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填した後の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を示す図で、図4のA−A線矢視相当の断面説明図。
【図10】実施例1における、熱硬化性樹脂を充填した後の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を示す図で、図4のB−B線矢視相当の断面説明図。
【図11】従来例における、熱硬化性樹脂を充填した後の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を示す断面説明図。
【図12】実施例2における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を、軸方向から見た状態で示す説明図。
【図13】実施例2における、熱硬化性樹脂を充填した後の状態の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を示す図で、図12のC−C線矢視断面説明図。
【図14】実施例2における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の他の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を、軸方向から見た状態で示す説明図。
【図15】実施例2における、熱硬化性樹脂を充填した後の状態の他の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を示す図で、図14のD−D線矢視断面説明図。
【図16】実施例2における、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の他の突出保持部及び二次ターミナルの周辺を、軸方向から見た状態で示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述した本発明の内燃機関用点火コイルにおける好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記一方側挟持部と上記他方側挟持部とは、上記二次スプールの上記接線方向において交互に上記二次ターミナルに接触しており、上記開放切欠部は、上記突出保持部において上記一方側挟持部と上記他方側挟持部とが形成されていない部分に形成することが好ましい(請求項2)。
この場合には、二次ターミナルにおける両側の基端側角部に対向する開放切欠部において、接触方向に交互に熱硬化性樹脂を充填することができる。そして、二次ターミナルにおける両側の基端側角部に、できるだけ多く熱硬化性樹脂を接触させることができる。そのため、二次スプールの突出保持部の基端部に亀裂がより生じ難くすることができる。
【0012】
また、上記二次ターミナルは、上記二次スプールの接線方向に並ぶ一対の上記一方側挟持部と、該一対の一方側挟持部の間に設けた上記他方側挟持部との間に挟み込んで保持されており、該他方側挟持部には、上記二次ターミナルに設けた貫通穴に配置する突起を形成することが好ましい(請求項3)。
この場合には、二次スプールの突出保持部の簡単な形状により、その基端部に亀裂がより生じ難くすることができる。また、他方側挟持部に形成した突起を二次ターミナルの貫通穴に配置することによって、二次スプールの突出保持部に対する二次ターミナルの位置決め及び抜け止めを行うことができる。
【0013】
また、上記二次スプールの内周側に位置する上記二次ターミナルの基端面の少なくとも一部は、上記二次スプールとの間に隙間を形成しており、該隙間には、上記熱硬化性樹脂が充填されていることが好ましい(請求項4)。
この場合には、二次ターミナルの基端面の少なくとも一部に熱硬化性樹脂を接触させることができ、二次スプールの突出保持部の基端部に亀裂がより生じ難くすることができる。
【0014】
また、上記二次ターミナルは、上記二次スプールの成形後において、上記一方側挟持部と上記他方側挟持部との間に形成された隙間に嵌入して設けることが好ましい(請求項5)。
この場合には、二次スプールに対して二次ターミナルを一体成形(インサート成形)しておらず、二次スプールの成形が容易である。そのため、二次スプールの突出保持部の基端部に亀裂が生じ難い点火コイルを安価に製造することができる。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明の内燃機関用点火コイルに係る実施例につき、図面を参照して説明する。
(実施例1)
本例の内燃機関用点火コイル1は、図1に示すごとく、一次コイル21及び二次コイル22を備え、一次コイル21及び二次コイル22を熱可塑性樹脂からなるケース5に配置し、熱硬化性樹脂6によって一次コイル21及び二次コイル22をケース5に絶縁固着させてなる。
二次コイル22は、熱可塑性樹脂からなる二次スプール3の外周に巻回してある。二次スプール3の円筒状本体部31の外周側に突出させた突出保持部32には、二次コイル22の高電圧側巻線端部221を接続する二次ターミナル4が設けてある。
【0016】
図4〜図7に示すごとく、二次ターミナル4は、二次スプール3の軸方向Lに板面41を向けて、二次スプール3の接線方向Aに伸びる長尺形状の平板状導体からなる。突出保持部32は、二次スプール3の軸方向一方側L1に位置する一方側挟持部32Aと、二次スプール3の軸方向他方側L2に位置する他方側挟持部32Bとからなると共に、各挟持部32A、32Bの間に二次ターミナル4を挟み込んで保持している。
突出保持部32において一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとの少なくともいずれか一方の側には、二次スプール3の内周側に位置する二次ターミナル4の基端側角部43を開放する開放切欠部33が形成してある。そして、本例の点火コイル1は、開放切欠部33に熱硬化性樹脂6を充填して、熱硬化性樹脂6を基端側角部43に接触させている。
【0017】
以下に、本例の内燃機関用点火コイル1につき、図1〜図10を参照して詳説する。
本例において、図1は、点火コイル1の断面を正面から見た状態で示し、図2は、熱硬化性樹脂を充填する前の状態の点火コイル1の断面を軸方向Lから見た状態で示し、図3は、点火コイル1をエンジンに装着した状態を示す。
図4〜図7は、熱硬化性樹脂6を充填する前の状態の突出保持部32及び二次ターミナル4の周辺を示す図であり、図4は軸方向Lから見た状態で示し、図5は下方向(プラグホール側)から見た状態で示し、図6は図4のA−A線矢視断面を示し、図7は図4のB−B線矢視断面を示す。また、図8〜図10は、熱硬化性樹脂6を充填した後の状態の突出保持部32及び二次ターミナル4の周辺を示す図であり、図8は軸方向Lから見た状態で示し、図9は図4のA−A線矢視相当の断面を示し、図10は図4のB−B線矢視相当の断面を示す。
【0018】
図3に示すごとく、本例の点火コイル1は、内燃機関としてのエンジンに用いるものであり、エンジン(シリンダヘッド81及びシリンダヘッドカバー82)のプラグホール83の外部に横置き状態(プラグホール83の軸方向に対して一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lを直交させた状態)で配置して用いるものである。本例の点火コイル1は、エンジンのプラグホール83内に配置したスパークプラグ7に装着すると共に、一次コイル21、二次コイル22、中心コア23、外周コア24等を配置したコイル本体部をプラグホール83の外部に横置き状態で配置して使用される。
【0019】
図1、図2に示すごとく、点火コイル1は、一次コイル21及び二次コイル22の内周側に、軟磁性材料からなる中心コア23を配置し、一次コイル21及び二次コイル22の外周側に、軟磁性材料からなる外周コア24を配置してなる。
一次コイル21と二次コイル22とは、同一軸心状に内外周に重ねて配置されている。一次コイル21は、中心コア23の外周に一次電線を直接巻回して形成してあり、二次コイル22は、一次コイル21の外周側において、樹脂製の二次スプール3に一次電線よりも細い二次電線を、一次電線よりも多い巻回数で巻回して形成してある。
【0020】
図1〜図3に示すごとく、本例の突出保持部32は、二次スプール3の軸方向一方側L1の端部近傍において、エンジンのプラグホール83に配置される高電圧タワー部51の突出側に向けて突出形成してある。高電圧タワー部51は、ケース5の一部を突出させて形成してあり、スパークプラグ7に接触させる高電圧端子25を内部に配置すると共にゴム製のプラグキャップ11を外装する部分である。プラグキャップ11内には、高電圧端子25に導通されるコイルスプリング12が配置されている。点火コイル1は、コイルスプリング12にスパークプラグ7の端子部72を接触させると共に、プラグキャップ11内にスパークプラグ7の碍子部71を圧入して、シリンダヘッド81に螺合したスパークプラグ7に装着される。
【0021】
本例の点火コイル1は、電子部品を樹脂によってモールド成形してなるイグナイタ26を内蔵しており、イグナイタ26は、ECU(エンジン制御ユニット)等の外部機器からの指令を受けて、一次コイル21への通電とその遮断とのスイッチングを行うスイッチング制御回路を備えている。
【0022】
図4に示すごとく、平板状導体からなる二次ターミナル4は、突出保持部32に保持される被保持部45と、この被保持部45から屈曲して一次コイル21及び二次コイル22の軸方向Lに形成した延設部46とを有している。二次ターミナル4の被保持部45は、二次スプール3の軸方向Lに板面41を向けて、二次スプール3の接線方向Aに長い長尺形状に形成されている。
二次ターミナル4の被保持部45の長尺方向に延長形成された部分には、巻線巻付部451が形成してあり、この巻線巻付部451には、二次コイル22の高電圧側巻線端部221が巻き付けて接合してある。
【0023】
図5に示すごとく、本例の突出保持部32においては、一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとは、二次スプール3の接線方向Aにおいて交互に二次ターミナル4に接触している。具体的には、突出保持部32の軸方向一方側L1においては、接線方向Aに並んで一対の一方側挟持部32Aが円筒状本体部31の外周側へ突出形成されており、突出保持部32の軸方向他方側L2においては、一対の一方側挟持部32Aの中間位置に他方側挟持部32Bが円筒状本体部31の外周側へ突出形成されている。本例の一対の一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとは、軸方向Lに互いに重ならない位置に形成されている。そして、二次ターミナル4の被保持部45は、一対の一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとの間に挟み込んで保持されている。
【0024】
図4〜図7に示すごとく、本例の開放切欠部33は、突出保持部32において、一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとが形成されていない部分に形成されている。また、二次スプール3の内周側に位置する二次ターミナル4の被保持部45における基端面42は、二次スプール3との間に隙間Sを形成している。
図8〜図9に示すごとく、この隙間S及び開放切欠部33には、熱硬化性樹脂6が充填されており、二次ターミナル4の被保持部45における基端面42には、熱硬化性樹脂6が接触している。
【0025】
また、他方側挟持部32Bには、二次ターミナル4に設けた貫通穴452に配置する突起321が形成してある。この突起321は、一方側挟持部32Aの方向に突出して形成されており、突起321の外周側角部322は、一対の一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとの間に二次ターミナル4を挿入する際のガイドを形成するためのテーパ面状に形成されている(図6参照)。
二次ターミナル4の被保持部45は、一対の一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとに挟持される中間部分の径方向幅が残りの部分に比べて広くなっている。
【0026】
図4、図5に示すごとく、突出保持部32の軸方向他方側L2には、一対の一方側挟持部32Aに対向する位置に、二次ターミナル4の被保持部45の中間部分の両側に二次ターミナル4の内周側から接触する受け部34が形成されている。そして、二次ターミナル4は、他方側挟持部32Bにおける突起321と一対の受け部34とに係合して、二次スプール3の径方向及び接線方向Aへの位置決めがなされると共に、二次スプール3に対する抜け止めがなされている。
【0027】
二次ターミナル4は、二次スプール3と一体成形(インサート成形)されておらず、二次スプール3の成形後において、一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとの間に形成された隙間Sに嵌入して設けてある。
二次スプール3は二次ターミナル4よりも線膨張係数が大きく、熱硬化性樹脂6は二次スプール3と二次ターミナル4との間の線膨張係数を有している。具体的には、二次ターミナル4を構成する平板状導体であるりん青銅の線膨張係数は、20×10-6(1/K)であり、二次スプール3を構成する熱可塑性樹脂であるPBT(ポリブチレンテレフタレート)の線膨張係数は、40×10-6(1/K)であり、熱硬化性樹脂6であるエポキシ樹脂の線膨張係数は、22×10-6(1/K)である。
【0028】
本例の点火コイル1において、ECUからの指令を受けてイグナイタ26のスイッチング制御回路の動作により一次コイル21へ通電を行ったときには、中心コア23及び外周コア24を通過する磁界が形成される。次いで、一次コイル21への通電を遮断したときには、相互誘導作用により二次コイル22に高電圧の誘導起電力が発生し、点火コイル1に装着されたスパークプラグ7における一対の電極73間にスパークを発生させることができる(図3参照)。
【0029】
次に、本例の内燃機関用点火コイル1による作用効果につき説明する。
点火コイル1は、その点火動作を受けてエンジンが燃焼・排気を繰り返す度に加熱・冷却を繰り返し、点火コイル1を構成する各構成部品は膨張・収縮を繰り返す。
この際、従来の構成として、図11に示すごとく、二次ターミナル4を保持する二次スプール93の突出保持部931の基端部が、二次ターミナル4の基端側部分の全体を覆っている場合には、二次ターミナル4を構成する導体の線膨張係数と、二次スプール3を構成する熱可塑性樹脂の線膨張係数との違いによって、両者の膨張・収縮の度合いが異なり、突出保持部931の基端部に熱応力による亀裂Xが生じるおそれがある。
【0030】
これに対し、本例の点火コイル1においては、突出保持部32は、一対の一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとを設けて構成しており、突出保持部32において一方側挟持部32Aの側と他方側挟持部32Bの側とには、二次ターミナル4の基端側角部43を開放する開放切欠部33が形成されている。また、二次ターミナル4の被保持部45における基端面42と二次スプール3との間には隙間Sが形成されている。そして、この開放切欠部33及び隙間Sに点火コイル1における絶縁固着を行う熱硬化性樹脂6を充填し、この熱硬化性樹脂6を二次ターミナル4の基端側角部43及び基端面42に接触させている。
【0031】
二次スプール3を構成する熱可塑性樹脂の線膨張係数は、二次ターミナル4を構成する導体の線膨張係数よりも大きいのに対し、点火コイル1における絶縁固着を行う熱硬化性樹脂6の線膨張係数は、両者の中間の値を有する。そして、二次ターミナル4の基端側角部43及び基端面42に、開放切欠部33及び隙間Sに充填した熱硬化性樹脂6を接触させたことにより、二次ターミナル4の基端側角部43及び基端面42に接触する樹脂部分の線膨張係数を、二次ターミナル4の線膨張係数に近くすることができる。
それ故、本例の内燃機関用点火コイル1によれば、点火コイル1が膨張・収縮する際に、二次スプール3の突出保持部32の基端部に亀裂が生じ難くすることができる。
【0032】
(実施例2)
本例は、上記突出保持部32に開放切欠部33を形成する他の種々のバリエーションについて示す例である。
開放切欠部33の他のバリエーションの1つとして、図11、図12に示すごとく、開口穴状の開放切欠部33を、突出保持部32の一方側挟持部32Aにおいて二次ターミナル4の基端側部分に対向する位置に形成することができる。この場合、他方側挟持部32Bの全体は、二次ターミナル4の板面41に接触しており、二次ターミナル4の基端面42は、一方側挟持部32Aと他方側挟持部32Bとの間において二次スプール3の内周側に形成された底面35に当接している。この場合にも、開口穴状の開放切欠部33に熱硬化性樹脂6を充填し、この熱硬化性樹脂6を二次ターミナル4の基端側角部43に接触させることができる。そのため、二次スプール3の突出保持部32の基端部に亀裂が生じ難くすることができる。
【0033】
また、開放切欠部33の他のバリエーションの1つとして、図13、図14に示すごとく、開放切欠部33を、突出保持部32の一方側挟持部32Aにおける接線方向Aの中間部位に形成することもできる。この場合、他方側挟持部32Bの全体は、二次ターミナル4の板面41に接触しており、二次ターミナル4の基端面42は、二次スプール3の底面35に当接している。この場合にも、開放切欠部33に熱硬化性樹脂6を充填し、この熱硬化性樹脂6を二次ターミナル4の基端側角部43に接触させることができる。そのため、二次スプール3の突出保持部32の基端部に亀裂が生じ難くすることができる。
【0034】
また、開放切欠部33の他のバリエーションの1つとして、図15に示すごとく、開放切欠部33を、突出保持部32の一方側挟持部32Aにおける接線方向Aの両側部位に形成することもできる。この場合、他方側挟持部32Bの全体は、二次ターミナル4の板面41に接触しており、二次ターミナル4の基端面42は、二次スプール3の底面35に当接している。この場合にも、開放切欠部33に熱硬化性樹脂6を充填し、この熱硬化性樹脂6を二次ターミナル4の基端側角部43に接触させることができる。そのため、二次スプール3の突出保持部32の基端部に亀裂が生じ難くすることができる。
本例においても、その他の構成は上記実施例1と同様であり、上記実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 内燃機関用点火コイル
21 一次コイル
22 二次コイル
3 二次スプール
31 円筒状本体部
32 突出保持部
32A 一方側挟持部
321 突起
32B 他方側挟持部
33 開放切欠部
4 二次ターミナル
41 板面
42 基端面
43 基端側角部
5 ケース
6 熱硬化性樹脂
L 軸方向
L1 軸方向一方側
L2 軸方向他方側
A 接線方向
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイル及び二次コイルを備え、該一次コイル及び二次コイルを熱可塑性樹脂からなるケースに配置し、熱硬化性樹脂によって上記一次コイル及び二次コイルを上記ケースに絶縁固着させてなる内燃機関用点火コイルにおいて、
上記二次コイルは、熱可塑性樹脂からなる二次スプールの外周に巻回してあり、
上記二次スプールの円筒状本体部の外周側に突出させた突出保持部には、上記二次コイルの高電圧側巻線端部を接続する二次ターミナルが設けてあり、
該二次ターミナルは、上記二次スプールの軸方向に板面を向けると共に該二次スプールの接線方向に伸びる長尺形状の平板状導体からなり、
上記突出保持部は、上記二次スプールの軸方向一方側に位置する一方側挟持部と、上記二次スプールの軸方向他方側に位置する他方側挟持部とからなると共に、該各挟持部の間に上記二次ターミナルを挟み込んで保持しており、
上記突出保持部において上記一方側挟持部と上記他方側挟持部との少なくともいずれか一方の側には、上記二次スプールの内周側に位置する上記二次ターミナルの基端側角部を開放する開放切欠部が形成してあり、
該開放切欠部に上記熱硬化性樹脂を充填して、該熱硬化性樹脂を上記基端側角部に接触させたことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用点火コイルおいて、上記一方側挟持部と上記他方側挟持部とは、上記二次スプールの接線方向において交互に上記二次ターミナルに接触しており、
上記開放切欠部は、上記突出保持部において上記一方側挟持部と上記他方側挟持部とが形成されていない部分に形成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関用点火コイルおいて、上記二次ターミナルは、上記二次スプールの接線方向に並ぶ一対の上記一方側挟持部と、該一対の一方側挟持部の間に設けた上記他方側挟持部との間に挟み込んで保持されており、
該他方側挟持部には、上記二次ターミナルに設けた貫通穴に配置する突起が形成してあることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関用点火コイルおいて、上記二次スプールの内周側に位置する上記二次ターミナルの基端面の少なくとも一部は、上記二次スプールとの間に隙間を形成しており、
該隙間には、上記熱硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用点火コイルおいて、上記二次ターミナルは、上記二次スプールの成形後において、上記一方側挟持部と上記他方側挟持部との間に形成された隙間に嵌入して設けたことを特徴とする内燃機関用点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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